説明

金属部材の接合方法及び金属部材の接合装置並びにこれらを用いた金属接合部材の製造方法

【課題】金属部材の接合面の選択的な加熱を実現できる金属部材の接合方法及び金属部材の接合装置並びにこれらを用いた金属接合部材の製造方法を提供する。
【解決手段】金属部材の接合方法は、複数の金属部材を固相状態で接合する金属部材の接合方法であって、金属部材の接合面に誘電体微粒子を配置する工程(1)と、該工程(1)の後に実施され、該誘電体微粒子が接合面に配置された該金属部材と他の金属部材とを、該誘電体微粒子を挟むように配置し、これらの金属部材自体に塑性変形が生じない程度の圧力を付与する条件下、該誘電体微粒子にミリ波を照射して、これらの金属部材の接合面を加熱する工程(2)と、を含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属部材の接合方法及び金属部材の接合装置並びにこれらを用いた金属接合部材の製造方法に関する。
更に詳細には、本発明は、ミリ波とその照射によって誘電損失熱を生じる誘電体微粒子とを組み合わせて利用する金属部材の接合方法及び金属部材の接合装置並びにこれらを用いた金属接合部材の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、マイクロ波を用いて金属部材の接合部分を集中的に加熱し、金属部材全体を高温に加熱せずに金属部材同士を拡散接合できるようにした金属部材の固相接合方法が提案されている(特許文献1参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2007−111709号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記特許文献1に記載された金属部材の固相接合方法であっても、接合部分の集中的な加熱が十分に実現されておらず、得られる金属接合部材における熱影響部は依然として大きく、歪みについても依然として大きいという問題点があった。
【0005】
本発明は、このような従来技術の有する課題に鑑みてなされたものである。そして、その目的とするところは、金属部材の接合面の局所的ないし選択的な加熱を実現し得る金属部材の接合方法及び金属部材の接合装置並びにこれらを用いた金属接合部材の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記目的を達成するため鋭意検討を重ねた。その結果、ミリ波とその照射によって誘電損失熱を生じる誘電体微粒子とを組み合わせて利用することなどにより、上記目的が達成できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0007】
すなわち、本発明の金属部材の接合方法は、複数の金属部材を固相状態で接合する金属部材の接合方法であって、金属部材の接合面に誘電体微粒子を配置する工程(1)と、該工程(1)の後に実施され、該誘電体微粒子が接合面に配置された該金属部材と他の金属部材とを、該誘電体微粒子を挟むように配置し、これらの金属部材自体に塑性変形が生じない程度の圧力を付与する条件下、該誘電体微粒子にミリ波を照射して、これらの金属部材の接合面を加熱する工程(2)と、を含むことを特徴とする。
【0008】
また、本発明の金属部材の接合装置は、複数の金属部材を固相状態で接合する金属部材の接合装置であって、金属部材の接合面に誘電体微粒子を配置する誘電体微粒子配置手段と、該誘電体微粒子が接合面に配置された該金属部材と他の金属部材とに、これらの金属部材自体に塑性変形が生じない程度の圧力を付与する加圧手段と、該誘電体微粒子にミリ波を照射するミリ波照射手段と、を備えたことを特徴とする。
【0009】
更に、本発明の金属接合部材の製造方法は、上記本発明の金属部材の接合方法又は上記本発明の金属部材の接合装置を用いたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、ミリ波とその照射によって誘電損失熱を生じる誘電体微粒子とを組み合わせて利用することなどとしたため、金属部材の接合面の局所的ないし選択的な加熱を実現し得る金属部材の接合方法及び金属部材の接合装置並びにこれらを用いた金属接合部材の製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明の一実施形態に係る金属部材の接合方法の一例を示す説明図である。
【図2】金属部材と誘電体微粒子の配置状態の一例を示す説明図である。
【図3】本発明の一実施形態に係る金属部材の接合装置の一例を示す概略構成図である。
【図4】本発明の一実施形態に係る金属部材の接合装置の他の例を示す概略構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の金属部材の接合方法及び金属部材の接合装置並びにこれらを用いた金属接合部材の製造方法について詳細に説明する。なお、本発明における「ミリ波」とは、周波数帯が20GHz以上300GHz以下であるものをいう。
【0013】
まず、本発明の金属部材の接合方法及びこれを用いた金属接合部材の製造方法について詳細に説明する。
本実施形態の金属部材の接合方法は、複数の金属部材を固相状態で接合する金属部材の接合方法であって、下記の工程(1)及び工程(2)を含む方法である。
工程(1):金属部材の接合面に誘電体微粒子を配置する。
工程(2):工程(1)の後に、誘電体微粒子が接合面に配置された金属部材と他の金属部材とを、誘電体微粒子を挟むように配置し、これらの金属部材に塑性変形が生じない程度の圧力を付与する条件下、誘電体微粒子にミリ波を照射して、これらの金属部材の接合面を加熱する。
【0014】
このような工程を経ることによって、金属部材の接合面に配置された誘電体微粒子がミリ波の照射によって誘電損失熱を発生し、金属部材の接合面の局所的ないし選択的な加熱が可能となり、複数の金属部材を固相状態で接合することができる。換言すれば、このような金属部材の接合方法を用いることにより、複数の金属部材を固相状態で接合して成る金属接合部材を得ることができる。
また、適用可能な金属部材の形状が丸物に限定される摩擦接合に比べて、本実施形態の金属部材の接合方法は、金属部材の形状の自由度が高いという利点もある。
なお、周波数が300MHz以上300GHz以下である電磁波、いわゆるマイクロ波による単位体積当たりの発熱量Pは、マイクロ波の周波数をf、真空の誘電率をε、非加熱物の比誘電率、誘電損失角をそれぞれε、δ、マイクロ波の電解の強さをEとすると、下記の式(1)で表される。また、式(1)中のεεtanδは材料の誘電損率と呼ばれ、温度と周波数に比例して増加する。また、発熱量Pはマイクロ波の周波数に大きく依存する。
