金属超微粒子分散インキおよびその製造方法
【目的】銅ナノ粒子をフェノール樹脂に高充填した金属超微粒子分散インキを得る。
【構成】0.5〜15質量%程度のフェノール樹脂を溶解させたアルコール溶液中に水酸化銅を加えて攪拌し、ヒドラジンなどの還元剤を加えて銅ナノ粒子を沈殿させる。沈殿した銅ナノ粒子の平均粒径は100nm以下であり、かつ表面にフェノール樹脂が吸着した状態で高濃度で沈殿物中に均一に分散しており、その塗膜は高い導電性を示すため、導電性インキなどの材料とすることができる。
【構成】0.5〜15質量%程度のフェノール樹脂を溶解させたアルコール溶液中に水酸化銅を加えて攪拌し、ヒドラジンなどの還元剤を加えて銅ナノ粒子を沈殿させる。沈殿した銅ナノ粒子の平均粒径は100nm以下であり、かつ表面にフェノール樹脂が吸着した状態で高濃度で沈殿物中に均一に分散しており、その塗膜は高い導電性を示すため、導電性インキなどの材料とすることができる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ビヒクル中に金属のナノ粒子を分散させた金属超微粒子分散インキとその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ビヒクル中に銀や銅などの金属微粉末を含む導電性フィラーを分散した金属超微粒子分散インキは、ポリマー型導電性インキ(以下、単に「導電性インキ」という。)と呼ばれ、ジャンパー回路、電磁波シールド、タッチパネル等の材料として使用されている。特に、回路基板のプリント配線パターンへの用途では、配線パターンの高密度化に対応して、「金属ナノ粒子」を分散させた導電性インキによるいわゆる「超ファインパターン」の回路形成技術の開発が進められている。
【0003】
ビヒクルとは、有機高分子樹脂と溶剤とからなる粘度の高い溶液であり、かつ金属ナノ粒子は凝集しやすいため、ビヒクル中に均一に金属ナノ粒子を分散させることが難しい。金属の中でも銅は酸化されやすいため金属状態で安定して溶媒中に分散保持することが特に難しい。そこで、これらの問題を解決するためのいくつかの方法が提案されている(特許文献1,2等)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平11−140511号公報
【特許文献2】特開2008−88518号公報
【特許文献3】特開2000−340030号公報
【特許文献4】特開2005−340124号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、たとえ凝集の少ない銅ナノ粒子が得られたとしても、粘度の高いビヒクル中に銅ナノ粒子を分散させる従来の導電性インキの製造方法では、製造過程で再凝集や分散不良が起こりやすく、均一に分散された銅ナノ粒子を得ることは難しい。導電性インキの一般的な製造方法は、金属粉と分散剤やレベリング剤等の助剤とをロールやミキサーでせん断力を加えながら高粘度のビヒクル中に混錬分散することによる。ここで、金属微粉末として「銅」のナノ粒子を用いる場合、分散性を一層高める必要があるが、そのためにロールやミキサーのせん断力を強くすると却って銅ナノ粒子が圧接凝集してしまうのである。
【0006】
一方、抵抗率の観点からは、導電性インキとして十分な性能を得るためにはそのインキ中に少なくとも75質量%以上もの銅粉を充填する必要があるといわれている。しかし、銅ナノ粒子は表面積や体積が大きいだけでなく有機高分子樹脂との親和性も悪いため、高充填すればするほど一層凝集が起こりやすくなる。
【0007】
本発明は、上記のような表面の酸化と凝集が起こりやすい「銅ナノ粒子」特有の事情に鑑みてなされたものであり、銅ナノ粒子の酸化や凝集を防止して、有機高分子樹脂中に銅ナノ粒子を高充填させ、しかも均一に分散した状態を維持できる金属超微粒子分散インキを得ることを主たる技術的課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係る金属超微粒子分散インキは、フェノール樹脂溶液中に一次粒子径が100nm以下である銅ナノ粒子の分散体を含み、それぞれの一次粒子がフェノール樹脂で被覆され、前記フェノール樹脂溶液中に分散保持されていることを特徴とする。なお、本発明で示す一次粒子径の大きさは、透過型電子顕微鏡で100個の粒子を測定した平均値と定義する。
