説明

金属部材、金属部材成形型、時計部品、金属部材の製造方法および金属部材成形型の製造方法

【課題】硬さや耐摩耗性を電鋳製品よりも向上させた金属部材とその成形型及びその製造方法を提供し、部材の長寿命化と磨耗の激しい部位での使用を可能にする。
【解決手段】本発明による金属部材は、無電解ニッケルめっきにより形成され、リン又はホウ素の内、少なくとも一種類の元素を含むことを特徴とし、析出時で硬度Hv=700程度を有しており、加熱によりHv=1000程度まで上昇するので、耐磨耗性が向上すると同時に、微細構造に係るスベリを防止するので、クリープや応力緩和等の機械的特性を改善することができる

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
微小で高い精度を求められる金属部材、及びその成形型、さらにはこれらの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、微小で高精度な部品を作製するために電鋳法が広く用いられてきた。電鋳法では、電気めっきによる金属の析出を行うため、導通を有する基材上(金属や導電性を付与した基体)に型を形成するか、あるいは、型表面に蒸着法や無電解めっき法により金属層を形成し、ニッケル、銅、金などの電気めっきを施し、型に応じた形状の電鋳体を形成していた。
【0003】
また、電鋳型の精度を高める方法としてフォトリソグラフィーによる製造方法が採用されている。例えば、特許文献1のように単純な型だけでなく、段差を有する電鋳部材を作製するために、段差部に導電性を有する層を形成し、その精度や効率を高める方法が考えられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2007−70709号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
一方で、電鋳法では、形成できる金属部材が限定されており、特に、硬さや耐摩耗性が要求されるような用途への適用については多くの問題を有していた。
【0006】
例えば、広く用いられているニッケル電鋳では硬さがHv=500程度しかなく、また、その結晶構造が面心立方であることに由来するスベリによって、耐磨耗性の低さやクリープ、応力緩和といった機械的特性の低さが使用範囲に限定を与えていた。
【0007】
本発明の目的は、電鋳法を用いず、電鋳法と同程度の精度を有し、且つ、機械的特性、例えば、硬さや耐摩耗性に優れた金属部材を無電解めっき法により提供すると同時に、金属部材の成形型およびこれらの製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明では、上記課題の解決として以下の手段を用いる。
本発明に係る金属部材成形型は、前記基板の表面の一部に形成された化学増幅型のフォトレジストからなる第一の樹脂層と、前記第一の樹脂層の前記基板に接する面と反対の面に形成された無電解ニッケルめっきの触媒となる金属からなる金属層と、前記基板の表面に形成され、前記第一の樹脂層と接し、前記金属層の表面を露出する凹部を有するとともに、前記フォトレジストと同一材料からなる第二の樹脂層と、を備えることを特徴とする。
【0009】
この金属部材成形型は、型の開口部のうち、その底部である第一の樹脂層表面に形成された金属層の表面に無電解ニッケルめっきを選択的に析出させることができ、開口部の形状に即した形状の金属部材を提供できると同時に、第一の樹脂層と第二の樹脂層に実質的な境界面をなくすことにより、無電解ニッケルめっき時に発生する水素等のガスによる強化部の破壊や剥離を無くすことができる。
【0010】
本発明に係る金属部材成形型は、前記金属層の最表面がパラジウムからなることを特徴とする。また、前記金属層は、ニッケルからなってもよい。
この金属部材成形型は、開口部底部に無電解ニッケルめっき形成時に触媒となる金属を用いるので、無電解ニッケル析出を効率よく行うことができる。
【0011】
