説明

金属複合表面の不動態化のためのジルコニウム/チタン含有リン酸溶液

本発明は、金属表面の腐食保護化成処理のための水性組成物および方法に関する。該水性組成物は、複合構造(少なくとも一部がアルミニウムまたはそれらの合金からなる)に組み込まれている、とりわけ鋼鉄、亜鉛メッキ鋼またはそれらの合金あるいは前記物質の任意の組合わせの様々な金属物質の処理に特に適当である。本発明によれば、リン酸処理溶液に基づく該水性組成物は、ジルコニウムおよびチタンの水溶性化合物に加えて、鋼鉄および亜鉛メッキ鋼またはそれらの合金のリン酸塩処理を可能にし、同時にアルミニウム表面の不動態化を伴うアルミニウム表面の低いエッチング速度も可能にする割合の量の遊離フッ化物を含有する。本発明の化成処理を受けた金属物質、部品および複合構造は、自動車車体製造、造船、土木工学および白物家電の製造に利用される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水性組成物および金属表面の防食化成処理の方法に関する。該水性組成物は、とりわけ、鋼鉄または亜鉛メッキ鋼または合金亜鉛メッキ鋼およびこれらの物質の任意の組み合わせの複合構造を作り、その複合構造の少なくとも一部がアルミニウムまたはそれらの合金から成る、様々な金属物質の処理にとって、特に適当である。以後の本文において、「アルミニウム」という記述は、常に、50原子%を超えるアルミニウムを含有する合金を含む。どのような方法が行われるかによって、化成処理された金属表面の後不動態化をすることなしに、その後の浸漬被覆において、本発明により処理された複合構造の金属表面を、均一に、優れた密着性をもって、被覆することができる。金属表面処理に対する本発明の水性組成物の明らかに有利な点は、金属表面の優れた不動態化および後に塗布された被膜に対する適当な被膜密着性を得るように、鋼鉄または亜鉛メッキ鋼または合金亜鉛メッキ鋼表面の場合には結晶リン酸塩層を有し、アルミニウム表面では非晶質の化成層を有する、異なる金属表面を選択的に被覆することにある。従って、本発明の水性組成物の使用は、複合構造で作られた金属表面の防食前処理を一段階の工程にすることを可能にする。
【背景技術】
【0002】
特に、本発明に関連する自動車製造分野において、複合構造で作られた様々な金属物質の用途が拡大している。車体構造において、用途は、それらの特異的な物質特性のため、圧倒的に多くの様々な鋼鉄にあるが、用途は軽金属でも拡大しており、特に、車体全体のかなりの減量に関して重要である。自動車の車体におけるアルミニウムの平均比率は、近年、1998年に6kgであったものが2002年には26kgに増加しており、さらに2008年の見通しでは、約50kgまで増加し、それは、典型的な中型車の未完成車体の約10%の重量比率に相当する量である。この変化を考慮するために、車体保護のための新しい方法を開発すること、または未完成車体の不動態化処理のための従来法や組成物をさらに開発することが適切である。
【0003】
従来のリン酸塩処理浴において、浴溶液内のアルミニウムイオンの沈殿は、特に、化成層の品質において、リン酸塩処理工程のかなりの損傷を引き起こす。3価カチオンのアルミニウム存在下で、均一な結晶リン酸塩層は鋼鉄表面に形成されない。このように、アルミニウムイオンは、リン酸塩処理において浴毒として作用し、アルミニウム表面を一部に含む車体の標準的処理の場合においては、適当な添加剤により効果的にマスクしなければならない。アルミニウムイオンの適当なマスキングは、米国特許US5683357に開示されたように、フッ化物イオンまたはフルオロ錯体、例えばSiF2−の添加により達成され得る。フッ化物イオンの追加投入による酸洗いの強さに応じて、例えば氷晶石の形態で、ヘキサフルオロアルミネートは浴溶液から沈殿し、リン酸塩処理において、スラッジ形成に著しく貢献をするためリン酸塩処理工程がかなり複雑となる。さらに、リン酸塩層は、そのような比較的高い遊離フッ化物イオンの濃度において、酸洗い速度が上昇しているアルミニウム表面にのみ形成される。規定された浴のパラメーター、特に遊離フッ化物含量を調節することは、十分な防食保護および優れた塗膜密着性にかなり重要である。アルミニウム表面の不十分なリン酸塩処理は、常に、その後の処理段階で後不動態化を必要とする。対象的に、一度下塗りが完了すると、不均一に沈着したリン酸塩層により生じる目に見える欠陥は、原則、回復困難である。
【0004】
複合構造における、鋼鉄および/または亜鉛メッキ鋼部品とアルミニウム部品との接合リン酸塩処理は、このように、特定の条件下および浴パラメーターの精密な調整を条件として、また他の方法段における適切な後不動態化によってのみ達成され得る。関連技術制御の複雑さによって、実際のリン酸塩処理工程から分離した設備システムにおいて、フッ化物含有溶液を分配し、貯蔵することが必要となり得る。さらに、維持費および沈殿したヘキサフルオロアルミネート塩の廃棄コストの上昇は効率を下げ、そのような設備のバランスシート全体に対するマイナスの影響を有する。
【0005】
