説明

金属製キャップ

【課題】螺子形成領域にナールが形成された金属製キャップにおいて、比較的多量の水滴が螺子部に付着した場合においても、優れた開栓性を示し、またナール加工が容易であり且つナール加工時にキャップの変形や破損が有効に防止され、さらには、スカート壁に形成される螺子の深さの測定精度が高く、確実な品質管理を行なうことが可能なものを提供する。
【解決手段】金属製のキャップシェル2の螺子形成領域15には、外方に突出し且つ右上がり方向に傾斜している複数の傾斜突条30からなる滑り止め用ナールが形成されており、隣り合う傾斜突条30の間隔は、3mm以上であり、傾斜突条30の上端を通る軸方向線Xには、隣接する傾斜突条30が交差していないことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属製キャップに関するものであり、より詳細には、螺子形成領域に滑り止め用のナールが形成されている金属製キャップに関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、アルミやブリキなどの金属製薄板を成形加工して得られる金属製キャップは、プラスチックキャップに比してガスバリア性が格段に優れており、しかも容器口部にがっちりと螺子係合により固定することができるため、炭酸飲料等の容器用のキャップなどとして広く使用されている。
【0003】
ところで、上記のような金属製キャップは、結露等によりキャップ表面に水滴がついたときには極端に滑りやすくなり、手で掴んで開栓方向に回転させにくく、開け難いという問題がある。このような問題を回避するために、金属製キャップのスカート壁の螺子部にナールを設けたキャップが提案されており、例えば、特許文献1には、この螺子部に傾斜した複数の突条からなるナールを設けた金属製キャップが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第3654589号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
即ち、特許文献1で提案されている金属製キャップは、螺子部に形成されているナールを形成している突条が傾斜しているため、軸方向に延びている突条を設けた場合に比して突条を長く形成することができ、この結果、キャップを開ける際、手とナール(突条)との接触部が長くなり、ナールの滑り止め防止効果が向上し、キャップの開栓性を高めることができるというものである。
【0006】
しかしながら、上記のようなナールを形成した場合においても、比較的多量の水滴がキャップ表面に付着している場合には、滑り止め防止効果が不満足となり、キャップの開栓性が低下してしまう傾向がある。
【0007】
また、多数の傾斜突条により螺子部にナールを形成した場合には、そのナール加工が困難となったり、ナール加工に際して金属製キャップの変形や破損などを生じ易いという問題もある。例えば、金属製キャップのスカート壁の螺子形成領域の下方には、弱化ラインを介してタンパーエビデンドバンド部が連なっているが、多数の傾斜突条を形成する場合には、ナール加工が過酷となり、この弱化ラインの破断或いは変形が生じ易くなる。
【0008】
さらには、傾斜突条からなるナールが螺子部に形成されている金属製キャップでは、その品質管理にも問題を生じていた。即ち、金属製キャップでは、金属製薄板の打ち抜き及び絞り加工により、円形天面壁及び該天面壁の周縁から垂下する円筒形スカート壁を有する金属薄板製シェルを成形し、次いでカッティング加工及びナール加工を行い、所定の部分に弱化ライン及びナール(傾斜突条)を形成した後に、容器口部に装着しての巻締め加工により螺子を形成することにより製造される。このようにして金属製キャップを製造した後、螺子の深さを測定し、設計とおりの構造の螺子が形成されているか否かを判定することにより、品質管理が行なわれる。しかるに、螺子が形成されている部分にナールが形成されていると、この螺子の深さの測定精度が低くなり、品質管理に問題が生じている。螺子深さの測定は、キャップの螺子部の外面に垂直方向に深さの基準となる治具を当接し、この治具の面に対してどの程度の深さで螺子が形成されているかを測定するのであるが、治具を当接する部分に傾斜突条が形成されてしまっているため、深さの基準となるキャップの外面と治具との間に空隙が形成されてしまい、この結果、ゲージによる深さの測定精度が低下してしまうのである。
