説明

金属粉末製造用プラズマ装置

【課題】冷却管を有する金属粉末製造用のプラズマ装置において、冷却管の内壁に付着・堆積した付着物を容易に除去することができ、より生産効率の良いプラズマ装置を提供する。
【解決手段】金属原料が供給される反応容器2と、反応容器2内の金属原料との間でプラズマを生成し、金属原料を蒸発させて金属蒸気を生成するプラズマトーチ4と、金属蒸気を搬送するためのキャリアガスを反応容器2内に供給するキャリアガス供給部10と、反応容器2からキャリアガスによって移送される金属蒸気を冷却して金属粉末を生成する冷却管3を備える金属粉末製造用プラズマ装置1であって、冷却管3をその長手方向下流側が上方にあるように水平方向に対し10〜80°傾けて反応容器2に設置すると共に、冷却管3の内壁に付着した付着物を除去するスクレーパー20を、冷却管3の長手方向下流端から冷却管3内に嵌挿した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属粉末を製造するプラズマ装置に関し、特に管状の冷却管を備え、溶融・蒸発させた金属蒸気を当該冷却管で冷却することにより金属粉末を製造するプラズマ装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
電子回路や配線基板、抵抗、コンデンサ、ICパッケージ等の電子部品の製造において、導体被膜や電極を形成するために導電性の金属粉末が用いられている。このような金属粉末に求められる特性や性状としては、不純物が少ないこと、平均粒径が0.01〜10μm程度の微細な粉末であること、粒子形状や粒径がそろっていること、凝集が少ないこと、ペースト中での分散性が良いこと、結晶性が良好であることなどが挙げられる。
近年、電子部品や配線基板の小型化に伴い、導体被膜や電極の薄層化やファインピッチ化が進んでいることから、さらに微細で球状かつ高結晶性の金属粉末が要望されている。
【0003】
このような微細な金属粉末を製造する方法の一つとして、プラズマを利用し、反応容器内において金属原料を溶融・蒸発させた後、金属蒸気を冷却し、凝結させて金属粉末を得るプラズマ装置が知られている(特許文献1、2参照)。これらのプラズマ装置では、金属蒸気を気相中で凝結させるため、不純物が少なく、微細で球状かつ結晶性の高い金属粒子を製造することが可能である。
これらのプラズマ装置は共に長い管状の冷却管を備え、金属蒸気を含むキャリアガスに対して複数段階の冷却を行っている。例えば特許文献1では、前記キャリアガスに、予め加熱したホットガスを直接混合することによって冷却を行う第1冷却部と、その後、常温の冷却ガスを直接混合することにより冷却を行う第2の冷却部とを備えている。
また、特許文献2のプラズマ装置では、管状体の周囲に冷却用の流体を循環させることにより、当該流体を前記キャリアガスに直接接触させることなく、キャリアガスを冷却する間接冷却区画(第1の冷却部)と、その後、キャリアガスに冷却用流体を直接混合することによって冷却を行う直接冷却区画(第2の冷却部)を備えている。
特に後者の場合、間接冷却区画におけるキャリアガスの流れに乱れが生じにくいため、安定的に核の生成、成長及び結晶化を行うことができ、制御された粒径と粒度分布を備えた金属粉末を得ることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】米国特許出願公開2007/0221635号明細書
【特許文献2】特許3541939号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、これらの文献に記載されたプラズマ装置では、冷却管内で金属蒸気が凝結する際、その一部が冷却管の内壁に付着することが避けられなかった。当該付着物は徐々に堆積し、次第に冷却管内のキャリアガスの流れを妨げたり、場合によっては冷却管を閉塞するといった問題を生じることになる。
