説明

金属製チューブの内面塗装方法、並びに、耐食性内面被覆金属製チューブ

【課題】 耐アルカリ性に優れたアルミチューブ容器を効率よく製造できるようにする。
【解決手段】 金属製チューブ容器1の基材2内面に、粘度の高い第1の耐食性塗料をコーティングした後、粘度の低い第2の耐食性塗料をコーティングすることによって、強アルカリ性内容剤に耐える均一な塗膜9を形成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、強アルカリ性内容剤などの収容に適した耐食性内面被覆金属製チューブ、並びに、金属製チューブの内面塗装方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、胴部を押圧して塑性変形させることによって内容物を外に押出す様に形成された金属製のチューブ容器、例えばアルミニウム製のチューブ容器がペースト状物、例えば、練り歯磨、化粧用クリーム、髭剃り後クリーム、脱毛クリーム、軟膏等の清潔保持用品、美容用品、理容用品、薬品、調味料及び香辛料等の食品、接着剤又は靴クリーム等を充填する為に多用されている。
【0003】
金属製のチューブ容器は、通常、塑性変形容易な金属製胴部と、この胴部の一端が連続的に肩部及び頸部に終わる金属製本体部を備えている。このチューブ容器の胴部における他端の裾部は折り締められて閉塞されており、口頸部はキャップによって開放自在に閉塞されている。
【0004】
この様なチューブ容器では、胴部を形成する金属が内容物を変質させない様な施策に加えて、内容剤が金属製胴部を腐食させない様な施策が強く望まれている。
【0005】
従来より、この様なチューブ容器として、口頸部が位置する端部と反対側の端部が開放された状態の金属製本体部(外筒部)内部に、それと略相補形の樹脂製内筒を挿入し、樹脂製内筒の開放端部から内容物を充填し、次いで金属製外筒を介して加圧・加熱して内筒の開放端をヒートシール又は折り締めによってシールしたチューブ容器、所謂二重チューブ型押出チューブ(略称「二重チューブ容器」)が既に実用化されている。
【0006】
しかし、この二重チューブ容器を作成するには、金属製外筒部に加えて樹脂製内筒部が必要であること、多数の製造工程を要すること、金属製外筒部と樹脂製内筒部との位置合わせ及び寸法公差の差異調整が困難なこと等の種々の改善すべき点を残していることから、製造コストの増大が避け難いという問題があった。それに加えて、この種の二重チューブ容器は使用後の廃棄に際しても、樹脂部分と金属部分とに分離する予備作業を要する点で、作業効率に欠けるという不利な面も残している。
【0007】
しかも、この種の二重チューブ容器(複合押出チューブ容器)では、内部に装着される樹脂製内筒部がその厚さ及び弾性によって元の形状に復帰しようとすることから、内容物の完全排出困難に加えて、外気引込み防止も困難であった。
【0008】
かかる二重チューブ容器の欠点を改善するものとして、金属製胴部内面に、樹脂成分として熱硬化性樹脂が含まれた耐食被膜形成性樹脂組成物をスプレーコーティング等で塗装し、得られた塗膜を加熱硬化させた熱硬化性耐食樹脂被膜で塗装されたチューブ容器が既に知られている。この耐食樹脂被膜で塗装されたチューブ容器は上述の二重チューブ容器と比較して、その構造及び製造が比較的簡単で低コストで済むという利点がある。その理由は別途作成の樹脂製内筒部を要しないことによる。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
近年、毛染め剤や薬品などにおいて非常に高いアルカリ性を示すものが開発され、かかる強アルカリ性内容剤を収容可能なアルミチューブ容器が強く要望されている。
【0010】
上記塗装法による内面コーティングを行う場合、アルカリや酸などに強い性質を有する耐食性樹脂組成物からなる塗料を、スプレーガンによってスプレーコートできる粘度となるまで希釈して塗装しているが、特に高い耐アルカリ性が要求される場合には数回の重ね塗りにより所定の膜厚を確保する必要がある。
【0011】
しかし、平滑性を有する程度の粘度の低い塗料を重ね塗りした場合、塗装1回あたりの塗膜の膜厚は2〜3ミクロン程度が限界であり、これを超えると塗膜に液だれが生じてしまう。したがって、3回の重ね塗りを行っても、塗膜全体の膜厚は10ミクロン未満程度の薄い膜しか形成することができない。このような薄い塗膜の場合、本願発明者らの試験によれば、塗装表面の目視による検査では綺麗な仕上がりに見えても、ミクロンオーダーのピンホールが表面に形成されることが多いことが判明した。