【0015】
P[W/m]=2πfεεtanδE…(1)
【0016】
また、マイクロ波のエネルギーが半分に減衰する距離(電力の半減深度)Dは、下記の式(2)で表される。
【0017】
D[m]=3.32×10/(fε1/2tanδ)…(2)
【0018】
以下、工程ごとに更に詳細に説明する。
【0019】
まず、工程(1)について詳細に説明する。
工程(1)における金属部材としては、例えばアルミニウム、炭素鋼(例えば、S45Cなどの低炭素鋼)、チタンなどを挙げることができる。しかしながら、これらに限定されるものではなく、例えば、アルミニウム合金やチタン合金、マグネシウム合金などの金属部材を適用することもできる。
ここで、「金属部材」とは、いわゆる金属材料のみからなる金属部材のみを意味するものではない。すなわち、例えばセラミックや金属、プラスチックなどの材料から構成されたモジュール(例えば、車両においては、電装品や内装品、外装品を挙げることができる。)に付属した継ぎ手用の金属部材をも意味する。
【0020】
また、工程(1)における誘電体微粒子としては、例えば金属酸化物、金属窒化物、金属炭化物、金属硼化物、炭素などの微粒子を挙げることができるが、これらに限定されるものではない。すなわち、ホウケイ酸ガラスのようなガラスの微粒子を適用することもできる。
また、上記微粒子は単独で又は2種以上を混合して用いることができる。
【0021】
金属酸化物の具体例としては、アルミナ(Al)、酸化鉄(Fe)などを挙げることができる。また、金属窒化物の具体例としては、窒化アルミニウム(AlN)を挙げることができる。更に、金属炭化物としては、炭化チタン(TiC)を挙げることができる。また、金属硼化物の具体例としては、硼化チタン(TiB)を挙げることができる。更にまた、炭素の具体例としては、黒鉛(C)を挙げることができる。
なお、本発明における「金属酸化物の微粒子」とは、金属酸化物のみからなる微粒子だけを意味するものではない。すなわち、金属酸化物のみからなる微粒子と同様の効果を示す限り、金属微粒子の表面が酸化されたもの、つまり酸化被膜を有する金属微粒子をも含むという意味に解釈しなければならない。
酸化被膜を有する金属微粒子の具体例としては、酸化被膜を有するアルミニウム微粒子や鉄微粒子などを挙げることができる。なお、酸化被膜を有する金属微粒子は、酸化物と非酸化物の体積比の関係から、金属酸化物のみからなる微粒子に比較して発熱量が小さいが、金属酸化物のみからなる微粒子に比較して不要な酸化物の混入を抑制することができる。
【0022】
誘電体微粒子と金属部材との組合せは、微量の誘電体微粒子が残留した場合であっても組成に与える影響を小さくできるという観点から、同種の組合せであることが望ましいが、これに限定されるものではなく、異種の組合せとすることもできる。
ここで、「同種の組合せ」とは、例えば金属部材がアルミニウムである場合に誘電体微粒子としてアルミナ、窒化アルミニウムなどのアルミニウムを含むものを用いる組合せや、金属部材が炭素鋼である場合に誘電体微粒子として酸化鉄のように鉄を含むものを用いる組合せのことをいう。一方、「異種の組合せ」とは、例えば金属部材がアルミニウムである場合に誘電体微粒子として酸化鉄や炭素などのアルミニウムを含まないものを用いる組合せのことをいう。
なお、金属部材と後述する他の金属部材とについて、異種材料の金属部材を適用する場合には、上記理由と同様で、誘電体微粒子と金属部材のいずれか一方とが同種の組合せであることが望ましいが、これに限定されるものではなく、更に異種の組合せとすることもできる。
【0023】
また、誘電体微粒子は、その平均粒子径が500μm以下であることが好ましく、10μm以下であることがより好ましく、5μm以下であることが更に好ましい。誘電体微粒子の平均粒子径が500μm以下であると、金属部材の接合面における加熱促進効果が大きくなり、更に平均粒子径が小さくなるとその効果が大きくなるためである。
一方、誘電体微粒子の平均粒子径は200nm以上であることが好ましく、250nm以上であることがより好ましく、300nm以上であることが更に好ましい。誘電体微粒子の平均粒子径が200nm以上であると、誘電体微粒子の凝集がより起こりにくくなり、一体品の機械的強度と同程度の機械的強度とすることがより容易になる。
【0024】
なお、誘電体微粒子の平均粒子径が10μm以下であると加熱促進効果が更に著しく大きくなるメカニズムは現時点では定かではないが、微粒子におけるネッキングの形成によって、ネックに電界が集中し、更に誘電損失熱の発生が促進されたためであると考えている。
但し、上記のメカニズムはあくまでも推測に基づくものである。従って、上記のメカニズム以外のメカニズムにより上述のような効果が得られていたとしても、本発明の範囲に含まれることは言うまでもない。
【0025】
更にまた、誘電体微粒子を配置する手法としては、例えば誘電体微粒子自体を噴射ノズルより噴射して塗布する手法を利用することができるが、これに限定されるものではない。例えば誘電体微粒子を含むスラリーを塗布する手法や、金属部材の接合面に形成された酸化被膜を研磨すると共に、その削り取られた金属酸化物の微粒子を接合面にそのまま配置して残す手法などを利用することができる。
なお、誘電体微粒子としては、金属酸化物や金属窒化物自体などを用いることが望ましい。このような場合、有機化合物である樹脂や、金属酸化物や金属窒化物に樹脂を混合したスラリーを用いるよりも、不要な成分の混入を抑制することができる。
【0026】
次に、工程(2)について詳細に説明する。
工程(2)における他の金属部材としては、上記金属部材と同様に、例えばアルミニウム、炭素鋼(例えば、S45Cなどの低炭素鋼)、チタンなどを挙げることができるが、これらに限定されるものではない。すなわち、例えば、アルミニウム合金やチタン合金、マグネシウム合金などについても適用することができる。
また、他の金属部材についても、上記金属部材と同様に、いわゆる金属材料のみからなる金属部材だけでなく、モジュールに付属した継ぎ手用の金属部材をも含む意味に解釈しなければならない。
更に、上記金属部材と他の金属部材とは、同種材料及び異種材料のいずれであってもよい。更にまた、他の金属部材の接合面にも誘電体微粒子を配置するようにしてもよい。
【0027】
工程(2)においては、上述のような金属部材と他の金属部材とを、誘電体微粒子を挟むように配置し、これらの金属部材自体に塑性変形が生じない程度の圧力を付与する(以下「条件A」という。)。
