説明

金属膜の製造方法

【課題】低極性、低粘度の化合物を用いた金属膜の製造方法を提供することである。
【解決手段】以下の式1で示される化合物存在下で加熱処理を行う金属膜の製造方法。
【化1】


(式中、Rは水素原子または炭素数1〜6のアルキル基、R、Rはそれぞれ独立に水素原子、メトキシ基、炭素数1〜6のアルキル基(ここで炭素数1〜6のアルキル基は水酸基、炭素数1〜6のアルコキシ基、環状カーボネート基もしくはエーテル基で置換されていてもよい)または炭素数1〜6のアルケニル基(ここでRとRは環をなしていてもよい。)を表す。)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は金属膜の製造方法に関する。より具体的には、基板表面に形成された金属粒子、酸化膜を有する金属粒子、金属酸化物粒子の少なくとも一つ以上を含有する組成物を、特定の化合物存在下で加熱処理することによる金属膜の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
回路基板などにおける配線の形成技術としては、金属箔、金属蒸着膜、金属メッキ膜をフォトリソグラフィーとエッチングを用いてパターニングする方法が一般的に用いられている。この方法には、工程数が多い、不要な部分の金属を捨てるサブトラクティブな方法であるため金属の利用効率が悪く廃液も大量に発生するという課題があった。
【0003】
金属の利用効率を改善する方法として、エッチングを用いず必要な所だけに金属膜を形成して配線とするアディティブな方法がいくつか提案されている。一例として、基板上にメッキレジストを印刷し、無電解メッキを行い、レジストのない部分のみに金属膜を形成する方法が挙げられる。また、基板上に触媒を印刷し、無電解メッキを行い、触媒のある部分のみに金属膜を形成する方法も知られている。しかし、これらの方法にもメッキ廃液の処理が必要になるという難点がある。
【0004】
これに対し、やはりアディティブな方法である印刷法による配線パターン形成技術が広く注目を集めている。印刷法による配線パターン形成技術として特に注目を集めているのは金属ナノ粒子を用いるものである。これは、金属ナノ粒子を含むペーストまたはインク状の組成物を基板上に印刷し、焼成処理を行うことで金属ナノ粒子同士が焼結し配線を形成するものである。金属ナノ粒子は、バルクの金属やミクロンオーダーの金属粒子と比較して焼結温度が低いので、金属そのものの融点よりもかなり低温で処理することが可能である。また、ナノ粒子という超微細粒径の粒子を用いることで配線パターンの微細化が可能になる点も大きな利点である。これによって配線基板の小型化、それに伴う軽量化、さらには印刷法による透明導電膜の創出が可能になると期待される。
【0005】
金属ナノ粒子ペーストを印刷することによる配線パターンの形成は、このように期待の大きい方法であるが、配線パターンに用いられる金属の中には、銅に代表されるようにナノサイズの粒子にすると非常に酸化を受けやすいものがある。このような金属では金属粒子上に生成した酸化物が焼結の妨げとなるため、金属粒子を焼結させるためには還元雰囲気での焼成が必要である。還元雰囲気での焼成方法としては、水素混合窒素気流中で焼成する方法(特許文献1)、原子状水素を用いる焼成方法(特許文献2)、エチレングリコールなどのアルコール類を共存させ焼成する方法(特許文献3)が提案されている。水素、原子状水素を用いる方法では高度な雰囲気制御や特殊な装置が必要などといった問題があり普及には至っていない。また、アルコール類を用いる方法では、アルコール類を蒸気で、あるいはペースト中に配合するなどして作用させることができるので比較的汎用性の高い方法であるといえるが、利用できる化合物はアルコール類だけであり選択肢としてはそれほど多くない。アルコール類は概して高極性であり相溶する材料が限定されるため、ペーストに配合できる成分が限られてしまう。導電ペーストではポリマー成分としてエポキシ樹脂を配合する場合が多いが、特許文献3で好適に用いられるポリオール類(分子内に複数個のヒドロキシル基を有する)の一種であるエチレングリコールはこれと相溶しないため配合が困難である。また、金属ナノ粒子の合成法には表面を低極性化合物で被覆する方法が多く存在するが、前記のような相溶性が悪い成分を含まない場合に関しても、エチレングリコールなどは低極性化合物で被覆された金属ナノ粒子表面自体との親和性が低いため、粒子表面に作用しにくい、さらには作用できないことが懸念される。また、ポリオール類は概して高粘度であり、これに金属粒子のような固形分を配合するとさらに高粘度となるが、インクジェット法での配線パターニングのように、低粘度のペーストしか利用できない印刷方法もあるので、エチレングリコールのような高粘度液体の使用は印刷方法の選択やペースト設計の自由度を著しく狭める。このような背景から、低極性、低粘度の化合物を用いた新たな焼成方法の開発が必要であると考えられる。
