説明

金属表面処理剤、金属表面処理方法及び表面処理金属材料

【課題】アルミニウム含有金属材料に優れた耐食性、耐アルカリ性及び層間密着性を付与するために用いるクロムを含まない金属表面処理剤等を提供する。
【解決手段】少なくとも1種のバナジウム化合物(A)と、亜鉛及び/又はマグネシウムを含む金属化合物(B)と、チタンを含む金属化合物(C)とを含有し、バナジウム化合物(A)、金属化合物(B)及び金属化合物(C)の量が、それぞれバナジウム換算で1〜70g/L、亜鉛及び/又はマグネシウム換算で0.1〜20g/L、及びチタン換算で1.0〜70g/Lであって、かつ、バナジウム化合物(A)、金属化合物(B)及び金属化合物(C)の質量比が、金属換算で、V/Ti=1/100〜8/2で、かつ金属化合物(B)に占める金属換算質量/(V+Ti)=1/200〜1/10であることを特徴とするアルミニウム含有金属材料用表面処理剤並びに表面処理方法及び表面処理金属材料。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属を素材としたシートコイル、成形品の表面に優れた耐食性及び耐アルカリ性を付与し、さらには塗装又はラミネートにより形成した樹脂層及び金属素材との層間密着性に優れ、かつクロムを含まない皮膜を形成させるために用いる金属表面処理剤、金属表面処理方法、表面処理された金属材料に関する。
さらに詳しくは、本発明は、鋼、亜鉛系メッキ鋼、アルミ系メッキ鋼などの鋼材、更にはアルミニウム、マグネシウム、銅、及びそれら合金などの非鉄金属材を素材とする自動車ボディー、自動車部品、建材、家電用部品等の成形加工品、鋳造品、シートコイル等に優れた耐食性及び耐アルカリ性を付与し、さらに層間密着性に優れ、かつクロムを含まない皮膜を形成させるために用いる表面処理剤、表面処理方法、表面処理された金属材料に関する。
【背景技術】
【0002】
鋼、亜鉛系メッキ鋼、アルミ系メッキ鋼などの鋼材、更にはアルミニウム、マグネシウム、銅、及びそれら合金などの非鉄金属材料は、大気中の酸素、水分、水分中に含まれるイオン等によって酸化され腐食する。これらの腐食を防止する方法として、従来より、クロム酸クロメート、リン酸クロメート等のクロムを含有する処理液に金属材料表面を接触させてクロメート皮膜を形成させる方法がある。
これらのクロメート処理を用いて形成された皮膜は、優れた耐食性、塗装密着性を有しているが、その処理液中に有害な6価クロムを含んでおり、廃水処理に手間やコストがかかる他、処理によって形成された皮膜中にも6価クロムを含有されているので環境面、安全面から敬遠される傾向にある。
【0003】
クロムを含まないノンクロメート処理液を用いる方法としては、特許文献1に、少なくとも1個の窒素原子を有するエポキシ樹脂、アクリル樹脂、ウレタン樹脂等の有機高分子と特定の多価アニオンを含有する金属表面処理剤が開示されている。ここで、特定した多価アニオンの中にバナジン酸が記載されているが、5価のバナジウムの酸素酸であるバナジン酸は耐水性、耐アルカリ性が劣るため、処理された金属材料を、特にアルカリなどで洗浄した際、皮膜から脱落し耐食性が極端に低下するという不具合があった。また、処理後、水洗し乾燥することが記載されており、クロム廃水の問題はないが、有機物によるCOD等の廃水の問題を有している。
【0004】
また、特許文献2に、バナジウム化合物と、ジルコニウム、チタニウム、モリブデン、タングステン、マンガン及びセリウムから選ばれる少なくとも1種の金属を含む金属化合物とを含有する金属表面処理剤が挙げられている。
特許文献2に記載された金属表面処理においては、処理液が6価クロムを含有しない利点があり、形成された皮膜も耐食性及び耐アルカリ性においてかなり改善されている。
【特許文献1】特開平10−1789号公報(請求項1〜3)
【特許文献2】特開2002−30460号公報(請求項1)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献2記載の金属表面処理では良好な耐食性及び耐アルカリ性を有する皮膜が得られるが、クロメート皮膜と比較するとそれでも十分とは言えず、これらの性能のさらなる向上が求められていた。
本発明は前記従来技術の抱える問題を解決するために成されたものであって、金属材料に優れた耐食性及び耐アルカリ性を付与すると共に、優れた層間密着性をも付与する、クロムを含まない金属表面処理剤、金属表面処理方法及び表面処理金属材料を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は、前記課題を解決する手段について、鋭意研究を重ねた結果、特定の組成からなる表面処理剤を用いて金属材料表面を処理することにより、優れた耐食性、耐アルカリ性及び層間密着性を有する皮膜を得ることができることを見い出し、本発明を完成するに至った。
すなわち本発明は、少なくとも1種のバナジウム化合物(A)と、コバルト、ニッケル、亜鉛、マグネシウム、アルミニウム、カルシウム、ストロンチウム、バリウム及びリチウムからなる群から選ばれる少なくとも1種の金属を含む金属化合物(B)とを含有することを特徴とする金属表面処理剤に関する。
