説明

金属酸化物・酸化亜鉛固溶体粒子とその製造方法、球状粉体、被覆球状粉体及び化粧料

【課題】環境に優しく、簡便で低コストな方法にて、粒子径および形態の制御が可能な金属酸化物・酸化亜鉛固溶体粒子と、この金属酸化物・酸化亜鉛固溶体粒子が集積された球状粉体に疎水性の化合物を表面被覆してなる被覆球状粉体を提供し、この被覆球状粉体を配合することによって、使用感の優れた化粧料を提供する。
【解決手段】水溶性亜鉛化合物とグリコールとアミン化合物および一種または二種以上の電荷が+4以下の金属塩を混合し、50℃〜100℃でソフト溶液反応を行うことにより製造され、一次粒子が2〜200nmの金属酸化物・酸化亜鉛固溶体粒子が集積し、10〜5000nmの球状を形成している球状粉体、又は、該球状粉体を300℃〜1500℃で焼成した球状粉体を用いて、その球状粉体の表面に、ポリシロキサン、アルキルアルコキシシラン化合物、アルキルチタネート化合物及びフッ素化合物から選ばれる1種又は2種以上の化合物で被覆処理して被覆球状粉体を得る。また、この被覆球状粉体を化粧料に配合する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属酸化物・酸化亜鉛固溶体粒子及びその製造方法と、金属酸化物・酸化亜鉛固溶体粒子が集積された球状粉体と、その球状粉体に疎水性の化合物を表面被覆してなる被覆球状粉体と、球状粉体及び/又は被覆球状粉体を含有する化粧料に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、酸化亜鉛粉体が、例えば日焼け止め剤やファンデーション、アイシャドウ、口紅などのメイクアップ化粧料において、紫外線遮蔽剤として、あるいはカバー力を付与するためなどに用いられている。また、球状の粒子は、皮膚に塗布した時に感触を向上させることを目的として用いられ、表面に小さな凹凸を付与された粒子は、ソフトフォーカス性を向上させることを目的として用いられている。また、上記酸化亜鉛粉体はフィラーなどの工業用途としても使用され、剛性の付与や制振効果の付与、表面平滑性の付与などを目的として配合されている。
【0003】
これら化粧品やフィラーなどに用いられる酸化亜鉛粉体の粒子としては、粒子の形状及び粒子径が均一なもの、表面に小さな凹凸を付与することによって高いソフトフォーカス性が付与されたもの、さらには高い紫外線遮蔽効果をもつものが求められている。
【0004】
しかしながら、現在用いられている酸化亜鉛粉体の粒子は、粒子径の制御が困難であり、粒度分布に幅があるものがほとんどで、形態も不均一である。また、単分散した状態ではなく、粒子が複数重なり合った凝集体を形成しており、酸化亜鉛の特性を十分に発揮できないという問題点がある。また、酸化亜鉛は特に皮膚に塗布した時の感触が悪いなどの問題点がある。このため、粒子径が制御できるとともに、形態を球状に制御でき、皮膚に塗布した時の感触が良く、紫外線遮蔽効果の高い酸化亜鉛粒子を提供することが求められている。
【0005】
一方、酸化亜鉛粉体の製造方法については、各種の方法が知られている。一般的には、乾式法としてフランス法と呼ばれる製造方法が知られている。この方法は、溶融させた金属亜鉛をレトルトの中で約1000℃に加熱し、発生する亜鉛蒸気を空気で酸化させ、これを送風機で空冷管に送って冷却し、サイクロン及びバグフィルターで分離、捕集する方法である。一方、湿式法としては、ドイツ法が知られている。この方法は、硫酸亜鉛または塩化亜鉛の水溶液にソーダ灰溶液を加えてできる白色の塩基性炭酸亜鉛の沈殿を水洗乾燥後焼成して製造する方法である。しかし、これらの方法で作製された酸化亜鉛はサイズが不均一であるという問題点がある。また、高温での処理が必要になるため、環境に与える影響があるとともに、反応装置がコスト高になるという問題点がある。
【0006】
また、球状の酸化亜鉛を合成する方法としては、ミスト焼成法と呼ばれる方法が知られている。しかしながら、この方法では中空体ができやすく、かつ球状の粒子を得ることが困難である。
【0007】
特許文献1においては、低温希薄亜鉛蒸気を酸素と接触させることによって、球状の酸化亜鉛粒子を製造する方法が提案されている。しかしながら、この方法では、高温の亜鉛溶湯に不活性ガスを吹き込むことによって亜鉛蒸気を発生させる必要がある。また、その亜鉛蒸気には毒性があるという問題点もある。
【0008】
