説明

金属被覆された鋼ストリップ

ストリップ上にAl−Zn−Si−Mg合金被覆を形成する溶融めっき法が開示される。この方法は、溶融浴における条件を制御して、溶融浴中の表面垢層を最小化することを含んでいる。特に、この方法は、Ca及び/又はSrを浴中の被覆合金に含めることにより、表面垢の形成を制御することを含んでいる。

【発明の詳細な説明】
【発明の概要】
【0001】
本発明は、ストリップ、典型的には鋼ストリップの製造に関し、それは、合金中の主な元素としてアルミニウム−亜鉛−ケイ素−マグネシウムを含み、以下、これに基いて「Al−Zn−Si−Mg合金」という、耐食合金被覆を有している。
【0002】
特に、本発明は、未被覆のストリップを、溶融させたAl−Zn−Si−Mg合金の浴中へと浸漬させて、ストリップ上に合金の被覆を形成することを含んだ、ストリップ上にAl−Zn−Si−Mg合金被覆を形成する溶融金属めっき法に関する。
【0003】
より詳細には、本発明は、合金被覆浴における表面垢(top dross)の量の最小化に関与している。表面垢は、以下に記載するように、製造コスト及び被覆の品質の観点から望ましくない。
【0004】
典型的には、本発明のAl−Zn−Si−Mg合金は、Al、Zn、Si及びMgを、重量%で表した以下の範囲で含んでいる。
【0005】
Al:40乃至60%
Zn:30乃至60%
Si:0.3乃至3%
Mg:0.3乃至10%
さらに典型的には、本発明のAl−Zn−Si−Mg合金は、Al、Zn、Si及びMgを、重量%で表した以下の範囲で含んでいる。
【0006】
Al:45乃至60%
Zn:35乃至50%
Si:1.2乃至2.5%
Mg:1.0乃至3.0%
合金被覆は、意図的な合金添加物として又は不可避的な不純物として存在する他の元素を含んでいてもよい。従って、ここでは、「Al−Zn−Si−Mg合金」は、意図的な合金添加物として又は不可避的な不純物としての他の元素を含んだ合金を包含していると理解される。他の元素は、一例として、Fe、Sr、Cr及びVの1以上を含んでいてもよい。
【0007】
最終用途に依存して、金属被覆ストリップは、例えば、高分子塗料によって、ストリップの片面又は両面を塗装されてもよい。これに関し、金属被覆ストリップは、それ自体が最終製品として販売されてもよく、片面又は両面が塗装され、塗装された最終製品として販売されてもよい。
【0008】
本発明は、限定されるものではないが、特には、上述したAl−Zn−Si−Mg合金で被覆され、任意に塗装され、その後、建築製品(例えば、異形壁(profiled wall)及び屋根板)などの最終製品へと冷間成形(例えばロール成形によって)される鋼ストリップに関する。
【0009】
オーストラリアなどにおいて、建築製品、特には異形壁及び屋根板に広く使用されている耐食金属被覆組成物は、Siを含んだ55%Al−Zn被覆組成物である。これらプロファイル板材は、通常、塗装された金属合金被覆ストリップを冷間成形することによって製造される。典型的には、プロファイル板材は、塗装されたストリップをロール成形することによって製造される。
【0010】
55%Al−Zn−Si被覆組成物からなるこの公知の組成物へのMgの添加は、長年に亘って特許文献において提案されている(例えば、Nippon Steel Corporation名義のUS6635359を参照のこと)が、オーストラリアにおいては、鋼ストリップ上のAl−Zn−Si−Mg被覆は市販されていない。
【0011】
Mgを55%Al−Zn被覆組成物に含ませると、Mgは、切り口の保護といった製品の性能への有益な効果をもたらすことが証明されている。
【0012】
本出願人は、Mg含有溶融55%Al−Zn被覆金属は、Mgを含んでいない溶融55%Al−Zn被覆金属と比較して、表面垢の発生のレベルが増加しやすいことを見出している。
