説明

金属蒸着積層体

【課題】
単純な構成であるにも係わらず、深絞りの箇所に対しても充分に追従可能とすることにより、クラック等の外観欠損を発生しないことを可能とした、金属メッキの代替、及び特定機能を付与することを可能とした金属蒸着積層体を提供する。
【解決手段】
特定機能を備えた樹脂層と、高分子樹脂よりなる基材と、金属又は合金よりなる金属蒸着層と、よりなり、かつ基材の表面に前記金属蒸着層が積層されてなる積層体であって、前記金属蒸着層はスズ、インジウム、アルミニウム、亜鉛、金、銀、銅、チタン、ニッケル、又はこれらの何れかを元にした合金、の何れか若しくは複数によりなり、前記金属蒸着層の厚みが5nm以上80nm以下であり、前記樹脂はアクリル系樹脂、ウレタン系樹脂又はポリエステル系樹脂の何れか若しくは複数であり、前記樹脂層の厚みが0.5μm以上50μm以下である、という構成を有する金属蒸着積層体とした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は金属蒸着フィルムに関するものであって、具体的には、例えば、射出成型による樹脂成型品製造法の一つであるインサート成型を行う際に利用出来る金属メッキの代替として利用可能なばかりでなく、さらに例えば導電性層をも備えることにより帯電防止機能をも付与する、といったような特定の機能を付与出来る金属蒸着積層体に関する。
【背景技術】
【0002】
昨今消費市場の成熟に伴い、色々な商品における他商品との差別化を提示することが困難となりつつある。かような状況の中、それでも差別化を図るために、外観・意匠に特色を出したり、さらに何らかの付加機能を付与することが広く検討されるようになってきている。
【0003】
例えば冷蔵庫やエアコン等の家庭用電気器具(家電)の外装として、重厚感や高級感を呈するためにその表面に対して金属光沢を付与するために、これらの部分に対して金属メッキを行うことがある。またその他の樹脂成型品であっても、同様に高級感を付与するために金属メッキを行うことがある。そしてさらに昨今では帯電防止機能等の特定機能をも付加させることが行われるようになっている。
【0004】
しかし金属メッキを行う場合、有機溶剤を多用する、特に六価クロムを使用する、という点等において環境問題を引き起こし、また作業環境の観点からも必ずしも好ましい手法とは言えない。さらにこのような環境問題を引き起こすために、自動車メーカーやオートバイメーカーでは、自社製品にこのような金属メッキを利用したものを採用しない動きがあり、金属メッキの代替となる手法の開発が強く望まれている。また金属メッキの場合、メッキの厚みが必ずしも均一とはならず、そのためにムラが生じたりして必ずしも外観が美麗になるとは限らない。また金属メッキを行った後にさらに帯電防止などの特定の機能を付与する場合、金属メッキと同時に例えば導電性を備えた導電性フィラーを混入させた塗剤を用いたり、金属メッキ後に導電性フィラーを含有した塗剤をその表面に塗布したりすることもあるが、何れにせよ環境問題を生じる、塗布ムラが生じる、等の問題が生じることには何ら変わりがなかった。
【0005】
そこで、金属メッキを行う代わりに金属光沢を有する積層体、即ち金属蒸着積層体を用いて樹脂成型品の外観に金属光沢を付与することが行われる。これは、まず最初に基材となるフィルムの表面に金属蒸着層を設けてなる金属蒸着積層体を用意し、これを樹脂成型品のインモールド成型時において予めモールドの内部に装着し、しかる後に樹脂成形を行うことにより、その所望する最外面に金属光沢を付与する、というものである。
【0006】
そして例えば特許文献1に記載の発明においては、ベースフィルムの片面に金属蒸着層、接着層が順次形成された金属蒸着フィルムが開示されている。
【0007】
【特許文献1】特開平10−735号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
この特許文献1に記載の金属蒸着フィルムを用いれば、例えば自動車部品などに金属光沢を付与することが出来るようになり、金属メッキの代替となりうるが、この特許文献1に記載のような構成の金属蒸着フィルムであれば、美麗で均一な金属光沢を付与仕切れない場合があり、問題であった。
【0009】
即ち、樹脂成型品の断面視において急激な曲面を有する箇所、いわゆる深絞りと呼ばれる部分については、その曲り方が急激であるために、特許文献1に記載のような構成の金属蒸着フィルムを用いると、金属蒸着層やベースフィルムがその曲り方に追従せずに破れてしまう、クラックが生じる、等の欠損が発生する可能性が大いにあり、また実際にそのような欠損が多発してしまい製品の外観をかえって損ねてしまい問題であった。
