説明

金属表面の耐腐食性を改善するための方法および改善された耐腐食性を有する金属ピース

耐腐食性および密着性が改善された有機性コーティングを有する金属ピースが記載されている。この該金属ピースは、表面に亜鉛または亜鉛合金めっきされた金属ピース、実質的に存在している唯一のクロムイオンとして3価のクロムを含む酸性のクロム水溶液から形成されたクロメート皮膜、および該クロメート皮膜に陰極電着された乾燥性の有機性コーティングを含む。このようなコーティングされた金属ピースを得るための方法もまた、記載されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、改善された密着性および耐腐食性を示す有機性コーティングを有する金属ピースに関する。より詳細には、本発明は、金属の耐腐食性を改善する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
金属表面に対して改善された腐食保護を提供することに、大きな注目が向けられている。この腐食保護を提供する1つの方法は、1種または種々の化成皮膜を金属表面に付与することによりコーティングを形成する方法であり、このコーティングは、腐食に対して金属を保護し、そしてその後に付与される乾燥性の有機性の仕上げ塗りの密着性を改善するためのベースとしても働く。このような化成皮膜は、種々の薬品溶液で表面処理することによって付与され、この薬品は、該表面と反応して所望のコーティングが形成される。一般的に用いられる化成皮膜組成物の中で、リン酸塩水溶液およびクロム酸塩水溶液がある。
【0003】
金属表面に対して改善された腐食保護を提供する別の方法は、金属表面に亜鉛または亜鉛合金コーティングを電着させることを含む。
【0004】
溶剤ベースの乾燥性の有機性コーティング組成物は、例えばスプレー、ディッピング、ローラー塗装などによって、金属表面に付与されている。水溶性および/または分散性樹脂ベースの塗料およびラッカーもまた、金属表面を被覆するために利用され得、これらは電気泳動によって付与され得る。塗料およびラッカーの電気泳動付与は、電気泳動と同様に、電気浸透および電気分解の現象を含む。この方法では、塗料またはラッカー内で付与されるべき物品が電極となり、電流は塗料またはラッカー溶液を介して流れる。
【0005】
上記技術は、金属表面に対する腐食保護を提供するが、さらに高い腐食保護を示し、金属および金属表面、および該金属への改善された密着性を示す乾燥性のコーティングが、引き続き必要とされている。
【発明の開示】
【課題を解決するための手段】
【0006】
金属の耐腐食性を改善する方法が記載されている。この方法は、
(A)金属を亜鉛または亜鉛合金めっきして、亜鉛または亜鉛合金表面を形成する工程、
(B)実質的に存在している唯一のクロムイオンとして3価のクロムを含む酸性のクロム水溶液を、該亜鉛または亜鉛合金表面に接触させることによって、該亜鉛または亜鉛合金表面上にクロムコーティングを付与する工程、および
(C)該クロムコーティング上に、陰極電着法を用いて乾燥性の有機性コーティングを形成する工程を包含する。
【0007】
金属ピースはまた、密着性および耐腐食性が改善された有機性コーティングを有することが記載され、該金属ピースは、亜鉛または亜鉛合金めっきされた金属ピースの表面に、実質的に存在している唯一のクロムイオンとして3価のクロムを含む酸性のクロム水溶液から形成されたクロメート皮膜、および該クロメート皮膜上に、陰極電着された乾燥性の有機性コーティングを含む。本発明に利用される金属ピースの金属は、アルミニウム、鉄、鋼鉄、マグネシウム、マグネシウム合金、または亜鉛めっきされた鉄を含み得る。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
1つの実施態様では、本発明の方法は、
(A)金属を亜鉛または亜鉛合金めっきして、亜鉛または亜鉛合金表面を形成する工程、
(B)実質的に存在している唯一のクロムイオンとして3価のクロムを含む酸性のクロム水溶液を、該亜鉛または亜鉛合金表面に接触させることによって、該亜鉛または亜鉛合金表面上にクロムコーティングを付与する工程、および