特に、特許文献2記載のプラズマ装置は、冷却管内の全域にわたって冷却用流体を噴出する機構を備える特許文献1の装置と比べ、その冷却管の上流側(第1の冷却部側)の内壁に付着物が、より付着しやすいという問題がある。
従来、このような付着物を除去するために、定期的及び/又は不定期的にプラズマ装置の稼働を停止し、装置が十分冷めてから冷却管を分解し、管内の付着物を除去しなければならなかった。
ところで、これらのプラズマ装置は、プラズマを発生させた後も、金属蒸気を安定して生成できるようになるまでに相当の時間を要する。そのため、付着物を除去するためには、プラズマ装置を停止させてから冷却管を分解するまでに要する時間と、実際の付着物の除去作業に要する時間に加え、装置の稼働を再開した後、金属蒸気が安定生成されるまでに要する時間が必要であり、金属粉末の生産効率という観点で問題であった。
本発明は、これらの問題を解決し、冷却管を有する金属粉末製造用のプラズマ装置において、冷却管の内壁に付着・堆積した付着物を容易に除去することができ、より生産効率の良いプラズマ装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明のプラズマ装置は、金属原料が供給される反応容器と、前記反応容器内の金属原料との間でプラズマを生成し、前記金属原料を蒸発させて金属蒸気を生成するプラズマトーチと、前記金属蒸気を搬送するためのキャリアガスを前記反応容器内に供給するキャリアガス供給部と、前記反応容器から前記キャリアガスによって移送される前記金属蒸気を冷却して金属粉末を生成する冷却管を備える金属粉末製造用プラズマ装置であって、
前記冷却管をその長手方向下流側が上方にあるように水平方向に対し10〜80°傾けて前記反応容器に設置すると共に、前記冷却管の内壁に付着した付着物を除去するスクレーパーを、前記冷却管の長手方向下流端から前記冷却管内に嵌挿したことを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
本発明のプラズマ装置は、冷却管がその長手方向下流側が上方にあるように水平方向に対して傾いて反応容器に設置され、尚かつ、冷却管内壁に付着・堆積した付着物を掻き落とすスクレーパーが、冷却管の下流端から冷却管内に嵌挿されているため、当該スクレーパーを冷却管内で往復動及び/又は駆動させることにより、装置の稼働を停止することなく付着物を除去できるだけでなく、掻き落とされた付着物の回収・排出も容易に行うことができ、金属粉末の生産効率を飛躍的に向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】第1の実施形態によるプラズマ装置を示す図である。
【図2】第1の実施形態によるスクレーパーを示す図である。
【図3】第2の実施形態によるプラズマ装置を示す図である。
【図4】第2の実施形態によるスクレーパーを示す図である。
【図5】第3の実施形態によるプラズマ装置を示す図である。
【図6】第3の実施形態によるスクレーパーを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、具体的な実施形態に基づきながら本発明を説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
〔第1の実施形態〕
図1は、前記特許文献2と同様の移行型アークプラズマ装置に本発明を適用した第1の実施形態を示しており、反応容器2の内部で金属原料を溶融・蒸発させ、生成された金属蒸気を冷却管3内で冷却して凝結させることにより金属粒子を生成する。
なお、以下の説明において、上流側や下流側とは、図1中の矢印で示した冷却管3の長手方向における向きを言い、上方や下方とは、図1中の矢印で示した鉛直方向における上下方向を言う。
【0010】
