説明

金属粒子の製造方法

【課題】平均粒径で50nm以上となることを抑制することのできる金属粒子の製造方法を提供する。
【解決手段】金属イオンと、還元剤としての三塩化チタンと、錯化剤と、分散剤と、を含む酸性の反応溶液をアルカリ性に調整し、この反応溶液を撹拌して金属粒子を析出させる。上記錯化剤としては、リンゴ酸およびリンゴ酸塩およびグルコン酸およびグルコン酸塩の少なくとも一種を用いる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属イオンを三塩化チタンにより還元することにより金属粒子を析出させる金属粒子の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
金属粒子を製造する方法として、以下に示す特許文献に示されるものが知られている。特許文献1の技術では、水酸化ニッケルをヒドラジンにより還元してニッケル粒子を形成する。特許文献2の技術では、カルボン酸類を含む溶液中でニッケルイオンをポリオールにより還元してニッケル粒子を形成する。
【0003】
特許文献1には、平均粒径が300μm以上である金属粒子の製造条件が挙げられている。一方、特許文献2には、平均粒径が50nm以上の金属粒子の製造条件が挙げられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平5−51610号公報
【特許文献2】特開2007−9275号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、近年のコンデンサ等の電子部品の小型化の要求とともに、その材料となる金属粒子のさらなる微粒子化の要求が高まっている。その目安として、平均粒径で50nm以下の金属粒子の要求がある。しかし、上記に挙げた製造方法では、製造過程において金属粒子の成長を制限することができず、金属粒子の大きさが平均粒径で50nm以上になる。
【0006】
本発明はこのような実情に鑑みてなされたものであり、その目的は平均粒径で50nm以上となることを抑制することのできる金属粒子の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
以下、上記目的を達成するための手段およびその作用効果について記載する。
(1)請求項1に記載の発明は、金属イオンと、前記金属イオンを還元する還元剤としての三塩化チタンと、前記金属イオンおよび前記三塩化チタンのチタンイオンを溶液中で安定化させる錯化剤と、還元反応により析出する金属粒子を溶液中で分散させる分散剤と、を含む酸性水溶液を反応溶液として、前記反応溶液とpH調整剤とを混合して前記反応溶液をアルカリ性に調整し、この反応溶液を撹拌して金属粒子を析出させる金属粒子の製造方法であって、前記錯化剤としてリンゴ酸およびリンゴ酸塩およびグルコン酸およびグルコン酸塩の少なくとも一つを用いることを要旨とする。
【0008】
ところで、溶液中で金属イオンを3価のチタンにより還元し金属粒子を析出させる方法が知られている。この方法では、溶液中で、金属イオンおよび3価のチタンを安定化させるために錯化剤を用いる。
【0009】
しかし、平均粒径が50nm以下の金属粒子を形成することが困難であった。そこで、本発明者は鋭意研究し、その結果、錯化剤としてリンゴ酸またはグルコン酸またはこれらの塩を用いると平均粒径が50nm以下の金属粒子が形成されることを見出した。
【0010】
リンゴ酸またはグルコン酸またはこれらの塩は、他の錯化剤に比べて、3価のチタンイオンと金属イオンとの反応速度をより低下させると考えられる。金属イオンの還元反応の速度を低下させて金属の成長を遅くすることにより、金属粒子が50nmを超える前に分散剤を当該金属粒子に吸着させ、その成長を停止させる。これにより、金属粒子が平均粒径で50nm以上となることを抑制することができる。
【0011】
(2)請求項2に記載の発明は、前記分散剤は、分子量が10000〜50000のマレイン酸系の共重合体の塩であることを要旨とする。
分散剤は、析出した金属粒子が互いに凝集することを抑制する。特に、上記構成の分散剤を用いることにより、金属粒子が、平均粒径で50nm以上になることを抑制することが見出された。すなわち、本発明によれば、上記構成の分散剤を用いることにより、金属粒子が、平均粒径で50nm以上の大きさになることを抑制することができる。
【0012】
(3)請求項3に記載の発明は、請求項1または2に記載の金属粒子の製造方法において、前記分散剤の単位体積あたりの質量は単位容積当たりの金属析出量に対して0.3倍以上であることを要旨とする。