【0009】
このような金属超微粒子分散インキを製造するために、先ず有機溶剤に少量のフェノール樹脂を溶解させる。次に、このフェノール樹脂を溶解させた有機溶剤の溶液に水酸化銅を攪拌分散させ、最後にこの水酸化銅を攪拌分散させた分散液に還元剤を加えて、一次粒子径が100nm以下である銅ナノ粒子を均一に分散させたフェノール樹脂溶液を溶液中に沈殿させ、この沈殿物を回収する。
【発明の効果】
【0010】
本発明に係る金属超微粒子分散インキによれば、銅ナノ粒子をフェノール樹脂溶液中に高濃度に均一に分散することができ、高い導電性を有する微細な導電パターンを形成することができる。また、銅は銀などよりもはるかに安価であるため製造コスト面での利点もある。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明に係る金属超微粒子分散インキの製造方法の手順を示す工程図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
−金属超微粒子分散インキの製造方法について−
図1は、本発明に係る金属超微粒子分散インキの製造方法の手順を示す工程図である。この図に示すように、その製造方法は大きく分けて3工程からなる。以下、各工程について説明する。
【0013】
[第1工程](溶液調整工程S1)
先ず、反応槽で有機溶剤に少量のフェノール樹脂を溶解させた有機溶剤の溶液を調整する。フェノール樹脂は、レゾール型でもノボラック型でもよい。ただし、レゾール型フェノール樹脂の方が、アルコールやアセトンなどの有機溶剤に対する溶解度が高くかつ硬化剤を必要としないため、好ましい。フェノール樹脂を溶解する有機溶剤は、安全性や作業性の観点から、アルコール系の溶剤が好ましい。具体的には、メチルアルコール、エチルアルコール、プロピルアルコール、イソプロピルアルコール、ブチルアルコールなどが挙げられる。
【0014】
この溶液中のフェノール樹脂含有量は、約0.5〜15質量%の範囲であることが好ましい。この理由は、フェノール樹脂含有量が0.5質量%よりも小さいと、フェノール樹脂量が少なすぎるため、析出した銅ナノ粒子同士が凝集しやすくなり、一方、溶液中のフェノール樹脂含有量が15質量%より大きいと、水酸化銅の表面がフェノール樹脂で被覆されて還元反応が阻害されやすくなるため、大量の還元剤が必要となり、反応時間も長くなるからである。もっとも好ましい範囲はフェノール樹脂含有量が約2〜10質量%の範囲である。
【0015】
[第2工程](水酸化銅分散工程S2)
次に、第1工程で得られた溶液に水酸化銅を加えて攪拌することにより、銅ナノ粒子の分散溶液を生成する。水酸化銅は、ナノ粒子の凝集体であり第1工程で調整した溶液には不溶であるが、撹拌機等により攪拌することで溶液中に均一に分散させることができる。
【0016】
[第3工程](銅ナノ粒子還元分離工程S3)
第2工程で得られた分散溶液中に還元剤を加えることにより、水酸化銅を還元して一次粒子径100nm以下の銅ナノ粒子を析出させる。銅ナノ粒子が溶液中で析出しはじめると直ちに周囲のフェノール樹脂が銅ナノ粒子に吸着するため、銅ナノ粒子の表面がフェノール樹脂で被覆され、単分散状態の複合物になって溶液中に均一に分散する。さらに、この複合物は、銅ナノ粒子が核となった集合体となる。
【0017】
還元剤を加えた後、放置して冷却すると、反応槽の底に「銅ナノ粒子を多く含んだフェノール樹脂溶液」が沈殿する。この沈殿物を分離・回収する。得られた沈殿物は、銅ナノ粒子を高い濃度で含有したものであるが、それぞれの銅ナノ粒子は大きさが均一でかつ分散性が良好な、いわゆる「単分散状態」にあると考えられ、表面がフェノール樹脂で被覆されているため凝集が一切起こらない。
【0018】
還元剤は、水素化ホウ素ナトリウム、ホルムアルデヒド、ヒドラジン等の一般的な還元剤を使用できるが、ヒドラジンを使用すると、反応時間が短く、臭気も少ないため、作業効率上好ましい。反応時間を短縮させるため、還元剤を加える水酸化銅の分散溶液は、予め20℃以上にすることが好ましい。
【0019】
なお、第2工程で水酸化銅の代わりに酸化銅や亜酸化銅を使用すると、第3工程で析出する銅の一次粒子径が約500nmの粗大粒子が生成される。同様に、炭酸銅を使用した場合も、析出する銅の一次粒子径が100nmを超える粗大粒子が生成されることが判明している。これらはいずれも一次粒子径が大きいため超ファインパターン用の導電性インキとして使用する場合には好ましくない。