(C)該クロムコーティング上に、陰極電着法を用いて乾燥性の有機性コーティングを形成する工程を包含する。
【0009】
本発明の方法は、種々の金属の耐腐食性を改善するために有用である。1つの実施態様では、本発明によって処理され得る金属は、アルミニウム、鉄、鋼鉄、マグネシウム、マグネシウム合金、または亜鉛めっきされた鉄を含む。本発明によって処理される金属ピースは、未成形の金属シートまたはパネル、成形金属パネル、小型の金属部品(例えば、ナット、ボルト、およびねじくぎ)、および組立部品を含み得る。1つの実施態様では、本発明の方法によって処理され得る金属ピースは、自動車の鋼鉄パネルおよび組立部品を含む。
【0010】
本発明の方法の第1の工程では、金属は、亜鉛または亜鉛合金でめっきされる。本明細書および請求項で用いられる用語「合金」は、亜鉛と1種以上の金属元素との混合物と定義され、顕微鏡的に均一または顕微鏡的に不均一であり得る。1つの実施態様では、亜鉛合金は、亜鉛と、鉄、ニッケル、コバルト、およびマンガンの1種以上を含み得る。さらに別の実施態様では、亜鉛ニッケル合金は、亜鉛−ニッケル合金または亜鉛−鉄合金を含む。1つの実施態様では、合金は、亜鉛−ニッケル−コバルトを含み得、別の実施態様では、合金はコバルトを含まない。
【0011】
金属の表面は、電気亜鉛めっき、亜鉛融解めっき、電気亜鉛合金めっき、機械的めっきなどを含む当業者に公知の種々の方法の多くを利用して、亜鉛または亜鉛合金でめっきされ得る。種々の金属に亜鉛および亜鉛合金を電着する方法は、以前から記載されており、アルカリおよび酸めっき浴の両方が記載されている。例えば、基材に光沢のある亜鉛析出物を電着させるための酸めっき浴が、米国特許第4,169,772号、第4,162,947号に記載されている。米国特許第5,200,057号は、酸性浴を用いて亜鉛および亜鉛合金を付与するための方法および組成物を記載している。米国特許第4,832,802号は、亜鉛−ニッケル酸めっき浴および亜鉛−ニッケル合金を電着させる方法を記載している。米国特許第4,188,271号は、亜鉛の電着に有用なアルカリ浴を記載している。これらの特許の開示は、参考文献として本明細書に援用される。
【0012】
1つの実施態様では、本発明の方法で利用される酸性の亜鉛および亜鉛合金めっき浴は、従来の亜鉛およびアンモニウム含有めっき浴、ならびにアンモニアを含まない酸性めっき浴を含む。本発明に有用な亜鉛めっき浴は、遊離の亜鉛イオンを含み、この浴は、硫酸亜鉛、塩化亜鉛、フルオロホウ酸亜鉛、酢酸亜鉛、スルファミン酸亜鉛、および/またはアルカンスルホン酸亜鉛で調製され得る。めっき浴の亜鉛イオン濃度は、約5g/lから約180g/l、または約7.5から約100g/lの範囲であり得る。めっき浴が亜鉛合金を付与するために他の金属を含む場合、この浴は、亜鉛に加えてニッケル、鉄、コバルト、およびマンガンのようなさらなる金属の1種以上を含んでもよい。ニッケルイオンは、塩化ニッケル、硫酸ニッケル、フルオロホウ酸ニッケル、酢酸ニッケル、スルファミン酸ニッケル、およびアルカンスルホン酸ニッケル塩のような水溶性塩の形態で、水溶性めっき浴中に存在し得る。コバルトイオンが水溶性めっき浴に存在する場合、コバルトは、硫酸コバルト、塩化コバルト、フルオロホウ酸コバルト、スルファミン酸コバルト、または酢酸コバルトの形態で存在し得る。同様に、鉄が存在する場合、鉄は、硫酸鉄、塩化鉄などとして導入され得る。ニッケル、コバルト、鉄、および/またはマンガンのような追加のイオンがめっき浴に存在する場合、これらの追加のイオンは、約10から約150g/lの濃度で存在し得る。
【0013】
アルカリ亜鉛電着浴が本発明において利用される場合、亜鉛イオン源は、亜鉛酸ナトリウムまたは亜鉛酸カリウムのようなアルカリ金属亜鉛酸塩であり得る。他の亜鉛イオン源は、酸化亜鉛、硫酸亜鉛、酢酸亜鉛などを含む。めっき浴はまた、アルカリ性物質を含み、通常、アルカリ性物質は、水酸化ナトリウムまたは水酸化カリウムのようなアルカリ金属水酸化物である。
【0014】