ここで、「金属部材自体に塑性変形が生じない程度の圧力」とは、適用する金属部材の材質や温度に応じて適宜設定するものであるが、異種材料の金属部材を適用する場合には、塑性変形がより生じやすい金属部材を基準にして圧力を設定することは言うまでもない。
【0028】
そして、上述のような条件Aの下、誘電体微粒子にミリ波を照射して、これらの金属部材の接合面を加熱する。
誘電体微粒子にミリ波を照射するに当たっては、金属部材の接合面を誘電体微粒子が発生する誘電損失熱により加熱して、金属部材を接合することができれば、特に限定されるものではない。
しかしながら、利用可能なミリ波の周波数帯や接合における効率の観点から、ミリ波の出力は接合部の単位面積当たりの出力で100W/mm以上であることが好ましい。
【0029】
また、本実施形態の金属部材の接合方法においては、工程(2)において、誘電体微粒子にミリ波を照射して、これらの金属部材の接合面を加熱する際に、更に誘電体微粒子及び金属部材の接合面を囲うように配置した断熱材によって断熱する(以下「条件B」という。)ことが望ましい。
ここで、「誘電体微粒子及び金属部材の接合面を囲うように配置する」とは、誘電損失熱を発生する誘電体微粒子からの放熱が可能な限り金属部材の接合面の加熱に利用されるように、金属部材の接合面からの放熱が可能な限り抑制されるように配置することをいう。
また、断熱材としては、例えばアルミナ及びジルコニアの少なくとも一方を用いたものを挙げることができる。更に、その形態については、特に限定されるものではなく、バルク体、繊維集合体など種々の形態のものを用いることができるが、断熱性能の観点からは、アルミナやジルコニアなどの繊維を用いた繊維集合体を用いることが望ましい。
【0030】
上述のような条件A及び条件Bを満足する条件下において、誘電体微粒子にミリ波を照射して、金属部材の接合面を加熱すると、誘電体微粒子が発生する誘電損失熱を効率的に金属部材の接合面の加熱に利用できる。また、金属部材の接合面などからの放熱を抑制できる。これにより、金属部材の接合面の温度制御をより効果的に行うことができる。
その結果、金属接合部材における歪量や熱影響部がより小さくなり、接合状態がより良好な金属接合部材を得ることができる。
【0031】
更に、本実施形態の金属部材の接合方法においては、工程(2)において、誘電体微粒子にミリ波を照射して、これらの金属部材の接合面を加熱する際に、更に誘電体微粒子及び金属部材の接合面を加熱するように配置した他の加熱源としてのサセプターによって加熱する(以下「条件C」という。)ことが望ましい。
ここで「誘電体微粒子及び金属部材の接合面を加熱するように配置する」とは、誘電体微粒子からの放熱を補うように、金属部材の接合面の誘電体微粒子による加熱を補助するように配置することをいう。サセプターによって補助的な加熱を行うに当たり、接合面を局所的ないし選択的に加熱するためには、サセプターが金属部材を囲う領域を可能な限り少なくすることが望ましい。また、接合面を局所的ないし選択的に加熱するためには、サセプターを接合面に可能な限り近づけることが望ましい。
また、サセプターとしては、例えばアルミナを用いたものを挙げることができる。更に、その形態については、特に限定されるものではなく、バルク体、繊維集合体など種々の形態のものを用いることができるが、サセプター性能の観点からは、アルミナのバルク体を用いることが望ましい。
【0032】
上述のような条件A及び条件Cを満足する条件下において、誘電体微粒子にミリ波を照射して、金属部材の接合面を加熱すると、金属部材などからの放熱や輻射若しくはミリ波照射手段からのミリ波をサセプターが利用できる。これにより、金属部材の接合面の温度制御をより効果的に行うことができる。
その結果、金属接合部材における歪量や熱影響部がより小さくなり、接合状態がより良好な金属接合部材を得ることができる。
【0033】
また、上記条件A、条件B及び条件Cを満足する条件下において、誘電体微粒子にミリ波を照射して、金属部材の接合面を加熱すると、誘電体微粒子が発生する誘電損失熱を効率的に金属部材の接合面の加熱に利用できる。また、金属部材の接合面などからの放熱を抑制できる。更に、金属部材などからの放熱や輻射若しくはミリ波照射手段からのミリ波をサセプターが利用できる。これにより、金属部材の接合面の温度制御を更に効果的に行うことができる。
その結果、金属接合部材における歪量や熱影響部がより小さくなり、接合状態がより良好な金属接合部材を得ることができる。
【0034】
なお、上記条件A、条件B及び条件Cを満足させるに当たっては、例えば、下記のような条件A、条件B及び条件C’にすることが望ましい。
条件A:金属部材と他の金属部材とを、誘電体微粒子を挟むように配置し、これらの金属部材自体に塑性変形が生じない程度の圧力を付与する。
条件B:誘電体微粒子及び金属部材の接合面を囲うように配置した断熱材によって断熱する。
条件C’:断熱材に囲われた領域内に誘電体微粒子及び金属部材の接合面を加熱するように配置した他の加熱源としてのサセプターによって加熱する。
【0035】
また、本実施形態の金属部材の接合方法においては、工程(2)において、誘電体微粒子にミリ波を照射して、これらの金属部材の接合面を加熱する際に、更に誘電体微粒子及び金属部材の接合面を囲う領域を非酸化性雰囲気とする(以下「条件D」という。)ことが望ましい。
ここで、「非酸化性雰囲気」とは、通常の大気組成と同じ大気雰囲気よりも各種金属部材が酸化されにくい雰囲気を意味する。
【0036】
具体的には、作業領域全体を真空雰囲気、アルゴンガス雰囲気若しくは窒素ガス雰囲気とすることや、作業領域のうち誘電体微粒子及び金属部材の接合面を囲う領域を含む一部をアルゴンガス流れ雰囲気若しくは窒素ガス流れ雰囲気とすることなどを挙げることができる。もちろん、作業領域のうち誘電体微粒子及び金属部材の接合面を囲う領域を含む一部を真空雰囲気としてもよい。
作業領域全体の雰囲気を制御する場合に比較して、作業領域のうち誘電体微粒子及び金属部材の接合面を囲う領域を含む一部の雰囲気を制御する場合の方が接合における効率が高く望ましい。
なお、「作業領域」とは、金属部材や誘電体微粒子、更には詳しくは後述する製造装置における誘電体微粒子配置手段、加圧手段、断熱手段、他の加熱源としてのサセプターなどが配置されるないしは作動する空間をいう。
【0037】
ここで、本実施形態の金属部材の接合方法の一例について図面を参照しながら更に詳細に説明する。