【0020】
(実施形態)
以下、本発明に係る金属超微粒子分散インキの実施態様について、複数の実施例を用いてより具体的に説明するが、本発明の技術的思想の範囲と解される限りにおいて、いかなる意味においても下記の実施例により制限的に解釈されるものではない。
【0021】
<実施例1>
[第1工程]
メチルアルコール360gにレゾール型フェノール樹脂40gを溶解したフェノール樹脂含有量10質量%の溶液を調整し、その液温を約20℃とする。
【0022】
[第2工程]
第1工程で得られた溶液に水酸化銅50gを加え、撹拌分散する。
【0023】
[第3工程]
第2工程で得られた水酸化銅の分散溶液を攪拌しながら、80%ヒドラジン水溶液を100ml添加する。しばらくすると銅ナノ粒子が析出し、6分後に反応が停止した。その後、還元反応停止後2時間放置冷却し、沈殿した銅ナノ粒子含有フェノール樹脂溶液を回収した。
【0024】
<実施例1の結果>
得られた銅ナノ粒子含有フェノール樹脂溶液は、フェノール樹脂中に平均粒径30nmの銅ナノ粒子を78質量%含有し、その銅ナノ粒子を均一に分散していた。
【0025】
上記銅ナノ粒子含有フェノール樹脂溶液を170℃で15分間加熱して硬化させ、その塗膜導電性を測定した。その結果、抵抗率は1.2×10−3 Ω・cmであり、電磁波シールド塗膜用インキとして使用できる性能であった。
【0026】
<実施例2>
[第1工程]
メチルアルコール372gにレゾール型フェノール樹脂28gを溶解したフェノール樹脂含有量7質量%の溶液を調整し、その液温を20℃とする。
【0027】
[第2工程]
第1工程で得られた溶液に水酸化銅50gを加え、撹拌分散する。
【0028】
[第3工程]
第2工程で得られた水酸化銅の分散溶液を攪拌しながら、50%ヒドラジン水溶液を100ml添加する。しばらくすると銅ナノ粒子が析出し、4分後に反応が停止した。その後、還元反応停止後2時間放置冷却し、沈殿した銅ナノ粒子含有フェノール樹脂溶液を回収した。
【0029】
<実施例2の結果>
得られた銅ナノ粒子含有フェノール樹脂溶液は、フェノール樹脂中に平均粒径40nmの銅ナノ粒子を82質量%含有し、その銅ナノ粒子を均一に分散していた。
【0030】
上記銅ナノ粒子含有フェノール樹脂溶液を170℃で15分間加熱して硬化させ、その塗膜導電性を測定した。その結果、抵抗率は3.7×10−4 Ω・cmであり、導電回路用インキとして使用できる性能であった。
【0031】
<実施例3>
[第1工程]
メチルアルコール388gにレゾール型フェノール樹脂12gを溶解したフェノール樹脂含有量3質量%の溶液を調整し、その液温を20℃とする。
【0032】
[第2工程]
第1工程で得られた溶液に水酸化銅50gを加え、撹拌分散する。
【0033】
[第3工程]
第2工程で得られた水酸化銅の分散溶液を攪拌しながら、50%ヒドラジン水溶液を100ml添加したところ、直ちに銅ナノ粒子が析出しはじめ、3分後に反応が停止した。その後、還元反応停止後2時間放置冷却し、沈殿した銅ナノ粒子含有フェノール樹脂溶液を回収した。
【0034】
<実施例3の結果>
得られた銅ナノ粒子含有フェノール樹脂溶液は、フェノール樹脂中に平均粒径40nmの銅ナノ粒子を90質量%含有し、その銅ナノ粒子を均一に分散していた。
【0035】
上記銅ナノ粒子含有フェノール樹脂溶液を170℃で15分間加熱して硬化させ、その塗膜導電性を測定した。その結果、抵抗率は1.0×10−4 Ω・cmであり、導電回路用インキとして使用できる性能であった。
【0036】
<実施例4>
[第1工程]
メチルアルコール392gにレゾール型フェノール樹脂8gを溶解したフェノール樹脂含有量2質量%の溶液を調整し、その液温を20℃とする。
【0037】
[第2工程]
第1工程で得られた溶液に水酸化銅50gを加え、撹拌分散する。
【0038】
[第3工程]
第2工程で得られた水酸化銅の分散溶液を攪拌しながら、50%ヒドラジン水溶液を100ml添加したところ、直ちに銅ナノ粒子が析出しはじめ、3分後に反応が停止した。その後、還元反応停止後2時間放置冷却し、沈殿した銅ナノ粒子含有フェノール樹脂溶液を回収した。
【0039】