1つの実施態様では、金属表面に付与された亜鉛合金が亜鉛ニッケル合金の場合、この合金は、約8質量%から約20質量%のニッケルを含み得る。他の実施態様では、この亜鉛ニッケル合金は、約10から約18質量%のニッケルまたは約12から約16質量%のニッケルを含み得る。合金が、亜鉛−鉄合金の場合、この合金は、約0.1から約5質量%の鉄を含み得る。別の実施態様では、亜鉛イオンおよびニッケルイオンは、実質的にガンマ結晶の相を有する亜鉛−ニッケル合金を付与するために十分な濃度で存在する。実質的にガンマ結晶の相を有する亜鉛−ニッケル合金は、腐食、特に、塩化物または塩由来の腐食に対して、実質的にガンマ相以外の相を有する合金より耐性がある。
【0015】
亜鉛−ニッケルおよび亜鉛−鉄のような亜鉛合金をめっきするための方法および溶液が、商業的に入手可能である。例えば、アルカリ亜鉛−ニッケルめっき溶液および方法は、Atotech USA Inc.、Rockhill、South Carolina 29730から一般的な商品名REFLECTALLOY(登録商標)ZNAとして入手可能である。REFLECTALLOY(登録商標)ZNAは、シアン化物を含まない方法であり、この方法では電流密度の幅広い範囲にわたり、約10%から約15%のニッケルを含む亜鉛−ニッケル合金付与物を生じさせている。
【0016】
本発明の方法に有用な商業的に入手可能である亜鉛−鉄めっき溶液および方法は、ProtedurTM Plusであり、これは機能的で半光沢の外観を有する耐腐食性コーティングを形成するアルカリ亜鉛−鉄めっき浴および方法である。ProtedurTM Plusはまた、Atotech USAから入手可能である。ProtedurTMアルカリ亜鉛−鉄めっき浴および方法は、鉄を約0.1から約5質量%の範囲で含む亜鉛−鉄合金を付与するために利用され得る。1つの実施態様では、最適な腐食保護のために、付与物の鉄の含有量は、約0.4から約1質量%の範囲内に維持される。
【0017】
上述の亜鉛または亜鉛合金めっきされた金属表面には、実質的に存在している唯一のクロムイオンとして3価のクロムを含む酸性のクロム水溶液に、亜鉛または亜鉛合金表面を接触させることによって、クロム(クロム酸塩)コーティングが形成される。クロムが実質的に全て3価状態である溶液を用いた亜鉛表面の処理は、例えば、米国特許第5,415,702号、第4,263,059号、第4,171,231号、第3,932,198号、第3,647,569号、第3,501,352号、および第2,559,878号に開示されている。上記特許に記載されている実質的に存在している唯一のクロムイオンとして3価のクロムを含む酸性のクロム水溶液のいずれもが、本発明の方法に利用され得る。上記特許の開示は、参考文献として本明細書に援用される。
【0018】
注目すべきことは、本発明に利用される酸性のクロム水溶液は、実質的に存在している唯一のクロムイオンとして3価のクロムを含む。1つの実施態様では、クロム溶液は、偶発的な量の6価のクロムを含み得、別の実施態様では、溶液中の6価のクロムの量は、形成されるクロム酸塩コーティングに0.1mg/mより少ない量で含有されるようにすべきである。3価のクロムは、硫酸クロム(III)、塩化クロム(III)、酢酸クロム(III)、硝酸クロム(III)などを含む多くの原料に直接由来し得る。1つの実施態様では、3価のクロムは塩化クロム(III)に由来する。別の実施態様では、本発明の方法に用いられる酸性溶液中の3価のクロムは、6価のクロム含有溶液の還元によって調製され得る。6価のクロムの種々の水溶液または水に分散し得る原料は、6価のクロムにより導入される陰イオンまたは陽イオンが、溶液自体、あるいは亜鉛または亜鉛ニッケル合金表面に悪影響を与えなければ、3価のクロムの調製に用いられ得る。
【0019】
1つの実施態様では、酸性のクロム溶液はまた、塩化物イオン、硝酸イオン、亜鉛イオン、およびフッ化物イオンの1種以上を含む。
【0020】