【0009】
従って本発明の目的は、螺子形成領域にナールが形成された金属製キャップを提供することにあり、特に比較的多量の水滴が螺子部に付着した場合においても、優れた開栓性を示し、またナール加工が容易であり且つナール加工時にキャップの変形や破損が有効に防止され、さらには、スカート壁に形成される螺子の深さの測定精度が高く、確実な品質管理を行なうことが可能な金属製キャップを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者等は、螺子形成領域にナールが形成された金属製キャップについて多くの実験を行い、複数の傾斜突条によりナールを形成する場合には、傾斜突条の傾斜方向を右上がりとし且つ隣り合う傾斜突条の間隔を大きく設定することにより、上述した課題を全て解決し得ることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0011】
即ち、本発明によれば、円形天面壁及び該天面壁の周縁から垂下する円筒形スカート壁を有する金属薄板製シェルと、該シェル内に配設された合成樹脂製ライナーとを具備し、該シェルの該スカート壁には、螺子形成領域が形成されており、該スカート壁の螺子形成領域の下方には、弱化ラインを介して連なっているタンパーエビデンドバンド部が形成されている金属製キャップにおいて、
前記螺子形成領域には、外方に突出し且つ右上がり方向に傾斜している複数の傾斜突条からなる滑り止め用ナールが形成されており、
隣り合う前記傾斜突条の間隔は、3mm以上であり、
前記傾斜突条の上端を通る軸方向線には、隣接する傾斜突条が交差していないことを特徴とする金属製キャップが提供される。
【0012】
本発明の金属製キャップにおいては、
(1)前記傾斜突条は、前記軸方向線に対して15乃至45度の傾斜角θを有していること、
(2)前記傾斜突条の下端と前記弱化ラインとは、1.2乃至3.0mmの間隔を有しており、この部分にビードが形成されていること、
(3)前記スカート壁の前記螺子形成領域の上部には、外方に突出し且つ軸方向に延びている複数の軸方向突条が形成されており、各軸方向突条の延長線上のそれぞれに、前記傾斜突条の上端が位置していること、
が好適である。
【発明の効果】
【0013】
本発明のキャップでは、螺子形成領域に設けられているナールが複数の傾斜突条により形成されていると同時に、複数の傾斜突条の間隔が3mm以上とかなり広く設定されている。このため、キャップを開栓する際に、指先とナールとの接触部分を長くできるばかりか、比較的多量の水滴がキャップの表面に付着していた場合にも、指先を傾斜突条間に入れてしっかりとナール(傾斜突条)に押し当てることができるため、水滴による滑りを有功に抑制することができ、水滴による開栓性の低下を有効に回避することができる。
【0014】
また、傾斜突条が右上がりの方向で傾斜しているため、キャップを開栓方向(左回り)に回転させる際、指先と傾斜突条がしっかりと噛み合うため、ナール(傾斜突条)による開栓性向上効果が十分に発揮され、この点においても、優れた開栓性を示す。例えば、傾斜突条が右下がりの方向に傾斜している場合には、キャップを開栓方向(左回り)に回転させる際、傾斜突条が指から逃げる方向に傾斜していることとなり、この結果、指先が傾斜突条としっかりと噛み合わず、十分な開栓性を得ることが困難となってしまう。
【0015】
また、本発明においては、上記のように傾斜突条間の間隔が広く設定されているため、ナール加工が過酷とならず、ナール加工に際してのキャップの変形や破損、ナールが形成されている螺子形成領域の下方に形成されている弱化ライン部での変形や破損を有効に抑制することができる。しかも、このような傾斜突条の上端を通る軸方向線には、隣接する傾斜突条が交差していない。このため、ナール加工も何らの支障なく、スムーズに行うことができる。即ち、ナール加工は、外面にナール(傾斜突条)に対応する凸部を有する保持具をキャップ内に挿入して該キャップを保持し、この状態で凹凸を有する圧ローラを押し付けることによりナール(複数の傾斜突条)が形成されることとなる。この場合において、傾斜突条が隣の傾斜突条の上端を通る軸方向線と交差している場合には、上記の保持具からキャップを外すことが困難となってしまう。この取り外しは、保持具側からのエアーの吹き出しなどによって行なわれるが、この際にキャップが保持具に引っ掛かってしまうからである。しかるに、本発明では、上記のように軸方向線に傾斜突条が交差していないため、キャップが保持具に引っ掛からず、効率よく、スムーズにナール加工を終了させることができるのである。また、保持具への引っ掛かりなどにより、キャップ内面の塗膜などに傷が付くなどの不都合を生じることもない。
