説明

金属膜

【課題】配線金属膜の酸化を防止し、さらに、酸化防止を行うことで新たに発生した電解腐食も防止する。
【解決手段】基材としてのフィルム2上に、ITO膜3が形成され、その上に金属膜4が形成される。金属膜は、NiCu合金膜からなる第2保護膜41、Alよりも抵抗値が低く配線パターンとなる金属配線膜(Al−Nd合金)42、および、NiCu合金膜からなる第1保護膜43の順に積層されて構成される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フィルムや基板などの基材に形成される金属膜に関する。
【背景技術】
【0002】
樹脂やガラス、フィルムなどの基材の表面に金属膜を形成した電子部品素子があり、この金属膜は配線パターンの電極材料として用いられている。
【0003】
具体的に、下記の特許文献1に示す配線パターンの金属配線(Al配線膜)では、Alに、Zr,Hf,V,Nb,Ta,Cr,MoおよびWからなる群より選ばれた1種類又は2種類以上が含有されている(特許文献の第1図参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開昭62−235452号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記の特許文献1では、その第1図に示すように、Al配線膜がシリコン基板の表面に露出した状態とされるので、Al配線膜の酸化が懸念される。
【0006】
従来の技術に、このAl配線膜の酸化を防止するためにMo合金の保護膜をAl配線膜上に積層したものがあるが、この場合、Al配線膜とMo合金の保護膜とでは電位差(標準電位の差)があり、この電位差によってAl配線膜の電解腐食が発生する。
【0007】
そこで、上記課題を解決するために、本発明は、金属膜の酸化を防止するだけでなく、さらに、酸化防止を行うことで新たに発生する不具合(電解腐食)も防止する金属膜を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の目的を達成するため、本発明にかかる基材上に形成される金属膜は、少なくとも、Alよりも抵抗値が低く配線パターンとなる金属配線膜、および、NiCu合金膜からなる第1保護膜の順に積層されて構成されることを特徴とする。
【0009】
本発明によれば、少なくとも、前記金属配線膜、および、前記第1保護膜の順に積層されて構成されるので、金属膜の酸化を防止するだけでなく、さらに、酸化防止を行うことで新たに発生する不具合(電解腐食)も防止することが可能となる。具体的には、前記第1保護膜によって前記金属配線膜の酸化を防止し、かつ、前記金属配線膜の電解腐食を防止することが可能となる。
【0010】
なお、従来の形態では、金属配線膜としては、Al合金(例えばAlNd系合金)を用い、保護膜としてMo合金(例えばMoNb系合金)を用いるのが一般的である。しかしながら、この従来の形態によれば、Al合金上に形成した最上層となるMo合金に電解腐食が生じるが、本発明によれば前記第1保護膜を前記金属配線膜上に積層することによる電荷腐食は生じない。
【0011】
前記構成において、少なくとも、前記第1保護膜と同一構成からなる第2保護膜、前記金属配線膜、および、前記第1保護膜の順に積層されて構成されてもよい。なお、前記構成において、前記金属配線膜は、Al合金膜であってもよい。
【0012】
本構成に関して、本発明と異なり、基材にITO膜を形成し、ITO膜上に金属配線膜を直接形成した形態では、ITO膜と金属配線膜との問の標準電位の差(電位差)が大きい時に金属配線膜の電解腐食が起こる。また、金属配線膜を露出すると酸化する。これに対して、本構成によれば、前記金属配線膜の両面に、前記金属配線膜を保護するための前記第1保護膜および前記第2保護膜が形成される。このように、ITO膜と前記金属配線膜との間に前記第2保護膜が介在されるので、このような不具合を防止することが可能となる。
【0013】
前記構成において、前記金属配線膜は、Cu膜であってもよい。
【0014】
