説明

金属粒子分散液、塗膜、金属膜および導電ペースト並びに金属膜の製造方法

【課題】基板上に形成した焼成膜においてクラックやブツの発生を顕著に抑制することができる金属ナノ粒子分散液の製造技術を提供する。
【解決手段】アミン化合物例えばオレイルアミンで被覆された平均粒子径が100nm未満好ましくは50nm未満の金属粒子が、アルカンと流動パラフィンとの混合液あるいはイソパラフィン含有媒体中に分散している金属粒子分散液。上記混合液あるいはイソパラフィン含有媒体(なわち分散媒)の表面張力は2.0×10-6〜2.5×10-6N/m(20〜25dyn/cm)であることが好ましい。この金属粒子分散液を基板に塗布したのち乾燥させて塗膜を形成させ、これを焼成することにより、表面性状の良好な導電性焼成膜(金属膜)を形成させることができる。金属の種類はAu、Ag、Cuなどが挙げられる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属ナノ粒子分散液、それを基板表面に塗布した塗膜、それを焼成してなる基板との密着性に優れた金属膜、および前記金属ナノ粒子分散液に樹脂成分を添加した導電ペーストに関する。また、前記金属膜の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年では、金属光沢を有する塗膜、導電膜や反射膜は工業分野で広く用いられているようになってきた。なかでも平滑性の高い導電膜は、例えば(1)真空蒸着法、スパッタリング等の乾式成膜法、(2)金属微粒子が分散したペーストを塗布して焼成し、金属膜を形成する方法、などで製造されている。
【0003】
前記(1)のスパッタリング等の乾式成膜法は、減圧条件で行われることが多く、装置の大型化が不可避であるため、初期の導入コストが甚大なものとなっていた。
また、前記(2)の焼成による金属膜の形成法では、焼成時に基板が熱により変形したり、割れたりするおそれがあるので、耐熱性の高い基板を選択しなければならず、基板の選択性に制限がかかるという実用上の問題があった。
【0004】
このような背景から、最近では、金属粒子を微細化することで、粒子同士の融着を生じやすくし、低温であっても金属間結合を生じさせ、金属膜を形成させる試みがなされている(例えば特許文献1参照)。
【0005】
ところが、本発明者らの検討によると、特許文献1に記載された方法では効率よく金属膜を形成できないことがわかってきた。すなわち、特許文献1に記載の粒子は、金属粒子の液中濃度が希薄(記述によれば20質量%内外)であるため、膜を形成する際に数度にわたって金属粒子分散液を塗布する必要があり、同一の条件で同一の膜を形成させることは必ずしも容易ではなく、更には表面性が悪化するおそれもある。また、プロセス面を見ても、一旦形成させた金属粒子の二次粒子化が必須であり、必ずしも効率的な金属薄膜の形成法とは言えないと考えられる。
【0006】
【特許文献1】特開2003−327870号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
金属ナノ粒子の塗膜を薄膜状に均一に形成するためには、基板と分散液やペーストの相性が大きく影響する。特に、基板表面/分散媒の組み合わせの選択を誤ると、粒子が基板上で水滴状になり、膜自体が形成されないことがある。
【0008】
例えば、本出願人はこれまでに、基板表面/分散媒の相性(マッチング)について種々検討を重ね、特に濡れ性の低い基板に対する金属粒子分散液の塗布方法を開発してきた。しかしながら、界面活性剤を表面に有する粒子の場合、刷毛等により塗膜(塗布膜)の形成を行おうとしたときに、分散媒と基板の濡れ性が小さく水滴状になり、表面に塗膜を形成できないことがあるという問題が知見されてきた。
【0009】
また、親油性のある界面活性剤で被覆した金属ナノ粒子を分散物質として採用したときに、分散液を塗布して乾燥させる際、塗膜にヒビやクラックが生じたり、塗膜自身が剥離したりする問題が生じることがあった。
【0010】
さらに、親油性のある界面活性剤で被覆した金属ナノ粒子を分散物質として採用したときに、分散液を塗布して乾燥させる際に、特にブツ形態物の形成が発生する頻度が高いことがわかった。そして、一般的に提供、提案されているナノ粒子(ナノサイズの金属と有機物とで構成される粒子)を、単一の分子量を有するような有機物質からなる分散媒に分散させるだけでは、塗膜形成時のブツ発生を安定して軽減することは難しいことがわかってきた。
【0011】
本発明はこのような現状に鑑み、分散媒との濡れ性が低い基板に対して導電膜を形成するのに適した金属ナノ粒子分散液及びそれを用いた塗膜を提供することを第1の目的とする。また、塗布後にしばらく乾燥放置してもクラックの生じない金属ナノ粒子分散液およびそれを用いた金属膜の製造方法を提供することを第2の目的とする。さらに、塗布時における粒子の凝集を抑制し、もって塗膜に形成されることのあるブツ形態物やクラックの低減を図りうる金属粒子分散液および導電ペースト、ならびに金属膜形成方法を提供することを第3の目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは前記第1の目的を達成すべく鋭意検討した結果、ナノサイズの金属と有機物(有機保護材)とで構成される粒子を飽和有機化合物中に分散させることが極めて有効であることを知見した。
【0013】
