説明

金属表面処理用塗工液及び表面処理金属部品の製造方法

【課題】 エンジニアリングプラスチックであるポリフェニレンスルフィドにより金属表面を処理することにより金属部品に優れた特性を付与することが可能となる金属表面塗工液及び表面処理金属部品の製造方法を提供する。
【解決手段】 2〜30重量%のポリフェニレンスルフィドオリゴマーを有機溶媒に溶解してなる金属表面処理用塗工液、及び該金属表面処理用塗工液を金属部品に塗工し、金属部品の表面にポリフェニレンスルフィドオリゴマーを付着させた後、酸素含有雰囲気下150〜250℃で処理する表面処理金属部品の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属表面処理用塗工液に関するものであり、更に詳しくは、エンジニアリングプラスチックであるポリフェニレンスルフィドにより金属表面を処理することにより金属部品に優れた特性を付与することが可能となる金属表面処理用塗工液及び表面処理金属部品の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
金属又は金属部品は各種機器の原材料として一般的に用いられており、これら金属の表面を樹脂で覆い耐腐食性、接着性等の機能を付与することが行われてきた。
【0003】
また、エンジニアリングプラスチックの1つであるポリフェニレンスルフィド(以下、PPSと略記することもある。)は、優れた機械的性質、熱的性質、電気的性質、化学的性質を有し、各種機器の機能性部品、構造部品として幅広く使用されている。
【0004】
そして、その優れた性質を活かすべく粉体塗料としての提案がなされている(例えば特許文献1〜4参照。)。
【0005】
【特許文献1】特開平05−117588号公報
【特許文献2】特開平05−293439号公報
【特許文献3】特開平05−295300号公報
【特許文献4】特開平05−295301号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、高性能樹脂であるエンジニアリングプラスチックは、安定性が高いために、溶剤に溶解しにくい、金属表面との接着性が低い、等の課題があった。その中でもPPSは、特許文献1〜4においても粉体塗料としての提案がなされているように優れた化学的性質を有する反面、溶剤にほとんど溶解しないため、取り扱い性に優れる塗工液としての展開がはかられていないものであった。
【0007】
そこで、本発明は、取り扱い性に優れ、優れた機能を金属に付与することが可能となる金属表面処理用塗工液及びそれを用いてなる表面処理金属部品の製造方法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記課題に関し鋭意検討した結果、特定のPPSを含んでなる溶液が金属表面処理用塗工液となり得ることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
即ち、本発明は、2〜30重量%のPPSオリゴマーを有機溶媒に溶解してなることを特徴とする金属表面処理用塗工液に関するものである。
【0010】
以下に、本発明を詳細に説明する。
【0011】
本発明の金属表面処理用塗工液は、2〜30重量%のPPSオリゴマーを有機溶媒に溶解してなる溶液であり、特に均一な塗膜形成が可能となることから3〜10重量%のPPSオリゴマーを溶解してなることが好ましい。ここで、PPSオリゴマーが2重量%未満である場合、塗工液の濃度が低すぎて塗膜形成を行うことが困難となる。一方、30重量%を越える場合、PPSオリゴマーが溶解しにくくなり均一な塗膜を形成することが困難となる。
【0012】
本発明でいうPPSオリゴマーとは、一般的にオリゴマーと称されるPPSの低分子量体であり有機溶媒に可溶性を示すものであり、特にゲル・パーミエイション・クロマトグラフィーを用い測定したポリスチレン換算の重量平均分子量が10000以下のPPSオリゴマーであることが好ましい。ここで、PPSオリゴマー以外、つまりPPSである場合、一般的に入手可能であるPPSは溶剤、溶媒に対する溶解性をほとんど示さないために塗工液とすることができない。また、PPSは安定でありその極性も低いために金属との接着性に劣り強固な塗膜とすることが困難である。一方、PPSオリゴマーは低分子量体であり不安定であるとともに、その極性も大きく、塗膜とした際に金属との強固な接着性を示すものとなる。
【0013】
本発明を構成するPPSオリゴマーの入手方法としては、PPSオリゴマーの入手が可能であれば如何なる方法を用いることも可能であり、例えばPPSの製造方法として知られている極性有機溶媒中でアルカリ金属硫化物とジハロ芳香族化合物を重合反応してなる方法を、超希薄濃度領域で行う方法を挙げることができる。さらに、上記した一般的な製造方法により得られたPPSから塩化メチレン、アセトン、NMP等を抽出溶媒として用い抽出を行うことにより回収することも可能である。
