説明

金属表面処理剤、表面処理金属材料、および金属表面処理方法

【課題】本発明は、耐熱性、導電性、耐食性、耐黒カス性に優れた皮膜を得ることができる、貯蔵安定性に優れた金属表面処理剤を提供することを目的とする。
【解決手段】一般式VO(OR)3(Rは、それぞれ独立にアルキル基を表す。)で表されるバナジウムアルコキシドの加水分解物および/またはその縮合物(A)と、Al、Si、Ti、Y、Zr、Nb、Sn、La、CeおよびNdからなる群より選ばれる金属元素の酸化物を含む金属酸化物コロイド(B)とを含有し、バナジウムアルコキシドの加水分解物および/またはその縮合物(A)の金属V換算質量(WA)と、金属酸化物コロイド(B)の質量(WB)との質量比(WA/WB)が0.005〜5.0である、金属表面処理剤。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、クロムを含有しない金属表面処理剤、該処理剤を用いて得られる表面処理金属材料、および金属表面処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、家電製品用鋼板などに代表される鋼板としては、耐食性を向上させる目的で、6価クロムを主要成分としたクロメート表面処理剤によるクロメート処理が施された鋼板が幅広く用いられていた。
一方で、6価クロムの有毒性によって環境汚染が引き起こされる問題が指摘されている。近年、その解決方法として、クロムを含まない金属表面処理剤を用いた、ノンクロメート表面処理技術が数多く提案されている。
【0003】
例えば、特許文献1には、「少なくとも1種のバナジウム化合物(A)と、ジルコニウム、チタニウム、モリブデン、タングステン及びマンガンからなる群から選ばれる少なくとも1種の金属を含む金属化合物(B)とを含有する金属表面処理剤」が開示され、この「バナジウム化合物(A)」としては、メタバナジン酸アンモニウム、バナジウムオキシアセチルアセトネート等が挙げられている。
【0004】
また、特許文献2には、「(A)ペルオキソバナジン酸、(B)チタン化合物及び/又はジルコニウム化合物、必要に応じて(C)水溶性又は水分散性有機樹脂を含有する金属表面処理用組成物」が開示されており、この「(A)ペルオキソバナジン酸」は、メタバナジン酸アンモニウムを過酸化水素と反応させることにより製造される旨が記載されている。
【0005】
さらに、特許文献3には、全体溶液100重量部を基準に、エポキシ基を有するシラン化合物及びアミノ基を有するシラン化合物またはこれらの加水分解縮合物5〜30重量部と、バナジウム化合物0.1〜5重量部と、マグネシウム化合物0.1〜5重量部と、有/無機酸1〜10重量部と、架橋促進及びカップリング剤0.05〜2重量部と、消泡剤0.01〜1重量部と、ウェッティング剤1〜2重量部と、残りは水とエタノールからなるクロムフリー低温硬化型金属表面処理組成物が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2002−30460号公報
【特許文献2】特開2009−174051号公報
【特許文献3】特開2008−544088号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
金属表面処理剤から得られる皮膜には、耐食性、耐熱性、導電性、加工時の耐黒カス性など様々な性能が要求される。近年、精密機器、OA機器、白物家電等の汎用家電分野で金属材料を使用する際には、特に、耐食性のほかに、導電性および耐熱性に関する要求レベルが高まっている。
【0008】
本発明者が、特許文献1,2で用いられているメタバナジン酸アンモニウム、バナジウムオキシアセチルアセトネート等のバナジウム化合物を含有する金属表面処理剤についてさらに検討を行ったところ、この金属表面処理剤から得られる皮膜の耐食性、耐熱性および導電性は、昨今要求されるレベルには到達しておらず、改良が必要であることが明らかとなった。
【0009】
一方、本発明者が、特許文献3に開示されるような、シラン化合物を含む金属表面処理剤についてもさらに検討を行ったところ、処理剤の貯蔵安定性や、この金属表面処理剤から得られる皮膜の諸特性(例えば、耐食性、耐熱性、耐黒カス性など)も、実用上必ずしも満足するレベルに達していなかった。
【0010】