本発明に係る金属部材成形型は、前記金属層が、銅、銀、およびアルミニウム等のパラジウムよりも析出電位が卑な金属からなるとともに、前記金属層の最表面が、前記金属と置換されたパラジウムからなることを特徴とする。
この金属部材成形型は、金属層最表面をパラジウムより析出電位が卑な金属とすることで、パラジウムとの置換を行うことができる。
【0012】
また、本発明に係る金属部材成形型は、前記第一の樹脂層と前記第二の樹脂層とがネガ型のフォトレジストからなることを特徴とする。
また、本発明に係る金属部材成形型は、前記基板が耐熱性を有し、金属、シリコン、ガラス、セラミックス、樹脂のいずれかからなることを特徴とする。
【0013】
本発明に係る金属部材成形型の製造方法は、基板の表面に化学増幅型の第一のフォトレジストを塗布し、前記第一のフォトレジストの一部からなる第一の樹脂層を形成する第一の樹脂層形成工程と、前記第一の樹脂層の前記基板に接する面と反対の面に無電解ニッケルめっきの触媒となる金属からなる金属層を形成する金属層形成工程と、前記第一のフォトレジストの露出した面及び前記金属層の前記第一の樹脂層に接する面と反対の面に前記第一のフォトレジストと同一材料の第二のフォトレジストを塗布する第二のフォトレジスト塗布工程と、前記第一のフォトレジストの前記第二のフォトレジストが形成された部分と前記第二のフォトレジストとを加熱により一体化する一体化工程と、前記第二のフォトレジストを露光して、前記金属層の前記第一の樹脂層に接する面と反対の面を露出する凹部を形成し、一体化した前記第一のフォトレジスト及び前記第二のフォトレジストからなり、前記凹部を有する第二の樹脂層を形成する第二の樹脂層形成工程と、を備えていることを特徴とする。
【0014】
この金属部材成形型の製造方法により、第二の樹脂層開口部底部に選択的に金属層を形成することができる。また、この金属部材成形型の製造方法は、フォトリソグラフィーを用いており、型や部材の精度を高くすることができる。
【0015】
この金属部材成形型の製造方法により、第一のフォトレジストの未露光部分と第二のフォトレジストを加熱により一体化させることで、無電解ニッケルめっき時に発生する大量の水素による樹脂層の剥離を防止することができる。
【0016】
また、この金属部材成形型の製造方法は、前記第一の樹脂層形成工程は、前記基板の表面にネガ型の前記第一のフォトレジストを塗布し、前記第一のフォトレジストの一部を露光して、前記第一のフォトレジストの露光部からなる前記第一の樹脂層および前記第一のフォトレジストの未露光部を形成する工程であり、前記第二のフォトレジスト塗布工程は、前記第一のフォトレジストの未露光部の前記基板に接する面と反対の面及び前記金属層の前記第一の樹脂層に接する面と反対の面に前記第二のフォトレジストを塗布する工程であり、前記一体化工程は、前記第一のフォトレジストの未露光部と前記第二のフォトレジストとを加熱により一体化する工程であり、前記第二の樹脂層形成工程は、前記第一のフォトレジストの未露光部と、前記第一のフォトレジストの未露光部の前記基板に接する面と反対の面に塗布された前記第二のフォトレジストとを露光して、前記第二のフォトレジストの未露光部を現像により除去して前記凹部を形成し、前記第二の樹脂層を形成する工程であることを特徴とする。
【0017】
また、前記第一の樹脂層形成工程は、前記基板の表面にポジ型の前記第一のフォトレジストを塗布し、前記前第一のフォトレジストの一部からなる前記第一の樹脂層を形成する工程であり、前記第二のフォトレジスト塗布工程は、前記第一のフォトレジストの露出した面及び前記金属層の前記第一の樹脂層と接する面と反対の面に前記第二のフォトレジストを塗布する工程であり、前記一体化工程は、前記第一のフォトレジストと前記第二のフォトレジストとを加熱により一体化する工程であり、前記第二の樹脂層形成工程は、前記金属層の前記第一の樹脂層に接する面と反対の面に塗布された前記第二のフォトレジストを露光して、前記第二のフォトレジストの露光部を現像により除去して前記凹部を形成し、前記第二の樹脂層を形成する工程であることを特徴とする。
