説明

金属被覆樹脂基板のめっき装置

【課題】 被めっき面が略鉛直面となる縦型懸垂めっき法により金属被覆樹脂基板を製造するに際して、めっき電圧の上昇を伴わずにめっき厚分布をほぼ均一化できるめっき装置の提供。
【解決手段】 被めっき面としての下地金属層を表面に備える樹脂基板を、前記被めっき面が略鉛直面となるように配置し、かつ前記被めっき面に対向する側に設置される電極と前記被めっき面との間に遮蔽板を配置する金属被覆樹脂基板のめっき装置において、前記遮蔽板として、当該板状部材の上辺及び下辺が先端側から後端側へ向けて、前記樹脂基板の上辺及び下辺に対して一定の傾斜角度でテーパー状に縮幅する形状を有する板状部材を用いることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属被覆樹脂基板、特に金属被覆ポリイミド基板のめっき装置に係り、より詳しくは縦型懸垂めっき装置による金属被覆においてめっき厚のさらなる均一化をはかるための金属被覆樹脂基板のめっき装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年電子機器の小型化に伴い使用される電子部品も小型化が要求されるようになり、そのような電子部品の製造に用いられる配線材料として、例えば特許文献1に示すように、ポリイミドフィルム等の有機樹脂フィルム上に薄い金属層を形成し、該金属層上に数μm〜数十μmの厚みで銅を電気めっきした2層めっき基板が知られている。電気めっき法により製造された2層めっき基板は、フォトリソグラフィー技術によって表面に微細な配線パターンが形成され、携帯電話やテレビ等において液晶パネルとドライバICとの接続用配線材等に用いられる。この2層めっき基板において、基板表面に形成させる配線パターンは微細であるほど単位面積当たりの情報伝達量が増すため、液晶機器の小型・高速伝達・低価格化に対応して基板表面の配線パターンも狭小化の一途を辿っており、最近では配線ピッチ20μm以下という超微細な配線パターンも形成されるようになった。
このような配線ピッチの狭小化に伴い、めっき厚のバラツキが小さい2層めっき基板が求められるようになったのである。これはめっき厚のバラツキが大きければ微細配線が形成できずに断線やショート等の不良の原因となるためである。このため最近では、めっき厚のバラツキが10%以下であることが求められている。
【0003】
一般的にめっき厚分布を均一にする方法としては、電極(アノード:陽極)と被めっき材料との間に遮蔽板を設置してめっき槽内の電流分布を均一化する手法が用いられている。図6は、ポリイミドフィルム等の有機樹脂フィルム上に薄い金属層を形成し、該金属層上に数μm〜数十μmの厚みで銅を電気めっきした2層めっき基板の製造に用いられる従来のめっき装置、即ち、縦型懸垂めっき装置を例示したものである(特許文献1参照)。この縦型懸垂めっき装置は、被めっき面としての下地金属層を表面に備える樹脂基板(ポリイミドフィルム等の有機樹脂フィルム)を、被めっき面が略鉛直面となる電気めっき法を採用したもので、めっき槽1内に電極(アノード:陽極)2、めっき液噴流ノズル3が配設され、前記電極2と反対側に対向して樹脂基板(ワーク:被めっき材料)4が、被めっき面が略鉛直面となるようにワーク保持板5により懸垂され、前記樹脂基板4の被めっき面4aに対向する側に設置された電極2と前記被めっき面4aとの間に、長方形の板状部材からなる遮蔽板6が配置された構成となしたものである。図中、7は樹脂基板4を保持して陰極(カソード)とするクランパー、8は搬送レールである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2010−31316号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、前記した構成を有する従来の金属被覆樹脂基板のめっき装置には、以下に記載する問題がある。
