説明

金属膜形成用組成物、金属膜、金属膜の形成方法および電子部品

【解決手段】表面部を含む一部分が金属の酸化物からなり、前記表面部を含む一部分以外の部分が前記金属からなる金属−金属酸化物複合粒子(A1)、および金属酸化物粒子(A2)から選択される少なくとも1種の金属酸化物含有粒子(A)、アルジトール(B)およびアルジトールの酸化物(C)を含有することを特徴とする金属膜形成用組成物。
【効果】本発明の金属膜形成用組成物を用いると、金属膜を効率よく形成することができる。特に、本発明の金属膜形成用組成物は、膜厚の大きい金属膜であっても、イオン化傾向の大きい金属からなる膜であっても、効率よく形成することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属膜形成用組成物、金属膜、金属膜の形成方法および電子部品に関する。
【背景技術】
【0002】
フレキシブルプリント配線板等の回路基板基材に用いる金属配線や金属パターン等の金属構造物などを作製する場合、まず均質な金属膜を形成する必要がある。
従来、このような金属膜はメッキ法で形成するのが一般的であった。メッキ法においては、通常、スパッタによるシード層の形成とメッキ処理が必要となる。スパッタは、真空中で行う必要があるので、装置や操作上の制約が大きい。また、処理に長時間を要し、コストが高くなる。メッキ処理は、メッキ液の廃液処理が環境上大きな問題となる。
【0003】
メッキ法に代わる金属膜の形成方法として塗布法がある。塗布法は、上記のようなプロセス上不利な工程を使う必要がない点でメリットが大きい。
塗布法としては、特許文献1に、酸化銀とグリセリン等の還元剤とを含む組成物を用いた銀膜の形成方法が提案されている。
【0004】
しかし、塗布法では一般に薄膜しか形成することができない。金属粒子等を含んだ組成物を用いれば、ある程度の厚膜の形成は可能であるが、より膜厚の大きい金属膜を形成するために粒子径の大きい金属粒子等を使用すると、金属粒子間の接着が不十分になるなどの理由により、自立した金属膜を形成することが困難であった。特にイオン化傾向の大きい銅などの金属の粒子を使用した場合には、通常その粒子表面に形成されている金属酸化物が還元されにくいために、自立した金属膜を形成することがさらに困難であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2004−176079号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、膜厚の大きい金属膜であっても、またイオン化傾向の大きい金属の膜であっても、効率よく金属膜を形成することができる組成物およびそのような金属膜の製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記目的を達成する本発明は、表面部を含む一部分が金属の酸化物からなり、前記表面部を含む一部分以外の部分が前記金属からなる金属−金属酸化物複合粒子(A1)、および金属酸化物粒子(A2)から選択される少なくとも1種の金属酸化物含有粒子(A)、アルジトール(B)およびアルジトールの酸化物(C)を含有することを特徴とする金属膜形成用組成物である。
【0008】
前記金属膜形成用組成物においては、前記アルジトールの酸化物(C)が、前記アルジトール(B)の酸化物であることが好ましい。
前記金属膜形成用組成物においては、アルジトール(B)がグリセリンであることが好ましい。
【0009】
前記金属膜形成用組成物においては、前記アルジトール(B)100質量部に対して、前記アルジトールの酸化物(C)の含有量が1〜50質量部であることが好ましい。
他の発明は、前記金属膜形成用組成物から得られる空隙を有する金属膜である。
【0010】
前記金属膜においては、膜厚が1〜100μmであることが好ましい。
前記金属膜においては、金属膜中の空隙の含有割合が、金属膜の体積を100体積%とするとき、5〜50体積%であることが好ましい。
【0011】
前記金属膜においては、金属膜中の空隙の含有割合が、金属膜の体積を100体積%とするとき、5〜50体積%であり、金属が銅であることが好ましい。
他の発明は、前記金属膜の空隙に、金属元素を含有する溶液を充填して、該金属元素を含有する溶液から金属を生成させることを特徴とする金属膜の形成方法である。