【0013】
ここでは、用語「表面垢」は、溶融層の表面上又はその近傍における以下の成分:
(a)溶融浴の表面上の酸化物膜、
(b)酸化物膜によって覆われた溶融金属液滴、
(c)酸化物膜を泡の壁として有している気泡、
(d)被覆浴中に形成され、酸化物膜によって覆われた粒子を含んだ金属間粒子(intermetallic particles)、及び
(e)酸化物膜によって覆われた、ガス、溶融金属及び金属間粒子の2以上の組み合わせ
の1以上を包含するものとして理解される。
【0014】
項目(b)、(c)、(d)及び(e)は、溶融浴の表面上又はその近傍の酸化物膜への、溶融金属、ガス及び金属間粒子の取り込みの結果であるとして記述され得る。
【0015】
本出願人によって行われた、Mg含有55%Al−Zn合金を鋼ストリップ上へ溶融金属めっきするためのライン試験を通じて、被覆浴中に発生する表面垢のレベルは、Mg添加なしの55%Al−Zn合金被覆浴中に生じる表面垢のレベルの6乃至8倍であることが示された。以下の記述に束縛されることを望むものではないが、本出願人は、Mg溶融被覆合金における過剰な表面垢の生成は、合金中でのMgの反応性及び迅速な酸化並びに55%Al−Zn合金浴へのマグネシウムの添加に起因した液体金属の特性(例えば、表面張力)の変化のせいであると考えている。より詳細には、Mgは、Alと比較して、酸素に対する高い親和性を有しており、それ故、MgはAlよりも遥かに速やかに酸化される。このことは、酸化物の標準生成自由エネルギー(ΔG°)から明白であり、これは、酸化物生成への熱力学的推進力は、AlよりもMgについて遥かに大きい(600℃の浴作業温度で、ΔG°Al2O3=−934kJ/molであり、ΔG°MgO=−1015kJ/molである)ことを示している。さらに、溶融した表面の乱流は、浴中の溶融金属の酸化及び被覆浴中での酸化物膜のエントレインメントの双方を促進する。被覆浴中での酸化物膜のエントレインメントは、溶融浴中での酸化物膜中の溶融金属、ガス及び金属間粒子のエントレインメントを、及び、それに続く、項目(b)、(c)、(d)及び(e)で上記した垢成分の生成をもたらす。この表面垢は、表面垢中に閉じ込められた、空隙、酸化物ストリンガ及び垢金属間粒子の体積分率が高い。
【0016】
生成される表面垢の量は、Mg含有55%Al−Zn合金被覆鋼の製造コストに大きく影響する。表面垢は、被覆鋼上の表面欠陥を防ぐために、浴表面から定期的に取り除かれねばならない。表面垢の除去は、除去プロセスのコスト及び表面垢の廃棄又は再生処理のコストのせいで、被覆鋼ストリップの製造者に対するコストを意味している。表面垢の生成を減らすことにより、製造コストを顕著に減少させる機会を与える。
【0017】
加えて、表面垢を減らすことは、酸化物ストリンガ及び懸濁垢粒子のエントレインメントを減少させることによる、被覆ストリップの改良された表面の品質をもたらす機会を与える。
【0018】
上述した議論は、オーストラリアなどでは、共通の一般知識を認めるものであるとは受け取られない。
【0019】
本出願人は、溶融Al−Zn−Si−Mg合金浴における表面垢のレベルを、溶融浴への(a)Ca、(b)Sr、並びに(c)Ca及びSrの添加によって低減することができており、表面垢のレベルの低減は、製造コストや製品の品質の観点で利益をもたらしている。以下、これらの元素の添加を、「Ca及び/又はSr」の添加という。なお、Ca及びSrの添加への上記の言及は、Srの前にCaを添加することを示すことを意図していない。本発明は、Ca及びSrを、溶融浴に同じタイミングで添加する場合及び異なったタイミングで添加する場合まで及ぶ。
【0020】