また、特許文献2においては、有機亜鉛化合物を用いた球状酸化亜鉛の合成方法が提案されている。しかしながら、この方法では焼成時の温度を高く設定する必要がある。また、出発原料に有機亜鉛化合物を使用しているため、焼成過程で有毒ガスが発生する恐れがある。更に、得られる酸化亜鉛の収率が低く、しかも他の形状の酸化亜鉛との混在化でしか得ることができないという問題点がある。
【0009】
また、酸化亜鉛には光触媒活性があることが知られている。酸化亜鉛は太陽光中の紫外線を吸収して、肌に対する太陽光中の紫外線の直接的な影響を除去できる半面、大量に発生する自由電子や正孔に由来する活性酸素・フリーラジカルによって様々な皮膚に対する悪影響、すなわち光毒性が懸念されている。そこで、光触媒活性粉末における主に活性酸素・フリーラジカルによる光毒性に対する防御方法として、光触媒活性粉末の表面改質や表面処理、さらにはラジカルトラップ剤の配合などが提案されているが、いまだ完全ではなく、光触媒活性の低い酸化亜鉛粒子が求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開昭63−288914号公報
【特許文献2】特開平11−49516号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、前述のような問題点に鑑みてなされたもので、環境に優しく、簡便で低コストな方法にて、形態を球状に制御できると同時に粒子径の制御もでき、粒子表面に小さな凹凸を付与することができ、かつ光触媒活性を低減することのできる金属酸化物・酸化亜鉛固溶体粒子を提供し、またその金属酸化物・酸化亜鉛固溶体粒子が集積された球状粉体を提供し、さらに、この球状粉体に疎水性の化合物を表面被覆することにより疎水性が付与された被覆球状粉体を提供し、併せて球状粉体及び/又は被覆球状粉体を配合することによって、紫外線遮蔽効果が高く、ソフトフォーカス性に優れ、光触媒活性を抑えたことにより活性酸素・フリーラジカルなどに基づく光毒性が抑制され、皮膚老化や皮膚症状の悪化などを未然に防止でき、使用感の優れた化粧料を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
前記目的を達成するために、本発明者らは鋭意研究した結果、水溶性亜鉛化合物とグリコールとアミン化合物及び電荷が+4以下の金属イオンの金属塩を用い、ソフト溶液反応にて、粒子を球状に制御することができ、粒子径を均一に制御することができる金属酸化物・酸化亜鉛固溶体粒子の製造方法を見出した。
また、上記製造方法にて得られた金属酸化物・酸化亜鉛固溶体粒子を300℃から1500℃にて焼成処理しても良く、この焼成処理を行うことにより、比表面積を制御し、吸油量や結晶性を制御することができる。
さらに、得られた金属酸化物・酸化亜鉛固溶体粒子が集積された球状粉体をポリシロキサン、アルキルシラン化合物、アルキルチタネート化合物、フッ素化合物などの化合物で表面被覆することにより、疎水性を有する被覆球状粉体を得ることができ、また、その被覆球状粉体を化粧料に配合することによって、紫外線遮蔽効果、ソフトフォーカス性や使用感に優れ、更に光毒性が抑制された化粧料を提供することが可能であることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0013】
要するに、第1発明による金属酸化物・酸化亜鉛固溶体粒子は、酸化亜鉛に電荷が+4以下の金属イオンをドープした球状粒子よりなることを特徴とするものである。ここで、ドープとは、何らかの形で酸化亜鉛粉体に金属酸化物を付加することを意味し、その付加状態を問うものではなく、酸化亜鉛に金属酸化物の一部が入り込んでいる状態も、酸化亜鉛粉体に金属酸化物が被覆されている状態も、このドープの概念に包括される。
【0014】
第2発明による金属酸化物・酸化亜鉛固溶体粒子の製造方法は、第1発明の金属酸化物・酸化亜鉛固溶体粒子の製造方法であって、水溶性亜鉛化合物とグリコールとアミン化合物および電荷が+4以下の金属塩とを混合し、50℃〜100℃でソフト溶液反応を行うことにより合成することを特徴とするものである。
また、第3発明による金属酸化物・酸化亜鉛固溶体粒子の製造方法は、第1発明の金属酸化物・酸化亜鉛固溶体粒子の製造方法であって、水溶性亜鉛化合物とグリコールとアミン化合物および電荷が+4以下の金属塩とを混合し、50℃〜100℃でソフト溶液反応を行うことにより合成し、その後300℃〜1500℃で焼成することを特徴とするものである。
