説明

金属表面処理用組成物、及び表面処理皮膜を有する金属基材

【課題】貯蔵性に優れ、そして耐食性に優れ且つ後の塗装工程によって形成される塗膜との付着性にも優れた表面処理皮膜を形成できる金属表面処理用組成物、並びに表面処理皮膜を有する金属基材を提供すること。
【解決手段】次の成分(A)〜成分(C)、(A)加水分解性チタン化合物、加水分解性チタン化合物の縮合物、水酸化チタン及び水酸化チタンの縮合物よりなる群から選ばれる少なくとも1種のチタン化合物を、過酸化水素水と混合することにより得られたチタン含有水性液、(B)有機リン酸化合物、並びに(C)アミノシラン(c1)及び多シリル官能シラン(c2)の縮合生成物を含有することを特徴とする金属表面処理用組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属表面処理用組成物、及び表面処理皮膜を有する金属基材に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、金属表面の耐食性を向上させるために、表面処理として、クロム酸塩処理及びリン酸塩処理が一般に行われている。しかしながら、近年、クロムの毒性が社会問題になっている。クロム酸塩を使用する表面処理方法は、処理工程でのクロム酸塩ヒュ−ムの飛散の問題、排水処理設備に多大な費用を要すること、さらには化成処理皮膜からクロム酸の溶出による問題等がある。また6価クロム化合物は、IARC(International Agency for Research on Cancer Review)を初めとして多くの公的機関が人体に対する発癌性物質に指定しており、極めて有害な物質である。
【0003】
また、金属表面の耐食性を向上させるために、リン酸塩処理、例えば、リン酸亜鉛系、リン酸鉄系の表面処理が行われている。リン酸塩系表面処理では、リン酸塩による処理の後、耐食性を付与する目的でクロム酸によるリンス処理が行われるのが一般的である。そのため、クロム処理の問題とともに、リン酸塩処理剤中の反応促進剤、金属イオン等の排水処理、被処理金属からの金属イオンの溶出によるスラッジ処理等の問題がある。
【0004】
クロム酸塩処理やリン酸塩処理以外の表面処理方法として、ジルコニウム系及びチタン系の表面処理剤がよく知られており(特許文献1〜5等参照)、主にアルミニウム系の素材において実用化されている。しかしながら、これらの処理剤は、処理剤の安定性が不十分であり、また亜鉛鋼板等の金属基材に関して、従来のクロム酸塩処理に比較して耐食性が劣るという問題があった。
【0005】
本出願人は、特許文献6において、耐食性に優れる表面処理皮膜を形成できるだけでなく、貯蔵安定性にも優れる処理剤として、特定のチタン含有水性液、並びに有機酸及びその塩から成る群から選択される少なくとも1種の化合物を含有する酸化チタン膜生成用塗布剤を提案した。
しかし、上記塗布剤は、貯蔵安定性に優れ、耐食性に優れる表面処理皮膜を形成できるものの、後の塗装工程によって形成される塗膜との付着性が、塗料種によっては、不十分な場合があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特公昭48−24618号
【特許文献2】特開昭54−24232号
【特許文献3】特開昭54−160527号
【特許文献4】特開平9−20984号
【特許文献5】特開平9−143752号
【特許文献6】国際公開第2003/037996号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、貯蔵性に優れ、そして耐食性に優れ且つ後の塗装工程によって形成される塗膜との付着性にも優れた表面処理皮膜を形成できる金属表面処理用組成物、並びに表面処理皮膜を有する金属基材を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記目的を達成するために鋭意検討した結果、次の成分(A)〜成分(C)、(A)加水分解性チタン化合物、加水分解性チタン化合物の縮合物、水酸化チタン及び水酸化チタンの縮合物よりなる群から選ばれる少なくとも1種のチタン化合物を過酸化水素水と混合することにより得られたチタン含有水性液、(B)有機リン酸化合物、並びに(C)アミノシラン(c1)及び多シリル官能シラン(c2)の縮合生成物を含有することを特徴とする金属表面処理用組成物により、上記目的を達成できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