なお、本発明において金属原料としては、目的とする金属粉末の金属成分を含有する導電性の物質であれば特に制限はなく、純金属の他、2種以上の金属成分を含む合金や複合物、混合物、化合物等を使用することができる。金属成分の一例としては、銀、金、カドミウム、コバルト、銅、鉄、ニッケル、パラジウム、白金、ロジウム、ルテニウム、タンタル、チタン、タングステン、ジルコニウム、モリブデン、ニオブ等を挙げることができる。特に制限はないが、取扱い易さから、金属原料としては数mm〜数十mm程度の大きさの粒状や塊状の金属材料又は合金材料を使用することが好ましい。
【0011】
以下においては理解容易のため、金属粉末としてニッケル粉末を製造し、金属原料として金属ニッケルを用いる例で説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
金属ニッケルは、予め、装置の稼働を開始する前に、反応容器2内に所定量を準備しておき、装置の稼働開始後は、金属蒸気となって反応容器2内から減少した量に応じて、随時、フィードポート9から反応容器2内に補充される。そのため本発明のプラズマ装置1は、長時間連続して金属粉末を製造することが可能である。
【0012】
反応容器2の上方にはプラズマトーチ4が配置され、図示しない供給管を介してプラズマトーチ4にプラズマ生成ガスが供給される。プラズマトーチ4は、カソード6を陰極、プラズマトーチ4の内部に設けられた図示しないアノードを陽極としてプラズマ7を発生させた後、陽極をアノード5に移行することにより、カソード6とアノード5との間でプラズマ7を生成し、当該プラズマ7の熱により反応容器2内の金属ニッケルの少なくとも一部を溶融させ、ニッケルの溶湯8を生成する。さらにプラズマトーチ4は、プラズマ7の熱により、溶湯8の一部を蒸発させ、ニッケル蒸気(本発明の金属蒸気に相当する)を発生させる。
【0013】
キャリアガス供給部10は、ニッケル蒸気を搬送するためのキャリアガスを反応容器2内に供給する。キャリアガスとしては、製造する金属粉末が貴金属の場合は特に制限はなく、空気、酸素、水蒸気等の酸化性ガスや、窒素、アルゴン等の不活性ガス、これらの混合ガス等を使用することができ、酸化しやすいニッケル、銅等の卑金属を製造する場合は不活性ガスを用いることが好ましい。特に断らない限り、以下の説明においては、キャリアガスとして窒素ガスを使用する。
なお、キャリアガスには、必要に応じて水素、一酸化炭素、メタン、アンモニアガスなどの還元性ガスや、アルコール類、カルボン酸類などの有機化合物を混合してもよく、その他、金属粉末の性状や特性を改善・調整するために、酸素や、その他、リンや硫黄等の成分を含有させても良い。なお、プラズマの生成に使用されたプラズマ生成ガスも、キャリアガスの一部として機能する。
【0014】
反応容器2と、冷却管3の上流端(図1中に図示される冷却管上流側の端部近傍)との間には、冷却管3の内径よりも径の小さい導入口11が設けられており、反応容器2と冷却管3とは導入口11を介して連通している。従って、反応容器2内で発生したニッケル蒸気を含むキャリアガスは、導入口11を通って冷却管3に移送される。
冷却管3は、キャリアガスに含まれるニッケル蒸気及び/又はニッケル粉末を間接的に冷却する間接冷却区画ICと、キャリアガスに含まれるニッケル蒸気及び/又はニッケル粉末を直接的に冷却する直接冷却区画DCを備える。なお、後述するように、冷却管3は更に待機用区画ACを備えるものであっても良い。
間接冷却区画ICでは、冷却用流体や外部ヒータ等を用いて、冷却管3の周囲を冷却又は加熱し、間接冷却区画ICの温度を制御することによって冷却を行う。冷却用流体としては、前述したキャリアガスやその他の気体を用いることができ、また水、温水、メタノール、エタノール或いはこれらの混合物等の液体を用いることもできる。但し、冷却効率やコスト的な観点からは、冷却用流体には水又は温水を用い、これを冷却管3の周囲を循環させて冷却管3を冷却することが望ましい。
間接冷却区画ICにおいては、高温のまま冷却管3内に移送されるキャリアガス中のニッケル蒸気は輻射により比較的緩やかな速度で冷却され、安定的且つ均一的に温度制御された雰囲気中で核の生成、成長、結晶化が進行することで、キャリアガス中に粒径の揃ったニッケル粉末が生成される。
