説明

金属試料中の硫黄の分析方法および分析装置

【課題】金属試料に含まれている硫黄の定量分析を高精度で迅速に行うことができる分析方法および分析装置を提供する。
【解決手段】硫黄成分を含有する金属試料を純酸素ガス雰囲気下で高周波誘導加熱により燃焼させて、硫黄成分を二酸化硫黄まで酸化させる高周波誘導加熱工程と、金属試料の燃焼により生成する二酸化硫黄を含む二酸化硫黄含有ガスを紫外蛍光法により分析して金属試料中の硫黄を定量する分析工程とを含む金属試料中の硫黄の分析方法である。また、純酸素ガスを供給する純酸素ガス供給手段と、硫黄成分を含有する金属試料を、純酸素ガス供給手段により供給された純酸素ガス雰囲気下で燃焼させて、硫黄成分を二酸化硫黄まで酸化させる高周波誘導加熱炉と、金属試料の燃焼により生成する二酸化硫黄を含む二酸化硫黄含有ガスを紫外蛍光法により分析して金属試料中の硫黄を定量する紫外蛍光分析器とを備える金属試料中の硫黄の分析装置である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属試料中の硫黄の分析方法および分析装置に関し、特に鉄鋼や銅合金等からなる金属試料に含まれている硫黄の定量分析に好適な硫黄の分析方法および分析装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般に、銅合金や鉄鋼等の金属材料中に含まれている硫黄成分は、金属材料の諸特性に様々な影響を与えることが知られている。具体的には、銅合金中に含まれている硫黄成分は銅合金の熱間加工性を著しく低下させることが知られており、鉄鋼中に含まれている硫黄成分は鉄鋼の靭性を低下させることが知られている。
【0003】
そこで、特に鉄鋼業においては、所望の性能を有する金属材料を得るために、硫黄含有量の分析値に基づき精錬途中に成分を調整することが行われている。そのため、このような精錬途中の成分調整にも利用可能な金属材料中の硫黄の分析方法として、高精度で迅速に金属材料中の硫黄を定量することができる方法が求められている。
【0004】
ここで、従来、鉄鋼中に含まれている硫黄の分析方法としては、メチレンブルー吸光光度法等の湿式法と、燃焼赤外線吸収法やスパーク放電発光分光分析法等の機器分析法とが知られている。そして、鉄鋼の製造途中(精錬途中)に硫黄成分の分析を行う方法としては、特に鉄鋼の硫黄含有量が数ppm程度と低い場合や、数千ppm程度と高い場合に、分析値の正確性に優れる点から燃焼赤外線吸収法が広く用いられている。
【0005】
なお、この燃焼赤外線吸収法とは、電気加熱炉や高周波誘導加熱炉などの加熱炉を用いて試料を酸素気流中で燃焼させ、試料の燃焼により生じた二酸化硫黄を赤外線検出器に導入して二酸化硫黄に対応する波長の赤外光の吸収量を測定することにより、試料中の硫黄(S)を定量する方法である。
【0006】
一方、金属材料以外の、石油製品や液状有機合成品に含まれている硫黄を正確に定量する方法としては、ガスの流量および酸素濃度が試料の燃焼前後で一定となる様に制御しつつ、加熱炉にて不活性ガスおよび酸素の供給下で硫黄成分含有試料を燃焼分解し、紫外蛍光検出器にて燃焼ガス中の二酸化硫黄の蛍光強度を測定することにより、試料中の硫黄の定量分析を行う硫黄の分析方法(紫外蛍光法)が知られている(例えば、特許文献1参照)。
【0007】
しかし、上記従来の燃焼赤外線吸収法には、赤外線検出器での分析に時間がかかるため、分析を迅速に行うことができないという問題があった。また、燃焼赤外線吸収法では、水分の除去やノイズの低減により分析精度を向上させるために加熱炉と赤外線検出器との間に除湿器や、ガス流量調整器や、二酸化硫黄の吸着・濃縮カラム(トラップ)を設ける必要があるところ、該除湿器やトラップの性能を十分に発揮させるためには分析対象のガスを高流速で流すことができないため、試料の燃焼により生じた二酸化硫黄を赤外線検出器へ導入するまでに時間がかかり、分析を迅速に行うことができないと共に、分析装置内に二酸化硫黄が残留して次に測定する試料の分析結果に影響を及ぼすという問題があった。さらに、除湿器としては、粒径1mm以下の吸湿性試薬を充填したカラムが主として用いられているが、このような吸湿性試薬を充填した除湿器では、ガスの流通性が悪く、分析対象のガスを高流速で流すことができないと共に、二酸化硫黄は吸着され易い物質であるため、分析対象のガス中の二酸化硫黄が除湿器の吸湿性試薬に吸着されてしまう可能性がある。従って、燃焼赤外線吸収法には、燃焼赤外線吸収法にとって必要不可欠な除湿器が、試料の分析結果に悪影響を及ぼすという問題もあった。