酸性のクロム溶液に存在し得る塩化物イオンは、塩化クロム、または塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化アンモニウム、塩化亜鉛などのような他の塩化物として導入され得る。本発明の1つの実施態様として存在し得る硝酸イオンは、硝酸および可溶性アンモニウム、ならびにアルカリ金属硝酸塩(硝酸アンモニウム、硝酸ナトリウム、硝酸カリウムなど)の使用により導入され得る。1つの実施態様では、クロム溶液はまた、亜鉛イオンを含む。亜鉛イオンは、塩化亜鉛、フッ化亜鉛、硫酸亜鉛、臭化亜鉛、酢酸亜鉛、メタンスルホン酸亜鉛、酸化亜鉛などとしてめっき浴に導入され得る。酸性のクロム溶液に存在し得るフッ化物イオンは、フッ化物イオンにより導入されたイオンが溶液の性能に悪影響を与えなければ、任意の可溶性フッ素化合物の使用により導入され得る。金属フッ化物またはアンモニウムフッ化物のいずれかが用いられ得、典型的なフッ化物には、フッ化水素酸、アルカリ金属フッ化物、およびアルカリ金属フッ化水素化物(フッ化ナトリウム、フッ化アンモニウム、二フッ化アンモニウムなど)が含まれる。高い水溶性が望まれるので、二フッ化ナトリウムまたは二フッ化アンモニウムのような高可溶性フッ化物が、1つの実施態様では利用される。
【0021】
本発明の方法によって亜鉛および亜鉛合金表面にクロムコーティングを付与するために利用されるクロム水溶液は酸性であり(すなわち、pHが6.9まで)、1つの実施態様では、酸性のクロム水溶液のpHは、約1から約3または4である。他の実施態様では、クロムコーティングを形成するために利用される溶液のpHは、約1から約2に維持される。クロム溶液の酸度は、硝酸、硫酸、塩酸、フッ化水素酸などのような無機酸の1種またはそれ以上の添加によって調節され得、所望のpHに維持され得る。別の実施態様では、ギ酸、酢酸、およびプロピオン酸のような有機酸が用いられ得る。
【0022】
コーティング作業において、亜鉛または亜鉛合金表面は、1つの実施態様では、まず化学的および/または物理的手段によって洗浄され、油脂、汚れ、または酸化物を除去するが、このような処理は、常に必要とされるわけではない。表面を水ですすいだ後、表面は、上述の酸性のクロム含有水溶液で処理される。処理は、スプレー、ブラッシング、ディッピング、ローラー塗装、逆ローラー塗装、およびフローコーティングのような通常用いられる技術のいずれかであり得る。酸性のクロム溶液は、1つの実施態様では、亜鉛または亜鉛合金表面に約40℃から約70℃の温度で約10秒から約2分間付与される。
【0023】
1つの実施態様では、有用なクロム酸塩化成皮膜溶液は、水を約41質量部、塩化第二クロム中間体(Cr(OH)Cl3−X)溶液(Cr(III)を約13.1から13.5質量%含む)を37質量部、二フッ化アンモニウムを3質量部、硝酸ナトリウムを18質量部、および塩化亜鉛を1質量部含む濃縮物から調製され得る。この濃縮物は、水によって約8〜10容量%に希釈され、約1.3から約1.8の範囲のpHおよび約122〜144°F(50〜65℃)の温度で、約1から2分間、亜鉛−ニッケル合金めっきされた金属に付与され得る。亜鉛−鉄および亜鉛−鉄−コバルトめっきされた金属表面への使用において、合金めっきされた金属は、約1.8から約2.0のpHおよび約130から約145°F(54〜63℃)の温度で約1から2分間、クロム溶液で処理される。
【0024】
種々の商業的に入手可能である3価のクロムコーティング溶液および方法は、本発明の方法に有用であり、これらは、RODIP(登録商標)ZnX Chromate Conversion Coating、EcoTri、およびCorro Triblueを含み、Atotech USA, Inc.から入手可能である。
【0025】
クロメート皮膜が、上述のように亜鉛または亜鉛合金めっきされた金属上に形成された後、クロムコーティング上に陰極電着法を用いて乾燥性の有機性コーティング組成物の保護皮膜が付与・形成される。電着法では、クロメートコーティングされた金属物品は、水乳化されたコロイド状の塗料微粒子を含む乾燥性の有機性コーティング組成物中に置かれる。本発明の方法では、負電荷が、クロムコーティングされた亜鉛または亜鉛合金めっきされた金属に付与されて陰極となり、正電荷が、第2の電極、一般的には塗料の容器に付与される。この電場では、懸濁し、正電荷を有する塗料のコロイド状微粒子は、負電荷を有する金属表面(陰極)に引き付けられる。負電荷を有する金属表面と接触して、コロイド状粒子は電荷を失い、それによって、エマルジョンが破壊され、そしてコロイド状粒子が、陰極(被覆されるべき金属部分)上にコーティングとして形成される。