【0007】
なお、本発明において、層間密着性とは、本発明の金属表面処理剤のような金属表面処理剤を用いて得られる皮膜とその上に通常施される樹脂膜との密着性と
該皮膜と金属表面との密着性との両方を意味する。ただし、実際的には、本発明の金属表面処理剤のような金属表面処理剤を用いて得られる皮膜は本来金属表面との密着性が良好な化成皮膜であり、したがって本発明の場合、層間密着性は、通常、樹脂膜との密着性を意味する。ただし、かかる皮膜自体に樹脂成分を含有させることもでき、かかる場合には、層間密着性は金属表面との密着性を意味する。
【0008】
上記本発明においては、前記表面処理剤に、さらに、ジルコニウム、チタニウム、モリブデン、タングステン、マンガン及びセリウムよりなる群から選ばれる少なくとも1種の金属を含む金属化合物(C)を含有させることが、耐アルカリ性及び樹層間密着性を向上させるために好ましい。
また、前記バナジウム化合物(A)において、酸化数5価のバナジウムイオンの全バナジウムに対する割合V5+/Vが0〜0.6の範囲にあることが、処理剤中でのバナジウム化合物の安定性、形成皮膜の耐食性、耐アルカリ性及び層間密着性の向上の点から、好ましい。
また、前記金属表面処理剤に、さらに、水酸基、カルボニル基、カルボキシル基、1〜3級アミノ基、アミド基、リン酸基及びホスホン酸基よりなる群から選ばれる少なくとも1種の官能基を有する有機化合物(D)を含有させることが、5価のバナジウム化合物を用いる場合にはこれを4価〜2価に還元し、及び/又は本発明の処理液中のバナジウム化合物の安定性を向上させるために好ましい。
【0009】
また、前記金属表面処理剤に、さらに、無機酸、有機酸、無機酸もしくは有機酸の塩、及びフッ素化合物より選ばれる少なくとも1種のエッチング剤(E)を含有させることが、形成させる皮膜と金属表面との密着性を向上させるために好ましい。
また、前記金属表面処理剤に、さらに、水溶性高分子又は/及び水系エマルション樹脂(F)を含有させることが、形成させる皮膜の耐食性、耐指紋性、耐溶剤性及び表面潤滑性の向上のために好ましい。
【0010】
本発明は、また、金属材料表面を、前記したいずれかの金属表面処理剤に接触させた後、前記材料の温度が30〜250℃になるように加熱乾燥して、少なくとも金属材料表面の片側に、厚さ0.001〜2μmの乾燥皮膜を形成させることを特徴とする金属材料の表面処理方法、及び前記表面処理方法を用いて形成された皮膜を有する表面処理金属材料に関する。さらに、金属材料が、亜鉛系メッキ鋼材、アルミニウム系メッキ鋼材、アルミニウム・亜鉛系合金メッキ鋼材、アルミニウム材、アルミニウム合金材、マグネシウム合金材及び銅合金材よりなる群から選ばれることが好ましい。
【発明の効果】
【0011】
本発明の金属表面処理剤は有害なクロム化合物を含まないノンクロメートタイプであり、本表面処理剤から形成される皮膜は、従来のクロメート皮膜と同等又はそれ以上の耐食性を有しており、本発明の表面処理剤、表面処理方法及び表面処理金属材料は産業上の利用価値が極めて大きいものである。本表面処理剤により処理された金属材料は優れた耐食性、優れた耐アルカリ性及び優れた層間密着性を有する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
本発明の金属表面処理剤中に含有させるバナジウム化合物(A)は、バナジウムの酸化数が5価、4価、3価又は2価のバナジウム化合物、例えば五酸化バナジウム(V25)、メタバナジン酸(HVO3)、メタバナジン酸アンモニウム、メタバナジン酸ナトリウム、オキシ三塩化バナジウム(VOCl3)等の酸化数5価のバナジウム化合物、三酸化バナジウム(V23)、二酸化バナジウム(VO2)、オキシ硫酸バナジウム(VOSO4)、バナジウムオキシアセチルアセトネート[VO(OC(CH3)=CHCOCH32]、バナジウムアセチルアセトネート[V(OC(CH3)=CHCOCH33]、三塩化バナジウム(VCl3)、リンバナドモリブデン酸{H15−X[PV12−xMoxO40]・nH2O(6<x<12,n<30)}、硫酸バナジウム(VSO4・7HO)、ニ塩化バナジウム(VCl2)、酸化バナジウム(VO)等の酸化数4〜2価のバナジウム化合物等から選ばれる少なくとも1種である。
【0013】
本処理剤がバナジウム化合物(A)として酸化数4価以下(通常4〜2価)のバナジウム化合物を含有していることが好ましい。すなわち、酸化数5価のバナジウムイオンの全バナジウムに対する割合V5+/V(式中、V5+及びVはそれぞれ酸化数5価のバナジウム質量及び全バナジウム質量を表す)が0〜0.6の範囲にあることが好ましく、0〜0.4の範囲にあることがより好ましく、0〜0.2の範囲にあることがより一層好ましく、0〜0.1の範囲にあることが最も好ましい。
上記割合が0.6を超える場合には、処理剤中でのバナジウム化合物の安定性が一般に悪くなる他、形成される皮膜の耐食性、耐アルカリ性及び層間密着性が低下してくる。
【0014】
本処理剤中に4〜2価のバナジウム化合物を含有させる方法としては、前記したような4〜2価のバナジウム化合物を用いる他、5価のバナジウム化合物を予め還元剤を用いて4〜2価に還元したものを用いることができる。用いる還元剤は無機系、有機系いずれでも良いが、有機系が好ましく、前記有機化合物(D)を用いることが特に好ましい。
