説明

金属被覆繊維体およびその製造方法

【課題】被覆の密着性および耐久性に優れた金属被覆繊維体を提供する。
【解決手段】高強度ナイロン系繊維体に金属被覆を設け、200〜500℃の温度範囲において、該繊維体の結晶化温度以上であって融解温度未満の温度で加熱処理してなることを特徴とする金属被覆繊維体繊維体とその製造方法であり、この金属被覆繊維体は優れた被覆強度を有しており、具体的には被覆の剥離強度試験において4等級以上の基準強度を有することができる。また、加熱下でも伸縮率が小さく、外力に対する耐久性に優れる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高強度ナイロン系繊維体に金属被覆を設けた繊維体であって、金属被覆の密着性に優れ、加熱下での耐久性に優れた金属被覆繊維体とその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ナイロン繊維やポリエステル繊維などの高分子材料からなる合成繊維表面に金属薄膜をコーテングした導電性繊維ないし導電性糸が従来から知られており、金属コーテング膜の密着性を高めるために種々の方法が試みられている。例えば、硫化銅をコーテングする場合に、銅イオン捕捉基を有する染料で高分子材料を前処理し、これに銅イオンを結合させた後に硫化する方法(特公平01-37513号)や、アルカリ処理して粗面化した繊維表面に銅イオン捕捉基を付着させ、これに硫化銅を結合させる方法(特開平06-298973号)などが知られている。また、アラミド繊維などのように金属メッキを施し難いものについては、ポリビニルピロリドン(PVP)を利用して金属イオンを付着させ、これを還元して金属メッキを形成する方法(特表平06-506267号)などが知られている。
【特許文献1】特公平01−037513号
【特許文献2】特開平06−298973号
【特許文献3】特表平06−506267号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
ところが、上記PVPを利用するメッキ方法は繊維の種類が限られるので一般的ではない。また、銅イオン捕捉基を導入するコーテング方法は金属被覆が銅やその化合物に限られ、しかも金属被覆の強度が必ずしも十分ではないと云う問題がある。なお、繊維をアルカリ処理して粗面化すれば概ね金属被覆の付着強度を高めることができるが、粗面化の程度と金属被覆の状態が適切ではないと十分な効果が得られない。しかも、金属被覆繊維を衣類等に使用する場合には洗濯や摩耗などの過酷な使用条件に耐える必要がある。さらに導電性の観点からは、金属被覆の部分的剥離によっても断線状態を招くので、金属被覆は信頼性の高い密着強度を有することが求められる。
【0004】
本発明者等は、金属被覆を有する繊維体に加熱処理を施して繊維体の組織を整えることにより、具体的には、例えば繊維体を加熱処理して結晶化すれば金属被覆の被覆強度が飛躍的に向上することを見い出した。また、この加熱処理において昇温および冷却を徐々に行うことによって金属被覆の強度が一層向上すると共に耐久性が高まり、繊維体の伸縮率が大幅に小さくなることを見い出した。本発明はこの知見を、繊維体として高強度ナイロン系繊維体に適用したものである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は以下の構成からなる金属被覆繊維体に関する。
(1)高強度ナイロン系繊維体に金属被覆を設け、200〜500℃の温度範囲において、該繊維体の結晶化温度以上であって融解温度未満の温度で加熱処理してなることを特徴とする金属被覆繊維体繊維体。
【0006】
本発明の金属被覆繊維体は以下の態様を含む。
(2)繊維体の結晶化温度以上であって融解温度未満の温度下における伸縮率が±4%以下である上記(1)の金属被覆繊維体。
(3)繊維体の結晶化温度以上であって融解温度未満の温度下において、繊維体径(デニール値)の100分の1に相当するg荷重に対する伸縮率が±2%以下である上記(1)または(2)の金属被覆繊維体。