【0014】
本発明の金属表面処理用塗工液を構成する有機溶媒としては、PPSオリゴマーを可溶することが可能な有機溶媒であればいかなるものを用いることも可能であり、例えばN−メチル−2−ピロリドン、1−シクロヘキシル−2−ピロリドン、塩化メチレン、アセトン、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、クロロホルム、四塩化炭素、メタノール、エタノール、ケロシン等を挙げることができ、その中でも優れた取り扱い性を示す金属表面処理用塗工液となることからN−メチル−2−ピロリドン、1−シクロヘキシル−2−ピロリドン、塩化メチレン、アセトン、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、クロロホルムからなる群より選ばれる1種以上であることが好ましい。
【0015】
本発明の金属表面処理用塗工液は、有機溶剤にPPSオリゴマーを溶解させることにより製造することが可能である。
【0016】
本発明の金属表面処理用塗工液は、液体状であるため単なる塗工により用いることも可能であるが、例えば該金属表面処理用塗工液を金属部品に塗工し、金属部品の表面にPPSオリゴマーを付着させた後、酸素含有雰囲気下150〜250℃の温度で処理することにより、より効果的な表面処理金属部品として製造することが可能となる。この際、金属部品表面へのPPSオリゴマーの付着は、PPSオリゴマー溶液であっても乾燥後のPPSオリゴマー単体であってもよく、その中でも次の酸素含有雰囲気下150〜250℃の温度での処理がより効率的になることから乾燥を行いPPSオリゴマー単体とすることが好ましい。また、酸素含有雰囲気下150〜250℃で処理することによりPPSオリゴマーの硬化反応を行うことが可能となり、その結果、金属部品表面に強固な接着性を有するPPS被膜の形成が可能となる。その際の酸素含有雰囲気とは、PPSオリゴマーの硬化が可能な範囲の酸素を含有するものであれば如何なるものも用いることができ、例えば酸素、空気を挙げることができる。
【0017】
この際、金属部品を構成する金属としては如何なる金属により構成されたものであってもよく、例えばアルミニウム、アルミニウム合金、マグネシウム、マグネシウム合金、チタン合金、銅、銅合金等を挙げることができる。
【発明の効果】
【0018】
本発明の金属表面処理用塗工液により処理された金属部品は、エンジニアリングプラスチックとしての優れた特性を有するPPSにより被覆されていることから優れた耐腐食性を示す。また、PPSとの接着性においても強固な接着性を示すものとなる。
【実施例】
【0019】
以下に本発明を実施例によって具体的に説明するが、本発明はこれら実施例によりなんら制限されるものではない。
【0020】
〜PPSオリゴマーの重量平均分子量測定〜
超高温ゲルパーミエイションクロマトグラフィーにより、ポリスチレン換算値として測定を行った。測定条件は以下の通りである。
溶媒:1−クロロナフタレン
試料濃度:0.2重量%
試料流量:1ml/分
カラム温度:210℃
カラム充填剤:ポリスチレンゲル
検出器:UV検出器(UV吸収波長:360nm)
〜金属部品とPPS層との界面の接着性評価〜
得られたPPS塗工金属部品の表面に粘着テープを貼り、該粘着テープを剥がした際のPPS層の剥離状況により評価を行った。評価基準としては、粘着テープのみが剥離し、PPS層は金属部品表面を覆っている場合を塗工良好とし、粘着テープにPPS層が付着し、金属部品表面の塗工がとれた場合を塗工不良とした。
【0021】
〜金属部品の耐腐食性の評価〜
得られたPPS塗工金属部品の表面に0.1N塩化水素水溶液を垂らし、2週間放置を行い表面状況を観察することにより耐腐食性の評価を行った。
【0022】
合成例1
攪拌機を装備する50リットルオートクレーブに、NaS・2.9HO621g及びN−メチル−2−ピロリドン16.7リットルを仕込み、窒素気流下攪拌しながら徐々に205℃まで昇温して、135gの水を留去した。この系を140℃まで冷却した後、p−ジクロロベンゼン716gとN−メチル−2−ピロリドン5000gを添加し、窒素気流下に系を封入した。この系を2時間かけて225℃に昇温し、225℃にて2時間重合させた後、30分かけて250℃に昇温し、さらに250℃にて3時間重合を行った。重合終了後、室温まで冷却し遠心分離機により固液分離を行った。
【0023】
該液分を蒸留水に投入し、希釈塩酸水溶液を加えることによりPPSオリゴマーを再沈させ、濾過によりPPSオリゴマーを回収し乾燥を行った。
【0024】