このように、従来の公知の金属表面処理剤は、クロメート皮膜の代替として使用できるような、耐熱性、導電性、耐食性、耐黒カス性に優れた皮膜を形成させることができるとは言い難く、これらを総合的に満足できる貯蔵安定性に優れた金属表面処理剤の開発が強く要望されていた。
【0011】
本発明は、上記実情に鑑みて、耐熱性、導電性、耐食性、耐黒カス性に優れた皮膜を得ることができる、貯蔵安定性に優れた金属表面処理剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者は、上記課題を解決するために鋭意検討した結果、従来技術において耐食性が悪化する原因として、腐食環境下で皮膜中のバナジウム化合物が溶出してしまう点を見出した。本発明者は、これらの知見を基にして、所定の構造式で表されるバナジウムアルコキシドの加水分解物および/またはその縮合物(A)と、所定の金属酸化物コロイド(B)とを、所定量含有する金属表面処理剤を用いることにより、特に、耐食性、導電性および耐熱性が優れる皮膜が得られることを明らかにし、本発明を完成させた。
すなわち、本発明は、以下の(1)〜(8)を提供する。
【0013】
(1)一般式VO(OR)3(Rは、それぞれ独立にアルキル基を表す。)で表されるバナジウムアルコキシドの加水分解物および/またはその縮合物(A)と、Al、Si、Ti、Y、Zr、Nb、Sn、La、CeおよびNdからなる群より選ばれる金属元素の酸化物を含む金属酸化物コロイド(B)とを含有し、上記バナジウムアルコキシドの加水分解物および/またはその縮合物(A)の金属V換算質量(WA)と、上記金属酸化物コロイド(B)の質量(WB)との質量比(WA/WB)が0.005〜5.0である、金属表面処理剤。
【0014】
(2)バナジウムアルコキシドの加水分解物および/またはその縮合物(A)の重量平均分子量が100〜3000である、(1)に記載の金属表面処理剤。
【0015】
(3)pHが2〜11である、上記(1)または(2)に記載の金属表面処理剤。
【0016】
(4)金属材料と、金属材料の表面上に塗布された上記(1)〜(3)のいずれかに記載の金属表面処理剤を加熱乾燥して得られた皮膜と、を備える表面処理金属材料。
【0017】
(5)上記金属材料が、亜鉛系めっき鋼板である、上記(4)に記載の表面処理金属材料。
【0018】
(6)上記加熱乾燥して得られた皮膜の質量が、0.05〜3g/m2である、上記(4)または(5)に記載の表面処理金属材料。
【0019】
(7)上記(1)〜(3)のいずれかに記載の金属表面処理剤を金属材料の表面上に塗布する塗布工程と、上記金属材料の表面上に塗布された上記金属表面処理剤を加熱乾燥して皮膜を得る加熱乾燥工程と、を備える金属表面処理方法。
【0020】
(8)上記加熱乾燥工程における加熱乾燥温度が、50〜200℃である、上記(7)に記載の金属表面処理方法。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、耐熱性、導電性、耐食性、耐黒カス性に優れた皮膜を得ることができる、貯蔵安定性に優れた金属表面処理剤を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0022】
<金属表面処理剤>
本発明の金属表面処理剤は、一般式VO(OR)3(Rは、それぞれ独立にアルキル基を表す。)で表されるバナジウムアルコキシドの加水分解物および/またはその縮合物(A)と、Al、Si、Ti、Y、Zr、Nb、Sn、La、CeおよびNdからなる群より選ばれる金属元素の酸化物を含む金属酸化物コロイド(B)とを含有し、上記バナジウムアルコキシドの加水分解物および/またはその縮合物(A)の金属V換算質量(WA)と、上記金属酸化物コロイド(B)の質量(WB)との質量比(WA/WB)が0.005〜5.0である、金属表面処理剤である。
以下、本発明の金属表面処理剤の構成成分について説明する。
【0023】
[バナジウムアルコキシドの加水分解物および/またはその縮合物(A)]
本発明で使用される上記バナジウムアルコキシドは、一般式VO(OR)3(Rは、それぞれ独立にアルキル基を表す。)で表される化合物である。
上記バナジウムアルコキシドは、水の存在下で加水分解して、アルコキシ基の一部が水酸基で置換された一般式VO(OR)2OHで表される化合物や、アルコキシ基の全部が水酸基に置換された化合物などを生成する。このような化合物の加水分解、縮合を介して得られる加水分解物および/または縮合物を含有する金属表面処理剤から皮膜を得た場合、非晶質の酸化バナジウムを形成することができる。