図1は、本発明の一実施形態に係る金属部材の接合方法の一例を示す説明図である。
本例の金属部材の接合方法は、同図(a)に示すような2つの金属部材2を固相状態で接合する金属部材の接合方法、つまり金属接合部材の製造方法である。
そして、同図(b)に示すように、後述する誘電体微粒子配置手段10の一例である噴射ノズルによって誘電体微粒子4を金属部材2の接合面2aに配置する。
次いで、同図(c)に示すように、誘電体微粒子4が接合面2aに配置された金属部材2と他の金属部材2とを、誘電体微粒子4を挟むように配置する。また、これらの金属部材2自体に塑性変形が生じない程度の圧力を矢印Aで示すように付与する。更に、誘電体微粒子4及び金属部材2の接合面2aを加熱するように他の加熱源としてのサセプター50を配置する。更にまた、誘電体微粒子4及び金属部材2の接合面2aを囲う領域50aを非酸化性雰囲気制御手段60の一例であるアルゴンガス供給機によってアルゴンガス流れ雰囲気とする。このような条件下、誘電体微粒子4にミリ波を照射すると、誘電体微粒子が誘電損失熱を発生し、局所加熱される。場合によっては誘電体微粒子が局所溶融する。このようにして、金属部材2の接合面2aが加熱される。なお、配置した他の加熱源としてのサセプター50は金属部材2などからの放熱や輻射若しくはミリ波照射手段(図示せず。)からのミリ波を利用して金属部材2の接合面2aを加熱する。
その結果、同図(d)に示すような2つの金属部材2を固相状態で接合して成る金属接合部材1が得られる。
【0038】
図2は、金属部材と誘電体微粒子の配置状態の一例を示す説明図である。
同図に示すように、誘電体微粒子4が接合面2aに配置された金属部材2と他の金属部材2とが、誘電体微粒子4を挟むように配置されている。
なお、金属部材2には、金属部材2自体に塑性変形が生じない程度の圧力が矢印Aで示すように付与されている。また、誘電体微粒子4には、矢印Bで示すようにミリ波が照射されており、誘電体微粒子4が発生する誘電損失熱によって金属部材2の接合面2aが加熱されている。更に、誘電体微粒子4及び金属部材2の接合面2aを囲う領域50aは、非酸化性雰囲気制御手段60の一例であるアルゴンガス供給機によって矢印Cで示すようにアルゴンガスが供給され、アルゴンガス流れ雰囲気となっている。更にまた、誘電体微粒子4及び金属部材2の接合面2aは、金属部材2などからの放熱や輻射若しくはミリ波照射手段(図示せず。)からのミリ波を利用して加熱するように配置した他の加熱源としてのサセプター50によって加熱されている。
【0039】
次に、本発明の金属部材の接合装置及びこれを用いた金属接合部材の製造方法について詳細に説明する。
本実施形態の金属部材の接合装置は、複数の金属部材を固相状態で接合する金属部材の接合装置であって、誘電体微粒子配置手段と、加圧手段と、ミリ波照射手段とを備えている。
そして、誘電体微粒子配置手段は、金属部材の接合面に誘電体微粒子を配置するものである。
また、加圧手段は、誘電体微粒子が接合面に配置された金属部材と他の金属部材とに、これらの金属部材自体に塑性変形が生じない程度の圧力を付与するものである。
更に、ミリ波照射手段は、誘電体微粒子にミリ波を照射するものである。
【0040】
このような構成とすることにより、誘電体微粒子が発生する誘電損失熱を利用した金属部材の接合面の局所的ないし選択的な加熱が可能となり、複数の金属部材を固相状態で接合することができる。換言すれば、このような金属部材の接合装置を用いることにより、複数の金属部材を固相状態で接合して成る金属接合部材を効率的に得ることができる。
【0041】
ここで、誘電体微粒子配置手段は、金属部材の接合面に誘電体微粒子を配置し得るものであれば、特に限定されるものではないが、例えば誘電体微粒子自体を噴射する噴射ノズルを挙げることができる。また、これに限定されるものではなく、例えば、誘電体微粒子を含むスラリーを塗布するコーター、金属部材の接合面に形成された酸化被膜を研磨し、削り取った金属酸化物の微粒子をそのまま利用する研磨機などを挙げることもできる。
なお、このような誘電体微粒子配置手段は、例えば金属部材の接合面に誘電体微粒子を所定のタイミングで配置することが可能である可動機構を備えたものであることが望ましい。このような構成とすることにより、より効率的な接合が可能となる。
【0042】
また、加圧手段は、誘電体微粒子が接合面に配置された金属部材と他の金属部材とに、これらの金属部材自体に塑性変形が生じない程度の圧力を付与し得るものであれば、特に限定されるものではないが、例えば、従来公知の押し具などを利用することができる。また、この加圧手段はフィーダとしても機能することが望ましいが、接合装置がフィーダを別途備えた構成となっていてもよい。なお、フィーダとしては、例えば、マグネットやバキュームカップまたはクランプ装置を利用するものを挙げることができる。
ここで、「金属部材自体に塑性変形が生じない程度の圧力」とは、適用する金属部材の材質や温度に応じて適宜設定するものであるが、異種材料の金属部材を適用する場合には、塑性変形がより生じやすい金属部材を基準にして圧力を設定することは言うまでもない。
【0043】
更に、ミリ波照射手段は、誘電体微粒子にミリ波を照射し得るものであれば、特に限定されるものではないが、例えば、ミリ波発振機と導波管とミリ波を反射し得る内壁を有する加熱炉とを有するものを挙げることができる。また、ミリ波発振機とミリ波を直接誘電体微粒子に導く導波管とを有するものを挙げることもできる。
なお、このようなミリ波照射手段は、例えば金属部材の接合面に配置された誘電体微粒子に所定のタイミングでミリ波を照射することが可能である可動機構を備えたものであることが、接合における効率の観点から望ましい。
一方、ミリ波照射手段自体が金属部材の接合装置において、固定化されたものであることは、接合装置自体の構造を簡略的なものにできるという観点から望ましい。
【0044】
また、本実施形態の金属部材の接合装置は、誘電体微粒子及び金属部材の接合面を囲うように配置される断熱材を有する断熱手段を更に備えているものであることが望ましい。
また、断熱材としては、例えばアルミナ及びジルコニアの少なくとも一方を用いたものを挙げることができる。更に、その形態については、特に限定されるものではなく、バルク体、繊維集合体など種々の形態のものを用いることができるが、断熱性能の観点からは、アルミナやジルコニアなどの繊維を用いた繊維集合体を用いることが望ましい。
なお、このような断熱手段は、例えば所定の位置への断熱材の配置を所定のタイミングで行うことが可能である可動機構を備えたものであることが望ましい。このような構成とすることにより、より効率的な接合が可能となる。
