説明

金属線成形体およびフィルタ

【課題】フィルタエレメントに適用すると濾過効率の向上を図ることができる金属線成形体を提供すること。
【解決手段】金属線からなる網状体または塊状体を圧縮して塑性変形させて成形される金属線成形体1aであって、全体として略環状または略筒状に成形され、互いに線径が異なる金属線からなり層状に積層する(=略同心に積層する)第一の部分11aと第二の部分12aとを有し、第一の部分11aと第二の部分12aとはそれらの接触箇所において金属線が互いに入り組むことによって分離困難に一体に結合している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属線成形体およびフィルタに関するものであり、詳しくは、金属線により成形され、エアクリーナやオイルフィルタやヒューエルフィルタなどといった各種フィルタのエレメント(フィルタエレメント)に好適な金属線成形体と、この金属線成形体がフィルタエレメントとして適用されたフィルタに関するものである。
【背景技術】
【0002】
自動車のエアフィルタ、オイルフィルタ、燃料フィルタ、トランスミッションオイルフィルタや、家庭用の掃除機のフィルタ、空気清浄器などといった各種フィルタのフィルタエレメントには、濾紙や不織布が広く用いられている(たとえば、特許文献1、特許文献2参照)。
【0003】
濾紙や不織布を原料とするフィルタエレメントは、濾過効率が高いという利点を有する。しかしながら、濾紙や不織布を原料とするフィルタエレメントは、再利用が困難であり、一般的には使用後に廃棄処分される。濾紙の原料はパルプであり、原料を得るためには多くの木材が必要である。また使用後は、一般的には焼却処分か埋め立て処分される。このように、濾紙を原料とするフィルタエレメントは、製造から廃棄に至るまで、環境にかかる負荷が大きい。一方、不織布の原料は、石油などにより製造される合成樹脂であり、やはり使用後の処分は環境にかかる負荷が大きい。
【0004】
長寿命や繰り返し使用できるフィルタエレメントとしては、金属線からなるフィルタエレメントが提案されている。たとえば、特許文献3には、金属メッシュからなるフィルタエレメントが記載されている。金属は濾紙や不織布に比較して耐久性が高いため、フィルタエレメントに適用すると寿命を長くできる。また、金属メッシュからなるフィルタエレメントは、洗浄することにより繰り返し使用できる。このため、廃棄物の量を減少させることができ、環境にかける負荷を小さくすることができる。
【0005】
しかしながら、金属からなるフィルタエレメントは、濾紙や不織布からなるフィルタエレメントに比較して、濾過効率が低いという問題点を有する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2009−066531号公報
【特許文献2】特開2009−220092号公報
【特許文献3】特開2001−324422号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記実情に鑑み、本発明が解決しようとする課題は、フィルタのエレメントに適用した場合に濾過効率の向上を図ることができる金属線成形体を提供すること、または、濾過効率の向上を図ることができるフィルタを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記課題を解決するため、本発明にかかる金属線成形体は、金属線からなる網状体または塊状体を圧縮して塑性変形させて成形される金属線成形体であって、互いに線径が異なる金属線からなる複数の部分を有し、前記複数の部分どうしが一体に結合していることを特徴とする。
【0009】
前記複数の部分どうしは前記金属線が互いに入り組むことによって一体に結合していることを特徴とする。
【0010】
前記複数の部分どうしが層状に積層していることを特徴とする。
【0011】
本発明にかかる金属線成形体は、略環状または筒状に成形され、前記互いに線径が異なる金属線からなる部分が同心状に積層して成形されることを特徴とする。
【0012】
前記外側と前記内周側の少なくとも一方には凹凸が成形されることを特徴とする。
【0013】
また、本発明にかかる金属線成形体は、略板状に成形され、前記互いに線径が異なる金属線から成形される複数の部分が厚さ方向に積層して成形されることを特徴とする。
【0014】
本発明にかかる金属線成形体は、厚さ方向の少なくとも一方の面には凹凸が成形されることを特徴とする。
【0015】
本発明にかかるフィルタは、前記金属線成形体をフィルタエレメントとして備えることを特徴とする。
【0016】
前記金属線成形体は、前記互いに線径が異なる金属線からなる複数の部分のうちの線径が大きい金属線からなる部分が、濾過対象となる流体の流動方向の上流側に位置し、線径が小さい金属線からなる部分が、前記濾過対象となる流体の流動方向の下流側に位置するように配置されることを特徴とする。
【発明の効果】
【0017】
本発明にかかる金属線成形体は、フィルタエレメントに用いると、フィルタの濾過効率の向上を図ることができる。すなわち、本発明にかかる金属線成形体は、濾過の対象の流体に含まれる異物のうち、寸法が大きいものを、複数の互いに線径が異なる金属線からなる部分のうちの線径が大きい金属線からなる部分において捕獲して除去し、寸法が小さいものを、線径が小さい金属線からなる部分において捕獲して除去する。このため、寸法が大きい異物が、線径が小さい金属線からなる部分に到達して目詰まりすることを防止または抑制できる。したがって、フィルタエレメントとしての機能を維持する時間を長くすることができる。そして、寸法の小さい異物は、線径が小さい金属線からなる部分において除去されるから、濾過効率の向上を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】図1(a)は、本発明の第一実施形態にかかる金属線成形体の構成を模式的に示した外観斜視図であり、図1(b)は、本発明の第二実施形態にかかる金属線成形体の構成を模式的に示した外観斜視図である。
【図2】図2は、本発明の第一実施形態と第二実施形態にかかる金属線成形体の製造方法を、模式的に示した図である。
【図3】図3は、本発明の第一実施形態および第二実施形態の変形形態および別の変形形態にかかる金属線成形体を示した図である。
【図4】図4(a)は、本発明の第三実施形態にかかる金属線成形体の構成を模式的に示した外観斜視図であり、図4(b)は、本発明の第四実施形態にかかる金属線成形体の構成を模式的に示した外観斜視図である。
【図5】図5は、本発明の第三実施形態と第四実施形態にかかる金属線成形体の製造方法を、模式的に示した図である。
【図6】図6は、本発明の第三実施形態および第四実施形態の変形形態および別の変形形態にかかる金属線成形体を示した図である。
【図7】図7は、本発明の第一実施形態にかかるフィルタの構成を、模式的に示した断面図である。
【図8】図8は、本発明の第二実施形態にかかるフィルタの構成を、模式的に示した断面図である。