【特許文献1】国際公開第2003/051562号パンフレット
【特許文献2】特許第3870273号公報
【特許文献3】特許第3939735号公報
【特許文献4】特開2008−146999号公報
【特許文献5】特開2008−146991号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明が解決しようとする課題は、低極性、低粘度の化合物を用いた金属膜の製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記課題を解決すべく検討を重ねた結果、基板表面に形成された金属粒子、酸化膜を有する金属粒子、金属酸化物粒子の少なくとも一つ以上を含有する組成物を、以下の式1で示される化合物存在下で加熱処理を行うことによる金属膜の製造方法が有効であることを見いだし、本発明を完成した。
【0008】
【化1】

【0009】
(式中、Rは水素原子または炭素数1〜6のアルキル基、R、Rはそれぞれ独立に水素原子、メトキシ基、炭素数1〜6のアルキル基(ここで炭素数1〜6のアルキル基は水酸基、炭素数1〜6のアルコキシ基、環状カーボネート基もしくはエーテル基で置換されていてもよい)または炭素数1〜6のアルケニル基(ここでRとRは環をなしていてもよい。)を表す。)
【発明の効果】
【0010】
従来のアルコール類還元剤を用いる方法ではアルコール類との相溶性が低いために利用が制限されていたポリマー成分を前記組成物の成分として利用可能になる。また、アルコール類を用いるよりも低粘度ペーストの作製が可能になる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本発明の金属膜の製造方法は、基板表面に形成された金属粒子、酸化膜を有する金属粒子および金属酸化物粒子から選択される少なくとも一つ以上を含有する組成物を、式1で示される化合物存在下で加熱処理することにより行われる。
【0012】
前記金属としてはコバルトまたはこれよりイオン化傾向の小さい金属、たとえば金、銀、銅、ニッケル、錫、パラジウム、白金などを利用することができる。これらの金属の中でも金属膜としたときに有用である銀、銅、ニッケルまたは錫が好ましい。
【0013】
前記酸化膜を有する金属粒子における酸化膜とは粒子表面に存在する金属酸化物相のことを指し、これは粒子全体を覆っていても部分的に覆っていてもよい。
【0014】
前記金属粒子、酸化膜を有する金属粒子または金属酸化物粒子は分散剤などの有機物に覆われていてもよい。ここでいう分散剤とは、金属粒子等を合成するときに粒径を制御したり、金属粒子等を含有するペースト、インクなどを調製する際に、粒子が分散することを補助したりする役割を担う化合物のことを指す。分散剤は低分子であるか高分子であるかは限定されないが、一般に焼結が容易であることが多いため分散剤は低分子であることが好ましい。
【0015】
前記金属粒子、酸化膜を有する金属粒子または金属酸化物粒子としては、銀、銅、ニッケル、錫などのナノ粒子(平均粒径:25〜200nm)が試薬としてシグマ・アルドリッチ・ジャパン株式会社より市販されており、これらを使用することができる。また、以下に示す論文などに従い、金属粒子を合成することもでき、これらを用いることも可能である(文献例:「ケミカル・マテリアルズ」、20巻、5399頁(2008年)、「ケミカル・マテリアルズ」、12巻、1354頁(2000年)、「ケミカル・マテリアルズ」、17巻、856頁(2005年)、「アドバンスド・ファンクショナル・マテリアルズ」、18巻、679頁(2008年)、「ケミカル・コミュニケーションズ」、778頁(2004年))。
【0016】