本出願人は、浴にCa及び/又はSrを添加することによる、溶融Al−Zn−Si−Mg合金浴中における表面垢の低減は、(a)Ca及び/又はSr添加の結果としての液体金属/酸化物界面での見かけ表面張力の変化並びに(b)Ca及び/又はSr添加の結果としての酸化物膜の性質の変化に起因した、浴中の表面垢における酸化物膜での、ガス、溶融金属、及び金属間粒子のエントレインメントにおける変化によるものであることを見出した。酸化物膜の性質の変化は、形成される酸化物ストリンガのレベルを低減させ、その結果として、液滴エントレインメントの全体的な低減を助ける。
【0021】
本発明によると、ストリップ上にAl−Zn−Si−Mg合金被覆を形成する方法であって、ストリップをAl−Zn−Si−Mg合金の浴に浸漬させて、前記ストリップ上に前記合金の被覆を形成することを含み、前記浴は、溶融金属層と、前記金属層上の表面垢層とを有し、前記方法は、前記溶融浴における条件を制御して、前記溶融浴中の前記表面垢層を最小化することを含んだ方法が提供される。
【0022】
この方法は、前記溶融浴における前記条件を制御して、前記表面垢層の酸化物膜中の溶融金属、ガス及び金属間粒子の1以上のエントレインメントを最小化することを含んでいてもよい。
【0023】
前記溶融浴における前記条件は、前記浴における前記合金の組成を含んでいてもよい。
【0024】
従って、この方法は、例えば前記浴中の前記表面垢層の酸化物膜における液滴エントレインメントを最小化にすることにより、前記浴の前記組成を制御して、前記溶融浴中の前記表面垢層を最小化することを含んでいてもよい。
【0025】
また、この方法は、Caを前記浴の前記組成に含ませることにより、前記浴の組成を制御して、前記溶融浴中の前記表面垢層を最小化することを含んでいてもよい。
【0026】
前記浴の前記組成は、50ppmを超えるCaを含んでいてもよい。なお、本明細書において、ppmに対する全ての言及は、重量に基いたppmに対する言及である。
【0027】
溶融浴の組成の一部としてのCa及びSrなどの元素の量についての言及は、ここでは、浴中の表面垢層と対立するものとしての浴の金属層中の元素の濃度についての言及であると理解される。この理由は、溶融浴の溶融金属層において浴濃度を測ることは、本出願人にとって標準的な慣習であるということである。
【0028】
また、本出願人は、Ca及びSrは溶融浴の表面垢層に集まる傾向にあり、その結果、表面垢層は、金属層と比較した際に、Ca及びSrに富むようになることを見出した。とりわけ、溶融浴の金属層中に「x」重量%のCa又はSrがある場合、浴の表面垢層には、より高い濃度でその元素が存在するであろう。例えば、本出願人は実験室的研究において、90ppm Caの公称浴組成を有している浴では、表面垢層におけるCa含有量は100ppm Caまで増加することを見出した。同様に、本出願人は、400ppm Caの公称組成を有している浴では、表面垢層は、実質的に600ppmまで富化されることを見出した。また、類似の富化は、Srについても、実験室的研究において観察された。例えば、500ppm Srの公称組成を有する浴では、3時間の処理後、表面垢層は700ppmまでSrが富化された。そして、750ppm Srの公称組成を有している浴では、3時間の処理後、表面垢層は1100ppm Srまで富化された。実際には、これは、溶融浴の溶融金属層中に「x」重量%のCa又はSrが存在していることが必要とされた場合、浴全体において「x」重量%よりも多くの量のCaを添加して、表面垢層へと集まるより高い濃度のCa又はSrを補償する必要があることを意味している。
【0029】
前記浴の前記組成は、150ppmを超えるCaを含んでいてもよい。
前記浴の前記組成は、200ppmを超えるCaを含んでいてもよい。
前記浴の前記組成は、1000ppm未満のCaを含んでいてもよい。
前記浴の前記組成は、750ppm未満のCaを含んでいてもよい。
前記浴の前記組成は、500ppm未満のCaを含んでいてもよい。
【0030】
