説明

金属製品、金属製品の製造方法およびその使用

菅、薄板、箔、線、繊維あるいはバーの形態の金属基材を有する金属製品は、二つ以上の異なる層からなる装飾性被膜を有する。一つの層は金属あるいは合金に基づき、一つの層は透明な酸化物に基づく。この製品は、連続プロセス内でPVDにより製造され、家庭用の装置、携帯電話、あるいは衣服中のボタンおよびジッパーなどのいろいろな顧客関連の製品に使用される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
以下の開示は、金属基材および被膜からなる金属製品に関する。被膜は二以上の独立した層を含み、そのうちの一つの層は金属あるいは合金からなり、一つの層は透明な酸化物の層からなる。更に、本開示は、装飾的表面を必要とする製品を製造する方法と装飾的表面を必要とする製品の使用に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、被膜形成により得られる装飾的表面を有する薄板、線などの形態の金属製品は、いろいろな用途に使用できる。若干の例は、アウトドアライフ用製品、スポーツ用製品およびシーライフ用製品である。これらの金属製品はまた、家庭用製品、ドアハンドル、カメラ、携帯電話および他の電話製品に使用できる。更にこれらの金属製品は食品包装として使用できる。更に、装飾的表面を有する金属薄板は、いろいろなナイフおよび鋸製品に使用できる。なお別の応用は、カミソリ装置、あるいは腕時計、眼鏡、化粧用製品、香水瓶の蓋、あるいは衣服のボタンおよびジッパーのような身の回り用品にある。
【0003】
被膜が基材に良く接着していることが大切である。若干の上記製品において、金属基材上の被膜が剥離するか亀裂を生じる高い危険性がある。更に、これらが腐食性環境で使われることがある。したがって、耐食性被膜を有することもまた重要である。更に、被膜が使用中に変色しないことが重要である。例えば、食品包装製品の場合、表面が変色していると、食品製品の売上げ低下に至ることがあるが、これは顧客が食品製品もまた何か良くないことがあると機械的に思うからである。また、ある場合には、被膜が均一な厚さを有していることが必要とされることがある。すなわち、被膜あるいは製品自体の厚さの公差が少ないことを必要とする製品が要求されることがある。
【0004】
更に、経済的理由により、もし薄板が連続多段ロール送りプロセスで製造できるならば、最終製品が、製造された薄金属板から製造されるのが好ましい。したがって、被膜もまた更に、熱水脱脂のような洗浄工程はもちろんのことスリッティング操作、スタンピングおよび/あるいは成形に耐えられることが重要である。
【0005】
金属材料上に装飾的表面仕上げをする幾つかの一般的な方法がある。例として、以下が挙げられる。
【0006】
◆ 陽極酸化処理は、種々の色に使用できる公知の方法である。この方法は通常、アルミニウムあるいはアルミニウム合金上に使用されるが、マグネシウム、亜鉛およびチタン上にもまた使用できる。比較的低電流密度で数分間酸電解質水溶液を使用して、アルミニウムを電解セルの陽極にする。結果として生じる酸化物フィルムは、通常5〜25 μm の厚さであり、アルミニウムを、例えば、より耐食性、より耐磨耗性とする。フィルムは多孔性かつ吸収性なので、着色物質で染色することもできる。黒、青、赤、紫および緑のような色を着色できるが、最も一般的な表面は未着色である。よう々な陽極酸化仕上げが小さな電気器具および家の壁板のアルミニウム部品に見出される。しかしながら、明白な短所は、陽極酸化処理を直接に、例えば、ステンレス鋼上に使用できないことである。
【0007】
◆ 蒸着法は、金属製品の着色に使用される場合がある。金属窒化物を成分の表面に適用して、発色させることがよくある。しかしながら、大抵の方法はバッチ処理によるプロセスであり、これは一片一片仕上げ成分に被膜形成を行うことを意味する。このような方法の一つの明白な短所は、この方法が連続的でなく、したがって、行うと非常に経費がかかるということにある。消費者関連の製品についてのバッチ被膜形成の一例は、U.S. Pat. No. 6,197,438 B1(ここで参照したことにより本開示に取り込む)に明らかにされ、ここではセラミックが被膜形成された食器が装飾的効果のため、すなわちラッカーを塗った表面外観を作り出すため、窒化珪素、アルミニウムあるいはダイアモンド状炭素で被膜形成される。バッチPVDによる装飾的被膜形成の更なる例がU.S. Pat. No. 5,510,512に開示され、ここではバッチプロセスにおける窒素雰囲気中での金―バナジウム合金の陰極スパッタリングにより装飾的金色が被膜形成され、またEP-A 1,033,416でも開示されていて、ここではバッチPVDにより装飾的ブロンズ色が得られる。