【0018】
また、前記金属層形成工程において、前記金属層が銅、銀、およびアルミニウム等のパラジウムよりも析出電位が卑な金属からなり、前記金属層の最表面をパラジウムと置換することを特徴とする。
また、前記金属層形成工程において、前記金属層がニッケルからなることを特徴とする。
金属部材成形型の開口部に備えられた金属層最表面をパラジウムと置換した後、リン又はホウ素、もしくはその両方を含む化合物を還元剤として用いる無電解めっきにより、リン又はホウ素、もしくはその両方を含有するニッケルを選択的に析出させることによって金属部材を形成するができる。また、金属層最表面をパラジウムと置換することで、無電解ニッケルめっき時において、パラジウム上に、リン又はホウ素、もしくはその両方を含有したニッケルを析出させることができる。
【0019】
また、本発明に係る金属部材の製造方法は、本発明にかかる金属部材成形型の前記凹部の底面に形成された前記金属層の金属を触媒として、無電解ニッケルめっきにより、リン及びホウ素のうち少なくとも一種類の元素を含有する化合物を還元剤として用いる無電解めっき液から、前記金属層上に前記リン及びホウ素のうち一方又は双方の元素を含有するニッケルを選択的に析出させることによって金属部材を形成することを特徴とする。
また、前記金属層の最表面が前記触媒となるパラジウムからなることを特徴とする。
【0020】
本発明に係る金属部材は、85〜97.5mass%のニッケルと、リン又はホウ素のうち一方または双方の元素とで構成されるとともに、無電解ニッケルめっきにより析出されることを特徴とする。
また、本発明に係る金属部材は、2〜15mass%のリン又は0.3〜15mass%のホウ素のうち一方または双方の元素を含有することを特徴とする。
この金属部材は、ニッケルと比較して原子半径の小さなリンやホウ素を結晶格子に取り込むため、硬度が上がり、また、微細構造に係るスベリを防止するため、クリープや応力緩和等の機械的特性を高めることができる。
【0021】
この金属部材は、無電解ニッケルめっき液から析出するニッケルから構成されているが、同時に析出するリンやホウ素によって、析出時で硬度Hv=700程度を有しており、加熱によりHv=1000程度まで上昇するので、耐磨耗性が向上すると同時に、微細構造に係るスベリを防止するので、クリープや応力緩和等の機械的特性を改善することができる。
また、本発明に係る金属部材は、時計部品に用いることができる。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、無電解めっきにより微小で高精度な金属部材を作製でき、且つ従来の電鋳で作製していた部材よりも硬さや耐磨耗性が改善された金属部材を作製することができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本発明の実施形態に係る金属部材の上面図である。
【図2】本発明の実施形態に係る金属部材成形型を示す図である。
【図3】本発明の実施形態に係る金属部材成形型の製造方法を示す説明図である。
【図4】本発明の実施形態に係る金属部材成形型の製造方法を示す説明図である。
【図5】本発明の実施形態に係る金属部材成形型の製造方法を示す説明図である。
【図6】本発明の実施形態に係る金属部材成形型の製造方法を示す説明図である。
【図7】本発明の実施形態に係る金属部材成形型の製造方法を示す説明図である。
【図8】本発明の実施形態に係る金属部材成形型の製造方法を示す説明図である。
【図9】本発明の実施形態に係る金属部材成形型の製造方法を示す説明図である。
【図10】本発明の実施形態に係る金属部材成形型の製造方法を示す説明図である。
【図11】本発明の実施形態に係る金属部材成形型の製造方法を示す説明図である。
【図12】本発明の実施形態に係る金属部材成形型の製造方法を示す説明図である。
【図13】本発明の実施形態に係る金属部材の製造方法を示す説明図である。