すなわち本発明では、粒子径100nm未満の金属と有機保護材とから構成される粒子が飽和有機化合物の液状媒体中に分散している金属ナノ粒子分散液が提供される。前記有機保護材は、分子中に窒素、炭素及び酸素を含むものが挙げられ、特に不飽和結合を有し、分子量が100〜1000であり、前記金属の表面を被覆しているものが好適な対象となる。前記液状媒体を構成する飽和有機化合物は、分子量200以下のものがよく、特に直鎖状構造を有するものが適している。この液状媒体は1種類の飽和有機化合物からなるものであってもよいし、2種以上の飽和有機化合物を混合してなるものであっても構わない。例えば、ノナン、デカン、ウンデカン、ドデカンおよびテトラデカンの1種以上を使用することができる。この液状媒体の表面張力は例えば2.0×10-6〜2.5×10-6N/m(20〜25dyn/cm)である。
【0014】
また、前記金属ナノ粒子分散液が、表面張力3.0×10-6N/m(30dyn/cm)未満の直鎖状構造の有機化合物に対して濡れ性を有する基板上に例えばスピンコート法により塗布されて形成した金属ナノ粒子塗膜を提供する。
【0015】
また本発明者らの検討によると、ナノサイズの金属と有機物とで構成される粒子を、単一の分子量を有するような有機物質からなる分散媒に分散させるだけでは、塗膜乾燥時のクラック発生を安定して防止することは難しいことがわかってきた。
【0016】
更なる検討の結果、新たな分散媒として、ベースとなる溶媒物質に、流動パラフィンを加えた構成のものを使用することが、塗膜のクラック防止に極めて有効であることを発見した。流動パラフィンは、数種類の分子量を有する有機物質の集合体であると捉えることができる。
【0017】
すなわち前記第2の目的を達成するために、本発明では、アミン化合物例えばオレイルアミンで被覆された平均粒子径が50nm未満の金属粒子が、炭素数9〜16のアルカンと流動パラフィンとの混合液(分散媒)中に分散している金属粒子分散液が提供される。前記混合液は、炭素数9〜16のアルカンAと流動パラフィンPの配合比A:Pを質量比で(99〜70):(1〜30)としたものが挙げられる。
【0018】
また上記の金属粒子分散液を基板に塗布したのち乾燥させて塗膜を形成させる工程、前記塗膜を焼成して金属膜を形成させる工程、さらに必要に応じて前記金属膜を有する基板を有機溶媒に浸漬して表面を清浄化する工程を有する金属膜の製造方法が提供される。その有機溶媒は沸点が200℃以下のものであることがより好ましい。
【0019】
さらに、上記第3の目的を達成するために、本発明では窒素含有有機化合物で被覆され、透過型電子顕微鏡で観察される一次粒子径の平均値が50nm未満である金属粒子が、主鎖の炭素数が4〜30かつ300Kにおいて液状を呈するイソパラフィン含有媒体中に分散している金属粒子分散液が提供される。この金属粒子分散液は、例えば基板上に塗布したのち大気中で加熱焼成した際の質量減少が40質量%以下となる性質を有する。前記窒素含有有機化合物は、その構造内に少なくとも1つの不飽和結合を有するものが好ましい。前記イソパラフィン含有媒体は、側鎖を有する1種以上のイソパラフィンを含有するものが好ましい。
【0020】
このような金属粒子分散液に少なくとも樹脂成分を添加することにより導電ペーストを得ることができる。また、上記金属粒子分散液を基板上に塗布して金属粒子塗布膜を形成し、その金属粒子塗布膜を加熱処理して金属膜を形成するに際しては、前記加熱処理を、大気中での質量減少が40%以下となるように行うことが有効である。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、分散媒との濡れ性が低い基板に対して導電膜を形成するのに適した金属ナノ粒子分散液及びそれを用いた塗膜が得られる。また、上述の金属粒子分散液を使用することにより、塗布後の乾燥過程で塗膜にクラックが生じることを安定して防止することが可能になり、その後の焼成によって基板との密着性に優れた金属膜を得ることができる。特に、塗布時における粒子の凝集が抑制され、それにより塗布膜におけるブツ形態物やクラックの形成が大幅に軽減される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
〔保護材被覆金属粒子〕
本発明の金属粒子分散液中に分散している分散粒子は、微小な金属粒子の表面に界面活性剤の機能を有する有機化合物(以下「保護材」という)が吸着した構造の、いわゆるナノ粒子である。この、金属粒子と保護材からなる粒子を「保護材被覆金属粒子」と呼ぶ。
【0023】
保護材被覆金属粒子を構成する金属粒子は、透過型電子顕微鏡(TEM)により観察される平均粒子径が100nm未満のもの、好ましくは50nm未満のものである。具体的な金属の種類はAu、Ag、Cuなどである。
【0024】
保護材は、分子量が100〜1000、好ましくは100〜500、より好ましくは100〜300の有機化合物からなる。例えば、窒素(N)、炭素(C)及び酸素(O)を含んで構成される窒素含有有機化合物が挙げられる。特に界面活性剤としての作用を奏する有機化合物が選択される。より好ましくは、微小粒子の表層を構成する有機保護材として界面活性剤を用い、分散液としてその界面活性剤に対して適当な飽和有機化合物を組み合わせることがよい。この場合は、分散液中の微小粒子は親油性を有しているので、分散媒として適当な飽和有機化合物を選択しなければ、分散液の分散性確保が困難となる。特に分散媒との濡れ性の低い基板に対しては、十分な塗布性が得られないおそれがある。
【0025】
保護材は焼成後に残存するおそれがあるので、環境に影響を与える物質でないことが好ましい。具体的には脂肪酸やアミン化合物が挙げられるが、本発明ではアミン化合物を適用することが好ましい。例えばオレイルアミンが時に好適な対象として挙げられる。一方、チオール基(−SH)を構造中にもつ有機化合物を保護材に用いると、焼成後に硫黄成分が残存して、金属膜のみならず周囲の部材にも影響を及ぼす可能性があり好ましくない。
