説明

金属表面処理組成物および金属表面処理鋼板

【課題】 クロム酸塩処理又はリン酸塩処理に匹敵する防錆力を持つ無公害型の表面処理組成物を提供すること。
【解決手段】 (A)加水分解性チタン化合物、加水分解性チタン化合物の低縮合物、水酸化チタン及び水酸化チタンの低縮合物よりなる群から選ばれる少なくとも1種のチタン化合物を過酸化水素水と混合して得られるチタン含有水性液の固形分100重量部に基いて、(B)有機リン酸化合物1〜400重量部、(C)水溶性又は水分散性有機樹脂を固形分で10〜2,000重量部、(D)バナジン酸化合物1〜400重量部、(E)弗化ジルコニウム化合物1〜400重量部及び(F)炭酸ジルコニウム化合物1〜400重量部を含有してなることを特徴とする金属表面処理組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、従来のクロム酸塩処理及びりん酸塩処理に替わる、加工性、耐食性、上塗塗装性などに優れた皮膜を得ることのできる無公害型の金属表面処理組成物及び該金属表面処理組成物を用いた金属表面処理鋼板に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、金属表面の耐食性を向上させるためクロム酸塩処理及びリン酸塩処理が一般に行われている。しかしながら近年クロムの毒性が社会問題になっている。クロム酸塩を使用する表面処理方法は、処理工程でのクロム酸塩ヒュ−ムの飛散の問題、排水処理設備に多大な費用を要すること、さらには化成処理皮膜からクロム酸の溶出による問題などがある。また6価クロム化合物は、IARC(International Agency for Research on Cancer Review)を初めとして多くの公的機関が人体に対する発癌性物質に指定しており、極めて有害な物質である。
【0003】
またリン酸塩処理では、リン酸亜鉛系、リン酸鉄系の表面処理が通常行われているが、耐食性を付与する目的でリン酸塩処理後、通常クロム酸によるリンス処理を行うためクロム処理の問題とともにリン酸塩処理剤中の反応促進剤や金属イオンなどの排水処理、被処理金属からの金属イオンの溶出によるスラッジ処理などの問題がある。
【0004】
クロム酸塩処理やリン酸亜鉛処理以外の処理方法としては、(1)重燐酸アルミニウムを含有する水溶液で処理した後、150〜550℃の温度で加熱する表面処理方法(特許文献1など参照)、(2)タンニン酸を含有する水溶液で処理する方法(特許文献2など参照)などが提案され、また、(3)亜硝酸ナトリウム、硼酸ナトリウム、イミダゾール、芳香族カルボン酸、界面活性剤などによる処理方法もしくはこれらを組合せた処理方法が行われている。
【0005】
しかしながら、(1)の方法は、この上に塗料を塗装する場合、塗料の密着性が十分でなく、また、(2)の方法は、耐食性が劣り、(3)の方法は、いずれも高温多湿の雰囲気に暴露された場合の耐食性が劣るという問題がある。
【0006】
【特許文献1】特公昭53−28857号公報
【特許文献2】特開昭51−71233号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、クロム酸塩処理及びリン酸塩処理に匹敵する防錆力を持つ無公害型の表面処理組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記課題を解決するため鋭意検討を行った結果、特定のチタン化合物を過酸化水素水と混合して得られるチタン含有水性液に有機リン酸化合物、水溶性又は水分散性有機樹脂、バナジン酸化合物、弗化ジルコニウム化合物及び炭酸ジルコニウム化合物を特定量添加して得られる金属表面処理組成物が、従来のクロム酸塩処理剤及びリン酸塩処理剤に匹敵する防錆力を持つことを見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
かくして本発明は、
(A)加水分解性チタン化合物、加水分解性チタン化合物の低縮合物、水酸化チタン及び水酸化チタンの低縮合物よりなる群から選ばれる少なくとも1種のチタン化合物を過酸化水素水と混合して得られるチタン含有水性液の固形分100重量部に基いて、
(B)有機リン酸化合物1〜400重量部、
(C)水溶性又は水分散性有機樹脂を固形分で10〜2,000重量部、
(D)バナジン酸化合物1〜400重量部、
(E)弗化ジルコニウム化合物1〜400重量部及び
(F)炭酸ジルコニウム化合物1〜400重量部を含有してなることを特徴とする金属表面処理組成物に関する。
【0010】
また、本発明は、上記金属表面処理組成物を金属素材上に塗布してなることを特徴とする表面処理金属板に関する。
【発明の効果】
【0011】
本発明の金属表面処理組成物は、特定のチタン化合物を過酸化水素水と混合して得られるチタン含有水性液に有機リン酸化合物及び水溶性又は水分散性有機樹脂を組合わせることで、強靭な膜を形成することができ、金属素材との密着性にも優れる。これにさらにバナジン酸化合物、弗化ジルコニウム化合物及び炭酸ジルコニウム化合物を特定量組合わせることで防錆力は大幅に向上し、クロム酸塩処理剤及びリン酸塩処理剤に匹敵する耐食性を得られることから、これらの処理剤に替わるノンクロム型表面処理剤として金属の表面処理用に極めて有用なものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
本発明の金属表面処理組成物は、チタン含有水性液(A)、有機リン酸化合物(B)、水溶性又は水分散性有機樹脂(C)、バナジン酸化合物(D)、弗化ジルコニウム化合物(E)及び炭酸ジルコニウム化合物(F)を含有してなるものである。
【0013】
チタン含有水性液(A)
本発明の金属表面処理組成物で使用されるチタン含有水性液(A)は、加水分解性チタン、加水分解性チタン低縮合物、水酸化チタン及び水酸化チタン低縮合物から選ばれる少なくとも1種のチタン化合物と過酸化水素水とを反応させて得られるチタンを含む水性液である。該水性液としては、上記したものであれば特に制限なしに従来から公知のものを適宜選択して使用することができる。上記した加水分解性チタンは、チタンに直接結合する加水分解性基を有するチタン化合物であって、水、水蒸気などの水分と反応することにより水酸化チタンを生成するものである。また、加水分解性チタンにおいて、チタンに結合する基の全てが加水分解性基であっても、もしくはその1部が加水分解された水酸基であってもどちらでも構わない。
【0014】