上記金属酸化物・酸化亜鉛固溶体粒子の製造に際しては、水溶性亜鉛化合物、グリコール、アミン化合物及びドープする金属塩以外に、pHを調整するために、水酸化ナトリウムなどを加えても構わない。
【0015】
第4発明による球状粉体は、第1発明の金属酸化物・酸化亜鉛固溶体粒子の一次粒子の粒子径が2〜200nmであり、それらが集積されて、20〜5000nmの球状を形成していることを特徴とするものである。
【0016】
第5発明による被覆球状粉体は、第4発明の球状粉体の表面を、下記一般式(1)にて示されるポリシロキサン、下記一般式(2)にて示されるアルキルアルコキシシラン化合物、下記一般式(3)にて示されるアルキルチタネート化合物、下記一般式(4)、下記一般式(5)又は下記一般式(6)で示されるフッ素化合物から選ばれる1種又は2種以上の化合物で被覆処理したことを特徴とするものである。
【化1】

(式中、mは1以上の整数であり、nは0以上の整数である。また、R〜Rは水素、アルキル基、アルコキシル基又はフェニル基であり、同一であっても異なっていても良い。)
Si(OR ・・・・・(2)
(式中、R及びRは炭素数が1以上の飽和炭化水素基である。)
(RCOO)Ti(OR ・・・・・(3)
(式中、R及びRは炭素数が1以上の飽和炭化水素基である。また、a及びbはそれぞれ1〜3の整数であり、a+b=4の関係を有する。なお、ここで示されるアルキル基は直鎖状又は分岐状であって、単一鎖長のものであっても複合鎖長のものであっても良い。)
CF(CFCHCHSi(OR ・・・・・(4)
(式中、Rは炭素数が1以上の飽和炭化水素基であり、nは1以上の整数である。)
【化2】

(式中、nは4以上の整数、mは1又は2であり、Mは1価の金属イオン、アンモニウム塩又はジエタノールアミン塩である。)
【化3】

(式中、nは4以上の整数、Mは1価の金属イオン、アンモニウム塩又はジエタノールアミン塩である。)
【0017】
また、第6発明による化粧料は、第4発明の球状粉体及び/又は第5発明の被覆球状粉体を含有することを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0018】
第1発明〜第3発明によれば、低コストな方法にて、粒子形態を球状に制御できるとともに、粒子径の制御もでき、かつ粒子表面に小さな凹凸を付与することができ、しかも光触媒活性を低減された金属酸化物・酸化亜鉛固溶体粒子を得ることができる。また、第3発明のように、第2発明にて製造された金属酸化物・酸化亜鉛固溶体粒子を300℃〜1500℃で焼成することにより、比表面積を1〜100m/gの範囲に入るように調整し、結晶性を向上させるとともに、吸油量が制御された金属酸化物・酸化亜鉛固溶体粒子を得ることができる。
また、第5発明によれば、第4発明の球状粉体を用いて、その球状粉体の表面を、ポリシロキサン、アルキルシラン化合物、アルキルチタネート化合物、フッ素化合物などの疎水性を示す化合物で被覆することで、疎水性を有する球状粉体を得ることができる。
また、第6発明によれば、前記球状粉体及び/又は被覆球状粉体を化粧料に配合することにより、紫外線遮蔽効果、ソフトフォーカス性及び感触に優れ、光触媒活性が抑えられ、経時安定性に優れた化粧料を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】製造実施例1にて得られた酸化マグネシウムをドープした球状粉体を透過型電子顕微鏡及び走査型電子顕微鏡にてそれぞれ観察した写真(a)(b)
【図2】製造実施例1〜5の球状粉体及び比較品の透過率測定結果を示すグラフ
【発明を実施するための形態】
【0020】
次に、本発明による金属酸化物・酸化亜鉛固溶体粒子とその製造方法、球状粉体、被覆球状粉体及び化粧料の具体的な実施の形態について説明する。
【0021】
本発明の金属酸化物・酸化亜鉛固溶体粒子の一次粒子径は2〜200nm程度であり、その一次粒子が集積し、20〜5000nmの球状粉体を形成している。ここで、集積した球状粒子の粒子径は反応の条件によって制御することができる。また、本発明の金属酸化物・酸化亜鉛固溶体粒子の平均一次粒子径は、透過型電子顕微鏡(TEM)にて観察し、任意の20個の一次粒子の直径を計測し、その平均値を算出することによって測定することができる。