即ち、前記した構成を有する従来の金属被覆樹脂基板のめっき装置においては、図7に示すように遮蔽板6は被めっき材料である樹脂基板4の上辺及び下辺と当該遮蔽板6の上辺及び下辺が平行となる長方形の板状部材を採用しているため、該遮蔽板6の端部にあたる樹脂基板4部に電流が集中し、被めっき面4aのめっき厚みが局所的に厚くなるという現象が生じる。そのため、従来はこうした電流集中部に新たな遮蔽板を設置しながら、樹脂基板4全体のめっき厚みを均一化するように調整する必要があるが、この手法では遮蔽板設置数の増加と遮蔽板の設置位置調整の複雑化を余儀なくされるのみならず、遮蔽板の位置調整が精度よく行われない場合には、めっき電圧が上昇してしまい製品製造コストが高くなる等の問題があった。
【0006】
本発明は、前記した従来技術の問題を解決するためになされたもので、遮蔽板の位置調整を簡易迅速にかつ精度よく行うことができると共に、めっき電圧の上昇を伴わずにめっき厚分布をより均一化させることが可能な金属被覆樹脂基板のめっき装置を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係る金属被覆樹脂基板のめっき装置は、被めっき面としての下地金属層を表面に備える樹脂基板を、前記被めっき面が略鉛直面となるように配置し、かつ前記被めっき面に対向する側に設置される電極と前記被めっき面との間に遮蔽板が配置される金属被覆樹脂基板のめっき装置において、前記遮蔽板として、当該板状部材の上辺及び下辺が先端側から後端側へ向けて、前記樹脂基板の上辺及び下辺に対して一定の傾斜角度でテーパー状に縮幅する形状を有する板状部材を用いることを特徴とするものである。
【0008】
又、本発明のめっき装置は、前記遮蔽板の上辺及び下辺の傾斜角度が、前記樹脂基板の上辺及び下辺に対し5〜20度であることを好ましい態様とするものである。
【発明の効果】
【0009】
本発明に係る金属被覆樹脂基板のめっき装置は、樹脂基板のめっき厚分布を均一にするために用いる遮蔽板を、当該板状部材の上辺及び下辺が先端側から後端側へ向けて、前記樹脂基板の上辺及び下辺に対して一定の傾斜角度でテーパー状に縮幅する形状を有する板状部材で構成することにより、遮蔽板端部における電流集中が解消され、少ない遮蔽板数で電圧上昇を伴わずにめっき厚分布をより均一化することができる。従って、本発明装置によれば、めっき厚のバラツキの小さい高品質の2層めっき基板を低コストで製造することが可能となり、配線ピッチの狭小化にも十分に対応することができるという優れた効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明に係る金属被覆樹脂基板めっき装置の一実施例装置の要部を拡大して示す概要図である。
【図2】同上装置における遮蔽板単体を示す正面図である。
【図3】本発明の実施例1におけるめっき厚分布を、遮蔽板の配置と対応させて示す図である。
【図4】本発明の従来例1におけるめっき厚分布を、遮蔽板の配置と対応させて示す図である。
【図5】同じく本発明の従来例2におけるめっき厚分布を、遮蔽板の配置と対応させて示す図である。
【図6】従来の金属被覆樹脂基板めっき装置の一例を示す概要図で、(a)はめっき装置の平面図、(b)は(a)のイーイ線断面図である。
【図7】同上めっき装置の要部を拡大して示す概要図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
図1〜図2に本発明の一実施例装置として示す金属被覆樹脂基板のめっき装置は、図6に示す縦型懸垂めっき装置と同様、被めっき面としての下地金属層を表面に備える樹脂基板(ポリイミドフィルム等の有機樹脂フィルム)を、被めっき面が略鉛直面となる電気めっき法を採用したもので、めっき槽1内に電極(アノード:陽極)2、めっき液噴流ノズル3が配設され、前記電極2と反対側に対向して樹脂基板(ワーク:被めっき材料)4が、被めっき面が略鉛直面となるようにワーク保持板5により懸垂され、前記樹脂基板4の被めっき面4aに対向する側に設置された電極2と前記被めっき面4aとの間に、遮蔽板6が配置された構成となしたものである。
【0012】
