説明

金属部品の修理方法

【課題】高温高圧環境下で使用される鋳鋼製金属部品に生じる損傷を簡易に補修することを可能とする。
【解決手段】金属部品の損傷部位を機械的に除去し、前記損傷部位が除去された部分を、前記金属部品を形成する金属材料と同一の材質である溶接材により充填し、充填した前記溶接材に対して当該溶接材の融点よりも低い融点を有する金属材料である低融点材料を溶着させ、溶着させた前記低融点材料を除去するとともに、前記溶接材によって充填した部分の表面を平滑になるように研磨することを特徴とする金属部品の修理方法である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、金属部品の修理方法に係わり、特に高温高圧環境で使用される鋳鋼製金属部品の修理に適する金属部品の修理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば発電所などに設置されている蒸気タービン装置は、タービンのケーシングである車室、高温高圧(例えば、石炭火力発電所で使用される超臨界圧タービンでは、約600℃、25MPa程度のものがある。)の蒸気流を制御するための弁装置等の多数の部品を備えている。これらの車室、弁装置等の部品は、滑らかな蒸気流路を形成すること等を目的として、設計上必要とされる複雑な形状を実現するために、一般に鋳鋼製金属部品として製作される。
【0003】
蒸気タービン装置の上記部品は、稼働中にわたって高温・高圧環境に継続的にさらされる。このため、高温・高圧環境下で長時間引張力が作用するクリープによる伸び変形、蒸気タービン装置の起動、停止時における急激な温度変化に伴う熱応力などに起因して、部品表面にき裂が発生することがある。蒸気タービン装置の定期点検等の機会にこのき裂が発見された場合、き裂深さが所定の保守基準値を超えているか等の保守基準に照らして計測し、必要であれば補修が行われる。
【0004】
鋳鋼製の金属部品に生じたき裂の補修は、概ね以下の方法により行われている。すなわち、部品のき裂が発生した箇所であるき裂部を、当該き裂が完全に除去されるようにグラインダ等の研削工具で研削処理する。いったん除去したき裂部に再度き裂が生じた場合、対象部品の板厚が規定値を下回らない範囲で繰り返しき裂を研削除去することができる。き裂を除去することで対象部品の板厚が所定値を下回ることとなる場合には、対象部品を更新する。
【0005】
また、最近、上記した従来のき裂の研削除去による補修方法に代えて、溶接技術を応用した補修方法も検討されている。これは、単にき裂を除去するだけでなく、除去された部分の形状も修復することにより、対象部品の耐用期間を伸ばし、装置内の蒸気流に対する抵抗も低減させること等を目的とした試みである。
【0006】
溶接技術を応用した補修方法としては、例えば、対象部品に生じたき裂部をグラインダ等で完全に除去した後、溶接材を溶着させる方法がある。き裂部を除去した後に、溶接材を溶着させる凹部を形成するための開先加工を行う。次いで、開先加工した部分に肉盛溶接を行い、溶接箇所をグラインダ等でなめらかに仕上げる。この補修方法によれば、対象部品に発生したき裂を完全に除去するとともに、き裂を除去した部分の形状を溶接により復元することができる。
【0007】
しかし、上記の溶接技術を用いた補修方法については、対象部品が装置に組み付けられている状態で、装置設置現場で補修作業を行う場合には、溶接材溶着時の入熱により生じる残留応力除去のための熱処理を現場で行うことができない問題点がある。残留応力除去のための焼戻し処理等を行わないと、補修した部分から再度き裂が生じるおそれがある。
【0008】
このような問題点に関して、例えば特許文献1に開示されている技術が提案されている。特許文献1は、応力除去焼鈍を行わないで、補修後の耐き裂発生特性を向上させることを目的として、鋳鋼品中の欠陥部を除去して、開先加工する工程と、前記開先加工した部分に被覆アーク溶接によりバタリング溶接を行う工程と、前記バタリング溶接による溶接金属の一部を表面から厚さ方向に切削除去するハーフビード法を行い、初層バタリング溶接部を形成する工程と、TIG溶接による第2層以降の本溶接部を形成する工程とを備えた鋳鋼品の溶接補修方法である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2006−21206号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかし、特許文献1の補修方法には、欠陥を除去した部分についてハーフビード法を適用するなど作業工程が複雑となるため、補修作業に時間がかかり作業効率が悪く補修コストが高くなるという問題があった。
【0011】
本発明は、上記の及び他の課題を解決するためになされたもので、高温高圧環境下で使用される鋳鋼製金属部品に生じる損傷を簡易に補修することを可能とする、金属部品の補修方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記の目的を達成するために本発明の一態様は、金属部品の損傷部位を機械的に除去し、前記損傷部位が除去された部分を、前記金属部品を形成する金属材料と同一の材質である溶接材により充填し、充填した前記溶接材に対して当該溶接材の融点よりも低い融点を有する金属材料である低融点材料を溶着させ、溶着させた前記低融点材料を除去するとともに、前記溶接材によって充填した部分の表面を平滑になるように研磨することを特徴とする金属部品の修理方法である。前記低融点材料としては、銀ろう又はアルミニウムろうを用いることができる。
