説明

金属薄膜用塗料組成物、および光輝性複合塗膜

【課題】金属薄膜との付着性、特に冷熱繰り返し付着性に優れ、金属薄膜に高い耐水性、防錆性、耐アルカリ性、および耐擦傷性を付与できる被覆膜を生産性よく形成する金属薄膜用塗料組成物、およびこれを用いて形成された光輝性複合塗膜の実現。
【解決手段】基材表面に設けられた金属薄膜を被覆する金属薄膜用塗料組成物であって、2官能以上のチオール化合物を3〜12質量%と、活性エネルギー線硬化性化合物(ただし、1官能以上のチオール化合物を除く)とを含む塗膜形成成分を含有することを特徴とする金属薄膜用塗料組成物、および基材表面に設けられた金属薄膜と、本発明の金属薄膜用塗料組成物を前記金属薄膜に被覆して形成された被覆膜とを備えたことを特徴とする光輝性複合塗膜。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、蒸着膜、スパッタリング膜、または湿式メッキ法により形成されるメッキ膜の被覆に好適に使用される金属薄膜用塗料組成物、および光輝性複合塗膜に関する。
【背景技術】
【0002】
建材、車両部品などの表面には、意匠性や高級感を付与するため、金属薄膜が形成されることがある。金属薄膜の形成方法としては、蒸着法、スパッタリング法、湿式メッキ法など、公知の方法が知られている。
このような金属薄膜の表面には、金属薄膜の保護や意匠性を付与する目的で、トップコートとして被覆膜が設けられている。
【0003】
被覆膜を形成するための塗料としては、熱硬化性の粉体塗料組成物や、熱硬化性の液剤型塗料が知られている。
例えば、特許文献1には、ベースコート層と金属薄膜層とが順次設けられた、軟質樹脂材料よりなる基材の金属薄膜層上に、ウレタン系のトップコート塗料を塗布し、焼き付けることにより熱硬化させ、トップコート層を設ける方法が開示されている。
また、特許文献2には、ベースコート層と金属薄膜層とが順次設けられた軟質樹脂材料よりなる基材の金属薄膜層上に、エポキシ基を有するシランカップリング剤を配合したウレタン系のトップコート塗料を焼き付けることにより、トップコート層を設ける方法が開示されている。
さらに、特許文献3には、金属または樹脂の材料の表面に形成された樹脂塗膜と、該樹脂塗膜上に形成されたクロムメッキ外観を有するチタン合金の薄膜と、該薄膜上に保護層として形成された透明樹脂塗膜とを有する金属または樹脂材料において、アクリル樹脂とメラミン樹脂よりなる塗料を薄膜上に焼き付けることにより、透明樹脂塗膜(トップコート)を形成させる方法が開示されている。
【0004】
しかし、特許文献1〜3に記載のように、塗料を金属薄膜上に焼き付けることで被覆膜を形成させる方法では、作業時間がかかるので、生産性が低かった。
そこで、近年では、作業時間を短縮でき、形成される被覆膜の機械的特性が優れることから、紫外線によって重合反応が進行し、硬化する紫外線硬化性成分などの活性エネルギー線硬化性化合物を含む塗料(活性エネルギー線硬化性の塗料)が提案されている。
ところが、活性エネルギー線硬化性の塗料は、紫外線などの活性エネルギー線を照射させて硬化させると、塗膜(硬化物)の硬化収縮が起こることがあった。硬化収縮が起こると、塗膜に被覆された金属薄膜が割れて、塗膜と金属薄膜との付着性が低下しやすくなる。特に、蒸着法、スパッタリング法、または湿式メッキ法により形成された金属薄膜の場合、付着性が低下しやすかった。
【0005】
このような問題を解決した塗料として、例えば、特許文献4には、アクリル系重合体と、ウレタンアクリレートなどが含まれるラジカル重合性化合物と、光開始剤とを含む金属蒸着上塗り用光硬化型塗料組成物が開示されている。また、該金属蒸着上塗り用光硬化型塗料組成物を金属蒸着面に塗布し、これに紫外線を照射して塗料組成物を硬化させる方法も記載されている。
【特許文献1】特開平9−156034号公報
【特許文献2】特開平11−5270号公報
【特許文献3】特開2002−219771号公報
【特許文献4】特開2006−169308号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献4に記載の金属蒸着上塗り用光硬化型塗料組成物より形成される被覆膜では、初期における付着性や耐擦傷性は良好であるものの、金属薄膜に優れた耐水性、防錆性、および耐アルカリ性を付与できない場合があった。
また、建築物や車両などは、高温環境から低温環境、または低温環境から高温環境といった、温度変化のある環境下にさらされる場合も多い。従って、塗料組成物には、このような温度変化にも耐えうる付着性(冷熱繰り返し付着性)を有する被覆膜を形成することも求められる。
【0007】
本発明は上記事情を鑑みてなされたもので、金属薄膜との付着性、特に冷熱繰り返し付着性に優れ、金属薄膜に高い耐水性、防錆性、耐アルカリ性、および耐擦傷性を付与できる被覆膜を生産性よく形成する金属薄膜用塗料組成物、およびこれを用いて形成された光輝性複合塗膜の実現を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは鋭意検討した結果、塗料組成物の成分として、2官能以上のチオール化合物を用いることにより、金属薄膜に対して優れた付着性、特に冷熱繰り返し付着性を有すると共に、金属薄膜に高い耐水性、防錆性、耐アルカリ性、および耐擦傷性を付与する被覆膜を形成できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
すなわち、本発明の金属薄膜用塗料組成物は、基材表面に設けられた金属薄膜を被覆する金属薄膜用塗料組成物であって、2官能以上のチオール化合物を3〜12質量%と、活性エネルギー線硬化性化合物(ただし、1官能以上のチオール化合物を除く)とを含む塗膜形成成分を含有することを特徴とする。