上記バナジウムアルコキシドを出発物質として得られる非晶質の酸化バナジウムが皮膜中に含まれることにより、通常、トレードオフの関係にある耐食性と導電性とを高いレベルで両立できると考えられる。
【0024】
一般に、非晶質の酸化バナジウムにおいては、バナジウムの原子価は5価に近い状態にあり、その導電機構はわずかに存在する4価のバナジウムイオンから5価のバナジウムイオンへ電子の流れが生じることにより起きるホッピング伝導であるといわれている。このため、非晶質の酸化バナジウムは、高い導電性を示す。
これに対して、結晶質の酸化バナジウムにおいては、バナジウムの原子価は5価であり、バナジウム間の原子価の違いにより生じるホッピング伝導が阻止されるため、導電性は悪くなる。
【0025】
上記バナジウムアルコキシドは、アルコキシ基を有し、加水分解によりヒドロキシ基を有する。アルコキシ基およびヒドロキシ基は、いずれも電子供与基である。したがって、上記バナジウムアルコキシドは、4価のバナジウムを作りやすい状態にあり、V4+→V5+間のホッピング伝導を促進するものと考えられる。
【0026】
一般式VO(OR)3中のRはそれぞれ独立にアルキル基を表し、取り扱いやすさや入手が容易である点から、炭素数1〜8のアルキル基が好ましく、炭素数1〜4のアルキル基がより好ましい。具体的には、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基などが挙げられる。なお、Rは、同一でも異なっていてもよい。
【0027】
上記バナジウムアルコキシドの具体例としては、バナジウムオキシトリイソプロポキシド、バナジウムオキシトリブトキシド、バナジウムオキシトリエトキシド、バナジウムオキシトリイソブトキシド等が挙げられ、中でも、得られる皮膜の耐熱性、耐食性および導電性がより優れるという理由から、バナジウムオキシトリイソプロポキシド、バナジウムオキシトリブトキシドが好ましい。
【0028】
バナジウムアルコキシドの加水分解・縮合反応の条件は特に制限されないが、例えば、溶媒中(水中など)で加水分解縮合反応を行うことにより、所望の重量平均分子量を有する加水分解物またはその縮合物(加水分解縮合物)を得ることができる。より具体的には、まず、加水分解反応によって、V−OH(水酸基)が生成する。次に、加水分解反応が十分に進めば、縮合反応によるV−O−Vの生成も速やかに行われるため重量平均分子量の増加につながる。
加水分解反応、縮合反応は温度と時間に影響されるため、必要に応じて反応温度や反応時間を調整して目的とする重量平均分子量にすることが好ましい。
【0029】
加水分解・縮合反応の反応温度としては、反応制御が容易である点から、0〜70℃が好ましく、20〜40℃がより好ましい。
加水分解・縮合反応の反応時間は、使用される化合物によって適宜最適な時間が選択されるが、生産性などの点から、5〜60分が好ましい。
加水分解・縮合反応は、必要に応じて、溶媒中で行ってもよい。使用される溶媒としては、例えば、水や、水分を一部含有する、アルコール類(メタノールなど)、ケトン類、セロソルブ類などの有機溶媒が挙げられる。
加水分解・縮合反応時の反応系のpHは特に制限されず、使用される化合物、目的とする重量平均分子量に応じて適宜最適な範囲が選択されるが、pH2〜9が好ましい。
【0030】
上記バナジウムアルコキシドの加水分解物および/またはその縮合物(A)の重量平均分子量は100〜3000であることが好ましく、200〜1000であることがより好ましい。重量平均分子量がこの範囲であれば、分子量が適切であるため処理剤の貯蔵安定性も良好であると共に、各種皮膜特性もより良好となる。なお、重量平均分子量が高すぎると、処理剤の十分な貯蔵安定性が得られない場合があり、さらには耐食性などの皮膜の各種特性もやや劣る場合がある。
【0031】
本発明の金属表面処理剤中における出発物質である上記バナジウムアルコキシドの仕込み量は特に限定されないが、皮膜の耐食性、および、処理剤の貯蔵安定性の観点から、処理剤全量に対して、0.05〜20質量%であることが好ましく、0.1〜10質量%であることがより好ましい。
【0032】
