説明

金属膜形成塗料及び金属膜

【課題】可視光を高反射率で反射することができ、薄膜でありながらも金属密度の高い金属膜を金属の使用量を低減して、効率よく形成することができる金属膜形成用塗料及び金属膜の提供。
【解決手段】少なくとも金属粒子及び溶媒を含み、前記金属粒子の透過型電子顕微鏡像から算出した数平均粒径(DTEM)が、15nm〜80nmであり、前記金属粒子の全個数の10%の粒径(D10)と、前記金属粒子の全個数の50%の粒径(D50)との比(D50/D10)が3以下であり、かつ前記金属膜形成用塗料中の金属濃度が50質量%以上である金属膜形成用塗料及び金属膜とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、反射性に優れた金属膜を効率よく形成することができる金属膜形成塗料及び金属膜に関する。
【背景技術】
【0002】
金属光沢を有する反射板は、半導体物品の反射用金属膜、反射型ディスプレイ用反射板、反射型液晶ディスプレイの反射板等の光学分野において広く用いられている。この場合、平滑かつ反射率の高い反射板は、例えば(1)真空蒸着法、スパッタリング等の乾式成膜技術、(2)金属微粒子が分散したペーストを塗布して焼成し、金属膜とする方法、などで製造されている。
前記(1)のスパッタリング等の乾式成膜法では、減圧条件で行われることが多く、装置の大型化が不可避であるため、初期の導入コストが甚大なものとなる。また、前記(2)の焼成による膜の形成法では、焼成時に基板が熱により変形したり、割れたりする虞があるので、耐熱性の高い基板を選択しなければならず、基板の選択性に制限がかかるという実用上の問題があった。
【0003】
最近では、金属粒子を微細化することで、粒子同士の融着を生じやすくし、低温であっても金属間結合を生じさせ、金属膜を形成させる試みがなされるようになっている(特許文献1参照)。
【0004】
ところが、本発明者らの検討によると、前記特許文献1に記載された方法では、効率よく金属膜を形成できないことを知見した。即ち、前記特許文献1に記載の粒子は、金属粒子の液中濃度が希薄(記述によれば20質量%内外)であるため、金属膜を形成する際に数度にわたって金属インクを塗布する必要があり、同一条件で同一の金属膜を形成させることは必ずしも容易ではないため、逆に表面性が悪化する虞がある。したがって、このような金属インクを使用した場合、形成される金属膜の表面には凹凸が生じやすく、反射率は必ずしも高いものが得られるとは限らない、と考えられる。また、プロセス面で見ても、一旦形成させた金属粒子の二次粒子化が必須のものであり、必ずしも効率的な金属膜の形成方法とは言えないものである。
【0005】
したがって可視光を高反射率で反射することができ、薄膜でありながらも金属密度の高い金属膜を効率よく形成することができるような金属膜形成用塗料の提供が望まれている。
【0006】
【特許文献1】特開2003−327870号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上述のような切望されてやまない薄膜でありながらも高反射率を有するとともに、生産性の高い金属膜の形成に適した金属膜形成用塗料、及び該金属膜形成用塗料により形成された金属膜を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記課題を解決するための手段としては、以下の通りである。即ち、
<1> 少なくとも金属粒子及び溶媒を含む金属膜形成用塗料であって、
前記金属粒子の透過型電子顕微鏡像から算出した数平均粒径(DTEM)が、15nm〜80nmであり、
前記金属粒子の全個数の10%の粒径(D10)と、前記金属粒子の全個数の50%の粒径(D50)との比(D50/D10)が3以下であり、かつ前記金属膜形成用塗料中の金属濃度が50質量%以上であることを特徴とする金属膜形成用塗料である。
<2> 数平均粒径が10nm以下である金属粒子の割合が10%以下である前記<1>に記載の金属膜形成用塗料である。
