説明

金属表面処理用の疎水性−親水性化合物

次式:X−Y−L−(W−Z)n(但し、疎水性部位と親水性部位が相互に結合し、Xは、金属表面に対して強い化学的及び/又は物理的相互作用を発揮可能な末端基であり、Yは、脂肪族炭化水素基であり、Lは、結合基であり、Wは、親水性基であり、そしてZは別な末端基である)の化合物、これらの化合物を含む配合物、さらにこの化合物を金属表面の処理に使用する方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、式:X−Y−L−(W−Z)nの化合物に関するものであり、この化合物においては、疎水性部分と親水性部分が互いに結合しており、Xは、金属表面に対する強い化学的及び/又は物理的相互作用を発揮可能な末端基であり、Yは、脂肪族炭化水素基であり、Lは、結合基(結合形成基)であり、Wは、親水基(親水性基)であり、Zは、別な末端基である。本発明はさらに、これらの化合物を含む配合物に関し、金属表面を処理するためにこの化合物を使用する方法にも関する。
【背景技術】
【0002】
金属表面を非常に様々な種類のあらゆる最終用途に適した方法で処理することは、経済的に極めて重要である。典型的な用途には、腐食を防止すること、表面に疎水性又は親水性を付与すること、あるいは別な層、例えば塗料塗膜との接着性を改善することなどの処理が含まれる。
【0003】
腐食は、保護フィルム及び/又は腐食防止剤を使用して遅延されあるいは防止される。保護フィルムが金属に対して永久的に施されるのに対して、腐食防止剤は通常は、金属上で腐食を開始または促進するような物質へ、例えば液体混合物へ添加される。技術的な観点から高度な適合性を備えたシステムには、腐食防止作用のみならず数多くの別な要求を満たすことが求められる。例えば、これらは金属表面へ平坦(均一)に施すことが可能でなければならず、腐食刺激性の気体および液体に対して良好なバリア効果を有していなければならない。さらに、保護フィルム及び/又は腐食防止剤の成分は十分量の入手が用意であることが求められ、極めて安価であることも求められる。
【0004】
腐食防止作用を有する化合物は、より一層の範囲の要求をも満たさなければならない。腐食を防止するために施される保護フィルムは、通常は複合層中のただ1層を形成する。単純な例として次のような金属表面、すなわち腐食防止の目的で、それに適した組成物で最初に被覆され、その上に次に別な被覆層、例えば塗料の層が施されている金属表面が挙げられる。この目的で使用される化合物は、一方では良好な腐食保護効果を有しなければならない。他方でこれらは、複合体(アセンブリ)に十分な強度を付与するために、金属表面および付加される被覆の両方に非常に良好な接着性を示すことも必要である。
【0005】
高度な錆びつき(発錆)耐性を備えた現在の自動車の車体または家庭用器具の材料は、通常、多段階操作で通常は製造され、多数の異なった層を有する。これらは典型的には、スチールシートからなり、まず最初にこれは電気的にまたは溶融メッキ法によって亜鉛メッキされる。亜鉛メッキされたスチールシートは、腐食防止性と別な層との接着性を改善するために、通常はリン酸塩処理される。この次に通常は、Cr(VI)溶液またはその他の溶液で後処理される。最後に、有機材料のプライマー層が施される。この方法で処理された金属シートは、次に1の(通常はそれより多くの)または2のまたはそれより多くの異なったペイントコート(塗料被覆)で被覆される。この複雑な層構造を、よりわずかな層を備え、しかし同等以上の、好ましくはより改善された腐食防止性を有する単純な層構造で置き換えることが、非常に求められている。特にリン酸塩処理と後処理をを排除し、かわりにこれらの層の機能を肩代わりする単一のプライマー層を使用することが求められている。
【0006】
WO98/29580は、XYZ型の化合物(但し、Yは、直鎖状の疎水性基であり、Xは、例えばカルボキシレートまたはホスフェート等の酸性基であり、Zは、種々の酸性基、塩基性及び/又は反応性の基である)の水溶液を使用して金属表面を処理することを提示している。Xは金属表面へのアタッチメントとして役立ち、Zは被覆システムへのアタッチメントとして役立つ。しかし、これらの化合物により被覆された金属表面の上塗り適合性は、特に水性ベースコート(下塗り)を使用した場合には、必ずしも良好ではない。さらに、被覆システムへの最適なアタッチメントのために、基Zは特定の被覆システムに個々に適合できるようなものでなければならない。しかし、ある種のXとZの組み合わせは、化学合成が非常に困難であるものを含む。
【0007】
EP−A441765およびJP−A06−136014は、疎水性部分と親水性部分が互いに直接に結合している直鎖状の化合物を開示している。これらは疎水性末端のCOOH基と親水性末端のR−O−基を有する。腐食防止におけるこれらの化合物の応用、およびその他の末端基は、開示されていない。
【0008】
WO99/52574は、例えば反応容器の被覆のためのバイオポリマー反発性被覆を開示している。被覆は、疎水性部分、例えば炭化水素基、および親水性部分、例えばポリオキシアルキレン基、が互いに直接に結合している化合物を使用する。疎水性基は、末端基、例えば−COOH、−PO(OH)2、または−SiCl3を有し、一方親水性基の末端基は、例えば小さなアルキル基または−OHである。化合物を腐食防止に応用することは言及されていない。
【0009】
JP−A60−226117は、脂肪族ジカルボン酸とポリグリコールとのモノエステル、およびキャパシタの電解液を製造するためにそれらを使用することを開示している。
【0010】
【特許文献1】WO98/29580
【特許文献2】EP−A441765
【特許文献3】JP−A06−136014
【特許文献4】WO99/52574
【特許文献5】WO99/52574
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明の目的は、金属表面の処理、特に腐食防止用の金属表面の処理をするための改善された化合物、良好な腐食防止性に加えて上塗り適合性、特に水性下塗り材料に対する上塗り適合性が改善された化合物を提供することである。この化合物は、特に複合材料システムでの使用のために適合しなければならず、異なった層の間での良好な接着性を促進しなければならない。これらはさらに、異なった最終用途に対してできるだけ単純に適合可能でなければならない。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者等は、この目的が式:X−Y−L−(W−Z)n
(但し、nは、1、2または3であり、X、Y、L、WおよびZは以下に定義する:
Xは、金属表面に対して強く化学的及び/又は物理的に相互作用可能であり、1種以上の酸基X1またはそれらの塩、1種以上の加水分解性のSi含有基X2を含む末端基であり、