【0010】
さらにこの特許文献1では特に記載も示唆も全くされてはいないが、特許文献1に記載された金属蒸着フィルムに、金属蒸着層とは別に基材に特定機能層を積層することにより付加価値として何らかの特定機能を備えさせようとしても、やはりクラック等の欠損が発生することには変わりがなく、即ち問題が生じてしまうことは容易に想像出来るものである。さらに特許文献1に記載された金属蒸着フィルムの基材となるベースフィルムの金属蒸着層の積層面とは反対側の面に対し、特定の機能を有した層を単純に積層するだけで完成するものではないことは当業者であれば周知の事実なのである。つまり単純に基材フィルムに何らかの層を積層しても、その組み合わせいかんによっては容易に層間剥離が生じる等の問題が生じることは当業者であれば周知の事実であり、この問題点を解消すべく、もし特許文献1に記載の金属蒸着フィルムに別途特定の機能を付与しようとするならば、全く別途に新規な研究を行わなければならないことは当業者であればもはや常識と言える範疇の知識なのである。
【0011】
本発明はこのような問題点に鑑みて為されたものであり、その目的は、単純な構成であるにも係わらず、深絞りの箇所に対しても充分に追従可能とすることにより、クラック等の外観欠損を発生しないことを可能とした、金属メッキの代替、及び特定機能を付与することを可能とした特定機能付き金属蒸着積層体を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記課題を解決するため、本願発明の請求項1に記載の発明は、少なくとも、樹脂よりなる樹脂層と、高分子樹脂よりなる基材と、金属、金属酸化物、又は合金よりなる金属蒸着層と、よりなり、かつ前記基材の表面に前記金属蒸着層が積層され、反対面に前記樹脂層が積層されてなる積層体であって、前記金属、金属酸化物、又は合金は、スズ、インジウム、アルミニウム、亜鉛、金、銀、銅、チタン、ニッケル、又はこれらの何れかを元にした合金、の何れか若しくは複数であり、前記金属蒸着層の厚みが5nm以上80nm以下であり、前記樹脂は、アクリル系樹脂、ウレタン系樹脂、又はポリエステル系樹脂の何れか若しくは複数であり、前記樹脂層の厚みが0.5μm以上50μm以下であること、を特徴とする。
【0013】
本願発明の請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の金属蒸着層において、前記樹脂層を形成する樹脂中にフィラーが含有されてなること、を特徴とする。
【0014】
本願発明の請求項3に記載の発明は、請求項1又は請求項2に記載の金属蒸着積層体において、前記基材が、ポリウレタンフィルム、ポリメチルメタアクリレートフィルム、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレンフィルム、ポリカーボネートフィルム、ポリエチレンテレフタレートフィルム、ポリプロピレンフィルム、ポリエチレンフィルム、又はフッ素樹脂フィルム、の何れか若しくは複数であり、前記基材の厚みが5μm以上300μm以下であり、前記基材の融点が50℃以上350℃以下であること、を特徴とする。
【0015】
本願発明の請求項4に記載の発明は、請求項1ないし請求項3に記載の金属蒸着積層体において、前記金属蒸着層のさらに表面に接着性を有する接着層又は粘着性を有する粘着層の何れかが積層されてなること、を特徴とする。
【0016】
本願発明の請求項5に記載の発明は、請求項1ないし請求項4の何れか1項に記載の金属蒸着積層体において、前記金属蒸着層が2層以上の層よりなり、かつ隣接する層を構成する物質が相違してなり、かつ前記金属蒸着層を構成する各々の層の厚みがそれぞれ5nm以上80nm以下であること、を特徴とする。
【0017】
本願発明の請求項6に記載の発明は、請求項2ないし請求項5の何れか1項に記載の金属蒸着積層体において、前記フィラーが酸化インジウム、酸化スズ、又は酸化亜鉛の何れか若しくは複数であり、かつ、前記フィラーを前記樹脂の重量に対して5%以上の割合で混合することにより帯電防止機能を前記樹脂層に付与してなること、を特徴とする。
【0018】
本願発明の請求項7に記載の発明は、請求項2ないし請求項5の何れか1項に記載の金属蒸着積層体において、前記フィラーが紫外線遮蔽機能又は赤外線遮蔽機能の何れか若しくは双方を備えた無機物によるものであり、かつ、前記フィラーを前記樹脂の重量に対して5%以上の割合で混合することにより紫外線遮蔽機能又は赤外線遮蔽機能の何れか若しくは双方を前記樹脂層に付与してなること、を特徴とする。