また、前記活性エネルギー線硬化性化合物は、脂環構造を有する活性エネルギー線硬化性化合物を50質量%以上含むことが好ましい。
さらに、前記塗膜形成成分は、エポキシ基および/またはビニル基を有するシランカップリング剤を20質量%以下含むことが好ましい。
また、本発明の光輝性複合塗膜は、前記金属薄膜と、本発明の金属薄膜用塗料組成物を前記金属薄膜に被覆して形成された被覆膜とを備えたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、金属薄膜との付着性、特に冷熱繰り返し付着性に優れ、金属薄膜に高い耐水性、防錆性、耐アルカリ性、および耐擦傷性を付与できる被覆膜を生産性よく形成する金属薄膜用塗料組成物、およびこれを用いて形成された光輝性複合塗膜が得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、本発明について詳細に説明する。
[金属薄膜用塗料組成物]
本発明の金属薄膜用塗料組成物(以下、「塗料組成物」という。)は、アルミニウム、鉄、ニッケル、クロム、銅、銀、スズ、インジウム、これらの合金などの金属薄膜(蒸着膜、スパッタリング膜、またはメッキ膜)に塗布され、活性エネルギー線の照射により硬化されることで、金属薄膜に耐水性、防錆性、耐アルカリ性、および耐擦傷性を付与する被覆膜を形成するためのものである。
この塗料組成物は、2官能以上のチオール化合物と活性エネルギー線硬化性化合物(ただし、1官能以上のチオール化合物を除く)とを含む塗膜形成成分を含有する。
なお、本発明において、「(メタ)アクリレート」とは、メタクリレートとアクリレートの両方を示すものとする。
【0012】
<塗膜形成成分>
(2官能以上のチオール化合物)
本発明では、2官能以上のチオール化合物を用いる。2官能以上のチオール化合物は、金属に対して付着力が高く、後述する活性エネルギー線硬化性化合物として好適に使用される(メタ)アクリレート化合物との反応性に優れる化合物である。従って、塗膜形成成分に2官能以上のチオール化合物を含有させることで、金属薄膜との付着力、特に冷熱繰り返し付着性に優れた被覆膜を形成できる。
【0013】
このようなチオール化合物の官能基数は、2〜10が好ましく、2〜6がより好ましい。
塗料組成物は、活性エネルギー線硬化性化合物が活性エネルギー線の照射によって重合することで被覆膜を形成する。1官能のチオール化合物を用いると、架橋反応が進行せず、被覆膜の高分子量化が困難となり、平均分子量が低くなる。その結果、強度が不十分で脆い被覆膜が形成されやすくなり、金属薄膜に十分な耐擦傷性を付与しにくくなる。
【0014】
2官能のチオール化合物としては、例えば、1,4−ビス(3−メルカプトブチリルオキシ)ブタン、メタンジチオール、エタンジチオール、プロパンジチオール、1,6−ヘキサンジチオール、シクロヘキサンジチオール、2,2−ジメチルプロパン−1,3−ジチオール、3,4−ジメトキシブタン−1,2−ジチオール、2,3−ジメルカプト−1−プロパノール、1,2−ジメルカプト−プロピルメチルエーテル、8−オクタンジチオール、ブタンジオールビスチオグリコレート、エチレングリコールビスチオグリコレート、ジプロピレングリコールビス(2−メルカプトアセテート)、ジプロピレングリコールビス(3−メルカプトアセテート)、ビス(メルカプトメチル)シクロヘキサン、2−ジシクロヘキシルアミノ−4,6−ジメルカプト−S−トリアジン、ビス(2−メチルメルカプトメチル)スルフィド、6−ジブチルアミノ−1,3,5−トリアジン−2,4−ジチオール等が挙げられる。
3官能のチオール化合物としては、例えば、1,3,5−トリス(3−メルカプトブチルオキシエチル)−1,3,5−トリアジン−2,4,6(1H,3H,5H)−トリオン、2−メチル−2−((3−メルカプト−1−オキソプロピル)−メチル)プロパン−1,3−ジイルビス(3−メルカプトプロピオネート)、トリメチロールプロパントリスチオプロピオネート、トリメチロールプロパントリスチオグリコール、2,4,6−トリメルカプト−S−トリアジン等が挙げられる。
4官能のチオール化合物としては、例えば、ペンタエリスリトールテトラキス(3−メルカプトブチレート)、ペンタエリスリトールテトラキスチオグリコレート、ジペンタエリスリトールテトラキスチオグリコレート、ペンタエリスリトールテトラキスチオプロピオネートが挙げられる。
5官能のチオール化合物としては、例えば、ジペンタエリスリトールペンタキスチオグリコレート等が挙げられる。
6官能のチオール化合物としては、例えば、ジペンタエリスリトールヘキサキスチオグリコレート等が挙げられる。
【0015】
また、2官能以上のチオール化合物としては市販のものを用いてもよく、例えば、昭和電工社製の「カレンズMT.BD1」、「カレンズMT.NR1」、「カレンズMT.PE1」;SC有機化学社製の「TMMP」、「PEMP」;淀化学社製の「EGTG」、「BDTG」、「TMTG」、「PETG」、「TMTP」、「PETP」等が挙げられる。
【0016】
2官能以上のチオール化合物の含有量は、塗膜形成成分100質量%中、3〜12質量%である。
2官能以上のチオール化合物の含有量が3質量%以上であれば、金属薄膜との付着力、特に冷熱繰り返し付着性に優れる被覆膜を形成できる。2官能以上のチオール化合物の含有量は、5質量%以上が好ましい。
【0017】
上述したように、2官能以上のチオール化合物は(メタ)アクリレート化合物などの活性エネルギー線硬化性化合物との反応性に優れる化合物である。そのため、2官能以上のチオール化合物の含有量が必要以上に増えると、2官能以上のチオール化合物と反応する活性エネルギー線硬化性化合物の割合も増えるため、活性エネルギー線硬化性化合物同士の重合反応を抑制することになる。その結果、硬度が低く柔らかい被覆膜が形成されやすくなり、金属薄膜に十分な耐擦傷性を付与しにくくなる。2官能以上のチオール化合物の含有量が12質量%以下であれば、活性エネルギー線硬化性化合物同士の重合反応を妨げにくくなるので、十分な硬度の被覆膜を形成でき、金属薄膜に耐擦傷性を付与できる。2官能以上のチオール化合物の含有量は、10質量%以下が好ましく、8質量%以下がより好ましい。
