説明

金属部材の接合方法

【課題】金属部材同士の接合部、特にその接合部の表面近傍の酸化物の残留を抑制し、高剛性かつ軽量な金属部材の接合体を製造することができる金属部材の接合方法を提供する。
【解決手段】第1の鋼材11と第2の鋼材12とNi基インサート材13を準備する第1の工程と、第1の鋼材11と第2の鋼材12の接合面の間にNi基インサート材13を介在させる第2の工程と、第1の鋼材11と第2の鋼材12の接合面同士を押圧しながら、Ni基インサート材13を加熱する第3の工程からなり、第3の工程において、接合面の押圧方向に延びる回転軸L1を中心として、第1の鋼材11と第2の鋼材12を同期して回転させ、接合部に存在する酸化物14を、接合部の回転軸L1方向および外側方向の少なくともいずれか一方へ泳動させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属部材の接合方法に関し、特に、液相拡散接合を用いた金属部材の接合方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、たとえばドライブシャフトやプロペラシャフト等は原動機からの動力伝達の為に必須の部品であり、非常に大きな応力に耐え得る母材強度と接合強度が要求されることから、自動車部品の中でも特に丈夫な材質や構造で製造される部品の一種である。
【0003】
ところで、近年、自動車産業においては、燃費向上の要求や排ガス規制の強化から、自動車部品の一層の小型化、軽量化、高性能化を目指した開発が自動車メーカー各社、自動車関連メーカー各社で日々進められている。
【0004】
たとえばプロペラシャフトにおいては、炭素繊維強化プラスチックを採用する等、材質面からのアプローチによる母材強度の向上と軽量化の両立が図られている。その一方で、構造面からのアプローチによる軽量化も進められており、その一例としては、たとえばプロペラシャフトのような筒状部材の薄肉化、ドライブシャフトやクランクシャフトのような中実部材の中空化等が挙げられる。
【0005】
しかしながら、たとえば中実部材を中空化したり薄肉化したりすると、部材同士の接合面積が減少し、接合強度を十分に確保できなくなり、その接合部の強度が低下してしまう可能性がある。そこで、小さい接合面積であっても接合強度を確保できる接合方法の開発が望まれている。
【0006】
このような材料同士の接合方法として液相拡散接合を挙げることができる。この液相拡散接合は固相接合法の一種と考えられており、接合しようとする材料の間に、箔、粉末、メッキ等の形態であって被接合部材よりも融点が低い共晶組成の合金を介在させて、その材料を加圧しながら、合金(以下、「インサート材」という)の融点温度以上に接合部を加熱する接合方法である。この液相拡散接合によれば、合金を溶解させて等温凝固させることで、ビードや圧接カールの発生を抑止しながら材料同士を接合できると共に、比較的低い加圧力で接合できることから、接合による残留応力や変形を極力避けることができ、たとえば溶接の困難な高合金鋼や耐熱鋼の接合にも適用できる。さらに、等温凝固に必要な元素の相互拡散が極めて早いことから、接合時間の短縮を図ることもできる。
【0007】
このような液相拡散接合に関する従来の公開技術が、以下の特許文献1〜4に開示されている。
【0008】
特許文献1には、インサート材組成の観点から、クロムやゲルマニウム等を所定量含有するニッケル(Ni)基インサート材を使用して真空中で液相拡散接合を行う金属部材の接合方法が開示されている。
【0009】
また、特許文献2には、バナジウム(V)を含有するインサート材を使用することで、接合時の溶融したインサート材の内部に低融点の複合酸化物(V)を形成し、接合時の押圧によってその複合酸化物を液体酸化物として接合部の外部に排出する被接合部材の接合方法が開示されている。また、特許文献2には、この複合酸化物(V)を効率的にインサート材の外部に泳動排出するために、一度開先を保持するのに十分な、接合応力よりも相対的に低い応力を被接合部材に負荷し、溶融したインサート材が開先面の凹凸を化学反応で十分に平滑化した後に、必要な接合応力を被接合部材に負荷することが開示されている。
【0010】
また、特許文献3には、アモルファス合金のインサート材を使用し、そのインサート材が溶融した段階で、一方の被接合部材を固定した姿勢で他方の被接合部材を回転させ、接合部に残留する不純物やボイド(空孔)を外部に押し出すことで、接合部に残留するボイド(空孔)や不純物の欠陥を抑制する被接合部材の接合方法が開示されている。
【0011】