<3> 金属粒子の結晶粒径(D)と、金属粒子の数平均粒径(DTEM)との比(DTEM/D)が2.0以下である前記<1>から<2>のいずれかに記載の金属膜形成用塗料である。
<4> 焼結を生じている粒子の割合が、金属粒子全体に対して10%以下である前記<1>から<3>のいずれかに記載の金属膜形成用塗料である。
<5> 隣接する金属粒子同士が互いに独立しており、該金属粒子間の距離が50%の粒径(D50)未満である前記<1>から<4>のいずれかに記載の金属膜形成用塗料である。
<6> 隣接する金属粒子と金属粒子の間に有機化合物が介在している前記<1>から<5>のいずれかに記載の金属膜形成用塗料である。
<7> 有機化合物が、金属粒子の表面に金属を保護する保護剤として存在し、かつ該有機化合物の分子中に炭素原子及び窒素原子の少なくともいずれかを有する前記<6>に記載の金属膜形成用塗料である。
<8> 金属粒子が、銀粒子である前記<1>から<7>のいずれかに記載の金属膜形成用塗料である。
<9> 前記<1>から<8>のいずれかに記載の金属膜形成用塗料から得られることを特徴とする金属膜である。
【発明の効果】
【0009】
本発明によると、従来における諸問題を解決することができ、可視光を高反射率で反射することができ、薄膜でありながらも金属密度の高い金属膜を金属の使用量を低減して、効率よく形成することができる金属膜形成用塗料、及び該金属膜形成用塗料により形成された金属膜を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
(金属膜形成用塗料)
本発明の金属膜形成用塗料は、少なくとも金属粒子及び溶媒を含み、更に必要に応じてその他の成分を含有してなる。
【0011】
前記金属粒子としては、鏡面反射を得るためには銀であることが好ましく、その粒子径は、透過型電子顕微鏡(TEM)像から算出した数平均粒径が15nm〜80nm、好ましくは20nm〜80nm、より好ましくは25nm〜75nmである。前記数平均粒径が80nmを超えると、金属の白色度が高くなってしまう。一方、前記数平均粒径が15nm未満であると、金属のプラズモン吸収に起因して藍色や補色である黄色が発現するので、単一の色調が必要な用途には不向きである。
【0012】
前記金属粒子の全個数の10%の粒径(D10)と、前記金属粒子の全個数の50%の粒径(D50)との比(D50/D10)は3以下であり、1.5〜3が好ましく、1.5〜2.5がより好ましい。前記比(D50/D10)は、粒子の粒度分布が良好であることを示すので、できるだけ小さい方が好ましい。前記比(D50/D10)が3を超えると、粒度分布はブロードの形状をしており、金属膜を形成したときに反射率が低下してしまう。
【0013】
前記金属粒子における数平均粒径が10nm以下である粒子の割合が10%以下であることが好ましく、8%以下がより好ましい。前記数平均粒径が10nm以下である粒子の割合が10%を超えると、金属膜の反射効率が低減し、銀白色ではなく、くすみがかった様相になり反射率も低下することがあるので好ましくない。
【0014】
ここで、前記数平均粒径(DTEM)、D10、及びD50は、例えば透過型電子顕微鏡(TEM)による像を観察することにより測定することができる。
【0015】
前記金属粒子の結晶粒径(D)と、金属粒子の数平均粒径(DTEM)との比(DTEM/D)は2.0以下が好ましく、0.5〜1.8がより好ましい。
前記比(DTEM/D)が2.0を超えると、数個の結晶により粒子が形成されることを示すため、粒子中に結晶の粒界が生じるようになりやすいことを表す。その様な粒子の場合には、結晶粒子間に不純物が混入しやすくなることが多いので好ましくない。
ここで、前記金属粒子の結晶粒径(D)とは、結晶粒子の大きさを表し、その値はX線回折法を用い、Agの(111)面の回折線の半値幅を測定し、公知の方法を用いることで算出できる。
【0016】
<金属膜形成用塗料の製造方法>
