説明

金属被覆ニッケル粉およびその製造方法

【課題】 ニッケル粒子表面への銀の被覆率が高く被覆され、良好な導電性を有する銀被覆ニッケル粉等の被覆粉体を安価に、且つ有毒なシアン化合物を使用することなく製造する方法を提供する。
【解決手段】 ニッケル粉と錯化剤を含むスラリーと、この粉体表面に被覆する金属の錯体溶液とを含む混合スラリーを撹拌しながら、前記粉体表面に、前記被覆物質を温度40〜100℃で析出させて、被覆金属が、銀または、銀およびパラジウム、銀合金のいずれかであり、前記被覆金属の被覆率が75%以上である金属被覆ニッケル粉を得る。このニッケル粉を含む導電性ペースト、導電膜、導電性接着剤を用いて電子回路部品、あるいは、この電子回路部品を用いた電気製品とする

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は主として導電性材料として用いられる被覆粉体およびその製造方法、特に、銀等の金属被覆ニッケル粉およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
導電性粉末を用いた導電性ペーストや導電性接着剤をはじめとする導電性材料が様々な産業分野で使用されている。導電性粉末としては金や銀等の貴金属の粉末、ニッケルや銅等の卑金属の粉末等が使用されている。また、高価な貴金属の使用量の削減や銀のマイグレーション回避、銅やニッケルの酸化を抑えることを目的とし、貴金属被覆卑金属粉が使用されている。貴金属被覆卑金属粉の製法としては、卑金属と貴金属との置換反応を利用した置換還元法、還元剤を用いる還元法、さらには貴金属粒子をプラズマ状態にまで励起させ卑金属粒子に衝突させるスパッタリング法がある(例えば、特許文献1〜3参照)。
【0003】
【特許文献1】特開平10−212501
【特許文献2】特開平09−92026
【特許文献3】特開2003−253474
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、置換還元法のうちシアン化銀を用いる置換還元法は、有毒なシアン化銀を用いるため、作業の安全性や排水の問題がある。さらに、EDTA銀錯体を用いる置換還元法は、ニッケル粉に対して従来の方法をそのまま適用すると置換還元は進むが、銀等がニッケル粉に被覆されずに別な粒子として生成したり、被覆されても部分的に銀被覆が形成されていないところが多く生じる課題があった。また、還元法は微細な貴金属粒子の生成が必要なことから高価になったり、貴金属粒子の沈殿の具合によっては表面が荒れた状態になったり、さらには貴金属粒子と卑金属粒子が別々な粒子として存在する問題があり、貴金属を薄くかつ被覆率高く被覆させることが難しい。また、スパッタリング法は多大な電力を用いる等により製造コストが高い欠点がある。
本発明は上記問題点を解決するためになされたものであり、ニッケル粒子表面への銀の被覆率が高く被覆され、良好な導電性を有する銀被覆ニッケル粉等の被覆粉体を安価に、且つ有毒なシアン化合物を使用することなく製造する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上述の課題を解決するために、本発明は、ニッケル粉と錯化剤を含有するスラリーと、この粉体表面に被覆する金属の錯体溶液を含む混合スラリーを、例えば、反応温度40〜100℃で、該混合スラリー1リットル当たり0.05kg・m/sec以上の撹拌所要動力等で、強く撹拌しながら、金属ニッケル粉等の粉体の表面に、銀または、銀およびパラジウム、銀合金等の被覆物質を析出させて金属被覆ニッケル粉を得るようにしたもので、具体的には、以下の各請求項に記載の解決手段を採用したものである。
即ち、本発明の金属被覆ニッケル粉は、請求項1に記載の通り、被覆金属が、銀または、銀およびパラジウム、銀およびパラジウム合金、銀合金のいずれかであり、前記被覆金属の被覆率が75%以上であることを特徴とする。