上記した加水分解性基としては、上記した様に水分と反応することにより水酸化チタンを生成するものであれば特に制限されないが、例えば、低級アルコキシル基やチタンと塩を形成する基(例えば、ハロゲン原子(塩素など)、水素原子、硫酸イオンなど)が挙げられる。
【0015】
加水分解性基として低級アルコキシル基を含有する加水分解性チタンとしては、特に一般式Ti(OR)(式中、Rは同一もしくは異なって炭素数1〜5のアルキル基を示す)のテトラアルコキシチタンが好ましい。炭素数1〜5のアルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、n−プロピル基、iso−プロピル基、n−ブチル基、iso−ブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基などが挙げられる。
【0016】
加水分解性基として、チタンと塩を形成する基を有する加水分解性チタンとしては、塩化チタン、硫酸チタンなどが代表的なものとして挙げられる。
【0017】
また、加水分解性チタン低縮合物は、上記した加水分解性チタン同士の低縮合物である。該低縮合物は、チタンに結合する基の全てが加水分解性基であっても、もしくはその1部が加水分解された水酸基であってもどちらでも構わない。
【0018】
チタンと塩を形成する基である塩化チタンや硫酸チタンなどは、このものの水溶液とアンモニアや苛性ソーダなどのアルカリ溶液との反応によるオルトチタン酸(水酸化チタンゲル)も低縮合物として使用できる。
【0019】
上記した加水分解性チタン低縮合物又は水酸化チタン低縮合物における縮合度は、2〜30の化合物が使用可能で、特に縮合度2〜10の範囲内のものを使用することが好ましい。
【0020】
チタン含有水性液(A)としては、上記したチタン化合物と過酸化水素水とを反応させることにより得られるチタンを含む水性液であれば、従来から公知のものを特に制限なしに使用することができる。具体的には下記のものを挙げることができる。
【0021】
(1)含水酸化チタンのゲルあるいはゾルに過酸化水素水を添加して得られるチタニルイオン過酸化水素錯体あるいはチタン酸(ペルオキソチタン水和物)水溶液。(特開昭63-35419号及び特開平1-224220号公報参照)
(2)塩化チタンや硫酸チタン水溶液と塩基性溶液から製造した水酸化チタンゲルに過酸化水素水を作用させ、合成することで得られるチタニア膜形成用液体。(特開平9-71418号及び特開平10-67516号公報参照)
また、上記したチタニア膜形成用液体において、チタンと塩を形成する基を有する塩化チタンや硫酸チタン水溶液とアンモニアや苛性ソーダなどのアルカリ溶液とを反応させることによりオルトチタン酸と呼ばれる水酸化チタンゲルを沈殿させる。次いで水を用いたデカンテーションによって水酸化チタンゲルを分離し、良く水洗し、さらに過酸化水素水を加え、余分な過酸化水素を分解除去することにより、黄色透明粘性液体を得ることができる。
【0022】
沈殿した該オルトチタン酸はOH同志の重合や水素結合によって高分子化したゲル状態にあり、このままではチタンを含む水性液としては使用できない。このゲルに過酸化水素水を添加するとOHの一部が過酸化状態になりペルオキソチタン酸イオンとして溶解、あるいは、高分子鎖が低分子に分断された一種のゾル状態になり、余分な過酸化水素は水と酸素になって分解し、無機膜形成用のチタンを含む水性液として使用できるようになる。
【0023】
このゾルはチタン原子以外に酸素原子と水素原子しか含まないので、乾燥や焼成によって酸化チタンに変化する場合、水と酸素しか発生しないため、ゾルゲル法や硫酸塩などの熱分解に必要な炭素成分やハロゲン成分の除去が必要でなく、従来より低温でも比較的密度の高い結晶性の酸化チタン膜を作成することができる。
【0024】
(3)塩化チタンや硫酸チタンの無機チタン化合物水溶液に過酸化水素を加えてぺルオキソチタン水和物を形成された後に、塩基性物質を添加して得られた溶液を放置もしくは加熱することによってペルオキソチタン水和物重合体の沈殿物を形成した後に少なくともチタン含有原料溶液に由来する水以外の溶解成分を除去した後に過酸化水素を作用させて得られるチタン酸化物形成用溶液。(特開2000-247638号及び特開2000-247639号公報参照)
本発明で使用するチタン含有水性液(A)において、過酸化水素水中にチタン化合物を添加して製造されたものを使用することが好ましい。チタン化合物としては、上記した一般式で表される加水分解して水酸基になる基を含有する加水分解性チタンやその加水分解性チタン低縮合物を使用することが好ましい。
【0025】
加水分解性チタン及び/又はその低縮合物(以下、これらのものを単に「加水分解性チタンa」と略す)と過酸化水素水との混合割合は、加水分解性チタンa10重量部に対して過酸化水素換算で0.1〜100重量部、特に1〜20重量部の範囲内が好ましい。過酸化水素換算で0.1重量部未満になるとキレート形成が十分でなく白濁沈殿してしまう。一方、100重量部を超えると未反応の過酸化水素が残存し易く貯蔵中に危険な活性酸素を放出するので好ましくない。
【0026】
過酸化水素水の過酸化水素濃度は特に限定されないが3〜30重量%の範囲内であることが取り扱いやすさ、塗装作業性に関係する生成液の固形分の点で好ましい。
【0027】
また、加水分解性チタンaを用いてなるチタン含有水性液(A)は、加水分解性チタンaを過酸化水素水と反応温度1〜70℃の範囲内で10分間〜20時間反応させることにより製造できる。
【0028】
加水分解性チタンaを用いてなるチタン含有水性液(A)は、加水分解性チタンaと過酸化水素水と反応させることにより、加水分解性チタンが水で加水分解されて水酸基含有チタン化合物を生成し、次いで過酸化水素が生成した水酸基含有チタン化合物に配位するものと推察され、この加水分解反応及び過酸化水素による配位が同時近くに起こることにより得られたものであり、室温域で安定性が極めて高く長期の保存に耐えるキレート液を生成する。従来の製法で用いられる水酸化チタンゲルはTi−O−Ti結合により部分的に三次元化しており、このゲルと過酸化水素水を反応させた物とは組成及び安定性に関し本質的に異なる。
【0029】
加水分解性チタンaを用いてなるチタン含有水性液(A)を80℃以上で加熱処理あるいはオートクレーブ処理を行うと結晶化した酸化チタンの超微粒子を含む酸化チタン分散液が得られる。80℃未満では十分に酸化チタンの結晶化が進まない。このようにして製造された酸化チタン分散液は、酸化チタン超微粒子の粒子径が10nm以下、好ましくは1nm〜6nmの範囲である。また、該分散液の外観は半透明状のものである。該粒子径が10nmより大きくなると造膜性が低下(1μm以上でワレを生じる)するので好ましくない。この分散液も同様に使用することができる。