この場合、前記金属配線膜にAl合金膜を用いた場合に比較して、当該金属膜の厚みを抑えることが可能となる。具体的には、前記金属配線膜にAl合金膜を用いた場合に比較して約75%以下に当該金属膜の膜厚を抑えることが可能となり、当該金属膜の低背化を図ることが可能となる。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、金属膜の酸化を防止するだけでなく、さらに、酸化防止を行うことで新たに発生する不具合(電解腐食)も防止することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】図1は、本実施の形態にかかる電子部品素子の概略構成である。
【図2】図2は、他の実施の形態にかかる電子部品素子の概略構成である。
【図3】図3は、耐湿腐食性に関する試験を行った、従来の技術と、図2に示す実施の形態との試験結果を示すそれぞれの金属膜の斜視図である。
【図4】図4は、耐湿腐食性に関する試験を行った、従来の技術と、図2に示す実施の形態との試験結果を示すそれぞれの金属膜の斜視図である。
【図5】図5は、他の実施の形態にかかる電子部品素子の概略構成である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照して説明する。なお、以下に示す実施の形態では、基材としてフィルムに本発明を適用した場合を示す。
【0018】
本実施の形態にかかる電子部品素子1では、基材2にフィルムが用いられ、図1に示すように、基材2上に導電膜3が形成され、導電膜3上に金属膜4が形成されている。
【0019】
導電膜3には、透明導電膜であるITO膜が用いられる。
【0020】
金属膜4は、基材2側から、NiCu合金膜からなる第2保護膜41、Alよりも抵抗値が低く、当該電子部品素子1の配線パターンとなる金属配線膜42、および、第2保護膜41と同一構成からなる第1保護膜43の順に積層されて構成される。このように、金属膜4では、金属配線膜42が、第2保護膜41と第1保護膜43とにより挟まれた状態で積層されている。そのため、第2保護膜41は導電膜3に対する金属配線膜42の保護膜として機能し、第1保護膜43は、金属配線膜42が露出して酸化したり、傷などがつくのを防止するための保護膜として機能する。
【0021】
これら導電膜3と金属膜4とは、スパッタリング法(具体的にはマグネトロンスパッタリング法)により基材2に積層形成される。その後、積層形成された金属膜4は、エッチング法(具体的にウエットエッチング法)により同時にエッチング成形され、図1に示す配線パターン形状に成形される。
【0022】
金属膜4のうち、金属配線膜42は、Al合金(具体的にAl−Nd系合金)からなり、Alに対するNdの含有率は1〜3%とされる。また、金属配線膜42の標準電位に対する電極電位は−0.16Vである。この金属膜4は、図1に示すように、第2保護膜41および第1保護膜43に比べてエッチングレートが高く、第2保護膜41および第1保護膜43と同時にウエットエッチングを行うと、エッチング量が多くなり、図1に示すように、金属配線膜42の側面が、その内方に凹むように円弧状に成形される。
【0023】
また、第2保護膜41および第1保護膜43は、NiCu合金からなり、Niに対するCuの含有率は15〜55%とされる。また、第2保護膜41および第1保護膜43の標準電位に対する電極電位に関して、Niに対するCuの含有率が15%の形態では0.94Vであり、Niに対するCuの含有率が30%の形態では0.91Vである。これら第2保護膜41および第1保護膜43は、図1に示すように、金属配線膜42に比べてエッチングレートが低く、金属配線膜42と同時にウエットエッチングを行うと、エッチング量が少なくなり、図1に示すように、第2保護膜41および第1保護膜43の側面がテーパー状に成形され、第2保護膜41および第1保護膜43は側面視台形に成形される。
【0024】
上記構成からなる電子部品素子1では、基材2上に導電膜3が形成され、この導電膜3上に金属膜4が形成されて回路基板が構成される。なお、本実施の形態では、金属配線膜42は、0.3Ω/sq(cm2)以下の低抵抗値の要求に応じた設計となっている。
【0025】
上記のように、本実施の形態にかかる金属膜4によれば、第2保護膜41、金属配線膜42、および第1保護膜43の順に基材2上に積層されるので、金属膜4の酸化を防止するだけでなく、さらに、酸化防止を行うことで新たに発生する不具合(電解腐食)も防止することができる。具体的には、第2保護膜41および第1保護膜43によって金属配線膜42の電解腐食を防止し、第1保護膜43によって金属配線膜42の酸化を防止することができる。