本発明の金属表面処理剤中における上記加水分解物および/またはその縮合物(A)の含有量は特に限定されないが、皮膜の耐食性、および、処理剤の貯蔵安定性の観点から、処理剤全量に対して、金属V(バナジウム)換算質量で0.01〜5質量%であることが好ましく、0.02〜2質量%であることがより好ましい。
【0033】
[金属酸化物コロイド(B)]
上記金属酸化物コロイド(B)は、Al、Si、Ti、Y、Zr、Nb、Sn、La、CeおよびNdからなる群より選ばれる少なくとも1種の金属元素の酸化物を含有するコロイド状金属酸化物である。つまり、金属酸化物コロイド(B)は、該金属元素の酸化物を含有するコロイドである。
【0034】
本発明の金属表面処理剤においては、上記金属酸化物コロイド(B)が上記バナジウムアルコキシドの加水分解物および/またはその縮合物(A)と共存することによって、得られる皮膜の耐熱性、導電性、耐食性などをさらに高めることができる。
特に、導電性の向上に関しては、原子価が5価の酸化バナジウムと、それよりも原子価の低い4価以下の原子とを共存させることによって、上述したホッピング伝導を介して導電性が高まったと考えられる。また、耐熱性の向上に関しては、金属酸化物の熱に対する安定性から、耐熱性が高まったと考えられる。
【0035】
さらに、得られる皮膜において、上記バナジウムアルコキシドに由来するV(バナジウム元素)と、上記金属酸化物コロイド(B)に由来する金属元素Mとが、例えば、V−O−M等の酸素を介したネットワークを一部形成するため、腐食環境下においても耐食性に寄与するV(バナジウム元素)の溶出を抑制することができ、耐食性が向上したと考えられる。
【0036】
金属酸化物コロイド(B)には、Al、Si、Ti、Y、Zr、Nb、Sn、La、CeおよびNdからなる群より選ばれる少なくとも1種の金属元素の酸化物が含有される。含有される金属酸化物の具体例としては、例えば、酸化アルミニウム(Al23)、酸化ケイ素(SiO2)、酸化チタン(TiO2)、酸化イットリウム(Y23)、酸化ジルコニウム(ZrO2)、酸化ニオブ(Nb25)、酸化スズ(SnO)、酸化ランタン(La23)、酸化セリウム(CeO2)、酸化ネオジウム(Nd23)が挙げられる。なかでも、得られる皮膜の耐食性、導電性、耐熱性など各種特性がより優れる点から、酸化ケイ素、酸化チタン、酸化ジルコニウムが好ましい。
なお、金属酸化物コロイド中には、1種の金属元素の酸化物のみが含まれていてもよく、2種以上の金属元素の酸化物が含まれていてもよい。また、金属酸化物コロイド(B)中において上記金属元素の酸化物の含有割合は特に制限されないが、実質的に上記金属元素の酸化物で構成されることが好ましい。なお、実質的とは、約99〜100質量%を意味する。
【0037】
金属酸化物コロイド(B)の平均粒径は特に制限されないが、得られる皮膜の耐食性など各種特性がより優れる点から、0.1〜100nmが好ましく、1〜50nmがより好ましい。
【0038】
金属酸化物コロイド(B)を含む本発明の金属表面処理剤を製造する際には、金属酸化物コロイドが溶媒中に分散されたゾル(金属酸化物ゾル)を使用することもできる。
上記金属酸化物ゾルの具体例としては、アルミナゾル、シリカゾル、酸化チタンゾル、酸化イットリウムゾル、酸化ジルコニウムゾル、酸化ニオブゾル、酸化スズゾル、酸化ランタンゾル、酸化セリウムゾル、酸化ネオジムゾルなどが挙げられる。
これらのうち、耐熱性、耐食性、耐黒カスがより優れるという理由から、シリカゾル、酸化チタンゾル、酸化ジルコニウムゾルが好ましい。
金属酸化物ゾル中の溶媒は特に限定されないが、水、または、エタノールもしくはイソプロピルアルコールなどの有機溶媒、あるいはこれらの混合物でもよい。
また、金属酸化物ゾル中の金属酸化物コロイドの固形分含有率は特に制限されず、取扱い性などの点から、全ゾル量に対して、1〜50質量%が好ましい。
【0039】
金属酸化物コロイド(B)は、公知の方法で合成してもよく、上記市販品(金属酸化物
ゾル)などを使用してもよい。
【0040】
本発明の金属表面処理剤中における上記金属酸化物コロイド(B)の仕込み量は特に制限されないが、皮膜の耐食性、および、処理剤の貯蔵安定性の観点から、処理剤全量に対して、0.1〜20質量%であることが好ましく、1〜10質量%であることがより好ましい。
【0041】
[質量比(WA/WB)]
