説明

金属酸化物ナノ粒子の製造方法、金属酸化物ナノ粒子

【課題】従来の金属酸化物ナノ粒子の製造方法では、中間体が凝集し、得られる金属酸化物ナノ粒子の粒径が大きくなるという問題があった。そのため、凝集が抑制された金属酸化物ナノ粒子の製造方法を提供することを目的とする。
【解決手段】シリカ粒子のような無機酸化物担体の表面に担持された金属水酸化物を、前記無機酸化物担体と共に亜臨界状態または超臨界状態の水の存在下で水熱反応させる工程を含む金属酸化物ナノ粒子の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属酸化物ナノ粒子の製造方法、金属酸化物ナノ粒子に関するものである。
【背景技術】
【0002】
金属酸化物ナノ粒子は、光学材料、電子部品材料など幅広い分野で使用されている。従来、このような金属酸化物ナノ粒子は、前駆体に含まれる金属原子を焼成により酸化することで製造されていた。
【0003】
近年、新たな手法として、亜臨界状態または超臨界状態の水の存在下において、金属塩の水熱反応により、金属酸化物ナノ粒子を製造する方法が検討されている(例えば、非特許文献1参照)。このような反応条件では、水の誘電率低下により有機物の溶解が可能となる。さらに、高温・高圧雰囲気を利用することで、反応速度が速くなり、金属塩を原料として金属酸化物ナノ粒子を製造することができる。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】大原智,梅津光央,名嘉節,阿尻雅文,「超臨界水を用いたナノ粒子製造」,機能材料,2007年1月号,Vol.27,No.1,p.22−26
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記方法では、中間体である金属水酸化物が凝集して粒子を形成するため、得られる金属酸化物ナノ粒子の粒径が大きくなるという問題があった。
【0006】
本発明はこのような事情に鑑みてなされたものであって、凝集が抑制された金属酸化物ナノ粒子の製造方法を提供することを目的とする。また、このような金属酸化物ナノ粒子の製造方法により得られる、凝集が抑制された金属酸化物ナノ粒子を提供することをあわせて目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の課題を解決するため、本発明の金属酸化物ナノ粒子の製造方法は、無機酸化物担体の表面に担持された金属水酸化物を、前記無機酸化物担体と共に亜臨界状態または超臨界状態の水の存在下で水熱反応させる工程を含む。
【0008】
本発明においては、前記水熱反応させる工程に先だって、前記無機酸化物担体と、前記金属酸化物を構成する金属原子を金属イオンとして含む金属塩とを、水を含む分散媒中で混合し、前記金属イオンを前記無機酸化物担体の表面に担持させる工程と、得られる第1分散液と塩基性物質とを混合し、前記金属イオンを前記金属水酸化物とする工程と、を有することが望ましい。
【0009】
本発明においては、前記塩基性物質は、アルカリ金属水酸化物の溶液であることが望ましい。
【0010】
本発明においては、前記分散媒が酸性であることが望ましい。
【0011】
本発明においては、前記水熱反応させる工程に先だって、前記金属水酸化物を担持した前記無機酸化物担体が分散する第2分散液から不純物を除去する工程を有することが望ましい。
【0012】
本発明においては、前記無機酸化物担体が、分散粒径1nm以上300nm以下であることが望ましい。
【0013】
本発明においては、前記金属水酸化物を構成する金属イオンが、遷移金属イオンであることが望ましい。
【0014】
本発明の金属酸化物ナノ粒子は、上述の金属酸化物ナノ粒子の製造方法で得られる。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、凝集が抑制された金属酸化物ナノ粒子の製造方法を提供することができる。また本発明によれば、凝集が抑制された金属酸化物ナノ粒子を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】水熱反応を行う流通式反応装置の例を示す説明図である。
【図2】流通式反応装置における反応器の例を示す説明図である。
【図3】実施例の結果を示すTEM写真である。