Caは、必要に応じて浴に添加されてもよい。これは、Ca化合物の連続的又は定期的な特定の添加によるものであり得る。また、これは、浴への供給材料として提供されるAl及び/又はZnインゴット中のCa含有物によるものであり得る。
【0031】
この方法は、前記浴の前記組成にSrを含ませることにより、前記浴の組成を制御して、前記溶融浴中の前記表面垢層を最小化することを含んでいてもよい。
【0032】
前記浴は、100ppmを超えるSrを含んでいてもよい。
前記浴は、150ppmを超えるSrを含んでいてもよい。
前記浴は、200ppmを超えるSrを含んでいてもよい。
前記浴は、1250ppm未満のSrを含んでいてもよい。
前記浴は、1000ppm未満のSrを含んでいてもよい。
【0033】
Srは、必要に応じて浴に添加されてもよい。これは、Sr化合物の連続的又は定期的な特定の添加によるものであり得る。また、これは、浴への供給材料として提供されるAl及び/又はZnインゴット中のSr含有物によるものであり得る。
【0034】
この方法は、前記浴の前記組成にCa及びSrを含めることにより、前記浴の前記組成を制御して、前記溶融浴中の前記表面垢層を最小化することを含んでいてもよい。
【0035】
この組成におけるCa及びSrの量は、上述した通りであってもよく、各元素の量を調節して、他の元素の添加が表面垢層へ及ぼす影響を補償してもよい。
【0036】
この方法は、前記浴の前記組成にイットリウムなどの希土類元素並びに希土類とCa及び/又はSrとの組み合わせを含めることにより、前記浴の前記組成を制御して、前記溶融浴中の前記表面垢層を最小化することを含んでいてもよい。
【0037】
この方法は、前記浴中に存在しているCa、Sr及び希土類元素の1以上の濃度を定期的にモニタリングし、必要に応じてCa、Sr及び希土類元素を添加して、1つの元素又は複数の元素について浴組成を維持することにより、前記浴の前記組成を制御して、前記浴中の前記表面垢層を最小化することを含んでいてもよい。
【0038】
Ca、Sr及び希土類元素が、前記浴の前記組成中に存在している他の元素のインゴットの一部である状況においては、この方法は、インゴットの寸法、インゴット添加のタイミング、及びインゴット添加のシーケンスの1以上を選択して、Ca、Sr及び希土類元素の濃度を実質的に一定に又はそれら元素について好ましい範囲の+又は−10%内に維持することを含んでいてもよい。
【0039】
前記Al−Zn−Si−Mg合金は、0.3重量%を超えるMgを含んでいてもよい。
前記Al−Zn−Si−Mg合金は、1.0重量%を超えるMgを含んでいてもよい。
前記Al−Zn−Si−Mg合金は、1.3重量%を超えるMgを含んでいてもよい。
前記Al−Zn−Si−Mg合金は、1.5重量%を超えるMgを含んでいてもよい。
前記Al−Zn−Si−Mg合金は、3.0重量%未満のMgを含んでいてもよい。
前記Al−Zn−Si−Mg合金は、2.5重量%を超えるMgを含んでいてもよい。
前記Al−Zn−Si−Mg合金は、1.2重量%を超えるSiを含んでいてもよい。
前記Al−Zn−Si−Mg合金は、元素Al、Zn、Si及びMgを、重量%で表した以下の範囲で含んでいてもよい。
【0040】
Al:40乃至60%
Zn:30乃至60%
Si:0.3乃至3%
Mg:0.3乃至10%
特には、前記Al−Zn−Si−Mg合金は、元素Al、Zn、Si及びMgを、重量%で表した以下の範囲で含んでいてもよい。
【0041】
Al:45乃至60%
Zn:35乃至50%
Si:1.2乃至2.5%
Mg:1.0乃至3.0%
また、本発明によると、上述した方法によって製造される、ストリップ上のAl−Zn−Si−Mg合金被覆が提供される。
【0042】
本発明を、添付の図面を参照しながら実施例によって更に説明する。
【図面の簡単な説明】
【0043】