【0013】
分散剤の濃度を低くすると金属粒子が大きくなる傾向がある。この点、本発明では、金属析出量に対して分散剤の濃度の下限を規定するため、金属粒子が大きくなることを抑制することができる。
【0014】
(4)請求項4に記載の発明は、請求項1〜3のいずれか一項に記載の金属粒子の製造方法において、前記錯化剤のモル濃度は前記チタンイオンのモル濃度に対して0.5〜5.0倍であるであることを要旨とする。
【0015】
チタンイオンのモル濃度に対する錯化剤のモル濃度の比が0.5未満であるとき、水酸化チタンが生じるおそれがある。一方、チタンイオンのモル濃度に対する錯化剤のモル濃度の比が5.0を超えるとき、pH調整剤等の溶解性が低下する。このため、錯化剤のモル濃度を上記範囲に設定することが好ましい。
【0016】
(5)請求項5に記載の発明は、請求項1〜4のいずれか一項に記載の金属粒子の製造方法において、前記反応溶液は、前記金属イオンとして、少なくともニッケルイオンを含むことを要旨とする。この発明によれば、反応溶液中のニッケルイオンが3価のチタンイオンに還元されるため、ニッケルを含む金属粒子を形成することができる。
【0017】
(6)請求項6に記載の発明は、請求項1〜4のいずれか一項に記載の金属粒子の製造方法において、前記反応溶液は、複数種類の金属イオンを含み、各金属イオンのモル濃度を各金属の析出比に基づいて調整することを要旨とする。
【0018】
3価のチタンにより金属イオンを還元する方法によれば、一定条件下で、金属イオンの析出比は一定となる。このため、各金属の析出比に応じて、溶液中の各金属イオンのモル濃度を調整することにより、目的組成の金属粒子を形成することができる。
【0019】
(7)請求項7に記載の発明は、請求項6に記載の金属粒子の製造方法において、前記金属イオンは、タングステン、タンタル、レニウム、鉄、コバルト、ニッケル、銅、銀、金、白金の各イオンにより構成される群から選択される少なくとも2種類であることを要旨とする。
【0020】
タングステン、タンタル、レニウム、鉄、コバルト、ニッケル、銅、銀、金、白金の金属イオンは、3価のチタンイオンにより還元される。反応溶液に、これら金属のうち2種以上の金属を存在させるため、少なくとも2種以上の金属を含む金属粒子を形成することができる。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、平均粒径で50nm以上となることを抑制することのできる金属粒子の製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】実施例および比較例の製造条件を示すテーブル。
【図2】各実施例について、第1金属塩および第2金属塩および三塩化チタンの総濃度と錯化剤の濃度との比を示すテーブル。
【図3】各実施例について、溶液ニッケル比率と金属粒子中のニッケルの比率との関係を示すテーブル。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本実施形態にかかるニッケル粒子の製造方法について説明する。なお、ニッケル粒子は、例えば、積層セラミックコンデンサの電極の形成に用いられる。以降では、ニッケル粒子とは、ニッケルが50原子%以上含む金属粒子をいう。金属粒子を構成する各金属についてニッケルとニッケル以外の金属とを区別するため、ニッケルを第1金属とし、ニッケル以外の金属を第2金属とする。これらの塩をそれぞれ第1金属塩、第2金属塩とする。第1金属のイオンを第1金属イオンとし、第2金属のイオンを第2金属イオンとする。
【0024】
ニッケル粒子は、金属イオン還元法により形成される。
まず、析出させる金属の金属イオンと還元剤とを含む反応溶液を形成する。次に、反応溶液のpHを調整して、アルカリ性にすることにより、金属イオンと還元剤との酸化還元反応を開始させて、金属粒子を析出させる。以下、各工程について説明する。
【0025】
<還元剤の形成>
還元剤としては、三塩化チタンを使用する。上記反応溶液を調整するときは三塩化チタンの塩酸溶液を用いる。三塩化チタンの塩酸溶液は、電解還元法により、四塩化チタンの塩酸溶液を還元することにより形成される。具体的には、電解槽の陰極室に、四塩化チタンの20%塩酸水溶液を入れる。電解槽の陽極室に、塩化アンモニウム溶液を入れる。陰極室と陽極室とは、塩素イオンを透過するイオン交換膜により仕切る。三塩化チタンは、空気中の酸素と反応して酸化するため、電解は、アルゴン雰囲気下で行う。この方法によれば、4価のチタンイオンを略100%3価のチタンイオンに還元することができる。