さらに、特許文献4には、インサート材を溶融させると共に金属部材間に相対すべりを発生させ、金属部材の接合面に形成された酸化皮膜を破壊して金属部材表面を露呈させることで、不純物の無い高品質な接合面を形成して接合強度の向上を図る金属部材の接合方法が開示されている。
【0012】
ところで、2つの被接合部材が接合された接合体に曲げモーメントが作用すると、接合部内側と比較して接合部外側の応力が相対的に大きくなることが知られている。すなわち、図5で示すように、金属部材Aと金属部材Bが接合部Cで接合され、その接合体Dに図示する曲げモーメントMが作用した場合には、接合体Dの表面近傍で大きな引張応力と圧縮応力が発生する一方で、その接合体Dの軸線L近傍では僅かな応力しか発生しない。また、たとえば図5で示す接合体Dに対して軸線Lを捩れ中心とした捩れが作用する場合には、接合体Dの表面近傍に発生する剪断応力が、接合体Dの軸線付近の剪断応力に比して相対的に大きくなることも知られている。
【0013】
このように、一般に被接合部材同士の接合部においては表面近傍に発生する応力が大きくなり、当該部位で破損や亀裂が発生する可能性が高いことから、主として曲げや捩りが作用する接合体においては、特に接合部の表面近傍における不純物を排除して高品質な接合部を形成する必要がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0014】
【特許文献1】特公平03−13953号公報
【特許文献2】特開平11−285860号公報
【特許文献3】特開平04−319080号公報
【特許文献4】特開2009−226454号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
特許文献1に開示されている接合方法においては、インサート材の組成によって接合部の酸化物の形成を抑制して、比較的高い接合強度を備えた接合体を得ることができるものの、酸化物の形成を完全に抑制することはできない。そのため、酸化物が接合部に略均一に分布することとなり、曲げ耐性や捩り剛性に優れた接合体を製造することができない。さらに、特許文献1に開示の接合方法においては、真空中で被接合部材が接合されることが前提となっていることから、仮に酸化雰囲気下で接合した場合には、より多くの酸化物が接合部に形成され、接合強度の高い接合体を簡便に製造することができないという問題もある。
【0016】
また、特許文献2に開示されている接合方法においては、酸化物自体を低融点化することで、酸化物を液体酸化物として溶融したインサート材内部を泳動させ、接合部の外部に排出することが可能となり、酸化雰囲気下であっても接合部における酸化物の残留を抑制することができる。しかしながら、特に大きな径を備えた被接合部材を接合する場合には、接合時の押圧力のみで確実に複合酸化物(V)を接合部の外部に排出することは困難である。また、バナジウム(V)を含有したインサート材は、他のインサート材と比較して融点が高いことから、インサート材を溶融するための加熱温度を高める必要があり、製造コストの高騰に繋がるという問題もある。
【0017】
また、特許文献3に開示されている接合方法において、例えば大きな径を備えた被接合部材を高周波加熱を用いて接合する場合、径方向に温度分布が生じて接合部の中心付近よりも表面側で先に等温凝固が完了するため、一方の被接合部材の回転のみでは接合部内部に残留する不純物をその外部へ確実に排出することができない。また、接合部の表面側の等温凝固が完了した後に、一方の被接合部材を他方の被接合部材に対して相対的に回転し続けて不純物を排出しようとすると、その等温凝固後の表面付近の接合層を破壊し、逆に接合強度が低下してしまう。
【0018】
さらに、特許文献4に開示されている接合方法においては、接合される金属部材に対するインサート材の拡散が可能となるものの、接合部には依然として金属部材表面から剥ぎ取られた酸化物が残留しており、接合強度を高めることができないという問題がある。
【0019】
本発明は前記問題に鑑みてなされたものであり、金属部材同士の接合部における酸化物の残留を抑制し、高剛性かつ軽量な金属部材の接合体を製造することのできる金属部材の接合方法を提供することを目的としている。また、接合部の表面近傍に残留し得る酸化物を効果的に排除して、優れた曲げ剛性や捩れ剛性を備えた金属部材の接合体を製造することのできる金属部材の接合方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0020】