【0015】
直接冷却区画DCでは、間接冷却区画ICから移送されてきたニッケル蒸気及び/又はニッケル粉末に対し、図示しない冷却流体供給部から供給される冷却用流体を噴出又は混合して、直接冷却を行う。なお、直接冷却区画DCで使用する冷却用流体は、間接冷却区画ICで使用した冷却用流体と同じものでも異なるものでも良いが、取扱いのし易さやコスト的な観点から、前記キャリアガスと同じ気体(以下の実施形態においては窒素ガス)を使用することが好ましい。
気体を使用する場合、前述したキャリアガスと同様に、必要に応じて還元性ガスや有機化合物、酸素、リン、硫黄等の成分を混合して用いても良い。また、冷却用流体が液体を含む場合は、当該液体は噴霧された状態で冷却管3内へ導入される。
【0016】
間接冷却区画IC内のキャリアガス中には、ニッケル蒸気とニッケル粉末が混在しているが、その上流側に比べ、下流側のニッケル蒸気の比率は低くなる。また、装置によっては、直接冷却区画DC内のキャリアガス中においても、ニッケル蒸気とニッケル粉末は混在し得る。但し、上述したように、核の生成、成長、結晶化は間接冷却区画IC内で進行し、完了していることが好ましく、よって直接冷却区画DC内のキャリアガス中にはニッケル蒸気が含まれないことが好ましい。
【0017】
プラズマ装置1の稼働中、上述した冷却管3において、キャリアガス中のニッケル粉末の一部やニッケル蒸気からの析出物が徐々に冷却管3の内壁に付着し、場合によっては酸化物やその他の化合物となって堆積する。これらのニッケル蒸気由来の付着物の堆積が更に増えると、冷却管3の内径を狭めたり、キャリアガスの流れを乱す原因となり、ニッケル粉末の粒径や粒度分布の制御に悪影響を与える他、場合によっては冷却管3内を閉塞させることもある。特に、間接冷却区画ICを有する冷却管3の上流側において、付着物が多くなる傾向が見られる。
後述する理由から、本発明においては、冷却管3の下流端若しくはその近傍に、金属粉末を搬送するキャリアガスの搬送方向を、冷却管3の長手方向と異なる方向へ誘導する誘導管を備えることが好ましい。
第1の実施形態における誘導管13は、キャリアガスを冷却管3の長手方向に対してほぼ直交する方向に誘導している。誘導管13によって誘導されたキャリアガスは、図示しない捕集器へと搬送され、当該捕集器において金属粉末とキャリアガスとに分離され、金属粉末が回収される。なお、捕集器で分離されたキャリアガスは、キャリアガス供給部10で再利用するように構成しても良い。
ここで誘導管13内又はその近傍に、誘導方向に向けてガスを噴出する誘導ガス噴出部を設けても良い。誘導ガスにより、キャリアガスの搬送方向の転換をスムーズに行うことができる。誘導ガスとしては、窒素ガス等、前記キャリアガスと同様のものを用いることができる。
【0018】
本発明は、冷却管3内に付着した付着物を除去するためスクレーパーを有し、これを前述した冷却管の下流端から嵌挿したことを特徴の一つとする。
第1の実施形態におけるスクレーパー20は、図2に示すように、棒状のシャフト21の一端に、付着物を掻き落とすためのスクレーパーヘッド22を備えた形状であり、スクレーパー20の全長は、冷却管3の長手方向の長さよりも長いことが好ましい。スクレーパー20の内、スクレーパーヘッド22は冷却管3内に、また、シャフト21は冷却管3の下流端に設けられた挿入口31に嵌挿され、少なくともその一部が冷却管3外に配置されている。
【0019】
従来の冷却管を備えるプラズマ装置においては、捕集器が管状の冷却管の延長上に設けられることが多く、上述した形状のスクレーパー20を配置すること自体が難しかったが、誘導管13を備えることにより、冷却管3の延長上に空間を形成することができるようになり、スクレーパー20を配置することが容易になり好ましい。但し、装置が複雑化することを厭わなければ、誘導管を具えることなくスクレーパー20を配置することも可能であり、本発明において誘導管は必ずしも必須の構成ではない。