【0019】
本願発明の請求項8に記載の発明は、請求項2ないし請求項5の何れか1項に記載の金属蒸着積層体において、前記フィラーが酸化チタンによるものであり、かつ、前記フィラーを前記樹脂の重量に対して5%以上の割合で混合することにより防汚性機能を前記樹脂層に付与してなること、を特徴とする。
【0020】
本願発明の請求項9に記載の発明は、請求項2ないし請求項5の何れか1項に記載の金属蒸着積層体において、前記フィラーが抗菌性機能、又は発熱、放熱、保冷の何れか又は複数の機能、又は培養機能、又は除虫機能、の何れか若しくは複数の機能を備えたものであり、かつ、前記フィラーを前記樹脂の重量に対して5%以上の割合で混合することにより発熱、放熱、保冷の何れか又は複数の機能を前記樹脂層に付与してなること、を特徴とする。
【0021】
本願発明の請求項10に記載の発明は、請求項1又は請求項3から請求項5の何れか1項に記載の金属蒸着積層体において、前記樹脂層を形成する樹脂が、単独で帯電防止機能を有するものである、若しくは帯電防止機能を備えた物質を含有させてなるものであること、を特徴とする。
【0022】
本願発明の請求項11に記載の発明は、請求項1又は請求項3から請求項5の何れか1項に記載の金属蒸着積層体において、前記樹脂層を形成する樹脂が、単独で紫外線遮蔽機能又は赤外線遮蔽機能の何れか若しくは双方を有するものである、若しくは紫外線遮蔽機能又は赤外線遮蔽機能の何れか若しくは双方を有する物質を含有させてなるものであること、を特徴とする。
【0023】
本願発明の請求項12に記載の発明は、請求項1又は請求項3から請求項5の何れか1項に記載の金属蒸着積層体において、前記樹脂層を形成する樹脂が、単独で防汚性機能を有するものである、若しくは防汚性機能を有する物質を含有させてなるものであること、を特徴とする。
【0024】
本願発明の請求項13に記載の発明は、請求項1又は請求項3から請求項5の何れか1項に記載の金属蒸着積層体において、前記樹脂層を形成する樹脂が、単独で抗菌性機能、又は発熱、放熱、保冷の何れか又は複数の機能、又は培養機能、又は除虫機能、の何れか若しくは複数の機能を備えたものである、若しくは抗菌性機能、又は発熱、放熱、保冷の何れか又は複数の機能、又は培養機能、又は除虫機能、の何れか若しくは複数の機能を有する物質を含有させてなるものであること、を特徴とする。
【発明の効果】
【0025】
以上のように、本願発明に係る金属蒸着積層体は、要すれば、特定機能を発揮する樹脂による樹脂層/基材/金属蒸着層、という構成を有しているので、いわゆる深絞り形状を有した樹脂成型品の外観に金属光沢を付与する場合であっても、樹脂成形品の深絞り部分にクラックが生じたりフィルムの破れが生じたりすることがなく、美麗なる金属光沢をその外観に付与出来、かつ金属メッキの代替としてインモールド成型時に利用可能であり、さらには特定機能を発揮する樹脂層を備えているので、例えばこの樹脂層に導電性フィラーを含有させた場合であれば帯電防止機能を金属光沢と同時に樹脂成形品に付与することが出来るという効果を生じる、インモールド成型に利用することが可能な金属蒸着積層体とすることが出来る。
【発明を実施するための最良の形態】
【0026】
以下、本願発明の実施の形態について説明する。尚、ここで示す実施の形態はあくまでも一例であって、必ずもこの実施の形態に限定されるものではない。
【0027】
(実施の形態1)
本願発明に係る金属蒸着積層体について第1の実施の形態として説明する。
本実施の形態に係る金属蒸着積層体は、少なくとも、樹脂よりなる樹脂層と、高分子樹脂よりなる基材と、金属又は合金よりなる金属蒸着層と、よりなり、かつ基材の表面に前記金属蒸着層が積層され、反対面に樹脂層が積層されてなる構成を有するものである。そして本実施の形態に係る金属蒸着積層体は前述の通り、例えば従来であれば有機溶媒等を多用した金属メッキを施していたところ、これに換えて金属メッキと同等の金属光沢を所望の箇所に付与するためのものであることを主たる目的としている。
【0028】
以下、さらに詳細に説明をしていく。
まず最初に本実施の形態に係る金属蒸着層につき説明すると、これは金属、又は合金の何れかをいわゆるドライコーティング法と呼ばれる手法により基材表面に蒸着して得られる層であるが、その原材料としては、スズ、インジウム、アルミニウム、亜鉛、金、銀、銅、チタン、ニッケル、又はこれらの何れかを元にした合金、の何れか若しくは複数であることが考えられる。具体的にどれを選択するかは、所望の金属光沢の種類に応じて選択されればよく、さらに後述の基材との組み合わせ、即ち基材の種類によっては金属蒸着層が剥離をしやすい物質、しにくい物質等があるので、層間剥離が生じない物質を選択することも考えられる。
