説明

金属表面微細構造の作成方法

【課題】 金属基板表面に金属表面微細構造の作成する方法を提供する。
【解決手段】
Mg,Al,Ca,Sc,Ti,V,Co,Mn,Fe,Co, Ni,Cu,Zn,Ga,Sr,Y,Zr, Nb,Mo,Ag,In,Sn,Sb,Ba, La, Hf,Ta, W, Bi, Ceから選ばれる金属基板を、pH7以上のアルカリ水溶液に浸漬し、50〜250℃の温度で、0.05〜96時間保持し、その後金属基板を取り出して洗浄乾燥させることを特徴とする金属表面微細構造の作成方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、超親水表面、超撥水表面、反射防止膜、電子デバイス、電池材料、センサー材料、光学デバイス、構造材料などの機能が期待できる金属表面微細構造の作成方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ナノ構造を有する材料はあらゆる分野での応用に富み、多くの研究開発がなされている。これまでに報告されていない物質の金属酸化物のナノ構造を制御することで、これまで超親水特性のためには紫外線照射が必要だったTiO2膜を紫外線照射を行うことなく超親水特性を示すことができれば、その用途も大きく広がると期待される。また、他の金属酸化物として酸化アルミニウムのナノシート膜を作成することができればその膜の強度も大きく向上する。
産業界への実用のためには、安価な材料で、簡易かつ安価な方法で、短時間で作製するには、金属表面そのものを容易に微細構造制御することが最も必要な技術であると考えられる。
本発明者は、微細構造を作成したガラス表面を用いて、当該ガラス表面に、シラン化合物をコーティングすることにより、超撥水性のガラス表面を作り出すことに成功し、すでに、特許出願をしている(特許文献1参照)。
また、ガラス組成が、100%二酸化珪素(SiO)ではないガラス基板を、pH7以上のアルカリ水溶液に浸漬し、60〜250℃の温度で、0.5〜48時間保持し、その後ガラス基板を取り出して洗浄乾燥させることを特徴とするガラス表面微細構造の作成方法についても既に特許出願をしている(特許文献2参照)。
【特許文献1】特願2006-289386
【特許文献2】特願2007-084244
【非特許文献1】DEVELOPMENTOF A TRANSPARENT AND ULTRAHYDROPHOBIC GLASS PLATE OGAWA K, SOGA M, TAKADA Y, NAKAYAMA I JAPANESE JOURNAL OF APPLIEDPHYSICS PART 2-LETTERS 32 (4B): L614-L615 (1993)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
本発明は、金属基板表面に金属表面微細構造の作成する方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0004】
すなわち、本発明は、Mg,Al,Ca,Sc,Ti,V,Co,Mn,Fe,Co, Ni,Cu,Zn,Ga,Sr,Y,Zr, Nb,Mo,Ag,In,Sn,Sb,Ba, La, Hf,Ta, W, Bi, Ceから選ばれる金属基板を、純水もしくはpH7以上のアルカリ水溶液に浸漬し、50〜250℃の温度で、0.05〜96時間保持し、その後金属基板を取り出して洗浄乾燥させることを特徴とする金属表面微細構造の作成方法である。
また本発明は、金属基板として、金属若しくは基板の表面を金属コートした基板とすることができる。
さらに本発明は、金属基板として、Ti,Zn,Al,Mn,Mg,Niであるか若しくはTi,Zn,Al,Mn,Mg,Niをコートした基板を用いることが好ましい。
また本発明は、純水であるイオン交換水の他アルカリ水溶液に用いられるアルカリ剤が、アルカリとしてLiOH,NaOH,KOH、MnOOH、NH4OH、尿素からなる群れより選ばれる1種を用いることができる。
さらに本発明は、アルカリ水溶液がpH9〜11のNaOHであり、アルカリ水溶液の温度が95〜200℃であり、浸漬時間が1〜24時間とすることが好ましい。
【発明の効果】
【0005】
本発明の金属表面微細構造の作成方法は、特別な装置を必要とせず、安価に容易に行える画期的な金属表面微細構造の作成方法である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0006】
本発明で用いる各種金属基板としては、通常の金属基板のほか、あらかじめ他の基板(ガラスなど)に金属をスパッタや無電解メッキ、メッキ等、様々な方法を用いてコートしておけば、それを処理することによって、あらゆる基材の表面を各種ナノ構造材料で覆うことができる。
【0007】