【0026】
<反応溶液>
金属粒子を形成するための反応溶液は、金属粒子を形成する金属イオンと、還元剤としての三塩化チタンと、金属イオンおよび3価のチタンイオンを溶液中で安定化させる錯化剤と、析出する金属粒子が凝集することを抑制する分散剤とを含む。反応溶液は、三塩化チタンの塩酸溶液に、金属イオンの元となる金属化合物、錯化剤および分散剤を溶解することにより、得られる。
【0027】
金属イオンとしては、例えば、Pt、Au、Ag、Cu、Co、Ni、Fe、Re、Ta、W等が挙げられる。これらは、いずれも、3価のチタンイオンにより還元される金属種である。3価のチタンイオンは還元性が高く、殆どの金属イオンを還元する。
【0028】
反応溶液中の三塩化チタンは、三塩化チタンの塩酸溶液を用いて調整される。三塩化チタンの塩酸溶液としては、20%塩酸水溶液で三塩化チタン濃度が0.21mol/Lとされた溶液が用いられる。なお、三塩化チタンの塩酸溶液は上記製法により調整することができるが、ここで用いられる三塩化チタンの塩酸溶液は、上記製法により調整されるものに限定されない。
【0029】
錯化剤としては、金属イオンとチタンイオンとのいずれとも錯体を形成し、酸性溶液中で各金属イオンを独立に存在させるものが用いられる。例えば、チタンイオンは、塩酸溶液中で水と反応して水酸化物を形成するため、この形成を抑制する目的で、錯化剤が用いられる。
【0030】
また、錯化剤としては、金属イオンとチタンイオンとの酸化還元反応速度、すなわち金属析出速度を、従来の錯化剤に比べて、小さくするものが採用される。具体的には、平均粒径で50nmよりも大きい金属粒子を形成するときに用いられている錯化剤よりも、金属イオンとチタンイオンとの酸化還元反応速度を低下させるものが採用される。なお、平均粒径とは、粒径の積算分布における積算値50%の値(D50)を示す。積算分布は、走査型電子顕微鏡(SEM)により観察した500個の粒子の画像解析により測定した円半径から体積換算して求めた値に基づいて作成される。
【0031】
錯化剤の例として、リンゴ酸、グルコン酸、またはこれらのアルカリ金属塩またはこれらのアルカリ土類金属塩が挙げられる。アルカリ金属塩としては、例えば、グルコン酸ナトリウム、リンゴ酸ナトリウムが挙げられる。
【0032】
分散剤としては、反応溶液中に析出される金属粒子の凝集を抑制するものであって、金属粒子の大きさを平均粒径で50nm以下にするように、金属粒子の成長を抑制するものが用いられる。すなわち、直径50nmを超えるまでに金属粒子に吸着し、金属粒子の成長を抑制するとともに、金属粒子同士の結合を抑制するものが用いられる。
【0033】
このような分散剤としては、カルボキシルアニオン性の界面活性剤が用いられる。特に、マレイン酸系の界面活性剤が好ましい。また、マレイン酸系の界面活性剤のうちでも、スチレンマレイン酸共重合体の塩またはオレフィンマレイン酸共重合体の塩であって、分子量が10,000〜50,000にあるものが好ましい。
【0034】
<金属粒子の形成>
金属粒子を形成するとき、反応温度に維持した上記反応溶液に、pH調整剤を溶解することによりpH8.0〜10.0に調整し、さらに、500rpmで数十分〜数時間、撹拌を続けることにより、金属粒子を析出させる。なお、調整剤としては、炭酸ナトリウム、25%のアンモニア水溶液、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、炭酸アンモニウム等が用いられる。
【0035】
その後、反応溶液を入れた容器を静置して、金属粒子を沈降させる。そして、遠心分離機により溶液と金属粒子とを分離し、純水で洗浄する。遠心分離と洗浄とを数回繰り返して、不純物を除去する。そして、水を分散媒として用いて、金属粒子を分散させた金属分散液を形成する。さらに、金属分散液を80℃の真空乾燥機で乾燥させる。これにより金属粒子が得られる。
【0036】
以下、図1〜図3を参照して、実施例および比較例について説明する。図1に、実施例および比較例の製造条件を示している。図2に、第1金属塩および第2金属塩および三塩化チタンの総濃度と錯化剤の濃度との比を示す。
【0037】
<実施例1>
本実施例では、ニッケルとタングステンとを含む金属粒子を形成した。
