説明

金属繊維不織布固定化メソ構造体

【課題】メソポーラスシリカの欠点である機械的強度の不足や成形性が劣る点などを改善して、メソポーラスシリカを各種の用途に有効に使用可能とする方法を提供する。
【解決手段】メソポーラスシリカ、又は金属微粒子及び金属酸化物微粒子からなる群から選ばれた少なくとも一種の微粒子成分を含むメソポーラスシリカが、金属繊維不織布に固定化されていることを特徴とする金属繊維不織布固定化メソ構造体。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属繊維不織布に固定化されたメソ構造体に関する。
【背景技術】
【0002】
直径2〜50nm程度の細孔であるメソ孔を有するメソ構造体として、メソポーラスシリカが知られている。例えば、下記非特許文献1には、メソポーラスシリカの典型的構造である、酸化ケイ素で形成された直径約3nmの貫通孔を有する六角柱が規則的に配列した状態が示されている。メソポーラスシリカは、この様な規則性の高いメソ孔を有する構造体であり、吸着剤、触媒担体、触媒等の各種の用途に用いられている。
【0003】
しかしながら、メソポーラスシリカは、細孔壁の厚みが通常1nm程度以下であり、しかも、ゼオライトと異なってアモルファス構造を有しているために機械強度が低いという欠点があり、実用化が阻まれている。また、メソポーラスシリカは一般に微粉末として得られ、成形性が悪いことも欠点の一つである。
【0004】
そこで、これらの問題を回避するためには何らかの支持体にメソ構造体を固定化することが考えられる。例えば、下記特許文献1には、平均粒径が0.1〜300μm程度のメソポーラス物質を高分子や無機酸化物繊維からなる不織布に含浸させた不織布複合体が開示されている。しかしながら、高分子繊維からなる不織布は耐熱性が悪く、高温環境下では使用できない。また、無機酸化物繊維は、耐熱性は良好であるが、機械的強度は満足のいくものではない。しかも、上記不織布複合体は、メソポーラス構造を有する粉体の分散液中に不織布を浸漬し乾燥する方法によって製造されており、メソポーラス構造体が脱離し易いために、使用範囲が非常に限定される。
【特許文献1】特開2003−113580号公報
【非特許文献1】Ordered mesoporous molecular sieves synthesized bya liquid−crystal template mechanism、NATURE、359巻、710−712頁、1992年
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、上記した従来技術の現状に鑑みてなされたものであり、その主な目的は、メソポーラスシリカの欠点である機械的強度の不足や成形性が劣る点などを改善して、メソポーラスシリカを各種の用途に有効に使用可能とする方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は、上記した目的を達成すべく鋭意研究を重ねてきた。その結果、メソポーラスシリカを固定化するための支持体として金属繊維の不織布を用い、メソポーラスシリカの前駆体となるアルコキシドを含む溶液を金属繊維不織布に含浸させたのち、該不織布の空隙中でゲル化させる方法によれば、該不織布中においてメソポーラスシリカが小塊状となって安定に固定化され、強度、成形性などが大きく向上することを見出し、ここに本発明を完成するに至った。
【0007】
即ち、本発明は、下記の金属繊維不織布に固定化されたメソ構造体、及びその製造方法を提供するものである。
1. (1)メソポーラスシリカ、又は(2)金属微粒子及び金属酸化物微粒子からなる群から選ばれた少なくとも一種の微粒子成分を含むメソポーラスシリカ、が金属繊維不織布に固定化されていることを特徴とする金属繊維不織布固定化メソ構造体。
