説明

金属表面処理組成物、及びアルミニウム系金属表面処理板

【課題】アルミニウム系金属の塗装前処理に用いられる金属表面処理組成物であって、従来の化成処理剤に比べて、塗膜との高い密着性を有すると共に、金属材に良好な耐食性を付与できるノンクロム系金属表面処理組成物を提供する。
【解決手段】所定量のフッ素イオン、ジルコニウムイオン、及び、アルミニウムイオン捕捉剤を含む金属表面処理組成物であって、前記アルミニウムイオン捕捉剤は、ポリイタコン酸、単糖アルコール、二糖アルコールとすることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、缶材等に用いられる、アルミニウム及びアルミニウム合金等のアルミニウム系金属の、塗装前処理に用いられる、金属表面処理組成物及びアルミニウム系金属表面処理板に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、アルミニウム系金属の表面処理に用いられる化成処理剤として、クロメート化成処理剤が知られている。クロメート化成処理剤により形成されるクロメート化成皮膜は、各種塗料を塗装した後の耐食性、密着性に優れるため、その用途は、建材、家電、フィン材、カーエバポレータ、飲料缶等、広範囲に及ぶ(特許文献1)。しかしながら、クロメート化成処理剤では、有害なクロム金属を使用するため廃液処理に難がある。このため、環境に配慮したノンクロム系金属表面処理剤が近年主流になりつつある。
【0003】
ノンクロム系化成処理剤としては、特許文献2に、ジルコニウム及び/又はチタン、フォスフェート並びにフッ化物を含有するアルミニウム用表面処理剤が開示されている。しかしながら、この技術では、塗料との高い密着性及び塗装材としての防食性が金属缶のアルミニウム合金製蓋材塗装下地としては不充分であった。
【0004】
また、特許文献3には、水溶性ジルコニウム化合物、水溶性又は水分散性アクリル樹脂及び水溶性又は水分散性熱硬化型架橋剤を含有する金属表面処理剤であって、前記水溶性ジルコニウム化合物は、ジルコニウムとして質量基準で500〜15000ppmであり、前記アクリル樹脂は、固形分酸価150〜740mgKOH/g及び固形分水酸基価24〜240であって、固形分として質量基準で500〜30000ppmであり、前記熱硬化型架橋剤は、固形分として質量基準で125〜7500ppmであることを特徴とする金属表面処理剤が開示されている。しかしながら、塩ビ塗料を塗布した場合、塩ビ塗料塗膜との密着性が不充分であった。
【0005】
更に、特許文献4には、アルミニウムイオン封止剤としてソルビトールが例示されている。しかしながら、このアルミニウムイオン封止剤が含まれる処理液は、化成処理前の水性アルカリ性洗浄液であって、化成処理液ではなく、その目的もエッチングによって生じるアルミニウムイオンを封止することであり、本発明とは技術的思想が異なる。
【特許文献1】特開平5−125555号公報
【特許文献2】特公昭56−33468号公報
【特許文献3】特開2000−275648号公報
【特許文献4】特開平9−111465号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、従来公知のリン酸クロメートと同等水準以上の性能を有し、塩ビ塗料等の缶用塗料から得られる塗膜との密着性及び耐食性に優れた、アルミニウム系金属の塗装前処理に用いるノンクロム系金属表面処理組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意研究を重ねた。その結果、金属表面処理組成物中に所定量のフッ素イオン、ジルコニウムイオン、アルミニウムイオン、及び、アルミニウムイオン捕捉剤を含む金属表面処理組成物が、上記課題を解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。より具体的には、本発明は以下のようなものを提供する。
【0008】
(1) アルミニウム系金属板の塗装前処理に用いられる金属表面処理組成物であって、フッ素イオン、ジルコニウムイオン、アルミニウムイオン、及び、アルミニウムイオン捕捉剤を含む金属表面処理組成物。
【0009】
