説明

金属酸化物の製造方法

【課題】 過剰なエネルギ投入を必要とせず、低コストで金属酸化物を製造する方法を提供する。
【解決手段】 車両に搭載されて放電された金属空気電池を、車両から取り外す。その後、取り外された金属空気電池の負極活物質が放電により酸化されて生成された金属酸化物を、金属空気電池から取り出す。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、種々の用途に利用可能な金属酸化物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
塊にされた製鉄ダストから酸化亜鉛を回収する技術が知られている。この技術によると、まず、酸化亜鉛を含有する製鉄ダストを、コークス粉等の還元用カーボンと混合して、塊にする。塊にされたダストを、溶解炉内の溶鉄中に投入する。還元用カーボンによって、ダスト中の酸化亜鉛が還元され、亜鉛蒸気が発生する。亜鉛蒸気は、溶解炉上部の空間で再酸化され、高濃度の酸化亜鉛として回収される。この方法は、乾式法と呼ばれる。
【0003】
電解反応によって金属酸化物を製造する技術が知られている。この方法は、湿式法と呼ばれる。湿式法では、陽極に亜鉛等の金属微粒子を用い、陰極に耐アルカリ性を有する金属、例えばチタン等を用いる。陽極と陰極とを電解液に接触させ、外部から電流を流す。電解反応によって、陽極の金属微粒子の水酸化物が生成される。反応終了後に、この水酸化物を加熱することにより、金属酸化物を得ることができる。
【0004】
酸化亜鉛は、半導体装置、光触媒、化粧品等の分野をはじめ、多くの分野で用いられている。このため、酸化亜鉛を安価に製造する手法が求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平9−268332号公報
【特許文献2】特開2001−19429号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
乾式法では、高温となる溶解炉が必要であり、高温に加熱するために外部からエネルギを投入しなければならない。湿式法においても、外部から電解反応を生じさせるための電流を供給しなければならない。いずれの場合にも、外部からのエネルギ投入が必要である。
【0007】
本発明の目的は、過剰なエネルギ投入を必要とせず、低コストで金属酸化物を製造する方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の一観点によると、
車両に搭載されて放電された金属空気電池を、前記車両から取り外す工程と、
取り外された前記金属空気電池の負極活物質が放電により酸化されて生成された金属酸化物を、前記金属空気電池から取り出す工程と
を有する金属酸化物の製造方法が提供される。
【0009】
本発明の他の観点によると、
形成すべき金属酸化物を構成する金属を負極活物質とし、酸素を正極活物質とする金属空気電池を構成し、該金属空気電池を放電させることにより、前記金属を酸化する工程と、
放電により生成された前記金属の酸化物を、前記金属空気電池から取り出す工程と
を有する金属酸化物の製造方法が提供される。
【発明の効果】
【0010】
金属を高温に加熱する処理や、電解反応を生じさせることなく、金属酸化物を製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】図1は、実施例による金属酸化物の製造方法で用いられる金属空気電池の模式図である。
【図2】図2は、実施例による金属酸化物の製造方法で用いられる金属空気電池が搭載される電動フォークリフトの部分破断側面図である。
【図3】図3Aは、電動車両から取り外した金属空気電池の斜視図であり、図3Bは、金属空気電池の正電極と負電極とを電気回路で接続した図であり、図3Cは、金属酸化物を取り出した状態の金属空気電池の斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
図1に、実施例による金属酸化物の製造方法で用いられる金属空気電池の模式図を示す。負極集電体11の上に負極活物質10、セパレータ12、及び正極集電体13が重ねられている。負極集電体11には、例えばニッケル等の金属板が用いられる。負極活物質10には、例えば亜鉛が用いられる。セパレータ12には、例えばポリエチレン、ポリプロピレン等の多孔膜、または樹脂不織布、ガラス繊維不織布等が用いられる。セパレータ12に、電解液が含浸されている。電解液として、水酸化カリウム等のアルカリ金属水酸化物が用いられる。
【0013】
正極集電体13は、カーボンクロス、カーボンペーパー等のベースにカーボンブラック等の導電材を塗布した構造を有する。導電材には、触媒及び結着剤が含まれる。触媒には、例えば二酸化マンガンが用いられる。結着剤には、例えばポリフッ化ビニリデン等が用いられる。正極集電体13は、酸素を透過させる多数の微細な孔14を有する。大気中の酸素が、正極活物質として作用する。負極集電体11と正極集電体13とが、負荷16を介して電気的に接続されている。
【0014】
負極活物質10において、亜鉛と水酸化物イオンとが反応し、酸化亜鉛と水と電子が生成される。生成された電子は、負極集電体11に集められ、負荷16を通って正極集電体13に供給される。
【0015】
正極活物質15である酸素と、正極集電体13に供給された電子と、水とが反応して、水酸化物イオン(OH)が生成される。水酸化物イオンは、セパレータ12内を輸送されて、負極活物質10に達する。