前記目的を達成すべく、本発明に係る金属部材の接合方法の一実施の形態は、液相拡散接合による金属部材の接合方法であって、第1の融点を備えた第1の金属部材と、第2の融点を備えた第2の金属部材と、前記第1および第2の融点よりも相対的に低い第3の融点を備えたインサート材を準備する第1の工程と、前記第1の金属部材の接合面と前記第2の金属部材の接合面との間に前記インサート材を介在させる第2の工程と、前記第1の金属部材と前記第2の金属部材の接合面同士を押圧しながら、前記第3の融点よりも相対的に高く、前記第1および第2の融点よりも相対的に低い温度で少なくとも前記インサート材を加熱する第3の工程からなり、前記第3の工程において、接合面の押圧方向に延びる回転軸を中心として、前記第1および第2の金属部材を同期して回転させることで、該第1および第2の金属部材の接合部に存在する酸化物を、該接合部の回転軸方向および外側方向の少なくともいずれか一方へ泳動させるものである。
【0021】
ここで、上記する第3の工程において、加熱により溶融したインサート材の内部(接合部)に形成される酸化物としては、主としてインサート材を組成する元素と外部環境の酸素が結合した酸化物や、接合前の双方の金属部材表面に形成された酸化膜から溶融したインサート材に溶け出した酸化物等が挙げられる。
【0022】
上記する形態によれば、第3の工程において、インサート材が加熱され、そのインサート材が溶融すると、その溶融したインサート材は接合面同士の押圧力によって接合部の外部へ排出される。それと同時に、溶融したインサート材内部に形成された酸化物も接合部の外部へ排出されることとなる。さらに、第1の金属部材と第2の金属部材が同期して回転されることで、溶融したインサート材やその内部の酸化物に遠心力が作用し、金属部材の接合に不要なインサート材と共にその内部の酸化物も接合部の外側へ排出される。すなわち、接着面同士の押圧力と遠心力の相乗効果によって、接合部に存在する酸化物を効果的に接合部の外部へ排出することができる。
【0023】
また、一般に、溶融したインサート材内部の酸化物は、溶融したインサート材の溶融合金よりも相対的に比重が小さいことが知られている。したがって、酸化物が接合部に残留する場合には、比重の大きな溶融合金が回転中心から外側方向へ泳動され、それに対して比重の小さい酸化物がその回転中心方向へ泳動される。すなわち、接合部に存在する酸化物が回転中心近傍に凝集し、接合部の表面近傍においては不純物である酸化物が排除される。さらに、第1の金属部材と第2の金属部材を同期して回転することで、回転中に接合部の等温凝固が開始したとしても、凝固した接合部を破壊することなく、第1の金属部材と第2の金属部材を接合することができる。なお、既述する押圧力や遠心力によって酸化物が接合部の外部に排出される前に接合部表面が等温凝固した場合には、溶融したインサート材内部に存在する酸化物を、その回転中心方向へ集中的に凝集させることもできる。
【0024】
このように、接合時に金属部材同士を同期して回転させることで、接合部への酸化物の残留を抑制して高品質な接合部を形成することができ、接合部の接合強度を高めることができる。特に、接合部の表面近傍の酸化物を効果的に排除できることから、優れた曲げ剛性と捩り剛性を備えた接合体を製造することができる。
【0025】
なお、第3の工程における第1の金属と第2の金属の回転軸は、接合面の押圧方向に延びる軸であればよく、たとえば、金属部材の軸心や、製造される接合体の曲げ中心等の第1の金属部材や第2の金属部材の軸心から偏心した位置にある軸等を挙げることができる。
【0026】
また、本発明における接合面の加熱方法としては、たとえば高周波誘導加熱や通電加熱、電熱ヒーターによる加熱方法等を挙げることができ、特に、高周波誘導加熱による加熱方法によれば、短時間に被接合面を局部的に加熱することができる。また、加熱部位としては、インサート材と共に双方の金属部材の接合面を加熱する形態、双方の金属部材全体を加熱する形態、さらにインサート材と双方の金属部材を高温環境下に配置してその全体を加熱する形態等を適用できる。
【0027】
また、本発明に係る金属部材の接合方法の好ましい実施の形態は、前記第3の工程において、前記インサート材が溶融した後、前記第1の金属部材と前記第2の金属部材を回転させるものである。
【0028】
上記する形態によれば、たとえば高周波誘導加熱や通電加熱、電熱ヒーターによる加熱等によって予めインサート材を溶融した後、第1の金属部材と第2の金属部材を同期して回転させることができ、接合方法を簡素化して製造コストを抑制することできる。
【0029】
また、本発明に係る金属部材の接合方法の好ましい実施の形態は、前記第3の工程が酸化雰囲気下で実施されるものである。
【0030】
