説明

金属触媒の含有量が少ない生体内分解吸収性高分子及びその製法

【課題】本発明は、医療用インプラント等に適した所望の物性を保持しつつ、金属触媒含有量の極めて低い安全な生体内分解吸収性高分子を提供する。また、工業規模で利用可能な生体内分解吸収性高分子中の金属触媒含有量の低減化方法を提供する。
【解決手段】高分子中に含まれる金属触媒の含有量が金属換算で1 ppm未満である生体内分解吸収性高分子、生体内分解吸収性高分子中の金属触媒の含有量を低減化する方法であって、該金属触媒を含有する生体内分解吸収性高分子を有機酸含有溶液で洗浄することを特徴とする低減化方法、金属触媒の含有量が低減化された生体内分解吸収性高分子の製法であって、ラクチドとε−カプロラクトンとを金属触媒の存在下共重合させて生体内分解吸収性高分子を製造し、該生体内分解吸収性高分子を有機酸含有溶液で洗浄することを特徴とする生体内分解吸収性高分子の製法等に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は金属触媒の含有量(残存量)が少ない生体内分解吸収性高分子及びその製法に関する。具体的には、金属触媒を用いて生体内分解吸収性高分子を合成した後、得られた生体内分解吸収性高分子中の金属触媒の含有量を低減化する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、生体内分解吸収性高分子としては、ポリ乳酸、ポリグリコール酸、ポリカプロラクトン、トリメチレンカーボネート、ポリジオキサン及びこれらの共重合体などが知られている。これらは、生体内で分解・吸収されることから、縫合糸、骨接合材などの医療用インプラントとして利用されている。
【0003】
こうした高分子化合物の合成には、例えば、オクチル酸スズなどの重金属系の触媒が多用されるため、合成された高分子化合物中には金属触媒が残存することになる。この高分子化合物を、医療用インプラントとして用いた場合、高分子の分解とともに金属触媒が体内に暴露される。金属触媒は、その種類によって異なるが、一定以上の濃度であると人体に対し免疫毒性、遺伝毒性、神経毒性等の悪影響を引き起こす恐れがある。従って、これらの高分子を医療用インプラントとして用いる場合は、出来るだけ金属触媒の残存量を少なくすることが必要である。
【0004】
その一方、インプラント用途の高分子では、一定以上の分子量、強度等の特性が要求される。このような高分子を得るためには、重合過程において、ある程度以上の金属触媒の添加を要するため、重合反応後に高分子に残存する金属触媒を除去することが必要となる。しかしながら、この方法では、金属触媒の除去が容易ではなく工業的に困難を伴う場合が多い。
【0005】
例えば、高分子化合物を有機溶媒に溶解した後、金属触媒を再沈殿させて除去する方法がある(例えば、特許文献1)。しかし、この方法は、大量の溶媒を必要とすることに加え、高分子の溶解による分子量の大幅な低下をきたしてしまうため、医療用具のように一定以上の強度が必要とされる材料の製造には適していない。また、再沈殿の際に高分子は多くの気泡を含有する形状になってしまうため成形後気泡を有しやすくなる等の問題があり、工業生産には向いていない。
【0006】
また、特許文献2には、ラクチドとε−カプロラクトンとの共重合体の製造法が示されており、最終的な金属触媒の含有量については記載されていない。この公報において、モノマーと相対的に10−7〜10−3mol/molの触媒を用いると記載されているが、その実施例では、触媒量を単量体のモルあたり10−5mol/mol(金属含有量で22ppm)を加えると記載されるのみであり、金属触媒の含有量をより少なくすることについて具体的な開示はない。
【0007】
また、特許文献3では、ラクチドとカプロラクトンに金属触媒を1〜20ppm、高級ア