【図9】図9は、本発明の第一実施形態にかかる金属線成形体が緩衝材として適用された自動車のエンジンの排気管の構成を、模式的に示した断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下に、本発明の実施形態について、図面を参照して詳細に説明する。
【0020】
図1(a)は、本発明の第一実施形態にかかる金属線成形体1aの構成を、模式的に示した外観斜視図である。図1(b)は、本発明の第二実施形態にかかる金属線成形体1bの構成を、模式的に示した外観斜視図である。
【0021】
本発明の第一実施形態にかかる金属線成形体1aは、図1(a)に示すように、全体として略環状(換言すると、略筒状)の形状を有する。そして、本発明の第一実施形態にかかる金属線成形体1aは、複数の互いに線径が異なる金属線からなる部分11a,12aを有する。そして、これらの複数の互いに線径が異なる金属線からなる部分11a,12aが、環(筒)の半径方向に積層する構成を有する。換言すると、複数の互いに線径が異なる金属線からなる部分11a,12aが、略同心に設けられて積層する構成を有する。図1(a)においては、複数の互いに線径が異なる金属線からなる部分11a,12aとして、環(または筒)の外周側に成形される第一の部分11aと、内周側に成形される第二の部分12aとの二つの部分が成形される構成を示す。そして、第一の部分11aと第二の部分12aとが、環(または筒)の半径方向に積層する構成(=略同心に設けられて積層する構成)を有する。
【0022】
なお、第一の部分11aを構成する金属線の線径と、第二の部分12aを構成する金属線の線径とは、いずれが大きくいずれが小さいかは限定されるものではなく、適宜設定される。たとえば、本発明の第一実施形態にかかる金属線成形体1aがフィルタエレメントに用いられる場合には、濾過対象の流体の通過方向の上流側に線径が大きい金属線から成形される部分が位置し、下流側に線径が小さい金属線金属線から成形される部分が位置することができるような構成が適用される。換言すると、濾過対象の流体の通過方向に沿って、複数の互いに線径が異なる部分11a,12aが積層する構成が適用される。たとえば、本発明の第一実施形態にかかる金属線成形体1aに、環(または筒)の外周側から内周側に向けて流体を通過させて濾過する場合には、外周側に成形される第一の部分11aが、内周側に成形される第二の部分12aよりも、線径が大きい金属線により成形される。このように、本発明の第一実施形態にかかる金属線成形体1aが、フィルタエレメントに用いられる場合には、濾過対象の流体の通過方向に応じて、第一の部分11aと第二の部分12aのそれぞれを構成する金属線の径の大小関係を決定すればよい。
【0023】
第一の部分11aと第二の部分12a(すなわち、複数の互いに線径が異なる金属線からなる部分)を構成する金属線の材質は、特に限定されるものではない。たとえば、ステンレス鋼線(たとえば、SUS303、SUS304、SUS430など)や、ニッケル基の合金(たとえば、インコネル(登録商標)など)や、真鍮線などが適用される。なお、強磁性体の異物を除去するフィルタエレメントに適用される場合には、第一の部分11aと第二の部分12aの少なくとも一方が、強磁性体により成形される構成が適用できる(後述)。また、第一の部分11aと第二の部分12aとで、金属線の材質が異なってもよい。たとえば、第一の部分11aと第二の部分12aの一方がステンレス鋼線により成形され、他方が真鍮線により成形される構成が適用できる。
【0024】
また、強磁性体の異物を除去するフィルタエレメントに適用される場合には、互いに線径が異なる金属線からなる複数の部分のうちの少なくとも一つが、強磁性体により成形される構成であればよい。
【0025】
また、第一の部分11aと第二の部分12aを構成する金属線の線径は、互いに異なればよく、具体的な線径は限定されない。
【0026】
さらに、互いに線径が異なる金属線からなる部分の数は限定されるものではない。たとえば三つ以上の互いに線径が異なる金属線からなる部分が成形される構成であってもよい。この場合には、外周側から内周側に向かって、各部分を構成する金属線の線径が徐々に小さくなる構成、または徐々に大きくなる構成が適用される。たとえば、最も外周側に成形される部分と、最も内周側に成形される部分との間に、それらの中間の線径の金属線により成形される部分が設けられる構成が適用できる。すなわち、本発明の第一実施形態にかかる金属線成形体1aが、フィルタエレメントに用いられる場合には、濾過対象の流体の通過方向に沿って複数の互いに線径が異なる金属線からなる部分が積層する構成を有し、さらに、前記各部分は、それらを構成する金属線の線径が、前記通過方向の上流側から順に小さくなるように積層する構成が適用できる。
【0027】
本発明の第二実施形態にかかる金属線成形体1bは、図1(b)に示すように、全体として略環状(略筒状)の形状を有する。そして、凹凸13が、環(または筒)の外周面と内周面に相当する部分に成形される。たとえば、図1(b)に示すように、環(または筒)の肉厚方向(半径方向)の中心線が、九十九折状の形状を有する。そして、三角波状の凹凸13が円周方向に連続して成形されることにより、全体として、凹凸13が、環(または筒)の外周面と内周面に相当する部分に成形される構成を有する。なお、凹凸13の形状は、図1(b)に示すような三角波状の形状に限定されるものではない。たとえば、正弦波状や矩形波状の凹凸が適用できる。また、凹凸13は周期的に成形される構成でなくてもよく、円周方向に沿って不規則な間隔で成形される構成であってもよい。
【0028】
さらに、凹凸13が周方向に沿って成形される構成のほか、環や筒の軸線方向に沿って成形される構成であってもよい。たとえば、本発明の第二実施形態にかかる金属線成形体1bが、全体として蛇腹のような形状を有する構成であってもよい。このほか、凹凸13が円周方向および軸線方向の両方に沿って成形される構成であってもよい。
【0029】
そして、本発明の第二実施形態にかかる金属線成形体1bには、複数の互いに線径が異なる金属線からなる複数の部分として、第一の部分11bと第二の部分12bが成形される。第一の部分11bおよび第二の部分12bの構成は、本発明の第一実施形態にかかる金属線成形体1aの第一の部分11aと第二の部分12aのそれぞれと同じである。また、互いに線径が異なる部分の数が二つに限定されないという構成についても、本発明の第一実施形態にかかる金属線成形体1aと同じである。したがって、説明は省略する。
【0030】
また、図2(b)においては、凹凸13が、環(または筒)の外周面と内周面の両方に成形される構成を示すが、いずれか一方にのみ成形される構成であってもよい。すなわち、二つの互いに線径が異なる金属線からなる部分(=第一の部分11bと第二の部分12b)が成形される構成においては、凹凸13が、第一の部分11bと第二の部分12bの両方の表面に成形される構成であってもよく、一方のみの表面にのみ成形される構成であってもよい。
【0031】