【0026】
保護材としてアミン系の窒素含有有機化合物を使用する場合には、保護材に被覆された粒子の質量(金属+保護材)に占める窒素は5質量%未満、炭素は30質量%未満であるのがよい。これらは、溶媒または表面に付着する有機物質からの由来成分であるので、これらの量が多すぎると相対的に金属の構成割合が減少するので好ましくない。
【0027】
金属粒子と保護材を上記のような構成とすることにより、焼成時に金属粒子どうしの焼結が生じやすくなり、より低温での焼成が可能になる。
【0028】
保護材被覆金属粒子の代表的な製造方法としては、例えば、公知のアルコール還元法を採用することができる。これは、還元作用も有するイソブチルアルコールやポリオールなどのアルコール類を反応溶媒として、その溶媒中で金属化合物(金属塩など)を還元するする手法である。その際、保護材となる界面活性剤(例えばアミン化合物)を反応溶媒中に共存させておくと、保護材に被覆された粒子径100nm未満の金属粒子を合成することができ、特に50nm未満の金属粒子を合成することも十分に可能である。
【0029】
〔分散媒(液状媒体)〕
本発明の金属粒子分散液は、保護材被覆金属粒子が分散媒中に分散したものである。保護材被覆金属粒子は、その表面が親油性を有しているので、分散媒として適当な飽和有機化合物を選択しなければ、分散性を十分に確保することが難しい。また、基板との濡れ性も考慮する必要がある。種々検討した結果、分散媒を構成するベースの溶媒物質(分散性を担う主成分)は、直鎖状構造であることが好ましい。側鎖を有すると沸点が高くなり、塗膜の形成には不利となりやすい。
【0030】
ベースの溶媒物質の分子量が過大になると、沸点が高くなり乾燥あるいは焼成時に揮発しにくい。また、側鎖を有する有機化合物も沸点が高い傾向にあり、好ましくない。一方、分子量が過小になると、揮発性が高くなり塗布が不均一になるおそれがある。検討の結果、分子量が200以下、好ましくは180以下であるものを使用する。具体的には炭素数9〜16のアルカンが好適であり、本発明ではそれらの1種以上をベースの溶媒物質に使用する。例えばノナン、デカン、ウンデカン、ドデカンおよびテトラデカンの1種以上を使用することができる。
【0031】
分散媒には、ベースの溶媒物質(炭素数9〜16のアルカン)に加えて、流動パラフィンを含有させることができる。流動パラフィンは日本薬局方に記載されているものが広く知られている。本発明ではそのような規格に相当するものを使用してもよいし、それ以外のものを使用してもよい。分散媒に流動パラフィンを含有させると、塗膜を形成する際に、塗膜にクラックが生じることが顕著に抑止される。また、焼成後の金属膜においては基板に対する密着性が改善される。このような効果が阻害されない製品である限り、市販のいずれの流動パラフィンを使用してもかまわない。
【0032】
流動パラフィンを分散媒に含有させたときに塗膜のクラック発生が顕著に抑制される理由については、現時点では不明な点が多いが、例えば次のようなことが考えられる。塗膜が乾燥する際には、分散媒が揮発するが、通常、分散媒の成分である有機化合物が揮発する際には塗膜の収縮が起こる。そして、塗膜の収縮に伴う歪みが集中した箇所にクラックが生じるものと考えられる。一方、流動パラフィンは種々のC(炭素)数からなる有機物質の集合体であり、各有機物質はそれぞれ揮発速度が異なることから、塗膜中に流動パラフィンが存在すると、塗布後の乾燥過程で揮発の連続性が担保され、塗膜の急激な乾燥が起こりにくい。このため、乾燥過程での塗膜の収縮が穏やかに起こるとともに、残存する有機物質が保護材被覆粒子の間隙をつなぎ止める役割を発揮し、塗膜収縮に伴う歪みの局所的な集中が抑制されるものと考えられる。このようなことにより、塗膜中の流動パラフィンは塗膜のクラック発生を顕著に抑止にする作用を呈するものと推察される。
【0033】
分散媒中における、炭素数9〜16のアルカンAと流動パラフィンPの配合比A:Pは、質量比で(99〜70):(1〜30)の範囲とすることが好ましい。流動パラフィンの配合割合が少なすぎると、塗膜のクラック発生を抑止する作用が十分に享受できない。一方、流動パラフィンの配合量が多すぎると分散液粘度が高くなる傾向があり、流動性を必要とする用途には利用されにくく、用途が限定されてしまうことがある。
【0034】
塗膜における「ブツ」の形成を抑止するためには、分散媒にイソパラフィンを含有させることが極めて有効である。質量比で分散媒の半分以上をイソパラフィンで構成することが特に好ましい。
【0035】
イソパラフィン含有媒体を使用することによって、塗布時にブツの形成の少ない塗膜を得ることができるようになる。金属膜におけるブツが低減される理由についてはまだ明らかでないところが多いが、もともと金属に対する吸着力が弱い有機物質により表面が構成されている場合、分散媒である有機物と粒子の表面を構成する有機物が相溶性を有しないとき、分散媒中で相分離が生じて粒子の凝集が不均一に生じてしまうため、ブツの形成が顕著になるものと考えられる。
【0036】
このようなイソパラフィン含有媒体には、主鎖の炭素数、換言すれば最も鎖の長い箇所の炭素数が4〜30であるイソパラフィンを使用する。また、取扱性を高めるために、300Kにおいて液状を呈するイソパラフィンを使用する。
【0037】
金属粒子を分散させるイソパラフィン含有媒体は、単一のイソパラフィンのみを使用した構成とするよりは、異なる炭素数を有する複数の有機化合物を併用することが好ましい。これによって、ブツ発生を低減できるだけでなく、塗膜の平滑性も達成できる。これは、膜の焼成時における粒子同士の融着において、一気に媒体を飛ばすよりは多段に分け、焼結をもたらす方が、焼結が緩やかに生じやすく、膜の形成に好適となるためと推測される。