【0022】
本発明の球状粉体は、次のようにして製造される。すなわち、亜鉛とグリコールとアミン化合物とドープする金属塩と水の割合を、混合物全体を100質量%とするとき、亜鉛の割合が0.01〜10.0質量%、グリコールの割合が10〜50質量%、アミン化合物の割合が2〜20質量%、ドープする金属の割合が0.00001〜0.5質量%、水の割合が40〜80質量%の範囲内になるように混合する。その後、50℃〜100℃の温度条件下で、10分〜5時間ソフト溶液反応を行い、水洗、ろ過、乾燥、粉砕を行うことにより、球状粉体を得る。なお、加熱反応中は、目的の粒子サイズにするために、撹拌を行っても構わない。
【0023】
前記水溶性亜鉛化合物としては、硝酸亜鉛、硫酸亜鉛、酢酸亜鉛、塩化亜鉛などを用いることができる。
【0024】
グリコールとしては、エチレングリコール、プロピレングリコール、トリメチレングリコール、1,3−プロパンジオール、1,3−ブタンジオール、1,4−ブタンジオール、1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、1,8−オクタンジオール、1,10−デカンジオール、ピナコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール等のアルキレングリコールや、シクロペンタン−1,2−ジオール、シクロヘキサン−1,2−ジオール、シクロヘキサン−1,4−ジオール等の脂環式グリコール類や、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、トリプロピレングリコールモノメチルエーテル、3−メチル−3−メトキシブタノール、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、トリエチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノアセテート等のグリコール類のモノエーテル及びモノエステル等の誘導体等が挙げられる。このうち、エチレングリコールが特に好ましい。
【0025】
アミン化合物としては、アンモニア、エチルアミン、エタノールアミン、ジエチルアミン、ジエタノールアミン、トリエチルアミン、トリエタノールアミン、ヘキサメチレンテトラミンなどが挙げられる。このうち、トリエタノールアミンが特に好ましい。
【0026】
ドープする原子価が4以下の金属イオンの金属塩としては、硝酸鉄、硝酸ジルコニウム、硝酸マグネシウム、硝酸コバルト、硝酸ニッケル、硝酸アルミニウム、硝酸カルシウム、硝酸銅、硝酸クロム、硝酸マンガン、塩化カルシウム、塩化銀、塩化クロム、塩化コバルト、塩化すず、塩化鉄、塩化銅、塩化ニッケル、塩化マグネシウム、硫酸アルミニウム、硫酸カルシウム、硫酸銀、硫酸すず、硫酸鉄、硫酸銅、硫酸ニッケル、硫酸マグネシウム、硫酸マンガンなどが挙げられるが、これらから合成される金属酸化物のドープにより、自由電子および正孔を補足するという条件を満足する限り、特に限定されるものではない。
【0027】
酸化亜鉛にドープされる金属酸化物の割合は、金属酸化物をドープした球状粉体全体の0.05質量%〜10質量%が好適である。ドープされる金属酸化物の割合が0.05質量%未満であると、金属酸化物による光毒性の抑制効果が発揮できず、逆に10質量%を超えると、紫外線遮蔽効果が低下するなどの問題がある。
【0028】
前記反応における反応温度は50℃〜100℃とするのが好ましいが、最も良い条件としては70℃以上である。また、オートクレーブやマイクロ波水熱法などの反応方法を用いることによって100℃以上の高温で行っても構わない。しかし、反応装置が高価であるため、一般的に使用されている反応装置で反応が可能な100℃以下での反応とするのが好ましい。
【0029】
上記方法にて得られた球状粉体を焼成する際の焼成条件としては、300℃〜1500℃の温度範囲で行うのが好ましい。より好ましくは、400℃〜800℃の範囲である。焼成温度が300℃未満の場合においても、X線回折にて分析を行った結果、酸化亜鉛の結晶構造であることが確認できるが、400℃以上で焼成することによって、結晶の配向性が向上し、結晶中での酸素欠陥などの欠陥が減少する。また、紫外線遮蔽効果も長波長側の波長から紫外線を遮蔽することができる。一方、1500℃よりも高い温度になると、高温での処理となり、環境への負荷が増大し、形状も酸化亜鉛が融解し球状を維持できない。