【0008】
◆ 一つの普通に用いられる方法は、金属表面を有色のラッカーなどで塗装することである。しかしながら、ほとんどの塗装方法では、仕上がり部材の1つ毎に塗装が行われる。このような方法の一つの明白な短所は、連続した多段ロール送りプロセスではないため、実施には非常に経費もかかる点である。連続塗装方法は通常は使用できない。それは、更なる処理、例えば、表面に欠陥あるいは剥離を生じることなしに成形操作を行うには接着が不十分だからである。また、塗料は通常更なる熱処理に耐えられない。
【0009】
以上のように、金属基材上に装飾表面を付与するために、上記の被膜およびその被膜を形成するプロセスを本発明には使用できない。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
したがって、被膜の使用により金属基材上に装飾表面を提供するのが本発明の第一の目的である。
【0011】
本発明の更なる目的は、金属基材に良く接着している被膜を完成することである。
【0012】
本発明の更なる目的は、連続した多段ロール送りプロセスにおいて蒸着できる経費効率性の良い装飾性被膜を金属基材上に得ることである。
【0013】
本発明の別の目的は、金属基材上にできるだけ均一な厚さを有する被膜を完成させることである。
【0014】
本発明のなお別の目的は、同時に良好な成形性を有しながら装飾性表面を有する金属製品を提供し、該金属製品の顧客関連製品を製造できるようにすることである。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明は、金属材料の基材と装飾性被膜を有する金属製品に関する。本発明はまた、PVDを用いて連続多段ロール送りプロセスにおけるこのような金属製品の製造に関する。
【0016】
装飾的被膜は、金属あるいは合金の少なくとも一層および透明な酸化物の一層を金属基材上に適用することにより得られる。金属あるいは合金の層を、好ましくは基材と透明な酸化物の間に配置できる。被膜はまた、更なる金属層あるいは酸化物、窒化物、炭化物あるいはこれらの混合物の層などの更なる層を含むことができる。
【0017】
装飾性被膜は、多段ロール送りプロセスにおいて物理蒸着(PVD)により15 μm未満、好ましくは10 μm未満、最も好ましくは5 μm未満の厚さを有する均等に分布した層に蒸着される。用いられる好ましいPVD法は、電子ビーム蒸着(EB)かあるいはスパッタリングである。EB蒸着法は当該技術に熟達している者には公知であり、例えば、著者Siegfried Schiller, Ulrich HeisigおよびSiegfried Panzerによる著書、Electron Beam Technology(電子ビーム技術)、Verlag Technik GmbH Berlin 1995, ISBN 3-341-01153-6に総合的に記載されており、またスパッタリングおよび蒸着が著者Milton Ohringによる著書、The Materials Science of Thin Films (薄膜の材料科学)、Academic Press, Boston 1992, ISBN 0-12-524990-X の第三章に総合的に良く記載されている。両文献はここで参照したことにより本開示に取り込む。
【0018】
二層以上を有する被膜を用い、ここに一層は金属あるいは合金からなり一層は透明な酸化物からなる、金属基材、例えばステンレス鋼の薄板、の上に装飾性表面を形成できることがかくして発見された。
【0019】
製品は、10 m/min、好ましくは25 m/min以上の最小速度で連続多段ロール送りプロセスで製造され、このプロセスは生産ライン中に含まれ、PVDを用い、インラインのエッチングチャンバを含む。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