Yは、互いに直鎖状に結合した実質的に同一の単位を含む、5〜60個の炭素原子を有する炭化水素基であり
Lは、n=1の場合はL1、n=2の場合はL2、n=3の場合はL3である結合基であり、L1、L2およびL3は以下に定義する:
1は、疎水性基Yを親水性基Wへと結合する直鎖状結合基であって、S、−S−S−、−CO−O−、−O−CO−、−CO−NR1−、−NR1−CO−、−O−CO−NR1−、−NR1−CO−O−、−NR1−CO−NR1−、および−NR1−からなる群より選択され、
2は、疎水性基Yを親水性基Wへと結合する分枝状基であって、−N<、−NR1−CR1'<、−CO−N<、−NR1−CO−N<、および−CO−NR1−CR1'<からなる群より選択され、
3は、疎水性基Yを親水性基Wへと結合する分枝状基であって、−NR1−C≡、−NR1−CH2−C≡、−O−C≡、−O−CH2−C≡、−CO−NR1−CH2−C≡、−CO−NR1−C≡、−CO−NR1−CH2−C≡、−CO−O−C≡、および−CO−O−CH2−C≡からなる群(但し、ここでの記号「≡」は、3個の単結合を表している)より選択され、
(但し、R1およびR1'は、それぞれ互いに独立に、HまたはC1〜C4アルキルである)
Wは、親水性基であり、且つ
Zは、反応性末端基Z1または非反応性末端基Z2のいずれかの末端基であり、
且つ
1が−CO−O−である場合には、第1末端基Xは−COOHではない)
の化合物によって達成されることを見いだした。
【0013】
本発明者等はさらに、そのような化合物の1種以上を含む金属表面処理用配合物、およびそのような化合物を金属表面処理、特に腐食防止用に使用する方法をも見いだした。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
本発明の詳細は以下である。
【0015】
一般式:X−Y−L−(W−Z)nの本発明の化合物において、結合基(結合形成基)Lは、疎水性基Yをn個の親水性基Wへと結合する(nは、1、2または3である)。Yは末端基Xと結合しており、Wは末端基Zと結合している。
【0016】
基Xは、強い化学的及び/又は物理的相互作用を金属表面に対して発揮可能な末端基である。この基には、少なくとも1個の基X1、またはそれらの塩、または少なくとも1個の加水分解性、Si含有基X2が含まれる。
【0017】
酸基X1は、好ましくは、−COOH、−SO3H、−OSO3H、−PO(OH)2、−PO(OH)(OR2)、−OPO(OH)2、−OPO(OH)(OR2)、および−CR3(NH2)(COOH)からなる群より選択された基である。特に好ましくは酸性基X1は、−COOH、−PO(OH)2、または−OPO(OH)2である。極めて特に好ましくは−PO(OH)2、または−OPO(OH)2である。
【0018】
基R2は、リン酸エステルまたはホスホン酸エステルにおけるエステル基として適したあらゆる所望の基である。好ましくは非分枝または分枝状のC1〜C8アルキル基でありこれはさらに置換基、特にOH基を含んでいてもよい。好適な基R2の例には、エチル、ブチル、ヘキシル、オクチル、2−エチルヘキシル、および2−ヒドロキシエチル基が含まれる。
【0019】
3は、好ましくはHまたはC1〜C6アルキル、さらに好ましくはHまたはメチル基である。これは天然に存在するα−アミノ酸の典型的な基をも含む。例としては、リシン(−(CH24−NH2)、セリン(−CH2−OH)、システイン(−CH2−SH)、およびチロシン(−CH2−C64−OH)の特性基が含まれる。
【0020】
酸基X1は、酸性基の形態であってもよい。あるいは、部分的にまたは完全に中性化されていてもよく、そのために塩の形態となっていてもよい。特に好適な対イオンには、アルカリ金属イオン、アルカリ土類金属イオン、アンモニウムイオン、およびテトラアルキルアンモニウムイオンが含まれる。しかし、本発明はこれらのイオンに限定されるものではない。
【0021】
Si含有基X2は、加水分解性結合を有し、これは金属の表面上のOH基と反応可能である。この場合に、X2は、まず最初に完全にまたは部分的に水と反応して−Si(OH)3基を形成し、次にこれが表面と反応する。この表面との反応は、当然、中間段階のようなものなしで他の中間段階を経ることもなく、進行する。特に、ケイ素含有基X2は、水開裂性Si−R4結合を含む−SiR43基であることが好ましい。R4は特にハロゲン基またはアルコキシ基を含む。R4は、好ましくはClまたは−OR5基であり、このR5は好ましくは分枝または非分枝状のC1〜C6アルキル基である。
【0022】
末端基Xは好ましくはちょうど1個の基X1または1個の基X2を、いずれも脂肪族炭化水素基Yと直接に結合して含む。しかし、1個以上の基X1またはX2をそれぞれ含むより大きな末端基であってもよい。1個以上のX1またはX2が存在する場合には、末端基Xは好ましくはX1基のみまたはX2基のみを含む。しかし、特別な用途のために、X1とX2の両方が1個の末端基上に存在することも除外はされない。末端基は好ましくは1〜3個の基X1またはX2をそれぞれ含む。
【0023】
2個以上の基X1またはX2を含む好適な末端基Xの例には、それぞれ、多塩基性カルボン酸(多価カルボン酸)または多水酸基アルコール(多価アルコール)から得られた基が含まれる。該当する基には、例えば、マロン酸、クエン酸、リンゴ酸、マレイン酸、またはフマル酸から得られた基がある。多価アルコールの例には、グリコール、グリセロールおよびペンタエリスリトールが含まれる。アルコールは、リン酸エステル化して、2個以上のリン酸またはホスホン酸基を含む基Xを得てもよい。
【0024】
末端基Xは、疎水性基Yと結合している。Yは、5〜60個の炭素原子を有する炭化水素基であって、お互いに直鎖状に結合した実質的に同一の種類の単位を含む。基Yは、好ましくは脂肪族で飽和であるが、芳香族単位を含んでいてもよい。「実質的に同一の種類の」とは、一般的には基が、同一の種類の単位を90%以上使用して構築されていることを意味するものとする。基が、同一の種類の単位のみで形成されていることが好ましい。この単位は、非分枝状でもよく、分枝を含んでいてもよい。分枝が存在する場合には、好ましくはCH3基である。基Yを形成する直鎖状に結合した単位は、好ましくはメチレン単位−CH2−、プロピレン単位−CH2−CH(CH3)−、またはイソブチレン単位−CH2−C(CH32−である。
【0025】
より好ましくはYは、8〜20個の炭素原子、極めて好ましくは9〜15個の炭素原子を有する直鎖状のアルキル鎖である。
【0026】
Yがポリイソブチレン基である場合には、好ましくは150〜750g/モル、より好ましくは400〜600g/モルの平均モル質量Mnを有する。ポリイソブチレン単位は、特に芳香族単位を含むことができる。