<実施例4の結果>
得られた銅ナノ粒子含有フェノール樹脂溶液は、フェノール樹脂中に平均粒径40nmの銅ナノ粒子を92質量%含有し、その銅ナノ粒子を均一に分散していた。
【0040】
上記銅ナノ粒子含有フェノール樹脂溶液を170℃で15分間加熱して硬化させ、その塗膜導電性を測定した。その結果、抵抗率は8.0×10−5 Ω・cmであり、導電回路用インキとして使用できる性能であった。
【0041】
<実施例5>
[第1工程]
エチルアルコール388gにレゾール型フェノール樹脂12gを溶解したフェノール樹脂含有量3質量%の溶液を調整し、その液温を20℃とする。
【0042】
[第2工程]
第1工程で得られた溶液に水酸化銅50gを加え、撹拌分散する。
【0043】
[第3工程]
第2工程で得られた水酸化銅の分散溶液を攪拌しながら、50%ヒドラジン水溶液を100ml添加したところ、直ちに銅ナノ粒子が析出しはじめ、3分後に反応が停止した。その後、還元反応停止後2時間放置冷却し、沈殿した銅ナノ粒子含有フェノール樹脂溶液を回収した。
【0044】
<実施例5の結果>
得られた銅ナノ粒子含有フェノール樹脂溶液は、フェノール樹脂中に平均粒径15nmの銅ナノ粒子を90質量%含有し、その銅ナノ粒子を均一に分散していた。
【0045】
上記銅ナノ粒子含有フェノール樹脂溶液を170℃で15分間加熱して硬化させ、その塗膜導電性を測定した。その結果、抵抗率は8.7×10−5 Ω・cmであり、導電回路用インキとして使用できる性能であった。
【0046】
[表1]実験条件および実験結果の一覧
【0047】
(まとめ)
実施例1乃至5の結果によると、得られた銅ナノ粒子含有フェノール樹脂溶液には、いずれもフェノール樹脂中に平均粒径40nm以下の銅ナノ粒子が含有率78質量%以上で、均一に分散していることが確認された。また、その塗膜の導電性は、いずれも抵抗率が10のマイナス3乗台以下のオーダーであり、極めて導電性が高いことも確認された。特に、実施例5の結果得られた銅ナノ粒子含有フェノール樹脂溶液では、フェノール樹脂中に平均粒径15nmの銅ナノ粒子が含有率90質量%で均一に分散し、その塗膜の抵抗率が8.7×10−5 Ω・cmであるため、超ファインパターン等の導電性インキとして十分な優れた特性を備えているものであった。
【0048】
従って、この銅ナノ粒子含有フェノール樹脂溶液をベースとして、使用目的の印刷条件に合わせて樹脂組成、溶剤、助剤などを微調整することで、容易に性能要求を満たす印刷適性と塗布乾燥後の導電性に優れた導電性インキを製造することができる。また、従来のように高粘度のビヒクルに銅ナノ粒子を混練分散する工程が不要となるため、従来よりも安価で短時間に製造ができる。さらに、銅ナノ粒子を全て溶液中で扱うため、銅ナノ粒子の飛散による粉塵爆発や吸引による人体への毒性などの危険性も回避できる利点もある。
【産業上の利用可能性】
【0049】
本発明に係る金属超微粒子分散インキは、超ファインパターンの高密度印刷回路に使用できるほか、マイグレーションの問題がないため、ジャンパー回路やタッチパネルなどの微細な線幅描写に使用できる。また、インクジェット印刷用インキとしても使用できるなど、産業上の利用可能性は極めて大きい。
【符号の説明】
【0050】
S1 溶液調整工程
S2 水酸化銅分散工程
S3 銅ナノ粒子還元分離工程
【技術分野】
【0001】
本発明は、ビヒクル中に金属のナノ粒子を分散させた金属超微粒子分散インキとその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ビヒクル中に銀や銅などの金属微粉末を含む導電性フィラーを分散した金属超微粒子分散インキは、ポリマー型導電性インキ(以下、単に「導電性インキ」という。)と呼ばれ、ジャンパー回路、電磁波シールド、タッチパネル等の材料として使用されている。特に、回路基板のプリント配線パターンへの用途では、配線パターンの高密度化に対応して、「金属ナノ粒子」を分散させた導電性インキによるいわゆる「超ファインパターン」の回路形成技術の開発が進められている。
【0003】
