説明

金属表面のための低摩擦係数のコーティング

【課題】金属表面に低摩擦係数のコーティングを施す方法と装置を提供する。
【解決手段】金属表面、該金属表面上に付着する下塗層、該下塗層に付着するトップコートを含有する、外科用ニードル、かみそり、切断/スライス装置のような外科用装置、ニードルのような物品もしくは装置が開示され、ここで該下塗層がシラノール含有オルガノポリシロキサン樹脂とアルキルシリカートである架橋剤とを含有する下塗組成物により形成され、そして該トップコートがアルケニル官能性ポリオルガノシロキサン、オルガノヒドロゲンシロキサンおよびヒドロシリル化触媒を含むトップコート組成物より形成される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、低摩擦係数のコーティングによってコートされた少なくとも一つの金属表面を持つ物品もしくは装置に関する。とりわけ、それは、少なくとも部分的に縮合重合したシラノール官能性シロキサンによって下塗りされ、そしてその後に添加重合したアルケニル官能性シロキサンのトップコートによってコートされた少なくとも一つの金属表面を含む物品もしくは装置に関する。本発明はまた、そのようなコートされた物品もしくは装置を作製する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
外科用装置、ニードル、かみそりのような物品の金属表面のシリコーンによるコーティングは公知である。例えば、米国特許第6,210,437号は、ケイ素水酸化物およびケイ素水素化物の基を持つ短鎖シリコーンの第一の層とシリコーンポリマーの第二の層とによってコートされた金属表面を含む医療機器を開示し、第一の層の短鎖シリコーンは金属へとケイ素水素化物の末端ではないケイ素水酸化物基を介して結合し、第二の層のシリコーンポリマーは第一の層の短鎖シリコーンのケイ素水素化物基へとビニル基を介して共有結合する。
【0003】
米国特許第5,985,355号は、外科用ニードルのコーティングプロセスを開示する。プロセスは、ニードルの表面へ縮合可能なポリメチルシロキサン含有組成物を塗布する事によって、ニードルの表面上に第一の平滑コーティングを形成する事と、第一のコーティング上にアミノおよびアルコキシ官能性シロキサン含有組成物を塗布することによって平滑コーティング上に第二のスリップコーティングを形成する事とを含む。
【0004】
米国特許第4,720,521号は、皮下注射ニードル、かみそりブレード、カテーテルなどをコートするのに用いるための薄膜形成シロキサン組成物を開示する。組成物は、二つもしくはそれ以上のビニル基を持つ第一のシロキサンポリマー、二つもしくはそれ以上のペンダント水素基を持つ第二のシロキサン架橋ポリマー、二つもしくはそれ以上の末端水素基を持つ第三のシロキサン鎖伸長ポリマーの組み合わせを含む反応性成分、ならびに(R)SiO(SiRO)Si(R)〔式中、RはC1−C20アルキル、ハロアルキル、アリール、ハロアリール、シクロアルキル、シラシクロペンチル、アラルキルおよびそれらの混合物であり、そしてZは約20から約1,800である〕の式を持つ非反応性成分を含む。
【0005】
米国特許第6,936,297号は、少なくとも一つのポリジアルキルシロキサンとアミノアルキルシロキサンと少なくとも一つの他の共重合可能なシロキサンと少なくとも一つの他のシリコン処理用物質とのコーティング混合物を用いる事によるシリコン処理をした外科用ニードルを作製する方法を開示する。
【0006】
米国特許第5,536,582号は、縫合ニードルのような滑らかな基体へと用いる事の出来る水性のシリコーンコーティング組成物を開示する。コーティング組成物は、非反応性のポリジメチルシロキサン、反応性のシロキサンポリマー、および少なくとも一つの分散剤を含み、ここで反応性シロキサンポリマーは、アミノアルキルシロキサンと少なくとも一つの他の共重合可能なシロキサンとの混合物である。
【0007】
残念な事に、従来技術におけるコーティング物質のいくつかは高い硬化温度および長い硬化期間とを必要とする。例えば、米国特許’437号は、そこに開示されるコーティングが140℃で4時間硬化されることを例示する。米国特許’355号は、縮合可能なポリメチルシロキサンの硬化が130℃から250℃の範囲の温度で1時間から5時間の範囲の期間で起こる事を開示する。米国特許’297号は、コートされたニードルがかまど内もしくはオーブン内に約100℃から200℃の温度で約2時間から約48時間の範囲の期間、配置される事を開示する。
【0008】
これまで、硬化されたコーティング物質はしばしば金属基体へと共有結合するその能力に関して満足できない状態であった。従って、それらのコーティングの堅牢性は基体からの層間剥離の危険によって限定されるであろう。
【0009】