【0015】
本発明の金属表面処理剤中に含有させる、コバルト、ニッケル、亜鉛、マグネシウム、アルミニウム、カルシウム、ストロンチウム、バリウム及びリチウムよりなる群から選ばれる少なくとも1種の金属を含む金属化合物(B)は、前記金属の酸化物、水酸化物、錯化合物、無機酸もしくは有機酸との塩等である。かかる金属化合物(B)としては、例えば、コバルト(II)アセチルアセトネート[Co(OC(CH3)=CHCOCH3]、コバルト(III)アセチルアセチルアセトネート[Co(OC(CH3)=CHCOCH33]、硝酸コバルト(II)、硫酸コバルト(II)、酢酸コバルト(II)、シュウ酸コバルト(II)、シュウ酸コバルト(III)、酸化コバルト(II)、酸化コバルト(III)、酸化コバルト(IV)、硝酸ニッケル(II)、酢酸ニッケル(II)、酢酸ニッケル(III)、シュウ酸ニッケル(II)、酸化ニッケル(II)、ニッケル(II)アセチルアセトネート[Ni(OC(CH3)=CHCOCH3]、アミド硫酸ニッケル、塩基性炭酸ニッケル[NiCO・2Ni(OH)]、水酸化ニッケル(II)、フッ化亜鉛、硫酸亜鉛、硝酸亜鉛、酢酸亜鉛、酸化亜鉛、亜鉛(II)アセチルアセトネート[Zn(OC(CH3)=CHCOCH3]、塩基性炭酸亜鉛[2ZnCO・3Zn(OH)]、硝酸マグネシウム、硫酸マグネシウム、酢酸マグネシウム、フッ化マグネシウム、水酸化マグネシウム、シュウ酸マグネシウム、酸化マグネシウム、塩基性炭酸マグネシウム[(MgCO・Mg(OH)]、硝酸アルミニウム、硫酸アルミニウム、酸化アルミニウム、水酸化アルミニウム、フッ化アルミニウム、酢酸アルミニウム、酢酸カルシウム、フッ化カルシウム、ホスフィン酸カルシウム[Ca(PH]、硝酸カルシウム、水酸化カルシウム、シュウ酸カルシウム、酸化カルシウム、酢酸カルシウム、硝酸ストロンチウム、酢酸ストロンチム、炭酸ストロンチウム、硝酸バリウム、炭酸バリウム、酸化バリウム、硝酸リチウム、リン酸リチウム、フッ化リチウム、水酸化リチウム、硫酸リチウム、炭酸リチウム、シュウ酸二リチウム、酸化リチウム等が挙げられる。
これらの金属化合物(B)中、コバルト、ニッケル、亜鉛及びマグネシウムよりなる群から選ばれる少なくとも1種の金属を含む金属化合物が好ましい。
【0016】
本発明の金属表面処理剤中に、任意成分として含有させる、ジルコニウム、チタン、モリブデン、タングステン、マンガン及びセリウムよりなる群から選ばれる少なくとも1種の金属を含む金属化合物(C)は、前記金属の酸化物、水酸化物、錯化合物、無機酸もしくは有機酸との塩等である。かかる金属化合物(C)としては、例えば、硝酸ジルコニル(ZrO(NO32)、酢酸ジルコニル、硫酸ジルコニル、炭酸ジルコニルアンモニウム{(NH42[Zr(CO32(OH)2}、ジルコニウムアセテート、硫酸チタニル(TiOSO4)、チタンラクテート、ジイソプロポキシチタニウムビスアセチルアセトン{(C5722Ti[OCH(CH322}、乳酸とチタニウムアルコキシドとの反応物、モリブデン酸(H2MoO4)、モリブデン酸アンモニウム、モリブデン酸ナトリウム、モリブドリン酸化合物(例えば、モリブドリン酸アンモニウム{(NH43[PO4Mo1236]・3H2O}、モリブドリン酸ナトリウム{Na3[PO4・12MoO3]・nH2O})、メタタングステン酸{H6[H21240]}、メタタングステン酸アンモニウム{(NH46[H21240]}、メタタングステン酸ナトリウム、パラタングステン酸{H10[W124610]}、パラタングステン酸アンモニウム、パラタングステン酸ナトリウム、過マンガン酸(HMnO4)、過マンガン酸カリウム、過マンガン酸ナトリウム、リン酸二水素マンガン[Mn(H2PO42]、硝酸マンガン[Mn(NO32]、硫酸マンガン、フッ化マンガン、炭酸マンガン(MnCO3)、酢酸マンガン、酢酸セリウム[Ce(CH3CO23]、硝酸セリウム、塩化セリウム等が挙げられる。
これらの金属化合物(C)中、ジルコニウム及び/又はチタンを含む金属化合物が好ましい。
【0017】
金属化合物(A)、(B)及び(C)の好適な組合せとしては、バナジウム化合物(A)と金属化合物(B)としてのコバルト及び/又はニッケルを含む金属化合物と金属化合物(C)としてのジルコニウムを含む金属化合物との組合せが、本発明で使用するすべての金属材料に、もっとも優れた耐食性、耐アルカリ性及び層間密着性を与える。また、バナジウム化合物(A)と金属化合物(B)としての亜鉛及び/又はマグネシウムを含む金属化合物と金属化合物(C)としてのチタンを含む金属化合物との組合せが、アルミニウム含有金属材料に、上記の組合せと同様に優れた耐食性、耐アルカリ性及び層間密着性を与える。
【0018】
本発明の金属表面処理剤中に、必要に応じ、含有させる有機化合物(D)は、水酸基、カルボニル基、カルボキシル基、1〜3級アミノ基、アミド基、リン酸基及びホスホン酸基よりなる群から選ばれる少なくとも1種の官能基を有する有機化合物である。