【0018】
(活性エネルギー線硬化性化合物)
本発明では、1官能以上のチオール化合物を除く活性エネルギー線硬化性化合物を用いる。このような活性エネルギー線硬化性化合物としては、ウレタン(メタ)アクリレート、分子内に1個以上の(メタ)アクリロイル基を有する(メタ)アクリレート化合物が挙げられる。
ウレタン(メタ)アクリレートは、ポリイソシアネート化合物と、ポリオールと、水酸基を有する(メタ)アクリレートとを反応させることにより得られる。
ポリイソシアネート化合物としては、例えばヘキサメチレンジイソシアネート、トリレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、ノルボルネンジイソシアネート、1,3−ビス(イソシアナトメチル)シクロヘキサン、イソホロンジイソシアネートの3量体、水添キシリレンジイソシアネート、水添ジフェニルメタンジイソシアネート等が挙げられる。
【0019】
ポリオールとしては、例えば、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリテトラメチレングリコールなどのポリエーテルポリオール、エチレングリコール、プロピレングリコール、1,6−ヘキサンジオール、ネオペンチルグリコール、トリメチロールプロパン、ぺンタエリスリトールなどの多価アルコール、多価アルコールとアジピン酸などの多塩基酸との反応によって得られるポリエステルポリオール、ポリカーボネートポリオール、1,4−シクロヘキサンジオール、2,2’−ビス(4−ヒドロキシシクロヘキシル)プロパンなどが挙げられる。中でも、1,6−ヘキサンジオールが好ましい。これらは1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0020】
水酸基を有する(メタ)アクリレートとしては、例えば、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、グリセロールジ(メタ)アクリルレート、ポリエチレングリコール(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールペンタ(メタ)アクリレート、カプロラクトン変性2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、カプロラクトン変性ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレートなどが挙げられる。中でも、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレートが好ましい。これらは1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0021】
上述したポリイソシアネート化合物とポリオールを反応させ、得られた生成物に水酸基を有する(メタ)アクリレートを反応させることによって、ウレタン(メタ)アクリレートが得られる。この際、ポリイソシアネート化合物と、ポリオールと、水酸基を有する(メタ)アクリレートとの当量比は化学量論的に決定すればよいが、例えば、ポリオール:ポリイソシアネート化合物:水酸基を有する(メタ)アクリレート=1:1.1〜2.0:0.1〜1.2程度で使用することが好適である。また、反応には公知の触媒を使用できる。
【0022】
また、ウレタン(メタ)アクリレートとしては市販のものを用いてもよく、例えば、ダイセルサイテック社製のウレタンオリゴマー「エベクリル1290」、日本合成化学工業社製のウレタンオリゴマー「紫光UV−3200B」等が挙げられる。
【0023】
分子内に1個の(メタ)アクリロイル基を有する化合物としては、例えば、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、n−ブチル(メタ)アクリレート、t−ブチル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレート、エトキシエチル(メタ)アクリレート、ブトキシエチル(メタ)アクリレート、ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、t−ブチルシクロヘキシル(メタ)アクリレート、ジシクロヘキシルペンタニル(メタ)アクリレート、トリシクロデカンジメタノール(メタ)アクリレート、イソボロニル(メタ)アクリレート等が挙げられる。
これらの中でも脂環構造を有する化合物が好ましく、具体的にはシクロヘキシル(メタ)アクリレート、t−ブチルシクロヘキシル(メタ)アクリレート、ジシクロヘキシルペンタニル(メタ)アクリレート、トリシクロデカンジメタノール(メタ)アクリレート、およびイソボロニル(メタ)アクリレートが好ましい。
【0024】
