説明

金属表面処理用組成物、金属表面処理方法、及び金属材料

【課題】素地隠蔽性、塗膜密着性、及び耐食性を得ることができる化成皮膜を形成可能な金属表面処理用組成物、金属表面処理方法、及び金属材料を提供すること。
【解決手段】金属表面処理用組成物は、ジルコニウム化合物及び/又はチタン化合物と、オルガノシランの重縮合物であり且つ1分子中に少なくとも2つのアミノ基を有するオルガノシロキサンと、を含有し、下記数式(1)で表される前記オルガノシロキサンの重縮合率は、40%以上であり、金属表面処理用組成物中におけるジルコニウム化合物及び/又はチタン化合物の含有量、並びに金属表面処理用組成物中におけるオルガノシロキサンの含有量が、所定の含有量であり、オルガノシロキサン中に含まれるケイ素元素に対する、ジルコニウム化合物及び/又はチタン化合物中に含まれるジルコニウム元素及び/又はチタン元素の質量比が所定の質量比である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属の表面処理に用いられる金属表面処理用組成物、この金属表面処理用組成物を用いて金属材料の表面処理を行う金属表面処理方法、及びこの金属表面処理方法により処理されてなる金属材料に関する。
【背景技術】
【0002】
一般的に、被処理物に塗装を施す場合、耐食性及び塗膜の密着性を確保する観点から、表面処理が施される。特に、金属(金属材料、金属構造物)を塗装する場合には、金属表面に化学的に化成皮膜を形成する化成処理(表面処理)が施される。
【0003】
その化成処理の一例としては、クロム酸塩によるクロメート化成処理があるが、クロムによる有害性が指摘されるようになっており、近年、クロムを含まない処理剤(表面処理剤、化成処理剤)としてリン酸亜鉛系処理剤による処理(リン酸亜鉛処理)が広く行われている(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
しかしながら、リン酸亜鉛系処理剤は、金属イオン及び酸濃度が高く非常に反応性の高い処理剤であるため、排水処理における経済性、作業性が良好でない。また、リン酸亜鉛系処理剤による金属表面処理に伴っては、水に不溶な塩類が生成して沈殿となって析出する。このような沈殿物は、一般にスラッジと呼ばれ、このようなスラッジを除去し、廃棄することによるコストの発生等が問題とされている。また、リン酸イオンは、富栄養化によって環境に対して負荷を与えるおそれがあるため、廃液の処理に際して労力を要し、使用しないことが好ましい。さらに、リン酸亜鉛系処理剤による金属表面処理においては、表面調整を行うことが必要とされており、工程が長くなるという問題もある。
【0005】
このようなリン酸亜鉛系処理剤又はクロメート化成処理剤以外の処理剤として、ジルコニウム化合物を含む化成処理剤が知られている(例えば、特許文献2参照)。このジルコニウム化合物からなる化成処理剤は、金属イオン濃度及び酸濃度がそれほど高くなく反応性もあまり高くない処理剤であり、排水処理における経済性、作業性が良好である。また、スラッジの発生が抑制される点で上述したようなリン酸亜鉛系処理剤に比べて優れた性質を有している。
【0006】
しかしながら、リン酸亜鉛系処理剤に比してジルコニウム化合物からなる処理剤によって得られた化成皮膜は、カチオン電着塗装等により得られる塗膜との密着性が良好であるとは言えない。そこで、このようなジルコニウム化合物からなる処理剤においては、リン酸イオン等の成分を併用することによって、密着性の向上や耐食性を改善することが行われている。しかしながら、リン酸イオンを併用した場合、上述したような富栄養化という問題が生じる。
【0007】
また、密着性の向上を改善するために、ジルコニウム化合物とともにアミノ基含有シランカップリング剤を含有した化成処理剤が提供されている(例えば、特許文献3参照)。この化成処理剤によれば、ジルコニウムは化成皮膜の形成成分として作用し、アミノ基含有シランカップリング剤は、金属材料の表面ばかりでなく、化成処理の後に形成される塗膜に作用することにより、化成皮膜と塗膜との密着性を向上させることができる。
【特許文献1】特開平10−204649号公報
【特許文献2】特開平7−310189号公報
【特許文献3】特開2004−218070号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、高度な表面処理技術が要求されている現状においては、更なる素地隠蔽性、塗膜密着性及び耐食性を得ることができるジルコニウム系の金属表面処理用組成物の開発が望まれている。
【0009】
また、金属表面処理用組成物を繰り返し用いる場合において、金属表面処理用組成物の貯蔵安定性が悪いと、使用を始めてから短期間に劣化し、使用開始当初のような素地隠蔽性、塗膜密着性及び耐食性の得られる化成皮膜が形成されなくなるという問題があるため、金属表面処理用組成物における貯蔵安定性が望まれていた。中でも自動車車体・部品等の大型金属材料用の金属表面処理用組成物等は、処理浴の容量が大きいために、特に処理液の寿命が長いことが望まれていた。
【0010】
本発明は、以上のような課題に鑑みてなされたものであり、その目的は、ジルコニウム及び/又はチタン化合物を含む金属表面処理用組成物であって、更なる素地隠蔽性、塗膜密着性、及び耐食性を得ることができる化成皮膜を形成可能で、貯蔵安定性にも優れる金属表面処理用組成物、この金属表面処理用組成物を用いて金属材料の表面処理を行う金属表面処理方法、及びこの金属表面処理方法により処理されてなる金属材料を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意研究を重ねた。その結果、ジルコニウム及び/又はチタン系の金属表面処理用組成物において、オルガノシランの重縮合物であり且つ1分子中に少なくとも2つのアミノ基を有すオルガノシロキサンを含有させ、ジルコニウム元素及び/又はチタン元素の含有量、オルガノシロキサンの含有量、オルガノシロキサンに対するジルコニウム元素及び/又はチタン元素の質量比、及び、重縮合率を特定することにより、上記課題を解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。より具体的には、本発明は以下のようなものを提供する。
【0012】
(1) 金属の表面処理に用いられる金属表面処理用組成物であって、ジルコニウム化合物及び/又はチタン化合物と、オルガノシランの重縮合物であり且つ1分子中に少なくとも2つのアミノ基を有するオルガノシロキサンと、を含有し、下記数式(1)で表される前記オルガノシロキサンの重縮合率は、40%以上であり、前記金属表面処理用組成物中における前記ジルコニウム化合物及び/又はチタン化合物の含有量は、金属元素換算で10ppm以上10000ppm以下であり、前記金属表面処理用組成物中における前記オルガノシロキサンの含有量は、ケイ素元素換算で1ppm以上2000ppm以下であり、前記オルガノシロキサン中に含まれるケイ素元素に対する、前記ジルコニウム化合物及び/又はチタン化合物中に含まれるジルコニウム元素及び/又はチタン元素の質量比は、0.5以上500以下である金属表面処理用組成物。
【数1】

(数式(1)中、オルガノシロキサン質量は、2量体以上のオルガノシロキサンの質量であり、未反応オルガノシランの質量を含まない。)
【0013】
(2) 前記オルガノシロキサンにおいて、未反応オルガノシラン及びオルガノシランの2量体に対する、前記オルガノシランの3量体以上の多量体の質量比は、1以上である(1)記載の金属表面処理用組成物。
【0014】
(3) 前記オルガシランは、アミノ基及び/又はイミノ基を合計2つ以上有するものである(1)又は(2)記載の金属表面処理用組成物。
【0015】
(4) 前記オルガノシロキサンは、オルガノシランに解離しにくいものである(1)から(3)いずれか記載の金属表面処理用組成物。
【0016】
(5) 前記オルガノシランは、末端にアミノ基を有し、当該アミノ基の窒素原子とシリル基のケイ素原子とが、原子4個分以上離れているものである(4)記載の金属表面処理用組成物。
【0017】
(6) 前記オルガノシロキサンは、分岐構造を有する(4)又は(5)記載の金属表面処理用組成物。
【0018】
(7) 前記オルガノシロキサンにおいて、シロキサン結合を構成する酸素原子を介して他の2個以上のケイ素原子と結合するケイ素原子の割合が、前記金属表面処理用組成物中に含まれるオルガノシロキサン及び未反応のオルガノシランが有するケイ素原子の総量に対して20モル%以上である(4)から(6)いずれか記載の金属表面処理用組成物。
【0019】
(8) 前記オルガノシロキサンにおいて、シロキサン結合を構成する酸素原子を介して他の3個以上のケイ素原子と結合するケイ素原子の割合が、前記金属表面処理用組成物中に含まれるオルガノシロキサン及び未反応のオルガノシランが有するケイ素原子の総量に対して10モル%以上である(7)記載の金属表面処理用組成物。
【0020】
(9) 前記金属表面処理用組成物のpHは、1.5以上6.5以下である(1)から(8)いずれか記載の金属表面処理用組成物。
【0021】
(10) フッ素化合物をさらに含有し、前記金属表面処理用組成物中における遊離フッ素元素の含有量は、0.01ppm以上100ppm以下である(1)から(9)いずれか記載の金属表面処理用組成物。
【0022】
(11) 前記金属表面処理用組成物は、硝酸、亜硝酸、硫酸、亜硫酸、過硫酸、リン酸、カルボン酸基含有化合物、スルホン酸基含有化合物、塩酸、臭素酸、塩素酸、過酸化水素、HMnO、HVO、HWO、及び、HMoO、並びに、これらの塩類よりなる群から選ばれる少なくとも1種の酸化剤をさらに含有する(1)から(10)いずれか記載の金属表面処理用組成物。
【0023】
(12) マグネシウム、亜鉛、カルシウム、アルミニウム、ガリウム、インジウム、銅、鉄、マンガン、ニッケル、コバルト、セリウム、ストロンチウム、希土類元素、スズ、ビスマス、及び、銀よりなる群から選ばれる少なくとも1種の金属元素をさらに含有する(1)から(11)いずれか記載の金属表面処理用組成物。
【0024】
(13) 前記金属表面処理用組成物は、ノニオン系界面活性剤、アニオン系界面活性剤、カチオン系界面活性剤、及び、両面活性剤よりなる群から選ばれる少なくとも1種をさらに含有する(1)から(12)いずれか記載の金属表面処理用組成物。
【0025】
(14) 金属材料の表面を処理する金属表面処理方法であって、(1)から(13)いずれか記載の金属表面処理用組成物を含む金属表面処理液を前記金属材料に接触させる処理液接触工程と、前記処理液接触工程を経た金属材料を水洗する水洗工程と、を含む金属表面処理方法。
【0026】
(15) 前記処理液接触工程において、前記金属材料の脱脂処理を同時に行う(14)記載の金属表面処理方法。
【0027】
(16) 前記処理液接触工程において、前記金属材料を陰極として電解処理する(14)又は(15)記載の金属表面処理方法。
【0028】