【0016】
図2に、図1の金属空気電池が搭載される電動フォークリフトの部分破断側面図を示す。なお、図1の金属空気電池は、電動フォークリフト以外の電動作業車両に搭載してもよいし、電動自動車、電動二輪車等の電動車両に搭載してもよい。電動フォークリフトは、フォーク21、車輪22、ハンドル24、レバー25、及び座席26を含む。車台に、電動機を駆動するための金属空気電池20が搭載されている。金属空気電池20の基本的な構成は、図1に示したものと同一である。
【0017】
図3A〜図3Cを参照して、実施例による金属酸化物の製造方法について説明する。電動車両に搭載されている金属空気電池の残量が、電動車両の稼働に必要な残量を下回ると、金属空気電池20を電動車両から取り外す。
【0018】
図3Aに、取り外された金属空気電池20の概略図を示す。金属空気電池20は、正電極30と負電極31とを有する。電動車両から取り外された時点では、金属空気電池は、完全に放電した状態ではなく、若干の残量を有しており、部分的に酸化亜鉛が形成された状態である。
【0019】
図3Bに示すように、正電極30と負電極31とを電気回路35により電気的に接続する。これにより、負極活物質10の酸化が進み、負極活物質10のほぼすべてが酸化される。その結果、高純度の酸化亜鉛が形成される。
【0020】
図3Cに示すように、金属空気電池20から、負極活物質10が酸化されることにより生成された金属酸化物、ここでは酸化亜鉛10aを取り出す。取り出された酸化亜鉛10aは、顔料、化粧品、医薬品、光触媒、透明電極等の材料として利用することができる。金属空気電池20の、負極活物質10以外の部品は、新たな金属空気電池20の部品として再利用することができる。
【0021】
電動車両で使用できなくなった金属空気電池20から、種々の用途に利用可能で、経済的価値のある酸化亜鉛10aを取り出すことができるため、電動車両の駆動用電源に要するトータルコストの低減を図ることができる。
【0022】
金属空気電池20を用いて酸化亜鉛10aを製造する場合、亜鉛を高温に加熱する装置が不要であり、電解反応を生じさせるために外部から電流を供給する必要もない。このため、酸化亜鉛の製造装置の省エネルギ化を図ることができる。また、より純度の高い酸化金属を得るために、外部から電流を流すようにしてもよい。
【0023】
上記実施例では、負極活物質10に亜鉛を用いたが、その他の金属空気電池用の金属を用いてもよい。たとえば、アルミニウム、マグネシウム、リチウム等を用いてもよい。この場合には、これらの金属の酸化物を製造することができる。
【0024】
図1では、負極に亜鉛を用いた場合の反応式を示したが、正極の反応の一般式は、下記のとおりである。
+2HO+4e→4OH
また、負極の反応の一般式は下記のとおりである。
M→Mn++ne
4M+4nOH→2M+2nHO+4ne
上記反応式において、Mは負極の金属元素を表す。
【0025】
上記実施例では、電動車両に搭載されている金属空気電池20から金属酸化物10aを回収した。この金属空気電池20を、電動車両とは切り離して、金属酸化物10aの製造装置と考えることもできる。この金属酸化物の製造装置から、金属酸化物の製造中に電力を取り出すことができる。金属空気電池20の正極活物質15には、一般的に大気中の酸素が用いられる。金属酸化物の製造装置として動作させる場合には、正極活物質15として、純酸素やその他の酸化剤を用いてもよい。
【0026】
以上実施例に沿って本発明を説明したが、本発明はこれらに制限されるものではない。例えば、種々の変更、改良、組み合わせ等が可能なことは当業者に自明であろう。
【符号の説明】
【0027】
10 負極活物質
10a 金属酸化物(酸化亜鉛)
11 負極集電体
12 セパレータ
13 正極集電体
14 孔
15 正極活物質
16 負荷
20 金属空気電池
21 フォーク
22 車輪
24 ハンドル
25 レバー
26 座席
30 正電極
31 負電極
35 電気回路

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両に搭載されて放電された金属空気電池を、前記車両から取り外す工程と、
取り外された前記金属空気電池の負極活物質が放電により酸化されて生成された金属酸化物を、前記金属空気電池から取り出す工程と
を有する金属酸化物の製造方法。
【請求項2】
前記車両から前記金属空気電池を取り外した後、前記金属酸化物を取り出す前に、前記金属空気電池の正電極と負電極とを電気的に接続して、負極活物質に用いられている金属の酸化を進める請求項1に記載の金属酸化物の製造方法。
【請求項3】
形成すべき金属酸化物を構成する金属を負極活物質とし、酸素を正極活物質とする金属空気電池を構成し、該金属空気電池を放電させることにより、前記金属を酸化する工程と、
放電により生成された前記金属の酸化物を、前記金属空気電池から取り出す工程と
を有する金属酸化物の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2013−109998(P2013−109998A)
【公開日】平成25年6月6日(2013.6.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−254780(P2011−254780)
【出願日】平成23年11月22日(2011.11.22)
【出願人】(000002107)住友重機械工業株式会社 (2,241)
【Fターム(参考)】