さらに従来技術のコーティングのいくつかは比較的高い摩擦係数を持つ。このようなコーティングは小さい組織貫通するための力を持つ事を必要とする外科用ニードルや、低い皮膚への刺激を必要とするかみそり刃のような低い摩擦を必要とする用途には適さないので、それらは望ましくない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
従って、コーティング分野において、従来技術よりも、より低い温度でより短い硬化期間で硬化できる堅牢性のある、低い摩擦抵抗のコーティングによってコートされた金属表面を持つ物品もしくは装置への必要性が存在する。本発明はその必要性への解決策を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0011】
一実施態様において、本発明は金属表面、前記金属表面上に付着する下塗層および前記下塗層に付着するトップコートを持つ物品に関し、前記下塗層がシラノール含有オルガノポリシロキサン樹脂とアルキルシリカートである架橋剤とを含有する下塗組成物により形成され、そして前記トップコートがアルケニル官能性ポリオルガノシロキサン、オルガノヒドロゲンシロキサンおよびヒドロシリル化触媒を含むトップコート組成物より形成される。
【0012】
本発明の物品は、本発明の物品は、例えば、外科用ニードル、かみそり、切断/スライス装置のような外科用装置、ニードルおよび物品のためのヘルスケア関連装置のような用途に好適である。物品上のコーティングは堅牢性であり、低い摩擦係数を示す。このコーティングをニードルのような装置へと塗布する事は、より少ない力で装置が組織を貫通する性能を向上させるのを助けることができる。
【0013】
他の実施態様において、本発明は、コートされた金属表面を持つ物品もしくは装置を作製する方法に関し、方法は(1)少なくとも一つ金属表面を持つ物品もしくは装置を提供するステップ、(2)下塗組成物およびコーティング組成物を提供するステップであって、ここで下塗組成物がシラノール含有オルガノポリシロキサン樹脂とアルキルシリカートである架橋剤とを含有し、そしてここでトップコート組成物がアルケニルアルケニル官能性ポリオルガノシロキサン、オルガノヒドロゲンシロキサンおよびヒドロシリル化触媒とを含有するステップ、(3)前記金属表面を前記下塗組成物と接触させて下塗層を形成するステップ、(4)前記下塗層を前記トップコート組成物と接触させトップコートを形成するステップ、(5)前記下塗層と前記トップコートとを硬化して、それによって前記物品もしくは装置を作製するステップを含有する。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明の物品もしくは装置は少なくとも一つの金属表面を持つ。金属表面の物質は特に限定はされないが、ヘルスケア物品もしくは装置において汎用される任意の金属もしくは金属合金を含んで良い。例示的な金属物質は、ステンレス鋼、タングステン、ニッケル、コバルト、モリブデン、スズ、バナジウム、チタン、アルミニウム、鉄、銅、亜鉛、銀、鉛もしくはそれらの金属合金を含む。好ましくは金属表面は、ステンレス鋼もしくはタングステンのような生体適合性のある物質を含有する。
【0015】
本発明によると、金属表面は下塗層と、下塗層を覆うトップコートとによってコートされる。ここで「トップコート」によって、下塗層を覆うコーティング層を意味する。ここで用いられるとき、トップコート上に上塗りを形成する事が望まれるとき、一つもしくはそれ以上の追加のコーティングの層がトップコート上に付着されることは好ましい。
【0016】
下塗層を形成するのに好適な組成物は、シラノール含有オルガノポリシロキサン樹脂とアルキルシリカートである架橋剤とを含有する。一実施態様において、下塗組成物は本質的にこれら二つの成分からなる。好ましくは、下塗組成物中に、シラノール含有オルガノポリシロキサン樹脂が、約70〜95重量%の、より好ましくは80〜90重量%の範囲の量で存在し、そして架橋剤が5〜約30重量%の、より好ましくは約10〜約20重量%の量で存在し、これらは下塗組成物の固形成分含有量に基づく。
【0017】
下塗組成物に有用なシラノール含有オルガノポリシロキサン樹脂は、シラノール末端オルガノポリシロキサンを含む。好適なシラノール含有オルガノポリシロキサンは式I:
(式I)
によって表わされ、
式中、M=RSiO1/2;D=RSiO2/2;T=RSiO3/2;そしてQ=SiO4/2であり、ここで下付文字、a、b、cおよびdはゼロもしくは正の数であり、オルガノポリシロキサン樹脂が芳香族溶剤中で50重量%の固形物溶液に基づいて、約5センチストークスと10,000センチストークスとの間で変化する粘度を有するように選択され、そしてここで各々のR、R、R、R、RおよびRが独立して、水素、ヒドロキシル、C1からC60の一価のアルキルラジカル、C1からC60の一価のハロアルキルラジカル、C1からC60の一価のアリールラジカル、C1からC60の一価のアルキルアリールラジカルおよびC1からC60の一価のハロアルキルアリールラジカルからなる群より選択され、ここでR、RおよびRの少なくとも一つがヒドロキシルであるという限定に従う。一実施態様において、R〜Rは独立してヒドロキシル、C1からC40のアルキルラジカル、より好ましくはC1からC20のアルキルラジカル、さらにより好ましくはC1〜C5のラジカルであり、R、R、Rの少なくとも一つがヒドロキシルであるという限定に従う。