【0030】
加水分解性チタンaを用いてなるチタン含有水性液(A)は、鋼鈑材料に塗布乾燥、または低温で加熱処理することにより、それ自体で付着性に優れた緻密な酸化チタン膜を形成できる。
【0031】
加熱処理温度としては、例えば200℃以下、特に150℃以下の温度で酸化チタン膜を形成することが好ましい。
【0032】
加水分解性チタンaを用いてなるチタン含有水性液(A)は、上記した温度により水酸基を若干含む非晶質(アモルファス)の酸化チタン膜を形成する。
【0033】
また、80℃以上の加熱処理をした酸化チタン分散液は塗布するだけで結晶性の酸化チタン膜が形成できるため、加熱処理をできない材料のコーティング材として有用である。
【0034】
本発明において、チタン含有水性液(A)として、酸化チタンゾルの存在下で、上記と同様の加水分解性チタン及び/又は加水分解性チタン低縮合物と過酸化水素水とを反応させて得られるチタンを含む水性液(A1)を使用することが好ましい。加水分解性チタン及び/又は加水分解性チタン低縮合物(加水分解性チタンa)としては、上記した一般式で表される加水分解して水酸基になる基を含有するチタンモノマーやその加水分解性チタン低縮合物を使用することが好ましい。
【0035】
上記した酸化チタンゾルは、無定型チタニア又はアナタース型チタニア微粒子が水(必要に応じて、例えば、アルコール系、アルコールエーテル系などの水性有機溶剤を含有しても構わない)に分散したゾルである。
【0036】
上記した酸化チタンゾルとしては従来から公知のものを使用することができる。該酸化チタンゾルとしては、例えば、(1)硫酸チタンや硫酸チタニルなどの含チタン溶液を加水分解して得られるもの、(2)チタンアルコキシドなどの有機チタン化合物を加水分解して得られるもの、(3)四塩化チタンなどのハロゲン化チタン溶液を加水分解又は中和して得られるものなどの酸化チタン凝集物を水に分散した無定型チタニアゾルや該酸化チタン凝集物を焼成してアナタース型チタン微粒子としこのものを水に分散したものを使用することができる。
【0037】
無定形チタニアの焼成は少なくともアナターゼの結晶化温度以上の温度、例えば、400℃〜500℃以上の温度で焼成すれば、無定形チタニアをアナターゼ型チタニアに変換させることができる。該酸化チタンの水性ゾルとして、例えば、TKS−201(テイカ(株)社製、商品名、アナタース型結晶形、平均粒子径6nm)、TA−15(日産化学(株)社製、商品名、アナタース型結晶形)、STS−11(石原産業(株)社製、商品名、アナタース型結晶形)などが挙げられる。
【0038】
加水分解性チタンaと過酸化水素水とを反応させるために使用する際の上記酸化チタンゾルとチタン過酸化水素反応物との重量比率は1/99〜99/1、好ましくは約10/90〜90/10の範囲である。重量比率が1/99未満になると安定性、光反応性などにおいて酸化チタンゾルを添加した効果が見られず、99/1を越えると造膜性が劣るので好ましくない。
【0039】
加水分解性チタンaと過酸化水素水との混合割合は、加水分解性チタンa 10重量部に対して過酸化水素換算で0.1〜100重量部、特に1〜20重量部の範囲内が好ましい。過酸化水素換算で0.1重量部未満になるとキレート形成が十分でなく白濁沈殿してしまう。一方、100重量部を超えると未反応の過酸化水素が残存し易く貯蔵中に危険な活性酸素を放出するので好ましくない。
【0040】
過酸化水素水の過酸化水素濃度は特に限定されないが3〜30重量%の範囲内であることが取り扱いやすさ、塗装作業性に関係する生成液の固形分の点で好ましい。
【0041】
また、水性液(A1)は、酸化チタンゾルの存在下で加水分解性チタンaを過酸化水素水と反応温度1〜70℃の範囲内で10分間〜20時間反応させることにより製造できる。
【0042】
水性液(A1)は、加水分解性チタンaを過酸化水素水と反応させることにより、加水分解性チタンaが水で加水分解されて水酸基含有チタン化合物を生成し、次いで過酸化水素が生成した水酸基含有チタン化合物に配位するものと推察され、この加水分解反応及び過酸化水素による配位が同時近くに起こることにより得られたものであり、室温域で安定性が極めて高く長期の保存に耐えるキレート液を生成する。従来の製法で用いられる水酸化チタンゲルはTi−O−Ti結合により部分的に三次元化しており、このゲルと過酸化水素水を反応させた物とは組成、安定性に関し本質的に異なる。また、酸化チタンゾルを使用することにより、合成時に一部縮合反応が起きて増粘するのを防ぐようになる。その理由は縮合反応物が酸化チタンゾルの表面に吸着され、溶液状態での高分子化を防ぐためと考えられる。
【0043】
また、チタンを含む水性液(A1)を80℃以上で加熱処理あるいはオートクレーブ処理を行うと結晶化した酸化チタンの超微粒子を含む酸化チタン分散液が得られる。80℃未満では十分に酸化チタンの結晶化が進まない。このようにして製造された酸化チタン分散液は、酸化チタン超微粒子の粒子径が10nm以下、好ましくは1nm〜6nmの範囲である。また、該分散液の外観は半透明状のものである。該粒子径が10nmより大きくなると造膜性が低下(1μm以上でワレを生じる)するので好ましくない。 この分散液も同様に使用することができる。
【0044】
チタンを含む水性液(A1)は、鋼鈑材料に塗布乾燥、または低温で加熱処理することにより、それ自体で付着性に優れた緻密な酸化チタン膜を形成できる。
【0045】
加熱処理温度としては、例えば200℃以下、特に150℃以下の温度で酸化チタン膜を形成することが好ましい。
【0046】
チタンを含む水性液(A1)は、上記した温度により水酸基を若干含むアナタース型の酸化チタン膜を形成する。
【0047】
上記したチタン含有水性液(A)の中でも、加水分解性チタンaを使用した上記水性液や水性液(A1)は貯蔵安定性、耐食性などに優れた性能を有するのでこのものを使用することが好ましい。
【0048】
上記チタン含有水性液(A)には、他の顔料やゾルを必要に応じて添加分散する事も出来る。添加物としては、市販されている酸化チタンゾル、酸化チタン粉末など、マイカ、タルク、シリカ、バリタ、クレーなどが一例として挙げることができる。
【0049】
チタン含有水性液(A)の表面処理組成物中の含有量は固形分で1〜100g/L、好ましくは5〜50g/Lの範囲内が、処理液の安定性などの点から適している。
【0050】
有機リン酸化合物(B)