ビヒクルとは、有機高分子樹脂と溶剤とからなる粘度の高い溶液であり、かつ金属ナノ粒子は凝集しやすいため、ビヒクル中に均一に金属ナノ粒子を分散させることが難しい。金属の中でも銅は酸化されやすいため金属状態で安定して溶媒中に分散保持することが特に難しい。そこで、これらの問題を解決するためのいくつかの方法が提案されている(特許文献1,2等)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平11−140511号公報
【特許文献2】特開2008−88518号公報
【特許文献3】特開2000−340030号公報
【特許文献4】特開2005−340124号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、たとえ凝集の少ない銅ナノ粒子が得られたとしても、粘度の高いビヒクル中に銅ナノ粒子を分散させる従来の導電性インキの製造方法では、製造過程で再凝集や分散不良が起こりやすく、均一に分散された銅ナノ粒子を得ることは難しい。導電性インキの一般的な製造方法は、金属粉と分散剤やレベリング剤等の助剤とをロールやミキサーでせん断力を加えながら高粘度のビヒクル中に混錬分散することによる。ここで、金属微粉末として「銅」のナノ粒子を用いる場合、分散性を一層高める必要があるが、そのためにロールやミキサーのせん断力を強くすると却って銅ナノ粒子が圧接凝集してしまうのである。
【0006】
一方、抵抗率の観点からは、導電性インキとして十分な性能を得るためにはそのインキ中に少なくとも75質量%以上もの銅粉を充填する必要があるといわれている。しかし、銅ナノ粒子は表面積や体積が大きいだけでなく有機高分子樹脂との親和性も悪いため、高充填すればするほど一層凝集が起こりやすくなる。
【0007】
本発明は、上記のような表面の酸化と凝集が起こりやすい「銅ナノ粒子」特有の事情に鑑みてなされたものであり、銅ナノ粒子の酸化や凝集を防止して、有機高分子樹脂中に銅ナノ粒子を高充填させ、しかも均一に分散した状態を維持できる金属超微粒子分散インキを得ることを主たる技術的課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係る金属超微粒子分散インキは、フェノール樹脂溶液中に一次粒子径が100nm以下である銅ナノ粒子の分散体を含み、それぞれの一次粒子がフェノール樹脂で被覆され、前記フェノール樹脂溶液中に分散保持されていることを特徴とする。なお、本発明で示す一次粒子径の大きさは、透過型電子顕微鏡で100個の粒子を測定した平均値と定義する。
【0009】
このような金属超微粒子分散インキを製造するために、先ず有機溶剤に少量のフェノール樹脂を溶解させる。次に、このフェノール樹脂を溶解させた有機溶剤の溶液に水酸化銅を攪拌分散させ、最後にこの水酸化銅を攪拌分散させた分散液に還元剤を加えて、一次粒子径が100nm以下である銅ナノ粒子を均一に分散させたフェノール樹脂溶液を溶液中に沈殿させ、この沈殿物を回収する。
【発明の効果】
【0010】
本発明に係る金属超微粒子分散インキによれば、銅ナノ粒子をフェノール樹脂溶液中に高濃度に均一に分散することができ、高い導電性を有する微細な導電パターンを形成することができる。また、銅は銀などよりもはるかに安価であるため製造コスト面での利点もある。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明に係る金属超微粒子分散インキの製造方法の手順を示す工程図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
−金属超微粒子分散インキの製造方法について−
図1は、本発明に係る金属超微粒子分散インキの製造方法の手順を示す工程図である。この図に示すように、その製造方法は大きく分けて3工程からなる。以下、各工程について説明する。
【0013】
[第1工程](溶液調整工程S1)
先ず、反応槽で有機溶剤に少量のフェノール樹脂を溶解させた有機溶剤の溶液を調整する。フェノール樹脂は、レゾール型でもノボラック型でもよい。ただし、レゾール型フェノール樹脂の方が、アルコールやアセトンなどの有機溶剤に対する溶解度が高くかつ硬化剤を必要としないため、好ましい。フェノール樹脂を溶解する有機溶剤は、安全性や作業性の観点から、アルコール系の溶剤が好ましい。具体的には、メチルアルコール、エチルアルコール、プロピルアルコール、イソプロピルアルコール、ブチルアルコールなどが挙げられる。
【0014】
