説明

金属部材を鑞接する方法

従来の金−金属合金と同等またはそれよりも良好な特性を有する三元ニッケル−金−燐鑞合金の提供。
本発明は、高品質ニッケル基超合金シート部材(ジェット・エンジンで使用するための静翼)等のニッケル−金−燐鑞接部材に係わる。また、本発明は、ニッケル−金−燐から成る三元鑞合金と、該三元鑞合金を用いて金属部材同士を接合する方法に関するものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高品質のニッケル基超合金シート部材(ジェット・エンジンで使用するための静翼)等のニッケル−金−燐で鑞接された部材に係わり、また、ニッケル−金−燐から成る三元鑞合金、および、該三元鑞合金を用いて金属部材同士を接合する方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
鑞接は、金属等の部材同士を結合するために、該部材の表面の間に鑞合金を介挿する工程である。通常、結合すべき部材の融点未満の液相点を有する鑞合金が前記部材の表面間に配置される。次に、これら部材から形成される組立品(アセンブリ)が、鑞合金を溶融するために十分な温度まで加熱され、次いで、冷却されると、延性、耐蝕性および耐酸化性を有する強力な組立品を形成することができる。
【0003】
所望の特別な特性のために特殊金属添加物を含む金基鑞合金が多数存在する。例えば、金−ニッケル合金は、良好な耐酸化抵抗と高い強度を有する。これらの鑞合金は、タービン、ジェット・エンジン、電子回路、自動車および船舶用装置の部品等の金属部材を結合するために特に有用である。
【0004】
米国特許第3658997号は、宝飾品、ジェット・エンジン、および、30〜80重量%の金、0.5〜67.5重量%の銅および2.0〜12.0重量%のニッケルから成る高品質エンジニアリング部材の製造に用いられる金基鑞合金を開示している。さらに、この鑞合金は、0.5〜7.0重量%のクロムおよび微小量〜0.5重量%の硼素を含むことができる。
【0005】
米国特許第3658997号は、液相線温度と固相線温度の間の温度範囲位置を調整するために、Si、Bと共にCr、Feを組合わせた結果として、液相線温度と固相線温度の間の狭い温度範囲を与えたNi−Au基鑞合金を開示している。
【0006】
米国特許第3764307号は、Ni基中のAu、SiおよびBのバランス量によって、その特性を引き出す比較的金量の少ないニッケル−金基鑞合金を開示している。この合金は、最高約760℃(1400°F)までの範囲で使用することを意図した結合部材に適用するために約1037.8℃(1900°F)未満で液相になる。
【0007】
米国特許第4726508号は、真空炉中で充填金属(主成分として金を含み、少量成分としてニッケルを含む)を用いて、壁の薄い耐腐食性ニッケル基チューブ(ステンレス鋼基部材に対してかなりの割合のニッケル、クロムおよびモリブデンを含む)を鑞接するための方法を開示しており、該方法では、鑞接チューブ内で応力腐蝕割れ起こさず、また、炭素析出が防止される。
【0008】
米国特許第4302515号は、実質的に、0〜約4原子%の鉄、0〜約21原子%のクロム、0〜約19原子%の硼素、0〜約12原子%の珪素、0〜約22原子%の燐、および、残部としてのニッケルと付随的不純物から成る組成を有するステンレス鋼を鑞接するために有用な鑞接箔を開示している。前記組成範囲内の前記元素を含むことに加えて、前記組成は、鉄、クロムおよびニッケルの合計量が約76〜84原子%の範囲内でなければならないし、硼素、珪素および燐の合計量が約16〜24原子%の範囲内でなければならない。
【0009】
米国特許第4764435号は、金属を非酸化物セラミックに接合するための鑞接材料として用いることのできる金属組成物を開示している。この鑞接材料は、少なくとも、Pt、Pd、Rh、Ir、RuおよびOsから成る第1群遷移金属から選択される1種または複数種の金属、および、Cr、Mn、Fe、Co、NiおよびCuから成る第2群遷移金属から選択される1種または複数種の金属を含む。この材料は、さらに、B、C、SiおよびPから成る第3群元素から選択される1種または複数種の元素を含むことができる。
【0010】
従来の金−ニッケル鑞合金は、インコネル部材(登録商標:インコネルは、耐食性合金群の商標品である)等のニッケル−クロム基部材同士を接合するために使用される。通常、これらのニッケル−クロム基部材(超合金シート金属部材)同士が、約982℃(1800°F)を超える温度で、金−ニッケル基合金によって接合される。この高い鑞接温度は、通常、ニッケル−クロム基部材の結晶粒サイズを粗くして、その耐疲労特性を低下させる十分な高温である。鑞合金の鑞接温度を下げるために、珪素および/または硼素のような温度降下剤が使用されている。これらの温度降下剤は、接合部材の鑞接性を改善するために、液相線温度と固相線温度の間の温度を必ずしも明白に制御しない。さらに、硼素は、通常、ニッケル−クロム基部材(ジェット・エンジンの静翼など)に進入し、温度が過度に高い約1037.8℃(1900°F)と、硼素はニッケル−クロム基部材の粒子サイズを粗くし、それによってニッケル−クロム基部材中への硼素の拡散が許容され、さらにニッケル−クロム基部材の特性を劣化させるだろう。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明の一つの目的は、従来の金−金属合金と同等、または、それよりも良好な特性を有する三元ニッケル−金−燐鑞合金を提供することである。