【0012】
前記金属膜の形成方法においては、前記金属元素を含有する溶液が、銅元素を含有する溶液であることが好ましい。
前記金属膜の形成方法においては、前記銅元素を含有する溶液が、蟻酸銅溶液であることが好ましい。
【0013】
他の発明は、前記金属膜の形成方法により形成される金属膜である。
また他の発明は、前記金属膜を有する電子部品である。
【発明の効果】
【0014】
本発明の金属膜形成用組成物を用いると、金属膜を効率よく形成することができる。特に、本発明の金属膜形成用組成物は、膜厚の大きい金属膜であっても、イオン化傾向の大きい金属からなる膜であっても、効率よく形成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】図1は、実施例1の金属膜形成用組成物から形成された銅膜の電子顕微鏡写真である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
<金属膜形成用組成物>
本発明の金属膜形成用組成物は、表面部を含む一部分が金属の酸化物からなり、前記表面部を含む一部分以外の部分が前記金属からなる金属−金属酸化物複合粒子(A1)、および金属酸化物粒子(A2)から選択される少なくとも1種の金属酸化物含有粒子(A)、アルジトール(B)およびアルジトールの酸化物(C)を含有することを特徴とする。
【0017】
金属酸化物含有粒子(A)
金属酸化物含有粒子(A)は、本金属膜形成用組成物から形成される金属膜を構成する金属を供給する物質である。つまり、本金属膜形成用組成物を用いると、金属酸化物含有粒子(A)に含有される金属からなる金属膜が形成される。たとえば、銅膜を形成する場合には、金属酸化物含有粒子(A)として銅酸化物含有粒子が使用される。
【0018】
金属酸化物含有粒子(A)は、金属−金属酸化物複合粒子(A1)(以下、複合粒子(A1)ともいう。)および金属酸化物粒子(A2)から選択される少なくとも1種である。つまり、金属酸化物含有粒子(A)は、複合粒子(A1)のみであってもよく、金属酸化物粒子(A2)のみであってもよく、複合粒子(A1)と金属酸化物粒子(A2)との両方を含んでいてもよい。金属酸化物含有粒子(A)が、複合粒子(A1)および金属酸化物粒子(A2)の両方を含む場合、複合粒子(A1)および金属酸化物粒子(A2)に含有されるそれぞれの金属は通常同一種類の金属である。
【0019】
たとえば、銅膜を形成する場合には、金属−金属酸化物複合粒子(A1)は銅−酸化銅複合粒子であり、金属酸化物粒子(A2)は酸化銅粒子である。
金属酸化物含有粒子(A)は、その中に含有される金属酸化物が後述のアルジトール(B)により還元されて金属に変換され、相互に接着することにより金属膜を形成する。
【0020】
(金属−金属酸化物複合粒子(A1))
複合粒子(A1)は、表面部を含む一部分が金属の酸化物からなり、前記表面部を含む一部分以外の部分が前記金属からなる粒子である。たとえば、銅−酸化銅複合粒子の場合には、表面部を含む一部分が酸化銅からなり、それ以外の部分が銅からなる。表面部を含む一部分とは、その表面が複合粒子(A1)の表面の少なくとも一部を形成している部分を意味する。前記表面部を含む一部分以外の部分は前記金属からなっている。したがって、複合粒子(A1)においては、金属酸化物からなる部分が、複合粒子(A1)の表面に現れない状態で含まれることはない。
【0021】
複合粒子(A1)は、その表面部の全部が金属酸化物からなる粒子(複合粒子(A1−1))であってもよく、その表面部の一部のみが金属酸化物からなる粒子(複合粒子(A1−2))であってもよい。複合粒子(A1−1)においては、金属からなる部分が複合粒子(A1)の表面に現れる状態で含まれることはなく、複合粒子(A1−1)においては、金属からなる部分が複合粒子(A1)の表面に現れる状態で含まれている。
【0022】
複合粒子(A1−1)は、金属からなる中核部と、該中核部全体を被覆する、前記金属の酸化物を含有する外殻部とを有してなる粒子である。市販されている金属粒子は、通常その表面が酸化されて金属酸化膜となっている。この金属酸化膜は前記外殻部に該当する。したがって、市販されている金属粒子は、通常、金属−金属酸化物複合粒子(A1−1)に該当する。
【0023】