2. メソポーラスシリカが、平均細孔径が2〜10nmのメソ細孔を有し、骨格が主として酸化ケイ素からなるものである上記項1に記載のメソ構造体。
3. メソポーラスシリカが、骨格内において、ケイ素原子の一部がその他の金属元素によって置換されたものである上記項1又は2に記載のメソ構造体。
4. 金属繊維不織布が、線径50μm以下の金属繊維から構成される空隙率70%以上の不織布である上記項1〜3のいずれかに記載のメソ構造体。
5. シリコンアルコキシド化合物、界面活性剤及び酸を含む水溶液からなるメソポーラスシリカの前駆体溶液を金属繊維不織布に含浸させ、該金属繊維不織布に含浸させた状態で該前駆体溶液を固化させた後、固化物から界面活性剤を除去することを特徴とする、上記項1〜4のいずれかに記載された金属繊維不織布固定化メソ構造体の製造方法。
【0008】
本発明の金属繊維不織布固体化メソ構造体は、金属繊維からなる不織布を支持体として、これにメソポーラスシリカが塊状として固定化されたものである。この様な構造の金属繊維不織布固定化メソ構造体は、支持体とする金属繊維不織布が高い通気性を有するため、固定化されているメソポーラスシリカの吸着作用や触媒作用が損なわれず、高温環境下での使用にも十分に耐え得るものである。しかも金属繊維不織布内の空隙にメソポーラスシリカが小塊状となって安定に固定化されているために、メソポーラスシリカが機械的に破壊されることを防止できる。また、金属繊維不織布にメソポーラスシリカが固定化されていることにより、一般に粉粒状であるメソポーラスシリカを板状固体として取り扱うことが可能となり、取り扱いが非常に容易となる。また、金属繊維不織布にメソポーラスシリカを固定化した後、加圧して圧縮すると、圧力に対してより強くなるとともに、より安定にメソ構造体を固定化することができる。
【0009】
以下、本発明の金属不織布固体化メソ構造体について、具体的に説明する。
【0010】
(1)金属繊維不織布
本発明では、メソポーラスシリカを固定化する支持体として、金属繊維の不織布を用いる。該不織布は、金属繊維によって構成され、金属繊維間に介在空間を有するフェルト状物である。
【0011】
金属繊維の線径は特に限定的ではないが、50μm程度以下であることが好ましく、5〜30μm程度であることがより好ましく、7〜15μm程度であることが特に好ましい。金属繊維不織布の空隙率についても特に限定的ではないが、通常、70%程度以上であることが好ましく、80%程度以上であることがより好ましく、空隙率90%以上であることが特に好ましい。空隙率の上限については特に限定はないが、通常、99%程度以下であることが好ましい。
【0012】
金属繊維不織布の形状については特に制限はなく、使用目的に応じ適宜選択すれば良いが、金属繊維不織布の厚さは、0.5〜6mm程度であることが好ましく、1〜4mm程度であることがより好ましい。金属繊維不織布がこれより薄くなると強度が保持できず、また、厚くなると、後述する製造方法において、減圧によるアルコール除去が効率的に起こらず、メソポーラス構造の形成が阻害されるので好ましくない。
【0013】
金属繊維の材質は特に限定されないが、例えば、ステンレス、鉄、ニッケル、銅等が挙げられる。コスト、耐久性の観点から特にステンレスが好ましい。
【0014】
(2)メソポーラスシリカ
本発明において、メソポーラスシリカとは、平均細孔径が2〜10nm程度のメソ細孔を有し、骨格が主として酸化ケイ素からなるものである。該メソポーラスシリカは、骨格が全て酸化ケイ素からなるものに限定されず、骨格内において、ケイ素原子の一部がその他の金属元素に置換されたものであっても良い。この様な金属元素としては、酸化ケイ素骨格内で四配位構造を取りうる元素であれば良く、例えばアルミニウム、スカンジウム、イットリウム、チタン、バナジウム、クロム、鉄、コバルト、ガリウム、ジルコニウム、インジウムが挙げられる。置換される金属は、1種に限定されず複数でも差し支えない。置換される金属元素の含有量の上限は金属の種類によって異なるが、金属酸化物として換算した場合、メソ構造体の10重量%程度以下が好ましい。