この溶液中のフェノール樹脂含有量は、約0.5〜15質量%の範囲であることが好ましい。この理由は、フェノール樹脂含有量が0.5質量%よりも小さいと、フェノール樹脂量が少なすぎるため、析出した銅ナノ粒子同士が凝集しやすくなり、一方、溶液中のフェノール樹脂含有量が15質量%より大きいと、水酸化銅の表面がフェノール樹脂で被覆されて還元反応が阻害されやすくなるため、大量の還元剤が必要となり、反応時間も長くなるからである。もっとも好ましい範囲はフェノール樹脂含有量が約2〜10質量%の範囲である。
【0015】
[第2工程](水酸化銅分散工程S2)
次に、第1工程で得られた溶液に水酸化銅を加えて攪拌することにより、銅ナノ粒子の分散溶液を生成する。水酸化銅は、ナノ粒子の凝集体であり第1工程で調整した溶液には不溶であるが、撹拌機等により攪拌することで溶液中に均一に分散させることができる。
【0016】
[第3工程](銅ナノ粒子還元分離工程S3)
第2工程で得られた分散溶液中に還元剤を加えることにより、水酸化銅を還元して一次粒子径100nm以下の銅ナノ粒子を析出させる。銅ナノ粒子が溶液中で析出しはじめると直ちに周囲のフェノール樹脂が銅ナノ粒子に吸着するため、銅ナノ粒子の表面がフェノール樹脂で被覆され、単分散状態の複合物になって溶液中に均一に分散する。さらに、この複合物は、銅ナノ粒子が核となった集合体となる。
【0017】
還元剤を加えた後、放置して冷却すると、反応槽の底に「銅ナノ粒子を多く含んだフェノール樹脂溶液」が沈殿する。この沈殿物を分離・回収する。得られた沈殿物は、銅ナノ粒子を高い濃度で含有したものであるが、それぞれの銅ナノ粒子は大きさが均一でかつ分散性が良好な、いわゆる「単分散状態」にあると考えられ、表面がフェノール樹脂で被覆されているため凝集が一切起こらない。
【0018】
還元剤は、水素化ホウ素ナトリウム、ホルムアルデヒド、ヒドラジン等の一般的な還元剤を使用できるが、ヒドラジンを使用すると、反応時間が短く、臭気も少ないため、作業効率上好ましい。反応時間を短縮させるため、還元剤を加える水酸化銅の分散溶液は、予め20℃以上にすることが好ましい。
【0019】
なお、第2工程で水酸化銅の代わりに酸化銅や亜酸化銅を使用すると、第3工程で析出する銅の一次粒子径が約500nmの粗大粒子が生成される。同様に、炭酸銅を使用した場合も、析出する銅の一次粒子径が100nmを超える粗大粒子が生成されることが判明している。これらはいずれも一次粒子径が大きいため超ファインパターン用の導電性インキとして使用する場合には好ましくない。
【0020】
(実施形態)
以下、本発明に係る金属超微粒子分散インキの実施態様について、複数の実施例を用いてより具体的に説明するが、本発明の技術的思想の範囲と解される限りにおいて、いかなる意味においても下記の実施例により制限的に解釈されるものではない。
【0021】
<実施例1>
[第1工程]
メチルアルコール360gにレゾール型フェノール樹脂40gを溶解したフェノール樹脂含有量10質量%の溶液を調整し、その液温を約20℃とする。
【0022】
[第2工程]
第1工程で得られた溶液に水酸化銅50gを加え、撹拌分散する。
【0023】
[第3工程]
第2工程で得られた水酸化銅の分散溶液を攪拌しながら、80%ヒドラジン水溶液を100ml添加する。しばらくすると銅ナノ粒子が析出し、6分後に反応が停止した。その後、還元反応停止後2時間放置冷却し、沈殿した銅ナノ粒子含有フェノール樹脂溶液を回収した。
【0024】
<実施例1の結果>
得られた銅ナノ粒子含有フェノール樹脂溶液は、フェノール樹脂中に平均粒径30nmの銅ナノ粒子を78質量%含有し、その銅ナノ粒子を均一に分散していた。
【0025】
上記銅ナノ粒子含有フェノール樹脂溶液を170℃で15分間加熱して硬化させ、その塗膜導電性を測定した。その結果、抵抗率は1.2×10−3 Ω・cmであり、電磁波シールド塗膜用インキとして使用できる性能であった。
【0026】
<実施例2>
[第1工程]
メチルアルコール372gにレゾール型フェノール樹脂28gを溶解したフェノール樹脂含有量7質量%の溶液を調整し、その液温を20℃とする。
【0027】
[第2工程]
第1工程で得られた溶液に水酸化銅50gを加え、撹拌分散する。
【0028】
[第3工程]
第2工程で得られた水酸化銅の分散溶液を攪拌しながら、50%ヒドラジン水溶液を100ml添加する。しばらくすると銅ナノ粒子が析出し、4分後に反応が停止した。その後、還元反応停止後2時間放置冷却し、沈殿した銅ナノ粒子含有フェノール樹脂溶液を回収した。