既述するように、液相拡散接合においては、金属部材の接合強度の低下の要因となる酸化物の形成と接合部におけるその酸化物の残留を抑制するために、たとえば真空中や不活性ガス雰囲気下、還元ガス雰囲気下で金属部材の接合が行われることが一般的である。
【0031】
しかしながら、上記する形態によれば、第3の工程において、第1の金属部材と第2の金属部材を同期して回転させ、その接合部、特にその接合部の表面近傍の酸化物の残留を抑制できることから、酸化雰囲気下であっても接合強度の高い接合体を製造することができる。したがって、接合時の環境を真空や不活性ガス雰囲気等にするための追加の工程が不要となり、接合方法を一層簡素化することができ、生産性を向上して製造コストをさらに抑制することができる。
【発明の効果】
【0032】
以上の説明から理解できるように、本発明の金属部材の接合方法によれば、金属部材同士の接合部における酸化物の残留を抑制して、接合部の接合強度を高めることができ、高剛性かつ軽量な金属部材の接合体を提供することができ、以って車両全体の軽量化を実現することができる。また、接合部の表面近傍に残留し得る酸化物を効果的に排除することができ、優れた曲げ剛性や捩れ剛性を備えた金属部材の接合体を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】本発明に係る金属部材の接合方法の実施の形態1を説明した図であって、(a)は、2つの鋼材とNi基インサート材を準備する第1の工程を示した図であり、(b)は、第1の工程に続いて、2つの鋼材の間にNi基インサート材を介在させる第2の工程を示した図であり、(c)は、第2の工程に続いて、2つの鋼材の接合面を押圧しながら、Ni基インサート材を加熱する第3の工程を示した図である。
【図2】2つの鋼材の接合方法(実施の形態1)の第3の工程を説明した図であって、(a)は、2つの鋼材の回転初期における酸化物の分布を示した縦断面図であり、(b)は、接合部の凝固前における酸化物の分布を示した縦断面図である。
【図3】本発明に係る金属部材の接合方法の実施の形態2を説明した図であって、2つの鋼材の接合面を押圧しながら、Ni基インサート材を加熱する第3の工程を示した図である。
【図4】2つの鋼材の接合方法(実施の形態2)の第3の工程を説明した図であって、(a)は、2つの鋼材の回転初期における酸化物の分布を示した縦断面図であり、(b)は、接合部の凝固前における酸化物の分布を示した縦断面図である。
【図5】2つの中実の金属部材からなる接合体に曲げモーメントが作用した際の、接合部の応力分布を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0034】
以下、図面を参照して本発明に係る金属部材の接合方法について説明する。なお、以下に述べる実施の形態1,2においては、被接合部材である金属部材として、鉄(Fe)を主成分とする鋼材を使用した。また、金属部材を接合するためのインサート材として、ニッケル(Ni)を主成分とし、低融点化のためのケイ素(Si)等を含有したニッケル(Ni)基インサート材を使用した。なお、被接合部材である金属部材は、異なる材料からなる部材を用いてもよいし、同一の金属材料からなる部材を用いてもよい。また、以下の実施の形態1,2においては、酸化雰囲気下で接合する形態について説明するが、接合部における酸化物の形成をより効果的に抑制するために、真空中、不活性ガス雰囲気下、還元ガス雰囲気下で接合することもできる。
【0035】
[実施の形態1]
まず、図1を参照して、本発明に係る金属部材の接合方法の実施の形態1について説明する。この実施の形態1においては、鋼材として円柱状の中実軸部材からなる鋼材を使用した。
【0036】
図1は、金属部材の接合方法の実施の形態1を説明した図であって、図1aは、2つの鋼材とNi基インサート材を準備する第1の工程を示した図、図1bは、第1の工程に続いて、2つの鋼材の間にNi基インサート材を介在させる第2の工程を示した図、図1cは、第2の工程に続いて、2つの鋼材の接合面同士を押圧しながら、Ni基インサート材を加熱する第3の工程を示した図である。なお、図1cについては、2つの鋼材の接合部の内部を視認できるようにその一部を切り欠いて示している。
【0037】
まず、図1aで示す第1の工程では、第1の鋼材11と第2の鋼材12と、Ni基インサート材13を準備する。ここで、液相拡散接合を行うために、Ni基インサート材13の融点は、第1の鋼材11と第2の鋼材12の融点よりも相対的に低い。また、第1の鋼材11の接合面11aと第2の鋼材12の接合面12aは、相補的形状を呈する接合面であればよい。たとえば、第1の鋼材11の接合面11aが凸状の円錐形を呈し、第2の鋼材12の接合面12aがそれに対応する凹状の窪みを備えている形態や、第1の鋼材11の接合面11aが凸曲面を呈し、第2の鋼材12の接合面12aがそれに対応する凹曲面を呈している形態等であってもよい。
