説明

金属表面処理水溶液および金属表面のウィスカ抑制方法

【課題】本発明は、電子部品に用いられる錫または錫合金めっき皮膜に対し、簡便な方法で錫または錫合金めっき皮膜表面のウィスカを低減することができ、かつ良好な錫または錫合金めっき皮膜をもたらし得る、錫または錫合金めっき皮膜表面処理水溶液を提供することを目的とする。
【解決手段】分子内にカルボン酸基を少なくとも1個有する有機化合物を含有し、pHが2.5以下である、錫または錫合金めっき皮膜の表面を処理するための錫または錫合金めっき皮膜表面処理水溶液を提供する。前記分子内にカルボン酸基を少なくとも1個有する有機化合物は、分子内にカルボン酸基を2個以上有し、かつ分子内に窒素原子を有しない有機化合物であることが好ましく、該有機化合物は、リンゴ酸、マレイン酸、クエン酸であることが好ましい。また、かかる表面処理水溶液は、さらに窒素系化合物を含有することが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属、特に錫または錫合金めっき皮膜の表面処理液および錫または錫合金めっき皮膜の表面処理方法に関する。詳しくは、本発明は、錫または錫合金めっき方法により錫または錫合金めっき皮膜を形成するにあたり、皮膜表面でのウィスカの発生を防止する方法及びその処理液に関する。
【背景技術】
【0002】
錫または錫合金めっきは、その接合性、低コスト性、電気特性および半田付け性に優れるため、電気接合を必要とする部品、例えばチップ部品、水晶発振子、コネクタピン、リードフレーム、プリント配線板などの電子部品において、または、半導体デバイスやプリント基板の製造工程におけるエッチングレジストとして、広く利用されている。
【0003】
錫または錫合金めっきにより得られるめっき皮膜は、そのままでは、時間の経過とともにウィスカと呼ばれるひげ状の金属析出をその表面に形成する。特に銅を下地とする錫または錫合金めっき皮膜において、ウィスカの発生が顕著であることが知られている。電子部品等の基体表面上に形成された錫または錫合金めっき皮膜の表面にウィスカが発生すると電気的な短絡を起こす可能性がある。このため、従来は電気接合を必要とする部品に対し、錫の酸化およびウィスカの成長を抑制する働きをする鉛を利用した、錫−鉛合金めっきが用いられていた。しかし、近年では、鉛の有毒性が問題視され、電子部品への鉛の使用が制限されるようになってきている。そのため鉛フリーの錫または錫合金めっきが求められている。
【0004】
ウィスカの発生を抑制する目的で、錫または錫合金めっき皮膜の形成後、高温処理すなわちリフロー処理が行われる場合がある。しかし、リフロー処理はウィスカ発生を抑制する効果が認められるものの、加熱により錫と下地金属が金属間化合物を形成し、錫皮膜中の純粋な錫の量を減少させるという問題を有し、これは実装後の接続信頼性に大きな影響を与えうる。このため、加熱処理を行わないか、あるいは加熱処理の条件を緩和してもウィスカの発生を抑制することのできる錫めっき皮膜の表面処理方法が切望されている。
【0005】
錫めっき皮膜の表面処理方法として、各種の錫皮膜の表面処理液および処理方法が従来より使用されている。例えば、特許文献1は、リン酸のアンモニウム塩、ポリリン酸の塩、マレイン酸の塩等を含み、特定のpHを有する、錫めっき皮膜の表面を処理するための錫めっき皮膜表面処理水溶液が記載されている。この文献は、マレイン酸の塩が記載されているが、pH4.5未満では望まれる効果が得られないとされ、本発明の構成要件を満たさず、また本発明の有利な効果を開示していない。
特許文献2には、ホスホン酸基が結合しているメチレン基を少なくとも2個以上有したアミノ窒素を有する化合物及びそれらの塩を必須成分として含有するめっき後処理組成物が記載されている。この文献は、本発明に用いられる化合物及び表面処理液を錫めっきの表面処理剤として用いることを開示していない。また、本発明者によって行われた試験では、当該化合物を含有する処理液によって錫めっき表面を処理すると、めっき皮膜が腐食し下地が露出するため好ましくないことが実証された。