【0026】
コーティングが形成され厚みが増加するにつれて、乾燥性の有機性コーティングの増加する抵抗物性が要因となり、いくつかの点において、陰極電流密度は、電着がもはや生じない点まで低下する。さらなるコーティングの厚みが望まれるのであれば、電圧勾配が増大される。したがって、電着の工程において付与される電気ポテンシャルは、所望されるコーティングの厚み、伝導性およびコーティング浴の組成、そしてコーティングの形成のために充てられる時間によって決定される。1つの実施態様では、約0.1から7アンペア毎平方フィートの電流密度において、電圧が約10から約1000ボルトであるのが有用である。1つの実施態様では、十分な乾燥性の有機性コーティングは、25から約350ボルトの電圧を利用して得られる。1つの実施態様では、金属が亜鉛−ニッケル合金でめっきされる場合、約120から約150ボルトの電圧が用いられ得る。
【0027】
次いで、コーティングされた金属ピースは、溶液から取り出され、すすがれ、形成されたコーティングを硬化するために炉で焼かれる。陰極電着された乾燥性の有機性コーティングの厚みは、広範囲にわたり変化し得る。1つの実施態様では、厚みは、約5から約50ミクロンである。別の実施態様では、コーティング厚みは、約10から約25ミクロンである。
【0028】
本発明の陰極電着法に利用される乾燥性の有機性コーティング組成物は、一般的に、水分散性あるいは水乳化性の合成塩基性ポリマー樹脂をベースとする水エマルジョン、水分散液または水溶液を含み、この樹脂は、可溶性の酸で中和されている。1つの実施態様では、乾燥性の有機性コーティングは、可溶性の酸で中和された熱硬化性樹脂を含み、このような熱硬化性樹脂は、エポキシ樹脂、アミノ樹脂、エポキシ樹脂とアミノ樹脂との混合物などを含む。本発明の方法に用いられる水性の乾燥性の有機性コーティング組成物に含まれる樹脂の量は、約3質量%から約40質量%の範囲であり得る。別の実施態様では、水性の乾燥性の有機性コーティング組成物に含まれる樹脂の量は、約5から約25質量%の範囲であり得る。
【0029】
本発明に用いられる乾燥性の有機性コーティング組成物はまた、色素を含み得、色素は、無機顔料または染料であり得る。色素の選択は、コーティングにおいて所望される単一または複数の特定の色に依存する。本発明の水性組成物に含まれる色素の量は、組成物の総質量の約0から約25質量%、あるいはそれ以上である。
【0030】
カーボンブラックは、黒色の処方物でよく利用される公知の着色顔料である。カーボンブラックの中で、本発明において着色顔料として利用され得るカーボンブラックは、ファーネスブラック、チャンネルブラック、およびランプブラックである。顔料粉末はまた、金属粉末、金属酸化物、および他の無機化合物であり得る。例えば、金属粉末としては、ニッケル、ニッケルフレーク、鋼鉄フレーク、青銅粉末、アルミニウム粉末などが挙げられる。金属酸化物の中で、顔料として利用され得る金属酸化物は、酸化亜鉛、酸化アルミニウム、酸化マグネシウム、ケイ素、タルク、マイカ、白土、赤色酸化鉄、黄色酸化鉄、緑色酸化クロム、および白色酸化チタンである。その他の所望される色を得るために利用され得る無機顔料としては、硫化亜鉛、硫化カドミウム、カドミウムスルホセレニド、カドミウム水銀、炭酸カルシウム、モリブデン酸亜鉛、クロム酸亜鉛、アルミン酸コバルト、クロムコバルト−アルミナ、ウルトラマリンブルー、および炭酸鉛が挙げられる。有機色素としては、パラレッド(Para Red)、リソールルビン(Lithol Rubine)、ハリオボルドー(Halio Bordeaux)、チオインジゴ(Thio Indigo)、トルイジン、アントラキノン、フタロシアニンブルー、フタロシアニングリーン、アゾなどが挙げられる。
【0031】
水、樹脂、および任意の色素に加えて、本発明の方法に有用な乾燥性の有機性コーティング組成物はまた、金属物品に付与される水性組成物および/またはコーティングの特性を改変する他の成分を含み得る。したがって、この水性組成物は、界面活性剤、潤滑剤、有機リン酸エステル、有機溶媒、表面張力改変剤、吸着促進剤、腐食防止添加剤、流動および湿潤改変剤、消泡剤などの1種以上を含み得る。