(17) 前記水洗工程を経た金属材料に、コバルト、ニッケル、スズ、銅、チタン、及び、ジルコニウムからなる群より選ばれる少なくとも1種を含有する酸性水溶液を接触させる酸接触工程を含む(14)から(16)いずれか記載の金属表面処理方法。
【0029】
(18) 前記水洗工程を経た金属材料に、水溶性高分子化合物及び水分散性高分子化合物のうち少なくとも一方を含有する高分子含有液を接触させる高分子含有液接触工程を含む(14)から(17)いずれか記載の金属表面処理方法。
【0030】
(19) (14)から(18)いずれか記載の金属表面処理方法により処理されてなる金属材料。
【0031】
(20) 鉄系又は亜鉛系の金属材料表面に表面処理皮膜層を有する(19)記載の金属材料であって、ジルコニウム元素及び/又はチタン元素を10mg/m以上含有し、ケイ素元素を0.5mg/m以上含有する表面処理皮膜層を有する金属材料。
【0032】
(21) アルミニウム系又はマグネシウム系の金属材料表面に表面処理皮膜層を有する(19)記載の金属材料であって、ジルコニウム元素及び/又はチタン元素を5mg/m以上含有し、ケイ素元素を0.5mg/m以上含有する表面処理皮膜層を有する金属材料。
【0033】
(22) ケイ素元素に対するジルコニウム元素及び/又はチタン元素質量比は、0.5以上50以下である(20)又は(21)記載の金属材料。
【0034】
(23) (14)から(18)いずれか記載の金属表面処理方法により金属材料を表面処理したのち、塗装を施す金属材料の塗装方法。
【発明の効果】
【0035】
本発明によれば、ジルコニウム及び/又はチタン系の金属表面処理用組成物において、オルガノシランの重縮合物であり且つ1分子中に少なくとも2つのアミノ基を有するオルガノシロキサンを含有させ、ジルコニウム元素及び/又はチタン元素の含有量、オルガノシロキサンの含有量、及び、オルガノシロキサン中に含まれるケイ素元素に対するジルコニウム元素及び/又はチタン元素の質量比を特定することにより、更なる素地隠蔽性、塗膜密着性、及び、耐食性を得ることができる化成皮膜を形成でき、貯蔵安定性にも優れる金属表面処理用組成物を提供できる。
【0036】
さらに、この金属表面処理用組成物を用いて金属材料の表面処理を行う金属表面処理方法、この金属表面処理方法により処理されてなる金属材料、及びこの金属材料への塗装方法を提供できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0037】
以下、本発明の実施形態について詳細に説明する。
【0038】
<金属表面処理用組成物>
本実施形態に係る金属表面処理用組成物は、金属の表面処理に用いられるものであり、ジルコニウム化合物及び/又はチタン化合物と、アミノ基を有するオルガノシロキサンと、を含有するものである。
【0039】
また、本実施形態に係る金属表面処理用組成物は、水で希釈、調製されて金属表面処理液とされ、金属の表面処理に供される。
【0040】
[ジルコニウム化合物及び/又はチタン化合物成分]
前記金属表面処理用組成物に含まれるジルコニウム化合物及び/又はチタン化合物成分由来のジルコニウム及び/又はチタンは、化成皮膜形成成分である。金属材料にジルコニウム及び/又はチタンを含む化成皮膜が形成されることにより、金属材料の耐食性や耐磨耗性を向上させることができる。
【0041】
本実施形態に係るジルコニウム及び/又はチタンを含む金属表面処理用組成物により金属材料の表面処理を行うと、金属材料を構成する金属の溶解反応が起こる。金属の溶解反応が起こると、ジルコニウム及び/又はチタンのフッ化物を含む場合は、金属表面処理用組成物中に溶出した金属イオンがZrF2−及び/又はTiF2−のフッ素を引き抜くことにより、また、界面のpHが上昇することにより、ジルコニウム及び/又はチタンの水酸化物又は酸化物が生成する。そして、このジルコニウム及び/又はチタンの水酸化物又は酸化物が金属材料の表面に析出する。本実施形態に係る金属表面処理用組成物は反応型化成処理剤であるため、複雑な形状を有する金属材料の化成処理にも用いることができる。また、化学反応により強固に金属材料に付着した化成皮膜を得ることができるため、化成処理後に水洗を行うことも可能である。
【0042】
ジルコニウム化合物としては特に限定されるものではないが、例えば、KZrF等のアルカリ金属フルオロジルコネート、(NHZrF等のフルオロジルコネート、HZrF等の可溶性フルオロジルコネート、フッ化ジルコニウム、酸化ジルコニウム、硝酸ジルコニル、炭酸ジルコニウム、等を挙げることができる。
【0043】
チタン化合物としては特に限定されるものではないが、例えば、アルカリ金属フルオロチタネート、(NHTiF等のフルオロチタネート、HTiF等のフルオロチタネート酸等の可溶性フルオロチタネート等、フッ化チタン、酸化チタン、等を挙げることができる。
【0044】
[ジルコニウム及び/又はチタンの含有量]
本実施形態に係る金属表面処理用組成物中におけるジルコニウム及び/又はチタンの含有量は、金属元素換算で10ppm以上10000ppm以下の範囲内である。10ppm未満であると、金属材料上に十分な皮膜量が得られず、一方で10000ppmを超えると、それ以上の効果は望めず経済的に不利となる。より好ましくは、金属元素換算で50ppm以上1000ppm以下、さらに好ましくは金属元素換算で50ppm以上600ppm以下である。
【0045】
[オルガノシロキサン]
本実施形態に係る金属表面処理用組成物は、オルガノシランの重縮合物であり且つ1分子中に少なくとも2つのアミノ基を有するオルガノシロキサンを含有する。上記オルガノシランとしては、例えば、下記一般式(1)で表されるものが挙げられる。
【化1】

(一般式(1)中、mは、0、1、2であり、Rは、−Cl、−SH、−N=C=O、−NH、−CH=CH、又は、下記化学式(2)から(9)及び一般式(10)で表される置換基であり、Rは炭素数1〜6のアルキレン基又はアミノアルキル基を表し、Rは、−OH、−OR、又は−R(R、Rは炭素数1〜6のアルキル基を表す。)を表し、Rは、炭素数1〜3のアルキル基を表す。)
【化2】

(一般式(10)中、Rは、水素原子、炭素数1〜6のアミノアルキル基、又は、炭素数1〜6のアルキル基であり、Rは、水素原子、又は、炭素数1〜6のアミノアルキル基を表す。)
【0046】
具体的なオルガノシランとしては、例えば、ビニルトリクロルシラン、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、2−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3−グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、3−グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、p−スチリルトリメトキシシラン、3−メタクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン、3−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、3−メタクリロキシプロピルメチルジエトキシシラン、3−メタクリロキシプロピルトリエトキシシラン、3−アクリロキシプロピルトリメトキシシラン、N−(2−アミノエチル)−3−アミノプロピルメチルジメトキシシラン、N−(2−アミノエチル)−3−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−(2−アミノエチル)−3−アミノプロピルトリエトキシシラン、3−アミノプロピルトリメトキシシラン、3−アミノプロピルトリエトキシシラン、3−トリエトキシシリル−N−(1,3−ジメチル−ブチリデン)プロピルアミン、N−フェニル−3−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−(ビニルベンジル)−2−アミノエチル−3−アミノプロピルトリメトキシシランの塩酸塩、3−ウレイドプロピルトリエトキシシラン、3−クロロプロピルトリメトキシシラン、3−メルカプトプロピルメチルジメトキシシラン、3−メルカプトプロピルトリメトキシシラン、ビス(トリエトキシシリルプロピル)テトラスルフィド、3−イソシアネートプロピルトリエトキシシラン等を挙げることができ、市販されているシランカップリング剤を使用することができる。シランカップリング剤としては、アミノ基含有シランカップリング剤であるKBM−403、KBM−602、KBM−603、KBE−603、KBM−903、KBE−903、KBE−9103、KBM−573(以上信越化学工業社製)、XS1003(チッソ社製)等を使用することができる。
【0047】
オルガノシロキサンは、金属材料の表面と、金属表面処理の後に形成される塗膜の双方に作用するため、両者の密着性を向上させることができる。このような効果は、オルガノシロキサン中のアルコキシ基が加水分解してシラノールを生成し、このシラノールが、金属材料の表面と水素結合的に作用すること、及び、オルガノシランが有するアミノ基が塗膜に化学結合的に又は水素結合的に作用することにより、塗膜と金属材料の密着性が高まるために生じると推測される。即ち、化成皮膜中に含まれるオルガノシロキサンが、金属材料及び塗膜の双方に作用することによって、相互の密着性が向上するものと考えられる。
【0048】
上記1分子中に、少なくとも2つのアミノ基を有するオルガノシロキサンは、アミノ基を有するオルガノシランを重縮合することにより得られる。オルガノシロキサンは単縮合物であっても共縮合物であってもよいが、共縮合物である場合は、用いる2種以上のオルガノシランのうち、少なくとも1種がアミノ基を有するものであればよい。アミノ基を有しないオルガノシランとアミノ基を有するオルガノシランとを共縮合させて1分子中に少なくとも2つのアミノ基が含まれるように調製する場合は、金属表面処理用組成物に、アミノ基以外の官能基に基づく特性を付与することができる。
【0049】
当該アミノ基を含有するオルガノシランとしては、アミノ基及び/又はイミノ基を有するオルガノシランが該当し、上記一般式(1)においては、Rがアミノ基又はアミノ基を含む原子団であるオルガノシラン、Rがイミノ基又はイミノ基を含む原子団であるオルガノシランが該当する。末端にアミノ基を有するオルガノシランを用いても、或いは、上述のイミノ基を有するオルガノシランを用いても、上述したような塗膜との密着性の効果が得られると考えられるが、末端にアミノ基を有するオルガノシランを用いるほうが格段に効果が大きいと考えられる。
【0050】
本実施形態で用いるオルガノシロキサンにおいては、オルガノシランが1分子中に前記アミノ基及び/又は前記イミノ基を合計2つ以上有するものであることが好ましい。末端に結合するアミノ基を2つ以上有するオルガノシランを用いることにより、当該オルガノシロキサンにおけるアミノ基及び/又はイミノ基の数を多くすることができるので、上記のように、塗膜との密着性がより向上すると考えられる。
【0051】