【0018】
好ましくは、本発明の下塗組成物に好適なシラノール含有オルガノポリシロキサン樹脂は式:
(式II)
を持ち、
ここで、D=RSiO2/2、T=RSiO3/2であり、ここで各々のR、RおよびRは独立して、アルキルであり、例えばメチル、エチルもしくはプロピルであり、好ましくはメチル、ヒドロキシル、アルコキシもしくはアシロキシであり、1分子中のR、RおよびRの少なくとも一つがヒドロキシルであるという条件であり、eは約160から約450までであり、そしてfは約15から約50である。好ましい実施態様において、それは式(II)によって定義されるメチルシリコーン樹脂である。
【0019】
下塗層に好適な架橋剤はアルキルシリカートであり得る。本発明に用いるアルキルシリカートは、以下の式:Si(OR10)(OR11)(OR12)(OR13)(式III)によって表わされる少なくとも一つのテトラアルキルシリカートを部分的に加水分解して得られる、少なくとも一つの有機溶剤に可溶の縮合物である。この式に関連して、R10、R11、R12およびR13の各々は1から4個の炭素原子を含有するアルキル基である。
【0020】
テトラアルキルシリカートの例は、テトラメチルシリカート、トリメチルモノエチルシリカート、ジメチルジエチルシリカート、トリメチルモノプロピルシリカート、トリメチルモノブチルシリカート、モノエチルトリエチルシリカート、テトラエチルシリカート、ジメチルジブチルシリカート、トリエチルモノブチルシリカート、トリエチルモノ−tert−ブチルシリカート、ジエチルジブチルシリカート、ジエチルジ−tert−ブチルシリカート、テトラプロピルシリカート、テトライソプロピルシリカート、モノエチルトリブチルシリカート、ジイソプロピルジブチルシリカート、モノイソプロピルトリイソブチルシリカート、モノイソプロピルトリ−tert−ブチルシリカート、トリ−sec−ブチルモノ−tert−ブチルシリカート、テトラブチルシリカート、テトライソブチルシリカート、テトラ−sec−ブチルシリカートおよびテトラ−tert−ブチルシリカートを含む。それらの中で、テトラエチルシリカートが特に好ましい。
【0021】
縮合物は有機溶剤に可溶性のテトラアルキルシリカート縮合物であり、塩酸のような好適な触媒の存在下で有機溶剤中にて、式(III)のテトラアルキルシリカートを、部分的な加水分解に必要とされる量の水によって部分的に加水分解して得られる。特に好ましい縮合物はテトラエチルシリカートの縮合物である。
【0022】
好ましくは、下塗組成物中において溶剤は必要とされない。しかしながら、もし必要であるなら、溶剤を下塗組成物中において使用してもよい。アルカン、エーテルなどのような汎用の炭化水素溶剤は有用である。好ましくは、溶剤は低い沸点を持つ。一実施態様において、用いられる溶剤はヘキサンである。
【0023】
下塗組成物は、下塗組成物中のシラノール含有オルガノポリシロキサンおよびアルキルシリカートの総重量に基づいて、5から1000ppmの触媒をさらに含有しても良い。触媒は、下塗組成物の成分間の縮合反応を促進する。好適な触媒は、塩化鉄、亜鉛のカルボン酸塩、チタン、スズ、ジルコニウムもしくはそれらの組み合わせであり、例えば、2−エチルヘキサン酸亜鉛、オクチル酸亜鉛、チタン酸エステル、チタン酸テトライソプロピル、チタン酸テトラブチル、ジブチルスズジラウラート、ジメチルスズジネオデカノエート、ジオクチル酸ジブチルスズ、ジメチルスズオキシド、オレイン酸ジメチルヒドロキシスズ、ジブチルスズビス(アセチルアセトナート)および2−エチルヘキサン酸ジルコニウムのようなものを含むがそれらに限定されない。好ましい実施態様において触媒は塩化鉄である。
【0024】
下塗層を覆うトップコート層を形成するのに用いて良いトップコート組成物は、アルケニル官能性オルガノポリシロキサン、オルガノヒドロゲンシロキサン、ヒドロシリル化触媒、そして任意選択で溶剤を含有する。アルケニル官能性オルガノポリシロキサンは、トップコート組成物中に、トップコート組成物の固形成分含有量に基づいて、約0.5から約30重量%の、好ましくは約1から約10重量%の範囲の量で存在する。オルガノヒドロゲンシロキサンは、トップコート組成物中におけるSiHとSi−アルケニル(Vi)官能性基とが0.8から10の、そして好ましくは1.2から8の、より好ましくは1.5から5のモル比であるような量で存在する。ヒドロシリル化触媒は、トップコート組成物中のアルケニル官能性オルガノポリシロキサンとオルガノヒドロゲンシロキサンとの総重量に基づいて、約5から約500ppmの、好ましくは約10から約100ppmの量で存在する。
【0025】
トップコート組成物中においての使用に好適なアルケニル官能性オルガノポリシロキサンは一般式:
【化1】