従って、例えば自動車車体、さらにアルミニウムの部品、また鋼鉄および必要に応じて亜鉛メッキ鋼製の部品を含む車体のような、複合部品のための改良された前処理方法に対する要求がある。一般的な前処理が目的とする結果は、特に陰極電着塗装の前に、塗装に対する防食基板として適当な化成層または不動態化層が存在する全金属表面を製造することである。
【0006】
先行技術は、第一段階における、鋼鉄および必要に応じて亜鉛メッキ鋼および合金亜鉛メッキ鋼表面上への結晶リン酸塩層の沈殿と、その後の段階におけるアルミニウム表面の不動態化の一般的方法を取り込んだ、様々な二段階前処理法を開示する。これらの方法は、公報WO99/12661およびWO02/066702に開示されている。原則として、該方法は、第一段階で鋼鉄または亜鉛メッキ鋼表面を選択的にリン酸塩化し、これが第二段階における後不動態化でも保たれるが、その後の浸漬塗装で、塗料から浮き出ることができるアルミニウム表面に、リン酸塩結晶が形成されないように、設計されるべきである。アルミニウム表面上のそのような「結晶クラスター」は、その後の下塗りで覆われ、塗装をでこぼこにし、被覆表面の均一な外観を乱すのみでなく、部分的な塗装損傷を引き起こすかもしれず、そのようなことは絶対に避けなければならない。
【0007】
本発明を構築する先行技術は、ドイツ特許出願公報DE10322446に記載され、また、前述したように、様々な物質表面の塗装において十分な選択性を獲得する方法に関する。DE10322446は、従来のリン酸塩処理を使用し、かつ5000ppmを超えず、存在する遊離フッ化物の量を超えない、一定量の水溶性ジルコニウムおよび/またはチタン化合物により、これを補足している。DE10322446の教示からは、少なくとも一部にアルミニウムを含有する金属表面の化成処理に使用するジルコニウムおよび/またはチタン含有リン酸溶液により、アルミニウム表面上への沈殿を非晶質不動態化層のみとすることができ、沈殿する任意の分離したリン酸塩結晶の単位面積あたりの質量が0.5g/m以下の量となることが推論され得る。
【0008】
さらに、DE10322446は、ジルコニウムおよび/またはチタンの総含有量が10〜1000ppm、好ましくは50〜250ppmのリン酸溶液を使用する場合、リン酸化金属表面およびアルミニウム表面のいずれも後不動態化を省くことが可能であることを教示する。
【0009】
DE10322446で開示された教示およびそこに述べられた典型的な実施態様に従うならば、少なくとも一部にアルミニウム表面を含んでなる金属表面の化成処理の第一段階工程は、常に高いフッ化物含量で行われ、それは、酸洗速度の上昇を引き起こし、浴液中へのアルミニウムイオンの大量投入を必要とする。リン酸塩処理浴における高いスラッジ形成に必然的に起因する、浴管理に関連する技術的な複雑さを克服しさらに処理する必要がある。さらに、沈降したアルミン酸塩粒子は、このように化成処理した成分中に残るかもしれず、下塗剤の沈着後、被覆成分の外観に悪影響を有するか、または塗膜密着性および塗膜の機械抵抗を損なう。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】米国特許第5683357号明細書
【特許文献2】国際公開第99/12661号パンフレット
【特許文献3】国際公開第02/066702号パンフレット
【特許文献4】独国特許出願公開第10322446号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
従って、本発明の目的は、DE10322446の教示に基づく浴溶液の条件が、中間の後不動態化なしで、有機的浸漬被覆による塗布をすぐに可能とし、過度の酸洗速度により引き起こされる上述した技術的問題を打開する、鋼鉄および亜鉛メッキ鋼表面に加えて、少なくとも一部に、あらゆる表面に均一で連続的な化成層を作るためのアルミニウム表面を含んでなる、複合構造でできた金属表面の化成処理に適当であることを確認することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
従って、本発明は、鋼鉄、亜鉛メッキ鋼、合金亜鉛メッキ鋼またはアルミニウムおよびそれらの任意の組み合わせの表面を含んでなる金属表面の防食化成処理のための水性組成物であって、
(a)5〜50g/lのリン酸イオン、
(b)0.3〜3g/lの亜鉛(II)イオン、
(c)1つまたはそれ以上のジルコニウムおよび/またはチタン元素に対して、合計で1〜200ppmのジルコニウムおよび/またはチタンの水溶性化合物
を含有し、さらに、水性組成物中に、フッ化物感応電極により測定した1〜400ppmの量の遊離フッ化物を含有する水性組成物に関する。
【発明を実施するための形態】
【0013】
この浴組成物において、特に遊離フッ化物イオンの割合によって決まる最小の酸洗速度、同時に、鋼鉄および/または亜鉛メッキ鋼および/または合金亜鉛メッキ鋼表面、単なる非晶質のジルコニウムおよび/またはチタンベースの不動態化層を得ているアルミニウム表面の選択的なリン酸塩処理を確保するために、遊離フッ化物イオンの濃度は、ジルコニウムおよび/またはチタン化合物の濃度と無関係に最適化すべきではない。
【0014】
本発明によれば、水性組成物の不動態化特性の特徴である、下記式(I)で示される指数λを特定することが可能であることがわかった。