【0012】
一方、1回の塗装によって形成できる塗膜の膜厚を大きくするために粘度を高くすると、スプレーコートした直後に塗膜表面が平滑化(レベリング)せず、塗膜表面に多数の凹凸が生じ、凹部は金属製チューブ基材と内容剤との距離が小さくなることから、充填保管後短期間で腐食が生じてしまう。また、最も膜厚の小さい凹部において十分な耐食性を示す膜厚を確保しようとすると、凸部の膜厚が異常に厚くなりすぎ、塗膜の割れが生じる可能性がある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記課題を解決するために、本願発明は、次の技術的手段を講じた。
【0014】
すなわち、本発明は、金属製チューブ容器の基材内面に、第1の耐食性塗料をコーティングした後、さらに第2の耐食性塗料をコーティングする金属製チューブ容器の内面塗装方法であって、第1の耐食性塗料の未硬化時の粘度が、第2の耐食性塗料の未硬化時の粘度よりも大きいことを特徴とする金属製チューブ容器の内面塗装方法である。
【0015】
かかる本発明の塗装方法によれば、高い耐薬品性などを得るために、従来技術のように同一の塗料を重ね塗りするのではなく、まず粘度の高い第1の耐食性塗料をスプレーコートなどの適宜の方法により塗布することにより十分な膜厚を確保し、この段階で第1塗膜表面に凹凸が形成されたとしても、粘度の低い第2の耐食性塗料をさらにスプレーコート等の適宜の方法で塗布することによって塗膜の内表面をレベリングすることができ、塗膜全体の膜厚を少ない重ね塗り回数で10〜30ミクロン、より好ましくは15〜20ミクロン程度の十分な厚さとしつつ、表面の平滑性の高い内面コートが形成できる。好ましくは第1の耐食性塗料の塗膜の膜厚を12ミクロン〜15ミクロン程度とすることができ、第2の耐食性塗料の塗膜の膜厚を3〜5ミクロン程度とすることができる。第2の耐食性塗料の粘度は、30〜60秒(FC#4/25℃)であることが好ましく、20秒以下であると塗装が流れて塗膜にムラが生じ、70秒以上であると3ミクロン程度の塗装膜圧では塗装面がかさつくという問題が生じるおそれがある。
【0016】
上記本発明の内面塗装方法において、第1の耐食性塗料は、基材内面にコーティングされた未硬化状態において表面平滑性を呈しない粘度並びに表面張力を有し、第2の耐食性塗料は、基材内面にコーティングされた未硬化状態において表面平滑性を呈する粘度並びに表面張力を有することが好ましい。
【0017】
より好ましくは、第1の耐食性塗料をコーティングした後、第2の耐食性塗料をコーティングする前に、コーティングされた第1の耐食性塗料を100℃未満の温度雰囲気下で中間乾燥させることができる。これによれば、第2の耐食性塗料をムラなく均一に塗装できるようになる。かかる中間乾燥は40℃以上100℃未満、より好ましくは60℃〜90℃の温度雰囲気下で、10〜30秒程度行えば十分である。40℃以上というのは、塗装の前工程に金属チューブの焼き鈍し炉があるため、チューブ自体の温度が高く40℃未満の温度雰囲気とすることができないからである。また40℃〜50℃程度では乾燥が甘く塗装面にムラが生じやすく、100℃以上では内面塗料に溶剤を使用すると問題が生じる。
【0018】
なお、第2の耐食性塗料を内面コーティングした後、第1及び第2の耐食性塗料の乾燥・焼き付け工程を備えることができる。この乾燥・焼き付けは、270℃〜290℃の温度雰囲気下で行うことが好ましく、300℃以上であるとクラッシャー試験で割れや亀裂が発生するおそれがあり、260℃以下であるとクロスカット、ラビング試験で剥離が生じるおそれがある。
【0019】
また、本発明は、上記内面塗装方法によって塗装された耐食性内面被覆金属製チューブ容器において、第1の耐食性塗料からなる第1塗膜と、第2の耐食性塗料からなる第2塗膜との界面の平滑度よりも、第2塗膜の内表面の平滑度が大きいことを特徴とする耐食性内面被覆金属製チューブである。
【発明の効果】
【0020】
本発明方法によれば、第1の耐食性塗料として、粘度の高い塗料を溶媒により希釈せずとも、その塗料単独、或いは、他の塗料との混合物のいずれをも採用することができ、自由に塗膜の膜厚をコントロールすることができる。そして、塗膜の膜厚、すなわち、チューブ容器基材と内容剤との距離を自由にコントロールすることができるため、強アルカリ性の薬品等を収容することも可能となり、内容物のアルカリ成分配合量に合わせた耐アルカリ性内面コートチューブを製造することが可能となる。