【0029】
<実施例2の結果>
得られた銅ナノ粒子含有フェノール樹脂溶液は、フェノール樹脂中に平均粒径40nmの銅ナノ粒子を82質量%含有し、その銅ナノ粒子を均一に分散していた。
【0030】
上記銅ナノ粒子含有フェノール樹脂溶液を170℃で15分間加熱して硬化させ、その塗膜導電性を測定した。その結果、抵抗率は3.7×10−4 Ω・cmであり、導電回路用インキとして使用できる性能であった。
【0031】
<実施例3>
[第1工程]
メチルアルコール388gにレゾール型フェノール樹脂12gを溶解したフェノール樹脂含有量3質量%の溶液を調整し、その液温を20℃とする。
【0032】
[第2工程]
第1工程で得られた溶液に水酸化銅50gを加え、撹拌分散する。
【0033】
[第3工程]
第2工程で得られた水酸化銅の分散溶液を攪拌しながら、50%ヒドラジン水溶液を100ml添加したところ、直ちに銅ナノ粒子が析出しはじめ、3分後に反応が停止した。その後、還元反応停止後2時間放置冷却し、沈殿した銅ナノ粒子含有フェノール樹脂溶液を回収した。
【0034】
<実施例3の結果>
得られた銅ナノ粒子含有フェノール樹脂溶液は、フェノール樹脂中に平均粒径40nmの銅ナノ粒子を90質量%含有し、その銅ナノ粒子を均一に分散していた。
【0035】
上記銅ナノ粒子含有フェノール樹脂溶液を170℃で15分間加熱して硬化させ、その塗膜導電性を測定した。その結果、抵抗率は1.0×10−4 Ω・cmであり、導電回路用インキとして使用できる性能であった。
【0036】
<実施例4>
[第1工程]
メチルアルコール392gにレゾール型フェノール樹脂8gを溶解したフェノール樹脂含有量2質量%の溶液を調整し、その液温を20℃とする。
【0037】
[第2工程]
第1工程で得られた溶液に水酸化銅50gを加え、撹拌分散する。
【0038】
[第3工程]
第2工程で得られた水酸化銅の分散溶液を攪拌しながら、50%ヒドラジン水溶液を100ml添加したところ、直ちに銅ナノ粒子が析出しはじめ、3分後に反応が停止した。その後、還元反応停止後2時間放置冷却し、沈殿した銅ナノ粒子含有フェノール樹脂溶液を回収した。
【0039】
<実施例4の結果>
得られた銅ナノ粒子含有フェノール樹脂溶液は、フェノール樹脂中に平均粒径40nmの銅ナノ粒子を92質量%含有し、その銅ナノ粒子を均一に分散していた。
【0040】
上記銅ナノ粒子含有フェノール樹脂溶液を170℃で15分間加熱して硬化させ、その塗膜導電性を測定した。その結果、抵抗率は8.0×10−5 Ω・cmであり、導電回路用インキとして使用できる性能であった。
【0041】
<実施例5>
[第1工程]
エチルアルコール388gにレゾール型フェノール樹脂12gを溶解したフェノール樹脂含有量3質量%の溶液を調整し、その液温を20℃とする。
【0042】
[第2工程]
第1工程で得られた溶液に水酸化銅50gを加え、撹拌分散する。
【0043】
[第3工程]
第2工程で得られた水酸化銅の分散溶液を攪拌しながら、50%ヒドラジン水溶液を100ml添加したところ、直ちに銅ナノ粒子が析出しはじめ、3分後に反応が停止した。その後、還元反応停止後2時間放置冷却し、沈殿した銅ナノ粒子含有フェノール樹脂溶液を回収した。
【0044】
<実施例5の結果>
得られた銅ナノ粒子含有フェノール樹脂溶液は、フェノール樹脂中に平均粒径15nmの銅ナノ粒子を90質量%含有し、その銅ナノ粒子を均一に分散していた。
【0045】
上記銅ナノ粒子含有フェノール樹脂溶液を170℃で15分間加熱して硬化させ、その塗膜導電性を測定した。その結果、抵抗率は8.7×10−5 Ω・cmであり、導電回路用インキとして使用できる性能であった。
【0046】
[表1]実験条件および実験結果の一覧
【0047】
(まとめ)
実施例1乃至5の結果によると、得られた銅ナノ粒子含有フェノール樹脂溶液には、いずれもフェノール樹脂中に平均粒径40nm以下の銅ナノ粒子が含有率78質量%以上で、均一に分散していることが確認された。また、その塗膜の導電性は、いずれも抵抗率が10のマイナス3乗台以下のオーダーであり、極めて導電性が高いことも確認された。特に、実施例5の結果得られた銅ナノ粒子含有フェノール樹脂溶液では、フェノール樹脂中に平均粒径15nmの銅ナノ粒子が含有率90質量%で均一に分散し、その塗膜の抵抗率が8.7×10−5 Ω・cmであるため、超ファインパターン等の導電性インキとして十分な優れた特性を備えているものであった。