【0016】
また、本発明では、上記のように傾斜突条の上端を通る軸方向線に、隣接する傾斜突条が交差していないため、最終的に形成される螺子深さの測定を高精度で行なうことができ、品質管理にも不都合を生じないという予想外の利点も達成される。即ち、上記のように傾斜突条を形成する場合、軸線方向に傾斜突条が全く存在していない空間が形成されているため、螺子深さを測定するための治具を垂直方向に立ててキャップのスカート壁の外面に当接させる際、傾斜突条が全く存在していない部分に治具を当接することができ、この結果、治具の基準面とキャップ外面との間の空隙の発生を回避することができ、所定のゲージにより正確に螺子深さを測定することが可能となるのである。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明の金属製キャップの一例を示す側面図。
【図2】図1の金属製キャップの側断面図。
【図3】図1の金属製キャップが容器口部に巻締められている状態を示す一部断面側面図。
【図4】図1の金属製キャップを容器口部に巻き締める工程を説明するための要部側断面図。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明に従って構成された容器蓋の好適実施形態について、添付図面を参照して更に詳述する。
【0019】
図1乃至図3を参照して、全体として1で示されている本発明の金属製キャップは、金属薄板製シェル2と合成樹脂製ライナー3とから構成されている。
【0020】
金属薄板製シェル2は、例えば厚さが0.22乃至0.26mm程度のアルミニウム系合金製であり、円形天面壁5とこの天面壁5の周縁から垂下する略円筒形状のスカート壁7とを有する。
【0021】
ライナー3は、軟質ポリエチレンの如き適宜の合成樹脂から形成されるものであり、天面壁5の内面に合成樹脂溶融物を供給し、この溶融物を所要形状に型押成形することによって好都合に形成することができる。図示されている実施形態におけるライナー3は、比較的肉薄の円形中央部3aと比較的肉厚の環状周縁部3bとから構成されている。図1から理解されるように、環状周縁部3bには、下方に突出したリングが形成されており、後述する容器口部70と密着し得るような形状となっている。また、このようなライナー3は、環状周縁部のみからなる形状のものであってもよい。また、ライナー3は、上記の金属製キャップとは全く別個に成形されてキャップ内に嵌めこまれる中栓のようなものであってもよい。
【0022】
また、図1から明らかなように、スカート壁7の下端は、半径方向外方に膨出せしめられてビード9が形成されており、ビード9の下端部には、破断可能な複数のブリッジ11aとスリット11bとからなる弱化ライン11が形成されており、この弱化ライン11の下側に、タンパーエビデント(TE)バンド部13が連なっている。
【0023】
上記のスカート壁7の略中央部は、後述する巻き締めによって螺子が形成される螺子形成領域15となっており、この螺子形成領域15の上端には環状溝17が形成されている。この環状溝17は、後述する巻き締めに際しての押圧用の治具を導入するためのものである。
【0024】
上記の環状溝17の上方には、軸線方向に延びており且つ外方に突出している軸方向突条19が周方向に一定の間隔をおいて複数形成されている。また、図2から理解されるように、軸方向突条19の上端の間の部分には、それぞれ、周方向に延びているスリット21が形成されている。このスリット21は、開栓時に容器内圧のガス抜きを行うためのものであり、また、容器の口部(図3において70で示されている)に装着された状態でキャップを洗浄する際の洗浄水の導入口としての機能をも示す。さらに、軸方向突条19は、隣り合うスリット21同士が連続しないように設けられているものであるが、キャップを旋回させる際の滑り止めとしての機能をも有している。
【0025】
上記のような金属製キャップ1は、図4に示されているように、シェル2を容器口部70に被せて巻き締めを行うことによって容器口部70に巻き締められ、これにより、螺子形成領域15に螺子25が形成される。
【0026】