本発明装置は、上記構成のめっき装置において、めっき槽1内の電流分布を均一化する手法に用いられる遮蔽板の形状を改善したもので、図1及び図2に示すように本発明の遮蔽板16は、被めっき材料である樹脂基板4の上辺及び下辺と当該遮蔽板の上辺及び下辺が平行となる長方形の板状部材を用いた従来の遮蔽板6に替えて、板状部材の上辺及び下辺が先端側から後端側へ向けて、前記樹脂基板4の上辺及び下辺に対して一定の傾斜角度でテーパー状に縮幅する形状を有する板状部材を採用したものである。
【0013】
ここで、めっき槽1内の電流分布を均一化するための遮蔽板を、板状部材の上辺及び下辺が先端側から後端側へ向けて、前記樹脂基板4の上辺及び下辺に対して一定の傾斜角度でテーパー状に縮幅する形状を有する板状部材で構成するのは、以下に記載する理由による。
遮蔽板により遮られた電流は、遮蔽板に沿うように流れたあと遮蔽板端部から前記樹脂基板4に向かって流れる。そのため遮蔽板がテーパー形状を有しない場合、常に前記樹脂基板4の幅方向の同じラインに電流が集中してしまい、遮蔽板の上辺及び下辺にあたる部分の樹脂基板のめっき厚が厚くなってしまう。従来の遮蔽板では、このような遮蔽板端部でのめっき厚増大を解消するために、めっき厚の厚くなった部分にさらに遮蔽板を追加し、多くの遮蔽板を複雑に組み合わせてめっき厚均一化を図る必要があった。これに対し、本発明の遮蔽板は、テーパー形状を有するため、前記樹脂基板4の幅方向で少しずつ電流集中部がずれ局所的なめっき厚の増大を解消する事ができる。
【0014】
又、この遮蔽板16の上辺及び下辺の傾斜角度θを樹脂基板4の上辺及び下辺に対し5〜20度と規定したのは、傾斜角度θが5度未満では、前記樹脂基板4の幅方向での電流集中部のずれが小さいため遮蔽板の上下辺に沿ってめっき厚の厚いラインが生じてしまうためである。
他方、20度を超えると、遮蔽によりめっき厚を低減したい部分以外の遮蔽しろが大きくなってしまうため、結果としてめっき厚分布が悪化してしまうためである。
【実施例1】
【0015】
図6に示す金属被覆樹脂基板めっき装置を使用し、本発明の遮蔽板16として、図2に示す先端側の幅W=80mm、長さL=500mm×10本、上辺及び下辺の傾斜角度θ=15度とした厚さ3mmの板状部材を使用した。本実施例では、この遮蔽板16を同一垂直面上に上下2枚間隔をおいて設置した。
樹脂基板(ワーク)4は、厚み38ミクロンのポリイミドフィルム(Kapton NF:東レ・デュポン製)表面にスパッタリング法により厚み20nmのニッケル層を設け、その上に厚み100nmの銅層を設けたものである。
使用しためっき液は、硫酸銅120g/l、硫酸210g/l、塩素50mg/lの液に、HL(アトテック製カパラシドHL(レベラー成分))を20ml/l、GS(アトテック製カパラシドGS(プライトナー成分))を5ml/lの割合で添加したものである。めっき液の温度は24℃、ワークの搬送速度は0.4m/分、めっき槽への給液量はめっき液噴流ノズル1本当たり28l/minで行い、めっきに要する電流密度と通電時間は、めっき槽1内を4つの区分に分割し、第1区分では0.5A/dmと1分、第2区分では1.0A/dmと1分、第3区分では2.0A/dmと1分、第4区分では3.0A/dmと12分とした。
本実施例におけるめっき厚分布を図3に示す。
【0016】
図3に示すめっき厚分布より、本発明の遮蔽板によれば、遮蔽板端部での電流集中が解消されることによりめっき厚分布が略均一化されていることがわかる。又、そのめっき厚のバラツキは8%程度と低く、目標である10%以下を達成することができた。更に本実施例では、遮蔽板を2枚で構成したのでめっき電圧の上昇はほとんど確認されなかった。
【実施例2】
【0017】
上辺および下辺の傾斜角度θ=5度とした以外は実施例1と同様にして樹脂基板(ワーク)4にめっきを形成した。めっき形成後のめっき厚のバラツキは10%と低く目標の10%以下を達成できた。
【実施例3】
【0018】