【0029】
この金属蒸着層を設ける理由は次の通りである。即ち本実施の形態に係る金属蒸着積層体は前述の通り、従来は、有害物質を排出せざるを得ない手法である金属メッキを施していた箇所に対し、例えば金属光沢を有するシールをその表面に貼り付けることにより、有機溶媒などの有害物質を必要としない、新たなる金属光沢の付与方法に用いるためのものであり、そのため、従来の金属メッキで用いていた金属、又はこれに準じる金属酸化物や合金、を金属蒸着層として積層するのである。
【0030】
そして本実施の形態に係る金属蒸着積層体は、例えば深絞りと呼ばれる、急激な曲面や、複雑な曲面を有する成形体の表面に貼着した場合であっても、その曲面箇所で金属蒸着層にクラックが生じないように、即ち変形追随性と呼ばれる性能が充分に備わっていなければならないのであるが、上述したような材料により金属蒸着層を形成することとすれば、かような問題が生じるおそれがなくなるので好適な材料であると言える。
【0031】
この金属蒸着層の厚みは5nm以上80nm以下であることが望ましいが、これは5nm以下であると本来所望していた金属光沢が得られなくなるからであり、また80nm以上とするとクラックが容易に生じてしまう、等の症状が生じてしまうからである。
【0032】
次に金属蒸着層を積層する高分子樹脂よりなる基材につき説明する。
この基材は高分子樹脂よりなるものとしているところ、特に利用しやすいのはいわゆるプラスチックフィルムであるので、本実施の形態においては以下プラスチックフィルムであるものとし、また基材も基材フィルムとする。そしてこの基材フィルムとしては、例えばポリウレタンフィルム、ポリメチルメタアクリレートフィルム、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレンフィルム、ポリカーボネートフィルム、ポリエチレンテレフタレートフィルム、ポリプロピレンフィルム、ポリエチレンフィルム、又はフッ素樹脂フィルム、の何れか若しくは複数であることが望ましく、本実施の形態においてはポリエチレンテレフタレートフィルム(以下「PETフィルム」とも言う。)であることとするが、これ以外でも以下に述べる条件を満たすことが出来るものであれば、これらに限定されるものではない。
【0033】
本実施の形態における基材フィルムは、上述のような場合、即ち複雑、急激な立体曲面を有する成形体の最外部に貼着して用いるものであるので、かような曲面部分においてプラスチックフィルムそのものが破れる、等の破損が生じてしまうことは決してあってはならないことである。そのために、先に説明した金属蒸着層の場合以上に、本実施の形態に係るプラスチックフィルムには変形追随性が必要とされるのである。そしてこの変形追随性に関する条件を容易に満たすことが出来るものが、前述した一群のプラスチックフィルムであり、なかでもポリエチレンテレフタレートフィルム、ポリウレタンフィルム、ポリメチルメタアクリレートフィルム、が最も効果的なのである。
【0034】
さらに述べると、係るプラスチックフィルムの厚みが5μm以上300μm以下であり、またその融点が50℃以上350℃以下であるならば、より好適である。
【0035】
これは、厚みが5μm以下であると、そもそも金属蒸着層をドライコーティング法により積層しようとしてもその処理に際してプラスチックフィルム自体が耐えられずに破れてしまう、等の破損が生じてしまい、即ち積層そのものが不可能となってしまい、また300μm以上であると、今度は最終的に得られる本実施の形態に係る金属蒸着積層体全体の厚みが増してしまうため、複雑な外形形状を有する成形体の表面にこれを貼着しようとしても、変形追随性が得られないため、やはり容易に破損してしまうからである。
【0036】
さらに融点に関して説明を加えておくと、融点が50℃以上350℃以下である、とするのは、50℃以下の融点であるものとすると、前述のドライコーティング法を実施するに際して金属蒸着層を積層する以前にプラスチックフィルム自体が溶融してしまう、美麗な金属光沢を呈出できない、そもそも全体の加工が困難になる、等の問題が生じ、また350℃以上の融点であると、軟化温度が高くなりすぎてしまい、射出成形時の熱ではフィルムが変形し難くなってしまう、という現象が生じるからである。
【0037】