分子内に2個の(メタ)アクリロイル基を有する化合物としては、例えば、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、テトラエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、2−(メタ)アクリロイロキシエチルアシッドホスフェート、1,4ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、1,6ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、1,9ノナンジオールジ(メタ)アクリレート、グリセリンジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、3−メチル−1,5ペンタンジオールジ(メタ)アクリレート、2−ブチル−2−エチル−1,3プロパンジ(メタ)アクリレート、ジメチロールトリシクロデカンジ(メタ)アクリレート、プロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、テトラプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールヒドロキシピバレートジ(メタ)アクリレート、1,3ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、ジメチロールジシクロペンタンジ(メタ)アクリレート等が挙げられる。
これらの中でも、ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジメチロールトリシクロデカンジ(メタ)アクリレート、ジプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジメチロールジシクロペンタンジ(メタ)アクリレートが好ましく、特に脂環構造を有するジメチロールトリシクロデカンジ(メタ)アクリレート、およびジメチロールジシクロペンタンジ(メタ)アクリレートが好ましい。
【0025】
分子内に3個以上の(メタ)アクリロイル基を有する化合物は、形成される被覆膜の硬度をより高めることができる。具体例としては、トリス(2−ヒドロキシエチル)イソシアヌレートトリ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、プロポキシ化トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、エトキシ化トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ジメチロールプロパンテトラ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、プロポキシ化ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、エトキシ化ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート、トリス(アクリロキシエチル)イソシアヌレート等が挙げられる。
これらの中でも、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、およびジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレートが好ましい。
【0026】
塗膜形成成分が2官能以上のチオール化合物と活性エネルギー線硬化性化合物からなる場合、活性エネルギー線硬化性化合物の含有量は、塗膜形成成分100質量%中、88〜97質量%であり、90〜95質量%が好ましい。活性エネルギー線硬化性化合物の含有量が上記範囲内であれば、金属薄膜に対する付着性に優れた被覆膜を形成でき、かつ、金属薄膜に高い耐水性、防錆性、耐アルカリ性、および耐擦傷性を付与できる。
【0027】
本発明においては、分子内に脂環構造を有する活性エネルギー線硬化性化合物を、当該活性エネルギー線硬化性化合物100質量%中、50質量%以上含むことが好ましく、より好ましくは、60〜95質量%であり、特に好ましくは70〜90質量%である。分子内に脂環構造を有する活性エネルギー線硬化性化合物を含有させることにより、塗料組成物の硬化時に塗膜(硬化物)の硬化収縮を抑制でき、金属薄膜が割れるのを防止できる。よって、金属薄膜と被覆膜との密着性が良好となり、金属薄膜に高い耐擦傷性や耐水性などの諸物性を付与できる。
【0028】
分子内に脂環構造を有する活性エネルギー線硬化性化合物としては、脂環構造のウレタン(メタ)アクリレート、上述したシクロヘキシル(メタ)アクリレート、t−ブチルシクロヘキシル(メタ)アクリレート、ジシクロヘキシルペンタニル(メタ)アクリレート、トリシクロデカンジメタノール(メタ)アクリレート、イソボロニル(メタ)アクリレート、ジメチロールトリシクロデカンジ(メタ)アクリレート、ジメチロールジシクロペンタンジ(メタ)アクリレートが挙げられる。中でも、脂環構造のウレタン(メタ)アクリレートが好ましい。これらは1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。例えば脂環構造のウレタン(メタ)アクリレートと、これ以外の活性エネルギー線硬化性化合物を併用すれば、安価な塗料組成物を提供できる。
【0029】
脂環構造のウレタン(メタ)アクリレートは、上述した水添キシリレンジイソシアネート、水添ジフェニルメタンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、ノルボルネンジイソシアネート、1,3−ビス(イソシアナトメチル)シクロヘキサン、イソホロンジイソシアネートの3量体などの脂環構造を有するポリイソシアネート化合物を用い、上述したポリオールを反応させ、得られた生成物に上述した水酸基を有する(メタ)アクリレートを反応させることによって得られる。
なお、水添キシリレンジイソシアネートおよび水添ジフェニルメタンジイソシアネート等は、それぞれ市販品として入手できる。
【0030】
一般的に、前記活性エネルギー線硬化性化合物については、塗膜形成成分に脂環構造を有する1または2官能の活性エネルギー線硬化性化合物が含まれる場合は、形成される塗膜の付着性、耐水性、防錆性などを高めることが可能となる。また、塗膜形成成分に3官能以上の活性エネルギー線硬化性化合物が含まれる場合には、形成される塗膜(被覆膜)のトップコート性能を高めることができるので、被覆膜をトップコートとして設ける場合に、特に好適である。
