説明

金属被膜Si基板ならびに接合型発光素子およびその製造方法

【課題】素子製造過程において高温の熱処理を施した場合であっても、Si基板上に形成されたAu層のAuがSi基板に拡散することのない金属被膜Si基板、ならびに、この金属被膜Si基板を用いた接合型発光素子およびその製造方法を提供する。
【解決手段】Si基板と、前記Si基板上の、接着層およびPt層が順に形成された初期積層体と、前記初期積層体上の、Auを含む第1金属層とを有する金属被膜Si基板において、上記初期積層体と上記Auを含む第1金属層との間に、TaN層およびW層からなる拡散防止積層体を介挿させ、前記TaN層の厚さが30nm超えで、かつ前記W層の厚さが200nm未満であることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属被膜Si基板ならびにこの金属被膜Si基板を用いて形成された接合型発光素子およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
発光素子は、一般に、n型半導体層、活性層およびp型半導体層を含む半導体積層体を一対の電極で挟んで構成される。接合型発光素子は、例えば、サファイア等の成長基板上に、リフトオフ層、n型半導体層、発光層、p型半導体層、p型オーミック電極を積層後、p型オーミック電極側に、所定の金属層を介して例えばSi基板からなる下地基板を接合し、その後、上記リフトオフ層を除去することによって半導体積層体からサファイア基板を剥離し、これにより露出したn型半導体層にn側電極を形成することにより製造することができる。ここで、上記金属層は、一般に、p型オーミック電極側に予め形成しておいたAu含有層と、下地基板側に予め形成しておいたAu含有層とを熱圧着することにより形成される。
【0003】
ところで、Si(シリコン)とAu(金)とは約370℃に共晶点を有するため、上述した素子の製造過程における熱処理により、SiとAuとが共晶反応してしまい、Auが薄化し、接合強度が悪化するおそれがある。そのため、特許文献1には、支持基板とAu層との間に、下地基板と後述するPt(プラチナ)層との密着性を高めるためのTi(チタン)層およびAuがTi層に拡散するのを防止するためのPt層を介在させる技術が開示されている。
【0004】
また、特許文献2には、下地基板とAu含有層との間に、オーミックコンタクトを得るためのPt層、Pt層と後述するNi(ニッケル)層との密着性を高めるためのTi層およびAuがTi層に拡散するのを防止するためのNi層を介在させる技術が開示されている。
【0005】
しかしながら、これら技術によっても、n側電極のオーミック接合に必要な、例えば500℃のような共晶点を超える温度条件で熱処理を施した場合には、Auの拡散を十分に防止できず、金属層としてのAu層が薄化ひいては消失することにより、接合強度の低下、抵抗値の悪化およびオーミックの悪化等の問題が生じていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2006−324685号公報
【特許文献2】特開2006−86361号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、素子製造過程において高温の熱処理を施した場合であっても、Si基板上に形成されたAu層のAuがSi基板に拡散することのない金属被膜Si基板と、この金属被膜Si基板を用いた接合型発光素子およびその製造方法と共に提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
さて、本発明者らは、素子製造過程において高温の熱処理を施した場合であっても、Si基板上に形成されたAu層のAuがSi基板に拡散するのを防止すべく、新たな拡散防止積層体を形成することに想い至り、かかる拡散防止積層体として有用な材料の開発を試みた。その結果、拡散防止積層体としてTaN(窒化タンタル)層を用いるのが有効であることがわかったが、Auの拡散を防止するのには未だ十分ではなかった。次に、その改善を試みたところ、拡散防止積層体を、TaN層およびW(タングステン)層またはTaN層およびCu(銅)層で構成することが、所期した目的を達成する上で極めて有効であることの知見を得た。
【0009】
本発明は、上記の知見に立脚するもので、その要旨構成は以下の通りである。
(1)Si基板と、前記Si基板上の、接着層およびPt層が順に形成された初期積層体と、前記初期積層体上の、Auを含む第1金属層とを少なくとも有する金属被膜Si基板において、上記初期積層体と上記Auを含む第1金属層との間に、TaN層およびW層を含む拡散防止積層体を具え、前記TaN層の厚さが30nm超えで、かつ前記W層の厚さが200nm未満であることを特徴とする金属被膜Si基板。