【0015】
更に、メソポーラスシリカには、金属微粒子及び金属酸化物微粒子からなる群から選ばれた少なくとも一種の微粒子成分が含まれていてもよい。この場合、微粒子成分は、メソポーラスシリカ骨格のケイ素原子を置換するのではなく、微粒子の状態でメソポーラスシリカ中に分散した状態で存在する。
【0016】
この様な金属微粒子又は金属酸化物微粒子を構成する金属元素の種類については特に限定はなく、後述する本発明の金属繊維不織布固定化メソ構造体の製造工程において、使用する水溶液中に可溶性の金属化合物中の金属成分であればよい。この様な金属元素としては、上記した酸化ケイ素骨格内で四配位構造を取りうる元素に加えて、マグネシウム、カルシウム、マンガン、ニッケル、銅、亜鉛、ストロンチウム、ルテニウム、ロジウム、パラジウム、銀、白金等を例示できる。
【0017】
金属微粒子および金属酸化物微粒子の平均粒径は特に制限されないが、好ましくは100nm以下、より好ましくは50nm以下であればよい。ここで、X線回折法によって得られるピーク位置およびそのピークの半値幅から計算された平均結晶子径を、この平均粒径と見なして差し支えない。粒径がそれ以上大きくなるとメソポーラス構造を有する部分との接触面積が低下し、メソポーラス構造を有する部分との相乗効果が得られなくなる。
【0018】
メソ構造体に含有される金属酸化物微粒子および金属微粒子はメソポーラスシリカ100重量部に対して、好ましくは80重量部以下、更に好ましくは60重量部以下であれば良い。含有量がそれ以上大きいと金属繊維不織布中でメソポーラス構造が保たれなくなる。
【0019】
(3)金属繊維不織布固定化メソ構造体
本発明の金属繊維不織布固定化メソ構造体は、上記したメソポーラスシリカ、又は金属微粒子及び金属酸化物微粒子からなる群から選ばれた少なくとも一種の微粒子成分を含むメソポーラスシリカが主として小塊状となって金属繊維不織布の空隙中に存在する状態となっている。この小塊の大きさは、金属繊維不織布の線径、空隙率、固定化後の圧縮の程度によって異なるが、通常、デジタルマイクロスコープによる表面観察から得られた塊の長径が20μm程度以上である。
【0020】
金属繊維不織布に固定化されるメソポーラスシリカの量、又は微粒子成分を含むメソポーラスシリカの量は、金属繊維不織布100重量部に対して、50重量部程度以上とすることが好ましく、100重量部程度以上とすることがより好ましい。メソポーラスシリカ、又は微粒子成分を含むメソポーラスシリカの量が少なすぎると、金属繊維不織布の利用効率が低下するので、コスト的に好ましくない。メソポーラスシリカの量、又は微粒子成分を含むメソポーラスシリカの量の上限値については特に限定はないが、例えば、金属繊維不織布100重量部に対して、400重量部程度以下であることが好ましい。これより多いとガス拡散性が損なわれる結果となる。
【0021】
(4)金属繊維不織布固定化メソ構造体の製造方法
本発明の金属繊維不織布固定化メソ構造体は、例えば、シリコンアルコキシド化合物、界面活性剤、酸及び水を含む混合物からなる、メソポーラスシリカの前駆体溶液を金属繊維不織布に含浸させて、金属繊維不織布中でシリコンアルコキシドを加水分解して固化させてメソポーラスシリカを形成することによって得ることができる。
【0022】
メソポーラスシリカの前駆体溶液に含まれるシリコンアルコキシド化合物としては、特に限定されないが、テトラメトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、テトラエトキシシラン等を例示できる。これらのシリコンアルコキシドは、反応条件下による加水分解速度を考慮して適宜選択すれば良く、二種以上を混合して用いてもよい。特に、テトラメトキシシランを主成分とすることが好ましい。
