説明

金属被覆炭酸カルシウム粉末、顔料および樹脂組成物

【課題】ウエルド防止効果が高く、優れたメタリック感を有し、射出成形の金型に対する疵付け防止効果が高いメタリック顔料用粉末を提供する。
【解決手段】金属被覆層を有する炭酸カルシウム粒子で構成される平均粒径10〜350μm、平均形状比1/4〜1の金属被覆炭酸カルシウム粉末。なかでも、酸化銀からなる平均厚さ1〜15nmの下地被覆層と、その上に平均厚さ10〜150nmの銀被覆層を有する炭酸カルシウム粒子で構成される平均粒径10〜350μm、平均形状比1/4〜1の銀被覆炭酸カルシウム粉末が好適な対象となる。基材の炭酸カルシウム粒子は、炭酸カルシウムを主成分とする鉱石を乾式粉砕することによって得られる、「角張った多面体形状」を有するものが好適に採用される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属被覆層を有する炭酸カルシウムの粉末、およびその粉末を用いたメタリック調顔料、ならびにその顔料を含有する熱可塑性樹脂組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、メタリック調の外観を有する樹脂成形品を製造する方法としては、[1] アルミフレーク、マイカ、パールマイカ、雲母状酸化鉄(MIO)、ガラスフレーク、ステンレスフレークなどの鱗片状のメタリック顔料を混合した塗料を樹脂成形品の表面に塗装する方法、[2] これらのメクリック顔料を予め溶融した樹脂中に添加して樹脂と混合した後に、金型中に射出成形する方法、のいずれかが行われている。
【0003】
[1]の方法は、高級感のあるメタリック調の成形品を比較的容易に得ることができるが、「後塗装」という工程が必要であるために、手間とコストがかかる。
他方、[2]の方法は、塗装工程が不要であり、射出成形と同時にメタリック調の外観が得られるという利点を有する反面、高級感のあるメクリック調の外観を得ることが難しいという欠点を有する。メタリック外観に高級感を付与するには、メタリック顔料の添加量を多くする必要がある。しかし、その添加量が多くなると、樹脂成形時にウエルドラインあるいはウエルドマークと呼ばれる不均一な模様(以下「ウエルド」という)が発生し易くなり、却って製品の外観を損ねる結果となる。
【0004】
このウエルドの発生原因は、メタリック顔料の粒子形状がいずれも鱗片状であるために、その顔料粒子が樹成形時に溶融した樹脂の流れに沿って配向し易いためであると考えられている。樹脂成形金型内部の流れの合流点でこの樹脂の流れに乱れが生じると、光の散乱によってウエルドが目立ち易くなるのである。
【0005】
このウエルドの発生を防止するために、これまでに種々の開発がなされてきた。例えば、特許文献1には、厚さ/粒径の平均形状比が1/25〜1/2で光沢のある鱗片状の金属粒子からなる顔料がウエルドの発生防止に効果的であると教示されている。特許文献2には、平均粒径が10μm〜1mmの鱗片状あるいは球状の金属粒子を用いて、ウエルド巾に応じた粒子間隔とすることで、ウエルドを目立ちにくくした樹脂成形品が開示されている。特許文献3には、平均粒径が35μm〜1mm、平均形状比が1/8〜1の光沢粒子が、また特許文献4には、銀などの金属をコーティングした平均粒径が10μm〜3mm、平均厚さが1〜30μmのガラスフレーク粒子が、それぞれウエルドの発生防止に効果的であると教示されている。
【0006】
【特許文献1】特公平7−81094号公報
【特許文献2】特公平4−27932号公報
【特許文献3】特公平4−55462号公報
【特許文献4】特開平4−359937号公報
【特許文献5】特開平2−153068号公報
【特許文献6】特開昭62−250172号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記特許文献1〜3には、顔料粒子としてアルミニウムの金属粒子を使用した例が示されている。また特許文献3には黄銅の金属粒子を使用した例が示されている。これらの金属粒子は軟らかいので金型が疵付きにくいという利点があり、また白色あるいは黄金色で綺麗であることから、一部で実用化されている。しかし、メタリック調の樹脂成形品として意匠性の高いものを得るには光沢が十分とは言えない。特許文献2、3には、その他の金属粒子として、錫、銅、鉄、ステンレスなどが挙げられているが、これらにおいてもメタリック調樹脂成形品用の顔料として満足できる高光沢を有するものは、実際には出現していない。
