説明

金属表面の腐食保護処理のための二段階法

本発明は、金属表面の腐食保護処理のための少なくとも二段階の方法に関し、第一工程(i)では、水相(A)から成る有機コーティングを金属表面に適用し、また、後工程(ii)では、金属表面に適用された有機コーティングを、Zr、Ti、Si、Hf、V、及び/又はCeの元素から選択される少なくとも1つの原子を含有する1若しくは2つ以上の水溶性化合物、並びに銅イオンを放出する1若しくは2つ以上の水溶性化合物を少なくとも含む酸性水性組成物(B)と接触させる。本発明はさらに、スチール、鉄、亜鉛、及び/又はアルミニウム、並びにこれらの合金から少なくとも部分的に生成され、本発明による方法によって処理された金属部品、並びに、自動車製造、及び建築産業における、並びに家庭電化製品及び電子機器筐体の生産のためのその使用も含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属表面の腐食保護処理のための少なくとも二段階の方法に関し、その方法において、第一工程(i)では、水相(A)から成る有機コーティングを金属表面に適用し、また、後工程(ii)では、金属表面に適用された有機コーティングを、Zr、Ti、Si、Hf、V、及び/又はCeの元素から選択される少なくとも1つの原子を含有する1若しくは2つ以上の水溶性化合物、並びに銅イオンを放出する1若しくは2つ以上の水溶性化合物を少なくとも含む酸性水性組成物(B)と接触させる。また、本発明は、スチール、鉄、亜鉛、及び/又はアルミニウム、並びにこれらの合金から少なくとも部分的に生成される金属部品、本発明による方法を用いて処理された金属部品を包含し、自動車製造及び建築部門におけるその使用、並びに、家庭電化製品及び電子機器筐体の製造のためのその使用も包含する。
【0002】
自動車産業では、車体生産の過程において、水性結合剤分散液から成る塗装系を腐食保護のために適用することは既存技術である。自動車産業では、主に浸漬コーティングが用いられており、腐食保護による前処理をされた基本車体が、分散塗装系を含む浸漬タンクへ連続的な処理で導入され、外部電圧の印加(電解浸漬コーティング)によって、又は金属表面と単に接触させるだけである自己析出の方法(自己析出浸漬コーティング(autophoretic dip coating))によって、塗装の析出が行われる。そして、高レベルの腐食保護を確保し、その後のコーティングを行わせるために、金属表面に析出された塗装系の皮膜の形成及び架橋が生ずるように、車体は熱処理を受ける。
【0003】
自己析出コーティング浴(autophoretic coating bath)は、金属部品への腐食保護プライマーコーティングとして、又は、例えば、自動車産業における制振部品などの金属−エラストマー複合体の製造における接着性中間層として、通常は鉄表面である金属表面への有機コーティングのために用いられる。したがって、自己析出(autophoretic)コーティングは、電解浸漬コーティングとは対照的に、無電解の方法で、すなわち外部電圧源を適用することなく行われる浸漬コーティングプロセスである。自己析出組成物は、通常、有機樹脂又はポリマーの水性分散液であり、これは金属表面と接触すると、ピックリングに基づく金属カチオンの除去の結果として、部品表面のすぐ上の薄い液層中で凝集し、それによって層が成長する。
【0004】
自己析出浴を浸漬コーティングによる析出に用いることは、自動車の生産において、特に、例えば、ホイールリムの有機イニシャルコーティングなど、部品に関連する金属プレフォームの生産において、近年次第に重要になってきている。しかし、特に、自己析出の作用を起こす各組成物、いわゆる自己析出組成物による浸漬コーティングの場合には、塗装を架橋させる熱処理の前に、有機コーティングの欠陥を「補修」する目的で、後処理を行う必要がある。
【0005】
既存技術では、自己析出法(autophoretic method)を用いて金属表面に適用した有機コーティングの耐腐食性を改善する目的で、浸漬コートによる有機イニシャルコーティングの後に水性反応性洗浄(aqueous reaction rinse)が提案されている。
【0006】