【0027】
結合基Lは、疎水性基Yを親水性基または基Wへと結合する(但し、nが1である場合には結合基をL1、nが1である場合にはL2、nが3である場合にはL3とする)。
【0028】
1は、直鎖状結合基であって、S、−S−S−、−CO−O−、−O−CO−、−CO−NR1−、−NR1−CO−、−O−CO−NR1−、−NR1−CO−O−、−NR1−CO−NR1−、および−NR1−からなる群より選択される。この結合基は好ましくは−CO−O−、−O−CO−、−CO−NR1−、−NR1−CO−、または−NR1−CO−NR1−であり、非常に好ましくは−CO−NR1−である。L1が−CO−O−である場合には、末端基Xは−COOHではない。
【0029】
1とR1'はそれぞれ独立にH、または直鎖状または分枝状のアルキル基であり、さらに別な置換基を含んでいてもよい。R1は好ましくはH又はC1〜C4アルキル、極めて好ましくはHまたはメチルである。
【0030】
基L2は、分枝を有する。これは疎水性基Yと2個の親水性基Wを結合する。実際の分枝において、該当する分枝部位は、好ましくは2個の疎水性基Wを結合する窒素原子であり、これは第3の結合が直接または間接的にYへと結合する。分枝状基L2は、好ましくは−N<、−NR1−CR1<、−CO−N<、−NR1−CO−N<、および−CO−NR1−CR1<からなる群より選択された基である(但し、R1とR2は、上記定義した通りである)。特に好ましくはL2は、−CO−N<、または−CO−NR1−CR1<である。
【0031】
基L3は、同様に分枝している。これは疎水性基Yを3個の親水性基Wへと結合する。実際の分枝において、該当する分枝部位は、好ましくは3個の親水性基Wを結合する炭素原子であり、これは第4の結合が直接または間接的にヘテロ原子、特にOまたはNへと結合し、これが再びYへと結合している。分枝状基L3は、好ましくは−NR1−C≡、−NR1−CH2−C≡、−O−C≡、−O−CH2−C≡、−CO−NR1−CH2−C≡、−CO−NR1−C≡、−CO−NR1−CH2−C≡、−CO−O−C≡、および−CO−O−CH2−C≡からなる群より選択された基である。特に好ましくはL3は、−CO−NR1−C≡、−CO−NR1−CH2−C≡、−CO−O−C≡、および−CO−O−CH2−C≡であり、極めて好ましくは−CO−NR1−C≡である(但し、ここでの記号「≡」は、3個の単結合を表している)。
【0032】
親水性基Wは、所望の親水性の度数に従って、当業者が選択することができる。好適な基Wは、特に、炭素原子に加えて、例えばアルコール、エーテル、またはアミノ基の形態で、酸素及び/又は窒素原子を含む基である。Wは、好ましくは、C2〜C4アルコキシレート単位を含む基である。選択されたアルコキシレートの数と種類によって、それぞれの場合に直面する用途によって求められる基Wの種類を、当業者が決定することができる。
【0033】
本発明の化合物は好ましくは1〜10個のアルコキシレート単位、好ましくは1〜5個のアルコキシレート単位を含む。当業者は、そのようなアルコキシレート基が、例えばアルコキシル化によってあるいは工業的なポリグリコールから出発して得ることができることを知っている。そのため、記載された値は単位の平均数を表しており、その平均値は当然に、必ずしも自然数ではなく、有理数となる。
【0034】
親水性基Wは、好ましくは主にエトキシレート基を含んでなる。当業者は、そのような種類の基が、少量のプロポキシレートまたはブトキシレート単位を用いることにより微調節可能であることを知っている。
【0035】
Wへ結合した末端基Zは、反応性末端基Z1または非反応性末端基Z2とすることができる。本発明の目的において、「反応性」の語は、基Z1が、ペイントまたは被覆に使用される典型的な反応物質と結合を形成できることを意味する。反応性基Z1は、特に、−OH、−SH、−NH2、−NHR6、−CN、−NCO、エポキシ、−CH=CH2、−O−CO−CR7=CH2、−NR6−CO−CR7=CH2、および−COOHからなる群より選択された基である。1個のZ1基は、さらに2個以上のこれらの基を含むこともできる。R6は、通常は、Hまたは直鎖状または分枝状のC1〜C6アルキル基であり、R7はHまたはCH3である。Z1は好ましくはOH、−SH、−NH2、−NHR6、または−COOHであり、極めて好ましくは−OHまたは−CH=CH2である。
【0036】
非反応性基Z2は、特に、酸性水素原子またはエチレン性不飽和基または付加反応可能な基を含まない基である。特に、非反応性基は、水素原子、アルキル基、または酸性水素原子がアルキル基、例えばエーテル基、カルボン酸エステル基、第3級アミノ基またはアルキル化カルボキシアミド等によって置換された基であることが好ましい。非反応性基Z2は、好ましくは、−H、−OR8、−NR89、−COOR8、および−CONR89からなる群より選択された基である。R8およびR9はそれぞれ独立に直鎖状のまたは分枝状のC1〜C6アルキル基、好ましくはメチルまたはエチル基である。
【0037】
金属表面処理用に特に適した化合物は、ホスフェートまたはホスホネート末端基X1、直鎖状C8〜C20アルキル基Y、結合基L1としてカルボキサミド基−CO−NH−またはカルボン酸エステル基−CO−O−、1〜5個のエトキシ基を含む親水性基W、および末端基Z2としてHまたはOCH3を含む。
【0038】
本発明の化合物を合成するために使用できる経路は多数有り、これは所望の末端基および結合基の種類に依存する。
【0039】
本発明の化合物の出発材料として適しているものは、一般式α−Y−ωのα,ω−2価化合物である。2個の官能基が、上述のように炭化水素基Yによって結合されている。2個の官能基は同一でもよく異なっていてもよい。2個の官能基の1個は末端基Xを形成するか、あるいは末端基を形成するために使用可能である。他の官能基は結合基Lを形成するか、あるいは結合基を形成するために使用可能である。使用可能な2官能性化合物の例には、ω−カルボキシアルキル−1−エン、ω−ヒドロキシアルキル−1−エン、およびω−ヒドロキシカルボン酸、及び/又はこれらの環状エステルが含まれる。好適な出発材料の例には、ω−デカ−1−エン酸(ω-dec-1-enoic acid)、ω−ウンデカ−1−エン酸(ω-undec-1-enoic acid)、9−ヒドロキシノナン酸、およびε−カプロラクトンが含まれる。
【0040】
ω−ヒドロキシカルボン酸(1)またはこれらの環状エステル(1’)は、例えばメチルポリエチレングリコールアミン(2)と次の図式に従って反応可能である:
【0041】
【化1】

【0042】