(4)繊維体1cmについて1デニール当たりの電気抵抗が1000Ω/cm・デニール以下である上記(1)〜上記(3)の何れかの金属被覆繊維体。
(5)被覆剥離試験において金属被覆が4等級以上の基準強度を有する上記(1)〜上記(4)の何れかの金属被覆繊維体。
(6)繊維体が短繊維、長繊維、またはこれらの繊維からなる各種の糸である請求項1〜5の何れかの金属被覆繊維体。
(7)金属被覆が銀、金、白金、銅、ニッケル、スズ、亜鉛、バラジウム、またはこれらの混合物ないし合金からなる導電性金属である上記(1)〜上記(6)の何れかの金属被覆繊維体。
(8)上記(1)〜上記(7)の何れかの金属被覆繊維体の少なくとも1種を合成繊維、天然繊維、もしくは合成繊維と天然繊維の混合繊維に混紡した混合繊維体。
(9)上記(1)〜上記(8)の何れかの金属被覆繊維体からなる織布または不織布。
(10)上記(1)〜上記(9)の何れかの金属被覆繊維体からなる電線代替材料。
【0007】
本発明は以下の構成からなる金属被覆繊維体の製造方法を含む。
(11)高強度ナイロン系繊維体に金属被覆を設け、200〜500℃の温度範囲において、該繊維体の結晶化温度以上であって融解温度未満の温度で加熱処理することを特徴とする金属被覆繊維体の製造方法。
本発明の金属被覆繊維体の製造方法は以下の態様を含む。
(12)1分間に0.1〜10℃の割合で昇温し、昇温した温度を5分〜200分保持する上記(11)または上記(12)の製造方法。
(13)昇温した温度を保持した後に、1分間に0.1〜10℃の割合で室温まで徐冷する上記(12)の製造方法。
(14)加圧水蒸気下もしくは電気炉内で、窒素ガスまたはアルゴンガスの不活性雰囲気下で、加熱徐冷処理する上記(11)〜上記(13)の何れかの製造方法。
【発明の効果】
【0008】
本発明の金属被覆繊維体は優れた被覆強度を有しており、具体的には被覆の剥離強度試験において4等級以上の基準強度を有することができる。また、加熱下でも伸縮率が小さく、外力に対する耐久性に優れる。従って、金属被覆の密着性や耐久性が十分でないために従来は適用できなかった分野にも本発明の金属被覆繊維体を用いることできる。また、本発明の金属被覆繊維体は金属被覆を設けた後に特定温度での加熱徐冷処理を施すことによって得られるので容易に製造することができる。
【0009】
以下、本発明を実施態様に基づいて詳細に説明する。
〔金属被覆繊維体〕
本発明の金属被覆繊維体は、高強度ナイロン系繊維体に金属被覆を設け、200〜500℃の温度範囲において、該繊維体の結晶化温度以上であって融解温度未満の温度で加熱処理してなることを特徴とするものである。
なお、本発明において繊維体とは、短繊維(ステープル)、長繊維(フィラメント)、これらの繊維からなる各種の加工糸(フィラメント糸、紡績糸など)を云い、これらを含めて繊維体と云う。また、高強度ナイロン系繊維体とは「ザイロン」の商品名で市販されている高重合のナイロン繊維体などである。なお、他のエンジアリングプラスチックからなる繊維なども用いることができる。
【0010】
一般に、ポリエステル、ナイロン、ポリアクリル等の合成繊維を加熱すると、加熱温度に応じてガラス転移、結晶化、融解(溶融)と次第に状態が変化し、多くの場合にはガラス転移によって軟化し、続いて結晶化の段階で大きく収縮する。本発明は、繊維体として高強度ナイロン系繊維体、ポリフェニレンサルファイド系繊維体、またはポリカーボネート系繊維体の一種または2種以上を用いた金属被覆繊維体について、このような加熱処理を行うことによって金属被覆の密着強度を高めたものである。
【0011】
すなわち、高強度ナイロン系繊維体からなる金属被覆体を、200〜500℃の温度範囲において、その繊維体の結晶化温度以上に加熱して繊維体表面を軟化させる。軟化した繊維体の表面は金属被覆との接触面の微細な凹凸に入り込み、アンカー効果によって金属被覆と繊維体との密着性が向上する。
【0012】
