説明

金属表面用被覆材組成物及び積層樹脂成型品

【課題】 金属に対して優れた付着性を有し、耐擦傷性が優れた硬化物層を得ることができる金属表面用被覆材組成物、及びその硬化物層が積層された積層樹脂成型品を提供する。
【解決手段】 トリス(2−(メタ)アクリロイルオキシエチル)イソシアヌレート(A)15〜30質量%、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート(以下「トリ体」という)、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート(以下「テトラ体」という)及びトリ体の水酸基がテトラ体の(メタ)アクリロイル基にマイケル付加した化合物を含む(メタ)アクリレート混合物(B)25〜45質量%、分子中に1個以上の(メタ)アクリロイルオキシ基を有する前記(A)成分及び(B)成分以外の(メタ)アクリレート(C)25〜45質量%、並びに、ビニル系単量体又はその混合物を(共)重合して得られる(共)重合体(D)3〜15質量%を含有する金属表面用被覆材組成物。前記被覆材組成物の硬化物層が積層された樹脂成型品。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属表面用被覆材組成物及び積層樹脂成型品に関する。
【背景技術】
【0002】
紫外線硬化型樹脂組成物は生産性や省エネルギーの観点から広く使用されており、特にプラスチック成型品の表面改質化のためのハードコート材や、真空蒸着やスパッタリング等の金属化処理によりプラスチック成型品の表面に金属薄膜を積層する際に用いられるアンダーコート材やトップコート材に利用されている。紫外線硬化型樹脂組成物が金属化処理によりプラスチック成型品の表面に金属薄膜を積層する際のトップコート材(金属表面用被覆材組成物)として使用される用途としては、例えば、照明、ライト等の反射鏡、リフレクター部品及び携帯電話等の家電製品並びに化粧品容器の加飾用途が挙げられる。
【0003】
このような金属表面用被覆材組成物としては、例えば、特許文献1に、樹脂成型品の金属薄膜層の表面に被覆して耐擦傷性及び耐候性に優れ、金属との付着性に優れた硬化塗膜を与える特定の組成を有する組成物が記載されている。しかしながら、近年、黒色などの濃色系の色調が好まれるようになり、硬化塗膜に細かな擦傷が目立つことが指摘されており、更に高い耐擦傷性が要求されている。
【0004】
一方、プラスチック成型品の表面改質化のためのハードコート材としては、例えば、特許文献2に硬度、耐擦傷性、耐屈曲性に優れる硬化型被覆材組成物として、特定の(メタ)アクリレート混合物を含むものが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2010−31152号公報
【特許文献2】特開2010−24380号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、金属に対して優れた付着性を有し、高い耐擦傷性を有する硬化物層を得ることができる金属表面用被覆材組成物、及びその硬化物層が積層された積層樹脂成型品を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記目的は、以下の本発明〔1〕及び〔2〕によって達成される。
〔1〕 トリス(2−(メタ)アクリロイルオキシエチル)イソシアヌレート(A)15〜30質量%、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート(以下「トリ体」という)、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート(以下「テトラ体」という)及びトリ体の水酸基がテトラ体の(メタ)アクリロイル基にマイケル付加した化合物(以下「化合物M」という)を含む(メタ)アクリレート混合物(B)25〜45質量%、分子中に1個以上の(メタ)アクリロイルオキシ基を有する前記(A)成分及び(B)成分以外の(メタ)アクリレート(C)25〜45質量%、並びに、ビニル系単量体又はその混合物を(共)重合して得られる(共)重合体(D)3〜15質量%を含有する金属表面用被覆材組成物。
【0008】
〔2〕金属薄膜層が積層された樹脂成型品の金属膜表面に、前記〔1〕に記載の金属表面用被覆材組成物の硬化物層が積層された積層樹脂成型品。
【発明の効果】
【0009】
