説明

金属表面処理剤、表面処理金属材料および金属材料の表面処理方法

【課題】貯蔵安定性に優れ、乾燥、加熱による皮膜形成が可能で、耐食性(平面部、アルカリ脱脂後、加工部、貯蔵後)、上塗り塗装密着性、耐熱性、導電性に優れるノンクロメート金属表面処理剤、表面処理金属材料、金属表面処理方法の提供。
【解決手段】エポキシ基またはアミノ基を有するシランカップリング剤と二つの加水分解基を有するチタンカップリング剤とを酸触媒の存在下で縮合してなる、平均縮合度2〜20の縮合体化合物と、好ましくはMg、Al、Ti、V、Mn、Zn、Zr、Nb、Mo、W、La、Ce、NbおよびNdからなる群より選ばれる金属化合物を含有する金属表面処理剤。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、クロムを含まない金属表面処理剤、該処理剤を用いた表面処理金属材料および該処理剤による金属材料の表面処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、自動車用鋼板、家電製品用鋼板、建材用鋼板には、亜鉛系めっき鋼板、亜鉛系合金めっき鋼板、アルミニウム系めっき鋼板、アルミニウム系合金めっき鋼板、冷延鋼板、熱延鋼板の表面に、耐食性を向上させる目的で、6価クロムを主要成分としたクロメート表面処理剤によるクロメート皮膜を有する鋼板が幅広く用いられている。
【0003】
主なクロメート処理には電解型クロメートと塗布型クロメートがある。電解型クロメート処理は、6価クロムを主成分とし、他に硫酸、リン酸、ホウ酸、ハロゲンなどの各種の陰イオンを添加したクロメート表面処理剤を用いて金属材料を陰極電解する方法が一般的である。一方、塗布型クロメート処理は、予め6価クロムの一部を3価に還元した溶液に無機コロイド、無機イオンを添加してクロメート表面処理剤として、金属材料をその中に浸漬またはスプレーする方法が一般的である。
【0004】
クロメート処理を行う場合、クロメート表面処理剤に含有された6価クロムの有毒性により作業環境および排水処理などにおいて様々な対策が必要になる。上記表面処理金属材料を使用した自動車、家電、建材製品などのリサイクルおよび廃棄処理においても、人体有害性と環境汚染の問題を引き起こすことが懸念され、そのため、最近ではその使用を規制する動きが広まっている。
【0005】
特に、EUで導入した有害物質使用制限指針(RoHS)、廃家電処理指針(WEEE)、廃車処理指針(ELV)、新環境規制管理法(REACH)などが代表的な例で、これにより環境に優しい製品の開発、工場内の廃棄物の削減、グリーン調達などの新しい環境管理政策に対する積極的な対応策が求められている。
【0006】
このようなことから、クロムを含まない金属表面処理剤を用いて、耐食性、貯蔵安定性、貯蔵後耐食性、上塗り塗装密着性、耐熱性、導電性などの要求性能を満たすノンクロメート表面処理技術が数多く提案されている。
【0007】
ノンクロメート表面処理技術として特許文献1に、全体溶液100重量部を基準に、エポキシ基を有するシラン化合物およびアミノ基を有するシラン化合物またはこれらの加水分解縮合物5〜30重量部と、バナジウム化合物0.1〜5重量部と、マグネシウム化合物0.1〜5重量部と、有機酸/無機酸1〜10重量部と、架橋促進およびカップリング剤0.05〜2重量部と、消泡剤0.01〜1重量部と、ウェッティング剤1〜2重量部と、残りは水とエタノールからなるクロムフリー低温硬化型金属表面処理剤が開示されている。しかしながら、エポキシ基とアミノ基の反応性が強く、貯蔵保管中に金属表面処理剤が変質し経時劣化を起こすため、貯蔵後耐食性が不十分であり要求性能に応えられるものではない。
【0008】
また、ノンクロメート表面処理技術として特許文献2に、リン酸、亜リン酸、次亜リン酸から選択されたリン酸系化合物またはその低級アルキルエステルとエポキシ樹脂の反応生成物と、シラン化合物またはチタン化合物を有効成分とする金属材料用表面処理剤が開示されている。しかしながら、エポキシ樹脂を含有するため、耐熱性と導電性が不十分であり、要求性能に応えられるものではない。
【0009】
さらに、ノンクロメート表面処理技術として特許文献3に、加水分解性チタン化合物、加水分解性チタン化合物低縮合物、水酸化チタンおよび水酸化チタン低縮合物から選ばれる少なくとも1種のチタン化合物と過酸化水素水とを反応させて得られるチタンを含む水性液(A)に、アンモニアまたは有機塩基性化合物(B)を配合してなる無機膜形成用塗布剤が開示されている。しかしながら、耐食性が得られないばかりでなく、過酸化水素水は熱などにより火災や爆発を生じる可能性があるため、製造時の安全性の点で実用化困難である。
【0010】
さらに、ノンクロメート表面処理技術として特許文献4に、エチレン−不飽和カルボン酸共重合体の中和物と、エポキシ化合物およびエポキシ基含有シラン化合物とを反応させて得られる水性分散樹脂を固形分換算で5〜30質量%、シリカ粒子を0.1〜20質量%、有機チタネート化合物を0.01〜20質量%、および水を含むことを特徴とする鋼材用水性被覆剤が開示されている。しかしながら、水性分散樹脂を含有しているため、耐熱性と導電性が不十分であり要求性能に応えられるものではない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開2008−544088号公報
【特許文献2】特許第3505129号公報
【特許文献3】特許第4079780号公報
【特許文献4】特許第4180269号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
このように、前記したいずれの金属表面処理剤も、クロメート皮膜の代替として使用できるような耐食性、貯蔵安定性、貯蔵後耐食性、上塗り塗装密着性、耐熱性、導電性に優れた皮膜を形成させることができるとは言い難く、これらを総合的にバランスよく満足できる金属表面処理剤、表面処理金属材料および金属材料の表面処理方法の開発が強く要望されている。