【0023】
界面活性剤としては、通常のメソポーラス化合物の鋳型剤として用いられるリオトロピック型の液晶相を形成するポリオキシエチレンアルキルエーテルやポリオキシアルキレンアルキルエーテル等のエーテル型非イオン性界面活性剤や、分子中のアルキル基の炭素数が8〜18程度のアルキルトリメチルアンモニウムを用いれば良い。特に、溶解度を考慮して、平均分子量が1000以下のポリオキシエチレンアルキルエーテルを用いるのが好ましい。このようなポリオキシエチレンアルキルエーテルとしては、ポリエチレングリコールドデシルエーテル((C2042)、ポリオキシエチレングリコールヘキサデシルエーテル(C1633(OCHCHOH)、ポリエチレングリコールオクタデシルエーテル(C1837(OCHCHOH)、ポリオキシエチレングリコールオレイルエーテル(C1835(OCHCHOH)等を例示できる。
【0024】
酸としては塩酸、硝酸、硼酸、臭素酸、硫酸、リン酸を用いることができ、特に、塩酸が好ましい。これらの酸は、通常、水溶液として前駆体溶液に添加される。酸水溶液の濃度については特に限定されないが、シリコンアルコキシドの加水分解が迅速に進行する様に決めればよく、通常は、pH値0.5〜2程度の範囲の酸水溶液を用いればよい。
【0025】
前駆体溶液中におけるシリコンアルコキシドに対する水の添加量はシリコンアルコキシド1molに対して2〜10mol程度が好ましい。水の添加量をシリコンアルコキシドより過剰とすることにより、シリコンアルコキシドの加水分解が促進される。ここで、前駆体溶液中のシリコンアルコキシドに対する水素イオン濃度はシリコンアルコキシド1molに対して2〜20mmol程度であるのがよい。
【0026】
シリコンアルコキシドと界面活性剤の混合比は重量比で1:0.1〜2程度が好ましく、1:0.3〜1程度がより好ましい。
【0027】
メソポーラスシリカの骨格内においてケイ素原子の一部をその他の金属元素に置換する場合、及びメソポーラスシリカの空隙中に金属微粒子及び金属酸化物微粒子からなる群から選ばれた少なくとも一種の微粒子成分を存在させる場合には、その他の金属成分については、上記したメソポーラスシリカの前駆体溶液中に水溶性化合物として添加すればよい。例えば、目的とする金属成分を含む硝酸塩、塩化物、臭化物、酢酸塩、硫酸塩、オキシ硝酸塩、オキシ塩酸塩等を用いればよい。これらの金属化合物は、例えば、酸水溶液に溶解して添加するか、或いは、前駆体溶液中に直接添加すればよい。これらの金属化合物の添加量は、目的とするメソポーラスシリカの組成、メソポーラスシリカ中に含まれる金属微粒子及び金属酸化物微粒子の量によってきめればよい。例えば、酸化ケイ素骨格内で四配位構造を取りうる元素を含む化合物を添加する場合には、一部の元素は、ケイ素原子と置換して骨格中に含まれるが、その量が増大すると、凝集して金属酸化物微粒子又は金属微粒子として存在すると思われる。
【0028】
上記した金属化合物の水溶液が酸性を示す場合には、上記した酸水溶液に代えて、金属化合物の水溶液を酸水溶液として用いることができる。
【0029】
シリコンアルコキシド化合物、界面活性剤、酸、及び、必要に応じて、金属化合物を含む水溶液は、15〜100℃程度、好ましくは25〜70℃程度で混合して均一なものとすることが好ましい。これにより、シリコンアルコキシドの加水分解がある程度進行して、均一な前駆体溶液が出来ると共に、金属繊維不織布に含浸するのに適当な粘度となる。
【0030】
上記した方法でメソポーラスシリカの前駆体溶液を調製した後、これを金属繊維不織布に含浸させて、金属繊維不織布中でシリコンアルコキシドを加水分解して固化させる。通常は、前駆体溶液中に金属繊維不織布を浸漬した後、緩やかに減圧すればよい。これにより、シリコンアルコキシド化合物の加水分解が進行すると共に、生成するアルコールを除去することができる。この場合、前駆体溶液から金属繊維不織布を取り出して減圧しても良く、或いは、前駆体溶液中に金属繊維不織布を浸漬した状態で減圧しても良い。