複合粒子(A1)の50質量%平均粒子径(D50)は0.1〜10μmであることが好ましく、より好ましくは0.1〜5μmであり、さらに好ましくは0.1〜3μmである。複合粒子(A1)の50質量%平均粒子径(D50)が前記範囲内であると、外殻部を構成する金属酸化物の還元が効率的に進行するとともに、厚膜の金属膜を形成するのに有効である。0.1μmより小さいと、厚膜の金属膜を形成する上で不都合になる場合がある。10μmより大きいと、金属酸化物の効率的な還元が困難になる場合がある。
【0024】
複合粒子(A1)の金属からなる部分を構成する金属の種類としては、たとえば、銅、銀、パラジウム、ニッケル、タングステン、ルテニウム、クロム、マンガン、鉄、スズ、ジルコニウム、ニオブ、モリブデン、ロジウム、亜鉛、鉛およびアンチモン等が挙げられる。金属からなる部分は1種または2種以上の金属で形成していてもよい。
【0025】
複合粒子(A1)の金属酸化物からなる部分を構成する金属酸化物は、前記金属からなる部分を構成する金属の酸化物である。たとえば、金属からなる部分を構成する金属が銅である場合には、金属酸化物からなる部分を構成する金属酸化物は酸化銅であり、金属からなる部分を構成する金属が銀である場合には、金属酸化物からなる部分を構成する金属酸化物は酸化銀である。
【0026】
複合粒子(A1)に占める、金属酸化物からなる部分の比率は、複合粒子(A1)の全体積を100体積%とするとき、通常、50体積%以下である。複合粒子(A1)に占める、金属酸化物からなる部分の比率が50体積%以下であると、金属酸化物を完全に還元することが容易であり、純粋な金属膜を形成しやすい。
【0027】
前述のとおり、市販されている金属粒子は、通常、本発明の金属−金属酸化物複合粒子(A1)である。
金属酸化物含有粒子(A)としては、厚膜を形成するという観点からは、金属酸化物粒子(A2)よりも複合粒子(A1)のほうが好ましい。複合粒子(A1)は、還元を必要としない中核部を有するため外殻部のみを還元すればよいので、金属酸化物粒子(A2)よりも粒子径を大きくすることができ、その分だけ厚い金属膜を得ることができる。
【0028】
金属粒子は大気中で放置されると、通常その表面が酸化されて、金属−金属酸化物複合粒子(A1−1)となるが、金属粒子を焼成することによりその表面を酸化して、金属−金属酸化物複合粒子(A1−1)を作製することもできる。焼成条件は、通常、100〜600℃、10〜1000分間である。焼成条件を調整することにより、複合粒子(A1)に占める、金属酸化物からなる部分の比率等を適宜決定することができる。
【0029】
また、このような焼成により作製した複合粒子(A1−1)を適当な条件で粉砕して得られた粒子を、複合粒子(A1−2)および金属酸化物粒子(A2)を含む粒子として使用することができる。
【0030】
(金属酸化物粒子(A2))
金属酸化物粒子(A2)は、金属酸化物から形成される粒子である。
金属酸化物粒子(A2)の50質量%平均粒子径(D50)は0.1〜5μmであることが好ましく、より好ましくは0.1〜3μmである。金属酸化物粒子(A2)の50質量%平均粒子径(D50)が前記範囲内であると、金属酸化物の還元が効率的に進行するとともに、厚膜の金属膜を形成するのに有効である。0.1μmより小さいと、厚膜の金属膜を形成する上で不都合になる場合がある。5μmより大きいと、金属酸化物の完全な還元が困難になる場合がある。
【0031】
金属酸化物粒子(A2)を構成する金属酸化物としては、たとえば、銅、銀、金、パラジウム、ニッケル、タングステン、ルテニウム、クロム、マンガン、鉄、スズ、ジルコニウム、ニオブ、モリブデン、ロジウム、亜鉛、鉛およびアンチモン等の酸化物が挙げられる。前記金属酸化物は1種または2種以上の金属酸化物で形成していてもよい。
【0032】
アルジトール(B)
アルジトール(B)は、本発明の金属膜形成用組成物において還元剤として作用し、金属酸化物含有粒子(A)が有する金属酸化物を還元して金属に変換する。
【0033】
アルジトール(B)としては、金属膜形成用組成物に含まれる金属酸化物含有粒子(A)が有する金属酸化物を還元する機能を有するものならば特に制限はなく、たとえばグリセリン、エリトリトール、トレイトール、リビトール、アラビニトール、キシリトール、アリトール、ソルビトール、マンニトール、イジトール、ガラクチトールおよびタリトール等の糖アルコールを挙げることができる。