アミノ基を有する前記オルガノシランとしては、上記一般式(1)のオルガノシランとして、m=0、Rが−NHCNH、Rが−CNHC−、Rがメチル基のN−(2−アミノエチル)−3−アミノプロピルトリメトキシシラン、又は、m=0、Rが−NH、Rがプロピレン基、Rがメチル基の3−アミノプロピルトリエトキシシランの他、N−(2−アミノエチル)−3−アミノプロピルメチルジメトキシシラン、N−(2−アミノエチル)−3−アミノプロピルトリエトキシシラン、及び3−アミノプロピルトリメトキシシランが好ましい。
【0052】
これらオルガノシランの重縮合物であり且つ1分子中に少なくとも2つのアミノ基を有するオルガノシロキサンの一例としては、下記一般式(11)から(15)のような構造のものが挙げられるが、5量体以上のオルガノシロキサンであってもよい。尚、下記一般式(11)から(15)において、Rは、例えば、−CNHCNH、又は−CNHであることができる。
【化3】

【0053】
本実施形態のオルガノシロキサンは、少なくとも2つのアミノ基を一分子中に持ち合わせる。オルガノシロキサンが有する少なくとも2つのアミノ基は塗膜との密着性向上に寄与し、加えて、アミノ基の塩基性によって、ジルコニウム又はチタニウムの化成皮膜形成時にオルガノシロキサンを共沈させて皮膜に析出し易くすると考えられる。従って、上記一般式(1)で表されるオルガノシランの単独縮合物、又は、上記一般式(1)で表されるオルガノシランの共縮合物であるオルガノシロキサンを含有する金属表面処理用組成物は、皮膜析出向上と密着性の向上が可能となる。
【0054】
また、本実施形態で用いられるオルガノシロキサンは、上記一般式(1)で表されるオルガノシランの重縮合物であり且つ1分子中に少なくとも2つのアミノ基を有するため、一旦ポリマー化すると、希釈しても容易に加水分解することはなく、容易にモノマー化することはないと考えられる。このようにオルガノシロキサンが水溶液中で安定な理由としては、オルガノシロキサンのSi−O−Siの結合エネルギーがSi−O−Cの結合エネルギーと比較して大変大きいためである。さらには、アミノ基を有するオルガノシロキサンが水溶液中で安定な理由としては、アミノ基によるシラノールの中和効果、及び、窒素原子上の不対電子がケイ素原子上に配位してシラノールの分極を緩和させる効果によるものと推測される。かかる効果は、上記末端に結合するアミノ基によっても、上記イミノ基によっても奏されると推測される。従って、金属表面処理用組成物中に配合された場合であっても、上記オルガノシロキサンは比較的安定に存在するため、化成皮膜中に有効に取り込まれて化成皮膜の密着性の向上に寄与すると考えられる。
【0055】
本実施形態の金属表面処理用組成物は、オルガノシロキサンの重縮合反応における未反応オルガノシランをさらに含有するものであってもよい。未反応オルガノシランとは、重縮合していないオルガノシランをいい、重縮合により一旦オルガノシロキサンとなった後に加水分解されて生じたオルガノシランを含む。
【0056】
上記オルガノシロキサンと同様に、未反応オルガノシランには、アミノ基を有するオルガノシランが含まれるため、化成皮膜中に取り込まれた場合には密着性の向上に寄与すると考えられる。しかしながら、この未反応オルガノシランは、上記オルガノシロキサンに比して、化成皮膜中に取り込まれ難い傾向がある。これは、オルガノシランよりもオルガノシロキサンの方が重縮合している分、1分子当りのアミノ基の数が多いため、上述したアミノ基又はイミノ基の作用により、オルガノシランよりもオルガノシロキサンの方がジルコニウム又はチタニウムの化成皮膜形成時に共沈して皮膜に析出し易いからだと考えられる。従って、本実施形態のように未反応オルガノシランを含有する場合には、下記数式(1)で表されるオルガノシロキサンの重縮合率が、密着性を向上させるための重要な要素となる。即ち、オルガノシロキサンの重縮合率を適度に制御することによって、密着性を向上させることが可能となる。
【0057】
【数2】

(数式(1)中、オルガノシロキサン質量は、2量体以上のオルガノシロキサンの質量であり、未反応オルガノシランの質量を含まない。)
【0058】
具体的には、重縮合率は、40%以上であることが好ましい。重縮合率が40%未満であると、皮膜中に取り込まれるオルガノシロキサンの量が少ないため、密着性を向上させることができないおそれがある。重縮合率は、50%以上であることが好ましく、70%以上であることがより好ましく、80%以上であることがさらに好ましい。
【0059】
なお、オルガノシロキサンの重縮合率の評価は、オルガノシロキサンの29Si−NMRの測定により行われる。具体的には、原料のオルガノシランがR−Si(OR10(一般式中R10は、アルキル基)である場合、反応後の溶液において、R−Si(OR10(OH)3−m(m=0、1、2、又は3)であるもの、即ち、当該ケイ素原子がオルガノシロキサンを構成する他のケイ素原子と結合していないものを未反応オルガノシラン(モノマー)とし、それ以外を重縮合物のオルガノシロキサンとして、上記数式(1)より重縮合率を求めた。
【0060】
また、オルガノシロキサンにおいて、未反応オルガノシラン及びオルガノシランの2量体に対する、オルガノシランの3量体以上の多量体の質量比は、1以上であることが望ましい。1以上であると、1分子中に少なくとも2つのアミノ基を有する3量体以上の多量体が多く含まれることになるため、密着性をより向上させることができる。なお、オルガノシランの2量体(ダイマー)、多量体(ポリマー)の分析は、上記重縮合率の評価と同様に29Si−NMRの測定により行われる。
【0061】
上記オルガノシロキサンの分子量は、特に限定されないが、2量体以上、さらには3量体以上である方がジルコニウム及び/又はチタンの水酸化物又は酸化物に取り込まれ易い傾向にあり、皮膜との密着性を向上させるため好ましい。このため、オルガノシランを重縮合反応させる際には、オルガノシランがより加水分解し易く、重縮合し易い条件下で反応させることが好ましい。オルガノシランがより加水分解し易く、重縮合し易い条件下とは、例えば、溶媒をアルコールとした反応条件、上述したような単縮合よりも共縮合となるようなオルガノシランの配合による反応条件等である。また、オルガノシラン濃度が比較的高い条件下で反応させることによって、より高分子量化され重縮合率の高いオルガノシロキサンが得られる。具体的には、オルガノシラン濃度が5質量%以上70質量%以下の範囲内で重縮合反応させることが好ましい。当該オルガノシランの濃度としては、5質量%以上50質量%以下であることがより好ましく、5質量%以上40質量%以下であることがさらに好ましく、5質量%以上30質量%以下であることが特に好ましい。
【0062】
さらに、上記密着性に加え、貯蔵安定性のよい金属表面処理用組成物とするためには、上記オルガノシロキサンは、オルガノシランに解離しにくいものであることが好ましい。
【0063】
オルガノシランに解離しにくいオルガノシロキサンとは、シロキサン結合が加水分解されにくいか、シロキサン結合が加水分解されても、全てがオルガノシランモノマーにまでは完全に加水分解されにくいものをいい、具体的には、化学構造的に前記加水分解が生じにくいオルガノシロキサン、1回の加水分解によりオルガノシランモノマーにまでは解離されないオルガノシロキサン等をいう。
【0064】
オルガノシランに解離しにくいオルガノシロキサンとしては、
(i)末端アミノ基の窒素原子とシリル基のケイ素原子とが、原子4個分以上離れているオルガノシランの重縮合物であるオルガノシロキサン、
(ii)分岐構造を有するオルガノシロキサン、
(iii)オルガノシロキサンにおいて、シロキサン結合を構成する酸素原子を介して他の2個以上のケイ素原子と結合するケイ素原子の割合が、組成物中に含まれるオルガノシロキサン及び未反応のオルガノシランが有するケイ素原子の総量に対して20モル%以上であるオルガノシロキサン、が挙げられる。
【0065】
(i)末端アミノ基の窒素原子とシリル基のケイ素原子とが、原子4個分以上離れているオルガノシランの重縮合物であるオルガノシロキサンとは、下記一般式(16)に示すオルガノシランの重縮合物であって、R11として、4個以上の原子が結合しているものをいう。
【化4】

【0066】
11としては、例えば、主鎖の炭素数が4以上のアルキレン鎖、当該アルキレン鎖において、主鎖の一部として含まれる一のアルキレン鎖をイミノ基に置き換えたアミノアルキレン鎖等が該当する。R12は、炭素数1から3のアルキル基又は水素原子である。
【0067】
(i)のオルガノシロキサンとしては、例えば、N−(2−アミノエチル)−3−アミノプロピルメチルジメトキシシラン、N−(2−アミノエチル)−3−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−(2−アミノエチル)−3−アミノプロピルトリエトキシシランをオルガノシランとして用いたものが挙げられる。これらのオルガノシランはいずれも、末端アミノ基の窒素原子とシリル基のケイ素原子とが、原子6個分以上離れているため、これらを用いることにより、金属表面処理用組成物の貯蔵安定性が良好となる。さらに、これらのオルガノシランはいずれも、末端のアミノ基と、イミノ基とを有しているため、前述のように末端アミノ基とイミノ基に基づく塗膜との密着性も良好である。
【0068】
当該オルガノシロキサンを用いることが金属表面処理用組成物の貯蔵安定性を向上させるメカニズムは以下のとおりであると推測される。即ち、末端アミノ基の窒素原子とシリル基のケイ素原子との距離が原子3個分以下であると、希釈水溶液中では末端アミノ基がシロキサン結合を加水分解し、オルガノシロキサンとしてよりもオルガノシランとして単独で安定化するために、オルガノシロキサンの解離が進み易いと考えられるのに対し、末端アミノ基の窒素原子とシリル基のケイ素原子との距離が原子4個分以上であると、末端アミノ基がシロキサン結合部分を加水分解し易い構造を形成しにくく、オルガノシロキサンの解離が進みにくいためであると推測される。
【0069】
ここで、当該オルガノシロキサンとしては、末端アミノ基の窒素原子とシリル基のケイ素原子との距離が原子4個分以上であるオルガノシランと、末端アミノ基の窒素原子とシリル基のケイ素原子との距離が原子3個分以下であるオルガノシランの共縮合物であってもよい。即ち、末端アミノ基の窒素原子とシリル基のケイ素原子とが、原子6個分以上離れているオルガノシランであるN−(2−アミノエチル)−3−アミノプロピルメチルジメトキシシラン、N−(2−アミノエチル)−3−アミノプロピルトリメトキシシラン、又はN−(2−アミノエチル)−3−アミノプロピルトリエトキシシランと、末端アミノ基の窒素原子とシリル基のケイ素原子とが、原子3個分離れている3−アミノプロピルトリメトキシシラン、又は3−アミノプロピルトリエトキシシランとの共縮合物であってもよい。
【0070】
(ii)分岐構造を有するオルガノシロキサンとは、オルガノシランの重縮合によってオルガノシロキサンが直鎖構造ではなく分岐構造となっているもの、又はオルガノシロキサンを構成するオルガノシラン自体に分岐があるものをいう。前者としては、例えば、前記一般式(13)及び(15)の構造のものが該当するが、5量体以上のオルガノシロキサンであってもよい。