本発明の金属表面処理剤において、使用される上記バナジウムアルコキシドの加水分解物および/またはその縮合物(A)の金属V(バナジウム)換算質量(WA)と上記金属酸化物コロイド(B)の質量(WB)との質量比(WA/WB)は、0.005〜5.0である。なお、金属V(バナジウム)換算質量(WA)は、金属表面処理剤中の上記加水分解物および/またはその縮合物(A)の質量を金属V(バナジウム)換算したものである。
質量比(WA/WB)が0.005未満であると、耐食性が得られないばかりか、上記バナジウムアルコキシドの加水分解物および/またはその縮合物(A)によるホッピング伝導の効果が小さくなるため導電性が劣る。また、質量比(WA/WB)が5.0を越えると、耐熱性、耐食性、耐黒カス性が劣る。
それに対して、質量比(WA/WB)が0.005〜5.0であれば、耐熱性、導電性、耐食性、耐黒カス性に優れた皮膜を得ることができる。なかでも、本発明の効果がより優れる点で、0.025〜2.5であることが好ましく、0.05〜0.5であることが好ましい。
【0042】
[pH]
本発明の金属表面処理剤は、pHが2〜11であることが好ましく、4〜9であることがより好ましい。
pHがこの範囲であれば、金属表面処理剤を金属材料に塗布してから乾燥または加熱処理により皮膜が形成されるまでの過程で金属材料が過剰にエッチングされず、得られる金属材料の外観が良好となる。また、pHがこの範囲であれば、金属表面処理剤の貯蔵安定性も良好である。
pHが低すぎると、金属材料の外観が一部損なわれることがあり、pHが高すぎると、処理剤の貯蔵安定性が得られないことがある。
【0043】
pHを調整するためのpH調整剤としては、従来公知のものを用いることができる。例えば、リン酸、フッ化水素酸、硝酸、ギ酸、酢酸、乳酸、グリコール酸、ホスホン酸、クエン酸、酒石酸、アンモニア、水酸化ナトリウム、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、エチレンジアミン等が挙げられる。
これらのうち、貯蔵安定性およびエッチング効果の観点から、酢酸、アンモニアが好ましい。
【0044】
[溶媒]
本発明の金属表面処理剤は溶媒を含んでいてもよく、溶媒としては水を主体とするが、皮膜の乾燥性改善など必要に応じて、アルコール、ケトン、セロソルブ系の水溶性有機溶媒を添加した水性媒体であってもよい。
本発明の金属表面処理剤における溶媒量は特に限定されないが、処理剤全量に対して、1〜99質量%であることが好ましく、30〜95質量%であることがより好ましく、50〜90質量%であることが特に好ましい。
【0045】
[添加剤]
本発明の金属表面処理剤には、本発明の趣旨や皮膜性能を損なわない範囲で、アルコキシ基含有金属化合物、水溶性無機化合物、水溶性有機樹脂、ワックス、顔料、界面活性剤、消泡剤、レベリング剤等の添加剤を添加することができる。
【0046】
[金属表面処理剤の調製方法]
本発明の金属表面処理剤の調製方法は特に制限されず、公知の方法によって製造することができる。例えば、上記バナジウムアルコキシドの加水分解物および/またはその縮合物(A)を含む溶液中に、上記金属酸化物コロイド(B)を所定量添加して、混合することによって製造することができる。
【0047】
<表面処理金属材料>
本発明の表面処理金属材料は、金属材料と、該金属材料の表面上に塗布された本発明の金属表面処理剤を加熱乾燥して得られた皮膜と、を備える表面処理金属材料である。
【0048】
上記金属材料としては、例えば、鉄、鉄を主体とする合金、アルミニウム、アルミニウムを主体とする合金、銅、銅を主体とする合金、これらの金属材料をめっきしためっき金属材料等が挙げられ、中でも、亜鉛系めっき鋼板が好ましい。
亜鉛系めっき鋼板としては、亜鉛めっき鋼板、亜鉛−ニッケルめっき鋼板、亜鉛−鉄めっき鋼板、亜鉛−クロムめっき鋼板、亜鉛−アルミニウムめっき鋼板、亜鉛−チタンめっき鋼板、亜鉛−マグネシウムめっき鋼板、亜鉛−マンガンめっき鋼板、亜鉛−アルミニウム−マグネシウムめっき鋼板、亜鉛−アルミニウム−マグネシウム−シリコンめっき鋼板等が挙げられる。
また、亜鉛系めっき鋼板としては、上述した亜鉛系めっき鋼板におけるめっき層に、コバルト、モリブデン、タングステン、ニッケル、チタン、クロム、アルミニウム、マンガン、鉄、マグネシウム、鉛、ビスマス、アンチモン、錫、銅、カドミウム、ヒ素等を少量の異種金属元素もしくは不純物として含有させたもの;シリカ、アルミナ、チタニア等の無機物を分散させたもの;等も用いることができる。