【0013】
本発明は、従来技術の有する前記問題点を解決して、耐食性、貯蔵安定性、貯蔵後耐食性、上塗り塗装密着性、耐熱性、導電性に優れた皮膜を形成させることができる金属表面処理剤、表面処理金属材料および金属材料の表面処理方法を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明者はこれらの問題を解決すべく鋭意検討を重ねてきた結果、金属表面処理剤として、エポキシ基またはアミノ基を有する少なくとも1種のシランカップリング剤と二つの加水分解基を有する少なくとも1種のチタンカップリング剤とを縮合してなる縮合体化合物と、好ましくはMg、Al、Ti、V、Mn、Zn、Zr、Mo、W、La、Ce、NbおよびNdからなる群より選ばれる少なくとも1種の金属化合物を含有する金属表面処理剤が耐食性、貯蔵後耐食性、上塗り塗装密着性、耐熱性、導電性に優れた皮膜を金属材料表面に形成し得ることを見出し、下記の本発明を完成するに至った。
【0015】
(1)エポキシ基またはアミノ基を有する少なくとも1種のシランカップリング剤(B)と二つの加水分解基を有する少なくとも1種のチタンカップリング剤(C)を、酸触媒(E)の存在下、エポキシ基またはアミノ基を有する少なくとも1種のシランカップリング剤(B)と二つの加水分解基を有する少なくとも1種のチタンカップリング剤(C)とのモル比(B)/(C)を1〜50で縮合してなる、平均縮合度が2〜20の縮合体化合物(A)を含有することを特徴とする金属表面処理剤。
【0016】
(2)さらに、Mg、Al、Ti、V、Mn、Zn、Zr、Mo、W、La、Ce、NbおよびNdからなる群より選ばれる少なくとも1種の金属化合物(D)を含有することを特徴とする前記(1)に記載の金属表面処理剤。
【0017】
(3)エポキシ基またはアミノ基を有する少なくとも1種のシランカップリング剤(B)が、3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3−アミノプロピルトリエトキシシランであることを特徴とする前記(1)または(2)に記載の金属表面処理剤。
【0018】
(4)二つの加水分解基を有する少なくとも1種のチタンカップリング剤(C)が、ジ−i−プロポキシチタンビス(トリエタノールアミネート)、ジ−i−プロポキシチタンビス(アセチルアセトネート)であることを特徴とする前記(1)〜(3)のいずれかに記載の金属表面処理剤。
【0019】
(5)金属化合物(D)が硝酸塩、リン酸塩、フッ化物、酸化物、アセチルアセトネート錯体であることを特徴とする前記(1)〜(4)のいずれかに記載の金属表面処理剤。
【0020】
(6)酸触媒(E)がリン酸、フッ化水素酸、酢酸および有機ホスホン酸からなる群より選ばれる少なくとも1種であることを特徴とする前記(1)〜(5)のいずれかに記載の金属表面処理剤。
【0021】
(7)酸触媒(E)と、エポキシ基またはアミノ基を有する少なくとも1種のシランカップリング剤(B)および二つの加水分解基を有する少なくとも1種のチタンカップリング剤(C)とのモル比[(E)/[(B)+(C)]が0.1〜5であることを特徴とする前記(1)〜(6)のいずれかに記載の金属表面処理剤。
【0022】
(8)金属化合物(D)と、エポキシ基またはアミノ基を有する少なくとも1種のシランカップリング剤(B)および二つの加水分解基を有する少なくとも1種のチタンカップリング剤(C)とのモル比[(D)/[(B)+(C)]が0.01〜0.5であることを特徴とする前記(1)〜(7)のいずれかに記載の金属表面処理剤。
【0023】
(9)pHが2〜11であることを特徴とする前記(1)〜(8)のいずれかに記載の金属表面処理剤。
【0024】
(10)前記(1)〜(9)のいずれかに記載の金属表面処理剤を金属材料に塗布し、乾燥または加熱処理して皮膜を形成してなることを特徴とする表面処理金属材料。
(11)皮膜重量が0.05〜3g/mであることを特徴とする前記(10)に記載の表面処理金属材料。
【0025】
(12)前記(1)〜(11)のいずれかに記載の金属表面処理剤を金属材料に塗布し、乾燥または加熱処理して皮膜を形成する際に、乾燥または加熱を50〜200℃にて行うことを特徴とする金属材料の表面処理方法。
【発明の効果】
【0026】
本発明の金属表面処理剤は、ノンクロメート処理剤であるにも拘わらず、耐食性、貯蔵安定性、貯蔵後耐食性、上塗り塗装密着性、耐熱性、導電性に優れ、ノンクロメート皮膜と同様な総合的にバランスよい皮膜を形成できる金属表面処理剤である。また、本発明は、そのような優れた皮膜を有する表面処理金属材料およびそのような優れた皮膜を形成する金属材料の表面処理方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0027】
本発明の金属表面処理剤は、エポキシ基またはアミノ基を有する少なくとも1種のシランカップリング剤(B)と二つの加水分解基を有する少なくとも1種のチタンカップリング剤(C)とを、酸触媒(E)の存在下に縮合してなる縮合体化合物(A)と、好ましくはMg、Al、Ti、V、Mn、Zn、Zr、Mo、W、La、Ce、NbおよびNdからなる群より選ばれる少なくとも1種の金属化合物(D)を、水性媒体に含有させた水性分散体である。
【0028】
[縮合体化合物(A)]