【0021】
また、塗装装置も従来のものを使用することができ、新規設備も必要ではない。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
図1は、本発明の一実施形態に係るアルミチューブ容器を示している。該チューブ容器1は、筒状に形成され、裾部1aで折り締められて、内部に収容物を収容するよう設けられており、具体的には、胴部3と該胴部3の一端に連続する肩部5及び口頚部7とを備えた金属製基材2(チューブ本体)と、口頚部3と肩部5と胴部1の内壁面に形成された耐食樹脂被膜9と、基材2の裾部(尾端)内面に形成されたシーリング膜11とを備え、高粘度液体又は粘稠物を収容する為に好適な容器である。
【0023】
該基材2の口頚部7の外周には雄ネジが刻設され、この雄ネジはチューブ容器1に冠装されるキャップ(図示せず)の内壁の雌ネジと、着脱自在に係合する。この種のチューブ容器1の基材2においては、その胴部3が塑性変形可能な材料及び壁厚からなっている。この様な胴部3を形成する材料としては、アルミニウム、アルミニウム合金、錫、錫合金及び鉛等から選ばれる金属塊を後方押出しによって薄層管状に塑性変形させて得られた薄膜管状体を例示できる。本実施形態では、この胴部3の一端に連続する肩部5及び口頚部7は、胴部3と同一の材料から形成されているが、本発明では肩部5及び口頚部7の材質は別段に限定されてはおらず、プラスチック製の口頸部7及び肩部5を、これとは別途成形した金属製胴部3に固着することも可能である。この様な胴部3の形成材料の内でも多くの用途においては、アルミニウム及びその合金類が好ましく、特に金属アルミニウムが多用されている。
【0024】
本実施形態のチューブ容器1における耐食樹脂被膜9は、図2に示すように、基材2の内面に第1の耐食性塗料をコーティングすることにより形成された第1塗膜9aと、この第1塗膜9aに第2の耐食性塗料をコーティングすることにより形成された第2塗膜9bとからなり、各塗膜の形成方法は、例えば、開放端(裾部1a)から内部に挿入される棒状ノズルから胴部内側に向けてワニスまたはクリアー等の塗料を噴霧するスプレーコート法によって形成するのが好適である。なお、各塗膜9a,9bは、それぞれが重ね塗りによって必要な膜厚とすることができる。
【0025】
折り締められる裾部1aの内面には、熱可塑性樹脂材の塗装によって、接着力を有さないシーリング膜11が形成されている。該シーリング膜11は、筒状裾部1aの全周にわたって形成している。該シーリング膜11は、ガラス転移点約70℃のポリエステル系樹脂材により構成でき、このため、常温域(50℃以下)で裾部1aを折り締めても、裾部1aが密閉されることがなく、裾部1aを介して容器内部のガス抜きができる。なお、図示例では、二点鎖線で示すように、裾部1aを、下端から二つ折りした状態で折り締めているが、三つ折りした状態で折り締めることも可能であり、この場合でも、シーリング膜11が接着性を有しないため、ガス透過性を確保し得る。
【0026】
また、シーリング膜11は、例えば、ポリエステル系の樹脂を基本成分とし、適宜の顔料、添加物等を含有するものであって良い。また、塗装は、スプレー塗装として、自然乾燥又は加熱乾燥を行い、粘度80±10秒/FC#4・25℃、不揮発分27±2%、溶剤組成としてトルエン/MEK=58/15、レジューサーとしてFNレジューサーを用いることができる。また、該シーリング膜11は、厚み30μm〜60μmが好適である。
【0027】
上記耐食樹脂被膜9の各塗膜9a,9bを形成する耐食性塗料(樹脂組成物)としては、適宜のものを採用することができ、例えば、タナカケミカル株式会社製の「AON 302T−100グレー」(粘度 60±5秒FC#4/35℃)や「AON ND−15」(粘度 42±5秒FC#4/25℃)を採用することができ、この第1及び第2の耐食性塗料の粘度は溶剤を添加すること等によって適宜調節することができる。例えば、「ND−15」を第1の耐食性塗料として使用し、「100グレー」を第2の耐食性塗料として使用する場合は、「100グレー」に溶剤を混ぜて「ND−15」よりも粘度を小さくして使用することができる。また、「100グレー」を第1の耐食性塗料として使用し、「ND−15」を第2の耐食性塗料として使用することもできる。