さらに後述するように、本実施の形態に係る金属蒸着積層体をインモールド成型に用いる場合には高温高圧に曝されることとなるが、かような条件下であっても基材フィルムが破損してしまうと所望の目的が得られず、また金属蒸着積層体自体が破損してしまうことになるので、基材フィルムの融点を50℃以上としておけば、このような事態が生じることがなくなるので好適である。また本実施の形態に係る金属蒸着積層体に、いわゆる艶消し効果を与えるために、このプラスチックフィルムにヘアライン加工を施すことも考えられるが、そのようにする場合にはヘアライン加工を施しやすい物質、例えばポリエチレンテレフタレートフィルムとすることも考えられる。
【0038】
本実施の形態においては、以上説明した基材フィルムの表面に金属蒸着層をドライコーティング法により積層するのであるが、この金属蒸着層とは反対の側に別途樹脂層を積層する。そこで次にこの樹脂層につき説明する。
【0039】
本実施の形態における樹脂層としては、アクリル系樹脂、ウレタン系樹脂、又はポリエステル系樹脂の何れか若しくは複数であることが好適であるが、本実施の形態においては、係る金属蒸着積層体に特定の機能を付与するために、特定の機能を発揮するフィラーを用いるため、アクリル系樹脂を用いるものとする。即ち、フィラーそのものを直接基材フィルム表面に塗布しようとしても、即座に剥がれ落ちてしまう、剥がれ落ちないとしても、経時的に、しかもあまり時間が経たないうちに、フィラーが基材フィルム表面から脱落してしまい、結局当初所望していた特定機能を長期にわたり安定的に発揮することが出来ない。
【0040】
そこで、かような特定機能を有するフィラーを樹脂に含有させ、そしてフィラーを含有した樹脂をいわゆるウェットコーティング法により基材フィルムの表面に塗布することにより樹脂層を形成することで、当初の目的である特定機能を金属蒸着積層体に付与することが可能となるようにしようとするのである。
【0041】
よって、フィラーを含有すべき樹脂層は、フィラーの発揮する効果を妨げることがあってはならないことは必須であり、そのためにアクリル系樹脂又はウレタン系樹脂を用いることで、含有される特定機能を有するフィラーの発揮する効果を妨げることがなくなり、また樹脂そのものも、特に基材フィルムの素材に左右されることなく、ある程度必要な層間密着力を確保することが出来るので、これらの樹脂を用いることが好適である。
【0042】
尚、この際の樹脂層の厚みは0.5μm以上50μm以下であることが望ましいが、これは0.5μm以下であると、フィラーを混合しようにも厚みが不十分であるため結果としてフィラーが樹脂層から脱落してしまいやすくなり、本来の目的である特定機能を持続的に発揮することが出来なくなるからであり、また50μm以上であると得られる金属蒸着積層体全体の厚みを必要レベルまでに薄くすることが困難となるからである。
【0043】
次に本実施の形態における樹脂層に含有される特定機能を有したフィラーに関し、説明をする。
そもそもフィラーとは、微細で偏平な粉末であって、例えばPETフィルムの表面に金属層を積層し、これを剥離した金属箔をさらに非常に微細に粉砕することにより得られるものである。尚、この金属箔は直接金属を薄く延伸させることにより得られる場合もある。さらには金属箔に限らず、例えばPETフィルムの表面に何らかの樹脂層を設け、しかる後に樹脂層をPETフィルムから剥離させると同時にこれを微粉砕することによって得られる場合もある。
【0044】
そして本実施の形態において用いるフィラーの製造方法に関しては特に限定するものではないが、要は微細な粉末であっても何らかの特定の機能を発揮すればよいものとする。
【0045】
尚、フィラーの一般的な大きさや形状はその用いる目的や場面に応じて種々な定義がなされるものであるが、本実施の形態においてはフィラーの大きさは平均粒径が10nm〜50nmであり、またその形状は略粒径であるものとする。但し、本発明においてはこの大きさ、形状に必ずしも拘るものではないことを断っておく。
【0046】
かようなフィラーを前述した樹脂に含有させるのであるが、その含有の手法は従来公知のものでよく、また混合比についてはそれぞれの機能を発揮しやすい程度とすればよいが、樹脂の重量に対して5%以上の割合で混合させることによりフィラーの有する特定機能を発揮しやすくなるので好適であると言える。またより一層確実に発揮させるためには30%以上とすればよい。
【0047】
そしてこのフィラーの有する特定の機能が、本実施の形態に係る金属蒸着積層体が備える機能となるのである。
【0048】