【0020】
シャフト21は挿入口3に嵌挿された状態で取り付けられているため、シャフト21は冷却管3の長手方向の往復動が自在であると同時に、シャフト21の軸を中心とした軸周り方向の回動も自在である。
なお、スクレーパーヘッド22の径方向(シャフト21に対して直交する方向)の最大長さは、冷却管3内の最小内径よりも小さく設定される。
【0021】
上述のように構成された第1の実施形態において、定期或いは不定期に付着物を除去する時には、冷却管3外のシャフト21を操作して、シャフト21を冷却管3の長手方向に往復動させると共に、軸周り方向に回動させる。この際のシャフト21の操作は、人の手によるものでも構わないし、モーター等の駆動機構によるものでも構わない。そしてスクレーパーヘッド22が冷却管3内壁の付着物に対して物理的な力を加えることにより、付着物を効果的に掻き落とすことができる。
【0022】
図2(A)〜(C)は第1の実施形態のスクレーパーヘッド22の詳細であり、図2(B)は図2(A)のII-II線から見た矢視図であり、図2(C)は図2(B)のIIA-IIA’線から見た矢視図である。
図示されるように、スクレーパーヘッド22は、第1スクレーパーヘッド22a、第2スクレーパーヘッド22b、突出爪27を有し、第1スクレーパーヘッド22aと第2スクレーパーヘッド22bは、いずれも3本の輻を有するリング形状を呈している。
また、第1スクレーパーヘッド22a、第2スクレーパーヘッド22bはそれぞれ歯角の異なる鋸歯形状の爪部23a及び23bを具備している。このため、スクレーパーヘッド22を冷却管3の上流側に移動させると、先ず第1スクレーパーヘッド22aの爪部23aによって冷却管3の内壁の付着物が大まかに掻き落され、次いで第2スクレーパーヘッド22aの爪部23bによって、残留している付着物が掻き落とされる。
更に、導入口11に対峙するスクレーパーヘッド22上の位置には、突出爪27が設けられているため、必要に応じてスクレーパーヘッド22を冷却管3の上流端で回動及び/又は往復動させることにより、導入口11並びにその周囲に付着した付着物を除去することもできる。
【0023】
スクレーパー20の材質は耐熱性を備えるものであれば良く、例えばSUSやインコネル等で形成されることが好ましい。また、シャフト21とスクレーパーヘッド22は一体成型されたものでも良いし、別体を接合したものでも良い。また、シャフト21とスクレーパーヘッド22は、一体的に動作可能であれば必ずしも固定されている必要はなく、例えばバネ等の弾性体を含むダンパー機構を介して接続されても良い。
【0024】
付着物の除去作業を行っていない時、例えば金属粉末の製造時には、スクレーパーヘッド22を冷却管3の下流側で待機させることが望ましい。
スクレーパーヘッド22の待機位置は、金属粉末の成長がほぼ終了している間接冷却区画IC(第1冷却部)より下流側であれば良く、より好ましくは下流端近傍である。スクレーパーヘッド22の待機位置を、直接冷却区画DC以降の下流側とすることにより、スクレーパーヘッド22への付着物の付着を抑制でき、また、スクレーパーヘッド22によってキャリアガスに乱流が生じ、金属粉末の粒径や粒度分布に悪影響を与えるリスクを低減することができる。
【0025】
第1の実施形態においては、冷却管3に待機用区画ACを設け、除去作業時以外はスクレーパーヘッド22を待機用区画ACに待機させている。
但し、待機用区画ACは必ずしも設ける必要はなく、後述するように直接冷却区画DCで待機させても良い。また、スクレーパーヘッド22を、付着物が付着しにくい材質や形状の部材で構成したり、キャリアガスの乱流を生じ難い形状とした場合には、更に上流側でスクレーパーヘッド22を待機させることも可能である。
【0026】
本発明のプラズマ装置1は、冷却管3を、その下流側が上方にあるように水平方向に対して10〜80°の範囲で傾けたことを特徴の一つとする。