本発明の金属膜の製造方法では式1で示される化合物を使用することを特徴としている。本発明における式1で示される化合物の詳細な作用機構は不明ではあるが、金属粒子、酸化膜を有する金属粒子または金属酸化物粒子に対し、酸化防止、金属酸化物の還元、金属粒子焼結の促進などの作用をなすものと考えられる。
【0017】
以下、式1で示される化合物について説明する。
【0018】
式1におけるRは水素原子または炭素数1〜6のアルキル基である。炭素数1〜6のアルキル基の具体例としてはメチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、ペンチル基、ネオペンチル基、ヘキシル基などが挙げられ、好ましくはメチル基である。
【0019】
、Rはそれぞれ独立に水素原子、メトキシ基、炭素数1〜6のアルキル基(水酸基、炭素数1〜6のアルコキシ基、環状カーボネート基もしくはエーテル基で置換されていてもよい)または炭素数1〜6のアルケニル基を表す。ここで、炭素数1〜6のアルキル基(水酸基、炭素数1〜6のアルコキシ基、環状カーボネート基もしくはエーテル基で置換されていてもよい)の具体例としては、メチル基、エチル基、ヒドロキシメチル基、メトキシメチル基、ベンジルオキシメチル基などが挙げられ、好ましくはメチル基、エチル基、メトキシメチル基である。炭素数1〜6のアルケニル基としてはビニル基が挙げられる。また、RとRは環をなしていてもよい(後述の式12、式13参照。)。
【0020】
式1で示される化合物の具体例としては、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネートなど式2〜13に示す化合物を例示することができるがこれらに限定されない。また、これらの化合物は単独で用いることも、二種以上を組み合わせて用いることも可能である。
【0021】
【化2】

【0022】
中でもRおよびRが水素原子であり、Rが水素原子またはメチル基である、エチレンカーボネートまたはプロピレンカーボネートが好ましく、エチレンカーボネートを用いた場合に特に導電性の高い金属膜が得られるためより好ましい。
【0023】
式1で示される化合物は、東京化成工業株式会社、シグマ・アルドリッチ・ジャパン株式会社、アルファ・エーサー社などから市販されている。また、市販されていない化合物については「ヘテロサイクルズ」、24巻、1625頁(1986年)、「テトラヘドロン・レターズ」、24巻、4641頁(1983年)などの文献に従えば合成することができる。
【0024】
本発明における金属粒子、酸化膜を有する金属粒子または金属酸化物粒子は平均粒径が1〜200nmのものを用いることが好ましい。前記粒径であれば金属の融点よりもかなり低い温度での焼結が可能である。ここでいう粒径とは、一次粒子の粒径を指し、電子顕微鏡による形態観察によって測定できる。また、平均粒径の算出は、個数平均に基づいており、電子顕微鏡で観察できる範囲の粒子の内、任意の100個の粒子の選び出し、それらの粒子径を粒子の個数で平均することにより求められる。一次粒子とは電子顕微鏡によって認識できる2原子以上からなる最小の3次元単位構造物である。一次粒子の形状については特に制限はなく、球、多面体、平板、針状など様々な形態が可能であり、それらの粒径は同体積の球形にしたときの直径、すなわち同体積球相当径によって定義する。平均粒径が小さいほど焼結に要する温度が低くなることから、平均粒径のより好ましい範囲は1〜100nm、さらに好ましくは1〜50nmである。
【0025】
本発明における金属粒子、酸化膜を有する金属粒子および金属酸化物粒子から選択される少なくとも一つ以上を含有する組成物は、粒子以外の成分を含んでいてもよい。粒子以外の成分が含まれる場合は、該組成物中の70重量%以下であることが好ましい。
【0026】
前記組成物に含まれる粒子以外の成分として、ポリマーまたはポリマー前駆体が好ましく含まれる。ポリマーまたはポリマー前駆体は金属粒子の分散をよくする、粘度特性を制御する、導電膜と基材の密着性を高める、などの目的で添加される。特に、導電膜と基材の密着性を高める用途のポリマーはバインダーポリマーと呼ばれ、多くの導電ペーストなどに配合されている。ポリマーとして好ましい例としては、アクリル系ポリマー(すなわち(メタ)アクリル酸エステル、(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリルアミド、(メタ)アクリロニトリルなどのアクリル系モノマーの重合体または共重合体)、ポリビニルピロリドン、ポリビニルアセタール、ポリエステル、ポリアミド、ポリイミド、ポリウレタンなどを挙げることができる。これらのポリマーは非架橋のポリマーであってもよく、架橋ポリマーの微粒子であってもよい。ポリマー前駆体とは、加熱によりポリマーを生じるような前駆体であり、未硬化のエポキシ樹脂(エポキシ化合物と硬化剤の混合物)や未硬化のフェノール樹脂(レゾールと硬化剤の混合物)や未硬化のシアネート樹脂(シアネート化合物と硬化剤の混合物)などを例示するこができる。