【図4】比較例の結果を示すSEM写真である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本実施形態の金属酸化物ナノ粒子の製造方法は、無機酸化物担体の表面に担持された金属水酸化物を、前記無機酸化物担体と共に亜臨界状態または超臨界状態の水の存在下で水熱反応させる工程を含む。
また、本実施形態の金属酸化物ナノ粒子は、上述の製造方法により得られる。
【0018】
本明細書において、「超臨界状態の水」とは、水の臨界点(374℃、22MPa)以上の温度条件下および圧力条件下の水のことを指す。
【0019】
また、本明細書において、「亜臨界状態の水」とは、温度が250℃以上臨界点未満であり、且つ、圧力がその温度における飽和水蒸気圧を超える条件下の水のことを指す。
【0020】
(金属酸化物ナノ粒子の製造方法)
本実施形態の金属酸化物ナノ粒子の製造方法では、(1)無機酸化物担体と金属塩とを水を含む分散媒中で混合し、金属塩を構成する金属イオンを無機酸化物担体の表面に担持させ(以下、第1工程と称することがある)、(2)第1工程で得られる分散液(第1分散液)と塩基性物質とを混合し、金属イオンを金属水酸化物とし(以下、第2工程と称することがある)、(3)第2工程で得られる分散液(第2分散液)から不純物を除去し(以下、第3工程と称することがある)、(4)無機酸化物担体の表面に担持された金属水酸化物を、無機酸化物担体と共に亜臨界状態または超臨界状態の水の存在下で水熱反応させる(以下、第4工程と称することがある)ことにより、目的とする金属酸化物ナノ粒子を製造する。
以下、用いる原材料について説明した後に、製造方法について順に説明する。
【0021】
(無機酸化物担体)
無機酸化物担体は、Ti(チタン)、Zr(ジルコニウム)、Si(ケイ素)、Al(アルミニウム)、V(バナジウム)、Mo(モリブデン)、W(タングステン)、Mn(マンガン)、Zn(亜鉛)、Ga(ガリウム)、In(インジウム)、Bi(ビスマス)、La(ランタン)、Ce(セリウム)等の金属の酸化物、酸窒化物、酸硫化物、酸弗化物、酸窒弗化物を形成材料とした担体である。用いる無機酸化物担体には、1種または2種以上の金属元素を含む。
【0022】
無機酸化物担体は、通常知られた各種の形状のものを用いることができ、粉末状のものを好適に用いることができる。担体は、無数の細孔を有するものでもよく、細孔を有さないものでもよい。粉末状の無機酸化物担体は、粉末状のものをそのままを使用してもよいが、無機酸化物担体が水に分散した分散体を使用することがより好ましい。
【0023】
無機酸化物担体の分散体としては、コロイダルシリカ、コロイダルアルミナ、チタニアゾル、ジルコニアゾル、酸化タングステンゾルなどが挙げられ、中でも、コロイダルシリカが好適に用いられる。これらの無機酸化物担体の分散粒径は1nm以上300nm以下であることが好ましく、より好ましくは5nm以上50nm以下である。分散粒径が300nmより小さいと得られる金属担持無機酸化物が沈降しにくくなり、後述の亜臨界状態または超臨界状態の水の存在下において、均一でムラのできない水熱反応を行うことができる。
【0024】
なお、本明細書における分散粒径は、測定対象である分散体内の無機酸化物担体が、静置状態で略均一に分散するか否かにより、それぞれ適した測定装置を選択して測定した値を用いた。
【0025】
分散体内の無機酸化物担体が静置状態で略均一に分散する場合、動的光散乱法を測定原理とする粒径分布測定装置(ZETASIZER Nano-ZS、MaLvern Instruments Ltd.社製)を用いた測定により得られる体積分布から算出される中心粒径を採用した。
【0026】
分散体内の無機酸化物担体が静置状態で分散しない(沈降する)場合、レーザー回折法を測定原理とする粒径分布測定装置(MASTERSIZER 2000、MaLvern Instruments Ltd.社製)を用いた測定により得られる体積分布から算出される中心粒径を採用した。
【0027】
なお、無機酸化物担体としては、他にも例えば、球状やペレット状、ハニカム状のものも使用可能である。
【0028】
(金属塩)