そして、本発明の第二実施形態にかかる金属線成形体1bがフィルタエレメントとして適用される場合には、凹凸13が、濾過対象の流体の通過方向の上流側に成形される構成であってもよい。線径が大きい金属線からなる部分が、濾過対象の流体の流動方向の上流側に位置する構成においては、凹凸13が、線径の大きい金属線からなる部分の表面に成形される構成が適用できる。すなわち、本発明の第二実施形態にかかる金属線成形体1bは、複数の互いに線径が異なる金属線からなる部分(=第一の部分11bと第二の部分12b)を有し、線径が大きい金属線からなる部分の表面に、凹凸13が成形されるという構成であってもよい。
【0032】
本発明の第一実施形態と第二実施形態にかかる金属線成形体1a,1bの全体的な寸法および形状は、図1(a)(b)に示す構成に限定されるものではない。図1(a)(b)においては、半径方向寸法が軸線方向寸法よりも大きい構成を示すが、軸線方向寸法が半径方向寸法よりも大きい構成であってもよい。また、半径方向寸法や、第一の部分11a,11bと第二の部分12a,12bの半径方向の寸法比(厚さの比)も、限定されるものではない。これら各部の具体的な寸法は、適宜設定されうる。
【0033】
次に、本発明の第一実施形態と第二実施形態にかかる金属線成形体1a,1bの製造方法について説明する。図2は、本発明の第一実施形態と第二実施形態にかかる金属線成形体1a,1bの製造方法を、模式的に示した図である。本発明の第一実施形態と第二実施形態にかかる金属線成形体1a,1bは、金属線からなる網状体21、または金属線からなる塊状体から製造される。なお、図2においては、金属線からなる網状体21から製造される方法を示す。
【0034】
金属線からなる網状体21には、金属線を筒状に編んだ構成のものが適用できる。金属線の編み方は特に限定されるものではなく、種々の編み方により筒状に編まれた網状体が適用できる。たとえば、いわゆる「メリヤス編み」により編まれた網状体が好適に適用できる。いわゆる「メリヤス編み」により編まれた網状体は、その端部において金属線の端切れが生じにくい。さらに、筒の端部に金属線の素線の端末(先端)が現れない(または現れる数を少なくできる)。このため、本発明の第一の実施形態と第二実施形態にかかる金属線成形体1a,1bから、金属線の端切れが分離して異物となることを防止できる。さらに、本発明の第一の実施形態と第二実施形態にかかる金属線成形体1a,1bが他の部材などに触れた場合であっても、当該他の部材などにキズが付くことを防止または抑制できる。一方、金属線からなる塊状体には、単数または複数の金属線を密集させて絡ませてブロック状に成形された部材が適用される。たとえば、市販の各種「金属たわし」のような構成を有する部材が適用できる。
【0035】
なお、本発明の第一実施形態と第二実施形態にかかる金属線成形体1a,1bの材料は、金属線であればよく、金属線からなる網状体21や塊状体に限定されるものではない。たとえば、金属線からなる単純なシート状の網状体であってもよい。また、金属線を密集させて成形した棒状体であってもよい。
【0036】
また、網状体21や塊状体を構成する金属線の線径は、特に限定されるものではなく、本発明の第一実施形態と第二実施形態にかかる金属線成形体1a,1bの機能や用途に応じて適宜設定される。
【0037】
網状体21から製造する場合には、まず、図2(a)に示すように、網状体21を、その一端から、その外側(=筒の外周面)に重ねていくように巻き上げる。そうすると、図2(b)に示すように、環状体211,212(具体的には、ドーナツのような形状を有する構造物)が得られる。一方、塊状体から製造される場合には、塊状体を(たとえば粘土細工のようにして)略環状に成形する。そして、複数の(ここでは、二つの)互いに線径が異なる金属線からなる環状体211,212を、互いに線径が異なる金属線からなる網状体21から製作する。
【0038】
次いで、図2(c)に示すように、複数の環状体211,212を、略同心に重ね合わせる。二つの環状体211,212から製造する場合には、一方の環状体212を、他方の環状体211の内側に挿入する。なお、図2(c)においては、内側に挿入される環状体212が、外側の環状体211よりも小さい構成を示すが、これは説明の便宜のためであり、本発明がこのような構成に限定されるものではない。金属線からなる環状体211,212は、変形が容易であることから、作成された際の大きさや形状にかかわらず、容易に一方の環状体212を他方の環状体212の内側に挿入できる。
【0039】
そして、複数の環状体211,212を組み合わせたものを、金型などによって圧縮して塑性変形させる。そうすると、複数の環状体211,212を組み合わせたものは、全体として所定の形状(=本発明の第一実施形態または第二実施形態にかかる金属線成形体1a,1bの完成体の形状)に成形される。さらに、複数の環状体211,212どうしの接触面においては、圧縮変形により金属線どうしが互いに入り組む(換言すると、互いに噛み合う)。このため、複数の環状体211,212が、互いに分離困難に一体に結合する。そして、図2に示す例においては、一方の金属線からなる環状体212と他方の金属線からなる環状体211が、それぞれ、第一の部分11a,11bと第二の部分12a,12bとなる。このようにして、本発明の第一実施形態と第二実施形態にかかる金属線成形体1a,1bが製造される。
【0040】
複数の環状体211,212の組み合わせの加圧には、たとえば、雌型と雄型とからなる金型を用いることができる。そして、雌型に成形される凹部に二つの金属線からなる環状体211,212を挿入し、挿入した二つの環状体211,212に、雄型を押し付けるという方法が適用できる。雌型と雄型とにより圧縮された複数の環状体211,212は、塑性変形して、所定の寸法および形状(=雌型と雄型との間に形成される空間の寸法および形状)となる。したがって、雌型および雄型の寸法および形状を適宜設定することによって、種々の寸法および形状を有する金属線成形体が製造される。すなわち、単純な略円形の凹部が成形された雌型と、これに係合可能な雄型とを用いると、図2(d)と図1(a)に示すような、本発明の第一実施形態にかかる金属線成形体1aが製造される。また、凹凸を有する略円形の凹部が成形された雌型とこれに係合可能な雄型とを用いると、図2(d)と図1(b)に示すような、本発明の第二実施形態にかかる金属線成形体1bが製造される。さらに、金型の寸法および形状を適宜設定することにより、図2(d)、図1(a),(b)に示す形状に限らず、種々の寸法および形状の金属線成形体を製造することができる。
【0041】
なお、三つ以上の互いに線径が異なる金属線からなる部分を有する金属成形体を製造する場合には、三つ以上の互いに径が異なる金属線からなる網状体または塊状体から環状体を成形し、成形した環状体を同心状に組み合わせ、加圧すればよい。そうすると、三つ以上の環状体は、それぞれ、複数の互いに線径が異なる金属線からなる部分になる。このように、互いに線径が異なる金属線からなる部分の数は限定されるものではない。前記方法により、任意の数の互いに線径が異なる金属線からなる部分を有する金属成形体を製造することができる。