【0038】
このような構成とする効果をより顕著にするためには、複数併用されるイソパラフィンの一部に側鎖構造を有するものを適用することがより好ましい。側鎖構造を有することによって、塗膜の形成時に立体障害になりやすく、金属粒子同士の接触を抑制することが可能となるためと推測される。
【0039】
イソパラフィンとしては、例えばアクアソルベントG(アクア化学株式会社製、登録商標)、IPクリーンLX、IPクリーンHX,IPソルベント1620、IPソルベント2028、IPソルベント1016、IPソルベント2835等(出光興産株式会社製、登録商標)の容易に入手可能な市販品を使用できる。
【0040】
イソパラフィン含有媒体の構成割合は、塗布の際に使用される装置に沿った粘度にあわせ、適度に調整することが好ましい。例えば、スピンコート法により膜を形成するには、10mPa・s以下にすることが好ましい。その際に、単一の溶媒を使用するだけでは、粘度の調整が困難なときがあり、こうした理由からも、複数の溶媒を併用することが望まれる。
【0041】
また、イソパラフィン含有媒体におけるベースの溶媒物質の平均分子量が過大になると、沸点が高くなり乾燥又は焼成時に揮発しにくいことがある。一方、分子量が過小であると揮発性が高くなり、塗膜が不均一になるおそれがあるので好ましくない。もし、上述のイソパラフィンの他に分散媒として追加するならば、平均分子量を過大もしくは過小にしないことが必要であり、このことを考慮すると、分子量は200以下、好ましくは180以下であるものを使用するのがよい。より具体的には炭素数9〜16のアルカンが好適である。また、場合によりクラックの低減のため、流動パラフィンを全体の液体組成のうち、30質量%以下含ませることもできる。ただし、これが多すぎると、イソパラフィンを添加した効果が希釈されるので好ましくない。より好ましくは15質量%未満であるのがよい。
【0042】
分散媒として、表面張力が2.0×10-6〜2.5×10-6N/m(20〜25dyn/cm)であるものを用いることがより好ましい。イソパラフィン含有媒体の場合も同様である。これにより、分散媒との濡れ性が低い基板に対しても均一な塗膜の形成が比較的容易に行えるようになる。分散媒との濡れ性が低い基板は液体に対する濡れ性が低いため、通常であれば液体を塗布しても、塗布液は水滴を形成してしまい全面に塗布するのが困難である。このような場合でも、本発明では、上述の分散液を使用して塗布することにより、基板上に均一な皮膜を形成することができる。ここで、濡れ性とは流体の物体表面への付着のされやすさを示す指標をいい、濡れ性が小さい場合には、基板の表面に対してその流体は付着されにくい。
【0043】
〔金属粒子分散液〕
本発明の金属粒子分散液は、上記の分散媒と保護材被覆金属粒子を混合することによって得られる。このような分散液は、分散媒との濡れ性が低い基板に対しても良好に導電膜を形成できるものである。言い換えれば、本発明の分散液を用いると、塗布後の焼成温度を低減できるとともに、塗膜の膜厚を薄くしながら、バルクの金属と比較しても数倍以下といった導電性の高い膜を形成することができる。
【0044】
なお、分散媒と粒子表面を構成する有機物との相性の調整、およびこれにより構成される金属粒子分散液と基板との濡れ性の適度な調整を行わなければ、前者の場合はブツ発生を引き起こし、後者の場合には基板上に膜を形成することが困難である。特にこのような両方の性質を両立するような分散液を得るには、粒子表面に存在する有機物と分散媒が互いに相溶性を有することが好ましい。例えば、相溶性を有するか否かを判断するには、主として該分散媒と、添加されうる成分を混合したのち振とうし、透明であるかどうかで判断することもできるし、さらに吸光スペクトルを用いて、吸収を有するか否かによっても判断することもできる。
【0045】
〔導電ペースト〕
上述の金属粒子分散液に、少なくとも樹脂成分を添加して構成される。樹脂成分としては、例えば熱硬化性樹脂、紫外線硬化性樹脂などが利用できる。
【0046】
〔基板〕
本発明の金属粒子分散液を塗布する基板としては、例えばガラス基板が例示できる。ただし、本発明に従う塗膜は比較的低温での焼成が可能であることから、必要に応じてガラス基板以外の、ガラス転移点が低い材料を基板として選択することも可能である。また、表面張力が3.0×10-6N/m(30dyn/cm)未満の直鎖状有機化合物(分散媒)に対して濡れ性がある材料を用いることが、基板上に均一な塗膜を形成させるうえで有利となる。
【0047】
〔塗膜〕
金属粒子分散液は基板に塗布され、塗膜となる。塗布の方法としてはスピンコート法を適用することが好ましい。スピンコート法によれば、濡れ性の低い基板に対しても均一な塗布面を形成させやすい。塗布後には、分散媒の揮発成分を揮発させることにより、少なくとも取扱い時に流動しない程度にまで乾燥させた塗膜を形成させる。乾燥の過程は、塗布が終了した時点から始まる。通常、塗布後の基板を常温で例えば数分間以上放置することにより、焼成に供するための塗膜が準備される。前述のとおり、従来はこの乾燥の過程で塗膜にクラックが生じやすかった。本発明によれば分散媒に流動パラフィンを含有させる態様により塗膜のクラック発生を防止している。
【0048】
〔金属膜(焼成膜)〕