かかる有機化合物(D)としては、メタノール、エタノール、イソプロパノール、エチレングリコール等のアルコール類、ホルムアルデヒド、アセトアルデヒド、フルフラール、アセチルアセトン、アセト酢酸エチル、グリオキザール、ジピバロイルメタン、3−メチルペンタンジオン等のカルボニル化合物、ギ酸、酢酸、プロピオン酸、酒石酸、アスコルビン酸、グルコン酸、クエン酸、リンゴ酸、グリオキシル酸等の有機酸、トリエチルアミン、トリエタノールアミン、エチレンジアミン、ピリジン、イミダゾール、ピロール、モルホリン、ピペラジン等のアミン化合物、ホルムアミド、アセトアミド、プロピオンアミド、N−メチルプロピオンアミド等の酸アミド化合物、グリシン、アラニン、プロリン、グルタミン酸等のアミノ酸類、アミノトリ(メチレンホスホン酸)、1−ヒドロキシエチリデン−1,1´−ジホスホン酸、エチレンジアミンテトラ(メチレンホスホン酸)、フィチン酸等の有機リン酸、グルコース、マンノース、ガラクトース等の単糖類、麦芽糖、ショ糖等のオリゴ糖類、デンプン、セルロース等の天然多糖類、タンニン酸、フミン酸、リグニンスルホン酸、ポリフェノール等の芳香族化合物、ポリビニルアルコール、ポリエチレングリコール、ポリアクリル酸、ポリアクリルアミド、ポリエチレンイミン、水溶性ナイロン等の合成高分子等が挙げられる。
【0019】
これらの有機化合物(D)の中で、、前記官能基から選ばれる少なくとも1種を1分子内に2個以上含む有機化合物が好ましく、さらには前記官能基として水酸基、カルボニル基、カルボキシル基、リン酸基及びホスホン酸基から選べばれる少なくとも1種を1分子内に2個以上含む有機化合物がより好ましい。
【0020】
これらの有機化合物(D)は、5価のバナジウム化合物を用いる場合にはこれを4価、3価又は2価に還元し、及び/又は本発明の処理液中のバナジウム化合物の安定性を向上させるために好ましい。
【0021】
これらの有機化合物(D)は、予めバナジウム化合物と混合し加熱(例えば、40〜100℃で5〜120分)するなどして十分に還元反応、安定化反応を進行させた混合物として表面処理剤に配合することができるが、単純に混合した表面処理剤として金属表面に塗布した後、加熱乾燥時に還元を進行させることも可能である。
【0022】
本発明の金属表面処理剤中に、必要に応じ、含有させるエッチング剤(E)は、無機酸、有機酸、無機酸もしくは有機酸の塩、及びフッ素化合物より選ばれる少なくとも1種の化合物である。本発明の表面処理剤中に、必要に応じ、含有させるエッチング剤(E)は、無機酸、有機酸、無機酸もしくは有機酸の塩(特に、アンモニウム塩やナトリウム塩、カリウム塩等のアルカリ金属塩)、及びフッ素化合物より選ばれる少なくとも1種の化合物であり、処理剤塗布時又は加熱乾燥時に素材金属をエッチングするのに用いる。かかるエッチング剤(E)としては、リン酸、硝酸、硫酸等の無機酸もしくはその塩(特に、アンモニウム塩、ナトリウム塩、カリウム塩)、ギ酸、酢酸等の有機酸もしくはその塩(特に、アンモニウム塩、ナトリウム塩、カリウム塩)、フッ化水素酸、ホウフッ化水素酸(HBF4)、ケイフッ化水素酸(H2SiF6)、ジルコニウムフッ化水素酸(H2ZrF6)、チタンフッ化水素酸(H2TiF6)、フッ化錫(I)(SnF2)、フッ化錫(II)(SnF4)、フッ化第一鉄、フッ化第二鉄等のフッ素化合物を用いることができる。
エッチング剤(E)の使用は金属素材への反応性を高め、形成させる皮膜と金属素材との密着性を向上させるために好ましい。
【0023】
本発明の処理剤における各構成成分の量については、バナジウム化合物(A)はバナジウム換算で0.1〜100g/Lが好ましく、1〜70g/Lがより好ましい。金属化合物(B)は金属換算で0.01〜50g/Lが好ましく、0.1〜20g/Lがより好ましい。金属化合物(C)は金属換算で0.1〜100g/Lが好ましく、1.0〜70g/Lがより好ましい。
バナジウム化合物(A)、金属化合物(B)及び金属化合物(C)の質量比は、金属換算で、V/金属化合物(C)に占める金属換算質量=1/200〜9/1で、かつ金属化合物(B)に占める金属換算質量/(V+金属化合物(C)に占める金属換算質量)=1/1000〜1/5であることが好ましく、V/金属化合物(C)に占める金属換算質量=1/100〜8/2で、かつ金属化合物(B)に占める金属換算質量/(V+金属化合物(C)に占める金属換算質量)=1/200〜1/10であることがより好ましい。
有機化合物(D)はバナジウム化合物中の酸化数5価のバナジウムの質量を1としたとき、0.05〜10が好ましく、0.1〜5がより好ましい。還元に必要な量より過剰に添加する方が、還元体の処理液中での安定性を向上させるためより好ましい。
エッチング剤(E)は0.01〜100g/Lが好ましく、0.1〜70g/Lがより好ましい。
【0024】