ルコールを0.01〜0.5wt%添加して、減圧下で10〜40日間重合させ、高分子量の生体内分解吸収性高分子を得る方法が記載されている。しかし、この方法で得られる高分子は、末端が高級アルコールで修飾されているため、現在まで使用されてきた生体内吸収性高分子と異なる物性(例えば、吸収性、安全性)を有すると考えられ、多くの検証が必要である。また、金属触媒量の使用量が少なすぎるため、重合時間も長く工業的には適していない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特表昭60-501217号公報の実施例I等
【特許文献2】特表平6-501045号公報
【特許文献3】特開2000-191753号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、医療用インプラント等に適した所望の物性を保持しつつ、金属触媒含有量の極めて低い安全な生体内分解吸収性高分子を提供することを目的とする。本発明は、また、工業規模で利用可能な、生体内分解吸収性高分子中の金属触媒含有量の低減化方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者は、上記の課題を解決するために鋭意研究を行った結果、金属触媒を用いてラクチド(乳酸二量体)とカプロラクトンを共重合させて共重合体を得て、この共重合体を有機酸を含む液体で洗浄することにより、金属触媒を効果的に除去できることを見出した。本発明者は、かかる知見に基づき、さらに研究を重ねた結果、本発明を完成するに至った。
【0011】
即ち、本発明は、次に示す金属触媒の残存量が少ない生体内分解吸収性高分子、その製法、生体内分解吸収性高分子中の金属触媒含有量の低減化方法、及び該生体内分解吸収性高分子を用いた医療用インプラントを提供する。
【0012】
項1.高分子中に含まれる金属触媒の含有量が金属換算で1 ppm未満である生体内分解
吸収性高分子。
【0013】
項2.生体内分解吸収性高分子がラクチドとε−カプロラクトンの共重合体である項1に記載の生体内分解吸収性高分子。
【0014】
項3.金属触媒の含有量が金属換算で0.1〜0.95 ppm程度である項1又は2に記載の生
体内分解吸収性高分子。
【0015】
項4.重量平均分子量が10000〜1000000程度である項1,2又は3に記載の生体内分解吸収性高分子。
【0016】
項5.生体内分解吸収性高分子中の金属触媒の含有量を低減化する方法であって、該金属触媒を含有する生体内分解吸収性高分子を有機酸含有溶液で洗浄することを特徴とする低減化方法。
【0017】
項6.生体内分解吸収性高分子が、ラクチドとε−カプロラクトンを金属触媒の存在下共重合させたものである項5に記載の低減化方法。
【0018】
項7.洗浄後における生体内分解吸収性高分子中の金属触媒の含有量が金属換算で1 ppm未満である項5又は6に記載の低減化方法。
【0019】
項8.金属触媒の含有量が低減化された生体内分解吸収性高分子の製法であって、ラクチドとε−カプロラクトンとを金属触媒の存在下共重合させて生体内分解吸収性高分子を製造し、該生体内分解吸収性高分子を有機酸含有溶液で洗浄することを特徴とする生体内分解吸収性高分子の製法。
【0020】
項9.洗浄後における生体内分解吸収性高分子中の金属触媒の含有量が金属換算で1 ppm未満である項8に記載の製法。
【0021】
項10.金属触媒が、ナトリウム、カリウム、アルミニウム、チタン、亜鉛及びスズからなる群より選ばれる金属を含む金属触媒である項8に記載の製法。
【0022】
項11.金属触媒が、ナトリウムエトキシド、カリウム−t−ブトキシド、トリエチルアルミニウム、チタン酸テトラブチル、オクチル酸スズ(II)、トリフェニルスズアセテート、酸化スズ、酸化ジブチルスズ、シュウ酸スズ、塩化スズ及びジブチルスズジラウレートからなる群より選ばれる少なくとも1種である項10に記載の製法。
【0023】
項12.有機酸含有溶液が、有機酸及び高分子親和性有機溶媒を含む溶液である項8〜11のいずれかに記載の製法。
【0024】