【図1】図1は、Al−Zn−Si−Mg合金で被覆された鋼ストリップを本発明の方法に従って製造するための連続製造ラインの一態様の概略図である。
【図2】図2は、本出願人によって行われた垢生成に関する実験における、Mgあり及びなし並びにCaあり及びなしの溶融Al−Zn−Si合金浴についての時間に対する垢の質量のグラフである。
【図3】図3は、本出願人によって行われた垢生成に関する実験における、Mgあり及びなし並びにSrあり及びなしの溶融Al−Zn−Si合金浴についての時間に対する垢の質量のグラフである。
【図4】図4は、図2及び図3に纏めた実験研究から選んだ結果を示しており、Ca及びSrが表面垢の生成に与える影響を強調している。
【図5】図5は、1又は3時間の処理時間後のAl−Zn−Si−Mg合金浴における、Ca含有量に対する垢の質量のグラフである。
【図6】図6は、本出願人によって行われた一連のライン試験の間の時間に対する生成した垢の質量のグラフである。
【0044】
図1を参照すると、使用する際には、冷間圧延した鋼ストリップのコイルを、巻き出しステーション1で巻き出し、巻き出した複数のストリップは溶接機2によって端と端とを溶接し、長尺のストリップを形成する。
【0045】
次いで、ストリップを、アキュムレータ3、ストリップクリーニング部4、及び炉アセンブリ5に連続的に通過させる。炉アセンブリ5は、予熱器、予熱還元炉及び還元炉を含んでいる。
【0046】
ストリップは、(i)炉内の温度プロファイル、(ii)炉内の還元性ガス濃度、(iii)炉内を流れるガスの流量、及び(iv)ストリップの炉内での滞留時間(即ち、線速度)を含むプロセス変量の注意深い制御によって、炉アセンブリ5内で熱処理する。
【0047】
炉アセンブリ5におけるプロセス変量は、ストリップ表面からの鉄酸化物残渣の除去と、ストリップ表面からの残留油及び鉄微粉の除去とが見られるように制御される。
【0048】
次いで、熱処理したストリップを、出口(outlet snout)を介し、コーティングポット6に入れ、Al−Zn−Si−Mg合金を含んだ溶融浴中に、下方へ向けて通過させ、Al−Zn−Si−Mg合金で被覆する。Al−Zn−Si−Mg合金は、加熱コイル(図示せず)を用いることにより、コーティングポット内で溶融状態を維持している。ストリップは、浴内ではシンクロールの周りに通し、浴から上方へ向けて取り出す。浴を通過すると、ストリップの両面は、Al−Zn−Si−Mg合金によって被覆される。
【0049】
被覆浴6を離れた後、ストリップは、ガスワイピングステーション(図示せず)を鉛直方向に通過し、そこで、その被覆された表面はワイピングガスのジェットに供されて、被覆の厚さを制御する。
【0050】
次いで、被覆ストリップを、冷却部7に通し、強制冷却に供する。
【0051】
次いで、冷却した被覆ストリップを、被覆ストリップの表面を整える圧延部8に通す。
【0052】
その後、被覆ストリップは、巻き取り部10において巻き取る。
【0053】
上記の通り、本出願人は、Al−Zn−Si−Mg合金被覆浴は、本出願人の被覆ラインにおいて、従来の55%Al−Zn合金浴を用いた場合よりも、相当に大量の表面垢を浴中に生じることを見出している。
【0054】
上述のように、本出願人は、多数の実験室実験及びライン試験を行い、Al−Zn−Si−Mg合金浴で生成する垢の量を減らすことが可能であるか見極めた。上述のように、本出願人は、被覆浴中のAl−Zn−Si−Mg合金へのCa又はSrの添加によって、表面垢のレベルを顕著に低下させることが可能なことを見出した。
【0055】
被覆浴へのCa及びSr添加がAl−Zn−Si−Mg合金被覆浴中での垢生成のレベルに及ぼす影響に関する実験結果を、図2乃至5に纏める。
【0056】