金属イオンの金属種として、塩化ニッケル六水和物(第1金属塩)とタングステン酸ナトリウム二水和物(第2金属塩)を用いた。塩化ニッケル六水和物の濃度を0.042mol/Lとし、タングステン酸ナトリウム二水和物の濃度を0.050とした。錯化剤として、グルコン酸ナトリウムを用いた。図2に示すように、錯化剤の濃度をチタンイオン(三塩化チタン)のモル濃度に対して1.44倍とした。さらに、錯化剤の濃度を、塩化ニッケル六水和物およびタングステン酸ナトリウム二水和物および三塩化チタンの総濃度(モル濃度)に対して1.0倍の濃度とした。具体的には、錯化剤の濃度を0.3molとした。分散剤としては、分子量が30,000のスチレンマレイン酸共重合体のアンモニウム塩を用いた。分散剤の濃度は、2g/Lとした。これは、析出される析出金属量5.5g/Lに対し0.36倍の値である。析出金属量は、本実施例の金属粒子の製造に先立って行った金属粒子の製造により求めた値である。三塩化チタンの濃度は、第1金属イオンの濃度および第2金属イオンの濃度の総和に対して過剰となるように調整した。具体的には、三塩化チタンの濃度を0.21mol/Lとした。
【0038】
次に、反応溶液に、pHが8.5になるまで炭酸ナトリウムを溶解した。さらに、反応温度を35℃に維持して、120分間撹拌を続けた。その後、沈殿物を遠心分離機による溶媒と金属粒子と分離、および洗浄を繰り返し、金属粒子を得た。このとき、溶液中には、タングステンイオンの一部が析出せずに残っていた。一方、ニッケルイオンは殆ど残っていなかった。金属粒子の組成は、図3に示すように、ニッケルが70原子%、タングステンが30原子%であった。金属粒子の平均粒径は20nmであった。
【0039】
<実施例2>
本実施例では、ニッケルとタングステンとを含む金属粒子を形成した。
金属粒子の製造条件は、実施例1に対して、タングステン酸ナトリウム二水和物(第2金属塩)の濃度と、分散剤の濃度とが異なるのみで、これら以外の条件は実施例1と同じとした。タングステン酸ナトリウム二水和物の濃度は0.030とした。分散剤の濃度は、5.5g/Lとした。これは、析出金属量5.5g/Lに対し1.0倍の値である。なお、錯化剤の濃度は、反応溶液に対する濃度を実施例1と同様としているが、塩化ニッケル六水和物およびタングステン酸ナトリウム二水和物および三塩化チタンの総濃度に対する錯化剤の濃度の比は、タングステン酸ナトリウム二水和物の量が減っている分、大きくなり、1.07となっている(図2参照)。
【0040】
金属粒子の析出方法は、実施例1と同様の方法とした。金属粒子の組成は、ニッケルが90原子%、タングステンが10原子%であった(図3参照)。金属粒子の平均粒径は30nmであった。
【0041】
<比較例1>
本比較例は次の点で実施例2と異なる。すなわち、実施例2では、錯化剤としてグルコン酸ナトリウムを用いていたが、本比較例では、錯化剤としてクエン酸三ナトリウム二水和物を用いた。クエン酸三ナトリウム二水和物の濃度を0.031mol/Lとした。この場合、金属粒子の組成は、ニッケルが90原子%、タングステンが10原子%であった。金属粒子の平均粒径は150nmであった。
【0042】
<評価>
実施例1および2と比較例1とを比較し、金属粒子の製造条件の相違による平均粒径の変化について評価する。
【0043】
実施例1および2では、錯化剤としてグルコン酸ナトリウムを用いた。また、分散剤の濃度を析出金属量に対して0.3倍以上とし、分散剤の分子量を10,000〜50,000とした。この条件下において、平均粒径は、50nm以下のものとすることができた。
【0044】
一方、比較例1では、実施例2と錯化剤のみ異なる条件で金属粒子を析出させたが、平均粒径は50nmを超えた。以上のことから、錯化剤としてグルコン酸ナトリウムを用いると、平均粒径が50nm以下である金属粒子を形成することができるが、クエン酸三ナトリウム二水和物では50nm以下である金属粒子を形成することは困難であることが分かる。すなわち、グルコン酸ナトリウムは、金属粒子が平均粒径で50nmよりも大きくなることを抑制する。
【0045】
<実施例3>
本実施例では、ニッケルとコバルトとを含む金属粒子を形成した。
金属イオンの金属種として、塩化ニッケル六水和物(第1金属塩)と塩化コバルト六水和物(第2金属塩)を用いた。反応溶液の塩化ニッケル六水和物の濃度を0.042mol/Lとし、塩化コバルト六水和物の濃度を0.020mol/Lとした。錯化剤として、リンゴ酸ナトリウムを用いた。図2に示すように、錯化剤の濃度をチタンイオン(三塩化チタン)のモル濃度に対して1.44倍とした。さらに、錯化剤の濃度を、塩化ニッケル六水和物および塩化コバルト六水和物および三塩化チタンの総濃度に対して1.11倍の濃度とした。具体的には、錯化剤の濃度を0.3molとした。分散剤としては、分子量が20,000のオレフィンマレイン酸共重合体のナトリウム塩を用いた。分散剤の濃度を5g/Lとした。これは、析出される析出金属量3.5g/Lに対し1.4倍の値である。三塩化チタンの濃度は、0.21mol/Lとした。