容器口部70は、金属、ガラス、硬質樹脂等からなるものであるが、図3及び図4では、金属製のものが示されている。即ち、この容器口部70の上端にはカール部71が形成され、側面には、螺子73が形成され、螺子73の下方には顎部75が形成されている。
【0027】
図4から理解されるように、キャップを容器口部70に巻締めるために、シェル2を容器口部70に被せると、容器口部70の上端(カール部71)に前述したライナー3の環状周縁部3bが対面し、また、TEバンド部13の下端が容器口部70の顎部75の下側に位置する。
【0028】
上記の状態で、容器口部70に被せられたシェル2を、外側押圧具77で容器口部70の上端に押さえ付けて、その肩部を変形させながら、螺子形成用ローラ79を、シェル2の環状溝17に導入し、次いでスカート壁7を押し付けながら容器口部70の螺子73に沿ってローラ79を回転させていくことにより、スカート壁7の螺子形成領域15に、容器口部70の螺子73と螺子係合する螺子25が形成されることとなる。一方、TEバンド部13の下端は、裾部巻き締めローラ81によって容器口部70の顎部75の下側に押し付けられ、顎部75の下側に沿って変形する。このようにして容器口部70に巻締め固定された金属製キャップ1が得られる。
【0029】
即ち、上記の巻き締め工程により、金属製キャップ1(シェル2)は、容器口部70に巻き締め固定され、容器口部70(カール部71)の上端及び外周部に前述したライナー3の環状周縁部3bが密着することにより、容器口部70が密封されることとなる(図3参照)。この状態において、スカート壁7は容器口部70の外面に螺子係合しており、且つTEバンド部13の下端は、容器口部70の顎部75の下側に固定されている。
【0030】
容器口部70に巻き締め固定されている図3の金属製キャップ1は、これを開栓方向に回転させていくことにより、スカート壁7が上昇して容器口部70から取り除かれるが、この際、TEバンド部13は、その下端が容器口部70の顎部75の下側に係合するために、その上昇が制限され、この結果、弱化ライン11中のブリッジ11aが破断し、TEバンド部13がスカート壁7から切り離される。従って、容器口部70から除去されたキャップでは、TEバンド部13が切り離されており、これにより、開封の事実を認識することができる。
【0031】
本発明においては、上述したキャップシェル1のスカート壁7の螺子係合領域15に、外方に突出し且つ傾斜している傾斜突条30が所定間隔で複数形成されている。これら複数の傾斜突条30が滑り止め用ナールとして機能する。即ち、図3に示されているように、このような傾斜突条30は、上述した巻締め工程で螺子形成領域15に螺子25を形成した際に、螺子25間の凹部25aとなる部分では押し潰されているが、外方に突出している螺子25の外面部分では潰されずに、そのまま突出した状態で残存している。
【0032】
従って、容器口部70に装着されたキャップを開栓方向に回転してキャップを開封する場合には、これらの傾斜突条30が滑り止め用のナールとして機能することとなる。また、環状溝17の上方部分に形成されている軸方向突条19も同様にして滑り止め用のナールとして機能するが、キャップを開栓する場合には、キャップの上方部分よりも螺子25が形成されている部分が強く握られるため、滑り止め用ナールとして機能するのは主として傾斜突条30であり、軸方向突条19は、補助的に滑り止め用のナールとして機能することとなる。
【0033】
再び、図1乃至図3に戻って、本発明においては、螺子形成領域15に形成されている多数の傾斜突条30は、開栓性を高めるために、外面から見て、右上がりに形成されていることが重要である。即ち、螺子係合により容器口部70に装着されている金属製キャップ1は、上方から見て、これを左回りに回転させることにより開栓され、容器口部70に装着する際には、右回りに回転させることとなる。しかるに、金属製キャップ1を指で握って左回りに回転させて開栓するとき、螺子形成領域15に形成されている傾斜突条30が右上がりに形成されている場合には、この傾斜突条30は、キャップ1を握っている指に向かうようにして上方から下方に延びていることとなるため、開栓に際して指に食い込むように当接し、滑り止めとしての機能が十分に発揮され、従って開栓性が高められることとなる。例えば、傾斜突条30が右下がり(左上がり)に形成されているときには、開栓に際して、傾斜突条30は、キャップ1を握っている指から逃げるようにして上方から下方に延びていることとなり、従って、傾斜突条30と指との当接が甘くなり、十分な開栓性を得ることが困難となってしまうのである。
