説明

金属製浴槽、及び金属製浴槽用塗料

【課題】
本発明は、意匠性に加え、耐腐食性に優れた金属製浴槽を提供することを目的とする。
【解決手段】
本発明の金属製浴槽は、金属製の浴槽本体の表面の一部又は全部が、燐片状アルミニウム粒子を含有する合成樹脂皮膜によってコーティングされていることを特徴とする。
なお、燐片状アルミニウム粒子は、平均厚みが0.01〜2μm、平均粒径が5〜50μm、アスペクト比(平均粒径/平均厚み)が10〜2000であって、合成樹脂皮膜中の燐片状アルミニウム粒子の含有率が2〜50質量%であることが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、金属製浴槽に関する。この金属製浴槽は、特に、金属製浴槽の外側の側面及び/又は底面が露出して設置される浴槽として好ましく用いることができる。
【背景技術】
【0002】
従来、ホテルや旅館等の客室用、又は家庭用の浴槽として、鉄やステンレスなどの金属製の浴槽本体にコーティングを施した浴槽が用いられることがある。
例えば、特許文献1等には、金属基材表面に釉薬層を形成したホーロー製品(浴槽)が記載されている。
【0003】
しかし、金属製の浴槽本体に釉薬層を形成するためには、釉薬を高温で焼き付ける工程などが必要であって、製造に手間が掛かった。そのため、浴槽本体の内側のみ、又は内側の全面と外側の一部にのみ釉薬層を設けて、外側の釉薬層がない部分には塗料等によってコーティング層を設けることも行なわれている。
【0004】
なお、浴槽本体が金属製であるために腐食しやすいという問題があり、耐腐食性に優れた浴槽を得るために、コーティング層には、意匠性だけでなく、防食性が求められていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2001−3183号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、意匠性に加え、耐腐食性に優れた金属製浴槽を提供することを目的とする。
【0007】
さらに、意匠性に加え、防食性に優れたコーティング層を形成するための塗料を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
請求項1に記載の発明は、金属製の浴槽本体の表面の一部又は全部が、燐片状アルミニウム粒子を含有する合成樹脂皮膜によってコーティングされていることを特徴とする金属製浴槽である。
【0009】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の金属製浴槽において、前記燐片状アルミニウム粒子の平均厚みが0.01〜2μm、平均粒径が5〜50μm、アスペクト比(平均粒径/平均厚み)が10〜2000であって、前記合成樹脂皮膜中の燐片状アルミニウム粒子の含有率が2〜50質量%であることを特徴とする。
【0010】
請求項3に記載の発明は、請求項2に記載の金属製浴槽のコーティングに用いる塗料であって、平均厚みが0.01〜2μm、平均粒径が5〜50μm、アスペクト比(平均粒径/平均厚み)が10〜2000である燐片状アルミニウム粒子と、合成樹脂エマルションとを含有し、塗料の不揮発分中の燐片状アルミニウム粒子の含有率が2〜50質量%であることを特徴とする金属製浴槽用塗料である。
【発明の効果】
【0011】
請求項1に記載の発明によれば、意匠性だけでなく、耐腐食性に優れた金属製浴槽を得ることができる。
【0012】
請求項2に記載の発明によれば、請求項1の発明と同様な効果が得られ、その効果が特に優れる。
【0013】
請求項3に記載の発明によれば、請求項2に記載の金属製浴槽に使用でき、意匠性に加え、防食性に優れたコーティング層(合成樹脂皮膜)を容易に得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
本発明の金属製浴槽は、金属製の浴槽本体の表面の一部又は全部が、燐片状アルミニウム粒子を含有する合成樹脂皮膜によってコーティングされたものである。
【0015】
前記の合成樹脂皮膜は、金属のような質感の意匠性を持つだけでなく、防食性に優れており、耐腐食性に優れた金属製浴槽が得られる。
【0016】
前記浴槽本体を形成する金属としては、ステンレス、鉄、鉄を主成分とする合金(鉄鋼)などを用いることができる。なお、その形状は特には限定されない。
【0017】
また、浴槽本体の内側の表面や、外側の一部(合成樹脂皮膜によるコーティングを行なわない部分)に、釉薬層などのコーティング層が形成されていてもよい。浴槽の内側は、湯を溜めたり、擦られたりするため、より耐久性や耐摩耗性に優れた仕上げが要求されるため、前記合成樹脂皮膜によるコーティングではなく、硬度の高い釉薬層などによってコーティングし、浴槽の外側の側面や底面を合成樹脂皮膜によってコーティングすることが好ましい。