(2) 前記アルミニウムイオン捕捉剤がポリイタコン酸である(1)記載の金属表面処理組成物。
【0010】
(3) 前記アルミニウムイオン捕捉剤が単糖アルコールである(1)記載の金属表面処理組成物。
【0011】
(4) 前記単糖アルコールがソルビトールである(3)記載の金属表面処理組成物。
【0012】
(5) 前記アルミニウムイオン捕捉剤が二糖アルコールである(1)記載の金属表面処理組成物。
【0013】
(6) 前記二糖アルコールがマルチトールである、(5)記載の金属表面処理組成物。
【0014】
(7) 前記フッ素イオンを有効フッ素イオン量として1ppm以上1000ppm以下、前記ジルコニウムイオンを金属元素換算で10ppm以上10000ppm以下、前記アルミニウムイオンを金属元素換算で10ppm以上2000ppm以下、及び前記アルミニウムイオン捕捉剤を50ppm以上10000ppm以下の量で含有し、かつ、pHが2以上5以下である(1)から(6)いずれか記載の金属表面処理組成物。
【0015】
(8) 前記金属表面処理組成物を、液温30℃以上70℃以下、処理時間1秒以上60秒以下の条件で、アルミニウム系金属板の少なくとも一方の表面に接触させることにより、前記アルミニウム系金属板の表面にジルコニウムを金属元素換算で2mg/m以上100mg/m以下、及びアルミニウムイオン捕捉剤をアルミニウムイオン捕捉剤に由来する有機炭素量換算で0.5mg/m以上20mg/m以下含有する化成皮膜が形成された、アルミニウム系金属表面処理板。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、缶材等に用いられるアルミニウム系金属に対し、高い密着性を有し、前記金属材に良好な耐食性を付与でき、従来のリン酸クロメート処理剤と同等水準以上の性能を有する、アルミニウム系金属の塗装前処理に用いられるノンクロム系金属表面処理組成物を提供できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
本発明の金属表面処理組成物は、所定量のフッ素イオン、ジルコニウムイオン、アルミニウムイオン、及びアルミニウムイオン捕捉剤を含有する。本発明の金属表面処理組成物を用いて、アルミニウム系金属の表面を処理した場合、当業者によく知られているように、フッ素イオンによりアルミニウムが溶解して、その結果pHが上昇することにより、ジルコニウム化合物が析出する。このとき同時にアルミニウム化合物が析出し、ジルコニウム化合物との複合化成皮膜が形成されると考えられる。本発明において、密着性の向上及び優れた密着性の発現理由を考慮すると、前記アルミニウムイオン捕捉剤が同時に析出して、前記複合化成皮膜の表面近傍に存在していると考えられる。
【0018】
一方、通常、フッ素イオンによるアルミニウム系金属をエッチングした場合、アルミニウムイオンが処理浴中に供給されて、アルミニウムスラッジの原因となることが知られている。しかし、本発明の金属表面処理組成物では、アルミスラッジの生成が大幅に抑制される。これは、本発明の金属表面処理組成物において、アルミニウムイオン捕捉剤とアルミニウムイオンとの間に何らかの相互作用が存在し、これにより、アルミニウムイオンが処理浴中で安定化されているためと考えられる。
【0019】
本発明の金属表面処理組成物の製造方法は特に限定されず、以下に示すようなフッ素イオン、ジルコニウムイオン、アルミニウムイオン、及びアルミニウムイオン捕捉剤を配合した後、pHを調整して得られる。
【0020】
<フッ素イオン>
本発明の金属表面処理組成物は、フッ素イオンを有効フッ素イオン量として、1ppm以上1000ppm以下含有することが好ましく、更に好ましくは5ppm以上100ppm以下である。ここで、「有効フッ素イオン量」とは、処理浴中で遊離状態にあるフッ素イオンの濃度を意味し、フッ素イオン電極を有する計測器で処理浴を測定することにより求められる。フッ素イオンの有効含有量が1ppmより少ない場合には、エッチングが不足して充分なジルコニウム皮膜量が得られないため、密着性及び耐食性が低下する。1000ppmより多い場合には、エッチングが過多のためジルコニウム皮膜が析出せず、密着性及び耐食性が低下する。フッ素イオン源としては、フッ化ジルコニウム酸化合物の他、フッ化水素酸、フッ化アンモニウム、フッ化水素酸アンモニウム、フッ化ナトリウム、フッ化水素酸ナトリウム等が挙げられ、これらを併用することによって、有効フッ素イオン濃度を調整できる。