<金属基材>
金属基材は繊維、線、薄板、箔、バーあるいは菅の形態であり得る。一つの好ましい実施態ようは、基材が箔あるいは薄板の形態の場合である。
【0021】
更に、金属基材は良好な基礎的耐食性を持たなければなら〜たがって、金属基材は、例えば、Cr含量が他の合金元素に応じて10% 以上であるステンレス鋼である。基材材料の他の例は、NiあるいはNi基合金、AlあるいはAl基合金、CuあるいはCu基合金およびTiあるいはTi基合金である。金属基材材料はまた、良好な成形性を有していなければならない。というのは被膜形成後に更に基材を加工して最終製品が望みの形状および性質を持つことが可能でなければならないからである。可能な加工には、例えば、成形、深絞り、パンチング、スタンピング、熱処理などがある。
【0022】
適当なステンレス鋼の例としては、AISI 400シリーズのフェライト系クロム鋼、300シリーズのオーステナイト系ステンレス鋼、焼入れ性クロム鋼、二相ステンレス鋼あるいは析出硬化型ステンレス鋼がある。また、コバルト添加あるいは高Ni鋼合金といった他のステンレス鋼を使用できる。更に、Al、Ti、CuあるいはNiをベースにした合金もまた使用できる。
【0023】
もちろん、基材材料は最終製品の個々の用途に適合しなければならない。引張り強度、疲労強度、硬さ、幾何学的形状などのパラメーターは、最終製品の個々の要求事項に合わせなければならない。例えば、ナイフ製品の場合、基材は、好ましくは薄板の形態であり、ナイフ製品の使用対象である材料に抗し得る、すなわちその材料を切断できる必要がある。
【0024】
基材が、例えば、薄板の形態であるならば、薄板は好ましくは幅が1,500 mm以下であり、薄板厚さが通常は5 mm未満、好ましくは3 mm未満であり、長さが100 mm以上である。被膜形成工程を行なった結果として、最終製品の品質は5少なくとも5 kmまでの薄鋼板長さで保証できる。好ましくは、薄板の幅と厚さは、意図する最終製品の最終幅を作るのに適当な幅と厚さであるように選択される。
【0025】
<被膜>
本発明の被膜は少なくとも二つの異なる層からなる。一層は5 nm〜5 μm、好ましくは100 nm〜2 μmの金属層である。他の層は、厚さ5 nm〜5 μm、好ましくは10 nm〜2 μmの透明酸化物の層である。
【0026】
被膜は金属基材に良く接着し、金属基材が、例えば、成形あるいは何らかの熱処理により、更に加工しなければならない時に、被膜が剥離したり、亀裂が入ったりするのを避ける。また、被膜は均一である。実際、厚さは±10%の範囲で制御できる。
【0027】
層厚さの厳しい公差はまた、被膜の外観、例えば色の一貫性を達成するのに有利である。かくして、高い被膜厚さ公差のおかげで、5 kmあるいはもっと長い長尺の基材についてさえも、秀れた色一貫性が達成された。比較的高い送り速度の故に、これらの長尺の基材が可能になった。
【0028】
片面被膜および両面被膜の両方を用いることができる。経済的見地からは、片面被膜が適用できる場合、すなわち片面のみが装飾的に見えることが要求される場合、製品について片面被膜のみが用いられる。
【0029】
上記のように、被膜は二つ以上の層からなる。一つの層は金属層あるいは合金層であり、他の層は透明な酸化物の層である。透明な酸化物の例は、MgO、Al2O3、TiO2および SiO2 である。金属層は次の金属、Ag、Al、Au、Co、Cu、Fe、Mn、Si、Sn、Ti、V、W、Zn、Zrあるいは、例えば青銅あるいは真鋳のようなこれらの合金、の一つからなる。
【0030】
更に、図1で説明される一つの好ましい実施態ようによれば、金属層2は、金属基材1と透明な酸化物層3の間に位置する。別の好ましい実施態ようによれば、金属層は透明な酸化物の層よりも厚い。
【0031】
被膜は、上記の二層に加えて、更に他の層を含むこともできる。これらの付加的な層は、同じ組成でも異なる組成でもよい。例えば、別の金属あるいは合金の層が被膜の一部であり得る。更に、酸化物、窒化物、炭化物あるいはこれらの混合物が被膜に含まれることができる。これらの付加的な層は、被膜中の何処にでも位置できるが、好ましくは透明な酸化物層の外側には位置しない。
【0032】