【0030】
次に、本発明に係る疎水性の球状粉体(被覆球状粉体)について説明する。
本発明において、球状粉体がファンデーションやサンスクリーン剤として利用される場合、皮膚に塗布したあと、耐水性が必要となるため、この球状粉体に疎水性を付与する必要がある。粉体に疎水性を付与するには、ポリシロキサン、アルキルシラン化合物、アルキルチタネート化合物、フッ素化合物などの化合物で粉体の表面が被覆される。また、上記の化合物以外にも、従来公知の各種の表面処理を施すことができる。なお、これらの処理は複数組み合わせることも可能である。
【0031】
具体的な表面被覆有機化合物としては、シリコン系化合物として、メチルハイドロジエンポリシロキサン、ジメチルポリシロキサン、アクリルシリコン共重合体が挙げられ、アルキルシラン系として、n−オクチルトリエトキシシランが、アルキルチタネート系として、イソプロピルトリイソステアロイルチタネートが、フッ素系として、パーフルオロアルキルリン酸エステル、パーフルオロアルキルエトキシシランなどが挙げられる。
【0032】
また、疎水性化合物を表面被覆する処理方法としては、被覆処理される顔料を適当なミキサー中で撹拌し、表面被覆する化合物を液滴下あるいはスプレー噴霧にて加えた後、一定時間高速強撹拌する。その後、撹拌を続けながら80〜200℃に加熱熟成させることによって、反応表面被覆処理を行う方法が一般的である。あるいは、表面被覆する化合物をエタノール、イソプロピルアルコール、イソブタノール等のアルコール類、トルエン、n−ヘキサン、シクロヘキサン等の炭化水素系有機溶剤、アセトン、酢酸エチル、酢酸ブチル等の極性有機溶剤などに溶解させておき、この溶液に撹拌中に化粧料用顔料を添加撹拌した後、有機溶剤を完全に蒸発除去し、その後、80〜200℃に加熱熟成させることにより、表面被覆処理を行う方法等も挙げられる。
【0033】
また、混合分散方法としては、溶液の濃度や粘度などに応じて適当な方法を選択することができる。好適な例としては、ディスパー、ヘンシェルミキサー、レディゲミキサー、ニーダー、V型混合機、ロールミル、ビーズミル、2軸混練機等の混合機による方法や、水溶液と顔料を加熱空気中に噴霧して水分を一気に除去するスプレードライの方法などを選択することができる。また、粉砕を行う場合においては、ハンマーミル、ボールミル、サンドミル、ジェットミル等の通常の粉砕機を用いることができる。これらいずれの粉砕機によっても同等の品質のものが得られるため、特に限定されるものではない。
【0034】
この場合、顔料の表面被覆処理に用いられる化合物である成分の質量比は、被覆処理される顔料に対して0.5〜30質量%である。前記質量比が0.5質量%未満であるとロングラスティング効果と肌への均一な付着性が充分でなく、30質量%を超えると感触が非常に油っぽく湿った感じとなり、化粧料としては適さない。
【0035】
また、本発明の表面被覆された球状粉体(被覆球状粉体)を配合する化粧料の形態は特に限定されないが、ファンデーション、サンスクリーン、美容液、化粧水、口紅、美容クリーム、洗顔剤、香水、口内清涼剤、口臭予防剤、うがい剤、歯磨き、入浴剤、制汗剤、石鹸、シャンプー、リンス、ボディーソープ、ボディーローション、デオドラント剤、ヘアクリーム剤、色白剤、美肌剤、育毛剤などが挙げられる。
【0036】
また、本発明の球状粉体が配合される化粧料においては、その球状粉体以外に、通常の化粧料に用いられる油剤、粉体(顔料、色素、樹脂)、フッ素化合物、樹脂、界面活性剤、粘剤、防腐剤、香料、保湿剤、生理活性成分、塩類、溶媒、キレート剤、中和剤、pH調整剤等の成分を同時に配合することができる。ここで、前記粉体としては、例えば、赤色104号、赤色201号、黄色4号、青色1号、黒色401号等の色素、黄色4号アルミニウムレーキ、黄色203号バリウムレーキ等のレーキ色素、ナイロンパウダー、シルクパウダー、ウレタンパウダー、テフロンパウダー(テフロン:登録商標)、シリコンパウダー、セルロースパウダー、シリコンエラストマー等の高分子、黄酸化鉄、赤色酸化鉄、黒酸化鉄、酸化クロム、カーボンブラック、群青、紺青等の有色顔料、酸化チタン、酸化セリウム等の白色顔料、タルク、マイカ、セリサイト、カオリン等の体質顔料、雲母チタン等のパール顔料、硫酸バリウム、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、ケイ酸アルミニウム、ケイ酸マグネシウム等の金属塩、シリカ、窒化ホウ素等の無機粉体、微粒子酸化チタン、微粒子酸化鉄、アルミナ処理微粒子酸化チタン、シリカ処理微粒子酸化チタン、ベントナイト、スメクタイト等が挙げられる。