【0008】
金属粒子を高光沢にできない主たる理由は、製造方法がボールミルなどの機械的手段によるものであるから、どうしても粉末粒子の表面に微小なスリ疵や凹凸が残存してしまい、光が散乱し易いためであると考えられる。
【0009】
特許文献3には、その他の粒子として、マイカ、ある種の貝殻、複屈折を起こす無機あるいは有機ポリマー結晶、蛍光体なども挙げられているが、これらも十分に高光沢であるとは言えない。また、特許文献4に開示される銀被覆したガラスフレークは、無電解めっきにより銀を被覆しているために、銀めっき層自体が酸化されて黄白色を呈しやすく、銀本来の綺麗な「銀白色」の色調を得ることは難しい。また基材のガラスフレークが硬質であるため金型に疵を付け易い。このため、この銀被覆したガラスフレーは現実にはほとんど使用されていない。
【0010】
以上のようなことから、射出成形により作られる樹脂成形品において、直接、意匠性の高いメタリック調外観を付与したものはほとんど実用化されていない。
本発明はこのような現状に鑑み、メタリック顔料に好適な粉末として、i) ウエルドの防止効果が高く、ii) 高光沢と綺麗な色調(すなわち、優れたメタリック感)を有し、iii) 射出成形の金型に対する疵付け防止効果が高い粉末を開発し提供しようというものである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
発明者は種々検討の結果、特定の形状を有する炭酸カルシウム粒子からなる粉末を基材とし、これに薄くかつ均一な金属コーティングを施したとき、上記目的に叶う粉末が実現できることを知見した。
【0012】
すなわち、本発明で提供する新規な粉末は、金属被覆層を有する炭酸カルシウム粒子で構成される平均粒径10〜350μm、平均形状比1/4〜1の金属被覆炭酸カルシウム粉末である。なかでも、金属被覆層の平均厚さが10〜150nmであり、その金属被覆層が銀からなるものが好適な対象となる。特に、銀被覆層の密着性向上を図ったものとして、酸化銀からなる下地被覆層と、その上に銀からなる金属被覆層を有する2層構造の被覆層を形成したものが提供される。この場合、酸化銀の下地被覆層の平均厚さが1〜15nm、銀被覆層の平均厚さが10〜150nmに調整されたものが好適な対象となる。
ここで、粉末粒子の粒径は「長軸長」を意味し、形状比は「短軸長/長軸長」の比で表される。
【0013】
上記のような極めて薄い被覆層(下地被覆層、金属被覆層)で基材粒子表面を覆うには、後述するようなスパッタリング法によるコーティング手法が採用できる。
【0014】
基材の炭酸カルシウム粒子は、炭酸カルシウムを主成分とする鉱石を乾式粉砕して得たものが好適に採用できる。その炭酸カルシウム粒子の形態は、劈開面と稜をもつ多面体形状を有するものである。
【0015】
また本発明では、以上の金属被覆炭酸カルシウム粉末を一部または全部に用いたメタリック顔料が提供される。更にそのメタリック調顔料を使用した樹脂組成物として、熱可塑性樹脂100質量部に対し、メタリック調顔料を0.5〜5質量部含有する樹脂組成物が提供される。
【発明の効果】
【0016】
本発明の金属被覆炭酸カルシウム粉末は、樹脂に混練して使用されるメタリック調顔料に極めて好適である。すなわち、射出成形する際のウエルドの発生が顕著に抑制され、且つ優れたメタリック感が実現される。加えて、基材に炭酸カルシウムを使用するため金型に対する疵付け防止効果も高い。このため、本発明の粉末を顔料に使用すれば、例えば、ラジエターグリル、マーク、ホイールカバー、ドアミラー、ドアハンドルなどの自動車部品用樹脂成形品や、カメラ、OA機器、電気カミソリ、ヘヤードライヤー、テレビ、携帯電話、オーディオ機器、エアコン、ユニットバスなどの家電製品用樹脂成形品をはじめとする、各種樹脂成形品において、従来のメタリック塗装の工程を省略して、直接、射出成形により意匠性の高いメタリック外観を実現することが可能になる。さらに、射出成形の金型寿命低下も防止できる。
