説明

金属表面をハイブリッド層で被覆するための方法

【課題】 50〜500nmの厚さを持つ超薄無機/有機ハイブリッド被覆層により、簡単なまたは複雑な形状を持つ静止または移動する金属基板を被覆するための方法を提供する。
【解決手段】 このハイブリッド被覆層は、基板上に、酸化物ナノ粒子を含む水溶液から、塩基性pH条件下に、50℃未満の前記基板の温度で、10秒未満の付着と乾燥の合計時間で、付着され、前記水溶液が少なくとも一種のプレポリマーを含むことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、簡単なまたは複雑な形状の静止したまたは移動する金属基板を無機/有機ハイブリッド保護層により被覆するための方法に関する。
【0002】
本発明は、国際特許出願WO−A−03/048403及びWO−A−2005/059196に明白に記載された被覆方法の続きとして構成される。
【背景技術】
【0003】
鋼ストリップに対する腐食保護の範囲内で、本出願人は、数年間、クロメート処理に対する代替処理について研究してきた。実際に、発癌性のCr(VI)を使用するクロメート処理は、家庭用途のための鋼を供給するラインから追放され、従って置換法が開発されなければならない。
【0004】
種々の会社がこれらの新しい処理について研究しており、多様な製品を提案している。これは、シリカ、ジルコニアまたはチタン酸化物のような安定な酸化物の付着、またはシランのようなより有機的な付着物の付着を含む。
【0005】
このタイプの処理の主な困難性は、ストリップが製造ラインで非常に迅速に走行することによる限定された付与時間、付着を達成するための現存する装置を使用する義務、作業者及び環境に対して危険の低い化合物の使用、及び最後に同じオーダーの大きさの費用でクロメート処理に等しい性能であり、それは小さな厚さ(50〜500nm)を意味する。
【0006】
特許出願WO−A−03/048403では、出願人は、移動中の高温度基板をケイ素、チタン、ジルコニウム等の酸化物のナノ粒子を持つ水溶液から超薄保護層(40〜500nm)により連続的に被覆するための方法に関する発明を提案する。
【0007】
特許出願WO−A−2005/059196では、出願人は、酸化物ナノ粒子の超微細層の付着反応に対抗的に影響する化学添加物の使用のおかげで国際特許出願WO−A−03/048403に記載された方法の改良を提案する。かかる化合物の添加は、前述の出願におけるよりさらに小さい厚さを持つ層、すなわち典型的には100nm未満の厚さを持つ層を得ることを可能にする。
【発明の概要】
【0008】
本発明は、金属の腐食に対して非常に高い保護を与えるハイブリッド被覆層で金属基板を覆うための方法を提供することを目的とする。
【0009】
本発明はまた、ペイント塗布を必要とする用途の範囲内で、優れたペイント付着を与える無機/有機ハイブリッド層で金属基板を覆うための方法を提供することを目的とする。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】図1は、本発明の方法のように連続的に被覆されかつ塩水霧中に置かれた亜鉛メッキ試料を示す(XPSにより測定したときの被覆層厚:120nm)。左は24時間後に取った写真であり、右は48時間後に取った写真である。
【0011】
【図2】図2は、本発明のように連続的に処理されかつペイント塗布され、次いで深絞りされかつ沸騰水中に4時間浸漬された試料を示す。
【0012】
【図3】図3は、本発明のように連続的に処理されかつペイント塗布されかつ1T−折りたたみされた(T−曲げ試験)試料を示す。
【0013】
【図4】図4は、本発明のようなプレポリマーを得るためのジアミン及びジエポキシの重合速度論を示し、前記速度論は経時的な粘度の進展により測定されている(30,40及び50℃のそれぞれの温度で測定)。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明は、簡単なまたは複雑な形状を持つ静止したまたは移動する金属基板を、50〜500nmの厚さを持ち、基板上に:
− 酸化物ナノ粒子を含む水溶液から、
− 塩基性pH条件下に、
− 50℃未満の前記基板の温度で、