本発明の金属表面用被覆材組成物によれば、金属に対して優れた付着性を有し、高い耐擦傷性を有する硬化物層を提供することができる。またこのような硬化物層が積層された積層樹脂成型品を提供することができる。この被覆材組成物は、携帯電話、化粧品容器等に用いられる金属薄膜層が積層された樹脂成型品のトップコート層形成用被覆材組成物として好適である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下本発明について先ず、被覆材組成物の成分について詳しく説明する。尚、本明細書において、「(メタ)アクリレート」は「アクリレート」及び「メタクリレート」を意味し、また「(メタ)アクリロイルオキシ」は「アクリロイルオキシ」及び「メタクリロイルオキシ」を意味する。
【0011】
<金属表面用被覆材組成物>
本発明の金属表面用被覆材組成物は、トリス(2−(メタ)アクリロイルオキシエチル)イソシアヌレート(A)(以下「(A)成分」という)15〜30質量%、トリ体、テトラ体及び化合物Mを含む(メタ)アクリレート混合物(B)(以下「(B)成分」という)25〜45質量%、分子中に1個以上の(メタ)アクリロイルオキシ基を有する(メタ)アクリレート(C)(以下「(C)成分」という)25〜45質量%、及び、ビニル系単量体又はその混合物を(共)重合して得られる(共)重合体(D)(以下「(D)成分」という)3〜15質量%を含有する金属表面用被覆材組成物である。
【0012】
<(A)成分>
(A)成分は、トリス(2−(メタ)アクリロイルオキシエチル)イソシアヌレートである。(A)成分は市販品を使用することができる。例えば、トリス(2−アクリロイルオキシエチル)イソシアヌレートとしては、商品名アロニックスM−315(東亞合成社製)が挙げられる。
【0013】
(A)成分の使用割合は(A)〜(D)成分の合計量100質量%中、15〜30質量%、より好ましくは18〜25質量%である。15質量%未満では金属膜との付着性が低下し、また30質量%を超えると耐擦傷性が低下する。
【0014】
<(B)成分>
(B)成分は、トリ体、テトラ体及び化合物Mを含む(メタ)アクリレート混合物である。(B)成分は、下記の高速液体クロマトグラフィーの測定条件にて測定された面積比が「トリ体:テトラ体:化合物M=0.1〜2.0:100:10.0〜40.0」の値を示す(メタ)アクリレート化合物の混合物であることが好ましい。
【0015】
〔高速液体クロマトグラフィー測定条件〕:
・高速液体クロマトグラフ:アジレント(株)製 1200SL
・カラム:TSK−gelODS−120T(内径4.6mm、長さ250mm)
・カラムの温度:40℃
・溶離液:水/アセトニトリル=50/50(初期)→32/68(18分)→0/100(26〜40分)
・流速:1mL/min
・検出波長:190〜400nm
・定量波長:210nm
・試料濃度:0.1重量%アセトニトリル溶液
・注入量:10μl
【0016】
なお、上記の測定条件における、ペンタエリスリトールトリアクリレート(以下「トリ体A」という)、ペンタエリスリトールテトラアクリレート(以下「テトラ体A」という)及びトリ体Aの水酸基がテトラ体Aのアクリロイル基にマイケル付加した化合物(以下「化合物MA」のピーク保持時間は次の通りである。
・トリ体Aのピーク保持時間:5.22分
・テトラ体Aのピーク保持時間:9.36分
・化合物MAのピーク保持時間:21.54分。
【0017】
この(B)成分は、例えば特許文献2に開示されている方法により得ることができる。
【0018】
(B)成分の使用割合は、(A)〜(D)成分の合計量100質量%中、25〜45質量%、より好ましくは30〜40質量%である。(B)成分の量が25質量%未満では耐擦傷性が低下する。また45質量%を超えると硬化塗膜と金属膜との付着性が低下する。
【0019】
<(C)成分>
(C)成分は、分子中に1個以上の(メタ)アクリロイルオキシ基を有する(メタ)アクリレートであって、前記(A)成分及び(B)成分以外の化合物である。(C)成分として使用可能なモノマーやオリゴマーとしては、ウレタン(メタ)アクリレート、エポキシ(メタ)アクリレート、ポリエステル(メタ)アクリレート、並びに、(A)成分、トリ体、テトラ体及び化合物M以外の(メタ)アクリレートなどの重合性不飽和結合を有する単官能(メタ)アクリレート、又は多官能(メタ)アクリレートなどが挙げられ、被膜の要求性能に応じて適宜選択すれば良い。
【0020】