【0042】
また、圧縮時に金属線からなる環状体211,212に加える圧力(換言すると、金属線からなる環状体211,212の塑性変形の程度)は、金属線の径や、本発明の第一実施形態と第二実施形態にかかる金属線成形体1a,1bに持たせる機能に応じて、適宜設定される。
【0043】
本発明の第一実施形態と第二実施形態にかかる金属線成形体1a,1bは、次のような作用効果を奏する。
【0044】
互いに線径が異なる金属線からなる部分には、金属線どうし間に、流体が通過可能な隙間が成形される。そして、線径が小さい金属線からなる部分に成形される隙間の寸法は、線径が大きい金属線からなる部分に成形される隙間の寸法よりも小さくなる。すなわち、金属線どうしの間に成形される隙間の寸法は、金属線の径に応じて決まる。そして、金属線の径が大きくなると、隙間の寸法が大きくなり、金属線の径が小さくなると、隙間の寸法が小さくなる。このように、互いに線径が異なる金属線からなる部分は、「フィルタエレメントの目の細かさ」が互いに相違することになる。したがって、本発明の第一実施形態と第二実施形態にかかる金属線成形体1a,1bは、複数の互いに目の細かさが相違するフィルタエレメントが一体に積層する構成を有する。
【0045】
本発明の第一実施形態と第二実施形態にかかる金属線成形体1a,1bは、フィルタエレメントとして用いられると、濾過される流体に含まれる異物(=除去すべき物体)のうち、まず、寸法が大きいものが、線径が大きい金属線からなる部分において捕獲されて除去され、次いで、寸法が小さいものが、線径が小さい金属線からなる部分において捕獲されて除去される。このため、線径が小さい金属線からなる部分は、寸法が大きい異物が到達して目詰まりすることを防止または抑制される。したがって、フィルタエレメントとしての機能を維持する時間を長くすることができる。そして、寸法の小さい異物が、線径が小さい金属線からなる部分において除去されるから、寸法の小さい異物も除去でき、濾過効率の向上を図ることができる。さらに、本発明の第二実施形態にかかる金属線成形体1bによれば、表面に凹凸13が成形されるから、濾過対象の流体と接触する面積が大きくなる。このため、濾過効率のさらなる向上を図ることができる。
【0046】
また、本発明の第一実施形態と第二実施形態にかかる金属線成形体1a,1bは、金属線により成形される構成であるため、濾紙や不織布などから製造される構成に比較して、耐久性が高い。このため、フィルタエレメントとして用いた場合には、洗浄すれば繰り返し使用できる。たとえば、濾過時における流体の通過方向とは逆方向に流体(たとえば洗浄液)を流すことによって、本発明の第一実施形態と第二実施形態にかかる金属線成形体1a,1bの内部に残留する異物(捕獲された異物)を除去することができる。このように、濾過の能力が低下した場合には、洗浄することによって濾過の能力を回復させることができるから、繰り返し使用できる。そして繰り返し使用できるから、使い捨ての構成に比較して、使用する個数を減らすことができ、製造工程における環境に対する負荷を小さくすることができる。さらに、金属であるからリサイクルが容易であり、廃棄物の量を少なくできる(または廃棄物をほとんど出さない)。したがって、環境に対する負荷を低減することができる。
【0047】
また、複数の互いに線径が異なる金属線からなる部分(=第一の部分11aと第二の部分12a)が分離困難に一体化しているから、使用中や取扱い時に分離することがなく、取り扱いが便利である。さらに、複数の互いに線径が異なる金属線からなる部分は、圧縮によって金属線が互いに入り込むことによって一体化するから、複数の互いに線径が異なる金属線からなる部分どうしを結合するための別個の工程や材料が不要である。このため、製造コストの上昇の防止もしくは抑制を図ることができる。したがって、安価に製造することができる。
【0048】
次に、本発明の第一実施形態および第二実施形態の変形形態にかかる金属線成形体1a’について説明する。図3(a)は、本発明の第一実施形態および第二実施形態の変形形態にかかる金属線成形体1a’の構成を模式的に示した部分断面図である。なお、本発明の第一実施形態および第二実施形態にかかる金属線成形体1a,1bと共通する構成については、説明を省略することがある。
【0049】
図3(a)に示すように、本発明の第一実施形態および第二実施形態の変形形態にかかる金属線成形体1a’は、全体として略環状(換言すると、略筒状)の形状を有する。そして、半径方向に沿って切断した切断面の隅部には、面取りが施されたような態様の傾斜面Cが形成される。このような構成であると、本発明の第一実施形態および第二実施形態の変形形態にかかる金属線成形体1a’の製造に必要な材料の量を少なくすることができる。このため、材料費の低廉化を図ることができる。さらに、傾斜面Cが形成される構成であると、傾斜面Cが形成されない構成に比較して、機械などへの組み付けが容易となる。すなわち、傾斜面Cがガイドになるから、狭い空間、たとえば、本発明の第一実施形態および第二実施形態の変形形態にかかる金属線成形1a’と略同じ寸法および形状の空間に、スムーズにはめ込むことができる。
【0050】
これ以外の構成は、本発明の第一実施形態および第二実施形態にかかる金属線成形1a,1bと同じ構成が適用できる。また、製造方法も、本発明の第一実施形態および第二実施形態にかかる金属線成形1a,1bと同じ製造方法が適用できる。この場合においては、互いに線径が異なる金属線からなる複数の環状体211,212を圧縮する工程において、併せて傾斜面Cを形成すればよい。たとえば、傾斜面Cを形成する部分を有する金型を用いればよい。なお、図3(a)においては、本発明の第一実施形態および第二実施形態の変形形態にかかる金属線成形1a’が、略環状に形成される構成を示すが、図1(b)に示すように、凹凸が形成される構成であってもよい。
【0051】
なお、複数の互いに線径が異なる金属線からなる部分を有さない金属線成形体(換言すると、単一の線径の金属線からなる金属線成形体)に対しても、傾斜面Cを形成する構成が適用できる。図3(b)は、本発明の第一実施形態および第二実施形態の別の変形形態にかかる金属線成形1a”の構成を模式的に示した部分断面図である。この別の変形形態にかかる金属線成形1a”は、単一の線径の金属線からなる単一の部分を有し、複数の互いに線径が異なる金属線からなる部分を有さない。この別の変形形態にかかる金属線成形体1a”は、略環状に形成され、半径方向に沿って切断した切断面の隅部には、面取りが施されたような態様の傾斜面Cが形成される。それ以外の構成は、本発明の第一実施および第二実施形態にかかる金属線成形体1a,1bと同じ構成が適用できる。
【0052】
このように、面取りが施されたような態様の傾斜面Cが形成されるという構成は、単一の線径の金属線からなり、複数の互いに線径が異なる金属線からなる部分を有さない金属線成形体1a”にも適用できる。そして、このような構成によれば、前記変形形態にかかる金属線成形体1a’と同様の作用効果を奏することができる。
【0053】