を持つ、ビニル鎖末端化ポリシロキサンであり得、
式中、R14は不飽和のない一価の炭化水素ラジカルであり、R15はアルケニル不飽和を持つ炭化水素ラジカルであり、xは0から6300であり、yは0から250であり、x+yの合計が少なくとも80であるという条件である。一実施態様において、Rは置換のもしくは不置換のアリール、アルカリールもしくはアルキル基を含む。好ましくは、R14は、メチル、エチル、プロピルのようなアルキルであり、好ましくはメチル基であり、そしてR15はビニルもしくはビニルエーテル基である。
【0026】
本発明のトップコート組成物に好適な、上述の式の好ましい直鎖アルケニル官能性オルガノポリシロキサンの例は、(CH=CH)(CHSiO[Si(CHO]100[Si(CH)(CHCHCHCHCH=CH)O]−Si(CH(CH=CH)、(CH=CH)(CHSiO[Si(CHO]100[Si(CH)(CH=CH)O]Si(CH(CH=CH)、(CH=CH)(CHSiO[Si(CHO]6300[Si(CH)(CH=CH)O]250Si(CH(CH=CH)、(CH=CH)(CHSiO[Si(CHO]6300[Si(CH)(CH=CH)O]Si(CH(CH=CH)、(CH=CH)(CHSiO[Si(CHO]80Si(CH(CH=CH)、(CH=CH)(CHSiO[Si(CH)(CH=CH)O]150Si(CH(CH=CH)、およびそれらの混合物を含む。
【0027】
トップコート組成物のオルガノヒドロゲンシロキサンは、
MD
MD
MD
および