式中、F/mMおよびMe/mMは、それぞれ、いずれの場合もmM(10−3mol/l)の濃度単位で還元した遊離フッ化物濃度(F)およびジルコニウムおよび/またはチタン濃度(Me)を意味する。成分(c)として、ジルコニウムのみを含有する基礎となる発明の水性組成物に対して、指数λは少なくとも4であり、または成分(c)としてチタンのみを含有する水性組成物の場合には、少なくとも6であるべきである。ジルコニウムおよびチタン化合物の両成分(c)を含有する本発明の水性組成物に対して、式(I)による指数λは、

以上であるべきである。
【0015】
該指数が、本発明で特定されるこれらの最小値を下回る場合、鋼鉄および/または亜鉛メッキ鋼表面上の化成層の形成は、ジルコニウムおよび/またはチタンベースの不動態化処理の優位性を失い、均一で連続的なリン酸塩層の沈殿はもはや確保されない。反対に、λ値の増加は酸洗速度の上昇と同義で、アルミニウム表面のリン酸塩処理を有利に展開し、その後の下塗りに対して好ましくない「結晶クラスター」を形成し得る。
【0016】
本発明の目的に対する全ての金属表面の均一な不動態化が達成され、達成され、かつ、望ましい酸洗速度が持続されることによって浴溶液中へのアルミニウムイオンの望ましい投入が生じる、指数λの最適範囲は以下のとおりである。
【0017】
本発明によれば、指数λは、
(i)ジルコニウムの水溶性化合物のみを、成分(c)として含有する水性化合物に対しては、少なくとも4、好ましくは少なくとも4.5、また特に好ましくは少なくとも5であるが、10以下、好ましくは8以下であるべきであり;
(ii)チタンの水溶性化合物のみを、成分(c)として含有する水性組成物に対しては、少なくとも6、好ましくは少なくとも6.5、また特に好ましくは少なくとも7であるが、14以下、好ましくは12以下であるべきであり;
(iii)ジルコニウムおよびチタンの両方の水溶性化合物を、成分(c)として含有する組成物に対しては、