【0031】
減圧の程度は、前駆体溶液の組成、温度、金属繊維不織布の形状・空隙率等によって適宜調整すれば良いが、突沸するまで減圧すると金属繊維不織布から前駆体溶液が外部に出てくる結果となるので好ましくない。尚、アルコール除去を効率的に行うため、例えばロータリーエバポレーター等を用いて、減圧中に金属繊維不織布を揺動することが好ましい。
【0032】
上記した方法によって金属繊維不織布中で前駆体溶液を固化させた後、良好なメソポーラス化合物を得るために、更に乾燥することが好ましい。
【0033】
乾燥は、空気中、加温下で放置すれば十分である。乾燥温度及び時間は任意であるが、好ましくは30〜100℃程度で1時間〜数日程度、より好ましくは30〜60℃程度で6〜24時間程度とすれば良い。
【0034】
乾燥後、金属繊維不織布に保持されたメソポーラスシリカから界面活性剤を除去することによって、メソポーラスシリカ、又は金属微粒子及び金属酸化物微粒子からなる群から選ばれた少なくとも一種の微粒子成分を含むメソポーラスシリカが、金属繊維不織布に固定化された状態の金属繊維不織布固定化メソ構造体を得ることができる。
【0035】
界面活性剤を除去する方法としては、洗浄操作によって除去する方法や加熱によって界面活性剤を分解除去する方法があり、いずれの方法を採用してもよい。
【0036】
特に、加熱除去する方法によれば容易に界面活性剤を除去できる。加熱除去法を採用する場合には、加熱雰囲気として窒素、アルゴン等の不活性ガス雰囲気や空気、酸素等の酸化性ガス雰囲気の何れか、あるいはその組み合わせを用いることができる。
【0037】
加熱温度は金属繊維不織布の材質、金属繊維不織布に保持されたメソポーラスシリカの構造、安定性、界面活性剤の構造等に応じて適宜定められるが、好ましくは300〜800℃程度で1〜24時間程度加熱を行えば良い。
【0038】
シリコン以外の金属元素が前駆体溶液中に存在する場合、上記の加熱処理によって金属がメソポーラスシリカ中に固溶した状態や金属酸化物微粒子がメソポーラスシリカの空隙部に含有された状態、あるいはその両者が複合した状態となる。また、前駆体溶液中に貴金属元素が含まれる場合には、上記した製造方法によって、メソポーラスシリカの空隙部に該貴金属元素が、金属微粒子として存在する場合がある。通常は、金属微粒子がメソポーラスシリカの空隙部に存在する状態とするには、還元処理を行えばよい。還元処理は、金属繊維不織布に固定化されたメソポーラスシリカを還元性ガスと接触させれば良い。還元性ガスとしては、例えば、水素、一酸化炭素、メタノール等の還元性ガス、或いは該還元性ガスと窒素、アルゴン、水蒸気等の不活性ガスとの混合ガス等を用いることができる。還元処理の温度は、還元される金属の種類や還元性ガスの種類に大きく依存し、室温でも差し支えない場合があるが、通常は100〜600℃程度とすればよい。還元処理の温度が高すぎると、金属粒子の凝集が生じるので好ましくない。還元処理の時間は、通常、1〜5時間程度とすればよい。
【0039】
以上の方法によって目的とする金属繊維不織布固定化メソ構造体を得ることができる。このようにして得られた金属繊維不織布固定化メソ構造体は、プレス等により圧縮しても差し支えない。これにより密度が大きくなり、圧力に対する安定性をより高めることができる。圧縮の程度は金属繊維不織布の空隙率や固定されたメソ構造体の量により大きく異なるが、圧縮に際しては元の金属繊維不織布固定化メソ構造体の有する厚みの20%以上の厚みとすることが好ましい。これ以下となると固定化されたメソ構造体のメソ構造が破壊されたり、気体の透過性が損なわれることがあるので、好ましくない。
【発明の効果】
【0040】