【0038】
ここで、図示する接合装置500には、第1の鋼材11を保持するための固定保持部51と第2の鋼材12を保持するための可動保持部52が設けられている。そして、可動保持部52が油圧シリンダ55によって固定保持部51に接近したり、固定保持部51から離間したりできるようになっていることで、保持された鋼材11,12同士に所定の荷重を負荷できるようになっている。また、固定保持部51には、固定保持部51の腕部53と第1の鋼材11との間に配置される第1の電極57が設けられ、可動保持部52には、可動保持部52の腕部54と第2の鋼材12との間に配置される第2の電極58が設けられている。さらに、第1の電極57と第2の電極58は、導線59を介して電源56に接続されており、第1の電極57に配置された第1の鋼材11と第2の電極58に配置された第2の鋼材12がNi基インサート材13を介して接触すると、第1の鋼材11と第2の鋼材12とNi基インサート材13に通電され、それらが加熱されるようになっている。なお、このような通電加熱に代えて、高周波誘導加熱や電熱ヒーターによる加熱を使用することができ、あるいは雰囲気温度をインサート材の融点以上としてインサート材と鋼材を加熱してもよい。
【0039】
次いで、図1bで示す第2の工程では、既述するように、油圧シリンダ55を用いて可動保持部52を固定保持部51に近接させ、第1の鋼材11の接合面11aと第2の鋼材12の接合面12aが対向するように、第1の鋼材11の接合面11aと第2の鋼材12の接合面12aの間にNi基インサート材13を当接させて介在させる。
【0040】
図1cで示す第3の工程では、第1の鋼材11の接合面11aとNi基インサート材13、第2の鋼材12の接合面12aとNi基インサート材13の接触後においても、油圧シリンダ55を用いて第1の鋼材11と第2の鋼材12の接合面に押圧力を負荷し続けながら、電源56を用いて導線59を介して通電し、第1の鋼材11と第2の鋼材12とNi基インサート材13を加熱する。その際、第1の電極51の腕部53と第2の電極52の腕部54に内蔵されたモータ(不図示)を同期して駆動し、押圧方向に延びる軸L1を回転中心として、第1の鋼材11と第2の鋼材12を図示する回転方向R1に回転させる。
【0041】
なお、第1の鋼材11と第2の鋼材12については、Ni基インサート材13が溶融した後に回転させても、Ni基インサート材13が溶融する前から第1の鋼材11と第2の鋼材12を回転し、回転中に加熱によってNi基インサート材13を溶融させてもよい。Ni基インサート材13が溶融した後に第1の鋼材11と第2の鋼材12が回転される形態であれば、通電による加熱と第1の鋼材11と第2の鋼材12の回転を同時に行う必要が無いことから、接合装置500等の構成を簡素化でき、製造コストを抑制することができる。
【0042】
また、上記する回転速度は、等速であっても接合中にその接合状態等に応じて変速されてもよいが、第1の鋼材11と第2の鋼材12とが等速で回転される形態であれば、より一層接合方法を簡素化でき、生産性を向上して製造コストをさらに抑制することができる。
【0043】
図示する第3の工程において、Ni基インサート材が通電により加熱されて溶融した後、接合部(溶融したNi基インサート材13'内部)には、このNi基インサート材と鋼材の母材との合金が液相として存在している。また、図1a,1bで示すNi基インサート材13には低融点化のためにケイ素(Si)が添加されており、このケイ素が外部環境の酸素と結合してシリカが形成される。したがって、図1cで示す接合部(溶融したNi基インサート材13'内部)には、主としてシリカ(SiO)からなる酸化物14が含まれることとなる。なお、本実施の形態1においては、この液相部分に存在する溶融合金の比重は一般に7.5以上であって、NiとFeを主成分とするために生成されたシリカ等の酸化物14の比重よりも相対的に大きい。なお、シリカの比重は2.2程度である。
【0044】
第3の工程においては、第1の鋼材11と第2の鋼材12との接合面同士の押圧力によって、接合に不要となった溶融したNi基インサート材13'と酸化物14が接合部外部に押し出されると共に、第1の鋼材11と第2の鋼材12とが同期して回転することで、Ni基インサート材13'と酸化物14に遠心力が作用し、回転中心から外側方向、すなわち接合部外部へそれらが一層効果的に排除されることとなる。なお、接合部外部とは、主として第1の鋼材11と第2の鋼材12の対向する接合面で画定される領域の外側であって、第1の鋼材11の接合面11aと第2の鋼材12の接合面12aの接合に実質的に寄与しない領域である。