金属塩は、水溶性を有するものであれば特に限定されるものでなく、Ti、Zr、Si、Al、Hf(ハフニウム)、V、Nb(ニオブ)、Ta(タンタル)、Cr(クロム)、Mo、W、Mn、Tc(テクニチウム)、Re(レニウム)、Fe(鉄)、Co(コバルト)、Ni(ニッケル)、Ru(ルテニウム)、Rh(ロジウム)、Pd(パラジウム)、Os(オスミウム)、Ir(イリジウム)、Pt(白金)、Cu(銅)、Ag(銀)、Au(金)、Zn、Cd(カドミウム)、Ga、In、Tl(タリウム)、Ge(ゲルマニウム)、Sn(錫)、Pb(鉛)、Bi、La、Ce等の塩を用いることができる。金属塩は、遷移金属塩であることが好ましい。
【0029】
金属塩を構成する対イオンは、上記金属のイオンと水溶性の塩を形成するものであれば有機酸に由来するイオン、無機酸に由来するイオンの両方を用いることができるが、無機酸に由来するイオンであることが好ましい。無機酸に由来するイオンとしては、硝酸イオン、亜硝酸イオン、硫酸イオン、亜硫酸イオン、炭酸イオン、リン酸イオン、塩化物イオンを例示することができる。中でも、硝酸イオン、硫酸イオン、塩化物イオンが好ましい。
【0030】
(第1工程)
第1工程では、上述の無機酸化物担体と金属塩とを水を含む分散媒中で混合し、金属塩を構成する金属イオンを無機酸化物担体の表面に担持させて、第1分散液を得る。
【0031】
金属塩は、無機酸化物担体の質量(100%)に対して、0.01質量%以上30質量%以下、好ましくは0.1質量%以上10質量%以下の範囲で添加することができる。金属塩の使用量が0.01質量%よりも少ない場合、目的物である金属酸化物ナノ粒子の機能や効果の発現が期待できなくなる。また、金属塩の使用量が30質量%よりも多くなると、目的物である金属酸化物ナノ粒子が凝集しやすくなり、得られる金属酸化物ナノ粒子のサイズが大きくなりやすい。なお、金属塩は、1種または2種以上を用いることとしてもよい。
【0032】
混合方法は特に限定されるものではないが、均一性を高めるため、無機酸化物担体は水または水を含む分散媒に分散させたものを、金属塩は水または水を含む溶媒に溶解させたものを混合することが好ましい。
【0033】
また、無機酸化物担体が分散した分散媒、および金属塩を溶解する溶媒は、酸性度が中性から酸性であることが好ましく、酸性であることがより好ましい。これらの分散媒および溶媒が塩基性であると、第1工程において無機酸化物担体の表面に金属イオンを担持させる過程において、金属イオンが分散媒または溶媒中の水酸化物イオン(OH)と反応し、無機酸化物担体の表面に担持される前に、金属水酸化物が生成することが考えられる。その場合、生じる金属水酸化物が凝集し、得られる金属酸化物ナノ粒子のサイズが大きくなりやすい。
【0034】
(第2工程)
第2工程では、第1分散液と塩基性物質とを混合し、無機酸化物担体の表面に担持させた金属イオンを金属水酸化物とし、第2分散液を得る。
【0035】
塩基性物質は、アルカリ金属水酸化物の溶液や、アルカリ土類金属水酸化物の溶液を用いることができ、アルカリ金属水酸化物の溶液が好ましい。例えば、水酸化ナトリウムや水酸化カリウムの溶液が挙げられる。混合方法は特に限定されるものではないが、アルカリ金属水酸化物の水溶液を、第1分散液に添加しながら攪拌混合することが均一性を高めるために好ましい。
【0036】
(第3工程)
第3工程では、第2分散液から不純物を除去する。第2分散液には、第2工程で添加した塩基性物質に由来するイオンや、第2工程で副生する塩などの不純物が含まれている。これらの不純物を除去することにより、第4工程で得られる金属酸化物ナノ粒子の純度を高め、反応容器の腐食を抑制することが可能となるため、第4工程の水熱反応を行う前に、前記第3工程を行うことが好ましい。
【0037】
不純物の除去の方法としては、特に限定されるものでないが、例えば、濾過や遠心分離により、表面に金属水酸化物を担持する無機酸化物担体を回収し、水洗した後、水を含む分散媒に再分散させる方法や、イオン交換樹脂を用いて、第2分散液の分散媒からイオンを除去する方法が挙げられる。
【0038】
(第4工程)
第4工程では、無機酸化物担体の表面に担持された金属水酸化物を、無機酸化物担体と共に亜臨界状態または超臨界状態の水の存在下で水熱反応させ、目的とする金属酸化物ナノ粒子を得る。水熱反応を行うための反応装置としては、回分式(バッチ式)の反応装置や連続式(流通式)の反応装置を用いることができる。
【0039】
