説明

金属膜材料の製造方法及びそれを用いた金属膜材料

【課題】金属膜材料を構成する各種基材との密着性が良好で、エッチング耐性が高く、得られるパターン形状の精度を向上する金属膜材料の製造方法及びそれを用いた金属膜材料の提供。
【解決手段】第1のモノマー、第2のモノマーをそれぞれ含有するインク組成物1)及び2)をインクジェット法により基材2上に吐出するインク付与工程と、付与した前記インク組成物を硬化して硬化膜3を形成する硬化膜形成工程と、前記硬化膜への触媒付与工程と、前記めっき触媒、又はその前駆体に対してめっきを行うめっき処理工程とを含み、前記硬化膜が膜の厚み方向において前記基材に最も近い側Bから前記基材に最も遠い側Aに向かって下記第1のモノマーの硬化物の比率が大きくなり、かつ第2のモノマーの硬化物の比率が小さくなるように、第1のモノマーの硬化物及び第2のモノマーの硬化物の組成が連続的に変化する傾斜構造を有する、金属膜材料1の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属膜材料の製造方法及びそれを用いた金属膜材料に関し、詳細には、金属膜材料を構成する各種基材との密着性が良好で、かつエッチング耐性が高く、得られるパターン形状の精度を向上することができる金属膜材料の製造方法及びそれを用いた金属膜材料に関する。
【背景技術】
【0002】
電子部品、半導体素子等を配線する金属配線基板として、表面に金属膜を有する基板(金属膜材料)が用いられており、例えば、表面の金属膜を処理液でパターン状にエッチングすることで、所望の金属パターン(導電性パターン)を形成することが行われている。
【0003】
前記金属膜材料の製造方法として、特許文献1には、基板上にポリマー層を設け、このポリマー層にめっきを施して金属膜を形成する検討がなされており、ポリマー層として、ポリマーとモノマーとの混合物を用い、かつポリマー、又はモノマーの少なくとも一方に、金属と相互作用を形成する基を導入する方法が記載されている。
また、特許文献2には、(メタ)アクリレート化合物と、キレート化剤とを含む無電解めっきパターン形成用組成物をインクジェット法に適用することが開示されている。
【0004】
特許文献1に記載の金属膜材料の製造方法は、基板と金属膜との密着性を向上させることが可能であると記載されているが、ポリマー層が傾斜構造を有することについては記載されていない。
特許文献2に記載の方法は、基板との密着性や絶縁性が向上した金属パターンが形成可能であると記載されているが、傾斜構造を利用することについては記載されていない。
このように、従来の金属膜材料の製造方法において、基材と金属膜との密着性等は、金属及び基材と比較的相性の良い材料(例えば、特許文献1に記載のポリマー層や特許文献2の無電解めっきパターン形成用組成物の硬化物層)を基材上に積層することにより得られていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2009−263707号公報
【特許文献2】特開2004−353027号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
金属配線基板の分野において、金属と性質が大きく異なる基材(例えば、樹脂、ガラス類等)に対しめっきによりパターン形状を作成した場合の、「めっき発現適性」と「基材との密着性」との両立が求められている。本明細書において「めっき発現適性」とは、形成したパターンに部分剥離が生じずパターン側面における直線性が高く(パターン形状の精度が高い)、めっき後にエッチングをしてもパターンに欠陥が生じず導通性が良好である(エッチング耐性が高い)ことをいう。
そして、このような課題を解決するための手段として、めっきを基材に直接施すのではなく、基材上に、基材とめっきとの親和性のある中間層を形成する方法がいくつか試みられている(特許文献1、2)。
しかしながら、これら方法を採用したとしても、上記「めっき発現適性」と「基材との密着性」を両立することは簡単ではなく、両性能の高いレベルでの実現は難しい。また、要求される様々な性能を満足させるために、これら中間層をカスタマイズすることが求められるが、上記両立だけでも難しい上に更に改良を加えることは大幅なコストアップとなり、製造適性を付与することが難しくなる。
本発明は、このような事情に鑑みなされたもので、その目的は、めっき発現適性と基材との密着性のいずれをも満たす金属膜材料の製造方法及びそれを用いた金属膜材料を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の課題は、下記の手段によって達成された。
【0008】
〔1〕
下記インク組成物1)及び2)をインクジェット法により基材上に吐出するインク付与工程と、付与した前記インク組成物に露光及び加熱の少なくともいずれかを行い、硬化膜を形成する硬化膜形成工程と、前記硬化膜にめっき触媒、又はその前駆体を付与する触媒付与工程と、付与した前記めっき触媒、又はその前駆体に対してめっきを行うめっき処理工程とを含み、
前記硬化膜が膜の厚み方向において前記基材に最も近い側から前記基材に最も遠い側に向かって下記第1のモノマーの硬化物の比率が大きくなり、かつ第2のモノマーの硬化物の比率が小さくなるように、第1のモノマーの硬化物及び第2のモノマーの硬化物の組成が連続的に変化する傾斜構造を有する、金属膜材料の製造方法。
インク組成物1):シアノ基、アルキルオキシ基、アミノ基、アルキルアミノ基、ピリジル基、ピロリドニル基、イミダゾリル基、アルキルスルファニル基、及び環状エーテル基、から選択する少なくとも1つの基を有する第1のモノマーを少なくとも1種含有するインク組成物。
インク組成物2):二以上の重合性基を有する、第1のモノマーとは異なる第2のモノマーを少なくとも1種含有するインク組成物。
〔2〕
上記硬化膜における、前記第2のモノマーの硬化物と第1のモノマーの硬化物の総質量に対する第2のモノマーの硬化物の質量が占める割合を、基材側に最も近い側から膜の厚み方向に0.1μmの厚みごとに測定したときに、隣り合う測定位置での上記割合の差がいずれも1%以上、50%以下である、上記〔1〕に記載の金属膜材料の製造方法。
〔3〕
前記第1のモノマー及び第2のモノマーが活性エネルギー線により重合することにより形成される、上記〔1〕又は〔2〕に記載の金属膜材料の製造方法。
〔4〕
前記インク組成物1)及び2)が重合開始剤を含み、前記インク組成物1)及び2)中におけるモノマーの含有量がそれぞれ85質量%以上である、上記〔1〕〜〔3〕のいずれか一項に記載の金属膜材料の製造方法。
〔5〕
前記第1のモノマーは重合性基を一つのみ有する単官能モノマーである、上記〔1〕〜〔4〕のいずれか一項に記載の金属膜材料の製造方法。
〔6〕
前記第1のモノマーは、下記一般式(M1−1)で表される、上記〔1〕〜〔4〕のいずれか一項に記載の金属膜材料の製造方法。
【0009】
【化1】

【0010】
(一般式(M1−1)において、Rは、水素原子、又は、置換若しくは無置換のアルキル基を表す。X及びYは、それぞれ独立に、単結合、又は置換若しく無置換の二価の連結基を表す。また、Wは、シアノ基、アルキルオキシ基、アミノ基、アルキルアミノ基、ピリジル基、ピロリドニル基、イミダゾリル基、アルキルスルファニル基、又は環状エーテル基を表す。nは1〜3の整数を表し、nが2以上のときYは互いに異なっていてもよい。)
〔7〕
前記インクジェット法によるインク付与工程が、少なくとも第1のインクジェットヘッドと第2のインクジェットヘッドを用いるものであり、前記インク組成物1)を含む第1のインクを第1のインクジェットヘッドに供給する工程と、前記インク組成物2)を含む第2のインクを第2のインクジェットヘッドに供給する工程と、前記第1のインクジェットヘッドから吐出される第1のインクの量と前記第2のインクジェットヘッドから吐出される第2のインクの量との比率を決定する制御工程と、前記決定された比率に従って、前記第1のインクジェットヘッド及び前記第2のインクジェットヘッドの少なくとも一方から前記第1のインク及び前記第2のインクの少なくとも一つを吐出させて一つの層を形成する形成工程と、前記形成工程を繰り返して前記基材上に前記層を複数層積層して前記傾斜構造を得る積層工程と、を備え、前記制御工程において、前記複数層の厚み方向において前記基材に近い層から遠い層に向かって、前記第1のモノマーの硬化物の比率が大きくなり、かつ前記第2のモノマーの硬化物の比率が小さくなるように前記比率を決定する、上記〔1〕〜〔6〕のいずれか一項に記載の金属膜材料の製造方法。
〔8〕
前記形成工程において、前記第1及び第2のインクジェットヘッドから吐出する液滴のインク量を0.3〜100pLとする、上記〔7〕に記載の金属膜材料の製造方法。
〔9〕
前記形成工程において、前記第1及び第2のインクジェットヘッドから吐出する液滴の液滴径を1〜300μmとする、上記〔7〕又は〔8〕に記載の金属膜材料の製造方法。
〔10〕
前記インクジェット法によるインク付与工程が、複数のインクジェットヘッドを用いるものであり、前記インク組成物1)を含む第1のインクと前記インク組成物2)を含む第2のインクとが混合された混合インクであって、それぞれ異なる比率で混合された複数の混合インクを前記複数のインクジェットヘッドそれぞれのインクジェットヘッドに供給する工程と、前記複数のインクジェットヘッドから1つのインクジェットヘッドを順に選択する選択工程であって、前記第2のインクの比率の高い混合インクが供給されるインクジェットヘッドから順に選択する選択工程と、前記選択されたインクジェットヘッドから混合インクを吐出させて1つの層を形成する形成工程と、前記形成工程を繰り返して前記基材上に前記層を複数層積層して得る積層工程と、を備える、上記〔1〕〜〔6〕のいずれか一項に記載の金属膜材料の製造方法。
〔11〕
前記形成工程において、前記第1及び第2のインクジェットヘッドから吐出する液滴のインク量を0.5〜150pLとする、上記〔10〕に記載の金属膜材料の製造方法。
〔12〕
前記形成工程において、前記第1及び第2のインクジェットヘッドから吐出する液滴の液滴径を2〜450μmとする、上記〔10〕又は〔11〕に記載の金属膜材料の製造方法。
〔13〕
上記〔1〕〜〔12〕のいずれか1項に記載の方法により得られる金属膜材料。
〔14〕
前記金属膜材料の金属膜がパターン状にエッチングされている、上記〔13〕に記載の金属膜材料。
〔15〕
基材と、該基材上に設けられ、下記第1のモノマーの硬化物及び第2のモノマーの硬化物を含む硬化膜と、めっきにより形成される金属膜とを有する金属膜材料であって、前記硬化膜が膜の厚み方向において前記基材に最も近い側から前記基材に最も遠い側に向かって第1のモノマーの硬化物の比率が大きくなり、かつ第2のモノマーの硬化物の比率が小さくなるように第1のモノマーの硬化物及び第2のモノマーの硬化物の組成が連続的に変化する傾斜構造を有する、金属膜材料。
第1のモノマー:シアノ基、アルキルオキシ基、アミノ基、アルキルアミノ基、ピリジル基、ピロリドニル基、イミダゾリル基、アルキルスルファニル基、及び環状エーテル基、から選択する少なくとも1つの基を有するモノマー。
第2のモノマー:二以上の重合性基を有する、第1のモノマーとは異なるモノマー。
〔16〕
前記金属膜材料の金属膜がパターン状にエッチングされている、上記〔15〕に記載の金属膜材料。
【発明の効果】
【0011】
本発明は、インクジェット法を用いた製造方法により、基材とめっきとの間に傾斜構造を有する硬化膜を導入するという従来と全く異なる発想のもと、
後述のインク組成物1)及び2)をインクジェット法により基材上に吐出するインク付与工程と、付与した前記インク組成物に露光及び加熱の少なくともいずれかを行い、硬化膜を形成する硬化膜形成工程と、前記硬化膜にめっき触媒、又はその前駆体を付与する触媒付与工程と、付与した前記めっき触媒、又はその前駆体に対してめっきを行うめっき処理工程とを含み、
前記硬化膜が膜の厚み方向において前記基材に最も近い側から前記基材に最も遠い側に向かって下記第1のモノマーの硬化物の比率が大きくなり、かつ第2のモノマーの硬化物の比率が小さくなるように、第1のモノマーの硬化物及び第2のモノマーの硬化物の組成が連続的に変化する傾斜構造を有する、金属膜材料の製造方法を採用することにより、異なる材料との明確な界面が内部に存在しない硬化膜を含み、めっき発現特性(基材に最も遠い側)と基材との密着性(基材に最も近い側)を高いレベルで両立することが可能な金属膜材料を得ることに成功した。
【0012】
すなわち、本発明によれば、金属膜材料を構成する各種基材との密着性が良好で、かつエッチング耐性が高く、得られるパターン形状の精度を向上することができる金属膜材料の製造方法及びそれを用いた金属膜材料が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】硬化膜を備える金属膜材料の模式図(金属膜は不図示)
【図2】硬化膜を備える金属膜材料の模式図(金属膜は不図示)
【図3】組成傾斜膜作製装置の全体構成図
【図4】組成傾斜膜作製装置の描画部の概略図
【図5】描画混合法による組成傾斜膜形成を説明するための図
【図6】描画混合法の他の実施形態を説明するための図
【図7】インク混合法の実施形態に係る組成傾斜膜作製装置の全体構成図
【図8】インク混合法による組成傾斜膜形成を説明するための図
【図9】描画混合法における各インクの着弾位置を説明するための図
【発明を実施するための形態】
【0014】
<金属膜材料の製造方法>
本発明は、下記インク組成物1)及び2)をインクジェット法により基材上に吐出するインク付与工程と、付与した前記インク組成物に露光及び加熱の少なくともいずれかを行い、硬化膜を形成する硬化膜形成工程と、前記硬化膜にめっき触媒、又はその前駆体を付与する触媒付与工程と、付与した前記めっき触媒、又はその前駆体に対してめっきを行うめっき処理工程とを含み、
前記硬化膜が膜の厚み方向において前記基材に最も近い側から前記基材に最も遠い側に向かって下記第1のモノマーの硬化物の比率が大きくなり、かつ第2のモノマーの硬化物の比率が小さくなるように、第1のモノマーの硬化物及び第2のモノマーの硬化物の組成が連続的に変化する傾斜構造を有する、金属膜材料の製造方法に関する。
インク組成物1):シアノ基、アルキルオキシ基、アミノ基、アルキルアミノ基、ピリジル基、ピロリドニル基、イミダゾリル基、アルキルスルファニル基、及び環状エーテル基、から選択する少なくとも1つの基を有する第1のモノマーを少なくとも1種含有するインク組成物。
インク組成物2):二以上の重合性基を有する、第1のモノマーとは異なる第2のモノマーを少なくとも1種含有するインク組成物。
【0015】
また、本発明は、上記方法により得られる金属膜材料に関する。
【0016】
〔第1のモノマー〕
本発明におけるインク組成物に使用される第1のモノマーは、シアノ基、アルキルオキシ基、アミノ基、アルキルアミノ基、ピリジル基、ピロリドニル基、イミダゾリル基、アルキルスルファニル基、及び環状エーテル基、から選択する少なくとも1つの基を有する。本発明において、これらの基は、後述する触媒付与工程で付与する、めっき触媒又はその前駆体と相互作用(吸着)を形成する基として使用される。以下、これらの基を「相互作用性基」とも称する。本発明において、前記相互作用性基を含むことにより、後述するめっき触媒又はその前駆体に対する優れた吸着性が得られ、結果としてめっき処理の際に十分な厚さの金属膜(めっき膜)を得ることができる。
【0017】
アルキルオキシ基(−OR基(Rはアルキル基))としては、炭素数1〜5であることが好ましく、炭素数2〜3であることがより好ましく、炭素数2であることが更に好ましい。
アルキルアミノ基(−NR基(R及びRは、それぞれ独立に、水素原子又はアルキル基であり、R及びRの少なくとも一方はアルキル基である。))としては、R及びRがそれぞれ独立に、水素原子又は炭素数1〜4のアルキル基であることが好ましく、R及びRがそれぞれ独立に、炭素数1〜4のアルキル基であることが更に好ましく、R及びRが共にメチル基であることが特に好ましい。