単官能(メタ)アクリレートの具体例としては、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、プロピル(メタ)アクリレート、n−ブチル(メタ)アクリレート、i−ブチル(メタ)アクリレート、t−ブチル(メタ)アクリレート、ヘキシル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート、ステアリル(メタ)アクリレート、モルフォリル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、4−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、グリシジル(メタ)アクリレート、ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、ジエチルアミノエチル(メタ)アクリレート、トリシクロデカン(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、テトラヒドロフルフリル(メタ)アクリレート、ジシクロペンタニル(メタ)アクリレート、ジシクロペンテニル(メタ)アクリレート、イソボルニル(メタ)アクリレート、アリル(メタ)アクリレート、2−エトキシエチル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレート、フェノキシエチル(メタ)アクリレート、フェニル(メタ)アクリレート等のモノ(メタ)アクリレート、無水フタル酸と2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレートの付加物などのモノ(メタ)アクリレート化合物等が挙げられる。
【0021】
多官能(メタ)アクリレートの具体例としては、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコール(繰り返し単位数(以下「n」と記載する)=2〜15)ジ(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコール(n=2〜15)ジ(メタ)アクリレート、ポリブチレングリコール(n=2〜15)ジ(メタ)アクリレート、2,2−ビス(4−(メタ)アクリロキシエトキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−(メタ)アクリロキシジエトキシフェニル)プロパン、トリメチロールプロパンジアクリレート、ビス(2−(メタ)アクリロキシエチル)−ヒドロキシエチル−イソシアヌレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールペンタ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート、ビスフェノールA型ジエポキシと(メタ)アクリル酸を反応させたエポキシジ(メタ)アクリレート等のエポキシポリ(メタ)アクリレート、1,6−ヘキサメチレンジイソシアネートの3量体に2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレートを反応させたウレタントリ(メタ)アクリレート、イソホロンジイソシアネートと2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレートを反応させたウレタンジ(メタ)アクリレート、イソホロンジイソシアネートとペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレートを反応させたウレタンヘキサ(メタ)アクリレート、ジシクロメタンジイソシアネートと2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレートを反応させたウレタンジ(メタ)アクリレート、ジシクロメタンジイソシアネートとポリ(n=6−15)テトラメチレングリコールのウレタン化反応物に2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレートを反応させたウレタンジ(メタ)アクリレート等のウレタンポリ(メタ)アクリレート、トリメチロールエタンとコハク酸と(メタ)アクリル酸を反応させたポリエステル(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパンとコハク酸とエチレングリコールと(メタ)アクリル酸を反応させたポリエステル(メタ)アクリレート等のポリエステルポリ(メタ)アクリレートなどが挙げられる。
【0022】
これらは、1種又は2種以上を併用して用いることができる。
(C)成分の使用割合は、(A)〜(D)成分の合計量100質量%中、25〜45質量%、より好ましくは30〜40質量%である。(C)成分の量が25質量%未満では耐擦傷性が低下する。また45質量%を超えると硬化塗膜と金属膜との付着性が低下する。
【0023】
<(D)成分>