【0046】
金属粒子の析出方法は、実施例1と同様の方法とした。金属粒子の組成は、ニッケルが67原子%、コバルトが33原子%であった(図3参照)。金属粒子の平均粒径は40nmであった。
【0047】
<実施例4>
本実施例では、ニッケルとコバルトとを含む金属粒子を形成した。
金属粒子の製造条件は、実施例3に対して、コバルト六水和物(第2金属塩)の濃度と、分散剤の種類とが異なるのみで、これら以外の条件は実施例3と同じとした。コバルト六水和物の濃度は0.00042mol/Lとした。分散剤として、分子量が25,000であるスチレンマレイン酸共重合体のナトリウム塩を用いた。分散剤の濃度を5g/Lとした。なお、錯化剤の濃度は、反応溶液に対する濃度を実施例3と同様としているが、塩化ニッケル六水和物および塩化コバルト六水和物および三塩化チタンの総濃度に対する錯化剤の濃度の比は、コバルトイオンの量が減っている分、大きくなり、1.20となっている(図2参照)。
【0048】
金属粒子の析出方法は、実施例1と同様の方法とした。金属粒子の組成は、ニッケルが99原子%、コバルトが1原子%であった(図3参照)。金属粒子の平均粒径は、20nmであった。
【0049】
<比較例2>
本比較例は次の点で実施例4と異なる。すなわち、実施例4では、錯化剤としてリンゴ酸ナトリウムを用いたが、本比較例では、錯化剤として酒石酸カリウム・ナトリウム四水和物を用いた。酒石酸カリウム・ナトリウム四水和物の濃度を0.030mol/Lとした。この場合、金属粒子の組成は、ニッケルが99原子%、コバルトが1原子%であった。金属粒子の平均粒径は250nmであった。
【0050】
<評価>
実施例3および4と比較例2とを比較し、金属粒子の製造条件の相違による平均粒径の変化について評価する。
【0051】
実施例3および4では、錯化剤としてリンゴ酸ナトリウムを用いた。また、分散剤の濃度を金属析出量に対して0.3倍以上とし、分散剤の分子量を10,000〜50,000とした。この条件下において、平均粒径は、50nm以下のものとすることができた。
【0052】
一方、比較例2では、実施例4と錯化剤のみ異なる条件で金属粒子を析出させたが、平均粒径は50nmを超えた。以上のことから、錯化剤としてリンゴ酸ナトリウムを用いると、平均粒径が50nm以下である金属粒子を形成することができるが、酒石酸カリウム・ナトリウム四水和物では50nm以下である金属粒子を形成することは困難であることが分かる。すなわち、リンゴ酸ナトリウムは、金属粒子が平均粒径で50nmよりも大きくなることを抑制する。
【0053】
<実施例5>
本実施例では、ニッケルと銀とを含む金属粒子を形成した。
金属イオンの金属種として、塩化ニッケル六水和物(第1金属塩)と硝酸銀(第2金属塩)を用いた。塩化ニッケル六水和物の濃度を0.042mol/Lとし、硝酸銀の濃度を0.010とした。錯化剤として、リンゴ酸を用いた。図2に示すように、錯化剤の濃度をチタンイオン(三塩化チタン)のモル濃度に対して1.44倍とした。さらに、錯化剤の濃度を、塩化ニッケル六水和物および硝酸銀および三塩化チタンの総濃度に対して1.15倍の濃度とした。具体的には、錯化剤の濃度を0.3molとした。分散剤としては、分子量が30,000のスチレンマレイン酸共重合体のアンモニウム塩を用いた。分散剤の濃度を10g/Lとした。これは、析出金属量3.4g/Lに対し2.9倍の値である。三塩化チタンの濃度は、0.21mol/Lとした。
【0054】
金属粒子の析出方法は、実施例1と略同様であるが、pH調整剤は25%のアンモニア水を用い、pHを9.0に調整した点で、実施例1と異なる。この場合、金属粒子の組成は、ニッケルが80原子%、銀が20原子%であった(図3参照)。金属粒子の平均粒径は25nmであった。
【0055】
<評価>
実施例1〜5と比較例1および2とを比較し、金属粒子の製造条件の相違による平均粒径の変化について評価する。
【0056】
グルコン酸、リンゴ酸、またはこれらの塩(以下、「特定錯化剤」)は、クエン酸三ナトリウムまたは酒石酸カリウム・ナトリウムよりも、平均粒径の小さい金属粒子を形成することができる錯化剤である。また、特定錯化剤は、他の錯化剤に比べて、金属イオンと還元剤である3価のチタンイオンの酸化還元反応の反応速度を小さくすると考えられる。