以下であるべきである。
【0018】
ここで、本発明の水性組成物における遊離フッ化物の割合は、フッ化物感応ガラス電極を用いた電位差滴定で決められる。測定方法、キャリブレーションおよび遊離フッ化物濃度を決定する方法の詳細な説明は、本発明の実施例に記載する。
【0019】
本発明の様々な実施態様においてジルコニウム化合物の使用は、チタン化合物の使用より技術的によい結果をもたらす。従って、ジルコニウムの使用が好ましい。例えば、複合フルオロ酸またはその塩を使用してもよい。
【0020】
防食化成処理のための本発明の水性組成物は、
0.3〜3g/lのZn(II)および
5〜40g/lのリン酸イオンおよび
ジルコニウムおよび/またはチタン元素に対して、1〜200ppmのジルコニウムおよび/またはチタンの1つまたはそれ以上の水溶性化合物
を加えてもよく、また、少なくとも1つの下記の促進剤を含有してもよい:
0.3〜4g/lの塩素酸イオン、
0.01〜0.2g/lの亜硝酸イオン、
0.05〜4g/lのニトログアニジン、
0.05〜4g/lのN−メチルモルホリンN−オキシド、
0.2〜2g/lのm−ニトロベンゼンスルホン酸イオン、
0.05〜2g/lのm−ニトロ安息香酸イオン、
0.05〜2g/lのp−ニトロフェノール、
1〜150mg/lの遊離または結合した過酸化水素、
0.1〜10g/lの遊離または結合したヒドロキシルアミン、
0.1〜10g/lの還元糖。
【0021】
このような促進剤は、先行技術において、リン酸塩処理浴の成分としてよく知られており、酸化するとすぐに、金属表面での酸攻撃に起因する水素を直に参加することにより「水素捕捉剤」の機能を果たし、その際、それ自身は還元される。金属表面の気体水素の発生を減らす促進剤は、実質的に、一定の結晶性リン酸亜鉛層の形成を促進する。
【0022】
経験によれば、本発明の水性組成物で作られた結晶性リン酸亜鉛層の防食特性および塗膜密着性は、さらに、1つまたはそれ以上の下記カチオンが存在する場合に向上する:
0.001〜4g/lのマンガン(II)、
0.001〜4g/lのニッケル(II)、
0.001〜4g/lのコバルト(II)、
0.002〜0.2g/lの銅(II)、
0.2〜2.5g/lのマグネシウム(II)、
0.2〜2.5g/lのカルシウム(II)、
0.01〜0.5g/lの鉄(II)、
0.2〜1.5g/lのリチウム(I)、
0.02〜0.8g/lのタングステン(VI)。
【0023】
亜鉛濃度は、約0.3〜約2g/l、特に約0.8〜約1.4g/lの間の範囲であることが好ましい。高亜鉛含量は、本発明の水性組成物での化成処理にとって、少しも重要な利点を生じないが、処理浴において、スラッジ濃度の上昇をもたらす。しかしながら、亜鉛含量の上昇は、主に亜鉛メッキされた表面がリン酸化され、さらに亜鉛が酸洗いによる表面除去のために処理浴中へ入った場合には、操作処理浴内で生じ得る。亜鉛イオンに加えて、マンガンおよびニッケルイオンを含有する、化成処理のための水性組成物は、トリカチオンリン酸塩処理溶液として、リン酸塩処理の分野において当業者に既知であり、また本発明の目的にとって非常に好適である。従来のリン酸塩処理として、3g/lまでの硝酸塩の割合も、鋼鉄、亜鉛メッキ鋼および合金亜鉛メッキ鋼表面で、結晶性の均一で連続的なリン酸塩層の形成を促進する。
【0024】
さらに、浴溶液中に投入された三価イオンアルミニウムカチオンを錯化することができるため、防食化成処理用の水性組成物に、ヘキサフルオロケイ酸アニオンを加えてもよく、その結果リン酸塩処理は最適化され、また、亜鉛メッキされた基板上の「スペックリング(speckling)」を防止する。スペックリングは、非晶質の白いリン酸亜鉛の沈殿を伴い表面で生じる局所的に上昇した酸洗速度のことである。
【0025】
本発明の防食化成処理のための水性組成物の、別の重要なパラメーターは、その遊離酸含量および全酸含量である。遊離酸および全酸は、酸の酸洗攻撃および処理溶液の緩衝能の指標であり、実現可能な層重量に大きな影響を有することから、リン酸塩処理浴にとって重要な制御パラメーターである。基礎となる発明に対して、水性組成物は、好ましくは、少なくとも0;0.2;0.5;0.8;1ポイントの遊離酸含量を有し、しかし3;2.5;2;1.5ポイント以下の遊離酸含量を有する(それぞれ、数値は、より後に記載されているものが好ましい)。この場合において、処理溶液の全酸含量は、少なくとも20;21;22ポイント存在すべきであり、しかし26;25;24ポイント以下で存在すべきである(それぞれ、数値は、より後に記載されているものが好ましい)。用語「遊離酸」は、リン酸塩処理の分野における当業者にとって、よく知られている。遊離酸および全酸含量を確定するための本発明における特異的定量方法は、実施例の項で述べる。ここで、水性組成物のpH値は、好ましくは2.2;2.4;2.6;2.8以上であり、しかし3.6;3.5;3.4;3.3;3.2以下である(それぞれ、数値は、より後に記載されているものが好ましい)。