また、各耐食性塗料として、以下に詳細に説明するものを好適に用いることができる。
【0028】
例えば、各塗膜9a,9bを形成する塗料は、グリシジルエーテル型エポキシ樹脂(A)を基本成分とし、これにフェノール−ホルムアルデヒド重合体(B)及びメラミン−ホルムアルデヒド樹脂(C)の組合せである第1耐食被膜形成性樹脂組成物、並びに、グリシジルエーテル型エポキシ樹脂(A)を基本成分とし、これに更にポリイミド樹脂(D)が添加された第2耐食被膜形成性樹脂組成物を有することができる。
【0029】
前記第1耐食被膜形成性樹脂組成物はその樹脂内訳として、グリシジルエーテル型エポキシ樹脂(A)を基本成分とし、これにフェノール−ホルムアルデヒド重合体(B)及びメラミン−ホルムアルデヒド樹脂(C)が共存するものである。
【0030】
また、前記第2耐食被膜形成性樹脂組成物はその樹脂内訳として、グリシジルエーテル型エポキシ樹脂(A)を基本成分として、これにポリイミド樹脂(D)が共存するものである。
【0031】
上記第1耐食被膜形成性樹脂組成物及び第2耐食被膜形成性樹脂組成物の何れにも樹脂成分として含有されるグリシジルエーテル型エポキシ樹脂(A)は金属製チューブ本体の内壁面に耐食樹脂被膜を形成させる目的で従来より用いられているエポキシ樹脂の何れであっても良く、塗装(塗布等)の際に要求される樹脂組成物の性状、形成すべき耐食樹脂被膜に要求される物性等を考慮して適宜選択して用いることができる。
【0032】
この種のグリシジルエーテル型エポキシ樹脂(A)を形成するエポキシ樹脂部分として具体的には、ビスフェノールA型、ビスフェノールF型、水添ビスフェノールA型、臭素化ビスフェノールA型、ビスフェノールS型、ビスフェノールA/F型、1,1−ビス(4−ヒロドキシフェニル)エタン型(ビスフェノールAD型)、1,1−ビス(4−ヒロドキシフェニル)−1−フェニルメタン型(ビスフェノールBA型)、1,1−ビス(4−ヒロドキシフェニル)−1−フェニルエタン型(ビスフェノールAP型)、ジオキシビフェニル型(例えば、p,p’−ジオキシビフェニル型)、ジオキシナフタレン型又はジオキシフルオレン型及びテトラプロモビスフェノールA型等を例示することができる。これらエポキシ樹脂は単独で用いられても、2種以上の組合せで用いられてもよい。
【0033】
これらのエポキシ樹脂の内でも好ましいものはビスフェノールF型のグリシジルエーテル型エポキシ樹脂(A1)である。その根拠は前記エポキシ樹脂(A1)を用いて形成された耐食樹脂被膜からは、近年話題となっている内分泌撹乱関係物質の溶出可能性が全く無いという観点に求められる。
【0034】
また、用いられるグリシジルエーテル型エポキシ樹脂(A)は固形であっても液状であってもよいが、取扱い易さ及び工程管理等の観点から、温度25℃における粘度通常100〜5000cps、好ましくは100〜2000cpsの液状エポキシ樹脂であることが望ましい。
【0035】
グリシジルエーテル型エポキシ樹脂(A)は通常、二官能性(ジグリシジルエーテル)エポキシ樹脂又は多官能性(ポリグリシジルエーテル)エポキシ樹脂の何れであってもよいが、二官能性であることが望ましい。
【0036】
さらに、グリシジルエーテル型エポキシ樹脂(A)はそのエポキシ当量(g/エポキシ基数)に特に限定を受ける訳ではないが、液状体の場合には、エポキシ当量通常150〜450、好ましくは165〜390のものであることが望ましい。
【0037】
前記第1耐食被膜形成性樹脂組成物は上掲のグリシジルエーテル型エポキシ樹脂(A)、グリシジルエーテル型エポキシ樹脂(A)、フェノール−ホルムアルデヒド重合体(B)及びメラミン−ホルムアルデヒド樹脂(C)の合計100重量部中にこのグリシジルエーテル型エポキシ樹脂(A)を通常60〜80重量部、好ましくは65〜75重量部、更に好ましくは68〜72重量部の量で含んでいる。
【0038】
前記第1耐食被膜形成性樹脂組成物には、その樹脂成分として上記グリシジルエーテル型エポキシ樹脂(A)と共に、フェノール−ホルムアルデヒド重合体(B)及びメラミン−ホルムアルデヒド樹脂(C)が含まれており、これらの(B)及び(C)はこの第1耐食被膜形成性樹脂組成物から形成された塗膜が硬化する際に架橋剤として作用する。即ち、これらの作用によって、格段に優れた硬化塗膜が形成されることになる。