上記塗膜を形成したのち、それを焼成することにより、分散媒に由来する有機物質および保護材が揮発し、金属粒子どうしの焼結が生じて、金属膜が構築される。本発明に従えば、クラックの発生が顕著に抑止された塗膜を焼成に供することができるので、得られた金属膜は、基板との密着性が一層向上したものとなる。焼成の方法は従来と同様とすればよい。金属膜表面に付いた汚れを除去するためには、当該金属膜を有する基板を有機溶媒に浸漬する処理を施すことが有効である。この有機溶媒としては、後に必要となる除去の容易さから沸点の低いものや、揮発性の高いものを選択することが好ましい。さらに必要に応じて浸漬中に超音波を照射する操作を加えても構わない。
【0049】
焼成のための加熱処理は、金属粒子同士の融着が2段以上の熱履歴を経るように行うことが望ましい。これにより、凝集が抑制されるようになるので、クラックの発生が顕著に抑止された塗膜を焼成に供することができるようになる。したがって、この方法で生成された金属膜は、基板との密着性が一層向上したものとなる。
【0050】
また、本発明の金属膜形成方法の好適形態は、前記加熱処理を、大気中で、質量減少が収束するまでに少なくとも2段以上の質量減少を呈するように行うことが好ましい。これにより、分散媒体が多段階に分けて揮発するので、焼成が緩やかに生じ、良好な膜の形成が可能となる。さらに同様な理由から、前記加熱処理を大気中で行う際の質量減少を40質量%以下とすることが好ましい。
【0051】
また、必要に応じて前記金属膜を有する基板を有機溶媒に浸漬して表面を清浄化する工程を有することにより、分散媒などへの添加成分等に起因する不純物成分を除去し、もって保存安定性にさらに優れた金属膜を得ることも可能である。
【実施例】
【0052】
(実施例A1)
1000mLフラスコに硝酸銀結晶(関東化学株式会社製)68.9g、イソブタノール(和光純薬工業株式会社製の特級)321.8g、オレイルアミン(和光純薬工業株式会社製、Mw=267)553.3gをそれぞれ添加したのち撹拌して、液温が70℃の恒温状態になるまで放置した。
【0053】
温度が安定するのを確認してから容器内に不活性ガスとして窒素ガスを400mL/minの流量で吹き込みながら、撹拌しつつ液温が110℃になるまで1℃/分の速度で昇温させた。加熱開始6時間経過後に還元をより進めるためジエタノールアミン(和光純薬工業株式会社製、Mw=105.64)43.0gを添加した。その後2時間保持した後、加熱を停止した。その後、液温が室温(25℃)になるまで自然冷却した。
【0054】
反応終了後のスラリーについて以下の方法で洗浄を行った。
(1)反応後のスラリーを日立工機(株)製の遠心分離器CF7D2を用い、3000rpmで30分固液分離を実施し、上澄みを廃棄する。
(2)沈殿物にメタノールを加えて超音波分散機で分散させる。
(3)前記の(1)→(2)を3回繰り返す。
(4)前記の(1)を実施して上澄み廃棄し沈殿した粒子を得る。
【0055】
得られた粒子の金属占有割合は熱分析による減少割合から90mass%程度と算出された。また、TEM観察により、分散している銀粒子の平均粒子径は、本例および以下の各例においていずれも7〜15nmの範囲であることが別途確認されている。
【0056】
このようにして得られた凝集物をn−デカン[表面張力:2.34×10-6N/m(23.4dyn/cm)]に添加することで、金属ナノ粒子分散液(金属濃度:70mass%)を得た。
【0057】
表面をUV照射(ウシオ電機株式会社製紫外線ランプ使用)によって親水化処理したコーニング1737無研磨ガラスを用意した。事前の試験により、このガラスは、ヘキサデカンに対して濡れ性を有することが確認されている。上記のようにして得られた金属ナノ粒子分散液をスピンコート法により基板上に塗布して、塗膜を形成した。その際、回転数4000rpm、滴下時間30秒とした。得られた塗膜を大気条件下で30分放置処置し、塗膜の変化に関して確認した。
【0058】
得られた塗膜は30分後の視認による変化確認によっても変化なく、水膜に破れ、切れのない均一な膜が得られていることが確認された。
表1に溶媒の種類、その表面張力および塗膜の性状を示してある(後述実施例A2、A3、比較例A1〜A5において同じ)。
【0059】
(実施例A2)
液をノナン[表面張力:2.24×10-6N/m(22.4dyn/cm)]に変更した以外は実施例A1と同様にして分散液を形成させた。得られた塗膜は実施例A1と同じく、膜に破れ、切れのない均一な膜が得られていることが確認された。
【0060】
(実施例A3)
液をドデカン[表面張力:2.50×10-6N/m(25.0dyn/cm)]に変更した以外は実施例A1と同様にして分散液を形成させた。得られた塗膜は実施例A1と同じく、膜に破れ、切れのない均一な膜が得られていることが確認された。
【0061】
(比較例A1)
液をヘプタン[表面張力:1.96×10-6N/m(19.6dyn/cm)]に変更した以外は実施例A1と同様にして分散液を形成させた。分散液は沈殿凝集物が生じず、均一性が保たれていたが、スピンコート後に得られた塗膜は破れが生じており、実施例A1〜A3とは異なり、均一性の高い膜は得られなかった。
【0062】
(比較例A2)
液をキシレン[表面張力:2.95×10-6N/m(29.5dyn/cm)]に変更した以外は実施例A1と同様にして分散液を形成させた。分散液は沈殿凝集物が生じず、均一性が保たれていたが、スピンコート後に得られた塗膜は破れが生じており、実施例A1〜A3とは異なり、均一性の高い膜は得られなかった。
【0063】
(比較例A3)
液をイソプロピルアルコール[表面張力:2.13×10-6N/m(21.3dyn/cm)]に変更した以外は実施例A1と同様にして分散液を形成させた。分散液は沈殿凝集物が生じず、均一性が保たれていたが、スピンコート後に得られた塗膜は破れが生じており、実施例A1〜A3とは異なり、均一性の高い膜は得られなかった。