本発明の金属繊維不織布固定化メソ構造体は、耐熱性に優れ機械的強度が高い金属繊維不織布にメソポーラスシリカが固定化されたものであり、外部からの物理的ストレスに対して脆弱なメソポーラスシリカを有効に保護することができる。また、メソポーラスシリカが小塊状として金属繊維不織布の空隙中に存在するため脱離し難く、成形も容易である。更に、メソポーラスシリカを板状固体として利用できるので、取り扱いが容易である。
【0041】
本発明の金属繊維不織布固定化メソ構造体は、上記した優れた性能を有するものであり、触媒、触媒担体、吸着剤等の各種の用途に利用する場合に、耐久性、取り扱い易さを大きく向上させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0042】
以下、実施例を挙げて本発明を更に詳細に説明する。
【0043】
実施例1
テトラメトキシシラン(分子量152.1)10g、ポリオキシエチレングリコールヘキサデシルエーテル(C1633(OCHCHOH、平均分子量683)5gを40℃で10分間混合して透明均一な液とし、これに0.1Nの塩酸5gを加えて数分混合することでメソポーラスシリカの前駆体溶液を得た。この前駆体溶液に厚さ2mm、繊維径12μm、空隙率97%のステンレス製金属繊維不織布(ステンレスフェルト)を浸漬し、ロータリーエバポレーターにより、金属繊維不織布に機械的揺動を与えると共に、40℃で内容物が発泡しないように緩やかな減圧状態を保ちながら溶媒を留去し、金属繊維不織布に含浸させた溶液をゲル化させた。
【0044】
次いで、ゲルを含んだ金属繊維不織布を取り出し、空気中で40℃で17時間保持して乾燥させ、その後、空気中で450℃で17時間加熱した。
【0045】
その結果、金属繊維不織布1g当たり1.6gのメソポーラスシリカを安定に固定化することが出来た。デジタルマイクロスコープによる表面観察から、メソポーラスシリカは、主として長径が50μm以上の小塊として金属繊維中に存在していることが確認できた。
【0046】
固定化されたメソポーラスシリカの粉末X線回折図形からメソポーラス化合物に特徴的な面間隔4.55nmのピークが得られた。また、窒素の物理吸着・脱離データから、保持されたメソポーラスシリカのBET法による比表面積は1068m/g、BJE法による中心細孔径は3.3nm、細孔容積は0.88cm/gという値が得られた。
【0047】
実施例2
テトラメトキシシラン(分子量152.1)10g、ポリオキシエチレングリコールヘキサデシルエーテル(C1633(OCHCHOH、平均分子量683)5gを40℃で10分間混合して透明均一な液とし、これに硝酸アルミニウム9水物0.6gを0.1Nの塩酸5gに溶解したものを加えて数分混合することでメソポーラスシリカの前駆体溶液を得た。この前駆体溶液に厚さ2mm、繊維径12μm、空隙率97%のステンレス製金属繊維不織布(ステンレスフェルト)を浸漬し、ロータリーエバポレーターにより、機械的揺動を与えると共に、40℃で内容物が発泡しないように緩やかな減圧状態を保ちながら溶媒を留去し、金属繊維不織布に含浸させた溶液をゲル化させた。
【0048】
次いで、ゲルを含んだ金属繊維不織布を取り出し、空気中で40℃で17時間保持して乾燥させ、その後、空気中で450℃で17時間加熱した。その結果、金属繊維不織布1g当たり1.2gのメソ構造体を安定に固定化することが出来た。
【0049】
このメソ構造体中のアルミニウム含有量は酸化アルミニウムの含有量に換算して4重量%であった。デジタルマイクロスコープによる表面観察からメソ構造体は主として長径50μm以上の小塊として金属繊維中に存在していることが確認できた。
【0050】
固定化されたメソ構造体の粉末X線回折図形からメソポーラス化合物に特徴的な面間隔3.98nmのピークが得られたが、アルミニウム化合物に帰属されるピークは検出できなかった。このことより、アルミニウムはメソポーラスシリカ中でケイ素原子を置換するか、あるいはアルミニウム酸化物超微粒子の形態で存在していることがわかる。また、窒素の物理吸着・脱離データから、保持されたメソ構造体のBET法による比表面積は1013m/g、BJE法による中心細孔径は2.1nm、細孔容積は0.55cm/gという値が得られた。