アルキルスルファニル基(−SR基(Rはアルキル基))としては、炭素数1〜4であることが好ましく、炭素数2〜3であることがより好ましく、炭素数2であることが更に好ましい。
ピリジル基としては、4−ピリジル基が好ましい。
ピロリドニル基としては、N−ピロリドニル基が好ましい。
イミダゾリル基としては、N−イミダゾリル基が好ましい。
環状エーテル基としては、5員環又は6員環の飽和又は不飽和の環状エーテルから水素原子を1個除いた基であることが好ましく、フラニル基又はテトラヒドロフラニル基であることが更に好ましく、3−フラニル基又は3−テトラヒドロフラニル基であることが特に好ましい。
これらのなかでも、極性が高く、めっき触媒又はその前駆体への吸着能(相互作用性)が高いことから、アルキルオキシ基、又は、シアノ基がより好ましく、シアノ基が更に好ましい。
【0018】
また、本発明のインク組成物に使用される第1のモノマーは、重合性基を一つのみ有するモノマー(単官能モノマー)であることが好ましい。
上記第1のモノマーとしては、ラジカル重合性又はイオン重合(カチオン重合、アニオン重合)性を有するモノマーであることが好ましく、ラジカル重合性を有するモノマーであることがより好ましく、中でも、エチレン性不飽和結合を含み、ラジカル重合性を有するモノマーであることが更に好ましい。
【0019】
より具体的には、前記第1のモノマーは、下記の式(M1−1)で表される単官能モノマーであることが好ましい。
【0020】
【化2】

【0021】
(一般式(M1−1)において、Rは、水素原子、又は、置換若しくは無置換のアルキル基を表す。X及びYは、それぞれ独立に、単結合、又は置換若しく無置換の二価の連結基を表す。また、Wは、シアノ基、アルキルオキシ基、アミノ基、アルキルアミノ基、ピリジル基、ピロリドニル基、イミダゾリル基、アルキルスルファニル基、又は環状エーテル基を表す。nは1〜3の整数を表し、nが2以上のときYは互いに異なっていてもよい。)
【0022】
で表される置換又は無置換のアルキル基としては、炭素数1〜4のアルキル基であることが好ましく、炭素数1〜2のアルキル基がより好ましい。より具体的には、無置換のアルキル基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基が挙げられ、また、置換アルキル基としては、メトキシ基、ヒドロキシ基、ハロゲン原子(例えば、塩素原子、臭素原子、フッ素原子)などで置換された、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基が挙げられる。
【0023】
としては、水素原子、又はメチル基、であることが好ましく、水素原子であることが特に好ましい。
【0024】
及びYにおける二価の連結基としては、置換若しくは無置換の脂肪族炭化水素基(好ましくは炭素数1〜11)、置換若しくは無置換の環状炭化水素基(好ましくは炭素数6〜12)、−O−、−S−、−N(R)−(R:アルキル基(好ましくは炭素数1〜6、より好ましくは炭素数1〜3))、−CO−、−NH−、−COO−、−CONH−、又は、これらを組み合わせた基(例えば、アルキレンオキシ基、アルキレンオキシカルボニル基、アルキレンカルボニルオキシ基など)などが挙げられる。該有機基は、発明の効果を損なわない範囲で、アルキル基(好ましくは、炭素数1〜3)、ヒドロキシ基などの置換基を有していてもよい。
【0025】
置換又は無置換の脂肪族炭化水素基(例えば、アルキレン基)としては、メチレン基、エチレン基、プロピレン基、ブチレン基、ペンチレン基、ヘキシレン基、又は、これらの基がメチル基、エチル基、プロピル基、メトキシ基、ヒドロキシ基、ハロゲン原子(例えば、塩素原子、臭素原子、フッ素原子)などで置換されたものを例示することができる。
置換又は無置換の環状炭化水素基としては、シクロブチレン基、シクロへキシレン基、ノルボルニレン基、無置換のアリーレン基(フェニレン基)、又は、メトキシ基、ヒドロキシ基、ハロゲン原子(例えば、塩素原子、臭素原子、フッ素原子)などで置換されたフェニレン基等を例示することができる。
【0026】
としては、好ましくは、単結合、−COO−、又は−CONHであり、より好ましくは、−COO−、又は−CONH−、最も好ましくは、−COO−である。
【0027】
としては、単結合、置換又は無置換のアルキレン基、環状炭化水素基又はこれらを組み合わせた基であることが好ましく、具体的には、置換又は無置換のアルキレン基(好ましくは、炭素数1〜6、より好ましくは、炭素数1〜3、更に好ましくは、炭素数2〜3)、アルキレンオキシド基(好ましくは、炭素数1〜4、より好ましくは、炭素数1〜2、更に好ましくは、炭素数2)、−R’−O−R”−(R’及びR”:各々独立に炭素数1〜3のアルキレン基)を例示することができる。中でも、Yは、総炭素数が1〜6、更に総炭素数が1〜3であることがより好ましい。また、Yは無置換であることが好ましい。なお、ここで、総炭素数とは、Yで表される置換又は無置換の二価の連結基に含まれる総炭素原子数を意味する。
また、nは、1〜3の整数を表し、nが2以上のときYは互いに異なっていてもよい。
【0028】
として好ましい範囲は、前述の相互作用性基の説明で記載したとおりであり、アルキルオキシ基(好ましくは、炭素数1〜5)、又は、シアノ基がより好ましく、シアノ基が更に好ましい。
【0029】
これらの中で、一般式(M1−1)において、Rが水素原子、又はメチル基であり、Xが−COO−、又は−CONH−であり、Yが炭素数1〜3のアルキレン基である組み合わせが好ましく、Rが水素原子であり、Xが−COO−であり、Yが炭素数1〜3のアルキレン基である組み合わせが更に好ましい。上記組み合わせに加えて、更に、n=1、Wがシアノ基である組み合わせが特に好ましい。
【0030】
前記第1のモノマーの具体例としては、例えば以下に示す化合物を挙げることができる。
【0031】
【化3】

【0032】
【化4】

【0033】
なお、前記第1のモノマーは、2種以上を併用してもよい。
【0034】
〔第2のモノマー〕
本発明のインク組成物に使用される第2のモノマーは、2以上の重合性基を有する(多官能性を有する)、前記第1のモノマーとは異なるモノマーである。
上記第2のモノマーとしては、ラジカル重合性又はイオン重合(カチオン重合、アニオン重合)性を有するモノマーであることが好ましく、ラジカル重合性を有するモノマーであることがより好ましく、中でも、エチレン性不飽和結合を2以上含み、ラジカル重合性を有するモノマーであることが好ましい。
多官能性を有する第2のモノマーを使用することで、膜強度の高い画像を提供できるインク組成物が得られる。
【0035】
第2のモノマーとしては、アクリレート基、メタクリレート基、アクリルアミド基、メタクリルアミド基、ビニルオキシ基、及びN−ビニル基よりなる群から選択されるエチレン性不飽和結合基を2以上有する多官能モノマーを例示することができる。
より具体的には、ビス(4−アクリロキシポリエトキシフェニル)プロパン、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、1,6−ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、1,9−ノナンジオールジ(メタ)アクリレート、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、テトラエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、テトラプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、テトラメチロールメタンテトラ(メタ)アクリレート、テトラメチロールメタントリ(メタ)アクリレート、ジメチロールトリシクロデカンジ(メタ)アクリレート、変性グリセリントリ(メタ)アクリレート、変性ビスフェノールAジ(メタ)アクリレート、ビスフェノールAのPO付加物ジ(メタ)アクリレート、ビスフェノールAのEO付加物ジ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート、カプロラクトン変性ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート等が挙げられる。中でも、環状構造を有していない非環状多官能モノマーが好ましい。これらの中でも、ポリプロピレンジ(メタ)アクリレート系、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート系の多官能モノマーが好ましい。具体的には、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、テトラエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、テトラプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレートを挙げることができる。
【0036】
また、前記第2のモノマーは、1種のみを単独で用いても、複数種を併用してもよい。第2のモノマーは、重合性基の含有量が、好ましくは、0.5mmol/g以上2.0mmol/g以下、より好ましくは、0.6mmol/g以上1.6mmol/g以下、更に好ましくは0.8mmol/g以上1.2mmol/g以下、の範囲となるように添加することが好ましい。第2のモノマーのインク組成物中における重合性基の含有量をこの範囲とすることで、モノマーを硬化膜(ポリマー膜)化したときの架橋密度をより好ましい範囲に設定することができる。
ここで、前述の重合性基の含有量は、インク組成物1g中に含まれる第2のモノマーのモル数に対して、第2のモノマーの構造中に含まれる重合性基の数を乗じて算出することが出来る。
【0037】
すなわち、例えば、第2のモノマーとして複数種の多官能モノマーを併用する場合には、各モノマーに含まれるエチレン性不飽和結合の数(官能数とも称する)を考慮して、用いるモノマー種の割合を適宜調整し、インク組成物中における重合性基の含有量を上記の範囲とすればよい。
【0038】
上記第1のモノマー及び第2のモノマーは、活性エネルギー線により重合されることが好ましい。
【0039】
〔その他の単官能モノマー〕
本発明のインク組成物は、前記第1のモノマー以外の単官能モノマー、すなわち、前記相互作用性基(シアノ基、アルキルオキシ基、アミノ基、アルキルアミノ基、ピリジル基、ピロリドニル基、イミダゾリル基、アルキルスルファニル基、及び環状エーテル基、から選択する少なくとも1つの基)を含まないその他の単官能モノマーを更に併用してもよい。なお、その他の単官能モノマーとしては、1種のみを単独で用いてもよく、複数種を併用して用いてもよい。
このような単官能モノマーとしては、例えば、2−フェニルエチルアクリレート、2−ヒドロキシエチルアクリレート、カルビトールアクリレート、シクロヘキシルアクリレート、ベンジルアクリレート、トリデシルアクリレート、2−フェノキシエチルアクリレート、N−メチロールアクリルアミド、ジアセトンアクリルアミド、エポキシアクリレート、イソボルニルアクリレート、ジシクロペンテニルアクリレート、ジシクロペンテニルオキシエチルアクリレート、ジシクロペンタニルアクリレート、2−ヒドロキシ−3−フェノキシプロピルアクリレート、2−アクリロイロキシエチルフタル酸、2−アクリロイロキシエチル−2−ヒドロキシエチルフタル酸、サイクリックトリメチロールプロパンフォルマールアクリレート、2−アクリロイロキシエチルコハク酸、ノニルフェノールEO付加物アクリレート、フェノキシ−ポリエチレングリコールアクリレート、2−アクリロイロキシエチルヘキサヒドロフタル酸、ラクトン変性アクリレート、ステアリルアクリレート、イソアミルアクリレート、イソミリスチルアクリレート、イソステアリルアクリレート、ラクトン変性アクリレート等のアクリレート化合物;メチルメタクリレート、n−ブチルメタクリレート、アリルメタクリレート、グリシジルメタクリレート、ベンジルメタクリレート等のメタクリレート化合物;アクリロイルモルホリン、N,N−ジ−n−ブチルアクリルアミド、N,N−ジ−n−プロピルアクリルアミド、N,N−ジエチルアクリルアミド、N,N−ジメチルアクリルアミド、N,N−ジ−イソプロピルアクリルアミド、N−メチル,N−イソプロピルアクリルアミド等のアクリルアミド化合物;N−ビニルカプロラクタム等のN−ビニル化合物;アリルグリシジルエーテル等のアリル化合物等が挙げられる。
【0040】
これらの中でも、2−フェニルエチルアクリレート、シクロヘキシルアクリレート、トリデシルアクリレート、ジアセトンアクリルアミド、2−フェノキシエチルアクリレート、イソボルニルアクリレート、ジシクロペンテニルアクリレート、ノニルフェノールEO付加物アクリレート、フェノキシ−ポリエチレングリコールアクリレート、ラクトン変性アクリレート、アクリロイルモルホリン、N,N−ジ−イソ−プロピルアクリルアミド、N−メチル,N−イソ−プロピルアクリルアミド、N−ビニルカプロラクタムが好ましい。中でも、2−フェニルエチルアクリレート、ジシクロペンテニルアクリレート、2−フェノキシエチルアクリレート、ノニルフェノールEO付加物アクリレート、フェノキシ−ポリエチレングリコールアクリレート、アクリロイルモルホリン、N−ビニルカプロラクタムが更に好ましい。
上記化合物は、水素結合、双極子、Π−Π相互作用等により、硬化組成物内での高い凝集力が得られ、基材との良好な親和性から基材との界面混合により高いレベルの密着性が発現でき、更に、インクジェットヘッドへの適合性及び吐出信頼性が良好となることから好ましい。
【0041】
また、単官能ビニルエーテル化合物も好適に挙げられる。単官能ビニルエーテル化合物の具体例としては、例えば、メチルビニルエーテル、エチルビニルエーテル、n−プロピルビニルエーテル、イソプロピルビニルエーテル、n−ブチルビニルエーテル、イソブチルビニルエーテル、t−ブチルビニルエーテル、n−オクタデシルビニルエーテル、2−エチルヘキシルビニルエーテル、n−ノニルビニルエーテル、ドデシルビニルエーテル、オクタデシルビニルエーテル、シクロヘキシルビニルエーテル、シクロヘキシルメチルビニルエーテル、4−メチルシクロヘキシルメチルビニルエーテル、ベンジルビニルエーテル、ジシクロペンテニルビニルエーテル、2−ジシクロペンテノキシエチルビニルエーテル、2−ヒドロキシエチルビニルエーテル、2−ヒドロキシプロピルビニルエーテル、4−ヒドロキシブチルビニルエーテル、4−ヒドロキシメチルシクロヘキシルメチルビニルエーテル、クロルエチルビニルエーテル、クロルブチルビニルエーテル、フェニルエチルビニルエーテル、フェノキシポリエチレングリコールビニルエーテル、シクロヘキサンジメタノールモノビニルエーテル、イソプロペニルエーテル−O−プロピレンカーボネート、等が挙げられる。
【0042】
(モノマー含有量)
本発明におけるインク組成物1)及び2)は、該インク組成物中に含まれるモノマーの含有量、すなわち、前記第1のモノマー、第2のモノマー及びその他の単官能モノマーの含有量を加えた総和が、85質量%以上であることが好ましい。また、上記インク組成物中におけるモノマーの含有量は、87質量%以上99質量%以下であることがより好ましく、90質量%以上95質量%以下であることが更に好ましい。
更に、本発明のインク組成物1)及び2)が後述の重合開始剤を含み、該インク組成物1)及び2)中におけるモノマーの含有量がいずれも85質量%以上であることが特に好ましい。
モノマーの含有量をこの範囲とすることで、インクの吐出安定性が改善される傾向がある。
【0043】