【0027】
前記組成物は、揮発性溶媒すなわち有機溶媒や水を含んでいてもよい。好ましい有機溶媒の具体例を挙げると、1−プロパノール、2−プロパノール、1−ブタノール、2−ブタノール、1−オクタノール、α−テルピネオール、ベンジルアルコール、エチレングリコール、プロピレングリコール、1,3−プロパンジオール、1,4−ブタンジオール、ジエチレングリコール、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノメチルエーテルアセテート、エチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、1,2−ジメトキシエタン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、ジイソブチルケトン、シクロヘキサノン、イソホロン、酢酸エチル、酢酸ブチル、酢酸イソアミル、乳酸エチル、プロピレンカーボネート、1,4−ジオキサン、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N−メチルピロリドン、ジメチルスルホキシド、γ−ブチロラクトン、トルエン、キシレン、メシチレン、デカリン、テトラリン、などを挙げることができる。さらに、揺変剤、レベリング剤、消泡剤など塗料や印刷インクに用いられるあらゆる添加剤を含むことができる。さらに前述の式1で示される化合物を含んでいてもよい。
【0028】
本発明においては、前記組成物を式1で示される化合物存在下で加熱処理することにより金属膜が製造される。ここでいう金属膜とは金属粒子が相互に融着した形態の金属を含む膜のことを指す。ここでいう金属膜はポリマーなどの金属以外の成分を含んでいてもよい。
【0029】
形成される膜の例としては大面積の膜でもよく配線などのパターンでもよい。また基板の凹所(たとえば多層基板のビアホールなど)の内壁を被覆するものや、凹所全体を充填するものであってもよい。膜の形成は、前記組成物を含むインクやペーストの塗布、印刷などにより行うことができる。塗布の好ましい方法としては、バーコーター、グラビアロールコーター、スリットダイコーター、ナイフコーター、リップコーター、コンマコーター法、リバースロールコーター、スプレーコーター、ディップコーター、スピンコーターなどの装置を用いる方法を挙げることができる。印刷する好ましい方法としては、孔版印刷法(スクリーン印刷法など)、凸版印刷法(フレキソ印刷法など)、凹版印刷法(グラビア印刷法など)、平版印刷法、インクジェット法、ディスペンサー法などを挙げることができる。
【0030】
前記組成物を含むインクやペーストの塗布、印刷を行った場合は、その後加熱などの手段により揮発性溶媒を除去する操作を行ってもよい。
【0031】
本発明において金属膜を形成する対象である基板としてはあらゆる材料を用いることができ、その形状としても平面、曲面、凹凸面などあらゆるものを用いることができる。基板表面とは平面の大面積面だけでなく、凹凸面の側面なども含む。用いられる材料の例として樹脂フィルム、樹脂板、ガラス板、紙、グリーンシートなどを挙げることができる。樹脂フィルムの具体的材料としてはポリエステル樹脂(ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、液晶ポリエステルなど)、ポリイミド樹脂、ポリエーテルイミド樹脂、ポリアラミド樹脂、ポリエーテルスルホン樹脂、ポリフェニレンスルフィド樹脂、ポリフェニレンエーテル樹脂などを例示することができる。樹脂板に用いる樹脂としては、樹脂フィルムで例示したと同様の熱可塑性樹脂に加えてエポキシ樹脂、フェノール樹脂、シアネート樹脂、マレイミド樹脂、ベンズオキサジン樹脂などの熱硬化性樹脂(硬化物)を挙げることができる。また樹脂板は強化繊維基材に熱硬化性樹脂を含浸して硬化した繊維強化樹脂であってもよい。このとき強化繊維基材としては、紙、綿布、ポリエステル織布、ガラス繊維織布などが好ましい。グリーンシートとは、焼成によりセラミックス基板となる前駆体であって、通常アルミナ骨材、ガラス材料、有機バインダーなどの成分をシート状に成形したものである。