特許文献3には、錫めっき皮膜の一部を剥離する剥離工程、変色防止処理工程、及び熱処理工程を順に行う錫めっき皮膜の形成方法が記載されている。この文献は、意図した部分以外に付着した錫原子を除去することで熱処理工程における変色を防止することを目的として剥離工程を有し、また剥離工程として電解剥離のみが記載され、本発明の構成とは異なる。
特許文献4には、2−メルカプトベンゾチアゾールのカルボン酸誘導体をアルコール類などの有機溶媒に溶解し、水に添加しためっき表面の後処理液が記載されている。しかし、特許文献4にも記載されているように、2−メルカプトベンゾチアゾールのカルボン酸誘導体は水に対する溶解性が低くアルコール類を併用する必要があり、現実のめっき工程において煩雑となる。
特許文献5には、リン酸またはそれらの塩からなる組成物を金属と接触させる方法が記載されている。この文献は、本発明に用いられる化合物及び表面処理液を表面処理剤として用いることを開示していない。
【特許文献1】特開2007−56286号公報
【特許文献2】特開2007−197791号公報
【特許文献3】特開2006−28610号公報
【特許文献4】特開2004−300466号公報
【特許文献5】特開2006−307343号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、電子部品に用いられる錫または錫合金めっき皮膜に対し、簡便な方法で錫または錫合金めっき皮膜表面のウィスカを低減することができ、かつ良好な錫または錫合金めっき皮膜をもたらし得る、錫または錫合金めっき皮膜表面処理水溶液を提供することを目的とする。
【0007】
本発明者らは、上記課題を達成するため鋭意研究した結果、カルボン酸基を有する特定の有機化合物を添加した水溶液が、他の化合物を含む水溶液と比較し選択的有為性を有することを見出し、本発明に到達したものである。すなわち、本発明の表面処理水溶液を用いて処理を行うことにより、簡便な方法で、錫または錫合金めっき皮膜上のウィスカの発生を効果的に防止することができる。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本願の第一の発明は、分子内にカルボン酸基を少なくとも1個有する有機化合物を含有し、pHが2.5以下である、錫または錫合金めっき皮膜の表面を処理するための錫または錫合金めっき皮膜表面処理水溶液を提供する。前記分子内にカルボン酸基を少なくとも1個有する有機化合物は、分子内にカルボン酸基を2個以上有し、かつ分子内に窒素原子を有しない有機化合物であることが好ましい。前記分子内にカルボン酸基を2個以上有し、かつ分子内に窒素原子を有しない有機化合物は、リンゴ酸、マレイン酸、クエン酸であることが好ましい。また、本願の第一の発明における錫または錫合金めっき皮膜表面処理水溶液は、さらに窒素系化合物を含有することが好ましい。
【0009】
本願の第二の発明は、前記第一の発明における錫または錫合金めっき皮膜表面処理水溶液により、錫または錫合金めっき皮膜の表面を処理する、錫または錫合金めっき皮膜の表面処理方法を提供する。
本願の第三の発明は、前記第一の発明における錫または錫合金めっき皮膜表面処理水溶液により、錫または錫合金めっき皮膜を処理することにより、錫または錫合金めっき表面のウィスカを防止する方法を提供する。
本願の第四の発明は、錫または錫合金めっき皮膜を有する電子部品を製造する方法であって、基体に錫または錫合金めっきする工程の後に、前記第一の発明における錫または錫合金めっき皮膜表面処理水溶液により錫または錫合金めっき皮膜の表面を処理する工程を含む、前記方法を提供する。
本願の第五の発明は、基体に錫または錫合金めっきする工程の後に、前記第一の発明における錫または錫合金めっき皮膜表面処理水溶液により、錫または錫合金めっき皮膜の表面を処理する工程を含む電子部品の製造方法により製造された、錫または錫合金めっき皮膜を有する電子部品を提供する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本明細書を通じて使用される略語は、他に明示されない限り、次の意味を有する。
g=グラム;mg=ミリグラム;℃=摂氏度;m=メートル;cm=センチメートル;μm=マイクロメートル;L=リットル;mL=ミリリットル。全ての数値範囲は境界値を含み、さらに任意の順序で組み合わせ可能である。