【0032】
1つの実施態様では、本発明の方法に用いられる乾燥性の有機性コーティング組成物は、樹脂の質量に基づいて、約0.1から約15質量%の疎水性のフルオロアルケンポリマーを含み得る。フルオロアルケンポリマーとしては、フッ化ビニル、フッ化ビニリデン、およびテトラフルオロエチレンのポリマー、ならびにこれらと他の重合可能なモノマーとのコポリマーが挙げられる。このポリマーおよびコポリマーは、懸濁重合または塊状重合によって調製され得る。乾燥性の有機性コーティング組成物に有用であり、商業的に入手可能なポリフッ化ビニリデンとしては、例えば、Pennwalt Corpから入手可能であるKynar202がある。ポリフッ化ビニルとしては、例えば、E.I. DuPont、De Nemours and Co.から入手可能であるTedlar(登録商標)がある。1つの実施態様では、フルオロアルケンポリマーは、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)である。ポリテトラフルオロエチレンは、一般的な商取引名称Teflon(登録商標)として、DuPontから商業的に入手可能である。テトラフルオロエチレンのコポリマーもまた有用であり、これらは、少量のコモノマー(その大部分がフッ素化コモノマー)で改変されたCのポリマー、およびフルオロオレフィンなどで改変されたCポリマーを含む。
【0033】
乾燥性の有機性コーティング組成物に含まれ得る別の潤滑剤は、一般的な商取引名称ACquaTM220として、Michelman, Inc., Cincinnati, Ohioから入手可能であるエチレン−アクリル酸コポリマーの亜鉛塩の水性分散液である。
【0034】
本発明に用いられる陰極電着に有用な水性の乾燥性の有機性コーティング組成物は、いくつかの供給元から商業的に入手可能である。例えば、PolySeal IIIおよびPowercron 645 Blackは、PPGから入手可能である。これらのコーティングの両方とも、エポキシ樹脂を含むと思われる。有用な乾燥性の有機性コーティング組成物はまた、Atotech USA, Incからも入手可能である。
【0035】
1つの実施態様では、金属に形成された乾燥性の有機性コーティングが硬化した後、潤滑性皮膜が、硬化した乾燥性の有機性コーティングを覆うように付与され得る。1つの実施態様では、乾燥性の有機性コーティング組成物を覆うように付与される潤滑剤は、トルク張力改変剤である。乾燥性の有機性コーティング組成物を覆うように付与され得る潤滑剤組成物としては、例えば、ポリエチレンワックス、ポリテトラフルオロエチレン、炭化水素または植物性油、塩素化パラフィン、リン酸エステル、硫化油、硫化油脂、ポリグリコール、カルボン酸エステル、ポリアルファオレフィンなどが挙げられる。上記潤滑剤の任意の2種以上の混合物が利用され得る。用いられる特定の潤滑剤に依存して、潤滑剤は、そのまま、溶液で、または水のような非溶媒に分散されて乾燥性の有機性コーティングに付与され得る。潤滑剤は、スプレー、ディッピング、ローラー塗装、ブラッシング、逆ローラー塗装、フローコーティングなどのような当業者に公知の技術を利用して付与され得る。潤滑剤組成物の付与後、潤滑剤コーティングは乾燥され、溶媒および/または水が除去される。
【0036】
本発明の方法によって処理された金属物品は、改善された耐腐食性および耐さび性を示す。それは、処理された金属ピースについて種々の試験を、例えば、ASTM B117法による塩スプレー腐食試験、VDA621−415試験法によるサイクル腐食試験(CCT)、VDA621−414による屋外耐候性試験、およびDin50021による刻まれた線を用いるNSS試験を行うことによって証明される。
【0037】
本発明は、種々の実施態様について説明されているけれども、それらの他の改変が明細書を読めば当業者に明らかであることが、理解されるべきである。したがって、本明細書に開示されている発明は、このような改変を含み、添付された請求項の範囲内であることが意図されていることを理解すべきである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属の耐腐食性を改善するための方法であって、