− 10秒未満の付着と乾燥の合計時間で、
付着された超薄無機/有機ハイブリッド層により、被覆するための方法であって、前記水溶液が少なくとも一種のプレポリマーを含む方法を開示する。
【0015】
本発明はまた、本発明の方法による超薄保護層で被覆された、平坦なまたは長い金属製品、好ましくはストリップ、ワイヤー、ビーム、異形材またはチューブであって、前記保護層が50〜500nmの厚さを持つ無機/有機ハイブリッド層である平坦なまたは長い金属製品を開示する。
【0016】
本発明の特別な実施態様は次の特徴の少なくとも一つまたは幾つかを含む:
− 被覆される基板は、裸金属、好ましくは鋼、ステンレス鋼(もしくは耐腐食鋼)、アルミニウム、マグネシウム、亜鉛もしくは銅、または第二金属で被覆された第一金属、好ましくは亜鉛、アルミニウム、マグネシウム、銅の層もしくはこれらの金属の少なくとも二つの合金の層で覆われた鋼ストリップのいずれかである;
− 酸化物ナノ粒子は、SiO,TiO,ZrO,Al,CeO,Sb,Y,ZnO,SnO及びこれらの酸化物の少なくとも二つのいずれかの混合物からなる群から選ばれ、1〜20nmの寸法を持ち、0.1〜10%、好ましくは1〜10%の含有量で溶液内に分散されて存在する;
− プレポリマーは、第一範疇の化合物と第二範疇の化合物を混合することにより得られた重縮合反応からもたらされる有機化合物であり、第一範疇はジ−、トリ−、テトラ−またはポリ−アミン、ジ−、トリ−、テトラ−またはポリ−アルコール及びこれらの混合物を含み、かつ第二範疇はジ−、トリ−、テトラ−またはポリ−カルボン酸、ジ−、トリ−、テトラ−またはポリ−カルボン酸無水物、ジ−、トリ−、テトラ−またはポリ−エポキシ、ジ−、トリ−、テトラ−またはポリ−イソシアネート及びこれらの少なくとも二つのいずれかの混合物を含む;
− 重合時間は、両範疇に保持される化合物の性質、混合物中のそれらの割合、この混合物の温度及び希望の重合状態からなる群内で選ばれたパラメーターの値に従って決定される;
− 前記パラメーターの値は、反応後に達成される混合物の粘度が3000〜25000cPになるように決定される。重合反応は、塩基性水性媒体中のそこで形成されたプレポリマーの完全な溶解により停止される。反応は、固体の不溶性の層を形成するために、基板上で溶液を乾燥すると完全に終わるであろう。プレ重合は、金属基板上に付与された層の短時間(数秒)内のかつほんの少しの加熱(好ましくはT<100℃)により完全な重合を確実にすることができる;
− 酸化物ナノ粒子とプレポリマーの水性混合は9〜13のpHを持つ塩基性水性媒体中で行われる;
− ナノ粒子とプレポリマーの割合はX=質量ナノ粒子/質量ポリマーが0.5<X<2であるようなものである;
− 付着される水溶液は50℃未満の温度を持つ;
− 被覆される基板は50℃未満の温度を持つ;
− 付着は、オンライン金属ストリップ上で、ストリップの面上に付着された溶液を一組の絞りロールにより絞り取ることにより行われる;
− 付着は、オンライン金属ストリップ上で、被覆ロールのシステムにより行われる;
− 付着は、ストリップ以外のいずれかの金属製品上で、制御された噴霧または浸漬により行われる;
− 付着された溶液は、次いで熱空気により、誘導によりまたは赤外線により乾燥される。
【0017】
本発明の対象は、金属ストリップを「silicalloy」と呼ばれる無機/有機ハイブリッド層により覆うための方法である。
【0018】
本発明におけるハイブリッド層は、100%水系溶液を付着することにより形成される。前述の溶液は例えばシリカナノ粒子(1〜20nmの寸法分布)と一種または幾つかの種類のプレポリマーの混合物を含み、全体が塩基性媒体(9〜13のpH)中にある。
【0019】
プレポリマーは、二つの範疇の化合物間の重縮合反応から得られた有機化合物である:
− 範疇1:ジ−、トリ−、テトラ−またはポリ−アミン、ジ−、トリ−、テトラ−またはポリ−アルコールまたはこれらの混合物;
− 範疇2:ジ−、トリ−、テトラ−またはポリ−カルボン酸、ジ−、トリ−、テトラ−またはポリ−カルボン酸無水物、ジ−、トリ−、テトラ−またはポリ−エポキシ、ジ−、トリ−、テトラ−またはポリ−イソシアネートまたはこれらの二つまたは幾つかの混合物。