実験研究を、以下の合金組成について実行した。ここで、(a)Al−Zn合金(図中では「AZ」)及び(b)Al−Zn−Mg合金(図中では「MAZ」)については重量%で表し、(c)これらAZ及びMAZ合金にプラスした、Ca又はSr添加物の百万分率(ppm)はこれらの組成に対するものである。
【0057】
AZ:55Al−43Zn−1.5Si−0.5Fe
MAZ:53Al−43−Zn−2Mg−1.5Si−0.5Fe
MAZ + 236ppm Ca
MAZ + 90ppm Ca
MAZ + 400ppm Ca
MAZ + 500ppm Sr
MAZ + 750ppm Sr
MAZ + 800ppm Sr
なお、Ca及びSrの濃度は、溶融浴の金属部分におけるこれら元素の濃度である。
【0058】
実験研究では、表面垢の生成を、実験室用融解炉及びオーバーヘッド式機械的撹拌装置を用いてシミュレートした。実験装置は、以下の構成部分からなる。
【0059】
・黒鉛粘土質るつぼを備えた融解炉
・支持台を備えたオーバーヘッド式可変速度撹拌装置
・高密度焼結窒化ホウ素セラミックスから機械加工された垢捕集カップであって、一連の排出穴をカップの底に有し、カップをるつぼへ設置すること及びそこから取り去ることを可能とする一連の直立ハンドルを有しているカップ
・ステンレス製インペラシャフト
・高密度焼結窒化ホウ素セラミックスから機械加工したインペラ
垢捕集カップ及びインペラは、高温のAZ合金及びMAZ合金に対して非湿潤性の高温材料から製造した。これら構成要素の焼結窒化ホウ素は、被覆浴中で、優れた非湿潤性及び高温安定性を提供した。
【0060】
各実験について、要求される組成を有している15kgの被覆合金をるつぼ内に形成し、600℃の処理温度に維持した。次いで、垢捕集カップを溶融浴中に入れ、融解温度が処理温度に達するまで浴中に保持した。次いで、シャフトインペラアセンブリを、インペラた溶融物の表面に丁度接するまで浴の中へと下ろした。次に、撹拌装置のモータをオンにし、撹拌速度を60RPMに合わせた。この実験準備により、渦を生じさせることなしに浴の表面を刈り、インペラの1回転毎に新鮮な溶融物を空気に連続的に曝して垢を生じさせた。生成した垢は、るつぼの側面に押し退けられ、るつぼの側面上に蓄積した。各実験の終わりに、るつぼから垢捕集カップを持ち上げ、同伴した余分な浴金属を垢捕集カップの孔からるつぼ中へと排出させることによって、蓄積した垢を取り除いた。垢捕集カップ内に残ったものは、同伴された浴金属と、酸化物膜によって覆われた垢金属間粒子とを含んでいた。この残留した材料は、各実験において生成した表面垢であった。
【0061】
これら実験は、0.5、1.2、及び3時間の継続時間に亘って実施した。
【0062】
各実験の後、捕集した垢を取り除き、重量を量った。その結果を、図2乃至5に示すようにプロットしている。
【0063】
図2乃至4は、溶融合金浴に関する、時間に対する垢の質量のグラフであり、図2の結果はCa合金に関する結果に焦点を当てたものであり、図3の結果はSr合金に関する結果に焦点を当てたものであり、図4の結果は、図2及び図3から選択したCa及びSrに関する結果を強調したものである。
【0064】
図5は、1及び3時間の処理時間後の溶融合金浴における、Ca含有量に対する垢の質量のグラフである。
【0065】
図2乃至5は、Al−Zn−Si−Mg合金浴中に生じる表面垢のレベルはMAZ合金被覆浴へのCa又はSrの添加によって顕著に減少させることができることを明確に示している。より詳細には、図2乃至5は、
(a)MAZ合金被覆浴は、AZ合金被覆浴と比較して遥かに大量の表面垢を生成し、
(b)表面垢の量は、MAZ合金中のCa及びSrの量を多くすると顕著に減少する
ことを示している。
【0066】