具体的には、本発明は以下の態様に関する。
[態様1]
次の成分(A)〜成分(C)、
(A)加水分解性チタン化合物、加水分解性チタン化合物の縮合物、水酸化チタン及び水酸化チタンの縮合物よりなる群から選ばれる少なくとも1種のチタン化合物を、過酸化水素水と混合することにより得られたチタン含有水性液、
(B)有機リン酸化合物、並びに
(C)アミノシラン(c1)及び多シリル官能シラン(c2)の縮合生成物、
を含有することを特徴とする金属表面処理用組成物。
【0010】
[態様2]
成分(B)が、水酸基含有有機基を有する有機ホスホン酸である、態様1に記載の金属表面処理用組成物。
[態様3]
成分(B)が、1−ヒドロキシメタン−1,1−ジホスホン酸及び/又は1−ヒドロキシエタン−1,1−ジホスホン酸である、態様1又は2に記載の金属表面処理組成物。
【0011】
[態様4]
成分(B)の含有率が、成分(A)中の、換算されたTiO2の量100質量部に対して、1〜400質量部の範囲内である、態様1〜3のいずれか一つに記載の金属表面処理用組成物。
[態様5]
多シリル官能シラン(c2)が、次の一般式(I):
(X13-a-b(R1a(R2bSi−Y−Si(R3c(R4d(X23-c-d (I)
(式中、
1、R2、R3及びR4は、独立して、水素原子又は炭素数1〜30の1価の有機基を示し、
Yは、2価の有機基又はイミノ基を示し、
1及びX2は、独立して、加水分解性基を示し、
a及びbは、独立して、0、1、又は2であるが、0≦a+b≦2であり、そして
c及びdは、独立して、0、1、又は2であるが、0≦c+d≦2である。)
で示される、態様1〜4のいずれか1つに記載の金属表面処理用組成物。
【0012】
[態様6]
成分(C)が、アミノシラン(c1)及び多シリル官能シラン(c2)を、50/50〜99/1のモル比で縮合させることにより生成された、態様1〜5のいずれか一つに記載の金属表面処理用組成物。
[態様7]
成分(C)の含有率が、成分(A)中の、換算されたTiO2の量100質量部に対して、1〜400質量部の範囲内である、態様1〜6のいずれか一つに記載の金属表面処理用組成物。
【0013】
[態様8]
態様1〜7のいずれか一項に記載の金属表面処理用組成物で、金属基材を被覆し、次いで乾燥することにより形成された、表面処理皮膜を有する金属基材。
[態様9]
上記表面処理皮膜の坪量が、0.001〜10g/m2の範囲内にある、態様8に記載の表面処理皮膜を有する金属基材。
【発明の効果】
【0014】
本発明の金属表面処理用組成物は、貯蔵性に優れ、そして耐食性に優れ且つ後の塗装工程によって形成される各種塗料による塗膜との付着性にも優れた表面処理皮膜を形成できる。
【発明を実施するための形態】
【0015】
<金属表面処理用組成物>
本発明の金属表面処理用組成物において、加水分解性チタン化合物、加水分解性チタン化合物の縮合物、水酸化チタン及び水酸化チタンの縮合物から選ばれる少なくとも1種のチタン化合物を過酸化水素水と混合して得られるチタン含有水性液(以下、単に、「成分(A)」と称する場合がある)としては、公知のものを挙げることができる。
【0016】
上記加水分解性チタン化合物は、チタン原子に直接結合する加水分解性基を有するチタン化合物であって、水、水蒸気等の水分と反応することにより水酸化チタンを生成するものである。また、上記加水分解性チタン化合物において、加水分解性基の一部が加水分解され、水酸基になっていてもよい。
【0017】
上記加水分解性基としては、水分と反応することにより水酸基を生成するものであれば特に制限されないが、例えば、低級アルコキシル基、チタン原子と塩を形成する基等が挙げられる。チタン原子と塩を形成する基としては、例えば、ハロゲン原子(塩素等)、水素原子、硫酸イオン等が挙げられる。
【0018】
加水分解性基として低級アルコキシル基を含有する加水分解性チタン化合物としては、例えば、テトラアルコキシチタン等が挙げられる。
加水分解性基として、チタンと塩を形成する基を有する加水分解性チタン化合物としては、塩化チタン、硫酸チタン等が代表的なものとして挙げられる。
【0019】
加水分解性チタン化合物の縮合物は、上記加水分解性チタン化合物同士の縮合物である。上記縮合物において、チタン原子に結合する加水分解性基の一部が加水分解され、水酸基となっていてもよい。
水酸化チタンの縮合物としては、例えば、塩化チタン、硫酸チタン等の水溶液とアンモニア、苛性ソーダ等のアルカリ水溶液との反応により得られるオルトチタン酸(水酸化チタンゲル)等が挙げられる。
【0020】