本開示は、主として比較的薄い被膜に適している。被膜は、通常は基材の各片面の合計厚さが15 μm以下である。通常は、各片面の被膜は合計で10 μm以下、好ましくは5 μm 以下である。
【0033】
酸化物が金属層の外側に位置する場合には、金属層の色は酸化物を通して輝き、これにより被膜の色に寄与する。また、透明な酸化物層を用いる長所は、酸化物層内の干渉により、より鮮やかな外観が得られる可能性があることである。
【0034】
更に、金属層ならびに透明な酸化物層は、被膜の更なる要求事項、例えば、耐摩耗性、耐食性あるいは硬度に寄与する可能性がある。
【0035】
例えば最終製品が使用されるべき最終的な用途により必要ならば、上記種々の層に加えて、被膜を備えた金属基材にペイントあるいはラッカーを塗ることもできる。これは被膜形成直後に行なうこともてきるが、例えば、熱処理あるいは成形のような更なる処理工程後に行なうこともできる。基材を最終製品、例えば腕時計あるいはカミソリ替刃に既に成形済の場合には、ペイントやラッカーは、例えば、被膜形成された表面に加えることが可能である。ペイントやラッカーの目的は、更なる耐食性あるいは恐らく被膜形成された金属基材の輸送の際の更なる保護を提供することである。
【0036】
<被膜形成工程>
被膜媒体および被膜形成工程を適用するための種々の物理蒸着法および化学蒸着法は、これらが連続した均一で接着性のある層を提供する限り使用できる。化学蒸着(CVD)、有機金属化学蒸着(MOCVD)、スパッタリングおよび抵抗加熱、電子ビーム、高周波誘導、アーク抵抗あるいはレーザー蒸着による蒸着などの物理蒸着(PVD)が典型的な蒸着法として挙げられるが、本発明については、特に二つの蒸着法、電子ビーム蒸着(EB)あるいはスパッタリングが蒸着に好ましい。必要ならば、緻密で装飾的な層の被膜形成の良品質な被膜を更に確保するためにEB蒸着をプラズマ活性化できる。
【0037】
PVD技術の使用による長所は、非常に薄い層あるいは被膜を薄板上に蒸着できることおよび秀れた接着および均一性を保ちながら、連続的な方法で行うことができることである。被膜の厚さの公差は、すでに述べたように±10%の低さである。
【0038】
本発明にとっては、被膜形成法を、10 m/min、好ましくは25 m/min の最小基材速度で多段ロール送り製造ラインに組入れて、コスト効率の良い生産性を達成し、また熱影響を最小にすることによる基材材料の性質を維持できるようにすることが必要条件である。もし熱影響を最小にできなければ、最終製品の性質を劣化させる危険性がある。上記の条件下で、電子ビーム蒸着(EB)などの PVD による蒸着あるいはスパッタリングによる蒸着により、被膜層を多段ロール送りプロセスにおいて蒸着させる。インラインで幾つかの蒸着チャンバを組入れることにより種々の層を形成できる。金属層の蒸着は、最大圧力が1 x 10-2 mbarの減圧雰囲気下で、本質的に純粋な金属薄膜を確保するために反応性ガスの添加なしで行わなければならない。金属酸化物の蒸着は、減圧下、チャンバ内に反応性ガスとして酸素源を添加して行なう。酸素の分圧は、1〜100 x 10-4 mbarの範囲とする。もし他のタイプの被膜、例えばTiN、TiCあるいはCrN、あるいはこれらの混合物などの金属炭化物および/あるいは金属窒化物の被膜を形成する場合は、反応性ガスの分圧について、被膜形成の際の条件を調節して、意図した化合物の形成を可能にしなければならない。酸素の場合、H2O、O2あるいはO3などの反応性ガス、好ましくはO2が使用できる。窒素の場合、N2、NH3、あるいはN2H4などの反応性ガス、好ましくはN2が使用できる。炭素の場合、反応性ガスとして任意の炭素含有ガス、例えばCH4、C2H2あるいはC2H4が使用できる。
【0039】
良好な接着を可能にするために、種々の種類の洗浄工程を用いる。先ず第一に、基材材料の表面を適正な方法で清浄にしてすべての油残渣を除かなければならない。油残渣があると、被膜形成工程の効率および被膜の接着および品質に負の影響を及ぼすことがある。更に、例えば、鋼表面に通常常に存在する非常に薄い、製造の際に生じた酸化物層は除去しなければならない。この除去は、好ましくは、被膜の蒸着前に表面を前処理することにより行われる。したがって、この多段ロール送り製造ラインにおいて、第一製造工程としては、金属表面のイオンエッチングを行なって第一層の良好な接着を達成することが好ましい。