【0071】
オルガノシロキサンが分岐構造を有することが金属表面処理用組成物の貯蔵安定性を向上させるメカニズムは、当該オルガノシロキサンが分岐構造であると、そのシロキサン結合が立体障害により加水分解されにくい立体構造をとること、或いは分岐構造を有するオルガノシロキサンは、一回の加水分解では全てがオルガノシランにまで分解されないためであると推測される。
【0072】
分岐構造を有するオルガノシロキサンを得るためには、重縮合反応の際に、オルガノシラン濃度を3質量%以上にする手段、及び/又はpHを6〜14に調整する手段が有効である。オルガノシランの濃度が3質量%未満であると、縮合が進みにくいおそれがあり、pHが6未満であると、直鎖状に重縮合が進み易い。このときのオルガノシラン濃度としては、好ましくは5質量%以上、さらに好ましくは10質量%以上である。また、このときのpHとしては、好ましくは7〜13、より好ましくは8〜13である。
【0073】
(iii)オルガノシロキサンにおいて、シロキサン結合を構成する酸素原子を介して他の2個以上のケイ素原子と結合するケイ素原子とは、次のとおりである。例えば、オルガノシロキサンが、ケイ素原子に結合するアルコキシ基を3個有するオルガノシランの重縮合物である場合、即ち、上記一般式(1)においてmが0であるオルガノシランの重縮合物であるときは、「オルガノシロキサンにおいて、シロキサン結合を構成する酸素原子を介して他の2個のケイ素原子と結合するケイ素原子」としては、当該アルコキシ基が加水分解されてなる3個のシラノール基のうち、縮合してシロキサン結合を形成していないシラノール基が1個であるケイ素原子が該当する。
【0074】
従って、例えば、上記一般式(11)〜(15)に示したオルガノシロキサンでは、上記一般式(12)における中央のケイ素原子、上記一般式(14)における両端のケイ素原子を除いた中央の2つのケイ素原子、上記一般式(15)における4つのケイ素原子全部が該当する。
【0075】
また、「オルガノシロキサンにおいて、シロキサン結合を構成する酸素原子を介して他の3個のケイ素原子と結合するケイ素原子」としては、当該アルコキシ基が加水分解されてなる3個のシラノール基のうち、縮合してシロキサン結合を形成していないシラノール基が0個であるケイ素原子が該当する。
【0076】
従って、例えば、上記一般式(13)における端部の3個のケイ素原子を除いた中央のケイ素原子が該当する。
【0077】
オルガノシロキサンがケイ素原子に結合するアルコキシ基を2個有するオルガノシランの重縮合物であるとき、即ち、上記一般式(1)においてmが1であるオルガノシランの重縮合物であるときは、「オルガノシロキサンにおいて、シロキサン結合を構成する酸素原子を介して他の2個のケイ素原子と結合するケイ素原子」としては、当該アルコキシ基が加水分解されてなる2個のシラノール基のうち、縮合してシロキサン結合を形成していないシラノール基が0個であるケイ素原子が該当する。
【0078】
「オルガノシロキサンにおいて、シロキサン結合を構成する酸素原子を介して他の2個のケイ素原子と結合するケイ素原子」の存在は、当該オルガノシロキサンが、少なくも3量体以上であることを示すものである。オルガノシロキサンにおいて、3量体以上の多量体の割合が多いことは、密着性を向上させるだけでなく、金属表面処理用組成物の貯蔵安定性を向上させるものであると考えられる。かかる貯蔵安定性向上のメカニズムとしては、オルガノシロキサンが3量体以上の多量体であると、シロキサン結合が加水分解されにくい構造をとり易く、また、加水分解されたとしても、一回の加水分解では全てがオルガノシランにまで解離されないためと推測される。
【0079】
「オルガノシロキサンにおいて、シロキサン結合を構成する酸素原子を介して他の2個のケイ素原子と結合するケイ素原子」の割合は、金属表面処理用組成物中に含まれるオルガノシロキサン及び未反応のオルガノシランが有するケイ素原子の総量に対して、好ましくは25モル%以上であり、より好ましくは30モル%以上であり、さらに好ましくは35モル%以上であり、特に好ましくは40モル%以上である。
【0080】
上記のように、オルガノシロキサンの重合の度合いが大きければ、貯蔵安定性が向上すると考えられることから、「オルガノシロキサンにおいて、シロキサン結合を構成する酸素原子を介して他の3個のケイ素原子と結合するケイ素原子」の割合は、金属表面処理用組成物中に含まれるオルガノシロキサン及び未反応のオルガノシランが有するケイ素原子の総量に対して、好ましくは10モル%以上であり、より好ましくは15モル%以上であり、さらに好ましくは20モル%以上であり、よりさらに好ましくは30モル%以上であり、特に好ましくは50モル%以上である。
【0081】
オルガノシロキサンが、前記(i)、(ii)及び(iii)のいずれかを満たせば、さらに他の(i)、(ii)及び(iii)のいずれをも満たさなくても、貯蔵安定性のある金属表面処理用組成物を得ることができるが、前記(i)、(ii)及び(iii)のうち、2以上を満たすことがより好ましい。
【0082】
例えば、オルガノシロキサンが、前記(ii)のオルガノシロキサンであって、且つ(iii)のオルガノシロキサンであることがより好ましい。4量体以上の多量体が分岐構造を有することにより、さらに解離しにくい立体構造をとると考えられるためである。
【0083】
さらに、オルガノシロキサンが、前記(i)のオルガノシロキサンであって、且つ前記(ii)及び/又は前記(iii)のオルガノシロキサンであることもより好ましい。この場合、オルガノシランに解離しにくい立体構造に加え、さらに末端アミノ基の窒素原子とシリル基のケイ素原子との間の主鎖において、4個以上の原子があることによる効果が得られる。
【0084】
本実施形態の金属表面処理用組成物中におけるオルガノシロキサンの含有量は、ケイ素元素換算で1ppm以上2000ppm以下である。1ppm未満であると密着性が低下し、2000ppmを超えると、それ以上の効果は望めず経済的に不利となる。より好ましくは、5ppm以上500ppm以下であり、さらに好ましくは、10pm以上200ppm以下である。
【0085】
[ケイ素元素に対する、ジルコニウム元素及び/又はチタン元素の質量比]
上記オルガノシロキサン中に含まれるケイ素元素に対する、ジルコニウム化合物及び/又はチタン化合物中に含まれるジルコニウム元素及び/又はチタン元素の質量比は、0.5以上500以下である。0.5未満であると、ジルコニウム及び/又はチタンによる化成皮膜の形成が阻害されるとともに、オルガノシロキサンによる皮膜形成も阻害されるため、密着性及び耐食性が低下する。また、500を超えるとオルガノシロキサンが十分皮膜に取り込まれないため密着性を発揮できない。
【0086】
ここで、金属表面処理用組成物中には、オルガノシロキサンの重縮合反応における未反応オルガノシランが存在し得るが、前記オルガノシロキサンの含有量、及びケイ素元素に対するジルコニウム元素及び/又はチタン元素の質量比におけるケイ素元素含有量は、これらのオルガノシランも含めたケイ素元素換算の含有量を意味する。
【0087】
[遊離フッ素成分]
本実施形態に係る金属表面処理用組成物には、フッ素化合物をさらに含有させることもできる。フッ素化合物から生じるフッ素元素は、金属材料のエッチング剤としての役割の他、ジルコニウム及び/又はチタンの錯化剤としての役割を果たすものである。フッ素元素の供給源であるフッ素化合物としては、特に限定されず、例えば、フッ化水素酸、フッ化アンモニウム、フッ化ホウ素酸、フッ化水素アンモニウム、フッ化ナトリウム、フッ化水素ナトリウム等のフッ化物を挙げることができる。また、錯フッ化物を供給源とすることも可能であり、例えば、ヘキサフルオロケイ酸塩、具体的には、ケイフッ化水素酸、ケイフッ化水素酸亜鉛、ケイフッ化水素酸マンガン、ケイフッ化水素酸マグネシウム、ケイフッ化水素酸ニッケル、ケイフッ化水素酸鉄、ケイフッ化水素酸カルシウム等を挙げることができる。
【0088】
[遊離フッ素成分の含有量]
本実施形態に係る金属表面処理用組成物における遊離フッ素元素の含有量は、0.01ppm以上100ppm以下であることが好ましい。ここで、「遊離フッ素元素の含有量」とは、金属表面処理用組成物中で遊離状態にあるフッ素イオンの濃度を意味し、フッ素イオン電極を有するメーターで測定することにより求められる。金属表面処理用組成物中における遊離フッ素元素の含有量が0.01ppm未満であると、不安定となり沈殿が生じる場合があるうえ、エッチング力が低下して十分に皮膜形成が行われないおそれがある。一方で、100ppmを超えると、エッチング過多となりジルコニウムの皮膜形成が充分に行われないおそれがある。金属表面処理用組成物中における遊離フッ素元素の含有量は、0.1ppm以上20ppm以下であることがより好ましい。
【0089】
[金属表面処理用組成物のpH]
本実施形態で用いられる金属表面処理用組成物のpHは、1.5以上6.5以下であることが好ましい。pHが1.5未満であると、エッチングが過剰となり充分な皮膜形成が行われないおそれがある他、皮膜が不均一となり、塗膜外観に悪影響を与える場合がある。一方で、6.5を超えると、エッチングが不充分となり良好な化成皮膜が得られない。pHは、2.0以上5.0以下であることがより好ましく、2.5以上4.5以下であることがさらに好ましい。なお、金属表面処理用組成物のpHは、硝酸、硫酸等の酸性化合物、及び、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、アンモニア等の塩基性化合物を使用して適宜調整することができる。
【0090】
[界面活性剤]
また、本実施形態に係る金属表面処理用組成物には、ノニオン系界面活性剤、アニオン系界面活性剤、カチオン系界面活性剤、両性界面活性剤を含有することができる。ノニオン系界面活性剤、アニオン系界面活性剤、カチオン系界面活性剤、両性界面活性剤としては、それぞれ従来公知のものを用いることができる。本実施形態に用いられる金属表面処理用組成物がこれらの界面活性剤を含有する場合は、金属材料をあらかじめ脱脂処理し、清浄化しておかなくても、良好な皮膜を形成させることができる。
【0091】
[金属元素]
本実施形態に係る金属表面処理用組成物には、塗膜に密着性及び耐食性を付与させることが可能である金属元素を含有させることができる。化成処理剤である金属表面処理用組成物に含有させることのできる金属元素としては、マグネシウム、亜鉛、カルシウム、アルミニウム、ガリウム、インジウム、銅、鉄、マンガン、ニッケル、コバルト、セリウム、ストロンチウム、希土類元素、スズ、ビスマス、及び、銀が挙げられる。
【0092】
[酸化剤]
また、本実施形態に係る金属表面処理用組成物には、皮膜形成反応を促進するための酸化剤を含有させることができる。金属表面処理用組成物に含有させることのできる酸化剤としては、硝酸、亜硝酸、硫酸、亜硫酸、過硫酸、リン酸、カルボン酸基含有化合物、スルホン酸基含有化合物、塩酸、臭素酸、塩素酸、過酸化水素、HMnO、HVO、HWO、及び、HMoO、並びに、これらの酸素酸の塩類が挙げられる。