したがって、本発明は、メタリック調の樹脂製品における品質向上および製造コスト低減に大きく寄与するものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
〔基材粒子〕
本発明では前述のように、粉末特性として、ウエルド防止、優れたメタリック感付与、および射出成形金型への疵付け防止を重要項目として挙げている。これらの特性に対しては、基材粒子の形状・寸法、表面性状、および材質が大きく影響する。
【0018】
基材粒子の形状は、いわゆる「角張った多面体」であることが非常に望ましい。すなわち、できるだけ平面的な「面」と、隣り合う面の境界にできるだけ明瞭な「稜」を有する形状であって、鱗片状ではない粒子形状であることが、ウエルドの発生防止とメタリック感付与に極めて有効である。その形状は氷砂糖に例えることができる。
【0019】
ウエルドの発生を防止するには、粒子の方向性をなくして樹脂の流動による粒子の配向をなくすことと、どの方向から見ても粒子が同じように光を反射することが重要である。また、メタリック感を向上させるには、できるだけ平面的な「面」を持つことが極めて有効である。上記のような「角張った多面体」の形状によってそれらの条件を満たすことができるのである。
粒子が鱗片状の場合には配向し易く、ウエルドの防止は難しい。逆に粒子が球状またはビーズ状の場合には光沢が不足してメタリック感を出し難く、またウエルドの発生防止効果もほとんどない。
【0020】
粒子の粒径は、粉末としての平均粒径が10〜350μmであることが必要である。平均粒径が10μm未満だと反射平滑面が不足するために、金属をコーティングしても色調が灰黒色となり、ほとんどメタリック感を付与することができない。逆に350μmを超える場合は、反射平滑面は十分であるが、粉末の混合量を相当多くしないと、きめ細かいメタリック感を付与することができないので、コストが高くなる。一般的には平均粒径10〜300μmの範囲で良好な結果が得られ、通常、50〜200μmの範囲とすることが望ましい。
【0021】
粒子の形状比は、粉末としての平均形状比が1/4〜1であることが必要である。形状比は前述のように短軸長/長軸長で表される。平均形状比が1/4より小さい粉末は鱗片状に近い粒子を多く含むものであり、ウエルドの発生を十分防止することが困難となる。一般的には平均形状比1/2以上の非鱗片状粒子で構成される粉末が最適である。
なお、後述するように、本発明において基材粒子表面に形成する被覆層は極めて薄いため、被覆層形成後の製品粉末における平均粒径および平均形状比の値は、基材粉末における値をそのまま使用して差し支えない。
【0022】
「稜」の部分を除く基材粒子の表面は、できるだけ平滑になっていることが望ましい。微小なスリ疵や凹凸の存在量が多いほど、光の散乱が多くなり、十分なメタリック感を付与する上で不利となる。
【0023】
基材粒子の材質は、樹脂成形金型の疵付きを防止するために、できるだけ軟らかいことが望ましい。発明者らは種々の粉末素材について検討した結果、炭酸カルシウム粒子が金型の疵付き防止に非常に適した材料であることを見出した。炭酸カルシウム粒子は、ガラスフレーク粒子などと比べ非常に軟らかいので、通常の射出成形において、金型に顔料粒子起因の疵を付けることはほぼ完全に防止できる。また、炭酸カルシウムを用いると、前記の好適な形状、寸法、表面性状の基材粒子を得ることも同時に可能となる。
【0024】
そのような本発明に適した炭酸カルシウムの基材粒子は、例えば以下のようにして得ることができる。すなわち、天然に産出する石灰石、大理石、ホウカイ石、ヒョウショウ石、アラレ石など、炭酸カルシウムを主成分とする鉱石の中から、特に白色糖晶質のものを選択し、これを採掘、選鉱、水洗、乾燥した後、乾式粉砕し、その後所定の粒度分布のものを分級する方法によって得ることができる。その際、乾式粉砕においては、ゆっくりと加重をかけて圧縮し、結晶面に沿って破断させることが望ましい。炭酸カルシウムの結晶は、六方晶系のホウカイ石型構造または斜方晶系のアラレ石型構造であるから、その構造をできるだけ保持したまま乾式粉砕することが重要である。それにより、凹凸の少ない劈開面を持ち、隣り合う面の境界に稜を有する「角張った多面体」形状の基材粒子が得られるのである。