ヒドロキシカルボン酸(1)とメチルポリエチレングリコールアミン(2)の反応は、カルボキサミド(3)を生成する。カルボキサミドのヒドロキシル基は、例えばポリリン酸(4)と反応可能である。これが、リン酸基X1とカルボキサミド結合基L1を含む本発明の化合物(5)を生成する。OH基は、他の酸性基X1またはSi含有基X2に取り付けるために使用することもできる。
【0043】
ω−ホスファトアルキルアミンとエチレンカーボネートを反応させることにより、リン酸基X1とウレタン結合基L1を含む化合物を、次の図式に示したように得ることができる:
【0044】
【化2】

【0045】
分枝基L2またはL3を備えた化合物は、メチルポリエチレングリコールアミン(2)を、上記合成図式において分枝を含む他の化合物(2’)で置き換えることにより、得ることができる。例としては、一般式:HN[(CH2−CH2−O−)k8]2またはH2N−C−[CH2O−(CH2−CH2−O−)k8]3のアミンが含まれる(但し、R8は、冒頭に定義した通りである)。上記の化合物の腕は、同一でもよく異なっていてもよい。
【0046】
ポリエチレングリコールアミン(2)をアルコール(2’’)で置き換えることにより、結合基としてエステル基を含む化合物が得られる。好適なアルコールは特に、オリゴエチレン、またはポリエチレングリコール、またはそれらの誘導体、例えばモノエーテル、または1個以上のオリゴエチレンまたはポリエチレングリコール基を含む化合物、または誘導体である。例としては、一般式:HO−CH−[CH2O−(CH2−CH2−O−)k8]2またはHO−C−[CH2O−(CH2−CH2−O−)k8]3の化合物を挙げることができる。
【0047】
ホスホン酸末端基を含む化合物を合成するために、オレフィン性基を含有する2官能性化合物α−Y−ωを好適に使用することができる。例として、ω−カルボキシアルキル−1−エンまたはω−ヒドロキシアルキル−1−エンを挙げられる。フリーラジカルメカニズムによって、ジアルキルホスファイトをそのようなオレフィン性基に結びつけることができる。これは例えばNifant’ev等、「ロシア一般化学ジャーナル」(Russian Journal of General Chemistry)」、63,8、第1部、1993年、1201〜1205頁に記載されている通りである。ホスホン酸エステル基を、その後に適当な酸で加水分解してもよい。これは例えば次の図式に例示して説明する通りである:
【0048】
【化3】

【0049】
ω−カルボキシアルキル−1−エン(6)は、最初にジアルキルホスホン酸エステル(7)と反応してω−カルボキシアルキル−1−ホスホン酸エステル(8)を生じ、これは加水分解してω−カルボキシアルキル−1−ホスホン酸(9)となる。親水性基Wと末端基Zは次に、カルボン酸官能基上に、例えばエチレングリコール、ジエチレングリコール、オリゴ/ポリエチレングリコール、アルキルポリエチレングリコール、ポリエチレングリコールアミン、またはアルキルポリエチレングリコールアミン、およびさらに上述した分枝状のアルコールおよびアミン等と、反応させることによりぶら下げることができる。使用される化合物の種類に依存して、得られる化合物は、それらの結合基としてカルボキサミド基(10)またはカルボン酸エステル基(11)を有する。
【0050】
本発明の化合物の別な合成法は、以下の図式に示すように組み立てられる:
【0051】
【化4】

【0052】
【化5】

【0053】
本発明の化合物は、腐食防止剤としての使用に特に適している。この目的ために、例えば液体混合物のような製品であって、金属との接触で腐食を生じたりあるいは促進したりする製品に、本発明の化合物を添加することができる。例としては、ペイント(塗料)、ワニス、または洗浄用製品を挙げることができる。あるいは、特別な腐食防止配合物として使用してもよい。
【0054】
これらはさらに被覆用に、またはあらゆる種類の物質、例えば金属、プラスチック、セラミック、ガラス、またはこれらの複合材料に被覆をする助剤として、好適である。 これらはさらに接着促進剤(プロモータ)として使用することもできる。この場合に、異種の材料を結合して複合材料を形成するために特に好適である。この目的のために、2個の末端基XおよびYは、安定した結合を得るため、いずれも材料のひとつに良好に接着するように適合させることができる。複合材料を、例えば金属フォイルとポリマーフィルムから得ることができる。そのような複合材料は特にパッキング材料を製造するために使用される。
【0055】
本発明の化合物は、特に金属または金属表面を処理するために使用可能である。処理とは、その操作の後に本発明の化合物がその表面上に一時的または永久的に残存するような処理のみを意味するのではなく、表面上に化合物が全く残存しないような操作をも意味している。例としては、接着促進剤、腐食防止剤、プライマー(下塗り剤)、保護被膜剤、または化成被膜形成剤としての使用が含まれる。
【0056】
本発明の化合物は、金属を処理するものとして使用することができる。例えば金属表面上に噴霧しても注いでもよい。
【0057】
しかし、金属表面を、本発明の化合物を1種以上含む配合物を使用して処理することが好ましい。一般則として、本発明の配合物は、本発明の化合物を1種以上と、適切な溶媒、さらに随意に別な成分を含む。
【0058】
適した溶媒は、本発明の化合物を、溶解、分散、懸濁、または乳化することができる溶媒または溶媒混合物である。これらは、有機溶媒または水でもよい。異なった有機溶媒の混合物、または有機溶媒と水との混合物も当然に使用することができる。これらの原理的に使用可能な溶媒から、当業者は、所望の最終用途と、使用される特定の本発明の化合物の種類とを考慮して、適切な選択をすることができる。当業者は、化合物が末端基X2を含有する場合には、末端基の加水分解が時期尚早に生じないような溶媒混合物を使用しなければならない。
【0059】
有機溶媒の例には、炭化水素、例えばトルエン、キシレン、または例えば原油精製の間に得られるような混合物、石油精、ケロシン、ソルベッソ(Solvesso)(登録商標)、またはリセラ(Risella)(登録商標)、エーテル、例えばTHF、またはポリエーテル、例えばポリエチレングリコール、エーテルアルコール、例えばブチルグリコール、ヘキシルグリコール、エーテルグリコールアセテート、例えばブチルグリコールアセテート、ケトン、例えばアセトン、およびアルコール、例えばメタノール、エタノール、またはプロパノールが含まれる。エトキシル化1価又は多価アルコールもまた使用することができ、特にC4〜C8アルコール由来の生成物を使用できる。
【0060】
好ましい配合物には、水または主に水性溶媒混合物を含むものがある。これには、50質量%以上、好ましくは65質量%以上、極めて好ましくは80質量%以上の水を含む混合物が含まれる。別な成分には、水混和性溶媒がある。例としては、モノアルコール、例えばメタノール、エタノール、またはプロパノール、多価のアルコール、例えばエチレングリコール、またはポリエーテルポリオール、およびエーテルアルコール、例えばブチルグリコール、またはメトキシプロパノール、またはエトキシル化C4〜C8アルコールが含まれる。