この別の変形形態にかかる金属線成形体1a”の製造方法は、材料として単一の線径を有する金属線が適用されるという構成を除いては、前記変形形態にかかる金属線成形体1a’と同じ製造方法が適用できる。
【0054】
次に、本発明の第三実施形態と第四実施形態にかかる金属線成形体1c,1dについて説明する。図4(a)は、本発明の第三実施形態にかかる金属線成形体1cの構成を、模式的に示した外観斜視図である。図4(b)は、本発明の第四実施形態にかかる金属線成形体1dの構成を、模式的に示した外観斜視図である。
【0055】
本発明の第三実施形態と第四実施形態にかかる金属線成形体1c,1dは、それぞれ、図4(a),(b)に示すように、全体として略平板状また、略ブロック状の形状を有する。本発明の第三実施形態と第四実施形態にかかる金属線成形体1c,1dは、それぞれ、複数の互いに線径が異なる金属線からなる部分11c,11d,12c,12dを有する。これらの複数の互いに線径が異なる金属線からなる部分11c,11d,12c,12dが、板の厚さ方向またはブロックの所定の方向に積層する構成を有する。図4(a),(b)においては、複数の互いに線径が異なる金属線からなる部分として、第一の部分11c,11dと第二の部分12c,12dとの二つの部分が成形される構成を示す。そして、第一の部分11c,11dと第二の部分12c,12dとが、板の厚さ方向(またはブロックの所定の方向)に積層する構成を有する。すなわち、第一の部分11c,11dは、板の厚さ方向の一方側(またはブロックの所定の方向の一端側)に成形され、第二の部分11d,12dは、板の厚さ方向の他方側(またはブロックの所定の方向の他端側)に成形される。
【0056】
第一の部分11c,11dと第二の部分12c,12d(=複数の互いに線径が異なる金属線からなる部分)の構成は、本発明の第一実施形態と第二実施形態にかかる金属線成形体1a,1bの第一の部分11aと第二の部分12aのそれぞれと同じ構成が適用できる。したがって、説明は省略する。本発明の第三実施形態と第四実施形態にかかる金属線成形体1c,1dをフィルタエレメントに用いる場合には、濾過対象の通過方向の上流側に線径が大きい金属線から成形される部分が位置し、下流側に線径が小さい金属線が位置することができるような構成であることが好ましい。具体的には、本発明の第三実施形態と第四実施形態にかかる金属線成形体1c,1dに、第一の部分11c,11dの側から第二の部分12c,12dの側に向けて流体を通過させて濾過する場合には、第一の部分11c,11dが、第二の部分12c,12dよりも、線径が大きい金属線により成形される構成が適用される。
【0057】
さらに、本発明の第四実施形態にかかる金属線成形体1dの表面には、凹凸14が成形される。たとえば、図4(b)に示すように、厚さ方向の中心線が、九十九折状の形状を有するように成形される。なお、図4(b)においては、凹凸14が、厚さ方向の面の両方(またはブロックの互いに背合わせの面の両方)に成形される構成を示すが、いずれか一方にのみ成形される構成であってもよい。すなわち、二つの互いに線径が異なる金属線からなる部分(=第一の部分11dと第二の部分12d)が成形される構成においては、凹凸14が、第一の部分11dと第二の部分12dの両方の表面に成形される構成であってもよく、一方のみの表面にのみ成形される構成であってもよい。
【0058】
本発明の第四実施形態にかかる金属線成形体1dがフィルタエレメントに用いられる場合には、凹凸14が、濾過対象の流体の通過方向の上流側に成形される構成であってもよい。そして、濾過対象の流体の流動方向の上流側に、線径が大きい金属線からなる部分が位置する構成であれば、凹凸14が、線径の大きい金属線からなる部分の表面に成形される構成が適用できる。このように、全体として、本発明の第四実施形態にかかる金属線成形体1dは、複数の互いに線径が異なる金属線からなる部分(=第一の部分11dと第二の部分12d)を有し、線径が大きい金属線からなる部分の表面に、凹凸14が成形されるという構成であってもよい。
【0059】
次に、本発明の第三実施形態と第四実施形態にかかる金属線成形体1c,1dの製造方法について説明する。なお、本発明の第一実施形態と第二実施形態にかかる金属線成形体1a,1bの製造方法と同じ部分については、説明を省略することがある。図5は、本発明の第三実施形態と第四実施形態にかかる金属線成形体1c,1dの製造方法を、模式的に示した図である。本発明の第三実施形態と第四実施形態にかかる金属線成形体1c,1dは、網状体21または塊状体から製造される。図5においては、網状体21から製造する方法を示す。網状体21と塊状体は、本発明の第一実施形態と第二実施形態にかかる金属線成形体1a,1bの製造方法で説明したものと同じものが適用できる。
【0060】
網状体21から製造する場合には、まず、図5(a)に示すように、網状体21の一端から、その外側(=筒の外周面)に折り重ねていく。そうすると、所定の肉厚を有する筒状体が作成される。そして、作成された筒状体を、側方から圧縮することにより、所定の厚さを有する板状体または塊状体213,214が作成される。そして、この複数の(ここでは二つの)互いに線径が異なる金属線からなる板状体または塊状体213,214を、互いに線径が異なる金属線からなる網状体21から作成する。一方、塊状体から製造される場合には、そのままでよい。
【0061】
次いで、図5(c)に示すように、複数の互いに線径が異なる金属線からなる板状体または塊状体213,314を重ね合わせる。そして、重ね合わせた板状体または塊状体213,214を、プレス機などによって重ね合わせの方向に圧縮する。そうすると、複数の板状体または塊状体213,214は、塑性変形して、全体として板状またはブロック状の形状(=本発明の第三実施形態または第四実施形態にかかる金属線成形体1c,1dの完成体の形状)に成形される。さらに、板状体または塊状体213,214どうしの接触面においては、圧縮変形により金属線どうしが互いに入り組む(換言すると、互いに噛み合う)。このため、複数の板状体または塊状体213,214が、互いに分離困難に一体に結合する。そして、二つの板状体または塊状体213,214により製造される場合には、二つの板状体または塊状体213,214のうちの一方が、第一の部分11c,11dとなり、他方が第二の部分12c,12dとなる。このようにして、本発明の第三実施形態と第四実施形態にかかる金属線成形体1c,1dが製造される。
【0062】
複数の板状体または塊状体213,214の加圧には、公知の各種プレス装置が適用できる。表面が略平面に形成されるプレス型を用いると、図5(d)と図4(a)に示すように、略平板状または表面が略平面のブロック状の本発明の第三実施形態にかかる金属線成形体1cが成形される。一方、表面に凹凸が形成されるプレス型を用いると、プレス型の表面の凹凸の形状が転写され、図5(d)と図4(b)に示すように、表面に凹凸が形成される本発明の第四実施形態にかかる金属線成形体1dが製造される。このように、プレス型の表面の形状を適宜設定することにより、本発明の第三実施形態にかかる金属線成形体1cと、本発明の第四実施形態にかかる金属線成形体1dとを作り分けることができる。さらに、プレス型の表面の凹凸を適宜設定することにより、本発明の第四実施形態にかかる金属成形体1dの凹凸14の寸法や形状を、適宜設定することができる。