本発明において用いる高強度ナイロン系繊維体は他の合成繊維よりも耐熱性が高く、融解温度が概ね700℃をやや下回る程度であり、しかも高強度であるので、500℃〜600℃程度の高温環境下においても使用することができる。なお、加熱温度が100℃未満では十分な加熱処理効果が得られず、一方、加熱温度が700℃を上回ると繊維体が融解するようになるので好ましくない。
【0013】
この加熱処理は1分間に0.1〜10℃の割合で昇温し、昇温した温度を5分〜200分保持するのが好ましい。昇温速度が0.1℃/分より低いと処理時間が長くかかり、また10℃/分より高いと金属被覆が剥げやすくなるので好ましくない。なお、繊維体の融解温度より高く加熱すると繊維体全体が溶融して結晶性が低下すると共に繊維体を破壊して金属被覆を保持できなくなる。
【0014】
この加熱処理の後に一定の割合で室温まで徐冷することによって金属被覆の密着(被覆)強度を更に高めることができる。すなわち、金属被覆繊維体を加熱処理後に金属被覆と繊維体の密着性を高めた状態で繊維体と金属被覆とを一体に冷却することにより、冷却工程での繊維体と金属被覆の接触面の剥離が防止され、金属被覆の密着強度がさらに向上する。また適切な徐冷を行うことによって金属被覆繊維体をその後に加熱しても殆ど収縮を生ぜず、伸縮率が大幅に小さくなる。
【0015】
徐冷速度は、例えば1分間あたり0.1〜10℃の割合が適当であり、好ましくは1分間あたり0.1〜5℃の割合、更に好ましくは0.2〜2℃の割合で徐冷するのが良い。なお、徐冷速度が0.1℃/分より小さいと処理時間が長くなり、また、10℃/分より大きいと冷却速度が早すぎ、繊維体の再結晶化が不十分になるので好ましくない。
【0016】
加熱処理手段は加熱炉、熱風炉などの他に赤外線による加熱でも良い。また、メッキ槽内での加圧水蒸気による加熱処理でも良い。加熱処理雰囲気は空気中でも良いが、金属被覆の酸化による変色を防止するには、窒素やアルゴン等の不活性ガス雰囲気下で加熱処理するのが好ましい。
【0017】
以上のように、本発明の金属被覆繊維体は、第一段階として金属被覆繊維体を繊維体の結晶化温度以上に加熱して繊維体の再結晶化を促すと共に、この温度を一定時間保持することによって軟化した繊維体の表面と金属被覆との接触面に十分に入り込ませて隙間を無くし、密着性を高めた後に、好ましくは、さらに第二段階として設定温度から室温まで冷却する際に十分に徐冷することによって再結晶化した繊維体と金属被覆の冷却収縮時の局部的な剥離を防止し、繊維体に対する金属被覆の被覆強度を大幅に高め、かつ繊維体の伸縮性を大幅に抑制する。
【0018】
本発明の金属被覆繊維体はこのような加熱冷却処理によって優れた被覆強度と非伸縮性を有する。すなわち、先に述べたように、一般に合成繊維は結晶化温度以上に加熱されると結晶構造が変化するので10%以上の熱収縮を生じることがあるが、金属被覆を有する繊維体を加熱処理して繊維体の結晶構造を整えたものは、その後に加熱しても結晶構造が変化し難く、熱収縮を殆ど生じない。むしろ場合によっては僅かな伸びを示す傾向を有するようになる。
【0019】
具体的には、例えば、繊維体の結晶化温度以上であって融解温度未満の温度下において、荷重を加えないときの伸縮率が±4%以下、好ましくは±3%以下の金属被覆繊維体を得ることができる。また、この加熱下で荷重を加えた場合でも、例えば、繊維体の結晶化温度以上であって融解温度未満の温度下において、繊維体の径(デニール値)の100分の1に相当するg荷重に対して伸縮率が±2%以下、好ましくは伸縮率±1.5%以下、さらに好ましくは伸縮率±1%以下の金属被覆繊維体を得ることができる。なお、上記デニール値の100分の1に相当するg荷重とは、例えば100デニールの繊維体について1gの荷重を加えることを云う。
【0020】