さらに、亜鉛系めっき鋼板としては、上述した亜鉛系めっきと他種類のめっき(例えば、鉄めっき、鉄−リンめっき、ニッケルめっき、コバルトめっき等)とを組み合わせた複層めっき鋼板も用いることができる。
めっき方法は特に限定されず、公知のめっき法、例えば、電気めっき法、溶融めっき法、蒸着めっき法、分散めっき法、真空めっき法等を用いることができる。
【0049】
本発明の金属表面処理剤を加熱乾燥して得られた皮膜の質量は、0.05〜3g/m2であることが好ましく、0.1〜1.5g/m2であることがより好ましい。
皮膜質量がこの範囲であると、上記金属材料の表面が十分に被覆されて各種性能が発揮され、皮膜が割れにくく耐熱性がより良好になり、耐食性もより優れる。
【0050】
<金属表面処理方法>
本発明の金属表面処理方法は、本発明の金属表面処理剤を上記金属材料の表面上に塗布する塗布工程と、上記金属材料の表面上に塗布された本発明の金属表面処理剤を加熱乾燥して皮膜を得る加熱乾燥工程と、を備える金属表面処理方法である。
なお、本発明の金属表面処理剤を塗布する前に、必要に応じて、上記金属材料の表面を脱脂処理してもよい。
【0051】
上記塗布工程における塗布の手段としては、特に限定されず、例えば、一般に使用されるロールコート、シャワーコート、エアースプレー、エアレススプレー、カーテンフローコート、刷毛塗り、浸漬等が挙げられる。
【0052】
上記加熱乾燥工程は、上記塗布工程の後、上記金属材料を水洗することなく行う。上記加熱乾燥工程における加熱乾燥の手段としては、ドライヤー、熱風炉、高周波誘導加熱炉、赤外線炉等が挙げられる。
上記加熱乾燥工程における加熱乾燥温度は、50〜200℃であることが好ましく、60〜150℃であることがより好ましい。加熱乾燥温度がこの範囲であれば、水分蒸発速度が速く乾燥効率がより良好であり、また、得られる皮膜の性能向上も期待できる。
【実施例】
【0053】
以下に、実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0054】
<金属表面処理剤の調製>
バナジウムアルコキシドを蒸留水中に加えて、25℃で10分撹拌し、pHを調整して加水分解物およびその縮合物を製造した。該溶液に、後述する第1表に示す混合比に従って、所定量の金属酸化物コロイドを添加し、30分間攪拌して、所定の金属表面処理剤を得た。
【0055】
得られた金属表面処理剤におけるバナジウムアルコキシドの加水分解物および/またはその縮合物(A)の重量平均分子量は、ゲル濾過クロマトグラフィー(GFC)を用いて求めた。GFCの測定条件を以下に示す。
・分析装置:TRI ROTAR−V(JASCO)
・検出器:示差屈折計830−RI(JASCO)、セル温度50℃
・カラム恒温槽:TU−100(JASCO)、温度55℃
・ガードカラム:OHpak Q−800P(shodex)、内径8mm×50mm
・カラム:OHpak Q−802(shodex)、内径8mm×500mm
・溶離液:蒸留水
・流量:0.7mL/min
・標準物質:ジエチレングリコール、ポリエチレングリコール
【0056】
<金属表面処理剤の組成>
第1表に、金属表面処理剤の調製に用いた各成分の種類、バナジウムアルコキシドの加水分解物および/またはその縮合物(A)の金属V換算質量(WA)と金属酸化物コロイド(B)の質量(WB)との質量比(WA/WB)、バナジウムアルコキシドの加水分解物および/またはその縮合物(A)の重量平均分子量、および、金属表面処理剤のpHを示す。第1表中、バナジウムアルコキシドおよび金属酸化物コロイド(B)の質量%は、処理剤全量に対する仕込み量(質量%)を表す。
第1表に示す記号に対応する各成分の具体名を以下に示す。
【0057】
・バナジウムアルコキシド
A1:バナジウムオキシトリイソプロポキシド
A2:バナジウムオキシトリブトキシド
A3:メタバナジン酸アンモニウム
A4:バナジウムオキシアセチルアセトネート
A5:バナジウムジイソプロポキシビス(アセチルアセトネート)
【0058】
・金属酸化物コロイド(B)
B1:アルミナゾル(日産化学工業株式会社製、商品名:アルミナゾル200、固形分質量:10質量%、pH5)
B2:シリカゾル(日産化学工業株式会社製、商品名:スノーテックスO、コロイド粒径:10nm、固形分質量:20質量%、pH3)