【0061】
特に好ましい配合物には、その溶媒が水を含むものがある。水溶液のpHは、所望の用途の種類に応じて、当業者が決定することができる。緩衝液系も、pHを特定の水準に設定するために、当然に使用することができる。
【0062】
溶媒中に溶解、分散、懸濁、または乳化された本発明の化合物の量は、所望の用途と誘導体の種類に応じて、当業者が決定することができる。一般則として、0.1〜100g/リットル、好ましくは0.5〜50g/リットル、極めて好ましくは1〜20g/リットルの量が使用されるが、本発明はこれに限定されるものではない。これらの値は、すぐに使える状態の配合物に関するものである。濃度は、実際の使用に先立って現場で所望の濃度に希釈するように配合(調製)することも当然に可能である。
【0063】
本発明の配合物は、さらに、別な成分を含んでもよい。
【0064】
配合物中の本発明の化合物X−Y−L−(W−Z)nの種類と量は、所望の用途に応じて当業者が選択することができる。そのような化合物を1種類だけ選ぶこともできるし、あるいは2種類以上の異なった化合物を選ぶこともできる。
【0065】
特定の用途に要求される特性は、特に、末端基XとZの種類、炭化水素基Yの長さと種類、および親水性基Wの長さと種類を通じて、決定することができる。ほとんど無限の範囲にある要求特性をこのようにして配合(調製)することができる。さらに、本発明の化合物の2種以上と他の追加成分の混合物を使用することにより、この特性を制御することも当然に可能である。
【0066】
追加成分は、適切なポリマー性バインダであってもよい。バインダの種類と量は所望の用途に依存する。
【0067】
分散補助剤、乳化剤、表面活性化合物を使用することもできる。例としては、カチオン性、アニオン性、両性イオン性、および非イオン性の界面活性剤、例えばエチレンオキシド及び/又はプロピレンオキシド単位を備えたアルキルアルコキシレートが含まれる。配合物は、さらに別な腐食防止剤、例えばブチンジオール、アルデヒド、アミンカルボキシレート、または適切なリン酸エステルを含んでもよい。
【0068】
微細金属粒子もまた配合物に使用することができる。好ましい金属粒子には、特に、Al及び/又はZnのラメラが含まれる。このようなラメラを含む配合物は、腐食防止性被覆として使用することもできる。
【0069】
性能特性の微調整を、本発明の以下の実施の態様を例として詳細に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0070】
親水性基Wとして1個のエトキシ基、そして末端基Z2として−OCH3基を含む化合物を、例えばアルミニウム表面を疎水性化するために使用することができる。親水性基Wが別なエトキシ基で伸長している場合には、表面の親水性は増大する。1個ではなく3個のエトキシ基を有する点のみが上述したものと異なる化合物を、アルミニウム表面の親水性化に使用することができる。
【0071】
反応性末端基Z1を有する化合物の1種以上を、非反応性末端基Z2を有する化合物の1種以上との混合物中に含む配合物は、特に好適に使用可能である。Z1/Z2比によって、例えば複合材料の接着の強固さをあつらえることができる。
【0072】
本発明の化合物だけでなく、追加成分としてWO98/29580に記載された化合物XYZをも含む配合物もまた、特に好適に使用することができる。この化合物XYZでは、2個の末端基XとZが、1個の疎水性基Yによって互いに隔てられている。この被覆の特性は、本発明の化合物と混合することによって、特に洗練されたやり方で、変化させることができる。例えば、本発明の化合物は、化合物XYZが第2の塗料被覆の付着をもたらす一方で、表面に所望の親水性化をもたらすことができる。
【0073】
本発明に関し、化合物及び/又は化合物の配合物は、あらゆる種類の金属の表面処理に使用することができる。この表面は当然に、異なった金属の合金であってもよい。これらは主として二次元表面でよく、言い換えれば、例えば金属シート、ホイル(箔)、コイル、およびその種のものでよい。あるいは任意の形状の物体の表面であってもよい。これには特に非常に微細な粒子の表面、金属粉末、金属フレークまたは金属顔料の表面が例えば含まれる。これらに加えて、金属層で被覆された材料の表面も含まれる。
【0074】
本発明の化合物及び/又は配合物は、中空の物体の内部の処理にも当然に使用することができる。これらの例には、ラジエータの保護剤としての使用、熱交換回路中または加熱システム中での使用が含まれる。
【0075】
処理される金属は、好ましくは、亜鉛、アルミニウム、マグネシウム、クロム、鉄、ニッケルおよびスズ、およびこれらの金属の相互のあるいはさらに別な金属との合金からなる群より選択された1種以上であることが好ましい。本発明の化合物/配合物は、スズ及び/又はアルミニウム、さらにステンレススチールを含むスチールの処理にも特に適している。
【0076】
金属表面処理のための本発明の使用の文脈においては、本発明の配合物を、金属表面へ、例えば噴霧、浸漬、塗布、ローラーコート等によって接触させることができる。浸漬処理の後に、過剰の処理溶液は、金属シート、金属ホイル、またはその種のものの場合には、素材をドリップドライすることによって除去可能であるが、スクイズ(圧搾)によって過剰の処理溶液を除去することも可能である。
【0077】
一時的または永久的な被覆が求められている場合には、溶媒はその後に例えば温度を挙げることによって除去される。
【0078】
この処理は、「すすぎ(リンス)なし」処理と呼ばれる処理でもよい。この処理では、処理溶液は、施されたすぐ後に、すすぎにより除去されることなく、乾燥オーブンで直接に乾燥される。処理はもちろん、溶媒の除去の前の浸漬(リンス)の工程、その後のすすぎ(リンス)の工程、およびさらに別な後処理工程を含む処理でもよい。
【0079】
本発明の化合物は、1以上の金属層、本発明の化合物の1種以上を含む層(A)、および1種以上の第2層(B)を含む複合材料を製造するために、特に適している。反応性基Z1を有する化合物を使用することは好ましく、これによって別な層もまた反応によって結合することができる。層(A)は、金属層と層(B)の間に配置される。特に好ましい一の実施態様において、層(A)は、単分子層である。第2の層(B)は、例えばペイントコート(塗料被覆)であってもよい。複合材料は、当然に、さらに別な層を含む。例えば、金属層には、前処理層を付与してもよい。金属層は、その両面を層(A)で被覆することもできるのは当然である。本発明の複合材料は、金属層と層(B)の間での優れた接着を示す。