また、本発明の金属被覆繊維体は、以上の加熱冷却処理を行うことにより、規格(JIS L 0849)に基づく剥離強度試験において4等級以上の剥離強度(単に4等級以上の強度と云う)を有することができる。因みに、上記規格試験(JIS L 0849)は繊維体や布の染色堅ろう度を示す試験であり、染色布に白色布を重ね、所定荷重下で規定回数擦り合わせた場合に生じる白色布の汚染度によって染色の付着性が判定される。汚染度の高い順(付着性の低い順)に1等級から5等級までの基準が定められており、5等級の汚染度が最も低く、従って染色の密着性が最も高い。上記加熱処理を施した金属被覆繊維体について、この剥離試験における白色布の汚染度によって金属被覆の付着強度(被覆強度)を同様に判定することができる。加熱処理前は3等級以下の被覆強度を有する金属被覆繊維体について、本発明の加熱徐冷処理を行うことによって4等級以上の高い被覆強度を有するものを得ることができる。
【0021】
本発明に用いる繊維体は高強度ナイロン系繊維体であるが、これは他の合成繊維あるいは天然繊維を混紡したものでも良い。
【0022】
繊維体の表面に被覆する金属の種類は限定されない。例えば、銀、金、白金、銅、ニッケル、スズ、亜鉛、パラジウム、およびこれらの混合物や合金などを用いることができる。なお、被覆方法ないし手段も制限されない。電解メッキ、化学メッキ、あるいは真空蒸着などにより金属被覆を設けた繊維体について本発明を広く適用することができる。また、上記加熱冷却処理を妨げない範囲であれば他の施工条件も限定されない。
【0023】
本発明の金属被覆繊維体は良好な導電性を有することができる。具体的には、例えば、繊維体1cmについて1デニール当たりの電気抵抗が10000Ω/cm・デニール以下、好ましくは1000Ω/cm・デニール以下、さらに好ましくは100Ω/cm・デニール以下の導電性繊維体を得ることができる。なお、金属被覆量を低減することによって電気抵抗が10万Ω/cm・テ゛ニール以上の繊維体とすることもできる。また、特に銀や白金、ニッケル、スズなどの白色光沢金属を被覆したものは白色度(L値)50以上の白色度の高い導電性繊維体を得ることができる。なお、白色度はハンターの式に基づくLab法によって測定される。
【0024】
本発明の金属被覆繊維体は加熱徐冷処理後にさらに表面処理を施すことができる。この表面処理としては、反応性表面処理剤、金属表面と親和性のある界面活性剤、あるいはパラフィンやワックスによる防錆処理ないしオイル処理(オイリング)などを施すことができる。なお、この防錆処理によって白色度の経時的な低下や密着性(剥離強度)の低下を防止することができる。また、オイル処理を施すことにより繊維体表面の滑り性が向上する。
【0025】
このオイル処理は繊維体を織機や編機によって加工する際にその滑りを良くするので金属被覆の密着性の保護にもなる。金属被覆繊維体は実際に使用する際に、摩擦、剪断力、曲げ等の物理的な力を受け、その強さや頻度によって金属被覆の剥離や欠落が生じる。それらの度合いは直接的には金属被覆と繊維体との密着強度に基づくが、上記表面処理を施すことによって摩擦や剪断力などが緩衝され、その結果として金属被覆の剥離が防止される。また、金属表面は一般に一部が酸化して水酸基を有しているので、表面処理によって酸化を防止し防錆するのが好ましい。表面処理剤の使用量は金属の種類や加熱冷却処理の条件等にもよるが、概ね0.1〜20wt%の範囲が有効である。
【0026】
本発明の金属被覆繊維体は短繊維や長繊維、あるいは紡績糸や加工糸など各種の糸にして用いられる。また、金属被覆繊維を単独に用いる他に、合成繊維や天然繊維、あるいは合成繊維と天然繊維の混合繊維に混紡した混合繊維として用いることができる。
【0027】
さらに、本発明の金属被覆繊維体は織布または不織布などの布地材料や編物材料などとして用いることができる。この場合、銀やスズ、ニッケルなどを用いたものは高い白色度を有するので染色した際に発色性に優れ、テキスタイルや衣料品の布材に適する。さらに、銀などをコーテングしたものは抗菌繊維体および抗菌衣料として利用することができる。
【0028】