からなる群より選択される式を持つ実質的に直鎖のヒドロゲンシロキサンであり、
式中、
MはR16SiO1/2として定義され、
はH163−gSiO1/2として定義され、
D=R1616SiO2/2であり
=R16HSiO2/2であり、
ここで、R16は独立して、1から40個の炭素原子の、好ましくは1から20個の炭素原子の、より好ましくは1から6個の炭素原子の、そして最も好ましくは1個と炭素原子の一価の炭化水素であり、下付き文字rおよびsはゼロもしくは正の数であって良く、rとsの合計は約10から約100の範囲であり、rとgの合計は少なくとも2であるという条件である。
【0028】
本発明の他の実施態様において、R16は置換のもしくは不置換のアリール、アルカリールもしくはアルキル基を含む。好ましくは、Rはメチル基のようなアルキルである。
【0029】
本発明の好ましい実施態様において、オルガノヒドロゲンシロキサンはMDMであり、式中kは0より大きく約100より小さく、好ましくは1から50であり、より好ましくは2から25であり、そしてもっとも好ましくは5から10である。MおよびDは上述のように定義される。
【0030】
汎用の白金ヒドロシリル化触媒を、上述のアルケニル官能性ポリオルガノシロキサン中の炭素−炭素の多重結合と本発明のオルガノヒドロゲンシロキサン架橋剤中のケイ素結合の水素原子との間の付加反応を触媒するヒドロシリル化触媒として用いても良い。一般的に、シリコーン組成物の付加架橋のための任意のヒドロシリル化触媒を用いても良い。好ましく用いられるものは白金、パラジウム、イリジウム、ロジウムおよびルテニウムのような金属含有触媒であり、白金および白金化合物が好ましい。特に好ましいのは、ポリオルガノシロキサン可溶性白金−ビニルシロキサン策体およびヘキサクロロ白金酸である。
【0031】
任意選択で、トップコート組成物はヒドロシリル化金属触媒の阻害剤を含有する。阻害剤はオルガノシリコンの分野において周知である。そのような金属触媒阻害剤のさまざまな種類の例は、エチレン不飽和もしくは芳香族不飽和のアミドのような不飽和の有機化合物(米国特許第4,337,332号)、アセチレン化合物(米国特許第3,445,420号、米国特許第4,347,346号および米国特許第5,506,289号)、エチレン不飽和イソシアナート(米国特許第3,882,083号)、オレフィンシロキサン(米国特許第3,989,667号)、不飽和炭化水素ジエステル(米国特許第4,256,870号、米国特許第4,476,166号および米国特許第4,562,096号)および共役エン‐イン(米国特許第4,465,818号および米国特許第4,472,563号)、ヒドロペルオキシド(米国特許第4,061,609号)、ケトン(米国特許第3,418,731号)、スルホキシド、アミン、ホスフィン、ホスファイト、ニトリル(米国特許第3,344,111号)、ジアジリジン(米国特許第4,043,977号)ハーフエステルおよびハーフアミド(米国特許第4,533,575号)のような他の有機化合物、および様々な塩(米国特許第3,461,185号のようなもの)を含む。本発明の組成物はこれらの種類の阻害剤の任意のものからの阻害剤を含有できる。
【0032】
阻害剤は、エチレン不飽和アミド、芳香族不飽和アミド、アセチレン化合物、エチレン不飽和イソシアナート、オレフィンシロキサン、不飽和炭化水素ジエステル、不飽和酸不飽和炭化水素モノエステル、共役エン−イン、ヒドロペルオキシド、ケトン、スルホキシド、アミン、ホスフィン、ホスファイト、ニトリルおよびジアジリジンからなる群より選択して良い。
【0033】
任意選択で、溶剤をトップコート組成物において使用できる。好ましい実施態様において、約70から約95重量%の、好ましくは約80から約95重量%の不活性の溶剤を含む。好適な溶剤はアルキルもしくは芳香族の炭化水素またはそれらの混合物を含む。例示的な溶剤はヘプタン、ヘキサンおよびキシレンを含むがそれらに限定されない。任意選択で、エーテルおよびアルコールは少量で、通常、溶媒系の25%未満で含まれる。例示的なアルコールは、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、n−ブタノール、tert−ブタノール、メトキシプロパノール、エチレングリコール、ジエチレングリコールブチルエーテル、もしくはそれらの組み合わせを含む。所望ならアセトン、メチルエチルケトン、エチレングリコールモノプロピルエーテルおよび2−ブトキシエタノールのような他の水混和性の有機溶媒もまた、少量で利用できる。
【0034】
下塗組成物およびトップ組成物の両方を、上述の成分を単に混合する事によって作製できる。いったん、下塗組成物およびトップコート組成物が作製されると、それらを物品もしくは装置の金属表面へと塗布できる。
【0035】