【0057】
特定錯化剤は、金属種によらずに、金属粒子が平均粒径で50nmよりも大きくなることを抑制する。これは、実施例の結果に基づく。すなわち、上記各実施例では、析出させる金属種に関わらず、金属粒子の平均粒径を小さくすることから、金属種の影響はないと考えられる。
【0058】
<比較例3>
本比較例は次の点で実施例5と異なる。本比較例では、分散剤の濃度を、実施例5の分散剤の濃度に対して100分の3の濃度にした。具体的には、分散剤の濃度を0.3g/Lとした。これは析出金属量3.4g/Lに対し0.1倍の値である。この場合、金属粒子の組成は実施例5と同じとなった。金属粒子の平均粒径は80nmであった。
【0059】
<比較例4>
本比較例は次の点で実施例5と異なる。すなわち、実施例5では、分散剤として、分子量30,000のスチレンマレイン酸重合体のアンモニウム塩を用いたが、本比較例では、実施例5で使用されたものよりも低分子量である分散剤、すなわち分子量8,000のスチレンマレイン酸重合体のナトリウム塩を用いた。この場合、金属粒子の組成は実施例5と同じとなった。金属粒子の平均粒径は90nmであった。
【0060】
<比較例5>
本比較例は次の点で実施例5と異なる。すなわち、実施例5では、分散剤として、分子量30,000のスチレンマレイン酸重合体のアンモニウム塩を用いたが、本比較例では、実施例5で使用されたものよりも高分子量の分散剤、すなわち分子量60,000のスチレンマレイン酸重合体のナトリウム塩を用いた。この場合、金属粒子の組成は、金属粒子の組成は実施例5と同じとなった。金属粒子の平均粒径は、80nmであった。
【0061】
<比較例6>
本比較例は次の点で実施例5と異なる。すなわち、実施例5では、分散剤として、分子量30,000のスチレンマレイン酸重合体のアンモニウム塩を用いたが、本比較例では、分子量30,000のポリエチレンイミンエトキシレートを用いた。この場合、金属粒子の組成は実施例5と同じとなった。金属粒子の平均粒径は400nmであった。
【0062】
<評価>
実施例1〜5と比較例3〜6とを比較し、金属粒子の製造条件の相違による平均粒径の変化について評価する。
【0063】
実施例1〜5では、分散剤の濃度を析出金属量に対して0.3倍以上とした。この場合、金属粒子の平均粒径は50nm以下になった。一方、比較例3では、分散剤の濃度を析出金属量に対して0.1倍とした。この場合、金属粒子の平均粒径は80nmとなった。すなわち、分散剤の濃度により、析出させる金属粒子の大きさを調整することができる。金属粒子の平均粒径を50nm以下にするためには、マレイン酸系の共重合体を用いるとともに、分散剤の濃度を、析出金属量に対して0.3倍以上とすることが好ましい。
【0064】
実施例1〜5では、分子量10,000〜50,000のマレイン酸系の界面活性剤を用いている。この場合、金属粒子の平均粒径は50nm以下になった。一方、比較例4では、分子量8,000のマレイン酸系の界面活性剤を用いている。この場合、金属粒子の平均粒径は90nmとなった。また、比較例5では、分子量60,000のマレイン酸系の界面活性剤を用いている。この場合、金属粒子の平均粒径は80nmとなった。すなわち、分散剤の分子量により、析出させる金属粒子の大きさを調整することができる。金属粒子の平均粒径を50nm以下にするためには、分子量が10,000〜50,000であるマレイン酸系の共重合体を用いることが好ましい。
【0065】
実施例1〜5では、分散剤としてマレイン酸系の界面活性剤を用いている。一方、比較例6では、分散剤として分子量30,000のポリエチレンイミンエトキシレートを用いた。この場合、金属粒子の平均粒径は400nmとなった。すなわち、金属粒子の平均粒径を50nm以下とするためには、マレイン酸系の界面活性剤を用いることが好ましい。
【0066】
図3を参照して、第1金属塩(塩化ニッケル塩)および第2金属塩の総濃度に対する第1金属塩(塩化ニッケル塩)の割合と、金属粒子におけるニッケル(第1金属)の割合との関係について説明する。
【0067】
同図には、実施例1〜5について、第1金属塩(塩化ニッケル塩六水和物)の濃度と、第2金属塩の濃度と、これらの総濃度と、この総濃度に対する第1金属塩の濃度比(以下、「溶液ニッケル比率」)と、金属粒子中のニッケルの比率(原子%)と、金属粒子中の第2金属比率(原子%)とを示す。さらに、溶液ニッケル比率に対する金属粒子中のニッケル比率の比(以下、「析出比」)を示す。