【0039】
前記第1耐食被膜形成性組成物中で架橋剤として作用するフェノール−ホルムアルデヒド重合体(B)としては、フェノール類とホルムアルデヒド類(パラホルムアルデヒドをも包含)とを酸触媒の存在下に縮合させて得られたノボラック型フェノール−ホルムアルデヒド重合体(処方次第ではアルコール可溶性)、フェノール類とホルムアルデヒド類(パラホルムアルデヒドをも包含)とをアルカリ触媒の存在下に縮合させたレゾール型フェノール−ホルムアルデヒド重合体(熱硬化性ではあるが液状)、フェノール類とホルムアルデヒド類(パラホルムアルデヒドをも包含)とを液状樹脂又は油の存在下に縮合させた油溶性改質フェノール樹脂等を例示できる。これらのフェノール−ホルムアルデヒド重合体(B)は単独でも、2種以上の組合わせで用いられてもよい。
【0040】
前記「フェノール−ホルムアルデヒド重合体」を構成するフェノール類は狭義の「フェノール」に留まらず、そのアルキル1個以上の置換体である「アルキルフェノール類」及びヒドロキシ基(オキシ基)を2個以上含有する「多価フェノール類」、「ポリオキシフェノール類」に加えて、アルキル基及び2個以上のオキシ基を併有する「アルキルポリオキシフェノール類」であっても良い。この種の化合物は例えば、o−クレゾール、p−クレゾール及びm−クレゾール;1,2,3−キシレノール、1,2,4−キシレノール及び1,3,5−キシレノール;o−エチルフェノール、p−エチルフェノール及びm−エチルフェノール;カテコール(1,2−ジオキシベンゼン)、レゾルシノール(1,3−ジオキシベンゼン;レゾルシン)及びヒドロキノン(1,4−ジオキシベンゼン;ハイドロキノン)等を例示することができる。
【0041】
前記第1耐食被膜形成性樹脂組成物はフェノール−ホルムアルデヒド重合体(B)を、グリシジルエーテル型エポキシ樹脂(A)、フェノール−ホルムアルデヒド重合体(B)及びメラミン−ホルムアルデヒド樹脂(C)の合計100重量部中、通常2〜15重量部、好ましくは2〜10重量部、更に好ましくは3〜9重量部の量比で含有することができる。かかる特定量比でフェノール−ホルムアルデヒド重合体(B)が含有されることによって、アルミニウム等から形成された金属チューブ表面に対する塗膜の接着強度(剥離強度基準)、塗膜自体及びそれと基材金属表面との間の対する性(耐水剥離強度)並びに塗膜自体の機械的強度及び電気絶縁性の何れにも優れるという利点が生じる。
【0042】
第1耐食被膜形成性樹脂組成物中で架橋剤として作用するメラミン−ホルムアルデヒド樹脂(C)はメラミンとホルムアルデヒド類(パラホルムアルデヒドをも包含)との反応によって生じるメチロールメラミンを重縮合させて得られ、メラミンの分子鎖上のアミノ基がホルムアルデヒド類に由来するメチレン基を介して相互に結合した重合体であり、メラミン単位が3個のアミノ基を有することから、硬化時には空間網目構造(三次元網目構造)を有している。
【0043】
前記「メラミン−ホルムアルデヒド樹脂(C)」はメチロールメラミン又はエーテル化メチロールメラミンをも包含する。更に、「メラミン−ホルムアルデヒド樹脂」とは、広義には「グアナミン樹脂」をも包含する概念である。
【0044】
また、前記第1耐食被膜形成性樹脂組成物の成分として用いられるメラミン−ホルムアルデヒド樹脂(C)は次の優れた性状を発現する。即ち、第1耐食被膜形成性樹脂組成物中のメラミン−ホルムアルデヒド樹脂の含有量は前者100重量部に対して、後者通常18〜30重量部、好ましくは20〜30重量部、更に好ましくは21〜27重量部の量に選ばれれば、所望の目的達成に通常は十分である。ここで、前記の第1耐食被膜形成性樹脂組成物はグリシジルエーテル型エポキシ樹脂(A)、フェノール−ホルムアルデヒド重合体(B)及びメラミン−ホルムアルデヒド樹脂(C)で形成されたものである。
【0045】
第1耐食被膜形成性樹脂組成物は上記の特定量でメラミン−ホルムアルデヒド樹脂(C)を含有することによって、耐食被膜が耐酸性に優れると共に、耐アルカリ性(耐塩基性)にも優れており、被膜形成性樹脂組成物の塗布に際してピンホールが殆ど発生せず、しかも、塗膜の架橋処理後にも柔軟性が温存されるという利点を有する。
【0046】