本発明の他の実施態様によると、(1)少なくとも一つの金属表面を持つ物品もしくは装置を提供するステップ、(2)本発明による下塗組成物およびコーティング組成物を提供するステップ、(3)前記金属表面を前記下塗り組成物と接触させて下塗層を形成するステップ、(4)前記下塗層と前記トップコート組成物とを接触させてトップコートを形成するステップ、(5)前記下塗層と前記トップコートを硬化させてそれによって前記物品もしくは装置を作製するステップのステップを含有する、コートされた金属表面を持つ物品もしくは装置を作製する方法が提供される。
【0036】
下塗組成物を、例えば、浸し塗り(dipping)、はけ塗り(brushing)、ワイプ塗装(wiping)、スプレー塗装(spraying)、全浸漬塗装(total immersion)など当業者に公知の技術を用いて金属表面へと塗布でき、浸し塗りおよびスプレー塗装が好ましい技術である。もし下塗組成物が溶剤を含有するならトップコート組成物を基体へと塗布する前に最初に溶剤を蒸発させることが好ましい。
【0037】
トップコート組成物を、浸し塗り、はけ塗り、ワイプ塗装、スプレー塗装、全浸漬塗装などのような技術によって下塗された金属表面へと塗布できる。好ましくはニードルはトップコート組成物へと浸し塗りされて、ニードル上にトップコートを形成できる。
【0038】
下塗およびトップコートの硬化を、例えば、オーブンによる熱硬化のような当業者に周知の汎用の方法によって達成できる。好適な硬化条件はコーティング組成物による。好ましい硬化条件は、コートされた基体を80から300℃で1もしくは2秒から約20分までの期間加熱することである。より好ましい硬化条件は、コートされた基体を80℃から200℃で約5秒から約5分間までの期間加熱することである。
【0039】
本発明のコートされた物品もしくは装置は多くの用途において用いられ得る。物品へのコーティングは堅牢性でありそして低い摩擦係数を示すので、コーティングは、例えば外科用装置、ニードル、好ましくは外科用ニードル、かみそり、および切断/スライス装置のようなヘルスケア関連物品もしくは装置において特に有用である。外科用ニードルのような装置へとこのコーティングを塗布する事は、より少ない力によって組織を貫通させる装置の性能を向上させるのを助ける事ができ、そしてそれゆえ好ましい実施態様である。
【0040】
以下の実施例は説明であり、ここで開示され、特許請求される本発明の限定をするものではない。他に明確に述べられない限りは全ての部およびパーセントは重量に基づき、全ての温度は摂氏である。ここで引用される全ての特許出願、特許および他の文献は、参照によりその全ての内容をここに組み入れる。
【実施例】
【0041】
実施例
実施例1〜7および比較例(a)〜(g)
第一部:下塗組成物の調製
以下の構造を持つ成分が下塗組成物を形成するために混合された:84.23重量%の(T89.5OH、0.5重量%のOH含量に基づいてx2〜5、15.70重量%のT(OCHCH〜2.5および725ppmの塩化鉄。
【0042】
第二部:トップコート組成物の調製
以下の成分がトップコート組成物を形成するために混合された:96.67部のヘキサン、3.33部のビニル官能性ポリジメチルシロキサンガム(48.34部のMvi6300vi250viと51.66部のMvi6300vivi)、0.033部の架橋剤MviDl150viおよび0.028部の白金触媒。
【0043】
第三部:コートされた金属基体の調製
14のステンレス鋼パネル(QパネルRS−14、1.5ミリメートル(0.06インチ)×2.54センチメートル(1インチ)×10.2センチメートル(4インチ))のセットが清浄にされた。第一部で調製された下塗組成物が7つのパネルに清浄なクロスによってワイプ塗装され、そして10分間空気乾燥された。
【0044】
7つの下塗されたパネルの実施例1〜7と残りの7つの下塗されてないパネルの比較例(a)〜(g)が、浸し塗り技術を用いて第二部に記載されたトップコート組成物で塗装された。
【0045】
コートされたパネルはその後、190℃にセットされた強制空気オーブンに配置され、2、2.5、3、3.5、4、4.5および5分間硬化された。それらはオーブンから取り出され、室温に冷まされた。それぞれのコーティングのポリウレタン基体に対する動摩擦係数(CoF)が測定され、結果が表1に示された。Instrumentor社のSP−101Bスリップ/ピールテスターがASTM標準D−1894によるCoF試験を実施するために使用された。結果より、下塗層の存在が、コーティングの摩擦係数を減少させるのを助ける事が見られた。例えば、実施例7および比較例(g)に見られるように、金属パネルが下塗されるとき動摩擦係数は、下塗されていない基体と比較して、0.027から0.009へと減少した。
【0046】
【表1】