【0026】
少なくとも一部にアルミニウム表面を含んでなる金属物質からできた複合構造の化成処理のための本発明の水性組成物の適用は、該表面の洗浄および脱脂をした後、該表面を本発明の水性組成物と、例えば吹付けや浸漬により接触させることにより、20〜65℃の範囲の浴温度で、バスプラントにおける対流条件および処理される複合構造の典型的な組成物に合わせた時間間隔で進められる。そのような浸漬の直後に、通常、水道水または脱イオン水による濯ぎ工程を行い、処理溶液の成分を多く含む濯ぎ水が徐々を処理した後、本発明の浴溶液中へ、一部の濯ぎ水成分を再循環することが可能である。この濯ぎ工程を伴ってまたは伴わず、本方法において処理された複合構造の金属表面は、下塗り、好ましくは有機的電着塗装による別の段階で提供されてもよい。
【0027】
本発明の処理溶液を用いた、複合構造における金属物質表面の化成処理のための、この一段階方法の代替案として、中間濯ぎ工程を伴うまたは伴わない別の段階において、ジルコニウム元素および/またはチタン元素に対して、少なくとも200〜1500ppmのジルコニウムおよび/またはチタンのフルオロ錯体、および必要に応じて10〜100ppmの銅(II)イオンを含有する水性組成物を用いて、リン酸化および/または不動態化した金属表面の後不動態化を実行することが可能である。そのような後不動態化溶液のpH値は、3.5〜5.5の範囲である。
【0028】
とりわけ、鋼鉄および/または亜鉛メッキ鋼および/または合金亜鉛メッキ鋼成分およびアルミニウム成分からでき、この方法により化成処理された複合構造は、リン酸塩処理層重量0.5〜4.5g/mの結晶質リン酸亜鉛層が形成された金属表面を含んでなる。
【0029】
化成層を形成するために、本発明の水性組成物で処理されてもよい金属表面は、好ましくは、鋼鉄、亜鉛メッキ鋼および合金亜鉛メッキ鋼、並びに、アルミニウムおよび50原子%以下の合金含量のアルミニウム合金、ケイ素、マグネシウム、銅、マンガン、亜鉛、クロム、チタンおよびニッケルが考えられる他の合金成分である。金属表面は、ただ1つの金属物質から成っていても、または前述した物質の任意の好ましい組み合わせからできた複合構造でもよい。
【0030】
基礎となる発明により化成処理された金属物質、部品および複合構造は、自動車車体構造、造船建設業および白物家電の製造において使用される。
【実施例】
【0031】
本発明の水性組成物および対応する金属表面の化成処理のための処理手順は、冷延鋼板(SidcaのCRS ST1405)、溶融亜鉛メッキ鋼(ThyssenのHDG)およびアルミニウム(AC120)の金属試験薄板で試験した。
【0032】
金属試験薄板の、本発明による処理のための処理手順は、原則として自動車車体製造における従来のものと同様であり、表1に示す。金属薄板を、アルカリ洗浄および脱脂により前処理し、濯ぎ工程後、リン酸チタンを含有する活性溶液により本発明の化成処理に備える。出願人により製造された従来の商品:Ridoline(登録商標)1569A、Ridosol(登録商標)1270、Fixodine(登録商標)50CFが、この目的のために使用された。
【0033】
遊離酸のポイント数は、10mlの浴サンプルを50mlに希釈し、pH値3.6になるよう0.1N水酸化ナトリウム溶液を用いて滴定することにより決定する。水酸化ナトリウム溶液の消費量(ml)が、ポイント数である。全酸含量は、pH値8.5までの滴定により決定される。
【0034】
化成処理のための本発明の水性組成物中の遊離フッ化物含量は、電位差滴定の膜電極(inoLab pH/lonLevel 3、WTW製)を用いて規定される。該膜電極は、フッ化物感応ガラス電極(F501、WTW製)および参照電極(R503、WTW製)を含んでいる。二点キャリブレーションは、100ppmおよび1000ppm含量の、MerckのTitrisol(登録商標)フッ化物スタンダードから、バッファーを加えずに調製したキャリブレーション溶液に、二つの電極をともに連続して浸漬することにより行われる。得られた測定値は、それぞれ、測定機器に投入された「100」または「1000」のフッ化物含量に相関性がある。その結果、ガラス電極の勾配は、フッ化物イオン含量10ppmごとに測定機器にmVで表示され、典型的には−55〜−60mVの間である。フッ化物含量(ppm)は、冷却した本発明の浴溶液に二つの電極を浸漬することにより直接決定し得る。
【0035】
【表1】