縮合体化合物(A)はエポキシ基またはアミノ基を有する少なくとも1種のシランカップリング剤(B)と二つの加水分解基を有する少なくとも1種のチタンカップリング剤(C)との縮合反応によって得られる。好ましい縮合体化合物(A)は、後記する好適なエポキシ基または好適なアミノ基を有する少なくとも1種のシランカップリング剤(B)と、後記する好適な二つの加水分解基を有する少なくとも1種のチタンカップリング剤(C)とを酸触媒(E)の存在下に縮合反応によって得られる。縮合体化合物(A)は未反応のエポキシ基またはアミノ基を有する少なくとも1種のシランカップリング剤(B)または未反応の二つの加水分解基を有する少なくとも1種のチタンカップリング剤(C)を、平均縮合度が2〜20の範囲であれば少量含有していても差し支えないが、必要に応じて未反応物等を除去することが好ましい。未反応物が多いと、縮合体化合物(A)がもたらす平面部耐食性、アルカリ脱脂後耐食性、加工部耐食性、貯蔵後耐食性の向上が阻害される。
【0029】
エポキシ基またはアミノ基を有する少なくとも1種のシランカップリング剤(B)と二つの加水分解基を有する少なくとも1種のチタンカップリング剤(C)は水中で加水分解反応を経て縮合反応に至る。加水分解反応によってSi−OHとTi−OHが生成するが酸触媒(E)の存在により速やかに加水分解反応が進む。加水分解反応が十分に進めば、縮合反応によるSi−O−Tiの生成も速やかに行われるため平均縮合度の増加につながる。加水分解、縮合反応は酸触媒(E)以外にも温度と時間に影響される。目的の平均縮合度にするためには必要に応じて加温や反応時間を十分にとることが好ましい。
【0030】
縮合体化合物(A)の製造の一例としては、エポキシ基またはアミノ基を有する少なくとも1種のシランカップリング剤(B)と二つの加水分解基を有する少なくとも1種のチタンカップリング剤(C)をあらかじめ混合しておき、[(E)/[(B)+(C)]が1となる酸触媒(E)を添加した純水中にエポキシ基またはアミノ基を有する少なくとも1種のシランカップリング剤(B)と二つの加水分解基を有する少なくとも1種のチタンカップリング剤(C)の混合物を投入する。混合物を投入後加温し40℃まで昇温させ2時間攪拌する。その後、未反応物を減らすために例えば分取クロマトグラフィーを利用し未反応物を除去することが好ましい。これは製造の一例であり特に限定されるものではない。
【0031】
縮合体化合物(A)のエポキシ基またはアミノ基を含有する少なくとも1種のシランカップリング剤(B)単位は、表面処理剤の貯蔵安定性(以後、単に貯蔵安定性とも記す)の向上に寄与し、表面処理皮膜の貯蔵後耐食性(以後、単に貯蔵後耐食性とも記す)の劣化を抑制する。また、二つの加水分解基を有する少なくとも1種のチタンカップリング剤(C)単位は、表面処理皮膜の耐食性、特に加工部耐食性を向上させる。さらに、縮合により分子量が増大することから、表面処理皮膜の酸素透過や水蒸気透過を抑制し、優れたバリア性を発揮し、耐食性およびアルカリ脱脂後耐食性を向上させる。
【0032】
エポキシ基またはアミノ基を含有する少なくとも1種のシランカップリング剤(B)と二つの加水分解基を有する少なくとも1種のチタンカップリング剤(C)とのモル比(B)/(C)は1〜50でなければならず、5〜35であることが好ましく、15〜25であることがより好ましい。1未満であると二つの加水分解基を有する少なくとも1種のチタンカップリング剤(C)の架橋効果が強すぎ貯蔵安定性、貯蔵後耐食性が劣り、50を超えるとチタン自体が有する耐食性向上効果がないばかりか、二つの加水分解基を有する少なくとも1種のチタンカップリング剤(C)の架橋効果が発現しにくくなるため耐食性が劣る。
【0033】
エポキシ基またはアミノ基を含有する少なくとも1種のシランカップリング剤(B)と二つの加水分解基を有する少なくとも1種のチタンカップリング剤(C)からなる縮合体化合物(A)の平均縮合度は2〜20でなければならず、2〜15であることが好ましく、3〜10であることがより好ましい。2未満であると二つの加水分解基を有する少なくとも1種のチタンカップリング剤(C)の架橋反応が不十分であるため耐食性が劣り、20を超えると貯蔵安定性、貯蔵後耐食性が劣る。縮合体化合物(A)の平均縮合度はゲル濾過クロマトグラフィー(GFC)により求めることができる。
【0034】
[シランカップリング剤(B)]
エポキシ基またはアミノ基を含有する少なくとも1種のシランカップリング剤(B)は、エポキシ基またはアミノ基のどちらか一方を使用すればよい。エポキシ基を有するシランカップリング剤とアミノ基を有するシランカップリング剤を併用すると、エポキシ基とアミノ基の反応が速いため貯蔵安定性および貯蔵後耐食性が劣る。
【0035】
エポキシ基またはアミノ基を有する少なくとも1種のシランカップリング剤(B)は、二つの加水分解基を有する少なくとも1種のチタンカップリング剤(C)と縮合し、生成した縮合体化合物(A)の水溶性を高め、貯蔵安定性、貯蔵後耐食性を向上させる。また、エポキシ基またはアミノ基を有する少なくとも1種のシランカップリング剤(B)は金属材料と皮膜、皮膜と上塗り塗装との密着性に優れるため耐食性の向上に有効である。
【0036】
エポキシ基を有するシランカップリング剤としては、2−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシラン、3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3−グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、3−グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、3−グリシドキシプロピルメチルジメトキシシラン、1,3−ビス(3−グリシドキシプロピル)テトラメチルジシロキサンなどが挙げられる。好ましいのは3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3−グリシドキシプロピルトリエトキシシランである。
【0037】