【0021】
<ジルコニウムイオン>
本発明の金属表面処理組成物中のジルコニウムイオンの含有量は、10ppm以上10000ppm以下であることが好ましく、更に好ましくは50ppm以上1000ppm以下である。ジルコニウムイオンの含有量が10ppmより少ない場合には、化成皮膜中のジルコニウム含有量が少ないために耐食性が低下する。10000ppmより多い場合には、性能アップは望めずコスト面で不利である。ジルコニウムイオン源としては、フルオロジルコニウム酸又はそのリチウム、ナトリウム、カリウム、アンモニウム塩や、フッ化ジルコニウム等が挙げられる。また、酸化ジルコニウム等のジルコニウム化合物を、フッ化水素酸等のフッ化物水溶液に溶解させることによって得ることもできる。
【0022】
<アルミニウムイオン>
本発明の金属表面処理組成物中のアルミニウムイオンの含有量は、10ppm以上2000ppm以下であることが好ましく、更に好ましくは50ppm以上500ppm以下である。アルミニムイオンの含有量が、10ppmより少ない場合には、密着性に優れた化成皮膜が得られない。2000ppmより多い場合には、アルミニウムイオン捕捉剤の量が相対的に不足するため、金属表面処理組成物の成分バランスが崩れてスラッジが多量に生じる恐れがある。
【0023】
アルミニウムイオン源としては、水酸化アルミニウム、フッ化アルミニウム、酸化アルミニウム、硫酸アルミニウム、硝酸アルミニウム、珪酸アルミニウム、アルミン酸ナトリウム等のアルミン酸塩、フルオロアルミニウム酸ナトリウム等のフルオロアルミニウム等が挙げられる。また、アルミニウム系金属の表面処理を通じて供給することも可能である。
【0024】
<アルミニウムイオン捕捉剤>
本発明の金属表面処理組成物に含まれるアルミニウムイオン捕捉剤は、先に述べたように、アルミニウムイオンとの間に何らかの相互作用が発生することにより、金属表面処理組成物の安定性を向上させるものである。また、一部は金属表面処理組成物中のジルコニウムイオンと結合し、アルミニウム系材料表面にも析出して塗膜との密着性を向上させる効果も得ることができる。具体的には、ポリイタコン酸、単糖アルコール、二糖アルコールを挙げることができる。
【0025】
本発明の金属表面処理組成物中のアルミニウムイオン捕捉剤の含有量は、50ppm以上10000ppm以下であることが好ましく、100ppm以上1000ppm以下であることが更に好ましい。50ppmより少ない場合には、複合化成皮膜中のアルミニウムイオンと、アルミニウム補足剤とで形成される有機錯化合物の含有量が少ないため、密着性が低下する。10000ppmより多い場合には、性能アップは望めずコスト面で不利である。なお、アルミニウムイオン捕捉剤が二種以上からなる際には、それらの合計した量をアルミニウムイオン捕捉剤の含有量とする。
【0026】
[ポリイタコン酸]
ポリイタコン酸の具体例としては、ポリイタコン酸そのもの以外に、ポリイタコン酸のアルカリ金属塩やアンモニウム塩を挙げることができる。更に、イタコン酸セグメントを有するポリイタコン酸−ポリマレイン酸共重合体、ポリイタコン酸−(メタ)アクリル酸共重合体、ポリイタコン酸−スルホン酸共重合体等のポリイタコン酸共重合体、及び、これらのアルカリ金属塩やアンモニウム塩も使用可能である。ポリイタコン酸のホモポリマーが好ましい。上記ポリイタコン酸の分子量は、例えば、260〜1000000であり、好ましくは、1000〜70000である。
【0027】
前記ポリイタコン酸が共重合体である場合、その共重合体におけるイタコン酸セグメントの含有量が、アルミニウムイオン捕捉剤としての有効成分とみなされる。例えば、本発明の金属表面処理組成物において、ポリイタコン酸−ポリマレイン酸共重合体が200ppm含有されており、この共重合体におけるイタコン酸とマレイン酸との質量比が1/1である場合、アルミニウムイオン捕捉剤の含有量は、200ppm×1/2=100ppmとみなされる。
【0028】