【0040】
上述したように、薄板速度は10 m/min以上、好ましくは25 m/min以上であるが、もっと高速で行うことができる。
【0041】
装飾的被膜は、数回の工程で形成してもよい。この場合、基材全体に最初に一つの層を形成し、その後に一回または複数回の工程を更に行なって別の層を形成する。一層が金属あるいは合金で一層が透明な酸化物である限り、これら種々の層は、同じ組成でも異なる組成でもよい。更に、被膜形成はまた、インライン上の幾つかの別個のチャンバ内で行われ、各チャンバ中では被膜の異なる層が形成される。この場合もまた、異なる層は同じ組成でも異なる組成でもよい。
【0042】
更に、ベルトは被膜形成されるのと同時に特別な冷却手段で冷却される。すなわち、冷却は、ベルトの被膜形成されるのと反対側の面で行われる。冷却によりベルト上の熱影響が制御され、基材の性質が実質的に維持される。
【0043】
基材の両面に被膜形成する場合、この被膜形成の工程を一度に片側に行うか、同時に両側に行うことができる。
【0044】
既に述べたように、被膜形成工程後の基材に、ペイントあるいはラッカーを塗ることができる。この追加の被膜層形成の目的は、例えば輸送の際の保護あるいは最終製品が用いられる環境の保護である。
【実施例】
【0045】
以下に、幾つかの実施例を用いて、本発明をより詳細に説明する。これらの実施例は本発明を制限するとみなされるのではなく、単に説明的な性格であると考えるべきである。これらの実施例は、薄板の形態の基材の例を説明するが、これは単にこのような形状にするのが簡単なためである。これらの基材は、箔、繊維、線、バーあるいは菅の形態にすることもできる。
【0046】
〔実施例1〕
上記の方法により、Cuの層次いでTiO2の層を形成した0.10 mm厚さのステンレス鋼薄板の形態の試料1を製造した。この基材材料は、C 7%、Si 0.4%、Mn 0.7%、P0.025%以下、S0.010%以下、Cr 13%の組成を有していた。Cuの厚さは約0.5 μmであり、TiO2の厚さは約22 nmであった。
【0047】
被膜の基材への接着性を試験するために、標準SS-EN ISO 7483にしたがって曲げ試験を行った。最小曲げ半径は薄板の厚さと等しく、曲げ試験は90°を超えて行った。更に、試験は、同じ曲げ半径について3回づつ、それぞれ被膜形成方向に対して直角方向および平行方向について行った。表1に結果を示す。表中、にWは試験薄板が健全であり、被膜が剥離などの傾向を示さないことを意味し、Cは基材に亀裂が生じたことを意味し、Bは基材が破断したことを意味する。
【0048】
【表1】

【0049】
試料を被膜形成方向に平行に試験(半径0.25 mmより大、0.50〜0.80 mm)した時、試料の破断/亀裂発生の理由は次のようである。この場合の被膜形成方向は、薄板の圧延方向と同じであり、基材は冷延状態にあったので基材自体が曲げ試験に耐えられなかった。しかしながら、被膜はこれらの試験で剥離などの傾向を示さなかった。
【0050】
〔実施例2〕
実施例1による試料1の色を、L*、a*およびb*値で色が記述できるCIE Labを使って試験した。
【0051】
更に、試料1と同じ基材上に表2の被膜を備えた付加的な試料を同じ方法で試験した。
【0052】
【表2】

【0053】
CIE(国際照明委員会:そのフランス語タイトルCommission Internationale d’EclairageからCIEと略されている)は、照明の科学と技術に関するすべての事柄についてメンバー国間で国際的協力および情報の交換に尽力する組織である。
【0054】
CIEは、平均的な観察者により知覚できる任意の色を記述する三刺激値としてXYZ値を標準化したものである。これらの原色は非現実的、すなわち、これらの原色は実際の色刺激によって実現することができない。この色空間は、知覚し得る各視覚刺激は正のXYZ値で記述されるように選ばれる。CIE XYZ色空間の非常に重要な属性は、装置依存性がないことである。
【0055】
CIE XYZからCIE Labへの変換は、次式により行われる。
【0056】
L* = 116(Y/Yn)1/3 - 16
a* = 500[(X/Xn)1/3 - (Y/Yn)1/3]
b* = 200[(Y/Yn)1/3 - (Z/Zn)1/3]