【0045】
更に、本実施形態の金属部材の接合装置は、誘電体微粒子及び金属部材の接合面を加熱するように配置される他の加熱源としてのサセプターを更に備えているものであることが望ましい。また、サセプターによって補助的な加熱を行うに当たり、接合面を局所的ないし選択的に加熱するためには、サセプターが金属部材を囲う領域が可能な限り少なくなるように設計することが望ましい。更に、接合面を局所的ないし選択的に加熱するためには、サセプターを接合面に可能な限り近づけて配置することも望ましい。また、このようなサセプターとしては、例えばアルミナを用いたものを挙げることができる。更に、その形態については、特に限定されるものではなく、バルク体、繊維集合体など種々の形態のものを用いることができるが、サセプター性能の観点からは、アルミナのバルク体を用いることが望ましい。
なお、このようなサセプターは、例えば所定の位置への配置を所定のタイミングで行うことが可能である可動機構を備えたものであることが望ましい。このような構成とすることにより、より効率的な接合が可能となる。
【0046】
また、本実施形態の金属部材の接合装置は、誘電体微粒子及び金属部材の接合面を囲うように配置される断熱材を有する断熱手段と、誘電体微粒子及び金属部材の接合面を加熱するように配置される他の加熱源としてのサセプターとを更に備えているものであることが望ましい。
このような金属部材の接合装置の具体例としては、誘電体微粒子及び金属部材の接合面を囲うように配置される断熱材を有する断熱手段と、断熱材に囲われた領域内に誘電体微粒子及び金属部材の接合面を加熱するように配置される他の加熱源としてのサセプターとを更に備えているものを挙げることができる。このような構成とすることにより、より効率的な接合が可能となる。
【0047】
更に、本実施形態の金属部材の接合装置は、誘電体微粒子及び金属部材の接合面を囲う領域を非酸化性雰囲気とする非酸化性雰囲気制御手段を更に備えているものであることが望ましい。
ここで、「非酸化性雰囲気」とは、上述したように通常の大気組成と同じ大気雰囲気よりも各種金属部材が酸化されにくい雰囲気を意味する。
【0048】
このような非酸化性雰囲気制御手段としては、例えば作業領域全体を真空雰囲気、アルゴンガス雰囲気若しくは窒素ガス雰囲気とするものを挙げることができる。
非酸化性雰囲気制御手段の具体例としては、加熱炉内を真空雰囲気とする真空ポンプや、例えば加熱炉内をアルゴンガス(又は窒素ガス)雰囲気とするアルゴンガス(又は窒素ガス)置換機などを挙げることができる。なお、アルゴンガス(又は窒素ガス)置換機は、例えば真空ポンプ及びアルゴンガス(又は窒素ガス)供給機によって構成させることができる。このような構成を有する接合装置は、接合装置自体の構造を簡略的なものにできるという観点から望ましい。このような非酸化性雰囲気制御手段を用いると金属部材の酸化を抑制することができる。
【0049】
また、このような非酸化性雰囲気制御手段としては、例えば作業領域のうち誘電体微粒子及び金属部材の接合面を囲う領域を含む一部にアルゴンガス若しくは窒素ガスを供給するものを適用することもできる。このように、作業領域のうち誘電体微粒子及び金属部材の接合面を囲う領域を含む一部にアルゴンガス若しくは窒素ガスを供給する構成とすることにより、より効率的な接合が可能となる。
つまり、このようなアルゴンガス等を供給するものは、供給ガスの流し方や温度を適宜調整することにより、更に効率的な接合を可能とする。具体的には、金属部材の接合面から離れた低温側からアルゴンガス等を供給することにより、金属部材の接合面の局所的ないし選択的な加熱を調整し易くなり、更に接合面における加熱を均一なものとすることができ、熱暴走を抑制することができる。もちろん、このような非酸化性雰囲気制御手段を用いても金属部材の酸化を抑制することができる。
【0050】
なお、適用可能な金属部材としては、例えばアルミニウム、炭素鋼(例えば、S45Cなどの低炭素鋼)、チタンなどを挙げることができる。しかしながら、これらに限定されるものではなく、例えば、アルミニウム合金やチタン合金、マグネシウム合金などの金属部材を適用することもできる。
ここで、「金属部材」とは、いわゆる金属材料のみからなる金属部材のみを意味するものではない。すなわち、例えばセラミックや金属、プラスチックなどの材料から構成されたモジュール(例えば、車両においては、電装品や内装品、外装品を挙げることができる。)に付属した継ぎ手用の金属部材をも意味する。
【0051】
また、適用可能な他の金属部材としては、上記金属部材と同様に、例えばアルミニウム、炭素鋼(例えば、S45Cなどの低炭素鋼)、チタンなどを挙げることができるが、これらに限定されるものではない。すなわち、例えば、アルミニウム合金やチタン合金、マグネシウム合金などについても適用することができる。
また、他の金属部材についても、上記金属部材と同様に、いわゆる金属材料のみからなる金属部材だけでなく、モジュールに付属した継ぎ手用の金属部材をも含む意味に解釈しなければならない。
更に、上記金属部材と他の金属部材とは、同種材料及び異種材料のいずれであってもよい。更にまた、他の金属部材の接合面にも誘電体微粒子を配置するようにしてもよい。
【0052】
また、適用可能な誘電体微粒子としては、例えば金属酸化物、金属窒化物、金属炭化物、金属硼化物、炭素などの微粒子を挙げることができるが、これらに限定されるものではない。すなわち、ホウケイ酸ガラスのようなガラスの微粒子を適用することもできる。また、上記微粒子は単独で又は2種以上を混合して用いることができる。
【0053】
金属酸化物の具体例としては、アルミナ(Al)、酸化鉄(Fe)などを挙げることができる。また、金属窒化物の具体例としては、窒化アルミニウム(AlN)を挙げることができる。更に、金属炭化物としては、炭化チタン(TiC)を挙げることができる。また、金属硼化物の具体例としては、硼化チタン(TiB)を挙げることができる。更にまた、炭素の具体例としては、黒鉛(C)を挙げることができる。
なお、本発明における「金属酸化物の微粒子」とは、金属酸化物のみからなる微粒子だけを意味するものではない。すなわち、金属酸化物のみからなる微粒子と同様の効果を示す限り、金属微粒子の表面が酸化されたもの、つまり酸化被膜を有する金属微粒子をも含むという意味に解釈しなければならない。酸化被膜を有する金属微粒子の具体例としては、酸化被膜を有するアルミニウム微粒子や鉄微粒子などを挙げることができる。
【0054】