本発明の金属表面処理組成物の(B)成分である有機リン酸化合物としては、例えば、1−ヒドロキシメタン−1、1−ジホスホン酸、1−ヒドロキシエタン−1、1−ジホスホン酸、1−ヒドロキシプロパン−1、1−ジホスホン酸などのヒドロキシル基含有有機亜リン酸;2−ヒドロキシホスホノ酢酸、2−ホスホノブタン−1,2,4−トリカルボン酸などのカルボキシル基含有有機亜リン酸、及びこれらの塩などが好適なものとして挙げられる。
【0051】
上記有機リン酸化合物は、前記チタン含有水性液(A)の貯蔵安定性を向上させる効果を有し、中でも特に1−ヒドロキシエタン−1、1−ジホスホン酸の効果が大きいことから、このものを使用するのが好ましい。
【0052】
有機リン酸化合物(B)の添加量はチタン含有水性液(A)の固形分100重量部に基いて1〜400重量部、特に20〜300重量部であることが、耐水付着性などの点から好ましい。
【0053】
水溶性又は水分散性有機樹脂(C)
本発明の金属表面処理組成物の(C)成分である水溶性又は水分散性有機樹脂は、水に溶解又は分散することのできる有機樹脂であり、有機樹脂を水に水溶化又は分散化させる方法としては、従来から公知の方法を使用して行うことができる。具体的には、有機樹脂として、単独で水溶化や水分散化できる官能基(例えば、水酸基、ポリオキシアルキレン基、カルボキシル基、アミノ(イミノ)基、スルフィド基、ホスフィン基など)を含有するもの及び必要に応じてそれらの官能基の一部又は全部を、酸性樹脂(カルボキシル基含有樹脂など)であればエタノールアミン、トリエチルアミンなどのアミン化合物;アンモニア水;水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウムなどのアルカリ金属水酸化物で中和したもの、また塩基性樹脂(アミノ基含有樹脂など)であれば、酢酸、乳酸などの脂肪酸;リン酸などの鉱酸で中和したものなどを使用することができる。
【0054】
かかる水性有機樹脂としては、例えば、エポキシ系樹脂、フェノール系樹脂、アクリル系樹脂、ウレタン系樹脂、オレフィン−カルボン酸系樹脂、ナイロン系樹脂、ポリオキシアルキレン鎖を有する樹脂、ポリビニルアルコール、ポリグリセリン、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロースなどが挙げられる。上記樹脂は単独で又は2種類以上併用して用いることができる。
【0055】
これらの中でも特に水溶性又は水分散性のアクリル系樹脂、ウレタン系樹脂及びエポキシ系樹脂からなる群から選ばれる少なくとも1種の樹脂を用いることが金属表面処理組成物の貯蔵安定性の面から好ましく、さらに特に水溶性又は水分散性のアクリル系樹脂を主成分として用いることが、金属表面処理組成物の貯蔵安定性と塗膜性能とのバランスの面から好ましい。
【0056】
水溶性又は水分散性アクリル樹脂は、従来公知の方法、例えば、乳化重合法、懸濁重合法、親水性の基を有する重合体を溶液重合により合成し、必要に応じて中和、水性化する方法などにより得ることができる。
【0057】
上記親水性の基を有する重合体は、例えば、カルボキシル基、アミノ基、水酸基、ポリオキシアルキレン基などの親水性の基を有する不飽和単量体と必要に応じてその他の不飽和単量体とを重合させることにより得ることができる。
【0058】
水溶性又は水分散性アクリル樹脂は、耐食性などの点からスチレンを共重合してなるものであることが好ましく、全不飽和単量体中のスチレンの量は10〜60重量%、特に15〜50重量%の範囲内であることが好ましい。また、共重合して得られるアクリル樹脂のTg(ガラス転移点)は30〜80℃、特に40〜70℃の範囲内にあることが得られる被膜の強靭性などの点から好ましい。
【0059】
上記カルボキシル基含有不飽和単量体としては、アクリル酸、メタアクリル酸、マレイン酸、無水マレイン酸、クロトン酸、イタコン酸などを挙げることができる。
【0060】
含窒素不飽和単量体としては、N,N−ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、N,N−ジエチルアミノエチル(メタ)アクリレート、N−t−ブチルアミノエチル(メタ)アクリレートなどの含窒素アルキル(メタ)アクリレート;アクリルアミド、メタクリルアミド、N−メチル(メタ)アクリルアミド、N−エチル(メタ)アクリルアミド、N−メチロール(メタ)アクリルアミド、N−メトキシメチル(メタ)アクリルアミド、N−ブトキシメチル(メタ)アクリルアミド、N,N−ジメチル(メタ)アクリルアミド、N,N−ジメチルアミノプロピル(メタ)アクリルアミド、N,N−ジメチルアミノエチル(メタ)アクリルアミドなどの重合性アミド類;2−ビニルピリジン、1−ビニル−2−ピロリドン、4−ビニルピリジンなどの芳香族含窒素モノマー;アリルアミンなどが挙げられる。
【0061】
水酸基含有不飽和単量体として、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、2,3−ジヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、4−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコールモノ(メタ)アクリレートなどの多価アルコールとアクリル酸又はメタクリル酸とのモノエステル化物;上記多価アルコールとアクリル酸又はメタクリル酸とのモノエステル化物にε-カプロラクトンを開環重合した化合物などが挙げられる。
【0062】
その他の不飽和単量体として、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、n−プロピル(メタ)アクリレート、イソプロピル(メタ)アクリレート、n−ブチル(メタ)アクリレート、イソブチル(メタ)アクリレート、tert−ブチル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシルアクリレート、n−オクチル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート、トリデシル(メタ)アクリレート、オクタデシル(メタ)アクリレート、イソステアリル(メタ)アクリレートなどの炭素数1〜24のアルキル(メタ)アクリレート;酢酸ビニルなどが挙げられる。これらの化合物は、1種で、又は2種以上を組合せて使用することができる。本発明において、「(メタ)アクリレート」は、アクリレート又はメタアクリレートを意味する。
【0063】