例えば、帯電防止機能を付与させようと所望するのであれば、酸化インジウム、酸化スズ、又は酸化亜鉛の何れか若しくは複数によるフィラーを用いればよい。このフィラーを含有させることにより、本実施の形態に係る金属蒸着積層体は帯電防止機能を備えたものとすることが出来るのであり、またこれを例えば樹脂成型品の最外層に貼着することによって、又は樹脂成形品をインモールド成型により製造する際にこの金属蒸着積層体が最外層となるように用いることにより、得られた成型品は単に金属光沢を備えたものとなるばかりでなく、帯電防止機能も同時に備えたものとすることが出来る。
【0049】
同様にして、紫外線遮断機能又は赤外線遮断機能を付与するのであれば、無機系フィラー、特に酸化チタンフィラーを用いればよく、また酸化チタンフィラーを用いるのであれば、同時に防汚性機能や抗菌性機能を付与することも可能である。その他にも発熱、放熱、保冷機能を有するフィラー、培養機能を有するフィラー、除虫機能を有するフィラーを用いれば、それぞれの機能を成型品に付与することが考えられるが、ここではこれ以上の詳細な説明は省略する。そして以上に説明したように特定機能を有したフィラーを用いることで、本実施の形態に係る金属蒸着積層体は特定機能を備えた金属蒸着積層体となるのである。
【0050】
以上、本実施の形態では特定機能を備えたフィラーを樹脂に含有させることにより、特定機能を有する樹脂層を積層すること、としたが、樹脂そのものに何らかの特定機能がある場合は、フィラーを含有させることなく、上述と同様の目的を達することが可能である。またフィラー以外の物質を樹脂に含有させて何らかの特定機能を発揮させることも考えられる。
【0051】
例えば先にフィラーを混合する樹脂として用いたアクリル系樹脂をこれ単独で用いることで樹脂層に紫外線遮蔽機能を付与することが考えられ、また界面活性剤をアクリル系樹脂等の樹脂に含有させることで樹脂層に制電性を付与することが考えられる。さらには、防汚性機能を備えた、又はフィラー以外の防汚性機能を有する物質を含有させた樹脂を用いれば防汚性が、抗菌性を備えた、又はフィラー以外の抗菌性を有する物質を含有させた樹脂を用いれば抗菌性が、発熱、放熱、保冷の何れか若しくは複数の機能を備えた、又はフィラー以外の発熱、放熱、保冷の何れか若しくは複数の機能を有する物質を含有させた樹脂を用いればそれぞれの性質が、培養機能を備えた、又はフィラー以外の培養機能を備えた物質を含有させた樹脂であれば培養機能が、防虫機能を備えた、又はフィラー以外の防虫機能を備えた物質を含有させた樹脂であれば防虫機能が、それぞれ樹脂層に付与されることとなるのであるが、ここではこれ以上の詳細な説明は省略する。
【0052】
このようにして、樹脂層/基材フィルム/金属蒸着層、という構成を有する金属蒸着積層体を得るのであるが、本実施の形態に係る基材フィルム及び金属蒸着層に関しては前述したようにいかに激しく曲げようとも破れたりクラックが生じたりすることがないので、複雑な立体形状を有する成形体や、急激な曲面を最外面に有する成形体の表面に、本実施の形態に係る金属蒸着積層体を貼着しても、これが破れたり破損したりすることがなくなるので、当初目的とした効果を充分に得られることが可能となる。
【0053】
そして係る金属蒸着積層体の利用方法としては、例えば家電製品に用いる化粧板の表面に貼着することが考えられる。この場合は、高級感を呈するために、まず金属蒸着層の表面はいわゆるヘアライン処理を施して艶消しとし、またフィラーとして抗菌性機能を有するものを用いたならば、係る金属蒸着積層体を貼着した化粧板を用いて冷蔵庫とすれば、抗菌性機能を有すると同時に、高級感を呈する金属光沢を有したものとすることが出来る。このように用いるに際しては、化粧板を製造するときに、予め金型内に本実施の形態に係る金属蒸着積層体を装着しておき、次いで通常の成型加工を行えば、得られる成型品は最初から最外面に本実施の形態に係る金属蒸着積層体が貼着されたものとなる。そして単純な化粧板に限らず、複雑な形状を有した成形体を製造するために複雑な曲面、立体構造を有する金型を用いるインモールド成型を行う場合であっても、本実施の形態に係る金属蒸着積層体を用いれば、急激な曲面などであっても充分に有効な変形追随性を備えているので、やはりなんの問題もなく最外面に金属蒸着積層体が貼着された成型品を簡潔にして得ることが出来る。
【0054】
また前述したように、基材フィルムの融点が50℃以上350℃以下としたので、インモールド成型を行っても基材フィルムが痛むというおそれがなく、やはり好適であると言える。
【0055】