【0036】
表2は、表1の処理手順に対する遊離フッ化物およびジルコニウム濃度の関数として、アルミニウム基板での酸洗速度を示す。予測どおり、酸洗速度は、フッ化物濃度の各上昇に伴って上昇する。驚くべきことに、アルミニウムにおける酸洗速度は、30および55ppmの遊離フッ化物濃度の場合に50ppmの添加によりはっきりと減少し、酸洗速度は、ジルコニウムを含有しない化成処理のための水性組成物との比較において50%減少する。
【0037】
【表2】

【0038】
同時に、表3から明らかなように、アルミニウム表面の化成化は、ジルコニウム濃度の緩やかな上昇により、ジルコニウムベースの不動態化に有利なように純リン酸塩処理から変えることができる。55ppmの遊離フッ化物濃度で、ちょうど10ppmのジルコニウムが、アルミニウム表面上において、均一または連続的に表面を覆うことができない結晶性リン酸亜鉛層の形成をほぼ完全に抑えるのに十分な量である。さらに、表3から、均一で連続的なリン酸亜鉛層は、約100ppmの遊離フッ化物を含有し、かつ完全にジルコニウムフリーの処理溶液中でのみ形成されることが推論することができ、アルミニウム基板の酸洗速度の上昇(表2)を認める必要がある。
【0039】
【表3】

【0040】
本発明の化成処理における、冷延鋼板での対応実験(表4)は、55ppmより上の遊離フッ化物含量で、50ppmまでのジルコニウム含量は、亜鉛リン酸塩処理に不利な影響を与えないことを示す。反対に、層重量および層の質の視覚評価に基づいて、鋼鉄表面では、低フッ化物濃度で、リン酸塩処理工程は抑制され、ジルコニウムベースの不動態化層が得られることが明らかとなった。驚くべきことに、これは、特に、指数λの値が4を下回る場合の事実であることがわかった。
【0041】
【表4】

【0042】
同様の結果が、溶融亜鉛メッキ鋼表面の化成処理に対しても得られた(表5)。ここでも、亜鉛リン酸塩処理は、一定の遊離フッ化物含量でのジルコニウム濃度の上昇により、徐々にジルコニウムベースの不動態化に置き換えられ、この基板でも、不動態化タイプにおけるこの転換に対する重要な浴パラメーターは、4より下のλ値により特徴付けられる。4.5g/mより重いリン酸亜鉛層の過度の層重量は、リン酸亜鉛層の低いバリア活性を示し、低下するλ値で、所望の結晶度を有する亜鉛リン酸塩処理から純粋なジルコニウムベースの不動態化への転換を特徴付けている。
【0043】
【表5】

【0044】
ジルコニウム化合物の添加がアルミニウム表面のリン酸塩処理を抑えるという事実は、本発明のタイプ(表1による)の化成処理の終了後のアルミニウム表面の電子顕微鏡写真によっても証明される。表6は、一定のフッ化物含量で、アルミニウム表面の形態が、ジルコニウム濃度の上昇によりどのように変化するかを示す。ジルコニウムを含まない浴溶液中、高いアスペクト比を有する層状リン酸塩結晶の形成が、連続性結晶リン酸塩層なしで存在することがわかった。1段階化成処理の最終生成物のような被膜は、適切な防食保護にとって全く不適当であり、この方法で処理された成分に後不動態化を施すべきである。しかしながら、ちょうど10ppmのジルコニウムの添加は、リン酸塩処理の抑制をもたらす。リン酸塩結晶または、分離された「結晶クラスター」は表面上で認識できず、不定形のジルコニウムベースの化成層の形成による適切な不動態化の場合には、本発明の基本となっている目的は全体として達成される。しかしながら、これは、鋼鉄および/または亜鉛メッキ鋼表面のリン酸処理が起こり得る条件が支配する場合だけである。
【0045】
【表6】