項13.有機酸を含有する溶液が、有機酸100重量部に対し高分子親和性有機溶媒を10
〜200重量部程度含有する溶液である項12に記載の製法。
【0025】
項14.有機酸を含有する溶液が、さらに高分子不溶性溶媒を含む溶液である項12に記載の製法。
【0026】
項15.有機酸を含有する溶液が、有機酸100重量部に対し、高分子親和性有機溶媒を20〜300重量部程度、高分子不溶性溶媒を20〜300重量部程度含有する溶液である項14に
記載の製法。
【0027】
項16.洗浄方法が、生体内分解吸収性高分子を有機酸含有溶液に浸漬し撹拌する方法である項8〜15のいずれかに記載の製法。
【0028】
項17.洗浄を2回以上繰り返す項8〜16のいずれかに記載の製法。
【0029】
項18.洗浄後の有機酸含有溶液を、生体内分解吸収性高分子の洗浄に繰り返し用いる項8〜17のいずれかに記載の製法。
【0030】
項19.項8〜18のいずれかに記載の製法により製造される金属触媒の含有量が金属換算で1 ppm未満である生体内分解吸収性高分子。
【0031】
項20.項1〜4のいずれかに記載の生体内分解吸収性高分子からなる成形体。
【0032】
項21.成形体が医療用インプラントである項20に記載の成形体。
【0033】
項22.医療用インプラントが、縫合糸、骨接合材、骨折用固定材、組織補填材、組織補強材、組織被覆材、組織再生用基材、組織補綴材、癒着防止材、人工血管、人工弁、ステント、クリップ、繊維布、止血材、接着剤及びコーティング剤からなる群より選ばれる1つである項21に記載の成形体。
【0034】
以下、本発明を詳述する。
I.金属触媒含有量が少ない生体内分解吸収性高分子
本発明における生体内分解吸収性高分子は、ポリエステル類、例えば、ポリグリコール酸、ポリ乳酸(D、L、DL)、ポリカプロラクトン、グリコール酸−乳酸(D、L、DL)共重合体、グリコール酸−カプロラクトン共重合体、乳酸(D、L、DL)−カプロラクトン共重合体、及びポリ(p−ジオキサノン)が挙げられる。中でも、乳酸(D、L、DL)−カプロラクトン共重合体が好ましい。
【0035】
上記のうち共重合体については、各原料モノマーの配合割合は特に限定はなく、99/1〜1/99(モル比)の任意の割合でよい。そのうち、乳酸−カプロラクトン共重合体を用いた場合は、ラクチド(乳酸二量体)とカプロラクトンが90/10〜30/70(モル比)の割合で配合されたものが好ましい。
【0036】
本発明における生体内分解吸収性高分子の重量平均分子量(Mw)は、10000〜1000000程度であり、好ましくは100000〜700000程度である。そのうち、乳酸−カプロラクトン共重合体の場合は、重量平均分子量が50000〜800000程度、特に100000〜500000程度のものが
好ましい。かかる範囲であれば、強度、分解性、加工性等の物性の点で、医療用インプラントに適したものとなる。
【0037】
生体内分解吸収性高分子に含まれる金属は、後述の生体内分解吸収性高分子を製造する重合反応に用いられる金属触媒に由来する。かかる金属としては、ナトリウム、カリウム、アルミニウム、チタン、亜鉛、スズなどが例示される。例えば、重合反応において、オクチル酸スズを用いた場合、主な含有金属はスズとなる。
【0038】
本発明の生体内分解吸収性高分子は、該高分子中の金属触媒の含有量が金属換算で1 ppm未満ときわめて少ない。高分子中の金属触媒の含有量(金属換算)は、好ましくは0.1〜0.95 ppm、より好ましくは0.1〜0.7 ppm、特に好ましくは0.1〜0.5 ppmである。これにより本発明の生体内分解吸収性高分子を医療用インプラントとして用いた場合でも、人体に免疫毒性、遺伝毒性、神経毒性等を引き起こす恐れはほとんどない。
【0039】
金属触媒の含有量(金属換算)の測定は、高分子に硫酸/硝酸混液(1:1、体積比)を加え、これを加熱して有機成分を分解した後、金属標準液を基準として、該溶液中に含有する金属をプラズマ発光分析機で定量することにより実施する。オクチル酸スズを触媒として用いた場合の測定例を、試験例1に示す。