【0068】
同図に示されるように、上記金属粒子の製造方法によれば、第2金属の種類によって、析出比が一定の値をとる。例えば、第2金属がタングステンのように、ニッケルよりも還元されにくい金属の場合、溶液中のニッケルイオンとタングステンイオンの濃度が同じであれば、タングステンよりもニッケルの析出量が多くなる。すなわち、第1金属イオンと第2金属イオンの総量に対するニッケルイオンの比率よりも、金属粒子中におけるニッケルの含有率が高くなる。本実施例では、析出比は1.5となる。なお、析出比は、反応溶液中のタングステンの濃度に関わらず一定である。
【0069】
また、第2金属がコバルトのように、還元性がニッケルと同等である金属の場合は、溶液中のニッケルイオンとコバルトイオンの濃度が同じであれば、ニッケルの析出量とコバルトとの析出量とが同じ程度となる。すなわち、第1金属イオンと第2金属イオンの総量に対するニッケルイオンの比率と、金属粒子中におけるニッケルの含有率とが略同じなる。本実施例では、析出比は1.0となる。また、第2金属が銀の場合、コバルトと同様の結果となる。すなわち、析出比は1.0となる。
【0070】
このように、ニッケルの析出比は、第2金属種の種類によって一定となるため、この析出比を予め求めておくことにより、所望の組成の金属粒子を形成することができる。また、析出比について、実施例では、ニッケルとその他の金属との組み合わせで求めているが、これを、ニッケル以外の金属にも展開することができ、同様に求めることができる。
【0071】
本実施形態によれば以下の作用効果を奏することができる。
(1)本実施形態では、金属イオンと、還元剤としての三塩化チタンと、錯化剤と、分散剤とを含む酸性の反応溶液をアルカリ性に調整し、この反応溶液を撹拌することにより、金属粒子を析出させる。錯化剤としては、リンゴ酸、グルコン酸またはこれらの塩を用いる。この方法によれば、金属粒子が平均粒径で50nm以上となることを抑制することができる。
【0072】
(2)本実施形態では、分散剤として、分子量が10,000〜50,000のマレイン酸系の共重合体の塩を用いる。これにより、金属粒子が平均粒径で50nmよりも大きくなることを抑制することができる。
【0073】
(3)本実施形態では、分散剤の濃度を単位容積当たりの金属析出量に対して0.3倍以上とする。このように金属析出量に対して分散剤の濃度の下限を規定するため、金属粒子が大きくなることを抑制することができる。
【0074】
(4)本実施形態では、錯化剤のモル濃度を、チタンイオンのモル濃度に対して0.5〜5.0倍とする。これにより、水酸化チタンが形成されること、およびpH調整等の溶解性が低下することを抑制することができる。
【0075】
(5)本実施形態では、金属イオンとして、少なくともニッケルイオンを含む反応溶液を用いている。ニッケルイオンが3価のチタンイオンに還元されるため、ニッケルを含む金属粒子を形成することができる。
【0076】
(6)本実施形態では、金属粒子中のニッケル比(原子%)が50原子%となるように第2金属塩の濃度を調整している。なお、第2金属塩の濃度設定は、各金属イオンのモル濃度を各金属の析出比に基づいて調整することができる。
【0077】
(7)本実施形態では、析出させる金属イオンとして、タングステン、タンタル、レニウム、鉄、コバルト、ニッケル、銅、銀、金、白金の各イオンにより構成される群から選択される少なくとも2種を選択する。これにより、2種以上の金属を含む金属粒子を形成することができる。
【0078】
(その他の実施形態)
なお、本発明の実施態様は上記実施例にて示した態様に限られるものではなく、これを例えば以下に示すように変更して実施することもできる。また以下の各変形例は、上記各実施例についてのみ適用されるものではなく、異なる変形例同士を互いに組み合わせて実施することもできる。
【0079】
・上記実施形態では、2種類の金属を含む金属粒子の製造方法を示しているが、単一金属からなる金属粒子についても上記製造方法により、平均粒径を50nm以下とする金属粒子を形成することができる。例えば、実施例4の条件と同様の条件により、ニッケルの含有率が略100%の金属粒子を形成することができる。
【0080】
・上記実施形態では、第2金属として、タングステン、タンタル、レニウム、鉄、コバルト、銅、銀、金、白金を挙げているが、3価のチタンにより還元されるものであれば、第2金属として用いることができる。
【0081】