従来の冷却管を備えるプラズマ装置においては、冷却管を水平方向か鉛直方向に向けて設置する場合が多かったが、冷却管を水平方向に設置した場合には、スクレーパー20で掻き落とした付着物が冷却管内に溜まってしまうため、溜まった付着物を回収する機構を新たに設ける必要が出てくる。
冷却管を鉛直方向に設置した場合には、掻き落とした付着物が冷却管内に溜まることはないが、鉛直方向下向き(冷却管の下流側が下方)の冷却管の場合は、掻き落とした付着物が目的物たる金属粉末中に混入して金属粉末の品質を低下させる恐れが生じる。また、鉛直方向上向き(冷却管の下流側が上方)の冷却管の場合は、掻き落とした付着物が反応容器内に逆戻りし、溶湯の温度を低下させたり、不純物濃度が高くなるといった恐れが生じる。
本発明は、上述したスクレーパー20を備えると同時に、冷却管3を水平方向に対して10〜80°の範囲で傾けて設置したことにより、特に回収機構を新たに設けることなく、スクレーパー20で掻き落した付着物を冷却管3の上流側に集めることができる。より好ましい傾斜角度は30〜60°である。
図1に示されている第1の実施形態の冷却管3は、その下流側が上方にあるように水平方向に対して45°傾けて設置されている。
スクレーパー20によって掻き落とされた付着物は、特段の回収機構を具備しないにも関わらず、スクレーパー20の往復動と重力だけで冷却管3の上流側に集められる。
【0027】
なお、第1の実施形態においては、反応容器2と冷却管3とは、冷却管3の内径よりも径の小さい導入口11を介して連通しているため、集められた付着物が反応容器2内には逆戻りしにくくなっている。このように、本発明においては、冷却管3の上流端が冷却管3の内径より径の小さい導入口11を介して反応容器1と連通していることが好ましい。
【0028】
更に、第1の実施形態においては、冷却管3の上流側に、付着物を冷却管3外へと排出する開口部32を備えている。冷却流体供給部(図示せず)を有する直接冷却区画DCに開口部32を設けると、冷却流体供給部の構成が複雑化するため、開口部32は間接冷却区画ICに設けることが好ましい。
開口部32には、冷却管3の内壁と段差が生じないように形成された開閉扉33が設けられており、付着物の除去作業時のみ開放される。これにより、通常の金属粉末の製造時において、キャリアガスに乱流が発生することを極力抑えることができる。
連結部34は、開閉扉33を囲むように設けられており、連結部34に対して装脱着可能な回収容器35が取り付けられる。付着物の除去作業時には開閉扉33が開放され、付着物は開口部32から冷却管3外へ排出され、回収容器35によって回収される。
【0029】
〔第2の実施形態〕
図3及び図4は、第2の実施形態を示すものであり、図中、第1の実施形態と同様の部位には第1の実施形態と同じ符号を付し、以下説明を割愛する。
第2の実施形態においてプラズマ装置101の冷却管103は、その下流側が上方にあるように水平方向に対して70°傾いて設置されている。また、開閉扉133は冷却管103の外壁に沿って摺動する引き戸型である。
【0030】
図3(B)は図3(A)のIII-III線から見た矢視図であり、同図に示されるように、第2の実施形態においては、湾曲した誘導管113が冷却管103の下流端面に連結していることにより、金属粉末を含むキャリアガスの搬送方向を冷却管103の長手方向と異なる方向へ誘導している。
【0031】
図4(A)〜(E)は第2の実施形態のスクレーパーヘッド122の詳細図であり、図4(B)は図4(A)のIV-IV線から見た矢視図であり、図4(C)は図4(B)のIVA-IVA’ 線から見た矢視図であり、図4(D)及び図4(E)は図4(B)のIVB-IVB’ 線から見た矢視図である。
図4(A)に示されるように、第2の実施形態におけるスクレーパー120の一端部近傍には、人手によるシャフト121の操作を容易にするためのハンドル128が備えられている。