本発明の金属膜形成用塗料は、金属粒子を形成させた後、該金属粒子を媒体中に分散させることにより得られる。以下に金属粒子の形成方法から説明する。
【0017】
<還元工程>
まず、金属粒子は溶媒中に溶解している金属を湿式法により還元することにより得られる。用いられる金属塩としては、溶媒に対して溶解性を呈する金属塩が用いられ、銀の場合には硝酸銀、炭酸銀などを例示することができる。還元の際には溶媒を還流状態にすれば、より効率的に還元することができる。したがって、個々で使用される溶媒の沸点はできるだけ低い方が好適である。前記溶媒としては、例えば、イソブチルアルコール、ヘキサノールなどが挙げられる。
【0018】
−有機化合物−
前記有機化合物は、隣接する金属粒子と金属粒子の間に介在しており、金属粒子の表面に金属を保護する働きを有する保護剤として存在する。
前記有機化合物は、反応時には金属粒子の粗大化を防止するとともに、金属膜形成用塗料化する時には金属粒子同士の結合を防止する保護剤としての役割を持つ。保護剤としての役割を重視するのであれば、分子量の大きいポリマーなどで行うのがよいが、金属膜形成時に不純物として膜内部に残存してしまい、金属膜の反射能力を低下させる虞があるので好ましくない。金属粒子保護効果と金属粒子の成長抑制効果を併せ持つ性質を持った有機化合物としては、その分子中に炭素原子及び窒素原子の少なくともいずれかを有する化合物が好ましく、例えばアミン類が好適に用いられる。前記アミン類としては、例えばオレイルアミン、オクチルアミンといった不飽和結合をその構造中に有する有機アミン類が例示できる。
【0019】
前記有機化合物を使用することにより、隣接する金属粒子同士が互いに独立しており、該金属粒子間の距離が50%の粒径(D50)未満とすることができる。前記金属粒子間の距離が長すぎると、金属粒子の独立性は担保されるが、膜を焼成する際に高い温度が必要となるので好ましくない。
また、金属粒子が液中に分散している場合には粒子同士の焼結が少なくなり、焼結を生じている粒子(焼結粒子)の割合を、金属粒子全体に対して10%以下とすることができる。前記焼結粒子の割合が、10%を超えると、金属膜とする際にまだらな膜となってしまい、金属膜の反射率が低いものとなってしまうことがある。
前記焼結粒子とは、粒子同士が独立して存在せず、点もしくは面で2つ以上の粒子が接合した状態にあり、個々の独立した粒子の平均粒子径よりも大きくなっているような粒子をいう。その際、粒子の形状はもとの独立した粒子の形状とは必ずしも一致しない。
ここで、前記焼結粒子の割合は、透過型電子顕微鏡(TEM)写真において、その撮影された視野の中で観察される粒子の状態を上述の方法に当てはめて、独立した粒子、焼結した粒子をそれぞれの数を計測することにより得ることができる。
【0020】
−還元補助剤−
前記還元補助剤としては、溶媒としてのアルコールよりも還元能力の高いものを併用して使用することができる。前記還元補助剤はアルコールよりも還元力が高い物質で構成されるため、添加量によっては非常に細かい微粒子になることがある。よって、粒径の調整手段の一つとして還元補助剤量を変化させて調整することも可能である。用いられる還元補助剤は不飽和結合を有しない、分子量が50〜100程度のアミン化合物が好適である。前記アミン化合物としては、例えばジエタノールアミン、トリエタノールアミンが例示できる。
【0021】
前記還元反応の温度は、50℃〜200℃の範囲内が好ましく、75℃〜175℃がより好ましい。前記反応温度が低すぎるとアルコール類の還元作用が発揮されにくく、反応が進みにくいと同時に還元不良を生じる虞がある。また、還元温度により還流温度を調整することもできるが、温度をただ画一的に高くするだけでは粒度分布の悪い粒子群となってしまう虞があるので好ましくない。また、場合によっては、還元は温度を数段階に分け処理する、いわゆる多段分けで行うこともできる。
【0022】
<固液分離工程>