【0032】
本発明における加熱処理における加熱温度については特に制限はないが、本発明は加熱処理を250℃以下で行うことができることを特徴としている。加熱方法としてはホットプレート、オーブンなどによる直接的な加熱のほか、赤外線やマイクロ波やレーザーを照射することにより発生する局所的な熱を利用することもできる。また、式1で示される化合物を蒸気で塗布層に供給する場合は、加熱蒸気を噴霧することにより加熱処理することも可能である。
【0033】
本発明においては式1で示される化合物を系内に存在させる好ましい態様として以下の(1)〜(3)が挙げられるがこれらに限定されない。また、これらの態様を組み合わせて実施することも可能である。
(1)前記組成物の外部に蒸気として存在
(2)前記組成物の外部に液体として存在
(3)前記組成物の成分として存在。
【0034】
式1で示される化合物を前記組成物の外部に蒸気として存在させる態様の具体的例としては、前記組成物の膜をチェンバーに入れ、加熱しながら式1で示される化合物の蒸気をチェンバー内に供給する方法を挙げることができる。また、前記組成物の膜と式1で示される化合物をチェンバーに入れ、チェンバー内を加熱して式1で示される化合物を気化させる方法も可能である。
【0035】
式1で示される化合物を前記組成物の外部に液体として存在させる態様の具体例としては、前記組成物の膜を液状の式1で示される化合物に浸漬して加熱する方法、あるいは前記組成物の膜に液状の式1で示される化合物を噴霧する方法を挙げることができる。
【0036】
本発明の金属膜の製造方法によって得られる金属膜は、回路基板の配線、メンブラン配線板の配線、フィルムコネクタの配線、多層基板の層間配線、電磁波遮蔽材の導体メッシュ、フラットパネルディスプレイの配線(ゲートバスラインやソースバスライン)、プラズマディスプレイの集電電極、太陽電池の集電電極、ICタグのアンテナ、印刷コイルなど、導電体としての用途に好適に使用することができる。
【実施例】
【0037】
以下、本発明を実施例により説明する。導電膜の抵抗率は株式会社ダイアインスツルメンツ製ロレスターGPを用いて4端子4探針法により測定した。また、3本ロールはエグザクト・テクノロジーズ株式会社製M−50を、ミキサーは株式会社シンキー製あわとり錬太郎AR−100を用いた。また、式1で示される化合物について特に説明のない場合は、東京化成株式会社から試薬として購入されるものを使用した。
【0038】
(参考例1〜4)バインダーポリマーへの溶解性
金属膜の製造する場合に使用される導電性ペーストにはバインダーポリマーとしてエポキシ樹脂を用いる場合が多い。代表的なエポキシ樹脂と式1で示される化合物との溶解性を調べた結果を表1に示す。式1で示される化合物のうち、入手が最も容易な式2、3の化合物に関して試験したところ、これらの化合物はエポキシ樹脂と容易に溶解し、エポキシ樹脂を金属粒子、酸化膜を有する金属粒子および金属酸化物粒子から選択される少なくとも一つ以上を含有する組成物の成分として存在せしめるために好適であることが示された。一方、式1でない化合物では分離してしまい、これらの化合物で均一なペーストを作製することは困難であることが示された。また、金属粒子、酸化膜を有する金属粒子および金属酸化物粒子から選択される少なくとも一つ以上を含有する組成物の外部に蒸気または液体として式1で示される化合物を存在せしめる場合、式1で示される化合物が有効に作用するためには、式1で示される化合物が組成物の膜内部に拡散していくことが必要であるが、本参考例に示されるように式1で示される化合物がエポキシ樹脂への溶解性が優れることにより、この拡散が容易であることが示された。
【0039】
【表1】

【0040】
(実施例1、2)式1で示される化合物を蒸気として存在せしめる場合の金属膜の製造方法
・銅ペーストの作製