B3:酸化チタンゾル(多木化学株式会社製、商品名:タイノックA−6、コロイド粒径:10nm、固形分質量:6質量%、pH10)
B4:酸化イットリウムゾル(多木化学株式会社製、商品名:バイラールY−10C、固形分質量:10質量%、pH11)
B5:酸化ジルコニウムゾル(日産化学工業株式会社製、商品名:ナノユースZR−30AL、固形分質量:30質量%、pH3)
B6:酸化ニオブゾル(多木化学株式会社製、商品名:バイラールNb−X10、固形分質量:10質量%、pH6)
B7:酸化スズゾル(多木化学株式会社製、商品名:セラメースS−8、コロイド粒径:2nm、固形分質量:8質量%、pH10)
B8:酸化ランタンゾル(多木化学株式会社製、商品名:バイラールLa−C10、固形分質量:10質量%、pH9.5)
B9:酸化セリウムゾル(多木化学株式会社製、商品名:ニードラールU−15、固形分質量:15質量%、pH3.5)
B10:酸化ネオジムゾル(多木化学株式会社製、商品名:バイラールNd−C10、固形分質量:10質量%。pH9)
【0059】
・pH調整剤
C1:リン酸
C2:モノエタノールアミン
C3:酢酸
C4:アンモニア
【0060】
<金属表面処理方法>
金属材料として板厚0.6mmの溶融亜鉛めっき鋼板(片面当たりの付着量60g/m2)を使用し、これをアルカリ脱脂および水洗した後、調製した金属表面処理剤をめっき鋼板の片面にバーコーターにより塗布し加熱乾燥し、表面処理金属材料を作製した。形成された皮膜の皮膜質量および加熱温度(PMT:最高到達板温度)を、第1表に示す。
得られた表面処理金属材料を以下の方法で評価した。
【0061】
<評価方法>
(1)耐熱性
表面処理金属材料の試験片を300℃で20分間加熱し、加熱前後の色差△E(ハンター表色系におけるE値の差)を測定し、次のように評価した。
◎:1未満
○:1以上、2未満
△:2以上、3未満
×:3以上
【0062】
(2)導電性
表面処理金属材料の試験片を用いて、4探針式表面抵抗測定装置で表面抵抗が10-3Ω以下になる荷重を次のように評価した。
・測定装置:Loresta GP(三菱化学)
・プローブ:ASP
◎:100g未満
○:100g以上、250g未満
△:250g以上、500g未満
×:500g以上
【0063】
(3)平面部耐食性
無加工の表面処理金属材料の試験片を用いて、JIS−Z−2371に基づいた塩水噴霧240時間後の白錆発生面積率により次のように評価した。
◎ :5%未満
○ :5%以上、10%未満
△ :10%以上、50%未満
× :50%以上
【0064】
(4)アルカリ脱脂後耐食性
無加工の表面処理金属材料の試験片を用いて、アルカリ脱脂剤CL−N364S(日本パーカライジング社製)(20g/L、60℃、10秒スプレー、スプレー圧0.5kg/cm2)で脱脂した後、スプレー水洗を10秒行ってから、JIS−Z−2371に基づいた塩水噴霧120時間後の白錆発生面積率により次のように評価した。
◎ :5%未満
○ :5%以上、10%未満
△ :10%以上、50%未満
× :50%以上
【0065】
(5)加工部耐食性
無加工の表面処理金属材料の試験片を用いて、エリクセン7mm押出し加工してから、JIS−Z−2371に基づいた塩水噴霧120時間後の白錆発生面積率により次のように評価した。
◎ :5%未満
○ :5%以上、10%未満
△ :10%以上、50%未満
× :50%以上
【0066】
(6)加熱後耐食性
無加工の表面処理金属材料の試験片を用いて、300℃で20分間加熱してから、JIS−Z−2371に基づいた塩水噴霧120時間後の白錆発生面積率により次のように評価した。
◎ :5%未満
○ :5%以上、10%未満
△ :10%以上、50%未満
× :50%以上
【0067】
(7)耐黒カス性
高速深絞り試験にて、絞り比2.0で加工した場合の黒カス発生度合いを試験前後のL値からΔL値を算出して、次のように評価した。
○ :1.0未満
△ :1.0以上、2.0未満
× :2.0以上
【0068】
(8)貯蔵安定性
金属表面処理剤を40℃の雰囲気で静置した場合にゲル化、沈殿が発生するまでの期間で貯蔵安定性を次のように評価した。
○:1ヶ月以上
×:1ヶ月未満
【0069】
第1表に評価結果を示す。なお、第1表の各実施例の評価結果において、○または◎であることが実用上好ましい。
第1表に示す評価結果から、実施例1〜24は、耐熱性、導電性、耐食性、加工時の耐黒カス性、貯蔵安定性に優れていることが分かった。