前記ポリイタコン酸が共重合体である場合、その共重合体におけるイタコン酸セグメントの含有量は、10質量%以上であることが好ましく、50質量%以上であることが更に好ましい。イタコン酸セグメントを含有しないアクリル樹脂、例えばポリアクリル酸、ポリメタクリル酸、その他イタコン酸を含有しないアクリル共重合体では、本発明の効果を得ることができない。
【0029】
[単糖アルコール]
単糖アルコールの具体例としては、ソルビトール、マンニトール、ガラクチトール、キシリトール等が挙げられる。これらのうち、本発明の効果が得られやすいことから、ソルビトールが特に好ましく用いられる。
【0030】
[二糖アルコール]
二糖アルコールの具体例としては、マルチトール、ラクチトール等が挙げられる。これらのうち、本発明の効果が得られやすいことから、マルチトールが特に好ましく用いられる。
【0031】
<pH>
本発明の金属表面処理組成物のpHは、2以上5以下であることが好ましい。更に好ましくは、3以上4.5以下である。pHが2より小さい場合には、エッチング過多となり、5より大きい場合には、エッチング不足となると共に金属表面処理組成物が不安定化する。pHの調整は、pHが高い場合には硝酸を添加し、pHが低い場合にはアンモニア、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等を添加することにより行うことができる。
【0032】
<添加剤>
本発明の金属表面処理組成物は、本発明の効果を損なわない範囲内で各種添加剤を所定量添加したものであってもよい。例えば、マンガン、亜鉛、カルシウム、鉄、マグネシウム、モリブテン、バナジウム、チタン、ケイ素等の金属イオンの他、界面活性剤、クエン酸、グルコン酸、マロン酸、コハク酸、酒石酸、ホスホン酸等とそれらの金属塩等を添加してもよい。
【0033】
<皮膜形成条件>
本発明の金属表面処理組成物を用いて化成処理皮膜を形成させる際の液温度としては、30℃以上70℃以下が好ましい。更に好ましくは40℃以上60℃以下である。処理温度が30℃未満では、皮膜形成反応が遅く、処理時間が長くなるため工業的に不利であり、70℃を超えると、アルミニウムイオン捕捉剤の安定性が低下する。また、処理時間は1秒以上60秒以下が好ましい。更に好ましくは2秒以上10秒以下である。1秒未満では、皮膜形成反応時間が足りず適切な化成皮膜が形成されにくくなり、60秒を超えると、処理時間が長く工業的に不利である。
【0034】
<化成皮膜>
本発明の金属表面処理組成物を用いて化成処理皮膜を形成させた金属材料表面の皮膜量は、ジルコニウムは金属元素換算で2mg/m以上100mg/m以下が好ましい。更に好ましくは10mg/m以上25mg/m以下である。2mg/m未満では適切な耐食性を得ることができず、また100mg/mを超えても密着性と耐食性は向上せず、コスト高となる。また、アルミニウムイオン捕捉剤はアルミニウムイオン捕捉剤に由来する有機炭素量換算で0.5mg/m以上20mg/m以下であることが好ましい。更に好ましくは1mg/m以上10mg/m以下である。0.5mg/m未満では適切な密着性を得ることができず、また20mg/mを超えても密着性と耐食性は向上せず、コスト高となる。
【0035】
<処理方法>
本発明の金属表面処理組成物は、アルミニウム系金属の塗装前処理に用いられる。前記アルミニウム系金属としては、アルミニウムやアルミニウム合金等を挙げることができる。表面処理方法としては特に限定されず、必要に応じて脱脂処理やエッチング処理を施した後に、例えば、スプレー処理、浸漬処理等により行うことができる。
【0036】
本発明の金属表面処理組成物による表面処理を行った後の塗装は、特に限定されるものではない。例えば、対象物が食缶である場合、塩ビ塗料等の缶用塗料が塗布される。なお、塗装以外にラミネート用接着樹脂を塗布して、ラミネート処理を施すことも可能である。
【0037】
<アルミニウム系金属表面処理板>
先の金属表面処理組成物を、アルミニウム系金属板に対して処理することによって得られるアルミニウム系金属表面処理板も、本発明の範囲内に属するものである。この場合、先の金属表面処理組成物をアルミニウム系金属板の少なくとも一方の表面に接触させることによって、アルミニウム系金属表面処理板が得られる。このアルミニウム系金属表面処理板の表面に存在する化成皮膜については、既に説明した内容がそのまま適用される。