(A)金属を亜鉛合金でめっきして、実質的なガンマ結晶の相を有する亜鉛合金表面を形成する工程、
(B)実質的に存在している唯一のクロムイオンとして3価のクロムを含む酸性のクロム水溶液を、該亜鉛合金表面に接触させることによって、該亜鉛合金表面上にクロムコーティングを付与する工程、および
(C)該クロムコーティング上に、陰極電着法を用いて乾燥性の有機性コーティングを形成する工程、
を包含する、方法。
【請求項2】
前記亜鉛合金が、亜鉛と、鉄、ニッケル、コバルト、およびマンガンの1種以上とを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記金属が、アルミニウム、鉄、鋼鉄、マグネシウム、マグネシウム合金、または亜鉛めっきされた鉄を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記金属が、鋼鉄を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記酸性のクロム水溶液が、さらに塩化物イオンおよび硝酸イオンを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記酸性のクロム水溶液が、さらに亜鉛イオンを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
前記酸性のクロム水溶液が、さらにフッ化物イオンを含む、請求項5に記載の方法。
【請求項8】
さらに、(D)前記乾燥性の有機性コーティングを硬化させる工程および(E)該硬化した乾燥性の有機性コーティングを覆う潤滑性皮膜を付与する工程を包含する、請求項1に記載の方法。
【請求項9】
前記亜鉛合金表面が、亜鉛−ニッケル合金表面である、請求項1に記載の方法。
【請求項10】
前記酸性のクロム水溶液が、さらに亜鉛イオンおよびフッ化物イオンを含む、請求項5に記載の方法。
【請求項11】
前記亜鉛−ニッケル合金が、約8から約20質量%のニッケルを含む、請求項9に記載の方法。
【請求項12】
前記亜鉛合金表面が、亜鉛−鉄表面である、請求項1に記載の方法。
【請求項13】
耐腐食性および密着性が改善された有機性コーティングを有する金属ピースであって、亜鉛合金めっきされた金属ピースの表面に、実質的に存在している唯一のクロムイオンとして3価のクロムを含む酸性のクロム水溶液から形成されたクロメート皮膜、および該クロメート皮膜上に、陰極電着された乾燥性の有機性コーティングを含み、該亜鉛合金が、実質的なガンマ結晶の相を有する、金属ピース。
【請求項14】
前記金属が、アルミニウム、鉄、鋼鉄、マグネシウム、マグネシウム合金、または亜鉛めっきされた鉄を含む、請求項13に記載の金属ピース。
【請求項15】
前記金属が、鋼鉄である、請求項13に記載の金属ピース。
【請求項16】
前記亜鉛合金が、亜鉛−ニッケルまたは亜鉛−鉄合金である、請求項13に記載の金属ピース。
【請求項17】
前記クロメート皮膜が、実質的に存在している唯一のクロムイオンとして3価のクロム、塩化物イオン、および硝酸イオンを含む酸性のクロム水溶液由来である、請求項13に記載の金属ピース。
【請求項18】
前記酸性のクロム水溶液が、さらに亜鉛イオンおよびフッ化物イオンを含む、請求項17に記載の金属ピース。
【請求項19】
前記乾燥性の有機性コーティングが、潤滑性皮膜で覆われている、請求項13に記載の金属ピース。

【公表番号】特表2008−519907(P2008−519907A)
【公表日】平成20年6月12日(2008.6.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−541184(P2007−541184)
【出願日】平成17年10月11日(2005.10.11)
【国際出願番号】PCT/US2005/036321
【国際公開番号】WO2006/052357
【国際公開日】平成18年5月18日(2006.5.18)
【出願人】(503037583)アトテック・ドイチュラント・ゲーエムベーハー (55)
【氏名又は名称原語表記】ATOTECH DEUTSCHLAND GMBH
【Fターム(参考)】