【実施例】
【0080】
以下の実施例により、本発明を詳細に説明する。
【0081】
出発材料の製造
9−ヒドロキシノナン酸
9−ヒドロキシノナン酸を、W.Youchu、L.Fuchu、「合成通信(Sunthetic Communications)」1994年、24(9)、1265〜1269頁に記載されているように、不飽和脂肪酸をオゾン処理して反応混合物を後処理することによって得た。オレイン酸のような天然物質の組成は均一でないために、得られる生成物はしばしば混合物である(用いられる出発材料に依存する)。
【0082】
メチルジグリコールアミン
200gのジエチレングリコールモノエチルエーテル(Fluka)を700mlのTHFと100gの触媒H1/88(BASF)と共に、2.5リットルの撹拌オートクレーブに充填した。この最初の充填を次に5barの窒素で2回、不活性化し、その後に500mlのアンモニアを室温で添加した。次に水素を室温で添加して、50barの圧力にした。混合物を撹拌しながら200℃まで加熱した。200℃に達したときに、水素の添加によって圧力を270にまで上昇させた。
【0083】
この混合物を次に、200℃で12時間、撹拌し、次に30℃へ冷却した。さらに40℃まで加熱した後に、オートクレーブを開けてさらに1時間撹拌し、次に10barの窒素を2回フラッシュし、再び室温へ冷却した。
【0084】
反応放出物を、ひだ付きフィルターを通してろ過し、次に大さじ1杯のシリカゲルおよび少量のハイフロー(Hyflow)と混合した。再び振盪させ、5分の後に、再びろ過した。無色透明の溶液を、ロータリーエバポレーターで減圧下50℃で濃縮した。生成物は、さらにこれに続く工程で精製をすることなく、使用可能であった。
【0085】
メチルトリグリコールアミン
ジエチレングリコールモノメチルエーテルの代わりに、200gのトリエチレングリコールモノメチルエーテル(Fluka)を使用することを除いて、上述した手順を繰り返した。
【0086】
本発明の化合物の合成
I 疎水性部分と親水性部分の結合形成
【0087】
[実施例1]:メチルモノグリコールアミンによる9−ヒドロキシノナン酸のアミド化
24.1g(0.1モル)の9−ヒドロキシノナン酸(OH数:79、酸数:233mgKOH/g、酸数に基づいて使用した)、および0.5gのオルトリン酸(85%)を混合した。混合物を窒素雰囲気下で100℃に加熱した。7.5g(0.1モル)のメチルモノグリコールアミン(メルク製)を15分間かけて滴下して添加した。次に混合物を150℃に加熱した。反応によって形成された水は、蒸留ブリッジを通し、窒素を通過させて分離除去した。36時間の反応時間の後に、反応混合物を室温に冷却した。反応放出物は、その後の後処理なしで使用した。
【0088】
[実施例2]:メチルジグリコールアミンによる9−ヒドロキシノナン酸のアミド化
出発材料としてメチルモノグリコールアミンの代わりに、13.6g(0.1モル)のメチルジグリコールアミンを使用したことを除いて、実施例1の手順を繰り返した。
【0089】
[実施例3]:メチルトリグリコールアミンによる9−ヒドロキシノナン酸のアミド化
出発材料としてメチルモノグリコールアミンの代わりに、16.2g(0.1モル)のメチルトリグリコールアミンを使用したことを除いて、実施例1の手順を繰り返した。
【0090】
[実施例4]:メチルモノグリコールアミンによるε−カプロラクトンのアミド化
22.8g(0.2モル)のε−カプロラクトン(Fluka)と0.5gのオルトリン酸(85%)を混合した。混合物を撹拌しながら100℃に加熱した(窒素雰囲気下)。15.0g(0.2モル)のメチルモノグリコールアミン(メルク製)を15分間をかけて添加した。反応を105℃で48時間行った後に、反応混合物を室温に冷却した。反応放出物は、その後の工程でさらに後処理することなく使用した。
【0091】
[実施例5]:メチルジグリコールアミンによるε−カプロラクトンのアミド化
出発材料としてメチルモノグリコールアミンの代わりに27.2g(0.2モル)のメチルジグリコールアミンを使用したことを除いて、実施例4の手順を繰り返した。
【0092】
[実施例6]:メチルトリグリコールアミンによるε−カプロラクトンのアミド化
出発材料としてメチルモノグリコールアミンの代わりに32.5g(0.2モル)のメチルトリグリコールアミンを使用したことを除いて、実施例4の手順を繰り返した。
【0093】
II 酸性末端基Xの付加
[実施例7]:9−ヒドロキシノナン酸とメチルモノグリコールアミンのアミドのリン酸化
実施例1の生成物(20g、0.0671モル)と0.1gの次亜リン酸(50%)を窒素雰囲気下で反応フラスコに充填した。9.7g(0.0839モル)のポリリン酸(85%)を15分間かけて添加した。添加の間、反応混合物の温度は、50℃に上昇した。添加の後に、さらに75℃まで加熱し、この温度で20時間、撹拌した。この反応は、31P−NMR分析でモニターした。
【0094】
[実施例8]:9−ヒドロキシノナン酸とメチルジグリコールアミンのアミドのリン酸化
実施例7の手順を、実施例2からの生成物(30g、0.0836モル)と12.0g(0.1045モル)のポリリン酸(85%)を使用したことを除いて、実施例7の手順を繰り返した。
【0095】
[実施例9]:9−ヒドロキシノナン酸とメチルトリグリコールアミンのアミドのリン酸化
実施例7の手順を、実施例3からの生成物(30g、0.078モル)と11.2g(0.1045モル)のポリリン酸(85%)を使用したことを除いて、実施例7の手順を繰り返した。
【0096】
[実施例10]:ε−カプロラクトンとメチルモノグリコールアミンのアミドのリン酸化
実施例7の手順を、実施例4からの生成物(30g、0.1586モル)と22.9g(0.1983モル)のポリリン酸(85%)を使用したことを除いて、実施例7の手順を繰り返した。
【0097】
[実施例11]:ε−カプロラクトンとメチルジグリコールアミンのアミドのリン酸化
実施例7の手順を、実施例5からの生成物(30g、0.1085モル)と15.6g(0.1983モル)のポリリン酸(85%)を使用したことを除いて、実施例7の手順を繰り返した。
【0098】
[実施例12]:ε−カプロラクトンとメチルトリグリコールアミンのアミドのリン酸化
実施例7の手順を、実施例6からの生成物(30g、0.12モル)と17.3g(0.15モル)のポリリン酸(85%)を使用したことを除いて、実施例7の手順を繰り返した。
【0099】
施用例
[実施例13]:アルミニウムの疎水性化
表面処理されていない少量のポンチしたアルミニウムプレートを、0.1%の9−メチルトリグリコールアミドノニルホスフェートと、5%のクメンスルホネートを含む水溶液に浸漬した。20時間の後に、プレートを取り出して、水接触角を文献的に公知の方法によって測定した。接触角は75°であった。未処理の金属表面は、約60°の接触角を有していた。