前記還元反応を終えたスラリー中には、有機化合物に覆われた金属粒子が存在している。このスラリーを固液分離し、金属粒子を固形分として回収する。この固液分離は、洗浄と組み合わせることにより何度か繰り返して行うことが効果的である。例えば、以下の(1)〜(4)の手順を繰り返す方法が採用できる。
(1)還元反応後のスラリーを、デカンテーション法又は遠心分離機により固液分離し、上澄みを廃棄する。
(2)固液分離された固形分(生成物)にメタノールを添加して超音波分散を加え、生成物の表面に付着している不純物を洗浄除去する。
(3)上記(1)及び(2)を数回繰り返して行い、表面の不純物を可能な限り除去する。
(4)最後に上記(1)を再度行って、上澄みを廃棄し、固形分を採取する。
【0023】
<分散工程>
前記固液分離工程により得られた金属粒子は、分散媒に再分散させることで金属膜形成用塗料(金属インク)を形成する。具体的には、次の工程を経て得られる。
【0024】
前記分散媒としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、有機化合物を主体とした非極性又は極性の小さい液状媒体であって、25℃で比誘電率が15以下である液状媒体が用いられ、例えば、イソオクタン、n−デカン、n−ウンデカン、n−テトラデカン、n−ドデカン、トリデカン、ヘキサン、ヘプタン等の脂肪族炭化水素;ベンゼン等の芳香族炭化水素、などが挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。これらの中でも、テトラデカン、n−デカンが特に好ましい。
前記分散媒には、極性を上記のように小さく維持できる範囲で、アミン類等の分散補助剤を添加することも可能である。
【0025】
<分級工程>
前記分級工程は、前記分散工程を経て得られた金属膜形成用塗料(金属インク)には、有機化合物の付着量のバラツキなどによって、極めて分散性のよい金属粒子と、若干分散性に劣る金属粒子とが混在している。そこで、これらの金属粒子のうち極めて分散性のよい金属粒子だけを抽出した分散液を作製する工程である。
この分級工程を加えることで、性能のよいインク及びペーストを構築する上で有利となる。
【0026】
前記分級操作としては、目的に応じて適宜選択することができ、例えば遠心分離機を用いて行うことができる。前記遠心分離の条件は遠心分離機の規模や目的とする分散性のレベルによっても多少異なるが、一例を挙げると、前記分散工程で得られた分散液に対して3,000rpmで30分間遠心分離する操作を加え、上澄みと沈降物質を分離する。得られる上澄みには極めて分散性のよい金属粒子だけが分散している。したがって、この上澄み液を回収することによって極めて分散性のよい金属粒子分散液を得ることができる。
【0027】
更に、分級工程で得られた金属粒子分散液(上澄み液)を真空乾燥機にかけ、液体が確認されなくなるまで濃縮する。この濃縮物を上で示した液状媒体に分散させることにより、適宜金属濃度が調整された分散液が形成され、調整により90質量%程度の高い金属濃度を得ることも可能である。
こうして得られる金属粒子分散液中の金属濃度は50質量%以上であり、溶媒の質量を変更することにより、全体質量に対する金属濃度をより高めることができ、75質量%〜90質量%とすることができる。前記金属濃度が50質量%未満であると、塗布時において金属粒子同士の間隔が広くなることに起因して、乾燥及び焼結時に空隙が生じてしまうため、光沢が低くなる可能性があり、反射率の低下が見られるので好ましくない。
【0028】
上記の金属粒子分散液中の金属濃度は、銀粒子分散液の強熱減量から算出することができる。ここでの強熱減量(%)とは、次の式で示される値を意味する。
強熱減量(%)=100×〔(W50−W300)/W50−(W50−W1000)/W50
ここで、W50、W300、及びW1000は、温度が50℃、300℃、及び1000℃における分散液の重量を表す。