上記加水分解性チタン化合物の縮合物又は水酸化チタンの縮合物における縮合度は、約2〜約30の範囲内であることが好ましく、そして特に約2〜約10の範囲内であることがより好ましい。
【0021】
成分(A)として、特に、加水分解性チタン化合物及び/又はその縮合物を、過酸化水素水と混合することにより得られるペルオキソチタン酸水溶液(a1)であることが好ましい。
【0022】
上記チタン化合物としては、特に、次の一般式(1):
Ti(OR)4 (1)
(式中、Rは、同一又は異なって、炭素数1〜5のアルキル基を示す。)
で表されるテトラアルコキシチタンが好ましい。
Rとしては、例えば、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基等が挙げられる。
【0023】
また、上記チタン化合物の縮合物としては、一般式(1)の化合物を、お互いに縮合反応させることにより生成された、縮合度約2〜約30の縮合物であることが好ましく、縮合度約2〜約10の縮合物であることがより好ましい。
【0024】
化合物(A)を得るために、一般式(1)の加水分解性チタン化合物及び/又はその縮合物(以下、「一般式(1)の加水分解性チタン化合物及び/又はその縮合物」を、単に「加水分解性チタン化合物(T)」と称する場合がある)と過酸化水素水とを混合する比率は、加水分解性チタン化合物(T)10質量部に対して、過酸化水素が約0.1〜約100重質部となるような比率であることが好ましく、そして約1〜約20質量部となるような比率であることが特に好ましい。過酸化水素水が、過酸化水素換算で約0.1質量部未満になると、ペルオキソチタン酸の生成が不十分になり白濁沈殿を生じる場合がある。一方、過酸化水素水が、過酸化水素換算で約100質量部を超えると、未反応の過酸化水素が残存し易く貯蔵中に危険な活性酸素を放出する場合がある。
【0025】
過酸化水素水中の過酸化水素の濃度は、特に限定されないが、取り扱い易さの観点から、約3〜約40質量%の範囲内であることが好ましい。
【0026】
また、ペルオキソチタン酸水溶液(a1)は、通常、加水分解性チタン化合物(T)を、約1〜約70℃の範囲内で、約10分〜約20時間、過酸化水素水と撹拌下に混合することにより調製できる。混合の際、例えば、メタノール、エタノール、n−プロパノール、イソプロパノール、エチレングリコールモノブチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル等の水溶性溶媒を、所望により添加することができ、ペルオキソチタン酸水溶液(a1)が、水以外に、水溶性溶媒を含んでもよい。
【0027】
ペルオキソチタン酸水溶液(a1)は、加水分解性チタン化合物(T)を過酸化水素水と混合させることにより、加水分解性チタン化合物(T)が加水分解され、水酸基含有チタン化合物を生成し、次いでこの水酸基含有チタン化合物に過酸化水素が直ちに配位してペルオキソチタン酸が形成されるものと推察される。ペルオキソチタン酸水溶液(a1)は、室温域で安定性が高く、長期の保存に耐えることができる。
【0028】
本発明の金属表面処理用組成物において、成分(B)としての、有機リン酸化合物は、本発明の金属表面処理用組成物の貯蔵安定性を向上させ、そして形成する表面処理皮膜の耐食性を向上させる成分であり、例えば、水酸基含有有機基を含有する有機ホスホン酸、例えば、1−ヒドロキシメタン−1,1−ジホスホン酸、1−ヒドロキシエタン−1,1−ジホスホン酸、1−ヒドロキシプロパン−1,1−ジホスホン酸、ニトリロ(アミノ)トリメチレンホスホン酸、ニトリロ(アミノ)トリエチレンホスホン酸、ニトリロ(アミノ)トリプロピレンホスホン酸、エチレンジアミンテトラメチレンホスホン酸、エチレンジアミンテトラエチレンホスホン酸、エチレンジアミンテトラプロピレンホスホン酸、N,N−ビス(2−ホスホエチル)ヒドロキシアミン、N,N−ビス(2−ホスホメチル)ヒドロキシアミン、2−ヒドロキシエチルホスホン酸ジメチルエーテルの加水分解物、カルボキシル基含有有機基を有するホスホン酸、例えば、2−ヒドロキシホスホノ酢酸、2−ホスホノブタン−1,2,4−トリカルボン酸、及びこれらの塩等が挙げられる。
【0029】
本発明の金属表面処理用組成物の貯蔵安定性、及び形成される表面処理皮膜の耐食性向上の観点から、成分(B)として、1−ヒドロキシメタン−1,1−ジホスホン酸及び1−ヒドロキシエタン−1,1−ジホスホン酸が好適であり、そして1−ヒドロキシエタン−1,1−ジホスホン酸が特に好適である。
【0030】