(バッチ式反応容器)
バッチ式の反応装置としては、原料を封入する反応容器と、反応容器を所定温度に加熱し保温する加熱器と、を備える装置を用いる。
【0040】
反応容器としては、保持温度に対して充分な耐熱性を持ち、反応時の圧力に対して充分な耐圧性を持ち、金属水酸化物や副生塩、塩基性物質など、反応系に存在するまたは存在が予想される物質に対して、充分な耐食性を持つ構造、材質のものを選べばよい。このような材料としては、例えばSUS316などのステンレス鋼や、ハステロイ、インコネルなどのニッケル合金、あるいはチタン合金を挙げることができる。また、金などの耐食性の高い材料で配管の一部または全部の内面をライニングしてもよい。
【0041】
加熱器としては、例えば電気炉を利用することができる。加熱器は、昇温時または所定温度保持時に、反応容器内の内容物を均一な分散状態に保つため、反応容器を振盪可能な構成としてもよい。
【0042】
このような反応装置では、保持する所定温度に応じて反応容器内に入れる水量を調整し、水熱反応時の反応容器内の圧力を調整し、反応系内に亜臨界状態または超臨界状態の水を存在させ、金属水酸化物の水熱反応を行う。
【0043】
所定時間保持して水熱反応をさせた後には、反応容器を冷却して反応生成物を回収する。反応容器の冷却方法としては、特に限定されないが、反応時間の管理が容易となるため、反応容器ごと水に浸けるなどして急冷する方法が好適に用いられる。反応容器から回収された反応生成物は、固液分離、洗浄、乾燥させて粉末状態で用いてよいし、分散液やスラリーで用いてもよい。
【0044】
(流通式反応容器)
以下に、本発明において連続的に水熱反応を行うための反応装置について、図面を参照しながら説明する。図1は、連続的に水熱反応を行うための流通式反応装置の例を示す図である。図2は、流通式反応装置における反応器の例を示す説明図である。
【0045】
図1に示す水タンク11,21は、水を供給するためのタンクである。原料タンク22は、第2分散液を供給するためのタンクである。用いる第2分散液は不純物が除去されていることが好ましい。弁110,210,220を開けることにより、これらのタンクから液が供給される。
【0046】
これら水タンク11,21および原料タンク22からは、それぞれ弁110,210,220を開けることにより、貯留されている液が装置内に供給される。弁110の下流側に設けられた送液ポンプ13は、水タンク11から加熱器14に水を送液する。
【0047】
一方、弁210,220の下流側では、水タンク21および原料タンク22から延在する配管が合流している。合流部分の下流側には送液ポンプ23が設けられ、水タンク21から供給される水、または原料タンク22から供給される第2分散液のいずれか一方または両方を加熱器24に送液する。
【0048】
加熱器24では、送液された第2分散液を予備的に加熱することができる。予備加熱の温度は、好ましくは100℃〜330℃であり、より好ましくは150℃〜300℃である。混合物の予備加熱により、混合物の水熱反応が部分的に行われてもよい。
【0049】
加熱器14と加熱器24に送られたそれぞれの液は、混合部30で混合され、主に反応器40内で水熱反応する。
【0050】
図2は、反応器の概要を示す図である。反応器40内には、内部配管41とその配管を加熱する加熱器44があり、内部配管41は外部の配管に接続されている。反応器40においては、内部配管41の長さを調節することにより、反応器40における反応時間を調節することができる。内部配管41の形状として、例えば、ジグザグ状、らせん状など、種々の形状を選択使用することにより、内部配管41の長さを調節することができる。
【0051】
配管、内部配管の材質は、保持温度に対して充分な耐熱性を持ち、反応時の圧力に対して充分な耐圧性を持ち、金属水酸化物や副生塩、塩基性物質など、反応系に存在するまたは存在が予想される物質に対して、充分な耐食性を持つ構造、材質のものを選べばよい。このような材料としては、例えばSUS316などのステンレス鋼や、ハステロイ、インコネルなどのニッケル合金、あるいはチタン合金を挙げることができる。また、金などの耐食性の高い材料で配管や内部配管の一部または全部の内面をライニングしてもよい。
【0052】