【図14】本発明の実施形態に係る金属部材の製造方法を示す説明図である。
【図15】本発明の実施形態に係る金属部材の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
本実施形態に係る金属部材1の一例として、図1(a)に歯車を示す。この金属部材1は、無電解ニッケルめっきより析出されるニッケルであって、めっき析出中に共析するホウ素またはリンを含有している。また、金属部材1は85〜97.5mass%のニッケルと、リン及びホウ素のうち少なくとも一種類の元素とで構成されている。また、金属部材1は、リンを2〜15mass%、またはホウ素を0.3〜15mass%の範囲でいずれか一方または双方の元素を含有する。リン又はホウ素はニッケルに比べ原子半径が小さく、結晶格子に取り込まれる。そのため、硬度が上がり、また、微細構造に係るスベリを防止するため、クリープや応力緩和等の機械的特性を高めることができる。ただし、リン又はホウ素は15mass%以上結晶格子に取り込むことは難しい。また、無電解ニッケルめっきの還元剤にリン又はホウ素を含有しているため、リンについては2mass%、ホウ素については0.3mass%以上結晶格子に最低限取り込まれる。なお、リンはホウ素よりも結晶格子に取り込みやすい。また、還元剤に含有される各元素の濃度等によっても結晶格子に取り込む割合が変動する。
【0025】
図2は本発明に係る金属部材を示す図である。図2(a)は金属部材の上面図であり、図2(b)は、図2(a)のAA線における断面図を示している。
【0026】
金属部材成形型2は、基板3と、基板3の表面の一部に形成された化学増幅型のフォトレジストからなる第一の樹脂層4aと、第一の樹脂層4aの基板に接する面と反対の面に形成された無電解ニッケルめっきの触媒となる金属からなる金属層5aと、基板の表面に形成され、第一の樹脂層4aと接し、金属層5aの表面を露出する凹部を有するとともに、フォトレジストと同一材料からなる第二の樹脂層8aと、を備えている。
図2(a)に示すように、第二の樹脂層8aは金属層5aを囲んで形成されている。
【0027】
基板3は、金属、シリコン、ガラス、セラミックス、樹脂のいずれかからなる。なお、基板3は、80℃〜100℃程度の加熱に耐えられるような耐熱性を有するものが好ましい。また、基板は、金属部材成形型2の強度が維持できる程度の厚さを有している。
【0028】
また、金属層5aは、前記金属層の最表面が無電解ニッケルめっきの触媒となるパラジウムで構成されている。その場合、金属層のうち、第一の樹脂層4a側の金属は、前記金属層が、銅、銀、およびアルミニウム等のパラジウムよりも析出電位が卑な金属からなっていて、最表面をパラジウムで置換する構成になっている。なお、金属層は、無電解ニッケルめっきの触媒となればよく、ニッケルを第一の樹脂層4aに蒸着して形成してもよい。
【0029】
第一の樹脂層4aおよび第2の樹脂層8aは、同一材料の化学増幅型のフォトレジストで形成されている。また、このフォトレジストはエポキシ系の樹脂をベースとする化学増幅型のもので、硬化前は溶剤を含み、未露光であれば、加熱により結合・一体化するものが好ましく、感光波長範囲が可視光および赤外領域から外れたものであり、好ましくは400nm以下であり、且つ水系薬剤に不溶であることが望ましい。また、第一の樹脂層4aと第2の樹脂層8aのうち第一の樹脂層4aとの境界に形成された部分とは、同一工程で塗布したフォトレジストである。そのため、第一の樹脂層4aと第2の樹脂層8aとは、強い結合力で結合している。また、各樹脂層はネガ型またはポジ型で形成されている。
【0030】
本発明に係る金属部材成形型2の製造方法について図3から図15を参照して説明する。
図3は、基板3に第一のフォトレジストを塗布する工程を示す図である。
まず、ネガ型の第一のフォトレジスト4を基板3の表面に所定の厚さ塗布する。基板3は一様に平滑なガラスや金属、セラミックス、樹脂等からなる耐熱性基板であって、金属部材成形型2の強度が維持できる程度の厚さを有している。