【0051】
実施例3
テトラメトキシシラン(分子量152.1)10g、ポリオキシエチレングリコールヘキサデシルエーテル(C1633(OCHCHOH、平均分子量683)5gを40℃で10分間混合して透明均一な液とし、これに硝酸ジルコニル0.6gを0.1Nの塩酸5gに溶解したものを加えて数分混合することでメソポーラスシリカの前駆体溶液を得た。この前駆体溶液に厚さ2mm、繊維径12μm、空隙率97%のステンレス製金属繊維不織布(ステンレスフェルト)を浸漬し、ロータリーエバポレーターにより、機械的揺動を与えると共に、40℃で内容物が発泡しないように緩やかな減圧状態を保ちながら溶媒を留去し、金属繊維不織布に含浸させた溶液をゲル化させた。
【0052】
次いで、ゲルを含んだ金属繊維不織布を取り出し、空気中で40℃で17時間保持して乾燥させ、その後、空気中で450℃で17時間加熱した。その結果、金属繊維不織布1g当たり1.5gのメソ構造体を安定に固定化することが出来た。
【0053】
このメソ構造体中のジルコニウム含有量は酸化ジルコニウムの含有量に換算して7重量%であった。デジタルマイクロスコープによる表面観察からメソ構造体は主として長径50μm以上の小塊として金属繊維中に存在していることが確認できた。
【0054】
固定化されたメソ構造体の粉末X線回折図形からメソポーラス化合物に特徴的な面間隔4.20nmのピークが得られたが、ジルコニウム化合物に帰属されるピークは検出できなかった。このことより、ジルコニウムはメソポーラスシリカ中でケイ素原子を置換するか、あるいはジルコニウム酸化物超微粒子の形態で存在していることがわかる。また、窒素の物理吸着・脱離データから、保持されたメソ構造体のBET法による比表面積は1265m/g、BJE法による中心細孔径は2.5nm、細孔容積は0.80cm/gという値が得られた。
【0055】
実施例4
テトラメトキシシラン(分子量152.1)10g、ポリオキシエチレングリコールヘキサデシルエーテル(C1633(OCHCHOH、平均分子量683)5gを40℃で10分間混合して透明均一な液とし、これに硝酸銅3水物3.8gを0.1Nの塩酸5gに溶解したものを加えて数分混合することでメソポーラスシリカの前駆体溶液を得た。この前駆体溶液に厚さ2mm、繊維径12μm、空隙率97%のステンレス製金属繊維不織布(ステンレスフェルト)を浸漬し、ロータリーエバポレーターにより、機械的揺動を与えると共に、40℃で内容物が発泡しないように緩やかな減圧状態を保ちながら溶媒を留去し、金属繊維不織布に含浸させた溶液をゲル化させた。
【0056】
次いで、ゲルを含んだ金属繊維不織布を取り出し、空気中で40℃で17時間保持して乾燥させ、その後、空気中で450℃で17時間加熱した。その結果、金属繊維不織布1g当たり2.6gのメソ構造体を安定に固定化することが出来た。このメソ構造体中の酸化銅含有量は24重量%であった。
【0057】
更に、このメソ構造体を固定化した金属繊維不織布をロールプレスで圧縮し、厚さ0.7mmの成形体とした。デジタルマイクロスコープによる表面観察からメソ構造体は主として長径30μm以上の小塊として金属繊維中に存在していることが確認できた。
【0058】
この成形体に固定化されたメソ構造体の粉末X線回折図形からメソポーラス化合物に特徴的な面間隔4.37nmのピークが得られた他、酸化銅に帰属されるピークが検出された。面間隔0.186nmにあるピークの半値幅から求められた酸化銅の結晶子径は23nmであった。このことより、メソポーラスシリカ中に酸化銅微粒子が分散して存在していると考えられる。また、窒素の物理吸着・脱離データから、保持された酸化銅微粒子を含有するメソ構造体のBET法による比表面積は512m/g、BJE法による中心細孔径は2.5nm、細孔容積は0.32cm/gという値が得られた。