【0012】
本発明の別の目的は、998.9℃(1830°F)未満の鑞接温度を有し、そのためニッケル−クロム基超合金のシート金属部材への適用に理想的に適する三元ニッケル−金−燐鑞合金を提供することである。
【0013】
本発明の別の目的は、新規な三元ニッケル−金−燐鑞合金により、物品が鑞接された鑞接金属物品を提供することである。
【0014】
本発明の別の目的は、三元ニッケル−金−燐鑞合金で物品が鑞接された、鑞接超合金金属シート物品を提供することである。
【0015】
本発明の別の目的は、鑞接温度が、三元ニッケル−金−燐鑞合金の共晶温度よりも4.4℃(40°F)低く保持された新規な三元ニッケル−金−燐鑞合金を用いて、金属部材同士を鑞接する方法を提供することである。
【0016】
本発明の別の目的は、998.9℃(1830°F)未満の鑞接温度で、好適には、三元ニッケル−金−燐鑞合金の共晶温度より100°F低い鑞接温度で、新規な三元ニッケル−金−燐鑞合金を使用して、超合金金属シート同士を鑞接する方法を提供することである。
【0017】
本発明の別の目的は、経済的に使用することができ、良好な強度、延性、耐蝕性および耐酸化性を有する新規な三元ニッケル−金−燐鑞合金を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0018】
本発明は、新規な三元ニッケル−金−燐鑞合金を用いて金属部材同士を鑞接する方法に関するものである。該方法は、(a)接合すべき2つの金属部材間に、約20〜約80重量%の金、約1〜約10重量%の燐、および、残部としてのニッケルと付随的不純物から成る三元ニッケル−金−燐鑞合金を配置する段階と、(b)前記三元ニッケル−金−燐鑞合金および前記金属部材から形成される組立品を、鑞合金の共晶温度より少なくとも4.4℃(40°F)高く、998.9℃(1830°F)よりも低い温度に加熱する段階と、頑丈な単一組立品を効果的に作るために前記組立品を冷却する段階とを含む。好適には、三元ニッケル−金−燐鑞合金の組成は、実質的に、約30〜約60重量%の金、約2〜約6重量%の燐、および、残部としてのニッケルと付随的不純物から成ることが好ましい。最も好適には、鑞合金は、実質的に、約38〜約42重量%の金、約2.5〜約3.5重量%の燐、および残部としてのニッケルと付随的不純物から成ることが好ましい。この鑞合金は、二元ニッケル−金合金系の鑞接温度範囲を下げるために、融点降下剤として燐を使用する。三元鑞合金に種々の割合で金を添加すると、鑞合金の延性が増大する。ニッケル鑞合金中の燐は、約898.9℃(1650°F)の共晶温度を有し、都合の悪いことに、この共晶温度で鑞合金は脆くなる傾向がある。したがって、段階(b)における三元鑞合金と金属部材組立品の加熱は、鑞合金の共晶温度よりも約4.4℃(40°F)高い温度で行わなければならない。好適には、段階(b)における組立品の加熱は、鑞合金の共晶温度を約37.8℃(100°F)超える温度、または、約910℃〜約993.3℃(1670°F〜1820°F)の温度で行わなければならない。本発明の好適な三元ニッケル−金−燐鑞合金の場合には、合金は約885℃〜約887.8℃(1625°F〜1630°F)の温度範囲で溶融する。
【0019】
ジェット・エンジン用のインコネルX−750静翼等の超合金ニッケル−クロム基金属部材の場合には、高い鑞接温度に加熱すると、部材材料の結晶粒サイズが粗大化し、それによって、使用時に、高サイクル疲労による破壊を生じる可能性がある。ニッケル−クロム基合金の結晶粒の成長は、鑞接温度を、998.9℃(1830°F)未満、好適には約943.3℃〜約971.1℃(1730°F〜1780°F)、より好適には約948.9℃〜約960℃(1740°F〜1760°F)にすることにより効果的に防ぐことができる。ニッケル−クロム基部材同士を結合するための、本発明の三元ニッケル−金−燐鑞合金は、硼素を含まず、良好な強度、延性、良好な耐蝕性と耐酸化性を有し、結晶粒の成長を含むニッケル−クロム基部材の冶金特性を効果的に制御する。
【実施例】
【0020】

「T」字形の304ステンレス試料を作り、次いで、本発明の三元ニッケル−金−燐鑞合金により試験した。米国溶接協会のAWS分類Bau−4(82重量%のAu−18重量%のNi)による金−ニッケル合金と、同一重量のAWS Bni−6(10重量%のP、残部としてのNi)によるニッケル・燐合金との混合物をブレンドして、鑞接粉末を用意した。混合物の計算上の公称組成は、54Ni−41Au−5P(重量%)であった。
【0021】