前記第2耐食被膜形成性樹脂組成物はこの種のグリシジルエーテル型エポキシ樹脂(A)を基本成分として、これにグリシジルエーテル型エポキシ樹脂(A)及びポリイミド樹脂(D)の合計100重量部に対して、エポキシ樹脂(D)が通常60〜80重量部、好ましくは68〜75重量部、更に好ましくは68〜72重量部の量比(割合)で共存することが好ましい。第2耐食被膜形成性樹脂組成物は、上記の特定量比でグリシジルエーテル型エポキシ樹脂(A)を含むことにより、下掲の様な各種の臨界的効果を発現することができる。
【0047】
前記第2耐食被膜形成性樹脂組成物は、その基本樹脂成分として上記グリシジルエーテル型エポキシ樹脂(A)と共に、ポリイミド樹脂(D)を含有しており、このポリイミド樹脂(D)は第2耐食被膜形成性樹脂組成物によって形成された塗膜の硬化に対して、架橋剤としてそれを支援する。即ち、この架橋剤(D)は格段に優れた硬化塗膜を形成させるという効果を発現する。
【0048】
前記第2耐食被膜形成性樹脂組成物中で架橋剤として作用するポリイミド樹脂(D)は好ましくは、芳香族ジアミンと芳香族ジカルボン酸アンハイドライド(酸無水物)とを反応させて形成されたポリアミン酸を重縮合させて得られる樹脂である。
【0049】
上記の種のポリイミド樹脂(D)は上記のポリアミン酸をも包含する。本実施形態で用いられるポリイミド樹脂(D)の好適製造原料の中でアミン側に属する芳香族ジアミンとしては、例えば、フェニレンジアミン、ジアミノジフェニル、ビス(アミノフェニル)メタン及びビス(アミノフェニル)エーテル等から選ばれる1種以上であって。その中でも好ましいものはm−フェニレンジアミン、ビス(アミノフェニル)メタン及びビス(アミノフェニル)エーテルを挙げることができる。
【0050】
上記ポリイミド樹脂(D)の好適製造原料の中でカルボン酸側に属する芳香族ジカルボン酸アンハイドライド(無水物)としては、例えばトリメリット酸無水物及びピロメリット酸無水物を挙げることができる。これらは単一種類に限らず、両者の混合物としても用いられ得る。両者の中で実用上好ましいものはトリメリット酸無水物である。
【0051】
また、「ポリイミド樹脂(D)」は包括概念であって、単一ポリイミド樹脂(単一重合単位で形成された樹脂;D1)に加えて、ポリイミドアミド樹脂(D2)及び両者の各種比率における混合物(D3)をも包含する。
【0052】
前記第2耐食被膜形成性樹脂組成物はその100重量部中に、この種のポリイミド樹脂(D)を通常20〜40重量部、好ましくは23〜38重量部、更に好ましくは27〜34重量部の量比で含有することができる。
【0053】
前記第2耐食被膜形成性樹脂組成物は上記の量比でポリイミド樹脂(D)を含有することによって、塗膜の強度が向上することに加えて、その熱安定性が向上するという利点を有する。
【0054】
前記第1耐食被膜形成性樹脂組成物及び第2耐食被膜形成性樹脂組成物はそれぞれ、以上説明された必須の樹脂成分の他に、他の樹脂を含んでいても良い。この種の「他の樹脂」としては、例えば、ユリア樹脂等を挙げることができる。
【0055】
この種の「他の樹脂」は通常、グリシジルエーテル型エポキシ樹脂(A)、フェノール−ホルムアルデヒド重合体(B)及びメラミン−ホルムアルデヒド樹脂(C)の合計(A+B+C)100重量部に対して、通常5〜20重量部、好ましくは7〜16重量部の割合で用いられる。
【0056】
また、各耐食被膜形成性樹脂組成物は必要に応じて、下掲の様な硬化剤及び硬化促進剤、溶剤及び可塑剤等の粘度調整剤、乾燥促進剤及び界面活性剤等の少なくとも何れかを含んでいても良い。
【0057】
〔アミン系硬化剤〕
・脂肪族ポリアミン系硬化剤例えば、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン、ジシアンジアミド及び有機ジカルボン酸ジヒドラジド例えば、マロン酸ジヒドラジド、コハク酸ジヒドラジド、グルタル酸ジヒドラジド、アジピン酸ジヒドラジド等から選ばれる1以上;
・芳香族アミン系硬化剤例えば、m-キシリレンジアミン、ジアミノジフェニルメタン、m-フェニレンジアミン及びジアミノジフェニルスルホン等から選ばれる1以上)等;
・脂環族アミン系硬化剤例えば、イソホロンジアミン及び1,3−ビス(アミノメチル)シクロヘキサン等から選ばれる1以上;
【0058】
〔酸無水物系硬化剤〕
例えば、ドデセニルコハク酸無水物、ポリアゼライン酸無水物、テトラヒドロフタル酸無水物、ヘキサヒドロフタル酸無水物、メチルヘキサヒドロフタル酸無水物、メチルナジック酸無水物、トリメリット酸無水物、ベンゾフェノンテトラカルボン酸無水物及びヘット酸無水物から選ばれる1以上。