【0063】
本発明の第三実施形態と第四実施形態にかかる金属線成形体1c,1dは、本発明の第一実施形態と第二実施形態にかかる金属線成形体1a,1bと同様の作用効果を奏する。したがって、作用効果の説明は省略する。
【0064】
次に、本発明の第三実施形態および第四実施形態の変形形態にかかる金属線成形体1c’について説明する。図6(a)は、本発明の第三実施形態および第四実施形態の変形形態にかかる金属線成形体1c’構成を模式的に示した外観斜視図であり、図6(b)は、図6(a)のA−A線断面図である。なお、本発明の第三実施形態および第四実施形態にかかる金属線成形体1c,1dと共通する構成については、説明を省略することがある。
【0065】
図6(a)に示すように、本発明の第三実施形態および第四実施形態の変形形態にかかる金属線成形体1c’は、全体として略平板状また、略ブロック状の形状を有する。本発明の第三実施形態および第四実施形態の変形形態にかかる金属線成形体1c’は、複数の互いに線径が異なる金属線からなる部分11c,11dを有する。そして、これらの複数の互いに線径が異なる金属線からなる部分11c,11dが、板の厚さ方向またはブロックの所定の方向に積層する構成を有する。さらに、本発明の第三実施形態および第四実施形態の変形形態にかかる金属線成形体1c’の周縁部には、他の部分に比較して厚さが薄い部分19が形成される。この厚さが薄い部分19は、他の部分に比較して金属線の圧縮変形の度合いが大きい。たとえば、厚さが薄い部分19においては、金属線がカシメられた態様で互いに結合している。
【0066】
これ以外の構成は、本発明の第三実施形態および第四実施形態にかかる金属線成形1c,1dと同じ構成が適用できる。また、製造方法も、本発明の第三実施形態および第四実施形態にかかる金属線成形1c,1dと同じ製造方法が適用できる。この場合においては、互いに線径が異なる金属線からなる複数の板状体または塊状体213,214を圧縮する工程において、周縁部の圧縮変形量を、他の部分の圧縮変形量に比較して大きくすればよい。たとえば、厚さが薄い部分19を形成するための段差面を有する金型を用いて、複数の板状体または塊状体213,214を圧縮する方法が適用できる。なお、図6(a)においては、本発明の第三実施形態および第四実施形態の変形形態にかかる金属線成形1c’が、略平板状に形成される構成を示すが、図4(b)に示すように、凹凸が形成される構成であってもよい。
【0067】
このような構成であると、線径が互いに異なる複数の部分どうしの結合強度を高めることができる。すなわち、厚さが薄い部分においては、金属線どうしを互いにカシメる態様で結合させることができる。このため、他の部分に比較して、金属線どうしの結合強度を高めることができる。したがって、本発明の第三実施および第四実施形態の変形形態にかかる金属線成形体1c’によれば、互いに線径が異なる複数の部分が分離することを防止できる。さらに、周縁部から金属線が解けることが防止される。
【0068】
また、複数の互いに線径が異なる金属線からなる部分を有さない金属線成形体(換言すると、単一の線径の金属線からなる金属線成形体)に対しても、厚さが薄い部分が形成される構成が適用できる。図6(c)は、本発明の第三実施および第四実施形態の別の変形形態にかかる金属線成形1c”の構成を模式的に示した外観斜視図であり、図6(d)は、図6(c)のB−B線断面図である。この別の変形形態にかかる金属線成形1c”は、単一の線径の金属線からなり、複数の互いに線径が異なる金属線からなる部分を有さない。すなわち、図6(d)に示すように、別の変形形態にかかる金属線成形1c”は、全体として、単一の線径を有する金属線からなる単一の部分11c,11dを有する。
【0069】
このように、周縁部に他の部分よりも厚さが薄い部分19が形成される構成は、単一の線径の金属線からなり、複数の互いに線径が異なる金属線からなる部分を有さない金属線成形体1c”にも適用できる。そして、このような構成によれば、前記変形形態にかかる金属線成形体1c’と同様の作用効果を奏することができる。
【0070】
この別の変形形態にかかる金属線成形体1c”の製造方法は、材料として単一の線径を有する金属線からなる板状体または塊状体が適用されるという構成を除いては、前記変形形態にかかる金属線成形体1c’と同じ製造方法が適用できる。
【0071】
次に、本発明の各実施形態にかかるフィルタ5a,5bについて説明する。図7は、本発明の第一実施形態にかかるフィルタ5aの構成を、模式的に示した断面図である。図8は、本発明の第二実施形態にかかるフィルタ5bの構成を、模式的に示した断面図である。本発明の第一実施形態にかかるフィルタ5aは、フィルタエレメントとして、本発明の第一実施形態と第二実施形態にかかる金属線成形体1a,1bの一方を選択的に備える。本発明の第二実施形態にかかるフィルタ5bは、フィルタエレメントとして、本発明の第三実施形態と第四実施形態にかかる金属線成形体1c,1dの一方を選択的に備える。
【0072】
なお、本発明の各実施形態にかかるフィルタ5a,5bの種類(すなわち、濾過対象の流体の種類)は、特に限定されるものではない。たとえば、自動車のエアフィルタ、オイルフィルタ、燃料フィルタ、トランスミッションオイルフィルタ、クーラントフィルタや、家庭用の掃除機のフィルタ、空気清浄器のフィルタや、工作機械の潤滑オイルのフィルタ、冷却油のフィルタ、冷却水のフィルタなど、各種フィルタ(各種流体)に適用できる。
【0073】
本発明の第一実施形態にかかるフィルタ5aは、チャンバ51aと、本発明の第一実施形態または第二実施形態にかかる金属線成形体1a,1bとを有する。なお、ここでは、本発明の第一実施形態と第二実施形態にかかる金属線成形体1a,1bは、外周側に成形される第一の部分11a,11bが、線径の大きい金属線からなり、内周側に成形される第二の部分12a,12bが、線径の小さい金属線からなる構成を有するものとする。
【0074】
図7に示すように、チャンバ51aは、内部に空洞が形成される容器であり、その内部には本発明の第一実施形態と第二実施形態にかかる金属線成形体1a,1bの一方が選択的に配設される。このため、チャンバ51aの内部には、本発明の第一実施形態または第二実施形態にかかる金属線成形体1a,1bの外周側と内周側とに、それぞれ部屋(空間)511a,512aが形成される。そして、チャンバ51aには、入口513aと出口514aとが設けられる。入口511aは、本発明の第一実施形態または第二実施形態にかかる金属線成形体1a,1bの第一の部分11a(=線径が大きい金属線からなる部分)が面する部屋(図7においては、外周側の部屋)511aと、チャンバ51aの外部とを連通する。出口514aは、本発明の第一実施形態または第二実施形態にかかる金属線成形体1a,1bの第二の部分12a(=線径が小さい金属線からなる部分)が面する部屋(図7においては、内周側の部屋)512aと、チャンバ51aの外部とを連通する。