具体的な用途としては、抗菌性の靴下、下着、上着、白衣、寝具、シーツ、ナプキン、手袋、シャツ、ズボン、絨毯、マット、あるいは作業衣などが挙げられる。また、本発明の金属被覆繊維体は布地材料等に限らず、その導電性を利用して電磁波シールド材、無塵服や手袋、靴、カバー、作業衣など静電防止材料、あるいは電極や電線の軽量化を図る代替材料などに用いることができる。さらに、導電性有機材料への表面被覆による複合導電材料や繊維体強化プラスチックの導電性補強材などに用いることができる。
【0029】
〔製造方法〕
本発明の金属被覆繊維体は、高強度ナイロン系繊維体の表面に、電解メッキあるいは化学メッキなどによって金属被覆を設け、上記温度範囲で加熱処理し、冷却することによって得られる。なお、この金属被覆を設ける際に、予め繊維体表面をアルカリ等によってエッチング処理し、粗面化すれば被覆されるメッキ金属がこの繊維体表面の粗面に入り込んでアンカー効果を発揮するので更に好ましい。
【0030】
繊維体(原糸)に金属被覆を設ける際に、メッキ槽の内部に原糸をチーズ巻の状態にした巻糸体を装着するための固定軸を設け、この固定軸を中空の管材によって形成し、管壁に多数の通液孔を設け、この固定軸を通じて巻糸体の内側からメッキ液が流れ出すようにすると良い。このような装置構成によれば、メッキ液は固定軸を通じて巻糸体の内側から供給され、巻糸体の外部に向かって流れるので、繊維体間の間隙がメッキ液によって外側に押し広がられた状態となり、繊維体間の細部にまでメッキ液が浸透するので、チーズ巻きの状態でも繊維体の表面に金属メッキが均一に形成される。
【0031】
金属被覆(メッキ)を施した後にこの繊維体を乾燥し、上記温度範囲の加熱冷却処理を施す。この加熱処理はメッキ槽内に加圧水蒸気を導入して行っても良い。またはメッキ槽から巻糸体を取り出して、電気炉などに移して加熱処理しても良い。なお、加熱処理雰囲気は空気中でも良いが、金属被覆の酸化による変色を防止するためには窒素やアルゴン等の不活性雰囲気下で加熱処理を行うと良い。
【実施例】
【0032】
以下、本発明を実施例によって具体的に示す。表1に示す高強度ナイロン系繊維からなる繊維体をメッキ槽に入れ、以下の(イ)脱脂処理、(ロ)アルカリ処理・中和処理、(ハ)活性化処理を行った後、(ニ)無電解メッキを施し、さらに(ホ)加熱処理を施した。
【0033】
(イ)脱脂処理:脱脂液(エースクリーンA-220:奥野製薬工業社製品)の5wt%溶液を55℃でメッキ槽に5分間循環させた後、イオン交換水を通じて十分に洗浄した。
(ロ)アルカリ処理:脱脂処理後に20wt%水酸化ナトリウム溶液を70℃でメッキ槽に20分間循環させ、さらにイオン交換水を通じて十分に洗浄した後に5wt%濃塩酸溶液を室温でメッキ槽に2分間循環させた。
(ハ)活性化処理:アルカリ処理後に濃塩酸溶液と塩化パラジウム混合溶液(キャタリストC:輿野製薬工業社製品)をメッキ槽に室温で3分間循環させた後にイオン交換水を通じて十分に洗浄した。さらに10wt%硫酸溶液をメッキ槽に45℃で3分間循環させて活性化した。
(ニ)メッキ工程:以上の前処理によって繊維体表面に触媒を付着させた後に、表1に示す金、銀、ニッケル、銅について、各々のメッキ液をメッキ槽に循環させて金属被覆を形成した。
(ホ)加熱処理:金属被覆を形成した巻糸体を電気炉に装入し、表1に示す温度条件で加熱冷却処理した。
【0034】
これらの金属被覆繊維体について被覆の密着(剥離)強度を測定した。この結果を表1に示した。また金属被覆後に加熱処理を施さないものについて同様の試験結果を比較例として表1に示した。なお、、ポリフェニレンサルファイド系繊維、ポリカーボネート系繊維、アラミド繊維について同様に金属被覆を設けたものを参考例として示した。
【0035】
密着強度は繊維体や布の染色堅ろう度を示す規格試験(JIS L 0849)に準じた剥離強度試験に基づいて測定した。具体的には、試験試料の金属被覆繊維体の束に白色布を重ね、200gの荷重を加え、毎分30回の往復速度で100回往復摩擦を行い、白色布に付着した汚染度に基づき、汚染度の高い順(付着性の低い順)に1等級から5等級までの基準に従って剥離強度(密着強度)を判定した。また、導電性を測定した。導電性は繊維体の中央部10cm間の電気抵抗を測定し、150デニールの繊維体1cmについて、1デニール当たりの抵抗値(Ω/cm・デニール)を求めた。これを初期電気抵抗と摩擦100回後の電気抵抗について求めた。さらに、収縮率(伸縮率)について測定した。この収縮率は200℃の温度下で繊維体に1.5gの荷重を加えたときの伸縮長さである。これらの結果を表1に示した。