また、前記第1のモノマー(相互作用性基を有するモノマー)の含有量は、インク組成物1)に対して10質量%以上80質量%以下であることが好ましく、15質量%以上80質量%以下であることがより好ましく、20質量%以上80質量%以下であることが更に好ましい。
第1のモノマーの含有量を上記の範囲とすることは、めっき発現性と基材密着性とを両立させることが容易となる点で好ましい。
【0044】
また、前記第2のモノマー(多官能性を有するモノマー)の含有量は、インク組成物2)に対して1質量%以上40質量%以下であることが好ましく、3質量%以上30質量%以下であることがより好ましく、5質量%以上20質量%以下であることが更に好ましい。
第2のモノマーの含有量を上記の範囲とすることは、めっき発現性と基材密着性とを両立させることが容易となる点で好ましい。
【0045】
更に、前記その他の単官能モノマーを併用する場合には、その含有量をインク組成物1)又は2)に含まれるモノマー全量の5質量%以上80質量%以下であることが好ましく、5質量%以上60質量%以下であることがより好ましく、5質量%以上40質量%以下であることが更に好ましい。
その他の単官能モノマーの含有量を上記の範囲とすることは、めっき発現性と基材密着性とを両立させることが容易となる点で好ましい。
【0046】
〔重合開始剤〕
本発明におけるインク組成物は、重合開始剤を含有してもよい。使用してもよい重合開始剤としては、公知の重合開始剤から適宜選択することができる。本発明のインク組成物に使用してもよい重合開始剤は、活性エネルギー線により重合開始種であるラジカルを生成する化合物が好ましく、活性エネルギー線としては、γ線、β線、電子線、紫外線、可視光線、又は赤外線等が例示できる。例えば、いわゆる、光重合開始剤は本発明で使用できる好ましい重合開始剤である。
【0047】
重合開始剤としては、公知の化合物が使用できるが、本発明で使用し得る好ましい重合開始剤としては、(a)芳香族ケトン類、(b)アシルホスフィンオキシド化合物、(c)芳香族オニウム塩化合物、(d)有機過酸化物、(e)チオ化合物、(f)ヘキサアリールビイミダゾール化合物、(g)ケトオキシムエステル化合物、(h)ボレート化合物、(i)アジニウム化合物、(j)メタロセン化合物、(k)活性エステル化合物、(l)炭素ハロゲン結合を有する化合物、並びに(m)アルキルアミン化合物等が挙げられる。
【0048】
これらの重合開始剤は、上記(a)〜(m)の化合物を単独若しくは組み合わせて使用してもよい。本発明における重合開始剤は単独若しくは2種以上の併用によって好適に用いられる。
【0049】
(a)芳香族ケトン類、(b)アシルホスフィンオキシド化合物、及び、(e)チオ化合物の好ましい例としては、「RADIATION CURING IN POLYMER SCIENCE AND TECHNOLOGY」,J.P.FOUASSIER,J.F.RABEK(1993)、pp.77〜117記載のベンゾフェノン骨格又はチオキサントン骨格を有する化合物等が挙げられる。より好ましい例としては、特公昭47−6416号公報記載のα−チオベンゾフェノン化合物、特公昭47−3981号公報記載のベンゾインエーテル化合物、特公昭47−22326号公報記載のα−置換ベンゾイン化合物、特公昭47−23664号公報記載のベンゾイン誘導体、特開昭57−30704号公報記載のアロイルホスホン酸エステル、特公昭60−26483号公報記載のジアルコキシベンゾフェノン、特公昭60−26403号公報、特開昭62−81345号公報記載のベンゾインエーテル類、特公平1−34242号公報、米国特許第4,318,791号、ヨーロッパ特許0284561A1号記載のα−アミノベンゾフェノン類、特開平2−211452号公報記載のp−ジ(ジメチルアミノベンゾイル)ベンゼン、特開昭61−194062号公報記載のチオ置換芳香族ケトン、特公平2−9597号公報記載のアシルホスフィンスルフィド、特公平2−9596号公報記載のアシルホスフィン、特公昭63−61950号公報記載のチオキサントン類、特公昭59−42864号公報記載のクマリン類等を挙げることができる。また、特開2008−105379号公報、特開2009−114290号公報に記載の重合開始剤も好ましい。
【0050】
これらのなかでも、本発明において、重合開始剤として芳香族ケトン類、アシルホスフィンオキサイド化合物を使用することが好ましく、1−シクロヘキシルフェニルケトン、1−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン(Irgacure 184:BASF社製)、p−フェニルベンゾフェノン(和光純薬工業社製)、ビス(2,4,6−トリメチルベンゾイル)−フェニルホスフィンオキサイド(Irgacure 819:BASF社製)、ビス(2,6−ジメトキシベンゾイル)−2,4,4−トリメチル−ペンチルフェニルホスフィンオキサイド、2,4,6−トリメチルベンゾイル−ジフェニル−フォスフィンオキサイド(Darocur TPO:BASF社製、Lucirin TPO:BASF社製)などが好ましい。
【0051】
重合開始剤は、1種単独で又は2種以上を組み合わせて使用することができる。
本発明のインク組成物における重合開始剤の含有量は、インク組成物に対して、1〜15質量%が好ましく、より好ましくは1〜10質量%、更に好ましくは1〜5質量%である。
【0052】
〔その他の成分〕
本発明におけるインク組成物中には、本発明の効果を損なわない範囲で、その他の成分を含有していてもよい。以下、含んでいてもよいその他の成分について説明する。
【0053】
−水−
本発明の効果を損なわない範囲であれば、極微量の水を含んでいてもよいが、本発明におけるインク組成物は実質的に水を含有しない、非水性インク組成物であることが好ましい。具体的には、インク組成物全量に対して、水の含有量は3質量%以下であることが好ましく、より好ましくは2質量%以下、最も好ましくは1質量%以下である。これにより、保存安定性を向上することができる。
【0054】
−溶剤−
本発明におけるインク組成物には、インク粘度の調整等を目的に、極微量の非硬化性の有機溶剤を添加してもよい。
溶剤としては、例えば、アセトン、メチルエチルケトン、ジエチルケトン、シクロヘキサノン等のケトン系溶剤、メタノール、エタノール、2−プロパノール、1−プロパノール、1−ブタノール、tert−ブタノール等のアルコール系溶剤、クロロホルム、塩化メチレン等の塩素系溶剤、ベンゼン、トルエン等の芳香族系溶剤、酢酸エチル、酢酸ブチル、酢酸イソプロピル、プロピレンカーボネートなどのエステル系溶剤、ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、ジオキサン等のエーテル系溶剤、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールジメチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル等のグリコールエーテル系溶剤、などが挙げられる。
本発明において、溶剤の添加量はインク組成物全体に対し0.1質量%〜10質量%が好ましく、より好ましくは0.1質量%〜5質量%、更に好ましくは0.1質量%〜3質量%の範囲である。
【0055】
−高分子化合物−
本発明におけるインク組成物は分子量1500以上の高分子化合物を実質的に含有しないことが好ましい。具体的には、分子量1500以上の高分子化合物の含有量は、インク組成物全量に対して、2.5質量%以下であることが好ましく、より好ましくは2質量%以下、最も好ましくは1質量%以下である。これにより、放置回復性(インクジェット記録装置上でインク組成物の吐出を止めて一定の時間放置し、その後吐出を再開した場合の吐出安定性)をより向上することができる。
【0056】
本発明の効果を損なわない範囲であれば、極微量の高分子化合物を添加することは可能である。使用可能な高分子化合物としては油溶性であることが好ましく、油溶性高分子化合物としては、アクリル系重合体、ポリビニルブチラール樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリアミド樹脂、ポリエステル樹脂、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリビニルブチラール樹脂、ポリビニルホルマール樹脂、シェラック、ビニル系樹脂、アクリル系樹脂、ゴム系樹脂、ワックス類、その他の天然樹脂等を例示できる。また、これらは2種以上併用してもかまわない。これらのうち、アクリル系のモノマーの共重合によって得られるビニル系共重合が好ましい。更に、高分子化合物の共重合組成として、「カルボキシル基含有モノマー」、「メタクリル酸アルキルエステル」、又は「アクリル酸アルキルエステル」を構造単位として含む共重合体も好ましく用いられる。
【0057】
−界面活性剤−
本発明におけるインク組成物は、更に界面活性剤を含んでいてもよい。界面活性剤を含む場合、インクジェット吐出安定性、着弾時のレベリング性の点で好ましい。
界面活性剤の例として、ノニオン系界面活性剤、両性界面活性剤、アンモニウムイオンを対イオンとするアニオン系界面活性剤、有機酸アニオンを対イオンとするカチオン系界面活性剤などが挙げられる。ノニオン系界面活性剤としては、例えば、ポリエチレングリコール誘導体、ポリプロピレングリコール誘導体が挙げられる。両性界面活性剤としては、例えば、長鎖アルキルのベタイン類が挙げられる。アンモニウムイオンを対イオンとするアニオン系界面活性剤としては、例えば、長鎖アルキル硫酸アンモニウム塩、アルキルアリール硫酸アンモニウム塩、アルキルアリールスルホン酸アンモニウム塩、アルキルリン酸アンモニウム塩、ポリカルボン酸系高分子のアンモニウム塩などが挙げられる。
【0058】
インク組成物中の界面活性剤の含有量は、特に限定されないが、インク全量に対して、0質量%以上5質量%以下が好ましく、0.01〜2質量%がより好ましい。上記範囲内であれば、インクの他物性を損ねること無く、好ましい表面張力を得られる点で好ましい。
【0059】
この他にも、本発明の効果を損なわない範囲であれば、必要に応じて、重合禁止剤、ワックス類、染料、顔料等を含有することもできる。
以下、本発明で使用するインクについて説明する。
【0060】
(インク組成物)
本発明で使用するインク組成物は、前記第1のモノマーを含有するインク組成物1)と、前記第2のモノマーを含有するインク組成物2)とに大別される。インク組成物は、前記第1のモノマー及び第2のモノマー以外に、上記その他の単官能モノマー及びその他の成分を含んでもよい。
当該インク組成物は単独でインクとして使用してもよく、2種以上のインク組成物を混合しインクとして使用してもよい。
【0061】
(インク)
本発明で使用するインクとして、前記第1のモノマーを含有するインク組成物1)を含むインクと、前記第2のモノマーを含有するインク組成物2)を含むインクとを、それぞれ独立した2種以上のインクとして使用してもよいし、前記第1のモノマーを含有するインク組成物1)を含むインクと、前記第2のモノマーを含有するインク組成物2)を含むインクとを、混合してなる混合インクとして使用してもよい。
該インクは、前記第1のモノマー、前記第2のモノマー以外に、上記その他の単官能モノマー及びその他の成分を含んでもよい。
なお、上記インク組成物1)及び2)は、そのままインクとして使用することも可能である。
【0062】
〔傾斜構造〕
本発明に係る金属膜材料においては、基材上に設けられる硬化膜が、上記第1のモノマーの硬化物及び第2のモノマーの硬化物を含む膜であって、該硬化膜が膜の厚み方向において前記基材に最も近い側から最も遠い側に向かって第1のモノマーの硬化物の比率が大きくなり、かつ、第2のモノマーの硬化物の比率が小さくなるように、第1のモノマーの硬化物及び第2のモノマーの硬化物の組成が連続的に変化する傾斜構造を有する。
本明細書において、上記のような傾斜構造を有する膜を「組成傾斜膜」とも呼ぶ。
【0063】
図1に、本発明で形成される金属膜材料に含まれる、組成傾斜膜である硬化膜の断面を模式的に示す。
本発明に係る金属膜材料1は、基材2上に硬化膜3からなるパターンを有する。硬化膜3は、その厚み方向において基材2に最も遠い側Aから基材2に最も近い側Bに向かって(即ち、図1中の矢印の方向に)、第1のモノマーの硬化物から第2のモノマーの硬化物に連続的に組成が変化している。
ここで、「厚み方向」とは硬化膜3の「膜厚方向」を意味する。
「厚み方向において第1のモノマーの硬化物から第2のモノマーの硬化物に連続的に組成が変化する」とは、厚み方向に組成傾斜膜をある厚み(例えば、0.1〜5μm)の領域毎に区切り、各領域での第2のモノマーの硬化物と第1のモノマーの硬化物の総質量に対する第2のモノマーの硬化物の質量が占める割合(以下、「第2のモノマーの硬化物の含有率」ともいう。)を測定したときに、隣接する領域間の第2のモノマーの硬化物の含有率の差が50%以下であることを意味する。隣接する領域間の第2のモノマーの硬化物の含有率の差が50%より大きくなると、第2のモノマーの硬化物の含有率の変化が段階的ではなくなり、高いめっき発現適性と基材との密着性を得ることができる。なお、ある2つの隣接する領域間の第2のモノマーの硬化物の含有率の差が0%であってもよい。
硬化膜3の基材に最も遠い側Aにおける第2のモノマーの硬化物の含有率(例えば、Aから厚み0.1〜5μmまでの領域における第2のモノマーの硬化物の含有率)は、高いめっき発現適性を得る観点から、0〜50%であることが好ましく、0〜30%であることがより好ましく、実質的に0%(0〜0.2%)であることが更に好ましい。また、基材から最も近い側Bにおける第2のモノマーの硬化物の含有率(例えば、Bから厚み0.1〜5μmまでの領域における樹脂の含有率)は、高い密着性を得る観点から、50〜100%であることが好ましく、70〜100%であることがより好ましく、実質的に100%(99〜100%)であることが更に好ましい。
【0064】
本発明の硬化膜における、第2のモノマーの硬化物と第1のモノマーの硬化物の総質量に対する第2のモノマーの硬化物の質量が占める割合を、基材に最も近い側から膜の厚み方向に0.1μmの厚みごとに測定したときに、隣り合う測定位置での上記割合の差がいずれも1%以上、50%以下であることが好ましい。また、上記割合の差は、いずれも1%以上、30%以下であることが更に好ましい。
【0065】
各領域における各モノマーの硬化物の含有率は、例えば、赤外吸収スペクトルのATR法(減衰全反射法)による、各硬化物が有する官能基の深さ方向プロファイルにより求めることができる。
【0066】
硬化膜3の構成は、上記のように第2のモノマーの硬化物の含有率の連続的変化があれば、特に限定されないが、図2に示すような第2のモノマーの硬化物の含有率の異なる複数の層が積層した構成を好ましい例として挙げられる。
図2に示す金属膜材料1aは、基材2上に組成傾斜膜である硬化膜3を有し、該硬化膜3は、樹脂の含有率の異なる複数の層3−1、3−2、3−3、3−4、3−5を有する。層3−1、3−2、3−3、3−4、3−5は、基材2に最も遠いA側の層3−5から基材2に最も近いB側の層3−1に向かって(即ち、図2中の矢印の方向に)、第2のモノマーの硬化物の含有率が0%〜100%の範囲内で連続的に大きくなっている。
良好な密着性及びめっき発現適性を得る上で、層3−1、3−2、3−3、3−4、3−5のうち、隣り合う2層の第2のモノマーの硬化物の含有率の差は50%以下であり、好ましくは30%以下である。また、基材2に最も遠いA側の層3−5の第2のモノマーの硬化物の含有率は0%〜20%であることが好ましく、0%〜15%であることがより好ましい。基材2に最も近いB側の層3−1の第2のモノマーの硬化物の含有率は80%〜100%であることが好ましく、85%〜100%であることがより好ましい。