【0040】
II.金属含有量が少ない生体内分解吸収性高分子の製造
本発明の金属触媒の含有量が少ない生体内分解吸収性高分子は、金属触媒の存在下モノマーを重合させて生体内分解吸収性高分子を製造し、該生体内分解吸収性高分子を有機酸含有溶液で処理することにより製造される。この製造方法を用いると、生体内分解吸収性高分子中の金属触媒の含有量(金属換算)を1 ppm未満に低減することができる。
【0041】
以下、具体的な製法を、乳酸−カプロラクトン共重合体からなる生体内分解吸収性高分子の例を挙げて説明する。
(1)金属触媒を用いた生体内分解吸収性高分子の製造
まず、生体内分解吸収性高分子は、ラクチドとε−カプロラクトンとを金属触媒の存在下共重合させて製造される。
【0042】
金属触媒としては、ナトリウム、カリウム、アルミニウム、チタン、亜鉛、スズ等の属を含む金属触媒であり、具体的には、ナトリウムエトキシド、カリウム−t−ブトキシド、トリエチルアルミニウム、チタン酸テトラブチル、オクチル酸スズ(II)、トリフェニルスズアセテート、酸化スズ、酸化ジブチルスズ、シュウ酸スズ、塩化スズ、ジブチルスズジラウレートなどが挙げられる。このうち、重合反応の反応性、安全性等の点で、オクチル酸スズ(II)が好適である。
【0043】
金属触媒の使用量は、ラクチドとε−カプロラクトンの混合重量に対し、100〜1000 ppm程度(金属換算で29〜290 ppm程度)、好ましくは200〜700 ppm程度(金属換算で48〜203 ppm)を用いる。
【0044】
かかる範囲で金属触媒を使用することにより、インプラント用途に適した分子量、強度等の特性を有する共重合体を、より短時間で製造することができる。添加する金属触媒が少なすぎると、未反応のモノマーが多く残存したり、反応に時間がかかりすぎるため、工業的生産に不向きとなり、また、重合度の大きい(高分子量の)高分子が得られないという点からも好ましくない。
【0045】
共重合体は、金属触媒の存在下、ラクチドとε−カプロラクトンを塊状重合等の公知の重合反応に付して製造することができる。具体的には、ラクチドとε−カプロラクトンを反応容器に入れて、これに金属触媒を200〜700 ppm程度(金属換算で48〜203 ppm)の含
有量になるように添加して、窒素雰囲気下、もしくは、常法により減圧下で110〜180 ℃
で2〜20日間塊状重合させる。
【0046】
得られるラクチド−ε−カプロラクトン共重合体の重量平均分子量(Mw)は、100000〜1000000程度、特に300000〜800000程度となる。
【0047】
なお、この時点で共重合体中の金属触媒の含有量(金属換算)は、重合反応で用いた金属触媒に由来する金属の含有量に相当し、48〜203 ppmとなる。
(2)生体内分解吸収性高分子の洗浄
上記(1)で得られた共重合体(生体内分解吸収性高分子)を有機酸含有溶液で洗浄することにより、金属触媒の含有量(金属換算)が1 ppm未満に低減される。
【0048】
まず、金属含有量の高い共重合体の洗浄効率を良くするために、共重合体を、粉砕機等を用いて平均粒子径が0.3〜4.0 mm程度に粉砕して粒状にしておくことが好ましい。なお
、平均粒子径は種々のメッシュサイズのふるいにかけ、重量比から算出する方法、或いは、抜き取って顕微鏡で観察して算出する方法による。
【0049】
有機酸含有溶液は、有機酸及び高分子親和性有機溶媒を含んでいる。この有機酸含有溶液は、高分子中に浸潤して有機酸と金属触媒とがキレートを生成し溶液中に抽出する働きを有している。
【0050】
有機酸は、高分子中に残存する金属触媒とキレートを形成し溶液中にトラップし得るものであればよく、例えば、ギ酸、酢酸、乳酸、グリコール酸、カプロン酸等が使用可能であり、安全性、洗浄効率、除去の簡便性、対象高分子への影響などの点から酢酸が好適である。