本明細書を通じて用語「めっき液」および「めっき浴」は、同一の意味を持ち交換可能なものとして使用される。
【0011】
本発明の錫または錫合金めっき皮膜表面処理水溶液は、分子内にカルボン酸基を少なくとも1個有する有機化合物と水を含有し、pHが2以下である水溶液である。
分子内にカルボン酸基を少なくとも1個有する有機化合物としては、例えばクエン酸、リンゴ酸、マレイン酸、シュウ酸、グルタル酸、酒石酸、乳酸、グルコン酸、ピコリン酸、イミノ二酢酸等が挙げられ、これらの塩であってもよい。
【0012】
これら分子内にカルボン酸基を少なくとも1個有する有機化合物の中でも、特にカルボン酸基を2個以上有し、分子内に窒素原子を有しない化合物が好ましい。これらの条件を満たす有機化合物としては、例えばクエン酸、リンゴ酸 マレイン酸等が挙げられ、これらの塩であってもよい。特にリンゴ酸及びマレイン酸が好ましい。
【0013】
これら分子内にカルボン酸基を少なくとも1個有する有機化合物は、表面処理水溶液中に化合物として0.1〜50g/Lの範囲で、好ましくは5〜30g/Lの範囲で、より好ましくは5〜20g/Lの範囲で存在する。
【0014】
本発明の錫または錫合金めっき皮膜表面処理水溶液は、pH値が2.5以下であることが肝要である。pH値が2.5より大きいと、分子内にカルボン酸基を少なくとも1個有する有機化合物を用いてもウィスカの発生が増加するため、好ましくない。pH値の調整には、公知のpH調整剤が使用可能である。
【0015】
本発明の錫または錫合金めっき皮膜表面処理水溶液は、さらに窒素系化合物を含有することが好ましい。窒素系化合物とは分子内に窒素原子を含有する化合物であり、例えばベンゾトリアゾール、イミダゾール等が挙げられる。特にベンゾトリアゾールが好ましい。
窒素系化合物の含有量は、表面処理水溶液中に化合物として0.1〜10g/L、好ましくは0.5〜5g/Lの範囲で存在する。
【0016】
本発明の表面処理水溶液は、一般に、浴温0〜100℃の範囲で、好ましくは10〜70℃の範囲、より好ましくは室温(15〜35℃)の範囲で使用される。
【0017】
本発明においては、必要に応じて、公知の添加剤、例えば、界面活性剤、防菌剤または溶剤等を添加することが可能であるが、これらは本質的には必要とされない。
本発明の錫または錫合金めっき皮膜表面処理水溶液は、該表面処理水溶液をめっき皮膜表面と接触させることができる任意の方法により錫または錫合金めっき皮膜表面に適用することができ、公知の方法、例えば、浸漬処理またはスプレー処理等の方法により錫または錫合金めっき皮膜表面に適用することができる。一般的には、錫または錫合金皮膜の表面を水洗いし、次いで浸漬法またはスプレー法などにより本発明の錫または錫合金めっき皮膜表面処理液を適用する。処理時間は、一般に、5秒から120秒、好ましくは、10秒から60秒である。その後、一般的には、水洗、純水による洗浄、乾燥の順で処理される。
【0018】
本発明の錫または錫合金めっき皮膜表面処理水溶液は、例えば、電気接合を必要とする部品の錫または錫合金めっき皮膜を処理するのに好適である。このような電気接合を必要とする部品としては、例えば、チップ抵抗やチップコンデンサ等のチップ部品、コネクタピン、バンプ、プリント配線板、リードフレーム等の電子部品が挙げられる。
【実施例】
【0019】
次に、実施例および比較例をあげて、本発明を具体的に説明する。
以下の実施例および比較例におけるウィスカ発生数、めっき膜厚は次のようにして評価された。また、表面処理液で処理後の外観を肉眼で観察し、錫めっき皮膜の下地が露出する等により良好なめっき皮膜が得られなかったものについては、併せて表に記載した。
【0020】
(1)ウィスカ発生数
表面処理液で処理した錫めっき皮膜を、室温にて3日間静置し、3日後に金属顕微鏡を用いてウィスカ発生数をカウントした。ウィスカの発生数に応じて、次の4段階で評価した。
0:極少(0〜3本程度)
1:少(4〜9本程度)
2:多(10〜49本程度)
3:極多(50本以上)
(2)めっき膜厚
表面処理水溶液で処理後の錫めっき皮膜を、蛍光X線測定装置を用いて測定した。
【0021】
実施例1〜13および比較例1〜14