【0064】
(比較例A4)
液をアセトン[表面張力:2.34×10-6N/m(23.4dyn/cm)]に変更した以外は実施例A1と同様にして分散液を形成させた。分散液は沈殿凝集物が生じず、均一性が保たれていたが、スピンコート後に得られた塗膜は破れが生じており、実施例A1〜A3とは異なり、均一性の高い膜は得られなかった。
【0065】
(比較例A5)
液をトリデカン[表面張力:2.55×10-6N/m(25.5dyn/cm)]に変更した以外は実施例A1と同様にして分散液を形成させた。分散液は沈殿凝集物が生じず、均一性が保たれていたが、スピンコート後に得られた塗膜は茶色に変色した膜が生じていた。
【0066】
【表1】

【0067】
次に、流動パラフィンの添加効果について調査した。
(実施例B1)
1000mLフラスコに硝酸銀68.9g、イソブタノール321.8g、オレイルアミン553.3gを入れ、加熱して液温を70℃の恒温状態とした。温度が安定するのを確認してから液温を110℃まで1℃/分の速度で昇温させ、110℃に到達後はその温度に維持した。この状態でイソブタノールの還元力を利用して金属銀の粒子を析出させた。加熱開始6時間経過後に還元をより進めるためジエタノールアミン43.0gを添加し、添加後2時間経過後に加熱を停止した。その後、液温が室温(25℃)になるまで自然冷却した。
【0068】
液温が室温まで下がったのち、デカンテーションにより粒子を自然沈降させ、上澄みを廃棄した。その後、「沈降物にメチルアルコールを加え、沈降物とメチルアルコールの混合液を回転数500rpmで1時間撹拌したのち、上澄みを廃棄する」という洗浄操作を3回続けて行い、洗浄された保護材被覆銀粒子の凝集物(以下「銀粒子凝集物」という)を得た。得られた粒子の金属銀占有割合は熱分析による重量減少割合から90質量%程度と算出された。
【0069】
分散媒として、n−デカン[表面張力:2.34×10-6N/m(23.4dyn/cm)]と流動パラフィン(和光純薬工業株式会社製特級試薬)を質量比で80:20となるように混合した液を作成した。
得られた分散媒と、上記の銀粒子凝集物を混合することにより、銀粒子分散液を得た。銀粒子分散液中の目標銀濃度を70質量%として銀粒子凝集物の添加量を調整した。表2中には、銀粒子分散液中の銀濃度の実測値、および液の粘度を示してある(後述実施例B2〜B7、比較例B1〜B5において同じ)。
【0070】
なお、TEM観察により、分散している銀粒子の平均粒子径は、本例および以下の実施例B2〜B7、比較例B1〜B5においていずれも7〜15nmの範囲であることが別途確認されている。
【0071】
一方、表面をUV照射(ウシオ電機株式会社製紫外線ランプ使用)によって親水化処理したコーニング1737無研磨ガラスを用意した。事前の試験により、このガラスは、ヘキサデカンに対して濡れ性を有することが確認されている。上記のようにして得られた銀粒子分散液をスピンコート法により基板上に塗布した。その際、回転数4000rpm、滴下時間30秒とした。
【0072】
銀粒子分散液の塗布が終了した時点からの経過時間が0分(塗布直後)、および60分の時点で塗膜を観察することにより、クラック発生状況を調べた。0分および60分のいずれにおいてもクラックの発生が認められないものを○(クラック発生状況;良好)、それ以外のものを×(クラック発生状況;不良)と評価し、○評価を合格と判定した。
【0073】
銀粒子分散液の塗布が終了した時点からの経過時間が30分である試料(すなわち大気条件下で30分放置して乾燥させたもの)を、大気中250℃で30分加熱する条件で焼成し、焼成膜(金属膜)を形成させた。
【0074】
得られた焼成膜について、乾燥膜厚、表面粗度、比抵抗、基板に対する焼成膜の密着性を調査した。
乾燥膜厚は、触針式表面粗さ計を用いて塗膜が形成されている部分と形成されていない部分を対比することにより測定した。
表面粗度は、触針式表面粗さ計で、JIS B0601:2001に規定されるRaを測定した。
比抵抗は、4端子法により求めた。
【0075】
密着性は、焼成膜の表面についてJIS Z1522に規定されるセロハン粘着テープを用いた剥離試験を行い、剥離が全く観察されないもの、および剥離が部分的に認められたが実用上問題ない程度であるものを○(密着性;良好)、それ以外を×(密着性;不良)と評価し、○評価を合格と判定した。
【0076】
これらの結果を表2に示してある(後述実施例B2〜B7、比較例B1〜B5において同じ)。
本例では、クラックの発生状況、焼成膜の密着性とも良好であった。
【0077】
(実施例B2〜B4)
分散媒におけるn−デカンと流動パラフィンの質量比を表2に示すように変えたことを除き、実施例B1と同様の実験を行った。
これら各例においても、クラックの発生状況、焼成膜の密着性とも良好であった。
【0078】
(実施例B5)
分散媒のn−デカンをウンデカンに変え、ウンデカンと流動パラフィンの質量比を表2に示すようにしたことを除き、実施例B1と同様の実験を行った。
この例においても、クラックの発生状況、焼成膜の密着性とも良好であった。
【0079】
(実施例B6)
分散媒のn−デカンをノナン[表面張力:2.24×10-6N/m(22.4dyn/cm)]に変え、ノナンと流動パラフィンの質量比を表2に示すようにしたことを除き、実施例B1と同様の実験を行った。
この例においても、クラックの発生状況、焼成膜の密着性とも良好であった。
【0080】
(実施例B7)
分散媒のアルカンとして、n−デカンの他にさらにテトラデカンを加え、n−デカン:テトラデカン:流動パラフィンの質量比を表2に示すようにしたことを除き、実施例B1と同様の実験を行った。