図2では、層3−1、3−2、3−3、3−4、3−5の5層を積層して組成傾斜膜である硬化膜3を形成しているが、積層する層の数は特に限定されない。好ましくは3〜10層であり、より好ましくは3〜7層である。また、各層の厚みは0.1μm〜5μmが好ましく、0.3μm〜3μmがより好ましい。各層の厚みは実質的に等しい(厚みの誤差が±0.5μmの範囲)ことが好ましい。
なお、層間の界面が明確でない場合には、硬化膜3の厚み方向において厚み0.1μm〜5μmで区切った領域を「層」とみなしてもよい。
各領域における各モノマーの硬化物の含有率は、例えば、赤外吸収スペクトルのATR法(減衰全反射法)による、各硬化物が有する官能基の深さ方向プロファイルにより求めることができる。
【0067】
〔金属膜材料の製造方法における各工程〕
本発明の金属膜材料の製造方法は、上述のインク組成物をインクジェット法により基材上に吐出するインク付与工程(A)、付与した前記インク組成物に露光及び加熱の少なくともいずれかを行い、硬化膜を形成する硬化膜形成工程(B)、前記硬化膜にめっき触媒、又はその前駆体を付与する触媒付与工程(C)、付与した前記めっき触媒、又はその前駆体に対してめっきを行うめっき処理工程(D)を含む。以下、各工程の詳細について説明する。
【0068】
〔インク付与工程(A)〕
以下、本発明のインク付与工程(A)について説明する。
本発明においては、前記第1のモノマーを含有するインク組成物1)を含むインクと、前記第2のモノマーを含有するインク組成物2)を含むインクとを、それぞれ独立した2種以上のインクとしてインクジェット法により基材上に吐出するか、第1のモノマーを含有するインク組成物1)を含むインクと、第2のモノマーを含有するインク組成物2)を含むインクとを混合してなる混合インクをインクジェット法により基材上に吐出する。
【0069】
インクジェット法としては、インクジェットプリンターにより画像記録を行う方法であれば、インクジェットの記録方式に制限はなく、公知の方式、例えば静電誘引力を利用してインク組成物を吐出させる電荷制御方式、ピエゾ素子の振動圧力を利用するドロップオンデマンド方式(圧力パルス方式)、電気信号を音響ビームに変えインク組成物に照射して放射圧を利用してインク組成物を吐出させる音響インクジェット方式、及びインク組成物を加熱して気泡を形成し、生じた圧力を利用するサーマルインクジェット(バブルジェット(登録商標))方式等に用いられる。
インクの液滴の制御は主にプリントヘッドにより行われる。例えばサーマルインクジェット方式の場合、プリントヘッドの構造で打滴量を制御することが可能である。すなわち、インク室、加熱部、ノズルの大きさを変えることにより、所望のサイズで打滴することができる。またサーマルインクジェット方式であっても、加熱部やノズルの大きさが異なる複数のプリントヘッドを持たせることで、複数サイズの打滴を実現することも可能である。ピエゾ素子を用いたドロップオンデマンド方式の場合、サーマルインクジェット方式と同様にプリントヘッドの構造上打滴量を変えることも可能であるが、ピエゾ素子を駆動する駆動信号の波形を制御することによっても、同じ構造のプリントヘッドで複数のサイズの打滴を行うことができる。
【0070】
インクの基材上への吐出方法(描画方法)としては、第1のモノマーを含有するインク組成物1)を含むインクと第2のモノマーを含有するインク組成物2)を含むインクとを別々のインクジェットヘッドに供給し、両者の吐出量の比率を調節しながら、同時に吐出させて基材上で混合させる描画混合法が挙げられる。また、それとは別の方法としては、予めインクを第1のモノマーを含有するインク組成物1)を含むインクと第2のモノマーを含有するインク組成物2)を含むインクとを混合させた混合インクで両者の比率が異なるものを複数種類調製したものをインクジェットヘッドに供給し、ヘッドを順番に選択して、第1のモノマーを含有するインク組成物1)を含むインクと、第2のモノマーを含有するインク組成物2)を含むインクとの比率が異なる混合インクを順次吐出させて描画する混合インク法が挙げられる。
【0071】
(インクの調製)
後述する描画混合法に用いられる、第1のモノマーを含有するインク組成物1)を含むインクと、第2のモノマーを含有するインク組成物2)を含むインクの調製について説明する。
前記インクは、各材料を混合することで調製することができる。各材料を混合する際には攪拌機により攪拌してもよい。攪拌時間は特に限定されないが、30分〜60分が好ましく、30分〜40分がより好ましい。また混合する際の温度は、10℃〜40℃が好ましく、20℃〜35℃がより好ましい。
後述するインク混合法においては、上述のように調製したインクを混合して用いることができる。
【0072】
〜描画混合法〜
本発明の方法としては、
上記インク組成物1)及び2)をインクジェット法により基材上に吐出するインク付与工程と、付与した前記インク組成物に露光及び加熱の少なくともいずれかを行い、硬化膜を形成する硬化膜形成工程と、前記硬化膜にめっき触媒、又はその前駆体を付与する触媒付与工程と、付与した前記めっき触媒、又はその前駆体に対してめっきを行うめっき処理工程とを含み、
前記硬化膜が膜の厚み方向において前記基材に最も近い側から前記基材に最も遠い側に向かって下記第1のモノマーの硬化物の比率が大きくなり、かつ第2のモノマーの硬化物の比率が小さくなるように、第1のモノマーの硬化物及び第2のモノマーの硬化物の組成が連続的に変化する傾斜構造を有する、金属膜材料の製造方法であって、
前記インクジェット法によるインク付与工程が、少なくとも第1のインクジェットヘッドと第2のインクジェットヘッドを用いるものであり、前記インク組成物1)を含む第1のインクを第1のインクジェットヘッドに供給する工程と、前記インク組成物2)を含む第2のインクを第2のインクジェットヘッドに供給する工程と、前記第1のインクジェットヘッドから吐出される第1のインクの量と前記第2のインクジェットヘッドから吐出される第2のインクの量との比率を決定する制御工程と、前記決定された比率に従って、前記第1のインクジェットヘッド及び前記第2のインクジェットヘッドの少なくとも一方から前記第1のインク及び前記第2のインクの少なくとも一つを吐出させて一つの層を形成する形成工程と、前記形成工程を繰り返して前記基材上に前記層を複数層積層して前記傾斜構造を得る積層工程と、を備え、
前記制御工程において、前記複数層の厚み方向において前記基材に近い層から遠い層に向かって、前記第1のモノマーの硬化物の比率が大きくなり、かつ前記第2のモノマーの硬化物の比率が小さくなるように前記比率を決定する、
方法が好ましい。
【0073】
上記描画法によれば、第1のインクジェットヘッドから吐出される第1のインクの吐出量と第2のインクジェットヘッドから吐出される第2のインクの吐出量との比率を決定し、決定された比率にしたがってインクを吐出させて1つの層を形成する工程を繰り返して基材上に複数の層を積層し、この複数の層が上層にいくほど前記第1のインクの吐出量の比率が大きい層であって前記第2のインクの吐出量の比率が小さい層となるようにすることで、インクジェット方式の技術を用いて組成傾斜膜である硬化膜を製造することができる。
なお、本発明は、上記描画法によって形成される金属膜材料にも関する。
【0074】
〜描画混合法による実施形態〜
図3は、描画混合法に係る組成傾斜膜作製装置100の全体構成図であり、図4は、組成傾斜膜作製装置100の描画部10の概略図である。これらの図に示すように、組成傾斜膜作製装置100は、描画部10を含んで構成され、描画部10は、フラットベッドタイプのインクジェット描画装置が用いられている。詳細には、描画部10は、基材である基材が載置されるステージ30、ステージ30に載置された基材を吸着保持するための吸着チャンバー40、基材20に向けて各インクを吐出するインクジェットヘッド50A(以下、インクジェットヘッド1)及びインクジェットヘッド50B(以下、インクジェットヘッド2)を含み構成されている。
【0075】
ステージ30は、基材20の直径よりも広い幅寸法を有しており、図示しない移動機構により水平方向に自在に移動可能に構成されている。移動機構としては、例えばラックアンドピニオン機構、ボールネジ機構等を用いることができる。ステージ制御部43(図4では不図示)は、移動機構を制御することにより、ステージ30を所望の位置に移動させることができる。
【0076】
また、ステージ30の基材保持面には多数の吸引穴31が形成されている。ステージ30下面には吸着チャンバー40が設けられており、この吸着チャンバー40がポンプ41(図4では不図示)で真空吸引されることによって、ステージ30上の基材20が吸着保持される。また、ステージ30はヒータ42(図4では不図示)を備え、ヒータ42によりステージ30に吸着保持された基材20を加熱することが可能である。
【0077】
インクジェットヘッド1及び2は、インクタンク60A(以下、インクタンク1)及びインクタンク60B(以下、インクタンク2)から供給されるインクを透明支持体20の所望の位置に対して吐出するものであり、ここではピエゾ方式のアクチュエータを持つヘッドを用いている。インクジェットヘッド1と2とは、図示しない固定手段により、それぞれができるだけ近づけて配置されて固定されている。
【0078】
インクタンク1及び2からインクジェットヘッド1及び2に供給されるインクを、それぞれインク1、インク2とする。本発明においては、前記第1のモノマーを含有するインク組成物1)を含むインクをインク1とし、前記第2のモノマーを含有するインク組成物2)を含むインクをインク2とする。
【0079】
(描画混合法による組成傾斜膜の作成)
このように構成された組成傾斜膜作製装置100を用いた組成傾斜膜の作成について、図5を用いて説明する。
【0080】
まず、窒素雰囲気中に置かれた描画部10のステージ30上に、基材20を載置する。基材20は、裏面がステージ30に接するように載置される。そして、吸着チャンバー40により、基材20のステージ30への吸着及び加熱を行う。ここでは、基材20を70℃に加熱することが好ましい。
【0081】
次に、吸着・加熱された基材20上に、インクジェットヘッド2から供給されるインク(インク2)を1層若しくは数層分積層して24−1を形成する。このインク2の積層は、図5(a)に示すように、移動機構によりステージ30を移動させながら(図では左方向に移動)、インクジェットヘッド2によりインク2を吐出する。ここでは、インクジェットヘッド1からはインクの吐出を行わない。
【0082】
このように形成したインク2の層24−1を、インク2中の溶媒成分を完全には蒸発しない程度に乾燥(半乾燥・半硬化)させることが好ましい。具体的には、通常に乾燥させるとき(全乾燥・全硬化)に与えるエネルギーよりも少ないエネルギーで乾燥を行う。
なお、本明細書において、「半乾燥」及び「全乾燥」には、本発明に係るインクとして重合性(硬化性)化合物等を含む硬化型組成物を用いた場合の「半硬化」及び「全硬化」の意も含むものとする。
本発明においては、上記のとおり、前記形成工程において吐出された層を半乾燥させる工程を有することが好ましく、半乾燥させるためには、例えば、インク吐出終了後、40〜120℃の環境温度に一定時間保持することが好ましく、50〜100℃の環境温度に一定時間保持することが好ましい。該保持する時間としては、10〜120秒が好ましく、20〜90秒がより好ましい。
【0083】
次に、半乾燥状態となったインク2の層24−1の上に、インク1とインク2との混合層24−2を形成する。この混合層24−2の形成は、図5(b)に示すように、ステージ30を移動させながら、インクジェットヘッド1によりインク1を吐出し、同時にインクジェットヘッド2によりインク2を吐出して行う。このとき、インク1の吐出量とインク2の吐出量を、所望の比率に調整する。ここでは、インク2の吐出量が75%、インク1の吐出量が25%となるように、インクジェットヘッド1と2の各ノズルの吐出量を調整して吐出している。なお、本明細書におけるインクの「吐出量」とは、各層を形成するために吐出されるインクの全量を意味する。一方、後述する、インクジェットヘッドより吐出されるインク滴の「液滴量」は1つのインク液滴の量である。
【0084】
なお、インクジェットヘッド1及び2からのインクの吐出量の比率の調整は、描画のドットピッチ密度によって調整してもよい。例えば、インクジェットヘッド1と2の各ノズルの吐出量を一定としたまま、インクを吐出するノズルの数をインクジェットヘッド1と2とを25:75となるように制御することにより、吐出量の比率の調整を行うことも可能である。
【0085】
インク吐出後、図5(c)に示すように、それぞれの吐出量で吐出されたインク1とインク2とを拡散混合することにより、混合層24−2が積層される。インク1の層24−1は半乾燥状態となっているため、その上に形成された混合層24−2のインクの溶媒はインク1の層24−1に受容されて、極端にぬれ広がることがない。即ち、ヒータ42による加熱温度は、インクの蒸発のしやすさにより調整する必要がある。溶媒の種類によっては、前述した70℃より低い温度、例えば基板の温度を50℃程度にして描画してもよい。
すなわち、前記形成工程において、吐出された前記第1のインクと前記第2のインクを拡散混合させる工程を有することが好ましい。拡散混合させる方法としては、加熱による対流を利用する方法や超音波を利用する方法などが挙げられる。
【0086】
また、2つのインクジェットヘッドはできるだけ近づけて配置されており、一方のインクだけが乾燥して両インクの層内での混合が不十分になることが防止されている。なお、2つのインクを同時に吐出する際、インクジェットヘッド1から吐出されるインク1の液滴とインクジェットヘッド2から吐出されるインク2の液滴とを、飛翔中に空中で衝突させ、混合させてから着弾するようにしてもよい。
【0087】
更に、詳細は後述するが、2つのインクジェットヘッドはそれぞれの幅を対象基材の幅(短い方)よりも大きく構成し、1回の走査で1つの層を形成することが好ましい。これにより、インク1とインク2とが混ざりやすくなる。
【0088】
また、インクの混合を促進するために、ステージ30を制御して基材20を超音波処理してもよい。このとき、超音波による節が発生しにくくなるように、超音波の周波数をスイープさせたり、基材20の位置を変更しながら行うことが好ましい。
【0089】
このように形成した混合層24−2を、インク2の層24−1と同様に半乾燥状態にすると、混合層24−2は量の比率が75:25で、インク2に含まれる第2のモノマーとインク1に含まれる第1のモノマーとが混合して積み重なっている状態となる。
【0090】
次に、混合層24−2の上に混合層24−3を形成する。この混合層24−3の形成についても、図5(d)に示すように、ステージ30を移動させながら、インクジェットヘッド1とインクジェットヘッド2とにより同時にインクを吐出する。ここでは、インク1、インク2をともに50%の吐出量の比率で吐出している。
【0091】
混合層24−2についても半乾燥状態となっているため、その上に形成された混合層24−3のインクの溶媒は、混合層24−2に受容される。インク吐出後、図5(e)に示すように、2つのインクを拡散混合することにより、混合層24−3が積層される。
【0092】
更に、混合層24−3についてもインク2の層24−1と同様に半乾燥させる。混合層24−3は量の比率が50:50で、インク2に含まれる第2のモノマーとインク1に含まれる第1のモノマーとが混合して積み重なっている状態となる。
【0093】
このように、インク1とインク2の吐出量の比率を段階的に(傾斜するように)変更しながら各混合層を形成し、最後にインク1の吐出量が100%の層を形成する。
【0094】
全ての層の形成終了後、各層の拡散が進み、段階的に形成した層が連続的になる。その結果、図1に示すように、組成成分比が膜厚方向において、B側からA側にかけてインク2が100%からインク1が100%となる組成傾斜膜である硬化膜3が形成される。