【0025】
〔被覆層〕
前記炭酸カルシウム粒子の表面には、メタリック調の外観を得るために、金属被覆層を形成する。被覆する金属としては、意匠性に優れたメタリック調の外観を実現するために、優れた色調と光沢を呈するものを選択することが肝要である。例えば、金、銀、銅、アルミニウム、チタンまたはこれらの合金などが使用できるが、中でも白色で高光沢を付与しうる銀または銀合金が最適である。
【0026】
金属被覆層は、炭酸カルシウム基材粒子の表面全体をできるだけ均一に覆うことが望ましい。そのようなコーティング手法として後述のスパッタリング法が好適である。ただし、金属被覆層の平均膜厚が10nm未満ではスパッタリング法によっても粒子表面全体を金属で覆い尽くすことが難しくなる。逆に平均膜厚が150nmを超えて厚くなる場合は金属被覆層表面の凹凸が大きくなることに起因して、光沢が低下する。このため、金属被覆層の膜厚は10〜150μmの範囲で調整するのがよい。平均膜厚35〜85nm程度の金属被覆層とすることが一層好ましい。
【0027】
金属被覆層を構成する金属として銀を用いる場合、炭酸カルシウムと銀との密着性があまり良好でないので、耐剥離性を改善する対策が望まれる。発明者はこの点について詳細に検討した結果、酸化銀の被膜を介して銀をコーティングすれば、銀被覆層の剥離が顕著に抑止できることを突き止めた。酸化銀被膜によって密着性が向上する理由は、炭酸カルシウムと酸化銀との界面(ともに酸素原子を有する)および酸化銀と銀との界面(ともに銀原子を有する)の各接合強度が、炭酸カルシウムと銀の界面(共通する原子が何もない)の接合強度よりも強くなるためだと考えられる。
【0028】
酸化銀からなる下地被覆層の厚さが1nm未満の場合は、被覆量が少なすぎるために酸化銀の存在効果がなく、銀被膜の耐剥離性は十分改善されない。逆に15nmを超えても密着性はほとんど変わらない。したがって、下地被覆層の平均厚さは1〜15nmとすることが好ましい。
【0029】
下地被覆層や金属被覆層のコーティング方法として、無電解めっき法、真空蒸着法、スパッタリング法などが考えられるが、なかでも本発明者らが特許文献5に開示した粉末スパッタリング装置を用いてコーティングすることが極めて有効である。これは、粉末を回転ドラムに入れて、その回転により流動状態になっている粉末粒子の表面に金属などをスパッタリング法でコーティングするものである。また、特許文献6に示されるように、繰り返し循環される粉末の落下流に金属などをスパッタリング法でコーティングする方法も有効である。
【0030】
酸化銀の下地被覆層も、上記の粉末スパッタリング装置を用いて形成できる。この場合、ターゲットに金属銀を用い、例えば0.1〜1Pa程度の減圧状態に保持しながらArと空気の混合ガスを導入してスパッタリングを行えばよい。
【0031】
上記のような粉末スパッタリング法によって炭酸カルシウム表面に薄く均一な被覆層を形成することが可能になるが、その理由は、プラズマ状態まで励起された原子が基材粒子の表面に高速で衝突する現象を繰り返すので、被膜形成時の核の発生密度が極めて密になるためと考えられる。
【0032】
これに対し、無電解めっき法の場合には基本的に水を使用するので、炭酸カルシウム粒子の表面が溶解し、形成した被膜が剥離し易いという問題がある。その上、前処理として粒子の表面をあらかじめパラジウムなどで活性化処理し、無電解めっき時の被膜形成の核の発生点にしている。物理吸着現象であるこのパラジウムの付着密度は、スパッタリング法の場合のプラズマ状態に励起された原子の衝突密度に比較してかなり小さいために、基材粒子の表面に薄く均一な被膜を密着性良く形成することが難しい。さらに、無電解めっき法で銀を被覆すると、水溶液中の炭酸イオンと銀被膜とが反応して淡黄色の炭酸銀となるので、色調としては好ましくない。
この点、スパッタリング法で銀を被覆する場合には、水を全く使用しないので、銀被膜はほとんど酸化せず、炭酸イオンとも反応することがない。このためメタリック調顔料として好適な「銀白色」に仕上がり、その色調は極めて綺麗である。
【0033】
〔顔料〕