【実施例】
【0038】
次に、本発明を実施例及び比較例を挙げて具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例にのみ限定されるものではない。
【0039】
<金属表面処理>
アルミニウム系金属としてアルミニウム合金(5182材)を準備し、日本ペイント社製の脱脂剤「SCL420N−2」(商品名)の2%水溶液中(65℃)に7秒間浸漬して脱脂処理を行った。脱脂処理後、水洗してから、2%硫酸水溶液中(50℃)に3秒間浸漬して酸洗浄を行った。酸洗浄後、水洗してから、実施例及び比較例に示す各金属表面処理組成物でスプレー処理した。次いで、水洗してからロール絞りで脱水を行った後、80℃×60秒間の条件下で乾燥させた。
【0040】
<実施例1>
フルオロジルコニウム酸、水酸化アルミニウム、フッ化水素酸、及びアルミニウムイオン捕捉剤としてのポリイタコン酸(磐田化学工業社製、「PIA−728」、商品名、分子量約3000)を、それぞれ、ジルコニウムイオン50ppm、アルミニウムイオン10ppm、有効フッ素イオン1ppm、アルミニウムイオン捕捉剤200ppmとなるよう配合し、アンモニアを添加してpHを3.5に調整して、金属表面処理組成物を得た。
【0041】
<実施例2〜19>
実施例1と同様にして、各成分の配合量を表1に示すように変化させたものを実施例2〜19とした。
【0042】
<実施例20>
アルミニウムイオン捕捉剤として、イタコン酸−アクリル酸共重合体(日本純薬社製、「ジュリマーAC−50」、商品名)を用いた以外は、実施例1と同様に配合・調製して実施例20とした。
【0043】
<実施例21>
アルミニウムイオン捕捉剤として、単糖アルコールであるD−ソルビトール(東和化成工業社製、「ソルビット」、商品名)を用いた以外は、実施例1と同様に配合・調製して実施例21とした。
【0044】
<実施例22>
アルミニウムイオン捕捉剤として、D−ソルビトールの代わりに、二糖アルコールであるマルチトール(東和化成工業社製、「アマミール」、商品名)を用いた以外は、実施例21と同様に配合・調製して実施例22とした。
【0045】
<比較例1>
表2に示すように、ジルコニウムイオン、アルミニウムイオン、及び、フッ素イオンをいずれも配合しない以外は、実施例1と同様に配合・調製して比較例1とした。
【0046】
<比較例2>
アルミニウムイオン捕捉剤を配合しない以外は、実施例1と同様に配合・調製して比較例2とした。
【0047】
<比較例3>
アルミニウムイオンを配合しない以外は、実施例1と同様に配合・調製して比較例3とした。
【0048】
<比較例4>
アルミニウムイオン捕捉剤の代わりに、フェノール樹脂(昭和高分子社製、「ショーノールBRL−141B」、商品名)を200ppm配合した以外は、実施例1と同様に配合・調製して比較例4とした。
【0049】
<比較例5>
アルミニウムイオン捕捉剤の代わりに、ポリアクリル酸(日本純薬社製、「ジュリマーAC10L」、商品名)を200ppm配合した以外は、実施例1と同様に配合・調製して比較例5とした。
【0050】
<比較例6>
アルミニウムイオン捕捉剤の代わりに、ポリメタクリル酸(日本純薬社製、「AC30H」、商品名)を200ppm配合した以外は、実施例1と同様に配合・調製して比較例5とした。
【0051】
<比較例7>
アルミニウムイオン捕捉剤の代わりに、タンニン酸(大日本住友製薬社製、「Nタンニン酸」、商品名)を200ppm配合した以外は、実施例1と同様に配合・調製して比較例7とした。
【0052】
<比較例8>
クロム系表面処理組成物のリン酸クロメート(日本ペイント社製、「アルサーフ407/47」、商品名)を比較例8とした。
【0053】
<スラッジ観察>
金属表面処理組成物1L当たり、0.1mのアルミニウム合金(5182材)を処理した後、金属表面処理組成物の濁りを目視観察した。評価基準は次の通りとした。結果を表1及び表2に示した。
○:濁りなし。
×:濁りあり。
【0054】
<評価>
[化成皮膜中含有量の測定]