【0034】
これらのうち、還元力が強く、金属酸化物含有粒子(A)から金属膜を効率的に形成できる点で、グリセリンが特に好ましい。
アルジトール(B)の含有量は、金属酸化物含有粒子(A)100質量部に対して好ましくは100〜1,000質量部、より好ましくは200〜800質量部である。アルジトール(B)の含有量が前記範囲内であると、金属酸化物の還元を効率的に行うことができる。
【0035】
アルジトールの酸化物(C)
アルジトールの酸化物(C)は、アルジトール(B)として例示した糖アルコールの酸化物である。アルジトールの酸化物(C)は、一般に、アルジトールが有する水酸基が酸化され、カルボニル基に変換されて形成される構造を有する。アルジトールの酸化物(C)において、対応するアルジトールが複数の水酸基を有する場合、酸化されている水酸基の数には特に制限はない。
【0036】
アルジトールの酸化物(C)としては、たとえば、グリセリンの酸化物であるジヒドロキシアセトンおよびグルセルアルデヒド、エリトリトールの酸化物であるエリトロースおよびエリトルロース等を挙げることができる。
【0037】
本発明の金属膜形成用組成物は、アルジトール(B)とともにアルジトールの酸化物(C)を含有することにより、効率的に金属膜を形成することが可能になり、特に膜厚の金属膜であっても、またイオン化傾向の小さい金属の膜であっても効率的に形成することができるようになる。
【0038】
アルジトールの酸化物(C)の作用機構は必ずしも明らかではないが、以下のように推測される。
金属酸化物含有粒子(A)に含有される金属酸化物が銅酸化物であり、アルジトールの酸化物(C)がグリセリンの酸化物であるジヒドロキシアセトンである場合を例にすると、本発明の金属膜形成用組成物を用いて金属膜を形成する過程で、下記式(1)に示すように、ジヒドロキシアセトンのカルボニル酸素と銅酸化物中の銅原子との間でキレート結合が形成されると考えられる。このキレート結合の形成により、アルジトール(B)による還元が効率的に行われるものと考えられる。このため、イオン化傾向の小さい金属の酸化物であっても効率的に還元することができる。
【0039】
【化1】

また、銅酸化物が還元されて生成された銅金属の銅原子とジヒドロキシアセトンのカルボニル酸素との間でも式(1)に示されるキレート結合が形成されると考えられる。このキレート結合の形成により、金属酸化物含有粒子(A)の金属酸化物が還元されることにより形成された金属粒子相互間の接着力が強化され、その結果、金属酸化物含有粒子(A)の粒子径が大きい場合であっても、自立した膜が形成され、厚膜の形成が可能になると考えられる。
【0040】
なお、アルジトールの酸化物(C)は、その種類により還元剤として機能することもありうる。たとえばジヒドロキシアセトンは還元剤として機能する。
アルジトール(B)がグリセリンである場合には、下記式(2)に示すように、グリセリン(I)は金属酸化物含有粒子(A)中の酸化銅を還元する。
【0041】
【化2】

このとき、グリセリン(I)は、たとえば1つの水酸基が酸化されて、分子内に1つのカルボニル基を有するジヒドロキシアセトン(II)になる。つまり、金属膜形成用組成物にもともと含有されていたアルジトールの酸化物(C)とともに、このジヒドロキシアセトン(II)がアルジトールの酸化物(C)として機能する。したがって、(III)に示すように、このジヒドロキシアセトン(II)は銅酸化物の銅原子および金属銅の銅原子とキレート結合を形成して、前述のように効率的な金属膜の形成に寄与すると考えられる。
【0042】
また、このジヒドロキシアセトン(II)は前述のとおり還元剤として機能するので、金属酸化物含有粒子(A)中の酸化銅を還元する。このとき、ジヒドロキシアセトン(II)は、たとえば1つの水酸基が酸化されて、分子内に2つのカルボニル基を有する化合物(IV)になる。この化合物(IV)はアルジトールの酸化物(C)として機能する。したがって、たとえば(V)に示すように、この化合物(IV)は銅酸化物の銅原子および金属銅の銅原子とキレート結合を形成して、前述のように効率的な金属膜の形成に寄与すると考えられる。
【0043】