【0051】
有機酸単独では高分子内部まで浸透せず、高分子の表面しか洗浄できないため、有機酸と相溶性があり高分子の内部まで浸潤可能な有機溶媒(高分子親和性有機溶媒)を併用する。
【0052】
高分子親和有機溶媒として、具体的には、メタノール、エタノール、n−プロパノール、イソプロパノール等の1価アルコール類;アセトン、メチルエチルケトン、ジエチルケトン等のケトン類;酢酸メチル、酢酸エチル等のエステル類などが例示される。中でも、アセトン、酢酸エチル、エタノールが好ましく、特に、酢酸エチル、エタノールが好ましい。
【0053】
有機酸含有溶液が、有機酸及び高分子親和性有機溶媒からなる場合、有機酸100重量部に対し高分子親和性有機溶媒が10〜200重量部程度である。好ましい有機酸含有溶液としては、酢酸とアセトンからなる溶液、酢酸と酢酸エチルからなる溶液が挙げられる。酢酸とアセトンとからなる溶液の場合、酢酸100重量部に対し、アセトンが50〜150重量部程度であり、酢酸と酢酸エチルとからなる溶液の場合、酢酸100重量部に対し酢酸エチルが50〜150重量部程度である。
【0054】
また、有機酸含有溶液は、有機酸及び高分子親和性有機溶媒に加え、さらに高分子不溶性溶媒を含んでいても良い。
【0055】
高分子不溶性溶媒とは、有機酸と高分子混和性有機溶媒からなる溶液を希釈して、高分子には全く影響を与えない溶媒を意味する。高分子の分子量や組成比やブロック性により溶媒に対する溶解性が異なるため、有機酸と高分子親和性有機溶媒の混合溶媒のみでは、高分子が溶解することがある。溶解してしまうと、成形加工が困難になる、分子量が低下する、回収のために析出溶媒として多量の有機溶媒が必要になる、ロスが多くなる等の理由により工業的生産に適さない。そのため、有機酸と高分子親和性有機溶媒を薄め、高分子には全く影響のない高分子不溶性溶媒を添加するのである。
【0056】
高分子不溶性溶媒として、具体的には、水、エチレングリコール、プロピレングリコール等の多価アルコールなどが例示される。このうち、安全性、コスト、分解性高分子の劣化を防ぐなどの点から、エチレングリコールが好適である。
【0057】
有機酸含有溶液が、有機酸、高分子親和性有機溶媒及び高分子不溶性溶媒からなる場合、通常、有機酸100重量部に対し、高分子親和性有機溶媒が20〜300重量部程度、高分子不溶性溶媒が20〜300重量部程度である。
【0058】
この場合の、好ましい有機酸含有溶液としては、酢酸/エタノール/エチレングリコール、酢酸/アセトン/エチレングリコール、酢酸/酢酸エチル/エチレングリコールなどの組み合わせが挙げられる。
【0059】
酢酸/エタノール/エチレングリコールからなる溶液の場合、酢酸100重量部に対し、エタノールが20〜300重量部程度、エチレングリコールが20〜300重量部程度である。
【0060】
酢酸/アセトン/エチレングリコールからなる溶液の場合、酢酸100重量部に対し、アセトンが20〜100重量部程度、エチレングリコールが40〜300重量部程度である。
【0061】
酢酸/酢酸エチル/エチレングリコールからなる溶液の場合、酢酸100重量部に対し、酢酸エチルが20〜100重量部程度、エチレングリコールが40〜300重量部程度である。
【0062】
有機酸含有溶液は、用いる有機酸の種類にもよるが、pH 1.0〜4.0程度になるように調整すればよい。
【0063】
洗浄に用いる有機酸含有溶液の量は、例えば、1回の洗浄あたり、高分子の乾燥重量に対し、3〜10倍量である。洗浄方法は、高分子中の金属触媒を効率的に除去できる方法であれば特に限定はないが、通常、常温、常圧下、高分子を有機酸含有溶液に浸漬し撹拌する方法が採用される。洗浄する高分子の量にもよるが、例えば、撹拌速度は、2〜30 rpm程度であり、1回の洗浄における撹拌時間は、通常、1〜24時間程度である。
【0064】
洗浄は、金属触媒が充分に除去されるまで行えばよいが、通常2回以上、好ましくは、3〜8回程度であればよい。