【0013】
前記損傷部位は、例えばき裂である。また、前記金属部品は、例えば蒸気タービン装置の車室、又は弁機構に使用される鋳鋼製部品を含む。
【0014】
前記低融点材料の溶着は、アークを熱源として前記低融点材料を溶融させることにより行うことができる。その際、前記アークは、ワイヤ状の低融点材料を自動的に繰り出すことができるアーク溶接機によって発生させることができる。前記アーク溶接機としては、溶融した前記低融点材料と、溶融前の前記ワイヤ状の低融点材料との間に生じるアーク電流を監視し、計測されたアーク電流値に従って前記ワイヤ状の低融点材料の繰り出し量を制御するものを用いることができる。
【発明の効果】
【0015】
本発明の一態様に係る金属部品の修理方法によれば、高温高圧環境下で使用される鋳鋼製金属部品に生じる損傷を簡易に補修することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】金属部品に生じたき裂の状態を示す模式図である。
【図2】本発明の一実施形態による金属部品の修理方法のき裂除去作業を示す模式図である。
【図3】本発明の一実施形態による金属部品の修理方法の溶接材溶着作業を示す模式図である。
【図4】図3の溶接材溶着作業実施後の状態を示す模式図である。
【図5】本発明の一実施形態による金属部品の修理方法における溶接材への低融点材料溶着作業を示す模式図である。
【図6】本発明の一実施形態による金属部品の修理方法の表面仕上げ作業後の状態を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明をその一実施形態に即して添付図面を参照しつつ説明する。
図1に、本実施形態の金属部品の修理方法の適用対象にき裂が生じた状態を模式的に示している。図1は、金属部品10の一部を破断して示した断面図である。図1は、金属部品10に表面から内部へ向けてき裂20が発生しており、金属部品10の表面に開口部22が生じている状態を示している。
【0018】
金属部品10は、例えば蒸気タービン装置の車室を構成するケーシング部品、蒸気タービン装置における蒸気流の流量、流路などを制御するための弁装置を構成する弁体等の部品であるが、これらに限定されることなく、高温高圧環境下に設置される金属部品、特に鋳鋼製の部品全般を含む。金属部品10の代表的な材料としては、例えばクロム−モリブデン(CrMo)鋳鋼、クロム−モリブデン−バナジウム(CrMoV)鋳鋼等があげられるが、高温高圧環境での使用に適した他の材料を含む。CrMo鋼、CrMoV鋼について、代表的な合金成分の含有量は、Crが1%程度、Moが1%程度、Vが0〜0.25%である。
【0019】
金属部品10に発生するき裂20は、蒸気タービン装置等の、金属部品10が使用されている機器の定期点検時等に、目視点検、超音波探傷等の検査によって発見することができる。
【0020】
次に、図2を参照して、き裂20の除去作業について説明する。図2は、図1と同様に、金属部品10のき裂20発生部の一部破断断面図である。まず、本実施形態の修理方法の第1工程として、金属部品10に発生しているき裂20を除去する。この除去作業は、グラインダ等の金属研削工具を用いて、き裂除去部30がき裂20の最深部の深さよりも深くなるように、すなわち、金属部品10に発生したき裂20が除去されるように削りとる。
【0021】
次に、図3を参照して、き裂除去部30へ溶接材を溶着させる工程について説明する。図3は、図1と同様に、金属部品10のき裂除去部30を含む一部破断断面図である。本実施形態では、き裂除去部30に、金属部品10の母材と同一材質である溶接材を溶着させることにより、金属部品10からき裂20を除去した部分を母材と同一の溶接材で充填する。図3の例では、アーク溶接機100から母材と同一材質でなる溶接材をワイヤ材110として供給することにより肉盛溶接を行なっている。
【0022】
図4に、き裂除去部30への溶接材の溶着作業を完了した状態の一部破断断面図を示している。溶着作業によってき裂除去部30には完全に溶着金属40が充填されて金属部品10の表面から盛り上がった状態となっている。図4に示すように溶着金属40を金属部品10の表面から盛り上がる状態まで充填するのは、金属部品10の表面をき裂発生前の状態に復旧させるためである。通常は、この段階で、溶融した鋼が急速に冷却されるために生じる引張残留応力及び材料の硬化を低減するために、例えば鋼の変態点(727℃)以下の600〜650℃程度に加熱し一定時間保持する熱処理を行う。
【0023】
本実施形態では、ここで、き裂除去部30に溶着させた溶接材に対して、低融点材料をさらに溶着させる処理を実施する。低融点材料とは、母材の融点よりも低い融点を有する材質でなる溶接材を意味している。この低融点材料としては、一般的なろう材を用いることができ、例えば融点が600〜650℃程度の低温のものとして、銀ろう、アルミニウムろうが挙げられる。銀ろうの例としては、Ag、Cu、Zn、Snの合金であるBAG−7があり、固相線温度620℃、液相線温度650℃、ろう付け温度650〜760℃である。また、アルミニウムろうの例としては、Al、Si、Tiの合金であるBA−4045があり、固相線温度577℃、液相線温度590℃、ろう付け温度590〜605℃である。なお、実際には、例えばJIS規格に記載されている融点等が異なる各種ろう材の中から、実験により残留応力、硬化の度合いを低減する効果が確認されるろう材を選択することができる。