【0036】
表1の結果に示すように、金属被覆後に加熱処理を施した本発明の試料(A1,A2,A3,A4)は何れも剥離強度が4等級以上であるが、加熱処理を施さない比較試料(B1,B2,B3)は3等級以下であって、本発明の被覆(剥離)強度は格段に大きく、密着性に優れている。また、初期電気抵抗は差がないものの摩擦後の電気抵抗は比較試料より大幅に低く、優れた導電性を有する。さらに、比較試料の収縮率は−1%〜−2%の収縮を示すが、本発明の繊維体の収縮率は何れも0%以下であり、殆ど収縮せず、極めて安定である。
【0037】
【表1】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
高強度ナイロン系繊維体に金属被覆を設け、200〜500℃の温度範囲において、該繊維体の結晶化温度以上であって融解温度未満の温度で加熱処理してなることを特徴とする金属被覆繊維体繊維体。
【請求項2】
繊維体の結晶化温度以上であって融解温度未満の温度下における伸縮率が±4%以下である請求項1の金属被覆繊維体。
【請求項3】
繊維体の結晶化温度以上であって融解温度未満の温度下において、繊維体径(デニール値)の100分の1に相当するg荷重に対する伸縮率が±2%以下である請求項1または2の金属被覆繊維体。
【請求項4】
繊維体1cmについて1デニール当たりの電気抵抗が1000Ω/cm・デニール以下である請求項1〜3の何れかの金属被覆繊維体。
【請求項5】
被覆剥離試験において金属被覆が4等級以上の基準強度を有する請求項1〜4の何れかの金属被覆繊維体。
【請求項6】
繊維体が短繊維、長繊維、またはこれらの繊維からなる各種の糸である請求項1〜5の何れかの金属被覆繊維体。
【請求項7】
金属被覆が銀、金、白金、銅、ニッケル、スズ、亜鉛、バラジウム、またはこれらの混合物ないし合金からなる導電性金属である請求項1〜6の何れかの金属被覆繊維体。
【請求項8】
請求項1〜7の何れかの金属被覆繊維体の少なくとも1種を合成繊維、天然繊維、もしくは合成繊維と天然繊維の混合繊維に混紡した混合繊維体。
【請求項9】
請求項1〜8の何れかの金属被覆繊維体からなる織布または不織布。
【請求項10】
請求項1〜9の何れかの金属被覆繊維体からなる電線代替材料。
【請求項11】
高強度ナイロン系繊維体に金属被覆を設け、200〜500℃の温度範囲において、該繊維体の結晶化温度以上であって融解温度未満の温度で加熱処理することを特徴とする金属被覆繊維体の製造方法。
【請求項12】
1分間に0.1〜10℃の割合で昇温し、昇温した温度を5分〜200分保持する請求項11または12の製造方法。
【請求項13】
昇温した温度を保持した後に、1分間に0.1〜10℃の割合で室温まで徐冷する請求項12の製造方法。
【請求項14】
加圧水蒸気下もしくは電気炉内で、窒素ガスまたはアルゴンガスの不活性雰囲気下で、加熱徐冷処理する請求項11〜13の何れかの製造方法。

【公開番号】特開2007−63744(P2007−63744A)
【公開日】平成19年3月15日(2007.3.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−280915(P2006−280915)
【出願日】平成18年10月16日(2006.10.16)
【分割の表示】特願2001−324176(P2001−324176)の分割
【原出願日】平成13年10月22日(2001.10.22)
【出願人】(000006264)三菱マテリアル株式会社 (4,417)
【出願人】(597065282)株式会社ジェムコ (151)
【Fターム(参考)】