成分(B)の含有率は、成分(A)の中の、換算されたTiO2の量100質量部に対して、約1〜約400質量部、好ましくは約10〜約200質量部の範囲内であることが、本発明の金属表面処理用組成物の貯蔵安定性、及び形成される表面処理皮膜の耐食性向上の観点から望ましい。
なお、本明細書において、「換算されたTiO2の量」又は「換算されたTiO2の濃度」は、成分(A)の調製の際に添加された上記チタン化合物が、金属表面処理用組成物による皮膜の形成後、TiO2として存在しているものとの仮定に基づいて、上記チタン化合物中のチタン量から計算により求められるTiO2の量又はTiO2の濃度を意味する。
【0031】
本発明の金属表面処理用組成物において、(C)アミノシラン(c1)及び多シリル官能シラン(c2)の縮合生成物(以下、「成分(C)」と称する場合がある)は、形成される表面処理皮膜の耐食性向上、後の塗装工程によって形成される塗膜との付着性向上等のために含まれる成分であり、通常、アミノシラン(c1)及び多シリル官能シラン(c2)を、水、アルコール、酸性水溶液中等で加水分解及び縮合させることによって得られる。加水分解に酸を用いる場合には、例えば、塩酸、酢酸、硫酸、リン酸、スルホン酸等が使用できる。
【0032】
アミノシラン(c1)としては、例えば、3−アミノプロピルトリメトキシシラン、3−アミノプロピルトリエトキシシラン、3−アミノプロピルメチルジエトキシシラン、N−フェニル−3−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−(2−アミノエチル)−3−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−(2−アミノエチル)−3−アミノプロピルトリエトキシシラン等を挙げることができる。
【0033】
多シリル官能シラン(c2)は、次の一般式(I):
(X13-a-b(R1a(R2bSi−Y−Si(R3c(R4d(X23-c-d (I)
(式中、
1、R2、R3及びR4は、独立して、水素原子又は炭素数1〜30の1価の有機基を示し、
Yは、2価の有機基又はイミノ基を示し、
1及びX2は、独立して、加水分解性基を示し、
a及びbは、独立して、0、1、又は2であるが、0≦a+b≦2であり、そして
c及びdは、独立して、0、1、又は2であるが、0≦c+d≦2である。)
で示される構造を有することが好適である。
【0034】
1、R2、R3及びR4における、1価の有機基としては、アルキル基、アルケニル基、シクロアルキル基、アリール基等の炭化水素基;炭化水素骨格に、水酸基、エポキシ基、アミノ基等の官能基が結合した基等が挙げられ、特に、メチル基、エチル基等の低級アルキル基が好ましい。
Yにおける2価の有機基としては、好ましくは炭素数2〜30の、そしてより好ましくは炭素数2〜12の、アルキレン基、アルキレンオキシ基、及びアルキレンチオ基、並びにこれらの組み合わせが挙げられる。
【0035】
1及びX2における加水分解性基としては、炭素数1〜4のアルコキシル基が挙げられ、特に、メトキシル基、エトキシル基が好ましい。またa+b及びc+dは、いずれも0又は1であることが好ましい。
【0036】
多シリル官能シラン(c2)の具体例としては、例えば、ビス(トリメトキシシリル)メタン、ビス(トリメトキシシリル)エタン、1,2―ビス(トリエトキシシリル)エタン、1,2―ビス(トリメトキシシリル)エタン、ビス(トリエトキシシリル)ヘキサン、ビス(トリメトキシシリル)ヘキサン、1,9―ビス(トリエトキシシリル)ノナン、1,9―ビス(トリメトキシシリル)ノナン、1,8―ビス(トリエトキシシリル)オクタン、ビス(トリメトキシシリル)アミン、ビス(トリエトキシシリル)アミン、ビス(トリエトキシシリルメチル)アミン、ビス(トリエトキシシリルプロピル)アミン等が挙げられ、取扱上の安全性、形成される表面処理皮膜の耐食性向上、及び後の塗装工程によって形成される塗膜との付着性向上の観点から、1,2―ビス(トリエトキシシリル)エタンが好適である。
【0037】
成分(C)は、アミノシラン(c1)及び多シリル官能シラン(c2)を、約50/50〜約99/1、好ましくは約70/30〜約99/1、さらに好ましくは約80/20〜約95/5の範囲のモル比で縮合させることにより生成させることが、製造時のゲル化防止、形成される表面処理皮膜の耐食性向上、及び経済性の観点から好適である。
【0038】