【0070】
また、実施例1〜6を見ると、質量比(WA/WB)が0.005〜0.05である実施例1〜3は耐熱性により優れ、質量比(WA/WB)が0.50〜5.0である実施例4〜6は導電性により優れることが分かった。
また、実施例7〜10を見ると、処理剤の広範囲なpH領域において、優れた効果が得られることが分かった。
また、実施例11〜14を見ると、種々の皮膜質量において、優れた効果が得られることが分かった。
【0071】
また、実施例15〜24を見ると、B2(シリカゾル)、B3(酸化チタンゾル)、B5(酸化ジルコニウムゾル)を用いた実施例16、17、19が、耐熱性、導電性、耐食性により優れることが分かった。
【0072】
これに対し、第1表に示す評価結果から、バナジウムアルコキシドを含有しない比較例1は、皮膜のバリア性およびホッピング伝導効果が得られず、耐食性および導電性が両方ともに劣ることが分かった。
また、質量比(WA/WB)が本発明の範囲(0.005〜5.0)の下限値未満である比較例2は、耐食性に劣り、さらに、ホッピング伝導の効果が小さくなるため導電性が劣ることが分かった。
また、質量比(WA/WB)が本発明の範囲(0.005〜5.0)の上限値を超えた比較例3は、耐熱性、耐黒カス性、貯蔵安定性および耐食性に劣ることが分かった。
また、金属酸化物コロイド(B)を含有しない比較例4は、耐熱性、耐食性、耐黒カス性に劣ることが分かった。
また、バナジウムアルコキシドが、A3(メタバナジン酸アンモニウム)、A4(バナジウムオキシアセチルアセトネート)、または、A5(バナジウムジイソプロポキシビス(アセチルアセトネート))である比較例5〜7は、皮膜のバリア性およびホッピング伝導効果が得られず、導電性、耐食性、および耐黒カス性が劣ることが分かった。
なお、比較例1および比較例4の結果から分かるように、バナジウムアルコキシドの加水分解物および/またはその縮合物(A)、または、金属酸化物コロイド(B)を単独で含む場合は、共に耐食性に劣る。一方、両者を併用すると、耐食性に優れ、相乗作用があることが分かった。
【0073】
【表1】




【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式VO(OR)3(Rは、それぞれ独立にアルキル基を表す。)で表されるバナジウムアルコキシドの加水分解物および/またはその縮合物(A)と、
Al、Si、Ti、Y、Zr、Nb、Sn、La、CeおよびNdからなる群より選ばれる金属元素の酸化物を含む金属酸化物コロイド(B)とを含有し、
前記バナジウムアルコキシドの加水分解物および/またはその縮合物(A)の金属V換算質量(WA)と、前記金属酸化物コロイド(B)の質量(WB)との質量比(WA/WB)が0.005〜5.0である、金属表面処理剤。
【請求項2】
バナジウムアルコキシドの加水分解物および/またはその縮合物(A)の重量平均分子量が100〜3000である、請求項1に記載の金属表面処理剤。
【請求項3】
pHが2〜11である、請求項1または2に記載の金属表面処理剤。
【請求項4】
金属材料と、前記金属材料の表面上に塗布された請求項1〜3のいずれかに記載の金属表面処理剤を加熱乾燥して得られた皮膜と、を備える表面処理金属材料。
【請求項5】
前記金属材料が、亜鉛系めっき鋼板である、請求項4に記載の表面処理金属材料。
【請求項6】
前記加熱乾燥して得られた皮膜の質量が、0.05〜3g/m2である、請求項4または5に記載の表面処理金属材料。
【請求項7】
請求項1〜3のいずれかに記載の金属表面処理剤を金属材料の表面上に塗布する塗布工程と、前記金属材料の表面上に塗布された前記金属表面処理剤を加熱乾燥して皮膜を得る加熱乾燥工程と、を備える金属表面処理方法。
【請求項8】
前記加熱乾燥工程における加熱乾燥温度が、50〜200℃である、請求項7に記載の金属表面処理方法。

【公開番号】特開2012−17505(P2012−17505A)
【公開日】平成24年1月26日(2012.1.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−156491(P2010−156491)
【出願日】平成22年7月9日(2010.7.9)
【出願人】(000229597)日本パーカライジング株式会社 (198)
【Fターム(参考)】