このようにして得られた金属被覆炭酸カルシウム粉末は、そのまま顔料として使用することができる。樹脂との密着性を特に重視する場合は、脂肪酸などの有機物で被覆したり、各種カップリング剤で表面処理したりすることが望ましい。カップリング剤の具体例としては、γ−アミノプロピルトリエトキシシラン、N−β−アミノエチル−γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、チタン系カップリング剤、ジルコニア系カップリング剤、アルミニウム系カップリング剤などが挙げられる。
【0034】
〔樹脂組成物〕
この顔料を樹脂中に混合してメタリック調の樹脂組成物を作る場合、顔料の樹脂中への混合量は、熱可塑性樹脂100質量部に対して、顔料0.5〜5質量部とすることが好ましい。顔料の混合量が0.5質量部より少ないと、光輝感が不足して奥行きのある高級なメタリック感が得られ難くなる。一方、5質量部を超えて多量に顔料を混合すると、メタリック感は十分得られるものの、ウエルドが発生し易くなり、意匠性が低下する。
【0035】
本発明で使用する樹脂は、成形可能な熱可塑性樹脂であれば特に制限はない。例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、AS、アクリル、ポリスチレン、ポリエチレンテレフタレート、ポリカーボネート、またはこれらのポリマーの共重合体、混合物、変性物などがあげられる。特に、AS樹脂、アクリル、ポリスチレン、ポリカーボネートなどの透明性の高い樹脂を使うと、本発明顔料の優れたメタリック感が生かされ好ましい。また、用途に応じて樹脂を染料や他の顔料によって着色してもよい。少量のカーボンブラックやフタロシアニンブルーで着色すると、より深みのあるメタリック調を与えることができる。また、ウエルド防止効果とメタリック感を損なわない範囲で、安定剤、分散剤、紫外線吸収剤、離型剤などを添加してもよい。
【0036】
本発明の顔料と樹脂を均一に混合するには、タンブラー、ブレンダー、ナウターミキサー、バンバリーミキサー、混練ロールなどが使用可能である。顔料を混合した本発明の樹脂組成物は、射出成形機や押し出し成形機などを用いて種々の形状の物品に成形することができる。
【実施例】
【0037】
〔実施例1〕
日本国内の石灰石鉱山から採掘された、炭酸カルシウム純度が比較的高く、白色度の高い石灰石を用意し、これを水洗、乾燥した後、コーンミルを用いて乾式粉砕した。乾式粉砕においては、ゆっくり荷重をかけて圧縮することにより結晶面で破断させ、できるだけ平滑な「劈開面」とシャープな「稜」が維持されるように配慮した。乾式粉砕によって得られた粒子を篩い分けにより分級し、この実施例では平均粒径10μm、平均形状比1/4の炭酸カルシウム粉末を基材に用いた。
【0038】
特許文献5に開示される回転ドラム型の粉末スパッタリング装置を使用し、以下のようにして、まず基材粒子の表面に酸化銀の下地被覆層をコーティングした。
基材の炭酸カルシウム粉末100gを装置のドラム内に装入し、ドラム内を減圧して、3.0×10-1Paの減圧状態が維持されるようにArガス:10cm3/分、空気:5cm3/分の混合ガスを導入した。ドラムを回転させて粉末粒子を流動状態にし、上記の減圧状態を維持しながら、金属銀のターゲットを使用してスパッタリング出力0.1kWでスパッタリングを行い、流動状態の粉末粒子表面に酸化銀をコーティングした。被膜厚さはスパッタリング時間によってコントロールできる。予め得られている当該装置のデータに基づいて、スパッタリング時間を10分とし、平均厚さ1nmの酸化銀被膜が形成されるようにした。この段階の粉末サンプルについてX線回折を行った結果、平均厚さ約1nmの酸化銀の被膜が形成されていることが確かめられた。
【0039】
次に、空気の導入を中止して、Arガスのみ15cm3/分の流量で導入しながら、さらに100分スパッタリングを行い、平均厚さ10nmの銀被膜が形成されるようにした。得られた粉末サンプルについてX線回折を行った結果、平均厚さ約10nmの金属銀の被膜が形成されていることが確かめられた。
【0040】
得られた銀被覆炭酸カルシウム粉末を顔料として使用し、以下のようにして樹脂組成物を作った。