【0018】
なお、浴槽本体が、鉄や鉄鋼などの腐食しやすい金属であるときに、本発明の効果が特に発揮される。
【0019】
前記合成樹脂皮膜は、合成樹脂中に燐片状アルミニウム粒子が分散されてなる皮膜である。燐片状アルミニウム粒子は、皮膜中で、皮膜表面や浴槽本体表面と平行に配列され易く、また、それらの燐片状アルミニウム粒子は皮膜中で多層に重なるように配列される。そのように燐片状アルミニウム粒子が皮膜中に分散されていることによって、合成樹脂皮膜は、金属のような質感を持ち、且つ耐食性にも優れる。
【0020】
なお、前記燐片状アルミニウム粒子は、平均厚みが0.01〜2μm、平均粒径が5〜50μm、アスペクト比(平均粒径/平均厚み)が10〜2000であることが好ましい。このような燐片状アルミニウム粒子を用いると、特に耐食性に優れた合成樹脂皮膜が得られる。
【0021】
特に、平均厚みが0.05〜1.5μm、平均粒径が5〜50μm、アスペクト比(平均粒径/平均厚み)が15〜1000の燐片状アルミニウム粒子を用いることが好ましい。
【0022】
合成樹脂皮膜中に占める燐片状アルミニウム粒子の量としては、燐片状アルミニウム粒子の含有率が2〜50質量%(より好ましくは5〜40質量%)であることが好ましい。含有率がこの範囲になるようにすれば、より耐久性、意匠性及び耐食性に優れた合成樹脂皮膜が得られる。含有率が少ないと十分な耐食性が得られず、また、金属調の質感もえられない。逆に含有率が多すぎると合成樹脂皮膜の耐久性が低下する恐れがある。耐久性の低下としては、具体的には、金属製の浴槽本体の熱膨張に合成樹脂皮膜が追従できずに皮膜にひび割れが発生することや、浴槽本体と合成樹脂皮膜の密着性が十分でないために浴槽本体から皮膜が剥離するなどといった現象が起こり易くなることなどが挙げられる。
【0023】
合成樹脂皮膜を形成する合成樹脂としては、例えば、酢酸ビニル,エチレン酢酸ビニル,プロピオン酸ビニル,バーサティック酸ビニル等のビニル樹脂、(メタ)アクリル酸メチル樹脂、(メタ)アクリル酸エチル樹脂、(メタ)アクリル酸メチル樹脂、(メタ)アクリル酸エチル樹脂、(メタ)アクリル酸ブチル樹脂、(メタ)アクリル酸2−エチルヘキシル樹脂、アクリロニトリル樹脂、メタクリロニトリル樹脂等のアクリル樹脂、ポリエステル樹脂、フッ素樹脂、エポキシ樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリエーテル樹脂、シリコーン樹脂などの合成樹脂を単独又は共重合したものを用いることができる。
【0024】
合成樹脂皮膜中に占める合成樹脂の量としては、合成樹脂の含有率が40質量%以上(より好ましくは50質量%以上)であることが好ましい。含有率がこの範囲になるようにすれば、より耐久性に優れた合成樹脂皮膜が得られる。含有率が少ないと十分な耐久性や防食性が得られず、金属製の浴槽本体の熱膨張に合成樹脂皮膜が追従できずに皮膜にひび割れが発生したり、浴槽本体と合成樹脂皮膜の密着性が十分でないために浴槽本体から皮膜が剥離したりするなどといった現象が起こり易くなる。また、ひび割れの発生等によって防食性が低下する場合もある。
【0025】
なお、合成樹脂皮膜には、本発明の効果を損なわない範囲において、合成樹脂と燐片状アルミニウム粒子以外の成分が含有されていてもよい。
【0026】
合成樹脂皮膜に含有可能な成分としては、例えば、燐片状アルミニウム粒子以外の顔料や充填材が挙げられる。顔料としては、酸化チタン、酸化亜鉛、黄鉛、亜鉛華、黄色酸化鉄、ベンガラ、カーボンブラック、カドミウムレッド、モリブデンレッド、クロムエロー、酸化クロム、プルシアンブルー、コバルトブルー等の無機系着色顔料、アゾ顔料、ジケトピロロピロール顔料、ベンズイミダゾロン顔料、フタロシアニン顔料、キナクリドン顔料、イソインドリン顔料、イソインドリノン顔料、スレン系顔料、ペリレン顔料、ペリノン顔料、ジオキサン系顔料等の有機系着色顔料、タルク、クレー、炭酸カルシウム等の体質顔料、或いは、燐片状アルミニウム粒子以外の金属粉末、樹脂ビーズ、ガラスビーズなどを用いることができる。
【0027】
なお、合成樹脂皮膜の厚みは、50〜600μm(より好ましくは80〜400μm)であることが好ましい。厚みが薄すぎると合成樹脂皮膜の防食性が十分得られない場合がある。逆に、厚みが厚すぎると金属製の浴槽本体の熱膨張に合成樹脂皮膜が追従できずに皮膜にひび割れが発生するなどといった現象が起こり易くなる。また、ひび割れの発生等によって防食性が低下する場合もある。