すなわち、上記の脂環構造を有するポリイソシアネート化合物から合成されるウレタン(メタ)アクリレートに、活性エネルギー線硬化性化合物として、脂環構造を有する1または2官能の活性エネルギー線硬化性化合物、および/または3官能以上の活性エネルギー線硬化性化合物を組み合わせて塗膜形成成分を調整した場合、形成される塗膜の高い付着性、耐水性、防錆性、トップコート性などを維持しつつ、安価な塗料組成物を製造することが可能となる。
【0031】
(シランカップリング剤)
塗料組成物には、シランカプリング剤が含まれていることが好ましい。
シランカップリング剤としては、金属薄膜に対する被覆膜の付着性を高める観点から、エポキシ基および/またはビニル基を有するシランカップリング剤が好ましい。
エポキシ基を有するシランカップリング剤としては、例えば、2−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3−グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、3−グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、3−グリシドキシプロピルメチルジメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルメチルジメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルメチルジエトキシシランなどが挙げられる。
ビニル基を有するシランカップリング剤としては、例えば、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、3−メタクリロキシプロプルメチルジメトキシシラン、3−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、3−メタクリロキシプロピルメチルジエトキシシラン、3−メタクリロキシプロピルトリエトキシシラン、3−アクリロキシプロピルトリメトキシシラン、アリルトリメトキシシラン、アリルトリエトキシシラン、γ−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、γ−メタクリロキシプロピルトリエトキシシラン、γ−メタクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン、γ−メタクリロキシプロピルメチルジエトキシシラン、N−(β−アミノエチル)−γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−(β−アミノエチル)−γ−アミノプロピルトリエトキシシラン、N−(β−アミノエチル)−γ−アミノプロピルメチルジメトキシシラン、N−(β−アミノエチル)−γ−アミノプロピルメチルジエトキシシランなどが挙げられる。
これらの中でも、3−アクリロキシプロピルトリメトキシシラン、3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、2−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシランが特に好ましい。
これらのシランカップリング剤は1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0032】
シランカップリング剤の含有量は、塗膜形成成分100質量%中、20質量%以下が好ましく、3〜15質量%がより好ましく、4〜12質量%が特に好ましい。シランカップリング剤の含有量が上記範囲内であれば、金属薄膜に対する被覆膜の付着性がより高まる。この場合、2官能以上のチオール化合物と、活性エネルギー線硬化性化合物と、シランカップリング剤との質量比は、3〜12:68〜97:0〜20となる。
【0033】
(熱可塑性樹脂)
塗膜形成成分は、塗料組成物の流動性を改質するために熱可塑性樹脂をさらに含んでもよい。熱可塑性樹脂としては、ポリメタクリル酸メチル、ポリメタクリル酸エチル、ポリメタクリル酸ブチル、ポリメタクリル酸2−エチルヘキシルなどのホモポリマーや、これらの共重合体などの(メタ)アクリル樹脂が例示できる。これらの中でも、ポリメタクリル酸メチルが好ましい。
【0034】
熱可塑性樹脂は、得られる塗料組成物の用途に応じて添加されるものであり、その含有量は塗膜形成成分100質量%中、0〜15質量%が好ましく、0〜10質量%がより好ましい。熱可塑性樹脂を含有しない場合であっても、本発明の効果は十分に発揮されるが、含有量が上記範囲内であれば、形成される被覆膜の付着性、耐水性、防錆性などの諸物性を保持しつつ、さらに塗料組成物の流動性を改質することができる。
【0035】
(任意成分)
塗膜形成成分には、本発明の効果を損なわない範囲で、1官能のチオール化合物を含有させてもよい。この場合、1官能のチオール化合物の含有量は、塗膜形成成分100質量%中、0〜1質量%が好ましい。1官能のチオール化合物の含有量が1質量%を超えると、上述したように、架橋反応が進行せず、被覆膜の高分子量化が困難となり、平均分子量が低くなる。その結果、強度が不十分で脆い被覆膜が形成されやすくなり、金属薄膜に十分な耐擦傷性を付与しにくくなる。
【0036】
<その他成分>