また、図4(B)〜図4(E)に示されるように、スクレーパーヘッド122は、シャフト121を中心に放射状に伸びた4本の輻と、突出長の異なる2つの爪部125、126と、リング状の爪部124とからなる形状を呈し、スクレーパーヘッド122の外径は、冷却管103の内径よりも僅かに小さく形成されている。
また、図3(A)に示されるように、冷却管103の下流端には、スクレーパー120が往復動する際の動きをガイドするシャフトガイド140を備え、本実施形態においてスクレーパー120は、シャフトガイド140の挿入孔131に嵌挿されている。
【0032】
第2の実施形態において付着物を除去する際は、人手でハンドル128を操作し、スクレーパー120を回動及び/又は往復動させる。
なお、スクレーパーヘッド122は3種類の爪部を有しているため、スクレーパーヘッド122が冷却管103の上流側に向けて移動する際には、先ず、最も突出している第1突出爪125によって付着物が大まかに掻き落され、次いで、第2突出爪126とリング状爪部124によって残留する付着物を満遍なく掻き落すことができ、比較的小さな力で効率良く付着物を除去することができる。
【0033】
〔第3の実施形態〕
図5及び図6は、第3の実施形態を示すものであり、図中、第1〜2の実施形態と同様の部位には第1〜2の実施形態と同じ符号を付し、以下説明を割愛する。
第3の実施形態においてプラズマ装置201の冷却管203は、その下流側が上方にあるように水平方向に対して20°傾いて設置されている。本実施形態において誘導管213は、その断面の形状や径は冷却管203とほぼ同一であり、冷却管203の下流端から連続的に湾曲することで、金属粉末を含むキャリアガスの搬送方向を冷却管203の長手方向と異なる方向に誘導している。
本実施形態においては、待機用区画ACを具備せず、スクレーパーヘッド222は直接冷却区画DCで待機する。
また、本実施形態においては冷却管203の傾斜角度が20°と緩やかなことから、反応容器2と冷却管203との間に導入口は設けられていない。
【0034】
冷却管203の上流には開閉扉33が設けられており、当該開閉扉33を覆うように装脱着可能な回収容器235は、連結部を介することなく、直接、冷却管203に取り付けられる。回収容器235の内部には仕切り板236が設けられており、開閉扉33の開放時に回収容器235に流れ込むキャリアガスによって回収容器235内の付着物が冷却管203内に逆戻りすることを抑制できる。
シャフトガイド140に嵌挿されているシャフト221の一端は、スクレーパー駆動部240に接続され、スクレーパー駆動部240はスクレーパー220を回動させながら、長手方向へ往復動させる駆動機構(図示せず)を備える。
【0035】
図6(A)〜(C)は第3の実施形態のスクレーパーヘッド222の詳細図であり、図6(B)は図6(A)のVI-VI線から見た矢視図であり、図6(C)は図6(B)のVIA-VIA’ 線から見た矢視図である。
図6(A)〜(C)に示すように、第3の実施形態におけるスクレーパー220は、ドーム形状のスクレーパーヘッド222を有している。図示されるように、スクレーパーヘッド222は、シャフト221の一端近傍から延びる4本の弧状の輻がリング状の爪部223と連結している。
【0036】
〔その他の変形例〕
本発明には、その他、様々な変形例が含まれる。
一例として、スクレーパーヘッドは付着物を除去できれば爪部は必ずしも必要ではなく、スクレーパーヘッドや爪部の形状、個数にも制限はない。
スクレーパーヘッド内部やシャフト内部に水等の流体を循環させる水冷機構を設ければ、スクレーパーの熱による変形を抑制することができる。
冷却管に設ける開口部の位置や個数にも制限はなく、冷却管の傾斜やスクレーパーの形状等に応じ、適宜変更することができる。
また、誘導管の形状は、冷却管の延長上にスクレーパーを配置する空間を形成できれば良く、上述した例の他、例えばS字状、クランク状、螺旋状であっても良い。
更に、冷却管は上記説明したものに限らず、例えば特許文献1に記載されているように、冷却管全域に渡って直接冷却のみを行うタイプの冷却管や、間接冷却のみを行うタイプの冷却管を備えるプラズマ装置に対して本発明を適用しても良い。