【0008】
また、上記従来の紫外蛍光法では、石油製品のような易燃性物質を分析することはできるものの、加熱炉として1000〜1100℃程度の比較的低い温度で試料を加熱する燃焼管を用いており、また、酸素濃度を一定にするために所定量の不活性ガスを供給する必要があるため、高い酸素濃度下、例えば1500℃以上の高温で燃焼させる必要がある金属試料を高精度で迅速に分析することはできなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2003−65958号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
そのため、金属試料に含まれている硫黄(S)の定量分析を高精度で迅速に行うことができる分析方法および分析装置を開発することが求められていた。
【課題を解決するための手段】
【0011】
この発明は、上記課題を有利に解決することを目的とするものであり、本発明の金属試料中の硫黄の分析方法は、硫黄成分を含有する金属試料を純酸素ガス雰囲気下で高周波誘導加熱により燃焼させて、前記硫黄成分を二酸化硫黄まで酸化させる高周波誘導加熱工程と、前記金属試料の燃焼により生成する二酸化硫黄を含む二酸化硫黄含有ガスを紫外蛍光法により分析して金属試料中の硫黄を定量する分析工程とを含むことを特徴とする。なお、本発明において、純酸素ガスとは酸素濃度99.5体積%以上の気体を指し、また、高周波とは、周波数1MHz以上の周波数を指す。更に、本発明において、酸素濃度は、磁気力方式酸素濃度計により測定することができる。
【0012】
ここで、本発明の金属試料中の硫黄の分析方法は、前記高周波誘導加熱工程で生成した前記二酸化硫黄含有ガス中に占める酸素ガスの割合が90体積%以上であることが好ましい。二酸化硫黄含有ガス中の酸素濃度を90体積%以上とすれば、金属試料中の硫黄の定量分析をより高い精度で行うことができるからである。
【0013】
また、本発明の金属試料中の硫黄の分析方法は、前記高周波誘導加熱工程で、前記純酸素ガスを、毎分4〜10Lの流量で供給することが好ましい。純酸素ガスを4〜10L/分の流量で供給して金属試料を燃焼させれば、金属試料中の硫黄の定量分析を更に高い精度で行うことができるからである。
【0014】
そして、本発明の金属試料中の硫黄の分析方法は、前記二酸化硫黄含有ガスの流量を測定する二酸化硫黄含有ガス流量測定工程と、前記二酸化硫黄含有ガス流量測定工程で測定した二酸化硫黄含有ガスの流量に基づき、前記分析工程で得られる硫黄の定量値を、二酸化硫黄含有ガスの流量変動の影響を取り除くように補正する補正工程とを更に含むことが好ましい。
【0015】
また、本発明の金属試料中の硫黄の分析装置は、純酸素ガスを供給する純酸素ガス供給手段と、硫黄成分を含有する金属試料を、前記純酸素ガス供給手段により供給された純酸素ガス雰囲気下で燃焼させて、前記硫黄成分を二酸化硫黄まで酸化させる高周波誘導加熱炉と、前記金属試料の燃焼により生成する二酸化硫黄を含む二酸化硫黄含有ガスを紫外蛍光法により分析して金属試料中の硫黄を定量する紫外蛍光分析器とを備えることを特徴とする。なお、本発明において、純酸素ガスとは酸素濃度99.5体積%以上の気体を指し、また、高周波とは、周波数1MHz以上の周波数を指す。更に、本発明において、酸素濃度は、磁気力方式酸素濃度計により測定することができる。
【0016】