【0034】
また、上記の傾斜突条30の傾斜角θは、15乃至45度の範囲にあることが好ましい。即ち、傾斜角θが大き過ぎる場合及び小さ過ぎる場合の何れにおいても、キャップ1を指で握って開栓する際、傾斜突条30と指との当接(或いは噛み合い)が甘くなってしまい、開栓性が低下する傾向にあるが、傾斜角θが上記範囲のときには、傾斜突条30と指とがしっかりと噛み合ってキャップ1を回転させることができ、十分な開栓性を確保することが可能となる。
【0035】
また、本発明においては、隣り合う傾斜突条30の間隔d(図1から理解されるように水平方向での間隔である)は、3mm以上であることも重要である。即ち、従来公知のキャップでは、滑り止め用のナールとして機能する突条の間隔はかなり狭く形成されていたが、本発明では、上記の傾斜突条30の間隔dを3mm以上と広く形成することにより、開栓性をさらに向上させることができる。
【0036】
即ち、本発明では、傾斜突条30の間隔dが比較的大きく設定されているため、指でキャップ1を握って開栓する際、指先の多くの部分を傾斜突条30の間に入り込ませることができるため、指と傾斜突条30(ナール)との接触長さを大きくすることができ、これにより開栓性を高めることができる。また、比較的多量の水滴がキャップ1の表面に付着していた場合にも、指先を傾斜突条30間に入れてしっかりと傾斜突条30に押し当てることができるため、水滴による滑りを有効に抑制することができ、水滴による開栓性の低下を有効に回避することができる。例えば、傾斜突条30の間隔dが上記範囲よりも小さい場合には、傾斜突条30間に入り込む指先部分が少なくなるため、この傾斜突条30の滑り止め防止効果が十分に発揮されないばかりか、水滴がキャップ1の表面に付着していた場合には、指先が十分に傾斜突条30間に入り込まないため、水滴による滑りによってキャップ1を開栓方向に回転させ難くなってしまい、開栓性の低下を免れないこととなる。
【0037】
また、上記のように傾斜突条30間の間隔dを比較的大きく設定することにより、ナール加工に際してのキャップ1の変形や破損を有効に防止することができるという利点もある。
【0038】
即ち、本発明の金属製キャップ1は、打抜き及び絞り成形などによって金属製のシェル2を形成した後に、ライナー3をシェル2の天面壁5の内面に設け、この後に、カッティング加工によりスリット21及び弱化ライン11(ブリッジ11a及びスリット11b)を形成し、さらにナール加工により軸方向突条19及び傾斜突条30を形成し、次いで、図4に示されている巻締め加工を行うことにより製造される。このような製造工程において、傾斜突条30を形成するためのナール加工は、外面にナール(傾斜突条30)に対応する凸部を有する保持具をシェル2内に挿入してシェル2を保持し、この状態で凹凸を有する圧ローラを押し付けることにより多数の傾斜突条30が形成されることとなる。
【0039】
このようなナール加工では、傾斜突条30の間隔dが狭く設定されていると、凹凸が密に形成された保持具や圧ローラを用いてシェル2が押圧変形されることとなり、従って、ナール加工が極めて過酷なものとなってしまう。しかも、傾斜突条30が形成されている螺子形成領域15の下方近傍には、弱化ライン11が形成されている。このため、傾斜突条30を形成するためのナール加工が過酷なものとなると、弱化ライン11中のブリッジ11aの変形や破断が生じ易くなってしまう。
【0040】
しかるに、本発明では、傾斜突条30の間隔dが比較的大きく設定されているため、密ではなく、疎な状態で凹凸が形成されている保持具や圧ローラを用いてナール加工が行われることとなり、従って、ナール加工が過酷なものとならず、弱化ライン11中のブリッジ11aの変形や破断を有効に防止することが可能となるのである。
【0041】
尚、本発明において、上記のような傾斜突条30の間隔dの上限値は、この傾斜突条30が滑り止め用のナールとして機能し得る程度の大きさとすべきである。必要以上に間隔dが大きいと、傾斜突条30の滑り止め機能が低下してしまうからである。このような間隔dの上限値は、キャップの大きさ(容器口部70の外径)などによって異なり、一概に規定することはできないが、一般的には、3乃至7mm程度に間隔dの上限値を設定するのがよい。
【0042】