図2乃至5に示す結果を、Caについて約2週間に亘って実施したライン試験において更に確認した。このライン試験は、上述したAZ合金に対して行い、この合金には、ライン試験の過程における様々な時点でMg及びCaを添加した。図6は、ライン試験の間に捕集した垢と、それら結果は実験室的研究において観測されたものと一致していることとを示している。特に、図6は、浴へMgを添加すると溶融浴中に発生する垢の量が相当に増加し、浴へのCaの添加の結果として垢の量が相当に減少したことを示している。
【0067】
上述したように、本出願人は、垢のレベルの低下は、(a)Ca及びSr添加の結果としての液体金属/酸化物界面における見かけ表面張力に対する変化と、(b)Ca及びSr添加の結果としての酸化物膜の性質の変化とに起因した、溶融浴中の酸化物膜における溶融金属、ガス、及び金属間粒子の同伴の減少の結果であると考えている。酸化物膜の性質の変化は、形成される酸化物ストリンガのレベルを低減し、ひいては、液滴同伴の全体的な減少を助ける。この同伴における変化は、溶融Al−Zn−Si−Mg合金における表面垢生成のレベルの減少へと導く。
【0068】
Ca及びSrは、Al−Zn−Si−Mg合金の溶融中に添加して浴中の酸化物膜における溶融金属、ガス、及び金属間粒子の同伴を減少させ、これにより、浴中の垢のレベルを減少させ得る元素の例である。他の浴添加物は、例として、イットリウム等の希土類元素、並びに、希土類と、カルシウム、ストロンチウム、及びカルシウム/ストロンチウムとの組み合わせを含んでいる。
【0069】
実際には、Ca及び/又はSrは、必要に応じて浴に加えてもよい。これは、連続的又は定期的な特定のCa及び/又はSr化合物の添加によるものであり得る。また、これは、浴への供給材料として提供されるAl及び/又はZnインゴット中へのCa及び/又はの組み入れによるものであり得る。
【0070】
上述した本発明には、本発明の真意及び範囲から逸脱することなしに、多くの変形がなされてもよい。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ストリップ上にAl−Zn−Si−Mg合金被覆を形成する方法であって、ストリップをAl−Zn−Si−Mg合金の浴に浸漬させて、前記ストリップ上に前記合金の被覆を形成することを含み、前記浴は、溶融金属層と、前記金属層上の表面垢層とを有し、前記方法は、前記溶融浴における条件を制御して、前記溶融浴中の前記表面垢層を最小化することを含んだ方法。
【請求項2】
請求項1に記載の方法であって、前記溶融浴における前記条件を制御して、前記表面垢層の酸化物膜中の溶融金属、ガス及び金属間粒子の1以上のエントレインメントを最小化することにより、前記溶融浴における前記条件を制御して、前記溶融浴中の前記表面垢層を最小化することを含んだ方法。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の方法であって、前記浴の組成を制御して、前記溶融浴中の前記表面垢層を最小化することを含んだ方法。
【請求項4】
請求項3に記載の方法であって、Caを前記浴の前記組成に含ませることにより、前記浴の組成を制御して、前記溶融浴中の前記表面垢層を最小化することを含んだ方法。
【請求項5】
請求項4に記載の方法であって、50ppmを超えるCaを含むように前記浴の前記組成を制御することを含んだ方法。
【請求項6】
請求項に記載の方法であって、150ppmを超えるCaを含むように前記浴の前記組成を制御することを含んだ方法。
【請求項7】
請求項4に記載の方法であって、200ppmを超えるCaを含むように前記浴の前記組成を制御することを含んだ方法。
【請求項8】
請求項4乃至7の何れか1項に記載の方法であって、1000ppm未満のCaを含むように前記浴の前記組成を制御することを含んだ方法。
【請求項9】
請求項4乃至7の何れか1項に記載の方法であって、750未満のCaを含むように前記浴の前記組成を制御することを含んだ方法。
【請求項10】