請求項2記載の金属被覆ニッケル粉は、請求項1に記載の金属被覆ニッケル粉において、前記被覆金属が銀であることを特徴とする。
請求項3記載の金属被覆ニッケル粉は、請求項1または2に記載の金属被覆ニッケル粉において、前記被覆金属がニッケル粉の表面に膜厚が0.01μm以上で被覆されていることを特徴とする。
また、本発明の金属被覆ニッケル粉の製造方法は、請求項4に記載の通り、ニッケル粉と錯化剤を含むスラリーと、この粉体表面に被覆する金属の錯体溶液とを含む混合スラリーを撹拌しながら、前記粉体表面に、前記被覆物質を温度40〜100℃で析出させてなることを特徴とする。
請求項5記載の金属被覆ニッケル粉の製造方法は、前記攪拌が前記混合スラリー1リットル当たり0.05kg・m/sec以上の撹拌所要動力で撹拌することを特徴とする。
請求項6に記載の金属被覆ニッケル粉の製造方法は、請求項4または5に記載の金属被覆ニッケル粉の製造方法において、前記錯化剤および前記被覆する金属の錯体溶液の調製時に添加する錯化剤が、エチレンジアミン四酢酸、エチレンジアミン四酢酸塩、トリエチレンジアミン、ジエチレントリアミン五酢酸またはジエチレントリアミン五酢酸塩の中の1種または2種以上からなることを特徴とする。
また、本発明の導電性ペーストは、請求項7に記載の通り、請求項1乃至3のいずれかに記載の金属被覆ニッケル粉とビヒクルを含むことを特徴とする。
また、本発明の導電膜は、請求項8に記載の通り、請求項1乃至3のいずれかに記載の金属被覆ニッケル粉を含むことを特徴とする。
また、本発明の導電性接着剤は、請求項9に記載の通り、請求項1乃至3のいずれかに記載の金属被覆ニッケル粉とビヒクルを含むことを特徴とする。
また、本発明の電子回路部品は、請求項10に記載の通り、請求項1乃至3のいずれかに記載の金属被覆ニッケル粉を含む導電性ペースト、導電膜、導電性接着剤のいずれかを用いたことを特徴とする。
また、本発明の電気製品は、請求項11に記載の通り、請求項1乃至3のいずれかに記載の金属被覆ニッケル粉を含む導電性ペースト、導電膜、導電性接着剤のいずれかを用いた電子回路部品を用いたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0006】
本発明は、金属ニッケル粉とニッケルの錯体を含有するスラリーおよびこの粉体表面を被覆する物質の錯体溶液を含むスラリーを、例えば、反応温度40〜100℃で、該溶液1リットル当り0.05kg・m/sec以上の撹拌所要動力等で、強く撹拌しながら、金属ニッケル粉等の粉体の表面に、銀または、銀およびパラジウム、銀およびパラジウム合金、銀合金のいずれかの被覆物質を析出させて銀被覆ニッケル粉等の被覆粉体を得るようにしたもので、銀等がニッケル粒子表面に被覆率が高く被覆され、良好な導電性を有する銀被覆ニッケル粉等の被覆粉体を安価に、且つ毒性を有するシアン化合物を使用せずに製造する方法を提供することを可能にしたものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
本発明の特徴は、溶液中で強く撹拌しながら、金属ニッケル粉等の粉体の表面に、銀または、銀およびパラジウム、銀およびパラジウム合金、銀合金のいずれかの被覆物質を析出する際に温度を40〜100℃にすることにあり、金属ニッケル粉等被覆粉体の錯体が被覆粉体スラリーに含まれていることにある。
【0008】
置換法で行う場合は、硝酸銀、炭酸アンモニウムまたはアンモニア、および、錯化剤の三成分を主成分とする銀錯塩溶液を用いることができる。
また、銀以外の金属の被覆を銀と共にあるいは銀に代えて形成する場合には、例えば、パラジウム塩を銀塩と共にあるいは単独でこの錯塩液に含有させる。このとき、金属銀単味で被覆形成される液組成であっても、銀合金として被覆形成される液組成であってもよい。