(D)成分は、ビニル系単量体又はその混合物を(共)重合して得られる(共)重合体であり、ラジカル重合開始剤の存在下に溶液重合法、塊状重合法、乳化重合法等の採用により得ることができる。共重合可能な単量体の具体例としては、例えば以下のものが挙げられる。メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、プロピル(メタ)アクリレート、n−ブチル(メタ)アクリレート、t−ブチル(メタ)アクリレート、イソブチル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、n−ノニル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレート、ジシクロペンタニル(メタ)アクリレート、ジシクロペンテニル(メタ)アクリレート、2−ジシクロペンテノキシエチル(メタ)アクリレート、イソボルニル(メタ)アクリレート、メトキシエチル(メタ)アクリレート、エトキシエチル(メタ)アクリレート、ブトキシエチル(メタ)アクリレート、メトキシエトキシエチル(メタ)アクリレート、エトキシエトキシエチル(メタ)アクリレート、テトラヒドロフルフリル(メタ)アクリレート等のアクリル酸エステル類;2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、3−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、4−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート等のヒドロキシアルキル(メタ)アクリレート類;2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレートとエチレンオキシドの付加物、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレートとプロピレンオキシドの付加物、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレートとε−カプロラクトンの付加物などの2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレートと有機ラクトン類の付加物等の水酸基含有ビニルモノマー;スチレン、α−メチルスチレン、p−t−ブチルスチレン、ビニルトルエンなどのスチレン又はスチレン誘導体;N,N−ジメチル(メタ)アクリルアミド、N,N−ジエチル(メタ)アクリルアミド等のアクリルアミド化合物;(メタ)アクリル酸、イタコン酸、マレイン酸、フマル酸等の不飽和カルボン酸類;(メタ)アクリロニトリルのような重合性不飽和ニトリル類;マレイン酸ジエチル、マレイン酸ジブチル、フマル酸ジブチル、イタコン酸ジエチル、イタコン酸ジブチル等の不飽和カルボン酸エステル類;酢酸ビニル、プロピオン酸ビニルなどのビニルエステル類等。これら共重合可能な単量体は、1種又は2種以上を併用することができる。
(D)成分の使用割合は、(A)〜(D)成分の合計量100質量%中、3〜15質量%、より好ましくは3〜13質量%である。(D)成分の量が3質量%未満では金属膜との付着性が低下する。また15質量%を超えると耐擦傷性、平滑性が低下する。
【0024】
<光重合開始剤>
本発明においては、被覆材組成物を硬化させるために紫外線を用いることが好ましく、被覆材組成物中に光重合開始剤を含有することができる。
光重合開始剤としては、例えば以下のものが挙げられる。ベンゾイン、ベンゾインモノメチルエーテル、ベンゾインイソプロピルエーテル、ベンゾインイソブチルエーテル、アセトイン、ベンジル、ベンゾフェノン、p−メトキシベンゾフェノン、ジエトキシアセトフェノン、ベンジルジメチルケタール、2,2−ジエトキシアセトフェノン、1−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン、メチルフェニルグリオキシレート、エチルフェニルグリオキシレート、2−ヒドロキシ−2−メチル−1−フェニルプロパン−1−オン、2−エチルアントラキノン等のカルボニル化合物;テトラメチルチウラムモノスルフィド、テトラメチルチウラムジスルフィド等の硫黄化合物;2,4,6−トリメチルベンゾイルジフェニルフォスフィンオキサイド等のアシルフォスフィンオキサイド等。これらは、単独で又は2種以上を併用して用いることが出来る。これらの中でも、硬化性に優れている点で、1−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン、ベンゾフェノン、メチルフェニルグリオキシレートが好ましい。
【0025】