パターン処理された2層CCL材を、室温にて30秒間エッチング処理し、順に脱イオン水、5%硫酸、脱イオン水で洗浄後乾燥した。続いて公知のメタンスルホン酸錫めっき浴を用い、浴温65℃で3分間無電解錫めっきを行った。脱イオン水で洗浄後、それぞれ表1記載の実施例1〜8及び表2記載の比較例1〜14の表面処理水溶液に、室温にて60秒間浸漬した。さらに脱イオン水で洗浄を行い、乾燥後、室温にて3日間静置し、各種評価に供した。その評価結果を表1及び2に示す。
【0022】
【表1】

【0023】
【表2】

【0024】
実施例で用いたカルボン酸基含有有機化合物により調製された、pHが2.5以下である表面処理水溶液は、錫めっき皮膜上のウィスカ数が、比較例の表面処理水溶液による処理よりも明らかに低減することが確認された。
【0025】
比較例2及び3は、アルカリを添加することにより、表面処理水溶液のpHをそれぞれ3及び4に調整した。これらの表面処理水溶液ではウィスカ抑制の効果が低かった。
比較例5〜7ではホスホン酸系有機化合物を用いた。これらの化合物はウィスカ抑制の効果はある程度見られるが、カルボン酸基含有有機化合物を用いる本発明に比べウィスカ抑制の効果が低く、また腐食が強く銅下地が露出した。なお、比較例6のアミノトリメチレンホスホン酸は、特許文献2記載の化合物である。
比較例10及び11の有機化合物は、水に難溶性であり、本発明の酸性条件では白濁し均一な水溶液とはならず、表面処理液としては不適当なものであった。なお、比較例10及び11は、特許文献4の化合物である。
比較例14は、特許文献5に記載の化合物であるリン酸を用いた。リン酸はウィスカ抑制の効果はある程度見られるが、本願のカルボン酸基含有有機化合物よりも効果が低かった。
【0026】
本発明の錫または錫合金めっき皮膜表面処理液によれば、簡便な方法で、錫または錫合金めっき皮膜上のウィスカの発生を効果的に防止することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
分子内にカルボン酸基を少なくとも1個有する有機化合物を含有し、pHが2.5以下である、錫または錫合金めっき皮膜の表面を処理するための錫または錫合金めっき皮膜表面処理水溶液。
【請求項2】
分子内にカルボン酸基を2個以上有し、かつ分子内に窒素原子を有しない有機化合物を含有し、pHが2.5以下である、錫または錫合金めっき皮膜の表面を処理するための錫または錫合金めっき皮膜表面処理水溶液。
【請求項3】
分子内にカルボン酸基を2個以上有し、かつ分子内に窒素原子を有しない有機化合物が、リンゴ酸、マレイン酸、クエン酸である、請求項2記載の錫または錫合金めっき皮膜表面処理水溶液。
【請求項4】
さらに窒素系化合物を含有する、請求項1記載の錫または錫合金めっき皮膜表面処理水溶液。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか1項記載の水溶液により、錫または錫合金めっき皮膜の表面を処理する、錫または錫合金めっき皮膜の表面処理方法。
【請求項6】
請求項1〜4のいずれか1項記載の水溶液によって錫または錫合金めっき皮膜を処理することにより、錫または錫合金めっき表面のウィスカを防止する方法。
【請求項7】
錫または錫合金めっき皮膜を有する電子部品を製造する方法であって、基体に錫または錫合金めっきする工程の後に、請求項1〜4のいずれか1項記載の水溶液により錫または錫合金めっき皮膜の表面を処理する工程を含む、前記方法。
【請求項8】
基体に錫または錫合金めっきする工程の後に、請求項1〜4のいずれか1項記載の水溶液により錫または錫合金めっき皮膜の表面を処理する工程を含む電子部品の製造方法により製造された、錫または錫合金めっき皮膜を有する電子部品。

【公開番号】特開2010−70838(P2010−70838A)
【公開日】平成22年4月2日(2010.4.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−243264(P2008−243264)
【出願日】平成20年9月22日(2008.9.22)
【出願人】(591016862)ローム・アンド・ハース・エレクトロニック・マテリアルズ,エル.エル.シー. (270)
【Fターム(参考)】