【0100】
[実施例14]:アルミニウムの親水性化
表面処理されていない少量のポンチしたアルミニウムプレートを、0.1%の9−メチルトリグリコールアミドノニルホスフェートと、5%のエムラン(Emulan)(登録商標)HE50(可溶化剤、BASF AG(Ludwigshafen)製)を含む水溶液に浸漬した。20時間の後に、プレートを取り出して、水接触角を文献的に公知の方法によって測定した。接触角は10°であった。未処理の金属表面は、約60°の接触角を有していた。
【0101】
[実施例15]:腐食防止のための使用
亜鉛メッキしたスチールシートを、実施例13の方法によって、6−メチルジグリコールアミドヘキシルホスフェート(クメンスルホネートなし)処理して(接触角<20°)、電気化学的に特性決定した。スタティックおよびサイクリックエレクトロボルタメトリーを行った。決定した特性を選んで表1に示す。
【0102】
【表1】

【0103】
スチールプレートについても、DIN10289による塩噴霧試験によって腐食耐性を試験した。
【0104】
この試験は3つの試験片と、比較のための2つの未処理金属シートに対して行った。腐食耐性は、10(腐食なし)から1(顕著な腐食)のスケールで評価した。評価は、いずれも1時間〜6時間の試験時間の後に行った。表2の通りである。
【0105】
【表2】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
次式: X−Y−L−(W−Z)n
(但し、nは、1、2または3であり、X、Y、L、WおよびZは以下に定義する:
Xは、金属表面に対して強く化学的及び/又は物理的に相互作用可能であり、1種以上の酸基X1またはそれらの塩、または1種以上の加水分解性のSi含有基X2を含む末端基であり、
Yは、実質的に同一の単位を互いに直鎖状に結合して含む、5〜60個の炭素原子を有する炭化水素基であり、
Lは、n=1の場合はL1、n=2の場合はL2、n=3の場合はL3である結合基であり、L1、L2およびL3は以下に定義する:
1は、疎水性基Yを親水性基Wへと結合する直鎖状結合基であり、S、−S−S−、−CO−O−、−O−CO−、−CO−NR1−、−NR1−CO−、−O−CO−NR1−、−NR1−CO−O−、−NR1−CO−NR1−、および−NR1−からなる群より選択され、
2は、疎水性基Yを2個の親水性基Wへと結合する分枝状基であり、−N<、−NR1−CR1'<、−CO−N<、−NR1−CO−N<、および−CO−NR1−CR1'<からなる群より選択され、
3は、疎水性基Yを3個の親水性基Wへと結合する分枝状基であり、−NR1−C≡、−NR1−CH2−C≡、−O−C≡、−O−CH2−C≡、−CO−NR1−CH2−C≡、−CO−NR1−C≡、−CO−NR1−CH2−C≡、−CO−O−C≡、および−CO−O−CH2−C≡からなる群(但し、ここでの記号「≡」は、3個の単結合を表している)より選択され、
(但し、R1およびR1'は、それぞれ互いに独立に、HまたはC1〜C4アルキルである)
Wは、親水性基であり、且つ
Zは、反応性末端基Z1または非反応性末端基Z2のいずれかの末端基であり、
且つ
1が−CO−O−である場合には、第1末端基Xは−COOHではない)
の化合物。
【請求項2】
酸性基X1が、−COOH、−SO3H、−OSO3H、−PO(OH)2、−PO(OH)(OR2)、−OPO(OH)2、−OPO(OH)(OR2)、および−CR3(NH2)(COOH) (但し、R2は、分枝状または非分枝状のC1〜C8アルキル基であって置換基をさらに有するまたは有しないものであり、R3は、H、C1〜C6アルキル基または天然に存在するアミノ酸残基である)からなる群より選択された1種以上の基またはそれらの塩である、請求項1に記載の化合物。
【請求項3】
酸性基X1が、−COOH、−PO(OH)2、および−OPO(OH)2からなる群より選択された1種以上の基またはそれらの塩である、請求項2に記載の化合物。
【請求項4】
加水分解性のケイ素含有基X2が、−SiR43基(但し、R4はClまたは−OR5基であり、R5はC1〜C6アルキルである)である、請求項1に記載の化合物。
【請求項5】
反応性基Z1が、−OH、−SH、−NH2,−NHR6、−CN、−NCO、エポキシ、−CH=CH2、−O−CO−CR7=CH2、−NR6−CO−CR7=CH2、および−COOH(但し、R6はHまたはC1〜C6アルキルであり、R7はHまたはCH3である)からなる群より選択された、請求項1〜4のいずれかに記載の化合物。
【請求項6】
1が、−OH、−SH、−NH2、−NHR6、および−COOHからなる群より選択された、請求項5に記載の化合物。
【請求項7】
非反応性基Z2が、−H、−OR8、−NR89、−COOR8、および−CONR89(但し、R8およびR9は独立にC1〜C6アルキルである)からなる群より選択された、請求項1〜4のいずれかに記載の化合物。
【請求項8】
結合基L1が、−CO−NR1−である、請求項1〜7のいずれかに記載の化合物。
【請求項9】
炭化水素基Yの直鎖状結合単位が、−CH2−、−CH2−CH(CH3)−、および−CH2−C(CH32−からなる群より選択された単位である、請求項1〜8のいずれかに記載の化合物。
【請求項10】
Yが、8〜20個の炭素原子を有する直鎖状アルキル鎖である、請求項9に記載の化合物。
【請求項11】
Yが、9〜15個の炭素原子を有する直鎖状アルキル鎖である、請求項10に記載の化合物。
【請求項12】
親水性基Wが、C2〜C4アルコキシレート単位を含む基である、請求項1〜11のいずれかに記載の化合物。
【請求項13】
親水性基Wが、1〜10個のアルコキシレート単位を含む、請求項12に記載の化合物。
【請求項14】
単位数が1〜5である、請求項13に記載の化合物。
【請求項15】
単位が、エトキシレート単位である、請求項12〜14のいずれかに記載の化合物。
【請求項16】
請求項1〜15のいずれかに記載の化合物を、腐食防止剤として使用する方法。
【請求項17】
請求項1〜15のいずれかに記載の化合物を、接着促進剤、プライマー、保護被膜剤、または化成被覆形成剤として使用する方法。
【請求項18】
請求項1〜15のいずれかに記載の化合物を、金属表面の処理に使用する方法。
【請求項19】
金属が、亜鉛、アルミニウム、マグネシウム、クロム、鉄、ニッケル、およびスズからなる群より選択された1種以上の金属、またはこれらの金属の相互の合金またはこれらの金属と他の金属との合金を含む、請求項18に記載の使用方法。
【請求項20】
金属表面上に単分子層を製造するために、請求項1〜15のいずれかに記載の化合物を使用する方法。
【請求項21】