また、誘電体微粒子は、その平均粒子径が500μm以下であることが好ましく、10μm以下であることがより好ましく、5μm以下であることが更に好ましい。誘電体微粒子の平均粒子径が500μm以下であると、金属部材の接合面における加熱促進効果が大きくなり、更に平均粒子径が小さくなるとその効果が大きくなるためである。
一方、誘電体微粒子の平均粒子径は200nm以上であることが好ましく、250nm以上であることがより好ましく、300nm以上であることが更に好ましい。誘電体微粒子の平均粒子径が200nm以上であると、誘電体微粒子の凝集がより起こりにくくなり、一体品の機械的強度と同程度の機械的強度とすることがより容易になる。
【0055】
なお、誘電体微粒子の平均粒子径が10μm以下であると加熱促進効果が更に著しく大きくなるメカニズムは現時点では定かではないが、微粒子におけるネッキングの形成によって、ネックに電界が集中し、更に誘電損失熱の発生が促進されたためであると考えている。
但し、上記のメカニズムはあくまでも推測に基づくものである。従って、上記のメカニズム以外のメカニズムにより上述のような効果が得られていたとしても、本発明の範囲に含まれることは言うまでもない。
【0056】
ここで、本実施形態の金属部材の接合装置の具体例について図面を参照しながら更に詳細に説明する。
図3は、本発明の一実施形態に係る金属部材の接合装置の一例を示す概略構成図である。なお、同図はミリ波照射時の様子を表している。
同図に示すように、本例の金属部材の接合装置は、誘電体微粒子配置手段10の一例である噴射ノズルと、加圧手段20の一例である押し具と、ミリ波照射手段30と、断熱手段40と、サセプター50と、非酸化性雰囲気制御手段60の一例であるアルゴンガス供給機とを備えている。
ここで、ミリ波照射手段30は、ミリ波発振機32と導波管34とミリ波を反射し得る内壁を有する加熱炉36とを有する。
また、断熱手段40は、断熱材としてアルミナ及びジルコニアを用いたものである。更に、サセプター50は、アルミナを用いたものである。
なお、双方にアルミナを用いた場合でも、誘電体微粒子のより近くに配置されたアルミナの方がサセプターとして機能し易い。
【0057】
このような接合装置において、加熱炉36内の設置台22の上に、噴射ノズルによって接合面に誘電体微粒子4が配置された金属部材2と他の金属部材2とが、誘電体微粒子4を挟むように配置された状態で配置される。そして、金属部材2は、押し具20により金属部材2自体に塑性変形が生じない程度の圧力を付与される。更に、サセプター50、断熱手段40及びアルゴンガス供給機とが所定の位置に配置され、誘電体微粒子4及び金属部材2の接合面を囲う領域50aが断熱され、更に誘電体微粒子4及び金属部材2の接合面を囲う領域50aにアルゴンガスが供給されて非酸化性雰囲気とされる。
このような条件下、ミリ波発振機でミリ波を発生させると、導波管34を通ったミリ波が加熱炉36内に導入される。加熱炉36内のミリ波は、加熱炉36の内壁で反射するなどして、誘電体微粒子に到達する。そして、誘電体微粒子4は誘電損失熱を発生させ、金属部材2の接合面が局所的ないし選択的に加熱される。また、このとき、サセプター50は、金属部材2、誘電体微粒子4などからの放熱や輻射若しくはミリ波発振機32からのミリ波によって加熱をすることができるようになる。
【0058】
図4は、本発明の一実施形態に係る金属部材の接合装置の他の例を示す概略構成図である。なお、同図はミリ波照射時の様子を表している。また、上記図3の例において説明したものと同等のものについては、それらと同一の符号を付して説明を省略する。
図4に示すように、本例の金属部材の接合装置は、加熱炉36が金属部材2の全体を囲んでいない点、誘電体微粒子4にミリ波を直接照射できる位置に導波管34が配置されている点において相違点を有している。
本例の金属部材の接合装置においては、誘電体微粒子4へのミリ波の照射を可能な限り直接的なものとして、接合における効率を向上させている。また、加熱炉36を小型化することによって、雰囲気や温度、ミリ波を制御する領域が小さくなり、その制御が容易になる。また、小型化した加熱炉36は、サセプター50や断熱手段40などと同様に、所定の位置への加熱炉構成部材の配置を所定のタイミングで行うことが可能である可動機構を備えたものであることが望ましい。このような構成とすることにより、より効率的な接合が可能となる。
具体的には、少なくとも一方の金属部材が、セラミックや金属、プラスチックなどの他の材料から構成されたモジュール(例えば、車両においては、電装品や内装品、外装品を挙げることができる。)に付属した継ぎ手用の金属部材である場合には、接合の際のミリ波や熱がモジュールに到達することを防ぎながら、金属部材同士を接合装置に供することができるため、効率的な接合が可能となる。
なお、上記図3で示した例と比較して、誘電体微粒子配置手段10や非酸化性雰囲気制御手段60の一例であるアルゴンガス供給機の位置が若干異なるが、これらの仕様は適宜変更できる。
また、図示していないが、本例の金属部材の接合装置においては、加熱炉外の金属部材を断熱材などにより断熱することが望ましい。
【実施例】
【0059】
以下、本発明を実施例及び比較例により更に詳細に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0060】
(実施例1)
金属部材として純アルミニウム(純度:99.99%)の丸棒試験片(直径5mm×長さ15mm)及び丸棒試験片(直径10mm×長さ25mm)を用い、導電体微粒子として金属酸化物の一例であるアルミナ微粒子(平均粒子径:3μm)を用いた。
更に、これらを図2に示すように配置して、図3に示すような金属部材の接合装置に配置して、5MPaの圧力を付与し、アルゴンガスを供給しながら、ミリ波(出力:2.5kW、周波数24GHz)を30分間照射して、金属接合部材を得た。
本例の仕様や条件の一部を表1に示す。
【0061】
(実施例2〜実施例7)
表1に示すように、仕様や条件を代えたこと以外は、実施例1と同様の操作を繰り返して、金属接合部材を得た。
【0062】
(比較例1)
表1に示すように、誘電体微粒子を用いなかったこと以外は、実施例1と同様の操作を繰り返して、金属接合部材を得た。
【0063】
(比較例2)
表1に示すように、ミリ波でなくマイクロ波(出力:1kW、周波数2.45GHz)を照射したこと以外は、実施例1と同様の操作を繰り返した。なお、本例においては、金属接合部材が得られなかった。
【0064】
【表1】

【0065】