前記金属粒子分散液の強熱減量は10%未満である。前記強熱減量が10%未満であるということは、配線を焼成する際に有機化合物が効率よく燃焼されて、配線化した際に金属焼結体内の不純物がより低減できうることを示し、かつ焼結を抑制することがなく、良好な導電性を有する配線が得られるようになることを表す。前記強熱減量が10%以上であると、焼成時に有機化合物が焼結抑制剤として働くと共に、不純物として配線内に存在することによって、配線の抵抗を高くしてしまい、場合によっては導電性を阻害することがあるので好ましくない。
前記強熱減量は、例えばマックサイエンス/ブルカーエイエックス社製TG−DTA2000型測定器により、以下の測定条件で測定できる。
・試料重量20±1mg
・昇温速度10℃/min
・雰囲気:大気(通気なし)
・標準試料:アルミナ20.0mg
・測定皿:株式会社理学製アルミナ測定皿
・温度範囲:50℃〜1000℃
【0029】
(金属膜)
本発明の金属膜は、本発明の金属膜形成用塗料から得られ、該金属膜形成用塗料を基体上に塗布して得られることが好ましい。
【0030】
前記基体としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、ガラス板、金属板、金属製フィルム、プラスチック板、プラスチックフィルム、などが挙げられる。
前記塗布方法としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えばインクジェット法による印刷、ローラーコート、スピンコート、リソグラフィ印刷、スクリーン印刷、オフセット印刷などが挙げられる。
前記塗布において、基体全面に金属膜を必要としない場合、即ち部分的に金属膜を形成したい場合には、インクジェット法によって金属膜を形成してもよいし、大量かつ広範囲に金属膜を形成するにはローラーコート法、といったように目的や対象面積に沿った形成法を適宜選択すればよい。これらの中でも、微細な配線を形成するためには、インクジェット法、スクリーン印刷法、オフセット印刷法などが好適であり、インクジェット法が特に好ましい。
【0031】
このようにして基体上に形成された有機化合物で被覆された金属粒子からなる金属膜を、加熱により有機化合物の脱離及び被膜の緻密化を行う。温度は高ければ高い方が金属膜の緻密化による表面抵抗値の低減、並びに有機化合物の脱離、及び処理時間の短縮には好適であるが、配線を形成する対象物の性質により適宜調整するのがよい。基体が有機物(ポリエチレンフィルムなど)の場合には、融点よりも10℃以上低い領域で加熱するのが好ましく、20℃以上低い領域で加熱をするのがより好ましい。
加熱時間も長ければ長い方が金属膜の形成の観点から見ると好ましいが、加熱温度と同様に基体へのダメージを低減するためには短時間で行うのが好ましい。特に、本発明に従う金属粒子を使用すれば、加熱時間は長くとも60分間で好適な金属膜の形成を行うことができる。
【0032】
−用途−
本発明の金属膜は、可視光を高反射率で反射することができ、薄膜でありながらも金属密度が高いので、例えば反射フィルム、半導体装置;プラズマディスプレイパネル(PDP)、液晶ディスプレイ(LCD)等の各種表示装置;偏光板、反射型電極、導光板、光ディスク、複写機の反射膜、レーザー光検出ミラー、プロジェクションテレビ用の背面ミラー、反射型液晶ディスプレイ用ミラーなどに幅広く用いることができる。
【実施例】
【0033】
以下、本発明の実施例を説明するが、本発明は、これらの実施例に何ら限定されるものではない。
下記実施例及び比較例において、「金属粒子の数平均粒径(DTEM)、D10、及びD50」、「金属粒子の結晶粒径(Dx)」、並びに「反射膜の膜厚」は、以下のようにして測定した。
【0034】
<金属粒子の数平均粒径(DTEM)、D10、及びD50
数平均粒径(DTEM)、D10、及びD50は、透過型電子顕微鏡(TEM;日本電子株式会社製、JEM−100CX Mark−II型)によるTEM像を観察し、300000倍の写真を用い、300個の粒子について測定した。
【0035】
<金属粒子の結晶粒径(Dx)>
金属粒子の結晶粒径は、X線回折結果からScherrerの式により求めることができる。その求め方は、次のとおりである。