そして得られた成型品の最外面に貼着された状態の金属蒸着積層体には、特定の機能が付与されているため、従来であれば、成型品を製造し、次いでその最外面に金属メッキを施し、さらにその表面に特定機能を付与するための何らかの処理を行っていたところ、本実施の形態に係る金属蒸着積層体を用いれば、成型品を製造すると同時に、最外面に金属光沢を有し、さらには特定機能を備えたもの、を1度の工程で得ることが出来るので、製造自体が簡潔なものとなる、製造に係るコストを抑制出来る、さらには従来の場合であればどうしても廃棄せざるを得なかった大量の有害物質、特に環境汚染の原因となる大量の有機溶媒など、が生じることがなくなるので、環境にもやさしい製造工程とすることが出来るようになるのである。
【0056】
尚、最後に金属蒸着層に関して付言しておくと、係る層を単層としてもよいが、これを複層とすることで、万が一最外層にクラックが生じてしまっても、その内側の層も同様に金属蒸着層であるため、結果的にこの内側の層がクラックの生じた箇所を補填するかのような効果を得られるので、樹脂層/基材フィルム/第1金属蒸着層/第2金属蒸着層、といった構成とすることも考えられる。
【0057】
この場合の第1金属蒸着層、第2金属蒸着層、に関しては、先に説明した金属蒸着層と同様のものであるので、その詳細な説明はここでは省略する。
【0058】
また基材フィルムに関しても同様であり、即ち樹脂層/第1基材フィルム/第2基材フィルム/金属蒸着層、といったように予め2枚以上の基材フィルムを用いておけば、何れか1枚が破れてしまったとしても、もう1枚が存在することにより、全体としては破損しなかったのと同様の効果を得ることが考えられる。
【0059】
さらに、基材フィルムや金属蒸着層を複数用いる、又は設ける場合は、樹脂層/第1基材フィルム/第1金属蒸着層/第2基材フィルム/第2金属蒸着層、といった構成や、樹脂層/第1基材フィルム/第1金属蒸着層/第2金属蒸着層/第2基材フィルム、といった構成、さらには、樹脂層/第1基材フィルム/金属蒸着層/第2基材フィルム、樹脂層/第1金属蒸着層/基材フィルム/第2金属蒸着層、といったような様々な組み合わせとすることも考えられ、さらには第3・第4・・・金属蒸着層、第3・第4・・・基材フィルム、等、より多くの数の金属蒸着層、基材フィルムの利用が考えられ、より好ましくは、複数といっても2以上5以下程度とすることなのではあるが、ここではこれ以上の詳細な説明を省略する。
【0060】
そして樹脂層についても、本実施の形態では単一の層であるものとして説明をしてきたが、例えば異なる機能を有する複数の層とすることも考えられる。この場合は、前述した各種機能を備えた層を、順次、公知な手法により基材フィルムに積層していけばよいが、ここではこれ以上の詳細な説明を省略する。
【0061】
また本実施の形態に係る金属蒸着積層体をインモールド成型に用いる場合、そのまま成型体最表面に貼着すればそれでよいが、場合によっては貼着をより確実にする必要が生じることが考えられる。このような場合には、金属蒸着層のさらに表面に接着性を有する接着層又は粘着性を有する粘着層の何れかを積層しておけば、より一層剥離が生じることなく確実に貼着されることとなる。この際用いられる接着層又は粘着層としては、アクリル系樹脂、ポリエステル系樹脂、又はウレタン系樹脂、等の公知のものを用いればよいが、ここではこれ以上の詳細な説明を省略する。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも、
樹脂よりなる樹脂層と、
高分子樹脂よりなる基材と、
金属、金属酸化物、又は合金よりなる金属蒸着層と、
よりなり、かつ前記基材の表面に前記金属蒸着層が積層され、反対面に前記樹脂層が積層されてなる積層体であって、
前記金属、金属酸化物、又は合金は、スズ、インジウム、アルミニウム、亜鉛、金、銀、銅、チタン、ニッケル、又はこれらの何れかを元にした合金、の何れか若しくは複数であり、
前記金属蒸着層の厚みが5nm以上80nm以下であり、
前記樹脂は、アクリル系樹脂、ウレタン系樹脂、又はポリエステル系樹脂の何れか若しくは複数であり、
前記樹脂層の厚みが0.5μm以上50μm以下であること、
を特徴とする、金属蒸着積層体。
【請求項2】
請求項1に記載の金属蒸着層において、
前記樹脂層を形成する樹脂中にフィラーが含有されてなること、
を特徴とする、金属蒸着積層体。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載の金属蒸着積層体において、
前記基材が、