本発明の処理剤において、耐食性、耐指紋性、耐溶剤性及び表面潤滑性の向上を目的として、水溶性高分子又は/及び水系エマルション樹脂(F)、例えばポリアクリル酸、ポリアクリルアミド、ポリビニルアルコール、ポリエチレングリコール等の水溶性高分子、水に分散した形態のアクリル樹脂、ウレタン樹脂、エポキシ樹脂、ポリエステル樹脂、ポリアミド樹脂、ポリオレフィン樹脂、エチレン−アクリル酸共重合体樹脂、ポリアセタール樹脂、ポリブチラール樹脂等の水系エマルション樹脂を添加することができる。これらは各単独でもしくは2種以上組み合わせて用いることができる。なお、水系エマルション樹脂(F)中の樹脂は液状で分散していても固体状で分散していてもよい。水溶性高分子又は/及び水系エマルション樹脂(F)の添加量は、全不揮発成分の5〜95質量%が好ましく、10〜90質量%がより好ましい。
【0025】
本発明の処理剤において、水に分散した形態のシリカゾル、及び/又はアルミナゾル、ジルコニアゾル等の金属ゾルを加えることができる。これらを加えるこちにより耐食性、耐水性、耐指紋性が向上する。この場合、添加する量は、全不揮発成分の2〜80%質量%が好ましく、5〜60%がより好ましい。
また、本発明の処理剤において、アミノシラン、エポキシシラン、メルカプトシラン等のシランカップリング剤を加えることができる。これらを加えることにより層間密着性、耐食性が向上する。この場合、添加する量は、全不揮発成分の5〜40質量%が好ましく、10〜30質量%がより好ましい。
【0026】
また、本発明の処理剤において、ポリエチレンワックス、ポリプロピレンワックス、マイクロクリスタリンワックス、カルナウバワックス、ポリテトラフルオロエチレン等の潤滑剤を加えることができる。これらを加えることにより滑り性、成形加工性、キズ付き防止性を付与することができる。この場合、添加する量は、全不揮発成分の1〜40質量%が好ましく、5〜30質量%がより好ましい。
なお本発明において全不揮発成分とは表面処理剤を110℃で2時間加熱乾燥した後に残存する成分をいうものとする。
【0027】
本発明の表面処理剤で用いる溶媒は水を主体とするが、皮膜の乾燥性の改善など必要に応じてアルコール、ケトン、セロソルブ系の水溶性有機溶剤の併用を妨げるものではない。
この他に、界面活性剤、消泡剤、レベリング剤、防菌防ばい剤、着色剤などを本発明の趣旨や皮膜性能を損なわない範囲で添加し得る。
【0028】
次に本発明の表面処理方法について述べる。
本処理の前工程については特に制限はないが、通常は、本処理を行う前に素材に付着した油分、汚れを取り除くためにアルカリ脱脂剤、又は酸性脱脂剤で洗浄するか、湯洗、溶剤洗浄等を行う。その後、必要に応じて酸、アルカリなどによる表面調整を行う。素材表面の洗浄においては、洗浄剤が素材表面になるべく残留しないように洗浄後に水洗することが好ましい。
【0029】
本処理方法については、本発明の表面処理剤を金属素材の表面に塗布した後、加熱乾燥できれば良く、塗布方法、乾燥方法などについては特に制限はない。
通常は素材表面に処理剤をロール転写させて塗り付けるロールコート法、或いはシャワーリンガー等によって流し掛けた後ロールで絞る方法、処理剤に素材を浸漬する方法、素材に処理剤をスプレーする方法が用いられる。処理液の温度は、特に限定するものではないが、本処理剤の溶媒は水が主体であるため、処理温度は0〜60℃が好ましく、5〜40℃がより好ましい。
【0030】
乾燥工程は、必ずしも熱を必要とせず風乾、もしくはエアーブロー等の物理的除去でも構わないが、皮膜形成性、層間密着性を向上させるために加熱乾燥しても良い。その場合の温度は、30〜250℃が好ましく、60〜220℃がより好ましい。
【0031】
形成される皮膜の付着量は乾燥皮膜量で0.001〜2μmが好ましく、0.005〜1μmがより好ましい。0.001μm未満では十分な耐食性、耐アルカリ性及び層間密着性が得られず、2μmを超えると皮膜自体がクラックなどが生じ、金属素材との密着性が低下する恐れがある。
【0032】
本発明の表面処理剤から形成される皮膜上に、乾燥皮膜厚が0.3〜50μmになるように樹脂層を設けることにより、被処理金属材料の耐食性及び耐アルカリ性が向上する他、耐指紋性、耐溶剤性及び表面潤滑性を付与することができる。
【0033】
このような樹脂層を設ける方法としては、樹脂をあらかじめ溶解又は分散した溶剤系塗料や水系塗料を、本発明の表面処理剤から形成される皮膜上に、塗布して0〜200℃で乾燥する方法、又フィルム状の樹脂を、該皮膜上に、ラミネートする方法が挙げられる。該皮膜との層間密着性を有する樹脂としては、ポリエステル樹脂、塩化ビニル樹脂、アクリル樹脂、エポキシ樹脂、ポリイミド樹脂、ポリオレフィン系樹脂、ポリアミド樹脂、フェノール樹脂等が挙げられる。
また、特に、耐指紋性、耐溶剤性及び表面潤滑性を付与するよう樹脂層を設ける方法としては、水溶性又は水分散性の樹脂を主成分とする水系塗料(Z)を、本発明の表面処理剤から形成される皮膜上に、塗布し、素材の到達温度が50〜250℃で加熱乾燥する方法が望ましい。水系塗料(Z)に用いる水溶性又は水分散性の樹脂は、付加重合性不飽和モノマーを重合して得られるアクリル系樹脂、ポリオレフィン系樹脂、縮合反応によって得られるエポキシ系樹脂、ウレタン系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリアミド系樹脂、フェノール系樹脂等であり、前記樹脂のガラス転移点は0〜120℃であることが好ましく、10〜100℃であることがより好ましい。ガラス転移点が0℃未満では皮膜の強度、硬度が乏しく、120℃を超えると造膜性が劣り密着性が劣る。