さらに、化合物(IV)も還元剤として機能するので、金属酸化物含有粒子(A)中の酸化銅を還元する。このとき、化合物(IV)は、水酸基がさらに酸化されて、分子中に3つのカルボニル基を有する化合物になる。この化合物もアルジトールの酸化物(C)として機能し、銅酸化物の銅原子および金属銅の銅原子とキレート結合を形成して、前述のように効率的な金属膜の形成に寄与すると考えられる。
【0044】
このように、アルジトール(B)は、金属膜の形成時に、金属酸化物の還元反応によりアルジトールの酸化物(C)になるので、金属膜形成中にアルジトールの酸化物(C)濃度が増加し、前記の効率的に金属膜を形成する効果がより大きくなる。アルジトール(B)の種類によっては、前記グリセリンのように、次々に生成されるその酸化物がそれぞれアルジトールの酸化物(C)になるので、前記効果がいっそう大きくなる。
【0045】
アルジトールの酸化物(C)がアルジトール(B)の酸化物であると、金属膜の形成時に金属酸化物の還元反応により、アルジトール(B)から前記アルジトールの酸化物(C)と同種のアルジトールの酸化物(C)が生成され、同一の前記作用機構が得られるので好適である。したがって、たとえばアルジトール(B)がグリセリンである場合には、アルジトールの酸化物(C)はグリセリンの酸化物であるジヒドロキシアセトン等が好ましい。
【0046】
アルジトールの酸化物(C)の含有量は、アルジトール(B)100質量部に対して1〜50質量部であることが好ましく、より好ましくは5〜30質量部であり、さらに好ましくは5〜20質量部である。アルジトールの酸化物(C)の含有量が前記範囲内であると、前述のような効率的な金属膜の形成が行いやすくなる。
【0047】
その他の成分
本発明の金属膜形成用組成物は、必要に応じて、金属酸化物含有粒子(A)、アルジトール(B)およびアルジトールの酸化物(C)以外の成分を含有していてもよい。
たとえば、本発明の金属膜形成用組成物は、金属酸化物含有粒子(A)以外に、金属のみからなる金属粒子を含有することができる。
その他、本発明の金属膜形成用組成物は、界面活性剤、粘度調整剤、密着助剤等を含有することができる。
【0048】
金属膜形成用組成物の調製方法
本発明の金属膜形成用組成物は、上記成分を混合することにより調製することができる。混合方法には特に制限はなく、たとえば、ビーズミルなどを用いて混合することができる。
【0049】
<金属膜>
前記本発明の金属膜形成用組成物から定法に従い、金属膜を得ることができる。たとえば、基材に前記金属膜形成用組成物を塗布し、塗布物を形成した後、この塗布物に加熱もしくは光照射、またはその両方を行うことにより金属膜が得られる。
【0050】
金属膜形成用組成物の塗布方法は、特に限定されず、スピンコート法、ロールコート法、ディップ法、キャスト法、スプレー法、インクジェット法、スクリーン印刷法、アプリケーター法等が挙げられる。組成物を基材に塗布した後、必要に応じて、塗布物を乾燥させてもよい。塗布物の厚さは、組成物の粘度等により適宜決定されるが、通常、1〜1,000μmである。
【0051】
加熱の際の温度は、好ましくは50℃〜300℃、より好ましくは100℃〜280℃、さら好ましくは120℃〜250℃である。上記範囲の温度であると、基材に対する密着性に優れた金属膜を短時間に効率よく形成することができる。加熱時間は、通常、5〜5000分間、好ましくは10〜120分間である。
【0052】
加熱は数段階に分けて行うこともできる。たとえば、初めに低温で一定時間加熱を行い、次いで高温で一定時間加熱を行ってもよい。
加熱装置としては、ホットプレート、循環式乾燥炉等が挙げられる。
【0053】
加熱の際の雰囲気は、形成された金属膜の酸化を抑制する等の観点から、不活性ガス雰囲気等の、酸素ガスを含まない雰囲気であることが好ましい。生産性等の観点から、好ましい雰囲気は、窒素ガスを主とする雰囲気である。
【0054】
塗布物に対して光照射を行う場合、光照射に用いられる光としては、特に限定されないが、赤外線、紫外線、可視光線、遠紫外線、X線、電子線等の荷電粒子線等の放射線(ArFエキシマレーザー(波長193nm)またはKrFエキシマレーザー(波長248nm)等を含む)等が挙げられる。
【0055】
加熱および光照射を行う場合には、光照射の前に塗膜物を加熱してもよいし、加熱しながら光照射を行ってもよい。
このようにして得られる金属膜は、その膜厚を1〜100μmとすることができる。前述のとおり、前記金属膜形成用組成物がアルジトールの酸化物(C)を含有することにより、粒子径の大きい金属酸化物含有粒子(A)を用いることが可能であるので、このような厚膜の金属膜の形成が可能になる。