Scherrerの式は、下記式で表される。
Dx=K・λ/βcosθ
ただし、前記式中、KはScherrer定数、Dxは結晶粒子径、λは測定X線波長、βはX線回折で得られたピークの半価幅、θは回折線のブラッグ角をそれぞれ表す。
Kは0.94の値を採用し、X線の管球はCuを用いると、前記式は下記式のように書き換えられる。
Dx=0.94×1.5405/βcosθ
ここで用いる半値幅βは、Agの(111)面の回折線を用いて測定した。
【0036】
<反射濃度の評価>
得られた反射膜の反射濃度をデンシトメーター(ND−11、日本電色工業株式会社製)を用いて測定した。反射膜はAg由来なので、反射濃度はブラックモードで測定したものを使用した。なお、反射濃度はアルミニウム板の値を100として相対値(%)で表示した。
【0037】
<反射膜の膜厚>
キーエンス社製のレーザー変位計LT9000と、専用ステージKS−1100を用いて測定した。
【0038】
(実施例1)
還元力を有する有機溶媒としてイソブタノール(和光純薬株式会社製、特級試薬)を使用し、有機化合物としてオレイルアミン(和光純薬株式会社製、特級試薬)を混合したところに、銀化合物として硝酸銀結晶(関東化学株式会社製、特級試薬)を添加して、マグネチックスターラーにて撹拌し、硝酸銀結晶を溶解させた。
具体的には、硝酸銀20.59gと、イソブチルアルコール96.24gとを混合した溶液Aと、オレイルアミン99.27gと、オクチルアミン47.00gとを混合した溶液Bを作製した。
これらの溶液を還流器が接続された300mLの容器に移液した後、オイルバスにて容器内に不活性ガスである窒素を400mL/minの流量で添加しながら、溶液Aを100rpmで撹拌しつつ、液温を50℃となるまで昇温速度1℃/minで上昇させた後、溶液Bを添加し、同じく昇温速度1℃/minで105℃まで昇温した後、300分間還流を行いながら加熱を行って、反応を進行させた。反応終了後、前記の洗浄、分散、分級の各工程を経て、銀粒子を作製した。なお、洗浄はメタノールを用いて2回行った。
得られた銀粒子を溶媒としてのテトラデカンで金属濃度が85質量%となるように調整して、金属膜形成用塗料(銀インク)を作製した。
【0039】
得られた銀粒子の数平均粒径(DTEM)は32nm、D10値が20nm、D50値が32nm、比(D50/D10)が1.60であった。また、数平均粒径が10nm以下の粒子の割合は8.9%であり、結晶粒径(D)は22nmであり、比(DTEM/D)は1.5であった。
得られた銀インクを用い、スピンコート法によりガラス基板上に均一に成膜し、室温(25℃)で乾燥させて、膜厚13.8μmの反射膜を作製した。得られた反射膜の反射濃度を以下のようにして評価した。結果を表1及び図1に示す。
【0040】
(実施例2〜10)
実施例1において、銀粒子の数平均粒径(DTEM)を表1に記載のように変えた以外は、実施例1と同様にして、実施例2〜10の反射膜をそれぞれ作製した。
得られた各反射膜の反射濃度を実施例1と同様にして測定した。結果を表1及び図1に示す。
【0041】
(実施例11)
実施例1の洗浄工程において洗浄回数を5回とした以外は、実施例1と同様にして、反射膜を作製した。
得られた反射膜の反射濃度を実施例1と同様にして測定した。結果を表1及び図1に示す。
【0042】
(比較例1)
アルミニウム板を反射板として用い、反射濃度を実施例1と同様にして測定した。ただし、この明細書における基準になるので、表1では反射濃度を100%と表している。
【0043】
(比較例2)
ガラス上にAgめっき膜(厚み1.1μm)を形成したものを作製し、反射濃度を実施例1と同様にして測定した。結果を表1に示す。
【0044】
(比較例3〜5)
実施例1において、銀粒子の数平均粒径(DTEM)を表1に記載のように変えた以外は、実施例1と同様にして、比較例3〜5の各反射膜をそれぞれ作製した。
得られた各反射膜の反射濃度を実施例1と同様にして測定した。結果を表1及び図1に示す。