このような反応性洗浄の一つとしては、特許文献1によると、未架橋コーティングの不動態化のための後処理が相当する。これは、例えばリン酸含有溶液であって、さらにはアルカリ及び/又はアルカリ土類カチオン、並びに、遷移金属カチオン、さらにはそのフルオロ錯体も含有可能な溶液による補助下において、いわゆる微小欠陥における露出された金属表面の無機的な化成処理を起こすものである。
【0007】
特許文献2は、それに応じて、水溶性アルカリ土類金属塩、好ましくは硝酸カルシウムを主体とするクロムフリー反応性洗浄剤を開示している。一方、特許文献3では、IIa族及びIIb族金属の水溶性塩、好ましくは亜鉛塩を用いており、加えて、可溶性リン酸塩及びいわゆる促進剤(酸化効果を有する)が反応性洗浄剤中に含有されていると開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】ドイツ特許第10 2007 059969号公報
【特許文献2】米国特許第6,410,092号公報
【特許文献3】国際公開第02/42008号 パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の目的は、これらの既存の技術から進めて、硬化した有機結合剤系によって保護される金属表面の耐腐食性がさらに改善されるように、硬化性有機結合剤系の水相から金属表面上への第一の析出を行う方法を開発することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
この目的は、金属表面の腐食保護処理の多段階法によって達成されるものである。その方法においては、第一工程(i)では、水相(A)から成る有機コーティングを金属表面に適用し、後工程(ii)では、有機コーティングを有する金属表面を、
a)Zr、Ti、Si、Hf、V、及び/又はCeの元素から選択される少なくとも1つの原子を含有する1若しくは2つ以上の水溶性化合物、並びに、
b)銅イオンを放出する1若しくは2つ以上の水溶性化合物、
を少なくとも含む酸性水性組成物(B)と接触させる。
【0011】
第一工程(i)において有機コーティングを有する金属表面は、本発明による方法の前の洗浄及び/又はピックリング工程において有機汚染物が除去された、露出された金属表面であってよい。この種の露出された金属表面は、例えば、防錆油などの有機汚染物がほとんど存在せず、及び、その表面上に、金属基材の金属元素から成り、層厚みが数ナノメートルである酸化物被覆層が存在しない(又は非常に薄いものしか存在しない)ということが重要である。
【0012】
しかし、本発明による金属表面は、本発明による工程(i)の前に、無機被覆層が形成される化成処理を受けた表面でもある。この種の無機化成処理層は、金属基材及び外部からの金属の両方の金属元素から構成されていてもよい。典型的な化成被覆の生成は、露出された金属表面と、元素Zr、Ti、Si、Hf、V、Ce、Mo、Zn、Mn、Feの水溶性化合物を含有した酸性水溶液と、こられに加えて、付加的にリン酸塩などの難溶性塩を形成するアニオン及び/又はフッ化物イオンなどの錯化イオンも含有した酸性水溶液とを接触させることで行われる。この化成処理により、アモルファス又は結晶質の無機被覆層が金属表面に生成され、この無機被覆層の単位面積当たりの質量が3g/mと等しいかこれ以下の場合には、この金属表面も、本発明によるものであり、本発明の方法に用いることができる。
【0013】
第一工程(i)において金属表面に適用される有機コーティングは、硬化性有機結合剤系を含有する場合には、本発明によるものである。本発明の工程(i)は、この有機コーティングを適用することのみを包含し、結合剤系の架橋を目的とする追加の技術的作用を用いて硬化することについては包含しない。例えば、この種の追加の技術的作用としては、工程(i)で適用された硬化性結合剤系を含有する有機コーティングの熱処理(熱硬化)又は化学線照射(放射線硬化)である。しかし、工程(i)には、状況に応じて、処理金属表面上の湿潤皮膜中に残留する水の一部を蒸発させるために、水相(A)で処理された金属表面の熱処理が含まれてもよく、この熱処理は、実際には、有機結合剤系の硬化温度よりも低い温度で行われる。したがって、水相(A)から適用された有機コーティングは、水の一部分も含有している。さらに、有機コーティングは、レベリング剤、界面活性剤、腐食防止剤、塩、顔料、並びにコーティング技術の当業者に公知のその他の活性物質及び補助剤も含有していてもよい。しかし、有機コーティングの固形分は、少なくとも20質量%に等しい。「有機コーティング」とは、工程(i)で適用された硬化性有機結合剤系を含有する水相(A)の湿潤皮膜の一部分であり、工程(i)の直後の流水による洗浄工程後に、硬化性有機結合剤系を含有する恒久的に接着する皮膜として金属表面上に残留する部分として理解される。