作成した化成皮膜のジルコニウム付着量は、蛍光X線分析装置(島津製作所社製、「XRF1700」、商品名)を用いて測定した。また、アルミニウムイオン捕捉剤付着量は、アルミニウムイオン捕捉剤に由来する有機炭素量として、全有機炭素測定装置(LECO社製、「RC−412」、商品名)を用いて測定した。それぞれの測定量を表1及び表2に示した。
【0055】
[密着性:碁盤目密着試験]
上記の各処理を施したアルミニウム合金について、乾燥塗装膜厚12μmとなるように、塩化ビニル系溶剤型塗料をバーコーターにて塗布した後、電気式コンベアー排出型オーブンを用いて260℃×30秒の乾燥条件で乾燥させた。次いで、作成した塗装板を、125℃×30分の高温高湿テストに供した後、碁盤目密着試験を行い、剥離率を目視で観察した。評価基準は次の通りとした。結果を表1及び表2に示した。
◎:剥離率5%以下。
○:剥離率5%より大きく10%より小さい。
△:剥離率10%以上20%より小さい。
×:剥離率20%以上。
【0056】
<耐食性>
モデルジュース耐食性試験として、乾燥塗装膜厚12μmとなるように、塩化ビニル系溶剤型塗料をバーコーターにて塗布した後、電気式コンベアー排出型オーブンを用いて260℃×30秒の乾燥条件で乾燥させた。次いで、カップ成形を施してモデルジュース(1%クエン酸、1%NaCl)に浸漬した後、50℃×96時間放置した。放置後、腐食率を目視で観察して耐食性の評価を行った。なお、評価基準は次の通りとした。結果を表1及び表2に示した。
○:腐食率10%以下。
△:腐食率10%より大きく20%より小さい。
×:腐食率20%以上。
【0057】
<結果>
表1及び表2に示す通り、いずれの実施例も比較例1〜7に比して、密着性、耐食性、スラッジ性が良好であり、リン酸クロメートを用いた比較例8と同等レベルという優れた効果が確認された。
【0058】
【表1】

【0059】
【表2】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルミニウム系金属板の塗装前処理に用いられる金属表面処理組成物であって、
フッ素イオン、ジルコニウムイオン、アルミニウムイオン、及び、アルミニウムイオン捕捉剤を含む金属表面処理組成物。
【請求項2】
前記アルミニウムイオン捕捉剤がポリイタコン酸である請求項1記載の金属表面処理組成物。
【請求項3】
前記アルミニウムイオン捕捉剤が単糖アルコールである請求項1記載の金属表面処理組成物。
【請求項4】
前記単糖アルコールがソルビトールである請求項3記載の金属表面処理組成物。
【請求項5】
前記アルミニウムイオン捕捉剤が二糖アルコールである請求項1記載の金属表面処理組成物。
【請求項6】
前記二糖アルコールがマルチトールである、請求項5記載の金属表面処理組成物。
【請求項7】
前記フッ素イオンを有効フッ素イオン量として1ppm以上1000ppm以下、前記ジルコニウムイオンを金属元素換算で10ppm以上10000ppm以下、前記アルミニウムイオンを金属元素換算で10ppm以上2000ppm以下、及び前記アルミニウムイオン捕捉剤を50ppm以上10000ppm以下の量で含有し、かつ、pHが2以上5以下である請求項1から6いずれか記載の金属表面処理組成物。
【請求項8】
請求項1から7いずれか記載の金属表面処理組成物を、液温30℃以上70℃以下、処理時間1秒以上60秒以下の条件で、アルミニウム系金属板の少なくとも一方の表面に接触させることにより、前記アルミニウム系金属板の表面にジルコニウムを金属元素換算で2mg/m以上100mg/m以下、及びアルミニウムイオン捕捉剤をアルミニウムイオン捕捉剤に由来する有機炭素量換算で0.5mg/m以上20mg/m以下含有する化成皮膜が形成された、アルミニウム系金属表面処理板。

【公開番号】特開2008−297594(P2008−297594A)
【公開日】平成20年12月11日(2008.12.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−144580(P2007−144580)
【出願日】平成19年5月31日(2007.5.31)
【出願人】(000230054)日本ペイント株式会社 (626)
【出願人】(000003768)東洋製罐株式会社 (1,150)
【Fターム(参考)】