【0009】
置換法に用いる錯化剤には、エチレンジアミン四酢酸、エチレンジアミン四酢酸塩、トリエチレンジアミン、ジエチレントリアミン五酢酸またはジエチレントリアミン五酢酸塩の中から選ばれた1種または2種以上のものを利用することができる。この中でも水への溶解度の点等、取り扱いやすさの点から、エチレンジアミン四酢酸四ナトリウムもしくはエチレンジアミン四酢酸三ナトリウムが好ましい。
【0010】
また、撹拌は、原料粉の溶液中での高分散状態が維持され、金属ニッケル粉等の粉体の表面への金属銀、または、金属銀と金属パラジウム、または、金属銀とパラジウム合金、または、銀合金等の被覆物質が均一に被覆形成される程度に強ければよい。
例えば、撹拌所要動力を処理液量1リットル当り0.05kg・m/sec以上となることが好ましく、0.10kg・m/sec以上となることがより好ましく、0.20kg・m/sec以上となることがさらに好ましい。撹拌所要動力が処理液量1リットル当り0.05kg・m/sec未満であると、金属ニッケル粉等の粉体の表面への均一な被覆が形成されないため好ましくない。さらに、経済性を考慮すると共に必要以上の動力の消費を避ける意味で、1.0kg・m/sec以下であることがより好ましい。
なお、本明細書における撹拌所要動力は、「化学機械の理論と計算」(産業図書)に記載されている次式で求めた。
【0011】
【数1】

【0012】
ただし、
Re:レイノルズ数
NP:動力数
P :撹拌所要動力[kg・m/sec]
d :撹拌羽根長[m]
b :撹拌羽根幅[m]
θ :撹拌羽根角度
n :回転速度[1/sec]
D :撹拌層直径[m]
H :撹拌槽液高さ[m]
ρ :液の密度[kg/m
μ :液の粘度[kg/msec]
gc:重力加速度[m/sec
【0013】
例えば、平板パドル2枚羽根を用い、この式に、d=0.115、b=0.025、θ=90、n=5、D=0.180、H=0.100、ρ=1200、μ=0.01、gc=9.8を代入して、P:撹拌所要動力を計算すると、P=0.135kg・m/secになる。なお、液量1リットル当りの撹拌所要動力は、0.054kg・m/secになる。さらに、邪魔板4枚を用いる場合は、完全邪魔板条件として6.97を掛け合わせて算出すると、0.054×6.97=0.38kg・m/secになる。
なお、本明細書中においては、撹拌とは原料粉の高分散状態を維持するために行うものであって、撹拌には羽根撹拌、エアー撹拌、ポンプ循環等が含まれる。
【0014】
ニッケルは銅に比較して錯体生成速度を律する配位水分子の交換速度定数kH2Oが小さい(非特許文献1)。
(非特許文献1)分析化学−溶液反応を基礎とする−(三共出版 1993)
【0015】
【表1】

【0016】
そのため、例えば、銀被覆銅粉を置換還元法により製造する場合と比較して、銀被覆ニッケル粉を製造する場合、錯体生成速度を上げるためには温度が高い方が良いが、溶媒が水なので最高温度は100℃である。また、温度が高すぎるとアンモニア分が揮発し反応中に溶液の組成が変わる。したがって、好ましい温度範囲としては40℃〜100℃であり、より好ましい温度範囲としては45℃〜95℃であり、さらに好ましい温度範囲としては50〜90℃であり、もっとも好ましい温度範囲としては60〜80℃である。
【0017】
また、ニッケルは銅に比較して錯体生成速度が遅いため、ニッケル粉の分散スラリーにニッケル錯体が生成していることが好ましい。このニッケル錯体が銀錯体の添加時に存在するため、ニッケル錯体が存在していない時に比べて、置換還元が促進され、より均一に被覆される効果がある。ニッケル粉の分散スラリーにニッケル錯体が生成していない場合、置換反応が進みづらく置換還元が終了するまでの時間が長くなる等の不具合が生じる。