【0031】
また、このフォトレジストはエポキシ系の樹脂をベースとする化学増幅型のもので、硬化前は溶剤を含み、未露光であれば、加熱により結合・一体化するものが好ましく、感光波長範囲が可視光および赤外領域から外れたものであり、好ましくは400nm以下であり、且つ水系薬剤に不溶であることが望ましい。
【0032】
図4は、第一のフォトレジスト形成工程を示す図である。
この工程では、第一のフォトレジストの一部を露光して、前記第一のフォトレジストの露光部からなる第一の樹脂層および前記第一のフォトレジストの未露光部を形成する。
【0033】
ここでは、第一のフォトレジスト4の未露光部を形成する部分、すなわち図4における中央部を覆うように図示しない第一のフォトマスクを第一のフォトレジスト4の表面に配置して、その上方から露光する。このとき、図4に示すように、第一のフォトレジストのうち、第一のフォトマスクで覆われていない部分が露光され、第一の樹脂層4aが形成される。一方、第一のフォトマスクで覆われた部分は未露光部4bとなる。
【0034】
図5から図7は、前記第一の樹脂層の前記基板に接する面と反対の面に無電解ニッケルめっきの触媒となる金属からなる金属層を形成する金属層形成工程を示す図である。
図5は、第一の樹脂層4a上及び未露光部4b上に金属を蒸着させる工程である。
【0035】
ここでは、触媒となるニッケルを第一の樹脂層4a上及び未露光部4b上に一様に蒸着させる。その後、抵抗加熱を用いて融解・蒸着させ、図4に示す金属膜5を形成する。このときの金属膜5の厚みは光を遮蔽できれば良く、30nm〜80nm程度で良い。なお、金属膜5は、銅、銀、およびアルミニウム等を蒸着して形成してもよい。このとき金属は、パラジウムよりも析出電位が卑な金属で形成する必要がある。また、金属膜は、クロムを第一の樹脂層4aおよび未露光部4b上に形成して、その上に銅、銀、およびアルミニウム等の金属膜を蒸着してもよい。これにより、第一の樹脂層4aとの密着性が向上するとともに、金属部材を金属膜から取り外しやすくすることができる。
【0036】
図6は、マスク用のフォトレジストを塗布する工程を示す図である。
図6に示すように、金属膜5上にマスク用のフォトレジスト6を一様に塗布する。本実施形態ではフォトレジスト6にポジ型を用いる。
【0037】
図7は、ポジ型のフォトレジストを露光、現像により、エッチングマスクを形成する工程を示す図である。
図6の工程後、エッチングマスク6aとして残す部分、すなわち第一の樹脂層4a上に形成された部分を覆うように図示しない第二のフォトマスクを第一の樹脂側の金属膜5の表面に配置し、その上方から露光する。これを現像させることで、エッチングマスク6aを形成する。
【0038】
図8は、不要部分の金属膜をエッチングにより除去し、金属層を形成する工程を示す図である。
ここでは、エッチングマスク6aが金属膜5上に残っているため、そのままエッチングを行えば、不要部分、すなわち第一のフォトレジストの未露光部4b上の金属を除去することができ、金属層5aが形成される。なお、フォトレジスト6にネガ型を使用してもよい。その場合、第二のフォトマスクは、第一のフォトレジストの未露光部4b側の金属膜5を覆うように配置する。
【0039】
図9は、エッチングマスク6aを除去する工程を示す図である。
ここでは、エッチングマスク6aが以降の工程で不要となるため、エッチングマスク6aを除去する。
【0040】
図10は、第二のフォトレジスト塗布工程を示す図である。
ここでは、第一のフォトレジストの未露光部4bの基板に接する面と反対の面、すなわち第一のフォトレジストの露出した面及び金属層5aの第一の樹脂層4aに接する面と反対の面に第二のフォトレジスト7を塗布する。このとき、第二のフォトレジストは第一のフォトレジストと同一材料を用いる。また、塗布する厚みは、所望する金属部材の厚みと等しいか、それ以上になるようにする。
【0041】