【0010】
(2)前記拡散防止積層体は、前記初期積層体上にW層およびTaN層を順に積層してなる上記(1)に記載の金属被膜Si基板。
【0011】
(3)Si基板と、前記Si基板上の、接着層およびPt層が順に形成された初期積層体と、前記初期積層体上の、Auを含む第1金属層とを少なくとも有する金属被膜Si基板において、上記初期積層体と上記Auを含む第1金属層との間に、上記初期積層体側から、TaN層およびCu層を順に積層してなる拡散防止積層体を具えたことを特徴とする金属被膜Si基板。
【0012】
(4)上記(1)、(2)または(3)に記載の金属被膜Si基板の第1金属層上に、半導体積層構造体を接合したことを特徴とする接合型発光素子。
【0013】
(5)Si基板上に半導体積層構造体を有するバーチカル型発光素子において、前記Si基板と前記半導体積層構造体の間に、前記Si基板側から順に、少なくとも、接着層およびPt層を有する初期積層体と、TaN層およびW層からなる拡散防止積層体と、Auを含む金属層とを具える接合型発光素子。
【0014】
(6)Si基板上に半導体積層構造体を有する接合型発光素子において、前記Si基板と前記半導体積層構造体の間に、前記Si基板側から順に、少なくとも、接着層およびPt層を有する初期積層体と、拡散防止積層体としてのTaN層およびCu層と、Auを含む金属層とを具える接合型発光素子。
【0015】
(7)成長用基板上に、リフトオフ層と、n型半導体層、発光層およびp型半導体層を有する半導体積層構造体と、p型オーミック電極と、第2金属層とを順に形成する工程と、Si基板上に、接着層およびPt層で構成される第1初期積層体と、TaN層およびW層からなる拡散防止積層体と、Auを含む第1金属層とを順に形成する工程と、上記第1金属層と上記第2金属層とを接合する工程と、上記リフトオフ層を除去することにより上記成長用基板を上記n型半導体層から剥離する工程と、上記剥離により露出した上記n型半導体層上にn側電極を形成し、該n側電極に熱処理を施す工程とを具えることを特徴とする接合型発光素子の製造方法。
【0016】
(8)成長用基板上に、リフトオフ層と、n型半導体層、発光層およびp型半導体層を有する半導体積層構造体と、p型オーミック電極と、第2金属層とを順に形成する工程と、Si基板上に、接着層およびPt層で構成される第1初期積層体と、該第1初期積層体上にTaN層およびCu層を順に積層してなる拡散防止積層体と、Auを含む第1金属層とを順に形成する工程と、上記第1金属層と上記第2金属層とを接合する工程と、上記リフトオフ層を除去することにより上記成長用基板を上記n型半導体層から剥離する工程と、上記剥離により露出した上記n型半導体層上にn側電極を形成し、該n側電極に熱処理を施す工程とを具えることを特徴とする接合型発光素子の製造方法。
【0017】
(9)前記熱処理は、500℃以上で行われる上記(7)または(8)に記載の接合型発光素子の製造方法。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、初期積層体とAuを含む第1金属層との間に、TaN層およびW層またはTaN層およびCu層からなる拡散防止積層体を介挿させることにより、素子製造過程において高温の熱処理を施した場合であっても、Si基板上に形成されたAu層のAuがSi基板に拡散することのない金属被膜Si基板を得ることができる。また、本発明によれば、上記の金属被膜Si基板を用いることにより、Si基板上に形成されたAu層のAuがSi基板に拡散しないため、接合強度が高く、抵抗値が小さく、さらに、オーミック接触が良好な接合型発光素子を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】図1は、本発明に従う金属被膜Si基板の模式的断面図を示す。
【図2】図2(a),(b)は、拡散防止積層体が、Si基板側からTaN層とCu層とを順に形成してなる金属被膜Si基板の熱処理前と後の積層構造をそれぞれ示すグラフである。
【図3】図3(a),(b)は、拡散防止積層体が、Si基板側からW層とTaN層とを順に形成してなる金属被膜Si基板の熱処理前と後の積層構造をそれぞれ示すグラフである。
【図4】図4は、本発明に従う接合型発光素子の模式的断面図を示す。
【図5】図5は、本発明に従う接合型発光素子の製造方法のフローを模式的に示す。