その目的は、温度約954.4℃〜約971.1℃(1750°F〜1780°F)で鑞接した場合の、「T」字形サンプル用の延性を有する継ぎ手を作ることであった。この試験の目的は、低い鑞接温度でのニッケル−金合金の延性を得ることであった。粉末は、溶融して均質なニッケル−金−燐合金になされ、スラリー状態のこの合金を「T」字形試料にした。「T」字形試料と三元ニッケル−金−燐鑞合金を真空炉に装入して、温度約954.4℃〜約971.1℃(1750°F〜1780°F)で加熱した。「T」字形試料の試験により、鑞合金が、温度約954.4℃〜約971.1℃(1750°F〜1780°F)で鑞接した場合、良好な濡れ特性を有することが分かった。おおまかな定量試験により、鑞接継ぎ手が延性を有することが分かった。
【0022】
本発明の好適実施例について説明したが、本発明は、この実施例によって制限されるものではなく、当業者であれば、本明細書を読むことによって、各種実施形態を想到できるであろう。それ故、特に説明し、特許請求の範囲に記載された本発明範囲から逸脱することなく、各種の変更を行い得るであろう。例えば、三元合金の3つの元素の割合を調整することにより、種々の溶融温度を有する一連の三元合金を入手できる。そのため、各種用途用に、必要に応じて鑞接温度を調整できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
三元ニッケル−金−燐鑞合金を用いて金属部材同士を鑞接する方法であり、
(a)接合すべき2つの金属部材間に、約20〜約80重量%の金、約1〜約10重量%の燐、および、残部としてのニッケルと付随的不純物から成る三元ニッケル−金−燐鑞合金を配置する段階と、
(b)前記三元ニッケル−金−燐鑞合金と前記金属部材で形成される組立品を、998.9℃(1830°F)よりも低い温度で、少なくとも概ね鑞合金の共晶温度に加熱する段階と、
(c)前記組立品を冷却して、頑丈な単一組立品を効果的に作る段階とを含む三元ニッケル−金−燐鑞合金を用いて金属部材同士を鑞接する方法。
【請求項2】
前記段階(a)において、前記三元ニッケル−金−燐鑞合金の組成が、(i)約30重量%〜約60重量%の金、約2重量%〜約6重量%の燐、および残部としてのニッケルと付随的不純物から成るか、または、(ii)約38重量%〜約42重量%の金、約2.5重量%〜約3.5重量%の燐、および付随的不純物を含む残部としてのニッケルから成る請求項1に記載された三元ニッケル−金−燐鑞合金を用いて金属部材同士を鑞接する方法。
【請求項3】
前記段階(b)において、前記組立品を、前記鑞合金の共晶温度よりも約4.4℃(40°F)高い温度、または、温度約910℃〜約993.3℃(1670°F〜1820°F)、または、温度約943.3℃〜約971.1℃(1730°F〜1780°F)に加熱する請求項1に記載された三元ニッケル−金−燐鑞合金を用いて金属部材同士を鑞接する方法。
【請求項4】
前記金属部材が、ニッケル−クロム基部材である請求項1に記載された三元ニッケル−金−燐鑞合金を用いて金属部材同士を鑞接する方法。
【請求項5】
鑞接金属組立品であり、
(i)約20重量%〜約80重量%の金、約1重量%〜約10重量%の燐、および残部としてのニッケルと付随的不純物から成る組成を有する三元ニッケル−金−燐鑞合金で鑞接されている鑞接金属組立品。
【請求項6】
前記三元ニッケル−金−燐鑞合金の前記組成が、約30重量%〜約60重量%の金、約2重量%〜約6重量%の燐、および残部としてのニッケルと付随的不純物から成るか、または、(ii)約38重量%〜42重量%の金、約2.5重量%〜約3.5重量%の燐、および残部としてのニッケルと付随的不純物から成る請求項5に記載された鑞接金属組立品。
【請求項7】
前記組立品が静翼である請求項5に記載された鑞接金属組立品。
【請求項8】
約20重量%〜約80重量%の金、約1重量%〜約10重量%の燐、および残部としてのニッケルと付随的不純物から成る組成を有する三元ニッケル−金−燐鑞合金。
【請求項9】
請求項8に記載された三元ニッケル−金−燐鑞合金であり、該合金の組成が、
(i)約30重量%〜約60重量%の金、約2重量%〜約6重量%の燐、および残部としてのニッケルと付随的不純物から成るか、または
(ii)約38重量%〜42重量%の金、約2.5重量%〜約3.5重量%の燐、および残部としてのニッケルと付随的不純物から成る三元ニッケル−金−燐鑞合金。
【請求項10】
粉末形態である請求項8に記載された三元ニッケル−金−燐鑞合金。

【公表番号】特表2007−508149(P2007−508149A)
【公表日】平成19年4月5日(2007.4.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−532910(P2006−532910)
【出願日】平成16年5月10日(2004.5.10)
【国際出願番号】PCT/US2004/014546
【国際公開番号】WO2004/103696
【国際公開日】平成16年12月2日(2004.12.2)
【出願人】(500092413)プラックセアー エス.ティ.テクノロジー、 インコーポレイテッド (23)
【Fターム(参考)】