ここで、本発明の金属試料中の硫黄の分析装置は、前記純酸素ガス供給手段が、前記純酸素ガスの供給流量を制御する流量制御手段を更に備えることが好ましい。このように、流量制御手段を設ければ、二酸化硫黄含有ガス中の酸素濃度を調整して金属試料中の硫黄の定量分析をより高い精度で行うことができるからである。
【0017】
そして、本発明の金属試料中の硫黄の分析装置は、前記二酸化硫黄含有ガスの流量を測定する二酸化硫黄含有ガス流量測定手段と、前記二酸化硫黄含有ガス流量測定手段で測定した二酸化硫黄含有ガスの流量に基づき、前記紫外蛍光分析器で得られる硫黄の定量値を、二酸化硫黄含有ガスの流量変動の影響を取り除くように補正する補正手段とを更に備えることが好ましい。
【発明の効果】
【0018】
本発明の分析方法および分析装置によれば、金属試料に含まれている硫黄の定量分析を高精度で迅速に行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明に従う分析装置の一例の構成を説明する説明図である。
【図2】本発明に従う分析装置の他の例の構成を説明する説明図である。
【図3】比較例の分析装置の構成を説明する説明図である。
【図4】比較例の分析装置の構成を説明する説明図である。
【図5】高周波誘導加熱炉で金属試料を燃焼させて分析を行った際の、高周波誘導加熱開始からの経過時間と、生成する二酸化硫黄含有ガスの流量との関係を示すグラフである。
【図6】高周波誘導加熱炉で金属試料を燃焼させて分析を行った際の、繰り返し分析回数と、生成する二酸化硫黄含有ガスの流量との関係を示すグラフである。
【図7】図1に示す分析装置で高周波誘導加熱炉へ供給するガスの組成を変化させて鉄鋼標準試料を分析した際の、高周波誘導加熱開始からの経過時間と、紫外蛍光分析器での二酸化硫黄の検出強度との関係を示すグラフである。
【図8】図1に示す分析装置で鉄鋼標準試料を分析した際の、高周波誘導加熱開始からの経過時間と、紫外蛍光分析器での二酸化硫黄の検出強度との関係を示すグラフである。
【図9】図3と図4に示す分析装置で鉄鋼標準試料を分析した際の、高周波誘導加熱開始からの経過時間と、高周波燃焼赤外線吸収分析装置での二酸化硫黄の検出強度との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、図面を参照して本発明の実施の形態を詳細に説明する。ここに、本発明の分析装置の一例の紫外蛍光分析装置1は、金属試料中に含まれている硫黄を定量分析するためのものである。なお、紫外蛍光分析装置1で分析する金属試料としては、例えば300質量ppm以下、好ましくは20質量ppm以下の硫黄成分(硫黄換算値)を含有している、銅合金や鉄鋼等からなる試料を挙げることができる。
【0021】
ここで、図1に示すように、紫外蛍光分析装置1は、純酸素ガス供給手段2と、純酸素ガス供給手段2を用いて供給された純酸素ガス雰囲気下で金属試料5を燃焼させて金属試料5中に含まれている硫黄成分を二酸化硫黄にする高周波誘導加熱炉3と、高周波誘導加熱炉3での金属試料5の燃焼により生成した二酸化硫黄含有ガスから塵埃(ダスト)を除去するダストフィルタ4と、ダストを除去した二酸化硫黄含有ガスを紫外蛍光法により分析して金属試料中の硫黄を定量する紫外蛍光分析器6とを備えている。
【0022】
純酸素ガス供給手段2は、純酸素ガス(酸素濃度99.5体積%以上の気体)供給源(図示せず)と、純酸素ガス供給ライン21と、純酸素ガス供給ライン21上に設けられた流量制御手段としての流量調整器22とを備えている。なお、流量調整器22としては、既知の流量調整器を用いることができるが、供給する流量の正確さの観点からは、純酸素ガスの質量流量を調整できる質量流量調整器を用いることが好ましい。
【0023】