【0045】
また、既述のように、溶融したNi基インサート材13'の溶融合金の比重が酸化物14の比重よりも大きいことで、第1の鋼材11と第2の鋼材12が同期して回転すると、溶融したNi基インサート材13'の溶融合金が接合部の外側方向へ泳動して、接合部表面近傍にNi基インサート材13'の溶融合金が凝集する。それに対して、相対的に比重が小さく、外部に押し出されずに接合部に残留した酸化物14は、Ni基インサート材13'の動きとは反対方向である回転軸L1方向、すなわち接合部の内側方向へ泳動する。
【0046】
なお、溶融したNi基インサート材13'と酸化物14の移動が完了し、第1の鋼材11と第2の鋼材12とが上記する押圧状態で所定の温度まで冷却され、それらの回転が停止した後、その温度で押圧力が除苛されて、第1の鋼材11と第2の鋼材12の接合が完了する。
【0047】
上記する接合面同士の押圧力としては、回転中に第1の鋼材11と第2の鋼材12が分離しないようにするために、5MPa以上とすると共に、その押圧力によって第1の鋼材11と第2の鋼材12が破損あるいは変形しないように、50MPa以下とするのが好ましい。
【0048】
また、比較的大きな径を備えた鋼材においても、接合部から十分に酸化物が排出されると共に、接合部の中心付近に酸化物を凝集させるために、その回転速度を100rpm以上とするのが好ましい。また、第1の鋼材11と第2の鋼材12を高速に回転させ過ぎると、遠心力が過大となり、全ての溶融合金が接合部の表面近傍に排出され、接合部内部に空隙が発生する可能性があることから、その回転速度は2000rpm以下とするのが好ましい。
【0049】
図2を参照して、実施の形態1の第3の工程について具体的に説明する。図2aは、2つの鋼材の回転初期における酸化物の分布を示した縦断面図であり、図2bは、接合部の凝固前における酸化物の分布を示した縦断面図である。
【0050】
図2aで示すように、実施の形態1において、第1の鋼材11と第2の鋼材12の回転初期の段階では、接合部の酸化物14(主としてシリカ)はその内部(溶融したNi基インサート材13'内部)で略均一に分布している。
【0051】
第1の鋼材11と第2の鋼材12が回転軸L1を中心として回転すると、特に接合部の表面近傍の領域E1bの酸化物14bは、押圧力とその回転による遠心力によって、接合部の表面近傍の領域E1bの溶融したNi基インサート材13'(溶融合金)と共に接合部の外側方向Xbへ泳動されてその接合部の外部へ排出される。
【0052】
また、溶融金属は酸化物に比して比重が大きいことから、接合部の回転軸L1近傍の領域E1aの溶融したNi基インサート材13'が、その回転による遠心力によって接合部の表面側(矢印Xa(13)方向)へ泳動する共に、比重の小さいシリカ等からなる、接合部の回転軸L1近傍の領域E1aの酸化物14aは、その回転軸L1方向、すなわち接合部の中心方向(矢印Xa(14)方向)へ泳動される。
【0053】
したがって、図2bで示すように、接合部の表面近傍に存在していた酸化物14bは接合部の外部の領域E1dへ押し出され、接合部の内側に存在していた酸化物14aはその略中心近傍の領域E1cへ凝集する。このように、押圧力と遠心力の相乗効果によって、接合部における酸化物の残留を効果的に低減して不純物の少ない接合部を形成し、接合強度の高い接合体100を製造できると共に、仮に接合部に酸化物が残留した場合であっても、それらの酸化物が接合体の中心近傍の領域E1cに凝集することで、接合体100の表面近傍の不純物が排除され、曲げ剛性や捩り剛性に優れた接合体100となる。なお、酸化物14bが接合部の外部に排出される前に接合部表面が凝固した場合には、接合部に形成された酸化物14を接合体100の中心近傍の領域E1cへ集中的に凝集することもできる。
【0054】
[実施の形態2]
次に、図3を参照して、本発明に係る金属部材の接合方法の実施の形態2について説明する。この実施の形態2においては、鋼材として円筒状の中空軸部材からなる鋼材を使用した。なお、実施の形態2における第1の工程と第2の工程については、実施の形態1のそれと同様の工程であるため、その説明を省略し、同図においては第3の工程についてのみ具体的に説明する。同図については、2つの鋼材の接合部の内部を視認できるようにその一部を切り欠いて示している。また、実施の形態2においては、実施の形態1で使用した接合装置500を用いて2つの鋼材の接合を行った。