ポリウレタンフィルム、ポリメチルメタアクリレートフィルム、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレンフィルム、ポリカーボネートフィルム、ポリエチレンテレフタレートフィルム、ポリプロピレンフィルム、ポリエチレンフィルム、又はフッ素樹脂フィルム、の何れか若しくは複数であり、
前記基材の厚みが5μm以上300μm以下であり、
前記基材の融点が50℃以上350℃以下であること、
を特徴とする、金属蒸着積層体。
【請求項4】
請求項1ないし請求項3に記載の金属蒸着積層体において、
前記金属蒸着層のさらに表面に接着性を有する接着層又は粘着性を有する粘着層の何れかが積層されてなること、
を特徴とする、金属蒸着積層体。
【請求項5】
請求項1ないし請求項4の何れか1項に記載の金属蒸着積層体において、
前記金属蒸着層が2層以上の層よりなり、かつ隣接する層を構成する物質が相違してなり、かつ前記金属蒸着層を構成する各々の層の厚みがそれぞれ5nm以上80nm以下であること、
を特徴とする、金属蒸着積層体。
【請求項6】
請求項2ないし請求項5の何れか1項に記載の金属蒸着積層体において、
前記フィラーが酸化インジウム、酸化スズ、又は酸化亜鉛の何れか若しくは複数であり、
かつ、前記フィラーを前記樹脂の重量に対して5%以上の割合で混合することにより帯電防止機能を前記樹脂層に付与してなること、
を特徴とする、金属蒸着積層体。
【請求項7】
請求項2ないし請求項5の何れか1項に記載の金属蒸着積層体において、
前記フィラーが紫外線遮蔽機能又は赤外線遮蔽機能の何れか若しくは双方を備えた無機物によるものであり、
かつ、前記フィラーを前記樹脂の重量に対して5%以上の割合で混合することにより紫外線遮蔽機能又は赤外線遮蔽機能の何れか若しくは双方を前記樹脂層に付与してなること、
を特徴とする、金属蒸着積層体。
【請求項8】
請求項2ないし請求項5の何れか1項に記載の金属蒸着積層体において、
前記フィラーが酸化チタンによるものであり、
かつ、前記フィラーを前記樹脂の重量に対して5%以上の割合で混合することにより防汚性機能を前記樹脂層に付与してなること、
を特徴とする、金属蒸着積層体。
【請求項9】
請求項2ないし請求項5の何れか1項に記載の金属蒸着積層体において、
前記フィラーが抗菌性機能、
又は発熱、放熱、保冷の何れか又は複数の機能、
又は培養機能、
又は除虫機能、
の何れか若しくは複数の機能を備えたものであり、
かつ、前記フィラーを前記樹脂の重量に対して5%以上の割合で混合することにより発熱、放熱、保冷の何れか又は複数の機能を前記樹脂層に付与してなること、
を特徴とする、金属蒸着積層体。
【請求項10】
請求項1又は請求項3から請求項5の何れか1項に記載の金属蒸着積層体において、
前記樹脂層を形成する樹脂が、単独で帯電防止機能を有するものである、若しくは帯電防止機能を備えた物質を含有させてなるものであること、
を特徴とする、金属蒸着積層体。
【請求項11】
請求項1又は請求項3から請求項5の何れか1項に記載の金属蒸着積層体において、
前記樹脂層を形成する樹脂が、単独で紫外線遮蔽機能又は赤外線遮蔽機能の何れか若しくは双方を有するものである、若しくは紫外線遮蔽機能又は赤外線遮蔽機能の何れか若しくは双方を有する物質を含有させてなるものであること、
を特徴とする、金属蒸着積層体。
【請求項12】
請求項1又は請求項3から請求項5の何れか1項に記載の金属蒸着積層体において、
前記樹脂層を形成する樹脂が、単独で防汚性機能を有するものである、若しくは防汚性機能を有する物質を含有させてなるものであること、
を特徴とする、金属蒸着積層体。
【請求項13】
請求項1又は請求項3から請求項5の何れか1項に記載の金属蒸着積層体において、
前記樹脂層を形成する樹脂が、単独で抗菌性機能、又は発熱、放熱、保冷の何れか又は複数の機能、又は培養機能、又は除虫機能、の何れか若しくは複数の機能を備えたものである、若しくは抗菌性機能、又は発熱、放熱、保冷の何れか又は複数の機能、又は培養機能、又は除虫機能、の何れか若しくは複数の機能を有する物質を含有させてなるものであること、
を特徴とする、金属蒸着積層体。

【公開番号】特開2007−216608(P2007−216608A)
【公開日】平成19年8月30日(2007.8.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−42211(P2006−42211)
【出願日】平成18年2月20日(2006.2.20)
【出願人】(000235783)尾池工業株式会社 (97)
【Fターム(参考)】