上記ウレタン系樹脂としては、ポリエステルポリオール、ポリエーテルポリオールなどのポリオールとジイソシアネートからなるポリウレタンを必要に応じてジオール、ジアミンなどのような2個以上の活性水素を持つ低分子量化合物である鎖伸長剤の存在下で鎖伸長し、水中に安定に分散もしくは溶解させたものを好適に使用でき、公知のものを広く使用できる(例えば特公昭42−24192号、特公昭42−24194号、特公昭42−5118号、特公昭49−986号、特公昭49−33104号、特公昭50−15027号、特公昭53−29175号公報参照)。ポリウレタン樹脂を水中に安定に分散もしくは溶解させる方法としては、例えば下記の方法が利用できる。
(1)ポリウレタンポリマーの側鎖又は末端に水酸基、アミノ基、カルボキシル基などのイオン性基を導入することにより親水性を付与し、自己乳化により水中に分散又は溶解する方法。
(2)反応の完結したポリウレタンポリマー又は末端イソシアネート基をオキシム、アルコール、フェノール、メルカプタン、アミン、重亜硫酸ソーダなどのブロック剤でブロックしたポリウレタンポリマーを乳化剤と機械的剪断力を用いて強制的に水中に分散する方法。さらに末端イソシアネート基を持つウレタンポリマーを水、乳化剤及び鎖伸長剤と混合し機械的剪断力を用いて分散化と高分子量化を同時に行う方法。
(3)ポリウレタン主原料のポリオールとしてポリエチレングリコールのごとき水溶性ポリオールを使用し、水に可溶なポリウレタンとして水中に分散又は溶解する方法。
【0064】
上記ポリウレタン系樹脂には、前述の分散又は溶解方法については単一方法に限定されるものでなく、各々の方法によって得られた混合物も使用できる。
【0065】
上記ポリウレタン系樹脂の合成に使用できるジイソシアネートとしては、芳香族、脂環族及び脂肪族のジイソシアネートが挙げられ、具体的にはヘキサメチレンジイソシアネート、テトラメチレンジイソシアネート、3,3’−ジメトキシ−4,4’−ビフェニレンジイソシアネート、p−キシリレンジイソシアネート、m−キシリレンジイソシアネート、1,3−(ジイソシアナトメチル)シクロヘキサノン、1,4−(ジイソシアナトメチル)シクロヘキサノン、4,4’−ジイソシアナトシクロヘキサノン、4,4’−メチレンビス(シクロヘキシルイソシアネート)、イソホロンジイソシアネート、2,4−トリレンジイソシアネート、2,6−トリレンジイソシアネート、p−フェニレンジイソシアネート、ジフェニルメタンジイソシアネート、m−フェニレンジイソシアネート、2,4−ナフタレンジイソシアネート、3,3’−ジメチル−4,4’−ビフェニレンジイソシアネート、4,4’−ビフェニレンジイソシアネートなどが挙げられる。これらのうち2,4−トリレンジイソシアネート、2,6−トリレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート及びイソホロンジイソシアネートが特に好ましい。
【0066】
上記ポリウレタン系樹脂の市販品としては、ハイドランHW−330、同HW−340、同HW−350(いずれも大日本インキ化学工業社製)、スーパーフレックス100、同150、同E−2500、同F−3438D(いずれも第一工業製薬社製)などを挙げることができる。
【0067】
上記エポキシ系樹脂としては、エポキシ樹脂にアミンを付加してなるカチオン系エポキシ樹脂;アクリル変性、ウレタン変性などの変性エポキシ樹脂などが好適に使用できる。カチオン系エポキシ樹脂としては、例えば、エポキシ化合物と、1級モノ−もしくはポリアミン、2級モノ−もしくはポリアミン、1,2級混合ポリアミンなどとの付加物(例えば米国特許第3984299号明細書参照);エポキシ化合物とケチミン化された1級アミノ基を有する2級モノ−またはポリアミンとの付加物(例えば米国特許第4017438号明細書参照);エポキシ化合物とケチミン化された1級アミノ基を有するヒドロキシル化合物とのエーテル化反応生成物(例えば特開昭59−43013号公報参照)などがあげられる。
【0068】
上記エポキシ系樹脂は、数平均分子量が400〜4,000、特に800〜2,000の範囲内にあり、かつエポキシ当量が190〜2,000、特に400〜1,000の範囲内にあるものが適している。そのようなエポキシ系樹脂は、例えば、ポリフェノール化合物とエピルロルヒドリンとの反応によって得ることができ、ポリフェノール化合物としては、例えば、ビス(4−ヒドロキシフェニル)−2,2−プロパン、4,4−ジヒドロキシベンゾフェノン、ビス(4−ヒドロキシフェニル)−1,1−エタン、ビス(4−ヒドロキシフェニル)−1,1−イソブタン、ビス(4−ヒドロキシ−tert−ブチルフェニル)−2,2−プロパン、ビス(2−ヒドロキシナフチル)メタン、1,5−ジヒドロキシナフタレン、ビス(2,4−ジヒドロキシフェニル)メタン、テトラ(4−ヒドロキシフェニル)−1,1,2,2−エタン、4,4−ジヒドロキシジフェニルスルホン、フェノールノボラック、クレゾールノボラックなどがあげられる。
【0069】
水溶性又は水分散性有機樹脂(C)の添加量はチタン含有水性液(A)の固形分100重量部に基いて、10〜2,000重量部、特に100〜1,500重量部であることが、皮膜をアルカリ脱脂した後の耐食性などの点から好ましい。
【0070】
バナジン酸化合物(D)
本発明の金属表面処理組成物の(D)成分であるバナジン酸化合物としては、例えば、メタバナジン酸リチウム、メタバナジン酸カリウム、メタバナジン酸ナトリウム、メタバナジン酸アンモニウム、無水バナジン酸などを挙げることができるが、中でも特にメタバナジン酸アンモニウムが、耐水付着性などの点から好ましい。
【0071】
バナジン酸化合物(D)の添加量はチタン含有水性液(A)の固形分100重量部に基いて、1〜400重量部、特に10〜400重量部であることが、皮膜をアルカリ脱脂した後の耐食性などの点から好ましい。
【0072】
弗化ジルコニウム化合物(E)
本発明の金属表面処理組成物の(E)成分である弗化ジルコニウム化合物としては、ジルコニウム弗化水素酸のナトリウム、カリウム、リチウム、アンモニウムなどの塩を挙げることができるが、中でもジルコニウム弗化アンモニウムが、耐水付着性などの点から好ましい。
【0073】
弗化ジルコニウム化合物(E)の添加量はチタン含有水性液(A)の固形分100重量部に基いて、1〜400重量部、特に20〜400重量部であることが、皮膜をアルカリ脱脂した後の耐食性などの点から好ましい。
【0074】
炭酸ジルコニウム化合物(F)
本発明の金属表面処理組成物の(F)成分である炭酸ジルコニウム化合物としては、炭酸ジルコニウムのナトリウム、カリウム、リチウム、アンモニウムなどの塩を挙げることができるが、中でも炭酸ジルコニウムアンモニウムが、耐水付着性などの点から好ましい。