【0095】
このように、下の層を半乾燥状態として上の層を形成することにより、その上下の層において、拡散がある程度進むようにしておく。このとき、上下の層の界面が無くなり、完全に混合して上下層の区別が無くなるような状態とはならないようにすることが好ましい。
【0096】
なお、各層の形成が終わったあとに、組成傾斜膜の機能していない領域にダミーパターンを積層し、レーザを用いた光学式変位センサ等によりダミーパターンの高さを測定してもよい。乾燥が進んでおらず、溶媒が残っている状態では、膜厚が高くなることから、ダミーパターンの高さにより乾燥状態を検出することができる。
【0097】
以上説明したように、インクジェットヘッドを用いて組成傾斜膜を形成することができる。また、本実施形態の描画混合法によれば、形成する層の数にかかわらず、インクの種類とインクジェットヘッドの個数が少なくて済むという利点がある。インク1とインク2との混合層は、それぞれのインクの混合比率が段階的に傾斜されるように形成されれば、何層積層してもよい。
【0098】
また、各層の形成工程において、第1のインクジェットヘッド及び第2のインクジェットヘッドから吐出するインク滴の液滴の量は膜厚制御及び細線形成性の観点から、0.3〜100pLとすることが好ましく、0.5〜80pLがより好ましく、0.7〜70pLが更に好ましい。
各層の形成工程において、第1のインクジェットヘッド及び第2のインクジェットヘッドから吐出するインク滴の液滴径は膜厚制御及び細線形成性の観点から、1〜300μmとすることが好ましく、5〜250μmがより好ましく、10〜200μmが更に好ましい。
更に、各層の形成工程において、第1のインクと第2のインクのうち吐出量の比率が小さい方のインクについて、インクジェットヘッドから吐出するインク滴の液適量及び液滴径の少なくとも一方を前記比率が大きなインクより小さくすることが好ましい。例えば、前記比率が小さなインクのインク滴が0.3〜60pLであり、前記比率が大きなインクのインク滴が1〜100pLであることが好ましい。これにより、拡散混合する時間を短くしたり、混合の均一性を向上することができる。
なお、インク滴の「液滴径」とは、液滴直径の長さを意味し、インクジェット吐出時の飛翔状態写真から測定することができる。
【0099】
本実施形態では、B側からA側にかけてインク2が100%からインク1が100%となる組成傾斜膜3を形成したが、B側又はA側においてインク2又はインク1が100%となるよう製膜する必要性は必ずしもなく、組成傾斜膜3が得られる範囲のものであれば、B側又はA側におけるインク2又はインク1の比率を任意に変更することができる。
上記B側又はA側にけるインク2又はインク1の比率は、得ようとする組成傾斜膜の密着性やめっき発現特性等の特性により、適宜調節することが可能である。
【0100】
また、本実施形態では、インクジェットヘッド1とインクジェットヘッド2とにおいて同時にインクを吐出して各層を形成したが、順に吐出してもよい。
【0101】
例えば、混合層24−2を形成する場合に、図6(a)に示すように、まずインクジェットヘッド2によりインク2層24−1の上の全面にインク2を吐出する。次に、図6(b)に示すように、インクジェットヘッド1によりインク1を全面に吐出する。その後、図6(c)に示すように、それぞれのインクを拡散混合することで、同様に混合層24−2を形成することができる。
【0102】
このように、それぞれのインクを順に吐出して1つの層を形成する場合であって、2つのインクの吐出量に差がある場合、即ち2つのインクの吐出量の比率が50%ずつでない場合は、吐出量の多い方のインクを先に吐出するように構成してもよい。特に、先に吐出するインクの乾燥が激しい場合等は、量が少ないほど乾燥が早まるため、多い方のインクを先に吐出することが好ましい。これにより、2種類のインクの混合をスムーズに進ませることができる。
【0103】
更にこの場合、後から吐出することになる吐出量の少ない方のインクについては、小さい液滴(液適量が少ない又は液滴径が小さい)によってドットピッチ密度を高くして吐出してもよい。これにより、拡散混合する時間を短くすることができる。
【0104】
また、先に吐出したインクを着弾させた位置に、後から吐出するインクを重ねて着弾させるようにしてもよい。特に間歇打ちを行ってドットとドットが離れている場合に、同じ位置に乾燥させる前に着弾させると、それぞれのインクの混合がしやすくなる。
【0105】
例えば、混合層24−2を形成する際に、1回目の走査でインクジェットヘッド2によりインク2を間歇打ちにより吐出したとする。図9(a)は、インク1層24−1上に着弾したインク2(24−2−B−1)を示す。
【0106】
次に、2回目の走査でインクジェットヘッド1によりインク1を間歇打ちにより吐出する。このとき、インクジェットヘッド1は、図9(b)に示すように、吐出されたインク1(24−2−A−1)が、1回目の走査で着弾されているインク2(24−2−B−1)と同じ位置に重ねて着弾するように吐出する。
【0107】
更に、3回目の走査でインクジェットヘッド2によりインク2が間歇打ちされる。図9(c)は、インク2(24−2−B−1)の間に着弾されたインク2(24−2−B−2)を示す。
【0108】
その後、4回目の走査では、インクジェットヘッド1により、インク1がインク2(24−2−B−2)と同じ着弾位置に重ねて着弾されるように吐出される。図9(d)に示すように、吐出されたインク1(24−2−A−2)が、2回目の走査で着弾されているインク2(24−2−B−2)と同じ位置に重ねて着弾するように吐出する。
【0109】
以後同様に、インク1の層24−1の全面にインクを吐出し、その後拡散混合させる。
このように吐出することにより、混合層24−2を形成する際の拡散混合の時間を短縮することができる。
【0110】
また、一方のインクの乾燥が速い場合は、そのインクを後から吐出するようにしてもよい。
【0111】
また、本実施形態では、インク1とインク2の2つの純インクを用いて各混合層を形成したが、これらを混合したインクを併用してもよい。例えば、2つの純インクと、インク1とインク2との混合インクとの3種類のインクを同時に用いて混合層を形成することが挙げられる。混合インクを使用すれば、予め2つの純インクが十分混合されているため、インク吐出後の拡散混合に要する時間を短縮することができる。
【0112】
〜インク混合法〜
上記インク組成物1)及び2)をインクジェット法により基材上に吐出するインク付与工程と、付与した前記インク組成物に露光及び加熱の少なくともいずれかを行い、硬化膜を形成する硬化膜形成工程と、前記硬化膜にめっき触媒、又はその前駆体を付与する触媒付与工程と、付与した前記めっき触媒、又はその前駆体に対してめっきを行うめっき処理工程とを含み、
前記硬化膜が膜の厚み方向において前記基材に最も近い側から前記基材に最も遠い側に向かって下記第1のモノマーの硬化物の比率が大きくなり、かつ第2のモノマーの硬化物の比率が小さくなるように、第1のモノマーの硬化物及び第2のモノマーの硬化物の組成が連続的に変化する傾斜構造を有する、金属膜材料の製造方法であって、
前記インクジェット法によるインク付与工程が、複数のインクジェットヘッドを用いるものであり、前記インク組成物1)を含む第1のインクと前記インク組成物2)を含む第2のインクとが混合された混合インクであって、それぞれ異なる比率で混合された複数の混合インクを前記複数のインクジェットヘッドそれぞれのインクジェットヘッドに供給する工程と、前記複数のインクジェットヘッドから1つのインクジェットヘッドを順に選択する選択工程であって、前記第2のインクの比率の高い混合インクが供給されるインクジェットヘッドから順に選択する選択工程と、前記選択されたインクジェットヘッドから混合インクを吐出させて1つの層を形成する形成工程と、前記形成工程を繰り返して前記基材上に前記層を複数層積層して得る積層工程と、
を備える方法が好ましい。
【0113】
上記方法によれば、第1のインクと第2のインクとが混合された混合インクであって、それぞれ異なる比率で混合された複数の混合インクをそれぞれのインクジェットヘッドに供給し、第1のインクの比率の低い混合インクが供給されるインクジェットヘッドから順に混合インクを吐出させて各層を形成し、基材上に複数の層を積層するようにしたので、インクジェット方式の技術を用いて組成傾斜膜である硬化膜を製造することができる。
なお、本発明は、上記描画法によって形成される金属膜材料にも関する。
【0114】
〜インク混合法による実施形態〜
【0115】
図7は、第2の実施形態に係る組成傾斜膜作製装置101の全体構成図である。同図に示すように、本実施形態に係る組成傾斜膜作製装置101は描画部11を備え、描画部11は、5種類のインクを貯蔵するインクタンク60−1〜60−5と、各インクタンクからインクが供給されるインクジェットヘッド50−1〜50−5を備えている。各インクジェットヘッド50−1〜50−5は、各インクタンク60−1〜60−5から供給されるインクを基材20に対して吐出する。
【0116】
各インクタンク60−1〜60−5から各インクジェットヘッド50−1〜50−5に供給されるインクは、インク1とインク2との混合比率がそれぞれ0:100及び100:0の純インクの他に、混合比率が20:80〜80:20の範囲の混合インクであることが好ましい。即ち、インクタンク60−1からはインク2の純インクが、インクタンク60−5からはインク1の純インクが、60−2〜60−4からはインク1とインク2とが所定の比率で混合された混合インクが供給される。
【0117】
〔インク混合法による組成傾斜膜の作成〕
描画混合法による実施形態と同様に、ステージ30上に基材20を載置し、吸着及び加熱を行う。
【0118】
次に、吸着・過熱された基材上に、インク2を1層若しくは数層分積層してインク2の層28−1を形成する。このインク2の積層は、図8(a)に示すように、移動機構によりステージ30を移動させながら(図では左方向に移動)、インクジェットヘッド50−1により基材に対してインクタンク60−1から供給されるインク(インク1とインク2との混合比率が0:100のインク)を吐出する。このとき、その他のインクジェットヘッド50−2〜50−5からはインクの吐出を行わない。
【0119】
したがって、このように形成されたインク2の層28−1は、図5に示すインク2の層24−1と同様の層となる。ここで、インク2中の溶媒が蒸発する程度に乾燥(半乾燥・半硬化)させると、インク1に含まれる第1のモノマーが積み重なっている状態となる。
インク混合法においても、前記形成工程において吐出された層を半乾燥させる工程を有することが好ましく、半乾燥させるためには、例えば、インク吐出終了後、40〜120℃の環境温度に一定時間保持することが好ましく、50〜100℃の環境温度に一定時間保持することが好ましい。該保持する時間としては、10〜120秒が好ましく、20〜90秒がより好ましい。
【0120】
次に、インク2の層28−1の上に、インクジェットヘッド50−2によりインクタンク60−2から供給される混合インク(インク1とインク2との混合比率が25:75の混合インク)を吐出して、混合層28−2を形成する。
【0121】
混合層28−2の形成は、図8(b)に示すように、ステージ30を移動させながら、インクジェットヘッド50−2により混合インクを吐出する。描画混合法による実施形態と同様に、インク2の層28−1が半乾燥状態であるため、その上に形成された混合層28−2のインクの溶媒がインク2の層28−1に受容されて、極端にぬれ広がることがない。したがって、加熱温度はインクの蒸発のしやすさにより調整する必要がある。
【0122】
この混合層28−2についても半乾燥させることで、混合層28−2は、インク1に含まれる第1のモノマー及び、インク2に含まれる第2のモノマーが積み重なっている状態となる。
【0123】
更に、混合層28−2の上に、インクジェットヘッド50−3(図8には不図示)によりインクタンク60−3から供給される混合インク(インク1とインク2との混合比率が50:50の混合インク)を吐出して、混合層28−3を形成する。
【0124】
混合層28−2が半乾燥状態であるため、その上に形成された混合層28−3のインクの溶媒は、混合層28−2に受容される。更に、混合層28−3についても半乾燥させる。
【0125】
このように、各混合インクをインク2の混合比率が多い順(インク1の混合比率が少ない順)に吐出して各混合層(28−2〜28−4)を積層し、最後にインクジェットヘッド50−5によりインクタンク60−5から供給されるインク1(インク1とインク2との混合比率が100:0のインク)を吐出して、インク1が100%の層28−5(インク1の層)を形成する(図8(c))。
【0126】
全ての層を形成終了後、図1に示すようなインク2が100%からインク1が100%の組成成分比を有する組成傾斜膜である硬化膜3が形成される。
【0127】
また、各層の形成工程において、インクジェットヘッドから吐出するインク滴の液滴の量は安定吐出の観点から、0.5〜150pLとすることが好ましく、0.7〜130pLがより好ましく、1〜100pLが更に好ましい。
各層の形成工程において、インクジェットヘッドから吐出するインク滴の液滴径は良好な膜形成性の観点から、2〜450μmとすることが好ましく、5〜350μmがより好ましく、10〜250μmが更に好ましい。
【0128】
以上説明したように、混合インクを用いて、組成傾斜膜を形成することができる。本実施形態のインク混合法によれば、インクの段階で充分に混合されているため、第1のモノマーの硬化物と第2のモノマーの硬化物との傾斜の変化の精度が高い組成傾斜膜を作成することができる。また、描画混合法による実施形態と比較すると、2種類の機能性インクを拡散混合する時間が不要となるため、プロセス時間が短くて済むという利点がある。
【0129】
本実施形態では、インク1とインク2との混合層を3層形成したが、層の数はこれに限定されるものではなく、それぞれのインクの混合比率が傾斜されるように積層できれば何層でもよい。なお、形成する層の数だけインクタンクとインクジェットヘッドを用意する必要がある。
【0130】
更に、本実施形態では、インク2が100%からインク1が100%の組成成分比を有する組成傾斜膜である硬化膜3を形成したが、インク2が100%又はインク1が100%の組成成分比を採用する必要性は必ずしもなく、組成傾斜膜が得られる範囲のものであれば、上記組成成分比を任意に変更することができる。
上記組成成分比は、得ようとする組成傾斜膜の密着性やめっき発現特性等の特性により適宜調節することが可能である。
【0131】
〔硬化膜形成工程(B)〕
硬化膜形成工程(B)は、付与した前記インク組成物に露光及び加熱の少なくともいずれかを行い、インク組成物中のモノマー成分を重合硬化させて、硬化膜を形成する工程である。前記インク組成物を硬化することができれば、露光又は加熱のいずれでもよいが、パターン像の形成容易性の観点からは、露光が好ましい。
露光には、活性エネルギー線(紫外線、γ線、β線、電子線、可視光線、又は赤外線等)の照射を用いることができる。光源としては、例えば、紫外線照射ランプ、ハロゲンランプ、高圧水銀灯、レーザー、LED、電子線照射装置などを採用することができる。
【0132】
活性エネルギー線の波長としては、例えば、200〜600nmであることが好ましく、300〜450nmであることがより好ましく、350〜420nmであることがさらに好ましい。
活性エネルギー線の出力としては、その積算照射量が5000mJ/cm以下であることが好ましく、10〜4000mJ/cmであることがより好ましく、20〜3000mJ/cmであることがさらに好ましい。
【0133】