【0065】
洗浄において、上記有機酸含有溶液は、通常、酸濃度が高い程金属触媒の除去能が高くなる傾向があるが、最初の洗浄から、酸濃度が高い有機酸含有溶液を用いると、高分子が劣化しやすくなる傾向がある。また、高分子中の金属触媒の含有量が高い時には、高分子中と有機酸含有溶液中の金属触媒の濃度勾配が高いため、有機酸含有溶液の酸濃度による金属触媒の除去能に大きな差がない。
【0066】
そのため、まず、酸濃度の薄い有機酸含有溶液(例えば、有機酸、高分子親和性有機溶媒、高分子不溶性溶媒の重量比が100/200/100程度の溶液)で数回洗浄して高分子中の金属含有量をある程度(1〜5 ppm程度)まで低下させておき、酸濃度の薄い有機酸含有溶液では1回当たりの洗浄効果が少なくなってきた時点で、酸濃度の高い有機酸含有溶液(例えば、有機酸、高分子親和性有機溶媒、高分子不溶性溶媒の重量比が100/50/50程度の溶液)に切り替えて数回洗浄することが好ましい。
【0067】
また、有機酸含有溶液による洗浄の回数が増えるにつれ、有機酸含有溶液に抽出される金属触媒量は低下する傾向にある。しかし、金属触媒量の少ない有機酸含有溶液は、高分子中の金属触媒含有量が大きく有機酸含有溶液中の金属触媒量が小さい時、即ち、両者の金属触媒の濃度勾配が大きい場合は、金属触媒の含有量の大きい高分子の洗浄に繰り返し用いる(再利用する)ことが可能である。
【0068】
洗浄後の高分子は、50〜110℃で6〜48時間程度真空乾燥に付して、有機溶媒の除去を行い、本発明の金属触媒の含有量が少ない生体内分解吸収性高分子が製造される。
【0069】
本発明の生体内分解吸収性高分子は、上記の工程で製造されるが、該生体内分解吸収性高分子の金属触媒の含有量(金属換算)は、1 ppm未満であり、好ましくは0.1〜0.95 ppm、より好ましくは0.1〜0.7 ppm、特に好ましくは0.1〜0.5 ppmである。
【0070】
また、生体内分解吸収性高分子の重量平均分子量(Mw)は、10000〜1000000程度であり、好ましくは100000〜700000程度である。そのうち、乳酸−ε−カプロラクトン共重合体の場合は、重量平均分子量が50000〜800000程度であり、好ましくは100000〜650000程度、より好ましくは210000〜500000程度である。
【0071】
III.用途
本発明の生体内分解吸収性高分子は、金属触媒の含有量(金属換算)が1 ppm未満と極めて低く、生体内に埋入しても安全であり、一般的な成形加工が容易であるという特徴を有している。そのため、医療用具原料(医療用インプラント等)として好適に用いられる。医療用インプラントとしては、縫合糸、骨接合材、骨折用固定材、組織補填材、組織補強材、組織被覆材、組織再生用基材、組織補綴材、癒着防止材、人工血管、人工弁、ステント、クリップ、繊維布、止血材、接着剤及びコーティング剤等が例示され、これらはいずれも公知の成形方法により成形することができる。
【発明の効果】
【0072】
本発明によれば、重合反応後の高分子を、所定の有機酸溶液で洗浄することにより、重合反応の金属触媒に由来する金属の含有量が極めて低い生体内分解吸収性高分子を製造することができる。また、得られた生体内分解吸収性高分子は、従来のものと物理化学的特性において遜色なく、しかも一般的な工業的方法により加工が出来ることから、特に医療用具原料(医療用インプラント等)として好適に利用できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0073】
次に本発明を、以下の製造例、実施例及び試験例によって更に詳述する。
[製造例1]
ガラス反応管に、ラクチド及びε-カプロラクトン(50:50、モル比)を入れ、これにオクチル酸スズ300 ppm(スズ金属換算:87 ppm)加えて、窒素雰囲気下、140℃で5日間塊状重合させて、重量平均分子量51万の高分子を得た。その高分子を粉砕機で粉砕し、平均粒子径3.0mmの粒状の高分子を得た。