成分(C)の生成において、アミノシラン(c1)及び多シリル官能シラン(c2)に加えて、アミノシラン(c1)及び多シリル官能シラン(c2)以外のオルガノシラン(c3)を、所望により添加し、アミノシラン(c1)と、多シリル官能シラン(c2)と、オルガノシラン(c3)との縮合生成物から成る成分(C)を生成することができる。
【0039】
オルガノシラン(c3)としては、例えば、メチルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、エチルトリメトキシシラン、エチルトリエトキシシラン、2−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、p−スチリルトリメトキシシラン、3−メタクリロイルオキシプロピルメチルジメトキシシラン、3−メタクリロイルオキシプロピルトリメトキシシラン、3−メタクリロイルオキシプロピルメチルジエトキシシラン、3−メタクリロイルオキシプロピルトリエトキシシラン、3−アクリロイルオキシプロピルトリメトキシシラン、3−クロロプロピルトリメトキシシラン、3−メルカプトプロピルメチルジメトキシシラン、3−メルカプトプロピルトリメトキシシラン等が挙げられる。
【0040】
オルガノシラン(c3)は、成分(C)の析出を制御するために、成分(C)の溶媒溶解性を低下させない範囲内で添加することができ、アミノシラン(c1)及び多シリル官能シラン(c2)の合計モル量に対して、通常、約100モル%以下、好ましくは約50モル%以下である。
【0041】
本発明の金属表面処理用組成物において、成分(C)の含有率は、成分(A)中の、換算されたTiO2の量100質量部に対して、約1〜約400質量部、好ましくは約5〜約200質量部の範囲内であることが、後の塗装工程によって形成される塗膜との付着性向上、及び形成される表面処理皮膜の耐食性向上の観点から好ましい。
【0042】
本発明の金属表面処理用組成物は、成分(A)〜(C)を含むが、本発明の金属表面処理用組成物は、形成される表面処理皮膜の耐食性向上、後の塗装工程によって形成される塗膜との付着性向上等の観点から、水溶性又は水分散性有機樹脂を、所望により含有することができる。上記水溶性又は水分散性有機樹脂としては、例えば、エポキシ樹脂、アクリル樹脂、ポリエステル樹脂、ポリアリルアミン樹脂、ポリビニルアミン樹脂、ポリブタジエン樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリビニルアルコール、エチレン−酢酸ビニル樹脂等が挙げられる。また、本発明の金属表面処理用組成物は、水溶性又は水分散性有機樹脂として、メラミン樹脂、ベンゾグアナミン樹脂、尿素樹脂、(ブロック)ポリイソシアネート、フェノール樹脂等を含むことができる。
【0043】
本発明の金属表面処理用組成物が、上記水溶性又は水分散性有機樹脂を含む場合には、その量は、後の塗装工程によって形成される塗膜との付着性向上等の観点から、成分(A)100質量部に対して、約1〜約20,000質量部であることが好ましく、約5〜約10,000質量部であることがより好ましく、約20〜約5,000質量部であることがさらに好ましく、約500〜約2,500質量部であることが特に好ましい。
【0044】
本発明の金属表面処理用組成物は、塗膜の耐酸性、耐アルカリ性等を向上させるために、Al、Ca、V、Mn、Co、Fe、Cu、Zn、Zr、Nb、Mo、Ta、W等の2価以上の金属イオンを、所望により含むことができる。
【0045】
さらに、本発明の金属表面処理用組成物は、アンモニア、有機塩基性化合物、アルカリ金属水酸化物、アルカリ土類金属水酸化物等の塩基性中和剤を、所望により含むことができる。上記有機塩基性化合物としては、例えば、エタノールアミン、トリエチルアミンが挙げられ、そしてアルカリ金属水酸化物としては、例えば、水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等が挙げられる。
【0046】
さらに、本発明の金属表面処理用組成物は、各種の添加剤を、所望により含有することができる。上記添加剤としては、例えば、増粘剤、防菌剤、防錆剤、酸化チタンゾル、酸化チタン粉末、体質顔料、防錆顔料、着色顔料、界面活性剤等を挙げることができる。上記防錆剤としては、例えば、タンニン酸、フィチン酸、ベンゾトリアゾール、メタバナジン酸アンモニウム、炭酸ジルコニウムアンモニウム等を挙げることができる。上記体質顔料としては、例えば、マイカ、タルク、シリカ、微粉シリカ、バリタ、クレー等を挙げることができる。
【0047】