光重合開始剤の含有量としては、(A)〜(D)成分の合計100質量部に対して0.1質量部以上であることが好ましく、1質量部以上であることがより好ましい。また、光重合開始剤の含有量としては、(A)〜(D)成分の合計100質量部に対して15質量部以下であることが好ましく、10質量部以下であることがより好ましい。
【0026】
更に、被覆材組成物には、必要に応じて、性能を損なわない範囲で、4−ジメチルアミノ安息香酸メチル、4−ジメチルアミノ安息香酸エチル、4−ジメチルアミノ安息香酸アミル、4−ジメチルアミノアセトフェノン等の公知の光増感剤を添加することもできる。
【0027】
<有機溶剤>
また本発明の被覆材組成物には、必要に応じて望ましい粘度に調整するために有機溶剤を使用することができる。有機溶剤の例として以下のものが挙げられる。アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン等のケトン系化合物;酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸ブチル、乳酸エチル、酢酸メトキシエチル等のエステル系化合物;ジエチルエーテル、エチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、ジオキサン等のエーテル系化合物;トルエン、キシレン等の芳香族化合物;ペンタン、ヘキサン、石油ナフサ等の脂肪族化合物;イソプロピルアルコール、イソブタノール、n−ブタノール等のアルコール系化合物;1−メトキシプロパノール、1−メトキシプロパノールアセテート等のプロピレングリコール系化合物。
有機溶剤の添加量は、(A)〜(D)成分の合計100質量部に対して100〜500質量部が好ましい。
【0028】
<その他の成分>
更に、本発明の被覆材組成物には、レベリング剤、消泡剤、沈降防止剤、潤滑剤、研磨剤、防錆剤、帯電防止剤、光安定剤、紫外線吸収剤、重合禁止剤などの添加剤を加えてもよい。
【0029】
<積層樹脂成型品>
本発明の被覆材組成物は、金属表面上において硬化されて、金属表面上に硬化物層として積層される。特に金属薄膜層が積層された樹脂成型品の金属膜表面上において硬化されて、金属膜表面上に硬化物層として積層される用途に好適である。樹脂成型品としては、例えば、ABS樹脂、PC樹脂、AS樹脂、アクリル樹脂及びPP樹脂、並びにこれら樹脂のアロイ樹脂の成型品が挙げられる。
【0030】
樹脂成型品の表面には金属薄膜層が積層されるが、金属薄膜層を積層する際には、必要に応じて、あらかじめアンダーコート層を形成させることができる。アンダーコート層の形成と金属薄膜層の形成は、例えば以下のように実施される。
【0031】
樹脂成型品の表面に、まず、熱硬化性又は紫外線硬化性の公知のアンダーコート層を形成する。その後、このアンダーコート層の表面に、真空蒸着法、イオンプレーティング法、スパッタ法等によって金属薄膜層を形成させる。樹脂成型品の表面に積層される金属としては、例えば、アルミニウム及び錫が挙げられる。
【0032】
金属薄膜層の表面への被覆材組成物の塗布方法としては、ハケ塗り、スプレーコート、ディップコート、スピンコート、フローコート等の公知方法が挙げられるが、塗布作業性、被膜の平滑性、均一性等の点から、スプレーコート法及びフローコート法が好ましい。塗膜の厚みは、硬化後の膜厚が3〜40μm程度となるように、設定されることが好ましい。
【0033】
被覆材組成物を塗付した後に硬化物層を得る方法としては、例えば、活性エネルギー線照射により硬化する方法が挙げられる。活性エネルギー線としては、例えば、紫外線及び電子線が挙げられる。活性エネルギー線の照射条件としては、例えば、高圧水銀灯を用いた場合には、照射される紫外線エネルギー量が500〜4,000mJ/cm程度の条件が好ましい。
【0034】
被覆材組成物を塗布する際に、被覆材組成物に前述した有機溶剤を添加した場合には、被覆材組成物を硬化させる前に溶剤を揮発させる。溶剤を揮発する方法としては、例えば、赤外線ヒーターや温風等で加温して、温度40〜130℃で、時間1〜20分間の条件下で有機溶剤を揮発させることができる。
【0035】
積層樹脂成型品は金属薄膜層が積層された樹脂成型品の金属薄膜層の表面に硬化物層が積層されたものであり、照明、ライト等の反射鏡、リフレクター部品及び携帯電話等の家電製品並びに化粧品容器等の各種用途に用いることができる。
【実施例】
【0036】
以下、本発明を実施例により説明する。尚、以下において「部」及び「%」はそれぞれ「質量部」及び「質量%」を意味する。また、被覆材組成物の硬化物の各種評価は以下の方法により実施した。
【0037】
〔1.初期付着性〕