【0014】
本発明による方法の工程(i)での有機コーティングの析出は、水相(A)から行われる。しかし、析出の種類は特定の技術的操作に関連付けられるものではなく、金属表面の電解浸漬コーティングで行われても、又は、自己析出及び既存技術で公知の機械的適用法(ローラー適用法、スプレー法)などの無電解法で行われてもよい。
【0015】
しかし、特に、本発明による方法が、本発明による方法によって処理された金属表面の耐腐食性において最も大きな改善を示すのは、工程(i)における水相(A)からの有機コーティングの無電解析出の場合である。したがって、本発明の方法においては、第一工程(i)における有機コーティングの適用が無電解の方法、特に自己析出において、有機結合剤を含有する水相(A)と金属表面とを接触させることによって実行されるものが好ましい。
【0016】
本発明による方法の第一工程(i)で行われることが有機コーティングの金属表面への自己析出である場合には、水相(A)は、pHが4未満であることが好ましく、そして、
a)好ましくは300℃より低い温度、より好ましくは200℃より低い温度にて熱硬化性である分散される少なくとも1つの有機結合剤系、
b)鉄(III)イオン、及び、
c)フッ化物イオンの水溶性化合物からの鉄(III)イオンに対するモル比が少なくとも2:1に等しくなるような定量的比率でのフッ化物イオン、
を含むことが好ましい。
【0017】
この種の自己析出では、本発明による方法の工程(i)における水相(A)においては、少なくとも1質量%の有機結合剤系を含有することが好ましい。
【0018】
「熱硬化性」有機結合剤系とは、20℃より高く、前述の300℃より低い温度、好ましくは200℃よりも低い温度を硬化温度として有する結合剤系のことである。
【0019】
「硬化温度」とは、用いた有機結合剤系の固体混合物の、20℃から400℃までの温度範囲にわたる10K/分の加熱速度での動的示差熱量測定分析(dynamic differential calorimetric analysis)(DSC)において、発熱プロセスの最大を示す最高温度である。固体混合物のサンプル量から放出されDSCで記録される発熱量の熱量測定分析は、DIN EN ISO11357−1を考慮してDIN53 765に従って行われる。使用した有機結合剤系の固体混合物は、結合剤系の水性分散液の真空凍結乾燥によって入手可能である。別の選択肢としては、結合剤系の水性分散液を、DSC測定用のサンプルを入れるるつぼの中にて室温で乾燥してもよく、このるつぼの中の固体混合物のサンプル重量は、差分秤量(differential weighing)によって確認することができる。水性分散液としては、水相(A)が特に適している。
【0020】
本発明による好ましい方法の工程(i)において自己析出による無電解の方法で金属表面に析出される、水相(A)の成分a)による熱架橋性又は硬化性有機結合剤系は、少なくとも2つの官能基を有する有機オリゴマー又はポリマー化合物から成る。そして、その結果として、共有結合を形成する縮合又は付加反応にて互いに反応することができる。そして、それによって、共有結合で連結したオリゴマー又はポリマー化合物のネットワークが構築される。熱架橋性又は硬化性結合剤系は、互いに反応することができる2つの異なる若しくは同一の官能基を有する自己架橋性オリゴマー又はポリマー化合物と、その官能化の結果として互いに架橋する少なくとも2つの異なるオリゴマー若しくはポリマー化合物と、のいずれかから成るものであってよい。
【0021】
本発明の方法の工程(i)で金属表面に無電解の方法で適用される成分a)による水に分散された有機結合剤系は、少なくとも1つの熱自己架橋性有機ポリマー;及び/又は、少なくとも1つの架橋性有機ポリマー若しくは樹脂と、付加若しくは縮合反応にて有機ポリマー若しくは樹脂の架橋性官能基と反応することができる有機硬化剤と、の混合物;を含有する。有機硬化剤は、同様に、有機ポリマー又は樹脂を用いることができる。
【0022】