【0075】
炭酸ジルコニウム化合物(F)の添加量はチタン含有水性液(A)の固形分100重量部に基いて、1〜400重量部、特に10〜400重量部であることが、皮膜をアルカリ脱脂した後の耐食性などの点から好ましい。
【0076】
シランカップリング剤(G)
本発明の金属表面処理組成物には必要に応じてシランカップリング剤を添加することができる。該シランカップリング剤(G)としては、例えば、N−β(アミノエチル)γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−β(アミノエチル)γ−アミノプロピルメチルジメトキシシラン、γ−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、N−β(N−ビニルベンジルアミノエチル)γ−アミノプロピルトリメトキシシラン−塩酸塩、γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、γ−メルカプトプロピルトリメトキシシラン、γ−メルカプトプロピルメチルジメトキシシラン、メチルトリメトキシシラン、ビニリトリアセトキシシラン、γ−クロロプロピルトリメトキシシラン、ヘキサメチルジシラザン、γ−アニリノプロピルトリメトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、オクタデシルジメチル[3−(トリメトキシシリル)プロピル]アンモニウムクロライド、トリメチルクロロシランなどがあげられる。
【0077】
シランカップリング剤(G)の添加量はチタン含有水性液(A)の固形分100重量部に基いて、1〜400重量部、特に10〜400重量部であることが、皮膜をアルカリ脱脂した後の耐食性などの点から好ましい。
【0078】
本発明の金属表面処理組成物には、必要に応じて、さらに、有機微粒子及び/又は無機微粒子を添加することができる。該微粒子を添加することで塗膜の透明性が下がり、薄膜において発生しやすいニジムラ(干渉色)を抑えることができ、外観を重視する用途に適する。上記微粒子の粒径は、平均粒子径として3〜1000nm、特に3〜500nmの範囲内が粒子の沈降安定性及び耐食性の点から適している。
【0079】
上記有機微粒子としては、例えば、アクリル、ポリウレタン、ナイロン、ポリエチレングリコールなどの樹脂微粒子が挙げられる。また、無機微粒子としては、例えば、シリカ、二酸化チタン、硫酸バリウム、炭酸カルシウムなどを挙げることができる。コストなどの点からシリカ、二酸化チタン、硫酸バリウムなどが好ましい。
【0080】
有機微粒子及び/又は無機微粒子の添加量は、金属表面処理組成物の固形分中1〜30重量%、特に1〜20重量%の範囲内であることが、耐食性などの点から好ましい。
【0081】
本発明の金属表面処理組成物は、中性もしくは酸性領域で安定な液体となるので、特にPH1〜7、特に1〜5の範囲が好ましい。
【0082】
金属表面処理組成物には、必要に応じて上記した成分の他に、例えば、無機りん酸化合物、弗化水素酸などのエッチング剤、本発明の成分以外の重金属化合物、増粘剤、界面活性剤、潤滑性付与剤(ポリエチレンワックス、フッソ系ワックス、カルナバワックスなど)、防錆剤、着色顔料、体質顔料、防錆顔料、染料などを含有することができる。
【0083】
上記無機りん酸化合物としては、例えば、オルトリン酸、メタリン酸、亞リン酸、メタ亞リン酸、次リン酸、次亞リン酸、ピロリン酸、トリポリリン酸、テトラリン酸、ヘキサリン酸、トリメタリン酸、ピロ亞リン酸、及びリン酸誘導体などが挙げられる。これらの化合物は1種もしくは2種以上組合せて使用することができる。また、これらのリン酸化合物はアルカリ化合物と塩を形成していてもよく、該アルカリ化合物としては、例えば、リチウム、ナトリウム、カリウム、アンモニウムなどを含有する有機又は無機アルカリ化合物が挙げられる。無機リン酸化合物としては、水に溶解性のあるものを使用することが好ましい。
【0084】
重金属化合物としては、例えばCo、Fe、Ni、Inなどの金属の塩;モリブデン酸、タングステン酸及びこれらの塩などが挙げられる。
【0085】
その他防錆剤としては、例えば、タンニン酸などの多価フェノール化合物;チオール類、チオカルボニル類などのイオウ原子含有化合物;トリアゾール類などの窒素原子含有化合物;チアゾール類、チアジアゾール類、チウラム類などのイオウ原子と窒素原子含有化合物;カルシウムイオン交換シリカなどのカルシウム原子含有化合物;ホウ酸、メタホウ酸などを挙げることができる。
【0086】
また、金属表面処理組成物には、必要に応じて、例えばメタノール、エタノール、イソプロピルアルコール、エチレングリコール系溶剤、プロピレングリコール系溶剤などの親水性溶剤で希釈して使用することができる。
【0087】
表面処理金属板
本金属表面処理組成物を基材に塗布し焼付けることにより表面処理金属板を得ることができる。
【0088】
上記金属表面処理組成物が適用される基材としては、金属素材であれば何ら制限を受けない。例えば、鉄、銅、アルミニウム、スズ、亜鉛ならびにこれらの金属を含む合金、及びこれらの金属によるめっき鋼板もしくは蒸着製品などが挙げられる。
【0089】
本金属表面処理組成物は、基材である鋼板上に、それ自体既知の処理方法、例えば浸漬塗装、スプレー塗装、ロール塗装などにより処理することができる。表面処理膜の乾燥条件は、通常、素材到達最高温度が約60〜約250℃となる条件で約2秒〜約30秒間乾燥させることが好適である。
【0090】
また金属表面処理組成物の処理膜厚としては、処理膜厚を薄くし過ぎると、耐食性、耐水性などの性能が低下し、一方処理膜厚を厚くし過ぎると、表面処理膜が割れたり加工性が低下したりするため、通常乾燥膜厚で0.001〜10μm、特に0.05〜3μmの範囲が好ましい。
【0091】
本発明の表面処理鋼板の用途は、建材用、家電用、自動車用、缶用、プレコート鋼板用など従来表面処理鋼板を使用している用途には、特に制限なく使用でき、必要に応じて下塗り塗料、上塗り塗料などが適宜塗装される。その塗装方法は用途、被塗物の形状などによって適宜選定すればよく、例えば、スプレー塗装、ハケ塗装、電着塗装、ロール塗装、カーテンフロー塗装などが好適に用いられる。塗装の替わりにフィルムをラミネートすることもできる。
【実施例】
【0092】
以下、実施例及び比較例を挙げて、本発明をより具体的に説明する。なお、以下、「部」及び「%」はいずれも重量基準によるものとする。