この例においても、クラックの発生状況、焼成膜の密着性とも良好であった。
【0081】
(比較例B1〜B4)
分散媒のアルカンとして表2に記載のものを使用し、かつ流動パラフィンを添加しなかったことを除き、実施例B1と同様の実験を行った。
これらの例では、銀粒子分散液の塗布が終了した時点からの経過時間が0分(塗布直後)の時点ではクラックの発生は見られなかったが、経過時間60分ではクラックが生じていた。焼成膜の密着性も不良であった。
なお、これらの例における表2の焼成膜の物性値は、焼成膜が比較的多く残存している箇所を選択して測定した結果を示したものである。
【0082】
(比較例B5)
分散媒の流動パラフィンの代わりにパラフィン43を用いたことを除き、実施例B1と同様の実験を試みた。
この例では、塗膜の表面凹凸が非常に大きくなり、焼成膜においては表面凹凸が激しいために各物性値を定量的に示すことができなかった。すなわち、単なるパラフィンを使用しても良好な皮膜が形成できない。
【0083】
【表2】

【0084】
参考のため、図1および図2に、それぞれ実施例B3および比較例B1で得られた塗膜表面のデジタルマイクロスコープによる拡大写真を示す。銀粒子分散液の塗布が終了した時点からの経過時間は、図1、図2とも(a)が0分(塗布直後)、(b)が60分の時点である。各比較例においては、塗布後の乾燥中に図2(b)に見られるようなクラックが生じている。
【0085】
(実施例C1)
1000mLフラスコに硝酸銀68.9g、イソブタノール321.8g、オレイルアミン553.3gを入れ、加熱して液温を70℃の恒温状態とした。温度が安定するのを確認してから液温を110℃まで1℃/分の速度で昇温させ、110℃に到達後はその温度に維持した。この状態でイソブタノールの還元力を利用して金属銀の粒子を析出させた。加熱開始6時間経過後に還元をより進めるためジエタノールアミン43.0gを添加し、添加後2時間経過後に加熱を停止した。その後、液温が室温(25℃)になるまで自然冷却した。
【0086】
液温が室温まで下がったのち、デカンテーションにより粒子を自然沈降させ、上澄みを廃棄した。その後、「沈降物にメチルアルコールを加え、沈降物とメチルアルコールの混合液を回転数500rpmで1時間撹拌したのち、上澄みを廃棄する」という洗浄操作を3回続けて行い、洗浄された窒素含有有機化合物被覆銀粒子の凝集物(以下「銀粒子凝集物」という)を得た。得られた粒子の金属銀占有割合は熱分析による重量減少割合から90質量%程度と算出された。
【0087】
次に、分散媒を準備する。表3に分散媒の配合を示す(後述実施例C1〜C6、比較例C1において同じ)。実施例C1ではイソパラフィン(株式会社製;IPクリーンLX)のみを分散媒に用いた。この分散媒に上記の銀粒子凝集物を混合することにより、銀粒子分散液を調製した。銀粒子分散液中の目標銀濃度を70質量%として銀粒子凝集物の添加量を調整した。表4中には、銀粒子分散液中の銀濃度の実測値、および液の粘度を示してある。
【0088】
なお、TEM観察により、分散している銀粒子の平均粒子径は、本例および以下の実施例C1〜C6、比較例C1においていずれも7〜15nmの範囲であることが別途確認されている。
【0089】
一方、表面をUV照射(ウシオ電機株式会社製紫外線ランプ使用)によって親水化処理したコーニング1737無研磨ガラスを用意した。事前の試験により、このガラスは、ヘキサデカンに対して濡れ性を有することが確認されている。上記のようにして得られた調製直後の銀粒子分散液をスピンコート法により基板上に塗布した。その際、回転数3000rpm、滴下時間30秒とした。
【0090】
銀粒子分散液の塗布が終了した時点からの経過時間が0分(塗布直後)、および1週間保管後の時点で塗膜を観察することにより、クラックおよびブツの発生状況を調べた。それぞれの時点で、クラックあるいはブツの発生が認められないものを◎(優秀)、クラックあるいはブツの発生が認められたが、その面積率が塗布総面積に対して5%未満であったものを○(良好)、それ以外のものを×(不良)と評価した。○評価の場合、多くの用途において概ね問題なしと判断されるので、○評価以上を合格と判定した。
【0091】
上記のようにして銀粒子分散液を調製したのち、調整直後の銀粒子分散液、および調整後1週間経過した状態の銀粒子分散液を、それぞれ上述のスピンコート法により上述の基板上に塗布し、塗膜を得た。銀粒子分散液の塗布が終了した時点から30分経過後(すなわち大気条件下で30分放置して乾燥させた後)、大気中250℃で30分加熱する条件で焼成し、焼成膜(金属膜)を形成させた。
【0092】
得られた焼成膜について、乾燥膜厚、比抵抗および基板に対する焼成膜の密着性を調査した。
乾燥膜厚は、触針式表面粗さ計を用いて塗膜が形成されている部分と形成されていない
部分を対比することにより測定した。
比抵抗は、4端子法により求めた。
【0093】
密着性は、焼成膜の表面についてJIS Z1522に規定されるセロハン粘着テープを用いた剥離試験を行い、剥離が全く観察されないもの、および剥離が部分的に認められたが実用上問題ない程度であるものを良好、それ以外を不良と評価した。
【0094】
塗膜のクラック、ブツ発生評価、焼成膜の膜厚、比抵抗の測定結果を表4に示す(後述実施例C1〜C6、比較例C1において同じ)。
本例では、クラック、ブツの発生状況、焼成膜の密着性とも良好であった。
【0095】
(実施例C2)
分散媒をイソパラフィンの種類をIPクリーンHXに変えたことを除き、実施例C1と同様の実験を行った。
本例においても、クラック、ブツの発生状況、焼成膜の密着性とも良好であった。