一方、該固形分を温水で繰り返し洗浄し100℃で一昼夜乾燥することにより、PPSオリゴマーを含有するPPSを得た。そして、80℃に加熱したN−メチル−2−ピロリドン15リットルを用意し、得られたPPSを投入し撹拌を行った。その後80℃の温度条件のまま濾過を行いN−メチル−2−ピロリドン溶液を回収した。該N−メチル−2−ピロリドン溶液を蒸留水に投入し、希釈塩酸水溶液を加えることによりPPSオリゴマーを再沈させ、濾過によりPPSオリゴマーを回収し乾燥を行った。
【0025】
それぞれのPPSオリゴマーを合わせた後、その重量平均分子量を測定したところ7000であった。
【0026】
実施例1
合成例1により得られたPPSオリゴマーを5重量%の濃度で塩化メチレンに溶解し塗工液を得た。
【0027】
該塗工液にアルミニウム合金(A1100)製試験片(50mm(長辺)×20mm(短辺)×3mm(厚さ))を浸漬した後、風乾により試験片表面をPPSオリゴマーで覆った。その後、250℃に加熱した乾燥機(空気雰囲気下)中に2時間放置しPPSオリゴマーの硬化を行い、PPSで被覆された試験片を得た。
【0028】
得られた試験片の界面接着性を評価したところPPS層の剥離は見られなかった。また、耐腐食性評価に関しても腐食は確認されなかった。
【0029】
実施例2
合成例1により得られたPPSオリゴマーを3重量%の濃度でアセトンに溶解し塗工液を得た。
【0030】
該塗工液にアルミニウム製試験片(50mm(長辺)×20mm(短辺)×3mm(厚さ))を浸漬した後、風乾により試験片表面をPPSオリゴマーで覆った。その後、230℃に加熱した乾燥機(空気雰囲気下)中に3時間放置しPPSオリゴマーの硬化を行い、PPSで被覆された試験片を得た。
【0031】
得られた試験片の界面接着性を評価したところPPS層の剥離は見られなかった。また、耐腐食性評価に関しても腐食は確認されなかった。
【0032】
実施例3
合成例1により得られたPPSオリゴマーを8重量%の濃度でN−メチル−2−ピロリドンに溶解し塗工液を得た。
【0033】
該塗工液にマグネシウム製試験片(50mm(長辺)×20mm(短辺)×3mm(厚さ))を浸漬した後、240℃に加熱した乾燥機(空気雰囲気下)中に2時間放置しPPSオリゴマーの硬化を行い、PPSで被覆された試験片を得た。
【0034】
得られた試験片の界面接着性を評価したところPPS層の剥離は見られなかった。また、耐腐食性評価に関しても腐食は確認されなかった。
【0035】
比較例1
合成例1により得られたPPSを280℃で加熱溶融し、該溶融PPSにアルミニウム合金(A1100)製試験片(50mm(長辺)×20mm(短辺)×3mm(厚さ))を浸漬し、PPSで被覆された試験片を得た。
【0036】
得られた試験片の界面接着性を評価したところPPS層が剥離した。また、接着性の弱い界面から塩化水素水溶液が侵入したためか耐腐食性評価においても腐食が確認された。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
2〜30重量%のポリフェニレンスルフィドオリゴマーを有機溶媒に溶解してなることを特徴とする金属表面処理用塗工液。
【請求項2】
ゲル・パーミエイション・クロマトグラフィーを用い測定したポリスチレン換算の重量平均分子量が10000以下のポリフェニレンスルフィドオリゴマーであることを特徴とする請求項1に記載の金属表面処理用塗工液。
【請求項3】
N−メチル−2−ピロリドン、1−シクロヘキシル−2−ピロリドン、塩化メチレン、アセトン、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、クロロホルムからなる群より選択される少なくとも1種以上の有機溶媒であることを特徴とする請求項1又は2に記載の金属表面処理用塗工液。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれかに記載の金属表面処理用塗工液を金属部品に塗工し、金属部品の表面にポリフェニレンスルフィドオリゴマーを付着させた後、酸素含有雰囲気下150〜250℃で処理することを特徴とする表面処理金属部品の製造方法。
【請求項5】
アルミニウム、アルミニウム合金、マグネシウム、マグネシウム合金、チタン合金、銅及び銅合金からなる群から選ばれる金属部品であることを特徴とする請求項4に記載の表面処理金属部品の製造方法。

【公開番号】特開2008−214522(P2008−214522A)
【公開日】平成20年9月18日(2008.9.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−55161(P2007−55161)
【出願日】平成19年3月6日(2007.3.6)
【出願人】(000003300)東ソー株式会社 (1,901)
【Fターム(参考)】