【0093】
<金属表面処理方法>
本実施形態の金属表面処理方法は、本実施形態に係る金属表面処理用組成物を含む金属表面処理液を金属材料に接触させることによって行われる。即ち、本実施形態に係る金属表面処理方法は、金属表面処理用組成物を含む金属表面処理液を金属材料に接触させる処理液接触工程を含む。処理液を接触させる方法の一例としては、浸漬法、スプレー法、ロールコート法、流しかけ処理法等を挙げることができる。
【0094】
[表面処理条件]
表面処理における処理温度は、20℃以上70℃以下の範囲内であることが好ましい。20℃未満では、十分な皮膜形成が行われない可能性があり、また、夏場に温度調整が必要になる等の不都合がある。また、70℃を超えても、特にそれ以上の効果は得られず、経済的に不利になるだけである。処理温度は、30℃以上50℃以下の範囲であることがより好ましい。
【0095】
表面処理における処理時間は、2秒以上1100秒以下の範囲内であることが好ましい。2秒未満では、十分な皮膜量が得られにくく、1100秒を超えても、それ以上の効果は得られにくいことがある。処理時間は、30秒以上120秒以下の範囲であることがより好ましい。
【0096】
本実施形態に係る金属表面処理方法は、従来から実用化されているリン酸亜鉛系化成処理剤による化成処理と異なり、前もって表面調整処理を行わなくてもよい。このため、より少ない工程で金属材料の化成処理を行うことが可能である。
【0097】
また、本実施形態に係る金属表面処理方法は、金属材料を陰極として電解処理することもできる。この場合、陰極である金属材料界面で水素の還元反応が起こり、pHが上昇する。pHの上昇に伴い、陰極界面でのジルコニウム及び/又はチタンの元素を含む化合物の安定性が低下し、酸化物又は水を含む水酸化物として、表面処理皮膜が析出する。
【0098】
[金属材料]
本実施形態に係る金属表面処理方法において用いられる金属材料としては、特に限定されるものではないが、例えば、鋼板、アルミニウム板等を挙げることができる。鋼板は、冷延鋼板又は熱延鋼板、及び軟鋼板又は高張力鋼板のいずれをも含むものであり、特に限定されず、例えば鉄系基材(鉄系金属材料)、アルミニウム系基材(アルミニウム系金属材料)、亜鉛系基材(亜鉛系金属材料)、及び、マグネシウム系基材(マグネシウム系金属材料)等を挙げることができる。鉄系基材とは鉄及び/又はその合金からなる基材(金属材料)、アルミニウム系基材とはアルミニウム及び/又はその合金からなる基材(金属材料)、亜鉛系基材とは亜鉛及び/又はその合金からなる基材(金属材料)を意味する。マグネシウム系基材とはマグネシウム及び/又はその合金からなる基材(金属材料)を意味する。
【0099】
また、本実施形態に係る金属表面処理方法は、鉄系基材、アルミニウム系基材、及び、亜鉛系基材等の複数の金属基材からなる金属材料に対しても、同時に適用することができる。特に、自動車車体や自動車用部品等は、鉄、亜鉛、アルミニウム等の種々の金属材料により構成されているが、本実施形態の金属表面処理方法によれば、十分な素地隠蔽性及び密着性を有する化成皮膜を形成することができ、良好な耐食性を付与できる。
【0100】
本実施形態に係る金属材料として用いられる鉄系基材としては、特に限定されず、例えば、冷延鋼板、熱延鋼板等を挙げることができる。また、アルミニウム系基材としては、特に限定されず、例えば、5000番系アルミニウム合金、6000番系アルミニウム合金、アルミニウム系の電気めっき、溶融めっき、蒸着めっき等のアルミニウムめっき鋼板等を挙げることができる。また、亜鉛系基材としては、特に限定されず、例えば、亜鉛めっき鋼板、亜鉛−ニッケルめっき鋼板、亜鉛−鉄めっき鋼板、亜鉛−クロムめっき鋼板、亜鉛−アルミニウムめっき鋼板、亜鉛−チタンめっき鋼板、亜鉛−マグネシウムめっき鋼板、亜鉛−マンガンめっき鋼板等の亜鉛系の電気めっき、溶融めっき、蒸着めっき鋼板等の亜鉛又は亜鉛系合金めっき鋼板等を挙げることができる。高張力鋼板としては、強度や製法により多種多様なグレードが存在するが、例えばJSC440J、440P、440W、590R、590T、590Y、780T、780Y、980Y、1180Y等を挙げることができる。
【0101】
[表面処理皮膜量]
冷延鋼板、熱延鋼板、鋳鉄、焼結材等の鉄系金属材料の耐食性を高め、均一な表面処理皮膜を形成し、良好な密着性を得るためには、鉄系金属材料表面に形成される表面処理皮膜層は、ジルコニウム元素及び/又はチタン元素を10mg/m以上含有し、ケイ素元素を0.5mg/m以上含有するのが好ましい。ジルコニウム元素及び/又はチタン元素を20mg/m以上含有し、ケイ素元素を1mg/m以上含有する表面処理皮膜層を有することがより好ましく、ジルコニウム元素及び/又はチタン元素を30mg/m以上含有し、ケイ素元素を1.5mg/m以上含有する表面処理皮膜層を有することがさらに好ましい。
【0102】
また、亜鉛又は亜鉛めっき鋼板、合金化溶融亜鉛めっき鋼板等の亜鉛系金属材料に良好な耐食性を付与する目的で、均一な化成皮膜を形成して良好な密着性を得るためには、亜鉛系金属材料表面に形成される表面処理皮膜層の皮膜量は、ジルコニウム及び/又はチタンを金属元素換算で10mg/m以上含有し、ケイ素元素を0.5mg/m以上含有するのが好ましい。ジルコニウム元素及び/又はチタン元素を20mg/m以上含有し、ケイ素元素を1mg/m以上含有する表面処理皮膜層を有することがより好ましく、さらには、ジルコニウム元素及び/又はチタン元素を30mg/m以上含有し、ケイ素元素を1.5mg/m以上含有する表面処理皮膜層を有することがさらに好ましい。
【0103】
さらに、アルミニウム鋳物、アルミニウム合金板等のアルミニウム系金属材料に良好な耐食性を付与する目的で、均一な化成皮膜を形成して良好な密着性を得るためには、アルミニウム系金属材料表面に形成される表面処理皮膜層の皮膜量は、ジルコニウム元素及び/又はチタン元素を5mg/m以上含有し、ケイ素元素を0.5mg/m以上含有するのが好ましい。ジルコニウム元素及び/又はチタン元素を10mg/m以上含有し、ケイ素元素を1mg/m以上含有する表面処理皮膜層を有することがより好ましい。
【0104】
さらに、マグネシウム合金板、マグネシウム鋳物等のマグネシウム系金属材料に良好な耐食性を付与する目的で、均一な化成皮膜を形成して良好な密着性を得るためには、マグネシウム系金属材料表面に形成される表面処理皮膜層の皮膜量は、ジルコニウム元素及び/又はチタン元素を5mg/m以上含有し、ケイ素元素を0.5mg/m以上含有するのが好ましい。ジルコニウム元素及び/又はチタン元素を10mg/m以上含有し、ケイ素元素を1mg/m以上含有する表面処理皮膜層を有することがより好ましい。
【0105】
いずれの金属材料においても、表面処理皮膜層の皮膜量の上限は特にないが、皮膜量が多すぎると、表面処理皮膜層にクラックが発生し易くなり、良好な皮膜を得ることが困難となる。この点で、本実施形態の金属表面処理方法によって形成された表面処理皮膜の皮膜量は、ジルコニウム及び/又はチタンを金属元素換算で1g/m以下含むことが好ましく、800mg/m以下含むことがより好ましい。
【0106】
また、いずれの金属材料においても、表面処理皮膜のケイ素元素に対するジルコニウム元素及び/又はチタン元素質量比は、0.5以上50以下であることが好ましい。0.5未満では、耐食性、密着性を得ることができない。50を超えると、表面処理皮膜層にクラックが発生し易くなり、均一な皮膜を得ることが困難となる。
【0107】
[金属材料の前処理]
本実施形態に係る金属材料は、脱脂処理により清浄化された金属材料であることが好ましい。さらには、本実施形態の金属材料は、脱脂処理をした後、水洗処理を行うことが好ましい。これら脱脂処理や水洗処理は、金属材料の表面に付着している油分や汚れを除去するために行われるものであり、無リン・無窒素脱脂洗浄液等の脱脂剤により、通常30℃〜55℃において数分間程度の浸漬処理がなされる。所望により、脱脂処理の前に、予備脱脂処理を行うことも可能である。また、脱脂処理後の水洗処理は、脱脂剤を水洗するために、大量の水洗水によって少なくとも1回以上、スプレー処理により行われる。
【0108】
なお、上述したように、金属表面処理用組成物が上記界面活性剤を含有する場合は、金属材料をあらかじめ脱脂処理し、清浄化しておかなくても、良好な皮膜を形成させることができる。即ち、この場合には、処理液接触工程において、金属材料の脱脂処理が同時に行われる。
【0109】
[金属材料の後処理]
本実施形態に係る金属表面処理方法により化成皮膜が形成された金属材料は、その後実施される塗膜形成の前に水洗処理を行うことが好ましい。即ち、本実施形態に係る金属表面処理方法は、金属表面処理用組成物を含む金属表面処理液を前記金属材料に接触させる処理液接触工程と、処理液接触工程を経た金属材料を水洗する水洗工程と、を含む。塗膜形成の前に水洗処理を行うことにより、化成皮膜の表面の不純物が除去されるため、塗装塗膜との密着性をより向上でき、良好な耐食性を付与できる。
【0110】
本実施形態に係る金属表面処理方法により形成された化成皮膜は、オルガノシランが重縮合したオルガノシロキサンが取り込まれているため、塗膜形成前に水洗処理を行うことが可能である。即ち、オルガノシランの場合には、水洗処理を行うと除去されてしまうおそれがあったところ、ポリマー化したオルガノシロキサンであれば化成皮膜を形成するジルコニウム及び/又はチタンの水酸化物又は酸化物と強固に相互作用するため、水洗処理により除去されるおそれがない。従って、本実施形態に係る金属表面処理方法によって形成された化成皮膜は、水洗処理を行っても密着性が損なわれることがない。
【0111】
上記表面処理後の水洗処理において、最終の水洗は、純水で実施されることが好ましい。この表面処理後の水洗処理においては、スプレー水洗又は浸漬水洗のいずれであってもよく、これらの方法を組み合わせて水洗することもできる。
【0112】
表面処理後に水洗処理を実施した後には、必要に応じて、公知の方法に従って乾燥してもよいが、本実施形態に係る金属表面処理方法で化成皮膜を形成した場合は、水洗処理後に乾燥処理を行わずに塗装することができる。即ち、本実施形態に係る金属表面処理方法で化成皮膜を形成した後の塗料の塗布方法として、ウェットアンドウェット塗装方法を採用することができる。従って、本実施形態に係る金属表面処理方法は、電着塗装前の金属材料、特に、電着塗装前の自動車車体、二輪車車体等の乗物外板、各種部品等の表面処理工程を短縮することができる。
【0113】
[その後形成される塗膜]
本実施形態に係る金属表面処理方法により化成皮膜を形成した後に、化成皮膜上に形成される塗膜としては、例えば、電着塗料、溶剤塗料、水性塗料、粉体塗料等の従来公知の塗料により形成される塗膜を挙げることができる。
【0114】