【0034】
前記水系塗料(Z)は、これらの樹脂から選ばれる少なくとも1種を含有し、その他、皮膜の強靭性や耐指紋性を向上させるために、水分散性シリカを含有させることが望ましく、さらに潤滑性を向上させるために水系ワックスを添加することが望ましい。これらの成分の含有量は、全不揮発分を100質量部としたとき、不揮発分で、樹脂を50〜100質量部、水分散性シリカを0〜40質量部、水系ワックスを0〜30質量部が好ましい。また、樹脂を架橋し得る架橋剤を含有させることができる。
【0035】
本発明の表面処理剤は、素材金属に塗布され、加熱乾燥される際に、素材金属表面と反応し、緻密な不動態皮膜を形成する。
本発明の表面処理剤によって形成された皮膜が優れた耐食性を示すのは、皮膜の持つ酸素、水分、イオンの透過を遮るバリヤー効果の他、腐食電子を非局在化する効果(電位の平滑化)によるものと考えられる。本発明で特定したバナジウム化合物(A)において、5価のバナジウム化合物は酸素と結合した多価アニオンとして存在し、耐水性、耐アルカリ性が劣るため、十分な性能を得ることができないが、還元された4価のバナジウム化合物、3価のバナジウム化合物及び2価のバナジウム化合物の少なくとも1種を含有する処理剤を用いて形成させた皮膜は、耐水性、耐アルカリ性及び層間密着性が向上すると考えられる。また、用いる金属化合物(B)は、金属素材表面に対する犠牲防食作用の発現、前記腐食電子の局在化を促進する作用、又は金属素材の皮膜内に拡散するイオンと難溶性塩を徐々に形成する作用により、皮膜自体を不溶化し、さらには金属素材を不活性化する効果があると考えられる。また、用いる金属化合物(C)は形成する皮膜に存在するバナジウム化合物(A)を固定化して、前記バリアー効果をさらに高めると考えられる。
また、用いる有機化合物(D)は、5価バナジウム化合物を還元すると同時に水溶液中で還元された4価、3価及び2価の少なくとも1種の原子価のバナジウムを水溶液中でキレート安定化する作用があると考えられる。
本発明の皮膜上に、更に塗装又はラミネートにより樹脂を主体とした層を形成させると、樹脂層のバリヤー効果との相乗効果により耐食性が一層高くなる。
【実施例】
【0036】
次に実施例及び比較例によって本発明を説明するが、本実施例は単なる一例に過ぎず、本発明を限定するものではない。実施例、比較例において作製した処理板試料についての評価方法は次の通りである。
1.素材
a:電気亜鉛メッキ鋼板(板厚:0.8mm)
b:溶融亜鉛メッキ鋼板(板厚:0.8mm)
c:55%アルミ亜鉛メッキ鋼板(板厚:0.5mm)
d:マグネシウム合金アルミニム板、A5182(板厚:0.3mm)
【0037】
2.本発明処理液
(1)処理液成分
使用したバナジウム化合物(A)を以下に記す。
A1:メタバナジン酸アンモニウム
A2:五酸化バナジウム
A3:三酸化バナジウム
A4:バナジウムオキシアセチルアセトネート
使用した金属化合物(B)を以下に記す。
B1:塩基性炭酸ニッケル
B2:硝酸コバルト
B3:硝酸マグネネシウム
B4:酸化亜鉛
B5:水酸化リチウム
【0038】
使用した金属化合物(C)を以下に記す。
C1:モリブデン酸アンモニウム
C2:メタタングステン酸アンモニウム
C3:炭酸ジルコニウムアンモニウム
C4:フルオロチタン酸
C5:炭酸マンガン
【0039】
使用した有機化合物(D)を以下に記す。
D1:L−アスコルビン酸
D2:D−グルコース
D3:グリオキザール
使用したエッチング剤(E)を以下に記す。
E1:HF
E2:H2ZrF6
E3:CH3COOH
E4:H2SiF6
E5:(HH42HPO4
【0040】
使用した水溶性高分子又は/及び水系エマルション樹脂(F)を以下に示す。
F1:水系ポリウレタン樹脂(第一工業製薬(株)製、スーパーフレックス100)
F2:水系エチレン−アクリル酸共重合体樹脂(エチレン/アクリル酸=80/20*、平均分子量約2万)
F3:水系エポキシ樹脂(旭電化工業(株)製、アデカレジンEPEA−0434)
F4:水系アクリル樹脂(ブチルアクリレート/メチルメタクリレート/2−ヒドロキシエチルメタクリレート/アクリル酸/グリシジルメタクリレート/スチレン=50/20/5/8/2/15)*
*数値はモル%
【0041】
(2)処理液の調製
実施例1〜11、比較例1〜3の場合
バナジウム化合物(A)と金属化合物(B)と金属化合物(C)とエッチング剤(E)と脱イオン水とを混合し、50℃で1時間加温した。
実施例12〜21、比較例4の場合
有機化合物(D)の5%水溶液にバナジウム化合物(A)を混合した後、80〜100℃で30分加温し、室温まで冷却し、金属化合物(B)と金属化合物(C)、つづいてエッチング剤(E)を加え、最後に脱イオン水を加えて所定の濃度に調整した。
【0042】
3.樹脂層を形成するための塗料、フィルム
樹脂層を形成させるために使用した上塗り塗料(X)を記す。
X:溶剤系塗料(デリコン700、大日本塗料(株)製)
樹脂層を形成させるために使用したラミネートフィルム(Y)を記す。
Y:ポリエステルフィルム(ルミラーS10、TORAY Industories.Inc.)