反応時間は、それらの範疇に依存する化合物、それらの割合、この混合物の温度及び希望の重合状態により変動する。重合状態は、粘度測定により追跡されることができる。図4には、この粘度の進展を時間の関数として、種々の温度で、化学量論的割合のジアミンAとジエポキシBの混合物について見ることができる。
【0020】
希望の粘度、好ましくは3000〜25000cPの粘度を持つ、そこで形成されたプレポリマーは、次いで溶液の残り中に溶解され、それは重合を停止する。プレポリマーは、水の蒸発及び付与温度のため、溶液の付与時に架橋を終えるであろう。焼付時間は10秒未満である。
【0021】
冷たい溶液(T<50℃)は、ローラーによる付与システムにより冷たい金属板(T<50℃)上に付与される。これらは、必要量を通すのみである簡単な絞りローラーであるかまたはさもなくばローラー被覆システムであることができる。付与された溶液は、次いで熱空気により、誘導によりまたは赤外線により乾燥され、最終的に場合に応じて50〜500nmの厚さを持つ被覆を得る。
【0022】
試験の結果
図1は、本発明のような層により被覆された亜鉛メッキ鋼試料の二つの画像を示し、被覆は、この場合、パイロットラインで連続的に達成され、塩水霧内に120時間放置された。両写真はそれぞれ24及び48時間の間隔で取られている。
【0023】
図2は、ペイントシステム(一次ペイント+建物のための仕上げペイント)により塗布された板を示す。この板は交差状に引掻きされ、背面から深絞りされ、かつ4時間沸騰水中に置かれた。板は、乾燥された後は表面剥離が観察されない。
【0024】
図3は、同じペイントシステムにより塗布されかつT−曲げ試験規格(ISO17132:21007)に従って1T−折りたたみされた試料を示す。折りたたみにクラックは見えない。
【0025】
調製例
200mlの脱イオン水を500mlビーカー中に注ぎ、次いで20質量%のSnOナノ粒子の市販水性分散液の50mlを添加する。11のpHに到達させるためにそれにカリを添加する。次に、別の100mlビーカー中で、3.5gの4,4−メチレン−ビスシクロヘキサンアミン(工業等級95%)を6.5gのグリセロールジグリシジルエーテル(工業等級)と混合し、この混合物を35℃のサーモスタットを備えた浴中に置く。混合物の粘度(間接的に重合の進行)をリアルタイムで回転粘度計または振動粘度計により測定する。この混合物の粘度が5000cPに到達したら(本件の場合、5時間後)、形成されたプレポリマーを、酸化スズナノ粒子を含む第一ビーカー内にゆっくりと溶解する。最後に、もし必要ならpHを再チェックしかつ再調整する。
【0026】
オンライン付与のための一例として、約20℃の温度で上述のように作られた溶液を、ポンプにより移動中の亜鉛メッキ鋼ストリップ上に送る。それを次いでゴムローラーにより絞り取る。過剰液を回収し、再生する。ストリップ上に残る液体(1〜2ml/m)に関しては、それを赤外線ランプにより加熱する。金属の表面は2〜3秒以内に90〜100℃に達し、水は蒸発し、プレポリマーは架橋を終えることができる(この温度では、プレポリマーは数秒以内に架橋を終える)。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
簡単なまたは複雑な形状を持つ静止したまたは移動する金属基板を、50〜500nmの厚さを持ち、基板上に:
− 酸化物ナノ粒子を含む水溶液から、
− 塩基性pH条件下に、
− 50℃未満の前記基板の温度で、
− 10秒未満の付着と乾燥の合計時間で、
付着された超薄無機/有機ハイブリッド被覆層により、被覆するための方法であって、前記水溶液が少なくとも一種のプレポリマーをさらに含むことを特徴とする方法。
【請求項2】
被覆される基板が、裸金属、好ましくは鋼、ステンレス鋼(もしくは耐腐食鋼)、アルミニウム、マグネシウム、亜鉛もしくは銅、または第二金属で被覆された第一金属、好ましくは亜鉛、アルミニウム、マグネシウム、銅、もしくはこれらの金属の少なくとも二つの合金の層で覆われた鋼ストリップのいずれかであることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項3】