被覆材組成物の硬化物と金属との付着性を碁盤目剥離試験により評価した。金属薄膜層が積層された樹脂成型品の金属薄膜層の表面に、膜厚10μmの被覆材組成物の塗膜を形成し、UV照射量1,000mJ/cmで紫外線硬化させた。得られた硬化物層が積層された積層樹脂成型品の表面に、カッターナイフを用いて縦横各1mm間隔で樹脂基材まで達する碁盤目カットを行い、1mmの碁盤目を100個作成した。その上にセロハンテープを貼りつけ、急激に剥がし、剥離した碁盤目の数を数えた。付着性の判定は以下の基準で行った。
◎ :剥離なし。
〇 :升目剥離はないがやや欠ける升目の数が10個以内。
△ :升目剥離の数が1〜50個。
× :升目剥離の数が51〜100個。
【0038】
〔2.耐湿性試験後の付着性〕
耐湿試験後の被覆材組成物の硬化物と金属との付着性を碁盤目試験により評価した。金属薄膜層が積層された樹脂成型品の金属薄膜層の表面に、膜厚10μmの被覆材組成物の塗膜を形成し、UV照射量1,000mJ/cmで紫外線硬化させた。得られた硬化物層が積層された積層樹脂成型品を80℃、相対湿度85%の恒温恒湿器に24時間入れた。その硬化物層の表面に、カッターナイフを用いて縦横各1mm間隔で樹脂基材まで達する碁盤目カットを行い、1mmの碁盤目を100個作成した。その上にセロハンテープを貼りつけ、急激に剥がし、碁盤目の剥離状態を観察し、耐湿性の評価の判定を以下の基準で行った。
◎ :剥離なし。
〇 :升目剥離はないがやや欠ける升目の数が10個以内。
△ :升目剥離の数が1〜50個。
× :升目剥離の数が51〜100個。
【0039】
〔3.耐擦傷性〕
金属薄膜層が積層された樹脂成型品の金属薄膜層の表面に被覆材組成物の硬化物の層が積層された積層樹脂成型品の表面をスチールウール(#0000、ボンスター(株)製)で表面を5往復擦り、積層樹脂成型品の表面の傷つき易さを目視にて観察し、以下の基準で耐擦傷性を評価した。
◎ :傷跡がない。
○ :僅かに傷跡がある。
△ :傷跡がはっきりと残っている。
× :傷跡が多く残っている。
【0040】
[製造例1](B)成分:アクリレート混合物B−1の製造
攪拌機、温度計を備えた反応器に、トリ体A、テトラ体A及び化合物MAを含むアクリレート混合物であって、トリ体A及びテトラ体Aを77質量%含む混合物(前記高速液体クロマトグラフィーの測定条件で測定された面積比で、トリ体A:テトラ体A:化合物MA=133.7:100:5.9の割合で含む混合物)80部、反応溶媒としてトルエン80部、酸触媒としてメタンスルホン酸2.1部及び重合禁止剤として2,6−ジ−tert−ブチル−4−メチルフェノールハイドロキノンモノメチルエーテル0.01部を仕込んだ後、80℃に加熱し、8時間反応させた。
【0041】
反応終了後、反応液に水30部を加え、20℃で攪拌した後静置し、下層(水層)を除去した。上層(有機層)を、1〜400mmHgの減圧下80℃で4時間攪拌しトルエンを留去したところ、79部の液状のアクリレート混合物B−1を得た。
得られたアクリレート混合物を使用して、前記条件で高速液体クロマトグラフィーにより分析した結果、トリ体A、テトラ体A及び化合物MAの割合は以下の通りであった。
トリ体A:テトラ体A:化合物MA=0.7:100:12.7。
【0042】
[製造例2](D)成分:共重合体D−1の製造
4つ口フラスコにトルエン500部を仕込み、内温が80℃になるように加温した。また、N−(n−ブトキシメチル)アクリルアミド150部(30%)、メチルメタクリレート25部(5%)、スチレン75部(15%)及びイソボルニルメタクリレート250部(50%)と、重合触媒としてアゾビスイソブチルニトリル1部の混合物を側管付きの滴下ロートに仕込んだ。
【0043】
フラスコの内温を80℃に保ち、フラスコ内を攪拌しながら、滴下ロート内の混合物を2時間かけてフラスコ内に等速滴下した。その後1時間毎にアゾビスイソブチルニトリル0.2部を合計4回、追加投入しながら6時間攪拌し、GPC測定によるポリスチレン換算による質量平均分子量が3.0×10の共重合体D−1を50%含むトルエン溶液を得た。
【0044】
[製造例3]アンダーコート材U−1の調製
滴下する単量体として、N−(n−ブトキシメチル)アクリルアミド150部(30%)、メチルメタクリレート200部(40%)及びスチレン150部(30%)とした。それ以外は製造例2と同様にして、GPC測定によるポリスチレン換算による質量平均分子量が1.8×10の共重合体K−1を50%含むトルエン溶液を得た。共重合体K−1のトルエン溶液100部と、DPHA(日本化薬(株)製、商品名:KAYARAD DPHA)30部、EO変性水素化ビスフェノールAジアクリレート(第一工業製薬(株)製、商品名:ニューフロンティアHBPE―4)10部、ジシクロペンテニルオキシエチルアクリレート(日立化成工業(株)製、商品名:ファンクリルFA−512A)5部、ベンゾフェノン5部、酢酸ブチル80部及びイソブタノール100部を混合し、攪拌してアンダーコート材U−1を調製した。