さらに、硬化性結合剤系の金属表面上での十分な皮膜形成のために、本発明による方法の工程(i)における水相(A)に分散された有機結合剤系の皮膜形成温度は、80℃以下の皮膜形成温度であることが好ましく、特に好ましくは40℃以下である。結合剤の皮膜形成温度が好ましい80℃を超える場合には、本発明による方法の工程(ii)における酸性水性組成物(B)による反応性洗浄の過程で金属表面の有機コーティングが不均一となる場合がある。これは、本発明による方法に通常その後に実行される硬化プロセスにおいても修復することができない。金属表面の有機結合剤系によるこの種の不均一コーティングは、コーティングされた金属表面の耐腐食性及び見た目に不利な影響を与えてしまう。
【0023】
工程(i)で金属表面上に析出した有機結合剤系は、工程(ii)の反応性洗浄の段階ですでに皮膜を形成していることが利点となるので、本発明による方法では、工程(ii)での酸性水性組成物(B)と有機コーティングを有する金属表面との接触は、少なくとも30℃、特に好ましくは少なくとも40℃で実行されることが好ましい。ただし、当該本発明による接触は、80℃以下の温度で実行されることが好ましい。
【0024】
本発明による好ましい方法の工程(i)において無電解析出のために用いられる分散された有機結合剤系は、少なくとも1つの共重合物;並びに/又は、アクリレートと、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、及び/若しくはポリウレタン樹脂から選択される少なくとも1つのオリゴマー及び/若しくはポリマー化合物と、のポリマー混合物;から成ることが好ましい。
【0025】
水分散性エポキシ樹脂は、金属表面の架橋コーティングとして、腐食性媒体に対して特に良好なバリア効果をもたらす。したがって、水分散性エポキシ樹脂は、無電解の方法で、すなわち自己析出プロセスによって、工程(i)の有機コーティングが適用される、本発明による好ましい方法の分散結合剤系の構成成分である。付加的に、硬化プロセスの促進及び架橋度の増加を実行するために、少なくとも部分的にフェノール樹脂に基づくことが好ましい架橋性硬化剤を、エポキシ樹脂に加えて用いてもよい。エポキシ樹脂と架橋するさらなる硬化剤は、イソシアネート樹脂に基づくものであり、そのイソシアネート基は、保護された形で存在していてもよい。中程度の反応性であるイソシアネートは、好ましくは保護イソシアネート樹脂であり、例えば、脂肪族イソシアネート、及び立体障害イソシアネート、及び/又は酸に安定な形で保護されたイソシアネートである。
【0026】
エポキシ樹脂として、例えば末端に結合した遊離のエポキシ基を有する不完全に架橋したオリゴマー又はポリマー化合物を用いることも可能である。その好ましい分子量は、500u以上、5000u以下である。そのようなエポキシ樹脂の例としては、ビスフェノールA及びビスフェノールFに基づくもの、並びに、エポキシ−フェノールノボラックである。
【0027】
コスト的な及び市場での入手性の理由から、以下の一般構造式(III)に対応するビスフェノールAに基づくエポキシ樹脂が、本発明に関して好ましく用いられる。
【0028】
【化1】

【0029】
ここで、構造モジュールAは、以下の一般式(IV)に対応する。なお、nは、1から50までの整数である。
【0030】
【化2】

【0031】
好ましいエポキシは、100g/当量以上、5000g/当量以下のエポキシ当量(EEW)を有する。ここで、EEWは、エポキシ樹脂中のエポキシ官能基1モルあたりの平均分子量をモル当量あたりのグラム数(g/当量)で示す。特に好ましいエポキシ当量の範囲が、特定のエポキシ樹脂に存在する。
臭素化エポキシ樹脂 300から1000g/当量、特に350から600
ポリアルキレングリコールエポキシ樹脂 100から700g/当量、特に250から400
液体エポキシ樹脂 150から250g/当量
固体/ペースト状エポキシ樹脂 400から5000g/当量、特に600から1000
【0032】
フェノール樹脂として、フェノールとホルムアルデヒドとの不完全に架橋したオリゴマー又はポリマー重縮合生成物は、有機コーティングの無電解析出のための本発明による好ましい方法の工程(i)での水相(A)中に、分散形態で存在することが可能である。前記生成物は、好ましくは、少なくとも部分的にエーテル化されたヒドロキシル基を含み、その好ましい平均分子量は、500u以上、10,000u以下である。この場合には、ヒドロキシル基は、メトキシル化、エトキシル化、プロポキシル化、ブトキシル化、又はエテニルオキシル化された形態で存在することが好ましい。レゾール及びノボラックのいずれも、フェノール樹脂類として用いることができる。