【0047】
本発明は、それらの特定の実施態様を参照して上述されてきたが、ここに開示される発明の概念から離れることなく、多くの変更、修正および変化をなしえることは明らかである。従って、添付される請求項の精神および広い範囲に入るすべてのそれらの変更、修正、変化を包含する事が意図される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属表面、前記金属表面層上に付着した下塗層、および前記下塗層上に付着したトップコートを含有し、ここで前記下塗層が、シラノール含有オルガノポリシロキサン樹脂およびアルキルシリカートである架橋剤を含有する下塗組成物より形成され、そしてここで前記トップコートがアルケニル官能性ポリオルガノシロキサン、オルガノヒドロゲンシロキサンおよびヒドロシリル化触媒を含有するトップコート組成物より形成される、物品。

【請求項2】
前記金属表面が、ステンレス鋼、タングステン、ニッケル、コバルト、モリブデン、スズ、バナジウム、チタン、アルミニウム、鉄、銅、亜鉛、銀、鉛およびそれらの組み合わせからなる群より選択される金属を含有する、請求項1に記載の物品。

【請求項3】
前記金属表面がステンレス鋼で作製される、請求項2に記載の物品。
【請求項4】
前記金属表面がタングステンを含有している、請求項2に記載の物品。

【請求項5】
前記下塗組成物中の前記シラノール含有オルガノポリシロキサン樹脂が一般式:
(式I)
によって表わされ、
式中、M=RSiO1/2;D=RSiO2/2;T=RSiO3/2;そしてQ=SiO4/2であり、ここで下付文字、a、b、cおよびdがゼロもしくは正の数であり、前記樹脂が芳香族溶剤中で50重量%の固形物溶液に基づいて、約5センチストークスと10,000センチストークスとの間で変化する粘度を有するように選択され、そしてここで各々のR、R、R、R、RおよびRが独立して、水素、ヒドロキシル、C1からC60の一価のアルキルラジカル、C1からC60の一価のハロアルキルラジカル、C1からC60の一価のアリールラジカル、C1からC60の一価のアルキルアリールラジカルおよびC1からC60の一価のハロアルキルアリールラジカルからなる群より選択され、ここでR、RおよびRの少なくとも一つがヒドロキシルであるという限定に従う、
請求項1に記載の物品。

【請求項6】
前記シラノール含有オルガノポリシロキサンが、一般式(II):
(式II)
によって表わされ、
式中、D=RSiO2/2、T=RSiO3/2であり、ここで各々のR、RおよびRが独立して、アルキル、ヒドロキシル、アルコキシもしくはアシロキシであり、1分子中のR、RおよびRの少なくとも一つがヒドロキシルであるという条件であり、eが約160から約450までであり、そしてfが約15から約50である、
請求項5に記載の物品。