アミノ基を有するシランカップリング剤としては、3−アミノプロピルトリメトキシシラン、3−アミノプロピルトリエトキシラン、N−2−(アミノエチル)−3−アミノプロピルメチルジメトキシラン、N−2−(アミノエチル)−3−アミノプロピルトリメトキシラン、N−2−(アミノエチル)−3−アミノプロピルトリエトキシシラン、N−フェニル−3−アミノプロピルトリメトキシシラン、3−トリエトキシシリル−N−(1,3−ジメチルブチリデン)プロピルアミン、N−(ビニルベンジル)−2−アミノエチル−3−アミノプロピルトリメトキシシランの塩酸塩、N,N−ビス〔3−(トリメトキシシリル)プロピル〕エチレンジアミン、N−6−(アミノヘキシル)アミノプロピルトリメトキシシラン、N−6−(アミノヘキシル)アミノプロピルトリエトキシシランなどが挙げられる。好ましいのは3−アミノプロピルトリエトキシラン、N−2−(アミノエチル)−3−アミノプロピルトリメトキシランである。
【0038】
[チタンカップリング剤(C)]
二つの加水分解基を有する少なくとも1種のチタンカップリング剤(C)は、エポキシ基またはアミノ基を含有するシランカップリング剤(B)と縮合し、耐食性、特に加工部耐食性を向上させる。加水分解基は直接チタンに結合するものであって、水と反応することにより水酸化チタンを生成するものであれば特に制限はない。例えば、メトキシ基、エトキシ基、n−プロポキシ基、i−プロポキシ基、n−ブトキシ基、sec−ブトキシ基、tert−ブトキシ基などが挙げられる。
【0039】
二つの加水分解基を有する少なくとも1種のチタンカップリング剤(C)としては、ジ−i−イソプロポキシチタンビス(メチルアセトアセテート)、ジ−i−プロポキシチタンビス(エチルアセトアセテート)、ジ−i−プロポキシチタンビス(プロピルアセトアセテート)、ジ−i−プロポキシチタンビス(ブチルアセトアセテート)、ジ−i−プロポキシチタンビス(ヘキシルアセトアセテート)、ジ−n−プロポキシチタンビス(メチルアセトアセテート)、ジ−n−プロポキシチタンビス(エチルアセトアセテート)、ジ−n−プロポキシチタンビス(プロピルアセトアセテート)、ジ−n−プロポキシチタンビス(ブチルアセトアセテート)、ジ−n−プロポキシチタンビス(ヘキシルアセトアセテート)、ジ−n−ブトキシチタンビス(メチルアセトアセテート)、ジ−n−ブトキシチタンビス(エチルアセトアセテート)、ジ−n−ブトキシチタンビス(プロピルアセトアセテート)、ジ−n−ブトキシチタンビス(ブチルアセトアセテート)、ジ−n−ブトキシチタンビス(ヘキシルアセトアセテート)、ジ−i−プロポキシチタンビス(アセチルアセトネート)、ジ−n−プロポキシチタンビス(アセチルアセトネート)、ジ−n−ブトキシチタンビス(アセチルアセトネート)、ジ−i−プロポキシチタンビス(トリエタノールアミネート)、ジ−i−プロポキシチタンビス(ジエタノールアミネート)、ジブトキシチタンビス(トリエタノールアミネート)、ジブトキシチタンビス(ジエタノールアミネート)、ジオクチロキシチタンビス(オクチレングリコレート)、ジヒドロキシチタンビスラクテートなどが挙げられる。好ましいのはジ−i−プロポキシチタンビス(アセチルアセトネート)、ジ−i−プロポキシチタンビス(トリエタノールアミネート)である。
【0040】
二つの加水分解基を有する少なくとも1種のチタンカップリング剤(C)の加水分解基の数は二つでなければならない。チタンカップリング剤はシランカップリング剤の縮合物同士の架橋的役割を果たすため、加水分解基がないとシランカップリング剤と縮合反応をしないため耐食性が劣る。加水分解基が一つであってもシランカップリング剤の縮合物同士の架橋的役割を果たせないため耐食性が劣る。また、加水分解基が三つ以上になるとシランカップリング剤との縮合反応が進みすぎるため貯蔵安定性、貯蔵後耐食性が劣る。
【0041】
[酸触媒(E)]
酸触媒(E)はエポキシ基またはアミノ基を含有する少なくとも1種のシランカップリング剤(B)と二つの加水分解基を有する少なくとも1種のチタンカップリング剤(C)との加水分解反応および縮合反応を速やかに進める触媒作用がある。また、表面処理剤中に存在し、そのエッチング作用により金属材料表面を活性化し、皮膜と金属材料表面との密着性を向上させ、耐食性を向上させる成分である。
【0042】
酸触媒(E)としては、リン酸、フッ化水素酸、硝酸、硫酸などの無機酸、ギ酸、酢酸、乳酸、有機ホスホン酸、クエン酸、酒石酸、グリコール酸などの有機酸などが挙げられる。加水分解反応および縮合反応の促進とエッチング効果の点から、リン酸、フッ化水素酸、酢酸、有機ホスホン酸が特に好ましい。
【0043】
酸触媒(E)の配合比率は、エポキシ基またはアミノ基を含有する少なくとも1種のシランカップリング剤(B)と二つの加水分解基を有する少なくとも1種のチタンカップリング剤(C)に対し、モル比[(E)/[(B)+(C)]が0.1〜5であることが好ましく、0.5〜3であることがより好ましい。0.1未満であると縮合反応が十分に進まず平均縮合度が2に満たないため耐食性が劣る。5を超えると平均縮合度が20を越えるため貯蔵安定性および貯蔵後耐食性が劣る。
【0044】
[金属化合物(D)]
Mg、Al、Ti、V、Mn、Zn、Zr、Mo、W、La、Ce、NbおよびNdからなる群より選ばれる少なくとも1種の金属化合物(D)はアルカリや熱に対する耐久性が高いため、表面処理皮膜のアルカリ脱脂後耐食性および耐熱性が向上する。好ましい金属化合物(D)はAl、V、Zr、Ceの化合物である。金属化合物(D)のリガンドは特に限定されないが、下記する金属の硝酸塩、硫酸塩、炭酸塩、フッ化物、リン酸塩、水酸化物、酸化物等の無機金属化合物;酢酸塩、クエン酸塩、安息香酸塩、ステアリン酸塩アセチルアセトネート錯体等の有機金属化合物が挙げられる。好ましいのはリン酸塩、フッ化物、酸化物、アセチルアセトネート錯体である。
【0045】
マグネシウム化合物の例としては、硝酸マグネシウム、硫酸マグネシウム、炭酸マグネシウム、酢酸マグネシウム、水酸化マグネシウム、フッ化マグネシウム、リン酸アンモニウムマグネシウム、リン酸水素マグネシウム、酸化マグネシウム、マグネシウムアセチルアセトネート、クエン酸マグネシウム、安息香酸マグネシウム、ステアリン酸マグネシウムなどが挙げられる。好ましいのはリン酸水素マグネシウム、マグネシウムアセチルアセトネートである。