【0033】
また、金属表面との接触において、本発明によって定義される有機コーティングの自己析出をもたらす水相(A)の成分には、金属表面が析出された有機コーティングの皮膜形成を向上させるためのグリコールエーテル及びアルコールエステルなどのレベリング剤;硬化状態での有機コーティングの耐引っ掻き性及び耐腐食性を高めるための、平均粒子サイズが5μm未満、好ましくは1μm未満の硫酸塩、酸化物、及びリン酸塩などの微粉化無機充填剤;並びにソリューションズ社(Solutions Inc.)のAquablack(登録商標)255Aを例とする着色のための顔料;が含まれていてもよい。
【0034】
本発明による方法の工程(ii)における反応性洗浄の組成物(B)に関しては、
a)それぞれの元素の比率として計算して、元素Zr、Ti、Si、Hf、V、及び/又はCeから選択される少なくとも1つの原子を含有する水溶性化合物の合計で、少なくとも100ppmで2000ppm以下、特に、それぞれの元素の比率として計算して、元素Zr、Ti、及び/又はSiから選択される、好ましくはZr及び/又はTiから選択される少なくとも1つの原子を含有する水溶性化合物の800ppm以下を含有し、また、
b)銅の比率として計算して、銅イオンを放出する水溶性化合物の少なくとも1ppmであって100ppm以下、特に50ppm以下を含有する
酸性水性組成物(B)が好ましいことを確認することができた。
【0035】
成分a)による水溶性化合物の比率が好ましい値よりも著しく低い場合には、水相から析出した有機コーティング中の欠陥の「補修」が十分に行われず、かつ、銅イオンを放出する成分b)による化合物の存在に起因する追加的なプラスの効果も奏さない。
【0036】
逆に、成分b)による銅イオン放出化合物の量が好ましい値よりも著しく低い場合には、得られる反応性洗浄剤は、既存技術として知られ、成分a)による化合物のみから成る反応性洗浄剤と比較して、硬化有機結合剤系を備えた金属表面の耐腐食性をまったく改善しないものである。しかし、成分a)を含有する反応性洗浄剤(B)に少量の銅イオン放出化合物を添加することで、すでに、工程(i)にしたがって処理された金属表面の耐腐食性が大きく向上する。銅イオン放出化合物の量が銅を基準にして50ppmを超える場合には、耐腐食性の向上にはそれ以上寄与しないので、経済的ではない。さらに、100ppmを超えて添加量を増加させると、耐腐食性の僅かな劣化が引き起こされる。
【0037】
有機コーティングを有する金属表面と接触させることによって本発明による方法の工程(ii)で行われる反応性洗浄は、好ましくは、酸性水性組成物(B)のpH値2以上及び5以下で行われる。使用する有機結合剤系に応じて異なるが、これより低いpH値は、有機コーティングを化学的に改良し、分解反応を開始させる。加えて、金属基材の酸腐食の増加、及び新生水素の形成は、金属と有機コーティングとの間の界面に恒久的な損傷を与える場合がある。pH値が「5」を超える組成物もまた好ましいものではない。成分a)による水溶性化合物の加水分解反応の結果として、組成物(B)が溶解性の低い析出物を形成する傾向にあるからである。
【0038】
硬化性有機コーティングを有する金属基材からピックリングプロセスの結果として溶出する金属カチオンの錯体化を促進するために、本発明による方法の工程(ii)においては、フッ化物イオンを酸性水性組成物(B)中に追加で含有することができる。しかし、基材上のピックリング効果を高めて金属カチオンを効果的に錯体化するためには、少なくとも1ppmの遊離フッ化物が組成物(B)中に存在するべきであるが、組成物(B)中のフッ化物イオンの比率は、測定された遊離フッ化物の比率が400ppmより高くなる値を超えないことが好ましい。例えば、フッ化水素、アルカリフッ化物、フッ化アンモニウム、及び/又はフッ化水素アンモニウムが、フッ化物イオン源として用いられる。
【0039】