【0093】
チタン系水性液の製造
製造例1
四塩化チタン60%溶液5ccを蒸留水で500ccとした溶液にアンモニア水(1:9)を滴下し、水酸化チタンを沈殿させた。蒸留水で洗浄後、過酸化水素水30%溶液を10cc加えてかき混ぜ、チタンを含む黄色半透明の粘性のあるチタン系水性液T1を得た。
【0094】
製造例2
テトラiso-プロポキシチタン10部とiso-プロパノール10部の混合物を30%過酸化水素水10部と脱イオン水100部の混合物中に20℃で1時間かけて撹拌しながら滴下した。その後25℃で2時間熟成し、黄色透明の少し粘性のあるチタン系水性液T2を得た。
【0095】
製造例3
製造例2において、テトラiso-プロポキシチタンの代わりにテトラn-ブトキシチタンを使用する以外は製造例2と同様の製造条件で製造し、チタン系水性液T3を得た。
【0096】
製造例4
製造例2において、テトラiso-プロポキシチタンの代わりにテトラiso-プロポキシチタンの3量体を使用する以外は製造例2と同様の製造条件で製造し、チタン系水性液T4を得た。
【0097】
製造例5
製造例2において、過酸化水素水を3倍量用い、50℃で1時間かけて滴下し、さらに60℃で3時間熟成する以外は製造例2と同様の製造条件で製造し、チタン系水性液T5を得た。
【0098】
製造例6
製造例3で製造したチタン系水溶液T3を、さらに95℃で6時間加熱処理することにより、白黄色の半透明なチタン系水性液T6を得た。
【0099】
製造例7
テトラiso−プロポキシチタン10部とiso−プロパノール10部の混合物を、「TKS−203」(商品名、テイカ社製、酸化チタンゾル)5部(固形分)、30%過酸化水素水10部及び脱イオン水100部の混合物中に10℃で1時間かけて撹拌しながら滴下した。その後10℃で24時間熟成し、黄色透明の少し粘性のあるチタン系水性液T7を得た。
【0100】
アクリル樹脂の合成
合成例1
窒素封入管、玉入りコンデンサー、滴下ロート及びメカニカルスターラーを備えたフラスコに、プロピレングリコールモノメチルエーテル200部を入れ、90℃まで加熱した後、温度を90℃に保持した状態で、フラスコ内にスチレン10部、tert−ブチルアクリレート80部、2−ヒドロキシエチルアクリレート10部及びアゾビスイソブチロニトリル1部の混合物を3時間かけて滴下し、滴下終了後さらに90℃に2時間保持した後、室温まで冷却してアクリル樹脂溶液R1を得た。得られたアクリル樹脂のTgは33℃である。
【0101】
合成例2
窒素封入管、玉入りコンデンサー、滴下ロート及びメカニカルスターラーを備えたフラスコに、プロピレングリコールモノメチルエーテル200部を入れ、90℃まで加熱した後、温度を90℃に保持した状態で、フラスコ内にスチレン25部、メチルアクリレート60部、アクリルアミド15部及びアゾビスイソブチロニトリル1部の混合物を3時間かけて滴下し、滴下終了後さらに90℃に2時間保持した後、室温まで冷却してアクリル樹脂溶液R2を得た。得られたアクリル樹脂のTgは46℃である。
【0102】
合成例3
窒素封入管、玉入りコンデンサー、滴下ロート及びメカニカルスターラーを備えたフラスコに、プロピレングリコールモノメチルエーテル200部を入れ、90℃まで加熱した後、温度を90℃に保持した状態で、フラスコ内にスチレン55部、n−ブチルアクリレート5部、2−ヒドロキシエチルメタクリレート20部、N−メチルアクリルアミド20部及びアゾビスイソブチロニトリル1部の混合物を3時間かけて滴下し、滴下終了後さらに90℃に2時間保持した後、室温まで冷却してアクリル樹脂溶液R3を得た。得られたアクリル樹脂のTgは78℃である。
【0103】
合成例4
窒素封入管、玉入りコンデンサー、滴下ロート及びメカニカルスターラーを備えたフラスコに、プロピレングリコールモノメチルエーテル200部を入れ、90℃まで加熱した後、温度を90℃に保持した状態で、フラスコ内にメチルメタクリレート80部、n−ブチルアクリレート10部、2−ヒドロキシエチルアクリレート10部及びアゾビスイソブチロニトリル1部の混合物を3時間かけて滴下し、滴下終了後さらに90℃に2時間保持した後、室温まで冷却してアクリル樹脂溶液R4を得た。得られたアクリル樹脂のTgは56℃である。
【0104】
合成例5
窒素封入管、玉入りコンデンサー、滴下ロート及びメカニカルスターラーを備えたフラスコに、プロピレングリコールモノメチルエーテル200部を入れ、90℃まで加熱した後、温度を90℃に保持した状態で、フラスコ内にスチレン10部、エチルアクリレート55部、2−ヒドロキシエチルアクリレート35部及びアゾビスイソブチロニトリル1部の混合物を3時間かけて滴下し、滴下終了後さらに90℃に2時間保持した後、室温まで冷却してアクリル樹脂溶液R5を得た。得られたアクリル樹脂のTgは20℃である。
【0105】
表面処理組成物の製造
実施例1〜30及び比較例1〜5
下記表1に示す配合に従って各金属材料用表面処理組成物を作成した。なお、表1における各原料の配合量は、水性液である表面処理組成物1リットル中の固形分重量(g)で示した。
【0106】
【表1】

【0107】
【表2】

【0108】
表1において、(*1)〜(*9)は、下記の内容のものである。
(*1)スーパーフレックスE−2500:商品名、第1工業製薬社製、水性ポリウレタン樹脂。
(*2)バイロナールMD−1100:商品名、東洋紡績社製、水性ポリエステル樹脂。
(*3)アデカレジンEM−0718:商品名、旭電化工業社製、水性エポキシ樹脂。
(*4)KBE−1003:商品名、信越化学工業社製、ビニルトリエトキシシラン。
(*5)KBM−603:商品名、信越化学工業社製、N−β(アミノエチル)γ−アミノプロピルトリメトキシシラン。
(*6)KBM−802:商品名、信越化学工業社製、γ−メルカプトプロピルメチレンジメトキシシラン。
(*7)スノーテックスO:商品名、日産化学社製、コロイダルシリカ。
(*8)BARIFINE BF−20:商品名、堺化学工業社製、硫酸バリウム微粒子。
(*9)MP−1000:商品名、綜研化学社製、アクリル樹脂微粒子。
【0109】
試験板の作成及び評価
上記より得られた各表面処理組成物について3種類の試験塗板を作成し、塗膜性能試験を実施した。
【0110】
試験板の作成A(実施例31〜60及び比較例6〜10)
板厚0.1mmのアルミニウム板(A1050)を、アルカリ脱脂剤(日本シービーケミカル社製、商品名「ケミクリーナー561B」)を溶解した濃度2%の水溶液を使用して脱脂、水洗した後、上記実施例及び比較例で得た表面処理組成物を乾燥皮膜重量が0.2g/mとなるように塗布し、素材到達温度が100℃になるようにして20秒間焼付けて表面処理膜を形成し、得られた各表面処理膜について下記試験方法により耐食性の試験を行った。その結果を後記表2に示す。