これらの粉体の形状、大きさに特に制限はない。また、これらの粉体は従来公知の各種の表面処理が施されていてもいなくても構わない。表面処理の例としては、例えばアクリルシリコン処理、メチルハイドロジェンポリシロキサン処理、シリコーンレジン処理、オクチルトリエトキシシラン処理、N−アシル化リジン処理、有機チタネート処理、シリカ処理、アルミナ処理、セルロース処理、パーフルオロポリエーテル処理、フッ素化シリコーンレジン処理など親水性、親油性、撥水性の各種の処理を用いることが可能である。前記油剤としては、例えばセチルアルコール、イソステアリルアルコール、ラウリルアルコール、ヘキサデシルアルコール、オクチルドデカノール等の高級アルコール、イソステアリン酸、ウンデシレン酸、オレイン酸等の脂肪酸、グリセリン、ソルビトール、エチレングリコール、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール等の多価アルコール、ミリスチン酸ミリスチン、ラウリル酸ヘキシル、オレイン酸デシル、ミリスチン酸イソプロピル、ジメチルオクタン酸ヘキシルデシル、モノステアリン酸グリセリン、フタル酸ジエチル、モノステアリン酸エチレングリコール、オキシステアリン酸オクチル等のエステル類、流動パラフィン、ワセリン、スクワラン等の炭化水素、ラノリン、還元ラノリン、カルナバロウ等のロウ、ミンク油、カカオ油、ヤシ油、バーム核油、ツバキ油、ゴマ油、ヒマシ油、オリーブ油等の油脂、エチレン・α−オレフィン・コオリゴマー等が挙げられる。また、メチルハイドロジェンポリシロキサン、ジメチルポリシロキサン、メチルフェニルポリシロキサン、ポリエーテル変性オルガノポリシロキサン、フルオロアルキル・ポリオキシアルキレン共変性オルガノポリシロキサン、アルキル変性オルガノポリシロキサン、フッ素変性オルガノポリシロキサン、アモジメチコン、アミノ変性オルガノポリシロキサン、シリコンゲル、アクリルシリコン、トリメチルシロキシケイ酸、シリコンRTVゴム等のシリコン化合物、パーフルオロポリエーテル、フッ化ピッチ、フルオロカーボン、フルオロアルコール、フッ素化シリコーンレジン等のフッ素化合物が挙げられる。また、前記界面活性剤としては、例えばアニオン型界面活性剤、カチオン型界面活性剤、ノニオン型界面活性剤、べタイン型界面活性剤を用いることができる。前記溶媒としては、精製水、エタノール、軽質流動イソパラフィン、低級アルコール、エーテル類、LPG、フルオロカーボン、N−メチルピロリドン、フルオロアルコール、パーフルオロポリエーテル、代替フロン、揮発性シリコン等が挙げられる。
【実施例】
【0037】
次に、本発明による金属酸化物・酸化亜鉛固溶体粒子とその製造方法、球状粉体、被覆球状粉体及び化粧料の具体的な実施例について、図面を参照しつつ説明する。なお、本発明は以下に述べる実施例に限定されるものではない。以下、球状粉体を調製する実施例を「製造実施例」と称し、この球状粉体を用いて化粧料を調製する実施例を単に「実施例」と称することとする。
【0038】
(製造実施例1)
硝酸亜鉛6水和物14.87gに水を加え、全量が500mlになるように溶解した。その溶液に、硝酸マグネシウム・6水和物0.128gを加え溶解した。さらにエチレングリコール250gを添加した後、トリエタノールアミン62.5gを加え撹拌した。その後、2℃/分の昇温速度にて90℃にまで加温し、90℃に到達してから1時間90℃を保持した。その後、水洗、ろ過、乾燥を行い、一次粒子径が10nmで、球状に集積した状態で、300nmの球状粉体を得た。その後、400℃にて2時間焼成を行い、酸化マグネシウムをドープした球状粉体を得た。
図1には、製造実施例1にて得られた酸化マグネシウムをドープしてなる金属酸化物・酸化亜鉛固溶体粒子が集積した球状粉体を、透過型電子顕微鏡にて観察した写真(a)と、同球状粉体を走査型電子顕微鏡にて観察した写真(b)とがそれぞれ示されている。
【0039】
(製造実施例2〜5)