なお、加熱を用いる場合、送風乾燥機、オーブン、赤外線乾燥機、加熱ドラムなどを用いることができる。温度条件は特に限定されないが、通常、100〜300℃で、5〜120分間の加熱条件で行われる。
上記のような加熱又は露光といったエネルギー付与が行われると、前記インク組成物が付与された領域でモノマー成分の重合反応が生じ硬化膜が形成される。
【0134】
形成する硬化膜の厚みは特に制限されないが、後述する金属膜との密着性がより優れるという観点から、0.1μm以上10μm以下が好ましく、0.3μm以上5μm以下がより好ましい。硬化膜の厚みはインク吐出工程(A)において付与するインク組成物の量を適宜設定することにより、調整することができる。
【0135】
また、硬化膜形成工程(B)を酸素濃度が10%以下、より好ましくは、酸素濃度を8%以下、さらに好ましくは、5%以下の環境で行うことにより、エッチング耐性をより向上することができる。
【0136】
硬化膜形成工程(B)において、酸素濃度を制御するには窒素パージ式UV照射装置(例えば、(株)ジーエスユアサ社製 CSN2−40)を用いることが出来る。また、酸素濃度は、例えば、コスモテクターXP−3180(新コスモス電機(株)社製)等の酸素濃度計によって測定することができる。
【0137】
−基材−
本工程で用いられる基材としては、形状保持性を有するものであればよく、寸度的に安定な板状物であることが好ましい。例えば、紙、プラスチック(例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン等)がラミネートされた紙、金属板(例えば、アルミニウム、亜鉛、銅等)、プラスチックフィルム(例えば、二酢酸セルロース、三酢酸セルロース、プロピオン酸セルロース、酪酸セルロース、酢酸セルロース、硝酸セルロース、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレン、ポリスチレン、ポリプロピレン、ポリカーボネート、ポリビニルアセタール、ポリイミド、エポキシ、ビスマレインイミド樹脂、ポリフェニレンオキサイド、液晶ポリマー、ポリテトラフルオロエチレン等)、樹脂(例えば、エポキシ樹脂、ポリイミド樹脂等)を含浸させたガラスクロス、上記の如き金属がラミネート又は蒸着された、紙又はプラスチックフィルム等が含まれる。本発明に使用される基材としては、エポキシ樹脂又はポリイミド樹脂、若しくは、エポキシ樹脂又はポリイミド樹脂を含浸させたガラスクロスが好ましく、エポキシ樹脂を含浸させたガラスクロスが更に好ましい。
【0138】
また、本発明の金属膜材料の製造方法により得られた金属膜材料は、半導体パッケージ、各種電気配線基板等に適用することができるが、このような用途に用いる場合は、絶縁性樹脂からなる基材、又は、絶縁性樹脂からなる層を基材上に有する基材を用いることが好ましい。
【0139】
なお、本発明における「絶縁性樹脂」とは、公知の絶縁膜や絶縁層に使用しうる程度の絶縁性を有する樹脂であることを意味するものであり、完全な絶縁体でないものであっても、目的に応じた絶縁性を有する樹脂であれば、本発明に適用しうる。
絶縁性樹脂としては、例えば、特開2008−108791号公報の段落[0024]〜[0025]に記載の樹脂を使用することができる。
【0140】
〔触媒付与工程(C)〕
触媒付与工程は、硬化膜形成工程(B)で形成された硬化膜にめっき触媒又はその前駆体を付与する工程である。本工程においては、インク組成物に含まれる前記第1のモノマーが有する相互作用性基(シアノ基、アルキルオキシ基、アミノ基、アルキルアミノ基、ピリジル基、ピロリドニル基、イミダゾリル基、アルキルスルファニル基、及び環状エーテル基、から選択する少なくとも1つの基)が、その機能に応じて、付与されためっき触媒又はその前駆体を吸着する。
ここで、めっき触媒又はその前駆体としては、後述するめっき処理工程(D)における、めっきの触媒や電極として機能するものが挙げられる。したがって、めっき触媒又はその前駆体は、めっき処理工程(D)におけるめっきの種類により適宜決定される。
なお、本工程において用いられるめっき触媒又はその前駆体は、無電解めっき触媒又はその前駆体であることが好ましい。
【0141】
−無電解めっき触媒−
本発明に適用可能な無電解めっき触媒は、無電解めっき時の活性核となるものであれば、如何なるものも用いることができる。具体的には、自己触媒還元反応の触媒能を有する金属(例えば、Niよりイオン化傾向の低い無電解めっきできる金属として知られるもの)などが挙げられ、具体的には、Pd、Ag、Cu、Ni、Al、Fe、Coなどが挙げられる。中でも、多座配位可能なものが好ましく、特に、配位可能な官能基の種類数、触媒能の高さから、Pdが特に好ましい。
この無電解めっき触媒は、金属コロイドとして用いてもよい。一般に、金属コロイドは、荷電を持った界面活性剤又は荷電を持った保護剤が存在する溶液中において、金属イオンを還元することにより作製することができる。金属コロイドの荷電は、ここで使用される界面活性剤又は保護剤により調節することができる。
【0142】
−無電解めっき触媒前駆体―
本工程に適用可能な無電解めっき触媒前駆体とは、化学反応により無電解めっき触媒となりうるものであれば、特に制限なく使用することができる。主には、上記無電解めっき触媒として挙げた金属の金属イオンが用いられる。無電解めっき触媒前駆体である金属イオンは、還元反応により無電解めっき触媒である0価金属になる。無電解めっき触媒前駆体である金属イオンを付与した後、無電解めっき浴への浸漬前に、別途還元反応により0価金属に変化させて無電解めっき触媒としてもよいし、無電解めっき触媒前駆体のまま無電解めっき浴に浸漬し、無電解めっき浴中の還元剤により金属(無電解めっき触媒)に変化させてもよい。
【0143】
実際には、無電解めっき触媒前駆体である金属イオンは、金属塩を用いて前記硬化膜上に付与される。使用される金属塩としては、適切な溶媒に溶解して金属イオンと塩基(陰イオン)とに解離されるものであれば特に制限はなく、M(NO、MCl、M2/n(SO)、M3/n(PO)Pd(OAc)(Mは、n価の金属原子を表す)などが挙げられる。
金属イオンとしては、上記の金属塩が解離したものを好適に用いることができる。具体例としては、例えば、Agイオン、Cuイオン、Alイオン、Niイオン、Coイオン、Feイオン、Pdイオンが挙げられ、中でも、多座配位可能なものが好ましく、特に、配位可能な官能基の種類数、及び触媒能の点で、Pdイオンが好ましい。
【0144】
本発明で用いられる無電解めっき触媒又はその前駆体の好ましい例の一つとして、パラジウム化合物が挙げられる。このパラジウム化合物は、めっき処理時に活性核となり金属を析出させる役割を果たす、めっき触媒(パラジウム)又はその前駆体(パラジウムイオン)として作用する。パラジウム化合物としては、パラジウムを含み、めっき処理の際に核として作用すれば、特に限定されない。例えば、パラジウム塩、パラジウム(0)錯体、パラジウムコロイドなどが挙げられる。
【0145】
無電解めっき触媒である金属、又は、無電解めっき前駆体である金属塩を前記硬化膜上に付与する方法としては、金属を適当な分散媒に分散した分散液、又は、金属塩を適切な溶媒で溶解し、解離した金属イオンを含む溶液を調製し、その分散液若しくは溶液を硬化膜上に塗布するか、又は、その分散液若しくは溶液中に硬化膜が形成された基材を浸漬すればよい。
【0146】
上記のように無電解めっき触媒又はその前駆体を接触させることで、インク組成物中の第1のモノマーが有する相互作用性基(シアノ基、アルキルオキシ基、アミノ基、アルキルアミノ基、ピリジル基、ピロリドニル基、イミダゾリル基、アルキルスルファニル基、又は環状エーテル基、から選択する少なくとも1つの基)に、ファンデルワールス力のような分子間力による相互作用、又は、孤立電子対による配位結合による相互作用等を利用して、無電解めっき触媒又はその前駆体を吸着させることができる。
このような吸着を充分に行なわせるという観点からは、分散液、溶液、組成物中の金属濃度、又は溶液中の金属イオン濃度は、0.001〜50質量%の範囲であることが好ましく、0.005〜30質量%の範囲であることが更に好ましい。また、接触時間としては、30秒〜24時間程度であることが好ましく、1分〜1時間程度であることがより好ましい。
【0147】
また、めっき触媒又はその前駆体を含有する液(めっき触媒液)は、有機溶剤を含有することができる。この有機溶剤を含有することで、前記硬化膜に対するめっき触媒又はその前駆体の浸透性が向上し、相互作用性基(シアノ基、アルキルオキシ基、アミノ基、アルキルアミノ基、ピリジル基、ピロリドニル基、イミダゾリル基、アルキルスルファニル基、又は環状エーテル基、から選択する少なくとも1つの基)に効率よくめっき触媒又はその前駆体を吸着させることができる。
めっき触媒液の調製に用いられる溶剤としては、ポリマー層に浸透しうる溶剤であれば特に制限は無いが、めっき触媒液の主たる溶媒(分散媒)として一般に水が用いられることから、水溶性の有機溶剤が好ましい。
【0148】
前記水溶性の有機溶剤としては、水に1質量%以上溶解する溶剤であれば、特に限定されない。例えば、ケトン系溶剤、エステル系溶剤、アルコール系溶剤、エーテル系溶剤、アミン系溶剤、チオール系溶剤、ハロゲン系溶剤などの水溶性の有機溶剤が挙げられる。
【0149】
−その他の触媒−
本発明において、後述のめっき処理工程(D)において、前記硬化膜に対して、無電解めっきを行わず直接電気めっきを行うために用いられる触媒としては、0価金属を使用することができる。この0価金属としては、Pd、Ag、Cu、Ni、Al、Fe、Coなどが挙げられ、中でも、多座配位可能なものが好ましく、特に、相互作用性基(最も好ましくはシアノ基)に対する吸着性、触媒能の高さから、Pd、Ag、Cuが好ましい。
【0150】
以上説明した触媒付与工程(C)を経ることで、硬化膜化した前記第1のモノマーが有する相互作用性基(シアノ基、アルキルオキシ基、アミノ基、アルキルアミノ基、ピリジル基、ピロリドニル基、イミダゾリル基、アルキルスルファニル基、及び環状エーテル基、から選択する少なくとも1つの基)とめっき触媒又はその前駆体との間に相互作用を形成することができる。めっき触媒が付与された硬化膜は、めっき処理が施されるめっき受容性層として用いられる。
【0151】
〔めっき処理工程(D)〕
めっき処理工程(D)は、前記触媒付与工程(C)で無電解めっき触媒又はその前駆体が付与された硬化膜に対し、めっき処理を施すことで、めっき膜(金属膜)を形成する工程である。形成されためっき膜は、優れた導電性、及び硬化膜との間で優れた密着性を有する。
本工程に適用可能なめっきの種類は、無電解めっき、電気めっき等が挙げられ、前記触媒付与工程(C)において、硬化膜との間に相互作用を形成しためっき触媒又はその前駆体の機能によって、適宜選択することができる。
中でも、本発明においては、密着性向上の点から、無電解めっきを行うことが好ましい。また、所望の膜厚のめっき層を得るために、無電解めっきの後に、更に電気めっきを行うことがより好ましい態様である。以下、本工程において好適に行われるめっき処理について説明する。
【0152】
−無電解めっき−
無電解めっきとは、めっきとして析出させたい金属イオンを溶かした溶液を用いて、化学反応によって金属を析出させる操作のことをいう。
本工程における無電解めっきは、例えば、無電解めっき触媒が付与された基材を、水洗して余分な無電解めっき触媒(金属など)を除去した後、無電解めっき浴に浸漬して行なう。使用される無電解めっき浴としては一般的に知られている無電解めっき浴を使用することができる。
また、無電解めっき触媒前駆体が付与された基材を、無電解めっき触媒前駆体が硬化膜に吸着又は含浸した状態で無電解めっき浴に浸漬する場合には、基材を水洗して余分な前駆体(金属塩など)を除去した後、無電解めっき浴中へ浸漬される。この場合には、無電解めっき浴中において、めっき触媒前駆体の還元とこれに引き続き無電解めっきが行われる。ここで使用される無電解めっき浴としても、上記同様、一般的に知られている無電解めっき浴を使用することができる。
なお、無電解めっき触媒前駆体の還元は、上記のような無電解めっき液を用いる態様とは別に、触媒活性化液(還元液)を準備し、無電解めっき前の別工程として行うことも可能である。触媒活性化液は、無電解めっき触媒前駆体(主に金属イオン)を0価金属に還元できる還元剤を溶解した液で、還元剤の濃度は液全量に対して0.1〜50質量%、好ましくは1〜30質量%が好ましい。還元剤としては、水素化ホウ素ナトリウム、ジメチルアミンボランのようなホウ素系還元剤、ホルムアルデヒド、次亜リン酸などの還元剤を使用することが可能である。
【0153】
一般的な無電解めっき浴の組成としては、溶剤の他に、1.めっき用の金属イオン、2.還元剤、3.金属イオンの安定性を向上させる添加剤(安定剤)が主に含まれている。このめっき浴には、これらに加えて、公知の添加物が含まれていてもよい。
【0154】
めっき浴に用いられる有機溶剤としては、水に可能な溶媒である必要があり、その点から、アセトンなどのケトン類、メタノール、エタノール、イソプロパノールなどのアルコール類が好ましく用いられる。
【0155】
無電解めっき浴に用いられる金属の種類としては、銅、すず、鉛、ニッケル、金、パラジウム、ロジウムが知られており、導電性の観点から、銅、金が好ましい。
また、上記金属に合わせて最適な還元剤、添加物がある。例えば、銅の無電解めっきの浴は、銅塩としてCuSO、還元剤としてHCOH、添加剤として銅イオンの安定剤であるEDTAやロッシェル塩などのキレート剤、トリアルカノールアミンなどが含まれている。また、CoNiPの無電解めっきに使用されるめっき浴には、その金属塩として硫酸コバルト、硫酸ニッケル、還元剤として次亜リン酸ナトリウム、錯化剤としてマロン酸ナトリウム、りんご酸ナトリウム、こはく酸ナトリウムが含まれている。また、パラジウムの無電解めっき浴は、金属イオンとして(Pd(NH)Cl、還元剤としてNH、HNNH、安定化剤としてEDTAが含まれている。これらのめっき浴には、上記成分以外の成分が入っていてもよい。
【0156】
このようにして形成される無電解めっきによるめっき膜(金属膜)の膜厚は、めっき浴の金属イオン濃度、めっき浴への浸漬時間、又は、めっき浴の温度などにより制御することができるが、導電性、密着性の観点からは、0.2μm〜2.0μmであることが好ましい。
また、めっき浴への浸漬時間としては、1分〜6時間程度であることが好ましく、1分〜3時間程度であることがより好ましい。
【0157】
―電気めっき−
本工程おいては、前記触媒付与工程(C)において付与されためっき触媒又はその前駆体が電極としての機能を有する場合、その触媒又はその前駆体が付与された硬化膜に対して、電気めっきを行うことができる。
また、前述の無電解めっきの後、形成されためっき膜を電極とし、更に、電気めっきを行ってもよい。これにより基材との密着性に優れた無電解めっき膜をベースとして、そこに新たに任意の厚みをもつ金属膜を容易に形成することができる。このように、無電解めっきの後に、電気めっきを行うことで、金属膜を目的に応じた厚みに形成しうるため、本発明の金属膜を種々の応用に適用するのに好適である。
【0158】
本発明における電気めっきの方法としては、従来公知の方法を用いることができる。なお、本工程の電気めっきに用いられる金属としては、銅、クロム、鉛、ニッケル、金、銀、すず、亜鉛などが挙げられ、導電性の観点から、銅、金、銀が好ましく、銅がより好ましい。
【0159】
また、電気めっきにより得られる金属膜の膜厚については、用途に応じて異なるものであり、めっき浴中に含まれる金属濃度、又は電流密度などを調整することで制御することができる。なお、一般的な電気配線などに用いる場合の膜厚は、導電性の観点から、1.0μm〜30μmであることが好ましい。
【0160】
<金属膜材料>