本発明による方法の工程(ii)における成分a)の好ましい水溶性化合物は、元素ジルコニウム、チタン、及び/又はケイ素のフルオロ錯体、特に好ましくは元素ジルコニウム及び/又はチタンのフルオロ錯体のアニオンへ水溶液中で解離する化合物である。この種の好ましい化合物は、例えば、HZrF、KZrF、NaZrF、及び(NHZrF、並びに類似のチタン又はケイ素化合物である。成分a)によるこの種のフッ素含有化合物は、同時に遊離フッ化物源でもある。(NHZr(OH)(CO又はTiO(SO)を例とする元素チタン及び/又はジルコニウムのフッ素非含有化合物もまた、成分a)による水溶性化合物として本発明にしたがって用いることができる。
【0040】
本発明による方法の工程(ii)における成分b)の好ましい水溶性化合物は、塩化物イオンを含有しないすべての水溶性銅塩である。硫酸銅、硝酸銅、及び酢酸銅は、特に好ましい。
【0041】
本発明による方法の工程(ii)で用いられる酸組成物は、いわゆる「消極剤」を追加で含有してもよい。これは、その緩やかな酸化効果の結果として、反応性洗浄の過程で露出された金属表面に発生期の水素が形成されることを抑制する。したがって、本発明によると、金属表面のリン酸化の技術分野で公知であるそのような消極剤の添加は、同様に好ましい。消極剤の典型的な代表例としては、塩素酸イオン、亜硝酸イオン、ヒドロキシルアミン、遊離又は結合形態の過酸化水素、硝酸イオン、m−ニトロベンゼンスルホン酸イオン、m−ニトロ安息香酸イオン、p−ニトロフェノール、N−メチルモルホリン−N−オキシド、ニトログアニジンである。
【0042】
環境上の理由から、並びに、労力を要する処理及び廃棄を必要とする無機重金属含有スラッジの発生を避ける目的で、工程(ii)における反応性洗浄の酸性水性組成物(B)中に水溶性のリン酸塩及びクロム酸塩を用いることは主として回避される。反応性洗浄、すなわち本発明による方法の工程(ii)におけるに組成物(B)は、PO及びCrOの合計が1ppm以下となる、可溶性のリン酸塩及びクロム酸塩を含み、特に好ましくは、可溶性のリン酸塩及びクロム酸塩を含有しない。さらに、本発明で注目すべきであることは、この方法の工程(ii)において可溶性リン酸塩の存在を省略できるが、それにも関わらず、本発明にしたがって処理された金属基材に非常に優れた耐腐食性が得られるということである。
【0043】
工程(i)の水相(A)及び工程(ii)の酸性水性組成物を金属基材又は金属部品と接触させる作業は、本発明による方法において、浸漬又はスプレー法で行なわれることが好ましく、表面の濡れがより均質となることから浸漬法が特に好ましい。
【0044】
工程(i)からの水相(A)の成分が酸性水性組成物(B)へ引き込まれることを避けるために、本発明による方法では、水相(A)の成分を処理金属表面から除去することを目的として、第一工程(i)と後工程(ii)との間に洗浄工程を行うことが好ましい。さらに、この処置により、金属表面と接着していないか又は接着が不十分であるポリマー粒子が除去され、それによって酸性水性組成物が恒久的に接着する有機コーティングに直接作用することができるので、酸性水性組成物(B)による反応性洗浄の効果も向上する。
【0045】
本発明による方法の場合には、それぞれの水性組成物との接触時間は、特に重要なものではないが、工程(i)では、本発明による方法の工程(i)で適用された未硬化だが恒久的に接着する有機コーティングの層重量が、工程(ii)の酸性水性組成物(B)による反応性洗浄の直前で、好ましくは少なくとも10g/mと等しくなるように、特に好ましくは少なくとも20g/mで、さらに好ましく80g/m以下と等しくなるように、当該接触時間は、適宜選択されるべきである。経験は、層重量が低いと、金属表面に付与する耐腐食性のレベルが低下する不均一なコーティングとなり、層重量が高くても、コーティングした金属基材の耐腐食性を大きく改善するものではないことを示す。未硬化だが恒久的に接着する有機コーティングの層重量は、本発明による方法の工程i)でコーティングされた金属基材を脱イオン水の流水下で洗浄した後に決定され、この洗浄は、金属基材から流れ出る洗浄水の濁りが見えなくなるまで行われる。
【0046】
本発明による方法の工程(ii)で行われる反応性洗浄における酸性水性組成物(B)との接触時間は、工程(i)の水相(A)との接触時間の50%から100%であることが好ましい。
【0047】
工程(i)で金属表面に適用され、工程(ii)で後処理される有機コーティングは、処理金属表面から酸性水性組成物(B)の成分を除去するための中間洗浄工程を実行し、又は実行せずに、ポリマーコーティングを可能な限り完全に及び恒久的に架橋させ、それによって耐腐食性を向上させるために、高い温度で硬化されることが好ましい。有機コーティングの硬化のプロセスは、水相(A)に分散される結合剤の硬化温度よりも高く、300℃よりも低い温度で行われることが好ましい。