【0055】
図1aや図1bで示す工程と同様の工程を実施して、第1の鋼材21の接合面21aと第2の鋼材22の接合面22aの間にNi基インサート材を当接させて介在させた後、図3で示す第3の工程では、第1の鋼材21の接合面21aとNi基インサート材、第2の鋼材22の接合面22aとNi基インサート材の接触後においても、油圧シリンダ55を用いて第1の鋼材21と第2の鋼材22の接合面に押圧力を負荷し続けながら、電源56を用いて導線59を介して通電し、第1の鋼材21と第2の鋼材22とNi基インサート材を加熱する。その際、第1の電極51の腕部53と第2の電極52の腕部54に内蔵されたモータ(不図示)を同期して駆動し、押圧方向に延びる軸L2を回転中心として、第1の鋼材21と第2の鋼材22を図示する回転方向R2に回転させる。
【0056】
同図において、Ni基インサート材が通電により加熱されて溶融した後、接合部(溶融したNi基インサート材23'内部)には、このNi基インサート材と鋼材の母材との合金が液相として存在すると共に、主としてシリカ(SiO)からなる酸化物24が含まれている。
【0057】
この第3の工程においては、第1の鋼材21と第2の鋼材22との接合面同士の押圧力によって、接合に不要となった溶融したNi基インサート材23'と酸化物24が接合部外部に押し出されると共に、第1の鋼材21と第2の鋼材22とが同期して回転することで、Ni基インサート材23'と酸化物24に遠心力が作用し、回転中心から外側方向、すなわち接合部外部へそれらが一層効果的に排除されることとなる。なお、実施の形態2においては、第1の鋼材21と第2の鋼材22からなる接合体200の内部に空間が存在するため、溶融したNi基インサート材23'と酸化物24の一部が押圧力によってその接合体200の内部空間に排出されることも考えられる。
【0058】
また、溶融したNi基インサート材23'の溶融合金の比重が酸化物24の比重よりも大きいことで、第1の鋼材21と第2の鋼材22が同期して回転すると、溶融したNi基インサート材23'の溶融合金が接合部の外側方向へ泳動して、接合部表面近傍にNi基インサート材23'の溶融合金が凝集する。それに対して、相対的に比重が小さく、外部に押し出されずに接合部に残留した酸化物24は、Ni基インサート材23'の動きとは反対方向である回転軸L2方向、すなわち接合部の内側方向へ泳動する。
【0059】
図4を参照して、実施の形態2の第3の工程についてさらに具体的に説明する。図4aは、2つの鋼材の回転初期における酸化物の分布を示した縦断面図であり、図4bは、接合部の凝固前における酸化物の分布を示した縦断面図である。
【0060】
図4aで示すように、実施の形態2において、第1の鋼材21と第2の鋼材22の回転初期の段階では、接合部の酸化物24(主としてシリカ)はその内部(溶融したNi基インサート材23'内部)で略均一に分布している。
【0061】
第1の鋼材21と第2の鋼材22が回転軸L2を中心として回転すると、特に接合部の表面近傍の領域E2bの酸化物24bは、押圧力とその回転による遠心力によって、接合部の表面近傍の領域E2bの溶融したNi基インサート材23'(溶融合金)と共に接合部の外側方向へ泳動されてその外部へ排出される。なお、本実施の形態2においては、鋼材内部にも空間があるため、その押圧力によって、接合部の内周面近傍の領域E2aの酸化物24aの一部が、接合部の内周面近傍の領域E2aの溶融したNi基インサート材23'の一部と共に鋼材の内部空間S2へ排出される。なお、この酸化物24aの内部空間S2への排出とは、主として第1の鋼材21の接合面21aと第2の鋼材22の接合面22aで画定される領域の外側への排出であって、第1の鋼材21の接合面21aと第2の鋼材22の接合面22aの接合に実質的に寄与しない領域へ酸化物24aが排出されることである。
【0062】
また、溶融金属は酸化物に比して比重が大きいことから、接合部の内周面近傍の領域E2aの溶融したNi基インサート材23'の一部が、その回転による遠心力によって接合部の外側へ泳動する共に、比重の小さいシリカ等からなる、接合部の内周面近傍の領域E2aの酸化物24aは、その回転軸L2方向、すなわち接合部の内側方向へ泳動される。なお、回転速度や回転時間等を適切に設定することで、その内側方向に泳動した酸化物24aを鋼材の内部空間S2に確実に排出することができる。
【0063】