【0056】
また一般に、銅などのイオン化傾向の小さい金属の場合には、その金属粒子表面に形成されている金属酸化物は還元されにくいため、その金属の膜を形成することは困難である。本発明の金属膜形成用組成物の場合には、アルジトールの酸化物(C)を含有することにより、前述のとおり、イオン化傾向の小さい金属の酸化物であっても還元を十分に行うことができるので、銅、アルミニウム、鉄、ニッケルなどのイオン化傾向の小さい金属の膜も効率的に形成することができる。
【0057】
前記金属膜形成用組成物から金属膜を形成すると、多数の金属酸化物含有粒子(A)が相互に密着して膜となるので、一般に、空隙を有する金属膜つまりポーラスな金属膜が得られる。粒子径の大きい金属酸化物含有粒子(A)を用いると、金属膜に占める空隙の割合の大きい、よりポーラスな金属膜が得られる。
金属膜の体積を100体積%とするとき、空隙の含有割合は、通常、5〜50体積%である。
【0058】
<金属膜の形成方法>
前述のとおり、前記金属膜形成用組成物から得られる金属膜は、一般に空隙を有する膜となるが、その空隙に金属を充填することにより、空隙のない、または空隙の含有割合の小さい金属膜を形成することができる。
【0059】
金属膜の空隙に金属を充填する方法としては、たとえば、金属元素を含有する溶液を前記空隙に充填して、この液から金属を生成させる方法が挙げられる。
金属元素を含有する溶液は、加熱などの処理により金属を生成できる溶液である限り特に制限はない。金属元素を含有する溶液に含有される金属元素は、通常、目的とする金属膜を構成する金属と同種の金属元素であり、金属−金属酸化物複合粒子(A1)および金属酸化物粒子(A2)に含まれる金属元素と同じ金属元素である。たとえば、目的とする金属膜が銅膜である場合には、金属元素を含有する溶液は、銅元素を含有する溶液である。銅元素を含有する溶液としては、金属銅を生成しやすい点で、蟻酸銅溶液が好ましい。
【0060】
金属元素を含有する溶液としては、蟻酸の金属錯体および蟻酸アンモニウムが媒体に溶解してなる溶液であってもよい。このような溶液であると、金属膜の空隙内で金属が生成されやすい。
【0061】
蟻酸の金属錯体は、銅、錫、パラジウム、コバルト、マンガン等から選ばれた少なくとも1つの金属元素(以下、「金属元素(a)」という。)を中心原子とし、配位子として少なくとも[HCOO-]を有することが好ましい。[HCOO-]以外の配位子としては、[NH3]、[NH4+]、[H2NCOO-]、[RCOO-](但し、Rは、置換または非置換の脂肪族炭化水素基である。)等が挙げられる。これらのうち、還元性を有する[NH3]が好ましい。
【0062】
また、中心原子に配位する配位子の配位数は、中心原子を構成する金属元素(a)の種類により異なり、例えば、金属元素(a)が銅およびニッケルである場合には、配位数は、通常、4または6である。蟻酸の金属錯体が銅錯体である場合には、配位数は6であると思われる。
【0063】
蟻酸の金属錯体としては、蟻酸アンモニウムの金属錯体(銅錯体、ニッケル錯体等)が好ましい。
また、金属元素を含有する溶液としては、蟻酸の金属錯体を形成することが可能な物質である金属元素(a)の酸化物または金属元素(a)の蟻酸塩等と蟻酸アンモニウムとを含む混合液であってもよい。金属元素を含有する溶液がこのような混合液であると、金属膜の空隙内において金属を生成させやすい。
【0064】
金属元素(a)の酸化物としては、酸化銅(I)、酸化銅(II)、酸化コバルト(II)、酸化コバルト(III)、酸化錫(I)、酸化錫(II)、酸化パラジウム(II)、酸化マンガン(IV)等が挙げられる。
【0065】
金属元素(a)の蟻酸塩としては、蟻酸銅、蟻酸ニッケル、蟻酸コバルト、蟻酸錫、蟻酸パラジウム、蟻酸マンガン等が挙げられる。
金属元素を含有する溶液が、蟻酸の金属錯体または金属元素(a)の酸化物もしくは金属元素(a)の蟻酸塩、および蟻酸アンモニウムが媒体に溶解してなる溶液である場合、金属元素を含有する溶液における蟻酸アンモニウムの含有量は、蟻酸の金属錯体等100質量部に対して、好ましくは100質量部を超えて300質量部以下、より好ましくは110〜250質量部、さらに好ましくは150〜200質量部である。