【0048】
また、本発明は、本発明による方法で製造された金属部品も包含し、この部品は、少なくとも部分的に、スチール、鉄、亜鉛、及び/又はアルミニウム、並びにこれらの合金から生成されたものであることが好ましい。
【0049】
本発明によるこの種の部品は、自動車製造、及び建築セクターにおいて、並びに家庭電化製品及び電子機器筐体の製造のために用いられる。
【実施例】
【0050】
本発明による方法の工程(ii)で実施される反応性洗浄の、コーティングされた金属基材の耐腐食性の改善における効果を、例として、自己析出プロセスを用いてスチール表面に適用される特定の有機結合剤系について以下に示す。
【0051】
まず、CRSパネルを、強アルカリ性洗浄剤(3質量% ACL(登録商標)1773、0.3質量% ACL(登録商標)1773T、ヘンケル社(Henkel Co.))を用いて7分間脱脂し、続いて水道水及び脱イオン水で洗浄した。
【0052】
次に、このパネルを、有機コーティングを適用するためのそれぞれの自己析出コーティング浴に2分間浸漬し(工程i)、続いて脱イオン水の流水下にて1分間洗浄し、反応性洗浄剤(ARR(登録商標)E2、ヘンケル社)中にて工程(ii)の後処理を1分間行い、再度脱イオン水で洗浄した。
【0053】
後工程において、この方法でコーティングしたパネルに、循環式オーブン中にて皮膜形成及び硬化を施した。硬化後の層厚さは、本発明による方法及び比較実験の両方において、およそ20μmであり、これは、PosiTector(登録商標)(デフェルスココーポレーション(DeFelsco Corp.)を用いて測定した。
【0054】
これに続いて、この方法でコーティング及び処理を行ったスチールパネルの耐腐食性の定量を、DIN50021NSS試験での浸透に基づいて行った。その結果を表1に示す。
【0055】
工程(i)においてそれぞれの結合剤系の水性自己析出分散液から自己析出プロセスでスチール表面に適用された有機コーティングは、すべてエポキシ樹脂(EEW:500から575g/当量; Mn:1200g/モル DER(登録商標)664UE、ダウケミカルズ)及びポリアクリレートのポリマー混合物を主体とし、追加として各々の場合でエポキシ樹脂の質量比が70:30となる量の硬化剤を含有するものである。水性分散液の有機固形分は、およそ4質量%であり、固形部分のエポキシ樹脂の比率は、およそ45質量%である。加えて、結合剤系の自己析出のための水相中には、0.14質量%のフッ化鉄(III)、0.05質量%のフッ化水素、及び2.1質量%の過酸化水素が含有されている。
【0056】
水相(A)中の有機結合剤系の成分である用いた硬化剤は、フェノール樹脂(4,4’−イソプロピリデンジフェノール、GP-Phenolic Resin(登録商標)BKS7550、アシュランド−ズードケミー−ケルンフェスト(Ashland-Sudchemie-Kernfest)又はイソシアネート樹脂(Vestagon(登録商標)B1530、エボニック社(Evonik Co.)である(表1参照)。
【0057】
スチール板上に上記で示した方法によって適用、硬化されたそれぞれの有機コーティングに対する504時間のNSS試験後の腐食浸透値を表1から集めることができる。
【0058】
実施例C1とE1、C2とE6、及びC3とE10の比較から明らかなように、本発明による方法における酸性水性組成物(B)中の銅イオンの量が少ない場合でも、浸透値に大きな改善が得られる。銅イオンの添加は、酸性水性組成物中のZr濃度が高い場合には、硬化有機コーティングを備えたスチール表面の耐腐食性にとって特に有利である。銅イオンの濃度を徐々に上げると、この場合も耐腐食性の劣化が見られ(実施例B1からB5)、硬化剤としてイソシアネート樹脂を有する結合剤系の場合には、HZrFのみを含有し銅イオンを含有しない反応性洗浄剤と比較して、浸透値の悪化を、100ppm超で既に検出することができる(実施例C1及びE5)。
【0059】
【表1】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属表面の腐食保護処理のための方法であって、この方法において、第一工程(i)では、水相(A)から成る有機コーティングを前記金属表面に適用し、後工程(ii)では、前記有機コーティングを有する前記金属表面を、