塗料組成物には、上述した塗膜形成成分の他、通常、光重合開始剤が含まれる。光重合開始剤としては、例えば商品名として、イルガキュア184、イルガキュア149、イルガキュア651、イルガキュア907、イルガキュア754、イルガキュア819、イルガキュア500、イルガキュア1000、イルガキュア1800、イルガキュア754(以上、チバスペシャリティ・ケミカルズ(株)製)、ルシリンTPO(BASF社製)、カヤキュアDETX−S、カヤキュアEPA、カヤキュアDMBI(以上、日本化薬(株)製)等が挙げられる。これら光重合開始剤は1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
また、光重合開始剤とともに、光増感剤や光促進剤を使用してもよい。
【0037】
光重合開始剤の含有量は、2官能以上のチオール化合物と活性エネルギー線硬化性化合物との合計100質量部に対して、1〜20質量部が好ましく、2〜10質量部がより好ましい。光重合開始剤の含有量が上記範囲内であれば、十分な架橋密度が得られる。
【0038】
塗料組成物は、必要に応じて各種溶剤を含んでいてもよい。溶剤としては、例えば、トルエン、キシレン、ソルベントナフサ、メチルシクロヘキサン、エチルシクロヘキサンなどの炭化水素系溶剤;酢酸エチル、酢酸ブチル、酢酸エチレングリコールモノメチルエーテルなどのエステル系溶剤、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、ジイソブチルケトンなどのケトン系溶剤が挙げられる。これら溶剤は1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
また、塗料組成物は、紫外線吸収剤、酸化防止剤、ラジカル補足剤、表面調整剤、可塑剤、顔料沈降防止剤など、通常の塗料に用いられる添加剤や、艶消し剤、染料、顔料を適量含んでいてもよい。
【0039】
塗料組成物は、上述の2官能以上のチオール化合物および活性エネルギー線硬化性化合物の他、必要に応じてシランカップリング剤、熱可塑性樹脂等を含有する塗膜形成成分と、光重合開始剤、溶剤、各種添加剤等のその他成分とを混合することにより調製できる。
塗料組成物中の塗膜形成成分の割合は必要に応じて設定できるが、塗料組成物100質量%中、40〜98質量%が好ましく、50〜95質量%が好ましい。
【0040】
こうして調製された塗料組成物を硬化後の塗膜厚さが5〜100μm程度となるように、スプレー塗装法、刷毛塗り法、ローラ塗装法、カーテンコート法、フローコート法、浸漬塗り法などで金属薄膜に塗装した後、例えば100〜3000mJ程度(日本電池(株)製「UVR−N1」による測定値)の紫外線をヒュージョンランプ、高圧水銀灯、メタルハライドランプ等を用いて1〜10分間程度照射することにより、被覆膜を形成できる。
活性エネルギー線としては、紫外線の他、電子線、ガンマ線なども使用できる。
【0041】
以上説明した本発明の塗料組成物は、2官能以上のチオール化合物と活性エネルギー線硬化性化合物を含有する塗膜形成成分を含んでいるため、金属薄膜に対する付着性、特に冷熱繰り返し付着性に優れ、金属薄膜に高い耐水性、防錆性、耐アルカリ性、および耐擦傷性を付与できる被覆膜を形成することができる。
また、本発明の塗料組成物は活性エネルギー線硬化性であるので、熱硬化性の塗料に比べて硬化に要する時間が短時間ですみ、生産性よく被覆膜を形成できる。
【0042】
本発明の塗料組成物は、後述する金属薄膜の被覆用として好適であるが、特に蒸着膜、スパッタリング膜、または湿式メッキ法により形成されるメッキ膜を被覆するのに適している。また、これら金属薄膜のトップコート用としても好適である。
【0043】
[光輝性複合塗膜]
本発明の光輝性複合塗膜は、基材表面に設けられた金属薄膜と、本発明の金属薄膜用塗料組成物を金属薄膜に被覆して形成された被覆膜とを備える。
金属薄膜は、基材表面に必要に応じてベースコート層を設けた後、蒸着法、スパッタリング法、または湿式メッキ法等により形成される。基材の材質の具体例としては、アルミニウム、鉄、真鍮、銅、スズなどの金属や、ABS、PC、PPなどの樹脂が挙げられる。特に、基材の材質が樹脂の場合は、基材表面にベースコート層を設けるのが好ましい。
なお、ベースコート層を形成する塗料としては、基材に対する付着性が良好なものであれば特に限定されず、熱硬化性の塗料であってもよく、活性エネルギー線硬化性の塗料であってもよい。
【0044】
金属薄膜の材質としては、アルミニウム、鉄、ニッケル、クロム、銅、銀、スズ、インジウム、これらの合金などが挙げられるが、本発明の塗料組成物は特にアルミニウムや、クロムまたはクロム合金に対する付着性に優れ、高い耐水性、防錆性、耐アルカリ性、耐擦性を付与できる。
また、基材表面に設けられた金属薄膜の厚さは、15〜100nmが好ましく、30〜80nmがより好ましく、40〜60nmが特に好ましい。金属薄膜の厚さが15nm未満であると、反射率が低下して光輝感が乏しくなる傾向にある。一方、金属薄膜の厚さが100nmを超えると、クラックや剥離が発生しやすくなる。
【0045】
上述の金属薄膜の表面に本発明の塗料組成物を被覆して被覆膜を形成することで、金属薄膜と被覆膜とを備え、かつ金属薄膜に対する被覆膜の付着性、特に冷熱繰り返し付着性が良好で、耐水性、防錆性、耐アルカリ性、および耐擦傷性に優れた光輝性複合塗膜が得られる。
特に、金属薄膜の材質としてクロムまたはクロム合金を用いれば、光の反射率が高く、腐食しにくく、かつ、高級感のある光輝性複合塗膜が得られる。
このような光輝性複合塗膜の用途としては特に制限はなく、アルミサッシなどの建材や、自動車などの車両部品など、種々のものが例示できる。
【0046】
なお、本発明の塗料組成物より形成される被覆膜は、金属薄膜を被覆していれば、最上層のトップコートとして設けられてもよく、中間層として設けられてもよい。中間層として設けられる場合、被覆膜の上には、必要に応じて、アクリル系ラッカー塗料、アクリルメラミン硬化系クリヤー塗料、アルミキレート硬化型アクリル系塗料などの熱硬化型のトップクリヤー塗料や、活性エネルギー線硬化型のトップクリヤー塗料からなるトップクリヤー層などを形成させてもよい。