銀被覆炭酸カルシウム粉末0.5質量部を、ABS樹脂[JSR(株)製、ABS 12]100質量部中に添加し、タンブラーを用いて均一に混合した。この混合体を、押し出し機[ナカタニ(株)製、VSK30]によりシリンダー温度200℃で押し出してペレット化した。このペレットを用いて、射出成形機[住友重機械工業(株)製、ネスタール・サイキャップ480/150]によりシリンダー温度200℃、金型温度50℃で、下記の各形状を有する試験板を成形した。そして、以下の方法で、ウエルド防止性、メタリック感、金型疵付き防止性を評価した。
【0041】
(1)ウエルド防止性
厚さ2mm、幅150mm、長さ250mmの箱形の成形金型の一側面に設けた2ヶ所のゲートから金型内に射出成形した成形品を目視観察により下記基準で評価し、△評価以上を合格とした。
◎:ウエルドが全く認められなかったもの、
○:ウエルドがわずかに認められたもの、
△:ウエルドが多少認められたが、多くの用途で商品価値を有すると判断されるもの、
×:ウエルドが多発し、意匠性を損なうもの。
【0042】
(2)メタリック感
厚さ2mm、幅35mm、長さ60mmの成形試験板を目視観察により下記基準で評価し、○評価以上を合格とした。
◎:銀白色でメタリック感が非常に優れているもの、
○:白色でメタリック感が良好であるもの、
△:淡黄色でメタリック感があまりないもの、
×:灰黒色でメクリック感が全くないもの。
【0043】
(3)金型疵付き防止性
厚さ2mm、幅150mm、長さ250mmの箱形の成形金型の一側面に設けた2ヶ所のゲートから金型内に100ショット射出成形した後の成形金型の内面に付いた疵(幅:数μm、長さ:数mmのものを対象とする)を目視観察により下記基準で評価し、○評価以上を合格とした。
◎:上記の疵が全く認められなかったもの、
○:上記の疵が少し認められたが、金型の寿命低下が問題になるほどではないと判断されるもの、
△:上記の疵がかなり認められたもの、
×:上記の疵が多発したもの。
結果を表1に示す。
【0044】
〔実施例2〕
実施例1において、基材粉末の分級を変えて平均粒径50μm、平均形状比1/2の炭酸カルシウム粉末を使用し、スパッタリング時間を変えて酸化銀下地被覆層の平均厚さを3nm、銀被覆層の平均厚さを30nmとし、ABS樹脂に対する顔料の混合量を0.7質量部に変えた以外、実施例1と同様の条件で試験を行った。結果を表1に示す。
【0045】
〔実施例3〕
実施例1において、基材粉末の分級を変えて平均粒径100μm、平均形状比1の炭酸カルシウム粉末を使用し、スパッタリング時間を変えて酸化銀下地被覆層の平均厚さを5nm、銀被覆層の平均厚さを50nmとし、ABS樹脂に対する顔料の混合量を1.0質量部に変えた以外、実施例1と同様の条件で試験を行った。結果を表1に示す。
【0046】
〔実施例4〕
実施例1において、基材粉末の分級を変えて平均粒径200μm、平均形状比1/2の炭酸カルシウム粉末を使用し、スパッタリング時間を変えて酸化銀下地被覆層の平均厚さを8nm、銀被覆層の平均厚さを80nmとし、ABS樹脂に対する顔料の混合量を3.0質量部に変えた以外、実施例1と同様の条件で試験を行った。結果を表1に示す。
【0047】
〔実施例5〕
実施例1において、基材粉末の分級を変えて平均粒径300μm、平均形状比1/4の炭酸カルシウム粉末を使用し、スパッタリング時間を変えて酸化銀下地被覆層の平均厚さを10nm、銀被覆層の平均厚さを100nmとし、ABS樹脂に対する顔料の混合量を5.0質量部に変えた以外、実施例1と同様の条件で試験を行った。結果を表1に示す。
【0048】
〔比較例1〕
実施例1において、基材粉末の分級を変えて平均粒径5μm、平均形状比1/5の炭酸カルシウム粉末を使用し、スパッタリング時間を変えて酸化銀下地被覆層の平均厚さを5nm、銀被覆層の平均厚さを50nmとし、ABS樹脂に対する顔料の混合量を0.3質量部に変えた以外、実施例1と同様の条件で試験を行った。結果を表1に示す。
【0049】
〔比較例2〕
実施例1において、基材粉末の分級を変えて平均粒径400μm、平均形状比1/5の炭酸カルシウム粉末を使用し、スパッタリング時間を変えて酸化銀下地被覆層の平均厚さを20nm、銀被覆層の平均厚さを200nmとし、ABS樹脂に対する顔料の混合量を7.0質量部に変えた以外、実施例1と同様の条件で試験を行った。結果を表1に示す。
【0050】
〔比較例3〕