これらの塗料のうち、電着塗料、特にカチオン電着塗料を用いて塗膜を形成することが好ましい。通常、カチオン電着塗料は、アミノ基との反応性又は相溶性を示す官能基を有する樹脂からなるため、化成処理剤である金属表面処理用組成物に含まれるアミノ基を含有するオルガノシロキサンの働きにより、電着塗膜と化成皮膜の密着性をより高めることができるからである。カチオン電着塗料としては、特に限定されず、例えばアミノ化エポキシ樹脂、アミノ化アクリル樹脂、スルホニウム化エポキシ樹脂等からなる公知のカチオン電着塗料を挙げることができる。
【0115】
本実施形態に係る金属表面処理用組成物を含む金属表面処理液を接触させる処理液接触工程を経た金属材料を水洗する水洗工程を行った後、又は、接触させて電解処理した後には、金属材料を、コバルト、ニッケル、スズ、銅、チタニウム及びジルコニウムからなる群から選ばれる少なくとも1種を含有する酸性水溶液と接触させてもよい。即ち、本実施形態に係る金属表面処理方法は、処理液接触工程を経た金属材料を水洗する水洗工程後、金属材料に、コバルト、ニッケル、スズ、銅、チタン、及び、ジルコニウムからなる群より選ばれる少なくとも1種を含有する酸性水溶液を接触させる酸接触工程を含んでもよい。これにより、耐食性をさらに高めることができる。
【0116】
金属元素であるコバルト、ニッケル、スズ、銅、チタニウム及びジルコニウムからなる群から選ばれる少なくとも1種の供給源は、特に限定されないが、入手が容易である、前記金属元素の酸化物、水酸化物、塩化物、硝酸塩、オキシ硝酸塩、硫酸塩、オキシ硫酸塩、炭酸塩、オキシ炭酸塩、リン酸塩、オキシリン酸塩、シュウ酸塩、オキシシュウ酸塩、有機金属化合物等を好適に用いることができる。
【0117】
前記金属元素を含有する酸性水溶液のpHは、2〜6であるのが好ましい。酸性水溶液のpHは、リン酸、硝酸、硫酸、フッ化水素酸、塩酸、有機酸等の酸や、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化リチウム、アルカリ金属塩、アンモニア、アンモニウム塩、アミン類等のアルカリで調整することができる。
【0118】
本実施形態に係る金属表面処理用組成物を含む金属表面処理液を金属材料に接触させる処理液接触工程を経た金属材料を水洗する水洗工程を行った後、又は、接触させて電解処理した後には、金属材料を、水溶性高分子化合物及び水分散性高分子化合物のうち少なくとも一方を含有する高分子含有液と接触させてもよい。即ち、本実施形態に係る金属表面処理方法は、処理液接触工程を経た金属材料を水洗する水洗工程後、金属材料に、水溶性高分子化合物及び水分散性高分子化合物のうち少なくとも一方を含有する高分子含有液を接触させる高分子含有液接触工程を含んでもよい。これにより、耐食性をさらに高めることができる。
【0119】
水溶性高分子化合物及び水分散性高分子化合物としては、特に限定されないが、例えば、ポリビニルアルコール、ポリ(メタ)アクリル酸、アクリル酸とメタクリル酸との共重合体、エチレンと(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリルレート等のアクリル系単量体との共重合体、エチレンと酢酸ビニルとの共重合体、ポリウレタン、アミノ変性フェノール樹脂、ポリエステル樹脂、エポキシ樹脂、タンニン、タンニン酸及びその塩、フィチン酸が挙げられる。
【実施例】
【0120】
次に、本発明を実施例及び比較例を挙げてさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例にのみ限定されるものではない。なお、配合量は特に断りのない限り、質量部を表す。
【0121】
<実施例1>
市販の冷延鋼板(SPC、日本テストパネル社製、70mm×150mm×0.8mm)を金属材料として用意した。
【0122】
[化成処理前の金属材料の前処理]
〔脱脂処理〕
具体的には、アルカリ脱脂処理剤として「サーフクリーナーEC92」(日本ペイント社製)を使用して、40℃で2分間、上記金属材料の脱脂処理を行った。
【0123】
〔脱脂処理後の水洗処理〕
脱脂処理をした後、水洗槽で浸漬洗浄した後、水道水で約30秒間スプレー洗浄を行った。
【0124】
[化成処理]
〔オルガノシランの重縮合物の生成〕
オルガノシランとしてKBE903(3−アミノプロピル−トリエトキシシラン、有効濃度100%、信越化学工業社製)、30質量部を滴下漏斗から、脱イオン水70質量部とイソプロピルアルコール70質量部の混合溶媒中(溶媒温度:25℃)に60分かけて均一に滴下した後、窒素雰囲気下、25℃で24時間反応を行った。その後、反応溶液を減圧することにより、イソプロピルアルコールを蒸発させ、有効成分30質量%のオルガノシランの重縮合物(以下、KBE903縮合物(1))を得た。ここで、有効成分とは不揮発成分をいう。
【0125】
金属材料を表面処理(化成処理)する前に、金属表面処理用組成物を調製した。具体的には、事前に生成したKBE903縮合物(1)と、ジルコニウムとしてジルコンフッ化水素酸(試薬)と、を使用し、ジルコニウム濃度が200ppm、KBE903縮合物(1)の濃度が200ppm、となるように金属表面処理用組成物を調製した後、金属表面処理用組成物中の金属元素濃度を、プラズマ発光分光分析装置(機器名:(ICP)UPO−1 MARKII、京都光研社製)を用いて測定した。この測定値に基づいて、オルガノシロキサン中に含まれるケイ素元素に対する、ジルコニウム元素の質量比(Zr/Si)を表1に示す。
【0126】
また、FT−NMR(AVANCE400(400MHz)、ブルカー社製)を用いて、29Si−NMRの測定を行うことにより、オルガノシランの重縮合度の評価を行った。即ち、検出されたR13−Si(OR14(R14は、−CH、又は、C)、又は、R13−Si(OH)をモノマー、それ以外を重縮合物として、前記数式(1)により重縮合率を求めた。結果を表3に示す。
【0127】
また、同様に、オルガノシロキサンにおいて、シロキサン結合を構成する酸素原子を介して他の2個以上のケイ素原子と結合するケイ素原子、又は他の3個以上のケイ素原子と結合するケイ素原子の、金属表面処理用組成物中に含まれるオルガノシロキサン及び未反応のオルガノシランが有するケイ素原子の総量に対する割合を求めた。結果を表3に示す。
【0128】
さらに、以下の実施例、比較例についてもオルガノシロキサン中に含まれるケイ素元素に対する、ジルコニウム元素の質量比、重縮合率等を求め、その結果を表1から表4に示す。
【0129】
調製した金属表面処理用組成物を水酸化ナトリウム水溶液により、pHを3.5にして金属表面処理液に調製した。また、遊離フッ素イオンが5ppmとなるように、酸性フッ化ナトリウムで調整した。金属表面処理液の温度を30℃に調整し、その後、水洗処理した金属材料を60秒間浸漬処理した。
【0130】
[化成処理後の水洗処理]
化成処理を施した金属材料に対して、水道水で30秒間のスプレー処理を実施した。次いで、イオン交換水で10秒間のスプレー処理を行った。
【0131】
[乾燥処理]
水洗処理後の金属材料を電気乾燥炉において、80℃で5分間乾燥した。なお、皮膜量は、「XRF1700」(島津製作所製蛍光X線分析装置)を用いて、金属表面処理用組成物に含まれるZr、Si、C量を測定することにより、化成皮膜量(mg/m)を測定した。結果を表3に示す。
【0132】
[電着塗装]
化成処理後に水洗処理を施したウェットな状態にある各々の金属材料に対し、カチオン電着塗料「パワーニクス110」(日本ペイント社製)を塗布し、電着塗膜を形成した。電着塗装後の乾燥膜厚は、20μmであった。その後、各々の金属材料を水洗した後、170℃で20分間加熱して焼付けることで、試験板を得た。
【0133】
<実施例2>
オルガノシランとして上記KBE903を15質量部と、KBM603(N−(2−アミノエチル)−3−アミノプロピル−トリメトキシシラン、有効濃度100%、信越化学工業社製)を15質量部とを滴下漏斗から、溶媒である70質量部の脱イオン水中(溶媒温度:25℃)に60分かけて均一に滴下した後、窒素雰囲気下、25℃で24時間反応を行い、有効成分30質量%のオルガノシランの重縮合物(以下、KBE903−KBM603共縮合物(1)という)を得た。このKBE903−KBM603共縮合物(1)を、上記KBE903縮合物(1)に代えて金属表面処理用組成物を調製した以外は、実施例1と同様の手順で、試験板を得た。
【0134】
<実施例3>
上記KBE903を15質量部と、上記KBM603を15質量部とを滴下漏斗から、脱イオン水70質量部とエタノール70質量部の混合溶媒中(溶媒温度:25℃)に60分かけて均一に滴下した後、窒素雰囲気下、25℃で24時間反応を行った。その後、反応溶液を減圧することにより、エタノールを蒸発させ、有効成分30質量%のオルガノシランの重縮合物(以下、KBE903−KBM603共縮合物(2)という)を得た。このKBE903−KBM603共縮合物(2)を、上記KBE903縮合物(1)に代えて金属表面処理用組成物を調製した以外は、実施例1と同様の手順で、試験板を得た。
【0135】
<実施例4>
オルガノシランとして上記KBE903を20質量部用いて、滴下漏斗から、溶媒である80質量部の脱イオン水中(溶媒温度:25℃)に60分かけて均一に滴下した後、窒素雰囲気下、25℃で24時間反応を行い、有効成分20質量%のオルガノシランの重縮合物を得た。このオルガノシランの重縮合物を、上記KBE903縮合物(1)に代えて金属表面処理用組成物を調製した以外は、実施例1と同様の手順で、試験板を得た。
【0136】
<実施例5>
オルガノシランとして上記KBE903を5質量部用いて、滴下漏斗から、溶媒である95質量部の脱イオン水中(溶媒温度:25℃)に60分かけて均一に滴下した後、窒素雰囲気下、25℃で24時間反応を行い、有効成分5質量%のオルガノシランの重縮合物を得た。このオルガノシランの重縮合物を、上記KBE903縮合物(1)に代えて金属表面処理用組成物を調製した以外は、実施例1と同様の手順で、試験板を得た。
【0137】
<実施例6>
オルガノシランとして上記KBE903を15質量部と、KBM403(3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、有効濃度100%、信越化学工業社製)を15質量部とを滴下漏斗から、脱イオン水70質量部とエタノール70質量部の混合溶媒中(溶媒温度:25℃)に60分かけて均一に滴下した後、窒素雰囲気下、25℃で24時間反応を行った。その後、反応溶液を減圧することにより、エタノールを蒸発させ、有効成分30質量%のオルガノシランの重縮合物を得た。この有効成分30質量%のオルガノシランの重縮合物を、上記KBE903縮合物(1)に代えて金属表面処理用組成物を調製した以外は、実施例1と同様の手順で、試験板を得た。
【0138】
<実施例7>