【請求項7】
前記下塗り組成物中の前記アルキルシリカートが、以下の式:
Si(OR10)(OR11)(OR12)(OR13
〔式中、R10、R11、R12およびR13の各々が1から4個の炭素原子を含有するアルキル基を表わす〕
によって表わされる少なくとも一つのテトラアルキルシリカートを部分的に加水分解して得られる縮合物である、
請求項1に記載の物品。

【請求項8】
前記アルキルシリカートがテトラエチルシリカートの縮合物である、請求項7に記載の物品。

【請求項9】
前記下塗り組成物が縮合触媒をさらに含有する、請求項1に記載の物品。

【請求項10】
前記触媒が塩化鉄である、請求項9に記載の物品。

【請求項11】
前記アルケニル官能性オルガノポリシロキサンが一般式:
【化2】


を持つビニル鎖末端化ポリシロキサンであり、
式中、R14が不飽和のない一価の炭化水素ラジカルであり、R15がアルケニル不飽和を持つ炭化水素ラジカルであり、xが0から6300であり、yが0から250であり、x+yの合計が少なくとも80であるという条件である、
請求項1に記載の物品。

【請求項12】
14がメチルであり、R15がビニルもしくはビニルエーテルである、請求項11に記載の物品。

【請求項13】
前記オルガノヒドロゲンシロキサンが、
MD
MD
MD
および

からなる群より選択される式を持つ実質的に直鎖のヒドロゲンシロキサンであり、
式中、
MがR16SiO1/2として定義され、
がH163−gSiO1/2として定義され、
D=R1616SiO2/2であり
=R16HSiO2/2であり、
ここで、R16が独立して、1から40個の炭素原子の一価の炭化水素であり、下付き文字rおよびsがゼロもしくは正の数であって良く、rとsの合計が約10から約100の範囲であり、rとgの合計が少なくとも2であるという条件である、
請求項1に記載の物品。

【請求項14】
前記オルガノヒドロゲンシロキサンがMDMであり、式中、fが0より大きく、そして約100より小さく、MおよびDが請求項12において定義される通りである、請求項13に記載の物品。

【請求項15】
前記ヒドロシリル化触媒が白金系錯体である、請求項1に記載の物品。

【請求項16】
前記トップコート組成物が溶剤を含有する、請求項1に記載の物品。

【請求項17】
前記物品が外科用ニードルである、請求項1に記載の物品。

【請求項18】
前記物品が外科用装置である、請求項1に記載の物品。

【請求項19】
コートされた金属表面を持つ物品もしくは装置を作製する方法であって、(1)少なくとも一つ金属表面を持つ物品もしくは装置を提供するステップ、(2)請求項1による下塗組成物およびコーティング組成物を提供するステップ、(3)前記金属表面を前記下塗組成物と接触させて下塗層を形成するステップ、(4)前記下塗層を前記トップコート組成物と接触させトップコートを形成するステップ、(5)前記下塗層と前記トップコートとを硬化して、それによって前記物品もしくは装置を作製するステップを含有する、方法。

【請求項20】
前記金属表面を下塗組成物に接触させるステップが、浸し塗り、スプレー塗装、はけ塗りもしくはワイプ塗装からなる群より選択される、請求項19に記載の方法。

【請求項21】
前記方法が下塗層を形成するために下塗組成物を乾燥させるステップをさらに含有する、請求項19に記載の方法。

【請求項22】
前記下塗層および前記トップコートが80から300℃までの温度で約2秒から20分間のあいだ硬化される、請求項19に記載の方法。

【請求項23】
請求項19に記載の方法によって作製された物品もしくは装置。

【公開番号】特開2012−35530(P2012−35530A)
【公開日】平成24年2月23日(2012.2.23)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2010−178328(P2010−178328)
【出願日】平成22年8月9日(2010.8.9)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り モメンティブ パフォーマンス マテリアルズ インコーポレイテッド 刊行の販売促進用資料
【出願人】(508229301)モメンティブ パフォーマンス マテリアルズ インコーポレイテッド (120)
【Fターム(参考)】