図1に戻って、反応器40における水熱反応後、反応生成物を含む分散液やスラリーは、冷却器51により冷却され、背圧弁53を通過して、回収容器60で回収される。
【0053】
このような装置においては、弁110と、弁210(または弁220)とを開け、送液ポンプ13,23を動かし、さらに、背圧弁53を開閉することにより、これら送液ポンプ13,23から背圧弁53までの配管内の圧力を調節することができる。また加熱器14,24および反応器40内の加熱器44の温度を調節することにより、亜臨界状態または超臨界状態の水を得ることができる。
【0054】
より具体的には、送液ポンプ13,23を駆動させ、背圧弁53を用いて配管内の圧力を適宜調節して、加熱器14,24および反応器40内の加熱器44の温度を適宜調節して、反応器内の水を亜臨界状態または超臨界状態になるように調整する。原料タンク22から不純物が除去された第2分散液を送ると、主として混合部30以降の配管内で水熱反応が行われ、水熱反応物が生成し、生成した反応生成物を含む分散液やスラリーを回収容器60で回収される。また、不純物が除去された第2分散液を原料タンク22から送る前後に、水タンク21から水を送り、配管の予備加熱、配管の洗浄などを行うことも可能である。水熱反応後、生成した反応生成物を含む分散液やスラリーについて、フィルター52を用いて、粗大粒子の除去を行うことなどにより、反応生成物を含む分散液やスラリー中の粒子の粒度を調整してもよい。
【0055】
回収容器60で回収された反応生成物は、固液分離、洗浄、乾燥させて粉末状態で用いてよいし、分散液やスラリーで用いてもよい。
【0056】
以上のような反応装置を用いて金属水酸化物の水熱反応を行い、無機酸化物担体の表面に金属酸化物ナノ粒子を形成する。
【0057】
無機酸化物担体の表面に形成されるナノ粒子の粒径は、透過型電子顕微鏡(Transmission Electron Microscope;TEM)を用いて得られるTEM写真から測定することができる。
【0058】
得られる金属酸化物ナノ粒子の大きさ(粒径)は、上述した無機酸化物担体の大きさとの相対的な関係から、1nm以上50nm以下であることが好ましく、1nm以上10nm以下であることがより好ましい。金属酸化物ナノ粒子の大きさ(粒径)が50nmを超えると、金属酸化物ナノ粒子は無機酸化物担体から脱離し、金属酸化物ナノ粒子の凝集が起こりやすい。このように微細な大きさ(粒径)の金属酸化物ナノ粒子であっても、TEM写真から粒径を測定可能である。
【0059】
また、無機酸化物担体の表面のナノ粒子が目的とする金属酸化物を含むことは、X線光電子分光分析(X-ray Photoelectron Spectroscopy;XPS)により得られるスペクトルの同定や、透過型電子顕微鏡(Transmission Electron Microscope;TEM)の電子回折解析を行うことにより確認することができる。
【0060】
以上のような金属酸化物ナノ粒子の製造方法では、第1工程で金属イオンが無機酸化物担体の表面に担持され、空間位置が固定された状態で水酸化物、酸化物へ変化させることで目的物である金属酸化物を得る。そのため、金属イオンに由来する反応種が、反応過程においても微細に分散した状態を保持し、凝集を抑制して金属酸化物ナノ粒子を得ることができる。
【0061】
対して、無機酸化物担体で担持されない金属イオン(例えば、金属塩の水溶液)から、同様に水酸化物、酸化物へと変化させて金属酸化物粒子を形成した場合には、反応過程で凝集しやすいため、目的とするナノ粒子は得られない。
【0062】
また、以上のようにして得られる金属酸化物ナノ粒子は、凝集が抑制されたものとなる。
【0063】
なお、無機酸化物担体の表面に担持された金属酸化物ナノ粒子は、無機酸化物担体ごと用いることとしてもよく、無機酸化物担体から剥離して用いることとしてもよい。担体から金属酸化物ナノ粒子を剥離する方法としては、例えば、酸や塩基を用いて担体のみを溶解させた後、遠心分離にて金属酸化物ナノ粒子を回収する方法を挙げることができる。無機酸化物担体から剥離した金属酸化物ナノ粒子は、粉末状態で用いてもよいし、分散媒に分散させて分散液やスラリー状態で用いてもよい。
【0064】
以上、添付図面を参照しながら本発明に係る好適な実施の形態例について説明したが、本発明は係る例に限定されないことは言うまでもない。上述した例において示した各構成部材の諸形状や組み合わせ等は一例であって、本発明の主旨から逸脱しない範囲において設計要求等に基づき種々変更可能である。