ドープする金属塩を亜鉛に対してモル比で1:100になるように加えたこと以外は、製造実施例1と同様にして球状粉体を得た。ドープした金属酸化物の金属塩としては、硝酸鉄・9水和物、硝酸コバルト・6水和物、硝酸ニッケル・6水和物、硝酸ジルコニル・2水和物を用いた。
【0040】
(製造実施例6)
製造実施例1にて得られた球状粉体に、メチルハイドロジェンポリシロキサンにて表面被覆処理を施した。
ヘンシェルミキサーに製造実施例1で得られた球状酸化亜鉛1000質量部を入れ、続いてメチルハイドロジェンポリシロキサン20.4質量部をイソプロピルアルコール125質量部に溶解させた溶液を滴下混合し、板状ベーマイトと良く混合した。その後、ヘンシェルミキサー内を加熱及び減圧し、イソプロピルアルコールを除去した。処理された粉体をヘンシェルミキサーから取り出し、粉砕して加熱処理を行い、シリコン化合物が2質量%処理された被覆球状粉体を得た。
【0041】
製造実施例1〜5で得られた球状粉体をシリコーンオイル(東レ・ダウコーニング株式会社製 SF8417)にて20質量%になるように混合し、フーバーマーラーにて100rpm、3回の条件で分散させた。その後、5cm×8cmの石英板の上にトランスポアテープを貼り、上記方法にて分散させた分散体0.08gをテープ上に均一に塗布した。その後15分間放置した後、SPFアナライザー(Labsphere社製 UV−1000S)を用いて、Sun Protection Factor(SPF)およびProtection grade of UVA(PA)の測定を行った。また、比較品として、市販されている一次粒子径が100〜200nmで、比表面積が10m/gの酸化亜鉛に上記シリコン処理の方法で同様に表面処理したものを用いた。その結果が表1に示されている。SPFおよびPAの測定結果において、市販品(比較品)と比較したところ、高い紫外線遮蔽効果があることが分かった。
【0042】
【表1】

【0043】
次に、上記測定に用いた分散体を用いて、透過率の測定を行った。この透過率の測定には、分散体を光路長が0.03mmの挟み込みセルに仕込み、分光光度計にて透明性の測定を行った。図2に透過率測定結果が示されている。図示のように、製造実施例1〜5にて製造された球状粉体は比較品と比較し、透明性の高いことが分かる。特に製造実施例2にて製造された、酸化鉄ドープ球状粉体は特に高い透明性が得られた。
【0044】
製造実施例1〜5の球状粉体及び比較品について光触媒活性についての測定を行った。光触媒活性の測定方法としては、一酸化窒素の光酸化試験を用いた。すなわち、濃度を1ppmに調整した一酸化窒素ガスを、光触媒粉体を入れた容器中に通気させ、光触媒粉体に290nm以上または400nm以上の光を照射させることによって、活性酸素・フリーラジカルが生成され、一酸化窒素が硝酸イオンに分解が進行する現象を利用し、光触媒活性の測定を行った。
光触媒粉体の試験片は20mm×15mmの平板にし、密閉容器に入れ、そこに濃度が1ppmの一酸化窒素ガスを200ml/分の流量で試験片の入った容器に通気させた。その後、試験片に290nm以上および400nm以上の光を照射した時の一酸化窒素ガスの濃度を測定した。光触媒活性の測定結果が表2に示されている。
【0045】
【表2】

【0046】
表2に示されている結果から明らかなように、金属酸化物をドープされた球状粉体は、一酸化窒素の残存率が高くなっていることが分かる。このことより光照射によって生成される光毒性が抑制されていることが判明した。
【0047】
(実施例1)
〔サンスクリーンの製造〕
表3に示される処方と下記製造方法に従いサンスクリーンを調製した。なお、表中の配合量の単位は質量%である。
【0048】
【表3】

製造方法:
成分AおよびBをそれぞれ80℃にて混合し、均一に分散したのを確認した後、30℃まで冷却する。冷却後成分Bを成分Aにホモミキサーにて撹拌しながら少しずつ添加し、均一になるまで良く混合し、球状粉体配合サンスクリーンを得た。
【0049】
(比較例1)
製造実施例6で製造されたシリコン処理球状酸化亜鉛の代わりに、シリコン処理された市販されている酸化亜鉛を用いた他は全て実施例1と同様にして製品を得た。
【0050】
実施例1及び比較例1で作製した化粧料について、女性パネラー10名によって、使用感に関する官能評価試験を実施した。試験はアンケート形式で実施し、各項目に0点から5点の間の点数をつけ、0点は評価が悪い、5点は評価が優れるとして数値化し、結果を全パネラーの平均点として表した。従って、点数が高い程評価が優れていることを示す。この評価結果が表4に示されている。