a)Zr、Ti、Si、Hf、V、及び/又はCeの元素から選択される少なくとも1つの原子を含有する1若しくは2つ以上の水溶性化合物、並びに、
b)銅イオンを放出する1若しくは2つ以上の水溶性化合物、
を少なくとも含む酸性水性組成物(B)と接触させる、方法。
【請求項2】
前記第一工程(i)での前記有機コーティングの適用が、無電解の方法で行なわれる、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記第一工程(i)において、前記水相(A)が、4未満のpHを有し、
a)好ましくは300℃より低い温度、好ましくは200℃より低い温度にて熱硬化される少なくとも1つの分散された有機結合剤系、
b)鉄(III)イオン、及び、
c)フッ化物イオンの水溶性化合物からの鉄(III)イオンに対するモル比が少なくとも2:1に等しくなるような定量的比率でのフッ化物イオン、
を含有する、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記第一工程(i)において、前記水相(A)に分散された有機結合剤系が、80℃以下、好ましくは40℃以下の皮膜形成温度を有する、請求項1から3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
前記後工程(ii)において、前記酸性水性組成物(B)と前記有機コーティングを有する前記金属表面との接触は、少なくとも30℃、好ましくは少なくとも40℃、しかし80℃以下である温度で行われる、請求項1から4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
前記後工程(ii)において、前記酸性水性組成物(B)が、
a)それぞれの元素の比率として計算して、元素Zr、Ti、Si、Hf、V、及び/又はCeから選択される少なくとも1つの原子を含有する水溶性化合物を合計で少なくとも100ppm、しかし2000ppm以下、
b)それぞれの元素の比率として計算して、元素Zr、Ti、及び/又はSiから選択される少なくとも1つの原子を含有する水溶性化合物を好ましくは800ppm以下、並びに、
c)銅の比率として計算して、銅イオンを放出する水溶性化合物を少なくとも1ppm、しかし100ppm以下、
含有する、請求項1から5のいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
前記後工程(ii)において、前記酸性水性組成物(B)のpHが、2以上及び5以下である、請求項1から6のいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】
処理された前記金属表面から前記水相(A)の成分を除去する目的で、前記第一工程(i)と前記後工程(ii)との間に洗浄工程を行う、請求項1から7のいずれか1項に記載の方法。
【請求項9】
工程(ii)の後、処理された前記金属表面から前記酸性水性組成物(B)の成分を除去する目的の中間洗浄工程を行って、又は行わずに、前記金属表面の有機コーティングを高い温度で硬化させる、請求項1から8のいずれか1項に記載の方法。
【請求項10】
請求項1から9のいずれか1項にしたがって処理されたものである、金属部品。
【請求項11】
前記部品が、少なくとも部分的にスチール、鉄、亜鉛、及び/又はアルミニウムから生成される、請求項10に記載の金属部品。
【請求項12】
自動車製造、及び建築セクター、並びに家庭電化製品及び電子機器筐体の製造のための、請求項10または11に記載の部品の使用。

【公表番号】特表2013−504687(P2013−504687A)
【公表日】平成25年2月7日(2013.2.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−528292(P2012−528292)
【出願日】平成22年8月10日(2010.8.10)
【国際出願番号】PCT/EP2010/061592
【国際公開番号】WO2011/029680
【国際公開日】平成23年3月17日(2011.3.17)
【出願人】(000229597)日本パーカライジング株式会社 (198)
【Fターム(参考)】