本発明においては、本発明が適用できる金属は、水もしくはアルカリで腐食する金属なら何でも良いが、代表的には、Mg,Al,Ca,Sc,Ti,V,Co,Mn,Fe,Co, Ni,Cu,Zn,Ga,Sr,Y,Zr, Nb,Mo,Ag,In,Sn,Sb,Ba, La, Hf,Ta, W, Bi, Ceから選ばれる金属を挙げることができる。とくに身近な金属としては、Ti,Zn,Al,Mn,Mg,Ni,Snを挙げることができる。
【0008】
また、作製されたナノ構造材料を熱処理することにより、形態を変化させることなく、金属水和物や金属水酸化物を金属酸化物とすることができる。これにより、熱処理の前後で、電子、電池、センサー、光学、構造材料として異なる機能を有したり、デバイスの特性の向上を行うことができる。例としては、熱処理によって酸化アルミニウムナノシート膜とすることで、高強度材料とすることができ、アナターゼTiO2ナノシート膜を作成することで、紫外線を必要としない超親水TiO2膜を作成することができる。
得られたナノ構造体を基材として、また、さらにこの上に機能性材料を作製することにより、新たなデバイス(電子、電池、センサー、光学、構造材料)或いは超親水、超撥水表面、反射防止膜としての機能の発現、特性の向上も可能となる。
【0009】
本発明で造られるナノ構造材料は、電子材料、電池材料、センサー材料、光学材料、構造材料から超撥水や超親水などの界面現象など、多種多様なデバイスの高機能化において、用いることができる。
産業界への実用のためには、その安価かつ簡易な作製プロセスが必要とされる。また、ナノ材料をパウダーとして作製するプロセスが多いが、電子、電池、センサー、などの高機能化を考慮すると、凝集の抑制や結晶配向性の付与、基板から直立したナノロッドやナノシートなどの形態、基板との密着性などから、各種基材(基板など)に直接ナノ構造材料が作製されることが望ましいので、本発明の金属表面微細構造の作成方法は、応用範囲が広い。
【0010】
本発明の製造方法においては、アルカリとしてLiOH,NaOH,KOH、MnOOH、NH4OH、尿素からなる群れより選ばれる1種或いは数種を用いることができる。
さらに、本発明の製造方法においては、純水もしくはアルカリ水溶液がpH9〜11のNaOHであり、アルカリ水溶液の温度が95〜200℃であり、浸漬時間が1〜24時間とすることが望ましい。
本発明について実施例を用いてさらに詳しく説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【実施例1】
【0011】
Ti板を尿素に溶解させた水溶液に入れ、100°Cにて4日間静置したサンプルのSEM像を図1(a)に示す。直立したナノシートによって構成された膜であることが分かる。尿素の代わりにアンモニア水を加えた場合も同様の形態を作製することができる。得られた材料はチタン酸アンモニウムであると考えられ、これを400°Cで30分空気中で熱処理すると図1(b)に示されるように、形態を維持したままTiO2のアナターゼ型の結晶となった。また、これを600°Cで30分空気中で熱処理すると図1(c)に示されるように、形態を維持したままTiO2のアナターゼ型の結晶となった。図1(d)に示すように作成されたアナターゼTiO2ナノシート膜は、紫外線照射を行うことなく超親水特性を示した。
【実施例2】
【0012】
Ti板をイオン交換水に入れ、200°Cにて4日間静置したサンプルのSEM像を図2に示す。表面に八面体型のアナターゼ結晶が生成し、pHが中性であるイオン交換水を用いた場合もナノの凹凸構造を有していることが分かる。
【実施例3】
【0013】
Ti板を尿素を溶解させた水溶液に入れ、90°Cにて24時間静置したサンプルのSEM像を図3(a)に示す。ナノシートからなる膜が、水が沸騰する温度以下においても作製されていることが分かる。
Ti板を5MのNaOH水溶液に入れ、90°Cにて24時間静置したサンプルのSEM像を図3(b)示す。ナノワイヤーが直立した膜がこちらも水が沸騰する温度以下においても作製されていることが分かる。これらから、安価かつ簡易なプロセスでナノ構造の作製が可能であることが分かる。
【実施例4】
【0014】
石英ガラスにTiを30nmスパッタした後、5MのNaOH水溶液に入れ、90°Cにて90分間静置したサンプルのSEM像を図4(a)に示す。ナノワイヤー構造が石英ガラス基板上に生成していることが分かり、図4(b)から透明な膜を作製できたことが分かる。
【実施例5】
【0015】
図5(a)にはMn板をイオン交換水に入れ、100°Cにて10時間静置したサンプルのSEM写真を示す。ナノロッドが直立した膜ができていることが分かる。
【実施例6】
【0016】
Mg板をイオン交換水に入れ、90°Cにて30分静置したサンプルのSEM写真を図6に示す。低温かつ短時間でナノシートが直立した膜ができていることが分かる。
【実施例7】
【0017】