なお、ニッケルは酸化されやすいので、窒素雰囲気下で反応を行なっても良い。窒素雰囲気下で行なうと、反応中に酸素が巻き込まれないことにより、乾燥工程時等に内部で酸化が進むこと等が抑制される。
【0018】
さらに、本実施の形態の銀被覆ニッケル粉の製造方法に使用する金属ニッケル粉等の粉体は、製法、形状、大きさ等は問わない。
以上のような方法で製造すると、銀または、銀およびパラジウム、銀およびパラジウム合金、銀合金のいずれかの被覆物質を、金属ニッケル粉等の表面に被覆率高く被覆した金属被覆ニッケル粉を得ることができる。
【0019】
また、前記被覆率については、粒子表面の元素分布をEDS(エネルギー分散型スペクトロメーター)により観察した結果を2値化し、被覆元素により覆われている面積を測定することにより表すことができる。詳細には、作成した粉を日本電子製オージェ電子分光装置JAMP−7100−Eを用いて観察し、被覆元素の分布を示すマップ上において観察強度141(最大強度表示255、表示単位なし)で区切ることにより2値化を行った後、ScionImage 4.02を用いて面積測定を実施することで、被覆元素の面積とし、同一視野において粉が存在する部分の面積を同じくScionImage 4.02を用いて面積測定することにより、被覆元素の被覆率を求めるようにした。この被覆率が75%以上となることが好ましく、被覆率が75%未満となると、耐湿性、耐酸化性が低下し、好ましくない。
【0020】
また、銀または、銀およびパラジウム、銀およびパラジウム合金、銀合金のいずれかをニッケル粉の表面に被覆形成された金属被覆ニッケル粉において、被覆部分の膜厚が0.01μm以上となることが好ましい。膜厚が0.01μm未満となると耐湿性、耐酸化性が低下し、好ましくない。被覆部分の膜厚の上限は特に限定されない。また膜厚については、例えば銀を被覆した場合、ニッケル粉の粒子サイズ(比表面積)と銀添加量により下記計算式から計算で求めることができる。
【0021】
被覆部分の膜厚(μm)=(銀含量(%)/100)/比表面積(m/g)/(100(cm/m))/銀の密度:10.5(g/cm)×10(cm/μm)
例えば、ニッケル粉の比表面積0.25m/gで銀の含量が50質量%であれば、0.19μmとなる。
【0022】
なお、銀の被覆量としては耐酸化性、耐湿性のためには多い方が良いが、多すぎると耐マイグレーション性が悪化し、また、コスト的に好ましくない。したがって、好ましい銀の被覆量は1〜50%であって、より好ましくは3〜40%であって、さらに好ましい量は3〜30%である。
【0023】
なお、乾燥後の粉を解砕したり、表面平滑化処理を施したり、分級を行うことにより、銀被覆ニッケル粉等の被覆粉体の特性を調整することが可能である。ニッケル粉は酸化しやすいので、これらの処理は、窒素雰囲気下で行うことが望ましい。
【0024】
さらに、得られた銀被覆ニッケル粉等の被覆粉末を導電性フィラーとして所定のビヒクルと混合することで、耐湿性、耐酸化性に優れた導電性ペーストを得ることができる。
また、この導電性ペーストを塗膜してあるいは吹き付けて、乾燥や焼成等を施すことにより、この銀被覆ニッケル粉等の被覆粉末を含んだ耐湿性、耐酸化性に優れた導電膜を得ることができる。
【0025】
さらに、銀被覆ニッケル粉等の被覆粉末を導電性フィラーとして所定の樹脂と混合することで、耐湿性、耐酸化性に優れた導電性接着剤を得ることができる。
また、これら導電性ペースト、導電膜、導電性接着剤から電子回路部品やこの電子回路部品を用いた電気製品が得られる。
【実施例】
【0026】
次に、本発明の実施例について比較例とともに詳細に説明する。
(実施例1)
本実施例は、平板パドル2枚羽根と4枚の邪魔板で処理液量1リットル当り所要動力0.38kg・m/secで、撹拌を行い、反応温度70℃で置換反応を行った(銀錯体添加前にニッケル錯体が生成している)ときの例である。