本発明の金属膜材料は、基材と、該基材上に設けられ、下記第1のモノマーの硬化物及び第2のモノマーの硬化物を含む硬化膜と、めっきにより形成される金属膜とを有する金属膜材料であって、前記硬化膜が膜の厚み方向において前記基材に最も近い側から前記基材に最も遠い側に向かって第1のモノマーの硬化物の比率が大きくなり、かつ第2のモノマーの硬化物の比率が小さくなるように第1のモノマーの硬化物及び第2のモノマーの硬化物の組成が連続的に変化する傾斜構造を有する、金属膜材料である。
第1のモノマー:シアノ基、アルキルオキシ基、アミノ基、アルキルアミノ基、ピリジル基、ピロリドニル基、イミダゾリル基、アルキルスルファニル基、及び環状エーテル基、から選択する少なくとも1つの基を有するモノマー。
第2のモノマー:二以上の重合性基を有する、第1のモノマーとは異なるモノマー。
【0161】
上記金属膜材料は、上述の金属膜材料の製造方法により製造されることが好ましい。
また、上記金属膜材料において、使用するモノマー、その他の材料及びそれらの使用量、並びに、傾斜構造の好ましい態様等は、すべて上述の金属膜材料の製造方法におけるものと同様であり、好ましい範囲もまた同様である。
【0162】
この金属膜材料は、例えば、電気配線用材料、電磁波防止膜、コーティング膜、2層CCL(Copper Clad Laminate)材料、装飾材料等の種々の用途に適用することができる。
ここで、前記インク付与工程(A)において、インク組成物を所望のパターン状に吐出して選択的に付与すれば、前記めっき処理工程(D)を経ることで、直ちに、パターン状の金属膜を有する金属膜材料(金属パターン材料)を得ることができるが、まず、インク組成物を基材の全面に付与して、基材の表面全面に金属膜を有する金属膜材料を形成し、別途、エッチング工程を設けて金属膜を所望のパターン状に形成してもよい。
【0163】
本発明は、上記金属膜材料の金属膜がパターン状にエッチングされている金属膜材料にも関する。
また、本発明は、上述の金属膜材料の製造方法により得られる上記金属膜材料の金属膜がパターン状にエッチングされている金属膜材料にも関する。
このエッチング工程について以下に詳述する。
【0164】
(エッチング工程)
本工程は、前記めっき処理工程(D)で形成された金属膜(めっき膜)をパターン状にエッチングする工程である。即ち、本工程では、基材表面に形成された金属膜の不要部分をエッチングで取り除くことで、所望の金属パターンを形成することができる。
この金属パターンの形成には、如何なる手法も使用することができ、具体的には一般的に知られているサブトラクティブ法、セミアディティブ法が用いられる。
【0165】
サブトラクティブ法とは、形成された金属膜上にドライフィルムレジスト層を設けパターン露光、現像により金属パターン部と同じパターンを形成し、ドライフィルムレジストパターンをマスクとしてエッチング液で金属膜を除去し、金属パターンを形成する方法である。ドライフィルムレジストとしては如何なる材料も使用でき、ネガ型、ポジ型、液状、フィルム状のものが使用できる。また、エッチング方法としては、プリント配線基板の製造時に使用されている方法が何れも使用可能であり、湿式エッチング、ドライエッチング等が使用可能であり、任意に選択すればよい。作業の操作上、湿式エッチングが装置などの簡便性の点で好ましい。エッチング液として、例えば、塩化第二銅、塩化第二鉄等の水溶液を使用することができる。
【0166】
また、セミアディティブ法とは、形成された金属膜上にドライフィルムレジスト層を設け、パターン露光、現像により非金属パターン部と同じパターンを形成し、ドライフィルムレジソトパターンをマスクとして電気めっきを行い、ドライフィルムレジソトパターンを除去した後にクイックエッチングを実施し、金属膜をパターン状に除去することで、金属パターンを形成する方法である。ドライフィルムレジスト、エッチング液等はサブトラクティブ法と同様な材料が使用できる。また、電気めっき手法としては上記記載の手法が使用できる。
【0167】
以上のエッチング工程を経ることにより、所望の金属パターンを有する金属膜材料を形成することができる。
【0168】
なお、本発明による金属膜材料を多層配線基板として構成する場合、金属膜材料の表面に、さらに絶縁樹脂層(層間絶縁膜)を積層して、その表面にさらなる配線(金属パターン)を形成してもよく、又は、金属膜材料表面にソルダーレジストを形成してもよい。
【0169】
本発明に用いうる層間絶縁膜としては、エポキシ樹脂、アラミド樹脂、結晶性ポリオレフィン樹脂、非晶性ポリオレフィン樹脂、フッ素含有樹脂、ポリイミド樹脂、ポリエーテルスルフォン樹脂、ポリフェニレンサルファイド樹脂、ポリエーテルエーテルケトン樹脂、液晶樹脂など挙げられる。
これらの中でも、上述のポリマー層との密着性、寸法安定性、耐熱性、電気絶縁性等の観点から、エポキシ樹脂、ポリイミド樹脂、又は液晶樹脂を含有するものであることが好ましい。
【0170】
また、金属膜材料表面における配線保護のために用いられるソルダーレジストとしては、公知の材料を使用でき、例えば、特開平10−204150号公報や、特開2003−222993公報等に詳細に記載される。ソルダーレジストは市販品を用いてもよく、具体的には、例えば、太陽インキ製造(株)製PFR800、PSR4000(商品名)、日立化成工業(株)製SR7200G、などが挙げられる。
【実施例】
【0171】
以下、実施例により本発明を更に具体的に説明するが、本発明の範囲はこれによっていささかも限定して解釈されるものではない。
【0172】
<合成例1>
〜モノマーM−15(3−シアノプロピルアクリレート)〜
200mlの三口フラスコに、ジメチルスルホキシドを33g、水を33g、炭酸水素カリウム14.8g、4−ブロモブチロニトリル10g、4−ヒドロキシTEMPO(4−ヒドロキシ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン1−オキシル フリーラジカル)10mgを加えた。その後、アクリル酸を9.8g滴下した。その後、80℃まで加熱し4時間撹拌した、その後、室温まで、反応溶液を冷却した。上記の反応溶液を水洗後、カラムクロマトグラフィーにて精製し、3−シアノプロピルアクリレートを9g得た。
【0173】
インク調製に用いた、その他の各材料の詳細を以下に示す。
【0174】
(第1のモノマー(モノマー材料a1))
・モノマーM−3:2−(2−エトキシエトキシ)エチルアクリレート (Sigma−Aldrich社製)
・モノマーM−6:シアノエチルアクリレート (東京化成工業(株)社製)
・モノマーM−9:1−ビニル−2−ピロリドン (Sigma−Aldrich社製)
・モノマーM−10:1−ビニルイミダゾール (Sigma−Aldrich社製)
【0175】
(第2のモノマー(モノマー材料b1))
・ジプロピレングリコールジアクリレート(2官能)(SR508、SARTOMER社製)
・ジエチレングリコールジアクリレート(2官能)(SR230、SARTOMER社製)
・ペンタエリスリトールテトラアクリレート(4官能)(V#400、大阪有機化学工業(株)社製)
【0176】
(その他の単官能モノマー)
・2−フェノキシエチルアクリレート(SR339、SARTOMER社製)
・N−ビニルカプロラクタム(SIGMA−ALDRICH製)
【0177】
<実施例1>
(めっき発現性インクの作成)
〜第1のインクA1〜
・M−15(合成例1にて合成) 50g
・2−フェノキシエチルアクリレート(SR339、SARTOMER社製) 40g
・IRGACURE 184(BASF社製) 4g
・Lucirin TPO(BASF社製) 6g
【0178】
上記素材を500mLの容器へ投入し、シルバーソン高速攪拌機にて液温40℃以下を保ち、20分攪拌した。その後、ポアサイズ2μmのフィルターにて濾過し、第1のインクA1を作成した。
【0179】
(基材密着性インクの作成)
〜第2のインクB1〜
・ジプロピレングリコールジアクリレート(2官能)(SR508、SARTOMER社製)
70g
・N−ビニルカプロラクタム(ALDRICH社製) 20g
・IRGACURE 184(BASF社製) 4g
・Lucirin TPO(BASF社製) 6g
【0180】
上記素材を500mLの容器へ投入し、シルバーソン高速攪拌機にて液温40℃以下を保ち、20分攪拌した。その後、ポアサイズ2μmのフィルターにて濾過し、第2のインクB1を作成した。
【0181】
〔金属膜材料の製造〕
(硬化膜の作製)
−ライン状描画−
上記で調製したインク組成物を用いて、以下の方法に従って硬化膜を作製した。
【0182】
ガラスクロスにエポキシ樹脂を含浸させた基材(厚さ:3mm、パナソニック電工製(以下、「ガラスエポキシ基材」ともいう。))の上に、下記インクジェット描画法Aにより、線幅100μm、長さ5cmの直線(ライン)パターンを描画し、露光工程を行い、ライン状パターンからなる硬化膜(膜厚10μm)を形成した。
【0183】
〜インクジェット描画法A〜
図3に示すようなインクタンク1、インクタンク2に第1のインクA1、第2のインクB1をそれぞれ充填した。インクジェットヘッド1、インクジェットヘッド2に供給されるインクは、それぞれ第1のインクA1、第2のインクB1である。
はじめに、インクジェットヘッド2からの吐出されるインク滴の液適量を10pL、液滴径が30μmとなるように制御し、窒素ガス雰囲気中でインクジェットヘッド2から第2のインクB1を吐出させた。ここで、インクジェットヘッド1からは第1のインクA1を吐出させないで(即ち、インクジェットヘッド2から吐出するインクの吐出量とインクジェットヘッド1から吐出するインクの吐出量の比(質量%)が100:0)としてインク層1を形成し、活性エネルギー線により半硬化させた。具体的には、全硬化に与えるエネルギーよりも少ないエネルギー(メタルハライドランプ使用で、積算露光量1000mJ/cm)で硬化を行った。
続いて、インクジェットヘッド2から吐出するインクの吐出量と、インクジェットヘッド1から吐出するインクの吐出量の比(質量%)を75:25(インク層2)、50:50(インク層3)、25:75(インク層4)、0:100(インク層5)と変化させて積層と半硬化を繰り返し、最終的に全硬化(メタルハライドランプ使用で、積算露光量5000mJ/cm)させ、組成傾斜膜である硬化膜を作製した。
ここで、インク層2形成時のインクジェットヘッド1から吐出させる第1のインクA1のインク滴の液適量は5pL、液滴径を20μmとし、インクジェットヘッド2から吐出させる第2のインクB1のインク滴の液適量は10pL、液滴径を30μmとした。インク層3形成時には、第1のインクA1のインク滴の液適量は10pL、液滴径を30μmとし、第2のインクB1のインク滴の液適量は10pL、液滴径を30μmとした。インク層4形成時には、第1のインクA1のインク滴の液適量は10pL、液滴径を30μmとし、第2のインクB1のインク滴の液適量は5pL、液滴径を20μmとした。インク層5形成時には、第1のインクA1のインク滴の液適量は10pL、液滴径を30μmとした。また、全硬化後のインク層1〜5の膜厚はそれぞれ2μmとなるようにした。
【0184】
(めっき触媒の付与)
水:アセトン=80:20(質量比)の混合溶液に対し、溶液全量に対して0.5質量%の硝酸パラジウムを溶解させ、未溶解物をろ紙にて除去した溶液に、上記ライン状の硬化膜を有するガラスエポキシ基材(被めっき体:以下、「被膜基材」ともいう。)を、15分間浸漬した。
その後、そのライン状の硬化膜を有する被めっき体を、水:アセトン=80:20(質量比)の混合溶液中に15分間浸漬して洗浄した。
【0185】
(無電解めっき)
上記めっき触媒を付与した被膜基材に対して、更に上村工業(株)製のめっき浴であるスルカップPGT(A液、B液、C液)を用い、下記組成の無電解めっき浴を使用した。
なお、無電解めっき浴の温度を30℃、pHを水酸化ナトリウム及び硫酸で13.0に調整し、これを用いて無電解めっきを行った。めっき浴への浸漬時間は60分であり、これにより、膜厚が3μmのライン状の金属膜を有する金属膜材料が得られた。
【0186】
〜無電解めっき浴の組成〜
・蒸留水:79.2質量%
・PGT−A液:9.0質量%
・PGT−B液:6.0質量%
・PGT−C液:3.5質量%
・ホルムアルデヒド(和光純薬工業(株)社製):2.3質量%
【0187】
得られた金属膜を目視で観察したところ、均一な膜が形成され、良好なライン状の金属膜が得られた。
【0188】
〔金属膜材料の評価〕
(密着性)
作成した金属膜に対し、クロスハッチテスト(EN ISO2409)を実施した。評価基準については、ISO2409に準拠し、結果は0〜5点の点数評価で示した。
上記評価基準においては、0点が最も密着性が高く、5点が最も密着性が低い評価である。
【0189】
(導電性)
作成した金属膜を、Loresta MP MCP−T350(三菱化学(株)製)にて体積抵抗率を測定し、結果は下記基準にて評価した。
4:体積抵抗率:1×10−5Ω・cm以下
3:体積抵抗率:1×10−5Ω・cmより大きく1×10−4Ω・cm以下
2:体積抵抗率:1×10−4Ω・cmより大きく1×10−2Ω・cm以下
1:体積抵抗率:1×10−2Ω・cmより大きい
【0190】
(パターン形状)
インクジェットにより、ガラスエポキシ基材上に線幅100μm、長さ5cmの組成傾斜膜からなるパターンを描画し、描画した直線の直線性を目視評価して、下記評価基準の限度見本により評価を実施した。
4:線の両幅が直線であり、100μm±5μm以内の線幅を再現
3:線の両幅にジグザグが残る、線幅は100μm±10μm以内の線幅を再現
2:線の両幅にジグザグが顕著、線幅は100μm±20μm以内の線幅を再現
1:線の両幅にジグザグが顕著、かつ線幅は不均一で、部分的にバルジが発生
【0191】
実施例1で作成した金属膜材料の評価結果を、下記表1に示す。
【0192】
<実施例2>
〔金属膜材料の製造〕
(硬化膜の作製)
−ベタ状描画−
実施例1と同様の条件でガラスエポキシ基材上に“インクジェット描画法A”により、50mm×50mmの四角状にベタ状パターンを描画し、めっき触媒付与、及び無電解めっき工程についても、前記ライン状描画と同様の条件で行った。更に、無電解めっき処理後に下記の電解めっき処理を行ってベタ状の金属膜(膜厚8〜10μm)を有する金属膜材料得た。
【0193】
(電解めっき)
無電解めっき処理により形成された、無電解銅めっき膜を給電層として、下記組成の電解銅めっき浴を用い、3A/dmの条件で、電解めっきを15分間行った。
【0194】
〜電解めっき浴の組成〜
・硫酸銅(和光純薬工業(株)社製) 38g
・硫酸(和光純薬工業(株)社製) 95g
・塩酸(和光純薬工業(株)社製) 1mL
・カッパーグリームPCM(メルテックス社製) 3mL
・水 500g
【0195】
前記電解めっき工程を経て形成されたベタ状の金属膜に対して、下記の工程によりパターン状の金属膜を形成(いわゆる、サブトラクティブ法)し、エッチング耐性を評価した。
【0196】
〔金属膜材料の評価〕
(パターン形成)
前記電解めっき工程を経て形成された金属膜(めっき膜)表面に、金属パターン(配線パターン)として残すべき領域にドライフィルムレジスト(商品名:フォテック RY3315(日立化成工業(株)社製)をラミネートし、ライン・アンド・スペース=100μm/100μmの櫛形配線の描かれたフォトマスクを重ね、紫外線を120mJ/cm照射露光し、1%炭酸ナトリウム水溶液で現像して、エッチングレジストを形成した。更に、レジストのない領域のめっき膜を、FeCl/HClからなるエッチング液により除去した。その後、エッチングレジストを3%NaOH液からなるアルカリ剥離液にて除去し、ライン・アンド・スペース=100μm/100μmの櫛形配線(金属パターン材料)を形成した。
【0197】
(エッチング耐性の評価)
上記で得られた櫛形配線の欠けと導通性から、エッチング耐性を評価した。