さらに、本発明においては、上記の傾斜突条30は、この上端を通る軸方向線X(図1参照)に、隣接する傾斜突条30が交差しないように形成されていることも重要である。このような位置関係で多数の傾斜突条30を形成することにより、ナール加工をスムーズに格別の支障なく行うことができると同時に、最終的に形成される金属製キャップ1の品質管理も確実に行うことが可能となる。
【0043】
即ち、ナール加工が終了すると、傾斜突条30が形成されたシェル2は、保持具から取り外されて、次の巻締め工程に搬送されるが、軸方向線Xに隣接する傾斜突条30が交差していると、保持具からのシェル2の取り外しに支障が生じ易くなってしまう。例えば、保持具からのシェル2の取り外しは、保持具側からのエアーの吹き出しなどによって行なわれるが、この際にシェル2が保持具に引っ掛かってしまい、場合によっては、この際にシェルの内面に形成されている塗膜に傷が付いてしまうこともある。しかるに、本発明においては、軸方向線Xに隣接する傾斜突条30が交差しないように多数の傾斜突条30が形成されているため、保持具からの取り外しに際してシェル2が保持具に引っ掛かるという不都合を有効に回避し、スムーズにナール加工を終了させることが可能となる。
【0044】
また、上述した金属製キャップ1においては、図4に示されているように、シェル2を容器口部70に被せての巻締めにより螺子25を形成することにより、最終的に使用される形態に成形されることとなるが、品質管理の観点から、このような形成された螺子25の深さが測定され、目的とする形態の螺子が形成されているか否かが確認される。この深さが浅かったりすると、螺子係合が不安定となり、容器口部1に装着されたキャップ1ががたついてしまい、良好なシール性を確保することができなくなってしまい、また必要以上に深く形成されていると、締め付けが過度になっているため、開栓がし難くなってしまうこともあるからである。
【0045】
しかるに、螺子形成領域15に傾斜突条30が形成されている金属製キャップ1について螺子25の深さを測定する場合には、その測定精度が低くなるという問題を生じる。即ち、螺子25の深さは、所定の治具をキャップ1の外面(螺子25が形成されている部分)に垂直にあて、測定ゲージにより、この治具の基準面と螺子25間の凹部25aの底部との間隔を測定することにより求められる。この場合、螺子25の凹部25aでは、傾斜突条30が潰されているものの、図3から理解されるように、その凸部25bの表面には、傾斜突条30がそのまま残っているため、治具を当てたとき、治具が傾斜突条30の上に載った状態となってしまうため、治具の基準面と螺子25の凸部25bとの間に隙間が発生してしまい、この結果、螺子25の深さの測定精度にバラツキを生じてしまうからである。
【0046】
これに対して、本発明においては、傾斜突条30の上端を通る軸方向線Xに、隣接する傾斜突条30が交差していないため、上記のようにして螺子25の深さを測定する場合、その測定を精度よく行うことが可能となる。即ち、軸方向線Xに、隣接する傾斜突条30が交差していないということは、螺子25の凸部25b上に残っている傾斜突条30上に載らないように、測定治具をキャップ1の外面に垂直に当てることができること、換言すると、測定治具の基準面を螺子25の凸部25bに、空隙を形成することなく、直接当接させることができることを意味する。従って、螺子25の深さを、バラツキを生じることなく精度よく測定することが可能となり、品質管理を確実に行うことが可能となるのである。
【0047】
上述した本発明の金属製キャップ1においては、傾斜突条30の下端と弱化ライン11との間の間隔Lを1.2乃至3.0mmに設定されていることが好適である。例えばこの間隔Lが上記範囲の下限よりも狭いと、前述した巻き締め行程時のネジ形成時において、傾斜突条30の下部が引き延ばされ塑性変形量が大きくなり、近傍に存在する弱化ライン11(ブリッジ11a)の変形や破断を生じるおそれがある。また、間隔Lが上限より広いとネジ形成用ローラとの干渉を招くおそれがある。即ち、この間隔Lを上記範囲とすることにより、螺子形成領域15に傾斜突条30を形成した場合でも巻き締め行程のネジ形成に際する弱化ライン11(ブリッジ11a)の変形や破断を一層確実に防止することが可能となる。
【0048】