【0026】
ところで、本実施の形態と異なり、基材に導電膜を形成し、導電膜上に金属配線膜を直接形成した形態では、導電膜と金属配線膜との問の標準電位の差(電位差)が大きい時に金属配線膜の電解腐食が起こる。また、金属配線膜を露出すると酸化する。これに対し、本実施の形態では、金属配線膜42の両面に、金属配線膜42を保護するための第2保護膜41および前記第1保護膜43が形成されている。このように、導電膜3と金属配線膜42との間に第2保護膜41が介在されるので、このような不具合を解決する。
【0027】
また、従来の形態では、金属配線膜としては、Al合金(例えばAlNd系合金)を用い、保護膜としてMo合金(例えばMoNb系合金)を用いるのが一般的である。しかしながら、この従来の形態によれば、Al合金上に形成した最上層となるMo合金に電解腐食が生じるが、本実施の形態によれば第1保護膜43を金属配線膜43上に積層することによる電荷腐食は生じない。
【0028】
なお、本実施の形態では、基材2としてフィルムを用いているが、これに限定されるものではなく、電子部品素子の基材として用いることが可能であれば他の形態であってもよく、例えば、ガラスなどの基板であってもよい。
【0029】
また、本実施の形態では、基材2上にITO膜からなる導電膜3を形成しているが、ITO膜に限定されるものではなく、他の導電材料から導電膜であってもよい。
【0030】
また、本実施の形態では、金属膜4は第2保護膜41と金属配線膜42と第1保護膜43とから構成されているが、これに限定されるものではなく、少なくとも第2保護膜41と金属配線膜42と第1保護膜43とが順に積層されていれば他の材料からなる膜を介在してもよい。
【0031】
また、本実施の形態では、金属配線膜42にAl合金膜を用いているが、これに限定されるものではなく、図2に示すように、金属配線膜42にCu膜を用いてもよい。なお、図2に示すCu膜からなる金属配線膜42の標準電位に対する電極電位は、0.38Vである。
【0032】
図2に示すように金属配線膜42にCu膜を用いた場合、金属配線膜42は、第2保護膜41および第1保護膜43と同じエッチングレートとなる。そのため、第2保護膜41および第1保護膜43と同時にウエットエッチングを行うと、同一のエッチング成形が行われ、図2に示すように、金属配線膜42の側面が、第2保護膜41および第1保護膜43に連続するテーパー状に成形され、金属配線膜42は側面視台形に成形される。
【0033】
また、図2から明らかなように、金属配線膜42にCu膜を用いた場合、金属配線膜42にAl合金膜を用いた場合に比較して、金属膜4の厚みを抑えることができる。このように、Cu膜の場合、Al合金膜に比べて厚みを薄くした状態で0.3Ω/sq以下の低抵抗値の要求に応じることができ、金属配線膜42にCu膜を用いた金属膜4では、実際の試験において0.20Ω/sq、0.15Ω/sq、0.10Ω/sq、および0.05Ω/sqの値を出した。
【0034】
また、0.20Ω/sq、0.15Ω/sq、0.10Ω/sq、および0.05Ω/sqの値を出した実際の試験に用いた金属配線膜42は、上記の従来の形態に比べて、それぞれ73%、69%、65%、および62%の厚さで構成することができる。このように、図2に示す金属配線膜42の膜厚は、従来の形態の金属配線膜の膜厚に対して約75%以下の厚みとすることができ、金属配線膜42の薄膜化を図ることができ、その結果、金属膜4の低背化(薄膜化)を図ることができる。
【0035】
そこで、次に、従来の形態の金属膜と、図2に示す実施の形態の金属膜4とに関して、実際に膜厚を測定した。
【0036】
金属膜の抵抗値が0.20Ω/sq以下を満たすことを条件とすると、従来の形態の金属膜の膜厚は310nmとなり、これに対して図2に示す実施の形態の金属膜4の膜厚は225nmとなった。この時、従来の形態の金属膜と図2に示す実施の形態の金属膜4との抵抗値は、いずれも0.20Ω/sqである。
【0037】