原料の球状ニッケル粉には、純度99.9%のもので、粒度分布、比表面積、タップ密度が以下の値のものを用いた。
【0027】
粒度分布は、レーザ回折・散乱法で測定した。測定には、ハネウェル−日機装製のマイクロトラック9320−X100を使用し、試料0.3gをイソプロピルアルコール30mLに入れて45W超音波洗浄器にて5分間分散処理させた後に装置付属の循環槽に投入することで測定した。測定時の光学条件は全反射である。原料の球状ニッケル粉の10%累積粒径(D10)、50%累積粒径(D50)、90%累積粒径(D90)は、それぞれ、6.2μm、10.7μm、17.5μmであった。
比表面積は、カウンタクローム−湯浅アイオニクス製のMONOSORB(BET1点法、脱気条件:温度60℃、10分間)で測定したところ、0.13m/gであった。
タップ密度は、タップ密度測定装置(柴山科学製SS−DA2)を用い、容器(20mL試験管)に試料15gを入れて、タップ回数1000回、タップ高さ20mm、タップ速度60回/minで測定し、タップ密度=試料重量/タッピング後の試料体積により算出したものであって、4.2g/cmであった。
【0028】
窒素雰囲気下、5リットルの撹拌槽に球状ニッケル粉160gをイオン交換水2900.5gにEDTA四ナトリウム73.5g、炭酸アンモニウム76.2gを溶解した液と共に加えて、平板パドル2枚羽根と4枚の邪魔板で処理液量1リットル当り所要動力0.38kg・m/secで30分間、70℃で撹拌を行い、以下の組成の銀錯体溶液を1分間で添加して、さらに2時間、70℃で同所要動力で撹拌を継続して、金属ニッケル粉表面への銀の析出を行った。
銀錯体溶液組成
AgNO 28.0g
EDTA四ナトリウム 162.0g
炭酸アンモニウム 84.0g
イオン交換水 756.3g
得られた銀被覆ニッケル粉を濾過して、イオン交換水で濾液の電気伝導度が0.2mS/mになるまで洗浄して、70℃で真空乾燥を行った。得られた乾燥後の銀被覆ニッケル粉を窒素雰囲気下で解砕し、目的とする粉末を得た。
この銀被覆ニッケル粉の粒度分布、比表面積、タップ密度を原料と同様に測定したところ、D10:5.4μm、D50:9.2μm、D90:15.9μm、比表面積0.12m/g、タップ密度5.2g/cmとなった。
また、SEMで観察すると球状粒子であり、EDSで分析すると粒子の表面は銀であることが観察され、被覆率は77%であった。
【0029】
(実施例2)
本実施例は、平板パドル2枚羽根と4枚の邪魔板で処理液量1リットル当り所要動力0.38kg・m/secで、撹拌を行い、反応温度70℃で置換反応を行った(銀錯体添加前にニッケル錯体が生成している)ときの例である。
窒素雰囲気下、5リットルの撹拌槽に実施例1と同じ球状ニッケル粉325gをイオン交換水1801gにEDTA四ナトリウム149.2g、炭酸アンモニウム154.7gを溶解した液と共に加えて、平板パドル2枚羽根と4枚の邪魔板で処理液量1リットル当り所要動力0.38kg・m/secで30分間、70℃で撹拌を行い、以下の組成の銀錯体溶液を1分間で添加して、さらに2時間、70℃で同所要動力で撹拌を継続して、金属ニッケル粉表面への銀の析出を行った。
銀錯体溶液組成
AgNO 56.9g
EDTA四ナトリウム 329.1g
炭酸アンモニウム 170.6g
イオン交換水 1536.2g
得られた銀被覆ニッケル粉を濾過して、イオン交換水で濾液の電気伝導度が0.2mS/mになるまで洗浄して、70℃で真空乾燥を行った。得られた乾燥後の銀被覆ニッケル粉を窒素雰囲気下で解砕し、目的とする被覆粉末を得た。
この銀被覆ニッケル粉の粒度分布、比表面積、タップ密度を原料と同様に測定したところ、D10:6.1μm、D50:10.7μm、D90:17.4μm、比表面積0.15m/g、タップ密度5.4g/cmとなった。