【0046】
アルミニウム化合物の例としては、硝酸アルミニウム、硫酸アルミニウム、硫酸カリウムアルミニウム、硫酸ナトリウムアルミニウム、硫酸アンモニウムアルミニウム、リン酸アルミニウム、炭酸アルミニウム、酸化アルミニウム、水酸化アルミニウム、ヨウ化アルミニウム、ステアリン酸アルミニウム、アセトアルコキシアルミニウムジ−i−プロピレート、アルミニウムアセチルアセトネートなどが挙げられる。好ましいのはリン酸アルミニウム、酸化アルミニウムである。
【0047】
チタン化合物の例としては、チタンフッ化水素酸、チタンフッ化アンモニウム、四塩化チタン、酸化チタン、硫酸チタンなどが挙げられる。好ましいのはチタンフッ化水素酸、チタンフッ化アンモニウムである。
【0048】
バナジウム化合物の例としては、五酸化バナジウム、メタバナジン酸、メタバナジン酸アンモニウム、メタバナジン酸ナトリウム、三酸化バナジウム、二酸化バナジウム、フッ化バナジウム、リン酸バナジル、硫酸バナジル、シュウ酸バナジウム、バナジウムオキシアセチルアセトネート、バナジウムアセチルアセトネート、テトラプロポキシバナジウム、テトラブトキシバナジウム、バナジウムトリブトキシステアレートなどが挙げられる。好ましいのはバナジウムアセチルアセトネート、メタバナジン酸アンモニウムである。
【0049】
マンガン化合物の例としては、硝酸マンガン、硫酸マンガン、リン酸マンガン、酸化マンガン、炭酸マンガン、フッ化マンガン、酢酸マンガン、乳酸マンガン、プロピオン酸マンガン、ステアリン酸マンガン、マンガンアセチルアセトネート、テトラプロポキシマンガン、テトラブトキシマンガンなどが挙げられる。好ましいのはリン酸マンガン、マンガンアセチルアセトネートである。
【0050】
亜鉛化合物の例としては、フッ化亜鉛、硫酸亜鉛、硝酸亜鉛、酢酸亜鉛、酸化亜鉛、塩基性炭酸亜鉛、亜鉛アセチルアセトネート、ステアリン酸亜鉛などが挙げられる。好ましいのは硝酸亜鉛、亜鉛アセチルアセトネートである。
【0051】
ジルコニウム化合物の例としては、硝酸ジルコニウム、硫酸ジルコニウム、酸化ジルコニウム、ジルコンフッ化水素酸、ジルコンフッ化ナトリウム、ジルコンフッ化アンモニウム、炭酸ジルコニウムアンモニウム、酢酸ジルコニウム、乳酸ジルコニウム、ステアリン酸ジルコニウム、オクチル酸ジルコニウム、ジルコンアセチルアセトネート、テトラプロポキシジルコニウム、テトラブトキシジルコニウム、ジルコニウムトリブトキシステアレートなどが挙げられる。好ましいのはジルコンフッ化水素酸、炭酸ジルコニウムアンモニウムである。
【0052】
モリブデン化合物の例としては、モリブデン酸、モリブデン酸アンモニウム、モリブデン酸ナトリウム、モリブドリン酸アンモニウム、モリブドリン酸ナトリウムなどが挙げられる。好ましいのはモリブデン酸アンモニウム、モリブドリン酸アンモニウムである。
【0053】
タングステン化合物の例としては、メタタングステン酸、メタタングステン酸アンモニウム、メタタングステン酸ナトリウム、パラタングステン酸、パラタングステン酸アンモニウム、パラタングステン酸ナトリウムなどが挙げられる。好ましいのはメタタングステン酸アンモニウム、パラタングステン酸アンモニウムである。
【0054】
ランタン化合物の例としては、酸化ランタン、水酸化ランタン、硝酸ランタン、フッ化ランタン、塩化ランタン、炭酸ランタン、硫酸ランタン、リン酸ランタン、リン酸水素ランタン、シュウ酸ランタン、酢酸ランタン、ランタントリフラートなどが挙げられる。好ましいのは硝酸ランタン、リン酸ランタンである。
【0055】
セリウム化合物の例としては、酸化セリウム、水酸化セリウム、硝酸セリウム、硝酸セリウムアンモニウム、フッ化セリウム、塩化セリウム、炭酸セリウム、硫酸セリウム、リン酸セリウム、シュウ酸セリウム、酢酸セリウム、ヘキサニトラトセリウム酸アンモニウム、トリス(アセチルアセトネート)セリウム、ステアリン酸セリウム、セリウムトリフラートなどが挙げられる。好ましいのは硝酸セリウム、リン酸セリウムである。
【0056】
ニオブ化合物の例としては、酸化ニオブ、水酸化ニオブ、硝酸ニオブ、ニオブ酸ナトリウム、ニオブ酸カルシウム、ニオブ酸マグネシウムなどが挙げられる。好ましいのは酸化ニオブ、ニオブ酸マグネシウムである。
【0057】
ネオジム化合物としては、酸化ネオジム、水酸化ネオジム、硝酸ネオジム、フッ化ネオジム、塩化セリウム、炭酸ネオジム、硫酸ネオジム、シュウ酸ネオジム、酢酸ネオジム、ネオジムトリフラートなどが挙げられる。好ましいのは酸化ネオジム、シュウ酸ネオジムである。
【0058】
前記金属化合物(D)の配合比率[(D)/[(B)+(C)]が0.01〜0.5であることが好ましく、0.03〜0.3であることがより好ましい。0.01未満であると表面処理皮膜のアルカリ脱脂後耐食性および耐熱性が劣り、0.5を超えると金属材料と表面処理皮膜との密着性が低下するため、耐食性、上塗り塗装密着性、耐熱性が低下する。
【0059】
[溶媒]
本発明の金属表面処理剤に用いる溶媒は水を主体とするが、皮膜の乾燥性改善など必要に応じてアルコール、ケトン、セロソルブ系の水溶性有機溶剤を添加した水性媒体であってもよい。
本発明の金属表面処理剤における溶媒量は、縮合体化合物(A)が十分に溶解または分散できればよく、エポキシ基またはアミノ基を有する少なくとも1種のシランカップリング剤(B)と二つの加水分解基を有する少なくとも1種のチタンカップリング剤(C)の合計重量に対し5〜50質量%、好ましくは10〜30質量%である。
本発明の金属表面処理剤には、界面活性剤、消泡剤、レベリング剤などの添加剤を本発明の趣旨や皮膜性能を損なわない範囲で添加することができる。
【0060】