【0051】
【表4】

【0052】
表4の結果より、実施例1は比較例1よりも、使用感、化粧持ち、肌の透明感全てにおいて優れる結果となっていることが分かる。
【産業上の利用可能性】
【0053】
本発明によれば、一次粒子径が2〜200nmの粒子が集積し、20〜5000nmの球状を形成している光触媒活性を抑制された球状粉体を提供することが可能であり、また、その球状粉体に疎水性化合物を表面被覆した被覆球状粉体を配合することにより、肌へ塗布した時の使用感、透明感、化粧持ちが優れた化粧料を提供することが可能であるので、ファンデーション、アイシャドウ、ほほ紅、口紅などのメイクアップ化粧料あるいはサンスクリーン化粧料に用いて好適であり、産業上の利用可能性が大である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸化亜鉛に電荷が+4以下の金属イオンをドープした球状粒子よりなることを特徴とする金属酸化物・酸化亜鉛固溶体粒子。
【請求項2】
請求項1に記載の金属酸化物・酸化亜鉛固溶体粒子の製造方法であって、水溶性亜鉛化合物とグリコールとアミン化合物と、電荷が+4以下の金属塩とを混合し、50℃〜100℃でのソフト溶液反応を行うことにより合成することを特徴とする金属酸化物・酸化亜鉛固溶体粒子の製造方法。
【請求項3】
請求項1に記載の金属酸化物・酸化亜鉛固溶体粒子の製造方法であって、水溶性亜鉛化合物とグリコールとアミン化合物と、電荷が+4以下の金属塩とを混合し、50℃〜100℃でのソフト溶液反応を行うことにより合成し、その後300℃〜1500℃で焼成することを特徴とする金属酸化物・酸化亜鉛固溶体粒子の製造方法。
【請求項4】
請求項1に記載の金属酸化物・酸化亜鉛固溶体粒子の一次粒子の粒子径が2〜200nmであり、それらが集積されて、20〜5000nmの球状を形成していることを特徴とする球状粉体。
【請求項5】
請求項4に記載の球状粉体の表面を、下記一般式(1)にて示されるポリシロキサン、下記一般式(2)にて示されるアルキルアルコキシシラン化合物、下記一般式(3)にて示されるアルキルチタネート化合物、下記一般式(4)、下記一般式(5)又は下記一般式(6)で示されるフッ素化合物から選ばれる1種又は2種以上の化合物で被覆処理したことを特徴とする被覆球状粉体。
【化4】

(式中、mは1以上の整数であり、nは0以上の整数である。また、R〜Rは水素、アルキル基、アルコキシル基又はフェニル基であり、同一であっても異なっていても良い。)
Si(OR ・・・・・(2)
(式中、R及びRは炭素数が1以上の飽和炭化水素基である。)
(RCOO)Ti(OR ・・・・・(3)
(式中、R及びRは炭素数が1以上の飽和炭化水素基である。また、a及びbはそれぞれ1〜3の整数であり、a+b=4の関係を有する。なお、ここで示されるアルキル基は直鎖状又は分岐状であって、単一鎖長のものであっても複合鎖長のものであっても良い。)
CF(CFCHCHSi(OR ・・・・・(4)
(式中、Rは炭素数が1以上の飽和炭化水素基であり、nは1以上の整数である。)
【化5】

(式中、nは4以上の整数、mは1又は2であり、Mは1価の金属イオン、アンモニウム塩又はジエタノールアミン塩である。)
【化6】

(式中、nは4以上の整数、Mは1価の金属イオン、アンモニウム塩又はジエタノールアミン塩である。)
【請求項6】
請求項4に記載の球状粉体及び/又は請求項5に記載の被覆球状粉体を含有することを特徴とする化粧料。

【図2】
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【図1】
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【公開番号】特開2013−60375(P2013−60375A)
【公開日】平成25年4月4日(2013.4.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−198551(P2011−198551)
【出願日】平成23年9月12日(2011.9.12)
【出願人】(391015373)大東化成工業株式会社 (97)
【Fターム(参考)】