上辺および下辺の傾斜角度θ=20度とした以外は実施例1と同様にして樹脂基板(ワーク)4にめっきを形成した。めっき形成後のめっき厚のバラツキは10%と低く目標の10%以下を達成できた。
【0019】
(比較例1)
上辺および下辺の傾斜角度θ=3度とした以外は実施例1と同様にして樹脂基板(ワーク)4にめっきを形成した。めっき形成後のめっき厚のバラツキは13%であり、目標の10%以下に到達できなかった。
【0020】
(比較例2)
上辺および下辺の傾斜角度θ=25度とした以外は実施例1と同様にして樹脂基板(ワーク)4にめっきを形成した。めっき形成後のめっき厚のバラツキは12%であり、目標の10%以下に到達できなかった。
【0021】
(従来例1)
遮蔽板として、幅W=50〜100mm、長さL=500mm×10本、厚さ3mmの長方形の板状部材からなる遮蔽板を2枚用いた以外は、実施例1と同じ条件でめっき処理を行った結果、図4に示すようにめっき厚分布は、遮蔽板で隠された部分のめっき厚が低減し遮蔽板端部に電流が集中するため局所的にめっき厚の厚い箇所が生じ、そのめっき厚のバラツキは15%程度と、目標の10%を超えた。
【0022】
(従来例2)
遮蔽板として、幅W=50〜100mm、長さL=500mm×10本、厚さ3mmの長方形の板状部材からなる遮蔽板を6枚用いた以外は、実施例1と同じ条件でめっき処理を行った。その結果を図5に示す。この従来例2では、前記従来例1において2枚の遮蔽板に起因して局所的にめっき厚が厚くなった箇所に順次新たな遮蔽板を設置しめっき厚分布の均一化処理を施した。その結果、この従来例2においても図5に示すようにめっき厚はほぼ12%のバラツキとなり、目標である10%以下に到達しなかった。さらに遮蔽板を多く設置したため電圧が1.5V程度上昇してしまった。
【産業上の利用可能性】
【0023】
本発明に係る金属被覆樹脂基板のめっき装置は、樹脂基板のめっき厚分布を均一にするために用いる遮蔽板を、当該板状部材の上辺及び下辺が先端側から後端側へ向けて、前記樹脂基板の上辺及び下辺に対して一定の傾斜角度でテーパー状に縮幅する形状を有する板状部材で構成することにより、遮蔽板端部における電流集中が解消され、少ない遮蔽板数で電圧上昇を伴わずにめっき厚分布をより均一化することができる結果、めっき厚のバラツキの小さい高品質の2層めっき基板を低コストで製造することが可能となり、配線ピッチの狭小化にも十分に対応することができ、特にエレクトロニクス分野における配線材料の品質の向上と低コスト化に大きく寄与する。
【符号の説明】
【0024】
1 めっき槽
2 電極(アノード:陽極)
3 めっき液噴流ノズル
4 樹脂基板
4a 被めっき面
5 ワーク保持板
6、16 遮蔽板
7 クランパー
8 搬送レール

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被めっき面としての下地金属層を表面に備える樹脂基板を、前記被めっき面が略鉛直面となるように配置し、かつ前記被めっき面に対向する側に設置される電極と前記被めっき面との間に遮蔽板が配置される金属被覆樹脂基板のめっき装置において、前記遮蔽板として、当該板状部材の上辺及び下辺が先端側から後端側へ向けて、前記樹脂基板の上辺及び下辺に対して一定の傾斜角度でテーパー状に縮幅する形状を有する板状部材を用いることを特徴とする金属被覆樹脂基板のめっき装置。
【請求項2】
前記遮蔽板の上辺及び下辺の傾斜角度が、前記樹脂基板の上辺及び下辺に対し5〜20度であることを特徴とする請求項1に記載の金属被覆樹脂基板のめっき装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2012−201944(P2012−201944A)
【公開日】平成24年10月22日(2012.10.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−68740(P2011−68740)
【出願日】平成23年3月25日(2011.3.25)
【出願人】(000183303)住友金属鉱山株式会社 (2,015)
【Fターム(参考)】