本発明の金属表面処理剤はpH2〜11であることが好ましく、pH4 〜9 であることがより好ましい。pH2未満であると、金属表面処理剤を金属材料に塗布してから乾燥または加熱処理により皮膜が形成されるまでの過程で金属材料が過剰にエッチングされ、外観不良を引き起こすおそれがある。pH11を超えると、金属表面処理剤の液安定性が低下するおそれがある。金属表面処理剤は、塩基性化合物および酸性化合物を添加することによってpHを上記範囲内に調整することが好ましい。特に、pHを上げる場合、上記塩基性化合物としてアンモニア、アミン等の揮発性化合物を用いることがより好ましく、pHを下げる場合、酸性化合物として酢酸等の揮発性化合物を用いることがより好ましい。
【0061】
本発明の金属表面処理剤はウレタン樹脂、アクリル樹脂、エポキシ樹脂、ポリエステル樹脂、フェノール樹脂などの樹脂の含有を回避される。樹脂を含有すると導電性が低下するために目標とする皮膜性能が得られないばかりか、樹脂と縮合体化合物(A)との相互作用により貯蔵安定性や貯蔵後耐食性が得られない。
【0062】
[金属材料]
本発明の金属表面処理剤を適用する金属材料は特に制限されず、例えば、鉄、鉄を主体とする合金、アルミニウム、アルミニウムを主体とする合金、銅、銅を主体とする合金等であり、任意の金属材料上にめっきしためっき金属材料、例えば亜鉛系めっき鋼板である。本発明の金属表面処理剤の適応においてもっとも好適なものは亜鉛系めっき鋼板である。亜鉛系めっき鋼板としては、亜鉛めっき鋼板、亜鉛−ニッケルめっき鋼板、亜鉛−鉄めっき鋼板、亜鉛−クロムめっき鋼板、亜鉛−アルミニウムめっき鋼板、亜鉛−チタンめっき鋼板、亜鉛−マグネシウムめっき鋼板、亜鉛−マンガンめっき鋼板、亜鉛−アルミニウム−マグネシウムめっき鋼板、亜鉛−アルミニウム−マグネシウム−シリコンめっき鋼板等が挙げられ、さらにはこれらのめっき層に、少量の異種金属元素もしくは不純物としてコバルト、モリブデン、タングステン、ニッケル、チタン、クロム、アルミニウム、マンガン、鉄、マグネシウム、鉛、ビスマス、アンチモン、錫、銅、カドミウム、ヒ素等を含有するもの、シリカ、アルミナ、チタニア等の無機物を分散させたものも用いることができる。さらには以上のめっきと他の種類のめっき、例えば鉄めっき、鉄−リンめっき、ニッケルめっき、コバルトめっき等と組み合わせた複層めっきにも適用可能である。めっき方法は特に限定されるものではなく、公知の電気めっき法、溶融めっき法、蒸着めっき法、分散めっき法、真空めっき法等のいずれの方法でもよい。
【0063】
[表面処理方法]
本発明の金属表面処理剤による金属材料の表面処理方法は、必要に応じて脱脂処理した上記金属材料の表面に、上記金属表面処理剤を塗布し、皮膜を形成することによって行われる。上記金属表面処理剤の塗布方法としては特に限定されず、例えば、一般に使用されるロールコート、シャワーコート、エアースプレー、エアレススプレー、カーテンフローコート、刷毛塗り、浸漬等を挙げることができる。
【0064】
本発明の金属表面処理剤は、皮膜質量が皮膜の固形分質量で0.05〜3g/mの範囲であることが好ましく、0.1 〜1.5g/mの範囲であることがより好ましい。0.05g/m未満であると金属材料の表面を十分に被覆できないため各性能を発現させることができない。3g/mを超えると皮膜が割れやすく密着性が低下するばかりか、導電性が低下する。
【0065】
本発明の表面処理剤を塗布した後は、水洗することなく加熱乾燥を行う。加熱乾燥手段としては、ドライヤー、熱風炉、高周波誘導加熱炉、赤外線炉などを用いることができる。上記乾燥を行う温度は50〜200℃であることが好ましく、60〜150℃ であることがより好ましい。50℃未満であると、水分の蒸発速度が遅く、乾燥効率が低下する場合がある。200℃ を超えると乾燥温度に伴う性能向上が期待できず、不経済になるおそれがある。
【実施例】
【0066】
以下に本発明の実施例および比較例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらにより限定されるものではない。
【0067】
[実施例1〜35、比較例1〜9]
[金属表面処理剤の調製]
エポキシ基またはアミノ基を有する少なくとも1種のシランカップリング剤(B)と二つの加水分解基を有する少なくとも1種のチタンカップリング剤(C)をあらかじめ混合しておき、酸触媒(E)が添加してある蒸留水に滴下した。混合物を2時間攪拌し、十分に縮合反応を進めることにより縮合体化合物(A)を得た後に金属化合物(D)を添加し、酸触媒(E)を含有した表面処理剤を調製した。
エポキシ基またはアミノ基を有する少なくとも1種のシランカップリング剤(B)と二つの加水分解基を有する少なくとも1種のチタンカップリング剤(C)との縮合体化合物(A)の平均縮合度は、ゲル濾過クロマトグラフィー(GFC)を用いてポリエチレングリコール換算により求めた重量平均分子量から計算した。GFCの測定条件および重量平均分子量の計算式を以下に示す。
・分析装置 TRI ROTAR−V型(JASCO社製)
・溶離液 NaCl
・流量 0.7mL/min
・検出器 示差屈折計830−RI(JASCO社製)
・カラム OHpak SB−G(Shodex社製)
・カラム温度 40℃
・標準物質 ポリエチレングリコール
【0068】
【数1】

n:平均縮合度
W.m :GFCで測定した重量平均分子量。
W.B :エポキシ基またはアミノ基を有する少なくとも1種のシランカップリング剤(B)の分子量。下記計算式(II)から算出した。
W.C :二つの加水分解基を有する少なくとも1種のチタンカップリング剤(C)の分子量。下記計算式(III)から算出した。
W.H2O:水の分子量。
α :エポキシ基またはアミノ基を有する少なくとも1種のシランカップリング剤(B)のモル濃度CBと、エポキシ基またはアミノ基を有する少なくとも1種のシランカップリング剤(B)のモル濃度CBと二つの加水分解基を有する少なくとも1種のチタンカップリング剤(C)のモル濃度CCの和との比。下記計算式(IV)から算出した。