【0059】
上記耐食被膜の効果を促進する手段としては、その成分に応じて紫外線照射、電子線照射、加熱等を挙げることができる。
【0060】
「揮発分」と称される溶剤及び可塑剤等は耐食被膜形成性樹脂組成物から所望の樹脂濃度及び粘度のワニス又はクリアー等を調製する為に用いられるものであるから、濃度調整剤及び/又は粘度調整剤と称することもできる。
【0061】
上記の粘度調整剤としては例えば、下掲の芳香族系溶剤、アルコール系溶剤、エステル系溶剤、ケトン系溶剤、エーテル系溶剤などを挙げることができる:
【0062】
〔芳香族系溶剤〕
トルオール(トルエン)、キシロール(キシレン類)、ソルベントナフサ、ハイソルベンシイナフサ等。
【0063】
〔アルコール系溶剤〕
・脂肪族アルコール系溶剤、具体的にはメタノール、エタノール、ブタノール類、アミルアルコール(ペンタノール類)、オクタノール類(2−エチルヘキサノール)、ジアセトンアルコール。
・脂環族アルコール類、具体的にはシクロヘキサノール及びメチルシクロヘキサノール等。
・芳香族アルコール類、具体的にはベンジルアルコール及びメチルベンジルアルコール等。
【0064】
〔エステル系溶剤〕
・脂肪族エステル系溶剤、具体的には酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸アミル、酢酸オクチル及びプロピレングリコールメチルエーテルアセテート等。
・脂環族エステル系溶剤、具体的には酢酸シクロヘキシル等。
・芳香族エステル系溶剤、具体的には酢酸ベンジル。
【0065】
〔ケトン系溶剤〕
・脂肪族ケトン系溶剤、具体的にはアセトン、メチルエチルケトン(MEK)、メチル−i−ブチルケトン(MIBK);
・脂環族ケトン系溶剤、具体的にはシクロヘキサノン、メチルシクロヘキサノン;
・芳香族ケトン系溶剤、具体的にはアセトフェノン、プロピオフェノン及びベンゾフェノン等;
【0066】
〔エーテル系溶剤〕
具体的にはエチレングリコールモノメチルエーテル(エチルセロソルブ)、エチレングリコールモノエチルエーテル(エチルセロソルブ)、エチレングリコールモノブチルエーテル(ブチルセロソルブ)、ジオキサン等を例示することができる。
【0067】
上記の溶剤の種類及び使用量等はそれらの溶剤に対する樹脂成分の溶解性等並びに得られる耐食被覆形成性樹脂組成物の溶液(ワニス又はクリアー等)に要求される溶存樹脂濃度に応じて及び/又は溶液粘度等に応じて適宜選択され得るものであって、単一溶剤の形態でも、それらの2種以上の組合せ溶剤の形態でも用いられ得る。好ましくは、第1塗膜9aを形成する塗料に用いられる溶剤の種類と、第2塗膜9bを形成する塗料に用いられる溶剤の種類とを同一とするのがよい。
【0068】
本発明においては、第1塗膜9aを形成する第1の耐食性塗料の粘度が、第2塗膜9bを形成する第2の耐食性塗料の粘度よりも大きくなるように、上記溶剤の種類及び使用量が選定される。特に、第1の耐食性塗料は、基材内面にコーティングされた未硬化状態において表面平滑性を呈しない粘度並びに表面張力を有し、第2の耐食性塗料は、基材内面にコーティングされた未硬化状態において表面平滑性を呈する粘度並びに表面張力を有することが好ましい。
【0069】
ここで、「表面平滑性を呈する」とは、塗料を基材内面に所定量スプレーコートした直後に形成される表面の凹凸がレベリングされるように塗料が表面張力により流動することであり、「表面平滑性を呈しない」とは、塗料を基材内面に所定量スプレーコートした直後に形成される表面の凹凸が塗料の表面張力によってもレベリングされないことである。
【0070】
これにより、図2に示されるように、第1塗膜9aと第2塗膜9bとの界面の平滑度よりも、第2塗膜の内表面の平滑度が大きく、特に第2塗膜の内容面はほぼ平坦となされている。
【0071】
上記の各塗膜9a,9bは、以上で説明された原料組成物即ち、上記第1耐食被膜形成性樹脂組成物又は第2耐食被膜形成性樹脂組成物を、腐食が特に忌避される金属製のチューブの基材内面に塗布、噴射(スプレー;吹付け)又は電着等の手段で塗装されて被膜(塗膜)を形成し、これが硬化されて完成されるものである。この「硬化」は感覚的な表現であって、その実態は種々である。即ち、硬化の実態は例えば、化学反応による硬化、紫外線その他の高エネルギー線照射による硬化、電子線等の荷電粒子線照射による硬化等に分類され得るが、化学反応による硬化の中にも、重合反応、縮合反応、架橋反応等に伴う分子量増大及び/又は網目構造形成等が複雑に絡み合っているものと解されている。