[評価試験]
上記各例で得られた金属接合部材を、下記の3つの評価試験によって評価した。得られた結果を表1に併記する。
【0066】
(接合可否評価試験)
接合の可否を目視により評価した。表1中の「接合可否評価」において、「○」は接合したものを示し、「×」は接合しなかったものを示す。
【0067】
(歪評価試験)
金属接合部材の全長をノギスで計測し、初期長さ(接合前の複数の金属部材における、金属接合部材の全長に対応する部位の長さの総和)との差から歪量を算出することにより評価した。表1中の「歪評価」において、「○」は歪量が1%未満であったものを示し、「×」は歪量が1%以上であったものを示す。なお、比較例2は接合できなかったため、歪評価試験をしていない。
【0068】
(熱影響部評価試験)
金属接合部材の結合界面に対してほぼ垂直に切断して得られた断面をエッチングした後、光学顕微鏡で観察して、その組織変化の程度を評価した。表1中の「熱影響部評価」において、「○」は結晶粒の粗大化が認められる熱影響部と結晶粒の粗大化が認められない非熱影響部との界面が結合界面から200μm未満であった(結合界面から200μm離れた領域では結晶粒の粗大化が認められなかった)ものを示し、「×」は前記熱影響部と前記非熱影響部との界面が結合界面から200μm以上であった(結合界面から200μm離れた領域で結晶粒の粗大化が認められた)ものを示す。
なお、比較例2は接合できなかったため、熱影響部評価試験をしていない。
【0069】
本発明の範囲に含まれる実施例1〜7においては、ミリ波とその照射によって誘電損失熱を生じる誘電体微粒子とを組み合わせて利用したため、接合面の局所的ないし選択的な加熱が実現できた。一方、本発明外の比較例1及び2においては、ミリ波とその照射によって誘電損失熱を生じる誘電体微粒子とを組み合わせて利用しなかったため、接合面の局所的ないし選択的な加熱が実現できなかった。
これは、表1の結果からも分かる。すなわち、実施例1〜7において得られた金属接合部材は、比較例1において得られた金属接合部材と比較して、歪量が低く、熱影響部が小さいものとなっている。
また、比較例1のように金属部材表面の酸化物の発熱のみを利用している場合は、ミリ波の出力が2.5kWのように比較的高いと、局所的ないし選択的な加熱が十分にできないことも分かる。なお、特に示してはないが、比較例1と同様に、金属部材表面の酸化物の発熱のみを利用した場合は、ミリ波の出力を1kWのように比較的低くした場合には、接合に必要な十分な加熱ができなかった。
更に、比較例2のようにアーク放電が生じないようにマイクロ波の出力を1kWに設定した場合は、誘電体微粒子を用いても接合面の局所的ないし選択的な加熱が実現できなかった。
【0070】
なお、現時点において、このような接合におけるメカニズムは十分に明らかになっていないが、例えば、金属部材の接合に際して、アルゴンガス流れ雰囲気下、ミリ波を照射すると、誘電体微粒子自体から誘電損失熱が発生して、誘電体微粒子が活性状態となり、誘電体微粒子を構成する元素の消失(雰囲気中への拡散)や拡散(金属部材中への拡散)などが促進されて、金属部材同士が接合するというメカニズムが考えられる。
また、誘電体微粒子が、誘電体のバルク体や箔などと比較して、ミリ波が内部まで到達し易く、活性状態となり易いため、誘電損失熱が発生し易いということも考えられる。
更に、誘電体微粒子自体から発生する誘電損失熱によって、誘電体微粒子間にネッキングの形成がされ、ネックに電界が集中し、更に誘電損失熱の発生が促進されて、金属部材同士が接合するというメカニズムも考えられる。もちろん、これらが複合的に進行していることも考えられる。
但し、上記のメカニズムはあくまでも推測に基づくものである。従って、上記のメカニズム以外のメカニズムにより上述のような効果が得られていたとしても、本発明の範囲に含まれることは言うまでもない。
また、実施例2において用いた酸化鉄については、非酸化性雰囲気下、ミリ波を照射すると還元されて鉄になることが確認されており、これは酸化鉄自体から発生する誘電損失熱によって、酸化鉄を構成する酸素が雰囲気中に消失していったためと推測される。
【0071】
また、断熱材(材質:アルミナ、ジルコニア、形態:バルク体、繊維集合体)を用いた断熱手段によって断熱することにより、金属部材などからの放熱を抑制でき、金属部材の接合面の温度制御をより効果的に行うことができた。
【0072】
更に、断熱材より接合面近傍に配置された他の加熱源としてのサセプター(材質:アルミナ、バルク体)を用いて加熱することによって、金属部材の接合面の温度制御を更に効果的に行うことができた。
【0073】
更にまた、誘電体微粒子及び金属部材の接合面を囲う領域を含む一部をアルゴンガス供給機によってアルゴンガス流れ雰囲気とすることにより、金属部材の接合面の温度制御を更に効果的に行うことができた。具体的には、金属部材の接合面から離れた低温側からアルゴンガス等を供給することにより、金属部材の接合面の局所的ないし選択的な加熱を調整し易くなり、更に接合面における加熱を均一なものとすることができ、熱暴走を抑制することができた。また、金属部材の酸化を抑制することもできた。
【0074】
以上、本発明を若干の実施形態及び実施例によって説明したが、本発明はこれらに限定されるものではなく、本発明の要旨の範囲内で種々の変形が可能である。
【0075】
例えば、上記の実施形態及び実施例では、2つの金属部材(金属材料のみからなる。)を固相状態で接合する場合について説明したが、3つ以上の金属部材を固相状態で接合する場合についても、本発明を適用することができる。
【0076】
また、例えば、上記実施形態及び実施例では、金属部材(金属材料のみからなる。)を固相状態で接合する場合について説明したが、金属部材(金属材料のみからなる。)とモジュールに付属した継ぎ手用の金属部材とを固相状態で接合する場合や、モジュールに付属した継ぎ手用の金属部材同士を固相状態で接合する場合についても、本発明を適用することができる。
【符号の説明】
【0077】
1 金属接合部材
2 金属部材
2a 接合面
4 誘電体微粒子
10 誘電体微粒子配置手段
20 加圧手段
22 設置台
30 ミリ波照射手段
32 ミリ波発振機
34 導波管
36 加熱炉
40 断熱手段
50 サセプター
60 非酸化性雰囲気制御手段


【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の金属部材を固相状態で接合する金属部材の接合方法であって、
金属部材の接合面に誘電体微粒子を配置する工程(1)と、