本発明の金属表面処理用組成物の製造方法は、特に限定されるものではなく、例えば、本発明の金属表面処理用組成物は、成分(A)、成分(B)、及び成分(C)、並びに所望によるその他の成分を混合し、濃度が、好ましくは、約0.1〜約50質量%、より好ましくは約0.5〜約40質量%となるように調整することにより製造されうる。
なお、本明細書において、金属表面処理用組成物の濃度は、換算されたTiO2の量と、成分(B)の固形分の量と、成分(C)の固形分との合計量の、金属表面処理用組成物の全体量に対する比率を意味する。
【0048】
本発明の、表面処理皮膜を有する金属基材は、金属表面処理用組成物から形成される表面処理皮膜を有する。具体的には、上記表面処理皮膜を有する金属基材は、金属基材を、本発明の金属表面処理用組成物で被覆し、金属表面処理用組成物で被覆されている金属基材を乾燥することにより形成される。
【0049】
上記金属基材としては、金属であれば特に制限されず、例えば、鉄、銅、アルミニウム、スズ、亜鉛、及びそれらの合金、及び上記金属及び合金によりめっきされた鋼材、並びに上記金属及び合金により蒸着された製品等が挙げられ、形成する表面処理皮膜の耐食性の向上効果が顕著であるため、亜鉛又は亜鉛合金によりめっきされた鋼材、特に亜鉛めっき鋼板又は亜鉛合金めっき鋼板が好ましい。
本明細書において、鋼材は、鉄及び鉄含有合金の塊、成型物、板状材料、棒状材料等を含み、そして鋼板は、鉄及び鉄含有合金の板状材料を意味する。
【0050】
本発明の金属表面処理用組成物は、上記金属基材上に、既知の処理方法、例えば、浸漬塗装、スプレー塗装、ロール塗装等によりコーティングされうる。
金属表面処理用組成物で被覆された金属基材を、通常、金属基材の最高温度が、約60〜約250℃となる条件で、約2秒〜約30秒間乾燥することにより、表面処理皮膜を有する金属基材を形成することができる。
【0051】
上記表面処理皮膜は薄過ぎると、耐食性、耐水性等の性能が低下する一方で、厚過ぎると、割れる、加工性が低下する等の問題が生ずるため、約0.001〜約10g/m2の範囲の坪量を有することが好ましく、そして約0.05〜約3g/m2の範囲の坪量を有することがより好ましい。
【0052】
本発明の、表面処理皮膜を有する金属基材は、建材用、家電用、自動車用、缶用、プレコート鋼板用等、従来表面処理板を使用している用途に、特に制限なく用いられ、下塗り塗料、上塗り塗料等が、所望により塗装される。上記下塗り塗料、上塗り塗料等の塗装方法は、用途、被塗物の形状等によって選定することができ、例えば、スプレー塗装、ハケ塗装、電着塗装、ロール塗装、カーテンフロー塗装等が挙げられる。塗装の替わりに、表面処理皮膜を有する金属基材にフィルムを積層することもできる。
【0053】
上記表面処理皮膜を有する金属基材には、従来公知の塗料を塗装することにより、塗膜層を形成することができ、又は接着剤層を間に挟んで有機樹脂被覆層を形成することができる。上記従来公知の塗料としては、特に制限されず、例えば、有機溶剤希釈型塗料、水性塗料、粉体塗料等が挙げられる。
【実施例】
【0054】
以下、実施例を挙げて本発明をさらに詳細に説明する。なお、「部」及び「%」はそれぞれ「質量部」及び「質量%」を示す。
【0055】
[成分(A)の調製]
[調製例1]
テトライソプロポキシチタン10部とイソプロパノール10部との混合物を、30%過酸化水素水10部と脱イオン水100部との混合物中に、20℃で、1時間かけて、撹拌しながら滴下した。その後25℃で2時間熟成し、透明で、黄色がかり、そして少し粘性のある、ペルオキソチタン酸水溶液(a1)である成分(A−1)を得た。成分(A−1)中の、換算されたTiO2の濃度は、2%であった。
【0056】
[調製例2]
テトライソプロポキシチタンに代えて、テトラn−ブトキシチタンを同量用いた以外は、調製例1と同様にして、成分(A−2)を得た。成分(A−2)中の、換算されたTiO2の濃度は、2%であった。
【0057】
[調製例3]
テトライソプロポキシチタンに代えて、テトライソプロポキシチタンの3量体を同量用いた以外は、調製例1と同様にして、成分(A−3)を得た。成分(A−3)中の、換算されたTiO2の濃度は、2%であった。
【0058】
[成分(C)の製造]
[製造例1]