オルガノシランとしてKBE903を30質量部用いて、滴下漏斗から、溶媒である70質量部の脱イオン水中(溶媒温度:25℃)に60分かけて均一に滴下した後、窒素雰囲気下、25℃で24時間反応を行い、有効成分30質量%のオルガノシランの重縮合物(以下、KBE903縮合物(2)という)を得た。このKBE903縮合物(2)を、上記KBE903縮合物(1)に代えて使用し、さらに、スノーテックスN(コロイダルシリカ、日産化学社製)を金属表面処理用組成物に添加して、コロイダルシリカの濃度が50ppmとなるように金属表面処理用組成物を調製した以外は、実施例1と同様の手順で、試験板を得た。
【0139】
<実施例8>
オルガノシランとしてKBM903を30質量部用いて、滴下漏斗から、溶媒である70質量部の脱イオン水中(溶媒温度:25℃)に60分かけて均一に滴下した後、窒素雰囲気下、25℃で24時間反応を行い、有効成分30質量%のオルガノシランの重縮合物(以下、KBE903縮合物(2)という)を得た。このKBE903縮合物(2)を、上記KBE903縮合物(1)に代えて金属表面処理用組成物を調製した以外は、実施例1と同様の手順で、試験板を得た。
【0140】
<実施例9>
上記スノーテックスNの代わりに、PAA−10C(ポリアリルアミン、有効濃度10%、日東紡績社製)を金属表面処理用組成物に添加して、ポリアリルアミン濃度が20ppmとなるように金属表面処理用組成物を調製した以外は、実施例7と同様の手順で、試験板を得た。
【0141】
<実施例10>
上記スノーテックスNの代わりに、酸化剤として硝酸(試薬)を金属表面処理用組成物に添加して、硝酸濃度が3000ppmとなるように金属表面処理用組成物を調製した以外は、実施例7と同様の手順で、試験板を得た。
【0142】
<実施例11>
上記スノーテックスNの代わりに、硝酸アルミニウム(試薬)及びフッ化水素(試薬)を金属表面処理用組成物に添加して、硝酸アルミニウム濃度が500ppm、フッ化水素濃度が1000ppmとなるように金属表面処理用組成物を調製した以外は、実施例7と同様の手順で、試験板を得た。
【0143】
<実施例12>
上記スノーテックスNの代わりに、レジトップPL4012(フェノール樹脂、群栄化学社製)を金属表面処理用組成物に添加して、フェノール樹脂濃度が200ppmとなるように金属表面処理用組成物を調製した以外は、実施例7と同様の手順で、試験板を得た。
【0144】
<実施例13>
アデカトールLB−83(界面活性剤、旭電化社製)を金属表面処理用組成物に添加して、界面活性剤の濃度が200ppmとなるように金属表面処理用組成物を調製した以外は、実施例3と同様の手順で、試験板を得た。
【0145】
<実施例14>
金属材料を、上記冷延鋼板から高張力鋼板(70mm×150mm×0.8mm)に変更した以外は、実施例1と同様の手順で、試験板を得た。
【0146】
<実施例15>
オルガノシランとして上記KBM603を20質量部用いて、滴下漏斗から、溶媒である80質量部の脱イオン水中(溶媒温度:25℃)に60分かけて均一に滴下した後、窒素雰囲気下、80℃で3時間反応を行い、有効成分20質量%のオルガノシランの重縮合物を得た(以下、KBM603縮合物(1))。このKBM603縮合物(1)をKBE903縮合物(1)の代わりに用いて金属表面処理用組成物を調製した以外は、実施例1と同様の手順で、試験板を得た。
【0147】
<実施例16>
オルガノシランとしてKBM603を5質量部用いて、滴下漏斗から、脱イオン水95質量部とエタノール95質量部の混合溶媒中(溶媒温度:25℃)に60分かけて均一に滴下した後、窒素雰囲気下、25℃で24時間反応を行った。その後、反応溶液を減圧することにより、エタノールを蒸発させ、有効成分5質量%のオルガノシランの重縮合物を得た。この有効成分5質量%のオルガノシランの重縮合物をKBM603縮合物(1)の代わりに用いて金属表面処理用組成物を調製した以外は、実施例15と同様の手順で、試験板を得た。
【0148】
<実施例17>
オルガノシランとして上記KBM603を10質量部と、KBM403(3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、有効濃度100%、信越化学工業社製)を10質量部とを滴下漏斗から、溶媒である80質量部の脱イオン水中(溶媒温度:25℃)に60分かけて均一に滴下した後、窒素雰囲気下、80℃で3時間反応を行い、KBM603とKBM403の共縮合物を得た。この有効成分20質量%のオルガノシランの共縮合物をKBM603縮合物(1)の代わりに用いて金属表面処理用組成物を調製した以外は、実施例15と同様の手順で、試験板を得た。
【0149】
<実施例18>
ジルコニウム濃度が3000ppm、KBM603縮合物(1)の濃度が100ppm、となるように金属表面処理用組成物を調製した以外は、実施例15と同様の手順で、試験板を得た。
【0150】
<実施例19>
ジルコニウム濃度が100ppm、KBM603縮合物(1)の濃度が1000ppm、となるように金属表面処理用組成物を調製した以外は、実施例15と同様の手順で、試験板を得た。
【0151】
<実施例20>
硝酸銅を金属表面処理用組成物に添加して、銅の濃度が20ppmとなるように金属表面処理用組成物を調製した以外は、実施例15と同様の手順で、試験板を得た。
【0152】
<実施例21>
オルガノシランとしてKBE603を20質量部用いて、滴下漏斗から、溶媒である80質量部の脱イオン水中(溶媒温度:25℃)に60分かけて均一に滴下した後、窒素雰囲気下、80℃で3時間反応を行い、有効成分20質量%のオルガノシランの重縮合物を得た。この有効成分20質量%のオルガノシランの重縮合物をKBE903縮合物(1)の代わりに用い、硫酸錫を添加して、錫の濃度が20ppmとなるように金属表面処理用組成物を調製した以外は、実施例1と同様の手順で、試験板を得た。
【0153】
<実施例22>
硝酸銅と硫酸錫とを金属表面処理用組成物に添加して、銅の濃度が20ppm、錫の濃度が20ppmとなるように金属表面処理用組成物を調製した以外は、実施例15と同様の手順で、試験板を得た。
【0154】
<実施例23>
硫酸錫の代わりに、硝酸銅と硝酸アルミニウムとを金属表面処理用組成物に添加して、銅の濃度が20ppm、アルミニウムの濃度が100ppmとなるように金属表面処理用組成物を調製した以外は、実施例15と同様の手順で、試験板を得た。
【0155】
<実施例24>
オルガノシロキサンとして上記KBM603を50質量部用いて、滴下漏斗から、脱イオン水70質量部とエタノール50質量部の混合溶媒中(溶媒温度:25℃)に60分かけて均一に滴下した後、窒素雰囲気下、25℃で24時間反応を行い、オルガノシランの重縮合物を得た。この有効成分50質量%のオルガノシランの重縮合物をKBM603縮合物(1)の代わりに用いて金属表面処理用組成物を調製した以外は、実施例15と同様の手順で、試験板を得た。
【0156】
<実施例25>
オルガノシランとして上記KBM603を20質量部用いて、滴下漏斗から、溶媒である80質量部の脱イオン水中(溶媒温度:25℃)に60分かけて均一に滴下した後、オルガノシロキサンが直鎖状に結合するように、酢酸を添加してpH3に調整して、窒素雰囲気下、25℃で24時間反応を行い、有効成分20質量%のオルガノシランの重縮合物を得た。この有効成分20質量%のオルガノシランの重縮合物をKBM603重縮合物(1)の代わりに用いて金属表面処理用組成物を調製した以外は、実施例15と同様の手順で、試験板を得た。
【0157】
<実施例26>
オルガノシランとして上記KBM603を5質量部用いて、滴下漏斗から、溶媒である95質量部の脱イオン水中(溶媒温度:25℃)に60分かけて均一に滴下した後、窒素雰囲気下、80℃で3時間反応を行い、有効成分5質量%のオルガノシランの重縮合物を得た。この有効成分5質量%のオルガノシランの重縮合物をKBM603縮合物(1)の代わりに用いて金属表面処理用組成物を調製した以外は、実施例15と同様の手順で、試験板を得た。
【0158】
<比較例1>
実施例1で生成した上記KBE903縮合物(1)を金属表面処理用組成物に加えずに、金属表面処理用組成物を調製した以外は、実施例1と同様の手順で、試験板を得た。
【0159】
<比較例2>
上記KBE903縮合物(1)の濃度を200ppmではなく、5000ppmとなるように金属表面処理用組成物を調製した以外は、実施例1と同様の手順で、試験板を得た。
【0160】
<比較例3>
実施例1で生成した上記KBE903縮合物(1)を金属表面処理用組成物に加えずに、また、硝酸マグネシウム(試薬)を添加して硝酸マグネシウム濃度が200ppmとなるように金属表面処理用組成物を調製した以外は、実施例1と同様の手順で、試験板を得た。
【0161】
<比較例4>
実施例1で生成した上記KBE903縮合物(1)を金属表面処理用組成物に加えずに、また、亜硝酸ナトリウム(試薬)を添加して亜硝酸ナトリウム濃度が2000ppmとなるように金属表面処理用組成物を調製した以外は、実施例1と同様の手順で、試験板を得た。
【0162】
<比較例5>
オルガノシランとして上記KBM903を重縮合させずに、上記KBE903縮合物(1)に代えて金属表面処理用組成物を調製した以外は、実施例1と同様の手順で、試験板を得た。
【0163】
<比較例6>
オルガノシランとして上記KBM403を30質量部用いて、滴下漏斗から、溶媒である70質量部の脱イオン水中(溶媒温度:25℃)に60分かけて均一に滴下した後、窒素雰囲気下、25℃で24時間反応を行い、有効成分30質量%のオルガノシランの重縮合物を得た。このオルガノシランの重縮合物を、上記KBE903縮合物(1)に代えて金属表面処理用組成物を調製した以外は、実施例1と同様の手順で、試験板を得た。
【0164】
<比較例7>
実施例1で生成した上記KBE903縮合物を加えずに、また、レジトップPL4012(アミノ変性フェノール樹脂、群栄化学社製)を添加して固形分の濃度が200ppmとなるように金属表面処理用組成物を調製した以外は、実施例1と同様の手順で、試験板を得た。
【0165】
<比較例8>
PAA−10C(ポリアリルアミン、有効濃度10%、日東紡績社製)を、上記KBE903縮合物(1)に代えて金属表面処理用組成物を調製した以外は、実施例1と同様の手順で、試験板を得た。
【0166】
<比較例9>
化成処理を以下に示すリン酸亜鉛処理に変更した以外は、実施例1と同様な操作を実施し、試験板を得た。
【0167】
[リン酸亜鉛処理]
金属材料として上記冷延鋼板を用意し、脱脂処理及び水洗処理を施した金属材料に対し、0.3%のサーフファインGL1(日本ペイント社製表面調整剤)を用いて、室温で30秒間浸漬して表面調整を行った。その後、サーフダインSD−6350(日本ペイント社製リン酸亜鉛系化成処理剤)を用いて、42℃で2分間の浸漬処理を実施した。
【0168】
<比較例10>
金属材料を、上記冷延鋼板の代わりに、高張力鋼板(70mm×150mm×0.8mm)に変更した以外は、比較例7と同様の手順で、試験板を得た。
【0169】
<比較例11>
オルガノシランとしてKBM903を2質量部用いて、滴下漏斗から、溶媒である98質量部の脱イオン水中(溶媒温度:25℃)に60分かけて均一に滴下した後、窒素雰囲気下、25℃で24時間反応を行い、有効成分2質量%のオルガノシランの重縮合物を得た。上記KBE903縮合物(1)の代わりに、この有効成分2質量%のオルガノシランの重縮合物を用いたこと以外は、実施例1と同様の手順で、試験板を得た。