【実施例】
【0065】
以下に本発明を実施例により説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0066】
実施例で用いる無機酸化物担体の分散粒径は、サンプルの状態に応じて、以下の測定装置を用いて体積分布より中心粒径を算出し採用した。
【0067】
(静置状態で略均一に分散する無機酸化物担体の測定)
装置: ZETASIZER Nano-ZS(MaLvern Instruments Ltd.社製)
レーザー:He−Ne,4.0mw,633nm
セル:ポリスチレン製セル
測定温度:25℃
サンプル:水で1質量%に希釈した分散液を用いた
【0068】
(静置状態で分散しない(沈降する)無機酸化物担体の測定)
装置: MASTERSIZER 2000(MaLvern Instruments Ltd.社製)
レーザー強度:1
サンプル測定時間:5秒
バックグラウンド測定時間:12秒
回転数:2000rpm
超音波照射出力:100%
測定温度:室温(23℃)
サンプル:試料をそのまま測定部に添加し用いた
【0069】
実施例および比較例では、必要に応じTEM観察、走査型電子顕微鏡(SEM)による観察、XPS分析を行った。各分析条件を以下に示す。
【0070】
(TEM分析)
装置:JEOL JEM−2200FS(日本電子株式会社製)
加速電圧:200kV、スポットサイズ:4
像撮影:明視野像、対物レンズ絞り:無し、露光時間:2秒
電子回折像(ナノビーム電子回折):ビーム径 1.9nm,カメラ長 30〜40cm
【0071】
TEM観察を行うサンプルは、試料をメノウ乳鉢で粉砕後、エタノールで懸濁液にし、TEM用のメッシュ(μグリッド)に滴下して調製した。
【0072】
(SEM観察)
装置:JEOL JSM−500(日本電子株式会社製)
フィラメント電流値:20μA 、加速電圧:20kV、
スポットサイズ:20、作動距離:20mm
【0073】
SEM観察を行うサンプルは、試料をアルミ製ステージに固定したカーボンテープ上に載せ、Au蒸着を行い調製した。蒸着条件は以下の通りである。
装置:E101(日立製作所社製)、電流値10〜15mA、圧力20Pa、蒸着時間8分
【0074】
(XPS分析)
装置: Quantera SXM(ULVAC PHI社製)
X線:AlKα線(1486.6eV)
X線スポット径:100μm
中和条件:中和電子銃(1eVの電子線)、低速Arイオン銃(10eVのArイオンビーム)
サンプリング:試料をSUS製のカップに入れ、均して平坦にした面を分析した。
【0075】
(実施例)
イオン交換水48.7685gに、無機酸化物担体としてシリカ質量で1質量%となるようにコロイダルシリカ(日産化学株式会社製、スノーテックスO−40)1.2315g(SiO換算:0.5g)を添加して分散液を調製した。なお、用いたコロイダルシリカ中のシリカについて、ZETASIZER Nano-ZSを用いて分散粒径を測定したところ、分散粒径は6.8nmであった。
【0076】
また、イオン交換水9.9316gに、金属塩として銅質量で0.18質量%となるように硝酸銅三水和物(和光純薬工業株式会社製)0.0684g(Cu換算:0.018g)を溶解させ、硝酸銅溶液を調製した。
【0077】
これらを混合し攪拌して、銅イオンを表面に担持したシリカ分散液(第1分散液)を得た。
【0078】
次いで、イオン交換水4.2262gと水酸化ナトリウム(和光純薬工業株式会社製)0.0238gとを混合して得られる0.56質量%の水酸化ナトリウム水溶液4.25gを第1分散液に添加し、攪拌して、シリカ表面の銅イオンを水酸化銅とし、水酸化銅を表面に担持したシリカ分散液(第2分散液)を得た。
【0079】
次いで、得られた第2分散液を遠心分離装置(H−1500F、KOKUSAN社製)を用い、回転速度14000rpmで5分間運転して遠心分離し、固形分を回収した。回収した固形分をイオン交換水でリパルプ洗浄した後、シリカ濃度が1質量%となるようにイオン交換水と混合して、不純物が除去された第2分散液を得た。
【0080】