図11は、第一のフォトレジストの未露光部と第二のフォトレジストとを加熱により一体化する工程を示す図である。
ここでは、80℃〜100℃程度での加熱を行うことで、各フォトレジストに含まれる溶剤が蒸発し、第一のフォトレジストの未露光部4b及び第二のフォトレジスト7が結合、一体化し、一体化したフォトレジスト層8が形成される。これにより、無電解ニッケルめっき時に発生する大量の水素による樹脂層の剥離を防止することができる。なお、第一のフォトレジストの未露光部4bと第一の樹脂層4aとは、ともに第一のフォトレジストで形成されているため、強い結合力で結合されている。
【0042】
図12は、第二の樹脂層を形成する第二の樹脂層形成工程を示す図である。
ここでは、第一のフォトレジストの未露光部4bと、第一のフォトレジストの未露光部4bの基板に接する面と反対の面に塗布された一体化したフォトレジスト層8とを露光する。このとき、第一のフォトレジスト4を露光して第一の樹脂層4aと未露光部4bとを形成する工程で用いた第一のフォトマスクフォトレジスト層8の表面に配置して、露光する。すなわち、フォトレジスト層8の金属層5a上に形成された部分の表面に第一のフォトマスクを配置する。その後、現像を行い、フォトレジスト層のうち第2のフォトレジスト部分の未露光部を除去して、金属層の表面を露出する凹部を形成する。これにより、凹部を有する第二の樹脂層8aを形成する。
【0043】
以上により、金属部材成形型2を得る。
なお、金属層に銅、銀、およびアルミニウム等を用いた場合、金属部材形成型2をパラジウムイオンが含まれた水溶液、例えば、硫酸パラジウム水溶液に浸漬することにより、金属層5aの最表面の金属層を無電解ニッケルめっきの触媒となるパラジウムと置換する。
【0044】
また、本実施形態では、第一のフォトレジスト4および第二のフォトレジスト5をネガ型で形成したが、ポジ型で形成してよい。その場合、フォトマスクは各工程において、ネガ型で用いたものと逆のものを使用する。
【0045】
その場合、第一の樹脂層形成工程では、基板の表面にポジ型の第一のフォトレジストを塗布する。ポジ型を用いているため、この工程で露光する必要はなく、第一のフォトレジストの一部からなる第一の樹脂層を形成することができる。
【0046】
また、第二のフォトレジスト塗布工程では、第一のフォトレジストの露出した面及び金属層の第一の樹脂層と接する面と反対の面に第二のフォトレジストを塗布する。
【0047】
また、一体化工程では、第一のフォトレジストと第二のフォトレジストとを加熱により一体化する。これにより、ネガ型で得られた樹脂層の剥離を防止する効果を得ることができる。
【0048】
また、第二の樹脂層形成工程では、金属層の第一の樹脂層に接する面と反対の面に塗布された第二のフォトレジストを露光して、第二のフォトレジストの露光部を現像により除去して凹部を形成し、第二の樹脂層を形成する。
これにより、ネガ型のフォトレジストを用いた場合と同様の構成の金属部材成形型を得ることができる。
【0049】
このようにして作製された金属部材成形型2を用いて、本発明である金属部材1の作製方法を図13及び図14を用いて説明する。
【0050】
無電解ニッケルめっき液のうち、ニッケルイオンを含む水溶液として、例えば硫酸ニッケルや塩化ニッケル水溶液を用い、還元剤として、次亜リン酸やジメチルアミンボラン(DMAB)等のリンまたはホウ素を含有するイオンを含む薬液を用いる。なお、還元剤にリンを含有する場合は、析出物内にリンが共析し、ホウ素を含む場合にはホウ素が共析することとなる。
【0051】
図13は、金属部材の製造方法を示す図である。金属部材成形型2を無電解ニッケルめっき液に浸漬することにより、所望の厚さになるまで、凹部の底面に形成された金属層から金属の析出を行うことにより、金属部材1を金属部材成形型2内に形成する。
【0052】
次に、必要に応じて、表面の研磨等を行った後、金属部材成形型2から金属部材1を取り外すことにより、図14に示すような金属層5aが取り付いた金属部材1を得る。
【0053】