【図6】図6(a),(b)は金属皮膜Si基板の表面に混食が無い状態および表面に混食が有る状態をそれぞれ示す金属顕微鏡写真である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明の金属被膜Si基板の実施形態について図面を参照しながら説明する。
図1は、本発明の第一実施形態に従う金属被膜Si基板1の模式的断面を示したものである。金属被膜Si基板1は、Si基板2と、このSi基板2上に順に形成された、接着層3およびPt層4で構成される初期積層体5と、この初期積層体5上に形成された、Auを含む第1金属層6とを具えているが、この初期積層体5とAuを含む第1金属層6との間に、TaN層7およびW層8からなる拡散防止積層体10を介挿させたことが本発明の特徴である。かかる構成とすることにより、素子製造過程において高温の熱処理を施した場合であっても、第1金属層6のAuがSi基板2に拡散することを防止することができるのである。
なお、図1では、拡散防止積層体10が、初期積層体5上にTaN層7およびW層8を順に積層してなる場合が示されているが、初期積層体5上にW層8およびTaN層7を順に積層してなる場合についても本発明の範囲に含まれる。
【0021】
ここに、上記TaN層7および上記W層8は、共にAuがSi基板2へ拡散することを防止する効果を有し、特に、上記W層8はPt層4のPtがAu層へ拡散することを防止する効果を有するが、いずれも単体では十分なAuのSi基板1への拡散を防止する効果を得ることができない。
【0022】
本発明の第一実施形態において、拡散防止積層体10のTaN層7の厚さが30nm超えで、かつW層8の厚さが200nm未満とする。TaN層7の厚さを30nm以下とすると、上述したAuのSi基板への拡散防止効果が不十分であり、また、W層8の厚さを200nm以上としても、AuのSi基板への拡散防止効果は飽和に達し、むしろ密着性が低下するためである。
さらに、TaN層7の厚さ、W層8の厚さはともに30nm超えであり200nm未満であることがさらに好ましい。30nm以下では拡散防止効果が不十分であり、200nm以上でも効果が増えることは無いためである。これは、Cu層についても同じである。
【0023】
また、図には示されないが、本発明の第二実施形態に従う金属被膜Si基板1は、初期積層体5とAuを含む第1金属層6との間に、TaN層7およびCu層を順に積層してなる拡散防止積層体10を介挿させたことを特徴とする。かかる構成とすることによっても、素子製造過程において高温の熱処理を施した場合であっても、第1金属層6のAuがSi基板2に拡散することを防止することができる。
【0024】
ここに、上記TaN層7および上記Cu層は、共にAuがSi基板2へ拡散することを防止する効果を有し、特に、上記Cu層は、Auと合金化することによって、AuがSi基板2へ拡散することを抑制する効果を有するが、いずれも単体では十分なAuのSi基板2への拡散を防止する効果を得ることができない。
【0025】
図2(a)、(b)は、拡散防止積層体10が、Si基板2側から接着層3としてのTi層、Pt層4、TaN層7、Cu層および第1金属層6としてのAu層を順に形成してなる金属被膜Si基板1に対し、600℃で熱処理を施す前と後の積層構造をそれぞれ示したものである。横軸はスパッタリング回数を示し、縦軸は任意強度である。これらの結果から、第1金属層6のAuはCu層に拡散し、Si基板2には拡散していないことがわかる。
【0026】
図3(a)、(b)は、拡散防止積層体10が、Si基板2側から接着層3としてのTi層、Pt層4、W層8、TaN層7および第1金属層6としてのAu層を順に形成してなる金属被膜Si基板に対し、600℃で熱処理を施す前と後の積層構造をそれぞれ示したものである。横軸はスパッタリング回数を示し、縦軸は任意強度である。これらの結果から、第1金属層6のAuはいずれの層にも拡散していないことがわかる。
【0027】
なお、本発明におけるAuを含む第1金属層6は、少なくとも70質量%以上のAuを含み、残部をSn等とすることができる。
また、上記接着層3は、Si基板2とPt層4との間の密着性を向上させる金属とするのが好ましく、TiやNi等を用いるのがより好ましい。いずれの金属を用いたとしても、Auの拡散防止効果へはほとんど寄与しない。
【0028】
また、本発明に従う接合型発光素子20は、図4に示すように、上記金属被膜Si基板1の第1金属層6上に、半導体積層構造体11を接合したことを特徴とし、かかる構成を有することにより、素子製造過程において高温の熱処理を施した場合に、Si基板2上に形成されたAu層のAuがSi基板2に拡散することを防止することができるものである。なお、半導体積層構造体11は、例えばp型半導体層12、発光層13およびn型半導体層14を有するものとすることができる。