金属膜材料のエッチング耐性が低く、櫛形配線(形成パターン)の精度が低い場合には、櫛形配線(形成パターン)上に欠陥や断線が生じて、電気の導通性も低下する。したがって、エッチング耐性の評価は、目視による形成パターンの観察とあわせて、導通性を測定することにより行うことができる。
【0198】
櫛形配線(形成パターン)の形状は、走査型電子顕微鏡を用いて2万倍の倍率で観察して評価した。このとき、得られる形成パターンの理想の線幅である100μmに対して、線幅50μm以下に目減りしたラインが存在すれば「欠陥あり」とし、存在しなければ「欠陥なし」と評価した。
【0199】
また、櫛形配線(形成パターン)の導通性は、導通テスター(エレスターET2010:(株)アイデン製)を用いて、得られた形成パターンの導通性(通電性)を確認することで評価した。
【0200】
上記で得られた形成パターン及び導通性並びに密着性の測定結果をまとめて、下記基準で評価した。評価結果を表3に示す。
【0201】
(エッチング耐性の評価)
A:櫛形配線に欠陥がなく、導通性が良好なもの
B:櫛形配線にわずかな欠陥があるが、導通性は良好なもの
C:櫛形配線に欠陥があり、導通性が不良なもの
【0202】
(密着性)
作成した金属膜材料パターンに対し、クロスハッチテスト(EN ISO2409)を実施した。評価基準については、ISO2409に準拠し、結果は0〜5点の点数評価で示した。
上記評価基準においては、0点が最も密着性が高く、5点が最も密着性が低い評価である。
【0203】
<実施例3>
実施例1で用いた第2のインクB1と第1のインクA1とを混合したインクG1(混合比(質量%)A1:B1=25:75)、G2(混合比(質量%)A1:B1=50:50)、G3(混合比(質量%)A1:B1=75:25)を作成し、A1及びB1を含めた5種のインクをそれぞれ計5個のプリントヘッドを用い、ガラスエポキシ基材上にB1(最下層)、G1、G2、G3、A1(最上層)の順にて、下記のインクジェット描画法Bにより描画すること以外は、実施例1とすべて同様の方法にて金属膜を作成し、実施例1同様に該金属膜を有する金属膜材料の評価を行った。
【0204】
〜インクジェット描画法B〜
図7に示すようなインクタンク60−1〜60−5にインクB1、G1、G2、G3、A1をそれぞれ充填した。インクジェットヘッド50−1〜50−5に供給されるインクは、それぞれインクB1、G1、G2、G3、A1である。
はじめにインクジェットヘッド50−1よりインクB1を、インクジェットヘッドから吐出されるインク滴の液滴量を10pL、液滴径が30μmとなるように制御しながら、窒素ガス雰囲気中で吐出させた。
このように形成したインクB1層を、半硬化させた。具体的には、全硬化に与えるエネルギーよりも少ないエネルギー(メタルハライドランプ使用で、積算露光量1000mJ/cm)で硬化を行った。
次に、インクジェットヘッド50−2から同様にインクG1を吐出し、インクG1層を積層、半硬化させた。これを、インクG2、G3、A1についても繰り返し、積層と半硬化を繰り返し、最終的に全硬化(メタルハライドランプ使用で、積算露光量5000mJ/cm)させることで組成傾斜膜を作成した。
なお、全硬化後のインク層B1、G1、G2、G3、A1の膜厚はそれぞれ2μmとなるようにした。
【0205】
<実施例4〜15>
実施例1で使用したモノマー類を表1及び2に示すものに変更した以外はすべて同様な方法にて、金属膜材料を作成し、実施例1同様に金属膜材料の評価を行った。
【0206】
<実施例16〜27>
実施例2で使用したモノマー類を表3及び4に示すものに変更した以外はすべて同様な方法にて、金属膜材料を作成し、実施例2同様に金属膜材料の評価を行った。
【0207】
<比較例1>
実施例1で使用したメッキ発現層形成インクA1(第1のインク)のみを用い、ガラスエポキシ基材の上にインクジェット描画により、線幅100μm、長さ5cmの直線(ライン)パターンを描画し、露光工程を行い、ライン状パターンからなる硬化膜(膜厚10μm)を形成した。その後は、実施例1同様にメッキにより金属膜材料を作成し、実施例1同様に金属膜材料の評価を行った。評価結果を表2に示す。
【0208】
<比較例2>
実施例1で使用した基材密着性インクB1(第2のインク)を用い、ガラスエポキシ基材の上にインクジェット描画により、線幅100μm、長さ5cmの直線(ライン)パターンを描画し、露光工程を行い、更にその上に、メッキ発現層形成インクA1(第1のインク)を用い、積層ライン状パターンからなる硬化膜(膜厚10μm)を形成した。その後は、実施例1同様にメッキにより金属膜材料を作成し、実施例1同様に金属膜材料の評価を行った。評価結果を表2に示す。
【0209】
<比較例3>
実施例2で使用したメッキ発現層形成インクA1(第1のインク)のみを用い、ガラスエポキシ基材の上にインクジェット描画により、50mm×50mmの四角状にベタ状パターンを描画し、露光工程を行い、ベタ状パターンからなる硬化膜(膜厚10μm)を形成した。その後は、実施例2同様にメッキにより金属膜材料を作成し、実施例2同様に金属膜材料の評価を行った。評価結果を表4に示す。
【0210】
<比較例4>
実施例2で使用した基材密着性インクB1(第2のインク)を用い、ガラスエポキシ基材の上にインクジェット描画により、50mm×50mmの四角状にベタ状パターンを描画し、露光工程を行い、更にその上に、メッキ発現層形成インクA1(第1のインク)を用い、積層ベタ状パターンからなる硬化膜(膜厚10μm)を形成した。その後は、実施例2同様にメッキにより金属膜材料を作成し、実施例2同様に金属膜材料の評価を行った。評価結果を表4に示す。
【0211】
【表1】

【0212】
【表2】

【0213】
【表3】

【0214】
【表4】

【0215】
なお、実施例1〜27の金属膜材料の硬化膜の組成を赤外吸収スペクトルのATR法により、前記第2のモノマーの硬化物と第1のモノマーの硬化物の総質量に対する第2のモノマーの硬化物の質量が占める割合を、基材側に最も近い側から膜の厚み方向に0.1μmの厚みごとに測定したときに、隣り合う測定位置での上記割合の差がいずれも1%以上、50%以下であった。
【0216】
実施例1及び実施例3〜15の金属膜材料は、本発明の傾斜構造により、第1のモノマーの硬化物と第2のモノマーの硬化物との界面が消失することから、強固な基材密着性が得られ、更には十分な導電性を有する金属膜パターンが形成される。加えて、露光しながら膜形成を行うことから、非吸収基材上へのインクジェット方式の描画で問題となる「ジャギー・バルジ」の発生が抑えられ、ラインパターンの側面における直線性が高く、従来に無いインクジェット方式でのライン描画を可能とすることがわかる。
【0217】
一方、比較例1に示すようにメッキ発現層形成インクのみで描画した場合、密着性が十分ではなく、メッキ処理時の金属膜の部分剥離により導電性が不足し、更にはパターン形成時に非吸収基材のため硬化前に「ジャギー・バルジ」が発生し、目的の金属膜パターンが得られない。更に、比較例2では密着性インクで形成した膜上にメッキ発現層形成インクで形成したものは、これら2種インクで形成される膜間で界面が形成され、密着性が不足し、かつメッキ処理時の金属膜の部分剥離により導電性が劣化し、パターン形成時に「ジャギー」が発生し、目的の金属膜パターンが得られない。
【0218】
実施例2及び実施例16〜27では、本発明の傾斜構造により界面が消失することから、強固な基材密着性が得られ、更には十分な導電性金属膜パターンがエッチングにより形成される。
【0219】
一方、比較例3に示すようにメッキ発現層形成インクのみで描画した場合、密着性が十分ではなく、メッキ処理時の金属膜の部分剥離により導電性が不足し、更にはエッチング時に基材−メッキ発現層界面での剥離が発生し、目的の金属膜パターンが得られない。更に、比較例4では密着性インクで形成した膜上にメッキ発現層形成インクで形成したものは、これら2種インクで形成される膜間で界面が形成され、密着性が不足し、かつメッキ処理時の金属膜の部分剥離により導電性が劣化し、同様にエッチング時に基材−メッキ発現層界面での剥離が発生し、目的の金属膜パターンが得られない。
【符号の説明】
【0220】
1 金属膜材料(金属膜は不図示)
2 基材
3 硬化膜(組成傾斜膜)
10 描画部
100 組成傾斜膜作製装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記インク組成物1)及び2)をインクジェット法により基材上に吐出するインク付与工程と、付与した前記インク組成物に露光及び加熱の少なくともいずれかを行い、硬化膜を形成する硬化膜形成工程と、前記硬化膜にめっき触媒、又はその前駆体を付与する触媒付与工程と、付与した前記めっき触媒、又はその前駆体に対してめっきを行うめっき処理工程とを含み、
前記硬化膜が膜の厚み方向において前記基材に最も近い側から前記基材に最も遠い側に向かって下記第1のモノマーの硬化物の比率が大きくなり、かつ第2のモノマーの硬化物の比率が小さくなるように、第1のモノマーの硬化物及び第2のモノマーの硬化物の組成が連続的に変化する傾斜構造を有する、金属膜材料の製造方法。
インク組成物1):シアノ基、アルキルオキシ基、アミノ基、アルキルアミノ基、ピリジル基、ピロリドニル基、イミダゾリル基、アルキルスルファニル基、及び環状エーテル基、から選択する少なくとも1つの基を有する第1のモノマーを少なくとも1種含有するインク組成物。
インク組成物2):二以上の重合性基を有する、第1のモノマーとは異なる第2のモノマーを少なくとも1種含有するインク組成物。
【請求項2】
上記硬化膜における、前記第2のモノマーの硬化物と第1のモノマーの硬化物の総質量に対する第2のモノマーの硬化物の質量が占める割合を、基材側に最も近い側から膜の厚み方向に0.1μmの厚みごとに測定したときに、隣り合う測定位置での上記割合の差がいずれも1%以上、50%以下である、請求項1に記載の金属膜材料の製造方法。
【請求項3】
前記第1のモノマー及び第2のモノマーが活性エネルギー線により重合することにより形成される、請求項1又は2に記載の金属膜材料の製造方法。
【請求項4】
前記インク組成物1)及び2)が重合開始剤を含み、前記インク組成物1)及び2)中におけるモノマーの含有量がそれぞれ85質量%以上である、請求項1〜3のいずれか一項に記載の金属膜材料の製造方法。
【請求項5】
前記第1のモノマーは重合性基を一つのみ有する単官能モノマーである、請求項1〜4のいずれか一項に記載の金属膜材料の製造方法。
【請求項6】
前記第1のモノマーは、下記一般式(M1−1)で表される、請求項1〜4のいずれか一項に記載の金属膜材料の製造方法。
【化1】


(一般式(M1−1)において、Rは、水素原子、又は、置換若しくは無置換のアルキル基を表す。X及びYは、それぞれ独立に、単結合、又は置換若しく無置換の二価の連結基を表す。また、Wは、シアノ基、アルキルオキシ基、アミノ基、アルキルアミノ基、ピリジル基、ピロリドニル基、イミダゾリル基、アルキルスルファニル基、又は環状エーテル基を表す。nは1〜3の整数を表し、nが2以上のときYは互いに異なっていてもよい。)
【請求項7】
前記インクジェット法によるインク付与工程が、少なくとも第1のインクジェットヘッドと第2のインクジェットヘッドを用いるものであり、前記インク組成物1)を含む第1のインクを第1のインクジェットヘッドに供給する工程と、前記インク組成物2)を含む第2のインクを第2のインクジェットヘッドに供給する工程と、前記第1のインクジェットヘッドから吐出される第1のインクの量と前記第2のインクジェットヘッドから吐出される第2のインクの量との比率を決定する制御工程と、前記決定された比率に従って、前記第1のインクジェットヘッド及び前記第2のインクジェットヘッドの少なくとも一方から前記第1のインク及び前記第2のインクの少なくとも一つを吐出させて一つの層を形成する形成工程と、前記形成工程を繰り返して前記基材上に前記層を複数層積層して前記傾斜構造を得る積層工程と、を備え、前記制御工程において、前記複数層の厚み方向において前記基材に近い層から遠い層に向かって、前記第1のモノマーの硬化物の比率が大きくなり、かつ前記第2のモノマーの硬化物の比率が小さくなるように前記比率を決定する、請求項1〜6のいずれか一項に記載の金属膜材料の製造方法。
【請求項8】
前記形成工程において、前記第1及び第2のインクジェットヘッドから吐出する液滴のインク量を0.3〜100pLとする、請求項7に記載の金属膜材料の製造方法。
【請求項9】
前記形成工程において、前記第1及び第2のインクジェットヘッドから吐出する液滴の液滴径を1〜300μmとする、請求項7又は8に記載の金属膜材料の製造方法。
【請求項10】
前記インクジェット法によるインク付与工程が、複数のインクジェットヘッドを用いるものであり、前記インク組成物1)を含む第1のインクと前記インク組成物2)を含む第2のインクとが混合された混合インクであって、それぞれ異なる比率で混合された複数の混合インクを前記複数のインクジェットヘッドそれぞれのインクジェットヘッドに供給する工程と、前記複数のインクジェットヘッドから1つのインクジェットヘッドを順に選択する選択工程であって、前記第2のインクの比率の高い混合インクが供給されるインクジェットヘッドから順に選択する選択工程と、前記選択されたインクジェットヘッドから混合インクを吐出させて1つの層を形成する形成工程と、前記形成工程を繰り返して前記基材上に前記層を複数層積層して得る積層工程と、を備える、請求項1〜6のいずれか一項に記載の金属膜材料の製造方法。
【請求項11】
前記形成工程において、前記第1及び第2のインクジェットヘッドから吐出する液滴のインク量を0.5〜150pLとする、請求項10に記載の金属膜材料の製造方法。
【請求項12】
前記形成工程において、前記第1及び第2のインクジェットヘッドから吐出する液滴の液滴径を2〜450μmとする、請求項10又は11に記載の金属膜材料の製造方法。
【請求項13】
請求項1〜12のいずれか1項に記載の方法により得られる金属膜材料。
【請求項14】
前記金属膜材料の金属膜がパターン状にエッチングされている、請求項13に記載の金属膜材料。
【請求項15】
基材と、該基材上に設けられ、下記第1のモノマーの硬化物及び第2のモノマーの硬化物を含む硬化膜と、めっきにより形成される金属膜とを有する金属膜材料であって、前記硬化膜が膜の厚み方向において前記基材に最も近い側から前記基材に最も遠い側に向かって第1のモノマーの硬化物の比率が大きくなり、かつ第2のモノマーの硬化物の比率が小さくなるように第1のモノマーの硬化物及び第2のモノマーの硬化物の組成が連続的に変化する傾斜構造を有する、金属膜材料。
第1のモノマー:シアノ基、アルキルオキシ基、アミノ基、アルキルアミノ基、ピリジル基、ピロリドニル基、イミダゾリル基、アルキルスルファニル基、及び環状エーテル基、から選択する少なくとも1つの基を有するモノマー。
第2のモノマー:二以上の重合性基を有する、第1のモノマーとは異なるモノマー。
【請求項16】
前記金属膜材料の金属膜がパターン状にエッチングされている、請求項15に記載の金属膜材料。

【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図1】
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【公開番号】特開2013−108127(P2013−108127A)
【公開日】平成25年6月6日(2013.6.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−253213(P2011−253213)
【出願日】平成23年11月18日(2011.11.18)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】