【0170】
<比較例12>
オルガノシランとしてKBM603を1質量部用いて、滴下漏斗から、溶媒である99質量部の脱イオン水中(溶媒温度:25℃)に60分かけて均一に滴下した後、窒素雰囲気下、25℃で24時間反応を行い、有効成分1質量%のオルガノシランの重縮合物を得た。上記KBE903縮合物(1)の代わりに、この有効成分1質量%のオルガノシランの重縮合物を用いたこと以外は、実施例1と同様の手順で、試験板を得た。
【0171】
<比較例13>
オルガノシランとしてXS1003(N,N’−ビス[3−トリメトキシシリルプロピル]エチレンジアミン、有効濃度100%、チッソ社製)を、上記KBE903縮合物(1)の代わりに用いたこと以外は、実施例1と同様の手順で、試験板を得た。
【0172】
実施例及び比較例で得られた試験板に、次の試験を行った。その結果を表3及び表4に示す。
【0173】
【表1】

【0174】
【表2】

【0175】
【表3】

【0176】
【表4】

【0177】
<試験>
[二次密着性試験(SDT)]
実施例及び比較例で得られた試験板に、素地まで達する縦平行カットを2本入れ、5質量%NaCl水溶液中にて、50℃で480時間の浸漬を行った。次いで、水洗及び風乾を行った後、カット部に接着テープ「エルパックLP−24」(ニチバン社製)を密着させ、さらに接着テープを急激に剥離した。剥離した接着テープに付着した塗料の最大幅の大きさを測定した。結果を表3及び表4に示す。
【0178】
[サイクル腐食試験(CCT)]
実施例及び比較例で得られた試験板のエッジ・裏面をテープシールし、カッターでクロスカット疵(金属に達する疵)を入れ、以下の条件によりCCT試験を行った。結果を表3及び表4に示す。
【0179】
〔CCT試験条件〕
35℃、湿度95%に保たれた塩水噴霧試験器中で、35℃に保温した5%NaCl水溶液を2時間連続噴霧した。次いで、60℃、湿度20〜30%の条件下で4時間乾燥した後、50℃、湿度95%以上の湿潤下で2時間保持した。これを1サイクルとして、200サイクル後の塗膜の膨れ幅を測定した。
【0180】
[スラッジ観察]
実施例及び比較例で化成処理を行い、室温で30日経過後に、化成処理剤中の濁り(スラッジの発生)を目視により比較して、作業性を下記の基準で評価した。結果を表3及び表4に示す。
◎:透明液体
○:わずかにうすく濁る
△:濁る
×:沈殿物(スラッジ)発生
【0181】
[貯蔵安定性]
実施例及び比較例で得られた金属表面処理用組成物を40℃で30日間放置した後、金属材料に化成処理を施した。その結果得られた化成皮膜に含まれるSi量を測定し、放置前の金属表面処理用組成物を用いた場合のSi量と比較した。
【0182】
放置前のSi量を100%としたときの、放置後のSi量について、次の基準で評価を行った。
◎:80%以上
○:60%以上80%未満
△:40%以上60%未満
×:40%未満
【0183】
また、放置後の金属表面処理用組成物を用いて、上記放置前と同様の条件で、二次密着性試験(SDT)を行った。
【0184】
表3及び表4に示されるとおり、実施例の方が比較例よりも、スラッジ観察、SDT、CCTの結果が良好であり、皮膜量も多いことが分かった。従って、本実施形態による金属表面処理用組成物を使用することにより、十分な素地隠蔽性及び塗膜密着性を得ることができるとともに、腐食を防止することができることが分かった。また、解離されにくいオルガノシロキサンを用いた実施例2、3、6、15〜26は、30日放置後においても他の実施例及び比較例よりも金属材料表面に十分な化成皮膜が形成されており、金属表面処理用組成物の貯蔵安定性がよいことが分かった。
【産業上の利用可能性】
【0185】
本発明により得られる金属表面処理方法により処理されてなる金属材料は、十分な素地隠蔽性、塗膜密着性、及び耐食性を備えるため、例えば、塗装前の自動車車体、二輪車車体等の乗物外板、各種部品、容器外面、コイルコーティング等の、塗装処理がその後施される分野において好ましく使用される。また、金属表面処理用組成物の貯蔵安定性がよいので、金属表面処理用組成物を繰り返し用いる場合においても好ましく使用され、特に、処理液寿命が長いことが要求される自動車車体等の大型部品の表面処理に好ましく使用される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属の表面処理に用いられる金属表面処理用組成物であって、
ジルコニウム化合物及び/又はチタン化合物と、オルガノシランの重縮合物であり且つ1分子中に少なくとも2つのアミノ基を有するオルガノシロキサンと、を含有し、
下記数式(1)で表される前記オルガノシロキサンの重縮合率は、40%以上であり、
前記金属表面処理用組成物中における前記ジルコニウム化合物及び/又はチタン化合物の含有量は、金属元素換算で10ppm以上10000ppm以下であり、
前記金属表面処理用組成物中における前記オルガノシロキサンの含有量は、ケイ素元素換算で1ppm以上2000ppm以下であり、
前記オルガノシロキサン中に含まれるケイ素元素に対する、前記ジルコニウム化合物及び/又はチタン化合物中に含まれるジルコニウム元素及び/又はチタン元素の質量比は、0.5以上500以下である金属表面処理用組成物。
【数1】

(数式(1)中、オルガノシロキサン質量は、2量体以上のオルガノシロキサンの質量であり、未反応オルガノシランの質量を含まない。)
【請求項2】
前記オルガノシロキサンにおいて、未反応オルガノシラン及びオルガノシランの2量体に対する、前記オルガノシランの3量体以上の多量体の質量比は、1以上である請求項1記載の金属表面処理用組成物。
【請求項3】
前記オルガノシランは、アミノ基及び/又はイミノ基を合計2つ以上有するものである請求項1又は2記載の金属表面処理用組成物。
【請求項4】
前記オルガノシロキサンは、オルガノシランに解離しにくいものである請求項1から3のいずれか記載の金属表面処理用組成物。
【請求項5】
前記オルガノシランは、末端にアミノ基を有し、当該アミノ基の窒素原子とシリル基のケイ素原子とが、原子4個分以上離れているものである請求項4記載の金属表面処理用組成物。
【請求項6】
前記オルガノシロキサンは、分岐構造を有する請求項4又は5記載の金属表面処理用組成物。
【請求項7】
前記オルガノシロキサンにおいて、シロキサン結合を構成する酸素原子を介して他の2個以上のケイ素原子と結合するケイ素原子の割合が、前記金属表面処理用組成物中に含まれるオルガノシロキサン及び未反応のオルガノシランが有するケイ素原子の総量に対して20モル%以上である請求項4から6いずれか記載の金属表面処理用組成物。
【請求項8】
前記オルガノシロキサンにおいて、シロキサン結合を構成する酸素原子を介して他の3個以上のケイ素原子と結合するケイ素原子の割合が、前記金属表面処理用組成物中に含まれるオルガノシロキサン及び未反応のオルガノシランが有するケイ素原子の総量に対して10モル%以上である請求項7記載の金属表面処理用組成物。
【請求項9】
前記金属表面処理用組成物のpHは、1.5以上6.5以下である請求項1から8いずれか記載の金属表面処理用組成物。
【請求項10】
フッ素化合物をさらに含有し、
前記金属表面処理用組成物中における遊離フッ素元素の含有量は、0.01ppm以上100ppm以下である請求項1から9いずれか記載の金属表面処理用組成物。
【請求項11】
前記金属表面処理用組成物は、硝酸、亜硝酸、硫酸、亜硫酸、過硫酸、リン酸、カルボン酸基含有化合物、スルホン酸基含有化合物、塩酸、臭素酸、塩素酸、過酸化水素、HMnO、HVO、HWO、及び、HMoO、並びに、これらの塩類よりなる群から選ばれる少なくとも1種の酸化剤をさらに含有する請求項1から10いずれか記載の金属表面処理用組成物。
【請求項12】
マグネシウム、亜鉛、カルシウム、アルミニウム、ガリウム、インジウム、銅、鉄、マンガン、ニッケル、コバルト、セリウム、ストロンチウム、希土類元素、スズ、ビスマス、及び、銀よりなる群から選ばれる少なくとも1種の金属元素をさらに含有する請求項1から11いずれか記載の金属表面処理用組成物。
【請求項13】
前記金属表面処理用組成物は、ノニオン系界面活性剤、アニオン系界面活性剤、カチオン系界面活性剤、及び、両面活性剤よりなる群から選ばれる少なくとも1種をさらに含有する請求項1から12いずれか記載の金属表面処理用組成物。
【請求項14】
金属材料の表面を処理する金属表面処理方法であって、
請求項1から13いずれか記載の金属表面処理用組成物を含む金属表面処理液を前記金属材料に接触させる処理液接触工程と、
前記処理液接触工程を経た金属材料を水洗する水洗工程と、を含む金属表面処理方法。
【請求項15】
前記処理液接触工程において、前記金属材料の脱脂処理を同時に行う請求項14記載の金属表面処理方法。
【請求項16】
前記処理液接触工程において、前記金属材料を陰極として電解処理する請求項14又は15記載の金属表面処理方法。
【請求項17】
前記水洗工程を経た金属材料に、コバルト、ニッケル、スズ、銅、チタン、及び、ジルコニウムからなる群より選ばれる少なくとも1種を含有する酸性水溶液を接触させる酸接触工程を含む請求項14から16いずれか記載の金属表面処理方法。
【請求項18】
前記水洗工程を経た金属材料に、水溶性高分子化合物及び水分散性高分子化合物のうち少なくとも一方を含有する高分子含有液を接触させる高分子含有液接触工程を含む請求項14から17いずれか記載の金属表面処理方法。
【請求項19】
請求項14から18いずれか記載の金属表面処理方法により処理されてなる金属材料。
【請求項20】
鉄系又は亜鉛系の金属材料表面に表面処理皮膜層を有する請求項19記載の金属材料であって、ジルコニウム元素及び/又はチタン元素を10mg/m以上含有し、ケイ素元素を0.5mg/m以上含有する表面処理皮膜層を有する金属材料。
【請求項21】
アルミニウム系又はマグネシウム系の金属材料表面に表面処理皮膜層を有する請求項19記載の金属材料であって、ジルコニウム元素及び/又はチタン元素を5mg/m以上含有し、ケイ素元素を0.5mg/m以上含有する表面処理皮膜層を有する金属材料。
【請求項22】
ケイ素元素に対するジルコニウム元素及び/又はチタン元素質量比は、0.5以上50以下である請求項20又は21記載の金属材料。
【請求項23】
請求項14から18いずれか記載の金属表面処理方法により金属材料を表面処理したのち、塗装を施す金属材料の塗装方法。

【公開番号】特開2007−262577(P2007−262577A)
【公開日】平成19年10月11日(2007.10.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−51988(P2007−51988)
【出願日】平成19年3月1日(2007.3.1)
【出願人】(000230054)日本ペイント株式会社 (626)
【Fターム(参考)】