次に、必要に応じて金属層5aをエッチングや研磨で除去することにより、図15に示すように、所望とする金属部材1を得る。
【0054】
このようにして得られた金属部材1は、リンまたはホウ素が含まれており、硬度は、含有するものにより異なるが、Hv=700程度のものであり、さらに、熱処理によりHv=1000程度のものとなる。
【0055】
また、本発明に係る金属部材は、回転錘、歯車、がんぎ車、アンクル、てんわなどの時計部品を形成することが可能である。また、時計部品に限らず、微細部品や精密部品を形成することができる。
【符号の説明】
【0056】
1 金属部材
2 金属部材成形型
3 基板
4 第一のフォトレジスト
4a 第一の樹脂層
4b 第一のフォトレジストの未露光部
5 金属膜
5a 金属層
6 マスク用のフォトレジスト
6a エッチングマスク
7 第二のフォトレジスト
8 一体化したフォトレジスト
8a 第二の樹脂層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板と、
前記基板の表面の一部に形成された化学増幅型のフォトレジストからなる第一の樹脂層と、
前記第一の樹脂層の前記基板に接する面と反対の面に形成された無電解ニッケルめっきの触媒となる金属からなる金属層と、
前記基板の表面に形成され、前記第一の樹脂層と接し、前記金属層の表面を露出する凹部を有するとともに、前記フォトレジストと同一材料からなる第二の樹脂層と、
を備えることを特徴とする金属部材成形型。
【請求項2】
前記金属層の最表面がパラジウムからなることを特徴とする請求項1に記載の金属部材成形型。
【請求項3】
前記金属層が、銅、銀、およびアルミニウム等のパラジウムよりも析出電位が卑な金属からなるとともに、前記金属層の最表面が、前記金属と置換されたパラジウムからなることを特徴とする請求項2に記載の金属部材成形型。
【請求項4】
前記金属層が、ニッケルからなることを特徴とする請求項1に記載の金属部材成形型。
【請求項5】
前記第一の樹脂層と前記第二の樹脂層とがネガ型のフォトレジストからなることを特徴とする請求項1から4のいずれか一項に記載の金属部材成形型。
【請求項6】
前記基板が耐熱性を有し、金属、シリコン、ガラス、セラミックス、樹脂のいずれかからなることを特徴とする請求項1から5のいずれか一項に記載の金属部材成形型。
【請求項7】
基板の表面に化学増幅型の第一のフォトレジストを塗布し、前記第一のフォトレジストの一部からなる第一の樹脂層を形成する第一の樹脂層形成工程と、
前記第一の樹脂層の前記基板に接する面と反対の面に無電解ニッケルめっきの触媒となる金属からなる金属層を形成する金属層形成工程と、
前記第一のフォトレジストの露出した面及び前記金属層の前記第一の樹脂層に接する面と反対の面に前記第一のフォトレジストと同一材料の第二のフォトレジストを塗布する第二のフォトレジスト塗布工程と、
前記第一のフォトレジストの前記第二のフォトレジストが形成された部分と前記第二のフォトレジストとを加熱により一体化する一体化工程と、
前記第二のフォトレジストを露光して、前記金属層の前記第一の樹脂層に接する面と反対の面を露出する凹部を形成し、一体化した前記第一のフォトレジスト及び前記第二のフォトレジストからなり、前記凹部を有する第二の樹脂層を形成する第二の樹脂層形成工程と、
を備えていることを特徴とする金属部材成形型の製造方法。
【請求項8】
前記第一の樹脂層形成工程は、前記基板の表面にネガ型の前記第一のフォトレジストを塗布し、前記第一のフォトレジストの一部を露光して、前記第一のフォトレジストの露光部からなる前記第一の樹脂層および前記第一のフォトレジストの未露光部を形成する工程であり、
前記第二のフォトレジスト塗布工程は、前記第一のフォトレジストの未露光部の前記基板に接する面と反対の面及び前記金属層の前記第一の樹脂層に接する面と反対の面に前記第二のフォトレジストを塗布する工程であり、
前記一体化工程は、前記第一のフォトレジストの未露光部と前記第二のフォトレジストとを加熱により一体化する工程であり、