【0029】
具体的には、本発明に従う接合型発光素子20は、Si基板2と半導体積層構造体11の間に、Si基板2側から順に、少なくとも、接着層3およびPt層4を有する初期積層体5と、TaN層7およびW層8からなる拡散防止積層体10と、Auを含む金属層とを具える。また、本発明に従う接合型発光素子20の別の実施形態は、Si基板2と半導体積層構造体11の間に、Si基板2側から順に、少なくとも、接着層3およびPt層4を有する初期積層体5と、拡散防止積層体10としてのTaN層7およびCu層と、Auを含む金属層とを具える。
【0030】
次に、本発明の接合型発光素子の製造方法の実施形態について図面を参照しながら説明する。
本発明に従う接合型発光素子100の製造方法の第一実施形態は、図5に示すように、成長用基板115上に、リフトオフ層116と、n型半導体層114、発光層113およびp型半導体層112を有する半導体積層構造体111と、p型オーミック電極118と、第2金属層117とを順に形成する工程(図5(a))と、Si基板102上に、接着層103およびPt層104で構成される第1初期積層体105と、TaN層107およびW層108からなる拡散防止積層体110と、Auを含む第1金属層106とを順に形成する工程(図5(b))と、第1金属層106と第2金属層117とを接合する工程(図5(c))と、リフトオフ層116を除去することにより成長用基板115をn型半導体層114から剥離する工程(図5(d))と、剥離により露出したn型半導体層114上にn側電極119を形成し、このn側電極に熱処理を施す工程(図5(e))とを具え、かかる構成を有することにより、第1金属層106のAuがSi基板102に拡散することを防止することができるものである。
なお、図5では、拡散防止積層体110が、第1初期積層体105上にTaN層107およびW層108を順に積層してなる場合が示されているが、第1初期積層体105上にW層108およびTaN層107を順に積層してなる場合についても本発明の範囲に含まれる。
【0031】
また、図には示されないが、本発明に従う接合型発光素子100の製造方法の第二実施形態において、拡散防止積層体110は、第1初期積層体105上にTaN層107およびCu層を順に積層してなる。かかる構成を有することによっても、第1金属層106のAuがSi基板102に拡散することを防止することができるものである。
【0032】
上記TaN層107や、W層108、Cu層は、スパッタ法等の各種成膜法により成膜することができる。
【0033】
第2金属層117は、少なくともAuを70質量%以上含み、残部をSn等とすることができる。また、図面には示されないが、第2金属層117とp型半導体層112との間には、Auがp型半導体層112に拡散するのを防止するためのPt層等の層を介在させることができる。
【0034】
第1金属層106と第2金属層117とを接合する工程(図5(c))は、第1金属層106と第2金属層117とを接触させて、真空雰囲気中において300℃で60分間保持し、熱圧着することにより行うことができる。
【0035】
また、成長用基板115をn型半導体層114から剥離する工程(図5(d))において、上記リフトオフ層116は、ケミカルリフトオフ法等を用いて除去することができる。
【0036】
n側電極に熱処理を施す工程(図5(e))において、熱処理は、500℃以上で行うことができる。500℃未満でn側電極119を熱処理した場合は良好なオーミック接触を得ることが困難なため、本発明によりオーミック接触を得る最適な条件のための熱処理温度の幅広い選択が可能となる。
【0037】
なお、本発明におけるTi層、Pt層、W層、TaN層、Cu層およびAu層等は、純金属層であるのが最適であるが、これら金属をそれぞれ90%以上含む合金層も含むものとする。
【0038】
上述したところは、本発明の実施形態の一例を示したものであって、本発明はこの実施形態に限定されるものではない。付加的に他の層が介在していても同様の効果が得られると考えられる。
【実施例】
【0039】
(実施例1)
Si基板上に、Ti層、Pt層、W層、TaN層およびAu層を順にスパッタ法により成膜し、金属被膜Si基板を作製した。各層の厚みを表1に示す。
【0040】
(実施例2)
Si基板上に、Ti層、Pt層、W層、TaN層およびAu層を順にスパッタ法により成膜し、金属被膜Si基板を作製した。各層の厚みを表1に示す。
【0041】
(実施例3)
Si基板上に、Ti層、Pt層、TaN層、Cu層およびAu層を順にスパッタ法により成膜し、金属被膜Si基板を作製した。各層の厚みを表1に示す。
【0042】