高周波誘導加熱炉3の内部には、金属試料5を投入したセラミックスるつぼ31と、セラミックスるつぼ31を囲繞するコイル32とが配置されており、コイル32は、交流電源(図示せず)に接続されている。そして、この高周波誘導加熱炉3では、純酸素ガス供給手段2を介して供給された純酸素ガス雰囲気下、コイル32に例えば10〜20MHzの交流電流を印加することにより、セラミックスるつぼ31内の金属試料5が迅速に溶解すると共に、金属試料5に含まれていた硫黄成分が純酸素ガスと反応して(即ち、金属試料5が燃焼して)二酸化硫黄ガスが生成する。なお、金属試料5を燃焼させる際には、スズ、タングステン等の助燃剤を用いることが好ましい。セラミックスるつぼ31中に金属試料5と助燃剤とを投入して高周波誘導加熱を行えば、金属試料5が迅速に燃焼するので、金属試料5中の硫黄の定量をより迅速に行うことができるからである。
【0024】
ダストフィルタ4は、金属試料5や助燃剤に起因するダストを、高周波誘導加熱炉3で生成した二酸化硫黄を含む二酸化硫黄含有ガスから除去して後段の紫外蛍光分析器6を保護するためのものであり、高周波誘導加熱炉3と紫外蛍光分析器6との間に設置されている。このダストフィルタ4としては、二酸化硫黄を吸着しない素材、例えばシリカ繊維やポリテトラフルオロエチレンからなる、通気性の優れたフィルタを用いることができる。
【0025】
紫外蛍光分析器6は、二酸化硫黄含有ガスに例えば波長220nmの紫外線を照射し、該紫外線照射により励起状態となった二酸化硫黄が基底状態に戻る際に放出する蛍光(波長330nm)を一定時間測定することにより、予め作成した検量線を用いて、測定された蛍光の強度の積算値から金属試料5に含まれている硫黄の量を算出するためのものである。なお、この紫外蛍光分析器6としては、既知の紫外蛍光分析器、具体的には、紫外線発生源と、二酸化硫黄含有ガスに紫外線を照射するための蛍光セルと、励起光を測定する光電子増倍管(PMT)とを備える紫外蛍光分析器を用いることができる。
【0026】
そして、この紫外蛍光分析装置1では、例えば以下のようにして金属試料5に含まれている硫黄の定量分析を行うことができる。
【0027】
まず、金属試料5および助燃剤をセラミックスるつぼ31に投入する。次に、純酸素ガス供給手段2で高周波誘導加熱炉3へ純酸素ガスを連続的に供給すると共にコイル32に交流電流を印加して、純酸素ガス雰囲気下で金属試料5を燃焼させる。そして、金属試料5の燃焼により生成する二酸化硫黄を含む二酸化硫黄含有ガスを、ダストフィルタ4でダストを除去した後に紫外蛍光分析器6で分析することにより、金属試料5の燃焼により生成した二酸化硫黄の量から金属試料中に含まれていた硫黄の量を定量することができる。
【0028】
この紫外蛍光分析装置1によれば、金属試料5を酸素雰囲気下で高周波誘導加熱炉3を用いて迅速且つ充分に燃焼させることができる。また、紫外蛍光分析装置1では、金属試料5の燃焼により生成した二酸化硫黄を紫外蛍光分析器6で測定しているので、赤外線検出器で二酸化硫黄を測定していた従来技術と比較して、測定対象ガス中の水蒸気や測定対象ガスの温度による影響を受けることが殆ど無い。従って、除湿器や、流量調整器や、二酸化硫黄の吸着・濃縮カラム(トラップ)を設けることなく、簡便な装置で迅速かつ正確に硫黄の定量をすることができる。更に、この紫外蛍光分析装置1では、従来技術のように測定時に参照ガス(比較ガス)を使用する必要も無い。
【0029】
また、一般に、酸素は、励起状態となった二酸化硫黄が基底状態に戻る際に放出する蛍光を吸収すると共に、励起状態となった二酸化硫黄分子と衝突してクエンチング(消光)現象を起こすため、紫外蛍光法では、測定対象ガス中の二酸化硫黄濃度が低い場合や、測定対象ガス中に酸素が大量に含まれている場合には、二酸化硫黄濃度の測定精度が低下する恐れがあることが知られている。しかし、この紫外蛍光分析装置1では、金属試料を迅速に燃焼することができる高周波誘導加熱炉3を用いており、金属試料中の硫黄が短時間ですべて酸化されるので、測定対象ガス中の二酸化硫黄濃度が高くなり、紫外蛍光分析器6で測定される蛍光強度が尖頭状の鋭いピークとなるので、より正確に二酸化硫黄濃度を測定することができる。
【0030】