前記第二の樹脂層形成工程は、前記第一のフォトレジストの未露光部と、前記第一のフォトレジストの未露光部の前記基板に接する面と反対の面に塗布された前記第二のフォトレジストとを露光して、前記第二のフォトレジストの未露光部を現像により除去して前記凹部を形成し、前記第二の樹脂層を形成する工程であることを特徴とする請求項7に記載の金属部材成形型の製造方法。
【請求項9】
前記第一の樹脂層形成工程は、前記基板の表面にポジ型の前記第一のフォトレジストを塗布し、前記第一のフォトレジストの一部からなる前記第一の樹脂層を形成する工程であり、
前記第二のフォトレジスト塗布工程は、前記第一のフォトレジストの露出した面及び前記金属層の前記第一の樹脂層と接する面と反対の面に前記第二のフォトレジストを塗布する工程であり、
前記一体化工程は、前記第一のフォトレジストと前記第二のフォトレジストとを加熱により一体化する工程であり、
前記第二の樹脂層形成工程は、前記金属層の前記第一の樹脂層に接する面と反対の面に塗布された前記第二のフォトレジストを露光して、前記第二のフォトレジストの露光部を現像により除去して前記凹部を形成し、前記第二の樹脂層を形成する工程であることを特徴とする請求項7に記載の金属部材成形型の製造方法。
【請求項10】
前記金属層形成工程において、前記金属層が銅、銀、およびアルミニウム等のパラジウムよりも析出電位が卑な金属からなり、前記金属層の最表面をパラジウムと置換することを特徴とする請求項7から9のいずれか一項に記載の金属部材成形型の製造方法。
【請求項11】
前記金属層形成工程において、前記金属層がニッケルからなることを特徴とする請求項7から9のいずれか一項に記載の金属部材成形型の製造方法。
【請求項12】
前記金属層形成工程は、前記第一のフォトレジストの前記基板に接する面と反対の面に金属膜を形成する工程と、前記金属膜の前記第一のフォトレジストに接する面と反対の面の一部にマスク用のフォトレジストからなるエッチングマスクを形成する工程と、前記金属膜の前記第一のフォトレジストに接する面と反対の面のうち露出した部分をエッチングにより除去する工程と、前記エッチングマスクを除去し、前記金属層を形成する工程と、を備えることを特徴とする請求項7から11のいずれか一項に記載の金属部材成形型の製造方法。
【請求項13】
請求項1から6のいずれか一項に記載の金属部材成形型の前記凹部の底面に形成された前記金属層の金属を触媒として、無電解ニッケルめっきにより、リン又はホウ素のうち一方又は双方の元素を含有する化合物を還元剤として用いる無電解めっき液から、前記金属層上に前記リン及びホウ素のうち少なくとも一種類の元素を含有するニッケルを選択的に析出させることによって金属部材を形成することを特徴とする金属部材の製造方法。
【請求項14】
前記金属層の最表面が前記触媒となるパラジウムからなることを特徴とする請求項13に記載の金属部材の製造方法。
【請求項15】
85〜97.5mass%のニッケルと、リン又はホウ素のうち一方または双方の元素とで構成されるとともに、無電解ニッケルめっきにより析出されることを特徴とする金属部材。
【請求項16】
2〜15mass%のリン又は0.3〜15mass%のホウ素のうち一方または双方の元素を含有することを特徴とする請求項15に記載の金属部材。
【請求項17】
請求項15または請求項16に記載の金属部材を用いたことを特徴とする時計部品。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【公開番号】特開2011−208211(P2011−208211A)
【公開日】平成23年10月20日(2011.10.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−76393(P2010−76393)
【出願日】平成22年3月29日(2010.3.29)
【出願人】(000002325)セイコーインスツル株式会社 (3,629)
【Fターム(参考)】