請求項1〜15のいずれかに記載の1種以上の化合物、溶媒または溶媒混合物、および随意に別な成分を含む、金属表面処理用配合物。
【請求項22】
反応性末端基Z1を有する1種以上の化合物、および非反応性末端基Z2を有する1種以上の化合物を含む、請求項21に記載の配合物。
【請求項23】
化合物が金属粒子をさらに含む、請求項21に記載の配合物。
【請求項24】
金属粒子が、Al及び/又はZnのラメラである、請求項23に記載の配合物。
【請求項25】
金属表面を、請求項21〜24のいずれかに記載の配合物と接触させる工程を含む、金属表面処理方法。
【請求項26】
1以上の金属層、請求項1〜15のいずれかに記載の1種以上の化合物を含む層(A)、および第2の層(B)を含む複合材料。
【請求項27】
層(A)が単分子層である、請求項26に記載の複合材料。
【請求項28】
第2の層(B)が、塗料塗膜である、請求項26または請求項27に記載の複合材料。
【請求項29】
金属に対して施された前処理層をさらに含む、請求項26〜28のいずれかに記載の複合材料。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
次式: X−Y−L−W−Z
(但し、X、Y、L、WおよびZは以下に定義する:
Xは、金属表面に対して強く化学的及び/又は物理的に相互作用可能であり、以下の基:
・−COOH、−SO3H、−OSO3H、−PO(OH)2、−PO(OH)(OR2)、−OPO(OH)2、−OPO(OH)(OR2)、および−CR3(NH2)(COOH)(但し、R2は、分枝状または非分枝状のC1〜C8アルキル基であって置換基をさらに有するまたは有しないものであり、R3は、H、C1〜C6アルキル基または天然に存在するアミノ酸残基である)からなる群より選択された1種以上の酸性基X1またはそれらの塩か、
または
・1種以上の加水分解性のSi含有基X2
を含む末端基であり、
Yは、互いに直鎖状に結合した実質的に同一の単位を含む、5〜60個の炭素原子を有する炭化水素基であり、
Lは、直鎖状結合基−CO−NR1− (L1) (但し、R1は、HまたはC1〜C4アルキルである)であり、
Wは、親水性基であり、
Zは、
・−OH、−SH、−NH2,−NHR6、−CN、−NCO、エポキシ、−CH=CH2、−O−CO−CR7=CH2、−NR6−CO−CR7=CH2、および−COOH(但し、R6はHまたはC1〜C6アルキルであり、R7はHまたはCH3である)からなる群より選択された反応性末端基Z1であるか、
または
・−H、−OR8、−NR89、−COOR8、および−CONR89(但し、R8およびR9は独立にC1〜C6アルキルである)からなる群より選択された非反応性末端基Z2である)
の化合物。
【請求項2】
酸性基X1が、−COOH、−PO(OH)2,および−OPO(OH)2またはそれらの塩からなる群より選択された1種以上の基である、請求項1に記載の化合物。
【請求項3】
加水分解性のケイ素含有基X2が、−SiR43基(但し、R4はClまたは−OR5基であり、R5はC1〜C6アルキルである)である、請求項1に記載の化合物。
【請求項4】
1が、−OH、−SH、−NH2、−NHR6、および−COOHからなる群より選択された、請求項5に記載の化合物。
【請求項5】
炭化水素基Yの直鎖状結合単位が、−CH2−、および−CH2−CH(CH3)−、および−CH2−C(CH32−からなる群より選択された単位である、請求項1〜4のいずれかに記載の化合物。
【請求項6】
Yが、8〜20個の炭素原子を有する直鎖状アルキル鎖である、請求項5に記載の化合物。
【請求項7】
Yが、9〜15個の炭素原子を有する直鎖状アルキル鎖である、請求項6に記載の化合物。
【請求項8】
親水性基Wが、C2〜C4アルコキシレート単位を含む基である、請求項1〜7のいずれかに記載の化合物。
【請求項9】
親水性基Wが、1〜10個のアルコキシレート単位を含む、請求項8に記載の化合物。
【請求項10】
単位数が1〜5である、請求項9に記載の化合物。
【請求項11】
単位が、エトキシレート単位である、請求項8〜10のいずれかに記載の化合物。
【請求項12】
請求項1〜11のいずれかに記載の化合物を、腐食防止剤として使用する方法。
【請求項13】
請求項1〜11のいずれかに記載の化合物を、接着促進剤、プライマー、保護被膜剤、または化成被覆形成剤として使用する方法。
【請求項14】
請求項1〜11のいずれかに記載の化合物を、金属表面の処理に使用する方法。
【請求項15】
金属が、亜鉛、アルミニウム、マグネシウム、クロム、鉄、ニッケル、およびスズ、またはこれらの金属の相互のまたは他の金属との合金からなる群より選択された1種以上を含む、請求項14に記載の使用方法。
【請求項16】
金属表面上に単分子層を製造するために、請求項1〜11のいずれかに記載の化合物を使用する方法。
【請求項17】
請求項1〜11のいずれかに記載の1種以上の化合物、溶媒または溶媒混合物、および随意に別な成分を含む、金属表面処理用配合物。
【請求項18】
反応性末端基Z1を有する1種以上の化合物、および非反応性末端基Z2を有する1種以上の化合物を含む、請求項17に記載の配合物。
【請求項19】
化合物が金属粒子をさらに含む、請求項17に記載の配合物。
【請求項20】
金属粒子が、Al及び/又はZnのラメラである、請求項19に記載の配合物。
【請求項21】
金属表面を、請求項17〜20のいずれかに記載の配合物と接触させる工程を含む、金属表面処理方法。
【請求項22】
1以上の金属層、請求項1〜11のいずれかに記載の1種以上の化合物を含む層(A)、および第2の層(B)を含む複合材料。
【請求項23】
層(A)が単分子層である、請求項22に記載の複合材料。
【請求項24】
第2の層(B)が、塗料塗膜である、請求項22または請求項23に記載の複合材料。
【請求項25】
金属に対して施された前処理層をさらに含む、請求項22〜24のいずれかに記載の複合材料。

【公表番号】特表2006−513264(P2006−513264A)
【公表日】平成18年4月20日(2006.4.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−509705(P2005−509705)
【出願日】平成15年12月19日(2003.12.19)
【国際出願番号】PCT/EP2003/014582
【国際公開番号】WO2004/059036
【国際公開日】平成16年7月15日(2004.7.15)
【出願人】(595123069)ビーエーエスエフ アクチェンゲゼルシャフト (847)
【氏名又は名称原語表記】BASF Aktiengesellschaft
【住所又は居所原語表記】D−67056 Ludwigshafen, Germany
【Fターム(参考)】