ここで、前述した通り、酸素は二酸化硫黄の蛍光を消光する作用を有しているため、一般に、紫外蛍光分析法では、測定対象のガス(二酸化硫黄含有ガス)中に含まれている酸素の量に応じて、同一の二酸化硫黄濃度のガスを測定した場合であっても異なる強度の蛍光が検出されることが知られている。また、金属試料を燃焼させた場合、酸素は、金属自身や金属試料中の硫黄成分のみならず金属試料中の水素や炭素などとも結合するため、二酸化硫黄ガス以外の非酸素ガスが生成することも知られている。
【0031】
そのため、紫外蛍光分析装置1では、純酸素ガスを、二酸化硫黄含有ガス中の酸素濃度が90体積%以上となるように、即ち、高周波誘導加熱炉3に供給したガス(純酸素ガス)中の酸素濃度と二酸化硫黄含有ガス中の酸素濃度との差が10体積%以下となるように供給することが好ましい。具体的には、例えば、純酸素ガスを流量4〜10L/分で供給することが好ましい。金属試料5を燃焼させた場合、非酸素ガスの生成により二酸化硫黄含有ガス中の酸素濃度は高周波誘導加熱炉3に供給した純酸素ガスの酸素濃度よりも低下するところ、二酸化硫黄含有ガス中の酸素濃度が90体積%以上となるようにすれば、酸素濃度の相違による蛍光強度の変化の影響を小さく抑えることができ、二酸化硫黄濃度を正確に測定することができるからである。なお、純酸素ガスを流量4L/分以上で供給した場合、高周波誘導加熱炉3で生成した二酸化硫黄が紫外蛍光分析器6に到達するまでの時間が短くなるため分析に要する時間を短縮することができると共に、紫外蛍光分析装置1中で生成した二酸化硫黄が装置内に残留するのを防止することができる。また、純酸素ガスを流量10L/分以下で供給した場合、ダストによりダストフィルタ4が閉塞する頻度を低減して、装置のメンテナンスに要する費用および手間を抑制することができる。
【0032】
なお、本発明の分析装置は、上記一例に限定されることなく、適宜変更を加えることができる。具体的には、本発明の分析装置は、高周波誘導加熱炉の後段、即ち、高周波誘導加熱炉と紫外蛍光分析器との間、或いは、紫外蛍光分析器の後段に、金属試料の燃焼により生成した二酸化硫黄含有ガスの流量を測定する二酸化硫黄含有ガス流量測定手段を備えると共に、紫外蛍光分析器で得られる硫黄の定量値を、二酸化硫黄含有ガス流量測定手段で測定した二酸化硫黄含有ガスの流量に基づき補正する補正手段を備えていても良く、例えば図2に示すような構成の分析装置とすることができる。
【0033】
図2に示す本発明の分析装置の他の例の紫外蛍光分析装置20は、ダストフィルタ4と紫外蛍光分析器6との間に二酸化硫黄含有ガス流量測定手段としての流量計7が設けられている点、並びに、紫外蛍光分析器6および流量計7と電気的に接続された補正手段としてのコンピュータ8を備えている点を除き、他の点では先の一例の紫外蛍光分析装置1と同様に構成されている。
【0034】
ここで、流量計7としては、二酸化硫黄含有ガスの体積流量の測定が可能な流量計、例えばオリフィス流量計や、渦流量計や、フロート型流量計などを用いることができる。因みに、本発明の分析装置では、二酸化硫黄含有ガス中の酸素濃度が高い場合、例えば90体積%以上の場合には、流量計7として酸素流量計を使用し、酸素流量計で測定された流量を二酸化硫黄含有ガスの流量とみなしても良く、その場合には上記流量計に加えて、熱線式流量計、コリオリ式流量計などの質量流量計も用いることができる。
【0035】
コンピュータ8は、流量計7で測定した二酸化硫黄含有ガスの流量に基づき、紫外蛍光分析器6で得られる硫黄の定量値を、二酸化硫黄含有ガスの流動変動の影響を取り除くように補正するものである。ここで、硫黄の定量値を、二酸化硫黄含有ガスの流動変動の影響を取り除くように補正する方法としては、(1)金属試料5の分析中に紫外蛍光分析器6で連続的または断続的に測定される蛍光強度の値(瞬時値)Iに対して、該蛍光強度Iが測定された際の二酸化硫黄含有ガスの流量(同期流量)Qを任意の基準流量qで除した係数(Q/q)を乗算した値を補正後の蛍光強度I’(I’=I×Q/q)とし、該補正後の蛍光強度I’を積算して補正後の硫黄の定量値を求める方法、或いは、(2)蛍光強度の瞬時値Iを積算した積算値ΣIに対して、分析中の二酸化硫黄含有ガスの平均流量Qmを任意の基準流量qで除した係数(Qm/q)を乗算した値を、補正後の積算蛍光強度値ΣI’(ΣI’=ΣI×Qm/q)とし、該積算蛍光強度値ΣI’から補正後の硫黄の定量値を求める方法などが挙げられる。なお、基準流量としては、q=1の場合も含む任意の流量、例えば紫外蛍光分析装置20への純酸素ガスの供給流量を用いることができる。