【符号の説明】
【0037】
1 プラズマ装置
2 反応容器
3 冷却管
4 プラズマトーチ
10 キャリアガス供給部
20 スクレーパー

【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属原料が供給される反応容器と、
前記反応容器内の金属原料との間でプラズマを生成し、前記金属原料を蒸発させて金属蒸気を生成するプラズマトーチと、
前記金属蒸気を搬送するためのキャリアガスを前記反応容器内に供給するキャリアガス供給部と、
前記反応容器から前記キャリアガスによって移送される前記金属蒸気を冷却して金属粉末を生成する冷却管を備える金属粉末製造用プラズマ装置であって、
前記冷却管をその長手方向下流側が上方にあるように水平方向に対し10〜80°傾けて前記反応容器に設置すると共に、前記冷却管の内壁に付着した付着物を除去するスクレーパーを、前記冷却管の長手方向下流端から前記冷却管内に嵌挿したことを特徴とする金属粉末製造用プラズマ装置。
【請求項2】
前記冷却管をその長手方向下流側が上方にあるように水平方向に対し30〜60°傾けて設置したことを特徴とする請求項1に記載の金属粉末製造用プラズマ装置。
【請求項3】
前記冷却管が、前記キャリアガスを前記冷却管の長手方向と異なる方向へ誘導する誘導管を備えることを特徴とする請求項1又は2に記載の金属粉末製造用プラズマ装置。
【請求項4】
前記冷却管が、その長手方向上流端において、前記冷却管の内径より径の小さい導入口を介して前記反応容器と連通していることを特徴とする請求項1乃至3の何れかに記載の金属粉末製造用プラズマ装置。
【請求項5】
前記スクレーパーが、前記導入口に付着した付着物を除去する爪部を備えることを特徴とする請求項4に記載の金属粉末製造用プラズマ装置。
【請求項6】
前記冷却管が、前記反応容器から前記キャリアガスによって移送される前記金属蒸気及び/又は金属粉末を間接的に冷却する間接冷却区画と、前記間接冷却区画に続き、前記金属蒸気及び/又は金属粉末を直接的に冷却する直接冷却区画とを備えることを特徴とする請求項1乃至5の何れかに記載の金属粉末製造用プラズマ装置。
【請求項7】
前記間接冷却区画が、冷却用流体で前記冷却管の周囲を冷却し、当該冷却用流体を前記金属蒸気及び/又は金属粉末に直接接触させることなく、前記金属蒸気及び/又は金属粉末を冷却する区画であり、前記直接冷却区画が、冷却用流体を前記金属蒸気及び/又は金属粉末に直接接触させて冷却する区画であることを特徴とする請求項6に記載の金属粉末製造用プラズマ装置。
【請求項8】
前記スクレーパーが、棒状のシャフトと当該シャフトの一端部に設けられたスクレーパーヘッドとを備え、前記スクレーパーヘッドが前記冷却管内に配置されていると共に、前記シャフトの少なくとも一部が前記冷却管外に配置されていることを特徴とする請求項1乃至7の何れかに記載の金属粉末製造用プラズマ装置。
【請求項9】
前記冷却管外のシャフトを操作することにより、前記スクレーパーヘッドを往復動及び/又は回動させて前記付着物を除去することを特徴とする請求項8に記載の金属粉末製造用プラズマ装置。
【請求項10】
前記冷却管の長手方向上流側に、前記スクレーパーで除去した付着物を前記冷却管外に排出する開口部を備えることを特徴とする請求項1乃至9の何れかに記載の金属粉末製造用プラズマ装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2013−7096(P2013−7096A)
【公開日】平成25年1月10日(2013.1.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−140098(P2011−140098)
【出願日】平成23年6月24日(2011.6.24)
【出願人】(000186762)昭栄化学工業株式会社 (55)
【Fターム(参考)】