【0047】
以上説明した本発明の光輝性複合塗膜は、本発明の塗料組成物より形成される被覆膜を備えるので、金属薄膜と被覆膜との密着性が良好で、耐水性、防錆性、耐アルカリ性、および耐擦傷性に優れる。特に、温度変化のある環境下においても、金属薄膜と被覆膜との密着性を良好に維持できる。
また、光輝性複合塗膜を作製する際は、活性エネルギー線を照射することで被覆膜を形成するので、熱硬化の場合に比べて硬化に要する時間が短時間ですみ、生産性にも優れる。
【実施例】
【0048】
以下、本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されない。
[脂環構造を有するウレタン(メタ)アクリレートの合成]
1,6−ヘキサンジオール(宇部興産(株)製)59質量部、水添キシリレンジイソシアネート(三井武田ケミカル(株)製)194質量部を、攪拌機、温度計を備えた500mlのフラスコに仕込み、窒素気流下において70℃で4時間反応させた。ついで、このフラスコ中にさらに2−ヒドロキシエチルアクリレート(共栄化学工業(株)製)116質量部、ハイドロキノン0.6質量部、ジブチルスズジラウレート0.3質量部を加え、フラスコ内の内容物に空気をバブリングしながら、70℃でさらに5時間反応させ、脂環構造を有するウレタン(メタ)アクリレート(環状ウレタンオリゴマー)を得た。
【0049】
[金属薄膜の形成]
<スパッタリング法;クロムスパッタリング膜>
(形成例1:ABS基材)
ABS板の表面に、UV硬化型ベースコート用塗料(藤倉化成(株)製「フジハード VB2979U−42」を、硬化後の塗膜厚が15μmになるように、スプレーガンでスプレー塗装した。ついで、高圧水銀灯により300mJ(日本電池社製「UVR−N1」による測定値)の紫外線を2〜3分間照射して、ベースコート層を形成させた。ついで、スパッタリング装置((株)徳田製作所製「CFS−8ES」)を用い、ベースコート層上にクロムの金属材料をスパッタリングすることにより、クロム薄膜(クロムスパッタリング膜)を形成させた。該クロムスパッタリング膜の厚さは50nmであった。
【0050】
(形成例2:アルミニウム基材)
基材として、ABS板からアルミニウム板に変更し、UV硬化型ベースコート用塗料(藤倉化成(株)製「フジハード VB7654U−N8」を用いた以外は、形成例1と同様にして基材上にクロムスパッタリング膜を形成させた。該クロムスパッタリング膜の厚さは50nmであった。
【0051】
<蒸着法;アルミニウム蒸着膜>
(形成例3:ABS基材)
形成例1と同様にして、ABS板の表面にベースコート層を形成させた。ついで、蒸着装置((株)アルバック製「EX−200」)を用い、ベースコート層上にアルミニウムの金属材料を蒸着することにより、アルミニウム薄膜(アルミニウム蒸着膜)を形成させた。該アルミニウム蒸着膜の厚さは80nmであった。
【0052】
[実施例1]
表1に示す固形分比率(質量比)で各成分を混合して、液状の塗料組成物を調製した。
ついで、表1に示す形成法(形成例)にて形成した金属薄膜の表面に、得られた塗料組成物を、硬化後の塗膜厚が20μmになるように、スプレーガンでスプレー塗装した。ついで、80℃×3分間の条件で溶剤を乾燥させた後、高圧水銀灯により300mJ(日本電池社製UVR−N1による測定値)の紫外線を2〜3分間照射して、被覆膜を形成し、これを試験片とした。
このようにして得られた試験片について、以下に示すように、初期付着性、耐水性、防錆性、耐アルカリ性、冷熱繰り返し付着性、耐擦傷性(鉛筆硬度)を評価した。結果を表1に示す。
【0053】
<評価>
(初期付着性の評価)
試験片の塗膜(被覆膜)に1mm幅で10×10の碁盤目状にカッターで切れ目を入れ、碁盤目状の部分にテープを貼着し剥がす操作を実施し、以下の評価基準にて評価した。なお、テープとしては、セロハンテープを使用した。
○:塗膜が全く剥がれない。
△:塗膜の角の部分が剥がれた。
×:1個以上の塗膜が剥がれた。
【0054】
(耐水性の評価)
試験片を40℃の温水に24時間、および240時間浸漬した後、塗膜(被覆膜)に1mm幅で10×10の碁盤目状にカッターで切れ目を入れ、碁盤目状の部分にテープを貼着し剥がす操作を実施し、以下の評価基準にて評価した。なお、テープとしては、セロハンテープを使用した。
○:240時間温水に浸漬させても、塗膜が全く剥がれない。
△:浸漬時間が24時間であれば、塗膜が全く剥がれない。
×:24時間の浸漬で、1個以上の塗膜が剥がれた。
【0055】
(防錆性の評価)
キャス試験機(板橋理化工業(株)製「SQ−800−CA」)を用い、JIS H 8681−2に準じ、12時間、120時間の条件において防錆性試験を実施した。その後、目視にて金属薄膜の腐食の有無について観察し、以下の評価基準にて評価した。
○:120時間の防錆性試験を行っても、金属薄膜の腐食が確認されない。
△:12時間の防錆性試験を行っても、金属薄膜の腐食が確認されない。
×:12時間の防錆性試験で、金属薄膜の腐食が確認された。
【0056】
(耐アルカリ性の評価)
試験片を0.1規定の水酸化ナトリウム水溶液に24時間浸漬した後、以下の評価基準にて、外観を目視評価した。
○:異常が確認されない。
△:金属薄膜に変色または溶出等の異常が確認されたが、異常が確認された面積は5%未満であった。
×:金属薄膜に変色または溶出等の異常が確認されたが、異常が確認された面積は5%以上であった。
【0057】
(冷熱繰り返し付着性)
試験片を−40℃で2時間保持した後80℃で2時間保持することを1サイクルとし、合計50サイクル行った後、塗膜(被覆膜)に1mm幅で10×10の碁盤目状にカッターで切れ目を入れ、碁盤目状の部分にテープを貼着し剥がす操作を実施し、以下の評価基準にて評価した。なお、テープとしては、セロハンテープを使用した。