【0045】
なお、実施例及び比較例に用いた略号は、以下の化合物を表わす。
【表1】

【0046】
〔実施例1〜5〕
1.アンダーコート層及び金属薄膜層の形成
幅5cm、長さ9cm及び厚さ3mmのABS樹脂成型品のテストピースに、前述したアンダーコート材U−1を硬化後の膜厚が15μmとなるようにスプレー塗装した。
その後、塗装された樹脂成型品のテストピースを、60℃の温風乾燥器中に5分間保持して有機溶剤を揮発させた。次いで、得られたテストピースに対して、空気中で、高圧水銀灯により、波長340〜380nm、積算光量1,000mJ/cmの活性エネルギー線を照射し、塗膜を硬化させて、膜厚15μmのアンダーコート層を形成した。
次いで、日本真空技術(株)製の真空蒸着装置(商品名:EBX−6D)を使用して膜厚が約100nmとなるようにアルミニウムを真空蒸着させて、表面にアルミニウム製の金属薄膜層が積層された樹脂成型品を得た。
【0047】
2.硬化物層の積層
表2に示す種類と量の材料をステンレス鋼製の容器に計量投入し、全体が均一になるまで30分間攪拌して、被覆材組成物H−1〜H−5を調製した。この被覆材組成物を前記樹脂成型品のアルミニウム薄膜層の表面に硬化後の膜厚が10μmとなるようにスプレー塗装した。
得られた塗装物を60℃の温風乾燥器中に5分間保持して有機溶剤を揮発させ、空気中で、高圧水銀灯により、波長340〜380nm、積算光量1,000mJ/cmの紫外線を照射し塗膜を硬化させた。これにより、金属薄膜層が積層された樹脂成型品の金属薄膜の表面に、組成物の硬化物層が積層された積層樹脂成型品を得た。評価結果を表2に示す。
【0048】
〔比較例1〜5〕
表2に示す種類と量の材料を使用する以外は実施例1と同様にして、被覆材組成物H−11〜H−15を調製し積層樹脂成型品を得た。評価結果を表2に示す。なお、ペンタエリスリトールテトラアクリレート(テトラ体A)は、(B)成分であるアクレート混合物の一成分であるが、比較例4では単独で用いたため表1においては便宜上(C)成分に分類した。
【表2】

【0049】
表2より明らかなように、実施例1〜5の金属表面用被覆材組成物は、成分(A)、(B)、(C)及び(D)を所定の配合割合で含むので、このような組成物を硬化して得られた硬化物層は、金属に対して優れた付着性を有し、高い耐擦傷性を有することが分かった。
一方、比較例1は成分(A)が所定の範囲より少なく、比較例3は成分(B)が所定の範囲より多く、比較例4は成分(C)が所定の範囲より多いので、このような組成物を硬化して得られた硬化物層は、金属に対する付着性が低位であることが分かった。
また、比較例2は成分(A)が所定の範囲より多くて成分(C)が所定の範囲より少なく、比較例5は成分(D)が所定の範囲より多いので、このような組成物を硬化して得られた硬化物層は、耐擦傷性が低位であることが分かった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
トリス(2−(メタ)アクリロイルオキシエチル)イソシアヌレート(A)15〜30質量%、
ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート及びペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレートの水酸基がペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレートの(メタ)アクリロイル基にマイケル付加した化合物を含む(メタ)アクリレート混合物(B)25〜45質量%、
分子中に1個以上の(メタ)アクリロイルオキシ基を有する前記(A)成分及び(B)成分以外の(メタ)アクリレート(C)25〜45質量%、並びに、
ビニル系単量体又はその混合物を(共)重合して得られる(共)重合体(D)3〜15質量%を含有する金属表面用被覆材組成物。
【請求項2】
金属薄膜層が積層された樹脂成型品の金属膜表面に、請求項1に記載の金属表面用被覆材組成物の硬化物層が積層された積層樹脂成型品。

【公開番号】特開2013−60552(P2013−60552A)
【公開日】平成25年4月4日(2013.4.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−200932(P2011−200932)
【出願日】平成23年9月14日(2011.9.14)
【出願人】(000006035)三菱レイヨン株式会社 (2,875)
【Fターム(参考)】