・上記実施形態では、平均粒径が50nm以下の金属粒子を形成することを可能とする製造方法を示しているが、上記方法は、50nm以上の金属粒子を形成する場合にも適用することができる。すなわち、比較例に示したように、分散剤の濃度、分散剤の分子量を変更することによって、金属粒子の平均粒径を調整し、所望の大きさの金属粒子を形成することができる。
【0082】
・上記実施形態では、金属粒子を製造する際一種類の錯化剤を用いているが、上記に挙げた特定錯化剤のうち2種以上を組み合わせて用いることもできる。なお、本発明は、特定錯化剤のほか、他の錯化剤を混合することを制限するものではない。目的のする金属粒子の大きさを鑑みて、適宜他の錯化剤を組み合わせてもよい。
【0083】
・上記実施形態では、金属粒子を析出させるとき、反応溶液の温度を35℃としている。しかし、金属粒子を析出させる工程の温度はこの値に限定されない。金属が析出する温度範囲は5℃〜60℃であるため、この範囲で、反応溶液の温度を設定することができる。
【0084】
・上記実施形態では、ニッケル粒子についての製造方法を示したが、他の金属を主成分とする金属粒子についても、上記製造方法により、平均粒径で50nm以下となる金属粒子を形成することができる。
【0085】
・上記実施形態では、金属粒子の用途として、積層セラミックコンデンサの電極の材料を挙げている。しかし、上記製造方法による金属粒子の用途はこれに限定されない。例えば、表面に導電層が形成されたプリント配線板用の基板の導電層の材料として、本実施形態の金属粒子を用いることができる。また、インク用としても用いることができる。さらに、プリント配線板のビアホールの充填剤としても用いることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属イオンと、前記金属イオンを還元する還元剤としての三塩化チタンと、前記金属イオンおよび前記三塩化チタンのチタンイオンを溶液中で安定化させる錯化剤と、還元反応により析出する金属粒子を溶液中で分散させる分散剤と、を含む酸性水溶液を反応溶液として、前記反応溶液とpH調整剤とを混合して前記反応溶液をアルカリ性に調整し、この反応溶液を撹拌して金属粒子を析出させる金属粒子の製造方法であって、
前記錯化剤としてリンゴ酸およびリンゴ酸塩およびグルコン酸およびグルコン酸塩の少なくとも一つを用いる
ことを特徴とする金属粒子の製造方法。
【請求項2】
請求項1に記載の金属粒子の製造方法において、
前記分散剤は、分子量が10000〜50000のマレイン酸系の共重合体の塩である
ことを特徴とする金属粒子の製造方法。
【請求項3】
請求項1または2に記載の金属粒子の製造方法において、
前記分散剤の単位体積あたりの質量は単位容積当たりの金属析出量に対して0.3倍以上である
ことを特徴とする金属粒子の製造方法。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか一項に記載の金属粒子の製造方法において、
前記錯化剤のモル濃度は前記チタンイオンのモル濃度に対して0.5〜5.0倍である
ことを特徴とする金属粒子の製造方法。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか一項に記載の金属粒子の製造方法において、
前記反応溶液は、前記金属イオンとして、少なくともニッケルイオンを含む
ことを特徴とする金属粒子の製造方法。
【請求項6】
請求項1〜4のいずれか一項に記載の金属粒子の製造方法において、
前記反応溶液は、複数種類の金属イオンを含み、
各金属イオンのモル濃度を各金属の析出比に基づいて調整する
ことを特徴とする金属粒子の製造方法。
【請求項7】
請求項6に記載の金属粒子の製造方法において、
前記金属イオンは、タングステン、タンタル、レニウム、鉄、コバルト、ニッケル、銅、銀、金、白金の各イオンにより構成される群から選択される少なくとも2種類である
ことを特徴とする金属粒子の製造方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate


【公開番号】特開2012−172170(P2012−172170A)
【公開日】平成24年9月10日(2012.9.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−33227(P2011−33227)
【出願日】平成23年2月18日(2011.2.18)
【出願人】(000002130)住友電気工業株式会社 (12,747)
【Fターム(参考)】