樹脂層を形成させるために使用した水系塗料(Z)と処理方法を記す。水系塗料(Z)としては、次に示すZ1又はZ2を使用した。
Z1:水系ポリウレタン(第一工業製薬(株)製、スーパーフレックス100)を固形分で100質量部、水系シリカ(日産化学(株)製、スノーテックスC)をシリカ換算で20質量部、水系ワックス(三井化学(株)製、ケミパールW900)を固形分で10質量部からなる不揮発分10%の水系処理液。
Z2:エチレン−アクリル酸共重合物(エチレン/アクリル酸=80/20、平均分子量約2万)のアンモニア中和水系ポリマーを、固形分換
算で100質量部、水分散性シリカをシリカ換算で10質量部からなる不揮発性分20%の水系処理液。
【0043】
4.処理方法
(1)脱脂
日本パーカライジング(株)製アルカリ脱脂剤パルクリーン364S
(20g/L建浴、60℃、10秒スプレー、スプレー圧50kPa)で素材を脱脂した後、スプレー水洗を10秒行った。
(2)本発明処理液の塗布及び乾燥
I:処理液をバーコーター#3で塗布し、熱風循環型オーブンを用いて板温80℃で乾燥した。
II:処理液をバーコーター#3で塗布し、熱風循環型オーブンを用いて板温150℃で乾燥した。
【0044】
(3)樹脂層の形成条件
本発明の処理剤、処理方法を用いて形成された表面処理金属材料の皮膜上に、次の方法により樹脂層を形成させた。
X:溶剤系塗料
前記溶剤系塗料(X)を乾燥膜厚が約25μmになるようにバーコート塗布し、市販のバッチ式乾燥炉内に置き、140℃で30分加熱乾燥した。
Y:ポリエステルフィルム
本発明の表面処理金属材料を加熱炉で到達板温が240℃になるまで昇温させ、あらかじめ100℃に加温した前記ポリエステルフィルム(Y)を加圧ラミネートして貼り合わせた。
Z:水系塗料
本発明の処理液、処理方法を用いて形成された皮膜上に、前記水系塗料(Z)を乾燥膜厚が約1μmになるようにバーコート塗布し、板温100℃で加熱乾燥した。
【0045】
5.評価方法
(1)耐食性
塩水噴霧試験法JIS−Z−2371に基づき塩水噴霧120時間後、240時間後の白錆発生面積を求め評価した。
評価基準:白錆発生面積 ◎10%未満、○10%以上30%未満、
△30%以上60%未満、×60%以上
(2)耐アルカリ性
処理板に、日本パーカライジング(株)製アルカリ脱脂剤パルクリーン364Sを20g/Lに建浴し60℃に調整した脱脂剤水溶液を30秒間スプレーし、水洗した後、80℃で乾燥した。この板について、上記(1)に記載した条件、評価法で耐食性を評価した。
【0046】
(3)層間密着性
溶剤系塗料(X)又はポリエステルフィルム(Y)を用いて樹脂層を形成させた後、1mm、100マスの碁盤目試験を行い、更にその部位を7mm押し出しでエリクセン加工を施した。加工後、沸騰水中に5時間浸漬し、処理板を取り出して室温雰囲気下で30分間、自然乾燥した。つづいて、テープ剥離試験を実施し、樹脂層の残存数を求めて次の評価基準により判定した。
評価基準:塗膜残存数 ◎:100個
○:98個以上100個未満
△:50個以上98個未満
×:50個未満
【0047】
(4)耐指紋性
処理板表面に指を押し付け、指紋の痕跡状態を肉眼で観察し評価した。
評価基準:◎痕跡が全くない、○極僅かに痕跡がある、
△痕跡がある、×明確に痕跡が残る
(5)耐溶剤性
エタノールをしみ込ませたガーゼをシリコンゴム製の立方体(1cm角)に巻いて、試験面を50,000kPaで30往復ラビングした。
評価基準:◎ほとんど皮膜剥離無し、○僅かに皮膜剥離有り、
△一部皮膜剥がれ有り、×全面的に皮膜が剥離し素地が見える
【0048】
実施例及び比較例の処理液内容及び処理方法を表1及び表2及び表3に、処理板の評価結果を表4及び表5に示した。
表4より特定のバナジウム化合物(A)と特定の金属化合物(B)とを含有する本発明の処理剤(実施例1〜21)から形成された皮膜は、耐食性、耐アルカリ性、更には樹脂層(X又はY)及び各種金属材料との層間密着性において総合的に優れた結果を示すことが分かる。これに比べ、バナジウム化合物(A)又は金属化合物(B)を含まない比較例1〜4では耐食性、耐アルカリ性、及び層間密着性の全ての性能を満足するものはなかった。
表5より、水溶性高分子又は水系エマルション樹脂(F)を含有する実施例22〜27は、さらに上層に樹脂層を設けていない1層処理となっているが、耐食性及び耐アルカリ性に優れており、また耐指紋性、耐溶剤性も優れていることが分かる。実施例28〜42は、水溶性高分子又は水系エマルション樹脂(F)を本発明処理剤中には含有していないが、実施例1〜15の皮膜上にさらに樹脂層(Z1又はZ2)を施した2層処理となっている。これら実施例28〜42についても、耐食性及び耐アルカリ性に優れており、また耐指紋性、耐溶剤性も優れていることが分かる。これに比べ、バナジウム化合物(A)又は金属化合物(B)を含まない比較例5(皮膜自体に樹脂成分を含有させたもの)及び比較例6〜9(比較例1〜4の皮膜上に樹脂層(Z)を施したもの)では耐食性、耐アルカリ性及び耐溶剤性の全ての性能を満足するものはなかった。