平均分子量10000のポリビニルピロリドン(東京化成株式会社 P0471)0.28gを0.72gのN−メチル−2−ピロリドン(関東化学株式会社 25336−00)に溶解させ、平均粒径50nmの銅ナノ粒子(シグマ・アルドリッチ・ジャパン株式会社 684007−25G)4gと3本ロール及びミキサーを用いて混練した。
【0041】
・塗膜作製
作製した銅ペースト(0.1g)を一辺が30mmのカプトンフィルム(東レ・デュポン株式会社製、カプトン500V)にのせ、#5のバーコーターを用いて塗布した。塗膜を真空オーブンに入れ、70℃で2時間乾燥させた。
【0042】
・加熱処理
作製した塗膜を反応容器にいれ、250℃で5分間加熱処理を行い、エチレンカーボネートまたはプロピレンカーボネートの蒸気を充満させた。その後、100℃以下まで冷ましたのちに取り出した。金属膜の抵抗率を測定した結果を表2に示す。
【0043】
【表2】

【0044】
(実施例3)式1で示される化合物を組成物の外部へ液体として存在せしめる場合の金属膜の製造方法。
【0045】
・銅ペーストおよび塗膜作製
銅ペーストおよび塗膜の作製は実施例1と同様に行った。
【0046】
・加熱処理
作製した塗膜をエチレンカーボネートに浸し、250℃で5分間加熱処理を行い、100℃以下まで冷ましたのちに取り出した。メタノールを含ませたガーゼで表面の汚れを拭き取り乾燥させた。金属膜の抵抗率を測定したところ50μΩ・cmであった。
【0047】
(実施例4)式1で示される化合物を組成物の成分として存在せしめる場合の金属膜の方法
・銅ペーストの作製
平均分子量10000のポリビニルピロリドン(東京化成株式会社 P0471)0.28gを0.72gのエチレンカーボネートに溶解させ、平均粒径50nmの銅ナノ粒子(シグマ・アルドリッチ・ジャパン株式会社 684007−25G)4gと3本ロール及びミキサーを用いて混練した。
【0048】
・塗膜作製
作製した銅ペースト(0.1g)を一辺が30mmのカプトンフィルム(東レ・デュポン株式会社製、カプトン500V)にのせ、#5のバーコーターを用いて塗布した。
【0049】
・加熱処理
作製した塗膜を逆止弁付き容器内にいれ、250℃で5分間加熱処理を行い、100℃以下まで冷ましたのちに取り出した。金属膜の抵抗率を測定したところ30μΩ・cmであった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板表面に形成された金属粒子、酸化膜を有する金属粒子および金属酸化物粒子から選択される少なくとも一つ以上を含有する組成物を、式1で示される化合物存在下で加熱処理することによる金属膜の製造方法。
【化1】

(式中、Rは水素原子または炭素数1〜6のアルキル基、R、Rはそれぞれ独立に水素原子、メトキシ基、炭素数1〜6のアルキル基(ここで炭素数1〜6のアルキル基は水酸基、炭素数1〜6のアルコキシ基、環状カーボネート基もしくはエーテル基で置換されていてもよい)または炭素数1〜6のアルケニル基(ここでRとRは環をなしていてもよい。)を表す。)
【請求項2】
前記RおよびRが水素原子であり、Rが水素原子またはメチル基である請求項1に記載の金属膜の製造方法。
【請求項3】
前記金属が銀、銅、ニッケルまたは錫である請求項1または2に記載の金属膜の製造方法。
【請求項4】
前記金属粒子、酸化膜を有する金属粒子または金属酸化物粒子の平均粒径が1〜200nmである請求項1〜3のいずれかに記載の金属膜の製造方法。
【請求項5】
式1で示される化合物の存在の態様が、
(1)前記組成物の外部に蒸気として存在
(2)前記組成物の外部に液体として存在
(3)前記組成物の成分として存在
のいずれかまたはその組み合わせである請求項1〜4のいずれかに記載の金属膜の製造方法。
【請求項6】
前記金属粒子、酸化膜を有する金属粒子および金属酸化物粒子から選択される少なくとも一つ以上と式1で示される化合物を含有する組成物。
【請求項7】
請求項1〜5記載の金属膜の製造方法により製造された金属膜。


【公開番号】特開2010−138426(P2010−138426A)
【公開日】平成22年6月24日(2010.6.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−313169(P2008−313169)
【出願日】平成20年12月9日(2008.12.9)
【出願人】(000003159)東レ株式会社 (7,677)
【Fターム(参考)】