請求項4乃至7の何れか1項に記載の方法であって、500ppm未満のCaを含むように前記浴の前記組成を制御することを含んだ方法。
【請求項11】
請求項3に記載の方法であって、前記浴の前記組成にSrを含ませることにより、前記浴の組成を制御して、前記溶融浴中の前記表面垢層を最小化することを含んだ方法。
【請求項12】
請求項に記載の方法であって、100ppmを超えるSrを含むように前記浴の前記組成を制御することを含んだ方法。
【請求項13】
請求項11に記載の方法であって、150ppmを超えるSrを含むように前記浴の前記組成を制御することを含んだ方法。
【請求項14】
請求項11に記載の方法であって、200ppmを超えるSrを含むように前記浴の前記組成を制御することを含んだ方法。
【請求項15】
請求項11乃至14の何れか1項に記載の方法であって、1250ppm未満のSrを含むように前記浴の前記組成を制御することを含んだ方法。
【請求項16】
請求項11乃至14の何れか1項に記載の方法であって、1000ppm未満のSrを含むように前記浴の前記組成を制御することを含んだ方法。
【請求項17】
請求項3乃至16の何れか1項に記載の方法であって、前記浴の前記組成にCa及びSrを含めることにより、前記浴の前記組成を制御して、前記溶融浴中の前記表面垢層を最小化することを含んだ方法。
【請求項18】
請求項3乃至17の何れか1項に記載の方法であって、前記浴の前記組成にイットリウムなどの希土類元素並びに希土類とCa及び/又はSrとの組み合わせを含めることにより、前記浴の前記組成を制御して、前記溶融浴中の前記表面垢層を最小化することを含んだ方法。
【請求項19】
先行する請求項の何れか1項に記載の方法であって、前記Al−Zn−Si−Mg合金は0.3重量%を超えるMgを含んだ方法。
【請求項20】
先行する請求項の何れか1項に記載の方法であって、前記Al−Zn−Si−Mg合金は1.0重量%を超えるMgを含んだ方法。
【請求項21】
先行する請求項の何れか1項に記載の方法であって、前記Al−Zn−Si−Mg合金は3重量%未満のMgを含んだ方法。
【請求項22】
先行する請求項の何れか1項に記載の方法であって、前記Al−Zn−Si−Mg合金は1.2重量%を超えるSiを含んだ方法。
【請求項23】
先行する請求項の何れか1項に記載の方法であって、前記Al−Zn−Si−Mg合金は、元素Al、Zn、Si及びMgを、重量%で表した以下の範囲で含んでいる方法。
Al:40乃至60%
Zn:30乃至60%
Si:0.3乃至3%
Mg:0.3乃至10%
【請求項24】
先行する請求項の何れか1項に記載の方法であって、前記Al−Zn−Si−Mg合金は、元素Al、Zn、Si及びMgを、重量%で表した以下の範囲で含んでいる方法。
Al:45乃至60%
Zn:35乃至50%
Si:1.2乃至2.5%
Mg:1.0乃至3.0%

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公表番号】特表2013−518183(P2013−518183A)
【公表日】平成25年5月20日(2013.5.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−550266(P2012−550266)
【出願日】平成23年1月25日(2011.1.25)
【国際出願番号】PCT/AU2011/000069
【国際公開番号】WO2011/088518
【国際公開日】平成23年7月28日(2011.7.28)
【出願人】(505132312)ブルースコープ・スティール・リミテッド (15)
【氏名又は名称原語表記】BLUESCOPE STEEL LIMITED
【住所又は居所原語表記】Level 11, 120 Collins Street, Melbourne, Victoria 3000, Australia
【Fターム(参考)】