また、金属膜の抵抗値が0.15Ω/sq以下を満たすことを条件とすると、従来の形態の金属膜の膜厚は385nmとなり、これに対して図2に示す実施の形態の金属膜4の膜厚は270nmとなった。この時、従来の形態の金属膜と図2に示す実施の形態の金属膜4との抵抗値は、いずれも0.15Ω/sqである。
【0038】
上記のように、抵抗値の要求に応じた金属膜を形成した場合、従来の形態の金属膜に対して、図2に示す実施の形態の金属膜4は約80%以下の膜厚となり、金属膜4の低背化(薄膜化)を図ることができる。
【0039】
次に、従来の形態にかかる金属膜と、図2に示す実施の形態にかかる金属膜4とについて、耐湿腐食性に関する試験(耐湿条件;60℃、90%RH)を行った。
【0040】
この耐湿腐食性に関する試験によれば、図3に示すように、従来の形態の金属膜では試験を開始して96時間後に外観に変化が生じた。これに対して、図2に示す実施の形態の金属膜4では、試験を開始して168時間がたっても外観に変化がない。そして、さらに試験時間を延ばし、500時間後の外観変化を調べたところ、図4に示すように、従来の技術ではさらに外観に変化が生じたが、図2に示す実施の形態では、全く外観の変化が無かった。
【0041】
なお、図2に示す実施の形態の上記説明では、金属配線膜42にCu膜を適用した例について言及しているが、これに限定されるものではなく、Cu膜の他にCu合金(1〜3%などの数%の含有率のNi,Ti,Crなど)からなるCu合金膜を用いてもよい。
【0042】
また、図2に示す金属配線膜42にCu膜を用いた形態では、金属膜4を、第2保護膜41,金属配線膜42,および第1保護膜43を順に積層して構成しているが、これに限定されるものではなく、第2保護膜4を除いてもよい。具体的には、図5に示すように、金属膜4を、金属配線膜42と第1保護膜43とを順に積層して構成してもよく、この構成では、ITO膜とCu膜(もしくはCu合金膜)との電位差が少ない。このことは、ITO膜に対するCu膜(もしくはCu合金膜)の接合が良好であることに関係する。
【0043】
なお、本発明は、その精神や主旨または主要な特徴から逸脱することなく、他のいろいろな形で実施することができる。そのため、上述の実施例はあらゆる点で単なる例示にすぎず、限定的に解釈してはならない。本発明の範囲は特許請求の範囲によって示すものであって、明細書本文には、なんら拘束されない。さらに、特許請求の範囲の均等範囲に属する変形や変更は、全て本発明の範囲内のものである。
【産業上の利用可能性】
【0044】
本発明は、液晶パネルなどの電子部品素子に用いられる金属膜に好適である。
【符号の説明】
【0045】
1 電子部品素子
2 基材
3 導電膜
4 金属膜
41 第1保護膜
42 金属配線膜
43 第2保護膜

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材上に形成される金属膜において、
少なくとも、Alよりも抵抗値が低く配線パターンとなる金属配線膜、および、NiCu合金膜からなる第1保護膜の順に積層されて構成されることを特徴とする金属膜。
【請求項2】
請求項1に記載の金属膜において、
少なくとも、前記第1保護膜と同一構成からなる第2保護膜、前記金属配線膜、および、前記第1保護膜の順に積層されて構成されることを特徴とする金属膜。
【請求項3】
請求項1または2に記載の金属膜において、
前記金属配線膜は、Al合金膜であることを特徴とする金属膜。
【請求項4】
請求項1または2に記載の金属膜において、
前記金属配線膜は、Cu膜であることを特徴とする金属膜。

【図1】
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【図2】
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【図5】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−160381(P2012−160381A)
【公開日】平成24年8月23日(2012.8.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−20163(P2011−20163)
【出願日】平成23年2月1日(2011.2.1)
【出願人】(391006429)三容真空工業株式会社 (13)
【Fターム(参考)】