【0059】
実施例5
テトラメトキシシラン(分子量152.1)10g、ポリオキシエチレングリコールヘキサデシルエーテル(C1633(OCHCHOH、平均分子量683)5gを40℃で10分間混合して透明均一な液とし、これに硝酸銅3水物6.5gを0.1Nの塩酸5gに溶解したものを加えて数分混合することで、メソポーラスシリカの前駆体溶液を得た。この前駆体溶液に厚さ2mm、繊維径12μm、空隙率97%のステンレス製金属繊維不織布(ステンレスフェルト)を浸漬し、ロータリーエバポレーターにより、機械的揺動を与えると共に、40℃で内容物が発泡しないように緩やかな減圧状態を保ちながら溶媒を留去し、金属繊維不織布に含浸した溶液をゲル化させた。
【0060】
次いで、ゲルを含んだ金属繊維不織布を取り出し、空気中で40℃で17時間保持して乾燥させ、その後、空気中で450℃で17時間加熱した。その結果、金属繊維不織布1g当たり2.5gのメソ構造体を固定化することが出来た。
【0061】
このメソ構造体中の酸化銅含有量は35重量%であった。この金属繊維不織布に固定化されたメソ構造体を200℃で15%水素(アルゴン希釈)により1時間還元した。デジタルマイクロスコープによる表面観察からメソ構造体は主として長径50μm以上の小塊として金属繊維中に存在していることが確認できた。
【0062】
固定化されたメソ構造体の粉末X線回折図形からメソポーラス化合物に特徴的な面間隔4.24nmのピークが得られた他、金属銅に帰属されるピークが検出された。面間隔0.209nmにあるピークの半値幅から求められた金属銅の結晶子径は27nmであった。このことより、金属銅微粒子はメソポーラスシリカ中に分散して存在していると考えられる。また、窒素の物理吸着・脱離データから保持された金属銅微粒子を含有したメソ構造体のBET法による比表面積は597m/g、BJE法による中心細孔径は2.8nm、細孔容積は0.41cm/gという値が得られた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(1)メソポーラスシリカ、又は(2)金属微粒子及び金属酸化物微粒子からなる群から選ばれた少なくとも一種の微粒子成分を含むメソポーラスシリカ、が金属繊維不織布に固定化されていることを特徴とする金属繊維不織布固定化メソ構造体。
【請求項2】
メソポーラスシリカが、平均細孔径が2〜10nmのメソ細孔を有し、骨格が主として酸化ケイ素からなるものである請求項1に記載のメソ構造体。
【請求項3】
メソポーラスシリカが、骨格内において、ケイ素原子の一部がその他の金属元素によって置換されたものである請求項1又は2に記載のメソ構造体。
【請求項4】
金属繊維不織布が、線径50μm以下の金属繊維から構成される空隙率70%以上の不織布である請求項1〜3のいずれかに記載のメソ構造体。
【請求項5】
シリコンアルコキシド化合物、界面活性剤及び酸を含む水溶液からなるメソポーラスシリカの前駆体溶液を金属繊維不織布に含浸させ、該金属繊維不織布に含浸させた状態で該前駆体溶液を固化させた後、固化物から界面活性剤を除去することを特徴とする、請求項1〜4のいずれかに記載された金属繊維不織布固定化メソ構造体の製造方法。

【公開番号】特開2009−30200(P2009−30200A)
【公開日】平成21年2月12日(2009.2.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−194739(P2007−194739)
【出願日】平成19年7月26日(2007.7.26)
【出願人】(301021533)独立行政法人産業技術総合研究所 (6,529)
【出願人】(000231556)日本精線株式会社 (47)
【Fターム(参考)】