【0046】
様々な基板(アルミニウム(AC 120)、CRS ST1405(Sidca−Stahl)およびHDG(Thyssen)に対する化成層の形成において、系統的に変動する水性処理溶液中のジルコニウムおよび/またはチタン濃度と遊離フッ化物濃度の影響は、以下に記載する。
【0047】
化成処理の目的のために、表1の方法と同一の方法段階を使用して、問題の金属板を、洗浄し、濯ぎ、活性化し、その後、表1に対応する本発明の水性処理溶液に接触させる。
ただし、その水性処理溶液は、
a)HZrFの形態で0〜70ppmのジルコニウム、または、
b)KTiFの形態で0〜70ppmのチタン、または、
c)HZrFおよびKTiFの形態で、いずれの場合も.0〜30ppmのジルコニウムおよびチタンを含有する。
【0048】
連続的で均一なリン酸亜鉛層の形成は、特にこの基板において重要であるから、表8〜10は、各場合に使用した処理溶液a)〜c)の指数λの機能として、冷延鋼板上のリン酸塩処理の視覚的評価を含む。視覚的評価のために、金属試験板は、それぞれおよそ1cm角の状態の格子に細分され、個々に評価される。全ての個々のフィールドを総計した被覆度の平均は、検討した金属板領域(該領域は、少なくとも64の個々のフィールドから成る)の割合で、リン酸塩層による特定の金属板の全被覆度の半定量的測定を与える。ここで、当業者は、反射性および/または色の違いに基づいて、被覆された領域とされていない領域とを区別する。リン酸塩処理された領域は、全ての金属基板上でマットグレーの外観を有し、一方、被覆されていない領域は金属光沢を有し、また、不動態化領域は青から紫色の光沢を有する。
【0049】
【表7】

【0050】
【表8】

【0051】
【表9】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
鋼鉄、亜鉛メッキ鋼、合金亜鉛メッキ鋼またはアルミニウムおよびそれらの任意の組み合わせの表面を含んでなる金属表面の防食化成処理のための水性組成物であって、
(a)5〜50g/lのリン酸イオン、
(b)0.3〜3g/lの亜鉛(II)イオン、
(c)ジルコニウムおよび/またはチタン元素に対して、合計で1〜200ppmの1つまたはそれ以上のジルコニウムおよび/またはチタンの水溶性化合物
を含有し、さらに、水性組成物中に、フッ化物感応電極により測定した1〜400ppmの量の遊離フッ化物を含有する水性組成物。
【請求項2】
式(I)

[式中、F/mMおよびMe/mMは、それぞれ、いずれの場合もmMの濃度単位で還元した遊離フッ化物濃度(F)、およびジルコニウムおよび/またはチタン濃度(Me)を意味する]
で示される指数λが、特定値を下回らず、かつ、ジルコニウムのみを成分(c)として含有する水性組成物に対するその値が、少なくとも4であり、または、チタンのみを成分(c)として含有する水性組成物の場合には、少なくとも6であり、さらに、両成分(c)を含有する水性組成物に対して、式(I)による指数λが、

以上である、請求項1に記載の水性組成物。
【請求項3】
(i)ジルコニウムの水溶性化合物のみを成分(c)として含有する組成物に対する式(I)で示される指数λが、少なくとも4、好ましくは少なくとも4.5、特に好ましくは少なくとも5であるが、10以下、好ましくは8以下であり;
(ii)チタンの水溶性化合物のみを成分(c)として含有する組成物に対する式(I)で示される指数λが、少なくとも6、好ましくは少なくとも6.5、特に好ましくは少なくとも7であるが、14以下、好ましくは12以下であり;
(iii)ジルコニウムおよびチタンの両方の水溶性化合物を成分(c)として含有する組成物に対する式(I)で示される指数λが、