【0075】
このような構成によれば、流体は、まず、入口513aを通じて、本発明の第一実施形態または第二実施形態にかかる金属線成形体1a,1bの外側に形成される部屋511aに流入する。流入した流体は、本発明の第一実施形態または第二実施形態にかかる金属線成形体1a,1bを通過する。通過した流体は、本発明の第一実施形態または第二実施形態にかかる金属線成形体1a,1bの内周側に形成される部屋512aに流入し、さらに出口514aからチャンバ51aの外部に流出する。そして、流体が本発明の第一実施形態または第二実施形態にかかる金属線成形体1a,1bを通過する際に、流体に混入している異物が除去される。すなわち、流体は、本発明の第一実施形態または第二実施形態にかかる金属線成形体1a,1bにより濾過される。
【0076】
本発明の第二実施形態にかかるフィルタ5bは、チャンバ51bと、本発明の第三実施形態または第四実施形態にかかる金属線成形体1c,1dとを有する。ここでは、本発明の第三実施形態と第四実施形態にかかる金属線成形体1c,1dは、第一の部分11c,11dが、線径が大きい金属線からなり、第二の部分12c,12dが線径が小さい金属線からなる構成を有するものとして説明する。
【0077】
図8に示すように、チャンバ51bは内部に空洞が形成される容器であり、その内部には本発明の第三実施形態または第四実施形態にかかる金属線成形体1c,1dが配設される。そして、チャンバ51bの内部には、本発明の第三実施形態または第四実施形態にかかる金属線成形体1c,1dによって仕切られた二つの部屋511b,512cが形成される。さらに、チャンバには、入口513bと出口514bとが設けられる。入口513bは、本発明の第三実施形態または第四実施形態にかかる金属線成形体1c,1dの第一の部分11c,11d(=線径の大きい金属線からなる部分)が面する部屋511bと、チャンバ51bの外部とを連通する。出口514bは、第二の部分12c,12d(=線径の小さい金属線からなる部分)が面する部屋512bと、チャンバ51bの外部とを連通する。
【0078】
このような構成によれば、流体は、入口からチャンバの一方の部屋511bの内部に流入し、本発明の第三実施形態または第四実施形態にかかる金属線成形体1c,1dを通過して、他方の部屋512bの内部に達し、さらに出口512bからチャンバ51bの外部に流出する。そして、流体が本発明の第三実施形態または第四実施形態にかかる金属線成形体1c,1dを通過する際に、流体に混入している異物が除去される。すなわち、流体は、本発明の第三実施形態または第四実施形態にかかる金属線成形体1c,1dにより濾過される。
【0079】
このように、本発明の各実施形態にかかるフィルタ5a,5bには、本発明の各実施形態にかかる金属線成形体1a,1b,1c,1dが、フィルタエレメントとして設けられる。このため、本発明の各実施形態にかかるフィルタ5a,5bは、濾過効率の向上を図ることや、廃棄物の量を減らすことなどができる。すなわち、前記本発明の各実施形態にかかる金属線成形体1a,1b,1c,1dの作用効果を奏することができる。
【0080】
なお、本発明の各実施形態にかかるフィルタ5a,5bは、フィルタエレメントとして本発明の第一実施形態〜第四実施形態のいずれかにかかる金属線成形体1a,1b,1c,1dが適用される構成を除いては、従来一般のフィルタと同じ構成が適用できる。したがって、構成の詳細な説明は省略する。
【0081】
また、本発明の各実施形態にかかるフィルタ5a,5bは、複数の本発明の第一実施形態〜第四実施形態にかかる金属線成形体1a,1b,1c,1dを使用する構成であってもよい。たとえば、本発明の第一実施形態にかかるフィルタ5aにおいては、チャンバ51aの内部に、複数の本発明の第一実施形態と第二実施形態にかかる金属線成形1a,1bが略同心(換言すると略同軸)に配設される構成が適用できる。また、本発明の第二実施形態にかかるフィルタ5bにおいては、チャンバ51bの内部に、複数の本発明の第三実施形態と第四実施形態にかかる金属線成形1c,1dが略平行に配設される構成(流体の通過の方向に沿って直列に並べて配列される構成)が適用できる。このような構成によれば、濾過効率の向上を図ることができる。
【0082】
さらに、本発明の各実施形態にかかるフィルタ5a,5bは、本発明の各実施形態にかかる金属線成形体1a,1b,1c,1dと、他の種類のフィルタエレメント(たとえば、濾紙や不織布からなるフィルタエレメント)が併用される構成であってもよい。具体的にはたとえば、本発明の各実施形態にかかる金属線成形体1a,1b,1c,1dの濾過対象の流体の通過方向の下流側に、濾紙や不織布からなるフィルタエレメントが配設される構成が適用できる。すなわち、線径が小さい金属線からなる部分の表面に、濾紙や不織布からなるフィルタエレメントが設けられる(たとえば、貼り付けられる)構成が適用できる。
【0083】
このような構成によれば、流体は、本発明の各実施形態にかかる金属線成形体1a,1b,1c,1dにより濾過されたのちに、さらに濾紙や不織布などにより濾過される。したがって、さらなる濾過効率のさらなる向上を図ることができる。さらに、濾紙や不織布からなるフィルタエレメントにより除去する異物の量を少なくできるため、濾紙や不織布からなるフィルタエレメントの寿命を延ばすことができる。したがって、濾紙や不織布からなるフィルタエレメントのみを使用する構成と比較して、濾紙や不織布からなるフィルタエレメントの使用量を減らすことができ、廃棄物の量の減少を図ることができる。
【0084】
さらに、強磁性体の異物(磁石に吸着する異物)を除去するフィルタに適用する場合には、本発明の各実施形態にかかる金属線成形体1a,1b,1c,1dを、強磁性体の金属線により成形するとともに、本発明の各実施形態にかかる金属線成形体1a,1b,1c,1dを着磁する磁石を設ける構成が適用できる。このような構成によれば、本発明の各実施形態にかかる金属線成形体1a,1b,1c,1dが磁石によって磁化するため、流体の内部に含まれる強磁性体の異物が、本発明の各実施形態にかかる金属線成形体1a,1b,1c,1dに付着する。したがって、たとえば、径が小さい金属線からなる部分における金属線どうしの隙間よりも小さい異物を、除去することができる。このため、濾過効率のさらなる向上を図ることができる。このような構成は、たとえば、鉄粉などを除去する必要がある機械の潤滑油の濾過に用いるフィルタに好適に適用できる。
【0085】
なお、本発明の各実施形態にかかる金属線成形体1a,1b,1c,1dの適用対象は、フィルタエレメントに限定されるものではない。そこで、次に、本発明の各実施形態にかかる金属線成形体1a,1b,1c,1dが、自動車のエンジンの排気管の緩衝材として用いられる構成について説明する。本発明の各実施形態にかかる金属線成形体1a,1b,1c,1dは、金属線からなり、金属線どうしの間には隙間が成形される。したがって、本発明の実施形態にかかる金属線成形体1a,1b,1c,1dは、弾性変形可能である。したがって、弾性変形可能であるという特性を利用して、緩衝材に適用できる。