【0069】
【数2】

:エポキシ基またはアミノ基を有する少なくとも1種のシランカップリング剤(B)の全モル濃度。
Bi:エポキシ基またはアミノ基を有する少なくとも1種のシランカップリング剤(B)のそれぞれのモル濃度。
【0070】
【数3】

:二つの加水分解基を有する少なくとも1種のチタンカップリング剤(C)の全モル濃度。
Ci:二つの加水分解基を有する少なくとも1種のチタンカップリング剤(C)のそれぞれのモル濃度。
【0071】
【数4】

【0072】
[表面処理剤の組成]
表1に金属表面処理剤の調製に用いた各成分の種類とエポキシ基またはアミノ基を有する少なくとも1種のシランカップリング剤(B)と二つの加水分解基を有する少なくとも1種のチタンカップリング剤(C)とのモル比(B)/(C)、ならびに縮合体化合物(A)の平均縮合度、さらに金属化合物(D)および酸触媒(E)のエポキシ基またはアミノ基を有する少なくとも1種のシランカップリング剤(B)と二つの加水分解基を有する少なくとも1種のチタンカップリング剤(C)に対するモル比[(D)/(B)+(C)]および[(E)/(B)+(C)]を示す。比較のために、一部の成分を使用しない金属表面処理剤および引用文献に記載の実施例も併せて示す。表1に示した各成分の記号に対応する各成分の具体名を下記する。
【0073】
エポキシ基またはアミノ基を含有する少なくとも1種のシランカップリング剤(B)
B1: 3−アミノプロピルトリエトキシシラン
B2: N−2−(アミノエチル)−3−アミノプロピルトリメトキシシラン
B3: 3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン
B4: 3−グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン
【0074】
二つの加水分解基を有する少なくとも1種のチタンカップリング剤(C)
C1: ジイソプロポキシチタンビス(トリエタノールアミネート)
C2: ジn−ブトキシチタンビス(メチルアセトアセテート)
C3: ジイソプロポキシチタンビス(アセチルアセトネート)
C4: ジn−ブトキシチタンビス(アセチルアセトネート)
【0075】
金属化合物(D)
D1: リン酸水素マグネシウム
D2: 酸化アルミニウム
D3: チタンフッ化水素酸
D4: バナジウムアセチルアセトネート
D5: リン酸マンガン
D6: 亜鉛アセチルアセトネート
D7: ジルコンフッ化水素酸
D8: モリブデン酸アンモニウム
D9: メタタングステン酸アンモニウム
D10: リン酸ランタン
D11: リン酸セリウム
D12: 酸化ニオブ
D13: 酸化ネオジム
【0076】
酸触媒(E)
E1: 酢酸
E2: リン酸
E3: フッ化水素酸
E4: ニトロトリスメチレンホスホン酸
【0077】
[表面処理方法]
金属材料として板厚0.6mmの溶融亜鉛めっき鋼板(片面当たりの付着量60g/m)を使用し、これをアルカリ脱脂および水洗した後、上記で調製した金属表面処理剤をめっき鋼板の片面にバーコーターにより塗布し加熱乾燥し、表面処理金属材料を作製した。形成された皮膜の皮膜質量と加熱温度(PMT:最高到達板温度)を表1に示す。
【0078】
[評価方法]
(1)平面部耐食性
無加工の表面処理金属材料の試験片を用いて、JIS−Z−2371に基づいた塩水噴霧168時間後の白錆発生面積率により次のように評価した。
◎ : 5%未満
○ : 5%以上、10%未満
○−: 10%以上、30%未満
△ : 30%以上、50%未満
× : 50%以上
【0079】
(2)アルカリ脱脂後耐食性
無加工の表面処理金属材料の試験片を用いて、アルカリ脱脂剤CL−N364S(日本パーカライジング社製)(20g/L、60℃、10秒スプレー、スプレー圧0.5kg/cm )で脱脂した後、スプレー水洗を10秒行ってから、JIS−Z−2371に基づいた塩水噴霧120時間後の白錆発生面積率により次のように評価した。
◎ : 5%未満
○ : 5%以上、10%未満
○−: 10%以上、30%未満
△ : 30%以上、50%未満
× : 50%以上
【0080】
(3)加工部耐食性
無加工の表面処理金属材料の試験片を用いて、エリクセン7mm押出し加工してから、JIS−Z−2371に基づいた塩水噴霧120時間後の白錆発生面積率により次のように評価した。
◎ : 5%未満
○ : 5%以上、10%未満
○−: 10%以上、30%未満
△ : 30%以上、50%未満
× : 50%以上
【0081】
(4)貯蔵後耐食性
金属表面処理剤を40℃の雰囲気で1ヶ月間静置した後、無加工の表面処理金属材料の試験片を用いて、JIS−Z−2371に基づいた塩水噴霧168時間後の白錆発生面積率により次のように評価した。
◎ : 5%未満
○ : 5%以上、10%未満
○−: 10%以上、30%未満
△ : 30%以上、50%未満
× : 50%以上
【0082】
(5)貯蔵安定性
金属表面処理剤を40℃の雰囲気で静置した場合にゲル化、沈殿が発生するまでの期間で貯蔵安定性を次のように評価した。
○: 3ヶ月以上
△: 1ヶ月以上、3ヶ月未満
×: 1ヶ月未満
【0083】
(6)上塗り塗装密着性
表面処理金属材料の試験片に、バーコーターを用いてメラミンアルキッド樹脂塗料を乾燥膜厚が25μmとなるように塗布し、炉温130℃で20分間焼き付けた。次に、カッターで1mm、100マスの碁盤目を施し、更にその部位を7mm押し出しでエリクセン加工を施した。加工を施した部分のテープ剥離試験を実施し、樹脂層の残存数を次のように評価した。
◎: 100個
○: 98個以上100個未満
△: 50個以上98個未満
×: 50個未満
【0084】
(7)耐熱性