図7(a)にはガラス基板にAlを140nmスパッタした後、イオン交換水に入れ、90°Cにて60分間静置したサンプルのSEM像を示す。ナノシート構造がガラス基板上に生成していることが分かり、図7(b)から透明な膜を作製できたことが分かる。図7(c)にはガラス基板にAlを70nmスパッタした後、イオン交換水に入れ、90°Cにて90分間静置した後1000°Cにて10分間熱処理したサンプルのSEM像を示す。熱処理により酸化アルミニウムとなった後もナノシート構造を維持していることが分かる。
【実施例8】
【0018】
図8には、Ni板を5MのNaOH水溶液に入れ、60°Cにて20時間静置したサンプルのSEM像を図8に示す。ナノシート構造が60°Cの低温からもできていることが分かる。
【実施例9】
【0019】
Zn板を5MのNaOH水溶液に入れ、100°Cにて20時間静置したサンプルのSEM像を図9に示す。ナノシートの凹凸構造ができていることが分かる。
【産業上の利用可能性】
【0020】
本発明により得られる金属表面微細構造は、ナノ構造体を基材として、また、さらにこの上に機能性材料を作製することにより、紫外線照射を行わない超親水や新たなデバイス(電子、電池、センサー、光学、構造材料)としての機能の発現も可能であり、産業上極めて利用可能性が高いものである。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】(a)Ti板上のナノシートのSEM写真 (b)TiO2のアナターゼ型結晶のナノシートのSEM写真 (c)TiO2のアナターゼ型結晶のナノシートのSEM写真 (d)TiO2のアナターゼ型結晶のナノシートの超親水特性
【図2】Ti板上の八面体型アナターゼTiO2のナノ凹凸構造のSEM写真
【図3】(a)Ti板上のナノシートのSEM写真 (b)Ti板上のナノワイヤーのSEM写真
【図4】(a)石英ガラス上にスパッタしたTiから作製したナノワイヤーのSEM写真 (b)(a)の膜の透明な写真
【図5】(a)Mn板上のナノロッドのSEM写真
【図6】Mg板上のナノシートのSEM写真
【図7】(a)ガラス上にスパッタしたAlから作製したナノシートのSEM写真 (b)(a)の膜の透明な写真 (c)ガラス上にスパッタしたAlから作製したナノシートの熱処理により作成した酸化アルミニウムナノシートのSEM写真
【図8】Ni板上のナノシートのSEM写真
【図9】Zn板上のナノシートのSEM写真

【特許請求の範囲】
【請求項1】
Mg,Al,Ca,Sc,Ti,V,Co,Mn,Fe,Co, Ni,Cu,Zn,Ga,Sr,Y,Zr, Nb,Mo,Ag,In,Sn,Sb,Ba, La, Hf,Ta, W, Bi, Ceから選ばれる金属基板を、中性である純水もしくはpH7以上のアルカリ水溶液に浸漬し、50〜250℃の温度で、0.05〜96時間保持し、その後金属基板を取り出して洗浄乾燥させることを特徴とする金属表面微細構造の作成方法。
【請求項2】
金属基板が、金属若しくは基板の表面に金属をコートした基板である請求項1に記載した金属表面微細構造の作成方法。
【請求項3】
金属基板が、Ti,Zn,Al,Mn,Mg,Ni,Snであるか若しくはTi,Zn,Al,Mn,Mg,Ni,Snをコートした基板である請求項2に記載した金属表面微細構造の作成方法。
【請求項4】
アルカリ水溶液に用いられるアルカリ剤が、アルカリとしてLiOH,NaOH,KOH、MnOOH、NH4OH、尿素からなる群れより選ばれる1種を用いる請求項1ないし請求項3のいずれかに記載した金属表面微細構造の作成方法。
【請求項5】
アルカリ水溶液がpH9〜11のNaOHであり、アルカリ水溶液の温度が95〜200℃であり、浸漬時間が1〜24時間とする請求項1ないし請求項4のいずれかに記載した金属表面微細構造の作成方法。
【請求項6】
請求項1ないし請求項4のいずれかに記載した金属表面微細構造の作成方法によって作成された材料を熱処理することにより、金属酸化物の微細構造を作製し、基板との密着性や微細構造物の強度を向上させることができる、高強度微細構造の作製方法。
【請求項7】
請求項1、請求項4もしくは請求項6のいずれかに記載した方法で作成された金属表面微細構造により紫外線照射を必要としない超親水特性。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate


【公開番号】特開2008−266709(P2008−266709A)
【公開日】平成20年11月6日(2008.11.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−110256(P2007−110256)
【出願日】平成19年4月19日(2007.4.19)
【出願人】(301021533)独立行政法人産業技術総合研究所 (6,529)
【Fターム(参考)】