【0045】
(比較例6)
実施例2において、粒子形成時の還元時における昇温速度を2.5℃/minとした以外は、実施例2と同様にして、反射膜を作製した。
得られた反射膜の反射濃度を実施例1と同様にして測定した。結果を表1及び図1に示す。
【0046】
(比較例7)
実施例1のインク化工程における希釈率を高め、金属濃度を35.8質量%とした以外は、実施例1と同様にして、反射膜を作製した。
得られた反射膜の反射濃度を実施例1と同様にして測定した。結果を表1及び図1に示す。
【0047】
【表1】

表1及び図1の結果から、実施例1〜11は、アルミニウム板(比較例1)及びAgめっき(比較例2)と比べて、金属粒子を用いているので、反射濃度の向上が見られた。また、数平均粒径(DTEM)が15nm〜80nmの金属粒子が特に優れた反射率を示すことが分かった。
【産業上の利用可能性】
【0048】
本発明の金属膜形成用塗料により得られる金属膜は、可視光を高反射率で反射することができ、薄膜でありながらも金属密度が高いので、例えば反射フィルム、半導体装置;プラズマディスプレイパネル(PDP)、液晶ディスプレイ(LCD)等の各種表示装置;偏光板、反射型電極、導光板、光ディスク、複写機の反射膜、レーザー光検出ミラー、プロジェクションテレビ用の背面ミラー、反射型液晶ディスプレイ用ミラーなどに幅広く用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0049】
【図1】図1は、実施例及び比較例における金属粒子の数平均粒径と反射濃度の関係を示したグラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも金属粒子及び溶媒を含む金属膜形成用塗料であって、
前記金属粒子の透過型電子顕微鏡像から算出した数平均粒径(DTEM)が、15nm〜80nmであり、
前記金属粒子の全個数の10%の粒径(D10)と、前記金属粒子の全個数の50%の粒径(D50)との比(D50/D10)が3以下であり、かつ前記金属膜形成用塗料中の金属濃度が50質量%以上であることを特徴とする金属膜形成用塗料。
【請求項2】
数平均粒径が10nm以下である金属粒子の割合が10%以下である請求項1に記載の金属膜形成用塗料。
【請求項3】
金属粒子の結晶粒径(D)と、金属粒子の数平均粒径(DTEM)との比(DTEM/D)が2.0以下である請求項1から2のいずれかに記載の金属膜形成用塗料。
【請求項4】
焼結を生じている粒子の割合が、金属粒子全体に対して10%以下である請求項1から3のいずれかに記載の金属膜形成用塗料。
【請求項5】
隣接する金属粒子同士が互いに独立しており、該金属粒子間の距離が50%の粒径(D50)未満である請求項1から4のいずれかに記載の金属膜形成用塗料。
【請求項6】
隣接する金属粒子と金属粒子の間に有機化合物が介在している請求項1から5のいずれかに記載の金属膜形成用塗料。
【請求項7】
有機化合物が、金属粒子の表面に金属を保護する保護剤として存在し、かつ該有機化合物の分子中に炭素原子及び窒素原子の少なくともいずれかを有する請求項6に記載の金属膜形成用塗料。
【請求項8】
金属粒子が、銀粒子である請求項1から7のいずれかに記載の金属膜形成用塗料。
【請求項9】
請求項1から8のいずれかに記載の金属膜形成用塗料から得られることを特徴とする金属膜。

【図1】
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【公開番号】特開2009−84396(P2009−84396A)
【公開日】平成21年4月23日(2009.4.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−255038(P2007−255038)
【出願日】平成19年9月28日(2007.9.28)
【出願人】(506334182)DOWAエレクトロニクス株式会社 (336)
【Fターム(参考)】