三刺激値Xn、Yn、Zn、は通常は白を対象とする色刺激(white objective-colors stimulus)についてのものである。L*値は黒から白までの範囲の輝度であり、a*値は緑から赤まで、b*値は青から黄までに対応する。図2も参照のこと。
【0057】
二つの色間のリニアな色差式
ΔE = [(ΔL)2 + (Δa)2 + (Δb)2]1/2
この場合、L*値、a*値およびb*値は、ミノルタ分光光度計CM-2500d 10° D65を用いて測定した。設定は下記のとおりであった。
【0058】
Mask/Gloss M/SCI
UV設定 UV 100%
ILLUMINANT1 D65
OBSERVER 10°
表示 DIFF & ABS
L*値、a*値およびb*値を3回試験し、表3に示す結果は3回の平均である。
【0059】
【表3】

【図面の簡単な説明】
【0060】
【図1】図1は本発明の被膜を有する金属基材の模式図である。
【図2】図2はCIE L*a*b*色空間の模式的説明図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材と被膜を有する金属製品であって、該基材が金属材料である金属製品において、該被膜が二層以上を含み、そのうちの一層は金属あるいは合金からなり、別の一層は透明な酸化物からなることを特徴とする金属製品。
【請求項2】
金属あるいは合金の層がAg、Al、Au、Co、Cu、Fe、Mn、Si、Sn、Ti、V、W、ZnあるいはZr、あるいはこれらの合金から選ばれることを特徴とする、請求項1に記載の金属製品。
【請求項3】
透明な酸化物がMgO、TiO2、Al2O3あるいはSiO2、あるいはこれらの混合物から選ばれることを特徴とする、請求項1または2に記載の金属製品。
【請求項4】
透明な酸化物の層が金属あるいは合金の層よりも薄いことを特徴とする、請求項1から3までのいずれか1項記載の金属製品。
【請求項5】
基材が薄板、箔、線、繊維、バーあるいは菅の形態であることを特徴とする、先行する請求項のいずれか1項に記載の金属製品。
【請求項6】
被膜が表面にラッカーあるいはペイントの層を含むことを特徴とする、先行する請求項のいずれか1項に記載の金属製品。
【請求項7】
先行する請求項のいずれか1項に記載の金属製品を製造する方法であって、10 m/min の最小基材速度の連続多段ロール送りプロセスで、基材をエッチングした後にPVD技術により被膜形成し、前記エッチングおよび被膜形成はインラインで行なう、ことを特徴とする金属製品の製造方法。
【請求項8】
被膜形成中の基材の速度が25 m/min 以上であることを特徴とする、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
被膜形成工程の後で、被膜を備えた基材にラッカーあるいはペイントを塗ることを特徴とする、請求項7または8に記載の方法。
【請求項10】
アウトドアライフ用製品、シーライフ用製品およびスポーツ用製品、家庭用装置、ドアハンドル、カメラ装置、携帯電話および他の電話製品、ナイフ、鋸、カミソリ装置、あるいは腕時計、眼鏡、化粧用製品、衣服のボタンおよびジッパー、香水瓶などのような身の回り用品用の製品などの顧客関連製品の製造における請求項1から6までのいずれか1項記載の製品の使用。

【図1】
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【図2】
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【公表番号】特表2008−510888(P2008−510888A)
【公表日】平成20年4月10日(2008.4.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−529771(P2007−529771)
【出願日】平成17年8月25日(2005.8.25)
【国際出願番号】PCT/SE2005/001245
【国際公開番号】WO2006/022589
【国際公開日】平成18年3月2日(2006.3.2)
【出願人】(505277521)サンドビック インテレクチュアル プロパティー アクティエボラーグ (284)
【Fターム(参考)】