不純物が除去された第2分散液を、内容積5mlのハステロイ製の反応容器内に、1.79ml入れ密閉した後、400℃に加熱した電気炉内に入れ、振盪しながら10分加熱して水熱反応を行った。固形分を室温(23℃)にて乾燥させ、反応生成物を得た。
【0081】
図3は、得られた反応生成物のTEM写真である。観察の結果、1nm以上5nm以下の大きさ(粒径)を持つ分散したナノ粒子(図中、矢印で示す)が確認された。
【0082】
当該ナノ粒子について、XPS分析を行ったところ、酸化銅が含まれていることを確認した。また、TEM像において、ナノ粒子に格子縞が観察された。
【0083】
(比較例)
イオン交換水9.2397gに、金属塩として銅質量で2質量%となるように硝酸銅三水和物(和光純薬製)0.7603g(Cu換算:0.2g)を溶解して、硝酸銅溶液を調製した。さらに、イオン交換水8.7411gと水酸化ナトリウム1.2589gとを混合して得られる12.6質量%の水酸化ナトリウム水溶液10gを添加し、攪拌して、水酸化銅を得た。
【0084】
次いで、得られた水酸化銅を遠心分離装置(H−1500F、KOKUSAN社製)を用い、回転速度14000rpmで5分間運転して遠心分離し、固形分を回収、イオン交換水にてリパルプ洗浄し、銅濃度が1質量%となるようイオン交換水と混合して、不純物が除去された水酸化銅分散液を得た。
【0085】
不純物が除去された水酸化銅分散液を、実施例と同様にして水熱反応させ、固形分を室温にて乾燥させて、反応生成物を得た。
【0086】
図4は、得られた反応生成物のSEM写真である。観察の結果、0.1μm以上2μm以下の大きさ(粒径)を持つ粗大な凝集粒子が確認された。また、XPS分析を行ったところ、得られた粒子は酸化銅粒子であることを確認した。
【0087】
これらの結果から、本発明の方法では、得られる金属酸化物ナノ粒子の凝集が抑えられることが確認され、本発明の有用性が確かめられた。
【符号の説明】
【0088】
11,21,…水タンク、22…原料タンク、13,23…送液ポンプ、14,24…加熱器、30…混合部、40…反応器、41…内部配管、44…加熱器、51…冷却器、52…フィルター、53…背圧弁、60…回収容器、110,210,220…弁

【特許請求の範囲】
【請求項1】
無機酸化物担体の表面に担持された金属水酸化物を、前記無機酸化物担体と共に亜臨界状態または超臨界状態の水の存在下で水熱反応させる工程を含む金属酸化物ナノ粒子の製造方法。
【請求項2】
前記水熱反応させる工程に先だって、前記無機酸化物担体と、前記金属酸化物を構成する金属原子を金属イオンとして含む金属塩とを、水を含む分散媒中で混合し、前記金属イオンを前記無機酸化物担体の表面に担持させる工程と、
得られる第1分散液と塩基性物質とを混合し、前記金属イオンを前記金属水酸化物とする工程と、を有する請求項1に記載の金属酸化物ナノ粒子の製造方法。
【請求項3】
前記塩基性物質は、アルカリ金属水酸化物の溶液である請求項2に記載の金属酸化物ナノ粒子の製造方法。
【請求項4】
前記分散媒が酸性である請求項2に記載の金属酸化物ナノ粒子の製造方法。
【請求項5】
前記水熱反応させる工程に先だって、前記金属水酸化物を担持した前記無機酸化物担体が分散する第2分散液から不純物を除去する工程を有することを特徴とする請求項2から4のいずれか1項に記載の金属酸化物ナノ粒子の製造方法。
【請求項6】
前記無機酸化物担体が、分散粒径1nm以上300nm以下である請求項1から5のいずれか1項に記載の金属酸化物ナノ粒子の製造方法。
【請求項7】
前記金属水酸化物を構成する金属イオンが、遷移金属イオンである請求項1から6のいずれか1項に記載の金属酸化物ナノ粒子の製造方法。
【請求項8】
請求項1から7のいずれか1項に記載の金属酸化物ナノ粒子の製造方法で得られる金属酸化物ナノ粒子。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2013−60356(P2013−60356A)
【公開日】平成25年4月4日(2013.4.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−180137(P2012−180137)
【出願日】平成24年8月15日(2012.8.15)
【出願人】(000002093)住友化学株式会社 (8,981)
【Fターム(参考)】