【0096】
(実施例C3〜C6)
実施例C1において分散媒を単一のものでなく、副構成成分を加えた混合媒体(表3参照)としたことを除き、実施例C1と同様の条件で実験を行った。
これら各例においても、クラック、ブツの発生状況、焼成膜の密着性とも良好であった。
【0097】
(比較例C1)
分散媒をデカンとしたことを除き、実施例C1と同様の実験を行った。
この場合、塗膜にクラックやブツの発生が見られた。
【0098】
【表3】

【0099】
【表4】

【0100】
参考のため、図3、図4にそれぞれ実施例C1および比較例C1で得られた焼成膜表面のデジタルマイクロスコープによる拡大写真を示す。分散液を調整後、塗布までの経過時間は、図3、図4とも(a)が調製直後、(b)が1週間である。
【0101】
図4(b)の焼成膜にはブツの発生が目立つ。塗布前の分散媒を常温に長時間保持していると、焼成膜においてブツが一層目立つようになる傾向がある。このような傾向は、イソパラフィン含有媒体を使用することにより顕著に軽減される(図3(b))。
【図面の簡単な説明】
【0102】
【図1】実施例B3で得られた塗膜表面の拡大写真。
【図2】比較例B1で得られた塗膜表面の拡大写真。
【図3】実施例C1で得られた焼成膜表面の拡大写真。
【図4】比較例C1で得られた塗膜表面の拡大写真。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
粒子径100nm未満の金属と有機保護材とから構成される粒子が飽和有機化合物の液状媒体中に分散している金属ナノ粒子分散液。
【請求項2】
前記有機保護材は、不飽和結合を有し、分子量が100〜1000であり、前記金属の表面を被覆しているものである請求項1に記載の金属ナノ粒子分散液。
【請求項3】
前記有機保護材は、分子中に窒素、炭素及び酸素を含むものである請求項1又は2に記載の金属ナノ粒子分散液。
【請求項4】
前記飽和有機化合物は、直鎖状構造である請求項1〜3のいずれか一項に記載の金属ナノ粒子分散液。
【請求項5】
前記液状媒体は、1種類の飽和有機化合物からなるもの、または2種以上の飽和有機化合物を混合してなるものである請求項1〜4のいずれか一項に記載の金属ナノ粒子分散液。
【請求項6】
前記飽和有機化合物は分子量が200以下のものである請求項1〜5のいずれか一項に記載の金属ナノ粒子分散液。
【請求項7】
前記飽和有機化合物は、ノナン、デカン、ウンデカン、ドデカンおよびテトラデカンから成る群より選ばれた少なくとも1種より選択されるものである請求項5又は6に記載の金属ナノ粒子分散液。
【請求項8】
前記液状媒体の表面張力が2.0×10-6〜2.5×10-6N/m(20〜25dyn/cm)である請求項1〜7のいずれか一項に記載の金属ナノ粒子分散液。
【請求項9】
請求項1〜8のいずれかに記載の金属ナノ粒子分散液が表面張力3.0×10-6N/m(30dyn/cm)未満の直鎖状構造の有機化合物に対して濡れ性を有する基板上に塗布された金属ナノ粒子塗膜。
【請求項10】
前記金属ナノ粒子分散液の前記基板への塗布がスピンコート法である請求項9に記載の金属ナノ粒子塗膜。
【請求項11】
アミン化合物で被覆された平均粒子径が50nm未満の金属粒子が、炭素数9〜16のアルカンと流動パラフィンとの混合液中に分散している金属粒子分散液。
【請求項12】
前記アミン化合物はオレイルアミンである請求項11に記載の金属粒子分散液。
【請求項13】
前記混合液は炭素数9〜16のアルカンAと流動パラフィンPの配合比A:Pを質量比で(99〜70):(1〜30)としたものである請求項11または12に記載の金属粒子分散液。
【請求項14】
前記炭素数9〜16のアルカンは沸点が300℃未満のものである請求項11〜13のいずれかに記載の金属粒子分散液。
【請求項15】
窒素含有有機化合物で被覆され、透過型電子顕微鏡で観察される一次粒子径の平均値が50nm未満である金属粒子が、主鎖の炭素数が4〜30かつ300Kにおいて液状を呈するイソパラフィン含有媒体中に分散している金属粒子分散液。
【請求項16】
前記窒素含有有機化合物は、その構造内に少なくとも1つの不飽和結合を有するものである、請求項15に記載の金属粒子分散液。
【請求項17】
基板上に塗布したのち大気中で加熱焼成した際の質量減少が40質量%以下である、請求項15または16に記載の金属粒子分散液。
【請求項18】
前記イソパラフィン含有媒体は、側鎖を有する1種以上のイソパラフィンを含有するものである、請求項15〜17のいずれかに記載の金属粒子分散液。
【請求項19】
請求項1〜8、11〜18のいずれかに記載の分散液に、少なくとも樹脂成分を添加してなる導電ペースト。
【請求項20】
請求項1〜8、11〜18のいずれかに記載の金属粒子分散液を基板上に塗布して金属粒子塗布膜を形成し、その金属粒子塗布膜を加熱処理して金属膜を形成するにあたり、
前記加熱処理を、大気中での質量減少が40%以下となるように行う、金属膜の製造方法。
【請求項21】
請求項20に記載の金属膜の製造方法により得られた金属膜。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2010−95789(P2010−95789A)
【公開日】平成22年4月30日(2010.4.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−333792(P2008−333792)
【出願日】平成20年12月26日(2008.12.26)
【出願人】(506334182)DOWAエレクトロニクス株式会社 (336)
【Fターム(参考)】