【0074】
なお、平均粒子径は種々のメッシュサイズのふるいにかけ、重量比から算出した。以下、製造例2、3も同じ方法により求めた。
【0075】
[製造例2]
ガラス反応管に、ラクチドとε-カプロラクトン(50:50、モル比)を入れ、これにオクチル酸スズ600 ppm(スズ金属換算:174 ppm)を加えて、窒素雰囲気下、140℃で5日間塊状重合させて、重量平均分子量58万の高分子を得た。その高分子を粉砕機で粉砕し、平均粒子径3.0mmの粒状の高分子を得た。
【0076】
[製造例3]
ガラス反応管に、ラクチドとε-カプロラクトン(75:25、モル比)を入れ、これにオクチル酸スズ300 ppm(スズ金属換算:87 ppm)を加えて、窒素雰囲気下、120℃で7日間塊状重合させて、重量平均分子量71万の高分子を得た。その高分子を粉砕機で粉砕し、平均粒子径3.0mmの粒状の高分子を得た。
【0077】
[実施例1]
製造例1及び2で得られた高分子を、高分子の重量に対して5倍量の酢酸/エタノール/エチレングリコール(1:2:1、重量比)の混合溶液に浸積して、スターラーで5時間攪拌洗浄し、これを3回繰り返した。その後、さらに高分子に対して5倍量の酢酸/エタノール/エチレングリコール(2:1:1、重量比)の混合溶媒に浸積して5時間撹拌洗浄を行った。得られた高分子を、真空乾燥機にて70℃、24時間真空乾燥することで溶媒を除去した。
【0078】
[実施例2]
製造例1及び2で得られた高分子を、高分子の重量に対して5倍量の酢酸/アセトン/エチレングリコール(1:1:2、重量比)の混合溶媒に浸漬して、スターラーで5時間攪拌洗浄し、これを3回繰り返した。その後、さらに高分子に対して5倍量の酢酸/アセトン/エチレングリコール(4:1:3、重量比)の混合溶媒に浸漬して5時間撹拌洗浄を行った。得られた高分子を、真空乾燥機にて70℃、24時間真空乾燥することで溶媒を除去した。
【0079】
[実施例3]
製造例1及び2で得られた高分子を、高分子の重量に対して5倍量の酢酸/酢酸エチル/エチレングリコール(1:1:2、重量比)の混合溶媒に浸漬して、スターラーで5時間攪拌洗浄し、これを3回繰り返した。その後、さらに高分子に対して5倍量の酢酸/酢酸エチル/エチレングリコール(4:1:3、重量比)の混合溶媒に浸漬して5時間撹拌洗浄を行った。得られた高分子を、真空乾燥機にて70℃、24時間真空乾燥することで溶媒を除去した。
【0080】
[実施例4]
製造例3で得られた高分子を、高分子の重量に対して5倍量の酢酸/アセトン(1:1、重量比)の混合溶媒に浸漬して、スターラーで5時間攪拌洗浄し、これを2回繰り返した。その後、得られた高分子を、真空乾燥機にて70℃、24時間真空乾燥することで溶媒を除去した。
【0081】
[比較例1]
製造例1及び2で得られた高分子を、高分子の重量に対して5倍量の酢酸/エタノール(1:1、重量比)の混合溶媒に浸漬して、スターラーで5時間攪拌洗浄し、これを3回繰り返した。その後、得られた高分子を、真空乾燥機にて70℃、24時間真空乾燥することで溶媒を除去した。
【0082】
[比較例2]
製造例1、2及び3で得られた高分子を、高分子の重量に対して5倍量の酢酸/エチレングリコール(1:1、重量比)の混合溶媒に浸漬して、スターラーで5時間攪拌洗浄し、これを3回繰り返した。その後、得られた高分子を、真空乾燥機にて70℃、24時間真空乾燥することで溶媒を除去した。
【0083】
[試験例1]
上記の実施例1〜4及び比較例1〜2で得られた高分子について、金属触媒の含有量(金属換算)と分子量を測定した。その結果を、表1〜表3に示す。
【0084】
なお、測定方法は以下の通りである。
1.金属触媒の含有量(金属換算)の測定
得られた高分子を、硫酸/硝酸混液(1:1、体積比)に添加し、緩やかに加熱して有機分を分解した後、市販のスズ標準液(塩化スズ二水和物、和光純薬製)をスタンダードとして用いて、プラズマ発光分析機(CID−AP型、日本ジャーレル・アッシュ製)にて定量を行った。