【0036】
ここで、本発明者らの検討によれば、紫外蛍光法では、分析対象のガスの流量の変動が紫外蛍光分析器で測定される蛍光強度値に影響を及ぼすため、分析中に二酸化硫黄含有ガスの流量が変動する場合には、硫黄の定量値に誤差が生じることが明らかとなった。また、図1に示すような紫外蛍光分析装置1では、高周波誘導加熱炉3での金属試料5の燃焼により生成する二酸化硫黄含有ガスの流量が図5に示すように分析中に経時変化することがあったり、分析を繰り返し行った場合に、分析の繰り返しに伴うダストフィルタ4の目詰まりにより二酸化硫黄含有ガスの流量が図6に示すように低下することがあったりすることも明らかになった。
【0037】
このような誤差発生の恐れに対し、図2に示す紫外蛍光分析装置20では、流量計7で測定した二酸化硫黄含有ガスの流量に基づいてコンピュータ8で補正を行っているので、分析中にガス流量が変動することや、個々の測定のガス流量が相違することに起因する誤差の影響を取り除くことが可能となる。その為、高精度で迅速な分析ができるという効果に加えて、より正確に金属試料中の硫黄を定量することができるという効果を得ることができる。
【0038】
そして、上述した本発明の実施形態からも明らかなように、本発明に係る金属試料中の硫黄の分析方法によれば、金属試料を純酸素ガス雰囲気下で高周波誘導加熱により燃焼させているので、金属試料中に含まれている硫黄成分を迅速且つ充分に酸化して二酸化硫黄にすることができる。また、金属試料の燃焼により生成したガスを紫外蛍光法で分析しているので、金属試料に含まれている硫黄を迅速に定量分析することができる。従って、本発明の分析方法によれば、金属試料中に含まれている硫黄を高精度で迅速に定量分析することができる。
【0039】
また、本発明に係る金属試料中の硫黄の分析装置によれば、高周波誘導加熱炉を用いて金属試料を純酸素ガス雰囲気下で燃焼させているので、金属試料中に含まれている硫黄成分を迅速且つ充分に酸化して二酸化硫黄にすることができる。また、金属試料の燃焼により生成したガスを紫外蛍光分析器により分析しているので、金属試料中に含まれている硫黄を迅速に定量分析することができる。従って、本発明の分析装置によれば、金属試料に含まれている硫黄の定量分析を高精度で迅速に行うことができる。
【実施例1】
【0040】
以下、実施例1として、鋼材を分析試料とした場合の本発明を更に詳細に説明するが、本発明は下記の実施例に何ら限定されるものではない。
【0041】
(試験例1〜5)
図1に示す紫外蛍光分析装置1を用いて、鉄鋼標準試料JSS244−6(硫黄量:20質量ppm)を表1に示す条件でそれぞれ5回分析した。なお、高周波誘導加熱炉3には炭素・硫黄分析装置EMIA−620(堀場製作所製)の高周波誘導加熱炉部のみを使用し、紫外蛍光分析器6には大気中二酸化硫黄測定装置GFS−352(東亜ディーケーケー製)を改造したものを使用した。また、試料の分析に際しては、助燃剤としてタングステンおよびスズを用い、高周波誘導加熱炉3へ供給するガスとして表1に示す流量および組成のガスを用いた。鉄鋼標準試料に対する高周波誘導加熱開始からの経過時間と、紫外蛍光分析器6での二酸化硫黄の検出強度との関係の一例を図7に示す。また、図7に示すグラフから見積もった分析時間と、紫外蛍光分析器6で検出された二酸化硫黄の蛍光強度から算出される硫黄の量の標準偏差を表1に示す。
【0042】
【表1】

【0043】