○:硬化保護膜が全く剥がれない。
△:硬化保護膜の角の部分が剥がれた。
×:1個以上の硬化保護膜が剥がれた。
【0058】
(耐擦傷性(鉛筆硬度)の評価)
JIS K 5600に準じ、塗膜(被覆膜)の鉛筆硬度を測定し、以下の評価基準にて評価した。
○:鉛筆硬度が3H以上。
△:鉛筆硬度がHまたは2H。
×:鉛筆硬度がH未満。
【0059】
[実施例2〜9、比較例1〜5]
表1〜3に示す固形分比率(質量比)で各成分を混合して、液状の塗料組成物を調製した。こうして得られた塗料組成物を使用した以外は実施例1と同様にして、試験片を作製、評価した。結果を表1〜3に示す。
【0060】
なお、表中の各成分の内容は以下の通りである。
(1)2官能チオール(1,4−ビス(3−メルカプトブチリルオキシ)ブタン):昭和電工社製、「カレンズMT.BD1」。
(2)4官能チオール(ペンタエリスリトールテトラキス(3−メルカプトブチレート)):昭和電工社製、「カレンズMT.PE1」。
(3)1官能チオール(1−デカンチオール):和光純薬工業社製。
(4)2官能脂環モノマー(ジメチロールプロパンジアクリレート):日本化薬社製、「カヤラッドR−684」。
(5)1官能脂環モノマー(イソボロニルアクリレート):ダイセルサイテック社製、「エベクリルIBOA」。
(6)ウレタンオリゴマー(6官能非脂環構造):ダイセルサイテック社製、「エベクリル1290」。
(7)6官能モノマー(DPHA、ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート):日本化薬社製、「カヤラッドDPHA」。
(8)3官能モノマー(TMPTA、トリメチロールプロパントリアクリレート):東亞合成社製、「アロニックスM−309」。
(9)2官能モノマー(ヘキサンジオールジアクリレート):BASF社製、「Laromer HDDA」。
(10)エポキシシラン(2−(3、4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン):東レ・ダウコーニング社製、「Z−6043」。
(11)(メタ)アクリロイルシラン(3−アクリロキシプロピルトリメトキシシラン):東レ・ダウコーニング社製、「Z−6530」。
(12)光重合開始剤:チバスペシャリティ・ケミカルズ社製、「イルガキュア184」。
【0061】
【表1】

【0062】
【表2】

【0063】
【表3】

【0064】
表1〜3から明らかなように、実施例によれば、金属薄膜に対する付着性に優れると共に、耐水性、防錆性、耐アルカリ性が良好であり、かつ、高い鉛筆硬度を備えた耐擦傷性の良好な被覆膜を形成できた。また、実施例で得られた被覆膜は、冷熱繰り返し付着性にも優れていた。
【0065】
一方、比較例1では、耐水性、防錆性、耐アルカリ性が良好であり、かつ、高い鉛筆硬度を備えた耐擦傷性の良好な被覆膜を形成できた。しかし、比較例1で得られた塗料組成物は2官能以上のチオール化合物を含有していないので、この塗料組成物より形成される被覆膜は初期の付着性には優れるものの、冷熱繰り返し付着性は実施例に比べて劣っていた。
【0066】
比較例2、3で得られた塗料組成物は、2官能以上のチオール化合物の含有量が少なかったため、チオール化合物の効果を十分に発揮できず、冷熱繰り返し付着性が実施例に比べて劣っていた。
特に、比較例2の場合は、脂環構造を有する活性エネルギー線硬化性化合物の割合が30質量%と少なかったため、耐水性、防錆性、耐アルカリ性、および耐擦傷性も実施例に比べて劣っていた。
【0067】
比較例4で得られた塗料組成物は、2官能以上のチオール化合物の含有量が15質量%と多かったため、実施例や他の比較例に比べてチオール化合物と反応する活性エネルギー線硬化性化合物の割合が増え、活性エネルギー線硬化性化合物同士の重合反応が抑制されやすかった。その結果、柔らかい被覆膜が形成され、金属薄膜に十分な耐擦傷性を付与できなかった。
【0068】
比較例5で得られた塗料組成物は、2官能以上のチオール化合物を含有せず、1官能のチオール化合物を含んでいたため、架橋反応が進行せず、被覆膜の高分子量化が困難であった。その結果、強度が低く脆い被覆膜が形成され、金属薄膜に十分な耐擦傷性を付与できなかった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材表面に設けられた金属薄膜を被覆する金属薄膜用塗料組成物であって、
2官能以上のチオール化合物を3〜12質量%と、活性エネルギー線硬化性化合物(ただし、1官能以上のチオール化合物を除く)とを含む塗膜形成成分を含有することを特徴とする金属薄膜用塗料組成物。
【請求項2】
前記活性エネルギー線硬化性化合物は、脂環構造を有する活性エネルギー線硬化性化合物を50質量%以上含むことを特徴とする請求項1に記載の金属薄膜用塗料組成物。
【請求項3】
前記塗膜形成成分は、エポキシ基および/またはビニル基を有するシランカップリング剤を20質量%以下含むことを特徴とする請求項1または2に記載の金属薄膜用塗料組成物。
【請求項4】
前記金属薄膜と、請求項1〜3のいずれかに記載の金属薄膜用塗料組成物を前記金属薄膜に被覆して形成された被覆膜とを備えたことを特徴とする光輝性複合塗膜。




【公開番号】特開2010−65124(P2010−65124A)
【公開日】平成22年3月25日(2010.3.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−232325(P2008−232325)
【出願日】平成20年9月10日(2008.9.10)
【出願人】(000224123)藤倉化成株式会社 (124)
【Fターム(参考)】