上記工程(1)の後に実施され、上記誘電体微粒子が接合面に配置された上記金属部材と他の金属部材とを、該誘電体微粒子を挟むように配置し、これらの金属部材自体に塑性変形が生じない程度の圧力を付与する条件下、該誘電体微粒子にミリ波を照射して、これらの金属部材の接合面を加熱する工程(2)と、を含む
ことを特徴とする金属部材の接合方法。
【請求項2】
上記誘電体微粒子が、金属酸化物、金属窒化物、金属炭化物、金属硼化物及び炭素からなる群より選ばれる少なくとも1種の微粒子であることを特徴とする請求項1に記載の金属部材の接合方法。
【請求項3】
上記工程(2)において、上記誘電体微粒子にミリ波を照射して、これらの金属部材の接合面を加熱する際に、更に上記誘電体微粒子及び上記金属部材の接合面を囲うように配置した断熱材によって断熱する条件下とすることを特徴とする請求項1又は2に記載の金属部材の接合方法。
【請求項4】
上記工程(2)において、上記誘電体微粒子にミリ波を照射して、これらの金属部材の接合面を加熱する際に、更に上記誘電体微粒子及び上記金属部材の接合面を加熱するように配置した他の加熱源としてのサセプターによって加熱する条件下とすることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1つの項に記載の金属部材の接合方法。
【請求項5】
上記工程(2)において、上記誘電体微粒子にミリ波を照射して、これらの金属部材の接合面を加熱する際に、更に上記誘電体微粒子及び上記金属部材の接合面を囲うように配置した断熱材によって断熱し、上記断熱材に囲われた領域内に上記誘電体微粒子及び上記金属部材の接合面を加熱するように配置した他の加熱源としてのサセプターによって加熱する条件下とすることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1つの項に記載の金属部材の接合方法。
【請求項6】
上記断熱材が、アルミナ及びジルコニアの少なくとも一方を用いたものであることを特徴とする請求項3〜5のいずれか1つの項に記載の金属部材の接合方法。
【請求項7】
上記サセプターが、アルミナを用いたものであることを特徴とする請求項4〜6のいずれか1つの項に記載の金属部材の接合方法。
【請求項8】
上記工程(2)において、上記誘電体微粒子にミリ波を照射して、これらの金属部材の接合面を加熱する際に、更に上記誘電体微粒子及び上記金属部材の接合面を囲う領域を非酸化性雰囲気とする条件下とすることを特徴とする請求項1〜7のいずれか1つの項に記載の金属部材の接合方法。
【請求項9】
上記誘電体微粒子及び上記金属部材の接合面を囲う領域を非酸化性雰囲気とする際に、作業領域全体を真空雰囲気、アルゴンガス雰囲気若しくは窒素ガス雰囲気とする、又は作業領域のうち上記誘電体微粒子及び上記金属部材の接合面を囲う領域を含む一部をアルゴンガス流れ雰囲気若しくは窒素ガス流れ雰囲気とすることを特徴とする請求項8に記載の金属部材の接合方法。
【請求項10】
上記ミリ波が、周波数帯が20GHz〜300GHzのミリ波であることを特徴とする請求項1〜9のいずれか1つの項に記載の金属部材の接合方法。
【請求項11】
複数の金属部材を固相状態で接合する金属部材の接合装置であって、
金属部材の接合面に誘電体微粒子を配置する誘電体微粒子配置手段と、
上記誘電体微粒子が接合面に配置された上記金属部材と他の金属部材とに、これらの金属部材自体に塑性変形が生じない程度の圧力を付与する加圧手段と、
上記誘電体微粒子にミリ波を照射するミリ波照射手段と、を備えた
ことを特徴とする金属部材の接合装置。
【請求項12】
上記誘電体微粒子が、金属酸化物、金属窒化物、金属炭化物、金属硼化物及び炭素からなる群より選ばれる少なくとも1種の微粒子であることを特徴とする請求項11に記載の金属部材の接合装置。
【請求項13】
上記誘電体微粒子及び上記金属部材の接合面を囲うように配置される断熱材を有する断熱手段を更に備えたことを特徴とする請求項11又は12に記載の金属部材の接合装置。
【請求項14】
上記誘電体微粒子及び上記金属部材の接合面を加熱するように配置される他の加熱源としてのサセプターを更に備えたことを特徴とする請求項11〜13のいずれか1つの項に記載の金属部材の接合装置。
【請求項15】
上記誘電体微粒子及び上記金属部材の接合面を囲うように配置される断熱材を有する断熱手段と、上記断熱材に囲われた領域内に上記誘電体微粒子及び上記金属部材の接合面を加熱するように配置される他の加熱源としてのサセプターとを更に備えたことを特徴とする請求項11〜14のいずれか1つの項に記載の金属部材の接合装置。
【請求項16】
上記断熱材が、アルミナ及びジルコニアの少なくとも一方を用いたものであることを特徴とする請求項13〜15のいずれか1つの項に記載の金属部材の接合装置。
【請求項17】
上記サセプターが、アルミナを用いたものであることを特徴とする請求項14〜16のいずれか1つの項に記載の金属部材の接合装置。
【請求項18】
上記誘電体微粒子及び上記金属部材の接合面を囲う領域を非酸化性雰囲気とする非酸化性雰囲気制御手段を更に備えたことを特徴とする請求項11〜17のいずれか1つの項に記載の金属部材の接合装置。
【請求項19】
上記非酸化性雰囲気制御手段が、作業領域全体を真空雰囲気、アルゴンガス雰囲気若しくは窒素ガス雰囲気とするものである、又は作業領域のうち上記誘電体微粒子及び上記金属部材の接合面を囲う領域を含む一部にアルゴンガス若しくは窒素ガスを供給するものであることを特徴とする請求項18に記載の金属部材の接合装置。
【請求項20】
上記ミリ波が、周波数帯が20GHz〜300GHzのミリ波であることを特徴とする請求項11〜19のいずれか1つの項に記載の金属部材の接合装置。
【請求項21】
請求項1〜10のいずれか1つの項に記載の金属部材の接合方法又は請求項11〜20のいずれか1つの項に記載の金属部材の接合装置を用いたことを特徴とする金属接合部材の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2011−121096(P2011−121096A)
【公開日】平成23年6月23日(2011.6.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−281535(P2009−281535)
【出願日】平成21年12月11日(2009.12.11)
【出願人】(000003997)日産自動車株式会社 (16,386)
【出願人】(504145320)国立大学法人福井大学 (287)
【Fターム(参考)】