【0086】
図9は、本発明の各実施形態にかかる金属線成形体1a,1b,1c,1dが、自動車のエンジンの排気管6の緩衝材として用いられている状態を、模式的に示した断面図である。図9に示すように、排気管6は、内側管61と外側管62とが略同軸に配設される二重構造を有する。排気管6どうしの接続部分は、一方の内側管61の端部が他方の内側管61の外側に重畳し、一方の外側管62の端部が他方の外側管62の外側に重畳する。そして、本発明の各実施形態にかかる金属線成形体1a,1b,1c,1dが、排気管6どうしの接続部分に配設される。すなわち、本発明の実施形態にかかる金属線成形体1a,1b,1c,1dが、内側管61どうしの重畳箇所と外側管62どうしの重畳箇所の間に介在する。
【0087】
このような構成であると、内側管61の振動などは、本発明の各実施形態にかかる金属線成形体1a,1b,1c,1dにより吸収される。このため、内側管61の振動や衝撃が、外側管62に伝達することを防止または抑制できる。特に、本発明の各実施形態にかかる金属線成形体1a,1b,1c,1dは、互いに線径が異なる金属線からなる部分を有しており、これらの機械的な特性が相違する。たとえば、線径が大きい金属線からなる部分と線径が小さい金属線からなる部分とでは、弾性係数などが相違する。したがって、互いに線径が異なる金属線からなる部分が、それぞれ互いに異なる振幅や振動数の振動や衝撃を吸収することができる。さらに、本発明の各実施形態にかかる金属線成形体1a,1b,1c,1dは、金属線から成形されるため、樹脂などにより成形される構成と比較して耐熱性が高い。したがって、自動車の排気管などといった、高温の箇所に適用可能である。このように、本発明の各実施形態にかかる金属線成形体1a,1b,1c,1dは、緩衝材として用いることができる。
【0088】
また、この緩衝材として、本発明の第一実施形態および第二実施形態の変形形態および別の変形形態にかかる金属線成形体1a’1a”が適用される構成であると、金属線成形体1a’,1a”の組み付けをスムーズに行うことができる。すなわち、金属線成形体1a’,1a”を排気管6の内側管61と外側管62との間に挿入する場合に、傾斜面Cをガイドにすることができる。このため、傾斜面Cが形成されない構成に比較して、挿入がスムーズになる。
【0089】
以上、本発明の各実施形態について、図面を参照して詳細に説明したが、本発明は、前記実施形態に何ら限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において、種々の改変が可能である。
【0090】
たとえば、前記実施形態においては、略環状(略筒状)および略板状の金属線成形体を示したが、形状は限定されるものではない。また、線径が互いに異なる金属線からなる部分の数も、二つに限定されるものではない。三つ以上の互いに線径が異なる金属線からなる部分が成形される構成であってもよい。
【0091】
そして、本発明の実施形態にかかる金属線成形体をフィルタエレメントとして用いる場合には、濾過対象となる流体の通過方向に沿って、互いに線径が異なる金属線により成形される層が積層する構成であればよい。そして、この場合には、流体の通過の方向の上流側から下流側に向かって、線径が小さくなる構成であることが好ましい。
【0092】
また、金属線の材質や線径は、適用対象に応じて適宜設定される。たとえば、フィルタとして適用される構成であれば、濾過対象の流体の種類や、濾過する異物の種類及び大きさなどに応じて適宜選択される。
【0093】
また、適用するフィルタの種類や、濾過対象となる流体の種類も特に限定されない。自動車のオイルフィルタ、エアクリーナ、燃料フィルタや、家庭用の掃除機、空気清浄器などのほか、各種工作機械の潤滑オイルのフィルタや冷却オイルのフィルタ、浄水器のフィルタにも適用できる。
【産業上の利用可能性】
【0094】
本発明にかかる金属線成形体の適用対象は、フィルタエレメントに限定されるものではない。前記のとおり、緩衝材など、各種の機械要素に適用できる。また、本発明にかかるフィルタの濾過対象の流体の種類は限定されるものではない。
【符号の説明】
【0095】
1a,1b,1c,1d 本発明の各実施形態にかかる金属線成形体
11a,11b,11c,11d 第一の部分(互いに線径の異なる金属線により成形される部分の一方)
12a,12b,12c,12d 第二の部分(互いに線径の異なる金属線により成形される部分の他方)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属線からなる網状体または塊状体を圧縮して塑性変形させて成形される金属線成形体であって、互いに線径が異なる金属線からなる複数の部分を有し、前記互いに線径が異なる金属線からなる複数の部分どうしが一体に結合していることを特徴とする金属線成形体。
【請求項2】
前記互いに線径が異なる金属線からなる複数の部分どうしは、前記金属線が互いに入り組むことによって一体に結合していることを特徴とする請求項1に記載の金属線成形体。
【請求項3】
前記互いに線径が異なる金属線からなる複数の部分どうしが層状に積層していることを特徴とする請求項1または2に記載の金属線成形体。
【請求項4】
略環状または筒状に成形され、前記互いに線径が異なる金属線からなる部分が半径方向に積層して成形されることを特徴とする請求項3に記載の金属線成形体。
【請求項5】
外周側と内周側の少なくとも一方には凹凸が成形されることを特徴とする請求項4に記載の金属線成形体。
【請求項6】
略板状に成形され、前記互いに線径が異なる金属線から成形される複数の部分が厚さ方向に積層して成形されることを特徴とする請求項1または2に記載の金属線成形体。
【請求項7】
厚さ方向の少なくとも一方の面には凹凸が成形されることを特徴とする請求項6に記載の金属線成形体。
【請求項8】
請求項1から7のいずれか1項に記載の金属線成形体をフィルタエレメントとして備えることを特徴とするフィルタ。
【請求項9】
前記金属線成形体は、前記互いに線径が異なる金属線からなる複数の部分のうちの線径が大きい金属線からなる部分が、濾過対象となる流体の通過方向の上流側に位置し、線径が小さい金属線からなる部分が、前記濾過対象となる流体の通過方向の下流側に位置するように配置されることを特徴とする請求項8に記載のフィルタ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2012−120954(P2012−120954A)
【公開日】平成24年6月28日(2012.6.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−272007(P2010−272007)
【出願日】平成22年12月6日(2010.12.6)
【出願人】(708000878)株式会社コーディアルテック (5)
【Fターム(参考)】