【0066】
金属元素を含有する溶液が、蟻酸の金属錯体または金属元素(a)の酸化物もしくは金属元素(a)の蟻酸塩、および蟻酸アンモニウムが媒体に溶解してなる溶液である場合、この媒体は通常水である。媒体である水の含有量は、蟻酸の金属錯体等100質量部に対して、好ましくは20〜20,000質量部、より好ましくは50〜1,000質量部、さらに好ましくは100〜400質量部である。
【0067】
前記媒体は、水と水に溶解する有機化合物(以下、「水溶性有機化合物」という。)との混合媒体でもよい。この場合、水溶性有機化合物の含有量は、水100質量部に対して、好ましくは0.5〜100質量部、より好ましくは1〜50質量部、さらに好ましくは5〜30質量部である。
【0068】
前記水溶性有機化合物としては、メタノール、エタノール、ブタノール等の1価アルコール;多価アルコール;テトラヒドロフラン、ジエチルエーテル等のエーテル等が挙げられる。上記水溶性有機化合物は、単独で用いてよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0069】
金属元素を含有する溶液を金属膜の空隙に充填する方法としては、特に制限はなく、たとえば、空隙を有する金属膜に金属元素を含有する溶液を塗布し、空隙内に液を含浸させる方法などが挙げられる。
【0070】
金属膜の空隙内に充填された金属元素を含有する溶液から金属を生成させる方法としては、特に制限はなく、たとえば、この金属膜を加熱する方法などを挙げることができる。
加熱の際の温度は、好ましくは50℃〜300℃、より好ましくは100℃〜280℃、さら好ましくは120℃〜250℃である。加熱時間は、通常、5〜5000分間、好ましくは10〜120分間である。
【0071】
加熱の際の雰囲気は、形成された金属膜の酸化を抑制する等の観点から、不活性ガス雰囲気等の、酸素ガスを含まない雰囲気であることが好ましい。生産性等の観点から、好ましい雰囲気は、窒素ガスを主とする雰囲気である。
【0072】
このような、金属元素を含有する溶液を空隙に充填して金属を生成させる処理は、必要に応じて複数回繰り返すこともできる。
以上のような、金属元素を含有する溶液を空隙に充填して金属を生成させる処理により、空隙のない、または空隙の含有割合の小さい厚膜の金属膜を形成することができる。この処理により、金属膜中の空隙の含有割合を、金属膜の体積を100体積%とするとき、10体積%以下、あるいは実質的に0体積%にすることができる。
【0073】
このような厚膜で、空隙のない金属膜は、半導体と基材とを接合するためのバンプなどの製造に好適に使用することができる。
【実施例】
【0074】
以下、本発明を実施例により説明するが、本発明は、この実施例により何ら限定されるものではない。なお、実施例および比較例中の「部」は「質量部」を示す。
実施例および比較例における各種測定は、下記の方法により行った。
【0075】
1.各種測定方法
(1)金属膜の膜厚の測定方法
日立ハイテック(株)製走査型電子顕微鏡にて測定した。
(2)金属膜の空隙の含有割合の測定方法
日立ハイテック(株)製走査型電子顕微鏡で金属膜の断面を撮影し、その写真をデジタル画像処理して、下式により空隙率を算出した。
空隙率(%)=(金属膜の断面において金属の存在しない領域の面積/金属膜の断面の面積)×100
【0076】
2.金属粒子含有組成物の調製
[実施例1]
微粒電解銅粉(三井金属社製、品名「T−220」)を大気下で、オーブンにて200℃1時間焼成し、その表面部に酸化銅被膜を形成した。焼成後の微粒電解銅粉20部、ジヒドロキシアセトン2部およびグリセリン78部をジルコニアビーズとともにビーズミルに入れて、前記焼成後の微粒電解銅粉を粉砕し、銅−酸化銅複合粒子、酸化銅粒子および銅粒子の混合粒子(粒子径(D50):0.2μm)20部、ジヒドロキシアセトン2部ならびにグリセリン78部を含有する金属膜形成用組成物を調製した。
【0077】
[比較例1]
微粒電解銅粉(三井金属社製、品名「T−220」)を大気下で、オーブンにて200℃1時間焼成し、その表面部に酸化銅被膜を形成した。焼成後の微粒電解銅粉20部およびグリセリン80部をジルコニアビーズとともにビーズミルに入れて、前記焼成後の微粒電解銅粉を粉砕し、銅−酸化銅複合粒子、酸化銅粒子および銅粒子の混合粒子(粒子径(D50):0.2μm)20部ならびにグリセリン80部を含有する金属膜形成用組成物を調製した。