【0048】
従って、この銅ナノ粒子含有フェノール樹脂溶液をベースとして、使用目的の印刷条件に合わせて樹脂組成、溶剤、助剤などを微調整することで、容易に性能要求を満たす印刷適性と塗布乾燥後の導電性に優れた導電性インキを製造することができる。また、従来のように高粘度のビヒクルに銅ナノ粒子を混練分散する工程が不要となるため、従来よりも安価で短時間に製造ができる。さらに、銅ナノ粒子を全て溶液中で扱うため、銅ナノ粒子の飛散による粉塵爆発や吸引による人体への毒性などの危険性も回避できる利点もある。
【産業上の利用可能性】
【0049】
本発明に係る金属超微粒子分散インキは、超ファインパターンの高密度印刷回路に使用できるほか、マイグレーションの問題がないため、ジャンパー回路やタッチパネルなどの微細な線幅描写に使用できる。また、インクジェット印刷用インキとしても使用できるなど、産業上の利用可能性は極めて大きい。
【符号の説明】
【0050】
S1 溶液調整工程
S2 水酸化銅分散工程
S3 銅ナノ粒子還元分離工程
【特許請求の範囲】
【請求項1】
フェノール樹脂溶液中に一次粒子径が100nm以下である銅ナノ粒子の分散体を含み、それぞれの一次粒子がフェノール樹脂で被覆され、前記フェノール樹脂溶液中に分散保持されていることを特徴とする金属超微粒子分散インキ。
【請求項2】
有機溶剤にフェノール樹脂を溶解させる工程(S1)と、
前記フェノール樹脂を溶解させた有機溶剤の溶液に水酸化銅を攪拌分散させる工程(S2)と、
前記水酸化銅を攪拌分散させた分散液に還元剤を加えて、一次粒子径が100nm以下である銅ナノ粒子を均一に分散させたフェノール樹脂溶液を前記溶液中に沈殿させる工程(S3)と、
を具備する金属超微粒子分散インキの製造方法。
【請求項3】
前記有機溶剤がアルコールであることを特徴とする請求項2記載の金属超微粒子分散インキの製造方法。
【請求項4】
前記フェノール樹脂の含有率が0.5〜15質量%であることを特徴とする請求項2記載の金属超微粒子分散インキの製造方法。
【請求項1】
フェノール樹脂溶液中に一次粒子径が100nm以下である銅ナノ粒子の分散体を含み、それぞれの一次粒子がフェノール樹脂で被覆され、前記フェノール樹脂溶液中に分散保持されていることを特徴とする金属超微粒子分散インキ。
【請求項2】
有機溶剤にフェノール樹脂を溶解させる工程(S1)と、
前記フェノール樹脂を溶解させた有機溶剤の溶液に水酸化銅を攪拌分散させる工程(S2)と、
前記水酸化銅を攪拌分散させた分散液に還元剤を加えて、一次粒子径が100nm以下である銅ナノ粒子を均一に分散させたフェノール樹脂溶液を前記溶液中に沈殿させる工程(S3)と、
を具備する金属超微粒子分散インキの製造方法。
【請求項3】
前記有機溶剤がアルコールであることを特徴とする請求項2記載の金属超微粒子分散インキの製造方法。
【請求項4】
前記フェノール樹脂の含有率が0.5〜15質量%であることを特徴とする請求項2記載の金属超微粒子分散インキの製造方法。
【図1】
【公開番号】特開2010−196087(P2010−196087A)
【公開日】平成22年9月9日(2010.9.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−39693(P2009−39693)
【出願日】平成21年2月23日(2009.2.23)
【出願人】(000239426)福田金属箔粉工業株式会社 (83)
【出願人】(508114454)地方独立行政法人 大阪市立工業研究所 (60)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成22年9月9日(2010.9.9)
【国際特許分類】
【出願日】平成21年2月23日(2009.2.23)
【出願人】(000239426)福田金属箔粉工業株式会社 (83)
【出願人】(508114454)地方独立行政法人 大阪市立工業研究所 (60)
【Fターム(参考)】
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