還流冷却器、温度計、窒素導入管、及び攪拌機を取り付けた1Lの丸底フラスコに、イソプロパノール200gと、脱イオン水200gとを仕込み、攪拌を開始した。気相に窒素を吹き込み、攪拌しながら、3−アミノプロピルトリメトキシシラン90gと、ビス(トリエトキシシリル)エタン10gとを一度に投入した。常温で1時間攪拌し、60℃で6時間反応させ、留分を除去した後、イソプロパノール及び水をプロピレングリコールモノメチルエーテルに置換しながら、沸点が120℃になるまで昇温した。60℃まで冷却した後、減圧蒸留にて濃縮し、成分(C)としての縮合生成物(C1)の溶液120gを得た。縮合生成物(C1)の溶液の固形分は、40%であり、無色透明の粘調な液体であった。なお、上記固形分は、縮合生成物(C1)の溶液を、130℃で1時間加熱することにより求められた値である。
【0059】
[製造例2〜12]
原料の組成を表1に示す通りとした以外は製造例1と同様にして、成分(C)としての縮合生成物(C2)〜(C8)の溶液、及びシラン縮合生成物(C’1)〜(C’4)の溶液を得た。
【0060】
【表1】

【0061】
[実施例1〜8、及び比較例1〜4]
[金属表面処理用組成物の調製]
表2に示される配合に従って、金属表面処理用組成物を調製した。各金属表面処理用組成物を、脱イオン水により、濃度が5%になるように調製した。
なお、表2において、成分(B)は、固形分60%の1−ヒドロキシエタン−1,1−ジホスホン酸である。
【0062】
【表2】

【0063】
[表面処理]
金属基材として、市販の電気亜鉛めっき鋼板(EG鋼板、日本テストパネル社製、70mm×150mm×0.8mm、片面のめっき坪量20g/m2)(以下、「EG鋼板」と称する場合がある)、及び5000系アルミニウム(日本テストパネル社製、70mm×150mm×0.8mm)(以下、「5000AL」と称する場合がある)を、下記に示す工程で表面処理した。
【0064】
(1)上記金属基材を、40℃に調整した市販の脱脂液に2分間浸漬することにより脱脂し、次いで、水道水で30秒間、水洗処理する。
(2)水洗後の金属基材に、実施例1〜8及び比較例1〜4の金属表面処理用組成物を塗布し、金属基材の最高温度が150℃になるようにして20秒間乾燥し、坪量が0.5g/m2の表面処理皮膜を有する金属基材を形成する。
【0065】
[試験板(1)の作成]
実施例1〜8及び比較例1〜4の金属表面処理用組成物から形成された表面処理皮膜を有する金属基材上に、「マジクロン#1000」(関西ペイント社製、アクリル/メラミン樹脂系有機溶剤希釈型塗料)を、乾燥膜厚が30μmとなるようにエアスプレー塗装し、160℃で30分間乾燥して、試験板を作成した。得られた試験板を下記評価法に従って評価した。結果を表3に示す。
【0066】
[試験板(2)の作成]
実施例1〜8及び比較例1〜4の金属表面処理用組成物から形成された表面処理皮膜を有する金属基材上に、「アミラック#1000」(関西ペイント社製、アルキド/メラミン樹脂系有機溶剤希釈型塗料)を、乾燥膜厚が30μmとなるようにエアスプレー塗装し、130℃で30分間乾燥して、試験板を作成し、下記評価法に従って評価した。結果を表3に併せて示す。
【0067】
[試験板(3)の作成]
実施例1〜8及び比較例1〜4の金属表面処理用組成物から形成された表面処理皮膜を有する金属基材上に、「ASIME」(関西ペイント社製、ポリエステル/メラミン樹脂系有機溶剤希釈型塗料)を、乾燥膜厚が30μmとなるようにエアスプレー塗装し、140℃で30分間乾燥して、試験板を作成し、下記評価法に従って評価した。結果を表3に併せて示す。
【0068】
[比較例5]
市販の、リン酸亜鉛系の金属表面処理用組成物で表面処理された鋼板(基材:SPCC−SD、日本テストパネル社製)を用いた以外は、実施例1と同様にして、試験板(1)〜(3)を作成し、下記評価法に従って評価した。結果を表3に併せて示す。
【0069】
[比較例6]
市販の、クロメート系の金属表面処理用組成物で表面処理されたアルミニウム板(基材:5000系アルミニウム、日本テストパネル社製)を用いた以外は、実施例1と同様にして、試験板(1)〜(3)を作成し、下記評価法に従って評価した。結果を表3に併せて示す。
【0070】
[評価法]
(*1)耐食性1:実施例1〜8及び比較例1〜4の金属表面処理用組成物から形成された表面処理皮膜を有する金属基材、並びに比較例5のリン酸亜鉛系の金属表面処理用組成物で表面処理された鋼板、及び比較例6のクロメート系の金属表面処理用組成物で表面処理されたアルミニウム板に、120時間の塩水噴霧腐食試験(SST:JIS Z−2371に準ずる。塩水温度35℃)を実施し、錆の発生具合を、以下の基準に従って目視評価した。
【0071】
◎:面積の5%未満に錆が発生した
○:面積の5%以上、20%未満の範囲に錆が発生した