また、SEMで観察すると球状粒子であり、EDSで分析すると粒子の表面は銀であることが観察され、被覆率は87%であった。
【0030】
(実施例3)
本実施例は、平板パドル2枚羽根と4枚の邪魔板で処理液量1リットル当り所要動力0.38kg・m/secで、撹拌を行い、反応温度80℃で置換反応を行った(銀錯体添加前にニッケル錯体が生成している)ときの例である。
窒素雰囲気下、5リットルの撹拌槽に実施例1と同じ球状ニッケル粉162.5gをイオン交換水2945.8gにEDTA四ナトリウム74.6g、炭酸アンモニウム77.4gを溶解した液と共に加えて、平板パドル2枚羽根と4枚の邪魔板で処理液量1リットル当り所要動力0.38kg・m/secで30分間、80℃で撹拌を行い、以下の組成の銀錯体溶液を60分間で添加して、さらに2時間、80℃で同所要動力で撹拌を継続して、金属ニッケル粉表面への銀の析出を行った。
銀錯体溶液組成
AgNO 28.4g
EDTA四ナトリウム 164.5g
炭酸アンモニウム 85.3g
イオン交換水 768.1g
得られた銀被覆ニッケル粉を濾過して、イオン交換水で濾液の電気伝導度が0.2mS/mになるまで洗浄して、70℃で真空乾燥を行った。得られた乾燥後の銀被覆ニッケル粉を窒素雰囲気下で解砕し、目的とする粉末を得た。
この銀被覆ニッケル粉の粒度分布、比表面積、タップ密度を原料と同様に測定したところ、D10:6.5μm、D50:11.8μm、D90:18.0μm、比表面積0.23m/g、タップ密度5.2g/cmとなった。
また、SEMで観察すると球状粒子であり、EDSで分析すると粒子の表面は銀であることが観察され、被覆率は82%であった。
【0031】
(比較例1)
本実施例は、平板パドル2枚羽根と4枚の邪魔板で処理液量1リットル当り所要動力0.38kg・m/secで、撹拌を行い、反応温度30℃で置換反応を行った(銀錯体添加前にニッケル錯体が生成していない)ときの例である。
窒素雰囲気下、5リットルの撹拌槽に実施例1と同じ球状ニッケル粉325gをイオン交換水1801.1gと共に加えて、平板パドル2枚羽根と4枚の邪魔板で処理液量1リットル当り所要動力0.38kg・m/secで5分間、30℃で撹拌を行い、以下の組成の銀錯体溶液を1分間で添加して、さらに24時間、30℃で同所要動力で撹拌を継続して、金属ニッケル粉表面への銀の析出を行った。
銀錯体溶液組成
AgNO 56.9g
EDTA四ナトリウム 478.3g
炭酸アンモニウム 325.3g
イオン交換水 1536.2g
得られた銀被覆ニッケル粉を濾過して、イオン交換水で濾液の電気伝導度が0.2mS/mになるまで洗浄して、70℃で真空乾燥を行った。得られた乾燥後の銀被覆ニッケル粉を窒素雰囲気下で解砕し、目的とする粉末を得た。
この銀被覆ニッケル粉の粒度分布、比表面積、タップ密度を原料と同様に測定したところ、D10:3.6μm、D50:8.7μm、D90:17.9μm、比表面積0.21m/g、タップ密度5.4g/cmとなった。
また、SEMで観察すると異粒子が大量に発生しており、EDSで分析すると球状粉がニッケルであり、異粒子が銀であることが観察され、被覆率は11%であった。
【0032】
なお、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、種々の変形を許容するものである。
上記実施例では、邪魔板を4枚使用して撹拌を行ったが、邪魔板の数は任意に定めてよい。
上記実施例では、イオン交換水を使用したが、蒸留水等他の水を使用してもよい。また、溶液の組成、撹拌時間等も上記実施の形態に限定されるものではない。
また、上記実施例では、金属ニッケル粉に被覆する物質として金属銀を用いた例を掲げたが、金属ニッケル粉に被覆する物質として、金属銀のほかに、銀およびパラジウム、銀およびパラジウム合金、銀合金のいずれかの物質を用いてもよい。