【0049】
【表1】

【0050】
【表2】

【0051】
【表3】

【0052】
実施例28 実施例1で形成した皮膜上に上塗り処理剤Z1による処理を行った。
実施例29 実施例2で形成した皮膜上に上塗り処理剤Z2による処理を行った。
実施例30 実施例3で形成した皮膜上に上塗り処理剤Z1による処理を行った。
実施例31 実施例4で形成した皮膜上に上塗り処理剤Z2による処理を行った。
実施例32 実施例5で形成した皮膜上に上塗り処理剤Z2による処理を行った。
実施例33 実施例6で形成した皮膜上に上塗り処理剤Z2による処理を行った。
実施例34 実施例7で形成した皮膜上に上塗り処理剤Z1による処理を行った。
実施例35 実施例8で形成した皮膜上に上塗り処理剤Z2による処理を行った。
【0053】
実施例36 実施例9で形成した皮膜上に上塗り処理剤Z2による処理を行った。
実施例37 実施例10で形成した皮膜上に上塗り処理剤Z2による処理を行った。
実施例38 実施例11で形成した皮膜上に上塗り処理剤Z1による処理を行った。
実施例39 実施例12で形成した皮膜上に上塗り処理剤Z2による処理を行った。
実施例40 実施例13で形成した皮膜上に上塗り処理剤Z2による処理を行った。
実施例41 実施例14で形成した皮膜上に上塗り処理剤Z2による処理を行った。
実施例42 実施例15で形成した皮膜上に上塗り処理剤Z2による処理を行った。
【0054】
比較例6 比較例1で形成した皮膜上に上塗り処理剤Z2による処理を行った。比較例7 比較例2で形成した皮膜上に上塗り処理剤Z2による処理を行った。比較例8 比較例3で形成した皮膜上に上塗り処理剤Z2による処理を行った。
比較例9 比較例4で形成した皮膜上に上塗り処理剤Z2による処理を行った。
【0055】
【表4】

【0056】
【表5】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも1種のバナジウム化合物(A)と、亜鉛及び/又はマグネシウムを含む金属化合物(B)と、チタンを含む金属化合物(C)とを含有し、バナジウム化合物(A)、金属化合物(B)及び金属化合物(C)の量が、それぞれバナジウム換算で1〜70g/L、亜鉛及び/又はマグネシウム換算で0.1〜20g/L、及びチタン換算で1.0〜70g/Lであって、かつ、バナジウム化合物(A)、金属化合物(B)及び金属化合物(C)の質量比が、金属換算で、V/Ti=1/100〜8/2で、かつ金属化合物(B)に占める金属換算質量/(V+Ti)=1/200〜1/10であることを特徴とするアルミニウム含有金属材料用表面処理剤。
【請求項2】
バナジウム化合物(A)において、酸化数5価のバナジウムイオンの全バナジウムに対する割合V5+/Vが0〜0.6の範囲にある請求項1記載の表面処理剤。
【請求項3】
さらに、水酸基、カルボニル基、カルボキシル基、1〜3級アミノ基、アミド基、リン酸基及びホスホン酸基よりなる群から選ばれる少なくとも1種の官能基を有する有機化合物(D)を含有する請求項1又は2記載の表面処理剤。
【請求項4】
さらに、無機酸、有機酸、無機酸もしくは有機酸の塩、及びフッ素化合物よりなる群から選ばれる少なくとも1種のエッチング剤(E)を含有する請求項1〜3のいずれか1項に記載の表面処理剤。
【請求項5】
さらに、水溶性高分子又は/及び水系エマルション樹脂(F)を含有する請求項1〜4のいずれか1項に記載の表面処理剤。
【請求項6】
アルミニウム含有金属材料の表面を、請求項1〜5のいずれか1項に記載の表面処理剤に接触させた後、前記材料の温度が30〜250℃になるように加熱乾燥して、少なくとも該金属材料表面の片側に、厚さ0.001〜2μmの乾燥皮膜を形成させることを特徴とするアルミニウム含有金属材料の表面処理方法。
【請求項7】
請求項6記載の表面処理により形成された皮膜を有するアルミニウム含有金属材料。
【請求項8】
アルミニウム含有金属材料が、アルミニウム系メッキ鋼材、アルミニウム・亜鉛系合金メッキ鋼材、アルミニウム材及びアルミニウム合金材よりなる群から選ばれる請求項7記載の金属材料。


【公開番号】特開2007−182634(P2007−182634A)
【公開日】平成19年7月19日(2007.7.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−101299(P2007−101299)
【出願日】平成19年4月9日(2007.4.9)
【分割の表示】特願2002−348715(P2002−348715)の分割
【原出願日】平成14年11月29日(2002.11.29)
【出願人】(000229597)日本パーカライジング株式会社 (198)
【Fターム(参考)】