したがって、図4bで示すように、接合部の表面近傍に存在していた酸化物24bは接合部の外部の領域E2dへ押し出され、接合部の相対的に内側に存在していた酸化物24aはその内周面近傍の領域E2cに凝集、あるいは接合部の外部である鋼材の内部空間S2へ排出される。このように、押圧力と遠心力の相乗効果によって、接合部における酸化物の残留を効果的に低減して不純物の少ない接合部を形成し、接合強度の高い接合体200を製造できると共に、仮に接合部に酸化物が残留した場合であっても、それらの酸化物が接合体の内周面近傍の領域E2cに凝集することで、接合体200の表面近傍の不純物が排除され、曲げ剛性や捩り剛性に優れた接合体200となる。
【0064】
さらに、実施の形態2においては、接合体200内部に空間S2があることで、内周面側に泳動してきた酸化物24aが、第1の鋼材21と第2の鋼材22との接合面の押圧と回転によって、接合体200の内部空間S2、すなわち接合部の外側へ排出されることとなり、適宜回転速度等を調整することで、接合部に形成される酸化物24をより効果的に排除して、接合面全体で均一かつ高い接合強度を備えた接合体200を製造することができる。
【0065】
すなわち、中空部材の場合には、中実部材の場合と比較して接合部に残留し得る酸化物を効果的にその外部へ排出でき、より均質な接合面を形成して高剛性かつ軽量な接合体を製造することができる。
【0066】
なお、実施の形態1,2においては、双方の金属部材が中実および中空である場合の接合方法について説明したが、そのいずれか一方が中空部材であれば実施の形態2と同様の効果を得ることができる。すなわち、接合される金属部材の一方が中空部材であれば、その中空部材の内周面と他方の中実部材の端面で内部空間が画定され、接合時に残留し得る接合部の酸化物を接合体の内部空間にも排出することができ、実施の形態2と同様に接合部における酸化物の残留を低減することができる。
【0067】
以上、本発明の実施の形態を図面を用いて詳述してきたが、具体的な構成はこの実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲における設計変更等があっても、それらは本発明に含まれるものである。
【符号の説明】
【0068】
11,21…第1の鋼材、12,22…第2の鋼材、13,23…Ni基インサート材、13',23'…溶融したNi基インサート材、14,24…酸化物、11a,12a,21a,22a…接合面、51…固定保持部、52…可動保持部、53,54…腕部、55…油圧シリンダ、56…電源、57…第1の電極、58…第2の電極、59…導線、100,200…接合体、500…接合装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
液相拡散接合による金属部材の接合方法であって、
第1の融点を備えた第1の金属部材と、第2の融点を備えた第2の金属部材と、前記第1および第2の融点よりも相対的に低い第3の融点を備えたインサート材を準備する第1の工程と、
前記第1の金属部材の接合面と前記第2の金属部材の接合面との間に前記インサート材を介在させる第2の工程と、
前記第1の金属部材と前記第2の金属部材の接合面同士を押圧しながら、前記第3の融点よりも相対的に高く、前記第1および第2の融点よりも相対的に低い温度で少なくとも前記インサート材を加熱する第3の工程からなり、
前記第3の工程において、接合面の押圧方向に延びる回転軸を中心として、前記第1および第2の金属部材を同期して回転させることで、該第1および第2の金属部材の接合部に存在する酸化物を、該接合部の回転軸方向および外側方向の少なくともいずれか一方へ泳動させる金属部材の接合方法。
【請求項2】
前記第3の工程において、前記インサート材が溶融した後、前記第1の金属部材と前記第2の金属部材を回転させる請求項1に記載の金属部材の接合方法。
【請求項3】
前記第3の工程が酸化雰囲気下で実施される請求項1または2に記載の金属部材の接合方法。
【請求項4】
前記第1の金属部材と前記第2の金属部材が同一の金属材料からなり、よって、前記第1の融点と前記第2の融点が同一である請求項1から3のいずれかに記載の金属部材の接合方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−143786(P2012−143786A)
【公開日】平成24年8月2日(2012.8.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−4137(P2011−4137)
【出願日】平成23年1月12日(2011.1.12)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】