表1および図7の試験例1〜5より、本発明の分析装置ではガスを純酸素とすれば、二酸化硫黄が微量ずつ長期に亘って検出される現象(テーリング)が発生し難いので、本発明の分析装置によれば、金属試料中の硫黄を測定値のばらつきを少なくして高精度且つ迅速に分析することができることが分かる。
【実施例2】
【0044】
以下、実施例2として鋼材を分析試料とした場合の本発明を更に詳細に説明するが、本発明は下記の実施例に何ら限定されるものではない。
【0045】
(試験例6〜10)
高周波誘導加熱炉3に供給するガスを純酸素として、流量を表2に示すように変更した以外は試験例1と同様にして、図1に示す紫外蛍光分析装置1を用いて鉄鋼標準試料JSS244−6(硫黄量:20質量ppm)を表2に示す条件でそれぞれ5回分析した。紫外蛍光分析器6で検出された二酸化硫黄の蛍光強度から算出される硫黄の量の標準偏差および分析に要した時間を表2に示す。また、鉄鋼標準試料に対する高周波誘導加熱開始からの経過時間と、紫外蛍光分析器6での二酸化硫黄の検出強度との関係の一例を図8に示す。なお、図8では、検出された二酸化硫黄の蛍光強度の最大値を100として換算した値を二酸化硫黄検出強度として示している。
【0046】
(試験例11)
図3に示すような、高周波誘導加熱炉3と、ダストフィルタ4と、除湿器9と、流量調整器22と、赤外線検出器10とを順次接続した高周波燃焼赤外線吸収分析装置30(堀場製作所製、炭素・硫黄分析装置EMIA−620)を用いて、純酸素雰囲気下で鉄鋼標準試料JSS244−6を表2に示す条件で5回分析した。なお、試料の分析に際しては、助燃剤としてタングステンおよびスズを用いた。赤外線検出器10で検出された二酸化硫黄の吸収強度から算出される硫黄の量の標準偏差および分析に要した時間を表2に示す。また、鉄鋼標準試料に対する高周波誘導加熱開始からの経過時間と、赤外線検出器10での二酸化硫黄の検出強度との関係の一例を図9に示す。なお、図9では、二酸化硫黄の吸収強度の最大値を100として換算した値を二酸化硫黄検出強度として示している。
【0047】
(試験例12)
図4に示すような、高周波誘導加熱炉3と、ダストフィルタ4と、除湿器9と、二酸化硫黄吸着・濃縮カラム11と、流量調整器22と、赤外線検出器10とを順次接続した高周波燃焼赤外線吸収分析装置40(LECO製、CS−444LS)を用いて、純酸素雰囲気下で鉄鋼標準試料JSS244−6を表2に示す条件で5回分析した。なお、試料の分析に際しては、助燃剤としてタングステンおよびスズを用いた。赤外線検出器10で検出された二酸化硫黄の吸収強度から算出される硫黄の量の標準偏差および分析に要した時間を表2に示す。また、鉄鋼標準試料に対する高周波誘導加熱開始からの経過時間と、赤外線検出器10での二酸化硫黄の検出強度との関係の一例を図9に示す。なお、図9では、二酸化硫黄の吸収強度の最大値を100として換算した値を二酸化硫黄検出強度として示している。
【0048】
【表2】

【0049】
表2および図8〜9より、本発明の分析装置ではテーリングが発生し難く、金属試料中の硫黄の定量を高精度でかつ迅速に行うことができることが分かる。また、特に純酸素の流量を4〜10L/分とすれば、テーリングが更に発生し難くなり、金属試料中の硫黄の定量をより高い精度でかつ迅速に行うことができることが分かる。
【実施例3】
【0050】
以下、実施例3として鋼材を分析試料とした場合の本発明を更に詳細に説明するが、本発明は下記の実施例に何ら限定されるものではない。
【0051】
(試験例13)
図2に示す紫外蛍光分析装置20を用い、純酸素ガス供給手段2による純酸素ガスの供給流量を6L/分とし、高周波誘導加熱炉3で生成した二酸化硫黄含有ガスの流量を流量計で測定した以外は試験例1と同様にして、鉄鋼標準試料JSS244−6を連続して合計30回分析した。1回あたりの分析時間は、40秒である。なお、流量計としては、SEF−21A(堀場製作所製)を用い、コンピュータ8での補正は、蛍光強度の積算値に対して、分析中の二酸化硫黄含有ガスの平均流量を基準流量(6L/分)で除した係数を乗算する方法で行った。分析回数が1回目、10回目、20回目、30回目の際の、紫外蛍光分析器6で検出された二酸化硫黄の蛍光強度をコンピュータ8で補正した値から算出した硫黄の量および補正しない蛍光強度から算出した硫黄の量を表3に示す。なお、紫外蛍光分析器6で検出された二酸化硫黄の蛍光強度から算出される硫黄の量の標準偏差は、1回目から5回目までの分析では0.14質量ppmだった。