また、本発明において、螺子形成領域15の上方に形成されている軸方向突条19の数や間隔は特に制限されないが、図示されているように、多数の傾斜突条30に合わせて軸方向突条19を形成すること、具体的には、各軸方向突条19の延長線上のそれぞれに、傾斜突条30の上端が位置するような位置関係で軸方向突条19と傾斜突条30とが形成されていることが好適である。即ち、このような位置関係において、指が傾斜突条30と軸方向突条19との両方に接触した状態でキャップ1の開栓を行うことができるため、これらの突条30,19が一体となって滑り止め防止効果を発揮し、キャップの開栓性をさらに高めることが可能となるからである。
【実施例】
【0049】
本発明の金属製キャップの優れた効果を、次の実験例で説明する。
【0050】
開栓官能試験:
口径28mmのネジ付金属容器に巻締め可能な金属製容器蓋を4種作製し、金属容器に巻締め、それを4℃恒温室に2日保管した後、取り出した試料を用いて開栓官能試験を行った。また、最も開栓し難い条件として挙げられる、容器が結露した状態を想定して、容器蓋外面を濡らしたウェット状態で開栓する方法とした。試験はパネル数20人に上記4種の試料を開栓してもらい、「開けやすさ」に関する設問に対してSD法による5段階評価(開け易い:5点 ⇔ 開け難い:1点)の下、それぞれの開けやすさの評点をつけてもらった。
【0051】
<実施例1>
スカート壁外面のネジ形成領域に右上がりの傾斜突条が形成されている金属製容器蓋。
突条の傾斜角度 θ:30°(右上がり)
突条の間隔 d:3.7mm
突条下端と弱化ラインとの間隔 L:2.2mm
<比較例1>
スカート壁外面のネジ形成領域に突条が全く形成されていない金属製容器蓋。
<比較例2>
スカート壁外面のネジ形成領域に軸方向の突条が形成されている金属製容器蓋。
間隔d、Lは実施例1と全く同じ。
突条の傾斜角度 θ:0°(傾いていない)
<比較例3>
スカート壁外面のネジ形成領域に右下がりの傾斜突条(実施例1と反対方向の傾斜)が形成されている金属製容器蓋。
間隔d、Lは実施例1と全く同じ。
突条の傾斜角度 θ:−30°(右下がり)
【0052】
上記官能試験の結果より、試料4種類の開けやすさを比較した場合、本発明である実施例1が最も開け易く、次いで比較例2、比較例3、比較例1という結果であった。
【符号の説明】
【0053】
1:金属製キャップ
2:シェル
3:ライナー
5:天面壁
7:スカート壁
11:弱化ライン
11a:ブリッジ
13:タンパーエビデンドバンド部
15:螺子形成領域
19:軸方向突条
25:螺子
30:傾斜螺条

【特許請求の範囲】
【請求項1】
円形天面壁及び該天面壁の周縁から垂下する円筒形スカート壁を有する金属薄板製シェルと、該シェル内に配設された合成樹脂製ライナーとを具備し、該シェルの該スカート壁には、螺子形成領域が形成されており、該スカート壁の螺子形成領域の下方には、弱化ラインを介して連なっているタンパーエビデンドバンド部が形成されている金属製キャップにおいて、
前記螺子形成領域には、外方に突出し且つ右上がり方向に傾斜している複数の傾斜突条からなる滑り止め用ナールが形成されており、
隣り合う前記傾斜突条の間隔は、3mm以上であり、
前記傾斜突条の上端を通る軸方向線には、隣接する傾斜突条が交差していないことを特徴とする金属製キャップ。
【請求項2】
前記傾斜突条は、前記軸方向線に対して15乃至45度の傾斜角θを有している請求項1に記載の金属製キャップ。
【請求項3】
前記傾斜突条の下端と前記弱化ラインとは、1.2乃至3.0mmの間隔を有しており、この部分にビードが形成されている請求項1または2に記載の金属製キャップ。
【請求項4】
前記スカート壁の前記螺子形成領域の上部には、外方に突出し且つ軸方向に延びている複数の軸方向突条が形成されており、各軸方向突条の延長線上のそれぞれに、前記傾斜突条の上端が位置している請求項1乃至3の何れかに記載の金属製キャップ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2010−179941(P2010−179941A)
【公開日】平成22年8月19日(2010.8.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−25564(P2009−25564)
【出願日】平成21年2月6日(2009.2.6)
【出願人】(000000055)アサヒビール株式会社 (535)
【出願人】(000228442)日本クラウンコルク株式会社 (382)
【Fターム(参考)】