(実施例4)
Si基板上に、Ti層、Pt層、TaN層、W層およびAu層を順にスパッタ法により成膜し、金属被膜Si基板を作製した。各層の厚みを表1に示す。
【0043】
(実施例5)
Si基板上に、Ti層、Pt層、TaN層、W層およびAu層を順にスパッタ法により成膜し、金属被膜Si基板を作製した。各層の厚みを表1に示す。
【0044】
(比較例1)
Si基板上に、Ti層、Pt層、W層、TaN層およびAu層を順にスパッタ法により成膜し、金属被膜Si基板を作製した。各層の厚みを表1に示す。
【0045】
(比較例2)
Si基板上に、Ti層、Pt層、W層、TaN層、およびAu層を順にスパッタ法により成膜し、金属被膜Si基板を作製した。各層の厚みを表1に示す。
【0046】
(比較例3)
Si基板上に、Ti層、Pt層、Cu層、TaN層およびAu層を順にスパッタ法により成膜し、金属被膜Si基板を作製した。各層の厚みを表1に示す。
【0047】
(比較例4)
Si基板上に、Ti層、Pt層およびAu層を順にスパッタ法により成膜し、金属被膜Si基板を作製した。各層の厚みを表1に示す。
【0048】
(比較例5)
Si基板上に、Ti層、Pt層、W層およびAu層を順にスパッタ法により成膜し、金属被膜Si基板を作製した。各層の厚みを表1に示す。
【0049】
(比較例6)
Si基板上に、Ti層、Pt層、TaN層およびAu層を順にスパッタ法により成膜し、金属被膜Si基板を作製した。各層の厚みを表1に示す。
【0050】
【表1】

【0051】
(評価)
上記実施例1〜5および比較例1〜6の金属被膜Si基板に対し、真空雰囲気中で、400℃、500℃、600℃、650℃および700℃の熱処理を施した。各例について、この熱処理後のAu層の状態を金属顕微鏡により観察し、表面の混食の状態を以下のとおり評価した結果を表2に示す。ここで、「混食」とは、「食われ」とも言い、表面を金属顕微鏡で観察した際に、局所的な変色や、不均一な表面形状の変化が見られる状態のことを言う。
◎:混食無し
△:一部に混食有り
×:全部に混食有り
上記評価「◎」の混食無しの状態とは、図6(a)に示すように、金属皮膜Si基板の表面全体に混食が現れていない状態を言い、上記評価「△」および「×」の混食が有る状態とは、図6(b)に示すように、金属皮膜Si基板の表面の一部または全部に、混食が現れている状態を言う。
なお、比較例1に関しては、成膜時に金属膜が剥離してしまった。
【0052】
【表2】

【0053】
表2に示すように、本発明に従う実施例1〜5の金属被膜Si基板は、比較例1〜6の金属被膜Si基板と比較して、熱処理を行ってもAu表面の変化が少なく、AuのSi層への拡散を良好に防止できていることがわかる。
また、本実施例では、接着層としてTi層を用いた場合のみを示したが、接着層としてNi層を用いても、本発明と同様の効果を得ることができる。
【0054】
上記の実施例1〜5の金属被膜Si基板に対して、サファイア基板上にCrNリフトオフ層を介してInGaNからなる半導体積層構造体を形成し、p型オーミック電極と、Auを含む第2金属層と、実施例1〜5の第1金属層の間を、真空中300℃で60分保持することにより接合した。その後、リフトオフ層をケミカルリフトオフし、露出したn型半導体層にTiとAlからなるn側電極を形成し、500℃で15分間熱処理することにより、n側電極のオーミック接合を得た。p側電極と電気的接続可能な電極パッドの形成は任意であるが、本実施例では接合した導電性Si基板の裏面にTiとPtとAuからなる裏面電極を形成し、縦方向に電流が流れる接合型発光素子を形成した。
本実施例においては、ダイシングによる素子分離後も接合型発光素子は接合状態を保っており、順方向電流電圧測定によっても、抵抗値やオーミックが悪化した素子は見られなかった。
【産業上の利用可能性】
【0055】
本発明によれば、初期積層体とAuを含む第1金属層との間に、TaN層およびW層またはTaN層およびCu層からなる拡散防止積層体を介挿させることにより、素子製造過程において高温の熱処理を施した場合であっても、Si基板上に形成されたAu層のAuがSi基板に拡散することのない金属被膜Si基板を得ることができる。また、本発明によれば、上記の金属被膜Si基板を用いることにより、Si基板上に形成されたAu層のAuがSi基板に拡散しないため、接合強度が高く、抵抗値が小さく、さらに、オーミックが良好な接合型発光素子を得ることができる。
【符号の説明】
【0056】
1 金属被膜Si基板
2,102 Si基板
3,103 接着層
4,104 Pt層
5,105 初期積層体
6,106 第1金属層
7,107 TaN層
8,108 W層