【0024】
図5に、き裂除去部30に溶着させた溶接材に対して、適宜の低融点材料を溶着させる作業の状況を、一部破断断面図として示している。図5の例では、低融点材料溶着の手法としてアークブレージングを採用している。低融点材料はアーク溶接機100からワイヤ材110として供給されて、き裂除去部30内に充填されている溶接材40に溶着され、溶着金属50となる。図5の溶着作業に用いるアーク溶接機は、例えばCMT(Cold Metal Transfer)溶接機を採用することができる。CMT溶接機は、溶融した低融点材料とワイヤ材110との間に生じるアーク電流を監視し、溶融した低融点材料とワイヤ材110との間の距離が増大してアーク電流が減少した場合にはワイヤ材110を供給して一定長さ以上にアークが伸びないようにし、逆にワイヤ材110が溶着した低融点材料に接触して電流が過大となったときにはワイヤ材110の供給を停止してワイヤ材110の先端が溶着した低融点材料から離れるように制御する。これにより、CMT溶接機では、母材への入熱を制御しつつ、低融点材料の溶着を行うことができ、溶接材40に対する残留応力除去効果をより効果的に得ることができる。なお、溶接機としては、CMT溶接機に限られず、通常の手動アーク溶接機を用いることができる。
【0025】
図5の状態となった金属部品10について、金属部品10の表面から盛り上がっている溶接材40及びろう材50を、グラインダ等の研削工具によって削り落とし、元の金属部品10の表面形状と表面状態を復元することにより、本実施形態の修理方法による修理が完了する。図6に、金属部品10の表面仕上げ作業後の状態を模式的に示している。
【0026】
以上説明した本実施形態の金属部品10の修理方法によれば、金属部品10に発生したき裂20を母材と同材質の溶接材を充填することによって補修することができるとともに、充填した溶接材に対して母材よりも融点が低いろう材を溶着させて溶接材に対する残留応力除去効果を得ることができるので、金属部品10に対して残留応力除去等の熱処理を別途行う必要がなくなる。また、修理完了後の金属部品10の表面は製造時の形状に復旧されるので、金属部品10が使用されている蒸気タービン装置等の装置性能に影響をおよぼすおそれが少ない。
【0027】
なお、本発明は上記の実施形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々変更可能である。
【符号の説明】
【0028】
10 金属部品 20 き裂 22 き裂開口部
30 き裂除去部 40 溶着金属 50 低融点材料
100 アーク溶接機 110 ワイヤ材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属部品の損傷部位を機械的に除去し、
前記損傷部位が除去された部分を、前記金属部品を形成する金属材料と同一の材質である溶接材により充填し、
充填した前記溶接材に対して当該溶接材の融点よりも低い融点を有する金属材料である低融点材料を溶着させ、
溶着させた前記低融点材料を除去するとともに、前記溶接材によって充填した部分の表面を平滑になるように研磨する、
ことを特徴とする金属部品の修理方法。
【請求項2】
請求項1に記載の金属部品の修理方法であって、前記低融点材料が銀ろう又はアルミニウムろうである、
ことを特徴とする金属部品の修理方法。
【請求項3】
請求項1に記載の金属部品の修理方法であって、
前記損傷部位がき裂である、金属部品の修理方法。
【請求項4】
請求項1に記載の金属部品の修理方法であって、
前記金属部品が、蒸気タービン装置の車室、又は弁機構に使用される鋳鋼製部品を含む、金属部品の修理方法。
【請求項5】
請求項1に記載の金属部品の修理方法であって、
前記低融点材料の溶着は、アークを熱源として前記低融点材料を溶融させることにより行われる、金属部品の修理方法。
【請求項6】
請求項5に記載の金属部品の修理方法であって、
前記アークは、ワイヤ状の低融点材料を自動的に繰り出すことができるアーク溶接機によって発生される、金属部品の修理方法。
【請求項7】
請求項6に記載の金属部品の修理方法であって、前記アーク溶接機は、溶融した前記低融点材料と、溶融前の前記ワイヤ状の低融点材料との間に生じるアーク電流を監視し、計測されたアーク電流値に従って前記ワイヤ状の低融点材料の繰り出し量を制御する、金属部品の修理方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2013−107101(P2013−107101A)
【公開日】平成25年6月6日(2013.6.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−253764(P2011−253764)
【出願日】平成23年11月21日(2011.11.21)
【出願人】(000211307)中国電力株式会社 (6,505)
【Fターム(参考)】