【0028】
浴槽本体に合成樹脂皮膜を形成する方法としては、塗料組成物を塗装して、乾燥、硬化させる方法が挙げられる。
【0029】
塗料としては、前記の燐片状アルミニウム粒子と、合成樹脂とを含有する塗料を用いればよい。塗料は、粉末塗料、有機溶剤を溶媒とする溶剤系塗料、水を溶媒とする水系塗料などを適宜選択して使用すればよい。
【0030】
これらの塗料は、塗料の不揮発分中の燐片状アルミニウム粒子の含有率が2〜50質量%になるように調整して用いることが好ましい。また、不揮発分中の合成樹脂の含有率は40質量%以上であることが好ましい。
【0031】
なお、各種の塗料の中でも、簡単な設備で塗装が可能である溶剤系塗料や水系塗料が好ましく、取り扱いが容易で、安全性の高い水系塗料が特に好ましい。
【0032】
なお、これらの塗料には、本発明の効果を損なわない範囲において、前記した燐片状アルミニウム粒子以外の顔料や充填材を含有させてもよい。
【0033】
また、添加剤としては、通常の塗料に用いられるものを含有させてもよく、例えば、増粘剤等の粘性調整剤、分散剤、消泡剤、造膜助剤、湿潤剤、凍結防止剤、架橋剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、光安定化剤、レベリング剤、シランカップリング剤等を使用してもよい。
【0034】
なお、塗装方法は特に限定されず、一般的な塗料の塗装方法によって塗装すればよい。例えば、刷毛、ローラー、エアスプレー、エアレススプレー、フローコーター、ロールコーター等の塗装器具や塗装機を用いて塗装できる。

【0035】
(実施形態)
本発明の実施形態の一例を以下に示す。
まず、浴槽本体として鉄製の浴槽を利用した。形状はネコ脚付きの西洋式浴槽で、設置した際には、浴槽の外側の側面及び/又は底面が露出するものであった。
【0036】
まず、この浴槽の内側及び上縁と、浴槽の外側の上部(上端から幅約10cmの部分)に、ガラス質の釉薬層が高温で焼付けた。それによって、浴槽の外側(上端から幅約10cmを除いた部分)と、浴槽の底面以外が釉薬層でコーティングされたホーロー浴槽を得た。
【0037】
次に、釉薬層でコーティングされておらず、鉄が露出している部分を清掃、脱脂した後、以下の配合の水系塗料を塗装した。
塗料配合:アクリルシリコン系合成樹脂エマルション(不揮発分50質量%)400質量部、アクリル樹脂系樹脂ビーズ30質量部、ホワイトカーボン粉末30質量部、添加剤(界面活性剤、消泡剤、造膜助剤、増粘剤など)30質量部、燐片状アルミニウム(平均厚みが0.6μm、平均粒径40μm)20質量部、水100質量部。
【0038】
なお、塗装はスプレー塗装によって行ない。乾燥後の合成樹脂皮膜の厚みが、150μmとなる様に塗布量を調整して塗装した。
【0039】
塗装後、浴槽を3日間静置して塗料を十分に乾燥、硬化させて、釉薬層と合成樹脂皮膜によってコーティングされた金属製浴槽を得た。
【0040】
なお、この浴槽の合成樹脂皮膜によって被覆した部分は、金属のような質感に仕上がっていた。
【0041】
次に、この浴槽を30回程度使用した後に外観を目視によって観察したが、錆の発生や、釉薬層及び合成樹脂皮膜の劣化などは見られなかった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属製の浴槽本体の表面の一部又は全部が、燐片状アルミニウム粒子を含有する合成樹脂皮膜によってコーティングされていることを特徴とする金属製浴槽。
【請求項2】
前記燐片状アルミニウム粒子の平均厚みが0.01〜2μm、平均粒径が5〜50μm、アスペクト比(平均粒径/平均厚み)が10〜2000であって、前記合成樹脂皮膜中の燐片状アルミニウム粒子の含有率が2〜50質量%であることを特徴とする請求項1に記載の金属製浴槽。
【請求項3】
請求項2に記載の金属製浴槽のコーティングに用いる塗料であって、平均厚みが0.01〜2μm、平均粒径が5〜50μm、アスペクト比(平均粒径/平均厚み)が10〜2000である燐片状アルミニウム粒子と、合成樹脂エマルションとを含有し、塗料の不揮発分中の燐片状アルミニウム粒子の含有率が2〜50質量%であることを特徴とする金属製浴槽用塗料。


【公開番号】特開2012−239587(P2012−239587A)
【公開日】平成24年12月10日(2012.12.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−111446(P2011−111446)
【出願日】平成23年5月18日(2011.5.18)
【出願人】(000159032)菊水化学工業株式会社 (121)
【Fターム(参考)】