10,110 拡散防止積層体
11,111 半導体積層構造体
12,112 p型半導体層
13,113 発光層
14,114 n型半導体層
20,100 接合型発光素子
115 成長用基板
116 リフトオフ層
117 第2金属層
118 p型オーミック電極
119 n側電極

【特許請求の範囲】
【請求項1】
Si基板と、前記Si基板上の、接着層およびPt層が順に形成された初期積層体と、前記初期積層体上の、Auを含む第1金属層とを少なくとも有する金属被膜Si基板において、
上記初期積層体と上記Auを含む第1金属層との間に、TaN層およびW層を含む拡散防止積層体を具え、
前記TaN層の厚さが30nm超えで、かつ前記W層の厚さが200nm未満であることを特徴とする金属被膜Si基板。
【請求項2】
前記拡散防止積層体は、前記初期積層体上にW層およびTaN層を順に積層してなる請求項1に記載の金属被膜Si基板。
【請求項3】
Si基板と、前記Si基板上の、接着層およびPt層が順に形成された初期積層体と、前記初期積層体上の、Auを含む第1金属層とを少なくとも有する金属被膜Si基板において、
上記初期積層体と上記Auを含む第1金属層との間に、上記初期積層体側から、TaN層およびCu層を順に積層してなる拡散防止積層体を具えることを特徴とする金属被膜Si基板。
【請求項4】
請求項1、2または3に記載の金属被膜Si基板の第1金属層上に、半導体積層構造体を接合したことを特徴とする接合型発光素子。
【請求項5】
Si基板上に半導体積層構造体を有する接合型発光素子において、
前記Si基板と前記半導体積層構造体の間に、前記Si基板側から順に、少なくとも、接着層およびPt層を有する初期積層体と、TaN層およびW層からなる拡散防止積層体と、Auを含む金属層とを具える接合型発光素子。
【請求項6】
Si基板上に半導体積層構造体を有する接合型発光素子において、
前記Si基板と前記半導体積層構造体の間に、前記Si基板側から順に、少なくとも、接着層およびPt層を有する初期積層体と、拡散防止積層体としてのTaN層およびCu層と、Auを含む金属層とを具える接合型発光素子。
【請求項7】
成長用基板上に、リフトオフ層と、n型半導体層、発光層およびp型半導体層を有する半導体積層構造体と、p型オーミック電極と、第2金属層とを順に形成する工程と、
Si基板上に、接着層およびPt層で構成される第1初期積層体と、TaN層およびW層からなる拡散防止積層体と、Auを含む第1金属層とを順に形成する工程と、
上記第1金属層と上記第2金属層とを接合する工程と、
上記リフトオフ層を除去することにより上記成長用基板を上記n型半導体層から剥離する工程と、
上記剥離により露出した上記n型半導体層上にn側電極を形成し、該n側電極に熱処理を施す工程と
を具えることを特徴とする接合型発光素子の製造方法。
【請求項8】
成長用基板上に、リフトオフ層と、n型半導体層、発光層およびp型半導体層を有する半導体積層構造体と、p型オーミック電極と、第2金属層とを順に形成する工程と、
Si基板上に、接着層およびPt層で構成される第1初期積層体と、該第1初期積層体上にTaN層およびCu層を順に積層してなる拡散防止積層体と、Auを含む第1金属層とを順に形成する工程と、
上記第1金属層と上記第2金属層とを接合する工程と、
上記リフトオフ層を除去することにより上記成長用基板を上記n型半導体層から剥離する工程と、
上記剥離により露出した上記n型半導体層上にn側電極を形成し、該n側電極に熱処理を施す工程と
を具えることを特徴とする接合型発光素子の製造方法。
【請求項9】
前記熱処理は、500℃以上で行われる請求項7または8に記載の接合型発光素子の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2011−187493(P2011−187493A)
【公開日】平成23年9月22日(2011.9.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−48130(P2010−48130)
【出願日】平成22年3月4日(2010.3.4)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成21年度、経済産業省、地域イノベーション創出研究開発事業(継続事業)「ケミカルリフトオフ法を用いた縦型構造高出力紫外LEDの開発」(平成21・03・27東北第16号20R2004)、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【出願人】(506334182)DOWAエレクトロニクス株式会社 (336)
【Fターム(参考)】