【0111】
耐食性:試験塗板の端面部及び裏面部をシールした試験塗板に、JIS Z2371に規定する塩水噴霧試験を480時間まで行い、試験時間120、240、360及び480時間での錆の発生程度を下記基準により評価した。
a:白錆の発生が認められない。
b:白錆の発生程度が塗膜面積の5%未満。
c:白錆の発生程度が塗膜面積の5%以上で10%未満。
d:白錆の発生程度が塗膜面積の10%以上で50%未満。
e:白錆の発生程度が塗膜面積の50%以上。
【0112】
【表3】

【0113】
試験板の作成B(実施例61〜90及び比較例11〜15)
板厚0.6mm、片面のめっき付着量20g/mの電気亜鉛めっき鋼板を、アルカリ脱脂剤(日本シービーケミカル社製、商品名「ケミクリーナー561B」)を溶解した濃度2%の水溶液を使用して脱脂、水洗した後、上記実施例及び比較例で得た表面処理組成物を乾燥皮膜重量が1.0g/mとなるように塗布し、素材到達温度が100℃になるようにして20秒間焼付けて表面処理膜を形成した。得られた各試験塗板について下記試験方法に従って塗膜外観及び耐食性試験を行った。結果を後記表3に示す。
【0114】
塗膜外観:試験板を目視により観察し、下記基準により評価した。
a:ムラが全く認められず、全面が均一な色相である。
b:虹色状のムラがわずかに認められるが、実用上問題の無い程度である。
c:虹色状のムラが認められ、実用上問題がある。
【0115】
耐食性:試験塗板の端面部及び裏面部をシールした試験塗板に、JIS Z2371に規定する塩水噴霧試験を120時間まで行い、試験時間72時間及び120時間での錆の程度を下記基準により評価した。
a:白錆の発生が認められない。
b:白錆の発生程度が塗膜面積の5%未満。
c:白錆の発生程度が塗膜面積の5%以上で10%未満。
d:白錆の発生程度が塗膜面積の10%以上で50%未満。
e:白錆の発生程度が塗膜面積の50%以上。
【0116】
【表4】

【0117】
試験板の作成C(実施例91〜120及び比較例16〜20)
板厚0.6mm、片面のめっき付着量20g/mの電気亜鉛めっきをアルカリ脱脂剤(日本シービーケミカル社製、商品名「ケミクリーナー561B」)を溶解した濃度2%の水溶液を使用して脱脂、水洗した後、その上に上記表面処理組成物を乾燥膜厚が0.3μmとなるように塗装し、15秒間でPMT(鋼板の最高到達温度)が100℃となる条件で焼き付けて各試験塗板を作成した。各試験塗板にアミラック#1000ホワイト(関西ペイント社製、熱硬化型アルキド樹脂塗料、白色)を乾燥膜厚が30μmとなるように塗装し、130℃で20分間焼き付けて上塗塗装板を得た。
【0118】
得られた各試験塗板について上層塗膜密着性の試験を下記試験方法に従って行った。結果を後記表4に記す。
【0119】
上層塗膜密着性:試験塗板を沸騰水中に2時間浸漬した後、30分間自然乾燥させた試験塗板について、塗膜面にナイフにて素地に達する縦横各11本の傷を碁盤目状に入れて1mm角のマス目を100個作成した。この碁盤目部にセロハン粘着テープを密着させて瞬時にテープを剥がした際の上層塗膜の剥離程度を下記基準により評価した。
a:上層塗膜の剥離が全く認められない。
b:上層塗膜の剥離が1〜2個認められる。
c:上層塗膜の剥離が3〜9個認められる。
d:上層塗膜の剥離が10個以上認められる。
【0120】
【表5】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)加水分解性チタン化合物、加水分解性チタン化合物の低縮合物、水酸化チタン及び水酸化チタンの低縮合物よりなる群から選ばれる少なくとも1種のチタン化合物を過酸化水素水と混合して得られるチタン含有水性液の固形分100重量部に基いて、
(B)有機リン酸化合物1〜400重量部、
(C)水溶性又は水分散性有機樹脂を固形分で10〜2,000重量部、
(D)バナジン酸化合物1〜400重量部、
(E)弗化ジルコニウム化合物1〜400重量部及び
(F)炭酸ジルコニウム化合物1〜400重量部を含有してなることを特徴とする金属表面処理組成物。
【請求項2】
さらに、シランカップリング剤(G)をチタン含有水性液(A)の固形分100重量部に基いて1〜400重量部含有するものである請求項1に記載の金属表面処理組成物。
【請求項3】
有機リン酸化合物(B)が、1−ヒドロキシエタン−1、1−ジホスホン酸である請求項1又は2に記載の金属表面処理組成物。
【請求項4】
水溶性又は水分散性有機樹脂(C)が、水溶性又は水分散性アクリル樹脂である請求項1〜3のいずれか一項に記載の金属表面処理組成物。
【請求項5】
水溶性又は水分散性有機樹脂(C)が、樹脂Tg(ガラス転移点)30〜80℃の範囲内のものである請求項1〜4のいずれか一項に記載の金属表面処理組成物。
【請求項6】
バナジン酸化合物(D)がメタバナジン酸アンモニウムである請求項1〜5のいずれか一項に記載の金属表面処理組成物。
【請求項7】
弗化ジルコニウム化合物(E)がジルコニウム弗化アンモニウムである請求項1〜6のいずれか一項に記載の金属表面処理組成物。
【請求項8】
炭酸ジルコニウム化合物(F)が炭酸ジルコニウムアンモニウムである請求項1〜7のいずれか一項に記載の金属表面処理組成物。
【請求項9】
さらに、平均粒子径が3〜1000nmの有機微粒子及び/又は無機微粒子を金属表面処理組成物の固形分中1〜30重量%含有するものである請求項1〜8のいずれか一項に記載の金属表面処理組成物。
【請求項10】
無機微粒子が、シリカ、二酸化チタン及び硫酸バリウムからなる群から選ばれる少なくとも1種の微粒子である請求項9に記載の金属表面処理組成物。
【請求項11】
請求項1〜10のいずれか一項に記載の表面処理組成物を金属素材上に塗布してなることを特徴とする表面処理金属板。
【請求項12】
金属表面処理組成物の塗布量が、乾燥膜厚で0.001〜10μmの範囲内である請求項11に記載の表面処理金属板。

【公開番号】特開2006−9121(P2006−9121A)
【公開日】平成18年1月12日(2006.1.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−191023(P2004−191023)
【出願日】平成16年6月29日(2004.6.29)
【出願人】(000001409)関西ペイント株式会社 (815)
【Fターム(参考)】