【0078】
3.ポーラスな金属膜の形成
[実施例2]
実施例1の金属膜形成用組成物をシリコンウェハ上にスピンコート法により塗布し、窒素雰囲気下180℃で30分ベーク、次いで、窒素雰囲気下280℃で1時間ベークした。膜厚が25μmで、空隙の含有割合が20体積%の銅膜が形成された。図1に、この銅膜の走査型電子顕微鏡観察により得られた画像を示す。図1(a)は倍率500倍の画像であり、図1(b)は倍率5,000倍の画像である。この銅膜が導通するかテスタを用いて確認したところ、導通を確認できた。
【0079】
[比較例2]
比較例1の金属膜形成用組成物をシリコンウェハ上にスピンコート法により塗布し、窒素雰囲気下180℃で30分ベーク、次いで、窒素雰囲気下280℃で1時間ベークしたが、金属膜は形成できなかった。
また、比較例1の金属粒子含有組成物をシリコンウェハ上にスピンコート法により塗布し、窒素雰囲気下180℃で30分ベーク、次いで、窒素雰囲気下280℃で5時間ベークしたが、金属膜は形成できなかった。
【0080】
4.金属元素を含有する溶液を用いた金属膜の形成
[実施例3]
蟻酸アンモニウム8部および酸化銅(I)5部を水100部に溶解させて調製した金属元素を含有する溶液を、実施例2で形成したポーラスな金属膜に塗布した。この金属膜を、窒素気流中、200℃で15分間加熱した。ポーラスな銅膜の空隙に、金属元素を含有する溶液から生成された銅金属が充填された銅膜(膜厚25μm)が形成された。この銅膜が導通するかテスタを用いて確認したところ、導通を確認できた。
本発明の金属膜の形成方法により、メッキ処理を用いずに、銅膜を形成できることが確認できた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
表面部を含む一部分が金属の酸化物からなり、前記表面部を含む一部分以外の部分が前記金属からなる金属−金属酸化物複合粒子(A1)、および金属酸化物粒子(A2)から選択される少なくとも1種の金属酸化物含有粒子(A)、アルジトール(B)およびアルジトールの酸化物(C)を含有することを特徴とする金属膜形成用組成物。
【請求項2】
前記アルジトールの酸化物(C)が、前記アルジトール(B)の酸化物である請求項1に記載の金属膜形成用組成物。
【請求項3】
アルジトール(B)がグリセリンである請求項1または2に記載の金属膜形成用組成物。
【請求項4】
前記アルジトール(B)100質量部に対して、前記アルジトールの酸化物(C)の含有量が1〜50質量部である請求項1〜3のいずれかに記載の金属膜形成用組成物。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれかに記載の金属膜形成用組成物から得られる空隙を有する金属膜。
【請求項6】
膜厚が1〜100μmである請求項5に記載の金属膜。
【請求項7】
金属膜中の空隙の含有割合が、金属膜の体積を100体積%とするとき、5〜50体積%である請求項5または6に記載の金属膜。
【請求項8】
金属膜中の空隙の含有割合が、金属膜の体積を100体積%とするとき、5〜50体積%であり、金属が銅である請求項5または6に記載の金属膜。
【請求項9】
請求項5〜8のいずれかに記載の金属膜の空隙に、金属元素を含有する溶液を充填して、該金属元素を含有する溶液から金属を生成させることを特徴とする、金属膜の形成方法。
【請求項10】
前記金属元素を含有する溶液が、銅元素を含有する溶液である請求項9に記載の金属膜の形成方法。
【請求項11】
前記銅元素を含有する溶液が、蟻酸銅溶液である請求項10に記載の金属膜の形成方法。
【請求項12】
請求項9〜11のいずれかに記載の金属膜の形成方法により形成される金属膜。
【請求項13】
請求項12に記載の金属膜を有する電子部品。

【図1】
image rotate


【公開番号】特開2012−251187(P2012−251187A)
【公開日】平成24年12月20日(2012.12.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−123429(P2011−123429)
【出願日】平成23年6月1日(2011.6.1)
【出願人】(000004178)JSR株式会社 (3,320)
【Fターム(参考)】