酸化物ナノ粒子が、SiO,TiO,ZrO,Al,CeO,Sb,Y,ZnO,SnO及びこれらの酸化物の少なくとも二つのいずれかの混合物からなる群から選ばれ、1〜20nmの寸法を持ち、0.1〜10%、好ましくは1〜10%の含有量で溶液内に存在することを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項4】
プレポリマーが、第一範疇の化合物と第二範疇の化合物を混合することにより得られた重縮合反応からもたらされる有機化合物であり、第一範疇はジ−、トリ−、テトラ−またはポリ−アミン、ジ−、トリ−、テトラ−またはポリ−アルコール及びこれらの混合物を含み、第二範疇はジ−、トリ−、テトラ−またはポリ−カルボン酸、ジ−、トリ−、テトラ−またはポリ−カルボン酸無水物、ジ−、トリ−、テトラ−またはポリ−エポキシ、ジ−、トリ−、テトラ−またはポリ−イソシアネート及びこれらの少なくとも二つのいずれかの混合物を含むことを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項5】
重合時間が、両範疇に保持される化合物の性質、それらの割合、この混合物の温度及び希望の重合状態からなる群内で選ばれたパラメーターの値に従って決定されることを特徴とする請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記パラメーターが、反応後に達成される混合物の粘度が3000〜25000cPになるように決定されることを特徴とする請求項5に記載の方法。
【請求項7】
酸化物ナノ粒子とプレポリマーの混合が9〜13のpHの塩基性媒体中で行われることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項8】
ナノ粒子とプレポリマーの質量割合Xが0.5〜2であることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項9】
付着される水溶液が50℃未満の温度を持つことを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項10】
被覆される基板が50℃未満の温度を持つことを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項11】
付着が、連続ライン上の金属ストリップ上で、ストリップの面上に付着された溶液を一組の絞りローラーにより絞り取ることにより行われることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項12】
付着が、連続ライン上の金属ストリップ上で、被覆ローラーのシステムにより行われることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項13】
付着が、ストリップ以外のいずれかの金属製品上で、制御された噴霧または浸漬により行われることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項14】
付着された溶液が、次いで熱空気により、誘導によりまたは赤外線により乾燥されることを特徴とする請求項11,12または13に記載の方法。
【請求項15】
請求項1に記載の方法による超薄保護層で被覆された、平坦なまたは長い金属製品、好ましくはストリップ、ワイヤー、ビーム、異形材またはチューブであって、前記保護層が50〜500nmの厚さを持つ無機/有機ハイブリッド被覆層であることを特徴とする平坦なまたは長い金属製品。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公表番号】特表2011−526649(P2011−526649A)
【公表日】平成23年10月13日(2011.10.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−515363(P2011−515363)
【出願日】平成21年6月24日(2009.6.24)
【国際出願番号】PCT/EP2009/057861
【国際公開番号】WO2010/000651
【国際公開日】平成22年1月7日(2010.1.7)
【出願人】(511004634)
【Fターム(参考)】