△:面積の20%以上、30%未満の範囲に錆が発生した
×:面積の30%以上に錆が発生した
【0072】
(*2)耐食性2:実施例1〜8及び比較例1〜6で作成された試験版(1)〜(3)に、カッターナイフで、金属基材に達するように、X字型の傷を付け、240時間の塩水噴霧腐食試験(SST:JIS Z−2371に準ずる。塩水温度35℃)を実施し、次いで、傷部分に、セロハンテープを密着させ、セロハンテープを急激に剥離した際の傷部分の塗膜の剥離状態を観察し、下記基準で評価した。
【0073】
◎:塗膜が剥離しない
○:塗膜の剥離幅が3mm未満である
△:塗膜の剥離幅が、3mm以上、5mm未満である
×:塗膜の剥離幅が5mm以上である
【0074】
(*3)付着性:実施例1〜8及び比較例1〜6で作成された試験版(1)〜(3)を、温水(40℃)に240時間浸漬した。引き上げ後、直ちにJIS K−5400 8.5.2(1990)碁盤目テープ法に準じて、試験板の塗膜表面に、カッターナイフで、金属基材に到達するように、直行する縦横11本ずつの並行な直線を1mm間隔で引いて、1mm×1mmのマス目を100個作成した。上記マス目にセロハンテープを密着させ、次いで、セロハンテープを急激に剥離し、マス目の剥がれ程度を観察し、下記基準で評価した。
【0075】
◎:マス目が剥離しなかった
○:マス目の剥離が5個以下であった
△:マス目の剥離が6〜10個であった
×:マス目の剥離が11個以上であった
【0076】
【表3】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
次の成分(A)〜成分(C)、
(A)加水分解性チタン化合物、加水分解性チタン化合物の縮合物、水酸化チタン及び水酸化チタンの縮合物よりなる群から選ばれる少なくとも1種のチタン化合物を、過酸化水素水と混合することにより得られたチタン含有水性液、
(B)有機リン酸化合物、並びに
(C)アミノシラン(c1)及び多シリル官能シラン(c2)の縮合生成物、
を含有することを特徴とする金属表面処理用組成物。
【請求項2】
成分(B)が、水酸基含有有機基を有する有機ホスホン酸である、請求項1に記載の金属表面処理用組成物。
【請求項3】
成分(B)が、1−ヒドロキシメタン−1,1−ジホスホン酸及び/又は1−ヒドロキシエタン−1,1−ジホスホン酸である、請求項1又は2に記載の金属表面処理組成物。
【請求項4】
成分(B)の含有率が、成分(A)中の、換算されたTiO2の量100質量部に対して、1〜400質量部の範囲内である、請求項1〜3のいずれか一項に記載の金属表面処理用組成物。
【請求項5】
多シリル官能シラン(c2)が、次の一般式(I):
(X13-a-b(R1a(R2bSi−Y−Si(R3c(R4d(X23-c-d (I)
(式中、
1、R2、R3及びR4は、独立して、水素原子又は炭素数1〜30の1価の有機基を示し、
Yは、2価の有機基又はイミノ基を示し、
1及びX2は、独立して、加水分解性基を示し、
a及びbは、独立して、0、1、又は2であるが、0≦a+b≦2であり、そして
c及びdは、独立して、0、1、又は2であるが、0≦c+d≦2である。)
で示される、請求項1〜4のいずれか1項に記載の金属表面処理用組成物。
【請求項6】
成分(C)が、アミノシラン(c1)及び多シリル官能シラン(c2)を、50/50〜99/1のモル比で縮合させることにより生成された、請求項1〜5のいずれか一項に記載の金属表面処理用組成物。
【請求項7】
成分(C)の含有率が、成分(A)中の、換算されたTiO2の量100質量部に対して、1〜400質量部の範囲内である、請求項1〜6のいずれか一項に記載の金属表面処理用組成物。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれか一項に記載の金属表面処理用組成物で、金属基材を被覆し、次いで乾燥することにより形成された、表面処理皮膜を有する金属基材。
【請求項9】
前記表面処理皮膜の坪量が、0.001〜10g/m2の範囲内にある、請求項8に記載の表面処理皮膜を有する金属基材。

【公開番号】特開2011−137222(P2011−137222A)
【公開日】平成23年7月14日(2011.7.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−265175(P2010−265175)
【出願日】平成22年11月29日(2010.11.29)
【出願人】(000001409)関西ペイント株式会社 (815)
【Fターム(参考)】