表面処理金属材料の試験片を300℃で20分間加熱し、加熱前後の色差△E(ハンター表色系におけるE値の差)を測定し、次のように評価した。
○: 1未満
△: 1以上、3未満
×: 3以上
【0085】
(8)導電性
表面処理金属材料の試験片を層間抵抗測定機により層間抵抗を測定し、次のように評価した。
◎: 1.0Ω未満
○: 1.0Ω以上、3.0Ω未満
×: 3.0Ω以上
【0086】
表2に評価結果を示す。実施例1〜35の結果から、本発明の貯蔵安定性に優れた金属表面処理剤を用いた場合には、耐食性、貯蔵後耐食性、上塗り塗装密着性、耐熱性、導電性に優れた表面処理金属材料を得ることができることが分かる。
【0087】
これに対し、成分(B)のシランカップリング剤を含有しない比較例1、および、成分(C)のチタンカップリング剤を含有しない比較例2は耐食性が劣った。また、(B)/(C)が1未満である比較例3は平均縮合度が大きくなり過ぎたためにゲル化し評価ができず、比較例4は平均縮合度が20を超えたために貯蔵安定性と貯蔵後耐食性が劣った。(B)/(C)が20を超える比較例5および6は平均縮合度が2に達しなかったこと、チタンカップリング剤(C)単位の含有率が低いためチタン自体の耐食性が発現しなかったことで耐食性が劣った。さらに、成分(E)の酸触媒を含有しない比較例7、および、[(E)/(B)+(C)]が0.1未満である比較例8は平均縮合度が2に達しなかったこと、金属材料へのエッチング効果が不十分であったことで耐食性が劣った。[(E)/(B)+(C)]が5を超えた比較例9は平均縮合度が20を超えたために貯蔵安定性と貯蔵後耐食性が劣った。
【0088】
【表1】

【0089】
【表2】

【産業上の利用可能性】
【0090】
本発明の金属表面処理剤による皮膜を有する金属材料は、耐食性(平面部、アルカリ脱脂後、加工部、貯蔵後)、上塗り塗装密着性、耐熱性、導電性に優れることから、ノンクロメート皮膜の代替として、自動車用鋼板、家電製品用鋼板、建材用鋼板等に適用される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エポキシ基またはアミノ基を有する少なくとも1種のシランカップリング剤(B)と二つの加水分解基を有する少なくとも1種のチタンカップリング剤(C)を、酸触媒(E)の存在下、エポキシ基またはアミノ基を有する少なくとも1種のシランカップリング剤(B)と二つの加水分解基を有する少なくとも1種のチタンカップリング剤(C)とのモル比(B)/(C)を1〜50で縮合してなる、平均縮合度が2〜20の縮合体化合物(A)を含有することを特徴とする金属表面処理剤。
【請求項2】
さらに、Mg、Al、Ti、V、Mn、Zn、Zr、Mo、W、La、Ce、NbおよびNdからなる群より選ばれる少なくとも1種の金属化合物(D)を含有することを特徴とする請求項1に記載の金属表面処理剤。
【請求項3】
エポキシ基またはアミノ基を有する少なくとも1種のシランカップリング剤(B)が、3−グルシドキシプロピルトリメトキシシラン、3−アミノプロピルトリエトキシシランであることを特徴とする請求項1または2に記載の金属表面処理剤。
【請求項4】
二つの加水分解基を有する少なくとも1種のチタンカップリング剤(C)が、ジ−i−プロポキシチタンビス(トリエタノールアミネート)、ジ−i−プロポキシチタンビス(アセチルアセトネート)であることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の金属表面処理剤。
【請求項5】
金属化合物(D)が硝酸塩、リン酸塩、フッ化物、酸化物、アセチルアセトネート錯体であることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の金属表面処理剤。
【請求項6】
酸触媒(E)がリン酸、フッ化水素酸、酢酸および有機ホスホン酸からなる群より選ばれる少なくとも1種であることを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の金属表面処理剤。
【請求項7】
酸触媒(E)と、エポキシ基またはアミノ基を有する少なくとも1種のシランカップリング剤(B)および二つの加水分解基を有する少なくとも1種のチタンカップリング剤(C)とのモル比[(E)/[(B)+(C)]が0.1〜5であることを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載の金属表面処理剤。
【請求項8】
金属化合物(D)と,エポキシ基またはアミノ基を有する少なくとも1種のシランカップリング剤(B)および二つの加水分解基を有する少なくとも1種のチタンカップリング剤(C)とのモル比[(D)/[(B)+(C)]が0.01〜0.5であることを特徴とする請求項1〜7のいずれかに記載の金属表面処理剤。
【請求項9】
pHが2〜11であることを特徴とする請求項1〜8のいずれかに記載の金属表面処理剤。
【請求項10】
請求項1〜9のいずれかに記載の金属表面処理剤を金属材料に塗布し、乾燥または加熱処理して皮膜を形成してなることを特徴とする表面処理金属材料。
【請求項11】
皮膜重量が0.05〜3g/mであることを特徴とする請求項10に記載の表面処理金属材料。
【請求項12】
請求項1〜9のいずれかに記載の金属表面処理剤を金属材料に塗布し、乾燥または加熱処理して皮膜を形成する際に、乾燥または加熱を50〜200℃にて行うことを特徴とする金属材料の表面処理方法。

【公開番号】特開2011−1623(P2011−1623A)
【公開日】平成23年1月6日(2011.1.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−147436(P2009−147436)
【出願日】平成21年6月22日(2009.6.22)
【出願人】(000229597)日本パーカライジング株式会社 (198)
【Fターム(参考)】