さらに、上記実施例では、粉体として球状のニッケル粉の例を掲げたが、粉体としてはこれに限られるものでなく、球状以外の他の形状、例えば、フレーク状、塊状、その他の形状であってもよく、純ニッケル以外の組成を持つ粉、例えば、ニッケル合金であってもよい。
【産業上の利用可能性】
【0033】
本発明は、ニッケル粒子表面への銀の被覆率が高く被覆され、良好な導電性を有する銀被覆ニッケル粉等の被覆粉体を安価に、且つ有毒なシアン化合物を使用することなく製造でき、導電性ペースト、導電膜、導電性接着剤、これらを用いた電子回路部品、このような電気製品に利用できるので、電子産業分野等において、大いに有用である。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【図1】被覆前のニッケル粉のSEM
【図2】実施例1のFE−SEM
【図3】実施例1のEDSによるAgのマッピング
【図4】実施例2のFE−SEM
【図5】実施例2のEDSによるAgのマッピング
【図6】実施例3のFE−SEM
【図7】実施例3のEDSによるAgのマッピング
【図8】比較例1のFE−SEM
【図9】比較例1のEDSによるAgのマッピング

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被覆金属が、銀または、銀およびパラジウム、銀およびパラジウム合金、銀合金のいずれかであり、前記被覆金属の被覆率が75%以上である金属被覆ニッケル粉。
【請求項2】
前記被覆金属が銀であることを特徴とする請求項1に記載の金属被覆ニッケル粉。
【請求項3】
前記被覆金属がニッケル粉の表面に膜厚が0.01μm以上で被覆されていることを特徴とする請求項1または2に記載の金属被覆ニッケル粉。
【請求項4】
ニッケル粉と錯化剤を含むスラリーと、この粉体表面に被覆する金属の錯体溶液とを含む混合スラリーを撹拌しながら、前記粉体表面に、前記被覆物質を温度40〜100℃で析出させてなることを特徴とする金属被覆ニッケル粉の製造方法。
【請求項5】
前記攪拌が前記混合スラリー1リットル当たり0.05kg・m/sec以上の撹拌所要動力で撹拌することを特徴とする請求項4に記載の金属被覆ニッケル粉の製造方法。
【請求項6】
前記錯化剤および前記被覆する金属の錯体溶液の調製時に添加する錯化剤が、エチレンジアミン四酢酸、エチレンジアミン四酢酸塩、トリエチレンジアミン、ジエチレントリアミン五酢酸またはジエチレントリアミン五酢酸塩の中の1種または2種以上からなることを特徴とする請求項4または5に記載の金属被覆ニッケル粉の製造方法。
【請求項7】
請求項1乃至3のいずれかに記載の金属被覆ニッケル粉とビヒクルを含むことを特徴とする導電性ペースト。
【請求項8】
請求項1乃至3のいずれかに記載の金属被覆ニッケル粉を含むことを特徴とする導電膜。
【請求項9】
請求項1乃至3のいずれかに記載の金属被覆ニッケル粉とビヒクルを含むことを特徴とする導電性接着剤。
【請求項10】
請求項1乃至3のいずれかに記載の金属被覆ニッケル粉を含む導電性ペースト、導電膜、導電性接着剤のいずれかを用いたことを特徴とする電子回路部品。
【請求項11】
請求項1乃至3のいずれかに記載の金属被覆ニッケル粉を含む導電性ペースト、導電膜、導電性接着剤のいずれかを用いた電子回路部品を用いたことを特徴とする電気製品。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2009−84634(P2009−84634A)
【公開日】平成21年4月23日(2009.4.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−255461(P2007−255461)
【出願日】平成19年9月28日(2007.9.28)
【出願人】(506334182)DOWAエレクトロニクス株式会社 (336)
【Fターム(参考)】