2.分子量の測定
得られた高分子をクロロホルムに溶解し、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)にてポリスチレン標準品をスタンダードとして用いて、重量平均分子量(Mw)を測定した。
【0085】
【表1】

【0086】
【表2】

【0087】
【表3】

【0088】
上記の表1〜3より、実施例1〜4の高分子は、金属触媒の含有量(金属換算)が大きく低減化されるとともに、洗浄後の外観も問題はなく、しかも洗浄前後で物理的特性にほとんど変化はなかった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記(1)及び(2)の製法により製造される生体内分解吸収性高分子であって、該生体内分解吸収性高分子中の金属触媒の含有量が金属換算で0.1〜0.95ppmであり、かつ、該生体内分解吸収性高分子の重量平均分子量が210000〜1000000である生体内分解吸収性高分子;
(1)ラクチドとε−カプロラクトンとを金属触媒の存在下で共重合させて生体内分解吸収性高分子を製造する工程、及び
(2)該生体内分解吸収性高分子を下記の(a)又は(b)の有機酸含有溶液で洗浄して、金属触媒の含有量が金属換算で0.1〜0.95ppmであり、かつ重量平均分子量が210000〜1000000である生体内分解吸収性高分子を得る工程;
(a)有機酸、並びにケトン類及びエステル類から選ばれる高分子親和性有機溶媒を含む有機酸含有溶液、又は
(b)有機酸;1価アルコール類、ケトン類及びエステル類から選ばれる高分子親和性有機溶媒;並びに水及び多価アルコールから選ばれる高分子不溶性溶媒を含む有機酸含有溶液。
【請求項2】
前記生体内分解吸収性高分子の重量平均分子量が210000〜500000である請求項1に記載の生体内分解吸収性高分子。
【請求項3】
金属触媒が、ナトリウム、カリウム、アルミニウム、チタン、亜鉛及びスズからなる群より選ばれる金属を含む金属触媒である請求項1又は2に記載の生体内分解吸収性高分子。
【請求項4】
金属触媒が、ナトリウムエトキシド、カリウム−t−ブトキシド、トリエチルアルミニウム、チタン酸テトラブチル、オクチル酸スズ(II)、トリフェニルスズアセテート、酸化スズ、酸化ジブチルスズ、シュウ酸スズ、塩化スズ及びジブチルスズジラウレートからなる群より選ばれる少なくとも1種である請求項3に記載の生体内分解吸収性高分子。
【請求項5】
ラクチドとε−カプロラクトンからなる生体内分解吸収性高分子が、ラクチドとε−カプロラクトンが90/10〜30/70(モル比)の割合で配合されたものである請求項1〜4のいずれかに記載の生体内分解吸収性高分子。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれかに記載の生体内分解吸収性高分子からなる成形体。
【請求項7】
成形体が医療用インプラントである請求項6に記載の成形体。
【請求項8】
医療用インプラントが、縫合糸、骨接合材、骨折用固定材、組織補填材、組織補強材、組織被覆材、組織再生用基材、組織補綴材、癒着防止材、人工血管、人工弁、ステント、クリップ、繊維布、止血材、接着剤及びコーティング剤からなる群より選ばれる1つである請求項7に記載の成形体。

【公開番号】特開2011−38115(P2011−38115A)
【公開日】平成23年2月24日(2011.2.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−251692(P2010−251692)
【出願日】平成22年11月10日(2010.11.10)
【分割の表示】特願2004−381021(P2004−381021)の分割
【原出願日】平成16年12月28日(2004.12.28)
【出願人】(000001339)グンゼ株式会社 (919)
【Fターム(参考)】