【0072】
塗膜の硬化は更に具体的には、先ず耐食被膜形成性樹脂組成物に、所望によって上記硬化剤、硬化促進剤、粘度調整剤及び他の添加剤の中から選ばれる少なくとも何れかを加えて所期の粘度に調整されたワニス又はクリアーを任意の従来公知の塗装方法(塗布方法)例えば、スプレーコート法、刷毛塗り法、浸漬法(ディッピング法)又は電着法(アニオン電着法及びカチオン電着法の何れか最適なもの)によって基材内面に塗装して塗膜を形成させる。
【0073】
被塗布体としては例えば、金属製チューブを選び、この内壁面に塗布して塗膜を形成させる。塗膜形成時には、塗膜が所定厚さに達するまでに複数回に分けて段階的に塗料の塗布を行なうことができる。通常、これら複数回の塗布操作では例えば、1回の塗布操作と、塗布後のワニス又はクリアー中の溶媒の揮散除去に加えて、樹脂成分間の架橋反応を行なわせる中間乾燥操作とが繰り返して行なわれることもある。また、第1塗膜9aの塗装と第2塗膜9bの塗装の間にも、中間乾燥が行われる。
【0074】
この種の中間乾燥は「焼付け」ではないことから、温度通常60〜90℃で乾燥時間通常10〜40秒程度行なえば殆どの場合には十分である。このような繰返し塗装によって、塗装に伴い易い、未硬化塗膜の垂れ下がり防止及び塗膜中におけるピンホールの発生防止等を、塗膜のクラック発生を伴わずに効率的に実現することができる。
【0075】
塗膜形成操作後には、塗膜の硬化(焼付け)操作が行なわれる。この硬化操作は、硬化温度通常230〜300℃で、硬化時間3〜10分行なえば通常の目的には十分である。勿論、これらの条件は使用する塗料の具体的物性によって適宜要求される条件範囲は異なってくる。
【0076】
この様な操作によって形成される耐食樹脂被膜はその耐薬品性、中でも耐アルカリ性に加えて、耐酸性にも特に優れている。
【図面の簡単な説明】
【0077】
【図1】本発明の実施形態に係るチューブ容器の一部破断縦断面図である。
【図2】同チューブ容器の胴部の拡大断面図である。
【符号の説明】
【0078】
1 チューブ容器
2 基材
9a 第1塗膜
9b 第2塗膜

【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属製チューブ容器の基材内面に、第1の耐食性塗料をコーティングした後、さらに第2の耐食性塗料をコーティングする金属製チューブ容器の内面塗装方法であって、第1の耐食性塗料の未硬化時の粘度が、第2の耐食性塗料の未硬化時の粘度よりも大きいことを特徴とする金属製チューブ容器の内面塗装方法。
【請求項2】
請求項1に記載の金属製チューブ容器の内面塗装方法において、第1の耐食性塗料は、基材内面にコーティングされた未硬化状態において表面平滑性を呈しない粘度並びに表面張力を有し、第2の耐食性塗料は、基材内面にコーティングされた未硬化状態において表面平滑性を呈する粘度並びに表面張力を有することを特徴とする金属製チューブ容器の内面塗装方法。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の金属製チューブ容器の内面塗装方法において、第1の耐食性塗料をコーティングした後、第2の耐食性塗料をコーティングする前に、コーティングされた第1の耐食性塗料を100℃未満の温度雰囲気下で中間乾燥させることを特徴とする金属製チューブ容器の内面塗装方法。
【請求項4】
請求項1,2又は3に記載の金属製チューブ容器の内面塗装方法によって塗装された耐食性内面被覆金属製チューブ容器において、第1の耐食性塗料からなる第1塗膜と、第2の耐食性塗料からなる第2塗膜との界面の平滑度よりも、第2塗膜の内表面の平滑度が大きいことを特徴とする耐食性内面被覆金属製チューブ。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2006−160289(P2006−160289A)
【公開日】平成18年6月22日(2006.6.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−350727(P2004−350727)
【出願日】平成16年12月3日(2004.12.3)
【出願人】(000206185)大成化工株式会社 (83)
【Fターム(参考)】