実施例3と同じ平均粒径100μm、平均形状比1の炭酸カルシウム粉末を基材に使用し、以下のような手順で無電解めっきを行って、基材表面に直接、平均厚さ50nmの銀被膜を形成した。
【0051】
炭酸カルシウム基材粉末100gを、20g/Lの塩化第一錫および20g/LのHClを含有する水溶液1L中に投入し、60℃で約20分間攪拌した。このセンシタイジング処理後、脱イオン水で良く洗浄し、1g/Lの塩化パラジウムおよび10g/LのHClを含有する水溶液1L中に投入し、室温で約20分間攪拌した。このアクチベーティング処理後、再び脱イオン水で良く洗浄した。
【0052】
一方、無電解銀めっき用に、以下に示す2種類の溶液を作成した。
(1)「銀アンモニア溶液」の作成
脱イオン水50mLに硝酸銀4gを加えて溶解させた液と、脱イオン水50mLに水酸化カリウム2gを加えて溶解させた液を用意し、これら2液を混合した。この溶液は次第に褐色になる。これに水酸化アンモニウムを約40mL加え、溶液の色が透明になるまで攪拌した。
(2)「還元性溶液」の作成
脱イオン水100mLに食卓砂糖9gを加えて溶解させ、これに濃硝酸約2mLを加え、この溶液を30分間沸騰させ、転化糖に変えた。この溶液を室温まで冷却した。
【0053】
前記のアクチベーティング処理後洗浄した粉末100gを、上記「銀アンモニア溶液」約150mL中に投入し、室温で良く攪拌しつつ、これに25滴/分の速度でゆっくりと上記の「還元性溶液」約110mLを添加していった。この無電解銀めっき処理を終了後、粉末を良く水洗して乾燥した。この方法によって、平均厚さ50nmの銀被覆層を形成した。
【0054】
実施例1と同様の手順に従って、得られた粉末1.0質量部をABS樹脂100質量部中に混合し、実施例1と同様の評価を行った。結果を表1に示す。
【0055】
【表1】

【0056】
表1から判るように、本発明の銀被覆炭酸カルシウム粉末(実施例1〜5)は、射出成形品において優れたウエルド防止性およびメタリック感を発揮し、金型疵付き防止性も良好であった。このような特性を同時に満たすメタリック顔料は従来得られていなかったことから、本発明は実用性に優れた新しいメタリック調顔料を提供可能にしたものである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属被覆層を有する炭酸カルシウム粒子で構成される、平均粒径10〜350μm、平均形状比1/4〜1の金属被覆炭酸カルシウム粉末。
【請求項2】
金属被覆層が銀からなる請求項1に記載の金属被覆炭酸カルシウム粉末。
【請求項3】
金属被覆層の平均厚さが10〜150nmである請求項1または2に記載の金属被覆炭酸カルシウム粉末。
【請求項4】
酸化銀からなる下地被覆層と、その上に銀からなる金属被覆層を有する炭酸カルシウム粒子で構成される、平均粒径10〜350μm、平均形状比1/4〜1の金属被覆炭酸カルシウム粉末。
【請求項5】
酸化銀からなる下地被覆層の平均厚さが1〜15nm、銀からなる金属被覆層の平均厚さが10〜150nmである請求項4に記載の金属被覆炭酸カルシウム粉末。
【請求項6】
被覆層はスパッタリング法により形成されたものである請求項1〜5に記載の金属被覆炭酸カルシウム粉末。
【請求項7】
炭酸カルシウム粒子は、炭酸カルシウムを主成分とする鉱石を乾式粉砕して得たものである請求項1〜6に記載の金属被覆炭酸カルシウム粉末。
【請求項8】
炭酸カルシウム粒子は、劈開面と稜をもつ多面体形状を有するものである請求項1〜6に記載の金属被覆炭酸カルシウム粉末。
【請求項9】
請求項1〜8のいずれかに記載の金属被覆炭酸カルシウム粉末を用いたメタリック調顔料。
【請求項10】
熱可塑性樹脂100質量部に対し、請求項9に記載のメタリック調顔料を0.5〜5質量部含有する樹脂組成物。

【公開番号】特開2006−96953(P2006−96953A)
【公開日】平成18年4月13日(2006.4.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−287672(P2004−287672)
【出願日】平成16年9月30日(2004.9.30)
【出願人】(000004581)日新製鋼株式会社 (1,178)
【Fターム(参考)】