【0052】
【表3】

【0053】
表3より、二酸化硫黄含有ガスの流量を測定し、該流量に基づいて補正を行えば、金属試料中の硫黄の定量をより正確に行うことができることが分かる。
【産業上の利用可能性】
【0054】
本発明によれば、金属試料に含まれている硫黄の定量分析を高精度で迅速に行うことができる。
【符号の説明】
【0055】
1 紫外蛍光分析装置
2 純酸素ガス供給手段
3 高周波誘導加熱炉
4 ダストフィルタ
5 金属試料
6 紫外蛍光分析器
7 流量計
8 コンピュータ
9 除湿器
10 赤外線検出器
11 二酸化硫黄吸着・濃縮カラム
20 紫外蛍光分析装置
21 純酸素ガス供給ライン
22 流量調整器
30 高周波燃焼赤外線吸収分析装置
31 セラミックスるつぼ
32 コイル
40 高周波燃焼赤外線吸収分析装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
硫黄成分を含有する金属試料を純酸素ガス雰囲気下で高周波誘導加熱により燃焼させて、前記硫黄成分を二酸化硫黄まで酸化させる高周波誘導加熱工程と、
前記金属試料の燃焼により生成する二酸化硫黄を含む二酸化硫黄含有ガスを紫外蛍光法により分析して金属試料中の硫黄を定量する分析工程と、
を含むことを特徴とする、金属試料中の硫黄の分析方法。
【請求項2】
前記高周波誘導加熱工程で生成した前記二酸化硫黄含有ガス中に占める酸素ガスの割合が90体積%以上であることを特徴とする、請求項1に記載の分析方法。
【請求項3】
前記高周波誘導加熱工程で、前記純酸素ガスを、毎分4〜10Lの流量で供給することを特徴とする、請求項1または2に記載の分析方法。
【請求項4】
前記二酸化硫黄含有ガスの流量を測定する二酸化硫黄含有ガス流量測定工程と、
前記二酸化硫黄含有ガス流量測定工程で測定した二酸化硫黄含有ガスの流量に基づき、前記分析工程で得られる硫黄の定量値を、二酸化硫黄含有ガスの流量変動の影響を取り除くように補正する補正工程と、
を更に含むことを特徴とする、請求項1〜3の何れかに記載の分析方法。
【請求項5】
純酸素ガスを供給する純酸素ガス供給手段と、
硫黄成分を含有する金属試料を、前記純酸素ガス供給手段により供給された純酸素ガス雰囲気下で燃焼させて、前記硫黄成分を二酸化硫黄まで酸化させる高周波誘導加熱炉と、
前記金属試料の燃焼により生成する二酸化硫黄を含む二酸化硫黄含有ガスを紫外蛍光法により分析して金属試料中の硫黄を定量する紫外蛍光分析器と、
を備えることを特徴とする、金属試料中の硫黄の分析装置。
【請求項6】
前記純酸素ガス供給手段が、前記純酸素ガスの供給流量を制御する流量制御手段を更に備えることを特徴とする、請求項5に記載の分析装置。
【請求項7】
前記二酸化硫黄含有ガスの流量を測定する二酸化硫黄含有ガス流量測定手段と、
前記二酸化硫黄含有ガス流量測定手段で測定した二酸化硫黄含有ガスの流量に基づき、前記紫外蛍光分析器で得られる硫黄の定量値を、二酸化硫黄含有ガスの流量変動の影響を取り除くように補正する補正手段と、
を更に備えることを特徴とする、請求項5または6に記載の分析装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2011−169753(P2011−169753A)
【公開日】平成23年9月1日(2011.9.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−33984(P2010−33984)
【出願日】平成22年2月18日(2010.2.18)
【出願人】(000001258)JFEスチール株式会社 (8,589)
【Fターム(参考)】