以下である、請求項2に記載の水性組成物。
【請求項4】
前記組成物が、さらに、少なくとも1つの下記量の促進剤:
0.3〜4g/lの塩素酸イオン、
0.01〜0.2g/lの亜硝酸イオン、
0.05〜4g/lのニトログアニジン、
0.05〜4g/lのN−メチルモルホリンN−オキシド、
0.2〜2g/lのm−ニトロベンゼンスルホン酸イオン、
0.05〜2g/lのm−ニトロ安息香酸イオン、
0.05〜2g/lのp−ニトロフェノール、
1〜150mg/lの遊離または結合した過酸化水素、
0.1〜10g/lの遊離または結合したヒドロキシルアミン、
0.1〜10g/lの還元糖
を含有する請求項1〜3のいずれかに記載の水性組成物。
【請求項5】
前記組成物が、さらに、1つまたはそれ以上の下記量のカチオン:
0.001〜4g/lのマンガン(II)、
0.001〜4g/lのニッケル(II)、
0.001〜4g/lのコバルト(II)、
0.002〜0.2g/lの銅(II)、
0.2〜2.5g/lのマグネシウム(II)、
0.2〜2.5g/lのカルシウム(II)、
0.01〜0.5g/lの鉄(II)、
0.2〜1.5g/lのリチウム(I)、
0.02〜0.8g/lのタングステン(VI)、
を含有する請求項1〜4のいずれかに記載の水性組成物。
【請求項6】
鋼鉄および/または亜鉛メッキ鋼および/または合金亜鉛メッキ鋼表面に加えて、アルミニウム表面も含んでなる金属表面の防食化成処理のための方法であって、洗浄または脱脂した金属表面を、請求項1〜5のいずれかに記載の水性化合物と接触させる方法。
【請求項7】
元素荷重(elemental loading)0.5〜4.5g/mを有する連続した結晶性リン酸塩層を鋼鉄、亜鉛メッキ鋼および合金亜鉛メッキ鋼の表面上に存在させ、かつ、非晶質化成層をアルミニウム表面上に存在させるような方法で処理した金属表面を、水による中間濯ぎを伴うまたは伴わない電着塗装により、さらなる方法段階において被覆するような請求項6に記載の方法。
【請求項8】
請求項1〜5のいずれかに記載の水性組成物の遊離酸含量が、0ポイント、好ましくは少なくとも0.5、特に好ましくは少なくとも1であるが、3ポイント以下、好ましくは2以下、特に好ましくは1.5ポイント以下であり、かつ、全酸含量が少なくとも20ポイント、好ましくは少なくとも22ポイントであるが、26以下、好ましくは24ポイント以下であり、水性組成物の温度が20〜65℃の範囲に維持された請求項6または7に記載の方法。
【請求項9】
請求項1〜5のいずれかに記載の水性組成物のpH値が、2.2以上、好ましくは2.4以上、特に好ましくは2.6以上であるが、3.8以下、好ましくは3.6以下、特に好ましくは3.2以下であり、温度が20〜65℃の範囲に維持された請求項6〜8のいずれかに記載の方法。
【請求項10】
金属表面を請求項1〜5のいずれかに記載の水性組成物と接触させた後に、不動態化後濯ぎ(passivating post-rinsing)を行わない請求項6〜9のいずれかに記載の方法。
【請求項11】
金属表面を請求項1〜5のいずれかに記載の水性組成物と接触させた後に、水による中間濯ぎを伴うまたは伴わない不動態化後濯ぎ(passivating post-rinsing)を行う請求項6〜9のいずれかに記載の方法。
【請求項12】
不動態化後濯ぎ(passivating post-rinsing)が、3.5〜5.5の範囲のpH値を示し、ジルコニウム元素および/またはチタン元素に対して合計200〜1500ppmのジルコニウムおよび/またはチタンのフルオロ錯体、および必要に応じて10〜100ppmの銅(II)イオンを含有する、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
鋼鉄および/または亜鉛メッキ鋼および/または合金亜鉛メッキ鋼表面および少なくとも1つのアルミニウム表面を含んでなる金属部品であって、存在する場合には、鋼鉄および亜鉛メッキ鋼および合金亜鉛メッキ鋼表面のいずれもが層重量0.5〜4.5g/mを有する連続した結晶性リン酸塩層で被覆され、アルミニウム表面に非晶質化成層が形成されている、請求項6〜12のいずれかに記載された方法で前処理された、金属部品。
【請求項14】
自動車製造での車体構造、造船、建設業および白物家電の製造における、請求項13に記載の金属部品の使用。

【公表番号】特表2010−509499(P2010−509499A)
【公表日】平成22年3月25日(2010.3.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−535644(P2009−535644)
【出願日】平成19年9月13日(2007.9.13)
【国際出願番号】PCT/EP2007/059628
【国際公開番号】WO2008/055726
【国際公開日】平成20年5月15日(2008.5.15)
【出願人】(391008825)ヘンケル・アクチェンゲゼルシャフト・ウント・コムパニー・コマンディットゲゼルシャフト・アウフ・アクチェン (309)
【氏名又は名称原語表記】Henkel AG & Co. KGaA
【住所又は居所原語表記】Henkelstrasse 67,D−40589 Duesseldorf,Germany
【Fターム(参考)】